説明

パン類生地及びその製造方法

【課題】 ソフトで歯切れが良く、風味良好なパン類を提供することができるパン類生地及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 パン類生地で用いる穀粉類100質量部に対し、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体を3〜30質量部を、生地に練り込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソフトで歯切れが良く、風味良好なパン類を提供することができるパン類生地及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、パンの食感をソフトにし、さっくりしたパンを提供する油脂組成物として、油脂組成物100重量部中、澱粉を1〜20重量部及び/又は蛋白質素材を0.5〜10重量部、増粘多糖類を0.01〜3重量部含有することを特徴とする油脂組成物が開示されている。そして、特許文献1では、蛋白質素材として、カゼイン、乳性蛋白質等の乳由来の蛋白質があげられている。しかし、特許文献1に記載の蛋白質素材は、乳化力に乏しく、そのため乳化性のある澱粉や乳化剤を用いる必要があった。
特許文献2には、ペクチン又はペクチンとガム類を糖類、粉乳及び水と共に液状混合物あるいはペースト状混合物にしてなるパン類の品質改良剤が開示されている。しかし、特許文献2に記載のような液状混合物あるいはペースト状混合物は、それ自身が乳化力を有しているものではないため、パン生地に均一に混合されにくく、結果としてペクチン成分が直接生地に作用しにくく、パン類の品質改良効果が乏しいものであった。
【特許文献1】特開平8−196198号公報
【特許文献2】特開平7−289145号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本発明の目的は、ソフトで歯切れが良く、風味良好なパン類を提供することができるパン類生地及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記目的を達成すべく種々検討した結果、特定の食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体が、乳化力を有し、パン生地に均一に混合できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、パン類生地で用いる穀粉類100質量部に対し、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体を3〜30質量部含有することを特徴とするパン類生地を提供するものである。
また、本発明は、パン類生地で用いる穀粉類100質量部に対し、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体を3〜30質量部を、生地に練り込むことを特徴とするパン類生地の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明のパン類生地によれば、該パン類生地を焼成することにより、ソフトで歯切れが良く、風味良好なパン類が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明のパン類生地及びその製造方法について詳述する。
本発明のパン類生地で用いる穀粉類としては、特に限定されるものではないが、小麦、薄力粉、中力粉、強力粉、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等をあげることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのがよい。
【0007】
本発明のパン類生地は、上記穀粉類100質量部に対し、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体(以下、複合体という)を3〜30質量部、好ましくは5〜20質量部、さらに好ましくは8〜15質量部含有させたものである。
上記複合体をパン類生地に含有させることにより、ソフトであり、かつ歯切れが良く、風味良好なパン類とすることができる。
【0008】
本発明で用いる複合体中の「乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材(以下、単に食品素材という)」の含有量は、乳固形分として、好ましくは0.1〜8質量%、さらに好ましくは0.5〜7質量%、最も好ましくは0.9〜4質量%である。
複合体中の食品素材の乳固形分としての含有量が0.1質量%より少ないと、パン類の食感をソフトにしにくく、8質量%よりも多いと、パン類の歯切れが悪くなりやすく、ネチャついた食感となりやすい。
【0009】
上記食品素材は、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上、好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5〜40質量%である。
上記食品素材は、牛乳、ヤギ乳、ヒツジ乳、人乳等の乳から製造されたものが好ましく、特に牛乳から製造されたものが好ましい。
上記食品素材としては、具体的には、クリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分があげられる。
【0010】
上記のクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、牛乳を遠心分離して得られる脂肪濃度30〜40質量%のクリームをプレートで加温し、遠心分離機によってクリームの脂肪濃度を70〜95質量%まで高める。次いで、乳化破壊機で乳化を破壊し、再び遠心分離機で処理することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。
【0011】
上記のバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の製造方法は、例えば以下の通りである。まず、バターを溶解機で溶解し熱交換機で加温する。これを遠心分離機で分離することによってバターオイルが得られる。本発明で用いられる上記水相成分は、最後の遠心分離の工程でバターオイルの副産物として発生するものである。該バターオイルの製造に用いられるバターとしては、通常のものが用いられる。
【0012】
本発明では、上記のクリーム又はバターからバターオイルを製造する際に生じる水相成分をさらに濃縮したものや乾燥したもの、冷凍処理をしたもの等を用いることも可能である。但し、上記の水相成分は、高温加熱するとその機能が低下するため、加熱する際の温度は、100℃未満であることが好ましい。さらに、溶剤を用いて濃縮したものは、風味上の問題から用いないことが好ましい。
【0013】
また、本発明では、上記食品素材中のリン脂質の一部又は全部がリゾ化されたリゾ化物を使用することもできる。該リゾ化物は、食品素材をそのままリゾ化したものであってもよく、また食品素材を濃縮した後にリゾ化したものであってもよい。また、得られたリゾ化物に、さらに濃縮あるいは噴霧乾燥処理等を施してもよい。
【0014】
上記の食品素材中のリン脂質をリゾ化するには、ホスホリパーゼAで処理すればよい。ホスホリパーゼAは、リン脂質分子のグリセロール部分と脂肪酸残基とを結びつけている結合を切断し、この脂肪酸残基を水酸基で置換する作用を有する酵素である。ホスホリパーゼAは、作用する部位の違いによってホスホリパーゼA1とホスホリパーゼA2とに分かれるが、ホスホリパーゼA2が好ましい。ホスホリパーゼA2の場合、リン脂質分子のグリセロール部分の2位の脂肪酸残基が選択的に切り離される。
【0015】
上記食品素材における乳固形分中のリン脂質の定量は、例えば以下のような方法にて行うことができる。但し、抽出方法等については食品素材の形態等によって適正な方法が異なるため、この定量方法に限定されるものではない。
まず、食品素材の脂質をFolch法を用いて抽出する。図1にFolch法のフローを示す。次いで、抽出した脂質溶液を湿式分解法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載の湿式分解法に準じる)にて分解した後、モリブデンブルー吸光度法(日本薬学会編、衛生試験法・注解2000 2.1食品成分試験法に記載のリンのモリブデン酸による定量に準じる)によりリン量を求める。求められたリン量から以下の計算式を用いて食品素材の乳固形分100g中のリン脂質の含有量(g)を求める。
リン脂質(g/100g)=〔リン量(μg)/(食品素材−食品素材の水分(g))〕×25.4×(0.1/1000)
【0016】
また、上記食品素材は、乳酸菌を接種して乳酸発酵物としてもよく、必要により水や乳糖等の資化性糖を添加してから乳酸菌を接種して乳酸発酵物としてもよい。この場合、乳酸菌を接種して乳酸発酵物とした食品素材を、殺菌して複合体に配合してもよいし、殺菌せずに複合体に配合してもよい。
【0017】
上記複合体を構成するゲル化剤としては、アルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、海藻抽出物、海藻エキス、寒天の中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのが好ましい。
上記の複合体中の上記ゲル化剤の含有量は、好ましくは0.1〜3質量%、さらに好ましくは0.2〜2.5質量%、最も好ましくは0.3〜2.3質量%である。複合体中のゲル化剤の含有量が0.1質量%より少なかったり、3質量%よりも多いと、パン類の歯切れ効果が発揮されにくいか、あるいは歯切れが悪くなりやすい。
【0018】
上記ゲル化剤としては、好ましくはアルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、LMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、ローカストビーンガム、グアーガムの中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのがよく、さらに好ましくはアルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、LMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天の中から選ばれた1種又は2種以上を用いるのがよく、最も好ましくはアルギン酸、アルギン酸アンモニウム、アルギン酸カリウム、アルギン酸カルシウム、アルギン酸ナトリウム等のアルギン酸塩、LMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天の中から選ばれた1種又は2種以上(以下、ゲル化剤Aという)と、ローカストビーンガム又はグアーガムから選ばれた1種又は2種(以下、ゲル化剤Bという)を併用して用いるのがよい。
上記のゲル化剤Aとゲル化剤Bとを併用する場合、ゲル化剤A:ゲル化剤Bの重量比率を好ましくは1:0.01〜1、さらに好ましくは1:0.02〜0.5、最も好ましくは1:0.03〜0.3とする。
【0019】
上記複合体中の水の含有量は、好ましくは30〜90質量%、さらに好ましくは35〜85質量%、最も好ましくは35〜80質量%である。複合体中の水の含有量が30質量%より少ないと、複合体中の水相中のゲル化剤濃度が高くなり、複合体がパン生地へ均一に分散しにくい。また90質量%よりも多いと、複合体と生地との反応が、複合体が生地に分散する過程よりも早く起こりやすく、結果的にパンの歯切れを向上させることが難しい。なお、ここでいう水とは、水道水や天然水等の水の他、牛乳、液糖等の水分も含めたものである。
【0020】
本発明で用いる複合体には、乳蛋白質、乳化剤、糖類・甘味料、セルロースやセルロース誘導体、金属イオン封鎖剤、ゼラチン、ゼラチン分解物、澱粉類、穀類、無機塩、有機酸塩、キモシン等の蛋白質分解酵素、トランスグルタミナーゼ、ラクターゼ(β−ガラクトシダーゼ)、α−アミラーゼ、β−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、イソアミラーゼ等の澱粉分解酵素、プルラナーゼ、ペントサナーゼ、ペクチナーゼ、インベルターゼ、ヘミセルラーゼ、セルラーゼ、リパーゼ、ホスフォリパーゼ、カタラーゼ、リポキシゲナーゼ、リポキシナーゼ、アスコルビン酸オキシダーゼ、スルフィドリルオキシダーゼ、ヘキソースオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、パーオキシダーゼ、ジグリセライド、植物ステロール、植物ステロールエステル、食塩、岩塩、海塩、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、直鎖デキストリン・分枝デキストン・環状デキストン等のデキストリン類、乳製品、卵製品、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材全般、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸カリウム、臭素酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ヨウ素酸カリウム等の酸化剤、システイン、グルタチオン等の還元剤、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、プロピオン酸、プロピオン酸ナトリウム、グリシン、しらこ蛋白抽出物、ポリリジン、エタノール等の保存料、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等を配合してもよい。
【0021】
上記乳蛋白質としては、特に制限されるものではないが、例えば、ホエイ蛋白質、カゼイン蛋白質の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記カゼイン蛋白質としては、αs1−カゼイン、αs2−カゼイン、β−カゼイン、γ−カゼイン、κ−カゼインの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材であるアルカリカゼイン(カゼイネート)、酸カゼイン等が挙げられる。
上記ホエイ蛋白質としては、ラクトアルブミン、βラクトグロブリン、血清アルブミン、免疫グロブリン、プロテオースペプトンの各単体や、これらの混合物、若しくはこれらを含有する食品素材として、乳清蛋白質、ホエイ、ホエイパウダー、脱乳糖ホエイ、脱乳糖ホエイパウダー、ホエイ蛋白質濃縮物(WPC及び/又はWPI)等が挙げられる。
上記カゼイン蛋白質及び上記ホエイ蛋白質の両方を含有する食品素材として、例えば、生乳、牛乳、加糖練乳、加糖脱脂練乳、無糖練乳、無糖脱脂練乳、脱脂乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、バターミルク、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン(TMP)、脱脂粉乳、全粉乳、ミルクプロテインコンセントレート(MPC)、クリーム、クリームチーズ、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、ヨーグルト、乳酸菌飲料、サワークリ―ム、発酵乳等をあげることができる。
上記乳蛋白質の含有量は、上記複合体中、乳蛋白質分として好ましくは0.5〜5質量%、さらに好ましくは0.5〜4質量%である。
【0022】
上記乳化剤としては、レシチン、酵素処理レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等が挙げられる。本発明では、風味や、消費者の間に広まっている天然志向に応える観点から、レシチンや酵素処理レシチン以外の合成乳化剤を用いないことが好ましく、さらに好ましくは上記乳化剤を用いないことが望ましい。
【0023】
上記糖類としては、特に制限されるものではないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等があげられる。また、上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等があげられる。本発明で用いる複合体ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記糖類や上記甘味料の含有量は、上記複合体中、糖類や甘味料の総量で好ましくは30質量%以下とする。
【0024】
上記金属イオン封鎖剤は、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、鉄イオン等を封鎖するものであり、その具体例としては、ピロリン酸四ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、メタリン酸カリウム、ウルトラポリリン酸ナトリウム、第三リン酸カリウム等の各種リン酸塩、並びにクエン酸、酒石酸等の有機酸塩類、及び炭酸塩等の無機塩類があげられる。本発明で用いる複合体ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記金属イオン封鎖剤の含有量は、上記複合体中、好ましくは1質量%以下とする。
また、上記ゼラチンの含有量は、上記複合体中、好ましくは1.5質量%以下とする。
【0025】
上記セルロースやセルロース誘導体としては、微小繊維状セルロース、結晶セルロース、粉末セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースがあげられ、上記澱粉類としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、モチ米澱粉等の澱粉や、澱粉をアミラーゼ等の酵素で処理したもの、アセチル化アジピン酸架橋澱粉・アセチル化リン酸架橋澱粉・アセチル化酸化澱粉・オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム・ヒドロキシプロピル澱粉・ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉・リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉・リン酸化澱粉・酸化澱粉・酢酸澱粉等、澱粉に対し酸処理やアルカリ処理・エステル化・アセチル化・リン酸架橋化・加熱・湿熱等の化学的・物理的処理を行った化工澱粉、更にこれら化工澱粉を水に溶け易い様にあらかじめ加熱処理により糊化させた澱粉があげられる。本発明で用いる複合体ではこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記のセルロースやセルロース誘導体及び澱粉類の含有量は、上記複合体中、セルロースやセルロース誘導体及び澱粉類の総量で好ましくは5質量%以下とする。
【0026】
また、本発明で用いる複合体は、油脂と混合乳化して、水中油型乳化物、油中水型乳化物、二重乳化物として用いることもできる。この場合、水相が外相となる乳化状態である、水中油型乳化物や二重乳化物とするのが好ましい。
上記油脂としては、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、カカオ脂、サル脂、牛脂、豚脂、乳脂、魚油、鯨油等の各種の植物油脂及び動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択された一又は二以上の処理を施した加工油脂や、MCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)等があげられる。本発明では、これらの油脂の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
上記油脂の含有量は、上記複合体中、好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは5〜65質量%、最も好ましくは5〜60質量%である。
【0027】
次に本発明で用いる好ましい複合体の製造方法について説明する。
(1)1つめの製造方法としては、水に食品素材、ゲル化剤と必要によりその他の成分を添加して、水相とする。油脂と必要によりその他の成分を添加した油相を用意し、上記水相と混合し、乳化する。
(2)2つめの製造方法としては、水に食品素材を加え、必要によりその他の成分を添加し、これに乳酸菌を接種して適宜調温して乳酸醗酵を行う。さらにゲル化剤と必要によりその他の成分を添加して、水相とする。油脂と必要によりその他の成分を添加した油相を用意し、上記水相と混合し、乳化する。
(3)3つめの製造方法としては、水に食品素材を加え、必要によりその他の成分を添加し、これに乳酸菌を接種して適宜調温して乳酸発酵を行う。さらに食品素材とゲル化剤と必要によりその他の成分を添加して、水相とする。油脂と必要によりその他の成分を添加した油相を用意し、上記水相と混合し、乳化する。
上記(3)の3つめの製造方法の場合、はじめに用いる食品素材の配合量(前者)とあとから添加する食品素材の配合量(後者)の配合比率は、特に制限はないが、前者:後者が好ましくは1:0.5〜9、さらに好ましくは1:1〜9、最も好ましくは1:2〜9である。
【0028】
そして、上記(1)〜(3)の製造方法における乳化後、必要に応じて加熱殺菌を行なう。該加熱殺菌の方法としては、インジェクション式、インフュージョン式、マイクロ波等の直接加熱方式、又は、バッチ式、プレート式、チューブラー式、掻き取り式等の間接加熱方式があり、UHT、HTST、LTLT等の60〜160℃の加熱処理を行なえば良い。
【0029】
次に、均質化機にて均質化する。均質化機としては、例えば、ケトル型チーズ乳化釜、ステファンミキサーの様な高速せん断乳化釜、スタティックミキサー、インラインミキサー、ホモゲナイザー、コロイドミル、ディスパーミル等があげられる。この均質化処理は、2段式ホモゲナイザーを用いて、例えば、1段目3〜100MPa、2段目0〜5MPaの均質化圧力にて行なっても良い。
均質化後、必要に応じて冷却しても良い。冷却方法は、例えば、ボーテーター、コンビネーター、パーフェクター等の急冷可塑化機にて急冷可塑化処理を行う方法でも良く、チューブラー式、掻取式等の熱交換機によって冷却する方法でも良い。別の方法として、適当な容器に充填した後に、水浴、氷浴、冷蔵庫、冷凍庫等で冷却する方法も挙げられる。
【0030】
このようにして得られた本発明で用いる複合体は、5℃における硬さが好ましくは5〜300g/cm2 、さらに好ましくは30〜250g/cm2 、最も好ましくは40〜230g/cm2 である。
なお上記の硬さは、フドーレオメーター(不動工業(株)製)にてテーブルスピード2cm/分でカード測定用のプランジャー(No.1)が、5cmの複合体に1cm進入したときの応力値を示している。
また、本発明で用いる複合体のpHは特に制限はないが、好ましくは5.1〜7、さらに好ましくは5.1〜6.7である。
【0031】
本発明のパン類生地は、上記の穀粉類及び複合体の他に、一般的にパン類生地に用いられる材料を用いることができる。
例えば、イースト、イーストフード、糖類、甘味料、油脂類、卵類、牛乳、水、食塩、澱粉類、乳化剤、調味料、香辛料、着香料、着色料、ココア、チョコレート、ナッツ類、ヨーグルト、チーズ、抹茶、紅茶、コーヒー、豆腐、黄な粉、豆類、野菜類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、果物、ハーブ、肉類、魚介類、保存料、日持ち向上剤等を適宜用いることができる。
【0032】

上記糖類としては、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、還元糖ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、デキストリン等を用いることができる。

上記甘味料としては、スクラロース、アセスルファムカリウム、ステビア、アスパルテーム等を用いることができる。
上記油脂類としては、マーガリン、ショートニング、バター、粉末油脂、液状油等を用いることができる。
上記卵類としては、全卵、生卵黄、殺菌全卵、殺菌卵黄、加塩全卵、加塩卵黄、加糖全卵、加糖卵黄等を用いることができる。
【0033】
次に本発明のパン類生地の製造方法について説明する。
本発明のパン類生地は、パン類生地で用いる穀粉類100質量部に対し、上記複合体を3〜30質量部を生地に練り込むことにより、製造することができる。
本発明のパン類生地は、中種法でも、直捏法でも製造することができる。
中種法で製造する場合は、上記複合体を中種生地及び/又は本捏生地に練り込むことにより製造することができる。
直捏法で製造する場合は、上記複合体を生地に練り込むことにより製造することができる。
【0034】
本発明のパン類生地の種類としては、特に制限はなく、例えば、食パン、菓子パン、バラエティーブレッド、バターロール、ソフトロール、ハードロール、スイートロール、デニッシュ、ペストリー、フランスパン、蒸しパン、パイ、イーストドーナツ等のパン類の生地があげられる。
本発明のパン類生地を焼成することにより、上記パン類が得られる。ここでいう焼成とは、直焼き、蒸し焼きを含むものである。
【実施例】
【0035】
次に、本発明で用いる複合体の製造例、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
なお下記複合体1〜4の硬さは、フドーレオメーター(不動工業(株)製)にてテーブルスピード2cm/分でカード測定用のプランジャー(No.1)が、5cmの複合体に1cm進入したときの応力値を示すものである。
【0036】
製造例1(複合体1の製造)
ナチュラルチーズ15質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)3質量部及びホエイパウダー3質量部を水66.8質量部に加え、よく撹拌した。これをプレート式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌し、乳酸菌スターターを接種し乳酸醗酵を行った。得られた乳酸醗酵物(pH5.3)にサラダ油10質量部、LMペクチン2質量部及びグアーガム0.2質量部を加え、これを掻取式熱交換器にて90℃で180秒間加熱殺菌し、55℃に冷却した。次いで、イズミフードマシナリ製2段式ホモゲナイザーにて1段目20MPa、2段目2MPaの均質化圧力にて均質化後、ポリエチレン袋に密封して静置し、5℃に冷却して、本発明で用いる「食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体1」を得た。
得られた複合体1の乳蛋白質の含有量は1.3質量%、ゲル化剤の含有量は2.2質量%、水の含有量は76.9重量%、pHは5.3であった。
得られた複合体1を5℃で18時間調温した後に測定した硬さは50g/cm2 であった。
【0037】
製造例2(複合体2の製造)
pH5.1の発酵乳76.7質量部及びクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)3質量部を混合し、これにナタネ硬化油(融点15℃) 10質量部、アルギン酸ナトリウム1.2質量部、ローカストビーンガム0.1質量部、タピオカ由来化工澱粉2質量部、メタリン酸ナトリウム0.5質量部、ゼラチン1質量部、乳糖5質量部及び食塩0.5質量部を加え、よく撹拌した。これをプレート式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌し、60℃に冷却した。次いで、イズミフードマシナリ製2段式ホモゲナイザーにて1段目15MPa、2段目3MPaの均質化圧力にて均質化後、ポリエチレン袋に密封して静置し、5℃に冷却して、本発明で用いる「食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体2」を得た。
得られた複合体2の乳蛋白質の含有量は2.3質量%、ゲル化剤の含有量は1.3質量%、油脂の含有量は15.2質量%、水の含有量は71質量%、pHは5.9であった。
得られた複合体2を5℃で18時間調温した後に測定した硬さは200g/cm2 であった。
【0038】
製造例3(複合体3の製造)
クリームチーズ10質量部、ホエイパウダー4質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)3質量部、ミルクプロテインコンセントレート1質量部及びクエン酸ナトリウム0.8質量部を、水53.1質量部に加え、これをプレート式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌したものに、乳酸菌スターターを加えて28℃にて乳酸醗酵を行った。これにLMペクチン1質量部、グアーガム0.1質量部及びゼラチン0.5質量部を加え、さらにサラダ油25質量部及びばれいしょ由来化工澱粉1. 5質量部を加え、よく撹拌した。これをプレート式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却し、イズミフードマシナリ製2段式ホモゲナイザーにて1段目20MPa、2段目2MPaの均質化圧力にて均質化後、ポリエチレン袋に密封して静置し、5℃に冷却して、本発明で用いる「食品素材とゲル化剤と水とで構成される、水中油型乳化物である複合体3」を得た。
得られた複合体3の乳蛋白質の含有量は1.9質量%、ゲル化剤の含有量は1.1質量%、水の含有量は61.4質量%、pHは5.5であった。
得られた複合体3を5℃で18時間調温した後に測定した硬さは110g/cm2 であった。
【0039】
製造例4(複合体4の製造)
クリームチーズ20質量部、ホエイパウダー4質量部、クリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)2.5質量部、乳糖1.5質量部及びミルクプロテインコンセントレート1.3質量部を水45.1質量部に加え、よく撹拌し、プレート式熱交換器にて90℃で4分間加熱殺菌した。これを35℃に調温して乳酸菌スターターを添加し、7時間調温して乳酸発酵物を得た。これにLMペクチン1質量部、ローカストビーンガム0.1質量部、クエン酸ナトリウム0.5質量部及び食塩0.5質量部を加え、さらにクリームからバターオイルを製造する際に生じる水相成分の濃縮物(リン脂質含有量3.7質量%、蛋白質含有量12質量%、乳固形分38質量%、乳固形分中のリン脂質の含有量9.8質量%)0.5質量部、サラダ油20質量部、タピオカ由来化工澱粉3質量部を加え、よく撹拌した。これらを掻取式熱交換器にて85℃で3分間加熱殺菌し、掻取式熱交換器にて60℃に冷却し、イズミフードマシナリ製2段式ホモゲナイザーにて1段目20MPa、2段目1MPaの均質化圧力にて均質化後、ポリエチレン袋に密封して静置し、5℃に冷却して、本発明で用いる「食品素材とゲル化剤と水とで構成される、水中油型乳化物である複合体4」を得た。
得られた複合体4の乳蛋白質の含有量は2.4質量%、ゲル化剤の含有量は1.1質量%、水の含有量は55.8質量%、pHは5.1であった。
得られた複合体4を5℃で18時間調温した後に測定した硬さは150g/cm2 であった。
【0040】
実施例1〜4及び比較例1
複合体1〜4を用い、以下の配合と製法により実施例1〜4のバンズパンを製造した。また、複合体を全く用いない他は実施例1〜4と同様の配合と製法により比較例1のバンズパンを製造した。
得られたバンズパンを常温で1日保存した後の硬さを、該1日保存後のバンズパンを3cmの厚さにスライスし、半分に圧縮した際の応力を、レオメーター(不動工業株式会社製)にて直径3cmプランジャーを用い、テーブルスピード6cm/分にて測定することにより評価した。また、該1日保存後のバンズパンの歯切れ及び風味についても評価した。その結果を表1に示した。
【0041】
(配合)
(中種) (質量部)
強力粉 70
イースト 3
上白糖 3
複合体 10
水 37
(本捏) (質量部)
強力粉 30
上白糖 15
食塩 1.2
脱脂粉乳 2
全卵 12
マーガリン 5
水 15
【0042】
(製法)
(中種)
ミキシング :L3M2
捏上温度 :26℃
醗酵条件 :28℃ 80% 2時間
(本捏)
ミキシング :L3M3H1の後マーガリンを加え、L2M3H2
捏上温度 :28℃
フロアタイム:20分
分割 :60g
ベンチタイム:30分
成形 :丸め直し、丸プレス天板使用
ホイロ条件 :38℃ 80% 55分
焼成条件 :190℃、10分
【0043】
【表1】

【0044】
実施例5〜8及び比較例2
複合体1〜4を用い、以下の配合で実施例1〜4と同様の製法により実施例5〜8のバンズパンを製造した。また、複合体を全く用いない他は実施例5〜8と同様の配合と製法により比較例2のバンズパンを製造した。
得られたバンズパンを常温で1日保存した後の硬さ、歯切れ及び風味を実施例1〜4と同様にして評価した。その結果を表2に示した。
【0045】
(配合)
(中種) (質量部)
強力粉 70
イースト 3
上白糖 3
水 40
(本捏) (質量部)
強力粉 30
上白糖 15
食塩 1.2
脱脂粉乳 2
全卵 12
複合体 10
マーガリン 5
水 12
【0046】
【表2】

【0047】
実施例9〜12及び比較例3
複合体1〜4を用い、以下の配合と製法により実施例9〜12のバンズパンを製造した。また、複合体を全く用いない他は実施例9〜12と同様の配合と製法により比較例3のバンズパンを製造した。
得られたバンズパンを常温で1日保存した後の硬さ、歯切れ及び風味を実施例1〜4と同様にして評価した。その結果を表3に示した。
【0048】
(配合) (質量部)
強力粉 100
イースト 3
上白糖 15
食塩 1.2
脱脂粉乳 2
全卵 12
複合体 10
マーガリン 5
水 53
【0049】
(製法)
ミキシング :L3M2H1の後マーガリンを加え、L2M3H2
捏上温度 :26℃
醗酵条件 :28℃ 90分 (パンチ30分)
分割 :60g
ベンチタイム:30分
成形 :丸め直し、丸プレス天板使用
ホイロ条件 :38℃ 80% 55分
焼成条件 :190℃、10分
【0050】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】食品素材の脂質を抽出するためのFolch法のフローチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パン類生地で用いる穀粉類100質量部に対し、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体を3〜30質量部含有することを特徴とするパン類生地。
【請求項2】
請求項1記載のパン類生地を焼成することにより得られたパン類。
【請求項3】
パン類生地で用いる穀粉類100質量部に対し、乳固形分中のリン脂質の含有量が2質量%以上である食品素材とゲル化剤と水とで構成される複合体を3〜30質量部を、生地に練り込むことを特徴とするパン類生地の製造方法。
【請求項4】
中種法でパン類生地を製造する方法であって、上記複合体を中種生地及び/又は本捏生地に練り込む請求項3記載のパン類生地の製造方法。
【請求項5】
直捏法でパン類生地を製造する方法であって、上記複合体を生地に練り込む請求項3記載のパン類生地の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−81515(P2006−81515A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−272491(P2004−272491)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【出願人】(000000387)旭電化工業株式会社 (987)
【Fターム(参考)】