説明

ヒスタミンH2受容体拮抗作用を有するピロロキノリン化合物

【課題】上部消化管炎症性疾患の予防及び/又は治療剤の提供。
【解決手段】下記一般式(1):


で表されるピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、ヒスタミンH2受容体拮抗剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒスタミンH2受容体拮抗作用を有し、ヒスタミンH2受容体が関与する疾患の予防及び/又は治療に有用なピロロキノリン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒスタミンは、多様な生体反応を制御する生体アミンメディエーターであり、その受容体としてGタンパク質共役型受容体(GPCR:G protein−coupled receptor)スーパーファミリーに属するH1、H2、H3及びH4の4つのサブタイプが存在する。ヒスタミンは、標的細胞に発現しているヒスタミンH1、H2、H3及びH4受容体にそれぞれ結合し、細胞内に情報を伝達することによって多様な生理機能を発現させる。
【0003】
H1受容体は、Gq/ホスホリパーゼCと共役し、イノシトールリン酸の蓄積、細胞質へのCa2+の動員を引き起こす受容体であり、種々の平滑筋、副腎髄質、血管内皮、脳などに分布している。また、H1受容体は、炎症やアレルギー反応に関与することが知られており、例えば、ヒスタミンは、末梢組織及び血管内皮の細胞に発現するH1受容体に結合し、この受容体を介して即時型免疫反応が起こり、血管透過性亢進及び気道収縮、さらには浮腫及び急性炎症などを引き起こす。ここで、H1受容体拮抗薬は、抗アレルギー薬(抗ヒスタミン剤)として用いられる。H1受容体拮抗薬には、鎮静作用のあるジフェンヒドラミン、クロルフェニラミン、メピラミン、トリプロリジンなど、あるいは非鎮静性のメキタジン、テルフェナジンなどが知られている。
【0004】
H3受容体は、主として中枢神経系に発現が認められ、神経機能に対する関連が報告されている。H3受容体は、Giを介してアデニル酸シクラーゼを抑制し、ヒスタミン遊離の抑制、ヒスタミン合成、分解の抑制を仲介する。
【0005】
H4受容体は、末梢白血球、胸腺、小腸、脾臓、結腸、骨髄、肝臓、精巣、腎臓、肺、肥満細胞等での発現が報告されているが、とりわけ、サイトカインにおけるH4受容体阻害による作用は炎症性細胞の浸潤・遊走を介したものであることが知られており、炎症性細胞の遊走・浸潤を伴う呼吸器、消化器、皮膚等における炎症の治療薬として有効性を示すものと期待されている。
【0006】
H2受容体は、Gs/アデニル酸シクラーゼと共役し、サイクリックAMPの蓄積を引き起こす受容体であり、消化器官、特に胃の胃粘膜壁細胞に存在することが知られており、上部消化管における炎症疾患への寄与が知られている。
【0007】
上部消化管における炎症、とりわけ潰瘍は、酸やペプシン等の攻撃因子と、粘液や重炭酸塩、血流等の防御因子との均衡が崩れることに起因して発症するが、この不均衡を来す原因がピロリ菌や消炎鎮痛剤等であることがわかってきた。しかしながら、胃酸が上部消化管潰瘍の増悪因子であることに変わりはなく、薬物療法としては、主にピロリ菌除菌療法と並行して、攻撃因子抑制を目的としてプロトンポンプ阻害剤やH2受容体拮抗薬等の酸分泌抑制剤が使用されている。
【0008】
プロトンポンプ阻害剤は、胃酸分泌阻害強度が最も高い薬剤であるが、その代謝には薬物代謝酵素CYP2C19が関与するため、胃酸分泌抑制効果に個人差が生じることがわかっている。加えて、健常人の4割を占めるといわれるプロトンポンプ阻害剤抵抗性の胃食道逆流症状患者では、プロトンポンプ阻害剤を服用中であっても、夜間の酸分泌が起こっていることがわかっている(非特許文献1)。
【0009】
このような状況下、CYP2C19の影響を受けない、夜間の胃酸分泌抑制に効果のある薬剤が求められている。H2受容体拮抗薬は、酸関連疾患の初期治療及び維持療法における効果が期待されており、作用強度が高い新規なH2受容体拮抗薬が依然として強く望まれている。
【0010】
一方、ピロロキノリン骨格には、トールライクレセプターモジュレータとしての用途が知られているが(特許文献1)、ヒスタミンH2受容体拮抗作用に関する記載や示唆はなく、ピロロキノリン骨格を持つヒスタミンH2受容体拮抗薬は全く知られていない。
【0011】
【特許文献1】特開2007−524615公報
【非特許文献1】胃酸分泌研究会誌,34,99−103,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、ヒスタミンH2受容体拮抗作用を有し、ヒスタミンH2受容体が関与する疾患の治療に有用な新規化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記実情に鑑み、本発明者らは、ヒスタミンH2受容体拮抗する作用を有する化合物を探索した結果、下記一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物が、ヨード125(125I)標識Aminopotentidineを用いた結合阻害試験において、強力なヒスタミンH2受容体結合阻害作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、下記に関する。
[1]下記一般式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
〔式中、
1は、水素原子及びC1-6アルキル基からなる群から選択され;
2、R3は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、水素原子、C1-6アルキル基、及びハロC1-6アルキル基からなる群から選択され;
4は、水素原子、C1-6アルキル基、ハロC1-6アルキル基、C6-10アリール基、及びC6-10アリールC1-6アルキル基からなる群から選択され;
Xは、C1-6アルキレン基を示す〕
で表されるピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、ヒスタミンH2受容体拮抗剤。
【0017】
[2]一般式(1)のピロロキノリン化合物が、N−(1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−イル)−2−(ジブチルアミノ)アセトアミドである、前記[1]に記載のヒスタミンH2受容体拮抗剤。
【0018】
[3]前記[1]又は[2]に記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、上部消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
【0019】
[4]前記上部消化管疾患が、消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍若しくは出血性胃炎等に起因する上部消化管出血、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、胃炎、又はびらん、出血、発赤若しくは浮腫に起因する胃粘膜病変である、前記[3]に記載の予防及び/又は治療剤。
【0020】
[5]前記[1]又は[2]に記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む、上部消化管疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【0021】
[6]前記上部消化管疾患が、胃粘膜又は十二指腸粘膜の炎症性疾患である、前記[5]に記載の医薬組成物。
【0022】
[7]ヒスタミンH2受容体拮抗作用を有する製剤を製造するための、前記[1]又は[2]に記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【0023】
[8]上部消化管疾患の予防及び/又は治療用製剤を製造するための、前記[1]又は[2]記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の使用。
【0024】
[9]治療が必要とされる患者に、前記[1]又は[2]記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする、ヒスタミンH2受容体の拮抗方法。
【0025】
[10]治療が必要とされる患者に、前記[1]又は[2]記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物の有効量を投与することを特徴とする、炎症性疾患の予防及び/又は治療方法。
【発明の効果】
【0026】
本発明の一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、後記試験例に示すように、強力なヒスタミンH2受容体拮抗作用を有し、上部消化管疾患の予防及び/又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の用語の定義は以下の通りである。
【0028】
本明細書中で使用するとき、「C1-6アルキル基」とは、炭素数1〜6個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、2−メチルブチル基、ネオペンチル基、1−エチルプロピル基、n−ヘキシル基、イソヘキシル基、4−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、1−メチルペンチル基、3,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基又は2−エチルブチル基であり、好ましくは、C1-4アルキル基である。
【0029】
本明細書中で使用するとき、「C1-4アルキル基」とは、炭素数1〜4個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基であり、好ましくは、n−ブチル基である。
【0030】
本明細書中で使用するとき、「ハロC1-6アルキル基」とは、同一であるか又は異なっていてもよい1〜5個のハロゲン原子がC1-6アルキル基に結合した基を意味し、例えば、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2−クロロエチル基、2−ブロモエチル基、3−フルオロプロピル基、3−クロロプロピル基、4−フルオロブチル基、4−クロロブチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペンタフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロ−1−(トリフルオロメチル)エチル基であり、好ましくはトリフルオロメチル基である。
【0031】
本明細書中で使用するとき、「C6-10アリール基」とは、炭素数6〜10の芳香族炭化水素基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基、アズレニル基であり、好ましくはフェニル基である。
【0032】
本明細書中で使用するとき、「C6-10アリールC1-6アルキル基」とは、前記C6-10アリール基に結合した炭素数1〜6個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3−フェニル−n−プロピル基、4−フェニル−n−ブチル基、5−フェニル−n−ペンチル基、6−フェニル−n−ヘキシル基、ナフチルメチル基、ナフチルエチル基、3−ナフチル−n−プロピル基、4−ナフチル−n−ブチル基、5−ナフチル−n−ペンチル基、6−ナフチル−n−ヘキシル基であり、好ましくは、フェニルC1-4アルキル基である。
【0033】
本明細書中で使用するとき、「フェニルC1-4アルキル基」とは、フェニル基に結合した炭素数1〜4個の直鎖状又は分枝状のアルキル基を意味し、例えば、フェニルメチル基、フェニルエチル基、3−フェニル−n−プロピル基、4−フェニル−n−ブチル基であり、好ましくは、フェニルメチル基である。
【0034】
本明細書中で使用するとき、「C1-6アルキレン基」とは、炭素数1〜6の2価の直鎖状炭化水素基を意味し、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基であり、好ましくはC1-4アルキレン基である。
【0035】
本明細書中で使用するとき、「C1-4アルキレン基」とは、炭素数1〜4の2価の直鎖状炭化水素基を意味し、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基であり、好ましくは、メチレン基である。
その他、本明細書中に具体的に定義されていない基については、通常の定義に従う。
【0036】
本発明の一般式(1)の特に好ましい様態として、下記表1に示す構造を挙げることができる。
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物は、特開平11−180980、Tetrahedron Lett.,40,5643−5646,1999等に記載の公知の方法に従って製造することができる。すなわち、化合物(1)は、市販の化合物(2)を出発原料とし、化合物(5)を経由することで製造することができる。なお、化合物(6)、化合物(8)及び化合物(10)は市販品を用いることができる。
【0039】
【化2】

【0040】
(式中、R1,R2,R3,R4及びXは上記と同じものを示し、Yはハロゲン原子等の脱離基を示す)
【0041】
市販の2−ピロリジノン誘導体(2)と2-トリフルオロメチルアニリン(3)とを、オキシ塩化リン、五塩化リン、若しくは塩化チオニルなどの縮合剤の存在下で反応させることで、アミジン誘導体(4)を製造することができる。縮合剤としてはオキシ塩化リンが好ましく、溶媒としては、例えばクロロホルム若しくはジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、又はトルエン若しくはキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒等を、単独又は組み合わせて使用することができるが、クロロホルムが好ましい。反応温度は−80〜180℃、好ましくは0〜60℃であり、反応時間は1分〜5日間、好ましくは15分〜1日間である。
【0042】
アミジン誘導体(4)に対してナトリウム[ビス(トリメチルシリル)アミド]、リチウムジイソプロピルアミド、ブチルリチウム、ナトリウムエトキシドなどの塩基を作用させることでピロロキノリン誘導体(5)を製造することができる。塩基としてはナトリウム[ビス(トリメチルシリル)アミド]が好ましい。溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン(以下、「THF」と称す)、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン又は1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒を単独又は組み合わせて使用することができるが、特にTHFが好ましい。反応温度は−80〜120℃、反応時間は1分〜5日間であり、−78℃〜室温、15分〜10時間が好ましい。(5)のアミンの窒素が保護された形で得られる場合は、常法にしたがって脱保護を行うことにより、(5)を得ることができる。
【0043】
アミド誘導体(7)はピロロキノリン誘導体(5)を塩基存在下、適当な酸ハロゲン化物(6)と反応させることで製造することができる。塩基としては、例えばトリエチルアミン若しくはジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基、又は炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム若しくは水素化ナトリウム等の無機塩基等を用いることができるが、特にトリエチルアミンが好ましい。酸ハロゲン化物としては、酸塩化物が好ましい。また、溶媒としては、例えばクロロホルム若しくはジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、トルエン若しくはキシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、THF、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン若しくは1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、又は水等を単独又は組み合わせて使用することができるが、クロロホルムが好ましい。反応温度は−80〜180℃、好ましくは−80〜30℃であり、反応時間は1分〜5日間、好ましくは15分〜1日間である。
【0044】
アミン誘導体(9)はアミド誘導体(7)に対して、塩基存在下又は塩基非存在下、適当なアミン誘導体(8)を作用させることで製造することができる。塩基存在下の場合に用いる塩基としては、例えばトリエチルアミン若しくはジイソプロピルエチルアミン等の有機塩基、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、若しくは水素化ナトリウム等の無機塩基、ナトリウムtert−ブトキシド若しくはナトリウム メトキシド等の金属アルコキシド、又はn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム若しくはtert−ブチルリチウム等のアルキルリチウムが挙げられる。好ましくは、塩基非存在下、アミン誘導体(8)を大過剰に用いるのがよい。溶媒としては、例えばメタノール、エタノール若しくはイソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒、N、N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、THF、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン若しくは1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル若しくはプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、又は水等を、単独又は組み合わせて使用することができるが、エタノールが特に好ましい。反応温度は−80〜180℃、好ましくは−20〜80℃であり、反応時間は1分〜5日間、好ましくは15分〜1日間である。
【0045】
ピロロキノリン化合物(1)は、アミン誘導体(9)に対して適当なハロゲン化アルキル(10)を塩基存在下に反応させることによって製造することができる。塩基としては、例えば炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム若しくは水素化ナトリウム等の無機塩基、ナトリウムtert−ブトキシド若しくはナトリウム メトキシド等の金属アルコキシド、又はn−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム若しくはtert−ブチルリチウム等のアルキルリチウムを使用することができるが、水素化ナトリウムが特に好ましい。溶媒としては、例えばN、N−ジメチルホルムアミド等のアミド系溶媒、THF、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン若しくは1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトニトリル若しくはプロピオニトリル等のニトリル系溶媒、又は水等を、単独又は組み合わせて使用することができるが、N、N−ジメチルホルムアミドが特に好ましい。反応温度は−80〜180℃、好ましくは−20〜80℃であり、反応時間は1分〜5日間、好ましくは15分〜1日間である。
【0046】
上記製造法に加え、ピロロキノリン化合物(1)を得るために、必要に応じて保護・脱保護をおこなうことができ、その方法は一般に用いられる方法(Protective Groups in Organic Synthesis Fourth Edition,John Wiley & Sons,Inc.)を参考にして行うことができる。また必要に応じて官能基変換をおこなうこともでき、一般に用いられる方法(Comprehensive Organic Transformations Second Edition,John Wiley & Sons,Inc.)を参考にして行うことができる。
【0047】
本発明の一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物は、上記方法によって得られるが、さらに必要に応じて再結晶法、カラムクロマトグラフィー等の通常の精製手段を用いて精製することができる。また必要に応じて、常法に従い所望の溶媒和物にすることもできる。
【0048】
また、一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物は、限定されないが、常法により、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩、あるいは、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩とすることができ、これらの酸付加塩も本発明に包含される。
【0049】
また、一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物は、水和物に代表される任意の溶媒和物を形成することができ、これらの溶媒和物も本発明に包含される。
【0050】
さらに、一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物に光学異性体や幾何異性体が存在する場合は、これらすべての異性体が本発明に包含される。
【0051】
本発明の医薬組成物は、一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有するものであって、単独で用いてよいが、通常は薬学的に許容される担体、添加物等を配合して使用される。医薬組成物の投与形態は、特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。かかる剤形としては、例えば、散剤、顆粒剤、細粒剤、ドライシロップ剤、錠剤、カプセル剤、注射剤等を挙げることができる。
【0052】
これらの製剤は、その剤形に応じて製剤学上使用される賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、希釈剤、緩衝剤、等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤等の医薬品添加物と適宜混合、希釈又は溶解し、常法に従い製造することができる。
【0053】
例えば、散剤の場合は、必須成分のほかに、必要に応じて適当な賦形剤、滑沢剤等を加えよく混和して調製すればよい。錠剤の場合は、必要に応じて適当な賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤等を加え、常法に従い打錠して調製すればよい。また錠剤は必要に応じてコーティングを施し、フィルムコート錠、糖衣錠等にすることができる。
【0054】
また、注射剤の場合は、液剤(無菌水又は非水溶液)、乳剤及び懸濁剤の形態とすることができる。これらに用いられる非水担体、希釈剤、溶媒又はビヒクルとしては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油等の植物油、オレイン酸エチル等の注射可能な有機酸エステルが挙げられる。また、該組成物には防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤等の補助剤を適宜配合することができる。
【0055】
本発明の一般式(1)で表される化合物は、被験者に該化合物の有効量で投与されることが好ましい。ここで、「有効量」とは、本明細書中で使用するとき、本発明のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を被験者に投与した場合に、ヒスタミンH2受容体を拮抗するのに十分な該化合物等の量、又は上記疾患若しくは該疾患の1以上の症状を予防、遅延、軽減、抑制、除去若しくは治癒させるのに十分な該化合物等の量を意味する。なお、該化合物の投与量は、被験者の年齢、体重、症状等、及び投与形態、投与回数等によって異なるが、通常は成人に対して1日1〜1000mgを1回又は数回に分けて経口投与又は非経口投与するのが好ましい。
【0056】
本発明によれば、本発明の一般式(1)で表されるピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物は、後記試験例に示すように、ヒスタミンH2受容体に拮抗作用を有し、前記疾患の予防及び/又は治療剤として有用である。本発明が対象とする疾患は、限定されないが、消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍若しくは出血性胃炎等に起因する上部消化管出血、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、胃炎、又はびらん、出血、発赤若しくは浮腫に起因する胃粘膜病変等を含む。
【実施例】
【0057】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1 N−(1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−イル)−2−(ジブチルアミノ)アセトアミドの製造:
a)N−(1−ベンジルピロリジン−2−イリデン)−2−(トリフルオロメチル)アニリンの製造:
【0059】
【化3】

【0060】
2−トリフルオロメチルアニリン(1.61g,10mmol)、N−ベンジルピロリジノン(1.75g,10mmol)をクロロホルム(20mL)に溶解し、オキシ塩化リン(1.86mL,20mmol)を加え、60℃で4時間攪拌した。反応液を氷水中に注加し、水酸化ナトリウム水溶液でアルカリ性にした。クロロホルムで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで除水後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=1:1)を用いて精製し、表題化合物2.77g(収率87%)を淡黄色油状物として得た。
【0061】
1H−NMR(CDCl)δ:1.91(2H,tt,J=7.4,7.4Hz),2.34(2H,t,J=7.7Hz),3.28(2H,t,J=6.9Hz),4.64(2H,s),6.85(1H,d,J=7.8Hz),7.01(1H,dd,J=7.6,7.6Hz),7.24−7.30(1H,m),7.32−7.42(5H,m),7.56(1H,d,J=7.3Hz).
【0062】
b)1−ベンジル−N,N−ビス(トリメチルシリル)−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−アミンの製造:
【0063】
【化4】

【0064】
N−(1−ベンジルピロリジン−2−イリデン)−2−(トリフルオロメチル)アニリン(2.77g,8.7mmol)をTHF(20mL)に溶解し、1.9Mナトリウム[ビス(トリメチルシリル)アミド]のTHF溶液(18.3mL,34.8mmol)のTHF(20mL)溶液に−78℃で滴下した。同温度で15分攪拌した後、−20℃で2時間攪拌し、室温に戻し、一晩攪拌した。反応液に水を加え、酢酸エチルで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで除水後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(n−ヘキサン:酢酸エチル=20:1→10:1)を用いて精製し、表題化合物2.21g(収率60.5%)を淡黄色油状物として得た。
【0065】
1H−NMR(CDCl)δ:0.11(18H,s),3.00(2H,t,J=7.8Hz),3.41(2H,t,J=7.8Hz),4.75(2H,s),7.16(1H,ddd,J=6.8,6.8,1.2Hz),7.24−7.38(5H,m),7.43(1H,ddd,J=6.8,6.8,1.5Hz),7.65(1H,dd,J=8.3,0.7Hz),7.80(1H,dd,J=8.2,1.4Hz).
【0066】
c)1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−アミンの製造:
【0067】
【化5】

【0068】
1−ベンジル−N,N−ビス(トリメチルシリル)−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−アミン(2.21g,5.27mmol)をTHF(20mL)に溶解し、室温で1Mテトラ−n−ブチルアンモニウムフロリドTHF溶液(10.5mL,10.5mmol)を滴下した。同温度で1時間攪拌した後、反応液に水を加え、クロロホルムで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで除水後、減圧濃縮した。得られた残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=10:1)を用いて精製し、表題化合物1.92g(不純物を含む)を褐色固体として得た。
【0069】
1H−NMR(CDCl)δ:2.91(2H,t,J=7.9Hz),3.49(2H,t,J=8.1Hz),4.24(2H,brs),4.74(2H,s),7.16(1H,ddd,J=7.6,7.6,1.2Hz),7.23−7.38(5H,m),7.45(1H,ddd,J=7.7,7.7,1.4Hz),7.54(1H,d,J=8.3Hz),7.67(1H,d,J=8.0Hz).
【0070】
d)N−(1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−イル)−2−クロロアセトアミドの製造:
【0071】
【化6】

【0072】
1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−アミン(100mg,不純物を含む)をクロロホルム(2mL)に溶解し、氷冷下でトリエチルアミン(101μL,726μmol)を加え、さらに塩化クロロアセチル(34.7μL,436μmol)を加えた。室温で6時間攪拌した後、反応液に水を加え、クロロホルムで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで除水後、減圧濃縮した。得られた残渣をプレパラティブ薄層クロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)を用いて精製し、表題化合物14.6mg(2工程換算収率15.1%)を淡黄色油状物として得た。
【0073】
1H−NMR(CDCl)δ:3.06(2H,t,J=7.7Hz),3.53(2H,t,J=7.7Hz),4.31(2H,s),4.77(2H,s),7.22(1H,ddd,J=8.0,8.0,1.2Hz),7.25−7.38(5H,m),7.49(1H,ddd,J=7.7,7.7,1.5Hz),7.58(1H,d,J=8.0Hz),7.71(1H,d,J=8.3Hz),8.42(1H,brs).
【0074】
e)N−(1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−イル)−2−(ジ−n−ブチルアミノ)アセトアミド シュウ酸塩の製造:
【0075】
【化7】

【0076】
N−(1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−イル)−2−クロロアセトアミド(14.6mg,41.5μmol)をエタノール(2mL)に溶解し、室温でジブチルアミン(0.2mL,1.18mol)を加えた。80℃で8時間攪拌した後、反応液に水を加え、クロロホルムで抽出した後、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで除水後、減圧濃縮した。得られた残渣をプレパラティブ薄層クロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)を用いて精製し、表題化合物のフリー体12.6mg(収率68.2%)を淡黄色油状物として得た。これにシュウ酸(10.6mg)を加え、メタノール/クロロホルムより再結晶を行うことにより、表題化合物9.1mg(収率60.1%)を白色固体として得た。
【0077】
(フリー体)H−NMR(CDCl)δ:0.96(6H,t,J=7.3Hz),1.38(4H,dt,J=7.3,7.3Hz),1.52−1.61(4H,m),2.64(4H,t,J=7.6Hz),3.08(2H,t,J=7.9Hz),3.28(2H,s),3.51(2H,t,J=7.8Hz),4.77(2H,s),7.18(1H,dd,J=7.0,7.0Hz),7.24−7.38(5H,m),7.47(1H,dd,J=7.0,7.0Hz),7.55(1H,d,J=8.0Hz),7.69(1H,d,J=8.1Hz),9.56(1H,s).
【0078】
試験例1 ヨード125(125I)標識Aminopotentidineを用いたH2受容体結合アッセイ
結合アッセイに用いた細胞膜画分は以下の方法で調製した。ヒトH2受容体高発現CHO細胞(Human recombinant histamine H2 receptor CHO−K1 recombinant cell line(ES391−C))はEuroscreen社から購入した。細胞はHam’s F12培地(10% FCS,100IU/ml Penicillin,100μg/ml Streptomycin,及び400μg/ml G418含有)を用いて90%コンフルエントになるまで直径15cmの培養ディッシュにて培養した。培地を除去した後、氷冷したPhosphate−buffered saline(137mM NaCl,2.7mM KCl,8.1mM Na2HPO4,1.5mM KH2PO4(pH7.4))(以下PBSと省略)で一度洗浄し1ディッシュあたり15mlのPBS中にセルスクレーパーを用いて回収した。1500gで3分間遠心してペレットとし、バッファーA(15mM Tris−HCl(pH7.5),2mM MgCl2,0.3mM EDTA,1mM EGTA)5mlに懸濁しテフロンホモジェナイザーを用いてガラス容器中で粉砕した。さらにバッファーAを10ml加え、引き続き40,000gで25分間(4℃)遠心を2回繰り返し、膜画分を調製した。調製した膜画分はバッファーB(75mM Tris−HCl(pH7.5),12.5mM MgCl2,0.3mM EDTA,1mM EGTA,250mM Sucrose)にて懸濁し液体窒素中で瞬間凍結した。蛋白濃度をBCA法(Micro BCA kit,Pierce社)にて測定した。
【0079】
ヨード125(125I)標識Aminopotentidine(NEX−431)はPerkinElmer社より購入した。125I標識Aminopotentidineを用いた結合アッセイはRuatらの報告に従って実施した(Ruat,M.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,87:1658−1662,1990)。1アッセイあたり50μgの膜画分を用い、96wellポリスチレンプレート中で被験化合物及びリガンド(0.1nM 125I標識Aminopotentidine)とともに25℃で2時間インキュベートした。セルハーベスタを用いてグラスファイバー製のフィルターマット(GF/B;あらかじめ0.3%ポリエチレンイミン/結合バッファー(50mM Na2HPO4/KH2PO4バッファー(pH7.4))に1時間以上浸漬しておく)に捕集したのち、結合バッファーで洗浄及び乾燥を行い、固体シンチレータを載せて加熱及び溶融して測定サンプルとし、96well対応のシンチレーションカウンタ(MicroBeta TriLux,PerkinElmer社)にて放射活性を測定した。
【0080】
表2に被験化合物10μMを加えた時の測定結果を阻害率で示す。
【0081】
【表2】

【0082】
表2に示す通り、本発明のピロロキノリン化合物は、10μMにおいて、43%の強力なヒスタミンH2受容体拮抗作用が確認された。したがって、本発明のピロロキノリン化合物は上部消化管の炎症及び潰瘍の治療剤として有効であることが示唆された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):
【化1】

〔式中、
1は、水素原子及びC1-6アルキル基からなる群から選択され;
2及びR3は、同一であるか又は異なっていてもよく、独立して、水素原子、C1-6アルキル基、及びハロC1-6アルキル基からなる群から選択され;
4は、水素原子、C1-6アルキル基、ハロC1-6アルキル基、C6-10アリール基、及びC6-10アリールC1-6アルキル基からなる群から選択され;
Xは、C1-6アルキレン基を示す〕
で表されるピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、ヒスタミンH2受容体拮抗剤。
【請求項2】
上記化合物が、N−(1−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−ピロロ[2,3−b]キノリン−4−イル)−2−(ジブチルアミノ)アセトアミドである、請求項1に記載のヒスタミンH2受容体拮抗剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を有効成分とする、上部消化管疾患の予防及び/又は治療剤。
【請求項4】
前記上部消化管疾患が、消化性潰瘍、急性ストレス潰瘍若しくは出血性胃炎等に起因する上部消化管出血、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎、胃炎、又はびらん、出血、発赤若しくは浮腫に起因する胃粘膜病変である、請求項3に記載の予防及び/又は治療剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載のピロロキノリン化合物若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及び医薬として許容される賦形剤、希釈剤又は担体を含む、上部消化管疾患を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
【請求項6】
前記上部消化管疾患が、胃粘膜又は十二指腸粘膜の炎症性疾患である、請求項5に記載の医薬組成物。

【公開番号】特開2010−83766(P2010−83766A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−251383(P2008−251383)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「化合物等を活用した生物システム制御基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】