説明

ヒトまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物

本発明は、ヒトまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。本発明はまた、ヒトC5aRのアゴニスト、逆アゴニスト、およびアンタゴニストをスクリーニングする方法における、ならびに様々な疾患動物モデルにおいてC5aRアゴニスト、逆アゴニスト、およびアンタゴニストの有効性を試験するための、トランスジェニック非ヒト哺乳動物の使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、ヒトまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物に関する。本発明はまた、ヒトC5aRのアゴニスト、逆アゴニスト、およびアンタゴニストをスクリーニングする方法における、ならびに様々な疾患動物モデルにおいてC5aRアゴニスト、逆アゴニスト、およびアンタゴニストの有効性を試験するためのトランスジェニック非ヒト哺乳動物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
補体タンパク質C3〜C5はそれぞれタンパク質分解されると、アナフィラトキシンと称されるシグナル伝達分子を有するアミノ末端カチオン性断片を生じる。これらの中で最も強力なC5aは最も広範な反応を誘発する。白血球の辺縁趨向および浸潤、顆粒結合性タンパク質分解酵素の放出、活性酸素および窒素ラジカルの生成、血流および毛細管漏出の変化、ならびに平滑筋の収縮能力などの炎症反応の要素を考慮すれば、C5a分子は「完全な」前炎症性メディエータである。ナノモル以下からナノモル濃度のレベルでは、C5a分子は、すべての骨髄性細胞系譜(好中球、好酸球および好塩基球、マクロファージおよび単球)の走化性を誘発し、またプロスタグランジンによって顕著に増強される血管透過性および白血球循環を引き起こす。より高いナノモル濃度では、脱顆粒およびNADPHオキシダーゼの活性化を誘発する。生物活性のこの幅は、他の炎症性メディエータとは対照的である。C5aは、慢関節リウマチ、乾癬、敗血症、再潅流傷害、および成人呼吸窮迫症候群の発症に関与するとされている。
【0003】
C5aの活性は、C5aがその受容体(C5aR)に結合することによって媒介される。C5aRは、7回膜貫通型Gタンパク質共役型受容体のファミリーに属する。C5aRは、約1 nMのKdを有するC5aの高親和性受容体であり、白血球をはじめとする多くの様々な細胞種上に位置している。細胞当たりの受容体の数は極めて多く、白血球当たり最大200,000部位である。受容体の生物学的活性化は、結合が飽和する範囲を上回った場合に起こる。
【0004】
C5aRは伸長したN末端細胞外ドメインを含む。この大きなN末端ドメインは、IL-8およびfMet-Leu-Phe(FMLP)受容体ファミリーをはじめとする、ペプチドと結合するGタンパク質共役受容体に典型的である。C5aR構造は7回膜貫通型の受容体ファミリーに従い、細胞外N末端を有し、その後に細胞内ループおよび細胞外ループとして交互に並ぶヘリックス間ドメインでつながれた7回膜貫通ヘリックスが続き、細胞内C末端ドメインで終結する。
【0005】
C5aRのアゴニストは、例えば、細菌感染に対する防御などの治療目的に、C5aの免疫調節効果を促進するために、ならびに癌、免疫不全症、および重篤な感染を治療するために有用である。
【0006】
C5aRのアンタゴニストもまた、例えば炎症性疾患および自己免疫疾患を治療するための有用な治療薬である。例えば、C5aRのアンタゴニストは、喘息、気管支アレルギー、慢性炎症、全身性エリテマトーデス、血管炎、関節リウマチ、骨関節炎、痛風、いくつかの自己アレルギー疾患、移植片拒絶、炎症性腸疾患(例えば、潰瘍性大腸炎)ある種のショック状態、心筋梗塞、およびウイルス感染後脳症の治療において有用である。この目的に対して、C5aRペプチドアンタゴニストおよび抗C5a受容体抗体がこれまでに記載されている。例えば、WO第95/00164号では、C5a受容体のN末端ペプチド(残基9〜29)に対する抗体について記載されている。
【0007】
現在、C5aRアンタゴニストおよびアンタゴニストをスクリーニングする改良法と同様に、別のおよび/または改良されたC5aRアンタゴニストおよびアンタゴニストが望まれている。
【0008】
C5aRアゴニスト/アンタゴニストを検出するインビトロスクリーニング法は、当技術分野において周知である。例えば、走化性アッセイ法を用いて、抗体またはその機能断片が、C5aRに対するリガンドの結合を阻止する能力、および受容体に対するリガンドの結合に関連した機能を阻害する能力を評価することができる。これらのアッセイ法は、化合物によって誘導されるインビトロでの細胞の機能的遊走に基づいている。走化性は、96ウェル走化性プレートを利用するか、または当技術分野において認められている走化性を評価するための他の方法を用いるアッセイなどで、任意の適切な手段により評価することができる。例えば、インビトロ経内皮走化性アッセイの使用が、Springer et al.(Springer et al.、1994年9月15日公表のWO第94/20142号)に記載されている(Berman et al., Immunol. Invest. 17: 625-677 (1998)もまた参照のこと)。内皮を介したコラーゲンゲルへの遊走もまた記載されている(Kavanaugh et al., J. Immunol., 146: 4149-4156 (1991))。
【0009】
創薬過程における重要な要件は、インビトロスクリーニング法によって同定された新規治療薬が安全かつ有効であることを関連する動物モデルで実証することである。さらに、薬物動態学的特性、疾患の予後に及ぼす有効性、および副作用の欠如をはじめとする所望の特性に関して選択された多くの薬剤のインビボ有効性を比較することが望ましい場合も多い。薬剤開発の主要な障害の1つは、薬剤候補をインビトロアッセイからインビボ有効性の実証にもっていくことである。多くの場合、これは多くの薬剤候補が種特異的であることに起因する。例えば、C5aRなどのヒト化学誘導剤受容体に対して開発されたアンタゴニストは、ヒトC5aRのみを拮抗し、マウス、ウサギ、またはさらには高等霊長動物に由来するC5aRを拮抗し得ない。多くの薬剤化合物が種を越えて「作用」し得ないことが、前臨床相で脱落する主要な理由である。
【0010】
したがって、ヒトC5aRアゴニスト、逆アゴニスト、およびアンタゴニストをインビボ環境で同定および/または試験し得る改良スクリーニング法が所望される。
【発明の開示】
【0011】
発明の概要
本発明者らは、多くのD5aRアンタゴニストがヒトC5aRとは反応するが他の種のC5aRとは反応しないことを見出した。例えば、モノクローナル抗体MAb 7F3、MAb 6C12、およびMAb 12D4(PCT/AU03/00084に記載されている)はヒトC5aRとは結合するが、マウスまたはヒヒC5aRとは結合しない。このことは、ヒトC5aRに特異的なアゴニスト/アンタゴニストを検出および/または検証し得るインビボスクリーニングおよび検証系の必要性を浮き彫りにする。
【0012】
本発明者らはまた、ヒトC5aRを発現するように操作されたマウス細胞の走化性が、抗ヒトC5aR抗体によって抑制されることを見出した。この知見と、マウスC5aがヒトC5aRと高親和性で結合するという知見から、ヒトC5aRが他の哺乳動物系におけるC5aRシグナル伝達機構と互換性があることが示される。したがって本発明者らは、ヒトC5aRを発現し、C5aRのアゴニスト/アンタゴニスト、特にヒトC5aRに特異的なアゴニスト/アンタゴニストのスクリーニングまたは試験に有用であるトランスジェニック非ヒト哺乳動物を開発した。
【0013】
したがって本発明は、ヒトC5aRまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物を提供する。
【0014】
1つの態様において、ポリヌクレオチドはヒトC5aRをコードする。好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号:3に示される配列またはその対立遺伝子変種を含むポリペプチドをコードする。
【0015】
さらなる態様において、ポリヌクレオチドは、配列番号:2に示される配列またはその対立遺伝子変種を含む。
【0016】
さらなる態様において、ポリヌクレオチドはヒト化C5aRをコードする。「ヒト化C5aR」とは、天然ヒトC5aRに特有である少なくとも1つの機能を導入するかまたは増強するように改変された非ヒトC5aRを意味する。好ましくは、非ヒトC5aRはトランスジェニック哺乳動物に内在のC5aRである。
【0017】
例えば、改変により、ヒト化C5aRがヒトC5aRの1つまたは複数のリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに結合するように、非ヒトC5aRの結合特異性が変更され得る。または、改変により、ヒトC5aRの1つまたは複数のリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに対する非ヒト5CaRの結合親和性が増強され得る。1つの好ましい態様においては、改変により、ヒトC5aRの1つまたは複数のリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに対する非ヒト5CaRの結合親和性が少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍増強される。
【0018】
改変は好ましくは、非ヒト5CaRの少なくとも1つのアミノ酸のヒトC5aRの対応するアミノ酸による置換を含む。
【0019】
好ましくは、改変は、少なくとも1つのドメインまたはその実質的部分をヒトC5aRの対応するドメインまたはその実質的部分で置換する段階を含む。例えば、改変は、内在性C5aRの少なくとも1つの細胞外ドメインを対応のヒトC5aR細胞外ドメインで置換する段階を含み得る。したがって、ヒト化C5aRは、ヒトC5aRの少なくとも1つの細胞外ドメインを含み得る。一例では、ヒト化C5aRは、内在性C5aRの細胞内ドメインおよびヒトC5aRの細胞外ドメインを含む。
【0020】
好ましい態様において、トランスジェニック哺乳動物は、ヒトまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを安定な組込型で含む体細胞および生殖系列細胞を有する。要するに、トランスジェニック哺乳動物はヒトまたはヒト化C5aRの「ノックイン」であることが好ましい。これは、例えば、哺乳動物のゲノムへの標的組込みによって、ヒトC5aRをコードするポリヌクレオチド構築物またはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチド構築物を哺乳動物のゲノムに導入することにより達成され得ることが理解されると考えられる。
【0021】
または、組込み後に内在性C5aR部位がヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含むように、ヒトC5aRの断片をコードするポリヌクレオチド構築物を内在性C5aR配列内に組み込むことも可能である。
【0022】
さらなる好ましい態様において、トランスジェニック哺乳動物はヒトまたはヒト化C5aRについてホモ接合性である。
【0023】
さらなる好ましい態様において、トランスジェニック動物における内在性C5aRの発現は検出不可能であるかまたはわずかである。内在性C5aRの発現の減少は、任意の適切な手段によって達成され得る。例えば、トランスジェニック哺乳動物の細胞を、内在性C5aRをコードする核酸に相補的なアンチセンス核酸を発現するように改変することができる。または、相同組換えにより内在性C5aR遺伝子を破壊することも可能である。好ましくは、トランスジェニック哺乳動物は内在性C5aRのホモ接合性「ノックアウト」である。
【0024】
本発明の好ましい態様において、内在性C5aRの「ノックアウト」は、ヒトまたはヒト化C5aRの導入と同時に起こる。これは、好ましくは、標的相同組換えにより、内在性C5aRコード配列またはその断片を対応のヒトC5aRコード配列またはその断片で置換することによって達成される。本発明の1つの特定の態様では、内在性C5aRの1つまたは複数のドメインが対応のヒトドメインで置換される。
【0025】
本発明のトランスジェニック動物は、ヒトC5aRコード配列の存在に加えて他の遺伝子変化を含み得る。例えば、トランスジェニック動物のゲノムは、内在性遺伝子の機能に影響を及ぼすように、マーカー遺伝子または本発明の方法と両立する他の遺伝子変化を含むように改変され得る。
【0026】
本発明のさらなる好ましい態様において、トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、ヒヒ、ウサギ、モルモット、ラット、ハムスター、およびマウスからなる群より選択される。ラット、マウス、およびハムスターなどの齧歯動物が好ましい哺乳動物である。好ましくは、トランスジェニック哺乳動物はマウスである。
【0027】
本発明はまた、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物から得られる単離された組織、単離された臓器、単離された細胞、初代細胞培養物、または確立された細胞株を提供する。好ましい臓器または組織には、平滑筋、内皮組織、収縮筋、および心臓が含まれる。
【0028】
本発明はまた、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製する方法であって、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製するために、非ヒト哺乳動物のゲノムにヒトC5aR、ヒト化C5aR、またはヒトC5aRの断片をコードするポリヌクレオチド構築物を導入する段階を含む方法を提供する。
【0029】
1つの態様において、ポリヌクレオチド構築物はヒトC5aRをコードする。好ましくは、ポリヌクレオチドは、配列番号:3に示される配列またはその対立遺伝子変種を含むポリペプチドをコードする。
【0030】
さらなる態様において、ポリヌクレオチド構築物は、配列番号:2に示される配列またはその対立遺伝子変種を含む。
【0031】
さらなる態様において、ポリヌクレオチド構築物はヒト化C5aRをコードする。
【0032】
本発明のさらなる態様において、ポリヌクレオチド構築物はヒトC5aRの断片をコードする。好ましくは、断片はヒトC5aRの少なくとも1つのドメインまたはその一部を包含する。
【0033】
本発明の好ましい態様において、断片は表1に収載するドメインの少なくとも1つを包含する。1つの特定の態様において、断片はヒトC5aRの少なくとも1つの細胞外ドメインを包含する。別の態様において、断片は表1に収載するドメインの2つまたはそれ以上を包含する。
【0034】
さらなる好ましい態様において、本方法は非ヒト哺乳動物の内在性C5aRを破壊する段階をさらに含む。好ましくは、トランスジェニック哺乳動物は内在性C5aRのホモ接合性「ノックアウト」である。
【0035】
好ましい態様において、本方法は、標的相同組換えにより、内在性C5aRコード配列またはその断片を対応のヒトC5aRコード配列またはその断片で置換する段階を含む。本発明の1つの特定の態様において、本方法は、内在性C5aRの1つまたは複数のドメインを対応のヒトドメインで置換する段階を含む。
【0036】
さらなる好ましい態様において、ポリヌクレオチド構築物は選択マーカーを含む。任意の適切な選択マーカーを使用することができるが、好ましい選択マーカーはPGK-neo遺伝子である。好ましくは、Creリコンビナーゼの一過性発現によって標的化後に選択マーカーが除去され得るように、選択マーカーにloxP部位が隣接する。
【0037】
さらなる好ましい態様において、ポリヌクレオチド構築物は、非ヒト哺乳動物の内在性C5aRコード配列に隣接する3'および5'配列と相同的な領域を含む。好ましくは、ポリヌクレオチド構築物は、内在性C5aR遺伝子のエキソン3の少なくとも2 kb、より好ましくは約3 kb上流および下流に相同的な領域を含む。
【0038】
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、C5aRの新規アゴニスト、逆アゴニスト、およびアンタゴニストの同定、評価、または検証において有用であることが理解されると考えられる。例えば、本発明のトランスジェニック哺乳動物を用いて、多くの候補化合物をスクリーニングし、ヒトC5aR機能のアゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストを同定することができる。また、本発明のトランスジェニック動物を用いて、スクリーニング法で以前に同定されたヒトC5aR機能のアゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストの治療適合性を評価することもできる。
【0039】
したがって、本発明はまた、候補化合物の少なくとも1つの薬物動態学的および/または薬力学的効果を評価する方法であって、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階、およびトランスジェニック哺乳動物において候補化合物の少なくとも1つの薬物動態学的および/または薬力学的効果を試験する段階を含む方法を提供する。
【0040】
好ましい態様において、試験される少なくとも1つの薬物動態学的効果は、吸収パラメータ、分布パラメータ、代謝パラメータ、または排泄パラメータである。
【0041】
例えば、試験される少なくとも1つの薬物動態学的効果は、分布容積、総クリアランス、タンパク質結合、組織結合、代謝クリアランス、腎クリアランス、肝クリアランス、胆汁クリアランス、腸管吸収、生物学的利用能、相対的生物学的利用能、固有クリアランス、平均滞留時間、最大代謝率、ミカエリスメンテン定数、組織と血液または組織と血漿間の分配係数、尿中未変化体排泄率、薬物の代謝産物への全身変換率、排出速度定数、半減期、または分泌クリアランスであってよい。
【0042】
本発明の全容を明確にし、かつその理解を助けるために、「薬物動態学的効果」とは、生体内における候補化合物および/またはその代謝産物の、吸収、分布、代謝、および排泄などのパラメータ(ADME)の動的過程に関する動力学の研究を指す。本発明において使用する以下の薬物動態学的用語は広く解釈され、以下に記載するような一般に認められている意味を有するものとする。
【0043】
「吸収」とは、投与部位から体循環への候補化合物の取り込み過程を指す。腸管腔を介した候補化合物の移行は一般に経口吸収と称され、外部の生理的障壁を介した候補化合物の移行は一般吸収と称される。吸収の薬物動態学的パラメータは、例えば、複数の適切なリポソームが固定化されたセンサーチップを伴うバイオセンサーデータから推定され得る。
【0044】
「分布」とは、投与部位から体循環全体へ、次いで細胞外液および細胞内液ならびに組織への、候補化合物の移行を指す。分布は通常、迅速で可逆的な過程である。分布の薬物動態学的パラメータは、例えば、複数の適切な血漿タンパク質、リポソーム、および/または輸送タンパク質が固定化されたセンサーチップを伴うバイオセンサーデータから推定され得る。
【0045】
「代謝」とは、生体内で生じる、内因性および外因性物質の生体内変換に関する全化学反応の総和を指す。代謝の薬物動態学的パラメータは、例えば、複数の適切な代謝酵素が固定化されたセンサーチップを伴うバイオセンサーデータから推定され得る。
【0046】
「排泄」とは、体内からの薬物の最終的な排除または消失を指す。排除には、受動拡散および比較的特異的な担体媒介性排除の両方が含まれる。候補化合物は、腎臓を介して尿中に、または胆汁および/もしくは腸を介して糞便中に、変化せずにまたは代謝産物として排泄され得る。揮発性化合物は多くの場合、肺によって呼気中に排泄される。排泄の薬物動態学的パラメータは、例えば、候補化合物を特異的に検出する抗体、および薬剤候補に対して高親和性/特異性を有する他のタンパク質/受容体が固定化されたセンサーチップを伴うバイオセンサーデータから推定され得る。そのような抗体およびタンパク質/受容体は、直接結合アッセイ法により、様々な体液(例えば、尿/糞便)および組織中の薬物の濃度/量を定量化するために使用することができる。
【0047】
別の態様において、本方法は、トランスジェニック哺乳動物において候補化合物の少なくとも1つの薬力学的効果を試験する段階を含む。好ましくは、少なくとも1つの薬力学的効果はC5aR活性の調節である。これは、候補化合物の投与後に、C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型をモニターすることによって評価することができる。
【0048】
したがって別の態様において、本発明は、C5aR活性を調節する化合物を同定する方法であって、(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;および(ii) 化合物の投与後に少なくとも1つの表現型の発生をモニターする段階を含む方法を提供する。
【0049】
好ましい態様において、本方法は、(iii) 化合物を投与したトランスジェニック哺乳動物またはそれに由来する細胞における表現型の程度を、対照哺乳動物またはそれに由来する細胞と比較する段階をさらに含み、対照哺乳動物と比較した場合の表現型の性質または程度の任意の相違によって、化合物がC5aR活性を調節する可能性が示される。
【0050】
1つの特定の態様において、本発明は、C5aR活性を阻害するまたは減少させる化合物を同定する方法であって、(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;および(ii) 化合物の投与後に少なくとも1つの表現型の発生をモニターする段階を含み、投与後の表現型の性質または程度の任意の減少または阻害によって、化合物がC5aR活性を阻害するまたは減少させる可能性が示される方法を提供する。好ましくは、本方法は、(iii) 化合物を投与したトランスジェニック哺乳動物における表現型の程度を対照哺乳動物と比較する段階をさらに含み、対照哺乳動物と比較した場合の表現型の性質または程度の任意の減少または阻害によって、化合物がC5aR活性を阻害または減少させる可能性が示される。
【0051】
別の態様において、本発明は、C5aR活性を促進または増強する化合物を同定する方法であって、(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;および(ii) 化合物の投与後に少なくとも1つの表現型の発生をモニターする段階を含み、投与後の表現型の性質または程度の任意の増強によって、化合物がC5aR活性を促進または増強する可能性が示される方法を提供する。好ましくは、本方法は、(iii) 化合物を投与したトランスジェニック哺乳動物における表現型の程度を対照哺乳動物と比較する段階をさらに含み、対照哺乳動物と比較した場合の表現型の性質または程度の任意の増強によって、化合物がC5aR活性を促進または増強する可能性が示される。
【0052】
本明細書において用いられる「対照」動物は、化合物を試験した哺乳動物(すなわち、「被験」哺乳動物)において発現される表現型指標と同じ表現型指標を発現する任意の他の哺乳動物であってよい。
【0053】
1つの態様において、対照動物および被験動物は、同程度のレベルの機能的ヒトC5aRを発現する。例えば、対照動物および被験同物は同質遺伝子的である。
【0054】
別の態様において、対照動物は、ヒトまたはヒト化C5aRを発現しない野生型動物である。
【0055】
「C5aRシグナル伝達に関連する表現型」という語句は、C5aRシグナル伝達が関与する生化学的過程に関連する任意の目に見える特徴および/または挙動(疾患の臨床症状を含む)を包含することが意図される。表現型は、正常または異常なC5aRシグナル伝達に関連し得る。1つの態様において、表現型は、免疫複合体障害、炎症性もしくはアレルギー疾患、移植片拒絶、または癌などの、C5aRシグナル伝達によって悪化する病態である。別の態様において、表現型は、免疫抑制と関連する病態などの、C5aRシグナル伝達の増加によって軽減または寛解する病態である。
【0056】
1つの特定の態様において、表現型は炎症である。炎症は、例えば、関節炎K/BxN哺乳動物の血清を本発明のトランスジェニック哺乳動物に移すことによって誘導され得る。
【0057】
別の態様において、表現型は虚血-再灌流傷害などの炎症性組織障害である。
【0058】
別の態様において、表現型は白血球浸潤である。
【0059】
別の態様において、表現型は喘息である。
【0060】
別の態様において、表現型は、敗血症、脳卒中、または呼吸窮迫症候群である。
【0061】
別の態様において、表現型は以下からなる群より選択される病態である:炎症性またはアレルギー疾患および病態、例えば、呼吸器系アレルギー疾患、例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、間質性肺疾患(ILD)(例えば、特発性肺線維症、または関節リウマチを伴うILD、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、全身性硬化症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、または皮膚筋炎);アナフィラキシーまたは過敏性応答、薬物アレルギー(例えば、ペニシリン、セファロスポリンに対するもの)、虫刺されによるアレルギー;炎症性腸疾患、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎;脊椎関節症;強皮症;乾癬および炎症性皮膚疾患、例えば、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、蕁麻疹;血管炎(例えば、壊死性血管炎、皮膚血管炎、および過敏性血管炎);自己免疫疾患、例えば、関節炎(例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎)、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、若年性糖尿病、糸球体腎炎などの腎炎、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット病;(例えば、移植時の)移植片拒絶、例えば、同種移植拒絶反応または移植片対宿主病;アテローム性動脈硬化;皮膚または臓器の白血球浸潤を有する癌;再潅流傷害、脳卒中、成人呼吸窮迫症候群、ある種の血液悪性腫瘍、サイトカイン誘導型毒性(例えば、敗血症性ショック、内毒素性ショック)、多発性筋炎、皮膚筋炎、類天疱瘡、アルツハイマー病、サルコイドーシスをはじめとする肉芽腫症、AIDSなどの免疫不全症、免疫抑制をもたらす放射線療法、化学療法、自己免疫疾患の療法、または他の薬物療法(例えば、コルチコステロイド療法);ならびに先天性欠損に起因する免疫抑制または重症急性呼吸器症候群(SARS)などの感染症。
【0062】
本明細書において意図する候補化合物の範囲には、C5aR阻害化合物、またはC5aRの生物学的機能の逆アゴニストもしくはアンタゴニストが含まれる。1つの態様において、化合物は以下からなる群より選択される:ペプチド、例えば、C5aR機能を阻害し得る、減少させ得る、または抑制し得る、C5aRもしくはC5aに由来するペプチドまたはその他の非C5aRペプチド、C5aRドミナントネガティブ変異体;C5aRの非ペプチド阻害物質;C5aRに結合してC5aR機能を阻害する抗体または抗体断片;小有機分子、および核酸、例えば、C5aRもしくはC5aに由来するペプチドまたはその他の非C5aRペプチド阻害物質をコードする核酸、C5aRコードmRNAに対するアンチセンス核酸、または抗C5aRリボザイム、またはC5aR遺伝子発現を標的とする低分子干渉RNA(RNAi)。
【0063】
本発明はまた、C5aR活性を調節する化合物を同定する方法であって、
(a) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;および化合物の投与後に少なくとも1つの表現型の発生をモニターする段階
(b) 任意で、候補化合物の構造を決定する段階;ならびに
(c) 候補化合物または候補化合物の名称もしくは構造を提供する段階
を含む方法を提供する。
【0064】
当然のことながら、本発明によって提供されるスクリーニング法によりその機能がこれまでに試験されていないものの周知である薬剤については、化合物の構造の決定は段階(b)に潜在的に含まれている。これは、スクリーニングを行う時点で当業者が化合物の名称および/または構造を認識しているためである。
【0065】
本明細書で用いる「薬剤を提供する」という用語は、薬剤を生成するための任意の化学合成もしくは組換え合成手段、または任意の人もしくは手段によって以前に合成された薬剤の提供を含むと見なされるものとする。
【0066】
本発明の態様において、本方法は、非ヒト動物またはヒトに投与するために、同定された化合物を製剤化する段階をさらに含む。製剤は、皮下、静脈内、鼻腔内、または腹腔内経路による投与に適していてよい。または、製剤は、食物添加物、錠剤、トローチ剤などの形態で経口投与に適していてよい。
【0067】
別の局面において、本発明は、本発明によって同定される化合物を提供する。
【0068】
本発明の様々な特徴および態様は、上記の個々の項に属し、必要に応じて必要な変更を加えて他の項に属した。したがって、必要に応じて、1つの項において特定化した特徴を他の項において特定化した特徴と組み合わせることができる。
【0069】
配列リスト情報
配列番号:1:マウスC5aR(C5r1)遺伝子座および隣接DNAの配列。
配列番号:2:ヒトC5aR cDNAの配列。
配列番号:3:ヒトC5aRのアミノ酸配列。
配列番号:4:プライマーF1C(ヒトC5aRエキソン3に特異的)。
配列番号:5:プライマーR2a(ヒトC5aRエキソン3に特異的)。
配列番号:6:プライマーF3C(マウスC5aR遺伝子に特異的)。
配列番号:7:プライマーR4C(マウスC5aR遺伝子に特異的)。
【0070】
発明の詳細な説明
一般的技法および定義
特記されない限り、本発明で使用する組換えDNA技法は、当業者に周知である標準的な手法である。そのような技法は、J. Perbal, A Practical Guide to Molecular Cloning, John Wiley and Sons (1984)、J. Sambrook et al, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbour Laboratory Press (1989)、T.A. Brown(編者)、Essential Molecular Biology: A Practical Approach, Volumes 1 and 2, IRL Press (1991)、D.M. Glover and B.D. Hames(編者)、DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes 1-4, IRL Press (1995 and 1996)、およびF.M. Ausubel et al(編者)、Current Protocols in Molecular Biology, Greene Pub. Associates and Wiley-Interscience(1988、本発明までの最新版をすべて含む)などの情報源の文献において記載および説明されており、参照により本明細書に組み入れられる。特に、これらの文献は、核酸分子を転写または複製する方法およびそのために必要な適切な条件について詳細に記載している。
【0071】
定義
本明細書において、「含む(comprise)」という用語、または「含む(comprises)」もしくは「含んでいる(comprising)」といった活用形は、規定した要素、整数、もしくは段階、または要素、整数、もしくは段階の群を含むが、他の要素、整数、もしくは段階、または要素、整数、もしくは段階の群を除外しないことを意味すると理解される。
【0072】
本明細書で使用するC5aRタンパク質の「リガンド」とは、哺乳動物のC5aRタンパク質に結合する特定クラスの物質を意味し、それには天然リガンド、ならびに天然リガンドの合成および/または組換え形態が含まれる。好ましい態様において、C5aRタンパク質のリガンド結合は高親和性で起こる。
【0073】
本明細書で使用する「アンタゴニスト」とは、C5aRタンパク質に対するアゴニストまたは逆アゴニストの結合を阻害し、したがってC5aRタンパク質の少なくとも1つの機能特性、例えば、結合活性(例えば、リガンド結合、促進剤結合、抗体結合)、シグナル伝達活性(例えば、哺乳動物Gタンパク質の活性化、サイトゾル遊離カルシウム濃度の迅速かつ一過性上昇の誘導)、および/または細胞応答機能(例えば、走化性の促進、開口分泌、または白血球による炎症性メディエータの放出)を妨げる物質を意味する。アンタゴニストという用語には、受容体と結合する物質(例えば、抗体、天然リガンドの突然変異体、分子量の小さい有機分子、リガンド結合の他の競合阻害物質)、および受容体に結合することなく受容体機能を遮断する物質が含まれる。
【0074】
本明細書で使用する「アゴニスト」とは、C5aRタンパク質の少なくとも1つの機能特性、例えば、結合活性(例えば、リガンド、阻害物質、および/または促進剤の結合)、シグナル伝達活性(例えば、哺乳動物Gタンパク質の活性化、サイトゾル遊離カルシウム濃度の迅速かつ一過性上昇の誘導)、および/または細胞応答機能(例えば、走化性の促進、開口分泌、または白血球による炎症性メディエータの放出)を促進(誘導、誘発、増強、または増大)する物質である。アゴニストという用語には、受容体と結合する物質(例えば抗体、他の種に由来する天然リガンドの相同体)、および受容体に結合することなく(例えば、関連タンパク質を活性化することにより)受容体機能を促進する物質が含まれる。好ましい態様では、アゴニストは天然リガンドの相同体以外のものである。
【0075】
本明細書で使用する「逆アゴニスト」とは、C5aRに結合するかまたは別の方法でC5aRと相互作用し、活性型のC5aRによって開始されるベースラインの細胞内応答をアゴニストの非存在下で観察される活性の正常なベースライン未満に抑制する分子を指す。
【0076】
「トランスジェニック哺乳動物」とは、細胞の一部分内に染色体外エレメントとして存在するか、または生殖細胞系列DNA内(すなわち細胞のほとんどまたはすべてのゲノム配列中)に安定に組み込まれた非内在性(すなわち、異種)核酸を有する哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスターなど)を意味する。異種核酸は、例えば宿主動物の胚または胚性幹細胞を遺伝子操作することによって、そのようなトランスジェニック動物の生殖細胞系列内に導入される。
【0077】
「生物活性のある」または「機能的な」という用語は、本明細書においてヒトC5aRの修飾語句として使用する場合、天然ヒトC5aRに起因する機能特性、例えば、C5a受容体として機能する、またはヒトC5aRの1つもしくは複数の天然リガンドと結合する能力などの少なくとも1つを示すポリペプチドを指す。
【0078】
遺伝子の「ノックアウト」とは、好ましくは標的遺伝子発現が検出不可能またはわずかとなるような標的遺伝子の機能の低下をもたらす、遺伝子配列の変化を意味する。内在性遺伝子のノックアウトとは、遺伝子の機能が実質的に減少し、発現が検出不可能であるかまたはわずかなレベルでしか存在しないことを意味する。「ノックアウト」トランスジェニックは、遺伝子のヘテロ接合性ノックアウトまたは遺伝子のホモ接合性ノックアウトを有するトランスジェニック動物であってよい。「ノックアウト」には、例えば、標的遺伝子変化を促進する物質に動物を曝露した際に、標的遺伝子部位での組換えを促進する酵素(例えば、Cre-lox系におけるCre)を導入した際に、または出生後に標的遺伝子変化を誘導する他の方法で、標的遺伝子の変化が起こる条件的ノックアウトもまた含まれる。
【0079】
標的遺伝子の「ノックイン」とは、例えば、標的遺伝子のさらなるコピーを導入することによって、または標的遺伝子の内在性コピーの発現増強を提供する制御配列を動作可能なように挿入することによって、標的遺伝子の発現変化(例えば、増加(異所性を含む))をもたらす宿主細胞ゲノムの変化を意味する。本発明の関心対象の「ノックイン」トランスジェニックは、ヒトまたはヒト化C5aRのノックインを有するトランスジェニック動物である。そのようなトランスジェニックは、ヒトまたはヒト化C5aR遺伝子のヘテロ接合性ノックインであってもよいし、ヒトまたはヒト化C5aR遺伝子のホモ接合性ノックインであってもよい。「ノックイン」はまた、条件的ノックインを包含する。
【0080】
「構築物」とは、特定のヌクレオチド配列を発現させる目的で作製された、または他の組換えヌクレオチド配列の構築に用いるための組換え核酸、一般に組換えDNAを意味する。
【0081】
「機能的に連結された」とは、適切な分子(例えば転写活性化タンパク質)を制御配列に結合した場合に遺伝子の発現が可能となる方法で、DNA配列と制御配列が結合されることを意味する。
【0082】
「動作可能なように挿入された」とは、関心対象のヌクレオチド配列が、導入された関心対象の核酸配列の転写および翻訳を指示する(すなわち、例えばヒトC5aR配列によってコードされるポリペプチドの産生を促進する)ヌクレオチド配列と隣接して位置することを意味する。
【0083】
「対応する」または「対応の」という用語は、指定の配列と相同である、もしくは実質的に同等である、または機能的に同等であること意味する。
【0084】
「トランスジェニック遺伝子構築物」という用語は、宿主細胞内でポリヌクレオチドが発現され得る様式で機能的に連結された対象ポリヌクレオチド(例えば、ヒトC5aRポリヌクレオチドまたはその断片)を含む核酸分子(例えば、ベクター)を指す。本明細書で使用する「ポリヌクレオチド」という用語は、デオキシリボヌクレオチド核酸(DNA)、および適用できる場合にはリボ核酸(RNA)を包含する。本明細書で使用するこの用語はまた、ヌクレオチド類似体で作製されたRNAまたはDNAの類似体、ならびに記載する態様に適用できる場合には、一本鎖(センスまたはアンチセンス)および二本鎖ポリヌクレオチドを包含する。
【0085】
トランスジェニック動物
トランスジェニック動物を作製する技法は当技術分野において周知である。この主題における有用な一般的教科書は、Houdebine, Transgenic animals - Generation and Use (Harwood Academic, 1997)−魚類からマウスおよびウシに至るトランスジェニック動物を作製するために用いられる技法の広範な総説である。本発明において特に関心が高いのは、ウシ、ブタ、ヤギ、馬など、および特に齧歯動物(例えば、ラット、マウス、ハムスターなど)のようなトランスジェニック非ヒト哺乳動物である。好ましくは、トランスジェニック動物はマウスである。
【0086】
胚の顕微操作についての技術の進歩により、今や異種DNAを例えば哺乳動物の受精卵に導入することが可能となっている。例えば、全能性または多能性幹細胞を微量注入法、リン酸カルシウム沈殿法、リポソーム融合法、レトロウイルス感染法、または他の手段により形質転換し、次いでその形質転換細胞を胚に導入し、その後その胚をトランスジェニック動物に生長させることができる。好ましい方法では、エレクトロポレーションにより発達中の胚に所望のDNAをトランスフェクションし、その感染した胚からトランスジェニック動物が作製される。しかしながら、さらなる好ましい方法においては、適切なDNAを胚の前核または細胞質に、好ましくは単細胞の段階で同時注入し、その胚を成熟したトランスジェニック動物へと生長させる。これらの技法は周知である。哺乳動物の受精卵に異種DNAを微量注入するための標準的な実験手順の総説、例えばHogan et al., Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Press 1986)、Krimpenfort et al., Bio/Technology 9:844 (1991)、Palmiter et al., Cell, 41: 343 (1985)、Kraemer et al., Genetic manipulation of the Mammalian Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press 1985);Hammer et al., Nature, 315: 680 (1985)、Wagner et al.、米国特許第5,175,385号;Krimpenfort et al.、米国特許第5,175,384号を参照されたい。なおこれらのそれぞれの内容は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0087】
トランスジェニック動物を作製するために用いられる別の方法は、標準的な方法によって前核期卵に核酸を微量注入する段階を含む。次いで、注入された卵を培養してから、偽妊娠レシピエントの卵管に移植する。
【0088】
トランスジェニック動物はまた、Schnieke, A.E. et al., 1997, Science, 278: 2130、およびCibelli, J.B. et al., 1998, Science, 280: 1256に記載されているような核移植技術によって作製され得る。この方法により、制御調節下に関心対象の結合ドメインまたは結合パートナーのコード配列を組み入れたプラスミドで、ドナー動物の線維芽細胞が安定にトランスフェクションされる。次いで、安定なトランスフェクタントは除核した卵母細胞と融合され、培養されて、雌レシピエントに移植される。
【0089】
トランスジェニック配列を含んでいる可能性のある動物の解析は典型的に、標準的な方法に従ってPCRまたはサザンブロット解析によって行われる。
【0090】
ウシなどのトランスジェニック哺乳動物を作製する特定の例では、例えば米国特許第4,873,191号に記載されている技法を用いて、GFPに融合された結合ドメインをコードする配列を含むヌクレオチド構築物を、哺乳動物から新たに摘出した卵巣から得られた卵母細胞に微量注入する。卵胞から卵母細胞を吸引して固定し、その後、ヘパリンにより適格化し、パーコール勾配により前分画して運動性画分を単離した凍結精子を融解してこれと受精させる。
【0091】
受精した卵母細胞は、例えば15,000 gで8分間遠心分離して、注入するための前核を視覚化し、次に、卵管組織馴化培地中で接合体から桑実胚または胚盤胞の段階まで培養する。この培地は、卵管から擦り取り、培地中に希釈した管腔組織を用いて調製される。接合体は、微量注入後2時間以内に培地中に入れなければならない。
【0092】
その後、コプロスタノールを投与して、ウシなどの目的とするレシピエント哺乳動物の発情を同期化する。発情は2日以内に起こり、発情から5〜7日後に胚をレシピエントに移植する。移植の成否は、サザンブロットにより子孫において評価し得る。
【0093】
または、所望の構築物を胚性幹細胞(ES細胞)に導入し、その細胞を培養して導入遺伝子による改変を確証することができる。次に、この改変細胞を胞胚期胚に注入し、胞胚を偽妊娠宿主に移す。その結果得られる子孫はES細胞と宿主細胞のキメラであり、従来の交雑によってES子孫のみを含む非キメラ株を得ることができる。この技法は、例えばW0第91/10741号に記載されている。
【0094】
トランスジェニック動物は、染色体外エレメントとして存在するか、または細胞のすべてもしくは一部、特に生殖細胞に安定に組み込まれた外因性核酸配列を含む。トランスジェニック動物は生殖細胞系列配列の安定した変化を含むことが好ましい。安定な変化は一般に、細胞のゲノムにDNAを導入することによって達成される。安定な組込みのためのベクターには、プラスミド、レトロウイルスおよび他の動物ウイルス、YACなどが含まれる。動物の初期の作製では、一部の細胞のみが改変ゲノムを有する「キメラ」または「キメラ動物」が作製される。キメラは主に、所望のトランスジェニック動物を作製するための交配目的で使用される。ヘテロ接合性の改変を有する動物は、キメラの交配によって作製される。ホモ接合性動物を作製するには、典型的に雄および雌のヘテロ接合体を交配させる。
【0095】
好ましい態様において、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、ヒトC5aR導入遺伝子を非ヒト動物の生殖細胞系列に導入することによって作製される。胚性幹細胞(ES)は、相同組換えを起こすようにヒトC5aR導入遺伝子を非ヒト動物に導入するための主要な標的細胞種である。ES細胞はインビトロ培養した着床前胚から取得し、胚と融合することができる(Evans, M. J., et al. (1981) Nature 292, 154-156;Bradley, M. O., et al. (1984) Nature 309, 255-258;Gossler, et al. (1986) Proc. Natl. Acad. Sci U.S.A. 83, 9065-9069;およびRobertson, et al. (1986) Nature 322, 445-448)。導入遺伝子は、DNAトランスフェクションにより、またはレトロウイルス媒介性形質導入により、ES細胞中に効率よく導入することができる。そのような形質転換ES細胞は、その後、非ヒト動物由来の胚盤胞と組み合わせることができる。ES細胞はその後、胚に定着し、得られるキメラ動物の生殖細胞系列に寄与する。総説に関しては、Jaenisch, R. (1988) Science 240, 1468-1474を参照されたい。トランスフェクションされた胚細胞は、インビトロで様々な時間インキュベートすること、もしくは代理宿主に再移植すること、またはその両方が可能である。
【0096】
代理宿主のトランスジェニック子孫は、任意の適切な方法によって導入遺伝子の存在および/または発現に関してスクリーニングすることができる。スクリーニングは、導入遺伝子の少なくとも一部と相補的であるプローブを用いるサザンブロット解析またはノーザンブロット解析によって行なわれる場合が多い。標的遺伝子産物の存在をスクリーニングする別のまたはさらなるスクリーニング方法として、導入遺伝子によってコードされるタンパク質に対する抗体を用いるウェスタンブロット解析を利用することも可能である。典型的には、トランスジェニックマウスの尾部組織からDNAを調製し、これをサザン解析またはPCRにより導入遺伝子について解析する。または、最も高いレベルで導入遺伝子を発現すると考えられる組織または細胞を、サザン解析またはPCRにより導入遺伝子の存在および発現について試験するが、この解析にはいかなる組織または細胞種も用い得る。トランスジェニック動物の子孫は、トランスジェニック動物を適切なパートナーと交配させることにより、またはトランスジェニック動物から得られた卵子および/もしくは精子のインビトロ受精によって得ることができる。
る。
【0097】
内在性遺伝子と導入遺伝子構築物との間の相同組換えによりトランスジェニックマウスを作製する方法は、Hanks, M et al(Science 269: 679-682, 1995)により記載されており、これは参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0098】
ヒトおよびヒト化C5aR構築物
導入されるポリヌクレオチド構築物は、配列番号:3に示す野生型ヒトC5aR配列、またはその対立遺伝子変種、生物活性のある誘導体、もしくは断片をコードし得る。
【0099】
配列番号:3の対立遺伝子変種の非限定的な例は、以下の置換の1つまたは複数を含む:
アミノ酸番号2:Asp>Asn
アミノ酸番号279:Asn>Lys。
【0100】
ポリヌクレオチド構築物は、配列番号:2に示す配列またはその対立遺伝子変種を含む。
【0101】
配列番号:2の対立遺伝子変種の非限定的な例は、以下の塩基変化の1つまたは複数を含む:
塩基番号28:g>a
塩基番号474:c>t
塩基番号861:t>g
塩基番号1313〜1314:aの挿入
塩基番号1447〜1448:aの挿入。
【0102】
ヒトC5aRのアミノ酸配列に関する「生物活性のある誘導体」という用語には、結果として得られるアミノ酸配列がヒトC5aR活性を有する、好ましくは配列番号:3に示すポリペプチドの少なくとも25〜50%の活性、より好ましくは少なくとも実質的に同じ活性を有する限り、配列番号:3に示す配列からまたは配列への1つ(または複数)のアミノ酸の任意の置換、変異、修飾、交換、欠失、または付加が含まれる。好ましくは、ヒトC5aRは、C5aRによるシグナル伝達をもたらすのに十分な領域を含む。
【0103】
したがって、本発明で使用するために、配列番号:3に示すヒトC5aR配列を修飾することができる。典型的に、配列の元の活性を維持する修飾が行われる。よって1つの態様においては、修飾された配列がC5aRシグナル伝達の少なくとも約25〜50%またはC5aRシグナル伝達と実質的に同じシグナル伝達を維持するという条件で、アミノ酸置換、例えば1、2、または3〜10、20、または30個の置換を行うことができる。しかし、別の態様では、配列番号:3のアミノ酸配列に対する修飾は、ポリペプチドの生物活性の減少を意図して行われ得る。
【0104】
一般に、配列番号:3に示される対応する領域と比較して、生物活性のある誘導体のアミノ酸残基の好ましくは20%、10%、または5%未満が改変されている。
【0105】
例えば以下の表に従って、保存的置換を行うことができる。2列目の同じブロック内、好ましくは3列間の同じ行にあるアミノ酸を、相互に置換することができる。

【0106】
本発明の好ましい態様において、C5aRコード配列は、内在性または異種性、構成的または誘導性であってよいプロモーター、および宿主動物における発現に必要な他の制御配列に機能的に連結されている。
【0107】
または、導入構築物はヒト化C5aRをコードし得る。好ましくは、ヒト化C5aR配列は非ヒトC5aRの改変型であり、より好ましくはトランスジェニック哺乳動物に内するC5aR配列の改変型である。ヒト化C5aRでは、改変により、非ヒトC5aRまたは内在性C5aRと比較して、天然ヒトC5aRに特有の少なくとも1つの機能特性が導入または増強される。例えば、非ヒトC5aRがヒトC5aRの特定のリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに結合しない場合、改変によって、得られるヒト化C5aRがそのようなリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに結合できるように、結合特性が変更され得る。または、非ヒトC5aRがヒトC5aRの特定のリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに対して低い結合親和性を示す場合、改変によって、そのようなリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに対する結合親和性が、非ヒトC5aRよりも増強されたヒト化C5aRが得られ得る。1つの好ましい態様では、改変により、ヒトC5aRの1つまたは複数のリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、またはアンタゴニストに対するヒト化C5aRの結合親和性は、非ヒト配列と比較して少なくとも5倍、より好ましくは少なくとも10倍、より好ましくは少なくとも20倍、より好ましくは少なくとも50倍、より好ましくは少なくとも100倍増強される。
【0108】
改変は好ましくは、非ヒトC5aRの少なくとも1つのアミノ酸の、ヒトC5aRの対応するアミノ酸による置換を含む。より好ましくは、改変は、非ヒトC5aRの少なくとも2アミノ酸、より好ましくは少なくとも5アミノ酸、より好ましくは少なくとも10アミノ酸、より好ましくは少なくとも20アミノ酸の、ヒトC5aRの対応するアミノ酸による置換を含む。
【0109】
好ましくは、改変は、非ヒトC5aRの少なくとも1つのドメインまたはその実質的部分を、ヒトC5aRの対応するドメインまたはその実質的部分と置換する段階を含む。例えば、改変は、内在性C5aRの少なくとも1つの細胞外ドメインを、対応のヒトC5aR細胞外ドメインと置換する段階を含む。したがってヒト化C5aRは、ヒトC5aRの少なくとも1つの細胞外ドメインを含み得る。一例では、ヒト化C5aRは、内在性C5aRの細胞内ドメインおよびヒトC5aRの細胞外ドメインを含む。
【0110】
ヒト化C5aRに導入され得るヒトC5aRの様々なドメインを表1に記載する。
【0111】
(表1)
アミノ酸1〜37 細胞外ドメイン−N末端
アミノ酸38〜60 膜貫通ドメイン
アミノ酸61〜71 細胞内ドメイン
アミノ酸72〜94 膜貫通ドメイン
アミノ酸95〜110 細胞外ドメイン−細胞外ループ1
アミノ酸111〜132 膜貫通ドメイン
アミノ酸133〜153 細胞内ドメイン
アミノ酸154〜174 膜貫通ドメイン
アミノ酸175〜200 細胞外ドメイン−細胞外ループ2
アミノ酸201〜226 膜貫通ドメイン
アミノ酸227〜242 細胞内ドメイン
アミノ酸243〜265 膜貫通ドメイン
アミノ酸266〜282 細胞外ドメイン−細胞外ループ3
アミノ酸283〜303 膜貫通ドメイン
アミノ酸304〜350 細胞内ドメイン−C末端
【0112】
本発明で使用するための構築物には、ヒトまたはヒト化C5aRコード配列の所望のレベルの発現を有するトランスジェニック動物の作製において使用するのに適した任意の構築物が含まれる。これらの構築物は、cDNA、ゲノム配列、またはその両方を含み得る。所望の配列を単離およびクローニングする方法、ならびに宿主動物において選択された配列を発現させるのに適した構築物は、当技術分野において周知である。構築物は、C5aRコード配列以外の配列も含み得る。例えば、、コードされる配列の発現の上方制御により表現型の変化が容易に検出される、lac Zなどのマーカー遺伝子を構築物中に含めることができる。
【0113】
「C5aR遺伝子」という用語は、一般に、ヒトC5aR遺伝子、およびこのヒト遺伝子のアイソフォーム、変化形態、スプライス変種、変異変種などを意味するために用いられる。この用語はまた、特定のポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム、イントロン、ならびにコード領域を越えて最大約1 kbの範囲にわたるがさらに両方向に及ぶ可能性もある、発現の制御に関与する隣接5'および3'非コードヌクレオチド配列を意味することが意図される。C5aRをコードするDNA配列は、cDNAでもゲノムDNAでもよく、それらの断片でもよい。遺伝子は、染色体外での維持または宿主内への組込みのための適切なベクター中に導入することができる。
【0114】
特に関心のあるゲノム配列は、天然染色体中に通常存在するイントロンのすべてを含む、開始コドンから終止コドンの間に存在する核酸を含む。これはさらに、成熟mRNAに認められる3'および5'非翻訳領域を含み得る。これはさらに、転写領域の5'または3'末端に位置する約1 kbであるがさらに長い可能性もある隣接ゲノムDNAを含む、プロモーター、エンハンサーなどの特定の転写および翻訳制御配列を含み得る。ゲノムDNAは、100 kbまたはより小さな断片として、隣接染色体配列を実質的に含まずに単離することができる。
【0115】
ヒトC5aR遺伝子の5'領域の配列、ならびにさらなる5'上流配列および3'下流配列は、C5aRが通常発現されている組織における発現を提供する、エンハンサー結合部位を含むプロモーターエレメントとして用いることができる。組織特異的発現は、天然の発現パターンを模倣するプロモーターを提供するのに役立つ。プロモーター領域において天然に見られる多型は、発現の自然な変化、特に疾患に付随し得る変化を決定するのに有用である。または、確立された実験的系で発現変化の影響を明らかにするために、プロモーター領域内に変異を導入することもできる。転写因子の結合に関与する特定のDNAモチーフを同定するための方法は当技術分野で周知であり、例えば既知の結合モチーフとの配列類似性、ゲル遅延度試験などがある。例えば、Blackwell et al. (1995) Mol Med 1:194-205;Mortlock et al. (1996) Genome Res. 6:327-33;およびJoulin and Richard-Foy (1995) Eur J Biochem 232:620-626を参照されたい。
【0116】
1つの態様において、本発明において使用するのに適したベクターは、ヒトC5aRをコードする核酸配列に機能的に連結された少なくとも1つの発現調節エレメントを含み得る。発現調節エレメントは、核酸配列の発現を調節および制御するためにベクター中に挿入され得る。発現調節エレメントの例には、lacシステム、ファージλのオペレーターおよびプロモーター領域、酵母プロモーター、ならびにポリオーマ、アデノウイルス、レトロウイルス、またはSV40に由来するプロモーターが含まれるが、これらに限定されるわけではない。ベクターは付加的な操作性エレメントをさらに含み得るが、これにはリーダー配列、終止コドン、ポリアデニル化シグナル、ならびにヒトC5aRをコードする核酸配列の適切な転写および/もしくは翻訳に必要なまたは好ましい任意の他の配列が含まれるが、これらに限定されるわけではない。
【0117】
さらなる好ましい態様において、構築物は、非ヒト哺乳動物の内在性C5aRコード配列に隣接する3'および5'配列に相同な領域を含む。これらの相同性領域は、構築物をトランスジェニック哺乳動物の内在性C5aR遺伝子座に標的組込みするために有用であることが理解されると考えられる。
【0118】
好ましくは、ポリヌクレオチド構築物は、内在性C5aR遺伝子のエキソン3の少なくとも2 kb、より好ましくは約3 kb上流および下流に相同的な領域を含む。例えば、上流および下流配列は、配列番号:1のヌクレオチド7377〜15045の配列に由来し得る。
【0119】
このようなベクターは、従来の方法(例えば、Sambrook et al., (eds.) (1989) 「Molecular Cloning, A Laboratory Manual」 Cold Spring Harbor Press, Plainview, N.Y.;Ausubel et al., (eds.) (1987) 「Current Protocols in Molecular Biology」 John Wiley and Sons, New York, N.Y.を参照のこと)を用いて構築されるか、または市販されていることが、当業者によってさらに理解されると考えられる。
【0120】
いくつかの態様においては、ヒトの天然の発現パターンを模倣する組織中でヒトC5aRを発現させることが好ましいと考えられる。特異的な発現パターンは、ヒトC5aRをコードしている核酸を、誘導プロモーターもしくは発生的に制御されるプロモーターの調節下、または組織特異的もしくは細胞種特異的なプロモーターの調節下に配置することで達成され得る。例として、特異的な発現パターンは、ヒトC5aRのゲノム配列を使用することで達成され得る。
【0121】
クローン化された遺伝子のインビトロ突然変異誘発技法は周知である。変異を調査するための手順の例は、Gustin et al., 1993 Biotechniques 14:22;Barany, 1985 Gene 37:111-23;Colicelli et al., 1985 Mol Gen Genet 199:537-9;およびPrentki et al., 1984 Gene 29:303-13に見出すことができる。部位特異的突然変異誘発の方法は、Sambrook et al., 1989 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, CSH Press, pp. 15.3-15.108;Weiner et al., 1993 Gene 126:35-41;Sayers et al., 1992 Biotechniques 13:592-6;Jones and Winistorfer, 1992 Biotechniques 12:528-30;Barton et al., 1990 Nucleic Acids Res 18:7349-55;Marotti and Tomich, 1989 Gene Anal Tech 6:67-70;およびZhu 1989 Anal Biochem 177:120-4に見出すことができる。
【0122】
「ノックアウト」および「ノックイン」
本発明の操作性には必要ではないが、本明細書に記載するトランスジェニック動物は、上記の遺伝子変化に加えて内在性遺伝子の変化も含み得る。例えば、宿主動物は、本発明の目的と一致するような、標的遺伝子に関する「ノックアウト」および/または「ノックイン」であってよい(例えば、宿主動物の内在性C5aRが「ノックアウト」されてもよいし、および/またはヒトC5aRが「ノックイン」されてもよい)。ノックアウトは、関心対象の内在性遺伝子(例えば、C5aR)の一方または両方の対立遺伝子における機能の部分的または完全な喪失を有する。ノックインは、内在性遺伝子とは異なる遺伝子配列および/または機能を有する導入遺伝子が導入されている。この2つは、例えば、天然に存在する遺伝子が機能を失い、異なる形態の遺伝子が導入されるというように組み合わせることが可能である。例えば、宿主動物の内在性C5aR遺伝子をノックアウトし、ヒトC5aR遺伝子を導入することが好ましい。
【0123】
ノックアウトでは、好ましくは標的遺伝子の発現は検出不可能であるか、またはわずかである。例えば、C5aR遺伝子のノックアウトとは、C5aR遺伝子の機能が実質的に減少し、発現が検出不可能であるかまたはわずかなレベルでしか存在しないことを意味する。これは、コード配列の破壊、例えば1つまたは複数の終止コドンの導入、DNA断片の挿入など、コード配列の欠失、コード配列と終止コドンのの置換などを含む、様々な機構によって達成され得る。場合によっては、外因性導入遺伝子の配列が最終的にゲノムから削除されて、天然配列に対して正味の変化が残存する。「ノックアウト」を達成するには、別のアプローチを用いてもよい。非コード領域、特にプロモーター領域、3'側の制御配列、エンハンサーの欠失、またはC5aRの発現を活性化する遺伝子の欠失を含む、天然遺伝子のすべてまたは一部の染色体欠失を誘導することができる。機能的ノックアウトは、天然遺伝子の発現を遮断するアンチセンス構築物の導入によって達成することも可能である(例えば、Li and Cohen (1996) Cell 85:319-329)。「ノックアウト」には、例えば、標的遺伝子変化を促進する物質に動物を曝露した際に、標的遺伝子部位での組換えを促進する酵素(例えば、Cre-lox系におけるCre)を導入した際に、または出生後に標的遺伝子変化を誘導する他の方法で、標的遺伝子の変化が起こる条件的ノックアウトもまた含まれる。
【0124】
標的遺伝子の「ノックイン」とは、天然標的遺伝子の発現または機能の変化をもたらす宿主細胞ゲノムの変化を意味する。発現の増加(異所性を含む)または減少は、標的遺伝子のさらなるコピーを導入することによって、または標的遺伝子の内在性コピーの発現増強を提供する制御配列を動作可能なように挿入することによって達成され得る。これらの変化は構成的な変化であってもよいし、または条件的な変化であってもよく、すなわち活性化因子もしくは抑制因子の存在に依存し得る。
【0125】
C5aRのリガンド、アゴニスト、逆アゴニスト、および/またはアンタゴニストの同定および/または評価
本トランスジェニック動物またはそれに由来する細胞を使用することで、C5aRシグナル伝達に関連した現象を調節するリガンドまたは基質を同定することができる。特定のアッセイ法に応じて、本発明のトランスジェニック動物全体を使用することもできるし、それに由来する組織、臓器、または細胞を使用することもできる。細胞はトランスジェニック動物から新たに単離してもよいし、または培養において不死化してもよい。特に関心がもたれる細胞は、平滑筋、内皮、収縮筋、または心臓である。
【0126】
本明細書で使用する「化合物」という用語は、C5aRシグナル伝達に関連する分子的現象および臨床的現象を妨げるまたは抑制する能力を有する、例えば、タンパク質、小分子、ポリヌクレオチド、または医薬品といった任意の分子を指す。
【0127】
候補化合物には多数の化学的分類が含まれるが、好ましい態様において、それらは有機分子、好ましくは50を上回り約2,500ダルトン未満の分子量を有する低分子有機化合物である。候補化合物は好ましくは、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、典型的には少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、好ましくはこれらの官能化学基の少なくとも2つを含む。候補薬剤は、上記の官能基の1つまたは複数で置換された、環状炭素もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含む場合が多い。候補化合物はまた、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、それらの誘導体、構造類似体、または組み合わせを含むが、これらに限定されない生体分子からも見出される。
【0128】
候補化合物は、合成または天然化合物のライブラリーを含む、幅広い種類の供給源から入手し得る。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダム合成および指向性合成には、ランダム化オリゴヌクレオチドおよびオリゴペプチドの発現を含む多数の手段を利用することができる。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーが入手可能であり、または容易に作製される。さらに、天然のまたは合成的に作製されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的、物理的、および生化学的手段によって容易に修飾され、コンビナトリアルライブラリーを作製するために用いることができる。既知の薬理作用物質をアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向性またはランダムな化学修飾に供して、構造類似体を作製することも可能である。
【0129】
既知の薬理活性化合物およびその化学的類似体に対して、スクリーニングを行うことができる。
【0130】
所望の結果を得るために、薬剤を送達するのに望ましいおよび/または適切な任意の方法で、候補薬剤を本発明のトランスジェニック哺乳動物(または、トランスジェニック哺乳動物に由来する細胞)に投与することができる。例えば、候補薬剤は、注射(例えば、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、または所望の効果が達成されるべき組織への直接的注射により)、経口、または任意の他の望ましい手段によって投与することができる。好ましくは、インビボスクリーニングは、候補化合物の量および濃度を変えて(化合物を含有しないものから、動物への送達を成功させることができる上限量に到達する化合物の量まで)数多くの動物に投与することを伴い、また異なる剤形の薬剤の送達も含み得る。化合物は単独で投与してもよいし、特に薬剤の併用投与が相乗効果を生じる場合には、2種以上を組み合わせて併用してもよい。薬剤投与がトランスジェニック齧歯類動物に与える影響は、従来の方法によってモニターすることができる。
【0131】
本明細書において意図する候補化合物の範囲には、C5aR阻害化合物、またはC5aRの生物学的機能のアンタゴニストが含まれる。1つの態様において、化合物は以下からなる群より選択される:ペプチド、例えば、C5aR機能を阻害し得る、減少させ得る、または抑制し得る、C5aRもしくはC5aに由来するペプチドまたはその他の非C5aRペプチド、C5aRドミナントネガティブ変異体;C5aRの非ペプチド阻害物質;C5aRに結合してC5aR機能を阻害する抗体または抗体断片;小有機分子、および核酸、例えばC5aRもしくはC5aに由来するペプチドまたはその他の非C5aRペプチド阻害物質をコードする核酸、C5aRコードmRNAに対するアンチセンス核酸、または抗C5aRリボザイム、またはC5aR遺伝子発現を標的とする低分子干渉RNA(RNAi)。多くのこれらの種類の化合物について以下に論じる。
【0132】
小分子
候補化合物には多数の化学的分類が含まれるが、好ましくは、それらは有機分子、好ましくは100を上回り約2,500ダルトン未満の分子量を有する低分子有機化合物である。候補化合物は、タンパク質との構造的相互作用、特に水素結合に必要な官能基を含み、典型的には少なくとも1つのアミン基、カルボニル基、ヒドロキシル基、またはカルボキシル基、好ましくはこれらの官能化学基の少なくとも2つを含む。候補化合物は、上記の官能基の1つまたは複数で置換された、環状炭素もしくは複素環式構造および/または芳香族もしくは多環芳香族構造を含む場合が多い。候補化合物はまた、ペプチド、糖類、脂肪酸、ステロイド、プリン、ピリミジン、およびそれらの誘導体、構造類似体、または組み合わせを含む生体分子からも見出される。実際に、関心対象の生物学的標的分子に結合し得る可能性のある実質的にいかなる小有機分子も、生物学標的分子に結合する能力について試験するための水溶液中で十分に可溶性ありかつ安定であるならば、本発明において役立つ可能性がある。
【0133】
候補化合物は、合成または天然化合物のライブラリーを含む、幅広い種類の供給源から得られる。例えば、多種多様な有機化合物および生体分子のランダム合成および指向性合成には、ランダム化オリゴヌクレオチドの発現を含む多数の手段を利用することができる。または、細菌、真菌、植物、および動物抽出物の形態の天然化合物のライブラリーが入手可能であり、または容易に作製される。さらに、天然のまたは合成的に作製されたライブラリーおよび化合物は、従来の化学的、物理的、および生化学的手段によって容易に修飾される。既知の薬理作用化合物をアシル化、アルキル化、エステル化、アミド化などの指向性またはランダムな化学修飾に供して、構造類似体を作製することも可能である。
【0134】
タンパク質またはペプチド阻害物質
別の態様において、候補化合物はタンパク質である。本明細書における「タンパク質」とは、共有結合で結合している少なくとも2つのアミノ酸を意味し、これにはタンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、およびペプチドが含まれる。タンパク質は天然アミノ酸およびペプチド結合で構成されている場合もあれば、合成のペプチド模倣構造からなる場合もある。したがって、本明細書で使用する「アミノ酸」または「ペプチド残基」という用語は、天然アミノ酸および合成アミノ酸の両方を意味する。例えば、ホモフェニルアラニン、シトルリン、およびノルロイシンは本発明ではアミノ酸と見なされる。「アミノ酸」には、プロリンおよびヒドロキシプロリンなどのイミノ酸残基もまた含まれる。側鎖は、(R)配置であっても(S)配置であってもよい。好ましい態様において、アミノ酸は(S)または(L)配置である。天然には存在しない側鎖を用いる場合は、例えばインビボ分解を防止または遅延させるために非アミノ酸置換基を用いることができる。
【0135】
さらなる好ましい態様において、候補化合物は天然タンパク質または天然タンパク質の断片である。したがって、例えば、タンパク質を含む細胞抽出物、またはタンパク質性細胞抽出物のランダムなもしくは指向性消化物を使用することができる。このようにして、原核生物および真核生物タンパク質のライブラリーを作製することができる。この態様で特に好ましいのは、細菌、真菌、ウイルス、および哺乳動物タンパク質のライブラリーであり、哺乳動物タンパク質が好ましく、ヒトタンパク質が特に好ましい。
【0136】
さらなる好ましい態様において、候補化合物は約5〜約30アミノ酸長のペプチドであり、約5〜約20アミノ酸のペプチドが好ましく、約7〜約15アミノ酸のペプチドが特に好ましい。ペプチドは、天然タンパク質の消化物であっても、ランダムペプチドであっても、「偏った」ランダムペプチドであってもよい。本明細書における「ランダム化された」という用語または文法的に相当する用語は、各ペプチドが本質的にランダムなアミノ酸からなることを意味する。一般に、これらのランダムペプチドは化学的に合成されるため、ランダムペプチドは任意アミノ酸を任意の位置に含み得る。配列の長さにわたって可能な組み合わせのすべてまたはほとんどが形成され得るように合成工程を設計してランダムタンパク質を作製し、ランダム化候補生物活性タンパク質性化合物のライブラリーを形成することができる。
【0137】
コンビナトリアル化学ライブラリーの調製法およびスクリーニング法は、当業者には周知である。そのようなコンビナトリアル化学ライブラリーには、ペプチドライブラリー(例えば、米国特許第5,010,175号、Furka (1991) Int. J. Pept. Prot. Res., 37: 487-493、Houghton et al. (1991) Nature, 354: 84-88を参照のこと)が含まれるが、これに限定されるわけではない。ペプチド合成は、決して本発明による使用に想定および意図される唯一のアプローチではない。化学多様性ライブラリーを作製する他の化学もまた使用可能である。そのような化学には:ペプトイド(国際公開公報第91/19735号、1991年12月26日)、コードされるペプチド(国際公開公報第93/20242号、1993年10月14日)、ランダムバイオオリゴマー(国際公開公報第92/00091号、1992年1月9日)、ベンゾジアゼピン(米国特許第5,288,514号)、ヒダントイン、ベンゾジアゼピン、およびジペプチドなどのダイバーソマー(diversomer)(Hobbs et al., (1993) Proc. Nat. Acad. Sci. USA 90: 6909-6913)、ビニル性ポリペプチド(Hagihara et al. (1992) J. Amer. Chem. Soc. 114: 6568)、βDグルコース骨格を有する非ペプチド性ペプチド模倣体(Hirschmann et al., (1992) J. Amer. Chem. Soc. 114: 92179218)、小化合物ライブラリーの類似有機合成(Chen et al. (1994) J. Amer. Chem. Soc. 116: 2661)、オリゴカルバミン酸(Cho et al., (1993) Science 261:1303)、および/またはペプチジルホスホン酸(Campbell et al., (1994) J. Org. Chem. 59: 658)が含まれるが、これらに限定されない。一般的には、Gordon et al., (1994) J. Med. Chem. 37:1385、核酸ライブラリー、ペプチド核酸ライブラリー(例えば、米国特許第5,539,083号を参照のこと)、抗体ライブラリー(例えば、Vaughn et al. (1996) Nature Biotechnology, 14(3): 309-314、およびPCT/US96/10287号を参照のこと)、炭水化物ライブラリー(例えば、Liang et al. (1996) Science, 274: 1520-1522、および米国特許第5,593,853号を参照のこと)、および小有機分子ライブラリー(例えば、ベンゾジアゼピン、Baum (1993) C&EN, Jan 18, page 33、イソプレノイド、米国特許第5,569,588号、チアゾリジノンおよびメタチアザノン、米国特許第5,549,974号、ピロリジン、米国特許第5,525,735号および第5,519134号、モルフォリノ化合物、米国特許第5,506,337号、ベンゾジアゼピン、米国特許第5,288,514号などを参照のこと)を参照されたい。
【0138】
コンビナトリアルライブラリーを調製するための装置は市販されている(例えば、357 MPS, 390 MPS, Advanced Chem Tech、ケンタッキー州、ルイビル、Symphony, Rainin、マサチューセッツ州、ウォバーン、433A Applied Biosystems、カリフォルニア州、フォスターシティー、9050 Plus, Millipore、マサチューセッツ州、ベッドフォードを参照のこと)。
【0139】
1つの態様においては、ペプチジルC5aR阻害物質が、C5aRまたはC5a配列に由来するオリゴペプチド(通常、10〜25アミノ酸長)として化学的にまたは組換えにより合成される。または、C5aRまたはC5a断片は、天然のまたは組換えによって産生されたC5aRまたはC5aを、例えばトリプシン、サーモリシン、キモトリプシン、またはペプシンなどのプロテアーゼを使用して消化することにより生成される。コンピュータ解析(市販のソフトウェア、例えばMacVector、Omega、PCGene、Molecular Simulation, Inc.を使用する)により、タンパク質切断部位が同定される。タンパク質分解断片または合成断片は、C5aR機能を部分的にまたは完全に阻害するのに必要な数のアミノ酸残基を含み得る。好ましい断片は、少なくとも5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100、またはそれ以上のアミノ酸長を含む。
【0140】
タンパク質またはペプチド阻害物質はまた、C5aRのドミナントネガティブ変異体であってよい。「ドミナントネガティブ変異体」という用語は、その天然状態から変異されており、C5aRが通常相互作用するタンパク質と相互作用し、それによって内在性の天然C5aRが相互作用を形成できないようにするC5aRポリペプチドを指す。
【0141】
抗C5aR抗体
本発明で使用する「抗体」という用語には、完全な分子ならびその断片、例えば、C5aRのエピトープ決定基と結合し得るFab、F(ab')2、およびFvなどが含まれる。これらの抗体断片は、その抗原と選択的に結合するいくらかの能力を保持し、以下のように定義される:
(1) Fab、抗体分子の1価の抗原結合断片を含むこの断片は、酵素パパインにより抗体全体を消化して、完全な軽鎖1本および1本の重鎖の一部を生じることによって生成され得る;
(2) Fab'、抗体分子のこの断片は、ペプシンで抗体全体を処理し、続いて還元し、完全な軽鎖1本および重鎖の一部を生じることによって得られ得る;抗体一分子当たり2つのFab'断片が得られる;
(3) F(ab')2、抗体のこの断片は、酵素ペプシンで抗体全体を処理し、その後還元を行わないことにより得られ得る。F(ab')2は、2つのジスルフィド結合によって互いに結合された2つのFab'断片の二量体である;
(4) Fv、2本の鎖として発現される軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子組換え断片として定義される;および
(5) 一本鎖抗体(「SCA」)、遺伝子的に融合された一本鎖分子としての、適切なポリペプチドリンカーによって結合された軽鎖の可変領域および重鎖の可変領域を含む遺伝子組換え分子として定義される。
【0142】
これらの断片を作製する方法は当技術分野において周知である。(例えば、参照により本明細書に組み入れられる、Harlow and Lane, Antibodies: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1988)を参照されたい)。
【0143】
本発明の抗体は、完全なC5aRまたはその断片を免疫抗原として用いることで調製し得る。動物を免疫するために用いられるペプチドは、cDNAの翻訳または化学合成由来であってよく、必要に応じて精製し、担体タンパク質に結合させる。ペプチドに化学的に結合される一般に用いられるそのような担体としては、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、チログロブリン、ウシ血清アルブミン(BSA)、および破傷風トキソイドが挙げられる。次いで、この結合ペプチドを用いて動物(例えば、マウスまたはウサギ)を免疫することができる。
【0144】
必要に応じて、例えば、抗体を産生させたペプチドを結合した基質に結合させ、そこから溶出することにより、ポリクローナル抗体をさらに精製することができる。当業者は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の精製および/または濃縮に関する、免疫学分野において一般的な種々の技法について周知であると考えられる(例えば、参照により組み入れられる、Coligan,et al., Unit 9, Current Protocols in Immunology, Wiley Interscience, 1991を参照されたい)。
【0145】
モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法、およびEBVハイブリドーマ技法などの、培養下の連続継代性細胞系による抗体分子の産生を提供する任意の技法を用いて調製することができる(Kohler et al. Nature 256, 495-497, 1975;Kozbor et al., J. Immunol.Methods 81, 31-42, 1985;Cote et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 80, 2026-2030, 1983;Cole et al., Mol. Cell Biol. 62, 109-120, 1984)。
【0146】
当技術分野で周知の方法により、C5aRに対する結合を示す抗体を、抗体発現ライブラリーから同定および単離することができる。例えば、C5aRに対する結合を示す抗体結合ドメインを同定および単離する方法は、バクテリオファージベクター系である。このベクター系は、大腸菌(Escherichia coli)においてマウス抗体レパートリー由来の(Huse, et al., Science, 246:1275-1281, 1989)、およびヒト抗体レパートリー由来の(Mullinax, et al., Proc. Nat. Acad. Sci., 87:8095-8099, 1990)Fab断片のコンビナトリアルライブラリーを発現させるために用いられている。この方法はまた、予め選択したリガンドに対して結合性を有するモノクローナル抗体を発現するハイブリドーマ細胞株にも適用することができる。所望のモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマは、当業者によって十分に理解されている技法を用いて種々の方法で作製することができるが、本明細書では繰り返さない。これらの技法の詳細は、参照により組み入れられる、Monoclonal Antibodies-Hybridomas: A New Dimension in Biological Analysis, Edited by Roger H. Kennett, et al., Plenum Press, 1980;および米国特許第4,172,124号などの参考文献に記載されている。
【0147】
さらに、キメラまたは「ヒト化」抗体を作製する方法は当技術分野において周知であり、これはマウス可変領域とヒト定常領域を組み合わせる段階を含むか(Cabily, et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:3273, 1984)、またはヒトフレームワークにマウス抗体相補性決定領域(CDR)を移植することによる(Riechmann, et al., Nature 332:323, 1988)。
【0148】
アンチセンス化合物
「アンチセンス化合物」という用語は、標的mRNA分子の少なくとも一部に相補的であり(Izant and Weintraub, 1984;Izant and Weintraub, 1985)、mRNA翻訳などの転写後事象を妨げ得るDNAまたはRNA分子を包含する。標的コードmRNAの少なくとも約15個の連続したヌクレオチドに相補的なアンチセンスオリゴマーが、容易に合成され、標的mRNA産生細胞に導入した際により大きな分子よりも問題を生じる可能性が低い点から好ましい。アンチセンス方法の使用は当技術分野において周知である(Marcus-Sakura, 1988)。
【0149】
触媒RNA分子
触媒RNAとは、異なる基質を特異的に認識し、この基質の化学修飾を触媒するRNAまたはRNA含有分子を指す(「リボザイム」としても知られる)。触媒核酸中の核酸塩基は、塩基A、C、G、T、およびU、ならびにこれらの誘導体であってよい。これらの塩基の誘導体は当技術分野において周知である。
【0150】
典型的に触媒核酸は、標的核酸を特異的に認識するためのアンチセンス配列、および核酸切断酵素活性(本明細書では「触媒ドメイン」とも称する)を含む。
【0151】
本発明において特に有用であるリボザイムの種類は、ハンマーヘッドリボザイム(Haseloff and Gerlach 1988, Perriman et al, 1992)およびヘアピンリボザイム(Shippy et al, 1999)である。
【0152】
本発明で用いられるリボザイムは、当技術分野において周知である方法を用いて化学的に合成することができる。リボザイムはまた、RNAポリメラーゼプロモーター、例えばT7 RNAポリメラーゼまたはSP6 RNAポリメラーゼのプロモーターに機能的に連結されたDNA分子(転写に際してRNA分子を産生する)から調製することもできる。同様にベクターがDNA分子に機能的に連結されたRNAポリメラーゼプロモーターを含む場合にも、RNAポリメラーゼおよびヌクレオチドと共にインキュベートすることで、インビトロにおいてリボザイムが調製され得る。別の態様では、DNAを発現カセットまたは転写カセットに挿入することができる。
【0153】
dsRNA
dsRNAは、特定のタンパク質の産生を特異的に阻害するのに特に有用である。理論に縛られることは望まないが、Dougherty and Parks (1995)は、dsRNAを用いてタンパク質の産生を減少させ得る機構のモデルを提供している。このモデルは、Waterhouse et al (1998)によって改良および拡張された。この技術は、関心対象の遺伝子のmRNAと本質的に同一である配列を含むdsRNA分子の存在に依存する。都合のよいことに、dsRNAは組換えベクターまたは宿主細胞内の単一オープンリーディングフレームで産生させることができ、このオープンリーディングフレームでは、センス配列およびアンチセンス配列に非関連配列が隣接しており、これによってセンスおよびアンチセンス配列がハイブリダイズして、非関連配列がループ構造を形成したdsRNA分子を形成することが可能になる。関心対象の遺伝子を標的とする適切なdsRNA分子の設計および作製は、特にDougherty and Parks (1995)、Waterhouse et al (1998)、WO第99/32619号、WO第99/53050号、WO第99/49029号、およびWO第01/34815号を考慮すれば、十分に当業者の能力の範囲内である。
【0154】
本明細書で使用する「低分子干渉RNA」および「RNAi」という用語は、遺伝子産物を特異的に標的し、その結果ヌル表現型または低形質表現型を生じる相同的な二本鎖RNA(dsRNA)を指す。具体的には、dsRNAは、アニールして、おそらくは転写後レベルで標的遺伝子の発現を妨げ得るような、標的RNAに由来し、かつ自己相補性を有する2つのヌクレオチド配列を含む。RNAi分子についてはFire et al (1998)によって記載されており、Sharp (1999)によって概説されている。
【0155】
C5aRシグナル伝達と関連する表現型
本発明の方法では、推定化合物をトランスジェニック動物に投与し、推定化合物に対するトランスジェニックの反応を測定する。好ましくは、トランスジェニック哺乳動物の反応を「正常」または野生型マウスと比較するか、または(化合物を投与していない)トランスジェニック動物対照と比較する。
【0156】
したがって、本発明の1つの局面では、C5aR活性を調節する化合物を同定する方法であって、(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物に候補化合物を投与する段階;および(ii) 化合物の投与後にその表現型の発生をモニターする段階を含む方法を提供する。
【0157】
モニターする表現型は、以下を含むC5aRシグナル伝達の任意の指標であってよい:
(a) 炎症性またはアレルギー疾患および病態、例えば、呼吸器系アレルギー疾患、例えば、喘息、アレルギー性鼻炎、過敏性肺疾患、過敏性肺炎、間質性肺疾患(ILD)(例えば、特発性肺線維症、または関節リウマチを伴うILD、全身性エリテマトーデス、強直性脊椎炎、全身性硬化症、シェーグレン症候群、多発性筋炎、または皮膚筋炎);アナフィラキシーまたは過敏性応答、薬物アレルギー(例えば、ペニシリン、セファロスポリンに対するもの)、虫刺されによるアレルギー;炎症性腸疾患、例えばクローン病および潰瘍性大腸炎;脊椎関節症;強皮症;乾癬および炎症性皮膚疾患、例えば、皮膚炎、湿疹、アトピー性皮膚炎、アレルギー性接触皮膚炎、蕁麻疹;血管炎(例えば、壊死性血管炎、皮膚血管炎、および過敏性血管炎);
(b) 自己免疫疾患、例えば、関節炎(例えば、関節リウマチ、乾癬性関節炎)、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、重症筋無力症、若年性糖尿病、糸球体腎炎などの腎炎、自己免疫性甲状腺炎、ベーチェット病;
(c) (例えば、移植時の)移植片拒絶、例えば、同種移植拒絶反応または移植片対宿主病;
(d) アテローム性動脈硬化;
(e) 皮膚または臓器の白血球浸潤を有する癌;
(f) 抑制すべき望ましくない炎症反応が処置され得る疾患または病態(C5aRを媒介する疾患または病態を含む)、これらに限定されるわけではないが、例えば、再潅流傷害、脳卒中、成人呼吸窮迫症候群、ある種の血液悪性腫瘍、サイトカイン誘導型毒性(例えば、敗血症性ショック、内毒素性ショック)、多発性筋炎、皮膚筋炎、類天疱瘡、アルツハイマー病、およびサルコイドーシスをはじめとする肉芽腫症。
【0158】
他の表現型には、免疫抑制、例えば、AIDSなどの免疫不全症を有する個体、免疫抑制をもたらす放射線療法、化学療法、自己免疫疾患の療法、または他の薬物療法(例えば、コルチコステロイド療法)を受けている個体に見られるような免疫抑制;および受容体機能の先天性欠損または他の原因による免疫抑制が含まれる。
【0159】
数多くの炎症インビボモデルが利用でき、これを用いて本発明のトランスジェニック哺乳動物において適切なC5aR関連表現型を誘導することができる。例えば、コラーゲン誘導関節炎(Trentham et al (1977) J Exp Med 146: 867-868)、K/BxN血清誘導関節炎(Kouskoff et al (1996) Cell 87:811-822)、抗原誘導関節炎、またはアジュバント誘導関節炎(Pearson CM (1956) Proc Soc. Expe Biblo Med 91:95-101)の動物(例えばマウス)モデルを用いて、関節リウマチを評価することができる。
【0160】
適切な動物モデルのさらなる例には以下が含まれる:敗血症の盲腸結紮穿刺(CLP)モデル(Huber-Lang, M. S., et al. (2002) Faseb J 16(12): 1567-74);RAのラットモデル(Woodruff, T. M., et al. (2002) Arthritis Rheum 46(9): 2476-85);敗血症のブタモデル(Mohr, M., et al. (1998) Eur J Clin Invest 28(3): 227-34);免疫複合体誘発性肺疾患;膵炎関連肺障害(Bhatia, M. et al. (2001) Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 280(5): G974-8);急性肺障害;腎虚血-再灌流傷害;コラーゲン誘導関節炎;および実験的気道疾患(喘息様モデル)。
【0161】
別の例では、候補化合物の皮内投与時の白血球浸潤をモニターすることができる(例えば、Van Damme, J. et al., J. Exp. Med., 176: 59-65 (1992);Zachariae, C. O. C. et al., J. Exp. Med. 171: 2177-2182 (1990);Jose, P. J. et al., J. Exp. Med. 179: 881-887 (1994)を参照のこと)。1つの態様においては、皮膚生検試料を白血球(例えば、好酸球、顆粒球)の浸潤について組織学的に評価する。候補化合物の非存在下における浸潤の程度と比較して、候補化合物の存在下における浸潤の程度が減少している場合、C5aRシグナル伝達の阻害が示される。
【0162】
好ましい表現型の例を以下に簡潔に考察する。
【0163】
自己免疫疾患(関節リウマチを含む)
自己免疫疾患は人口の5〜8%を冒している。免疫複合体(IC)は、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、糸球体腎炎、および免疫血管炎を含む自己免疫疾患のいくつかの発症において重要な役割を果たす。ICが自己免疫反応を開始する一方で、疾患の重症度に寄与する他の重要な因子としては、補体系、Fcg受容体、および好中球が挙げられる。現在、IC炎症に対する補体の主要な寄与はC5aRシグナル伝達を介することが認められている。ICは古典的補体経路および別の補体経路の両方を活性化する。補体活性化過程におけるC5の切断によって放出されるC5aは、好中球、単球、およびマクロファージの強力な化学誘引物質である。C5aがC5aRに結合することにより、さらなる走化性メディエータ(例えば、CXCケモカイン)の放出および炎症反応のさらなる組織化をもたらすマクロファージ上でのFcgR活性化(活性化FcgRIIIおよびFcgRIの上方制御および抑制性FcgRIIBの下方制御)を含む、一連の事象が開始される。
【0164】
C5a/C5aRの重要性は、免疫複合体炎症の種々のモデル系において実証されている。例えば、C5aは逆受動アルサス反応のマウス腹膜炎モデルにおいて炎症カスケードを開始することが示されている(Godau J, et al, J Immunol 173, 3437 (2004))。C5aはまた、IC誘発性肺疾患においてFcgRを調節することが示されている(Shushakova NJ, et al, J Clin Invest, 110, 1823-1830 (2002))。さらに、C5aRノックアウトマウスは、関節リウマチのBenoist-Mathis KRNxNOD血清移入モデル(Ji H, et al, Immunity 16, 157 (2002))または抗コラーゲン抗体誘導関節炎モデル(Grant EP, et al, J Exp Med 196, 1461 (2002))において炎症を発症しない。
【0165】
敗血症
敗血症は、毒素産生細菌による血流の激しい感染によって起こる重篤な疾患である。炎症、補体、および凝固系の大規模な活性化、ならびにサイトカインおよびケモカインの血漿中への出現によって明らかなように、敗血症では先天性免疫系が撹乱され得ることが認められている。この「サイトカインストーム」はその名の通り、多臓器機能不全または多臓器不全および死に寄与する多くの炎症性メディエータの制御を解く。
【0166】
敗血症の最近の総説は、この疾患の治療法を見出す過去の試みについて検討し、今後の方向性を示唆している(Crowther and Marshall (2001) Jama 286(15): 1894-6;Cohen, J. (2002) Nature 420(6917):885-91;Cross and Opal (2003) Ann Intern Med 138(6): 502-5)。
【0167】
Hotchkiss and Karl(N Engl J Med 348(2):138-50, 2003)は、敗血症の死亡率の減少において抗凝固組換え活性化プロテインCが示す有効性は、一部にはその抗炎症効果に起因すると推測している。活性化プロテインCの効果(直接および間接的)のいくつかは、サイトカイン産生の阻止、細胞接着の阻止、好中球動員、肥満細胞脱顆粒、および血小板活性化の抑制である。C5aは、C5a受容体への結合を介して、白血球走化性、肥満細胞からのヒスタミンの放出、好中球-内皮細胞接着の増強、およびサイトカイン産生の誘導を媒介する。
【0168】
ヒトの敗血症では、補体系の無秩序な活性化により、アナフィラトキシン、特にC3aおよびC5aの過剰な産生、およびその後の好中球の機能障害が起こる。敗血症の後期には、好中球では走化性反応が抑制され、酵素放出が低下し、細胞内pHが変化し、さらに呼吸バースト不全(反応性酸素種、特にH2O2の産生の減少)が起こり、その結果殺菌作用障害が生じる。これらの欠陥はC5aに依存することが示されている。実験的な敗血症では、血中好中球はC5aと結合する能力が非常に減少しており、C5aに対する走化性反応が損なわれており、さらにH2O2産生を喪失している。CLP誘発性敗血症において、これらの欠陥は動物を抗C5a抗体で処理することによって妨げることができる。この処理により菌血症が緩和され、生存度が大幅に改善された。このことから、敗血症はC5aの過剰な産生を誘導し、次いで好中球の重篤な機能的欠陥を導くことが示される。
【0169】
C5aRに対する抗体もまた、動物モデルを敗血症による死から保護し得る。C5aR免疫反応性およびmRNA発現はいずれも、実験的敗血症の早期に肺、腎臓、肝臓、心臓、および胸腺の内皮細胞において増加していることが示された。CLPの開始時にC5aRに対する抗体を投与したマウスは、非特異的IgGを投与した動物と比較して生存度の劇的な改善を示した。抗C5aR処理マウスではCLPの過程で、IL-6およびTNF-αの血清レベルならびに種々の臓器における細菌数が、対照CLP動物と比較して有意に減少していた。これらの研究から、C5aRの遮断は敗血症の致死的転帰に高度に保護的であることが実証された。
【0170】
その防御するかまたは害する可能性に関して重要であるのはC5aの位置であることが示唆されている。組織におけるC5aの局所的生成は、感染の早期調節に必須である。C5a勾配が確立されて、白血球走化性が生じる。高濃度のC5aでは走化性は抑止され、細胞は毒性酸素バーストを産生する。敗血症では、血中での拡散した補体活性化によって拡散した過剰な血管内C5aが生じ、これが好中球の機能を損ない、細菌を無制限に増殖させる。同時に、微小循環中に好中球が隔離されることで、肺、腎臓、および肝臓が損傷する。このモデルでは、肝臓、肺などの内皮細胞上の受容体よりもむしろ白血球上のC5aRが重要であると考えられる。C5aRアンタゴニストによる介入は、治療上有益であることが判明し得る。
【0171】
虚血‐再灌流傷害(IR)
補体系は、虚血‐再灌流(IR)傷害をはじめとする様々な疾患における炎症組織損傷の重要なメディエータである。
【0172】
IR傷害の媒介におけるC5aおよび膜侵襲複合体C5b-9の相対的役割は様々であると考えられる。いくつかのモデルでは、C5aが重要なメディエータである。C5aRのアンタゴニストは、小腸および腎臓におけるIR傷害からマウスおよびラットを防御する(Heller et al. (1999) J Immunol 163(2): 985-94;Arumugam et al. (2003) Kidney Int 63(1): 134-42;Arumugam et al. (2002) J Surg Res 103(2):260-7)。ブタ心筋IR傷害モデルでは、C5aRアンタゴニストにより梗塞の大きさが顕著に減少した(Riley et al. (2000) J Thorac Cardiovasc Surg 120(2): 350-8)。
【0173】
C5に対する抗体を用いた研究からも、IR傷害における同様の減少が実証される(Fitch et al. (1999) Circulation 100(25):2499-506;de Vries et al (2003) Transplantation 75(3): 375-82)。
【0174】
臨床研究および実験的研究から、腎臓、肝臓、肺、および心臓などの臓器のIRが種々のサイトカインの迅速な放出を誘導することが示されている。これらの分子の多くは再灌流後にレベルが減少するが、IL-8は顕著に増加する。IL-8は強力な好中球化学誘引物質である。IL-8のレベルは肺機能と逆の相関関係があり、高レベルは肺移植における死亡の危険性と関連がある。再灌流の開始時に抗IL-8抗体を静脈内投与すると、肺障害および好中球浸潤が顕著に減少する(de Perrot et al (2003) Am J Respir Crit Care Med 167 (4):490-511)。
【0175】
証拠から、IR傷害が二相性パターンで起こることが示される。虚血時に活性化されたマクロファージが初期の傷害を媒介するのに対し、好中球およびリンパ球は主に第二の遅延相に関与する。好中球およびリンパ球の動員は、再灌流前後のサイトカインの放出によって生じる。
【0176】
C5aはマクロファージおよび好中球をはじめとする種々の骨髄細胞の強力な化学誘引物質であり、またサイトカイン産生を誘導するため、特異的抗体でC5aRを遮断することはIL-8の放出および好中球遊走を妨げるのに有益であり、したがってIR傷害を緩和すると予想される。
【0177】
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)および急性肺障害(ALI)
ARDSおよびALIは、肺水腫および炎症に起因する症候群である。ARDS/ALIの発症は、肺炎感染による肺障害、胃内容物の吸引、外傷、敗血症、急性膵炎、薬物過剰摂取、および心肺バイパスを含む様々な臨床疾患と関連している。敗血症がARDS/ALIの主要原因である。IRと同様に、ALIにおける炎症反応は、肺の遠位空隙への多数の好中球および単球の動員と関連している。サイトカインなどの炎症促進性分子、活性酸素、およびプロテアーゼが役割を担っており、過剰な炎症がARDS/ALIを悪化させ得る(Ware and Matthay (2000) N Engl J Med 342(18): 1334-49;Brower et al. (2001) Chest 120(4): 1347-67)。
【0178】
肺の血管外空間に遊走する好中球の数を減少させるため、肺内皮への好中球接着を減じるため、および走化性因子の放出を減じるための抗炎症戦略は有益であることが示唆されている(Brower et al. (2001) Chest 120(4): 1347-67)。
【0179】
ARDS患者の研究から、疾患の早期に、高レベルのIL-8がBAL液または肺水腫液中に存在することが判明する。さらに、ウサギモデルでは、IL-8を中和する抗体によって肺障害が緩和された(Brower et al. (2001) Chest 120(4): 1347-67)。
【0180】
ARDSおよびALIに対しても、C5aRを遮断することがやはり治療上実行可能なアプローチであると考えられる。C5aは強力な走化性分子であり、サイトカイン放出の促進因子である。C5aまたはC5aRを拮抗する分子を使用した上記の研究から、様々な炎症モデルにおける障害の緩和が実証された。
【0181】
本発明のスクリーニング法で同定する化合物の作製
本発明の1つの態様において、本方法は、遺伝子改変した動物で試験する化合物を作製または合成する段階をさらに含む。
【0182】
ペプチジル化合物は、メリフィールド合成法(Merrifield, J Am Chem Soc, 85,:2149-2154, 1963)およびその技術に関して利用できる無数の改良法(例えば、Synthetic Peptides: A User's Guide, Grant, ed. (1992) W.H. Freeman & Co., New York, pp. 382;Jones (1994) The Chemical Synthesis of Peptides, Clarendon Press, Oxford, pp. 230を参照のこと);Barany, G. and Merrifield, R.B. (1979), The Peptides (Gross, E. and Meienhofer, J. eds.), vol. 2, pp. 1-284, Academic Press, New York;Wunsch, E., ed. (1974) Synthese von Peptiden in Houben-Weyls Methoden der Organischen Chemie (Muler, E., ed.), vol. 15, 4th edn., Parts 1 and 2, Thieme, Stuttgart;Bodanszky, M. (1984) Principles of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg;Bodanszky, M. & Bodanszky, A. (1984) The Practice of Peptide Synthesis, Springer-Verlag, Heidelberg;Bodanszky, M. (1985) Int. J. Peptide Protein Res. 25, 449-474などの標準的なペプチド合成法によって簡便に作製される。
【0183】
好ましくは、ペプチドは、例えばジクロロメタンまたはジメチルホルムアミド(DMF)などの脂溶性溶媒を用いてさらに膨潤した、例えば、ジビニルベンゼン、好ましくは1% (w.w)ジビニルベンゼンと架橋されたポリスチレンを含むポリスチレンゲルビーズなどの固相支持体上で合成する。ポリスチレンは、クロロメタンまたはアミノメチル基を添加することによって官能性を持たせることができる。
【0184】
または、架橋しかつ官能性を持たせたポリジメチル-アクリルアミドゲルを、DMFまたは両性非プロトン性溶媒を用いて膨潤および溶媒和して使用することができる。当業者に周知である他の固相支持体もまたペプチド合成に使用することができ、これには例えば、ポリエチレングリコールを不活性ポリスチレンビーズの表面にグラフトすることによって作製されるポリエチレングリコール由来ビーズがある。好ましい市販の固相支持体としては、PAL-PEG-PS、PSC-PEG-PS、KA、KR、またはTGR(Applied Biosystems, CA 94404, USA)が挙げられる。
【0185】
固相ペプチド合成では、合成中にアミノ酸側鎖を保護するため、およびα-アミノ基、カルボキシル基、または側鎖官能基をマスキングするために、伸長していくペプチド鎖のアミノ封鎖基の除去およびアミノ酸カップリングの反復に必要な反復処理に安定である封鎖基が用いられる。したがって、封鎖基(保護基またはマスキング基とも称される)は、カップリング反応に関与する活性化カルボキシル基を有するアミノ酸のアミノ基を保護するか、またはカップリング反応に関与するアシル化アミノ基を有するアミノ酸のカルボキシル基を保護する。
【0186】
合成過程では、ペプチド結合、またはペプチドの別の部分に結合している保護基を破壊することなく封鎖基を除去した後に、カップリングが行われる。さらに、ペプチドのC末端を保護するペプチド-樹脂固定点は、樹脂からの切断が必要になるまで合成工程の間中保護されている。したがって、オルトゴナル保護したα-アミノ酸を賢明に選択することで、樹脂に結合したまま伸長しているペプチドの所望の位置にアミノ酸が付加される。
【0187】
好ましいアミノ封鎖基は、容易に除去可能であるが、カップリング反応および他の操作、例えば側鎖基の修飾などの条件をしのぐのに十分安定である。1つの態様において、アミノ封鎖基は以下からなる群より選択される:(i) 室温および常圧での接触水素化により、または液体アンモニア中のナトリウムおよび酢酸中の臭化水素酸を用いることで容易に除去されるベンジルオキシカルボニル基(Zまたはカルボセンゾキシ(carbocenzoxy));(ii) ウレタン誘導体;(iii) t-ブトキシカルボニルアジドまたはジ-tert-ブチルジカーボネートを用いて導入され、例えばトリフルオロ酢酸(ジクロロメタン中の50% TFA)または酢酸/ジオキサン/酢酸エチル中のHClなどの弱酸によって除去されるt-ブトキシカルボニル基(Boc);(iv) 例えば一級アミンまたは二級アミン(例えば、ジメチルホルムアミド中の20%ピペリジン)を用いるなど、穏やかな塩基性、非加水分解条件下で切断される9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基(Fmoc);(v) 2-(4-ビフェニルイル)プロピル(2)オキシカルボニル基(Bpoc);(vi) 2-ニトロ-フェニルスルフェニル基(Nps);および(vii) ジチア-スクシオニル(succionyl)基(Dts)。Fmoc化学ではN末端を保護するためにBocが広く用いられ、Boc化学ではN末端を保護するためにFmocが広く用いられている。
【0188】
側鎖保護基は、合成対象のペプチドを形成するアミノ酸の機能的側鎖によって異なる。側鎖保護基は一般に、Bzl基またはtBu基に基づく。側鎖にアルコールまたはカルボン酸を有するアミノ酸は、Bzlエーテル、Bzlエステル、cHexエステル、tBuエーテル、またはtBuエステルとして保護される。Fmocアミノ酸の側鎖保護は、理想的には塩基に安定性でありかつ弱酸(TFA)に不安定である封鎖基を必要とする。ペプチド合成のための多くの様々な保護基がこれまでに記載されている(The Peptides, Gross et al. eds., Vol. 3, Academic Press, New York, 1981を参照のこと)。例えば、アルギニン側鎖保護には4-メトキシ-2,3,6-トリメチルフェニルスルフォニル(Nd-Mtr)基が有用であるが、Arg(Mtr)の脱保護には長期のTFA処理が必要である。システインを保護するには、多くの弱酸(TFA、タリウム(III)トリフルオロ酢酸/TFA)に不安定な基、TFAに安定であるがタリウム(III)トリフルオロ酢酸/TFAに不安定な基、または柔らかい酸に安定な基を用いることができる。
【0189】
最も広く用いられている2つの保護戦略は、Boc/Bzl戦略およびFmoc/tBu戦略である。Boc/Bzlでは、アミノ保護にBocを使用し、種々のアミノ酸の側鎖はBzlまたはcHexに基づく保護基を用いて保護する。Boc基は接触水素化条件下で安定であり、多くの側鎖基を保護するためにZ基と共にオルトゴナルに用いられる。Fmoc/tBuでは、アミノ保護にFmocを使用し、側鎖はtBuに基づく保護基を用いて保護する。
【0190】
または、ペプチジル化合物は、そのようなペプチドのアミノ酸配列をコードする核酸の組換え発現によって産生される。ランダムペプチドをコードするライブラリーは、試験するための広範な異なる化合物を提供するために、このような目的に特に好ましい。または、天然核酸をスクリーニングすることもできる。本態様では、ペプチジル化合物をコードする核酸は、標準的なオリゴヌクレオチド合成によって作製されるか、または天然源に由来し、これをプロモーターまたは無細胞系もしくは細胞系での発現を制御し得る他の制御配列と機能的に結合して適切な発現ベクターにクローニングする。
【0191】
オリゴヌクレオチドは好ましくは、その後標準的な技法により適切なベクター系に簡便にクローニングできるように、5'および3'末端にアダプター配列を付加して合成される。
【0192】
プロモーター配列の調節制御下に、すなわちプロモーター配列と「機能的に結合して」核酸分子を配置するということは、一般にペプチドコード配列の5'側(上流)にプロモーターを配置することによって、発現がプロモーター配列によって制御されるように分子を配置することを意味する。
【0193】
大腸菌などの細菌で完全なポリペプチドを産生するための必須条件は、効果的なリボソーム結合部位と共に強力なプロモーターを使用することである。大腸菌などの細菌細胞における発現に適した典型的なプロモーターには、laczプロモーター、温度感受性λLもしくはλRプロモーター、T7プロモーター、またはIPTG誘導性tacプロモーターが含まれるが、これらに限定されない。本発明の核酸分子を大腸菌で発現させるための多くの他のベクター系が当技術分野において周知であり、例えば、Ausubel et al(Current Protocols in Molecular Biology. Wiley Interscience, ISBN 047150338, 1987)またはSambrook et al(Molecular cloning, A laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Habor, N.Y., 1989)に記載されている。細菌での発現に適したプロモーター配列および効果的なリボソーム結合部位を備えた多くのプラスミド、例えば特にpKC30(λL:Shimatake and Rosenberg, Nature 292, 128, 1981);pKK173-3(tac:Amann and Brosius, Gene 40, 183, 1985)、pET-3(T7:Studier and Moffat, J. Mol. Biol. 189, 113, 1986);アラビノース誘導性プロモーターを含むpBAD/TOPOまたはpBAD/Thio-TOPO系のベクター(Invitrogen、カリフォルニア州、カールズバッド)(後者はまた、発現されたタンパク質の溶解性を増すためにチオレドキシンとの融合タンパク質を産生するように設計されている);pFLEX系の発現ベクター(Pfizer Inc.、米国、コネチカット州);またはpQE系の発現ベクター(Qiagen、カリフォルニア州)などが記載されている。
【0194】
真核細胞のウイルスおよび真核細胞での発現に適した典型的なプロモーターには、中でもSV40後期プロモーター、SV40初期プロモーター、およびサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、CMV IE(サイトメガロウイルス前初期)プロモーターが含まれる。哺乳動物細胞(例えば、293、COS、CHO、10T細胞、293T細胞)での発現に適したベクターには、これらに限定されないが、Invitrogenによって提供されるpcDNAベクター系、特にCMVプロモーターを含み、C末端6xHisおよびMYCタグをコードするpcDNA 3.1 myc-His-tag;およびレトロウイルスベクターpSRαtkneo(Muller et al., Mol. Cell. Biol., 11, 1785, 1991)が含まれる。ベクターpcDNA 3.1 myc-His(Invitrogen)は293T細胞で分泌型のペプチドを発現させるのに特に好ましく、発現されたペプチドまたはタンパク質は、Hisタグを介してタンパク質と結合するニッケルカラムを利用する標準的なアフィニティー技法を用いて同種タンパク質を含まずに精製され得る。
【0195】
ペプチドの発現に適した広範なさらなる宿主/ベクター系が公的に利用でき、例えばSambrook et al(Molecular cloning, A laboratory manual, second edition, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Habor, N.Y., 1989)に記載されている。
【0196】
発現させるために核酸または核酸を含む遺伝子構築物を細胞に導入する手段は、当業者には周知である。所与の生物に用いられる技法は、既知の成功した技法に依存する。組換えDNAを動物細胞に導入する手段としては、特に、マイクロインジェクション、DEAE-デキストランによって媒介されるトランスフェクション、リポフェクタミン(Gibco、米国、メリーランド)および/またはセルフェクチン(Gibco、米国、メリーランド)を使用するようなリポソームによって媒介されるトランスフェクション、PEGに媒介されるDNAの取り込み、エレクトロポレーション、ならびにDNAをコーティングしたタングステン粒子または金粒子(Agracetus Inc.、米国、ウィスコンシン州)を使用するような微粒子銃が挙げられる。
【0197】
低分子有機化合物を合成する技法は化合物によってかなり異なるが、そのような方法は当業者には周知であると考えられる。1つの態様においては、情報科学を用いて既知化合物から適切な化学的構成単位を選択して、コンビナトリアルライブラリーを作製する。例えば、QSAR(定量的構造活性相関)モデリングアプローチでは、化合物構造の直線回帰または回帰ツリーを使用して適合性を決定する。Chemical Computing Group, Inc.(カナダ、モントリオール)のソフトウェアでは、活性および不活性化合物に関するハイスループットスクリーニング実験データを使用して確率的QSARモデルを作製し、次にこれを用いてリード化合物を選択する。Binary QSAR法は、特定の化合物が必要な機能を行うまたは行わない可能性の「記述子」を形成する、化合物の3つの特徴的な性質に基づく:部分的電荷、モル屈折(結合相互作用)、およびlogP(分子の親油性)。原子はそれぞれ分子中で表面積を有し、それと関連したこれらの3つの性質を有する。特定の範囲の部分的電荷を有する化合物のすべての原子が決定され、表面積(ファンデルワールス表面積記述子)が合計される。次いで、Binary QSARモデルを用いて活性モデルまたはADMETモデルを作製し、これらを用いてコンビナトリアルライブラリーを構築する。したがって、最初のスクリーニングで同定されたリード化合物も含めて、既知の食欲抑制剤および非抑制剤による情報を用いて、スクリーニングする化合物のリストを拡大し、それによって高活性の化合物を同定することができる。
【0198】
1つの態様において、本方法は、非ヒト動物またはヒトに投与するために、同定された化合物を製剤化する段階をさらに含む。製剤は、皮下、静脈内、鼻腔内、または腹腔内経路による投与に適していてよい。または、製剤は、食物添加物、錠剤、トローチ剤などの形態で経口投与に適していてよい。
【0199】
化合物は、適切な賦形剤または希釈剤中、例えば水性溶媒、非水溶媒、例えば塩、保存剤、緩衝液などの非毒性賦形剤中に簡便に製剤化される。非水溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、およびオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルである。水性溶媒には、水、アルコール/水溶液、生理食塩液、例えば塩化ナトリウム、リンガーデキストロースなどの非経口賦形剤が含まれる。保存剤には、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスが含まれる。動物への投与に適した製剤の種々の成分のpHおよび正確な濃度は、当技術分野における日常的な技術に従って調節される。非経口、皮内、または皮下適用のために用いられる溶液または懸濁液は、以下の成分を含み得る:滅菌希釈剤、例えば、注射用蒸留水、食塩水、不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコール、または他の合成溶媒;抗菌剤、例えばベンジルアルコールまたはメチルパラベン;抗酸化剤、例えばアスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウム;キレート剤、例えばエチレンジアミン四酢酸;緩衝液、例えば酢酸、クエン酸、またはリン酸、および張度調節剤、例えば塩化ナトリウムまたはデキストロース。pHは、塩酸または水酸化ナトリウムなどの酸または塩基で調整することができる。非経口製剤は、アンプル、使い捨て注射器、またはガラスもしくはプラスチック製の複数回投与バイアルに封入し得る。薬学的に適合性のある結合剤および/または補助物質を、組成物の一部として含めることができる。錠剤、丸剤、カプセル剤、トローチなどは、以下の成分または同様の性質の化合物のいずれかを含み得る:結合剤、例えば、微結晶セルロース、トラガカントゴム、もしくはゼラチン;賦形剤、例えばデンプンもしくはラクトース、崩壊剤、例えば、アルギン酸、プリモゲル(Primogel)、もしくはコーンスターチ;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムもしくはステロテス(Sterotes);流動促進剤、例えばコロイド状二酸化ケイ素;甘味剤、例えばスクロースもしくはサッカリン;または香味添加剤、例えば、ペパーミント、サリチル酸メチル、もしくはオレンジフレーバー。吸入による投与では、化合物は、適切な噴霧剤(例えば、二酸化炭素のような気体)または噴霧器を含む加圧された容器またはディスペンサーからのエアロゾルスプレーの形態で送達される。経粘膜投与または経皮投与では、透過させるバリアに適した浸透剤が製剤中に使用される。そのような浸透剤は一般に当技術分野において周知であり、これには、例えば、経粘膜投与のための界面活性剤、胆汁酸塩、およびフシジン酸誘導体が含まれる。経粘膜投与は、鼻腔用スプレーまたは坐剤の使用によって達成され得る。経皮投与に関しては、活性化合物は、当技術分野において周知である軟膏剤(ointment、salve)、ゲル、またはクリーム中に製剤化される。
【0200】
任意で、製剤はまた、例えばウシ血清アルブミン(BSA)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、オボアルブミン、マウス血清アルブミン、ウサギ血清アルブミンなどの担体を含む。ペプチドを担体タンパク質に結合する手段もまた当技術分野において周知であり、これにはグルタルアルデヒド、m-マレイミドベンコイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビス-ビアゾ化ベンジジンが含まれる。
【0201】
ここで本発明を以下の実施例により説明するが、実施例は決して限定を意図すものではない。本明細書に引用した全参考文献の教示は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0202】
実施例1:ヒトC5aRノックインマウスを作製するための標的化構築物の作製
相同組換えにより変異マウス株を作製するには、2つ主要な要素が必要である。生殖細胞系列に寄与し得る胚性幹(ES)細胞株、および所望の変異を有する標的遺伝子配列を含む標的化構築物である。未分化状態でのES細胞の維持は、フィーダー細胞の層上で細胞を培養することによって達成される。次いで、培養ES細胞に標的化構築物をトランスフェクションする。ES細胞株は、胚盤胞期胚の内部細胞塊に由来する。トランスフェクションした細胞の少数で相同組換えが起こり、結果として標的遺伝子内に標的化構築物中に存在する変異が導入される。
【0203】
変異ES細胞クローンが同定されたならば、キメラマウスを作製するために正常胚盤胞にこれを微量注入し得る。多くのES細胞株はマウスに存在するあらゆる細胞種に分化する能力を維持しているため、キメラは、正常胚盤胞および変異ES細胞の両方に由来する、生殖細胞系列を含む組織を有し得る。生殖細胞系列キメラを交配させることにより、ES細胞に導入した変異に関してヘテロ接合性である動物が得られ、これらを交配してホモ接合性変異マウスを作製することができる。
【0204】
図1に示すように、内在性マウスC5aR配列をヒトC5aR配列で置換するために用いられる標的化構築物は、陽性選択マーカー(PGK-Neo、ネオマイシンホスホトランスフェラーゼ遺伝子を駆動するホスホグリセリン酸キナーゼIプロモーターからなるハイブリッド遺伝子)の両側に位置する、標的遺伝子と相同的な2つの領域を含む。相同組換えは2つの交差事象によって進行し、標的遺伝子配列が置換構築物配列によって置き換えられる。配列の重複は起こらないため、正常遺伝子は再生され得ない。
【0205】
標的化構築物を線状化すると、neo遺伝子には標的遺伝子に相補的な2つの領域が隣接している。薬剤(例えば、G418)を用いて細胞を選択することで、構築物を安定に組み込んでいない細胞の大多数が除去される。
【0206】
相同組換えが関わる多くの遺伝子不活化アプローチは、ゲノムDNA中に陽性選択マーカーが残る構築物を依然として使用しているが、これが多くの予期せぬ影響を引き起こし得ることが徐々に明らかになってきた。例えば、多くの場合自身のプロモーターを有するneo遺伝子の存在は、隣接する遺伝子座の発現を変化させ得る。これは、隣接する遺伝子が同じファミリーに属する遺伝子クラスターで特に問題となり得る。影響される遺伝子が類似したまたは同一の機能を有する可能性があるためである。結果として、標的化構築物中のわずかな相違が表現型に顕著な相違をもたらしている。
【0207】
この理由から、本明細書で例証する標的化構築物は、Creリコンビナーゼの一過性発現により標的化後に選択マーカーが除去され得るように、PKG-neo遺伝子に隣接するloxP部位を含む。これはゲノムDNA中に小さなloxP部位を残すことになるものの、構築物はこれが無害な位置に存在するように操作され得る(図2)。理論的には、loxP部位でさえ隣接する遺伝子の発現に変化を及ぼす可能性はあるが、そのような事例はこれまでに報告されていない。文献で報告されている一過性発現によるCre組換えの効率は、〜2%から〜15%と大きく異なる。この割合は、Creの発現がゲノム中に組み込まれた配列に由来し、したがってほぼすべての場合に長く持続する発現を示すインビボでのCre組換えの効率と区別されるべきである。
【0208】
配列番号:1は、C5aR(C5r1)遺伝子を含むマウスゲノムDNA配列(〜22 kb)を示す。配列番号:2はヒトC5aR cDNA配列を示し、配列番号:3はヒトC5aRタンパク質配列を示す。
【0209】
配列番号:1に示すマウスゲノム領域(標的遺伝子座)は、以下のように特徴づけられる:
エキソン1:ヌクレオチド757〜784(5'非翻訳領域)
エキソン2:ヌクレオチド1048〜1152(5'非翻訳領域および開始コドン)
エキソン3:ヌクレオチド10726〜11778(ATGを除く全コード配列)。
【0210】
図3は、配列番号:1に示す22 kb配列の制限酵素地図を示す。関連する制限部位は以下の通りである。

【0211】
ノックインマウスを作製するために使用する標的化ベクターは、エキソン3の両側約3 kbのゲノムDNA(すなわち、配列番号:1に示すヌクレオチド約7377〜15045に由来する)に相同的な領域を含む。特に、標的化ベクターは、ヌクレオチド10726〜11778が配列番号:2のヌクレオチド28〜1077で置換されていること以外は、配列番号:1のヌクレオチド7377〜15045の領域を含んだ。このことは、組込み後、内在性のマウスエキソン1および2はトランスジェニックマウス中に残存するが、マウス遺伝子座のエキソン3はヒトC5aRをコードする配列で置換されていることを意味する。
【0212】
実施例2:ヒトC5aR遺伝子を含むマウス胚性幹細胞のトランスフェクションおよび同定
胚性幹(ES)細胞を培養するおよびES細胞に標的化構築物を導入する基本的な手順を以下に提供する。この手順ではまた、相同組換えによって標的遺伝子が改変されたクローンを同定する方法についても概説する。得られた相同組換え体はヒトC5aRに関してヘテロ接合性であり、これを用いて、ヒトC5aR遺伝子についてホモ接合性であるトランスジェニックマウスを作製することができる。本実施例では、ES細胞はC57BL/6マウスに由来した。
【0213】
材料
標的化構築物
胚性幹(ES)細胞
ES/LIF培地
トリプシン/EDTA:0.25% (w/v)トリプシン/1 mM EDTA(20 mM HEPES、pH 7.3、任意)
ES培地
エレクトロポレーション緩衝液
G418
凍結培地
消化緩衝液
飽和NaCl
1%アガロース
【0214】
構築物のトランスフェクションおよびES細胞の選択
1. ES細胞をES/LIF培地で培養する。100-mmゼラチンコーティング組織培養プレートに1〜2 x 106細胞/プレートを播種することにより、細胞を2〜3日おきに継代する。白血病抑制因子(LIF)は、ES細胞が分化するのを妨げる。細胞の胚盤胞注入を計画している場合には、高密度で細胞を継代することが好ましいと考えられる(例えば、25-cm2フラスコ当たり1.5 x 106細胞)。
【0215】
2. トリプシン/EDTAを添加し、細胞がプレート表面から遊離するまで〜5分間インキュベートし、〜5 x 106個から1 x 107個の細胞を回収する。5〜10回ピペッティングして単一細胞になるよう解離する。ES培地5 mlを添加する。細胞をペレット化し、細胞ペレットを同じチューブ中でエレクトロポレーション緩衝液1 mlに再懸濁する。典型的に、ほぼコンフルエントな100-mm組織培養プレートから、107個の細胞が得られ得る。
【0216】
3. 線状化した無菌構築物DNA 1 pmolを添加する。
【0217】
4. 4-mmエレクトロポレーションキュベット中で、450 Vおよび250 uFで混合物をエレクトロポレーションする。室温で10分間インキュベートする。ES細胞に対して多くのエレクトロポレーション条件を使用することができる。
【0218】
5. 100-mmゼラチンコーティング組織培養プレート当たり〜2 x 106個細胞の割合で、細胞をES培地でプレーティングする。24時間インキュベートする。
【0219】
6. ES培地をES/LIF培地に交換し、G418を0.2 mg/mlになるように、GANCを2 uMになるように添加して(最終)、選択を開始する。
【0220】
7. 単一の単離されたコロニーが認められるまで(典型的に、エレクトロポレーションから1週間後)、ES/LIF培地を使用しかつG418を添加して(最終0.2 mg/ml)培地を毎日交換しながら、インキュベーションを継続する。オートクレーブしたピペットチップを用いてプレートから個々のコロニーを採取し、トリプシン/EDTAの35-ul液滴中に5分間置く。約5回ピペッティングして細胞を解離する。ES/LIF培地1 mlを含むゼラチンコーティング24ウェルマイクロタイタープレートのウェルに細胞を移す。
【0221】
8. 細胞が分化せずにコロニーが認められるまで(典型的に、3〜4日)、インキュベートする。細胞の半分を新たなゼラチンコーティング24ウェルマイクロタイタープレートに継代する。残りの細胞を凍結培地0.5 mlに添加して、-70℃に置く。一晩凍結し、次いで液体窒素に移す。未分化細胞は、滑らかな丸いコロニーとして増殖する。分化した細胞は、明瞭な細胞間境界を有して扁平である。細胞の半分をフリーザーに入れたら、直ちに段階9に進む。
【0222】
相同組換え体のスクリーニング
9. ES細胞を、ほぼコンフルエントになるまで(通常、2〜3日)、24ウェルマイクロタイタープレートでインキュベートする(段階14)。この段階ではES細胞の分化を妨げることは重要ではないため、培地からLIFを除くことができる;しかし、LIFの存在は細胞増殖の維持に役立つ可能性がある。
【0223】
10. 各ウェルに消化緩衝液300 ulを添加する。ウェルの内容物を1.5-ml微量遠心チューブに移し、55℃で一晩インキュベートする。
【0224】
11. 飽和NaCl 150 ulを添加し、激しくボルテックスする(溶液が乳白色に変わる)。2倍量の95%エタノールを添加する(沈殿したDNAを除き、溶液は透明に変わる)。研究者によっては塩を添加せずに2倍量のエタノール(または1倍量のイソプロパノール)を用いて、DNAを沈殿させる。しかし、塩を添加した方がDNAペレットの再懸濁が容易である。
【0225】
12. DNAペレットを水50 ulに再懸濁する。260 nmでの吸光度を測定して、DMA濃度を決定する。
【0226】
13. DNA 10 ug(または、DNA濃度を決定していない場合には10 ul)を適切な制限酵素で消化する。
【0227】
14. 消化したDNAを1%アガロースゲル上で分画する。ナイロン膜に転写し、サザンブロッティングにより、適切な標的遺伝子ハイブリダイゼーションプローブとハイブリダイズさせて、未改変標的遺伝子と相同組換えを起こした標的遺伝子を識別する。
【0228】
15. ほぼ同じ強度の2つのハイブリダイズ断片−未改変標的遺伝子の予測される大きさを示す1つの断片および相同組換えを起こした標的遺伝子の予測される大きさを示す1つの断片−を示すES細胞コロニーを選択する。2つの断片が不均等なハイブリダイゼーション強度である場合、その細胞集団はクローンではない可能性がある。細胞を凍結し、液体窒素中で保存する。
【0229】
hC5aR標的化構築物をトランスフェクションした全部で672個のES細胞コロニーを、標的化構築物とマウスゲノムとの間の相同組換えについてスクリーニングした。
【0230】
ES細胞コロニーから抽出したDNAはEcoRVまたはXbaIで消化し、アガロースゲルで電気泳動した。DNAをフィルターに転写し(サザン法による)、標準的な条件を使用して32P標識5'プローブまたは3'プローブDNAとハイブリダイズさせた。洗浄した後、フィルターをX線フィルムに露光した。このスクリーニングから、ヒトC5aR遺伝子を含む3つのコロニーが得られた。これらのコロニーうちの2つが(5H1および6C8)、マウスC5aR遺伝子座にヒトC5aR遺伝子が正しく組み込まれていると同定された(データは示さず)。
【0231】
実施例3:ES細胞の移植、キメラの作製、およびヒトC5aR遺伝子の生殖細胞系列伝達
ES細胞を用いてキメラを作製する標準的な方法では、3.5日齢マウス胚(胚盤胞)を使用する。この段階の胚は、注入によってES細胞を導入することができる液体で満たされた大きな空洞を有する。胚盤胞はすでに卵管から出て、子宮角に見出される。注入に使用する場合、胚盤胞は孵化(透明帯の消失)および子宮壁への付着前に回収しなければならない。ES細胞を注入するための胚盤胞を生成するには、種々のマウス株が用いられる。本実施例では、胚盤胞の生成にマウス株Balb/cを用いた。この株は適当な数の胚を生じる。これは、種々のC57BL/6亜株に由来するES細胞と共に用いた場合、毛色によって容易に識別し得る優良なキメラを生じる傾向がある。
【0232】
コロニー5H1および6C8に由来するES細胞を、〜200個の胚盤胞に注入した。胚盤胞を偽妊娠雌マウスに移植した。黒い毛を5〜50%有する約17匹の毛色キメラが誕生した。13匹の雄キメラをC57BL/6雌と交配させて、約300匹の子を得た。5組のキメラ x C57BL/6交配対による19匹の子において、ヒトC5aR遺伝子の生殖細胞系列伝達が認められた。
【0233】
ヒトC5aR遺伝子座の存在は、サザンブロッティングによって確認した。マウスの尾から抽出したゲノムDNAをEcoRVで消化し、電気泳動し、3'プローブとハイブリダイズさせた。次いでフィルターを剥がし、Neoプローブで再度プロービングした。多くのマウスがC5aR遺伝子を含むことが示された。これらのマウスの遺伝子型をhC5aRfloxed(neoR)/wt(略してH5Rf/+)と命名した。
【0234】
実施例4:ヒトC5aR遺伝子についてホモ接合性であるマウスの交配および同定
A世代H5Rf/+マウスをC57BL/6 Cre欠失化マウスと交配してneoRマーカー遺伝子を除去し、H5R/wt/Creマウスを作製した。H5R/wt/CreマウスをC57BL/6マウスと交配してCre遺伝子を除去し、ヘテロ接合性H5R/wtマウス(M5R/+)を作製した。H5R/+マウス間の交配により、H5R/H5Rホモ接合性ノックインマウスを得た。いくらかのH5Rf/+ x H5Rf/+交配も行い、H5Rf/H5Rfホモ接合体を作製した。
【0235】
マウスがヒトC5aR遺伝子を保有していることの確認は、PCRに基づく遺伝子型同定アッセイによって行った。ヒトC5aR遺伝子を保有しているマウスを同定するために上記で使用したサザンブロット遺伝子型アッセイは、マウス特異的DNAプローブ(ヒトC5aR遺伝子特異的プローブではない)とのハイブリダイゼーションに基づいた。以下に説明するPCRアッセイでは、ヒトまたはマウスC5aR遺伝子配列を特異的に増幅するプライマーを利用した。
【0236】
尾部DNAの調製
尾端3 mmを1.5 ml無菌エッペンドルフチューブに入れ、200 ulのDNA単離緩衝液(67 mM Tris-Cl pH 8.0(Calbiochem)、16.6 mM硫酸アンモニウム(Sigma)、6.5 mM塩化マグネシウム(Promega)、1% β-メルカプトエタノール(ICN Biomedical)、および0.05% Triton X100(Sigma))中で65℃で一晩インキュベートした。500 ulの100%エタノール(UNIVAR)を含む新しい1.5 mlチューブに上清を移して混合し、-20℃で2時間インキュベートした後、4℃、13,000rpmで15分間遠心分離して(Labofuge 400R、Heraeus Instruments)精製ゲノムDNAを沈殿させた。DNAペレットを70%エタノールで洗浄し、乾燥してから、蒸留水50 ulに再懸濁した。以下のPCRアッセイでは、1 ul分割量をDNA鋳型として使用した。
【0237】
ヒトおよびマウスC5aR遺伝子を増幅するためのPCR
各PCR反応物は、マグネシウム不含10x PCR緩衝液5 ul、25 mM塩化マグネシウム5 ul、Taq DNAポリメラーゼ(2.5単位/ul)0.5 ul、10 mM dNTP(Promega)1 ul、各10 mMオリゴヌクレオチドプライマー(F1C、R2a、F3C、およびR4C)1 ul、鋳型DNA 1 ulを含んだ。蒸留水で全量を50 ulとした。使用したオリゴヌクレオチドプリマーは以下の通りであった:

いずれもヒトC5aRエキソン3に特異的;ならびに

いずれもマウスC5aR遺伝子に特異的。
【0238】
次いで、PCR System 2700サーマルサイクラー(Applied Biosystems)を用いて、標的配列を増幅した。PCRは95℃5分の変性段階から開始し、次いで、3段階:95℃30秒、60℃30秒、および72℃60秒を25サイクル行った。最終の伸長段階:72℃5分を行った後、4℃で保存した。
【0239】
ゲル電気泳動
各試料の遺伝子型は、10 ulのPCR産物および6x添加色素(Promega)を用いてゲル電気泳動により可視化した。ゲルは、1x TBEに溶解した1.5% DNA等級アガロース(Progen)80 mlおよび臭化エチジウム(MP Biomedicals)2 ulからなった。試料を1 kb DNAラダー(Promega)と共に100ボルトで30分間泳動した。ホモ接合性H5Rf/H5RfマウスDNAは単一の237 bpバンドを有し、ヘテロ接合性H5Rf/+マウスは237 bpおよび565 bpのバンドを有し、野生型マウスは単一の565 bpバンドを有すると予想された。ゲルの解析から、マウス#10、24、および25がホモ接合性(H5Rf/H5Rf)であることが示された(データは示さず)。いくつかの試料では、1139 bp長の不適切な転写産物が認められた(プライマーF3CおよびR2aによる増幅)。
【0240】
遺伝子型同定アッセイで使用したPCRプライマーF1C、R2a、F3C、およびR4Cの、マウス/ヒトC5aR遺伝子座における相対的位置を図4に示す。
【0241】
実施例5:ヒトC5aRはノックインマウスから単離された細胞において発現される
ヒトC5aR遺伝子を保有するマウスにおいてヒトC5a受容体が発現することを確認するため、野生型(+/+)、ヘテロ接合体(H5Rf/+)、およびホモ接合体(H5Rf/H5Rf)の血液から好中球を単離した。
【0242】
マウス全血におけるC5aRの直接免疫蛍光染色
ホモ接合性(H5Rf/H5Rf)、ヘテロ接合性(H5Rf/+)、および野生型(+/+)マウスの末梢静脈血約30 ulを、EDTA(EDTAの最終濃度は5 mMであった)を含むチューブ中に採取した。ヒトC5aR受容体を検出するため、血液30 ulを、ヒトC5aRに特異的な抗体である5 ulのFITC(フルオレセインイソチオシアネート、Sigma)標識7F3(7F3はマウスC5aRと交差反応しない)で染色した。血液と抗体を12 x 75 mm試験管中で、室温で15分間インキュベートした。赤血球を溶解し、細胞を固定するため、血液/抗体溶液にBD Lysing Solution(Becton Dickinson)500 ulを添加した。15分後、細胞を室温で1,200 rpmで3分間遠心分離し、細胞ペレットを洗浄緩衝液(1 x PBS、0.1% BSA、0.02%アジ化ナトリウム)1 mlに再懸濁した。細胞を、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を使用してFACS Caliburフローサイトメトリー(Becton Dickinson)で解析した。各試料について、約5,000個の細胞をカウントした。
【0243】
図5はこの解析の結果を示す。ホモ接合性およびヘテロ接合性KIマウスの好中球は、ヒトC5aRに特異的な抗体、7F3と結合した。対照的に、野生型マウスの好中球は7F3によって染色されなかった。いずれの遺伝子型のマウスに由来するリンパ球も、mAB 7F3によって染色されなかった。これは、C5aRがリンパ球上に発現していないためと考えられる。ホモ接合性およびヘテロ接合性ノックインマウスの単球は、部分的に7F3によって染色され、わずかな割合の細胞がヒトC5aRを発現したことが示される。野生型マウスの単球は、7F3染色に関して陽性を示さなかった。
【0244】
要約すると、ヒトC5aR遺伝子を保有するマウスは、予期される細胞種の表面上にヒトC5aRを発現する。このことから、マウス細胞はヒトC5a受容体を発現しプロセシングし得ることが示される。
【0245】
実施例6:ヒトC5aRノックインマウスを用いて抗炎症化合物をスクリーニングすることができる
ヒトC5aRノックインマウスの有用性を実証するため、ホモ接合性(H5Rf/H5Rf)マウスを炎症性疾患のモデル、すなわち関節リウマチのK/BxNモデルに供した。
【0246】
K/BxN TCRトランスジェニック(tg)マウスは、MHCクラスII分子Ag7によって提示された、遍在的に発現する糖分解酵素、グルコース-6-リン酸イソメラーゼ(GPI)に由来する自己ペプチドに対して反応性を示す、導入遺伝子コード(T細胞受容体)TCRを発現する。これらの動物は3〜4週齢から、極めて強度の関節炎の状態を自然に発生させる。ヒトと同様に、この疾患は慢性、進行性、および対称性であり、ヒトRAの臨床的、組織学的、および免疫学的特徴のほとんど(すべてではないが)を示す。組織学的特徴には、白血球浸潤、滑膜炎、パンヌス形成、軟骨および骨破壊が含まれる。T細胞およびB細胞の両方に大きく依存するこのマウス疾患は関節特異的であるが、遍在的に発現する抗原、GPIに対して自己反応性を示すT細胞によって発症し、次いでB細胞によって永続化する。
【0247】
特筆すべきことに、関節炎K/BxNマウスの血清(またはアフィニティー精製した抗GPI IgG)を健常動物に移入すると、レシピエントが白血球を欠いている場合でさえ、数日内に関節炎が誘発される。
【0248】
血清移入手順、抗体処理、および関節炎スコアリング
60日齢の関節炎K/BxNマウスの血清をプールし、0日目および+2日目それぞれにおいて、6〜9週齢のホモ接合性(H5Rf/H5Rf)および野生型(+/+)マウスに腹腔内(i.p.)注射した(全量150 ul)。-1日目および+3日目それぞれにおいて、PBSに溶解した無菌抗体(200 ugのマウス抗ヒトC5aR抗体7F3−アイソタイプIgG2a、または200 ugのアイソタイプIgG2a対照抗体)をマウスにi.p.注射した。
【0249】
臨床的検査により10〜14日間にわたって関節炎を毎日スコアリングした。罹患した足それぞれにおける関節炎の重症度を以下のように等級化した:
0点:炎症の徴候なし
1点:わずかな炎症(中足骨指節骨関節、個々の指節骨、または局所的浮腫)
2点:腫脹が容易に同定されるが、足の背側または腹側のいずれかに限局
3点:足全面の腫脹
各マウスの4本の足すべてのスコアの合計を臨床スコアとして定義したが(動物当たりの最大スコア=12)、これによって動物における全体的な疾患重症度および進行が表される。
【0250】
測径器を用いて足首の厚みを毎日測定した。後肢足首それぞれの厚みを2度測定し、4つの測定値の平均を算出した。足首肥厚は、0日目の足首の厚みの測定値との差と定義した。マウスの体重は毎日測定した。
【0251】
組織診
関節切片の固定、脱灰、パラフィン切片、およびヘマトキシリン/エオシン染色の基本的な手段、記載されている通りである(Kouskoff et al., 1996、前記)。免疫組織学用には、固定せず脱灰していないクリオスタット切片を得る。簡潔に説明すると、皮膚を含まない切開した足関節をOCT中に包埋し、ドライアイスイソペンタン中で凍結し、-25℃のクライオミクロトーム支持体上に乗せる。所望のレベルまで組織塊を切除した後、その塊の切片表面上に透明テープを貼る。テープの下部で矢状切片(6ないし8 mm厚)を切断し、続いて組織を接着コーティングスライドに移す。スライドは使用するまで-80℃で保存し、次いで30秒〜1分間アセトン固定し、30分間風乾する。50 ng DAPI(Molecular Probes)で核を対比染色する。
【0252】
ホモ接合性ヒトC5aRノックインマウスは炎症性疾患を発症する
炎症性疾患を誘発するため、ホモ接合性ヒトC5aRノックインマウス(C57BL/6バックグラウンド)および野生型/対照(C57BL/6)マウスにK/BxN血清を注射した。以前の研究で、必要な血清の最適用量、および関節リウマチのK/BxNモデルにおける炎症の予測時間経過は決定済みである。本実験では、すべてのマウスに、関節炎K/BxNマウスから採取した血清150 ulの2ロットをi.p.注射した。野生型マウスは血清注射の4日以内に炎症の徴候を示すことが予測された。
【0253】
本発明者らは、hC5aR遺伝子が発現され、受容体タンパク質が正しくプロセシングされてGタンパク質シグナル伝達系と連結されるならば、ヒトC5aRノックインマウスも炎症の徴候を示すと予測した。第一に、マウスおよびヒト細胞におけるC5a受容体に対するヒトC5aの親和性は非常に類似しており(Woodruff et al, 2001, Inflammation, v25, p171-177)、マウスC5aRのヒトC5a受容体に対する親和性はマウスC5aRに対するその親和性と類似していることが示唆される。第二に、C5aR欠損マウスを用いた研究から、C5aRが存在しないことによりK/BxNモデルにおいて炎症が妨げられることが示されている(Ji et al, 2002, Immunity, v16, p157-168)。したがって、ヒトC5aR遺伝子が発現されないか、またはヒトC5aR受容体が正しく機能しない場合、ホモ接合性hC5aRマウスはK/BxN血清注射後に炎症の徴候を示さないと考えられる。
【0254】
本モデルにおいて、炎症の外見上の臨床徴候は、足、特に後肢の浮腫および発赤である。血清注射の前および注射後毎日、上記のようにマウスの体重を測定し、後肢足首厚を測定し、臨床スコアを決定した。図6から、K/BxN血清を注射した野生型マウスおよびホモ接合性マウスの足首厚および臨床スコアが増加したことが示される。ホモ接合性hC5aRノックインマウスにおける疾患の進行は対照マウスと同様であり、血清注射後3日目から炎症が明白になった。このことから、ノックインマウスにおけるヒトC5a受容体の発現およびプロセシングが正常であることが実証される。
【0255】
このモデルの血清注射後13日目のマウスから採取した足首の断面の組織学的検査から、骨びらんおよび滑膜関節への白血球の浸潤が明らかになる。組織破壊および白血球の蓄積の程度は、ホモ接合性hC5aRノックインマウスと対照マウスにおいて同様であった(データは示さず)。
【0256】
ホモ接合性ヒトC5aRノックインマウスを使用して、化合物を抗炎症特性に関して試験することができる
ヒトC5aRノックインマウスは、抗ヒトC5aR化合物を抗炎症活性に関してスクリーニングするための有用な手段として開発した。このマウスの有用性を試験するため、K/BxNモデルにおいて、ホモ接合性hC5aRマウスおよび野生型(対照)マウスの両方に、ヒトC5aRに特異的な抗体(マウスC5aRには結合しない)または対照抗体(同じアイソタイプであるが、無関係な特異性)を投与し、炎症性疾患の進行に及ぼす抗体の影響を決定した。抗体は、1度目のK/BxN血清注射の前日および翌日の2回、i.p.注射した(用量当たり200 ug)。上記の通りにマウスをモニターした。
【0257】
図7に、本実験過程を通しての、マウスにおける臨床的な疾患の進行および足首厚を示す。対照抗体を注射したホモ接合性hC5aRノックインマウスは、腫脹および炎症の他の徴候を発現した。対照的に、抗ヒトC5aR抗体7F3を注射したhC5aRノックインマウスは、炎症の臨床徴候を発現しなかった。7F3で処理した対照(野生型)マウスは、足首厚の増大によって明らかにされる炎症を発現した−7F3はヒトC5aRと特異的に結合し、マウスC5aRとは結合しないことから、予想通りであった。
【0258】
さらに、組織学的解析から、対照抗体を注射したマウスの足首と比較した場合、抗ヒトC5aR抗体を注射したマウスは組織損傷を有さないこと−滑膜関節の構造は骨びらんも過剰な白血球浸潤の徴候もなく正常らしいことが明らかになった(データは示さず)。
【0259】
このデータから、ヒトC5aRノックインマウスが、炎症性疾患モデルにおいて化合物を抗炎症活性に関して試験するのに有用であることが明らかに示される。
【0260】
上記で参照した出版物はすべて、参照によりその全体が本明細書に組み入れられる。
【0261】
当業者には当然のことながら、広く記載された本発明の精神または範囲から逸脱することなく、特定の態様に示したように、多くの変更および/または改変が本発明に対してなされ得る。したがって、本発明の態様は、あらゆる点において限定ではなく例示と見なされるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0262】
【図1】ヒトC5aRノックインマウスを作製するための標的化構築物の設計を示す図。
【図2】CreリコンビナーゼによるPGKneo遺伝子の欠失後のトランスジェニックマウスC5aR遺伝子座を示す図。
【図3】選択された制限部位およびマウスC5aR(C5r1)遺伝子エキソンを示す図。
【図4】PCR遺伝子型同定アッセイで使用したオリゴヌクレオチドプライマーの位置。
【図5】ヒトC5aRがhC5aR遺伝子を保有するマウスの好中球上で発現されることを示すFACS解析。野生型(+/+)、ヘテロ接合性(H5Rf/+)、およびホモ接合性(H5Rf/H5Rf)マウスの血液を、FITCに結合したヒトC5aR特異的抗体7F3と共にインキュベートした。好中球ヒストグラムにおける破線の右側の部分は、7F3-FITCの陽性染色を示す。
【図6】ホモ接合性ヒトC5aRノックインマウスおよび野生型マウスにおけるRA様炎症性疾患の進行。左側のパネルは、K/BxN血清を0日目および2日目にi.p.注射した後の足首厚の増加を示す。右側のパネルは臨床スコアを示す。マウス#10および#25はヒトC5aR遺伝子に関してホモ接合性であり、マウス#38は野生型の同腹仔である。野生型マウスおよびホモ接合性hC5aR遺伝子マウスの両方で、このモデルについて記載されている典型的な様式で、足首肥厚および臨床疾患が発現した(Lee et al (2002) Science, 297, 1689-1692)。
【図7】ホモ接合性ヒトC5aRノックインマウスにおけるRA様炎症性疾患の進行および阻止を示すグラフ。左側のパネルは、K/BxN血清を0日目および2日目にi.p.注射した後の足首厚の増加を示す。右側のパネルは臨床スコアを示す。マウス#7、#10、#24、および#25は、ヒトC5aR遺伝子に関してホモ接合性である。マウス#7および#24にヒトC5aR中和抗体7F3を注射し、マウス#10および#25にアイソタイプ対照抗体を注射した。野生型同腹仔(マウス#38)もまた7F3で処理した。抗体は-1日目および+3日目に注射した。対照抗体を注射したマウスは炎症性疾患を発症した。対照的に、7F3を注射したhC5aRノックインマウスは炎症から保護された。7F3を注射した野生型マウスは炎症から保護されなかった。
【図1−1】

【図1−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトC5aRまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項2】
ポリヌクレオチドが、配列番号:3に示される配列またはその対立遺伝子変種を含むヒトC5aRをコードする、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項3】
ポリヌクレオチドが、配列番号:2に示される配列またはその対立遺伝子変種を含む、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項4】
ポリヌクレオチドがヒト化C5aRをコードする、請求項1記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項5】
ヒト化C5aRが、少なくとも1つの細胞外または細胞内ドメインが対応のヒトC5aRドメインで置換された非ヒト哺乳動物に内在のC5aR配列を含む、請求項4記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項6】
ヒト化C5aRが、非ヒト哺乳動物に内在のC5aR配列の1つまたは複数の細胞内ドメインおよびヒトC5aRの1つまたは複数の細胞外ドメインを含む、請求項4記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項7】
ヒトまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを安定な組込型で含む体細胞および生殖系列細胞を有する、請求項1〜6のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項8】
ヒトまたはヒト化C5aRについてホモ接合性である、請求項1〜7のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項9】
トランスジェニック哺乳動物における内在性C5aRの発現が検出不可能であるかまたはわずかである、請求項1〜8のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項10】
標的相同組換えにより、内在性C5aRコード配列またはその断片が、対応のヒトC5aRコード配列またはその断片で置換されている、請求項9記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項11】
ウシ、ブタ、ヤギ、ヒツジ、ラクダ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、ヒヒ、ウサギ、モルモット、ラット、ハムスター、およびマウスからなる群より選択される、請求項1〜7のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項12】
齧歯動物である、請求項1〜11のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項13】
マウスである、請求項1〜12のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物。
【請求項14】
ヒトC5aRまたはヒト化C5aRをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1〜13のいずれか一項記載のトランスジェニック非ヒト哺乳動物から得られる単離された細胞、細胞株、組織、または臓器。
【請求項15】
化合物をC5aRシグナル伝達に関連する表現型に及ぼす影響について試験するためのトランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製する方法であって、トランスジェニック非ヒト哺乳動物を作製するために、非ヒト哺乳動物のゲノムにヒトC5aR、ヒト化C5aR、またはヒトC5aRの断片をコードするポリヌクレオチド構築物を導入する段階を含む方法。
【請求項16】
ポリヌクレオチド構築物がヒトC5aRをコードする、請求項15記載の方法。
【請求項17】
ポリヌクレオチド構築物が、配列番号:3に示される配列またはその対立遺伝子変種を含むポリペプチドをコードする、請求項16記載の方法。
【請求項18】
ポリヌクレオチド構築物が、配列番号:2に示される配列またはその対立遺伝子変種を含む、請求項16記載の方法。
【請求項19】
ポリヌクレオチド構築物がヒト化C5aRをコードする、請求項15記載の方法。
【請求項20】
ポリヌクレオチド構築物がヒトC5aRの断片をコードする、請求項15記載の方法。
【請求項21】
断片がヒトC5aRの少なくとも1つのドメインまたはその一部を包含する、請求項20記載の方法。
【請求項22】
断片がヒトC5aRの少なくとも1つの細胞外ドメインを包含する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ポリヌクレオチド構築物が選択マーカーをさらに含む、請求項15〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
選択マーカーがPGK-neo遺伝子である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
選択マーカーにloxP部位が隣接する、請求項23または請求項24記載の方法。
【請求項26】
非ヒト哺乳動物の内在性C5aRを破壊する段階をさらに含む、請求項15〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
標的相同組換えにより、内在性C5aRコード配列またはその断片を対応のヒトC5aRコード配列またはその断片で置換する段階を含む、請求項15〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
候補化合物の少なくとも1つの薬物動態学的および/または薬力学的効果を評価する方法であって、請求項1〜13のいずれか一項記載のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階、およびトランスジェニック哺乳動物において候補化合物の少なくとも1つの薬物動態学的および/または薬力学的効果を試験する段階を含む方法。
【請求項29】
試験される少なくとも1つの薬物動態学的効果が、吸収パラメータ、分布パラメータ、代謝パラメータ、または排泄パラメータである、請求項28記載の方法。
【請求項30】
試験される少なくとも1つの薬物動態学的効果が、分布容積、総クリアランス、タンパク質結合、組織結合、代謝クリアランス、腎クリアランス、肝クリアランス、胆汁クリアランス、腸管吸収、生物学的利用能、相対的生物学的利用能、固有クリアランス、平均滞留時間、最大代謝率、ミカエリスメンテン定数、組織と血液または組織と血漿間の分配係数、尿中未変化体排泄率、薬物の代謝産物への全身変換率、排出速度定数、半減期、または分泌クリアランスである、請求項28または請求項29記載の方法。
【請求項31】
少なくとも1つの薬力学的効果がC5aRシグナル伝達に関連する表現型の調節である、請求項28記載の方法。
【請求項32】
(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、請求項1〜13のいずれか一項記載のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;および(ii) 化合物の投与後に少なくとも1つの表現型の発生をモニターする段階を含む、請求項31記載の方法。
【請求項33】
(iii) 化合物を投与したトランスジェニック哺乳動物またはそれに由来する細胞における表現型の程度を、対照哺乳動物またはそれに由来する細胞と比較する段階をさらに含み、対照哺乳動物と比較した場合の表現型の性質または程度の任意の相違によって化合物がC5aR活性を調節する可能性が示される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;(ii) 化合物の投与後に少なくとも1つの表現型の発生をモニターする段階;および任意で(iii) 化合物を投与したトランスジェニック哺乳動物における表現型の程度を対照哺乳動物と比較する段階を含み、対照哺乳動物と比較した場合の表現型の性質または程度の任意の減少または阻害によって、化合物がC5aR活性を阻害または減少させる可能性が示される、請求項31記載の方法。
【請求項35】
(i) C5aRシグナル伝達に関連する少なくとも1つの表現型が発現される条件下で、本発明のトランスジェニック哺乳動物またはそれから得られた単離された組織もしくは細胞に候補化合物を投与する段階;(ii) 化合物の投与後に表現型の発生をモニターする段階;および任意で(iii) 化合物を投与したトランスジェニック哺乳動物における表現型の程度を対照哺乳動物と比較する段階を含み、対照哺乳動物と比較した場合の表現型の性質または程度の任意の増強によって、化合物がC5aR活性を促進または増強する可能性が示される、請求項31記載の方法。
【請求項36】
表現型がC5aRシグナル伝達によって悪化する病態である、請求項31〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項37】
表現型が免疫複合体障害、炎症性もしくはアレルギー疾患、移植片拒絶、または癌である、請求項36記載の方法。
【請求項38】
表現型がC5aRシグナル伝達の増加によって軽減または寛解する病態である、請求項31〜35のいずれか一項記載の方法。
【請求項39】
表現型が免疫抑制である、請求項38記載の方法。
【請求項40】
化合物が、以下を含むペプチド:C5aR機能を阻害し得る、減少させ得る、または抑制し得る、C5aRもしくはC5aに由来するペプチドまたはその他の非C5aRペプチド、C5aRドミナントネガティブ変異体;C5aRの非ペプチド阻害物質;C5aRに結合してC5aR機能を阻害する抗体または抗体断片;小有機分子、C5aRもしくはC5aに由来する該ペプチドまたはその他の非C5aRペプチド阻害物質をコードする核酸、C5aRコードmRNAに対するアンチセンス核酸、抗C5aRリボザイム、およびC5aR遺伝子発現を標的とする低分子干渉RNA(RNAi)からなる群より選択される、請求項28〜39のいずれか一項記載の方法。
【請求項41】
核酸が、C5aRに由来するペプチドまたはその他の非C5aRペプチド阻害物質、C5aRコードmRNAに対するアンチセンス核酸、抗C5aRリボザイム、またはC5aR遺伝子発現を標的とする低分子干渉RNA(RNAi)をコードする、請求項40記載の核酸。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2007−520212(P2007−520212A)
【公表日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−545851(P2006−545851)
【出願日】平成16年12月24日(2004.12.24)
【国際出願番号】PCT/AU2004/001844
【国際公開番号】WO2005/060739
【国際公開日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(506219513)ジー2 インフラメイション ピーティーワイ エルティーディー (2)
【Fターム(参考)】