説明

パーフルオロポリエーテル化合物、およびこれを用いた潤滑剤ならびに磁気ディスク

式(I)で表される化合物及びこれを用いた潤滑剤ならびに磁気ディスク。
A−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−B (I)(式中Aは水酸基を有するアミノ基、Bは水酸基、水酸基を有しないアミノ基又は水酸基を有するアミノ基であり、mは5〜36の実数、nは4〜30の実数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、アミノ基と水酸基を含むフッ素化合物およびアミノ基と水酸基を含むフッ素化合物を含有する潤滑剤、およびこれを用いた磁気ディスクに関する。さらに詳しくは、大容量記録媒体である磁気ディスク、磁気テープなどの記録媒体用の潤滑剤に使用される化合物およびそれを含有する潤滑剤に関する。
【背景技術】
磁気ディスクの記録密度の増大に伴い、記録媒体である磁気ディスクと情報の記録・再生を行うヘッドとの距離は殆ど接触するまで狭くなっている。磁気ディスク表面にはヘッドとの接触・摺動の際の摩耗を抑える目的で潤滑層が設けられている。この潤滑層は通常潤滑剤を磁気ディスク表面に塗布して形成している。
該潤滑剤としては一般にパーフルオロポリエーテルが用いられ、なかでもヘッドとの粘着力が低く、低摩擦力を有するアウシモント社製のFomblin系化合物が主流である。Fomblin系化合物の基本骨格は繰返し単位が(CFCFO)m−(CFO)n−のパーフルオロポリエーテルである。
しかし、Fomblin系のパーフルオロポリエーテルはヘッドの部材中のAlがルイス酸としてパーフルオロポリエーテル鎖中の酸素原子と反応してその鎖を切断する(例えば、非特許文献1参照)。この切断が進行するとFomblin系のパーフルオロポリエーテルは低分子化し、最終的には磁気ディスク上から揮発する。
Fomblin系のパーフルオロポリエーテルの分解を抑制する添加剤としてダウケミカル株式会社製X−1Pが知られている。X−1Pは分子内にシクロホスファゼン環を有し、この環にフルオロフェノキシ基とトリフルオロメチルフェノキシ基が6個結合した構造である。
X−1Pの潤滑剤分解抑制効果はシクロホスファゼン環がパーフルオロポリエーテルに先立ちAlと相互作用することで、パーフルオロポリエーテルの分解を抑制する(例えば、非特許文献2参照)。しかし、X−1Pは末端にメトキシ基またはエトキシ基を有するパーフルオロブタンを基本構造とする溶媒(例えば、3M株式会社製HFE−7100,HFE−7200)にはある程度溶解するものの、通常潤滑剤の塗布に用いるパーフルオロカーボン系の溶媒には溶解しない。また、パーフルオロポリエーテルとの相溶性も低い。このため磁気ディスク表面の潤滑層が相分離を引起こし、均一な潤滑層が形成されない。
さらに、X−1Pのような添加剤を使用することは、潤滑剤を塗布したディスクを製造する上で種々の問題が生じる。例えば、上記のように使用可能な溶剤が限定されることが考えられる。また、ディスクに潤滑剤をディップコート法により塗布する際、メインの潤滑剤と添加剤のディスク上への吸着力が異なる場合には、これらの化合物を溶剤に溶解させた浴槽中での各々の濃度が経時的に変化する。浴槽中での各成分の濃度が変化した場合、ディスク上に形成される潤滑層の成分比も変化することになり、ディスクの品質管理が困難かつ煩雑になるという問題が生じる。
一方、磁気ディスク装置においては、ドライブ装置の起動・停止方式として、ドライブ装置の停止、起動の際に磁気ヘッドがディスクに接触して触れ合うコンタクト・スタート・ストップ(CSS)方式が主流となっている。しかし、そのような磁気ディスク装置においては、ディスク起動時のディスクとヘッドの間には大きな粘着力がかかり、ヘッドがディスクと長時間接触した状態からディスクが再起動する際に高いスティクション(吸着)が発生してディスクが起動できなくなる恐れがある。このため、ディスク停止時にヘッドがディスク面外に退避するランプ・ロード・アンロード(L/UL)方式も採用されている。
近年、ディスク装置の高記録密度化や高速処理化が加速してきており、これに対応してヘッドとディスクの距離(浮上量)を短く(低く)したり、ディスクの回転速度を速くする必要がある。ヘッドとディスクが接触しない機構となっているL/UL方式においても、低浮上量化や高速化に伴い、ヘッドとディスクの接触頻度が増大し潤滑剤がディスク表面からヘッドに移行したり、ディスク面外に飛散し、潤滑層が喪失する。その結果、ディスクの損傷に至ることがあるため、L/UL方式においては、ディスク表面との密着性が強い潤滑剤が望ましい。
このような潤滑剤として、分子内に極性基を複数個持つFomblin系のパーフルオロポリエーテル(Fomblin Zdol、Fomblin Z−Tetraol等)があるが、上述のようなAlとの反応の結果、パーフルオロポリエーテル鎖の切断・分解は進行し、最終的にディスク上から揮発する現象を回避できない。
一方、分子内にパーフルオロポリエーテル鎖を有しているにもかかわらずAlによる分解が抑制される化合物として、パーフルオロポリエーテルの末端がアルキルアミンである化合物の開示がある(例えば、特許文献1参照)。また、ヘッドへの移行が少ないアミノ基を末端に有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤が開示されている(例えば、特許文献2参照)。当該特許文献に例示されているアミノ基は、脂肪族、脂環族、芳香族のアミン化合物由来のアミノ基である。しかし、該化合物は、ディスク表面との密着性に寄与する極性基成分が少なく、高速回転するディスク装置においては解決しなければならない課題である。
以上のように、磁気ディスク装置の高性能化に向けて、潤滑剤および磁気ディスクの高性能化が従来以上に重要度を増している。
【非特許文献1】 Macromolecules、1992年、25巻、p.6791−6799
【非特許文献2】 Proceedings of The Micromechanics for Information and Precision Equipment Conference,Tokyo,Japan、1997年、p.367−370
〔特許文献1〕 米国特許第6083600号明細書
〔特許文献2〕 特開平11−172268号公報
現在、磁気ディスク用の潤滑剤は低飛散性と良好な摺動特性を有するパーフルオロポリエーテルを基本骨格とする誘導体が主に用いられている。情報の記録・再生の高速化を図るためディスクの回転数は近い将来15,000rpm以上となる可能性が高い。ディスクの回転数が大きくなるにつれ潤滑剤の飛散が大きくなる傾向がある。これは高回転になるにつれディスクの回転速度が上昇するためだけでなく装置全体の温度の上昇も大きな因子になる。
また、高回転で長期摺動を行うと潤滑剤が分解して、潤滑層が薄くなり十分な摺動特性を示さなくなり最終的にディスクの記録層の破壊に至る問題もある。さらに、ディスク表面とヘッドの粘着が大きいとディスクを回転させるスピンドルモーターに負担がかかりすぎてディスクの回転が停止してしまう。トルクの大きなスピンドルモーターを用いて強制的に回転させると、ヘッドの破壊やディスクの損傷を起こす可能性がある。ディスクの損傷は記録層の破壊につながるため装置の信頼性を確保する上でディスクへの吸着力が強く、かつ分解しにくい潤滑剤が必要である。
さらに添加剤を併用することによるディスク製造上の煩雑さを回避するためにも、単独で使用できる潤滑剤の開発が重要となっている。
上記の課題を解決するため種々の化合物を合成しその特性を検討した。
その結果、パーフルオロポリエーテル鎖の末端が水酸基を有するアミノ基である化合物が上記課題を克服することを見出した。
また該化合物を潤滑層に用いた磁気ディスクが高回転でのディスク装置に適することも見出した。
【発明の開示】
本発明は以下の発明に係る。
式(I)で表される化合物。
A−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−B (I)
(式中Aは水酸基を有するアミノ基、Bは水酸基、水酸基を有しないアミノ基又は水酸基を有するアミノ基であり、mは5〜36の実数、nは4〜30の実数である。)
(2)式(I)の化合物を含有する潤滑剤。
A−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−B (I)
(式中Aは水酸基を有するアミノ基、Bは水酸基、水酸基を有しないアミノ基又は水酸基を有するアミノ基であり、mは5〜36の実数、nは4〜30の実数である。)
(3)支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面にパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物からなる潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする磁気ディスク。
(1)本発明のパーフルオロポリエーテル鎖の末端が水酸基を有するアミノ基である化合物について。
(1−1)合成方法
まず、繰返し単位が(CFCFO)m−(CFO)n−で両末端が水酸基のパーフルオロポリエーテル、ピリジン、ジメチルアミノピリジン等の塩基性化合物(反応に伴うCFSOHなどの副生の酸成分をトラップし、反応を促進する)およびジクロロメタンを混合した溶液に、無水トリフルオロメタンスルホン酸を攪拌しながら室温下で滴下する。無水トリフルオロメタンスルホン酸の添加量はパーフルオロポリエーテルの2当量以上である。反応の終点をNMRで確認後、反応混合物からパーフルオロヘキサンで抽出することにより、目的とするトリフラートを得る。次いで、トリフラートに水酸基を有するアミン化合物および必要に応じてパーフルオロヘキサンを添加して還流温度で攪拌する。水酸基を有するアミン化合物の投入量はトリフラートの2当量以上である。投入したトリフラートが残っていないことをNMRで確認し反応を完了させる。その後、反応混合物にパーフルオロヘキサンを添加し、ジクロロメタンおよびエタノールまたは水で洗浄し、目的物の化合物(I)を得る。両末端が水酸基のパーフルオロポリエーテルとしてはアウシモント社製Fomblin Zdolなどがある。この化学構造は、HO−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCHOHであり、m及びnは上記の通りであり、分子量分布があり、平均分子量は約1000〜7000である。
水酸基を有するアミン化合物としては例えば炭素数1〜8のアルカノールアミン、炭素数7〜20の芳香族アミンアルカノール、炭素数6〜20のヘテロアミンアルカノール等を例示することができる。
炭素数1〜8のアルカノールアミンとしてはメタノールアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ブタノールアミン、ヘキサノールアミン等を例示することができる。炭素数7〜20の芳香族アミンアルカノールとしては、2−アニリノエタノールアミン等を例示することができる。
炭素数6〜20のヘテロアミンアルカノールとしては1−ピペラジンエタノール等を例示することができる。
(1−2)水酸基を有するアミノ基
本発明の化合物は、パーフルオロポリエーテルの末端の少なくとも1つが水酸基を有するアミノ基である。水酸基を有するアミノ基、即ちAとしては、例えばジエタノールアミノ基、エチルエタノールアミノ基、ジプロパノールアミノ基、2−アニリノエタノール基、1−ピペラジンエタノール基などを挙げることができる。
(1−3)水酸基を有しないアミノ基または水酸基
本発明のパーフルオロポリエーテルの末端の少なくとも1つは水酸基を有するアミノ基であるが、他の末端は水酸基を有しないアミノ基または水酸基であって良い。水酸基を有しないアミノ基を導入するには、上記(1−1)の合成方法において、水酸基を有するアミン化合物の等量以下の水酸基を有しないアミン化合物を併用することにより行うことができる。
上記の併用により、水酸基を有しないアミノ基がパーフルオロポリエーテルの両末端に導入された化合物、水酸基を有するアミノ基がパーフルオロポリエーテルの両末端に導入された化合物および水酸基を有しないアミノ基と水酸基を有するアミノ基がパーフルオロポリエーテルの各末端に導入された化合物の3成分の混合物が得られる場合がある。この場合は3成分系の混合物をそのまま本発明の潤滑剤として用いることができるが、これらの成分をカラムクロマトグラフィー、超臨界炭酸抽出法などの方法で精製することにより、純粋な水酸基を有しないアミノ基と水酸基を有するアミノ基がパーフルオロポリエーテルの各末端に導入された化合物を得ることができる。
水酸基を有しないアミン化合物としては例えば炭素数1〜10での脂肪族アミン、炭素数6〜20の芳香族アミン、炭素数4〜20のヘテロアミン等を例示することができる。
炭素数1〜10の脂肪族アミンとしては例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン等を例示することができる。炭素数6〜20の芳香族アミンとしては、アニリン、ジフェニルアミン等を例示することができる。
炭素数4〜20のヘテロアミンとしてはピペラジン等を例示することができる。
水酸基を有しないアミノ基としては例えばジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基などを挙げることができる。
mは5〜36、好ましくは7〜25、更に好ましくは7〜15の実数である。nは4〜30、好ましくは6〜25、更に好ましくは6〜15の実数である。
(1−4)用途
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物の用途は磁気ディスク装置内の磁気ディスクの摺動特性を向上させるための潤滑剤としての用途が挙げられる。これは磁気ディスクとヘッドとの摩擦係数の低減が目的であるので、磁気ディスク以外にも磁気テープなどの記録媒体とヘッドとの間に摺動が伴う他の記録装置に対する用途も考えられる。また記録装置に限らず摺動を伴う部分を有する機器の潤滑剤としての用途も考えられる。更にFomblin系のパーフルオロポリエーテルの分解を抑制する効果も期待できるので潤滑剤の添加剤としての用途も挙げられる。
(1−5)使用方法
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物を用いて潤滑層を形成するにはバルクの状態で表面に塗布する方法もあるが、必要以上に厚く付着してしまうことがある。この場合は溶媒に希釈して塗布する。溶媒は含フッ素のものが本発明の化合物との相溶性が良好である。例えば3M株式会社製HFE−7100,HFE−7200、デュポン株式会社製バートレルXF等が挙げられる。磁気ディスク、磁気テープなどの潤滑剤として用いる際は一般に塗布法によるのが好ましい。なお本発明の化合物を潤滑剤の添加剤として使用することもできる。
(2)磁気ディスクについて
(2−1)磁気ディスクの構成
図1に本発明の磁気ディスクの断面の模式図を示す。
本発明の磁気ディスクは、まず支持体1上に少なくとも1層以上の記録層2、その上に保護層3、更にその上に本発明の化合物を含有する潤滑層4を最外層として有する。
支持体としてはアルミニウム合金、ガラス等のセラミックス、ポリカーボネート等が挙げられる。
磁気ディスクの記録層である磁性層の構成材料としては鉄、コバルト、ニッケル等の強磁性体を形成可能な元素を中心として、これにクロム、白金、タンタル等を加えた合金、又はそれらの酸化物が挙げられる。これらはメッキ法、或いはスパッタ法等で形成される。
保護層はカーボン、SiC,SiO等の材質が挙げられる。これらは主にスパッタ法で形成される。また保護層をスパッタ法で製膜する場合、Ar/Nガス雰囲気下で行うことで保護層の硬度を高めることが可能である。
ところでディスクの表面には1〜3nm程度の突起のあるものと平滑なものがある。突起の有無は磁気ディスク装置の構成によって異なる。CSS方式の場合はディスク起動時のディスクとヘッドの間に大きな粘着力がかかる恐れがあるため、この方式のディスクにはこの粘着力を小さくするため突起が設けられている。
一方Load/Unload方式の場合はディスク起動時のディスクとヘッドの間に粘着力が発生することはないので突起の無い平坦なディスクを用いることができる。
(2−2)潤滑層の形成方法
次に潤滑層の形成方法を記述する。現在潤滑層の厚さは約1〜2nmであるため、粘性が40℃で20mm/sec程度のバルクのパーフルオロエーテルを塗布したのでは膜厚が大きくなりすぎる恐れがある。そこで塗布の際は溶媒に溶解したものを用いる。本発明の化合物を潤滑剤として用いる場合も潤滑剤の添加剤として用いる場合も溶媒に溶解した方が必要な膜厚に制御しやすい。但し、濃度は塗布方法・条件、添加割合等により異なる。塗布方法はディップ法、スピンコート法等が挙げられる。
用いる溶媒はパーフルオロポリーテルおよび本発明の化合物を溶解するものを選択する。具体的には3M社製PF−5060,PF−5080,HFE−7100,HFE−7200、デュポン社製のバートレルXF等の含フッ素溶媒が挙げられる。
(2−3)応用
本発明の磁気ディスクは、ディスクを格納し、情報の記録・再生・消去を行うためのヘッドやディスクを回転するためのモーター等が装備されている磁気ディスクドライブとそのドライブを制御するための制御系からなる磁気ディスク装置に応用できる。このような磁気ディスク装置では磁気ディスクを回転させるモーターから生じる発熱でハードディスクドライブ内の温度はかなり上がっている。このような状態でヘッドとディスク表面が摺動状態にある。
本発明の磁気ディスク、およびそれを応用した磁気ディスク装置の用途としては電子計算機、ワードプロセッサー等の外部メモリーが挙げられる。またナビゲーションシステム、ゲーム、携帯電話、PHS等の各種機器、及びビルの防犯、発電所等の管理・制御システムの内部・外部メモリー等にも適用可能である。
<作用>
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物が潤滑剤飛散低減、潤滑剤分解抑制を同時に付与できたことにより、該潤滑剤を用いて形成された潤滑層を有する磁気ディスクを提供でき、該磁気ディスクを装着した磁気ディスク装置により高速の記録再生が可能となる。
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物が高い吸着性を有し潤滑剤の飛散を低減できる理由は、水酸基及びアミノ基の両方がディスク上の保護膜と強固な吸着作用を起こすためと考えられ、また分解が抑制されるのは、分子内に存在するアミノ基がルイス塩基として働き、パーフルオロポリエーテルに先立ちAlと相互作用することで、パーフルオロポリエーテルの分解を抑制すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
図1は本発明の磁気ディスクの構成を示す断面図である。1は支持体、2は記録層、3は保護層、4は潤滑層である。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
(HOCHCHN−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−N(CHCHOH)[化合物1]の合成
末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテルであるアウシモント社製Fomblin Z−DOL(10.0g)、ピリジン(8.7g)、ジメチルアミノピリジン(1.8g)およびジクロロメタン(50ml)を攪拌混合する。この溶液に対して、無水トリフルオロメタンスルホン酸(13.9g)をゆっくりと添加し、室温にて48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にパーフルオロヘキサン(90ml)を添加し、ジクロロメタンとエタノールの混合溶液を用いて洗浄する。蒸留によりパーフルオロヘキサンを除去して、目的とするトリフラート(10.3g)を得た。得られたトリフラート(10.0g)とジエタノールアミン(8.0g)を、105℃で48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、加熱攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にバートレルXF(30ml)を添加し、水とメタノールの混合溶液を用いて洗浄する。蒸留によりバートレルXFを除去して、目的とする化合物1(9.0g)を得た。
元素分析は化合物1が完全燃焼しないため求められなかった。以下に合成方法を示す化合物(化合物2〜5)も完全燃焼しないため求められなかった。この原因はこれら化合物のフッ素含有量が大きいためと推定される。
よって本発明の化合物の分析結果はNMRのみ示す。
H−NMR(溶媒:パーフルオロヘキサン、基準物質:テトラメチルシラン):

19F−NMR(溶媒:なし、基準物質:生成物中のOCFCFCFCFOを−125.9ppmとする。):
δ=−72.8ppm、−75.1ppm〔4F,Rf−[CCH−N−(CHCHOH)
m=11.1 n=10.0
【実施例2】
ピペラジンエタノールを末端に有する化合物[化合物2]の合成
実施例1に記載の方法にて得られたトリフラート(10.0g)と1−ピペラジンエタノール(6.5g)を、105℃で48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、加熱攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にバートレルXF(30ml)を添加し、水とメタノールの混合溶液を用いて洗浄する。蒸留によりバートレルXFを除去して、目的とする化合物2(7.2g)を得た。
化合物2の化学構造は、実施例1と同様に、NMRにより確認した。
H−NMR(溶媒:パーフルオロヘキサン、基準物質:テトラメチルシラン):

19F−NMR(溶媒なし、基準物質:生成物中のOCFCFCFCFOを−125.9ppmとする。)
δ=−73.7ppm,−75.7ppm〔4F,Rf−[CCH−N=(CHCH=N−CHCHOH]
(上記構造式中の−N=(CHCH=N−はピペラジニル基をあらわす。)
m=9.2 n=11.8
【実施例3】
(HOCHCHN−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−OH「化合物3]の合成
実施例1に記載の方法にて得られたトリフラート(10.0g)とジエタノールアミン(4.0g)を、105℃で48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、加熱攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にバートレルXF(30ml)を添加し、水とメタノールの混合溶液を用いて洗浄する。カラムクロマトグラムによる精製を行った後、蒸留によりバートレルXFを除去し、目的とする化合物3(2.0g)を得た。
化合物3の化学構造は、実施例1と同様に、NMRにより確認した。
19F−NMR(溶媒なし、基準物質:生成物中のOCFCFCFCFOを−125.9ppmとする。)
δ=−81.3ppm,−83.3ppm[2F,Rf−(CCH−OH)]
δ=−72.8ppm,−75.1ppm〔2F,Rf−[CCH−N−(CHCHOH)]〕
m=10.0 n=11.0
【実施例4】
2−エチルアミノエタノールを末端に有する化合物[化合物4]の合成
実施例1に記載の方法にて得られたトリフラート(10.0g)と2−エチルアミノエタノール(6.1g)を、105℃で48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、加熱攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にバートレルXF(30ml)を添加し、水とメタノールの混合液を用いて洗浄する。蒸留によりバートレルXFを除去して、目的とする化合物4(6.8g)を得た。
化合物4の化学構造は、実施例1と同様に、NMRにより確認した。
H−NMR(溶媒:パーフルオロヘキサン、基準物質:テトラメチルシラン):

19F−NMR(溶媒なし、基準物質:生成物中のOCFCFCFCFOを−125.9ppmとする。)
δ=−74.5ppm,−76.6ppm〔4F,Rf−[CCH−N(CHCH)−CHCHOH]
m=10.9 n=10.5
比較例1(米国特許6083600号明細書に記載の化合物)
(CHCHCHN−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−N(CHCHCH[化合物5]の合成
末端にヒドロキシル基を有するパーフルオロポリエーテルであるアウシモント社製Fomblin Z−DOL(10.0g)、ピリジン(8.7g)、ジメチルアミノピリジン(1.8g)およびジクロロメタン(50ml)を攪拌混合する。この溶液に対して、無水トリフルオロメタンスルホン酸(13.9g)をゆっくりと添加し、室温にて48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にパーフルオロヘキサンを添加し、ジクロロメタンとエタノールの混合溶液を用いて洗浄する。蒸留によりパーフルオロヘキサンを除去して、目的とするトリフラート(10.3g)を得た。得られたトリフラート(10.0g)とジプロピルアミン(7.2g)を、還流温度下で48時間攪拌を継続する。NMRにより反応の終点を確認し、加熱攪拌を終了する。その後、得られた反応混合物中にパーフルオロヘキサンを添加し、ジクロロメタンとエタノールの混合溶液を用いて洗浄する。カラムクロマトグラムによる精製を行った後、蒸留によりパーフルオロヘキサンを除去し、目的とする化合物5(9.0g)を得た。
化合物5の化学構造は、実施例1と同様に、NMRにより確認した。
H−NMR(溶媒:パーフルオロヘキサン、基準物質:テトラメチルシラン):


19F−NMR(溶媒なし、基準物質:生成物中のOCFCFCFCFOを−125.9ppmとする。)
δ=−74.6ppm,−76.7ppm〔4F,Rf−[CCH−N(CHCHCH
m=11.2 n=10.1
試験例1 ボンド率の測定
実施例1〜4及び比較例1で合成した化合物(化合物1〜5)をそれぞれ3M社製HFE−7100に溶解する。この溶液の化合物1〜5の濃度はいずれも0.1重量%である。直径2.5インチの磁気ディスクをこの溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後100℃の恒温槽に20分間この磁気ディスクを入れ、溶媒であるHFE−7100を揮発させる。この後、エリプソメーターでディスク上の化合物の平均膜厚を測定する(この膜厚をfÅとする)。次に、このディスクをHFE−7100中に10分間浸漬し、速度4mm/sで引き上げた後、室温下で静置し溶媒を揮発させる。この後、ディスク上に残った化合物の平均膜厚をエリプソメーターで測定する(この膜厚をbÅとする)。ディスクとの密着性の強弱を示す指標として、一般に用いられているボンド率を採用した。ボンド率は、下記式で表される。
ボンド率(%)=100b/f
また比較のためアミノ基を含まないパーフルオロポリーテルとして、アウシモント社製Fomblin Zdolを上記と同様にボンド率を測定した。なおFomblin Zdol(Zdol−4000)を化合物6と記述する。HO−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−OH
[m=20.0 n=19.6、化合物6]
これらの化合物のボンド率を測定した。結果を表1に示す。これらの結果から本発明のアミノ基と水酸基を含むパーフルオロポリエーテル化合物は、磁気ディスクとの密着性が大きく、強い吸着力で結合した潤滑層を形成できるという効果が確認された。

試験例2 酸化アルミニウムに対する耐分解性の測定
実施例1〜4及び比較例1で合成した化合物(化合物1〜5)並びに化合物6のそれぞれに20重量%の酸化アルミニウム〔和光純薬工業(株)製、α−アルミナ、平均粒子径;0.5μm〕を入れ、振とう器を用いて15分以上混合した試料を用いて、酸化アルミニウムの有無による熱挙動の比較を熱分析装置(TG/DTA)を使用して実施した。試験は、試料20mgを白金製容器に入れ、窒素雰囲気下、250℃の一定温度で加熱し、化合物の重量減少の経時変化を調べた。
結果を表2に示す。表2から明らかなように、本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、酸化アルミニウムによる耐分解性に優れていることが確認された。

試験例3
試験例1と同様にして濃度0.1重量%の化合物1〜4のHFE−7100溶液を調製する。直径3インチのAl合金製ディスクの表面に磁性層を有するハードディスクの表面にカーボン層(層厚;約15nm)をスパッタ蒸着法で形成した。カーボン層はDLC保護膜である。このディスクを上記HFE溶液に1分間浸漬し、速度2mm/sで引き上げた。その後100℃の恒温槽に20分間放置することで化合物1〜3からなる潤滑層を表面に形成した磁気ディスクを作製した。この潤滑層の平均膜厚は平均20〜25Åである。また比較のため化合物6からなる潤滑層を形成した磁気ディスクも作製した。潤滑層形成は化合物1〜4と同様の方法であるが溶液の濃度(0.2重量%)のみ異なる。こうして形成された潤滑層の平均膜厚は22Åである。
こうして形成された磁気ディスクをランプロード機能を取り付けたCSSテスターに装着し、ヘッドをディスク外に待機させた状態にして回転数12,000rpmで1,000時間連続回転させた後、ヘッドをディスク上に移動させヘッド荷重2g、回転数12,000rpmでヘッドをデイスクと摺動し、回転時の摩擦力を測定した。
化合物1〜4を塗布した磁気ディスクの摩擦力はいずれも2g以下であった。しかし化合物6を塗布した磁気ディスクの摩擦力は5g以上であった。
これら磁気ディスク表面を顕微鏡で観察したところ化合物6を塗布した磁気ディスクではヘッドとの接触部分には摺動したことを示す痕跡がついていた。これはDLC保護膜が削れていることを示している。化合物1〜4を塗布した磁気ディスク表面には上記摺動痕は観察されなかった。
これら磁気ディスクの1,000時間回転した後の潤滑層の厚さを調べた結果、化合物1〜4からなる潤滑層はいずれも1,000時間回転後に初期膜厚の80%以上の18Å以上を確保していた。しかし化合物6からなる潤滑層は1,000時間回転後に初期膜厚の30%以下の6Åになっていた。潤滑層が薄くなるということは磁気ディスクの回転によって潤滑層を構成している化合物が飛散するために起こる現象である。平均膜厚が6Å程度まで減少すると表面上の部分的には化合物の全く存在しない箇所がでてくる。即ち潤滑層に部分的に欠陥が生じるためにその潤滑性が大幅に低下し摩擦力が大きくなったと考えられる。
さらに1,000時間回転後のヘッドの摺動面をXPS(X−ray Photoelectron Spectroscopy)で元素分析したところ、化合物5を潤滑層としたディスクと摺動していたヘッドは、Al−Fの結合由来のシグナルが強く観察され、パーフルオロエーテルがヘッド表面のAlと反応し分解したことが示唆された。これに比べ化合物1〜4を潤滑層としたディスクと摺動していたヘッドはAl−Fの結合由来のシグナルは検出されなかった。このことから、化合物1〜4は化合物6に比べて分子内のパーフルオロポリエーテル鎖がヘッド部材中のAl化合物により分解しにくいものと推察される。
以上の結果より、本発明のアミノ基と水酸基を含むパーフルオロポリエーテル化合物は極めて低飛散性の磁気ディスク用潤滑剤として機能する効果が認められた。
【産業上の利用可能性】
本発明のパーフルオロポリエーテル鎖の末端が水酸基を有するアミノ基である化合物は従来困難であった潤滑剤飛散低減、潤滑剤分解抑制という2つの課題を同時に達成する潤滑剤を提供する。また、本発明の化合物を潤滑剤として用いた磁気ディスクは高回転での連続回転にも耐える効果を有する。
【図1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で表される化合物。
A−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−B (I)
(式中Aは水酸基を有するアミノ基、Bは水酸基、水酸基を有しないアミノ基又は水酸基を有するアミノ基であり、mは5〜36の実数、nは4〜30の実数である。)
【請求項2】
水酸基を有するアミノ基が、炭素数1〜8のアルカノールアミン、炭素数7〜20の芳香族アミンアルカノール、炭素数6〜20のヘテロアミンアルカノールより、窒素原子に結合している水素原子を除いたものである請求の範囲第1項記載の化合物。
【請求項3】
水酸基を有するアミノ基が、ジエタノールアミノ基、エチルエタノールアミノ基、ジプロパノールアミノ基、2−アニリノエタノール基、1−ピペラジンエタノール基である請求の範囲第2項記載の化合物。
【請求項4】
水酸基を有しないアミノ基が、炭素数1〜10の脂肪族アミン、炭素数6〜20の芳香族アミン、炭素数4〜20のヘテロアミンより、窒素原子に結合している水素原子を除いたものである請求の範囲第1項記載の化合物。
【請求項5】
水酸基を有しないアミノ基が、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基である請求の範囲第4項記載の化合物。
【請求項6】
式(I)の化合物を含有する潤滑剤。
A−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−B (I)
(式中Aは水酸基を有するアミノ基、Bは水酸基、水酸基を有しないアミノ基又は水酸基を有するアミノ基であり、mは5〜36の実数、nは4〜30の実数である。)
【請求項7】
水酸基を有するアミノ基が、ジエタノールアミノ基、エチルエタノールアミノ基、ジプロパノールアミノ基、2−アニリノエタノール基、1−ピペラジンエタノール基、である請求の範囲第6項記載の潤滑剤。
【請求項8】
水酸基を有しないアミノ基が、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンゾアミノ基、ジフェニルアミノ基である請求の範囲第6項記載の潤滑剤。
【請求項9】
支持体上に少なくとも記録層、保護層を形成し、その表面にパーフルオロポリエーテル構造を有する化合物からなる潤滑層を有する磁気ディスクにおいて、該潤滑層が式(I)で表される化合物を含有することを特徴とする磁気ディスク。
A−CHCFO(CFCFO)m−(CFO)n−CFCH−B (I)
(式中Aは水酸基を有するアミノ基、Bは水酸基、水酸基を有しないアミノ基又は水酸基を有するアミノ基であり、mは5〜36の実数、nは4〜30の実数である。)

【国際公開番号】WO2004/031261
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541258(P2004−541258)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012570
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(000146180)株式会社松村石油研究所 (20)
【Fターム(参考)】