説明

パン生地改良剤

【課題】低温長時間中種法で得られるパンの食感を簡便に再現できるパン生地改良剤を提供すること。
【解決手段】油脂、グリアジン、および酵母の混合物の熟成物を含有することを特徴とするパン生地改良剤、およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パン生地改良剤およびその製造方法、ならびに当該パン生地改良剤を用いるパン生地の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近のパン業界においては、独特の製法によってパンの風味、食感を改良することや、健康志向にあわせた原材料を選択することが行なわれている。
パンの風味、食感の改良のための製法としては、これまで、湯種製法、低温長時間中種法、氷温熟成法などが開発されている。湯種製法は、パン製造に使用する原料小麦粉の一部を熱湯で混捏し、澱粉をα化した後、低温にて一晩貯蔵した生地を用いるパンの製法で、もっちりした食感を得ることを目的としている。しかしながら、湯種製法では、澱粉のα化のために加熱が必要であり、そのため小麦蛋白質が加熱変性を受け、生地の伸びが悪くなるという問題がある。
【0003】
また、低温長時間中種法は原料を混捏して調製した中種パン生地を低温(0〜15℃程度)で長時間(10〜20時間程度)醗酵させるというパンの製法で、中種パン生地を低温で長時間保持することによって酵母の働きを有効かつ最大限に引き出して生地を熟成させ、風味、食感を向上させることを狙いとしている。このような低温長時間中種法によれば、ダマが発生せず、口内に付着しにくく口溶けがよいという独特の食感のパンが得られる。しかしながら、長時間発酵することによる生産性の低下や、大量のパン生地を低温で保存するための大規模な冷蔵設備が必要であり、さらに大量の生地を均一に低温制御しなければならない等の問題がある。従って、生産性の低下を招かず、大規模な設備などを必要としないで、上記のような低温長時間中種法による独特の食感を得るための手段が求められている。
【0004】
一方、製法ではなく、改良剤によって食感、風味等を改善することも試みられており、小麦タンパク質や油脂を使用した改良剤が知られている(特許文献1〜4参照)。しかしながら、いずれも、低温長時間中種法で得られるパンの食感を再現するには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−4862号公報
【特許文献2】特開2003−33153号公報
【特許文献3】特許第4211953号公報
【特許文献4】特開平11−285347号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、低温長時間中種法で得られるパンの食感を簡便に再現できるパン生地改良剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、油脂、グリアジン、および酵母の混合物を熟成させたものをパン生地改良剤として用いることにより、生地混捏後にパン生地を低温で長時間熟成させることなく、低温長時間中種法で得られるパンの食感を再現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)油脂、グリアジン、および酵母の混合物の熟成物を含有することを特徴とする、パン生地改良剤。
(2)油脂の存在下で、グリアジンと酵母とを接触させて熟成させることを特徴とする、パン生地改良剤の製造方法。
(3)熟成を0〜15℃で行うことを特徴とする、(2)に記載の製造方法。
(4)(1)に記載のパン生地改良剤をその他の原料と混合してパン生地を調製すること特徴とする、パン生地の製造方法。
(5)(4)の製造方法により得られるパン生地。
(6)(5)のパン生地を焼成して得られるパン。
【発明の効果】
【0009】
本発明のパン生地改良剤を用いて得られるパンは、ソフト性、しっとり性、歯切れのよさ、付着しにくさ、ダマのできにくさにおいて、低温長時間中種法により得られたパンと同等以上に優れており、かつ穏やかな風味を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のパン生地改良剤は、油脂、グリアジン、および酵母の混合物の熟成物を含有することを特徴とする。本発明のパン生地改良剤は、パンの食感改良剤または風味改良剤、特に食感改良剤として好適に用いられる。
【0011】
本発明のパン生地改良剤に用いられる油脂としては、牛脂、豚脂、魚油等の動物性油脂、ヤシ油、パーム油、大豆油、菜種油、米油、サフラワー油、コーン油、紅花油、ピーナッツ油、綿実油等の植物性油脂、中鎖トリグリセライド、これらの油脂に水素添加したもの等が挙げられるが、これらを酵素、好ましくはリパーゼにより分解処理して得られる酵素分解物を用いてもよい。
【0012】
油脂の酵素分解処理のためのリパーゼとしては、トリアシルグリセロールリパーゼ(E.C.3.1.1.3)活性を有するリパーゼであれば、微生物由来のもの、動物由来のもの等、いずれのリパーゼも用いることができる。リパーゼM「アマノ」10(天野エンザイム社製)、リパーゼA「アマノ」6(天野エンザイム社製)、リパーゼQLM(名糖産業製)等の市販のリパーゼを用いてもよい。酵素処理する温度および時間はその酵素の至適条件に合わせるのが好ましく、たとえば20〜40℃で30分間〜24時間処理する。酵素処理物は、そのまま油脂として本発明に用いることができる。
【0013】
本発明のパン生地改良剤に用いられるグリアジンは、小麦粉、米粉、大麦粉等、ライ麦粉等の穀粉中に含まれているものでもよく、穀粉からpHによる溶解度差で抽出する方法等の常法により抽出した抽出物中に含まれているものでもよく、該抽出物から単離、精製したものであってもよい。また、市販のものを用いてもよい。
【0014】
本発明のパン生地改良剤に用いられる酵母としては、サッカロミセス・セレビシェ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastrianus)等のサッカロミセス(Saccharomyces)属に属する酵母、キャンディダ・リポリティカ(Candida lipolytica)等のキャンディダ(Candida)属に属する酵母、トルラスポラ・デルブルッキー(Torulaspora delbrueckii)等のトルラスポラ(Torulaspora)属に属する酵母、クルイベロミセス・サーモトレランス(Kluyveromyces thermotolerans)等のクルイベロミセス属(Kluyveromyces)に属する酵母、ピヒア・メンブラネファシエンス(Pichia membranaefaciens)等のピヒア(Pichia)属に属する酵母等が挙げられる。これらの酵母は単独または組み合わせて用いることができる。
【0015】
酵母は、固体培地、液体培地等の培地に培養して得られる培養物を用いても、該培養物から固液分離して得られる菌体のいずれを用いてもよい。市販の酵母菌体を用いてもよい。
【0016】
本発明のパン生地改良剤は、油脂の存在下で、グリアジンと酵母とを接触させて熟成させることにより製造することができる。
油脂の存在下で、グリアジンと酵母とを接触させる方法としては、たとえば、油脂、酵母およびグリアジンに必要に応じ水を添加して混合する方法が挙げられる。この油脂、酵母およびグリアジンの混合物の調製において、酵母と接触させるグリアジンとして穀粉からの抽出物や精製物を用いる場合など、混合物中に穀粉が含まれていない場合は、穀粉を添加するなどして、混合物中に存在させることが好ましい。
【0017】
上記混合物中の油脂の含有量は2〜20重量%、好ましくは3〜10重量%;グリアジンの含有量は5〜30重量%、好ましくは7〜15重量%;酵母の含有量は、3〜10重量%、好ましくは4〜8重量%である。また、当該混合物には水分が含まれていることが好ましく、通常、水分含量は1〜20重量%、好ましくは3〜10重量%である。
【0018】
上記混合物を熟成させる温度としては、室温より低い温度であり、かつ酵母が生育を休止する温度が好ましく、通常0〜15℃、好ましくは4〜10℃である。熟成させる時間に限定はないが、通常10時間〜48時間、好ましくは24時間〜48時間である。
【0019】
このようにして得られる熟成物は、そのまま本発明のパン生地改良剤として用いることができるが、本発明のパン生地改良剤は、必要に応じて蛋白質、無機塩、核酸、有機酸、ビタミン、アルコール、糖類、増粘多糖類、調味料、香辛料、賦形剤、乳化剤等を含有してもよい。
【0020】
蛋白質としては、小麦蛋白質、大豆蛋白質、トウモロコシ蛋白質等の植物蛋白質、乳蛋白質、卵蛋白質、筋肉蛋白質等の動物蛋白質等が挙げられる。無機塩としては、食塩、塩化カリウム、塩化アンモニウム等が挙げられる。核酸としては、イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等が挙げられる。有機酸としては、酢酸、乳酸、プロピオン酸等が挙げられる。ビタミンとしては、ビタミンB、ビタミンB、ビタミンC、ビタミンE等が挙げられる。アルコールとしては、エタノール、グリセロール等が挙げられる。糖類としては、ショ糖、ブドウ糖、麦芽糖、乳糖等が挙げられる。
【0021】
増粘多糖類としてはアラビアガム、アルギン酸、カラギナン、キサンタンガム、グァーガム、タマリンドガム、ペクチン等が挙げられる。調味料としては醤油、味噌、エキス等の天然調味料、香辛料としては各種の香辛料が挙げられる。賦形剤としてはデキストリン、各種澱粉等が挙げられる。
【0022】
本発明のパン生地改良剤の形態は特に限定されず、液状、顆粒状、ペースト状、乳液状のいずれの形状であってもよい。
【0023】
本発明のパン生地改良剤は、その他の原料と混捏してパン生地を調製し、パンを製造するのに用いることができる。本発明のパン生地の調製とパンの製造は、製パン用の穀粉生地に、本発明のパン生地改良剤を添加する以外は通常の方法で行なうことができる。本発明のパン生地改良剤の穀粉生地に対する添加量は、穀粉100重量部に対して5〜30重量部、好ましくは5〜25重量部である。
【0024】
本発明において製造されるパンの種類は、限定されず、食パン、ロールパン、硬焼きパン、菓子パン、調理パン、むしパン等のパンのほか、まんじゅう、ドーナツ、パイ、スポンジケーキ等の菓子類も含む。
【0025】
パン生地の原料には、主原料として穀粉(小麦粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉等)、副材料として水、酵母(イースト)、食塩、糖類、油脂(ショートニング、ラード、マーガリン、バターなど)、乳製品(牛乳、脱脂粉乳、全粉乳、練乳等)、卵、イーストフードなどが含まれる。
【0026】
代表的なパンの製造方法としては、ストレート法、中種法などが挙げられるが、本発明のパン生地改良剤は、ストレート法、中種法などのいずれの製パン法にも適用可能である。
【0027】
ストレート法は、パン生地の全原料を最初から混ぜる方法であり、中種法は、穀粉の一部に酵母および水を加えて中種をつくり、発酵後に残りのパン生地の原料を合わせる方法である。いずれの方法を用いた場合にも、本発明においては、生地混捏(ミキシング)後に、特に低温長時間のパン生地の熟成を行なう必要はない。
【0028】
ストレート法では、パン生地の全原料を混捏(ミキシング)した後、25〜30℃で発酵させ、分割、ベンチを行い、成型、型詰めする。ホイロ(25〜42℃)を経た後、焼成(170〜240℃)する。
【0029】
中種法では、使用する穀粉の全量の30〜100重量%の穀粉、酵母、イーストフード等に水を加え混捏(ミキシング)して中種を得た後、該中種を25〜35℃で1〜5時間発酵させ、残りのパン生地の原料を追加し、ミキシング(本捏)、フロアータイム、分割、ベンチタイムを行い、成型、型詰めする。ホイロ(25〜42℃)を経た後、焼成(170〜240℃)する。
【0030】
本発明のパン生地改良剤の添加は、製パン工程のいずれの時期であってもよい。例えば、ストレート法の場合はパン生地の原料中に添加してパン生地を作製してもよいし、原料を混合してパン生地を混捏(ミキシング)する際に添加してもよい。中種法の場合は中種を作製する原料中に添加してもよいし、中種の混捏(ミキシング)時に添加してもよいし、中種作製後、本捏時にパン生地に添加してもよい。
【0031】
本発明のパン生地改良剤を用いて調製されたパン生地を焼成して得られるパンは、ソフトであって、口溶けがよい等、優れた食感を示し、かつ穏やかな風味を有する。
【実施例】
【0032】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例は本発明を限定するものでない。
【0033】
(実施例1)
小麦粉(強力粉 日本製粉社製)200重量部、酵母(レギュラーイースト キリン協和フーズ社製)12.5重量部、グリアジン(カーギルジャパン社製)25重量部、油脂のリパーゼ分解物25重量部、および水10重量部を混合し、高速撹拌した。得られた混合物を4℃で24時間静置して熟成させ、生地改良剤1を調製した。なお、油脂のリパーゼ分解物は、オレイン酸を高含有する油脂(市販品)とパーム油(市販品)との油脂混合物にリパーゼを添加して調製したもので、オレイン酸およびパルミチン酸をそれぞれ約77%、10%含有していた。
【0034】
小麦粉(強力粉)、イースト、イーストフード、および水を第1表記載の配合量となるように混ぜ、捏ね上げ温度が24℃となるように混捏した。この生地を28℃で4時間保存し、中種生地とした。
【0035】
第1表記載の配合量の小麦粉(強力粉)、食塩、グラニュー糖、脱脂粉乳、水、および生地改良剤1を中種生地に入れて混捏後、ショートニングを追加添加し、捏ね上げ温度が28℃となるように混捏して本捏生地を得た。
【0036】
28℃で20分間フロアータイムをとった後、本捏生地を分割し、22℃にて20分間ベンチタイムをとり、それぞれをワンローフ型およびプルマン型に入れた。38℃、湿度85%の条件下で、ワンローフ型中の生地が上面より1.5cmの高さに至るまで最終発酵を行った後、リールオーブンで、200〜220℃で25分間(ワンローフ型)または27分間(プルマン型)焼成した。
【0037】
また、本捏生地の製造において、生地改良剤1を添加しない以外は同様の操作を行ってワンローフ型食パン(無添加)を製造した。
【0038】
また、上記のパン生地の製造工程において、イーストフードを使用しない以外は第1表に示す配合量で原料を混捏し、4℃、18時間冷蔵発酵させて低温熟成の中種生地を調製した。続いて、この中種生地に、イーストを2重量部、イーストフードを0.2重量部使用する以外は第1表に示す配合量の原料を加えて混捏し、同様にして本捏生地を得た。その後、上記と同様の操作をおこなってワンローフ型食パン(無添加/低温熟成)を製造した。
【表1】

【0039】
ワンローフ型より取り出したワンローフ型食パンの比容積を菜種置換法で測定したところ、いずれのパンの比容積も6.0であり差は認められなかった。
【0040】
一方、プルマン型より取り出した角型食パンを焼成後、ビニール袋に入れて密閉し、22℃で約40時間保存した。これらパンの「ソフト性」、「しっとり性」、「歯切れ」、「付着性」、「ダマ形成」、「口溶け」、及び「風味」の項目について6人の専門パネルで7点評価法(1〜7点)により以下の基準で官能評価を行った。
【0041】
官能評価の評点の平均値を以下の基準で記号として表現したものを第2表に示す。
「ソフト性」(やわらかいもの:7点→硬いもの:1点)
◎:非常にやわらかい(5.6〜7.0点) ○:やわらかい(4.1〜5.5点)
△:かたい(2.6〜4.0点) ×:非常にかたい(1.0〜2.5点)
【0042】
「しっとり性」(しっとりしているもの:7点→ぱさつくもの:1点)
◎:非常にしっとり(5.6〜7.0点) ○:しっとり(4.1〜5.5点)
△:パサつく(2.6〜4.0点) ×:非常にパサつく(1.0〜2.5点)
【0043】
「歯切れ」(歯切れのよいもの:7点→歯切れの悪いもの:1点)
◎:非常に良い(5.6〜7.0点) ○:良い(4.1〜5.5点)
△:悪い(2.6〜4.0点) ×:非常に悪い(1.0〜2.5点)
【0044】
「付着性」(付着しにくいもの:7点→付着しやすいもの:1点)
◎:非常に付着しにくい(5.6〜7.0点) ○:付着しにくい(4.1〜5.5点)
△:付着しやすい(2.6〜4.0点) ×:非常に付着しやすい(1.0〜2.5点)
【0045】
「ダマ形成」(ダマになりにくいもの:7点→ダマになりやすいもの:1点)
◎:非常にダマになりにくい(5.6〜7.0点) ○:ダマになりにくい(4.1〜5.5点)
△:ダマになりやすい(2.6〜4.0点) ×:非常にダマになりやすい(1.0〜2.5点)
【0046】
「口溶け」 (口溶けがよいもの:7点→口溶けがわるいもの:1点)
◎:非常に良い(5.6〜7.0点) ○:良い(4.1〜5.5点)
△:悪い(2.6〜4.0点) ×:非常に悪い(1.0〜2.5点)
【0047】
「風味」(穏やかなもの:7点→強いもの:1点)
◎:非常に穏やか(5.6〜7.0点) ○:穏やか(4.1〜5.5点)
△:強い(2.6〜4.0点) ×:非常に強い(1.0〜2.5点)
【0048】
【表2】

【0049】
第2表に示すとおり、油脂の存在下でグリアジンと酵母とを接触させ熟成させて得られた生地改良剤1を用いて製造した食パンは、ソフト性、しっとり性、歯切れのよさ、付着しにくさ、ダマのできにくさ、口溶けのよさにおいて、低温熟成して得られたパンと同等以上に優れており、かつ穏やかな風味の食パンであった。
【0050】
(実施例2)
生地改良剤1の調製において、原料の一部を第3表記載の材料および量とする以外は実施例1と同様の操作を行って、生地改良剤1の対照品(対照品1〜3)を調製した。
【0051】
【表3】

【0052】
生地改良剤1のかわりに対照品1〜3をそれぞれ用いる以外は実施例1と同様の操作を行って、ワンローフ型食パンおよび角型食パンを製造した。
【0053】
ワンローフ型食パンについては比容積の測定を行い、また角型食パンについては、ビニール袋に入れて密閉し、22℃で約40時間保存後、実施例1と同様に官能評価を行った。結果を第4表に示す。
【表4】

【0054】
また、2晩放置した角型食パンをスライサーで1.5cmの厚さに切り、テクスチャーアナライザーEz―Test(島津製作所社製)を用いて、以下の方法で「硬さ」および「歯切れ」を測定した。
「硬さ」:測定には直径2cmの円筒型プランジャーで試料を厚さの33%まで圧縮したときの応力を測定した。圧縮速度は100mm/60secとした。
「歯切れ」:直径1cmの円筒型プランジャーが試料を完全に貫通するまでの最大応力を測定した。プランジャーの移動速度は100mm/60secとした。
【0055】
また、1.8cmの厚さにスライスした角型食パンの4方を取り除いて4等分し、以下の方法で「付着性」および「ダマの形成」を測定した。
「付着性」:幅3cm厚さ8mmのステンレス製の刃が接触する辺りに37℃の水を1ml添加し、試料の厚さ93%まで刃を押し進め、その後所定の位置まで刃が戻るときに試料が付着して引き戻そうとする力を付着性とした。プランジャーの移動速度は100mm/60secとした。
「ダマの形成」:4等分したパンをピンミキサーに入れ、37℃の水を8ml添加し、30秒間粉砕し、形成させたダマの数量を計測した。結果を第5表に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
第4表および第5表に示すとおり、油脂の存在下でグリアジンと酵母とを接触させ熟成させて得られた生地改良剤1を用いて製造した食パンは、油脂、酵母、グリアジンをそれぞれ添加しない対照品1〜3を用いて製造した食パンに比べ、ソフト性、しっとり感、歯切れのよさ、付着しにくさ、ダマのできにくさ、口溶けのよさにおいて優れており、かつ穏やかな風味の食パンであった。
【0058】
(実施例3)
生地改良剤1の調製において熟成温度を10℃または28℃とする以外は実施例1と同様の操作を行って、それぞれ生地改良剤2および3を調製した。
また、生地改良剤1のかわりに生地改良剤2または3を用いる以外は実施例1と同様の操作を行ってワンローフ型食パンおよび角型食パンを製造し、実施例1記載の方法に準じて、官能評価を行った。結果を第6表に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
第6表に示すとおり、4℃で熟成させて得られた本発明の生地改良剤1を用いて得られた食パンはソフト性、しっとり感、歯切れのよさ、付着しにくさ、ダマのできにくさ、口溶けのよさにおいて優れており、かつ穏やかな風味の食パンであった。
【0061】
(実施例4)
生地改良剤1の調製において、油脂(オレイン酸を高含有する油脂とパーム油との油脂混合物)のリパーゼ分解物のかわりに、該分解物の分解前の油脂またはリノール酸を57.9%含有する油脂分解物をそれぞれ用い、生地改良剤4および5を調製した。
【0062】
生地改良剤1のかわりに生地改良剤4または5を用いる以外は実施例1と同様の操作を行って食パンを製造し、官能評価を行った。結果を第7表に示す。
【表7】

【0063】
第7表に示すとおり、油脂の存在下でグリアジンと酵母とを接触させて熟成させることによって調製した生地改良剤を用いて得られたパンは、使用する油脂の種類やリパーゼ分解の有無にかかわらず、いずれもソフト性、しっとり感、歯切れのよさ、付着しにくさ、ダマのできにくさ、口溶けのよさにおいて優れており、かつ穏やかな風味の食パンであった。
【0064】
(実施例5)
生地改良剤1の調製において、油脂(オレイン酸を高含有する油脂とパーム油との油脂混合物)のリパーゼ分解物のかわりに、パーム油、またはオレイン酸を高含有する油脂をそれぞれ用い、生地改良剤6および7を調製した。
生地改良剤1のかわりに生地改良剤6または7を用いる以外は実施例1と同様の操作を行って食パンを製造し、官能評価を行った。結果を第8表に示す。
【表8】

【0065】
第8表に示すとおり、油脂の存在下でグリアジンと酵母とを接触させて熟成させることによって調製した生地改良剤を用いて得られたパンは、使用する油脂の種類やリパーゼ分解の有無にかかわらず、いずれもソフト性、しっとり感、歯切れのよさ、付着しにくさ、ダマのできにくさ、口溶けのよさにおいて優れており、かつ穏やかな風味の食パンであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂、グリアジン、および酵母の混合物の熟成物を含有することを特徴とする、パン生地改良剤。
【請求項2】
油脂の存在下で、グリアジンと酵母とを接触させて熟成させることを特徴とする、パン生地改良剤の製造方法。
【請求項3】
熟成を0〜15℃で行うことを特徴とする、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載のパン生地改良剤をその他の原料と混合してパン生地を調製すること特徴とする、パン生地の製造方法。
【請求項5】
請求項4の製造方法により得られるパン生地。
【請求項6】
請求項5のパン生地を焼成して得られるパン。

【公開番号】特開2011−50378(P2011−50378A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−175747(P2010−175747)
【出願日】平成22年8月4日(2010.8.4)
【出願人】(505144588)キリン協和フーズ株式会社 (50)
【Fターム(参考)】