説明

パーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置

【課題】カムシャフトの回動摩擦抵抗を軽減し、軸推力が大きくなっても力伝動
損失を抑え、高倍力比のブレーキ力を安定して与えることができるパーキング用
操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置を提供すること。
【解決手段】パーキング操作機構は、アジャスタ機構の調整スピンドル19aと、
この調整スピンドル19aと直交し一端にパーキングレバーを有するカムシャフ
ト25と、カムシャフト25と調整スピンドル19a間に配置された軸推力を与
える推力伝達組立体とから成り、この推力伝達組立体は自転しながらカムシャフ
ト25と調整スピンドル19a間を転動する転動ローラ29と、この転動ローラ
29と接触するカムシャフト25と調整スピンドル19aに設けた転動曲面25
b,27bとで構成されていること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパ
の一端側にパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディスクブレーキ作動装置のパーキング用操作機構として、トグルリン
クやボールランプ或はカムを使用したものが知られていたが、いずれも許容され
るブレーキレバーのストローク範囲内で高い倍力比を得ることが難かしく、それ
を得るためにトグルリンクではトグルリンクを点対称に配置したり、ボールラン
プではランプ面の傾斜を非直線とする等によって、限られたブレーキレバーのス
トロークで高い倍力比を得るよう工夫されたものが知られている(例えば、特許
文献1参照)。
【0003】
図13はこのような従来のディスクブレーキ作動装置におけるトグルリンクを
備えたパーキング用操作機構の部分断面図であり、パーキングレバー1を矢視方
向に回動駆動することにより、パーキングレバーの一端に設けたカムシャフト2
が回動し、点対称に配置された一方のトグルリンク3が調整スピンドル4を左方
向に押し出して図示していないブレーキピストンを作動すると同時に、他方のト
グルリンク5を右方向に押し出してキャリパ6を作動して一対のブレーキパッド
が高い倍力比をもってブレーキディスクを挟圧してブレーキ作動を行うようにな
っている。そしてカムシャフト2がキャリパ6内に形成した二面幅を有する摺動
穴6a,6aにより調整スピンドル4の軸心方向と平行な方向に移動できるよう
に支持されているため、カムシャフト2の回動摩擦抵抗を軽減することができ有
効であった。
【0004】
【特許文献1】特開昭60−65920号公報(第3図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このようなトグルリンクを使用する従来のパーキング用操作機
構は、キャリパ6内に調整スピンドル4を摺動するための摺動穴6b,6b及び
この調整スピンドル4と直交配置した二面幅を有するカムシャフト2の摺動穴6
a,6aを形成しなければならない。摺動穴6bの加工とは別に、キャリパ6の
外部からカムシャフト2の二面幅を有する摺動穴6aを研削することは、加工技
術上困難な部類に属し長時間要した。また、トグルリンク3,5はカムシャフト
2と調整スピンドル4またはキャリパ6間に、摺動自在に支持されているものの、
軸推力が大きくなるとトグルリンクの接触部の摩擦抵抗が大きくなり力伝動損失
となっていた。
【0006】
本発明は、このような問題点に着目して成されたもので、カムシャフトの回動
摩擦抵抗を軽減し、軸推力が大きくなっても力伝動損失を抑え、高倍力比のブレ
ーキ力を安定して与えることができるパーキング用操作機構を備えたディスクブ
レーキ作動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のパーキング用操作機構
を備えたディスクブレーキ作動装置は、アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺
動自在に支持したキャリパの一端側にパーキング用操作機構を備えたディスクブ
レーキ作動装置において、前記操作機構は、前記アジャスタ機構の調整スピンド
ルと、該調整スピンドルと直交し一端にパーキングレバーを有するカムシャフト
と、該カムシャフトと調整スピンドル間に配置され、該カムシャフトの回動によ
り調整スピンドルに軸推力を与える推力伝達組立体とから成り、前記推力伝達組
立体は自転しながらカムシャフトと調整スピンドル間を転動する転動ローラと、
該転動ローラと接触するカムシャフトと調整スピンドル側に設けた転動曲面とで
構成されている。
この発明によれば、転動ローラと転動曲面との組み合わせで高倍力比のブレー
キ力を安定して与えることができるだけでなく、カムシャフトと調整スピンドル
間に自転しながら転動する転動ローラを設けたので、軸推力が大きくなっても力
伝動損失を抑えることができる。
【0008】
本発明の請求項2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項1に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置であって、前記カムシャフトの反ロータ側とキャリパ間に第2の推力伝達
組立体が配置され、その転動ローラはカムシャフトとキャリパ側に設けた転動面
との間で自転しながら転動する。
この発明によれば、カムシャフトの反ロータ側とキャリパ側に設けた転動面と
の間に第2の推力伝達組立体が配置されているので、より長いピストンストロー
クを確保することができる。
【0009】
本発明の請求項3に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブ
レーキ作動装置であって、前記カムシャフトに設けた転動曲面の曲率中心はカム
シャフトの軸中心と所定距離離れている。
この発明によれば、カムシャフトに設けた転動曲面の曲率中心をカムシャフト
の軸中心と所定距離離すことにより、カムシャフトの回動量に対してピストンス
トローク量を任意に設定することができる。
【0010】
本発明の請求項4に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項3に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置であって、前記調整スピンドル側及びキャリパ側に設けた転動曲面の曲率
中心はカムシャフトに設けられた転動曲面の曲率中心と近接した位置にある。
この発明によれば、調整スピンドル側及びキャリパ側に設けた転動曲面の曲率
中心をカムシャフトに設けられた転動曲面の曲率中心と近接した位置にあるので、
転動ローラを通るカムシャフトと調整スピンドル及びキャリパの転動曲面の法線
がほぼ重なり、ブレーキ力が有効に伝達される。
【0011】
本発明の請求項5に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項4に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置であって、前記調整スピンドル側及びキャリパ側に設けた転動曲面は、カ
ムシャフトの回動初期における前記曲面のストローク域を直線部として形成され
ている。
この発明によれば、カムシャフトの回動初期のストロークを早く発生させるこ
とが出来、レバー比が多少小さくなるものの、カムシャフトの回動初期における
軸方向のストローク量をより多くすることができる。
【0012】
本発明の請求項6に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項4または5に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブ
レーキ作動装置であって、調整スピンドル側及びキャリパ側に設けられる転動曲
面は、調整スピンドル及びキャリパの少なくとも一方に取り付けた曲面部材に形
成されている。
この発明によれば、転動曲面の加工を調整スピンドル及びキャリパに施す必要
がないので、軽量で加工性に優れた材料を選択でき、曲面部材のみ耐摩耗性に優
れた材料を用いることができる。
【0013】
本発明の請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項1ないし6のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備えた
ディスクブレーキ作動装置であって、前記キャリパの反ロータ側端部に調整スピ
ンドルの軸線方向に向く円筒穴と、該円筒穴に直交する方向に向く挿入口とが形
設され、円筒穴内に、挿入口から挿入されたカムシャフトを摺動支持するガイド
部材を固設している。
この発明によれば、キャリパとは別にガイド部材を別設したので、キャリパに
二面幅を有する摺動穴を形成する必要がない。
【0014】
本発明の請求項8に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置であって、前記カムシャフトはガイド部材の円筒部に形成した一対の切欠
溝に摺動支持されている。
この発明によれば、カムシャフトの軸径に合わせてガイド部材の切欠溝の溝幅
を形成することができるので、軸径の異なる各種カムシャフトに対応できる。
また、ガイド部材の切欠溝の位置が自由に設定できるので、調整スピンドルと
カムシャフトの軸心同士が同一平面上になくてもよく、設計の自由度が大きい。
【0015】
本発明の請求項9に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作
動装置は、請求項7または8に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブ
レーキ作動装置であって、前記キャリパの反ロータ側端部に形設した挿入口とカ
ムシャフトの間にはダストブーツが配設され、該ダストブーツはカムシャフトの
一側に配したパーキングレバーの傾動を抑えるパーキングレバーガイドにより係
着されている。
この発明によれば、パーキングレバーの傾動を抑えるパーキングレバーガイド
を利用してダストブーツを係着させているので、部品点数を少なくすることがで
きる。
【0016】
本発明の請求項10に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ
作動装置は、請求項1ないし9のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備え
たディスクブレーキ作動装置であって、前記キャリパは反ロータ側端部に連設さ
れるハウジングを有し、該ハウジング内に、前記調整スピンドル、推力伝達組立
体及びカムシャフトが一体に組み付けられている。
この発明によれば、調整スピンドル、推力伝達組立体及びカムシャフトをハウ
ジング内に前もって組み付けておくことができる。そしてハウジングをキャリパ
から取り外せば、各部品の分解が楽に行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例】
【0018】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明の第1実施例のパー
キング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部全体の断面図、図2
は同じくパーキング用操作機構における調整スピンドル、円筒ガイド及びカムシ
ャフトの分解斜視図、図3は同じくパーキング用操作機構における調整スピンド
ルとカムシャフトとを円筒ガイド内に組み付けた組付断面図、図4は同じくパー
キング用操作機構のカムシャフトとパーキングレバーの組付断面図、図5は推力
伝達組立体の構造と作用を説明するための説明図であって、(a)はブレーキ作
動前のカムシャフト初期位置を示し、(b)はカムシャフトが約10°回動した
ブレーキ作動位置を示す。図6は同じくパーキング用操作機構のレバー比を説明
するための説明図、図7はカムシャフトの回転角に対するレバー比と調整スピン
ドルのストローク変化を説明するためのパーキング用操作機構の机上検討におけ
る作動状態図で、(a)はイニシャル状態、(b)はパーキングレバーによりカ
ムシャフトが10°回動した状態、(c)は同じくカムシャフトが20°回動し
た状態、(d)は同じくカムシャフトが30°回動した状態をそれぞれ示す。図
8は図7における調整スピンドルのストローク変化に対するレバー比及びカムシ
ャフトの回転角の割合を示す。
図9は本発明の第2実施例の推力伝達体の要部の断面図、図10は本発明の第
3実施例のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部断面
図、図11は同じくパーキング用操作機構における調整スピンドル、ガイド及び
カムシャフトの分解斜視図、図12は同じくパーキング用操作機構のカムシャフ
トとパーキングレバーの組付断面図を示す。
【0019】
図1に示すように、本発明のディスクブレーキ作動装置は、キャリパ13とピ
ストン組立体15から成る流体作動のサービスブレーキ機構(SM)と、パーキ
ング用操作機構(PM)で構成されている。ピストン組立体15は、サービスブ
レーキ適用時に流体圧を受け、キャリパ13内で摺動するピストン17と、ブレ
ーキパッドの摩耗補償とオーバアジャスト防止のためのアジャスタアセンブリ1
9とを備えている。そしてこのキャリパ13は固定のサポート14に対して摺動
自在に支持されている。
【0020】
アジャスタアセンブリ19は従来公知の可逆ねじタイプのものが使用されてい
る。この可逆ねじタイプのアジャスタは、可逆ねじを有する調整スピンドル19
aと、このスピンドル19aに螺合するアジャストスリーブ19bと、アジャス
トスリーブ19bの回動を支持する軸受19cと、スプリング19d等で構成さ
れ、ブレーキパッド21,22の摩耗が規定以上になれば、調整スピンドル19
aに対してアジャストスリーブ19bが回動前進し、ブレーキ解除時にピストン
17の後退位置が前進してブレーキパッド21,22の摩耗が補償される。
【0021】
また、過剰なブレーキ流体圧がピストン17に適用されると、アジャストスリ
ーブ19bは調整スピンドル19aに対して回動することができず、調整スピン
ドル19aはスプリング19dのバネ力に抗してアジャストスリーブ19bと共
に前方に移動するのでオーバアジャストが防止される。
【0022】
パーキング用操作機構(PM)は、パーキングレバー23とカムシャフト25
から成り、パーキングレバー23がブレーキワイヤにより操作されカムシャフト
25が回動すると、一対の推力伝達組立体(TA)が駆動される。推力伝達組立
体(TA)はカムシャフト25と調整スピンドル19a端部に設けたローラプラ
グ(曲面部材)27間を転動する転動ローラ29と、カムシャフト25とキャリ
パ13の反ロータ側端部に連設したハウジング31に設けたローラプラグ(曲面
部材)33間を転動する転動ローラ35と、転動ローラ29,35が転動するカ
ムシャフト25及びローラプラグ27,33に形成した転動曲面とで構成されて
いる。
【0023】
ローラプラグ27,33はハウジング31より硬度の高い材料で成形されてお
り、転動ローラ29,35からの推力を硬質のローラプラグ27,33で受け止
めて、転動ローラ29,35とローラプラグ27,33間での変形や摩耗を極力
抑えて軸推力を調整スピンドル19a及びハウジング31に確実に伝達すること
ができる。又、推力伝達組立体(TA)の転動ローラ29,35の大きさや転動
曲面の形状が変更されてもローラプラグ27,33のみを入れ替える事で対応で
きる。
【0024】
ローラプラグ33はハウジング31の円筒穴31a底部に固設したピン37に
より回動不能に係止され、このローラプラグ33に対しやはり回動不能に係合さ
れた円筒ガイド(ガイド部材)39はハウジング31に対して移動不能に固設さ
れている。すなわち、上記円筒穴31a内に挿入された円筒ガイド39はローラ
プラグ33と止めクリップ41で軸方向の移動が、そしてローラプラグ33によ
り回転方向の移動が阻止されている。
【0025】
図2に示すように、 調整スピンドル19aの頭部20bは円筒ガイド39の切
欠ガイド溝39a内にスプリング19dにより常に右方向(図1において)に付
勢された状態で、調整スピンドル19aの中心軸線X−X方向に摺動自在に支持
されている。一方、カムシャフト25は中心軸線X−Xに対し直交するように配
置され、円筒ガイド39に形成した一対の切欠溝39b,39b(図2,4参照)
に嵌入して、調整スピンドル19aと同様に、中心軸線X−X方向に摺動自在に
支持されている。このように円筒ガイド39が調整スピンドル19aとカムシャ
フト25を中心軸線X−X方向に摺動自在に支持しているので、ハウジング31
は円筒ガイド39を嵌入できる円筒穴31aと、後述するカムシャフト挿入口3
1b(図2参照)を形成するだけでよく、複雑な加工、特に困難な二面幅加工を
ハウジングに施す必要がない。
【0026】
次に、パーキング用操作機構の各構成部品の詳細と組み付け手順について図2
ないし図4に基づき説明する。
【0027】
図2はパーキング用操作機構における調整スピンドル、円筒ガイド及びカムシ
ャフトの分解斜視図であり、調整スピンドル19aはアジャストスリーブ19b
と螺合する可逆ねじ部20aと円筒ガイド39の切欠ガイド溝39a内に沿って
摺動する一対の係合突起20cを備えた頭部20bから成り、この頭部20bと
ハウジング31に形成した円筒穴31aの一端側に設けた止めクリップ41間に
スプリング19dが配設されている。
【0028】
円筒ガイド39はカムシャフト25を摺動案内するための一対の切欠溝39b
が形成され、カムシャフト25の外周面25aがそれぞれの切欠溝39bに支持
され、切欠溝39bの切欠きにより、調整スピンドル19aの中心軸線X−X方
向に摺動案内される。
【0029】
図3に示すように 、調整スピンドル19aの頭部20b内にはローラプラグ
27が嵌入し、カムシャフト25の転動曲面25bとローラプラグ27の転動曲
面27b間に転動ローラ29が配置され、転動ローラ29と転動曲面25b,2
7bとで第1の推力伝達組立体(TA)を構成し、一方、カムシャフト25の転
動曲面25cとローラプラグ33の転動曲面33c間に転動ローラ35が配置さ
れ、転動ローラ35と転動曲面25c,33cとで第2の推力伝達組立体(TA)
を構成している。
【0030】
円筒ガイド39のローラプラグ33側端部には、図2に示すように、ローラプ
ラグ33に形設した一対の係止突部33a,33aと嵌合係止するための係止溝
39c,39cが設けられ、円筒穴31a底部に打ち込まれたピン37により回
動不能に係止されたローラプラグ33の係止突部33a,33aに円筒ガイド3
9の係止溝39c,39cが嵌合することで、円筒ガイド39は円筒穴31a内
に固設される。
【0031】
パーキング用操作機構の組付け手順としては、まずハウジング31に形成した
円筒穴31aの底面にローラプラグ33をピン37を介して固定し、ローラプラ
グ27を嵌入した調整スピンドル19aを円筒ガイド39の一対の切欠ガイド溝
39a,39aに挿入し、次いでスプリング19dを円筒ガイド39の円筒内面
39dに挿入する。
【0032】
円筒ガイド39をハウジング31の円筒穴31aに挿入した状態で、カムシャ
フト25をハウジング31に形成した円筒穴31aと直交する方向に形成した挿
入口31bを介して円筒ガイド39の一対の切欠溝39b,39bに挿入する。
そしてこの挿入口31bはカムシャフト25が中心軸線X−X方向に移動できる
ように軸方向に少し長く形成されている。
【0033】
カムシャフト25の挿入時には、転動ローラ29がローラプラグ27の転動曲
面27bとカムシャフト25の転動曲面25b間に、また、転動ローラ35がロ
ーラプラグ33の転動曲面33cとカムシャフト25の転動曲面25c間に挟持
されるように円筒ガイド39を円筒穴31aの内方に押し込み、円筒ガイド39
の係止溝39c,39cをローラプラグ33の係止突部33a,33aに嵌合さ
せて、最後に止めクリップ41をスプリング19dに抗して圧縮させハウジング
31の円筒穴31aに形成した係止溝31c(図1,2参照)に係止する。これ
によりハウジング31に形成した円筒穴31a内に固設した円筒ガイド39に、
調整スピンドル19a、カムシャフト25が摺動支持されると共に、二つの推力
伝達組立体(TA)が収納される。
【0034】
図4に示すように、カムシャフト25の一端にはカムシャフト25の軸心方向
であるY−Y軸回りにカムシャフト25を回動駆動するためのパーキングレバー
23が嵌合している。このパーキングレバー23はカムシャフト25の先端25
dに螺合したナット43によりY−Y軸方向の移動が拘束されていると共に、ハ
ウジング31に形成した挿入口31bに設けたパーキングレバーガイド45によ
り傾動することが抑制されている。また、カムシャフト25と挿入口31b間に
配設されたダストブーツ47は、その内端側と外端側がパーキングレバーガイド
45の係止爪45aにより係着されている。
【0035】
ナット43の外周面にはねじりコイルバネ49が被冠し、その一端はハウジン
グ31に係合すると共に、他端49aはパーキングレバー23に係合している。
このねじりコイルバネ49はパーキングレバー23操作後に、常にカムシャフト
25を初期位置に戻すように作用する。
【0036】
次に、推力伝達組立体の構成と作用について図5に基づき詳述する。図5(a)
はブレーキ作動前のカムシャフト初期位置を示し、転動ローラ29,35がカム
シャフト25とローラプラグ27,33間に挟持され、この初期位置からカムシ
ャフト25が10°左方向に回動すると、転動ローラ29はカムシャフト25の
転動曲面25bとローラプラグ27の転動曲面27b間に挟まれながら自転しな
がら、図5(b)のブレーキ作動位置まで公転する。同様に、転動ローラ35も
カムシャフト25の転動曲面25cとローラプラグ33の転動曲面33c間に挟
まれながら自転しながら、図5(b)のブレーキ作動位置まで公転する。
【0037】
カムシャフト25の転動曲面25b,25cはカムシャフト25の軸心Oより
y軸方向に+e,−eだけ離れた点01,02を中心とした曲率半径rで形成さ
れた曲面で構成され、一方、ローラプラグ27,33の転動曲面27b,33c
は、点01,02の近傍の点を中心とした曲率半径rで形成された曲面で構成さ
れている。
【0038】
このように、転動曲面25b,25cがカムシャフト25の軸心Oよりy軸方
向に+e,−eだけ偏心していることにより、カムシャフト25の回動に対して
転動ローラ29,35の中心軸線X−X方向の移動量を生み出すことができる。
また曲率半径r,rの曲率中心が近接していることにより、転動ローラ29,
35の中心を通るカムシャフト25とローラプラグ27,33の転動曲面25b,
25c,27b,33cの法線が図5(b)の矢印で示すようにほぼ重なること
になり、カムシャフト25からの軸推力を有効に調整スピンドル19aとキャリ
パ13側に伝達することができる。
【0039】
このようにして組み付けられたパーキング用操作機構(PM)の作用及びレバ
ー比(倍力比)について図6ないし図8に基づき説明する。
【0040】
パーキングレバー23の一端溝部23aにブレーキワイヤ(図示せず)が連結
され、ブレーキワイヤを点O’にてW方向にFの力で牽引すると、カムシャフト
25は点Oを中心として図6において反時計方向に回動する。このときカムシャ
フト25は転動ローラ29,35と線接触状態で回動するので、カムシャフト2
5が受ける回転摩擦抵抗は小さい。そして、点Oから力Fの作用点O’までの有
効長さをLとすると、カムシャフト25にはT=L×Fの回転トルクが生じるこ
とになる。
【0041】
カムシャフトの制動前の初期位置において、転動ローラ29の中心とカムシャ
フト25の転動曲面25bとの接点とを結んだ線分gと、転動ローラ35の中心
とカムシャフト25の転動曲面25cとの接点とを結んだ線分hとが中心軸線X
−Xとなす角をそれぞれθとし、線分gとhの距離をRとした場合に、回転トル
クL×FはR×f’に変換される。(ここでf’は線分g、h方向に発生する力
とする。)そして軸推力fはf=f’cosθであるから、パーキング用操作機
構(PM)のレバー比(倍力比)M=f/F=(L/R)×cosθとなる。
【0042】
ここでパーキング用操作機構におけるパーキングレバーの回動量に対するレバ
ー比と調整スピンドル19aのストローク変化は机上検討上、図7に示す割合で
変動する。
【0043】
図7(a)は制動開始のイニシャル状態を示したもので、転動ローラ29,3
5の直径を5.0mm、Rの初期入力距離を3.2mm、中心軸線X−Xと線分
g、hがなす初期傾斜角度θを10°、パーキングレバー23の有効長さLを4
5mmとし、レバー比は、(45/3.2)×cos10°でその値は計算上約
13.8となる。
【0044】
図7(b)はパーキングレバー23の操作により、カムシャフト25がイニシ
ャル時より10°左回転した状態を示し、20°,30°に回動した状態がそれ
ぞれ図7(c)、(d)に示されている。
【0045】
本実施例において、図8の点線に示すように、カムシャフトの回動角度の増加
に伴って、軸方向のストロークが一定の割合で漸増するので、ブレーキのフィー
リング特性が良く、また実使用範囲においてはカムシャフトの回動角度の変化に
かかわらずレバー比が常に安定した状態(15前後)を保つことができる。
図9は本発明の第2実施例を示しており、同一の機能を果たす同一の構成部品
には同一符号を付してある。プラグ27,33の転動曲面27b,33cのカム
シャフト25の回動初期におけるストローク域を、図示のごとく直線状の直線部
27c,33dとした点のみ第1実施例と異なる。この構成によればカムシャフ
ト25の回動初期のストロークを早く発生させることが出来、図8の実線で示す
ように、レバー比が多少小さくなるものの、カムシャフト25の回動初期におけ
る軸方向のストローク量をより多くすることができる。
なお、前記直線部は、必ずしも言葉どおりの直線でなくてもよく、カムシャフ
トの回動初期における転動ローラの動きが実質的に直線状となるような曲率半径
の大きい転動曲面を含むものとする。
図10ないし図12は本発明の第3実施例を示しており、同一の機能を果たす
同一の構成部品には同一符号を付してある。
図10に示すように、推力伝達組立体及びその作動機構はカムシャフト25と
調整スピンドル19aの頭部20b間を転動する転動ローラ29と、カムシャフ
ト25とキャリパ13の反ロータ側端部に連設したハウジング31に設けたガイ
ド51間を転動する転動ローラ35と、転動ローラ29,35が転動するカムシ
ャフト25、及び調整スピンドル19aの頭部20bとガイド51に形成した転
動曲面19e,51cとで構成されている。
ガイド51は、その底部の突起51aがハウジング31の円筒穴31a底部の
開口と嵌め合うことにより回転不能に係止され、このガイド51は切欠溝51b,
51bを備え、又リテェーナ50も切欠溝50a,50aを備え、このガイド5
1の内面51dに対してリテェーナ50は前記切欠溝51bと切欠溝50aの方
向をあわせて嵌め合わされている(図12)。
この嵌め合わされた切欠溝50a,51bに対してカムシャフト25が、調整
スピンドル19aの中心軸線X−X方向に摺動自在に支持されている。なお、符
号49bはねじりコイルバネ49のハウジング31との係合端である(図12)。

図11に示すように調整スピンドル19aの頭部20bには二面幅20d,2
0dが設けられ、リテェーナ50の二面幅50b,50bと係合している。した
がってカムシャフトに回転規制されるリテェーナ50とこれらの二面幅50b,
20dとの係合により、調整スピンドル19aは回転規制されている。また、ハ
ウジング31の係止溝31cに係止される止めクリップ41によって圧縮された
スプリング19dの付勢力がリテェーナ50を介して伝達され、調整スピンドル
19aは反ロータ方向に付勢されている。なお、符号19fは調整スピンドル1
9aの頭部20bのリテェーナ50の内方部の円弧状内面に嵌合する円弧状外面
である。
【0046】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実
施例に限られるものではなく、例えば、本実施例では浮動キャリパ式ディスクブ
レーキに適応した例で説明したが、固定キャリパ式ディスクブレーキに適応する
場合には、推力伝達組立体はカムシャフトと調整スピンドル間だけに設けること
も可能である。また、ローラプラグは硬質材で構成するために、調整スピンドル
やハウジングと別体で構成しているが、ローラプラグは必ずしも必要とするもの
ではなく、調整スピンドル及びハウジングに直接転動曲面を形設しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施例のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部全体の断面図である。
【図2】同じくパーキング用操作機構における調整スピンドル、円筒ガイド及びカムシャフトの分解斜視図である。
【図3】同じくパーキング用操作機構における調整スピンドルとカムシャフトとを円筒ガイド内に組み付けた組付断面図である。
【図4】同じくパーキング用操作機構のカムシャフトとパーキングレバーの組付断面図である。
【図5】推力伝達組立体の構造と作用を説明するための説明図であって、(a)はブレーキ作動前のカムシャフト初期位置を示し、(b)はカムシャフトが約10°回動したブレーキ作動位置を示す。
【図6】同じくパーキング用操作機構のレバー比を説明するための説明図である。
【図7】カムシャフトの回転角に対するレバー比と調整スピンドルのストローク変化を説明するためのパーキング用操作機構の机上検討における作動状態図で、(a)はイニシャル状態、(b)はパーキングレバーによりカムシャフトが10°回動した状態、(c)は同じくカムシャフトが20°回動した状態、(d)は同じくカムシャフトが30°回動した状態をそれぞれ示す。
【図8】図7における調整スピンドルのストローク変化に対するレバー比及びカムシャフトの回転角の割合をグラフ化した検討結果を示す。
【図9】本発明の第2実施例の推力伝達体の要部の断面図である。
【図10】本発明の第3実施例のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置の要部断面図である。
【図11】同じくパーキング用操作機構における調整スピンドル、ガイド及びカムシャフトの分解斜視図である。
【図12】同じくパーキング用操作機構のカムシャフトとパーキングレバーの組付断面図である。
【図13】従来のパーキング用操作機構の部分断面図である。
【符号の説明】
【0048】
13・・・キャリパ
14・・・サポート
15・・・ピストン組立体
17・・・ピストン
19・・・アジャスタアセンブリ
19a・・・調整スピンドル
19b・・・アジャストスリーブ
19c・・・軸受
19d・・・スプリング
19e・・・転動曲面
19f・・・円弧状外面
20a・・・可逆ねじ部
20b・・・頭部
20c・・・係合突起
20d・・・二面幅
21,22・・・ブレーキパッド(パッド)
23・・・パーキングレバー
23a・・・溝部
25・・・カムシャフト
25a・・・外周面
25b,25c・・・転動曲面
25d・・・カムシャフトの先端
27・・・ローラプラグ(曲面部材)
27b・・・転動曲面
27c・・・直線部
29・・・転動ローラ
31・・・ハウジング
31a・・・円筒穴
31b・・・カムシャフト挿入口
31c・・・係止溝
33・・・ローラプラグ(曲面部材)
33a・・・係止突部
33c・・・転動曲面
33d・・・直線部
35・・・転動ローラ
37・・・ピン
39・・・円筒ガイド(ガイド部材)
39a・・・切欠ガイド溝
39b・・・切欠溝
39c・・・係止溝
39d・・・円筒内面
41・・・止めクリップ
43・・・ナット
45・・・パーキングレバーガイド
45a・・・係止爪
47・・・ダストブーツ
49・・・ねじりコイルバネ
49a・・・ねじりコイルバネの先端
49b・・・ねじりコイルバネのハウジングとの係合端
50・・・リテェーナ
50a・・・切欠溝
50b・・・二面幅
51・・・ガイド
51a・・・突起
51b・・・切欠溝
51c・・・転動曲面
51d・・・ガイドの内面
f・・・軸推力
F・・・力
M・・・レバー比(倍力比)
O’・・・力Fの作用点
O・・・カムシャフトの軸心
(PM)・・・パーキング用操作機構
T・・・回転トルク
(SM)・・・サービスブレーキ機構
(TA)・・・推力伝達組立体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アジャスタ機構を内蔵したピストンを摺動自在に支持したキャリパの一端側に
パーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置において、前記操作機
構は、前記アジャスタ機構の調整スピンドルと、該調整スピンドルと直交し一端
にパーキングレバーを有するカムシャフトと、該カムシャフトと調整スピンドル
間に配置され、該カムシャフトの回動により調整スピンドルに軸推力を与える推
力伝達組立体とから成り、前記推力伝達組立体は自転しながらカムシャフトと調
整スピンドル間を転動する転動ローラと、該転動ローラと接触するカムシャフト
と調整スピンドル側に設けた転動曲面とで構成されているパーキング用操作機構
を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項2】
前記カムシャフトの反ロータ側とキャリパ間に第2の推力伝達組立体が配置さ
れ、その転動ローラはカムシャフトとキャリパ側に設けた転動曲面との間で自転
しながら転動する請求項1に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレ
ーキ作動装置。
【請求項3】
前記カムシャフトに設けた転動曲面の曲率中心はカムシャフトの軸中心と所定
距離離れている請求項1または2に記載のパーキング用操作機構を備えたディス
クブレーキ作動装置。
【請求項4】
前記調整スピンドル側及びキャリパ側に設けた転動曲面の曲率中心はカムシャ
フトに設けられた転動曲面の曲率中心と近接した位置にある請求項3に記載のパ
ーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項5】
前記調整スピンドル側及びキャリパ側に設けた転動曲面は、カムシャフトの回
動初期における前記曲面のストローク域を直線部として形成されている請求項4
に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項6】
調整スピンドル側及びキャリパ側に設けられる転動曲面は、調整スピンドル及
びキャリパの少なくとも一方に取り付けた曲面部材に形成されている請求項4ま
たは5に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項7】
前記キャリパの反ロータ側端部に調整スピンドルの軸線方向に向く円筒穴と、
該円筒穴に直交する方向に向く挿入口とが形設され、円筒穴内に、挿入口から挿
入されたカムシャフトを摺動支持するガイド部材を固設した請求項1ないし6の
いずれかに記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動装置。
【請求項8】
前記カムシャフトはガイド部材の円筒部に形成した一対の切欠溝に摺動支持さ
れている請求項7に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ作動
装置。
【請求項9】
前記キャリパの反ロータ側端部に形設した挿入口とカムシャフトの間にはダス
トブーツが配設され、該ダストブーツはカムシャフトの一側に配したパーキング
レバーの傾動を抑えるパーキングレバーガイドにより係着されている請求項7ま
たは8に記載のパーキング用操作機構を備えたディスクブレーキ。
【請求項10】
前記キャリパは、反ロータ側端部に連設されるハウジングを有し、該ハウジン
グ内に、前記調整スピンドル、推力伝達組立体及びカムシャフトが一体に組み付
けられている請求項1ないし9のいずれかに記載のパーキング用操作機構を備え
たディスクブレーキ作動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−189148(P2006−189148A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−288054(P2005−288054)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000000516)曙ブレーキ工業株式会社 (621)
【Fターム(参考)】