説明

ヒト・CTLA−8およびCTLA−8−関連蛋白質の用途

【課題】新しいサイトカインおよび他の分泌因子を同定し、それらをコードするポリヌクレオチドを単離する新しい方法、および当該サイトカインの用途の提供。
【解決手段】ヒトCTLA−8をコードするポリヌクレオチド、ヒトCTLA−8ポリペプチド。これらのポリヌクレオチドおよびポリペプチドを用いることにより、対象における血管新生の阻害、血管内皮細胞の増殖の阻害、腫瘍の増殖の阻害、血管新生に依存する組織増殖の阻害、骨髄細胞または前駆細胞の増殖、赤血球系細胞または前駆細胞の増殖、リンパ球または前駆細胞の増殖、IFNγ産生の誘導、IL−3産生の誘導ならびにGM−CSF産生の誘導を効果的に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトCTLA−8蛋白質、そのような蛋白質をコードする核酸、そのような蛋白質を用いる方法に関する。本発明はまた、ラットCTLA−8蛋白質およびヘルペスウイルスサイミリのORF13蛋白質の治療方法における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
サイトカインは、特定の造血標的細胞に作用し、分化を起こさせたり、他の標的細胞に作用して、炎症の特徴的蛋白質の分泌のような特有の生理的応答を誘発する分泌蛋白質である。サイトカインはまた、リンホカイン、ヘマトポエチン、インターロイキン、コロニー刺激 因子などとしても知られており、特に、特異的な細胞集団が欠乏している疾患または症状の治療薬として重要である。例えば、エリスロポエチン、G−CSFおよびGM−CSFは全て、各々、貧血および白血球減少症の治療用に重要になっている。インターロイキン−3、インターロイキン−6、インターロイキン−11およびインターロイキン−12は、血小板減少症および免疫応答の変調のような症状の治療において有望である。
これらの理由から、新しいサイトカインの調査およびそれらをコードするDNAのクローニングについて、重要な研究努力がなされている。過去において、新しいサイトカインは、骨髄細胞のような個々の細胞の、増殖のような測定可能な応答を分析することにより同定されていた。したがって、新しいサイトカインの調査は、利用できる分析法によって制限され、新しいサイトカインが、公知の分析法で測定できない活性を有する場合、そのサイトカインは検出できないままである。より新しいアプローチは、複製連鎖反応(PCR)および公知のサイトカインまたはそれら受容体の共有特色に相同性を有するオリゴヌクレオチド・プライマーを使用して、サイトカインをコードするcDNAを検出している。PCRアプローチも、同じ蛋白質ファミリーで予めクローンされたサイトカインの知識を必要とするために制限される。サイトカインはまた、差し引きハイブリダイゼーションを使用し、cDNAライブラリーの構築およびスクリーニングをしてクローンされており、あるいは、PCR、ついでゲル電気泳動を用いて、区別して発現する遺伝子を検出することによってクローンできる可能性がある。消去式ハイブリダイゼーションは、サイトカインmRNAが区別して発現するmRNAであるとの仮定に基づいており、該方法は、興味ある配列の先行知識を何ら必要としない。しかし、多くのサイトカインは、区別して発現しないmRNAによってコードされうるもので、それ故、この方法を使用して検出することはできない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
新しいサイトカインおよび他の分泌因子を同定し、それらをコードするポリヌクレオチドを単離する新しい方法の開発が要求されている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の開発において、分泌蛋白質をコードするポリヌクレオチドを選択的に同定する方法を採用した。単離されたポリヌクレオチドの1つが、「ヒト・CTLA−8」である。本発明は、ヒトCTLA−8およびその活性フラグメントをコードするポリヌクレオチドを開示する。本明細書において使用する「CTLA−8」なる用語は、その蛋白質および蛋白質をコードするポリヌクレオチドの両方を称し、また、全ての哺乳類からの蛋白質およびポリヌクレオチドを称する。
【0005】
1の具体例において、本発明は、
(a)配列番号1のヌクレオチド146〜ヌクレオチド544の塩基配列、
(b)(a)の塩基配列にハイブリダイズできる塩基配列、
(c)遺伝子コードの縮重による(a)の塩基配列の変形した塩基配列、および
(d)(a)の塩基配列の対立遺伝子変異体
からなる群から選ばれる塩基配列からなる単離されたポリヌクレオチドを提供するものである。
好ましくは、本発明のポリヌクレオチドは、CTLA−8活性を有する蛋白質をコードする。他の具体例において、ポリヌクレオチドは、発現制御配列と作動可能の連結している。他の好ましい具体例において、ポリヌクレオチドは、哺乳動物においてin vivo発現に適したベクター中に含有される。ポリヌクレオチドは、配列番号1のヌクレオチド55〜ヌクレオチド544の塩基配列、配列番号1のヌクレオチド139〜ヌクレオチド544の塩基配列または配列番号1のヌクレオチド86〜ヌクレオチド544の塩基配列からなるものが特に好ましい。
本発明は、哺乳動物細胞を含め、本発明のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞も提供する。
ヒトCTLA−8の製造方法も提供するもので、該方法は、
(a)本発明の宿主細胞の培養物を適当な培地中で増殖させ、
(b)該培養物からヒトCTLA−8蛋白質を精製することからなる。
単離されたヒトCTLA−8蛋白質も提供するもので、それは、
(a)配列番号2のアミノ酸配列、
(b)配列番号2のアミノ酸11〜163のアミノ酸配列、
(c)配列番号2のアミノ酸29〜163のアミノ酸配列、
(d)配列番号2のアミノ酸31〜163のアミノ酸配列、および
(e)CTLA−8活性を有する(a)、(b)、(c)または(d)のフラグメント
からなる群から選ばれるアミノ酸配列からなる。
【0006】
配列番号2のアミノ酸配列からなる蛋白質および配列番号2のアミノ酸29〜163の配列、アミノ酸31〜163の配列またはアミノ酸11〜163の配列からなる蛋白質が特に好ましい。好ましくは、蛋白質はCTLA−8活性を有する。本発明のヒトCTLA−8蛋白質および医薬上許容される担体からなる医薬組成物も提供する。
本発明のヒトCTLA−8と特異的に反応する抗体からなる組成物も開示する。
ヒトCTLA−8蛋白質からなる医薬組成物の治療有効量を投与することからなる哺乳動物対象の治療方法も提供する。
ラットCTLA−8およびその活性(すなわち、CTLA−8活性)フラグメントもこの方法で使用できる。好ましくは、該ラット蛋白質は、医薬上許容される担体と、
(a)配列番号4のアミノ酸配列、
(b)配列番号4のアミノ酸18〜150のアミノ酸配列、および
(c)CTLA−8活性を有する(a)または(b)のフラグメント
からなる群から選ばれるアミノ酸配列からなる蛋白質とからなる組成物として投与される。
ここでは「ヘルペスCTLA−8」と称するヘルペスウイルスサイミリ
ORF13およびその活性(すなわち、CTLA−8活性)フラグメントも、本発明の方法に使用できる。好ましくは、ヘルペスCTLA−8蛋白質は、医薬上許容される担体と、
(a)配列番号6のアミノ酸配列、
(b)配列番号6のアミノ酸19〜151のアミノ酸配列、および
(c)CTLA−8活性を有する(a)または(b)のフラグメント
からなる群から選ばれるアミノ酸配列からなる蛋白質とからなる組成物として投与される。
本発明はまた、医薬上許容される担体と、IL−17またはその活性フラグメントからなる組成物の治療有効量を投与することからなる哺乳動物対象の治療方法も提供する。
本発明の治療方法において、好ましくは、対象は、血管形成の抑制、血管内皮細胞の増殖抑制、腫瘍増殖の抑制、血管形成依存組織増殖、骨髄細胞または前駆細胞の増殖、赤血球系細胞または前駆細胞の増殖、リンパ性細胞または前駆細胞の増殖の抑制、IFNγ産生の誘発、IL−3産生の誘発およびGM−CSF産生の誘発を生じさせるために治療される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヒトCTLA−8をコードするポリヌクレオチド、ヒトCTLA−8ポリペプチド、それらの使用などが提供される。これらのポリヌクレオチドおよびポリペプチドを用いることにより、対象における血管新生の阻害、血管内皮細胞の増殖の阻害、腫瘍の増殖の阻害、血管新生に依存する組織増殖の阻害、骨髄細胞または前駆細胞の増殖、赤血球系細胞または前駆細胞の増殖、リンパ球または前駆細胞の増殖、IFNγ産生の誘導、IL−3産生の誘導ならびにGM−CSF産生の誘導を効果的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の発明者らは、ヒト・CTLA−8蛋白をコードしているポリヌクレオチドを同定し、これを提供した。配列番号:1は、ヒトCTLA−8蛋白をコードしているcDNAヌクレオチド配列を示す。配列番号:2は、ヒト・CTLA−8蛋白のアミノ酸配列を示す。また、開始メチオニンは配列番号:2のアミノ酸11でありうる。アミノ末端配列決定に基づけば、成熟蛋白配列は配列番号:2のアミノ酸31(配列番号:1のヌクレオチド146から開始する配列によりコードされている)から開始すると考えられる。
ヒト・CTLA−8(配列番号:2)のアミノ酸29からアミノ酸163までの領域は、ラット・CTLA−8(配列番号:4のアミノ酸18から150)およびヘルペスウイルスサイミリ(Saimiri)のORF13(「ヘルペス・CTLA−8」という)(配列番号:5のアミノ酸19から151まで)に対して著しい相同性を示す。ラット・CTLA−8をコードしているcDNA配列を配列番号:3に示し、その対応アミノ酸配列を配列番号:4に示す。ヘルペス・CTLA−8をコードしているcDNA配列を配列番号:5に示し、その対応アミノ酸配列を配列番号:6に示す。ラット・CTLA−8とヘルペスCTLA−8のとの間の相同性は、Rouvier et al., J.Immunol.1993,150,5445-5456により報告されている。
出願人らは、すでに、不正確ではあるが、ネズミ・CTLA−8にあてはまるものとして配列番号:3および配列番号:4のラット・配列を同定した。出願人らのヒト・CTLA−8(B18)は真のネズミ・CTLA−8配列に対しても相同性を示す。
Golsteinら(WO95/18826;Fossiez et al.,Microbial Evasion and Subversion of Immunity 544:3222(Abstract))もまた、最初に「ヒト・CTLA−8」と同定された種を報告している。しかしながら、Golsteinらの種の配列および本発明ヒト・CTLA−8(B18)の配列を試験することにより、それらが2つの異なる蛋白ではあるが、互いに相同的であり、本明細書記載のラット・CTLA−8およびヘルペス・CTLA−8に対して相同性があることが容易に明らかとなる。Golsteinらの種はインターロイキン−17(IL−17)と改名された。出願人らのヒト・CTLA−8(B18)およびIL−17の間に相同性により、これらの蛋白は特定の活性を共有していると考えられる。
【0009】
発現の際、ヒト・CTLA−8(B18)がホモ二量体を形成することも、すでに明らかとなっている。その結果、ヒト・CTLA−8蛋白は1量体または2量体の形態のいずれかにおいて活性を有する可能性がある。また、ヒト・CTLA−8蛋白はラットおよびヘルペス・CTLA−8蛋白ならびにヒト・IL−17とともにヘテロ二量体を形成する可能性がある。これらのヘテロ二量体は、それを構成している蛋白の活性を有するとも考えられる。
全長に満たないヒト・CTLA−8蛋白も本発明に包含され、ヒト・CTLA−8蛋白(配列番号:1)をコードしているポリヌクレオチドの対応フラグメントを発現することにより製造することができる。これらの対応ポリヌクレオチドフラグメントも本発明の一部である。当該分野において知られている部位特異的突然変異法を包含する標準的な分子生物学的方法により、あるいは適当なオリゴヌクレオチドプライマーを用いるポリメラーゼ連鎖反応により、上記修飾ポリヌクレオチドを製造してもよい。
本発明の目的からすると、(1)因子−依存的細胞増殖アッセイにおいて活性を示す(好ましくは、全長のCTLA−8に対応する種の全長が活性を有するアッセイ)、あるいは(2)γ−IFNの発現または分泌を誘導する、あるいは(3)化学誘引性または化学走性アッセイにおいて化学誘引性または化学走性を示す(好ましくは、全長のCTLA−8に対応する種の全長が活性を有するアッセイ)、あるいはIL−3またはGM−CSFの発現または分泌を誘導する場合に、活性蛋白は「CTLA−8」活性を有する。
CTLA−8活性を有するヒト・CTLA−8蛋白またはそのフラグメントを免疫グロブリンのごときキャリア分子と融合させてもよい。例えば、ヒト・CTLA−8蛋白を、「リンカー」配列を介して、免疫グロブリンのFc部分に融合させてもよい。
また本発明は、配列番号:記載のヌクレオチド配列の対立遺伝子変異体、すなわち、CTLA−8活性を有するヒト・CTLA−8またはCTLA−8蛋白をやはりコードしている天然に発生する配列番号:1の単離ポリペプチドの別形態をも包含する。また、非常に厳密な条件(0.2xSSC 65℃)、厳密な条件(例えば、4xSSC 65℃あるいは50%ホルムアミドおよび4xSSC 42℃)、または厳密性を減じた条件(4xSSC 50℃あるいは30−40%ホルムアミドおよび4xSSC 42℃)で配列番号:1に示すヌクレオチド配列にハイブリダイゼーションする単離ポリヌクレオチドも本発明に包含される。遺伝コードの縮重によってヒト・CTLA−8蛋白をコードしているが配列番号:1に示すヌクレオチド配列とは異なる単離ポリヌクレオチドも本発明に包含される。点突然変異により、またはCTLA−8活性、半減期もしくは産生レベルを増加させるために誘導された修飾により生じる配列番号:1に示すヌクレオチド配列中の変化も本発明に包含される。
【0010】
Kaufman et al.,Nucleic Acids Res.19,4485-4490(1991)に開示されたpMT2またはpED発現ベクターのごとき発現制御配列に本発明単離ポリヌクレオチドを作動可能に連結して、CTLA−8蛋白を組み換え法により製造してもよい。多くの適当な発現制御配列が当該分野において知られている。組み換え蛋白の一般的発現方法も知られており、R.Kaufman,Methods inEnzymology 185,537-566(1990)において説明されている。本明細書において定義される「作動可能に連結」とは、酵素的または化学的に連結されて本発明単離ポリヌクレオチドと発現制御配列との間に共有結合が形成され、その結果、連結されたポリヌクレオチド/発現制御配列2を用いて形質転換(トランスフェクション)された宿主細胞によりCTLA−8蛋白が発現されるよういになっていることを意味する。
多くのタイプの細胞が、ヒト・CTLA−8蛋白発現のための適当な細胞として作用しうる。機能的なヒト・CTLA−8蛋白を発現しうるいずれの細胞を用いてもよい。適当な哺乳動物宿主細胞は、例えば、サル・COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、ヒト・腎293細胞、ヒト・上皮A431細胞、ヒト・結腸205細胞、3T3細胞、CV−1細胞、他の形質転換された霊長類の細胞系、正常2倍体細胞、インビトロ1次組織培養から得られる細胞株、1次移植物、HeLa細胞、マウス・L細胞、BHK、HL−60、U937、HaK、Rat2、BaF3、32D、FDCP−1、PC12またはC2C12細胞を包含する。
本発明単離ポリヌクレオチドを1種またはそれ以上の昆虫発現ベクター中の適当な制御配列に作動可能に連結し、昆虫発現系を用いることにより、ヒト・CTLA−8蛋白を製造してもよい。バキュロウイルス/昆虫細胞発現系のための材料および方法は、キット形態で、例えば、Invitrogen,San Diego,California,USAから市販されており(MaxBacRキット)、かかる方法はSummers and Smith,Texas Agricultural Experiment Station Bulletin No.1555(1987)(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に記載されているようなものであり、当該分野においてよく知られている。上記のごとく適当な単離ポリヌクレオチドを用いてヒト・CTLA−8の可溶性形態を昆虫細胞において製造してもよい。
別法として、酵母のごとき下等真核生物または細菌のごとき原核生物においてヒト・CTLA−8蛋白を製造してもよい。適当な酵母株はSaccharomyces cerevisiae、Schizosaccharomyces pombe、Kluyveromyces株、Candida、または異種蛋白発現可能な酵母株を包含する。適当な細菌株は、Escherichia coli、Bacillus subtilis、Salmonella typhimurium、または異種蛋白発現可能な細菌株を包含する。トランスジェニック動物の産生物として、例えば、ヒト・CTLA−8蛋白をコードしているポリヌクレオチド配列を含む体細胞または生殖細胞により特徴づけられるトランスジェニックなウシ、ヤギ、ブタ、またはヒツジの乳成分として本発明ヒト・CTLA−8蛋白を発現させてもよい。
所望蛋白発現に必要な培養条件下で形質転換宿主細胞培養を増殖させることにより本発明ヒト・CTLA−8蛋白を製造してもよい。次いで、得られた発現蛋白を培地または細胞抽出物から精製してもよい。本発明ヒト・CTLA−8の可溶性形態をならし培地から精製することができる。発現細胞から全膜フラクションを調製し、Triton X-100のごとき非イオン性界面活性剤で膜を抽出することにより、膜結合形態の本発明ヒト・CTLA−8蛋白を精製することができる。
【0011】
当業者に知られた方法によってヒト・CTLA−8蛋白を精製することができる。例えば、市販蛋白濃縮フィルター(例えばAmiconまたはMillipore
Pellicon限外濾過ユニット)を用いて本発明ヒト・CTLA−8蛋白を濃縮することができる。濃縮工程後、濃縮物をゲル濾過媒体のごとき精製マトリックスに適用することができる。別法として、アニオン交換樹脂、例えば、懸垂ジエチルアミノエチル(DEAE)基を有するマトリックスまたは基材を用ることもできる。マトリックスはアクリルアミド、アガロース、デキストラン、セルロースまたは蛋白精製に広く用いられる他のタイプのものであってよい。別法として、カチオン交換工程を用いることができる。適当なカチオン交換体は、スルフプロピルまたはカルボキシメチル基を含む種々の不溶性マトリックスを包含する。スルフプロピル基が好ましい(例えば、S-Sepharoseカラム)。培養上清からのヒト・CTLA−8蛋白の精製に、コンカナバリンA−アガロース、ヘパリン−toyopearlまたはCibacrom blue 3GA Sepharoseのごときアフィニティー樹脂による1種またはそれ以上のカラム工程を用いてもよく、あるいはフェニルエーテル、ブチルエーテル、またはプロピルエーテルのごとき樹脂を用いる疎水性クロマトグラフィーにより、あるいは免疫アフィニティークロマトグラフィーにより精製してもよい。最終的に、疎水性RP−HPLC媒体、例えば、懸垂メチルもしくは他の脂肪族基を有するシリカゲルを用いる1種またはそれ以上の逆相高品質液体クロマトグラフィー(RP−HPLC)工程を用いてヒト・CTLA−8をさらに精製することができる。上記精製工程のいくつかまたは全部を、種々の組み合わせまたは他の知られた方法との組み合わせにおいて使用して実質的に精製された単離組み換え蛋白を得ることもできる。
好ましくは、ヒト・CTLA−8蛋白を、他の哺乳動物蛋白を実質的に含まないように精製する。
【0012】
ヒト・CTLA−8、その活性フラグメントおよび変異体、ならびにCTLA−8関連蛋白(例えば、ラット・CTLA−8およびヘルペス・CTLA−8のごとき)(まとめて「CTLA−8蛋白」という)は、サイトカイン活性を有するか、または誘導する。ヒト・CTLA−8発現は、誘導された1次培養細胞においてγ−IFN発現に関連しており、IL−3および/またはGM−CSFの発現を誘導することができ、次いで、その発現は、誘導されたサイトカインに関連した効果を生じさせうる。それゆえ、ヒト・CTLA−8およびCTLA−8関連蛋白は、骨髄細胞、赤血球系細胞、リンパ細胞およびそれらの前駆細胞の増殖または機能に影響するかもしれない。またヒト・CTLA−8蛋白は、血小板またはそれらの前駆細胞の形成においても役割を果たしているかもしれない。
本発明蛋白は、サイトカイン活性、細胞増殖活性(誘導または阻害のいずれか)または細胞分化活性(誘導または阻害のいずれか)を示すかもしれず、あるいは特定の細胞集団においては他のサイトカインの産生を誘導するかもしれない。現在に至るまで見いだされた多くの蛋白性因子(既知サイトカインを包含)は、1種またはそれ以上の因子に依存した細胞増殖アッセイにおいて活性を示し、それゆえ、アッセイはサイトカイン活性の便利な確認方法として役立つ。細胞系(32D、DA2、DA1G、T10、B9、B9/11、BaF3、MC9/G、M+(preM+)、2E8、RB5、DA1、123、T1165、HT2、CTLL2、TF−1、Mo7eおよびCMKを包含するが、これらに限らない)に関する多くの通常の因子依存性細胞増殖アッセイのいずれかにより本発明蛋白の活性を確認する。
【0013】
本発明蛋白の活性を、特に、下記方法により測定してもよい。
T細胞または胸腺リンパ球増殖のアッセイは、Current Protocols in Immunology, Ed by J.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.,Marguelis,E.M.Shevach,W.Strober,Pub.Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 3,In vitro assays for Mouse Lymphocyte Function 3.1-3.19; Chapter 7,Immunogenic studies in Humans); Takai et al.,J.Immunol.137:3494-3500,1986; Bertagnolli et al.,J.Immunol.145:1706-1712,1990; Bertagnolli et al.,Cellular Immunology 133:327-341,1991; Bertagnolli, et al.,J.Immunol.149:3778-3783,1992; Bowman et al.,J.Immunol.152:1756-1761,1994に記載のものを包含するが、これらに限らない。
脾臓細胞、リンパ節細胞または胸腺リンパ球のサイトカイン産生および/または増殖についてのアッセイは、Polyclonal T cell stimulation,Kruisbeek,A.M.and Shevach,E.M.In Current Protocols in Immunology, J.E.Coligan eds. Vol 1 pp.3.12.1-3.12.14,Joghn Wiley and Sons,Toronto,1994;およびMeasurement of mouse and human Interferon γ,Schreiber,R.D.In Current Protocols in Immunology,J.E.Coligan eds. Vol 1 pp.6.8.1-6.8.8,Joghn Wiley and Sons,Toronto,1994に記載されたものを包含するが、これらに限らない。
造血細胞および造リンパ細胞の増殖および分化についてのアッセイは、
Measurement of Human and Murine Interleukin 2 and 4,Bottomly,K.,Davis,L.S.and Lipsky,P.E.In Current Protocols in Immunology,J.E.Coligan eds. Vol 1 pp.6.3.1-6.3.12,Joghn Wiley and Sons,Toronto,1991; deVries et al.,J.Exp.Med,173:1205-1211,1991; Moreau et al.,Nature 336:690-692,1988; Greenberg et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,80:2931-2938; Measurement of mouse and human interleukin 6-Nordan,R.In Current Protocols in Immunology,J.E.Coligan eds. Vol 1 pp.6.6.1-6.6.5,Joghn Wiley and Sons,Toronto,1991; Smith et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:1857-1861,1986; Measurement of human interleukin 11-Bennett,F.,Giannoti,J.,Clark,S.C. and Turner,K.J.In Current Protocols in Immunology,J.E.Coligan eds. Vol 1 pp.6.15.1,Joghn Wiley and Sons,Toronto,1991; Measurement of mouse and human interleukin 9-Ciarletta,A,mGiannotti,J.,Clark,S.C.and Turner K.J.In Current Protocols in Immunology,J.E.Coligan eds. Vol 1 pp.6.13.1,Joghn Wiley and Sons,Toronto,1991に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
抗原に対するT細胞応答のアッセイ(特に、増殖およびサイトカイン産生を測定することにより、APC−T細胞相互作用に影響し、T細胞の効果を発揮させる蛋白を同定するアッセイ)は、Current Protocols in Immunology,Ed. by J.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.Margulies,E.M.Shevach,W Strober, Pub.Geene Publishing Associates and Wiley-Interscience (Chapter 3, In vitro assays for Mouse Lymphocyte Function;Chapter 6,Cytokines and their cellular receptors;Chapter 7,Immunologic studies in Humans); Weiberger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 77:6901-6905,1980; Weinberger et al.,Eur.J.Immun.11:405-411,1981;Takai et al.,J.Immunol.137:3494-3500,1986; Takai et al.,J.Immunol.140:508-512,1988に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0014】
また本発明蛋白は、本明細書記載のアッセイにおける活性(これらに限らない)を包含する免疫刺激または免疫抑制活性を示すものであってもよい。蛋白は、種々の欠乏症および障害(重症の免疫欠乏合併症(SCID)を包含)において有用である可能性があり、例えば、Tおよび/またはBリンパ球の増殖をアップレギュレーションまたはダウンレギュレーションすることにおいて、ならびにNK細胞および他の細胞集団の細胞溶解活性を有効ならしめることにおいて有用でありうる。これらの免疫欠乏症は遺伝的なものであってもよく、またウイルス(例えば、HIV)ならびに細菌または真菌感染により引き起こされるものであってもよく、あるいは自己免疫疾患により引き起こされるものであってもよい。より詳細には、ウイルス、細菌、真菌または他の感染物質により引き起こされる感染性疾患、例えば、HIV、肝炎ウイルス、ヘルペスウイルス、ミコバクテリア、レシュマニア、マラリアおよびカンジダのごとき種々の真菌感染症を、本発明蛋白を用いて治療することができるかもしれない。もちろん、この点において、免疫系に対するブーストが指示される場合、すなわち、癌の治療において、本発明蛋白を用いてよい。
本発明蛋白を用いて治療してもよい自己免疫疾患は、例えば、多発性硬化症、全身性の深在性エリトマーデス、リューマチ性関節炎、自己免疫性肺炎、Guillain-Barre症候群、自己免疫性甲状腺炎、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、対宿主移植片疾患および自己免疫性の炎症性の目の疾患を包含する。本発明のかかる蛋白を、喘息または他の呼吸器系の疾患のごときアレルギー性反応および症状の治療に用いてもよい。免疫抑制が望まれる他の症状(例えば、喘息および関連呼吸器系の症状を包含)を本発明蛋白を用いて治療してもよい。 また本発明蛋白は、慢性または急性の炎症、例えば、感染に関連した炎症(敗血性ショックまたは全身性炎症応答症候群(SIRS))、炎症性腸疾患、クローン病、またはTNFもしくはIL−1のごときサイトカインの過剰産生から生じる疾病(IL−11により示される効果のごときもの)を抑制することもできる。
本発明蛋白の活性を、特に、下記方法により測定してもよい。
胸腺細胞または脾臓細胞の細胞毒性に適したアッセイは、Current Protocols in Immunology,Ed by J.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.,Marguelis,E.M.Shevach,W.Strober,Pub.Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience(Chapter 3,In vitro assays for Mouse Lymphocyte Function 3.1-3.19;Chapter 7,Immunogenic studies in Humans); Herrmann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2488-2492,1981; Herrmann et al.,J.Immunol.,128:1968-1974,1982; Handa et al.,J.Immunol.135:1564-1572,1985; Takai et al.,J.Immunol.137:2494-3500,1986; Takai et al.,J.Immunol.140:508-512,1988; Herrmann et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 78:2488-2492,1981; Herrmann et al.,J.Immunol.128:1968-1974,1982; Handa et al.,J.Immunol.135:1564-1572,1985; Takai et al.,J.Immunol.137:3494-3500,1986; Bowman et al.,J.Virology 61:1992-1998; Takai et al.,J.Immunol.140:508-512,1988; Bertagnolli et al.,Cellular Immunology 133:327-341,1991; Brown et al.,J.Immunol.153:3079-3092,1994に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0015】
T細胞依存性免疫グロブリン応答およびイソタイプスイッチングのためのアッセイ(特に、T細胞依存性抗体応答を転調させ、Th1/Th2プロフィールに影響する蛋白を同定する)は、Maliazewski,J.Immunol.144:3028-3033,1990に記載されているアッセイを包含するが、これに限らず、さらにB細胞の機能のアッセイは、In vitro antibody production,Mond,J.J.and Brunswick,M. In Current Protocols in Immunology J.E.Coligan eds.Val 1 pp.3.8.1-3.8.16,John Wiley and Sons,Tronto 1994に記載のアッセイを包含する。
混合リンパ球反応(MLR)アッセイ(特に、主としてTh1およひCTL応答を発生させる蛋白を同定する)は、Current Protocols in Immunology, Ed by J.E.Coligan,A.M.Kruisbeek,D.H.,Marguelis,E.M.Shevach,W.Strober, Pub.Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience(Chapter 3,In vitro assays for Mouse Lymphocyte Function 3.1-3.19;Chapter 7, Immunogenic studies in Humans); Takai et al.,J.Immunol.137:3494-3500, 1986; Takai et al.,J.Immunol.140:508-512,1988; Ertagnolli et al.,J. Immunol.149:3778-3783,1992に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
樹枝状細胞依存的アッセイ(特に、無処理のT細胞を活性化する樹枝状細胞により発現される蛋白を同定する)は、Guery et al.J.Immunol.134:536-544,1995; Inaba et al.Journal of Experimental Medicine 173:549-559,1991; Macatonia et al., Journal of Immunology 154:5071-5079,1995; Porgador et al.,Journal of Experimental Medicine 182:255-260,1995; Nair et al., Journal of Virology 67:4062-4069,1993; Huang et al.,Science 264:961-965,1994; Macatonia et al.,Journal of Experimental Medicine 169:1225-1264,1989; Bhadwaj et al.,Journal of Clinical Investigation 94:797-807,1994;およびInaba et al., Journal of Experimental Medicine 172:631-640,1990に記載さいれたアッセイを包含するが、これらに限らない。
リンパ球生存/アポトーシスのアッセイ(特に、超抗体誘導後のアポトーシスを防止する蛋白、ならびにリンパ球のホメオスタシスを調節する蛋白を同定する)は、Darzynkiewicz et al.,Cytometry 13:795-808,1992; Gorczyca et al.,Leukimia 7:659-670,1993; Gorczyca et al.,Cancer Research 53:1945-1951,1993; Itoh et al.,Cell 66:233-243,1991; Zacharchuk,Journal of Immunology 145:4037-4045,1990; Zamai et al.,Cytometry 14:891-897,1993; Gorczyca et al.,International Journal of Oncology 1:639-648,1992に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
初期段階のT細胞のコミットメント(commitment)および発達のアッセイは、Antica et al.,Blood 84:111-117,1994; Fine et al.,Cellular Immunology 155:111-122,1994; Galy et al.,Blood 85:2770-2778,1995; Toki et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:7548-7551,1991に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0016】
本発明蛋白は、造血の調節において有用であり、それゆえ、骨髄およびリンパ球欠乏症の治療において有用である。コロニー形成細胞または因子依存性細胞系を支持する最低限の生物学的活性でさえも、造血の調節への関与を示している。例えば、赤血球系前駆細胞のみの増殖を支持すること、あるいは他のサイトカインと組み合わされて、例えば種々の貧血の治療に有用性を示すこと、あるいは放射線療法/化学療法と組み合わされて赤芽前駆細胞および/または赤芽細胞の産生を刺激すること;顆粒球のごとき骨髄細胞および単球/マクロファージの増殖を支持すること(すなわち、伝統的なCSF活性)、例えば、化学療法と組み合わされて、引き続き起こる骨髄抑制を防止することに有用であり;巨核細胞の増殖、次いで、血小板の増殖を支持すること、またそれにより血小板減少症のごとき種々の血小板疾患を予防または治療することに有用であり、また一般的には血小板輸液の代わりにあるいはそれと相補的に使用され;さらに/あるいは造血幹細胞(成熟して上記のすべての造血細胞となり、それゆえ、種々の幹細胞疾患(通常には、移植により治療される疾患であり、例えば、再生不良性貧血および発作性ヘモグロビン尿症)において有用性がわかる)の増殖を支持することに有用であり、さらにはインビボまたはエクスビボでの放射線/化学療法後(すなわち、骨髄移植と組み合わされる)、あるいは遺伝子治療のために遺伝子操作された後の幹細胞コンパートメントの正常細胞としての再増殖においても有用である。
本発明蛋白の活性を、特に、下記方法測定してもよい。
種々の造血細胞系の増殖および分化に適したアッセイはすでに引用されている。
胚の幹細胞の分化のアッセイ(特に、胚の分化造血に影響する蛋白を同定する)は、Johansson et al.Cellular Biology 15:141-151,1995; Keller et al.,Molecular and Cellular Biology 13:473-486,1993; McClanahan et al.,Blood81:2903-2915,1993に記載のアッセイを包含するが、これらに限らない。
幹細胞生存および分化のアッセイ(特に、リンパ−造血を調節する蛋白を同定する)は、: Methylcellulose colony forming assays, Freshney, M.G. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 265-268, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994; Hirayama et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:5907-5911, 1992; Primitive hematopoietic colony forming cells with high proliferative potential, McNiece, I.K. and Briddell, R.A. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 23-39, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994; Neben et al., Experimental Hematology 22:353-359, 1994; Cobblestone area forming cell assay, Ploemacher, R.E. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 1-21, Wiley-Liss, Inc.., New York, NY. 1994; Long term bone marrow cultures in the presence of stromal cells, Spooncer, E., Dexter, M. and Allen, T. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 163-179, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994; Long term culture initating cell assay, Sutherland, H.J. In Culture of Hematopoietic Cells. R.I. Freshney, et al. eds. Vol pp. 139-162, Wiley-Liss, Inc., New York, NY. 1994.に記載されたアッセイを包含するが、これらに限らない。
【0017】
CTLA−8蛋白は、種々の免疫欠乏症および疾患(SCIDを包含)に有用であり、例えば、Tおよび/またはBリンパ球の増殖および/または活性のアップレギュレーションまたはダウンレギュレーション、ならびにNK細胞の細胞溶解活性の調節に有用である。これらの免疫欠乏症は、ウイルス(例えば、HIV)ならびに細菌感染により、あるいは自己免疫疾患により生じるものであってもよい。より詳細には、ウイルス、細菌、真菌または他の感染性物質により引き起こされる感染性疾患はCTLA−8を用いて治療可能であるかもしれず、それらの疾患は、HIV、肝炎、インフルエンザ、CMV、ヘルペス、ミコバクテリウム、レイシュマニアシス、マラリアおよび種々の真菌(例えば、カンジダ)感染症を包含する。もちろん、この点において、免疫系に対するブーストが指示される場合、すなわち、癌の治療において、本発明蛋白を用いてよい。
本発明蛋白を用いて治療してもよい自己免疫疾患は、例えば、多発性硬化症、全身性の深在性エリトマーデス、リューマチ性関節炎、自己免疫性肺炎、Guillain-Barre症候群、自己免疫性甲状腺炎、インスリン依存性糖尿病、重症筋無力症、対宿主移植片疾患および自己免疫性の炎症性の目の疾患を包含する。本発明のかかる蛋白を、喘息または他の呼吸器系の疾患のごときアレルギー性反応および症状の治療に用いてもよい。免疫抑制が望まれる他の症状(例えば、喘息および関連呼吸器系の症状を包含)を本発明蛋白を用いて治療してもよい。
また、CTLA−8蛋白は化学走性活性を有すると考えられる。本明細書において「化学走性」を有する蛋白またはペプチドとは、直接または間接的に刺激できる場合に、骨髄細胞およびリンパ球を包含する細胞の方向づけまたは運動を刺激するものである。好ましくは、蛋白またはペプチドは、細胞(好ましくはT細胞)の方向づけられた運動を直接刺激する能力を有する。特定の蛋白またはペプチドが細胞に対する化学走性活性を有するかどうかは、細胞の化学走性についての既知アッセイにおいてかかる蛋白またはペプチドを用いることにより容易に調べることができる。
また、CTLA−8蛋白は血管内皮細胞の増殖を阻害する。その結果、ヒト・CTLA−8蛋白は、血管新生(血管形成)の阻害に効果的である。この活性は、腫瘍および血管新生が関与している他の症状の治療においても有用である。また、ヒト・CTLA−8による血管新生は、正常な血管新生が関与している状態を抑制または防止するであろう。
【0018】
細胞から単離された、あるいは組み換え法により製造されたCTLA−8蛋白を、医薬上許容される担体と組み合わせて医薬組成物として使用してもよい。かかる組成物は、CTLA−8および担体のほかに、希釈剤、充填剤、塩類、バッファー、安定化剤、可溶化剤、ならびに当該分野においてく知られた他の物質を含有していてもよい。用語「医薬上許容される」とは、有効成分の生物学的活性の有効性を妨害しない無毒の物質を意味する。担体の性質は投与経路による。本発明医薬組成物は、サイトカイン、リンホカイン、またはM−CSF、GM−CSF、IL−1、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−10、IL−11、IL−12、IL−15、G−CSF、γ−IFN、幹細胞因子およびエリスロポエチンのごとき他の造血因子を含有していてもよい。医薬組成物は、プラスミノーゲンアクチベーターおよび因子VIIIのごとき血栓溶解因子または抗血栓因子を含有していてもよい。さらに医薬組成物は、他の抗炎症剤を含有していてもよい。かかるさらなる因子および/または作用剤を医薬組成物に含有させて、CTLA−8蛋白との相乗作用を得てもよく、あるいはCTLA−8により引き起こされる副作用を最小化してもよい。逆に、特定のサイトカイン、リンホカイン、他の造血因子、血栓溶解因子または抗血栓因子、または抗炎症剤の処方にCTLA−8蛋白を含有させて、サイトカイン、リンホカイン、他の造血因子、血栓溶解因子または抗血栓因子、または抗炎症剤の副作用を最小化してもよい。
本発明医薬組成物は、他の医薬上許容される担体のほかに、CTLA−8蛋白が、水溶液中においてミセル、不溶性単層、液体結晶またはラメラ層のような凝集体として存在する脂質のごとき両親媒性物質と混合されているリポソームの形態であってもよい。リポソーム形成に適する脂質は、モノグリセリド、ジグリセリド、スルファチジド、リゾレシチン、リン脂質、サポニン、胆汁酸等を包含するが、これらに限らない。かかるリポソーム処方の製造は当業者のレベルの範囲内であり、例えば、米国特許第4235871、4501728、4837028、および4737323号(参照により本明細書に記載されているものとみなす)に記載されたようなものである。
本明細書の用語「治療上有効量」とは、有意な患者の利益、例えば、かかる症状の徴候の改善、治癒、治癒速度の増大を示すに十分な医薬組成物または方法の各有効成分の総量を意味する。単独で投与される個々の有効成分について用いる場合、該用語は当該成分のみをいう。有効成分の組み合わせに用いる場合、逐次あるいは同時に投与された場合に治療効果を生じる有効成分量の総量をいう。
【0019】
本発明の治療方法の実施において、治療上有効量のCTLA−8蛋白を哺乳動物に投与する。本発明方法に従って、単独またはサイトカイン、リンホカインもしくは他の造血因子のごとき他の治療剤とともにCTLA−8蛋白を投与してもよい。1種またはそれ以上のサイトカイン、リンホカイン、他の造血因子もしくはワクチン組成物(抗原または他のアジュバントのごときもの)と共投与する場合、CTLA−8蛋白をサイトカイン、リンホカイン、他の造血因子、血栓溶解因子もしくは抗血栓因子とともに同時または逐次投与してもよい。逐次投与する場合、担当医師は、サイトカイン、リンホカイン、他の造血因子、血栓溶解因子もしくは抗血栓因子と、組み合わせて投与するCTLA−8との適切な順序を決定する。
本発明医薬組成物中または本発明の実施に用いるためのCTLA−8蛋白の投与を種々の慣用的方法、例えば、経口的摂食、吸入、または皮内、皮下、または静脈注射で行うことができる。患者への静脈注射が好ましい。
治療上有効量のCTLA−8蛋白を経口投与する場合、CTLA−8蛋白は錠剤、カプセル、粉末、溶液またはエリキシルの形態であろう。錠剤形態で投与する場合、本発明医薬組成物はゼラチンのごとき固体担体またはアジュバントをさらに含有していてもよい。錠剤、カプセル、および粉末は、約5ないし95%のCTLA−8蛋白、好ましくは約25ないし90%のCTLA−8蛋白を含有する。液体形態で投与する場合、水、ペトロレウム、動物または植物起源の油脂、例えばピーナッツ油、鉱油、大豆油、またはゴマ油、または合成油脂を添加してもよい。液体形態の医薬組成物は、生理的セイライン溶液、デキストロースまたは他の糖類溶液、またはグリコール類(例えばエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール)をさらに含有していてもよい。液体形態で投与する場合、医薬組成物は、約0.5ないし90重量%のCTLA−8蛋白、好ましくは約1ないし50%のCTLA−8蛋白を含有する。 治療上有効量のCTLA−8蛋白を静脈、皮内または皮下注射により投与する場合、CTLA−8蛋白はパイロジェン不含で、非経口的に許容される水溶液の形態であろう。適切なpH、等張性、安定性を有するかかる非経口的に許容される蛋白溶液の調製は、当業者の範囲内である。静脈、皮内、または皮下注射用の好ましい医薬組成物は、CTLA−8蛋白のほかに、注射用塩化ナトリウム、リンゲル溶液、注射用デキストロース、注射用デキストロースおよび塩化ナトリウム溶液、注射用乳酸含有リンゲル溶液、または当該分野で知られている他の担体を含有すべきである。本発明医薬組成物は、安定化剤、保存料、バッファー、抗酸化剤、または当業者に知られた他の添加物を含んでいてもよい。
【0020】
本発明医薬組成物中のCTLA−8蛋白の量は、治療すべき症状の性質および重さ、ならびに患者がすでに受けていた治療の性質による。最終的には、担当医師が、各患者を治療すべきCTLA−8蛋白量を決定するであろう。まず、担当医師は、低用量のCTLA−8蛋白を投与し、患者の応答を観察する。最適な治療効果が得られるまで、より高用量のCTLA−8蛋白を投与してもよく、その時点で用量をさらに増加させない。本発明方法を実施するための種々の医薬組成物は、体重1kgあたり約0.1μgないし約100mgのCTLA−8蛋白、好ましくは、体重1kgあたり約0.1μgないし約10mg、より好ましくは体重1kgあたり0.1μgないし約100μgのCTLA−8蛋白、最も好ましくは約0.1μgないし10μgのCTLA−8蛋白を含有すべきである。
本発明組成物を用いる静脈投与による治療の期間は、治療すべき疾病の重さならびに各患者の状態および応答により変化させられるであろう。
CTLA−8蛋白の各適用期間は、連続静脈投与の場合12ないし24時間の範囲であると考えられる。最終的には、担当医師が、本発明医薬組成物を用いる静脈投与による治療の期間を決定するであろう。
【0021】
本発明CTLA−8蛋白を用いて動物を免役して、CTLA−8蛋白と特異的に反応し、受容体へのCTLA−8蛋白の結合を阻害しうるポリクローナルおよびモノクローナル抗体を得てもよい。かかる抗体は、既知方法によるCTLA−8の診断アッセイの遂行にも有用である。CTLA−8蛋白全体を用いて、あるいはヒト・CTLA−8蛋白のフラグメントを用いることにより、かかる抗体を得てもよい。ペプチド免疫源はカルボキシ末端にシステイン残基をさらに含んでいてもよく、キーホールリムペット・ヘモシアニン(KLH)のごときハプテンに結合する。チロシン残基を硫酸化チロシン残基に置き換えることによりさらなるペプチド免疫源を得てもよい。かかるペプチドを合成する方法は当該分野において知られており、例えば、R. P. Merrifield, J. Amer. Chem. Soc. 85, 2149-2154 (1963); J. L. Krstenansky, et. al., FEBS Lett. 211, 10 (1987)に記載のごときものがある。
ヒト・CTLA−8蛋白に結合する中和または非中和抗体(好ましくは、モノクローナル抗体)は、ある種の腫瘍の治療および上記症状の治療にも有用である。これらの中和モノクローナル抗体はヒト・CTLA−8蛋白へのリガンド結合をブロックする能力があり、あるいは患者からの蛋白の消去を促進しうる。
【0022】
ラット・CTLA−8蛋白、ヘルペス・CTLA−8蛋白およびIL−17蛋白のヒト・CTLA−8に対する相同性(上記Golsteinらの「ヒト・CTLA−8」)のため、それらの蛋白もまた上記CTLA−8活性を有するであろう。その結果、ラットおよびヘルペスのCTLA−8蛋白およびIL−17蛋白ならびにそれらの活性フラグメントおよび変異体を、ヒト・CTLA−8について説明したように医薬組成物の製造および治療方法に使用することができる。ラットおよびヘルペスのCTLA−8蛋白、およびそれらの活性フラグメントおよび変異体を、それぞれ配列番号:3および配列番号:5に示すポリヌクレオチド(またはそれらのフラグメントまたは変異体)を用いて上記のごとく製造することができる。Rouvier et al., J. Immunol. 1993, 150, 5445-5456に記載のごとくラットおよびヘルペスのCTLA−8を製造してもよい。他の種のCTLA−8蛋白を本明細書記載のごとく使用してもよい。ラット・CTLA−8およびヘルペス・CTLA−8をコードしているcDNAを、American Type Culture Collectionに、1995年7月6日に寄託し、それぞれ受託番号ATCC69867およびATCC69866を付与された。上記Golsteinらに記載のごとくIL−17蛋白を製造してもよい。
IL−17に対する相同性のため、本発明CTLA−8(B18)蛋白はIL−17のいくつかの活性を有する可能性がある。
処置または治療目的には、本明細書で議論または開示した蛋白を、哺乳動物対象におけるインビトロ発現により投与してもよい。かかる場合、本明細書開示のアデノウイルス法を包含する既知方法(アデノウイルス法に限らない)に従って所望蛋白をコードしているポリヌクレオチドを対象に投与する。
【実施例1】
【0023】
ヒトCTLA-8 cDNAの単離
ヒトCTLA-8に対する部分クローンは、刺激したヒト末梢血液単球から単離したRNAから作製したcDNAライブラリーから単離した。この部分クローンは、「B18」と同定された。本明細書中にて時々用いるB18とは、本発明のヒトCTLA-8をいう。相同 性の探索によって、この部分クローンがヘルペスおよびラットのCTLA-8遺伝子に関連することが明らかとなった。この部分クローンのDNA配列を用いて、完全長クローンを単離した。
B18に対する完全長cDNA、一方向性の完全長cDNAライブラリーを単離するには、COS発現ベクターpMV2における標準的な方法を用いた。エレクトロポレーションによって、該cDNAライブラリーをイー・コリ(E.coli)に形質転換した。オリジナルの形質転換cDNAライブラリー塊は、グリセリン中、-80℃にて凍結させた。アリコットを力価測定して、形質転換イー・コリ濃度を測定した。イー・コリを解凍し、アンピシリン(ampicillin)を含有する培地中で76,000/0.1mlに希釈し、その0.1mlを8×8配列でマイクロタイターディッシュのウェルに撒いた。そのマイクロタイターディッシュを37℃に一晩置いて、イー・コリを増殖させた。
PCR用のDNAを調製するために、各ウェルからの培養物の20μlアリコットを吸引し、8ウェルの各列および各行に別々に保存して、各160μlの16保存物を得た。該イー・コリをペレット化し、10mM トリス-HCl、pH8、1mM EDTA、0.01%TtitonX-100よりなる標準的な溶解緩衝液160μlに再懸濁し、95℃に10分間加熱することによって溶解した。
【0024】
B18で形質転換されたイー・コリをどのウェルが含むのかを同定するために、最初に、8行(columns)に相当するDNA調製物でPCRを行った。該PCRは、標準的な条件を用いた、入れ子(nested)オリゴヌクレオチドを用いた2回の一連反応よりなる。PCR反応に用いたオリゴヌクレオチドは、部分B18クローンの配列由来であった。それらは以下の配列を有する:
B185:CACAGGCATACACAGGAAGATACATTCA(配列番号:7)
B183:TCTTGCTGGATGGGAACGGAATTCA(配列番号:8)
B18N:ATACATTCACAGAAGAGCTTCCTGCACA(配列番号:9)

PCR条件は、2.5mM MgCl、ならびに、95℃×2分間を1サイクル、95℃×1分間+68℃×1分間を30サイクル、および68℃×10分間を1サイクルであった。各反応容量は20μlであった。最初の反応物には、オリゴヌクレオチドB185およびB183、ならびにDNA調製物1μlが含まれていた。2番目の反応物には、オリゴヌクレオチドB183およびB18N、ならびに最初の反応物1μlが含まれていた。
完全長B18のcDNAクローンを含む可能性のあるDNA調製物は、2番目のPCR反応物アリコットのアガロースゲル電気泳動によって同定した。正確な移動度を示すDNAバンドを、B18 cDNA由来のものであるとみなした。
ついで、同一の一連のPCR反応およびゲル分析を、8列に想到するDNA調製物に対して行った。列および行の交差によって、B18を潜在的に含むとしてウェルA2が同定され、これは、そのウェルに元々撒いたイー・コリを76000まで狭めた。
【0025】
予想される完全長B18 cDNAクローンを含有する個々のイー・コリをさらに精製するために、ウェルの希釈物を力価測定し、平板することによってウェルA2中のイー・コリ濃度を測定した。ついで、7,600のイー・コリを、8×8配列で2番目のマイクロタイタープレートのウェルに撒いた。イー・コリを一晩増殖させ;ウェルを保存し、DNAを前記のごとく調製した。B18で形質転換されたイー・コリをこれらのうちのどのウェルが含むのかを同定するために、一連のPCR反応を実質的に前記と同様に行った。アガロースゲル電気泳動によって、ウェルB2が潜在的にB18cDNAを含むと同定された。
ウェル当たり253のイー・コリをマイクロタイタープレートのウェルに撒き、ウェルA2におけるイー・コリの精製と同様に進めることによって、このcDNAを含有するイー・コリをさらに精製した。推定される完全長B18 cDNAクローンを含有するとして、ウェルC3が同定された。正確なイー・コリは、ウェル内容物を細菌培養培地に平板し、ついで確立されたプロトコールに従ってイー・コリコロニーをスクリーニングすることによって同定した。これらのハイブリダイゼーション用のプローブは、前記のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、B18クローンのPCR反応を行うことによって生成したPCRフラグメントであった(配列番号:7、配列番号:8、配列番号:9)。単一のコロニーを同定したら、標準的な方法によってDNAを調製し、配列決定した。この配列と元の部分クローンの配列とを比較することによって、同一であること、および単離したcDNAが完全長であることを確認した。
完全長クローンは、1995年7月6日にAmerican Type Culture Collectionに寄託し、受託番号ATCC 69868と登録された。
【実施例2】
【0026】
ヒトCTLA-8の発現
ヒトCTLA-8の完全長B18クローンをCOS細胞にトランスフェクトし、ついでこれを35S-メチオニンで標識した。トランスフェクト細胞培養物からの条件培地のアリコットを還元し、変性させ、ポリアクリルアミドゲルの電気泳動に付した。これらのゲルのオートラジオグラフを図2に再現する。矢印で示したバンドが、ヒトCTLA-8の発現を示している。
【実施例3】
【0027】
ヒトCTLA-8による血管形成の阻害
血管形成を阻害するヒトCTLA-8の能力は、アニギオスタティック(angio-static)活性アッセイ(内皮細胞増殖アッセイ)で検定した。該アッセイは、96ウェルプレートで行った。初代ヒト臍帯細胞(HUVEC)を撒いて、EGM培地(Clonetics社製)/20%FCS中のウェル当たり2×10細胞とし、37℃にて24時間インキュベートした。ついで、該細胞を、10%チャコール処理血清(M199-CS)を含有するM199培地(GIBCO BRL社製)中、37℃にて48時間、飢餓状態(starve)とした。B18(ヒトCTLA-8)を含有する条件培地は、トランスフェクトしたCOS細胞または安定して発現するCHO細胞から得、1:10、1:50、1:250および1:1250希釈物を、100ng/mlのFGFを含有するM199-CS培地中で調製した。B18の希釈物を飢餓状態の細胞に添加し、37℃にて72時間インキュベートした。ついで、その細胞を[H]-チミジンで6時間放射性同位元素標識した。その放射性同位元素標識細胞をPBSで洗浄し、液体シンチレーションカウント用にトリプシン処理した。結果は、Kaleidograph softwareを用いてプロットした。その結果を図3に示す。図中、「Med」とは偽対照であり、「B18」および「B18-1」とはヒトCTLA-8(B18)をコードするDNAを有するCOSの2つの独立したトランスフェクト体からの条件培地であった。IFNγを陽性対照アンギオスタティック(すなわち、血管形成阻害)活性として用いた。これらのデータは、ヒトCTLA-8(B18)が血管形成を阻害することを示している。
【実施例4】
【0028】
ヒトCTLA-8の造血活性
イン・ビボ(in vivo)で発現させたヒトCTLA-8(B18)の造血活性は、組換えアデノウイルスベクターの構築物によって検定した。
発現プラスミドAdori 2-12 B18中のB18 cDNAは、サイトメガロウイルス(CMV)即時型プロモーターおよびエンハンサーによって作動させた。
Adori 2-12ベクターは、SV40複製起点およびエンハンサーを公知のアデノウイルスベクター(Barrら、Gene Therapy 1:51(1994);Davidsonら、Nature Genetics 3:219(1993))に付加することによって生成し た。SV40複製起点およびエンハンサーをコードしているHindIII/BamHIフラグメントをpMT2哺乳動物発現ベクターから単離し、Klenowを 用いて平滑化し、Ad5発現ベクターの(Klenowで平滑化した)NatIサイトにクローン化した。
pNOT-B18 cDNAをSalIで消化し、Klenowで5'突出末端を埋めて平滑末端を生成させ、EcoRIで消化することによってベクターを誘導化して、B18 cDNAを単離した。該平滑化-EcoRI B18フラグメントをアデノウイルスベクターAdori 2-12の制限部位EcoRV-EcoRIに挿入した。CMV-B18発現カセットは、SV40複製起点およびエンハンサーから下流であって、5型アデノウイルス(Ad5)の左手末端の0-1地図単位に位置していた。SV40スプライシングのドナーおよびアクセプターは、CMVプロモーターとB18 cDNAとの間に位置していた。インサートの後には、SV40ポリAサイト、9-16地図単位のAd5、およびpUC19複製起点が存在していた。
【0029】
組換えアデノウイルスは、293の細胞における相同性組換えによって生成した。リポフェクタミン(lipofectamine)を用いて、AscI線状化Adori 2-12 B18およびClaI消化AdCMVlacZを該293の細胞に導入した。組換えアデノウイルスを単離し、293の細胞で増幅した。3サイクルの凍結-解凍によって、感染した293の細胞からウイルスを放出させた。2回の塩化セシウム勾配遠心によってウイルスをさらに精製し、4℃のPBSに対して透析した。ウイルスを透析した後に、グリセリンを10%濃度まで添加し、使用するまで該ウイルスを-70℃にて保存した。該ウイルスは、ウイルスのトランスジーン発現、293細胞におけるプラーク形成単位、粒子/ml、およびサザン分析によって特徴付けした。
B18をコードする組換えアデノウイルスの5×1010粒子の単一用量を、7-8週齢のC57/bl6雄マウスの尾部静脈に注射した。対照マウスには、B-ガラクトシダーゼを コードするアデノウイルスを投与した。各実験群からのマウス4匹を7および14日目に殺した。採血し、Baker 9000を用いて自動血液分析を行った。種々のカウントを血液スメア(blood smear)で行った。組織病理学用に、組織を採取し、ホルマリン中で固定し、ヘマトキシリン(hematoxylin)およびエオシン(eosin)で染色した。最初のセットの実験においては、注射7および14日後に血清および組織を分析した。末梢血小板計数のわずかな上昇が認められた。B18を投与した動物は、脾臓サイズのわずかな増大を示した。脾臓の肉眼分析によって、対照と比較しての、7日目の脾臓髄質外造血(splenic extramedullary hematopoiesis)の上昇が示された。これらの結果は、B18に関連した造血促進(hematopoietic growth)活 性を示していた。
【0030】
2番目のセットの実験においては、B18をコードする組換えアデノウイルスの5×1010粒子を17-18週齢のC57/bl6雄マウスの尾部静脈に注射した。対照マウスには 、B-ガラクトシダーゼをコードするアデノウイルスを投与した。2、5、7、10、14 および21日目に、眼禍後洞(retro-orbital sinus)を介して血液試料を採取した。血液分析は、齧歯類-特異設定のBaker 9000 自動細胞カウンターで行った。分析には、WBC、RBC、HCTおよびPLT計数が含まれていた。血液スメアを調製し、100細胞カウントに基づくWBC相違についてWright-Geimsaで染色した。網状赤血球および細網状血小板は、フ ローサイトメトリーを用いて定量した。7、14および21日目に、各群からマウス4匹を殺した。末梢血液分析に加えて、市販のキット(Endogen社製)を用いた全身II-6(systemic II-6)の定量用の心臓穿刺を介して血清を採取した。脾臓および肝臓を組織病理学用に採取し、脾臓および骨髄造血前駆細胞(progenitor)を定量し、骨髄スメアを調製し、細胞計測用にWright-Geimsaで染色した。
B18をコードするアデノウイルスを投与すると、末梢血液好中球およびWBCにおける顕著な上昇を生じた(図4)。好中球の最大の上昇は、5日目および7日目に認められた。対照マウスは、5日目および7日目にほとんど相違を示さなかった。末梢血液好中球は、対照マウス、および21日目にB18を投与したマウスにおいて同様であった。B18および対照群の両方において、白血球における上昇も認められた。B18を投与した マウスは、2日目と7日目との間にWBCにおけるより大きな上昇を有していた。21日目 までに、より顕著な上昇がB-gal群において認められた。細胞化学における他の変化は認められなかった(表I)。
骨髄細胞充実性(cellularity)は、各群における保存大腿骨から算出した(表III)。顕著な相違はいずれの群においても認められなかった。7、14および21日目からの骨髄造血前駆細胞においては、顕著な変化は認められなかった。B18マウスにおけるGFU-GM、BFU-EおよびCFU-MEGは、B-gal対照と同様であった(表II)。
【0031】
B18をコードするアデノウイルスを投与すると、7日目にB-galウイルスを投与した動物と比較して、脾臓のCFU-GM(骨髄)およびBFU-E(赤血球)前駆細胞の上昇を生じた。B18マウスにおける前駆細胞の上昇は、CFU-GMにおいては11倍、およびBFU-Eにおいては52倍であった(表II)。B18マウスについては、7日目のCFU-MEGにおいて2倍の上昇があった。21日目まで に、群間の脾臓CFU-MEGまたはBFU-Eにおいて、顕著な相違は認められなかった(表II)。B18をコードするアデノウイルスを投与したマウスにおいては、CFU-GMにおける3倍の低下が認められた。7日目における脾臓サイズの僅かな増大が、B18群において認められた。このことは、脾臓細胞充実性における上昇と一致する。14日目および21日目まで、脾臓重量は対照群のものと同様であった(表III)。脾臓の肉眼分析によって、対照と比較して、7日目のB18マウスにおける脾臓髄質外造血の上昇が示された。
骨髄:赤血球比(表IV)は、7日目にアデノウイルスB18を投与したマウスにおける、可能性のある赤血球減形成を有する顆粒球減形成を示唆している。21日目まで、B-gal群における該比はより高かった。IL6血清レベルにおいて変化は全く認められなかった。
これらの結果は、B18(ヒトCTLA-8)をコードするアデノウイルスの投与に関連する造血活性を示している。B18アデノウイルスを投与した動物においては、7日目に好中球および白血球の上昇が認められた。このデータは、対照動物と比較して、B18が投与7日後に脾臓CFU-GMおよびBFU-E7の上昇を起こしたことを示した。7日目の脾臓髄質外造血は、B18が造血促進活性を示すことを支持している。これらのデータは、B18が初期造血前駆細胞を可動化(moblize)し得ることを示唆している。
【0032】
【表1−1】

【表1−2】



【0033】
【表2】

【0034】
造血性の先駆体は、各群4匹の動物から得られたプールされた脾臓、骨髄試料プルから決 定した。CFU−GMとBFU−Eの定量のために、1×10個の骨髄細胞、または1×10個の脾臓細胞を完全アルファメチルセルロース培地(アルファ培地中の0.9%メチルセルロース、30%ウシ胎児血清、10−4M 2−メルカプトエタノール、2mM L−グルタミン酸、2%マウス・脾臓細胞ならし培地、3U/mLエリスロポエチン)に加え、最終量1.0mLで35mm組織培養皿にわけた。培養物を、7日間、37℃、5%COでインキュベートした。顕微鏡的なコロニーは、50個またはそれ以上の細胞のクラスターで決定した。CFU−MEGの定量のために、1×10個の骨髄細胞または1×10個の脾臓細胞を完全アルファメチルセルロース培地に加え、上述したように培養した。巨核球コロニーは、3またはそれ以上の細胞のグループとして決定した。
*骨髄先駆体は、105細胞あたりのコロニー数の平均±標準偏差で示されている。
**脾臓先駆体は、106細胞あたりのコロニー数の平均±標準偏差で示されている。
【0035】
【表3】

脾臓重量は示された時間に決定され、4匹の動物からの平均±標準偏差として示されている。
【0036】
【表4】

すべての記入値は、1個の赤血球系細胞あたりの骨髄細胞の数を示す。正常マウスの比率は1:1から2:1である。
【実施例5】
【0037】
ヒトCTLA−8の造血活性に関する付加的実験
B18(ヒトCTLA−8)の造血活性を有する因子の生成を誘発する活性をヒト赤血球細胞ライン、TF−1(Kitamura et al.,J.Cell.Physiol. 140:323(1989))を用いて、因子−依存細胞増殖アッセイで決定した。細胞を、はじめにrhGMCSF(100U/ml)の存在下、培養した。細胞をアッセイの開始に先立ち、3日培養した。アッセイ条件は以下のとおりである。

細胞/ウェル 5000/200μl
培養時間 3日
パルス時間 4時間
トリチウムチミジンの量 0.5μCi/ウェル
計測時間 1分
くり返し 2

B18単一、HS−5誘導B18からのならし培地(conditioned medium、CM)をアッセイした。緩衝液単一、緩衝液で誘導されたHS−5細胞からのCM、非誘導HS−5細胞か らのCMを対照としてアッセイした。結果は図5に示される。B18(ヒトCTLA−8)は、TF−1増殖を誘導する因子の生成を誘発する能力を示した。この活性は、坑GMCSF抗体を加えることで実質的に除かれる。これらのデータは、ヒトCTLA−8(B18)は、造血を誘導することができることを示す。特に、いかなる学説にも縛られることなく、このことは、ヒト・CTLA−8(B18)は、GM−CSFそして/またはIL−3の生成を誘発することを示している。
【実施例6】
【0038】
ヒトCTLA−8のIL−6、IL−8の生成の誘導活性
MRC5細胞をヒトCTLA−8(B18)の存在下培養し、IL−6、IL−8の生成を測定した。ヘルペスCTLA−8(IL−17)を正のコントロールとして用いた。志願者のヒトCTLA−8(B18)は、IL−6とIL−8の両方の測定可能な生成を示した(図6、図7参照)。
ここで引用したすべての特許と文献は、参照により本明細書に記載されているものとみなす。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ヒトCTLA−8が関連する疾病の治療または予防のための医薬の製造等の分野において、利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】Hsvie−2、Muscla8およびB18_F1のアミノ酸配列を比較する図である。
【図2】トランスフェクト細胞培養物からの条件培地のアリコットを還元し、変性させ、ポリアクリルアミドゲルの電気泳動に付した場合のゲルのオートラジオグラフである(実施例2参照)。矢印で示したバンドが、ヒトCTLA-8の発現を示している。
【図3】放射性同位元素標識細胞をPBSで洗浄し、液体シンチレーションカウント用にトリプシン処理し、Kaleidograph softwareを用いてプロットした図である(実施例3参照)。図中、「Med」とは偽対照であり、「B18」および「B18-1」とはヒトCTLA-8(B18)をコードするDNAを有するCOSの2つの独立したトランスフェクト体からの条件培地である。
【図4】末梢血中のWBC、ANC、ALCおよび血小板数に対するB18をコードするアデノウイルスの投与効果を示す図である(実施例4参照)。
【図5】B18単一、HS−5誘導B18からのならし培地をアッセイした結果を示す図である(実施例5参照)。
【図6】ヒトCTLA−8のIL−6、IL−8の生成の誘導活性を調べた結果を示す図である(実施例6参照)。
【図7】ヒトCTLA−8のIL−6、IL−8の生成の誘導活性を調べた結果を示す図である(実施例7参照)。
【0041】
【表5−1】


【表5−2】


【表5−3】


【表5−4】


【表5−5】


【表5−6】


【表5−7】


【表5−8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号:1のヌクレオチド146〜ヌクレオチド544の塩基配列、
(b)(a)の塩基配列にハイブリダイズできる塩基配列、
(c)遺伝子コードの縮重による(a)の塩基配列の変形した塩基配列、および
(d)(a)の塩基配列の対立遺伝子変異体
からなる群より選択されるヌクレオチド配列を含む単離ポリヌクレオチド。
【請求項2】
ヌクレオチド配列がCTLA−8活性を有する蛋白をコードしている請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項3】
ヌクレオチド配列が発現制御配列に作動可能に連結されている請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項4】
配列番号:1のヌクレオチド55からヌクレオチド544までを含む請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項3のポリヌクレオチドで形質転換された宿主細胞。
【請求項6】
哺乳動物細胞である請求項5の宿主細胞。
【請求項7】
(a)適当な培地中で請求項5の宿主細胞の培養を増殖させること、
次いで、
(b)ヒト・CTLA−8蛋白を培地から精製すること
を特徴とする、ヒト・CTLA−8蛋白の製造方法。
【請求項8】
(a)配列番号:2のアミノ酸配列、
(b)配列番号:2のアミノ酸11から163までのアミノ酸配列、
(c)配列番号:2のアミノ酸29から163までのアミノ酸配列、
(d)配列番号:2のアミノ酸31から163までのアミノ酸配列、
(e)CTLA−8活性を有する(a)、(b)、(c)または(d)のフラグメント
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む単離ヒトCTLA−8蛋白。
【請求項9】
配列番号:2のアミノ酸配列を含む請求項8の蛋白。
【請求項10】
配列番号:2のアミノ酸29から163までの配列を含む請求項8の蛋白。
【請求項11】
請求項8のヒト・CTLA−8蛋白および医薬上許容される担体を含んでなる哺乳動物対象治療用の医薬組成物。
【請求項12】
請求項7の方法により製造されるヒト・CTLA−8蛋白。
【請求項13】
請求項8のCTLA−8蛋白と特異的に反応する抗体を含んでなる組成物。
【請求項14】
医薬上許容される担体および
(a)配列番号:4のアミノ酸配列、
(b)配列番号:4のアミノ酸18から150までのアミノ酸配列、および
(c)CTLA−8活性を有する(a)または(b)のフラグメント
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む蛋白
を含んでなる哺乳動物対象治療用の医薬組成物。
【請求項15】
該蛋白が配列番号:4のアミノ酸配列を含むものである請求項14の医薬組成物。
【請求項16】
該蛋白が配列番号:4のアミノ酸18から150までのアミノ酸配列を含むものである請求項14の医薬組成物。
【請求項17】
医薬上許容される担体および
(a)配列番号:6のアミノ酸配列、
(b)配列番号:6のアミノ酸19から151までのアミノ酸配列、および
(c)CTLA−8活性を有する(a)または(b)のフラグメント
からなる群より選択されるアミノ酸配列を含む蛋白
を含んでなる哺乳動物対象治療用の医薬組成物。
【請求項18】
該蛋白が配列番号:6のアミノ酸配列を含むものである請求項17の医薬組成物。
【請求項19】
該蛋白が配列番号:6のアミノ酸19から151までのアミノ酸配列を含むものである請求項17の医薬組成物。
【請求項20】
配列番号:1のヌクレオチド86から544までのヌクレオチド配列を含む請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項21】
配列番号:2のアミノ酸11から163までの配列を含む請求項8の蛋白。
【請求項22】
医薬上許容される担体およびIL−17またはその活性フラグメントを含んでなる哺乳動物対象治療用の医薬組成物。
【請求項23】
血管新生の阻害、血管内皮細胞の増殖の阻害、腫瘍の増殖の阻害、血管新生に依存する組織増殖の阻害、骨髄細胞または前駆細胞の増殖、赤血球系細胞または前駆細胞の増殖、リンパ球または前駆細胞の増殖、IFNγ産生の誘導、IL−3産生の誘導ならびにGM−CSF産生の誘導からなる群より選択される効果を生じるように哺乳動物対象を治療するための、請求項11、14、17または22の医薬組成物。
【請求項24】
該ポリヌクレオチドが哺乳動物中でのインビボ発現に適したベクターに含まれている請求項3のポリヌクレオチド。
【請求項25】
配列番号:1のヌクレオチド139からヌクレオチド544までのヌクレオチド配列を含む請求項1のポリヌクレオチド。
【請求項26】
配列番号:2のアミノ酸31から163までの配列を含む請求項8の蛋白。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−131942(P2008−131942A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301924(P2007−301924)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【分割の表示】特願平9−506846の分割
【原出願日】平成8年7月18日(1996.7.18)
【出願人】(501418214)ジェネティクス インスティテュート,エルエルシー (35)
【Fターム(参考)】