ヒト胚盤胞由来幹細胞(hBS細胞)のフィーダー支持からフィーダーなしの培養系への効率的な移送方法
ヒト胚盤胞由来幹細胞(hBS細胞)をフィーダーなしの培養システムへ移送し、細胞をそのようなフィーダーなしの培養システム中にて増殖させる方法であって、該方法は以下のステップ:a.胚盤胞由来幹細胞をフィーダーからフィーダーなし培養へ機械的処理によって移送し、b.状況に応じて胚盤胞由来幹細胞をフィーダー細胞なしの成長条件の下で好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上で培養し、そしてc.状況に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに酵素的及び/又は機械的処理により継代することからなる。本発明はまたフィーダーなしの条件の下で培養したhBS細胞の薬剤(例えば、心筋再生)、スクリーニング及び毒性試験における応用に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明はヒト胚盤胞由来幹細胞(hBS細胞)のフィーダーなしの培養システムへの移送方法及びそのようなフィーダーなしの培養システムにおける細胞の増殖に関する。本発明はまたフィーダーなしの条件下で培養されたhBS細胞の心筋再生における応用に関する。
【0002】
発明の背景
幹細胞は、自己再生し、そして特異性細胞又は分化した細胞を生じさせる独特な能力を有する細胞型である。身体のたいていの細胞、心臓細胞や皮膚細胞は固有の機能を果たすことに尽力しているが、幹細胞は特殊細胞型へ進展する信号を受けるまで不確定である。幹細胞が独特な点は、その特殊化能と相まった増殖能である。長年、研究者らは損傷したあるいは罹患した細胞及び組織を置換するために幹細胞を使用する方法を発見することに関心を集中させていた。これまでは、研究のほとんどが2種類の型の幹細胞である胚性幹細胞と体細胞性幹細胞とに集中していた。胚性幹細胞は着床前受精卵母細胞、すなわち胚盤胞由来であり、一方、体細胞性幹細胞は成体、例えば骨髄、表皮及び腸内に存在する。胚性又は胚盤胞由来幹細胞(以後胚盤胞由来幹細胞又はBS細胞と称す)が生殖細胞を含む生体の全ての細胞を生じさせることができるのに対して、体細胞性幹細胞は先祖伝来細胞型のうちより限定されたレパートリーしか備えていないことを、多分化能試験は示している。
【0003】
1998年に、例えば米国特許第5843780号明細書及び米国特許第6200806号明細書に説明されるように、研究者らは初めてヒト受精卵母細胞からhBS細胞を取り出し、それらを培養液中で成長させることを可能とした。
【0004】
上述の特許明細書中に使用される処置は、無傷の透明帯を備えた胚盤胞を使用することに依存する。更に、これらの特許に開示された方法は、特に免疫手術によって取り出した内部細胞塊細胞をマウスの胚性フィーダー細胞上に平板培養するために使用している。この方法はいくつかの欠点を有しており、例えば、それは多大な時間を必要とし、技術的に困難であり、そして幹細胞の低生産性をもたらす。総合すると、これらの欠点は方法を費用のかかるものにしてしまう。今までのところ、これらの幹細胞をヒト胚盤胞から樹立することに付随する問題を明らかにした本技術分野の文献はほとんどない。その結果hBS細胞株はほとんど利用されていない。
【0005】
おそらく、hBS細胞の広範囲の潜在用途のほとんどが、所謂細胞療法に使用されることが可能な細胞及び組織を作り出すことである。多くの疾病及び疾患は細胞機能の崩壊又は身体組織の破壊に起因する。今日、提供臓器及び組織がしばしば病んだ又は破壊した組織を置換するために使用されている。あいにく、これらの方法による治療に適した疾患に苦しむ人の数は、移植に利用可能な臓器の数を追い越している。hBS細胞の利用性及び例えばインシュリン産生β−細胞、心筋細胞及びドーパミン産生ニューロンのような異なる細胞運命に向かうようこれらの細胞を導く効率的な方法を開発することに関する熱心な研究は、糖尿病、心筋梗塞及びパーキンソン病のような変性疾患の細胞に基づいた治療における今後の応用の成長に期待ができる。
【0006】
治療のために多能性幹細胞を使用することに対する有意義な試みとしては、分化を妨げ、細胞の生存や増殖を促進するためにフィーダー細胞の層の上で従来どおりそれらを培養することがある。培養環境にフィーダー細胞がないと、幹細胞は死ぬか、或いは拘束細胞(committed cell)の不均一な集団に分化するであろう。あいにく、フィーダー細胞を使用することは製造費を増やし、スケールアップを妨げ、混合細胞集団を生成してしまい、このことは多能性幹細胞をフィーダー細胞成分から分離することが必要となってしまう。その上、治療への応用のためには、hBS細胞が異種組織、例えばフィーダー細胞の接触なしで培養されることが最重要事項である。従って、ヒト胚盤胞由来幹細胞株をフィーダー細胞の使用なしで増殖させる方法の開発の必要がある。
【0007】
hBS細胞自身及びそれ由来の細胞集団のその他の潜在用途は、例えば、医薬品産業における創薬プロセスにおいて、及びあらゆる種類の化学物質の毒性試験において見出される。今日、薬剤候補の大規模で高処理能力のスクリーニングはたいてい、化合物の結合親和性及び特異性に関する情報を提供するが、機能に関する情報をほとんど或いは全く提供しない生化学分析に依存している。機能的スクリーニングは細胞に基づいたスクリーニングに依存し、たいてい安価にそして迅速に大量生産可能な細菌又は酵母のような臨床的関連の少ない生体を使用する。スクリーニングの次の期間は、より臨床的に関連があり模範となる種を使用するが、これらはより値段が高くスクリーニングプロセスは時間がかかる。ヒトの初代細胞又は不死化細胞型に基づいたスクリーニング手段が存在するが、これらの細胞は生体外での培養及び形質転換の結果としての生体機能の損失による供給量や実用性の制限がある。未分化hBS細胞や人工的な条件の下で妨害フィーダー細胞なしで分化したhBS細胞を利用する方法は、ヒトの細胞に基づく分析を高容量であるが、臨床的関連を妥協することなく実施するという新たなそして独特の能力を提供する。
【0008】
以下の定義及び略語がここにおいて使用される
【0009】
定義及び略語
ここに使用されるように、用語「胚盤胞由来幹細胞」はBS細胞と表示し、ヒトのものを「hBS細胞」と称する。
【0010】
ここに使用されるように、用語「EF細胞」は「胚性線維芽細胞」を意味する。これらの細胞はマウス又はヒトのような如何なる哺乳類からも派生させることが可能である。
【0011】
「条件設定された培地」はEF細胞又はその他の線維芽を培地中にて培養し、次に摘出しそして培地をろ過することにより調製される。
【0012】
用語「フィーダー細胞」又は「フィーダー」によって、ある型の細胞が別の方の細胞と共培養され、第二の型の細胞が成長することが可能な環境を提供することを意味することが意図される。フィーダー細胞は必要に応じてそれらが支持している細胞と異なる種由来であって良い。フィーダー細胞は典型的には、他の細胞と共培養される場合、マイトマイシンCのような抗分裂剤処理による処理や放射線照射によって分裂的に不活性化されていても良く、それらが支持している細胞より大きくすることを阻止する。
【0013】
用語「フィーダーなしの培養システム」、「フィーダー細胞なし」又は「フィーダーなし」によって、培養中の総細胞の10%未満、例えば5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満及び0.01%未満がフィーダー細胞である培養又は細胞集団を意味することが意図される。フィーダー細胞を含有する従来の培養をフィーダーの添加されていない新たな培養のhBS細胞の源として使用する場合、継代を切り抜けて生き残るフィーダー細胞がいくらか存在するであろうということが、認識されるであろう。しかしながら、継代の後、フィーダー細胞は増殖せず、ごく一部のみしか連続培養において生存できない。
【0014】
発明の説明
発明者は、受精卵母細胞からの多能性ヒト胚盤胞由来幹細胞株のようなhBS細胞をフィーダーなしの培養システムへ移送し、そして次に未分化状態の細胞を増殖させる新規の方法を樹立した。またフィーダーなしの成長条件下において増殖が達成される。
【0015】
ヨーロッパ及びその他の国における多くの国内法によると、受精卵母細胞は子宮内着床前、すなわち受精後10−14日では胎児とみなされない。本発明の幹細胞株は4−5日後の受精卵母細胞由来であるので、従って、幹細胞株は胚性幹細胞株とみなされるべきではない。本発明の幹細胞株の正確な名称は胚盤胞由来幹細胞である。その上、本発明の幹細胞株はヒトのクローニング及びトランスジェニック動物の創造のために使用することは意図されない。本発明は幹細胞株の遺伝子組換え方法に関するものではない。
【0016】
本発明の方法における使用に適したヒト胚盤胞由来細胞は内細胞塊と呼ばれる細胞の一群由来であり、これは胚盤胞の一部である。胚盤胞は4−5日後の受精卵母細胞であり、これは子宮内着床時のみ胎児へ発育することが可能である。ひとたび胚盤胞から離れると、内細胞塊の細胞は胚盤胞由来幹細胞へ培養されることが可能である。胚盤胞由来幹細胞は胎児へ発育することが意図されていない。
【0017】
国際公開第03/055992号パンフレットとして発行された(同一出願人の)先の特許出願において、hBS細胞を樹立する方法が記載されている。将来、フィーダー細胞を使用せずにそのような細胞を樹立することは可能であるであろうと予期したが、現行の有効な方法はフィーダー細胞を使用している。しかしながら、hBS細胞又は組織を伴う将来の補充治療では、(例えば、ヒトでない)如何なる動物源との接触もなく細胞及び組織を生産することが要求されるであろう。その上、hBS細胞を使用することはまた、未分化hBS細胞のための日常的な大量培養プロトコルの有用性に依存する。本発明は、hBS細胞をフィーダー培養システムからフィーダーなしの培養システムへ移送するための好適な方法を提供することによりこの問題に対処している。
【0018】
hBS細胞は発育胚盤胞の内部細胞塊から派生させることが可能であり、安定な核型及び表現型を保持しながら長期間の継代にわたって、未分化を維持することが可能である。hBS細胞は生体内及び生体外の両方において三つ全ての胚葉の細胞及び組織へ分化する能力を有している、従って、多能性であると称される。hBS細胞の独特な特性が提供することは、それらが将来の補充治療、機能的ゲノム学及びプロテオミクス並び薬剤スクリーニングのための細胞のほとんど無制限の源を供給し得ることである。
【0019】
マウスのBS細胞は、培地に白血病抑制因(LIF)を添加すればフィーダー細胞なしで培養することが可能である。しかしながら、hBS細胞の培養において、LIFはこの効果を持ち合わせていない。今日hBS細胞株の誘導にはヒト或いはマウスの何れかの胚盤胞線維芽細胞フィーダーが共培養のために必要である。フィーダーからフィーダーなしの条件へのhBS培養の移送及び増殖のプロトコルは前述した。これらのフィーダーなしの培養のプロトコルはスケールアップ特性に関して制限があり、hBS細胞のフィーダー培養からフィーダーなしの条件への初期移送は成功率が低く、培養物中の未分化及び分化したhBS細胞の混合集団を生み出してしまう。
【0020】
本発明はhBS細胞のフィーダーなしの培養システムへの移送の最適化方法を提供し、本方法は公知の方法と比較して、移送された細胞が少なくとも10継代まで安定である点で有利である。リチャード等による研究にて、マトリゲル(商標)を含む細胞なしのマトリックス上でhBS細胞株を6継代以上未分化の状態にて増殖させることは不可能であることが示された。しかしながら、本発明では、hBS細胞が35継代までマトリゲル(商標)上で安定であり、未分化hBS細胞のマーカーを発現し続け、凍結/解凍のサイクルの後でも成長速度がほとんど同程度のままであることが見出された。その上、機械的分離を酵素的分離と比較した場合、著しく多数の生存コロニーが平板培養の2日後観察された。重大なステップはhBS細胞のフィーダーなしの培養システムへの移送の初期ステップであるようである。従って、本発明はhBS細胞のフィーダーなし培養システムへの移送方法を提供し、ここにおいてhBS細胞は機械的にフィーダーから切除される。実施例ではここで、各コロニーの中心部分のみが使用され、一方でスー等による先の研究ではコロニー全体が酵素処理により引き離されるが、フィーダー細胞で培養が汚染される危険性を伴っていた。更に、フィーダー培養hBS細胞をフィーダーなしの細胞表面へ移送する非常に繊細なステップで酵素を使用することは、細胞接着及び成長に関与する重要な表面分子の不活性化を引き起こし得る。マトリゲル(商標)中の主要成分はIV型コラーゲン及びラミニンのような細胞外マトリックスタンパク質である。細胞外マトリックスタンパク質に結合する細胞表面インテグリンの活性化は、細胞接着、生存及び増殖の調節にとって重大なステップであると思われる。例えば、インテグリンアルファ1はコラーゲンマトリックス中の生体外及び生体内細胞増殖の両者の調節においてコラーゲン受容体間の独特な役割を有している。ラミニン−特異的受容体はたぶん、インテグリンα6及びα1により形成され、これはhBS細胞により高度に発現され、hBS細胞のマトリックス表面への接着に主要な役割をも果たし得る。従って、付着又は生存のために重要な表面受容体のいくつかは、細胞が新しい表面に順応する前に過酷な初期コラゲナーゼIV処理によって悪影響を受ける可能性がある。実施例ではここで、細胞接着、生存率及び増殖に関連し、hBS細胞をフィーダーなしの環境へ移送するための別の技術が、機械的又は酵素的分離の何れかによって研究された。その上、未分化hBS細胞の均質集団の長期間の増殖及び大規模な生産を促進するために、本発明による方法を発展させた。hBS細胞の凍結/解凍に関する従来の冷凍保存技術を使用することも検討された。
【0021】
フィーダーなしの増殖へのhBS細胞の移送
内細胞塊を切開した後、内細胞塊細胞をフィーダー細胞と共培養し、胚盤胞由来幹(hBS)細胞株を得た。hBS細胞株を得た後、細胞株を状況に応じて増殖させ、細胞の量を増やす。フィーダーなしのシステムではhBS細胞を増殖させる前に、hBS細胞をフィーダーなしのシステムへ移送しても良い。
【0022】
ここで述べたとおり、そして更に実施例にて実証したとおり、hBS細胞の増殖で成功する重大な要因はhBS細胞がフィーダー培養システムからフィーダーなしの培養システムへ移送される方法である。従って、hBS細胞はフィーダーなしの培養システムへ機械的切開によって移送されなくてはならず、これはhBSコロニー又はhBSコロニーの一部を切断、操作及び移送するために設計された25度の角度と200又は300マイクロメータの内腔を備えた無菌で先細のガラス毛細管を用いることにより実施され得る。これはスウェムド・ラボ・インターナショナル・AB(Swemed Lab International AB)、ビルダル(Billdal)、スウェーデン製である。
【0023】
ここで実施例に示すように、機械的分離は、非常に効率的なマトリゲル(商標)への細胞の付着をもたらし、酵素処理した培養と比較してより迅速な増殖をもたらし、そして細胞が継代の間非常に安定であるという結果をもたらした。従って、本発明によるhBS細胞の移送方法は如何なる酵素処理も必要としない。ここで実施例にて明らかなように、フィーダーなしの条件下で培養され増殖された細胞はフィーダー条件下で成長した細胞のものと同等の分裂指数を有している。
【0024】
フィーダー細胞なしでhBS細胞を培養することは、例えば、フィーダー細胞の継続的生産の必要性がなくなり、hBS細胞の生産をスケールアップすることが容易になり、そしてフィーダー細胞からのDNA転写の危険又は別の感染の危険がなくなるといった、非常に多くの利点を有しているので、胚盤胞由来幹細胞株の増殖はフィーダー細胞なしの成長条件下で幹細胞を培養することからなる。培地が正確に条件設定されていないと新しい細胞株を感染させる可能性がある。;
【0025】
従って、フィーダーなしの条件下での移送及び増殖ステップは以下のステップ、
a.胚盤胞由来幹細胞をフィーダーからフィーダー細胞なしの培養へ機械的処理により移送し、
b.状況に応じて、好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上にてフィーダー細胞なしの成長条件下で胚盤胞由来幹細胞を培養し、そして、
c.状況に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を酵素的及び/又は機械的処理によって3−10日ごとに継代すること、からなっていて良い。
【0026】
本発明の具体的な実施の形態において、全てのステップi)−iii)が含まれる。
【0027】
フィーダー培養システムからフィーダーなしの培養システムへのhBS細胞の移送
移送ステップは上述のごとく重大なステップであることが見出されている。従って、移送はフィーダー培養システムにおける細胞の機械的分離又は機械的切開により成されるべきである。この機械的処理は先細端部を有し切断に適切な寸法を有する器具のようなあらゆる好適な切断器具により成されて良い。この器具は例えばプラスチック又はガラスのようなあらゆる好適な材料で製作され、そして好適な器具の例としては、切断器具、すなわち、hBSコロニー又はhBSコロニーの一部を切断、操作及び移送するために設計された25度の角度と200又は300マイクロメータの内腔を備えた無菌で先細のガラス毛細管である。これはスウェムド・ラボ・インターナショナル・AB(Swemed Lab International AB)、ビルダル(Billdal)、スウェーデン製である。具体的な実施の形態において、移送されるhBS細胞はhBS細胞のコロニーであり、切片はコロニーの中心部から切り取られて細胞集合体として好適な培地中に懸濁される。細胞集合体は1回以上、例えば細胞集合体が元のコロニーの寸法の少なくとも50%、例えば最大約40%、最大約30%、最大約20%、最大約10%又は最大約5%の寸法を有するまで機械的に分離される。その寸法は例えば、集合体又はコロニー各々の直径で測定される。実施例ではここで、移送方法に関する好適な条件を示す。これらの条件は当然ながら適切な範囲内で変化しても良く、これは当業者の知識の範囲内である。
【0028】
好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上にてフィーダー細胞なしの成長条件の下での胚盤胞由来幹細胞の培養
例えば組織培養培地のような好適な成長培地及び成長支持又は被覆のような支持基質の存在は、フィーダーなしの条件の下で細胞を成長させる場合、非常に重要である。hBS細胞をフィーダー細胞上で成長させる場合、フィーダー細胞はhBS細胞の増殖を促進しそして分化を阻害する様々な物質を分泌する。フィーダーなしの条件の下で細胞を成長させる場合、そのような物質が成長培地へ添加又は組織培養ウェルの表面に被覆されなくてはならず、すなわち本発明はステップb)における成長培地及び/又は支持基質が胚盤胞由来幹細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進する物質からなる方法に関する。その上、細胞は例えば細胞を培養するために使用し得る組織培養ウェルの表面へ付着することが可能なある種の被覆(支持培地)を必要とし得る。
【0029】
そのような物質を培地へ加えても良い。増殖を促進し分化を阻止するために好適な物質からなる培地を調製する別の方法は、細胞の第一の個体群を培地中で培養して、次に培地(ここでは「条件設定された培地」と称する)を濾過し収穫する方法である。細胞の第一の個体群は、例えばマウス胚性線維芽細胞、ヒト線維芽細胞又は同じ細胞由来の細胞株のようなフィーダー細胞として通常使用される細胞であって良い。hBS細胞の培養のため好適な培地の一つとして、4ng/mlのヒト組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を添加したビトロHES(商標)−培地(ビトロライフAB、クングスバッカ、スウェーデン)があり、或いはもう一つの方法として「hBS−培地」と称する培地がある、これはノックアウトダルベッコの改良イーグル培地に20%のノックアウト血清代替物及び以下の成分を各々の終末濃度にて:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mのメルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が添加されたものからなっていて良い。
【0030】
条件設定された培地(細胞によって培地中へ分泌された如何なるものも同伴している)は、その結果細胞の第二の個体群の成長を支持するために使用され得る。本発明で用いる好適な培地は、「k−ビトロHES(商標)−培地」又は「k−hBS−培地」であり、ここにおいて、マウス及びヒト胚性線維芽細胞の単層はマイトマイシン処理されるか或いは放射線照射され、そして次に「ビトロHES(商標)−培地」又は「hBS−培地」で24時間インキュベートされる。k−ビトロHES(商標)−培地又は「k−hBS−培地」はその後毎日最大3−7回マウスフィーダーのために、そして最大3乃至7回ヒトフィーダーのために同じ細胞から回収され、無菌的に濾過され条件設定されたk−ビトロHES(商標)−培地又は「k−hBS−培地」を得た。「k−ビトロHES(商標)−培地」及び「k−hBS−培地」は約−20℃又はそれ以上の温度にて凍結することによりその後貯蔵され得る。
【0031】
具体的な実施例において、ステップb)における成長培地は細胞なしの条件設定されたk−ビトロHES(商標)−培地又はk−hBS−培地であって良く、これは実施例3に記載されているようにフィーダー細胞の培養によって生成される。
【0032】
hBS細胞をフィーダー細胞なしで成長させた場合に都合が良いことが見出されたその他の培養条件は、支持基質の存在であり、すなわち本発明はステップa)が支持基質上にて実施される方法に関する。支持基質は例えば組織培養ウェルの表面処理又は表面であり、これはhBS細胞の未分化の状態での付着及び成長を促進し、すなわち支持基質は例えばマトリゲル(商標)、胎盤からのヒト細胞外マトリックス(ECM)又はラミニンといった細胞外マトリックス成分のような付着及び増殖促進成分及び分化阻害成分、或いはゼラチン、ポリオルニチン、フィブロネクチン、アガロース、ポリ−L−リジン又はI型コラーゲンのようなその他の成分からなっていて良い。
【0033】
酵素的及び/又は機械的処理による胚盤胞由来幹細胞株の3−10日ごとの継代
本発明の具体的な実施の形態において、細胞は継代される。従って、細胞は3−10日ごと、例えば約3日おき、約4日おき、約5日おき、約6日おき、約7日おき、約8日おき、約9日おき、そして約10日おきに継代されなくてはならない。幹細胞株を継代前に10日以上培養すると、望ましくないことに細胞が分化してしまう可能性が増加する。
【0034】
hBS細胞を分離する方法の一つは、酵素的処理によるもの又はEDTAのような穏やかなキレートを使用することである。酵素的処理は機械的処理によって補足され得、支持基質から細胞を引き離し、分離を完全にする。使用される酵素は例えばコラゲナーゼIVのようなコラゲナーゼであると良い。継代にとって、酵素的処理は機械的処理よりも優れていることが見出された。
【0035】
フィーダーなしの条件の下でhBS細胞の増殖に重要であることを本発明が見出したその他の要因の一つは、支持基質上に播種した場合の細胞の密度である。生存率を改良するために、細胞を80,000−200,000細胞/cm2の密度にて平板培養すると良く、これは使用する細胞株に依存する。hBS細胞が60継代までの間マトリゲル(商標)上で安定であり、未分化hBS細胞のマーカーを発現し続け、凍結/解凍のサイクルの後でも成長速度がほとんど同程度のままであることを、本発明は見出した。
【0036】
特性
上述のとおり、本発明はhBS細胞をフィーダー細胞なしで上述のとおり増殖させる方法を提供し、hBS細胞は通常の核型、安定な増殖速度及びテロメラーゼ活性を維持している。細胞はフィーダーなしの成長条件の下で成長した場合12ヶ月以上未分化の状態のままで増殖することが可能である。hBS細胞はまた、フィーダーなしの条件の下で培養されると未分化細胞に付随するマーカーを発現する。その上、この細胞は生体外の分化の途中で3つ全ての胚葉から分化した子孫を発育させることが可能である。
【0037】
hBS細胞の分化の程度及び多分化能を研究するために使用された方法
免疫組織化学
培養において維持されたhBS細胞の分化の状態について、通常どおり監視した。未分化hBS細胞を監視するために使用する細胞表面マーカーは、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81である。ヒトBS細胞は4%PFA中にて固定され、続いて0.5%のトリトンX−100を用いて透過性を付与した。洗浄し10%の粉乳でブロッキングした後、細胞を一次抗体とインキュベートした。徹底的な洗浄の後、細胞を二次抗体とインキュベートしDAPI染色によって細胞核を視覚化した。
【0038】
アルカリホスファターゼ
アルカリホスファターゼの活性を市販のキットを用い、製造業者(シグマ・ディアグノスティック)の指示に従い測定した。
【0039】
Oct−4 RT−PCR
転写因子Oct−4のmRNAレベルをRT−PCR及び遺伝子特異的プライマーセット(5’−CGTGAAGCTGGAGAAGGAGAAGCTG、5’−CAAGGGCCGCAGCTTACACATGTTC)並びにGAPDHをハウスキーピング遺伝子(5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC、5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA)として用いて測定した
【0040】
蛍光原位置ハイブリダイゼーション(FISH)
FISHの1期間に、一つ以上の染色体が染色体特異的プローブで選択される。この技術は数的遺伝子異常がある場合それを検出可能とする。この分析のためには市販のキットが使用され、これは13,18,21染色体及び性染色体(X及びY)用のプローブを含む(ビシス社,ダウナーズ・グローブ,IL,USA)。各細胞株に対して少なくとも200の細胞核が分析される。細胞をカルノワ固定液により再懸濁し、プラスに帯電したスライド・ガラス上に滴下する。
【0041】
プローブLSI 13/21をLSIハイブリダイゼーション緩衝液と混合し、スライドに添加しカバースリップで被覆する。プローブCEP X/Y/18をCEPハイブリダイゼーション緩衝液と混合し、別のスライドに同様の方法で添加する。70℃で5分間変性を行い、続いて37℃の湿室で14−20時間ハイブリッド形成を行う。3段階の洗浄処置に続いて、細胞核をDAPI IIで染色し、スライドを適切なフィルター及びソフトウェアを備えた倒立顕微鏡(サイトビジョン,アップライドイメージング)で分析される。
【0042】
染色体分析
染色体分析は全ての染色体を直接的な方法で研究でき、非常に有益であり、数的及びより大きな構造的異常が検出可能である。モザイク現象を検出するために、少なくとも30の染色体が必要である。しかしながら、この技術は非常に時間がかかり且つ技術的に複雑である。分析条件を改善するために、コルセミド、コルヒチンに対する合成アナログ及び微小管不安定化剤によって分裂指数を上昇させることが可能であるが、依然多量な細胞を供給する必要がある(6×106細胞/分析)。細胞を0.1μg/mlのコルセミド存在下で1〜2時間インキュベートし、そして次にPBSで洗浄しトリプシン処理した。細胞を1500rpmで10分間遠心分離して収集する。細胞をエタノール及び氷酢酸を使用して固定して、染色体を改良されたライト染色(Wrights staining)を使用して視覚化する。
【0043】
比較ゲノムハイブリダイゼーション
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)は染色体分析を補足するものである。CGHは染色体のより高度な回答を示し、技術的能力がさほど必要ではない。単離DNAをDNA、A4、テキサスレッド−dUTP/FITC 12−dUTPおよびDNAポリメラーゼIの混合物中でニックトランスレーションする。アガロースゲル電気泳動法を得られたDNAフラグメント(600−2000bp)の寸法を制御するために実施する。試験及び対照DNAをホルムアミド、硫酸デキストラン及びSSC含有ハイブリダイゼーション混合液中に沈殿しそして再懸濁する。ハイブリダイゼーションを湿室において37℃3日間メタファーゼと共に変性ガラススライド上で実施する。大量洗浄後、1滴のフェージング防止封入混合物(ベクタシールド,0.1μg/ml DAPI II)を添加し、スライドをカバースリップで被覆する。スライドは次に顕微鏡下で映像分析システムを利用して評価される。
【0044】
テロメラーゼ活性
高活性はhBS細胞に対する基準として規定されているため、テロメラーゼ活性はhBS細胞株において測定される。細胞がより分化した状態に到達すると、テロメラーゼ活性は続いて減少することが知られる。従って、活性の定量化はより早い継代及び対照サンプルに関係し、分化を検出するための手段として利用可能である。この方法、テロメラーゼPCR ELISAキット(ロシュ)はテロメラーゼ内活性を使用し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により生成物を増幅しそれを酵素免疫吸着測定法(ELISA)で検出する。アッセイは製品取扱説明書に従って実施される。このアッセイの結果はhBS細胞に対して高いテロメラーゼ活性(>1)を典型的に示す。
【0045】
免疫不全マウスの奇形腫形成
ヒトBS細胞株が多能性を維持したかどうかを分析する一つの方法は腫瘍、奇形腫を得るために免疫不全マウスに対してその細胞を異種移植することである。腫瘍に見られる多様な種類の組織は3つの胚葉全てを示すべきである。報告書において、異種移植された免疫不全マウス由来の腫瘍において、多様な組織、例えば横紋筋、軟骨及び骨(中胚葉)、内臓(内胚葉)及び神経ロゼット(外胚葉)由来であった。また、腫瘍の大部分は無秩序な組織からなる。重症複合型免疫不全(SCID)−マウス、B−及びT−リンパ球欠損種が奇形腫形成の分析に使用される。ヒトBS細胞は睾丸又は腎臓被膜下の何れかに手術的に移植される。睾丸又は腎臓において、hBS細胞は10000〜100000細胞の範囲で移植される。理想的には、一度に5−6匹のマウスを各細胞株について使用する。中間結果は雌のマウスが雄のマウスよりもより術後安定性がよく、これは腎臓への異種移植は睾丸に対してと同様に奇形腫の生成において効果的であることを示している。従って、雌SCID−マウスの奇形腫モデルは望ましい。腫瘍は通常およそ1ヶ月後には触診可能となる。マウスは1−4ヶ月後に犠牲になり、腫瘍は切開されパラフィン−又は凍結−切片法のいずれかにより固定される。腫瘍組織は次に免疫組織化学的方法により分析される。3つの胚葉全てに対しての特異的マーカーが使用される。現在使用されるマーカーは:マウス組織とヒト腫瘍組織との区別のためのヒトE−カドヘリン、α−平滑筋アクチン(中胚葉)、α−フェトプロテイン(内胚葉)、及びβ−III−チューブリン(外胚葉)がある。更にヘマトキシリンエオジン染色が一般的な形態用に実施される。
【0046】
冷凍保存及び解凍
ここで実施例6からわかるように、継代を受けたhBS細胞は凍結保蔵されることが可能であり、続いて解凍することも可能である。解凍後全ての細胞株が生存しており、従来どおり冷凍保存及び解凍と同じパターンでプレートを被覆するマトリゲル(商標)上にて成長を開始した。
【0047】
本発明によって得られたhBS細胞の使用−心臓に関する疾病
本発明による方法によって得られるhBS細胞は医薬品に使用しても良い。
【0048】
冠状動脈性心臓病は全ての心血管系死亡の50%、心不全の発症のほぼ40%を占める。広範囲にわたる冠動脈の突発性閉塞及び急性心筋虚血は筋細胞及び血管構造の急死をもたらし得る。従来は、心臓病患者の回復は残った心室の梗塞していない部分の成長に完全に依存していた。しかしながら、これは拡張心筋、心不全及び死に結びつく。
【0049】
病気の心筋組織を交換するために現在利用可能治療は、臓器移植のみである。しかしながら、提供心臓の入手の可能性は限られているので、心臓移植から恩恵を受ける見込みのある臓器被提供者は比較的少ない。心臓の入手の可能性に関する問題が解決したとしても、この処置に関与する高い経費及び外科手術の過激性は依然末期心臓疾患の患者に対してのみに臓器移植を制限するであろう。従って、臓器移植に代わるものが必要である。具体的な態様において、本発明はそのような代案として好適に使用されるhBS細胞の調製方法に関する。
【0050】
限られた時間(narrow time window)内の迅速な再かん流は、急性心筋梗塞による早死を著しく減少させているが、心室リモデリングによる梗塞後の心不全が多発している。今日、これらの患者のための医療的代案は心臓移植を受けさせることである。これは非常に高価な治療であり、ひどく差し迫った危険のみならず、更に術後の合併症に悩まされる。加えて、この種の移植のための心臓は今日非常に不足している。それどころか、幹細胞による治療は緊急手術(例えば、開胸手術)の間、或いは、頚動脈によるバルーンカテーテル又は全身投与を用いて手術せずに後期に実施されることが可能である。この場合、合併症の被害及び危険性は最小限に減少される。幹細胞は無制限に増殖することができるので、幹細胞の臓器移植に対する利点は物質が無制限に入手できることである。その上さらに、hBS細胞は成人の心臓と比較して免疫原性の活性がずっと少ないことが最も確実である。従って、これらの患者の幹細胞による治療は時間的及び経済的に効果的な治療を提供し、そして多数の苦悩する人を救う。幹細胞の損傷した心筋への移植が現実の臨床治療となった場合、この治療は世界中の何百万もの患者にとって第一希望となる潜在能力を有する。
【0051】
本発明の方法によって得られたhBS細胞は、晩発性心筋梗塞、慢性虚血性心筋症、特発性拡張型心筋症、続発性心筋症(例えば中毒性、糖尿病、妊娠、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病及び血色素症)、左心機能障害又は心不全を備えた末期肥大性心筋症、拘束型心筋症、末期高血圧性心疾患、急性心筋梗塞、狭心症、劇症心筋炎、AV−ブロックIII,幼児及び成人における先天性心疾患の特異型(例えば圧縮しない左心室、心房及び心室中隔欠損)、ファロー四徴症及びその他の類似症状、弁膜の復元及び心臓弁膜症に続発する心不全のような心臓に関する疾病の予防又は治療用のhBS細胞を哺乳類中へ移植するための薬剤の製造のために使用され得る。
【0052】
ヒト胚盤胞由来幹細胞の移植のための薬剤は、心臓に関する疾病の予防又は治療のため哺乳類の心筋又は血液の循環中へ投与されるよう設計され得る。薬剤は水性培地のような医薬品として許容範囲にある培地中に分散された未分化hBS細胞又は分化hBS細胞からなる。培地は、pH調整剤、安定剤、防腐剤、浸透圧調整剤及び生理学的に許容範囲にある塩よりなる群から選択される一つ以上の添加剤;及び/又は治療的に活性な物質、予防的に活性な物質、移植性改良剤、生存率改良剤、分化改良剤及び免疫抑制剤よりなる群から選択される一つ以上の剤からなっていて良い。
【0053】
投与前の培養細胞の処理
以下に投与前の細胞の好適な処理方法を記載する。しかしながら、本記載には例証目的がふくまれ、本発明を決して限定する意図はない。
【0054】
移植に好適な寸法とするためそしてホスト組織中に入り込み樹立するのに最適な可能性を細胞に与えるために、hBS細胞コロニーを分離する。コロニーは機械的又は酵素的処理を用いて部分的又は完全に分離される。酵素処理は例えば緩衝化したコラゲナーゼ又はトリプシンの溶液のような好適な酵素で実施され得る。コラゲナーゼI,II、III、IV、V、VI等のような如何なる好適なコラゲナーゼをも使用可能である。実施例に、コラゲナーゼを使用した具体的な実施例が示されている。またEDTA溶液中の細胞コロニーのピペットによる機械的処理も有効であることが見出されている。細胞塊を所望の寸法にした後、細胞溶液を遠心分離し、洗浄し、移植に好適な緩衝液中にペレットを溶解する。
【0055】
投与
hBS細胞は動物へ細胞又は細胞−コロニー断片の無菌で緩衝化した溶液として別の装置を使用するか或いは別の方法で投与する。十分量の細胞を使用する。約105〜108の細胞が好適であることが予期される。無菌のシリンジ中へ吸引され直接動物へ導入されるか、冠状血管のどこかに設置されたバルーンカテーテル中へ導入される。直接投入は心臓組織中、心臓空洞の何れの場所又は循環血液中をさしている。細胞は1乃至3の別の時点にて数度の導入により投与されることが可能である。投与の間に動物の健康の全身状態を監視する。その上更に、漏出及び細胞消失の観点から、細胞移植の効率は注意深く見守られる。必要と有らば、動物に別の医薬的又は免疫抑制的処理を受けさせる。細胞移植と処理の結果を改良する剤との組み合わせを定義することが有益である。
【0056】
適切には、細胞の投与は一つ以上の治療的に又は予防的に活性な物質と共に及び/又はhBS細胞の移植率及び/又は生存率を改良するのに好適な一つ以上の剤と共に及び/又は一つ以上の免疫抑制剤と共に成されると良い。その上さらに、細胞の分化を改善するために好適な剤と共に投与されると良い。これらの別の剤の投与はhBS細胞の投与の前、投与と同時又は投与後であってよい。
【0057】
細胞の投与は予防的、緊急又は病気のいくらかの進展の後であって良い。
【0058】
本発明はまた区切られた区画中に少なくとも第一及び第二の成分からなるキットに関する。成分はhBS細胞の移植率及び存続率を改良する薬剤、hBS細胞及びhBS細胞の分化を促進する一つ以上の薬剤及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなっていて良い。
【0059】
キットは更にhBS細胞の移植率及び生存率を改良する第二の細胞型からなる。
【0060】
キットは更に分離していない又は分離している分化したヒトBS−細胞コロニーからなる。
【0061】
上述のとおり、本発明はまた例えば心筋細胞−様hBS細胞のような分化した細胞の使用に関する。以下にそのような分化した細胞の発育の記載が続く。以下に、本発明は心筋細胞−様細胞に関して具体的に記載する。しかしながら、hBS細胞から分化しそして心臓関連疾患の治療に好適に使用されるその他の細胞も同様に本発明に含まれる。
【0062】
hBS細胞から分化した細胞の発育
本発明において使用されるような方法によって得られたhBS細胞株は、分化した細胞の調製に利用されることが可能である。従って、本発明はまたhBS細胞の心臓組織又は心臓関連組織への分化、細胞それ自身及び上述のような心臓関連疾患用の薬物調製のためのそのような細胞の使用に関する。
【0063】
hBS細胞は心筋細胞−様構造を形成する能力を有し得、これらの細胞の量は一般的に10%より高く、例えば25%より高く、或いは40%より高く、或いは45%より高く、或いは50%より高い。
【0064】
hBS由来幹細胞は分化細胞へ分化する能力を有し得、これはα−ミオシン重鎖、α−アクチン、トロポニンI又はトロポニンTの少なくとも一つを含む心筋細胞マーカー、或いはGATA4,Mkx2.5,α−MHC,β−MHC又はANFを含む心筋細胞特異遺伝子の一つの発現を表示する。
【0065】
別の方法としてhBS細胞はα又はβアゴニスト又はアンタゴニストが培養培地へ投与されるとその個体数を増加させ又は減少させることができる収縮コロニーのその組織によって特徴付けられる心筋細胞−様細胞へ分化する能力を有している。
【0066】
分化細胞になる可能性のある胚盤胞由来幹細胞は電子顕微鏡検査で特性が明らかにされ、早期心筋細胞と調和して、ある程度の筋細線維組織を露呈する。
【0067】
別の態様において、本発明は例えば心筋梗塞、心筋症、狭心症及び心不全のような心臓弁膜症及び上記疾病に伴う心臓関連疾患の予防又は治療のための薬物の製造に関する本発明による方法によって得られる胚盤胞由来幹細胞から派生する分化細胞の調製物の使用に関する。
【0068】
本発明の更なる目的は「細胞生成」によって治療され得る疾病を治療し及び/又は予防するための薬物の調製のために使用され得る細胞を提供することである。用語「細胞生成」は、心筋細胞、神経細胞及び/又は様々な種類の内皮細胞及び血管構造物のような新規の細胞の生成を意味する
【0069】
管理前の分化細胞の処理
分化細胞は未分化hBS細胞について上述されているのと同じ方法で処理し得る。
【0070】
分化細胞の管理
分化細胞は未分化hBS細胞と同じ方法で管理し得る。
【0071】
本発明はまた区切られた区画中に少なくとも第一及び第二の成分からなるキットに関する。成分はhBS細胞の移植率及び存続率を改良する薬剤、hBS細胞及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなっていて良い。
【0072】
キットは更にhBS細胞の移植率及び生存率を改善する第二細胞型からなっていて良い。
【0073】
キットは更に分離されていない又は分離されている未分化ヒトBS−細胞コロニーからなっていて良い。
【0074】
本発明の別の態様
hBS細胞はハイ・スループット・スクリーニングにおいて大容量と改良された臨床的意義とを組み合わせて使用することが可能である。遺伝操作された細胞が様々な細胞型へ分化する又はせずにhBS細胞中の標的遺伝子を用いてゲノムを正確に模倣する能力は、第一及び第二のスクリーニングを通過して新規の治療的に活性な物質を同定することにこの技術を応用させることが可能である。
【0075】
従って、別の態様において本発明は本発明による方法によって得られたhBS細胞の使用に関し、
i)モノクローナル抗体の生成、
ii)生体外毒性スクリーニング、
iii)潜在的な製剤原料の生体外スクリーニング
iv)潜在的な製剤原料の検証に関して特定される。
【0076】
心臓は人体において第一に機能的な器官である。従って、心臓−様細胞及び/又はこれらの細胞をえるための経路は、介在(すなわち、潜在的な毒性効果を備えた物質を加えること)による発展的な毒性試験及び対照群の比較試験における発展のその後の監視について利用可能である。従って、本発明の上記態様は重要である。
【0077】
本発明のその他の実施の形態は添付の請求項から明らかである。上述のそして請求項中の詳細及び特定事項並びに本発明による方法に関することは、本発明の別の態様へ準用する。
【0078】
文献
ガードナー等、胚培養システム、トラウンソン、A.O.及びガードナー、D.K.(eds)、体外受精ハンドブック、第二版。CRCプレス、ボーカ・ラトーン、pp.205−264;
【0079】
トムソン JA,イトスコビッツ−エルド(Itskovitz−Eldor)J,シャピロ SS等、ヒト胚盤胞由来胚性幹細胞株。サイエンス1998;282:1145−1147。
【0080】
ニコ・ハインズ、マイケル C.O.イングランド、セシリア・ソブロム(Sjoeblom)、ウルフ・ダール、アンナ・テニング、クリスティーナ・ベルグ、アンダース・リンダール、チャールズ・ハンソン及びヘンリック・ゼム;ヒト胚性幹細胞の誘導、特性及び分化。幹細胞、2004年5月1日22(3)。
【0081】
リチャーズ M、フォン C−Y、チャン W−K等、ヒト内細胞塊及び胚性幹細胞のヒトフィーダー支持長期未分化成長、Nat.Biotechnol 2002;20:933−936。
【0082】
スー C.イノクマ MS,デナム J等。未分化ヒト胚性幹細胞のフィーダーなしの成長。Nat Biotechnol 2001;19:971−974。
【0083】
実施例
実施例1
自然孵化胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
ヒト胚盤胞は凍結あるいは新鮮なヒト生体外受精卵胚由来であった。4ng/mlのヒト組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)及び0.125mg/mlのヒアルロン酸を添加したビトロHES(商標)−培地中のフィーダー細胞(EF)上に自然孵化胚盤胞を直接置いた。EF細胞上で胚盤胞を平板培養した後、成長を監視し、そしてコロニーが手動で継代するのに十分大きくなる平板培養後およそ1−2週間後、内細胞塊細胞を別の細胞型から切開し新しいEF細胞上での成長によって増やした。
【0084】
実施例2
無傷の透明帯を備えた胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
無傷の透明帯を備えた胚盤胞に対して(図1)、rS2(ICM−2)培地(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)中での短時間のプロナーゼ(10U/ml,シグマ)インキュベーションを用いて透明帯を消化し(図2)、その後胚盤胞をヒアルロン酸(0.125mg/ml)の添加されたhBS培地中でEF細胞層上に直接置いた(図3)。
【0085】
実施例3
フィーダーなしの培養のため条件設定されたビトロHES(商標)−培地(k−ビトロHES(商標)−培地)の調製
ビトロHES(商標)−培地の条件設定用のmEF細胞を調製するため、mEF細胞(2継代)の融合性単層をマイトマイシンC処理し、ゼラチン(0.1%;シグマ)被覆培養フラスコ中にダルベッコの改良イーグル培地(D−MEM)に1%のペニシリン/ストレプトマイシン(PEST;10000U/ml)、10%のウシ胎仔血清(FBS)及び2mMのグルタマックス(商標)−Iサプリメント(200mM);全てギブコBRL/インビトロジェン、カールズバッド、CA,米国製のものを添加したものの中に59000細胞/cm2の濃度に播種した。24時間のインキュベーション期間と、PBS(ギブコBRL/インビトロジェン)での1回洗浄の後、培地を捨て、24時間の調整期間の間にビトロHES(商標)−培地(0.28ml/cm2)で置換した。条件設定されたビトロ(商標)−培地(k−ビトロHES(商標)−培地)を毎日最大3回同じmEF培養(2継代)から回収し、0.2μmの低タンパク質結合フィルター(ザルスタット,ランドスクーナ,スウェーデン)を使用することにより無菌濾過した。k−ビトロHES(商標)−培地は新鮮又は−20℃で凍結した後使用され、使用前に4ng/mlのbFGF(ギブコBRL/インビトロジェン)を添加した。k−ビトロHES(商標)−培地は+4℃で貯蔵されている場合には1週間まで使用可能である。−20℃で貯蔵されている場合には2ヶ月まで、生物反応度が減少した兆候は使用時に見地されなかった。
【0086】
実施例4
hBS細胞株のフィーダーなしの成長条件への移送
初期hBS細胞株を10−50継代のマイトマイシンC処理マウスフィーダー細胞上に保持し、4ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加したビトロHES(商標)−培地中にて培養した(図4)。
【0087】
hBS細胞のフィーダー培地からマトリゲル(商標)被覆プレートへの移送のための2つの異なる技術を評価した、1つは機械的分離、もう一つはコラゲナーゼ処理である。幹細胞切断器具(スウェムド・ラボ・AB,ビルダル,スウェーデン)を使用してhBS細胞を方形切片に切断し、これはコロニーの中央部に相当し、注意深く引き離し、そしてHBSS溶液に細胞を移送した。幹細胞器具は無菌で先細のガラス毛細管であり、25度の角度及び200又は300のマイクロメータの内腔を有し、hBSコロニー又はhBSコロニーの一部を切断、操作及び移送するために設計されている。これはスウェムド・ラボ・インターナショナル・AB(Swemed Lab International AB)、ビルダル(Billdal)、スウェーデン製である。
【0088】
(比較のための)コラゲナーゼによる酵素処理
HBSSで洗浄後、細胞集合体を酵素的分離のためコラゲナーゼIV溶液(200U/ml;シグマ)に移送した。細胞を37℃、5%のCO2で30分間インキュベートした。インキュベーション期間の間、ピペットで機械的分離を繰り返し、分離工程を倒立顕微鏡で監視した。インキュベーション期間の後、細胞懸濁液をペレット化し(400Gで5分間)、そして後、k−ビトロHES培地に再懸濁する前にノックアウト(商標)D−MEM(ギブコBRL/インビトロジェン)で1回洗浄した。
【0089】
本発明による機械的分離
HBSSで洗浄した後、細胞集合体を注意深く1−ml自動ピペットを使用して機械的に分離した。細胞集合体の寸法が上述したコラゲナーゼIV処理により生み出された細胞塊の寸法に相当する、元のコロニー(平均20000細胞/元のコロニー)のおおよそ1/10−1/20を示す時に分離工程を終了した。HBSSで洗浄後、コロニーをコラゲナーゼIV溶液(200U/ml)へ移送して酵素分離を開始した。
【0090】
2つの異なる技術について、細胞を各々4ウェル中へ播種し、5%CO2中で37℃にてインキュベートした。各試験を、毎回同量の播種細胞で4回繰り返した。2日及び6日後にコロニーの寸法及び数を算出した(図5)。
【0091】
実施例3及び4の結果
フィーダーからフィーダーなしの条件へのhBS細胞の移送を最適化するために、2つの異なる技術;1つは機械的分離、そしてもう1つは酵素分離を評価した。機械的分離は、酵素処理培地と比較して、より効率的な細胞のマトリゲル(商標)への付着と、より急速な増殖をもたらした。機械的分離を酵素分離と比較した場合、著しく多数の生存コロニーが平板培養後2日で観察された(図5)。2つの異なる技術で各々分離後、マトリゲル(商標)上で生み出された全てのコロニーの総面積を比較した(P<0.001)。その上、平板培養後6日の機械的分離された培養のコロニー総面積は、酵素分離された培養と比較して著しく増加していた(P=0.036)(図5)。
【0092】
実施例5
マトリゲル(商標)上で培養されたhBS細胞の培養及び継代
4つの異なる細胞株SA002,AS038,SA121及びSA167を全ての試験で使用した。細胞株をマトリゲル(商標)上で35継代まで増殖させ、凍結/解凍のサイクルの後でもその他のhBS特性及び形態的外観は変化がなかった。全ての培養は分化の形態的兆候のない、hBS細胞の明瞭なコロニーから構成されていた。約3〜6日後、培地を取り除くことにより細胞を継代し、1mlのコラゲナーゼIV溶液(200U/ml)を各ウェルへ添加し、15〜20分間インキュベートした。表面からの細胞剥離を促進するために、機械的分離を実施し、続いて更に15分間インキュベーションした。細胞を次に洗浄し、k−ビトロHES(商標)培地に再懸濁し、そしてマトリゲル(商標)上に1:2乃至1:6の分割比で播種した。hBS培養を5乃至6日毎に継代し、培地を2乃至3日毎に交換した。
【0093】
実施例5の結果
マトリゲル(商標)上に樹立されたhBS細胞の継代の間、コラゲナーゼIVによる酵素処理は表面からのコロニー引き離しに必要であることが観察された。継代の間の酵素処理はまた機械的分離と比較して、播種後の増殖率を増加させることが分かった(図6及び7)。
【0094】
実施例6
マトリゲル(商標)上に培養されたhBS細胞の冷凍保存及び解凍
4つの異なる細胞株SA002、AS038、SA121及びSA167をコラゲナーゼIVにより20−30分間処理して細胞を凍結前に互いに分離した。遠心分離後細胞を凍結培地に移送し、これは1mlの凍結培地当り100万個の細胞の濃度を有し、10%のDMSO、30%の血清代替物及び4ng/mlのbFGFを含有するk−ビトロHES(商標)−培地を含んでいる。最終的な細胞懸濁液は単一細胞及び細胞集合体の混合物であった。液体窒素中に長期間保存する前に、サイトチューブ(0.5〜1.0mlの細胞懸濁液)をナルゲン冷凍コンテナに迅速に移送し、−80℃で一晩又は少なくとも2時間保存した。
【0095】
hBS細胞の解凍
全ての細胞懸濁液が解凍されるまで冷凍管を37℃の水槽中に収納することにより細胞を解凍する前に、k−ビトロHES(商標)−培地を調製し、そして予備加熱しなくてはならない。遠心分離(400G、5分間)前にこの細胞懸濁液を予備加熱された培地に5分間で移送した。マトリゲル(商標)の薄層被覆(BD)ウェルを、1mlのk−ビトロHES(商標)−培地をウェルに加えることにより水分補給し、37℃で30分間インキュベートした。細胞ペレットをk−ビトロHES(商標)−培地に再懸濁し24−ウェル又は6−ウェルの何れかのマトリゲル(商標)プレートへ移送した。
【0096】
実施例7
フィーダーなしで培養されたhBS細胞の特性決定
マトリゲル(商標)上での樹立後そして冷凍/解凍のサイクル後に全ての特性決定実験を実施した。
免疫細胞化学:培地を上述のように継代し、6−ウェル又は24−ウェルマトリゲル(商標)プレート中へ播種し、6日間培養した後免疫染色を実施した。培地をPBSで洗浄し、4%のホルムアルデヒド(ヒストラボ,イェーテボリ,スウェーデン)で15分間室温にて固定し、次にPBSで再び3回洗浄した。使用したモノクローナル一次抗体をSSEA−1、SSEA−3及び−4(1:200;発生的研究ハイブリドーマバンク,ロワ大学、ロワ市、IA)、Tra−1−60、Tra−1−81(1:200;サンタ・クルーズ・バイオテクノロジー、サンタ・クルーズ、CA)及びポリクローナルウサギ抗−ホスホ−ヒストンH3(1:150;クラブ,北部)に対して誘導した。一次抗体を4℃で一晩インキュベートしその後適切なCy3−又はFITC−共役二次抗体(1:300;ジャクソンイムノリサーチ研究所、ウェスト・グローブ,PA)を使用して視覚化した。培地を更に4’−6’ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;シグマ−アルドリッチ・スウェーデン・AB,ストックホルム,スウェーデン)を0.5μg/mLの終末濃度で5分間室温にてインキュベートし、全ての細胞核を視覚化した。染色された培養をDAKO蛍光封入剤(ダコパッツ・AB、アルブショー、スウェーデン)を使用して濯ぎ封入し更に倒立蛍光顕微鏡(ニコンエクリプスTE2000−U)で視覚化した。市販キット(シグマ−アルドリッチ)を使用して製品業者の指示に従って、マトリゲル(商標)培養hBS細胞のアルカリホスファターゼ(AP)染色を実施した。
【0097】
テロメラーゼ活性:マトリゲル(商標)培養hBS細胞を収穫し、溶解し、そしてテロメラーゼ活性をPCR−ベースELISA(ロシュ・ダイアグノスティック社、マンハイム、ドイツ)により製品取扱説明書に従って分析した。
【0098】
染色体分析及びFISH:染色体分析のために指定されたマトリゲル(商標)増殖hBS細胞をコルセミド(colcemid)(0.1g/ml,インビトロジェン、カールズバッド、CA、USA)中で1乃至3時間インキュベートし、分離し、固定し、ガラススライド上に載せ、そして改良ライト染色(#WS−32,シグマ)を使用して染色体を視覚化した。中期板の準備を前述のように行った。蛍光原位置ハイブリダイゼーション(FISH)分析に関して、第13,18,21染色体及び性染色体(X及びY)用のプローブを含有する市販キット(マルチビストン(商標)PBマルチカラープローブパネル;ビシス社,ダウナーズ・グローブ,IL)を製品取扱説明書に従って使用した。スライドを適切なフィルター及びソフトウェア(サイトビジョン,アップライドイメージング、サンタ・クララ、CA)を備えた倒立顕微鏡を用いて分析した。
【0099】
奇形腫:奇形腫形成実験に関して、免疫不全SCIDマウス(C.B−17/lcrCrl−scidBR,チャールズ・リバー・ラボラトリーズ、ドイツ)を使用した。マトリゲル(商標)増殖hBS細胞コロニーをコラゲナーゼIV(200U/ml)を使用して表面から酵素的に引き離し、小細胞集合体に機械的に分離し更におおよそ50000乃至100000細胞/器官を腎臓被膜下に注射した。対照動物をCyo−PBS注射又は同腹子からの原発性脳細胞で処理した。動物を注射後8週間して解剖し、腫瘍を4%パラホルムアルデヒド溶液に迅速に固定しそしてパラフィン包埋した。組織学的分析のため、奇形腫を8μmに区分し、アルシアンブルー/チカ ワンギ−ソンで染色した。
【0100】
Oct−4発現のRT−PCR分析:全てのRNAを4つ全てのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株からRNイージーミニキット(キアゲン)用いて製品取扱説明書に従い単離した。cDNAをAMVファーストストランドcDNA合成キット(ロシュ)を使用して全RNAのうち1μgから合成し、プラチナTaqDNAポリメラーゼ(インビトロジェン)を使用してPCR反応を実施した。PCR反応は4つの初期ステップ−ダウンサイクルが含まれ、アニーリング温度ごとにサイクルを二回繰り返し、94℃で15秒間変性させ、66乃至60℃で15秒間アニールさせそして72℃で30秒間伸展させた。下記のサイクルは58℃のアニーリング温度で35回の繰り返しを含んでいた。Oct−4の前進方向及び逆方向へのプライマー配列は前述した。−アクチンプライマーを内部コントロールとして使用した(センス,5’−TGGCACCACACCTTCTACAATGAGC−3’;アンチセンス、5’−GCACAGCTTCTCCTTAATGTC−ACGC−3’;400bp製品)。PCR生成物を、1.5%アガロースゲルを使用してゲル電気泳動によりサイズ分画した。ヒトの肝臓をPCR反応に関して陽性コントロールとして使用し、水を陰性コントロールとして使用した。
【0101】
実施例6及び7の結果
細胞株SA002、AS038,SA121及びSA167は冷凍保存技術を利用して冷凍及び解凍し、特性に関する変化が見られるかどうかにつき調べた。解凍後4つ全ての細胞株が生存し、マトリゲル(商標)被覆プレート上で同様のパターンで成長を開始した。
【0102】
フィーダーなしの条件において4つの異なるhBS細胞株の多能性及び保守性を実証し、各細胞株のフィーダー培養に関する先の結果と比較した。これらの特性決定を、形態、未分化マーカーの発現、テロメラーゼ活性、核型及び生体内の分化を調べることで実施した。
【0103】
免疫細胞化学:SSEA−1発現は、フィーダーなしで培養されたhBS細胞株の全てにおいて陰性であったのに対し、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60及びTRA1−80に対する抗体による染色では多能性hBS細胞を示す明らかな陽性免疫反応が示された。更に、細胞は4つ全てのマトリゲル(商標)増殖細胞株において高いレベルのAP反応性を示した(図8)。
【0104】
テロメラーゼ活性:3つのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株(AS038、SA121及びSA167)にて分析が実施された。マトリゲル(商標)上で培養されたhBS細胞は高いレベルのテロメラーゼ活性を有することが分かった(図9)。
【0105】
染色体分析及びFISH:染色体分析を2つのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株、AS038及びSA121上で実施した。細胞株AS038からの3つの細胞の内の3つと、細胞株SA121からの12の細胞の内の10個が正常なヒトの46,XY核型を有することが分かった(図10)。SA121細胞株からの残りの2つの細胞は45,XY及び42,XYの異常な核型を発現した。しかしながら、核型変化はフィーダー及びフィーダーなしのhBS培養の両方にとって長期培養後には通常生じる事象である。本研究においフィーダー培養hBS細胞の核型分析はマトリゲル(商標)増殖後の結果と同程度であり、これはhBS細胞の核型がこれらのフィーダーなしの条件の下で正常性及び安定性を維持していることを示した。FISH分析を2つのマトリゲル(商標)増殖細胞株(SA121(XY)及びSA167(XX))について実施した。分析をX、Y、18,13及び21染色体に関して行った。試験された両方の細胞株に対して、少なくとも93%は正常であった。FISH分析からの結果をフィーダー培養されたhBS細胞株からの結果同程度であった。
【0106】
奇形腫形成:奇形腫形成は2つのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株、SA167及びSA002に関して実施され、結果は、奇形腫が3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)全てに相当する分化した細胞及び組織から形成され(図11)、マトリゲル(商標)増殖hBS培地がその多能性を維持している証拠を提供していることを示した。
【0107】
Oct−4発現:Oct−4発現はマトリゲル(商標)上に培養された4つ全ての細胞株において高かった(図12)。
【0108】
実施例8
胚性マウスフィーダー細胞上で培養されたhBS細胞に対してマトリゲル(商標)被覆プレート上でフィーダーなしの条件の下で培養されたhBS細胞の分裂指数の比較
細胞株SA121をマトリゲル(商標)被覆プレート上でフィーダーなしの条件の下と、胚性マウスフィーダー細胞上とで並行して3日間培養した。次に有糸分裂時の細胞数をリン酸化ヒストンH3に対する核免疫反応により定量化した。両培養における分裂指数を算出し、フィーダーなし及びフィーダー培養hBS細胞の間の増殖率を比較した。
【0109】
実施例8の結果
分裂指数はフィーダー層条件と比較してフィーダーなし(マトリゲル(商標))の下で成長させた培養と類似していた(図13)。フィーダーなし培養の倍増時間はフィーダー増殖hBS細胞のものとおよそ同じ(約35時間)であった。
【0110】
実施例9
マトリゲル(商標)培養細胞のラット心臓への移植
上記のとおり調製されたヒト胚盤胞由来幹細胞コロニーを0.5mlコラゲナーゼ溶液(コラゲナーゼIV型、凍結乾燥、179ユニット/mg、ギブコ、インビトロジェン社、HBSSに溶解し200U/mlとする)で分離し、(P10391PC/P10387に記載の)15mlチューブへ移送する。チューブを400×gで5分間遠心分離する。上清(コラゲナーゼ溶液)を捨て、ペレットを5mlの事前に温めた無菌のHBSS(37℃)に溶解する。チューブを400×gで5分間遠心分離する。上清を捨て、ペレットを25μlの事前に温めた無菌のHBSS(37℃)に溶解する。細胞を無菌のシリンジへ移送し、動物手術室へ運搬する。細胞を麻酔して酸素を供給しているラットへ直接心筋に1−2回導入、左心室中への導入、又は静脈で全身投与の何れかによって投与した。
【0111】
より詳細には、200gのオスのSDラットを使用し、3mmプローブを用いて直接的な冷凍障害によってMIを誘発した。この処理は先のMIが左心室(LV)の15−20%を占めるようにした。犯された領域に隣接した生存心筋中へhBS細胞を心筋内注射、又は凍結障害の直後に静脈で全身投与の何れかによって移植した。全ての動物を移植から1週間後の経胸壁心エコー検査、連続的なECG及びLVカテーテル法で調査した。
【0112】
解剖は、hBS細胞の検出及び特徴づけのため、心臓を組織学的に評価した。hBS細胞で処理したラットに死亡したものはなく、不整脈も検出されなかった。hBS細胞移植の部分に異常な組織の兆候も見られなかった。
【0113】
梗塞した(periinfarcted)領域中のヒト細胞の存在を細胞学的分析によって確認した。心臓を切除し、注射領域を取り囲む組織を切開した。この断片を冷凍容器(クリオモールド)中のOCT溶液中にて凍結した。次に断片全体をマイクロトームを用いて10μmの薄片に低温切開し、薄片を冷凍庫中でマイクロスライド(プラス)上に載せた。免疫組織化学分析の直前にスライドを室温で溶解し、各細胞スライスの周りにイムエッジペン(ImmEdge Pen)を用いて円が加えられた。サンプルを4%ホルムアルデヒドで固定し、5分間PBSで洗浄し5分間TBSで3回洗浄した。スライスを次に30分間室温でブロッキング剤(ヤギ血清)とインキュベートし5分間TBSで3回洗浄した。全てのスライドを次に2分間DAPIで染色しPBSで5分間洗浄した。最後にスライドを蛍光培地(S3023,DAKO)中で標本にし、ヒト細胞を蛍光顕微鏡を用いて確認した。
【0114】
実施例9の結果
hBS細胞の投与による心臓関連疾患治療のためのhBS細胞を別の方法で培養した。ここで実施例(図15)から分かるように、hBS細胞の投与の効果は如何なる細胞が培養されているかに依存する。hBS細胞がマトリゲル(商標)上で培養され本実施例のように移植される場合、大量の細胞が移植24時間後に上記技術を用いて確認される。これはマトリゲル(商標)培養技術は劇的に細胞の生存率や、ホスト組織中において細胞が樹立する可能性を増加させることが示唆される。
【0115】
本発明の方法における使用に適切なhBS細胞の樹立方法
国際公開第03/055992号パンフレット(同一出願人)として2003年7月10日に、すなわち本発明の優先日より後に公開されたPCT出願において、hBS細胞を樹立する好適な方法が記載されている。本願の一つの態様において、採用される細胞は国際公開第03/055992号パンフレットにて請求された方法により得られ、これはここで参考として組み込まれる。
【0116】
受精卵母細胞からの多能性ヒト胚盤胞由来幹細胞又は細胞株の樹立方法は、
i)等級A又はBを必要に応じて有する、胚盤胞を得るために、等級1又は2を有する、受精卵母細胞を必要に応じて使用して、
ii)フィーダー細胞と共に胚盤胞を共培養し、一つ以上の内細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii)機械的切開により内細胞塊細胞を単離し、
iv)フィーダー細胞と共に内細胞塊細胞を共培養し胚盤胞由来幹細胞株を得て、
v)必要に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を増殖させる、
ステップからなる。
【0117】
この手順の出発原料として受精卵母細胞が使用される。受精卵母細胞の質は結果として得られる胚盤胞の質に対して重要である。この方法のステップi)におけるヒト胚盤胞は凍結又は新鮮な生体外ヒト受精卵母細胞から派生される。以下に、国際公開第03/055992号パンフレットで用いた好適な卵母細胞を選択する手順について記載する。本方法の重要な成功のための規準は適切な卵母細胞を選択することであることが分かった。従って、等級3の卵母細胞しか適用しない場合、通常の要求(以下に記載される)を満たすhBS細胞株を得る可能性が低い。
【0118】
提供された新鮮な受精卵母細胞:0日目に、卵母細胞をAsp−100(ビトロライフ)中に吸引し、1日目にIVF−50(ビトロライフ)中にて受精させる。受精した卵母細胞は3日目に形態及び細胞分裂に基づき評価する。以下のスケールを受精卵母細胞の評価に使用する:
【0119】
等級1の受精卵母細胞:ちょうど1割球、断片なし
等級2の受精卵母細胞:<20%の断片
等級3の受精卵母細胞:>20%の断片
【0120】
第3日目に評価を行った後、等級1及び2の受精卵母細胞を着床させるか貯蔵用に冷凍する。等級3の受精卵母細胞をICM−2(ビトロライフ)に移送する。受精卵母細胞を更に3−5日間(すなわち、受精後5−7日)培養する。胚盤胞を以下のスケールで評価する。
等級Aの胚盤胞:6日目に明確な内細胞塊(ICM)に拡大する
等級Bの胚盤胞:拡大はしないがそれ以外は等級Aと類似
等級Cの胚盤胞:ICMは見られない
提供された冷凍受精卵母細胞:2日目(受精後)に、受精卵母細胞をフリーズ−キット(ビトロライフ)を使用して第4−細胞期で冷凍する。冷凍受精卵母細胞を液体窒素中で貯蔵する。第5年の期限が過ぎる前にインフォームドコンセントが提供者から得られる。受精卵母細胞は解凍−キット(ビトロライフ)を使用して解凍され、更に上述の手順が第2日目から行われる。
【0121】
上述のように、新鮮な受精卵母細胞は等級3の質に由来し、冷凍受精卵母細胞は等級1及び2に由来する。樹立方法により得られたデータによると、胚盤胞に発育する新鮮な受精卵母細胞の割合は19%であり、一方50%の冷凍受精卵母細胞が胚盤胞に発育する。このことは冷凍受精卵母細胞の方が非常に多くの胚盤胞が得られ、これは恐らく受精卵母細胞の質がより高いためである。新鮮受精卵母細胞由来の胚盤胞の11%が幹細胞株に発育するが、一方冷凍受精卵母細胞由来の胚盤胞の15%が幹細胞株に発育する。つまり、培養中に置かれた新鮮受精卵母細胞の2%が幹細胞株に発育し、培養中に置かれた冷凍受精卵母細胞の7%が幹細胞株に発育した。
【0122】
胚盤胞−段階への受精卵母細胞の培養は、当技術分野において公知の手順の後に実施される。胚盤胞を調製する手順はガードナー等、胚培養システム、トラウンソン、A.O.及びガードナー、D.K.(eds)、体外受精ハンドブック、第二版。CRCプレス、ボーカ・ラトーン、pp.205−264;ガードナー等,無菌的受精(Fertil Steril),74,Suppl3,O−086;ガードナー等,Hum Reprod,13,3434,3440;ガードナー他,J Reprod Immunol,近刊;及びホッパー他,Biol Reprod,62,Suppl 1,249に記載される。
【0123】
状況に応じて等級1又は2を有する受精卵母細胞由来のステップi)における胚盤胞の樹立後、等級A及びBを有する胚盤胞をフィーダー細胞と共に共培養し内細胞塊細胞の一つ以上のコロニーを樹立した。フィーダー細胞上に平板培養した後、それらの成長を監視しコロニーが手動で継代するのに十分大きくなると(平板培養からおよそ1〜2週間後)、細胞を別の細胞型から切開し新規のフィーダー細胞上で成長することにより拡大する。内細胞塊細胞の単離を機械的切開により実施し、これは切断器具としてガラス毛細管を使用することで実施する。内細胞塊細胞の検出を顕微鏡法により目視にて容易に実施し、これにより、栄養外胚葉を損傷あるいは除去するために、酵素及び/又は抗体で卵母細胞に対して何らかの処置を行う必要がない。
【0124】
従って、国際公開第03/055992号パンフレットの手段は免疫手術の必要性を軽減する。免疫手術を使用するのと栄養外胚葉を無傷のままにする本方法との成功率を比較することにより、非常に単純、迅速及び免疫手術を避ける非外傷方法の方が、免疫手術よりも効果的であることが分かった。これらの手順は幹細胞株の調製、及びこれら細胞株の分化を商業的に実行可能にする。全体として122の胚盤胞から、19の細胞株が樹立された(15.5%)。42の胚盤胞が免疫手術により処置されその結果これらの内の6つが細胞株の樹立に成功した(14%)。80の胚盤胞が本発明により処置され更に13の細胞株が樹立された(16%)。
【0125】
内細胞塊の切開に続いて、内細胞塊細胞をフィーダー細胞と共に共培養し胚盤胞由来幹(BS)細胞株を得る。hBS細胞株を得た後、細胞株を状況に応じて増殖させ細胞量を増加させる。すなわち、胚盤胞由来幹細胞株は例えば、4〜5日ごとに幹細胞株を継代することにより、増殖する。幹細胞株が継代前に4〜5日より長く培養されると、細胞が不要に分化する可能性が増加する。
【0126】
フィーダー培養システムにおける細胞の具体的な継代手順をここでは樹立実施例5に示す。
【0127】
ヒトBS細胞株は自然孵化胚盤胞、又は無傷透明帯を備える拡大胚盤胞のいずれかから単離され得る。上述の方法において、ステップi)における胚盤胞は自然孵化胚盤胞である。孵化胚盤胞に関し栄養外胚葉は無傷なままであり、孵化胚盤胞又は除去されたまたは部分的に除去された透明帯を備える胚盤胞を不活化フィーダー細胞上に置いても良い。
【0128】
胚盤胞の透明帯はステップii)の前に、例えばZD(商標)−10(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)などの一つ以上の酸性試薬、一つ以上の酵素又はプロナーゼなどの酵素混合物により処置することにより、少なくとも部分的に消化あるいは化学的にひだをつけても良い。
【0129】
無傷透明帯を備える胚盤胞の簡単なプロナーゼ(シグマ)処理により、帯を除去する。プロナーゼと同様のあるいは類似のプロテアーゼ活性を備える別の型のプロテアーゼも使用可能である。この胚盤胞は前記不活化フィーダー細胞上に平板培養され次にプロナーゼ処理されることが可能である。
【0130】
樹立方法において、ステップii)及び/又はステップiv)は胚盤胞及び/又は関連すれば内細胞塊細胞をフィーダー細胞に接着させることを改良する薬剤により実施されても良い。この目的のための適な物質はヒアルロン酸である。
【0131】
フィーダー細胞上に胚盤胞を平板培養するのに好適な培地はヒアルロン酸を補充するhBS−培地であると良く、これはフィーダー細胞上に胚盤胞が接着し更に内細胞塊が成長することを促進するものである。ヒアルロン酸(HA)は接合における細胞外マトリックスの重要なグリコサミノグリカン成分である。これは少なくとも2つの細胞表面受容体:CD44及びHA−媒介運動性(RHAMM)用受容体の、細胞外マトリックスのタンパク質に対する結合相互作用を介してその生物学的効果を発揮するようである。hBS細胞の樹立の間のHAの効能はその細胞膜中のリン脂質の界面活性剤の極性頭部との相互作用を介して発揮され得、これにより界面活性剤層を安定化させ、よって、内細胞塊又は胚盤細胞の表面張力を低下させて、フィーダー細胞に対する結合効果を増大させることになる。別の方法として、HAは内細胞塊又は胚盤胞上受容体及び/又はフィーダー細胞に対して結合して内細胞塊の接着及び成長を増進させる生物学的効果を発揮する。これにより、流体の表面張力を変化させ得る、或いは別の方法で胚盤胞とフィーダー細胞との間の相互作用に影響を与える別の試薬もヒアルロン酸の代わりに使用可能である。
【0132】
上述の方法において、フィーダー細胞の培養はhBS細胞株の樹立に重要である。胚盤胞由来幹細胞株の増殖は最大3回、例えば最大2回のフィーダー細胞の継代からなる。
【0133】
本発明の方法に使用される好適なフィーダー細胞は胚性又は成体の繊維芽細胞である。本発明の方法において、ステップii)及びiv)に採用されるフィーダー細胞は同一でも異なっていても良く、例えばヒト、マウス,ラット、サル、ハムスター、カエル、ウサギ等を含む如何なる哺乳類などの動物に源を発する。ヒト又はマウス種からのフィーダー細胞が好ましい。
【0134】
一般的要求事項を満たすhBS細胞株を得るための別の重要な規準は、胚盤胞が培養される条件である。従って、胚盤胞由来幹細胞株は幹細胞を1cm2当り約60,000細胞未満、例えば1cm2当り約55,000細胞未満、あるいは1cm2当り約50,000細胞未満の密度を有するフィーダー細胞と共に培養されることにより増殖される。具体的な実施の形態において、胚盤胞由来幹細胞株の増殖は幹細胞を1cm2当り約45,000細胞の密度のフィーダー細胞と共に培養することからなる。これらの値はマウスフィーダー細胞が使用され好適な密度が別の型のフィーダー細胞に対しても同様に達成できる場合に適用される。本発明者の発見に基づき、当業者は好適な密度を得ることができる。フィーダー細胞はフィーダー細胞の不要な成長を避けるために分裂期に不活化される。
【0135】
上述の樹立方法により得られた胚盤胞由来幹細胞株は好適な周期の間自己再生及び多分化能を維持し、従って好適な周期の間安定する。この場合、用語「安定」とは分裂期に不活化された胚性フィーダー細胞の成長の際に21か月以上の未分化状態における増殖能を示すことを意味する。
【0136】
上述の樹立方法により得られた幹細胞株は一般要求事項を満足する。すなわち、この細胞株は、
i)分裂期不活化胚性フィーダー細胞で成長する場合に、21か月以上の未分化状態における増殖能を示し、
ii)正常正倍数性染色体核型を示し、
iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体に進化する可能性を保持し、
iv)以下の分子マーカー、OCT−4、アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアの内の少なくとも二つを示し、
v)分子マーカーSSEA−1又は別の分化マーカーは示さず、
vi)その多分化能を維持し更に免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、
vii)分化可能である。
【0137】
上述の方法により得られた未分化hBS細胞は以下の基準により規定され;それらはヒトの着床前受精卵母細胞、すなわち胚盤胞から単離され、分裂期不活化フィーダー細胞上で成長する際に未分化状態において増殖能を示し;それらは正常染色体核型を示し;それらは未分化hBS細胞に対して典型的なマーカー、例えば、OCT−4,アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアを示し、炭水化物エピトープSSEA−1又は別の分化マーカーの発現は示さないとする基準である。その上、生体外或いは生体内(奇形腫)における多分化能テストは全ての胚葉の誘導体への分化を実証する。
【0138】
上述により、本方法は多分化能ヒトBS細胞の実質的に純粋な調製物を提供し、これはi)分裂期不活化胚性フィーダー細胞で成長する場合に、21か月以上の未分化状態における増殖能を示し;ii)正常正倍数性染色体核型を示し;iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体への進化の可能性を保持し;iv)以下の分子マーカー、OCT−4,アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアの内の少なくとも二つを示し、v)分子マーカーSSEA−1あるいは別の分化マーカーは示さず、更にvi)その多分化能を維持し更に免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、更にvii)分化可能である。細胞マーカーの検出用方法はGage,F.H.,サイエンス,287:1433−1438(2000)に記載される。
【0139】
この樹立方法は以下に「樹立実施例」として記載する。これらの実施例は例示を目的としてのみここに記載され、いかなる方法においても本発明の範囲は限定されない。ここに記載される一般的な方法は当業者にとって公知であり更に全ての試薬及びバッファは利用し易く、市販あるいは当業者の手により既知のプロトコルに従って容易に生成し易いものである。全ての培養はCO2雰囲気下において、37℃で実施される。
【0140】
使用される好適な培地の一つは「BS−細胞培地」又は「BS−培地」と称し、ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に、20%ノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度における成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組み換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が追加されたものから構成されていて良い。
【0141】
別の好適な培地は「BS細胞体培地」であり、これは以下の;ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に、20%ノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度における成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノールから構成される。
【0142】
本文において、用語「安定」とは有糸分裂時不活性化された胚性フィーダー細胞を成長させるときに21か月以上の未分化状態における増殖能を意味することが意図される。
【0143】
樹立実施例
樹立実施例1
自然孵化された胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
ヒト胚盤胞は凍結あるいは新鮮なヒト生体外受精卵胚由来であった。hBS細胞培地(ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に20%ノックアウト血清代替物及び以下の終末濃度における成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組み換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)に0.125mg/mlのヒアルロン酸が追加されたものが追加される)中のフィーダー細胞(EF)上に自然孵化胚盤胞を直接置いた。EF細胞上で胚盤胞を平板培養した後、成長を監視し、そしてコロニーが手動で継代するのに十分大きくなる平板培養後およそ1−2週間後、内細胞塊細胞を別の細胞型から切開し新しいEF細胞上での成長によって増やした。
【0144】
樹立実施例2
無傷透明帯を備える胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
無傷の透明帯を備えた胚盤胞に対して、rS2(ICM−2)培地(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)中での短時間のプロナーゼ(10U/ml,シグマ)インキュベーションを用いて透明帯を消化し、胚盤胞をヒアルロン酸(0.125mg/ml)の添加されたhBS培地中でEF細胞層上に直接置いた。
【0145】
樹立実施例3
アルカリホスファターゼ用組織化学的染色
細胞をRT−PCR、組織化学的(アルカリホスファターゼ)及び免疫細胞化学的分析(以下参照)のため収穫した。RNA単離及びRT−PCR。全ての細胞性RNAをRNイージーミニキット(キアゲン)を使用して製造業者の推奨事項に従って調製した。cDNA合成をRT−PCR(ロシュ)用AMVファーストストランドcDNA合成キットを用いて実施し、PCRをプラチナTaq DNAポリメラーゼ(インビトロジェン)を用いて実施した。アルカリホスファターゼ用組織化学的染色を市販キット(シグマ)を使用して製造業者の推奨事項に従って実施した。
【0146】
樹立実施例4
hBS細胞株の調製及び培養
マウスの胚性線維芽細胞フィーダー細胞をDMEM(ダルベッコ改良イーグル培地)に10の%FCS(ウシ胎仔血清)、0.1Mの−メルカプトエタノール、50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン及び2mMのL−グルタミン(ギブコBRL)が追加されたEMFI−培地中、組織培養皿上で収穫した。フィーダー細胞をマイトマイシンC(10g/ml、3時間)で分裂期に不活化した。ヒトBS細胞コロニーを手動による切開によって不活化されたマウス胚性繊維芽細胞フィーダー細胞上で増やした。
【0147】
ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に20%のノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度の以下の成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組み換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が追加されたhBS−細胞培地で組織培養皿中の分裂期に不活化されたマウス胚性繊維芽細胞フィーダー細胞上で培養された。継代7日後コロニーはBS細胞体を作り出すのに充分成長した。
【0148】
BS細胞コロニーをガラス毛細管により0.4×0.4mm切片に切断してBS細胞体培地:ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に20%のノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度の以下の成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、及び100Mの−メルカプトエタノール:を含む非付着性細菌培養皿上で平板培養した。嚢胞性hBS細胞体を含む、hBS細胞体は7−9日間で形成された。
【0149】
樹立実施例5
hBS細胞の継代
継代前に、hBS細胞をニコンエクリプスTE2000−U倒立顕微鏡(10×物体)及びDXM1200デジタルカメラを使用して撮影する。コロニーを4−5日ごとに継代する。コロニーは、切片(0.1−0.3×0.1−0.3mm)に切断可能となったとき、継代するのに充分に大きい。初めて細胞を継代するとき、細胞を1−2週間成長させ、そしておよそ4切片に切断することが可能である。
【0150】
立体顕微鏡でひとつずつコロニーに焦点を合わせ、上述の寸法に従って市松模様に切断する。内部の均質構造のみを継代する。コロニーの各角をナイフで除去し、毛細管中に吸引し、(最高年齢4日の)新規のフィーダー細胞上に置く。10−16個の切片を各々新規のIVF−皿に均一に平板培養する。皿を5乃至10分間放置することで細胞が新規のフィーダーに接着でき、次にインキュベータ内に設置する。hBS培地を1週間に3回交換する。コロニーが継代される場合、その週のみに限り培地を2回交換する。通常「半分交換」が実施され、これは培地の半分だけを吸引し、そして同量の新鮮で調節された培地に置換されることを意味する。必要であれば、培地の全量を交換することも可能である。
【0151】
樹立実施例6
hBS細胞のガラス化
細胞株から適切な未分化形態を有するコロニーを継代用として切除する。100−200mlの液体窒素を十分な容量の冷凍管内に無菌ろ過する。2つの溶液A及びBを調製し(A:1Mトレハロース、100μlエチレングリコール及び100μlDMSOを含有した800μlの冷凍PBS、B:1Mトレハロース、200μlエチレングリコール及び200μlDMSO含有600μl冷凍PBS)更にコロニーをA液中に1分間、B液中に25秒間配置する。凍結コロニーを貯蔵するために閉塞ストローを使用する。コロニーをストロー内に移送した後、それを無菌ろ過した窒素を有する冷凍管内に迅速に配置する。
【0152】
樹立実施例7
胚性マウスフィーダー(EMFi)細胞の播種
細胞をマイトマイシンCを含有するEMFi培地で37℃で3時間インキュベートすることにより不活化する。IVF−皿をゼラチンで被覆する。培地を吸引し細胞をPBSで洗浄する。PBSをトリプシンで置換し細胞を引き離す。インキュベーション後、トリプシン活性をEMFi培地で止める。細胞を次に遠心分離により回収し、EMFi培地中に1:5で希釈し、さらにバーカー(Buerker)チャンバ内で計測される。細胞を終末濃度170K細胞/mlとなるようEMFi培地に希釈する。IVF皿中のゼラチンを1ml細胞懸濁液で置換し、インキュベータ中へ配置する。EMFi培地を播種の翌日交換した。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、ヒトBS細胞株167が樹立された胚盤胞(プロナーゼ処理前)を示す。
【図2】図2は、ヒトBS細胞株167が樹立された胚盤胞(プロナーゼ処理後)を示す。
【図3】図3は、マウスの胚性線維芽細胞上で平板培養した2日後の胚盤胞167を示す。
【図4】図4は、マウスの胚性線維芽細胞上で71継代培養したヒトBS細胞を示す。
【図5】図5は、マトリゲル(商標)上で細胞株を樹立する場合にhES細胞を分離するために用いる2つの異なる技術(コラゲナーゼ処理及び機械的処理)の比較表を示す。2つの異なる分離技術の間で、mEF培養からマトリゲル(商標)へhES細胞を移送した2日及び6日後の相対コロニー面積(mm2)を比較した。
【図6】図6は、播種後(a)2時間、(b)10時間、(c)1日、(d)2日、(e)3日、(f)4日、(g)5日及び(h)6日間マトリゲル(商標)上で培養した細胞株SA167の未分化コロニー成長の実施例を示す。
【図7】図7は、播種4日後のマトリゲル(商標)上で培養した4つ全ての細胞株(SA002,AS038,SA121,SA167)の未分化コロニーのコロニー形態を示す。
【図8】図8は、マトリゲル(商標)上で培養した未分化細胞株SA167に、そして凍結/解凍のサイクルの後に実施される蛍光免疫染色及びアルカリホスファターゼ(AP)活性のための染色の例;(a)AP,(b)SSEA−1,(c)SSEA−3,(d)SSEA−4,(e)Tra−1−60,(f)Tra−1−81染色を示す。
【図9】図9は、相対テロメラーゼ活性(RTA)であって、細胞株SA121,AS038,SA167及び陰性コントロールのマトリゲル(商標)培養について陽性コントロールのパーセンテージで示す。
【図10】図10は、マトリゲル(商標)上で培養した、そして凍結/解凍のサイクルの後の細胞株SA121について実施された核型解析の実施例を示す。
【図11】図11は、(a)奇形腫現象、(b)外胚葉性分化、神経外胚葉、(c)中胚葉性分化、軟骨組織及び(d)内胚葉性分化、多数の杯細胞を有する円柱上皮を示す免疫不全SCIDマウスに腎被膜下注射した後のマトリゲル(商標)培養細胞株SA002から生み出された奇形腫を示す。
【図12】図12は、マトリゲル(商標)上で樹立後及び凍結/解凍のサイクル後の4つ全ての細胞株(SA002,AS038,SA121,SA167)で実施されたOct−4発現に関するRT−PCR分析を示す。ゲルは1.5%アガロースであり、エチジウムブロマイドで染色されている。(1)100bp DNAラダー、(2)細胞株SA002、(3)細胞株SA121、(4)細胞株SA167、(5)細胞株AS038及び(6)陰性コントロール(水)。Oct−4PCR生成物は274bpである。
【図13】図13は、3日培養での有糸分裂時における細胞のパーセンテージ;マウス胚性フィーダー層(mEF)上で培養したhES細胞と、マトリゲル(商標)上で培養したhES細胞(細胞株SA121)との間の比較を示す。
【図14】図14は、hBS細胞株樹立のフローチャートであって、マウスフィーダー上での培養、フィーダーなしの培養への移送、フィーダーなしのシステムにおける培養及び心筋中への培養細胞の導入を示す。
【図15】図15は、ラット心筋中のフィーダーなしの培養によるヒトBS細胞を示す。ヒト細胞は抗−ヒト核抗原抗体(緑)を用いて検出される。ラット周囲心筋細胞は核染色DAPI(青)で染色されている。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の分野
本発明はヒト胚盤胞由来幹細胞(hBS細胞)のフィーダーなしの培養システムへの移送方法及びそのようなフィーダーなしの培養システムにおける細胞の増殖に関する。本発明はまたフィーダーなしの条件下で培養されたhBS細胞の心筋再生における応用に関する。
【0002】
発明の背景
幹細胞は、自己再生し、そして特異性細胞又は分化した細胞を生じさせる独特な能力を有する細胞型である。身体のたいていの細胞、心臓細胞や皮膚細胞は固有の機能を果たすことに尽力しているが、幹細胞は特殊細胞型へ進展する信号を受けるまで不確定である。幹細胞が独特な点は、その特殊化能と相まった増殖能である。長年、研究者らは損傷したあるいは罹患した細胞及び組織を置換するために幹細胞を使用する方法を発見することに関心を集中させていた。これまでは、研究のほとんどが2種類の型の幹細胞である胚性幹細胞と体細胞性幹細胞とに集中していた。胚性幹細胞は着床前受精卵母細胞、すなわち胚盤胞由来であり、一方、体細胞性幹細胞は成体、例えば骨髄、表皮及び腸内に存在する。胚性又は胚盤胞由来幹細胞(以後胚盤胞由来幹細胞又はBS細胞と称す)が生殖細胞を含む生体の全ての細胞を生じさせることができるのに対して、体細胞性幹細胞は先祖伝来細胞型のうちより限定されたレパートリーしか備えていないことを、多分化能試験は示している。
【0003】
1998年に、例えば米国特許第5843780号明細書及び米国特許第6200806号明細書に説明されるように、研究者らは初めてヒト受精卵母細胞からhBS細胞を取り出し、それらを培養液中で成長させることを可能とした。
【0004】
上述の特許明細書中に使用される処置は、無傷の透明帯を備えた胚盤胞を使用することに依存する。更に、これらの特許に開示された方法は、特に免疫手術によって取り出した内部細胞塊細胞をマウスの胚性フィーダー細胞上に平板培養するために使用している。この方法はいくつかの欠点を有しており、例えば、それは多大な時間を必要とし、技術的に困難であり、そして幹細胞の低生産性をもたらす。総合すると、これらの欠点は方法を費用のかかるものにしてしまう。今までのところ、これらの幹細胞をヒト胚盤胞から樹立することに付随する問題を明らかにした本技術分野の文献はほとんどない。その結果hBS細胞株はほとんど利用されていない。
【0005】
おそらく、hBS細胞の広範囲の潜在用途のほとんどが、所謂細胞療法に使用されることが可能な細胞及び組織を作り出すことである。多くの疾病及び疾患は細胞機能の崩壊又は身体組織の破壊に起因する。今日、提供臓器及び組織がしばしば病んだ又は破壊した組織を置換するために使用されている。あいにく、これらの方法による治療に適した疾患に苦しむ人の数は、移植に利用可能な臓器の数を追い越している。hBS細胞の利用性及び例えばインシュリン産生β−細胞、心筋細胞及びドーパミン産生ニューロンのような異なる細胞運命に向かうようこれらの細胞を導く効率的な方法を開発することに関する熱心な研究は、糖尿病、心筋梗塞及びパーキンソン病のような変性疾患の細胞に基づいた治療における今後の応用の成長に期待ができる。
【0006】
治療のために多能性幹細胞を使用することに対する有意義な試みとしては、分化を妨げ、細胞の生存や増殖を促進するためにフィーダー細胞の層の上で従来どおりそれらを培養することがある。培養環境にフィーダー細胞がないと、幹細胞は死ぬか、或いは拘束細胞(committed cell)の不均一な集団に分化するであろう。あいにく、フィーダー細胞を使用することは製造費を増やし、スケールアップを妨げ、混合細胞集団を生成してしまい、このことは多能性幹細胞をフィーダー細胞成分から分離することが必要となってしまう。その上、治療への応用のためには、hBS細胞が異種組織、例えばフィーダー細胞の接触なしで培養されることが最重要事項である。従って、ヒト胚盤胞由来幹細胞株をフィーダー細胞の使用なしで増殖させる方法の開発の必要がある。
【0007】
hBS細胞自身及びそれ由来の細胞集団のその他の潜在用途は、例えば、医薬品産業における創薬プロセスにおいて、及びあらゆる種類の化学物質の毒性試験において見出される。今日、薬剤候補の大規模で高処理能力のスクリーニングはたいてい、化合物の結合親和性及び特異性に関する情報を提供するが、機能に関する情報をほとんど或いは全く提供しない生化学分析に依存している。機能的スクリーニングは細胞に基づいたスクリーニングに依存し、たいてい安価にそして迅速に大量生産可能な細菌又は酵母のような臨床的関連の少ない生体を使用する。スクリーニングの次の期間は、より臨床的に関連があり模範となる種を使用するが、これらはより値段が高くスクリーニングプロセスは時間がかかる。ヒトの初代細胞又は不死化細胞型に基づいたスクリーニング手段が存在するが、これらの細胞は生体外での培養及び形質転換の結果としての生体機能の損失による供給量や実用性の制限がある。未分化hBS細胞や人工的な条件の下で妨害フィーダー細胞なしで分化したhBS細胞を利用する方法は、ヒトの細胞に基づく分析を高容量であるが、臨床的関連を妥協することなく実施するという新たなそして独特の能力を提供する。
【0008】
以下の定義及び略語がここにおいて使用される
【0009】
定義及び略語
ここに使用されるように、用語「胚盤胞由来幹細胞」はBS細胞と表示し、ヒトのものを「hBS細胞」と称する。
【0010】
ここに使用されるように、用語「EF細胞」は「胚性線維芽細胞」を意味する。これらの細胞はマウス又はヒトのような如何なる哺乳類からも派生させることが可能である。
【0011】
「条件設定された培地」はEF細胞又はその他の線維芽を培地中にて培養し、次に摘出しそして培地をろ過することにより調製される。
【0012】
用語「フィーダー細胞」又は「フィーダー」によって、ある型の細胞が別の方の細胞と共培養され、第二の型の細胞が成長することが可能な環境を提供することを意味することが意図される。フィーダー細胞は必要に応じてそれらが支持している細胞と異なる種由来であって良い。フィーダー細胞は典型的には、他の細胞と共培養される場合、マイトマイシンCのような抗分裂剤処理による処理や放射線照射によって分裂的に不活性化されていても良く、それらが支持している細胞より大きくすることを阻止する。
【0013】
用語「フィーダーなしの培養システム」、「フィーダー細胞なし」又は「フィーダーなし」によって、培養中の総細胞の10%未満、例えば5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満、0.5%未満、0.1%未満及び0.01%未満がフィーダー細胞である培養又は細胞集団を意味することが意図される。フィーダー細胞を含有する従来の培養をフィーダーの添加されていない新たな培養のhBS細胞の源として使用する場合、継代を切り抜けて生き残るフィーダー細胞がいくらか存在するであろうということが、認識されるであろう。しかしながら、継代の後、フィーダー細胞は増殖せず、ごく一部のみしか連続培養において生存できない。
【0014】
発明の説明
発明者は、受精卵母細胞からの多能性ヒト胚盤胞由来幹細胞株のようなhBS細胞をフィーダーなしの培養システムへ移送し、そして次に未分化状態の細胞を増殖させる新規の方法を樹立した。またフィーダーなしの成長条件下において増殖が達成される。
【0015】
ヨーロッパ及びその他の国における多くの国内法によると、受精卵母細胞は子宮内着床前、すなわち受精後10−14日では胎児とみなされない。本発明の幹細胞株は4−5日後の受精卵母細胞由来であるので、従って、幹細胞株は胚性幹細胞株とみなされるべきではない。本発明の幹細胞株の正確な名称は胚盤胞由来幹細胞である。その上、本発明の幹細胞株はヒトのクローニング及びトランスジェニック動物の創造のために使用することは意図されない。本発明は幹細胞株の遺伝子組換え方法に関するものではない。
【0016】
本発明の方法における使用に適したヒト胚盤胞由来細胞は内細胞塊と呼ばれる細胞の一群由来であり、これは胚盤胞の一部である。胚盤胞は4−5日後の受精卵母細胞であり、これは子宮内着床時のみ胎児へ発育することが可能である。ひとたび胚盤胞から離れると、内細胞塊の細胞は胚盤胞由来幹細胞へ培養されることが可能である。胚盤胞由来幹細胞は胎児へ発育することが意図されていない。
【0017】
国際公開第03/055992号パンフレットとして発行された(同一出願人の)先の特許出願において、hBS細胞を樹立する方法が記載されている。将来、フィーダー細胞を使用せずにそのような細胞を樹立することは可能であるであろうと予期したが、現行の有効な方法はフィーダー細胞を使用している。しかしながら、hBS細胞又は組織を伴う将来の補充治療では、(例えば、ヒトでない)如何なる動物源との接触もなく細胞及び組織を生産することが要求されるであろう。その上、hBS細胞を使用することはまた、未分化hBS細胞のための日常的な大量培養プロトコルの有用性に依存する。本発明は、hBS細胞をフィーダー培養システムからフィーダーなしの培養システムへ移送するための好適な方法を提供することによりこの問題に対処している。
【0018】
hBS細胞は発育胚盤胞の内部細胞塊から派生させることが可能であり、安定な核型及び表現型を保持しながら長期間の継代にわたって、未分化を維持することが可能である。hBS細胞は生体内及び生体外の両方において三つ全ての胚葉の細胞及び組織へ分化する能力を有している、従って、多能性であると称される。hBS細胞の独特な特性が提供することは、それらが将来の補充治療、機能的ゲノム学及びプロテオミクス並び薬剤スクリーニングのための細胞のほとんど無制限の源を供給し得ることである。
【0019】
マウスのBS細胞は、培地に白血病抑制因(LIF)を添加すればフィーダー細胞なしで培養することが可能である。しかしながら、hBS細胞の培養において、LIFはこの効果を持ち合わせていない。今日hBS細胞株の誘導にはヒト或いはマウスの何れかの胚盤胞線維芽細胞フィーダーが共培養のために必要である。フィーダーからフィーダーなしの条件へのhBS培養の移送及び増殖のプロトコルは前述した。これらのフィーダーなしの培養のプロトコルはスケールアップ特性に関して制限があり、hBS細胞のフィーダー培養からフィーダーなしの条件への初期移送は成功率が低く、培養物中の未分化及び分化したhBS細胞の混合集団を生み出してしまう。
【0020】
本発明はhBS細胞のフィーダーなしの培養システムへの移送の最適化方法を提供し、本方法は公知の方法と比較して、移送された細胞が少なくとも10継代まで安定である点で有利である。リチャード等による研究にて、マトリゲル(商標)を含む細胞なしのマトリックス上でhBS細胞株を6継代以上未分化の状態にて増殖させることは不可能であることが示された。しかしながら、本発明では、hBS細胞が35継代までマトリゲル(商標)上で安定であり、未分化hBS細胞のマーカーを発現し続け、凍結/解凍のサイクルの後でも成長速度がほとんど同程度のままであることが見出された。その上、機械的分離を酵素的分離と比較した場合、著しく多数の生存コロニーが平板培養の2日後観察された。重大なステップはhBS細胞のフィーダーなしの培養システムへの移送の初期ステップであるようである。従って、本発明はhBS細胞のフィーダーなし培養システムへの移送方法を提供し、ここにおいてhBS細胞は機械的にフィーダーから切除される。実施例ではここで、各コロニーの中心部分のみが使用され、一方でスー等による先の研究ではコロニー全体が酵素処理により引き離されるが、フィーダー細胞で培養が汚染される危険性を伴っていた。更に、フィーダー培養hBS細胞をフィーダーなしの細胞表面へ移送する非常に繊細なステップで酵素を使用することは、細胞接着及び成長に関与する重要な表面分子の不活性化を引き起こし得る。マトリゲル(商標)中の主要成分はIV型コラーゲン及びラミニンのような細胞外マトリックスタンパク質である。細胞外マトリックスタンパク質に結合する細胞表面インテグリンの活性化は、細胞接着、生存及び増殖の調節にとって重大なステップであると思われる。例えば、インテグリンアルファ1はコラーゲンマトリックス中の生体外及び生体内細胞増殖の両者の調節においてコラーゲン受容体間の独特な役割を有している。ラミニン−特異的受容体はたぶん、インテグリンα6及びα1により形成され、これはhBS細胞により高度に発現され、hBS細胞のマトリックス表面への接着に主要な役割をも果たし得る。従って、付着又は生存のために重要な表面受容体のいくつかは、細胞が新しい表面に順応する前に過酷な初期コラゲナーゼIV処理によって悪影響を受ける可能性がある。実施例ではここで、細胞接着、生存率及び増殖に関連し、hBS細胞をフィーダーなしの環境へ移送するための別の技術が、機械的又は酵素的分離の何れかによって研究された。その上、未分化hBS細胞の均質集団の長期間の増殖及び大規模な生産を促進するために、本発明による方法を発展させた。hBS細胞の凍結/解凍に関する従来の冷凍保存技術を使用することも検討された。
【0021】
フィーダーなしの増殖へのhBS細胞の移送
内細胞塊を切開した後、内細胞塊細胞をフィーダー細胞と共培養し、胚盤胞由来幹(hBS)細胞株を得た。hBS細胞株を得た後、細胞株を状況に応じて増殖させ、細胞の量を増やす。フィーダーなしのシステムではhBS細胞を増殖させる前に、hBS細胞をフィーダーなしのシステムへ移送しても良い。
【0022】
ここで述べたとおり、そして更に実施例にて実証したとおり、hBS細胞の増殖で成功する重大な要因はhBS細胞がフィーダー培養システムからフィーダーなしの培養システムへ移送される方法である。従って、hBS細胞はフィーダーなしの培養システムへ機械的切開によって移送されなくてはならず、これはhBSコロニー又はhBSコロニーの一部を切断、操作及び移送するために設計された25度の角度と200又は300マイクロメータの内腔を備えた無菌で先細のガラス毛細管を用いることにより実施され得る。これはスウェムド・ラボ・インターナショナル・AB(Swemed Lab International AB)、ビルダル(Billdal)、スウェーデン製である。
【0023】
ここで実施例に示すように、機械的分離は、非常に効率的なマトリゲル(商標)への細胞の付着をもたらし、酵素処理した培養と比較してより迅速な増殖をもたらし、そして細胞が継代の間非常に安定であるという結果をもたらした。従って、本発明によるhBS細胞の移送方法は如何なる酵素処理も必要としない。ここで実施例にて明らかなように、フィーダーなしの条件下で培養され増殖された細胞はフィーダー条件下で成長した細胞のものと同等の分裂指数を有している。
【0024】
フィーダー細胞なしでhBS細胞を培養することは、例えば、フィーダー細胞の継続的生産の必要性がなくなり、hBS細胞の生産をスケールアップすることが容易になり、そしてフィーダー細胞からのDNA転写の危険又は別の感染の危険がなくなるといった、非常に多くの利点を有しているので、胚盤胞由来幹細胞株の増殖はフィーダー細胞なしの成長条件下で幹細胞を培養することからなる。培地が正確に条件設定されていないと新しい細胞株を感染させる可能性がある。;
【0025】
従って、フィーダーなしの条件下での移送及び増殖ステップは以下のステップ、
a.胚盤胞由来幹細胞をフィーダーからフィーダー細胞なしの培養へ機械的処理により移送し、
b.状況に応じて、好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上にてフィーダー細胞なしの成長条件下で胚盤胞由来幹細胞を培養し、そして、
c.状況に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を酵素的及び/又は機械的処理によって3−10日ごとに継代すること、からなっていて良い。
【0026】
本発明の具体的な実施の形態において、全てのステップi)−iii)が含まれる。
【0027】
フィーダー培養システムからフィーダーなしの培養システムへのhBS細胞の移送
移送ステップは上述のごとく重大なステップであることが見出されている。従って、移送はフィーダー培養システムにおける細胞の機械的分離又は機械的切開により成されるべきである。この機械的処理は先細端部を有し切断に適切な寸法を有する器具のようなあらゆる好適な切断器具により成されて良い。この器具は例えばプラスチック又はガラスのようなあらゆる好適な材料で製作され、そして好適な器具の例としては、切断器具、すなわち、hBSコロニー又はhBSコロニーの一部を切断、操作及び移送するために設計された25度の角度と200又は300マイクロメータの内腔を備えた無菌で先細のガラス毛細管である。これはスウェムド・ラボ・インターナショナル・AB(Swemed Lab International AB)、ビルダル(Billdal)、スウェーデン製である。具体的な実施の形態において、移送されるhBS細胞はhBS細胞のコロニーであり、切片はコロニーの中心部から切り取られて細胞集合体として好適な培地中に懸濁される。細胞集合体は1回以上、例えば細胞集合体が元のコロニーの寸法の少なくとも50%、例えば最大約40%、最大約30%、最大約20%、最大約10%又は最大約5%の寸法を有するまで機械的に分離される。その寸法は例えば、集合体又はコロニー各々の直径で測定される。実施例ではここで、移送方法に関する好適な条件を示す。これらの条件は当然ながら適切な範囲内で変化しても良く、これは当業者の知識の範囲内である。
【0028】
好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上にてフィーダー細胞なしの成長条件の下での胚盤胞由来幹細胞の培養
例えば組織培養培地のような好適な成長培地及び成長支持又は被覆のような支持基質の存在は、フィーダーなしの条件の下で細胞を成長させる場合、非常に重要である。hBS細胞をフィーダー細胞上で成長させる場合、フィーダー細胞はhBS細胞の増殖を促進しそして分化を阻害する様々な物質を分泌する。フィーダーなしの条件の下で細胞を成長させる場合、そのような物質が成長培地へ添加又は組織培養ウェルの表面に被覆されなくてはならず、すなわち本発明はステップb)における成長培地及び/又は支持基質が胚盤胞由来幹細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進する物質からなる方法に関する。その上、細胞は例えば細胞を培養するために使用し得る組織培養ウェルの表面へ付着することが可能なある種の被覆(支持培地)を必要とし得る。
【0029】
そのような物質を培地へ加えても良い。増殖を促進し分化を阻止するために好適な物質からなる培地を調製する別の方法は、細胞の第一の個体群を培地中で培養して、次に培地(ここでは「条件設定された培地」と称する)を濾過し収穫する方法である。細胞の第一の個体群は、例えばマウス胚性線維芽細胞、ヒト線維芽細胞又は同じ細胞由来の細胞株のようなフィーダー細胞として通常使用される細胞であって良い。hBS細胞の培養のため好適な培地の一つとして、4ng/mlのヒト組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)を添加したビトロHES(商標)−培地(ビトロライフAB、クングスバッカ、スウェーデン)があり、或いはもう一つの方法として「hBS−培地」と称する培地がある、これはノックアウトダルベッコの改良イーグル培地に20%のノックアウト血清代替物及び以下の成分を各々の終末濃度にて:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mのメルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が添加されたものからなっていて良い。
【0030】
条件設定された培地(細胞によって培地中へ分泌された如何なるものも同伴している)は、その結果細胞の第二の個体群の成長を支持するために使用され得る。本発明で用いる好適な培地は、「k−ビトロHES(商標)−培地」又は「k−hBS−培地」であり、ここにおいて、マウス及びヒト胚性線維芽細胞の単層はマイトマイシン処理されるか或いは放射線照射され、そして次に「ビトロHES(商標)−培地」又は「hBS−培地」で24時間インキュベートされる。k−ビトロHES(商標)−培地又は「k−hBS−培地」はその後毎日最大3−7回マウスフィーダーのために、そして最大3乃至7回ヒトフィーダーのために同じ細胞から回収され、無菌的に濾過され条件設定されたk−ビトロHES(商標)−培地又は「k−hBS−培地」を得た。「k−ビトロHES(商標)−培地」及び「k−hBS−培地」は約−20℃又はそれ以上の温度にて凍結することによりその後貯蔵され得る。
【0031】
具体的な実施例において、ステップb)における成長培地は細胞なしの条件設定されたk−ビトロHES(商標)−培地又はk−hBS−培地であって良く、これは実施例3に記載されているようにフィーダー細胞の培養によって生成される。
【0032】
hBS細胞をフィーダー細胞なしで成長させた場合に都合が良いことが見出されたその他の培養条件は、支持基質の存在であり、すなわち本発明はステップa)が支持基質上にて実施される方法に関する。支持基質は例えば組織培養ウェルの表面処理又は表面であり、これはhBS細胞の未分化の状態での付着及び成長を促進し、すなわち支持基質は例えばマトリゲル(商標)、胎盤からのヒト細胞外マトリックス(ECM)又はラミニンといった細胞外マトリックス成分のような付着及び増殖促進成分及び分化阻害成分、或いはゼラチン、ポリオルニチン、フィブロネクチン、アガロース、ポリ−L−リジン又はI型コラーゲンのようなその他の成分からなっていて良い。
【0033】
酵素的及び/又は機械的処理による胚盤胞由来幹細胞株の3−10日ごとの継代
本発明の具体的な実施の形態において、細胞は継代される。従って、細胞は3−10日ごと、例えば約3日おき、約4日おき、約5日おき、約6日おき、約7日おき、約8日おき、約9日おき、そして約10日おきに継代されなくてはならない。幹細胞株を継代前に10日以上培養すると、望ましくないことに細胞が分化してしまう可能性が増加する。
【0034】
hBS細胞を分離する方法の一つは、酵素的処理によるもの又はEDTAのような穏やかなキレートを使用することである。酵素的処理は機械的処理によって補足され得、支持基質から細胞を引き離し、分離を完全にする。使用される酵素は例えばコラゲナーゼIVのようなコラゲナーゼであると良い。継代にとって、酵素的処理は機械的処理よりも優れていることが見出された。
【0035】
フィーダーなしの条件の下でhBS細胞の増殖に重要であることを本発明が見出したその他の要因の一つは、支持基質上に播種した場合の細胞の密度である。生存率を改良するために、細胞を80,000−200,000細胞/cm2の密度にて平板培養すると良く、これは使用する細胞株に依存する。hBS細胞が60継代までの間マトリゲル(商標)上で安定であり、未分化hBS細胞のマーカーを発現し続け、凍結/解凍のサイクルの後でも成長速度がほとんど同程度のままであることを、本発明は見出した。
【0036】
特性
上述のとおり、本発明はhBS細胞をフィーダー細胞なしで上述のとおり増殖させる方法を提供し、hBS細胞は通常の核型、安定な増殖速度及びテロメラーゼ活性を維持している。細胞はフィーダーなしの成長条件の下で成長した場合12ヶ月以上未分化の状態のままで増殖することが可能である。hBS細胞はまた、フィーダーなしの条件の下で培養されると未分化細胞に付随するマーカーを発現する。その上、この細胞は生体外の分化の途中で3つ全ての胚葉から分化した子孫を発育させることが可能である。
【0037】
hBS細胞の分化の程度及び多分化能を研究するために使用された方法
免疫組織化学
培養において維持されたhBS細胞の分化の状態について、通常どおり監視した。未分化hBS細胞を監視するために使用する細胞表面マーカーは、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60、TRA−1−81である。ヒトBS細胞は4%PFA中にて固定され、続いて0.5%のトリトンX−100を用いて透過性を付与した。洗浄し10%の粉乳でブロッキングした後、細胞を一次抗体とインキュベートした。徹底的な洗浄の後、細胞を二次抗体とインキュベートしDAPI染色によって細胞核を視覚化した。
【0038】
アルカリホスファターゼ
アルカリホスファターゼの活性を市販のキットを用い、製造業者(シグマ・ディアグノスティック)の指示に従い測定した。
【0039】
Oct−4 RT−PCR
転写因子Oct−4のmRNAレベルをRT−PCR及び遺伝子特異的プライマーセット(5’−CGTGAAGCTGGAGAAGGAGAAGCTG、5’−CAAGGGCCGCAGCTTACACATGTTC)並びにGAPDHをハウスキーピング遺伝子(5’−ACCACAGTCCATGCCATCAC、5’−TCCACCACCCTGTTGCTGTA)として用いて測定した
【0040】
蛍光原位置ハイブリダイゼーション(FISH)
FISHの1期間に、一つ以上の染色体が染色体特異的プローブで選択される。この技術は数的遺伝子異常がある場合それを検出可能とする。この分析のためには市販のキットが使用され、これは13,18,21染色体及び性染色体(X及びY)用のプローブを含む(ビシス社,ダウナーズ・グローブ,IL,USA)。各細胞株に対して少なくとも200の細胞核が分析される。細胞をカルノワ固定液により再懸濁し、プラスに帯電したスライド・ガラス上に滴下する。
【0041】
プローブLSI 13/21をLSIハイブリダイゼーション緩衝液と混合し、スライドに添加しカバースリップで被覆する。プローブCEP X/Y/18をCEPハイブリダイゼーション緩衝液と混合し、別のスライドに同様の方法で添加する。70℃で5分間変性を行い、続いて37℃の湿室で14−20時間ハイブリッド形成を行う。3段階の洗浄処置に続いて、細胞核をDAPI IIで染色し、スライドを適切なフィルター及びソフトウェアを備えた倒立顕微鏡(サイトビジョン,アップライドイメージング)で分析される。
【0042】
染色体分析
染色体分析は全ての染色体を直接的な方法で研究でき、非常に有益であり、数的及びより大きな構造的異常が検出可能である。モザイク現象を検出するために、少なくとも30の染色体が必要である。しかしながら、この技術は非常に時間がかかり且つ技術的に複雑である。分析条件を改善するために、コルセミド、コルヒチンに対する合成アナログ及び微小管不安定化剤によって分裂指数を上昇させることが可能であるが、依然多量な細胞を供給する必要がある(6×106細胞/分析)。細胞を0.1μg/mlのコルセミド存在下で1〜2時間インキュベートし、そして次にPBSで洗浄しトリプシン処理した。細胞を1500rpmで10分間遠心分離して収集する。細胞をエタノール及び氷酢酸を使用して固定して、染色体を改良されたライト染色(Wrights staining)を使用して視覚化する。
【0043】
比較ゲノムハイブリダイゼーション
比較ゲノムハイブリダイゼーション(CGH)は染色体分析を補足するものである。CGHは染色体のより高度な回答を示し、技術的能力がさほど必要ではない。単離DNAをDNA、A4、テキサスレッド−dUTP/FITC 12−dUTPおよびDNAポリメラーゼIの混合物中でニックトランスレーションする。アガロースゲル電気泳動法を得られたDNAフラグメント(600−2000bp)の寸法を制御するために実施する。試験及び対照DNAをホルムアミド、硫酸デキストラン及びSSC含有ハイブリダイゼーション混合液中に沈殿しそして再懸濁する。ハイブリダイゼーションを湿室において37℃3日間メタファーゼと共に変性ガラススライド上で実施する。大量洗浄後、1滴のフェージング防止封入混合物(ベクタシールド,0.1μg/ml DAPI II)を添加し、スライドをカバースリップで被覆する。スライドは次に顕微鏡下で映像分析システムを利用して評価される。
【0044】
テロメラーゼ活性
高活性はhBS細胞に対する基準として規定されているため、テロメラーゼ活性はhBS細胞株において測定される。細胞がより分化した状態に到達すると、テロメラーゼ活性は続いて減少することが知られる。従って、活性の定量化はより早い継代及び対照サンプルに関係し、分化を検出するための手段として利用可能である。この方法、テロメラーゼPCR ELISAキット(ロシュ)はテロメラーゼ内活性を使用し、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により生成物を増幅しそれを酵素免疫吸着測定法(ELISA)で検出する。アッセイは製品取扱説明書に従って実施される。このアッセイの結果はhBS細胞に対して高いテロメラーゼ活性(>1)を典型的に示す。
【0045】
免疫不全マウスの奇形腫形成
ヒトBS細胞株が多能性を維持したかどうかを分析する一つの方法は腫瘍、奇形腫を得るために免疫不全マウスに対してその細胞を異種移植することである。腫瘍に見られる多様な種類の組織は3つの胚葉全てを示すべきである。報告書において、異種移植された免疫不全マウス由来の腫瘍において、多様な組織、例えば横紋筋、軟骨及び骨(中胚葉)、内臓(内胚葉)及び神経ロゼット(外胚葉)由来であった。また、腫瘍の大部分は無秩序な組織からなる。重症複合型免疫不全(SCID)−マウス、B−及びT−リンパ球欠損種が奇形腫形成の分析に使用される。ヒトBS細胞は睾丸又は腎臓被膜下の何れかに手術的に移植される。睾丸又は腎臓において、hBS細胞は10000〜100000細胞の範囲で移植される。理想的には、一度に5−6匹のマウスを各細胞株について使用する。中間結果は雌のマウスが雄のマウスよりもより術後安定性がよく、これは腎臓への異種移植は睾丸に対してと同様に奇形腫の生成において効果的であることを示している。従って、雌SCID−マウスの奇形腫モデルは望ましい。腫瘍は通常およそ1ヶ月後には触診可能となる。マウスは1−4ヶ月後に犠牲になり、腫瘍は切開されパラフィン−又は凍結−切片法のいずれかにより固定される。腫瘍組織は次に免疫組織化学的方法により分析される。3つの胚葉全てに対しての特異的マーカーが使用される。現在使用されるマーカーは:マウス組織とヒト腫瘍組織との区別のためのヒトE−カドヘリン、α−平滑筋アクチン(中胚葉)、α−フェトプロテイン(内胚葉)、及びβ−III−チューブリン(外胚葉)がある。更にヘマトキシリンエオジン染色が一般的な形態用に実施される。
【0046】
冷凍保存及び解凍
ここで実施例6からわかるように、継代を受けたhBS細胞は凍結保蔵されることが可能であり、続いて解凍することも可能である。解凍後全ての細胞株が生存しており、従来どおり冷凍保存及び解凍と同じパターンでプレートを被覆するマトリゲル(商標)上にて成長を開始した。
【0047】
本発明によって得られたhBS細胞の使用−心臓に関する疾病
本発明による方法によって得られるhBS細胞は医薬品に使用しても良い。
【0048】
冠状動脈性心臓病は全ての心血管系死亡の50%、心不全の発症のほぼ40%を占める。広範囲にわたる冠動脈の突発性閉塞及び急性心筋虚血は筋細胞及び血管構造の急死をもたらし得る。従来は、心臓病患者の回復は残った心室の梗塞していない部分の成長に完全に依存していた。しかしながら、これは拡張心筋、心不全及び死に結びつく。
【0049】
病気の心筋組織を交換するために現在利用可能治療は、臓器移植のみである。しかしながら、提供心臓の入手の可能性は限られているので、心臓移植から恩恵を受ける見込みのある臓器被提供者は比較的少ない。心臓の入手の可能性に関する問題が解決したとしても、この処置に関与する高い経費及び外科手術の過激性は依然末期心臓疾患の患者に対してのみに臓器移植を制限するであろう。従って、臓器移植に代わるものが必要である。具体的な態様において、本発明はそのような代案として好適に使用されるhBS細胞の調製方法に関する。
【0050】
限られた時間(narrow time window)内の迅速な再かん流は、急性心筋梗塞による早死を著しく減少させているが、心室リモデリングによる梗塞後の心不全が多発している。今日、これらの患者のための医療的代案は心臓移植を受けさせることである。これは非常に高価な治療であり、ひどく差し迫った危険のみならず、更に術後の合併症に悩まされる。加えて、この種の移植のための心臓は今日非常に不足している。それどころか、幹細胞による治療は緊急手術(例えば、開胸手術)の間、或いは、頚動脈によるバルーンカテーテル又は全身投与を用いて手術せずに後期に実施されることが可能である。この場合、合併症の被害及び危険性は最小限に減少される。幹細胞は無制限に増殖することができるので、幹細胞の臓器移植に対する利点は物質が無制限に入手できることである。その上さらに、hBS細胞は成人の心臓と比較して免疫原性の活性がずっと少ないことが最も確実である。従って、これらの患者の幹細胞による治療は時間的及び経済的に効果的な治療を提供し、そして多数の苦悩する人を救う。幹細胞の損傷した心筋への移植が現実の臨床治療となった場合、この治療は世界中の何百万もの患者にとって第一希望となる潜在能力を有する。
【0051】
本発明の方法によって得られたhBS細胞は、晩発性心筋梗塞、慢性虚血性心筋症、特発性拡張型心筋症、続発性心筋症(例えば中毒性、糖尿病、妊娠、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病及び血色素症)、左心機能障害又は心不全を備えた末期肥大性心筋症、拘束型心筋症、末期高血圧性心疾患、急性心筋梗塞、狭心症、劇症心筋炎、AV−ブロックIII,幼児及び成人における先天性心疾患の特異型(例えば圧縮しない左心室、心房及び心室中隔欠損)、ファロー四徴症及びその他の類似症状、弁膜の復元及び心臓弁膜症に続発する心不全のような心臓に関する疾病の予防又は治療用のhBS細胞を哺乳類中へ移植するための薬剤の製造のために使用され得る。
【0052】
ヒト胚盤胞由来幹細胞の移植のための薬剤は、心臓に関する疾病の予防又は治療のため哺乳類の心筋又は血液の循環中へ投与されるよう設計され得る。薬剤は水性培地のような医薬品として許容範囲にある培地中に分散された未分化hBS細胞又は分化hBS細胞からなる。培地は、pH調整剤、安定剤、防腐剤、浸透圧調整剤及び生理学的に許容範囲にある塩よりなる群から選択される一つ以上の添加剤;及び/又は治療的に活性な物質、予防的に活性な物質、移植性改良剤、生存率改良剤、分化改良剤及び免疫抑制剤よりなる群から選択される一つ以上の剤からなっていて良い。
【0053】
投与前の培養細胞の処理
以下に投与前の細胞の好適な処理方法を記載する。しかしながら、本記載には例証目的がふくまれ、本発明を決して限定する意図はない。
【0054】
移植に好適な寸法とするためそしてホスト組織中に入り込み樹立するのに最適な可能性を細胞に与えるために、hBS細胞コロニーを分離する。コロニーは機械的又は酵素的処理を用いて部分的又は完全に分離される。酵素処理は例えば緩衝化したコラゲナーゼ又はトリプシンの溶液のような好適な酵素で実施され得る。コラゲナーゼI,II、III、IV、V、VI等のような如何なる好適なコラゲナーゼをも使用可能である。実施例に、コラゲナーゼを使用した具体的な実施例が示されている。またEDTA溶液中の細胞コロニーのピペットによる機械的処理も有効であることが見出されている。細胞塊を所望の寸法にした後、細胞溶液を遠心分離し、洗浄し、移植に好適な緩衝液中にペレットを溶解する。
【0055】
投与
hBS細胞は動物へ細胞又は細胞−コロニー断片の無菌で緩衝化した溶液として別の装置を使用するか或いは別の方法で投与する。十分量の細胞を使用する。約105〜108の細胞が好適であることが予期される。無菌のシリンジ中へ吸引され直接動物へ導入されるか、冠状血管のどこかに設置されたバルーンカテーテル中へ導入される。直接投入は心臓組織中、心臓空洞の何れの場所又は循環血液中をさしている。細胞は1乃至3の別の時点にて数度の導入により投与されることが可能である。投与の間に動物の健康の全身状態を監視する。その上更に、漏出及び細胞消失の観点から、細胞移植の効率は注意深く見守られる。必要と有らば、動物に別の医薬的又は免疫抑制的処理を受けさせる。細胞移植と処理の結果を改良する剤との組み合わせを定義することが有益である。
【0056】
適切には、細胞の投与は一つ以上の治療的に又は予防的に活性な物質と共に及び/又はhBS細胞の移植率及び/又は生存率を改良するのに好適な一つ以上の剤と共に及び/又は一つ以上の免疫抑制剤と共に成されると良い。その上さらに、細胞の分化を改善するために好適な剤と共に投与されると良い。これらの別の剤の投与はhBS細胞の投与の前、投与と同時又は投与後であってよい。
【0057】
細胞の投与は予防的、緊急又は病気のいくらかの進展の後であって良い。
【0058】
本発明はまた区切られた区画中に少なくとも第一及び第二の成分からなるキットに関する。成分はhBS細胞の移植率及び存続率を改良する薬剤、hBS細胞及びhBS細胞の分化を促進する一つ以上の薬剤及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなっていて良い。
【0059】
キットは更にhBS細胞の移植率及び生存率を改良する第二の細胞型からなる。
【0060】
キットは更に分離していない又は分離している分化したヒトBS−細胞コロニーからなる。
【0061】
上述のとおり、本発明はまた例えば心筋細胞−様hBS細胞のような分化した細胞の使用に関する。以下にそのような分化した細胞の発育の記載が続く。以下に、本発明は心筋細胞−様細胞に関して具体的に記載する。しかしながら、hBS細胞から分化しそして心臓関連疾患の治療に好適に使用されるその他の細胞も同様に本発明に含まれる。
【0062】
hBS細胞から分化した細胞の発育
本発明において使用されるような方法によって得られたhBS細胞株は、分化した細胞の調製に利用されることが可能である。従って、本発明はまたhBS細胞の心臓組織又は心臓関連組織への分化、細胞それ自身及び上述のような心臓関連疾患用の薬物調製のためのそのような細胞の使用に関する。
【0063】
hBS細胞は心筋細胞−様構造を形成する能力を有し得、これらの細胞の量は一般的に10%より高く、例えば25%より高く、或いは40%より高く、或いは45%より高く、或いは50%より高い。
【0064】
hBS由来幹細胞は分化細胞へ分化する能力を有し得、これはα−ミオシン重鎖、α−アクチン、トロポニンI又はトロポニンTの少なくとも一つを含む心筋細胞マーカー、或いはGATA4,Mkx2.5,α−MHC,β−MHC又はANFを含む心筋細胞特異遺伝子の一つの発現を表示する。
【0065】
別の方法としてhBS細胞はα又はβアゴニスト又はアンタゴニストが培養培地へ投与されるとその個体数を増加させ又は減少させることができる収縮コロニーのその組織によって特徴付けられる心筋細胞−様細胞へ分化する能力を有している。
【0066】
分化細胞になる可能性のある胚盤胞由来幹細胞は電子顕微鏡検査で特性が明らかにされ、早期心筋細胞と調和して、ある程度の筋細線維組織を露呈する。
【0067】
別の態様において、本発明は例えば心筋梗塞、心筋症、狭心症及び心不全のような心臓弁膜症及び上記疾病に伴う心臓関連疾患の予防又は治療のための薬物の製造に関する本発明による方法によって得られる胚盤胞由来幹細胞から派生する分化細胞の調製物の使用に関する。
【0068】
本発明の更なる目的は「細胞生成」によって治療され得る疾病を治療し及び/又は予防するための薬物の調製のために使用され得る細胞を提供することである。用語「細胞生成」は、心筋細胞、神経細胞及び/又は様々な種類の内皮細胞及び血管構造物のような新規の細胞の生成を意味する
【0069】
管理前の分化細胞の処理
分化細胞は未分化hBS細胞について上述されているのと同じ方法で処理し得る。
【0070】
分化細胞の管理
分化細胞は未分化hBS細胞と同じ方法で管理し得る。
【0071】
本発明はまた区切られた区画中に少なくとも第一及び第二の成分からなるキットに関する。成分はhBS細胞の移植率及び存続率を改良する薬剤、hBS細胞及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなっていて良い。
【0072】
キットは更にhBS細胞の移植率及び生存率を改善する第二細胞型からなっていて良い。
【0073】
キットは更に分離されていない又は分離されている未分化ヒトBS−細胞コロニーからなっていて良い。
【0074】
本発明の別の態様
hBS細胞はハイ・スループット・スクリーニングにおいて大容量と改良された臨床的意義とを組み合わせて使用することが可能である。遺伝操作された細胞が様々な細胞型へ分化する又はせずにhBS細胞中の標的遺伝子を用いてゲノムを正確に模倣する能力は、第一及び第二のスクリーニングを通過して新規の治療的に活性な物質を同定することにこの技術を応用させることが可能である。
【0075】
従って、別の態様において本発明は本発明による方法によって得られたhBS細胞の使用に関し、
i)モノクローナル抗体の生成、
ii)生体外毒性スクリーニング、
iii)潜在的な製剤原料の生体外スクリーニング
iv)潜在的な製剤原料の検証に関して特定される。
【0076】
心臓は人体において第一に機能的な器官である。従って、心臓−様細胞及び/又はこれらの細胞をえるための経路は、介在(すなわち、潜在的な毒性効果を備えた物質を加えること)による発展的な毒性試験及び対照群の比較試験における発展のその後の監視について利用可能である。従って、本発明の上記態様は重要である。
【0077】
本発明のその他の実施の形態は添付の請求項から明らかである。上述のそして請求項中の詳細及び特定事項並びに本発明による方法に関することは、本発明の別の態様へ準用する。
【0078】
文献
ガードナー等、胚培養システム、トラウンソン、A.O.及びガードナー、D.K.(eds)、体外受精ハンドブック、第二版。CRCプレス、ボーカ・ラトーン、pp.205−264;
【0079】
トムソン JA,イトスコビッツ−エルド(Itskovitz−Eldor)J,シャピロ SS等、ヒト胚盤胞由来胚性幹細胞株。サイエンス1998;282:1145−1147。
【0080】
ニコ・ハインズ、マイケル C.O.イングランド、セシリア・ソブロム(Sjoeblom)、ウルフ・ダール、アンナ・テニング、クリスティーナ・ベルグ、アンダース・リンダール、チャールズ・ハンソン及びヘンリック・ゼム;ヒト胚性幹細胞の誘導、特性及び分化。幹細胞、2004年5月1日22(3)。
【0081】
リチャーズ M、フォン C−Y、チャン W−K等、ヒト内細胞塊及び胚性幹細胞のヒトフィーダー支持長期未分化成長、Nat.Biotechnol 2002;20:933−936。
【0082】
スー C.イノクマ MS,デナム J等。未分化ヒト胚性幹細胞のフィーダーなしの成長。Nat Biotechnol 2001;19:971−974。
【0083】
実施例
実施例1
自然孵化胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
ヒト胚盤胞は凍結あるいは新鮮なヒト生体外受精卵胚由来であった。4ng/mlのヒト組換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)及び0.125mg/mlのヒアルロン酸を添加したビトロHES(商標)−培地中のフィーダー細胞(EF)上に自然孵化胚盤胞を直接置いた。EF細胞上で胚盤胞を平板培養した後、成長を監視し、そしてコロニーが手動で継代するのに十分大きくなる平板培養後およそ1−2週間後、内細胞塊細胞を別の細胞型から切開し新しいEF細胞上での成長によって増やした。
【0084】
実施例2
無傷の透明帯を備えた胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
無傷の透明帯を備えた胚盤胞に対して(図1)、rS2(ICM−2)培地(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)中での短時間のプロナーゼ(10U/ml,シグマ)インキュベーションを用いて透明帯を消化し(図2)、その後胚盤胞をヒアルロン酸(0.125mg/ml)の添加されたhBS培地中でEF細胞層上に直接置いた(図3)。
【0085】
実施例3
フィーダーなしの培養のため条件設定されたビトロHES(商標)−培地(k−ビトロHES(商標)−培地)の調製
ビトロHES(商標)−培地の条件設定用のmEF細胞を調製するため、mEF細胞(2継代)の融合性単層をマイトマイシンC処理し、ゼラチン(0.1%;シグマ)被覆培養フラスコ中にダルベッコの改良イーグル培地(D−MEM)に1%のペニシリン/ストレプトマイシン(PEST;10000U/ml)、10%のウシ胎仔血清(FBS)及び2mMのグルタマックス(商標)−Iサプリメント(200mM);全てギブコBRL/インビトロジェン、カールズバッド、CA,米国製のものを添加したものの中に59000細胞/cm2の濃度に播種した。24時間のインキュベーション期間と、PBS(ギブコBRL/インビトロジェン)での1回洗浄の後、培地を捨て、24時間の調整期間の間にビトロHES(商標)−培地(0.28ml/cm2)で置換した。条件設定されたビトロ(商標)−培地(k−ビトロHES(商標)−培地)を毎日最大3回同じmEF培養(2継代)から回収し、0.2μmの低タンパク質結合フィルター(ザルスタット,ランドスクーナ,スウェーデン)を使用することにより無菌濾過した。k−ビトロHES(商標)−培地は新鮮又は−20℃で凍結した後使用され、使用前に4ng/mlのbFGF(ギブコBRL/インビトロジェン)を添加した。k−ビトロHES(商標)−培地は+4℃で貯蔵されている場合には1週間まで使用可能である。−20℃で貯蔵されている場合には2ヶ月まで、生物反応度が減少した兆候は使用時に見地されなかった。
【0086】
実施例4
hBS細胞株のフィーダーなしの成長条件への移送
初期hBS細胞株を10−50継代のマイトマイシンC処理マウスフィーダー細胞上に保持し、4ng/mlのヒト塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を添加したビトロHES(商標)−培地中にて培養した(図4)。
【0087】
hBS細胞のフィーダー培地からマトリゲル(商標)被覆プレートへの移送のための2つの異なる技術を評価した、1つは機械的分離、もう一つはコラゲナーゼ処理である。幹細胞切断器具(スウェムド・ラボ・AB,ビルダル,スウェーデン)を使用してhBS細胞を方形切片に切断し、これはコロニーの中央部に相当し、注意深く引き離し、そしてHBSS溶液に細胞を移送した。幹細胞器具は無菌で先細のガラス毛細管であり、25度の角度及び200又は300のマイクロメータの内腔を有し、hBSコロニー又はhBSコロニーの一部を切断、操作及び移送するために設計されている。これはスウェムド・ラボ・インターナショナル・AB(Swemed Lab International AB)、ビルダル(Billdal)、スウェーデン製である。
【0088】
(比較のための)コラゲナーゼによる酵素処理
HBSSで洗浄後、細胞集合体を酵素的分離のためコラゲナーゼIV溶液(200U/ml;シグマ)に移送した。細胞を37℃、5%のCO2で30分間インキュベートした。インキュベーション期間の間、ピペットで機械的分離を繰り返し、分離工程を倒立顕微鏡で監視した。インキュベーション期間の後、細胞懸濁液をペレット化し(400Gで5分間)、そして後、k−ビトロHES培地に再懸濁する前にノックアウト(商標)D−MEM(ギブコBRL/インビトロジェン)で1回洗浄した。
【0089】
本発明による機械的分離
HBSSで洗浄した後、細胞集合体を注意深く1−ml自動ピペットを使用して機械的に分離した。細胞集合体の寸法が上述したコラゲナーゼIV処理により生み出された細胞塊の寸法に相当する、元のコロニー(平均20000細胞/元のコロニー)のおおよそ1/10−1/20を示す時に分離工程を終了した。HBSSで洗浄後、コロニーをコラゲナーゼIV溶液(200U/ml)へ移送して酵素分離を開始した。
【0090】
2つの異なる技術について、細胞を各々4ウェル中へ播種し、5%CO2中で37℃にてインキュベートした。各試験を、毎回同量の播種細胞で4回繰り返した。2日及び6日後にコロニーの寸法及び数を算出した(図5)。
【0091】
実施例3及び4の結果
フィーダーからフィーダーなしの条件へのhBS細胞の移送を最適化するために、2つの異なる技術;1つは機械的分離、そしてもう1つは酵素分離を評価した。機械的分離は、酵素処理培地と比較して、より効率的な細胞のマトリゲル(商標)への付着と、より急速な増殖をもたらした。機械的分離を酵素分離と比較した場合、著しく多数の生存コロニーが平板培養後2日で観察された(図5)。2つの異なる技術で各々分離後、マトリゲル(商標)上で生み出された全てのコロニーの総面積を比較した(P<0.001)。その上、平板培養後6日の機械的分離された培養のコロニー総面積は、酵素分離された培養と比較して著しく増加していた(P=0.036)(図5)。
【0092】
実施例5
マトリゲル(商標)上で培養されたhBS細胞の培養及び継代
4つの異なる細胞株SA002,AS038,SA121及びSA167を全ての試験で使用した。細胞株をマトリゲル(商標)上で35継代まで増殖させ、凍結/解凍のサイクルの後でもその他のhBS特性及び形態的外観は変化がなかった。全ての培養は分化の形態的兆候のない、hBS細胞の明瞭なコロニーから構成されていた。約3〜6日後、培地を取り除くことにより細胞を継代し、1mlのコラゲナーゼIV溶液(200U/ml)を各ウェルへ添加し、15〜20分間インキュベートした。表面からの細胞剥離を促進するために、機械的分離を実施し、続いて更に15分間インキュベーションした。細胞を次に洗浄し、k−ビトロHES(商標)培地に再懸濁し、そしてマトリゲル(商標)上に1:2乃至1:6の分割比で播種した。hBS培養を5乃至6日毎に継代し、培地を2乃至3日毎に交換した。
【0093】
実施例5の結果
マトリゲル(商標)上に樹立されたhBS細胞の継代の間、コラゲナーゼIVによる酵素処理は表面からのコロニー引き離しに必要であることが観察された。継代の間の酵素処理はまた機械的分離と比較して、播種後の増殖率を増加させることが分かった(図6及び7)。
【0094】
実施例6
マトリゲル(商標)上に培養されたhBS細胞の冷凍保存及び解凍
4つの異なる細胞株SA002、AS038、SA121及びSA167をコラゲナーゼIVにより20−30分間処理して細胞を凍結前に互いに分離した。遠心分離後細胞を凍結培地に移送し、これは1mlの凍結培地当り100万個の細胞の濃度を有し、10%のDMSO、30%の血清代替物及び4ng/mlのbFGFを含有するk−ビトロHES(商標)−培地を含んでいる。最終的な細胞懸濁液は単一細胞及び細胞集合体の混合物であった。液体窒素中に長期間保存する前に、サイトチューブ(0.5〜1.0mlの細胞懸濁液)をナルゲン冷凍コンテナに迅速に移送し、−80℃で一晩又は少なくとも2時間保存した。
【0095】
hBS細胞の解凍
全ての細胞懸濁液が解凍されるまで冷凍管を37℃の水槽中に収納することにより細胞を解凍する前に、k−ビトロHES(商標)−培地を調製し、そして予備加熱しなくてはならない。遠心分離(400G、5分間)前にこの細胞懸濁液を予備加熱された培地に5分間で移送した。マトリゲル(商標)の薄層被覆(BD)ウェルを、1mlのk−ビトロHES(商標)−培地をウェルに加えることにより水分補給し、37℃で30分間インキュベートした。細胞ペレットをk−ビトロHES(商標)−培地に再懸濁し24−ウェル又は6−ウェルの何れかのマトリゲル(商標)プレートへ移送した。
【0096】
実施例7
フィーダーなしで培養されたhBS細胞の特性決定
マトリゲル(商標)上での樹立後そして冷凍/解凍のサイクル後に全ての特性決定実験を実施した。
免疫細胞化学:培地を上述のように継代し、6−ウェル又は24−ウェルマトリゲル(商標)プレート中へ播種し、6日間培養した後免疫染色を実施した。培地をPBSで洗浄し、4%のホルムアルデヒド(ヒストラボ,イェーテボリ,スウェーデン)で15分間室温にて固定し、次にPBSで再び3回洗浄した。使用したモノクローナル一次抗体をSSEA−1、SSEA−3及び−4(1:200;発生的研究ハイブリドーマバンク,ロワ大学、ロワ市、IA)、Tra−1−60、Tra−1−81(1:200;サンタ・クルーズ・バイオテクノロジー、サンタ・クルーズ、CA)及びポリクローナルウサギ抗−ホスホ−ヒストンH3(1:150;クラブ,北部)に対して誘導した。一次抗体を4℃で一晩インキュベートしその後適切なCy3−又はFITC−共役二次抗体(1:300;ジャクソンイムノリサーチ研究所、ウェスト・グローブ,PA)を使用して視覚化した。培地を更に4’−6’ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI;シグマ−アルドリッチ・スウェーデン・AB,ストックホルム,スウェーデン)を0.5μg/mLの終末濃度で5分間室温にてインキュベートし、全ての細胞核を視覚化した。染色された培養をDAKO蛍光封入剤(ダコパッツ・AB、アルブショー、スウェーデン)を使用して濯ぎ封入し更に倒立蛍光顕微鏡(ニコンエクリプスTE2000−U)で視覚化した。市販キット(シグマ−アルドリッチ)を使用して製品業者の指示に従って、マトリゲル(商標)培養hBS細胞のアルカリホスファターゼ(AP)染色を実施した。
【0097】
テロメラーゼ活性:マトリゲル(商標)培養hBS細胞を収穫し、溶解し、そしてテロメラーゼ活性をPCR−ベースELISA(ロシュ・ダイアグノスティック社、マンハイム、ドイツ)により製品取扱説明書に従って分析した。
【0098】
染色体分析及びFISH:染色体分析のために指定されたマトリゲル(商標)増殖hBS細胞をコルセミド(colcemid)(0.1g/ml,インビトロジェン、カールズバッド、CA、USA)中で1乃至3時間インキュベートし、分離し、固定し、ガラススライド上に載せ、そして改良ライト染色(#WS−32,シグマ)を使用して染色体を視覚化した。中期板の準備を前述のように行った。蛍光原位置ハイブリダイゼーション(FISH)分析に関して、第13,18,21染色体及び性染色体(X及びY)用のプローブを含有する市販キット(マルチビストン(商標)PBマルチカラープローブパネル;ビシス社,ダウナーズ・グローブ,IL)を製品取扱説明書に従って使用した。スライドを適切なフィルター及びソフトウェア(サイトビジョン,アップライドイメージング、サンタ・クララ、CA)を備えた倒立顕微鏡を用いて分析した。
【0099】
奇形腫:奇形腫形成実験に関して、免疫不全SCIDマウス(C.B−17/lcrCrl−scidBR,チャールズ・リバー・ラボラトリーズ、ドイツ)を使用した。マトリゲル(商標)増殖hBS細胞コロニーをコラゲナーゼIV(200U/ml)を使用して表面から酵素的に引き離し、小細胞集合体に機械的に分離し更におおよそ50000乃至100000細胞/器官を腎臓被膜下に注射した。対照動物をCyo−PBS注射又は同腹子からの原発性脳細胞で処理した。動物を注射後8週間して解剖し、腫瘍を4%パラホルムアルデヒド溶液に迅速に固定しそしてパラフィン包埋した。組織学的分析のため、奇形腫を8μmに区分し、アルシアンブルー/チカ ワンギ−ソンで染色した。
【0100】
Oct−4発現のRT−PCR分析:全てのRNAを4つ全てのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株からRNイージーミニキット(キアゲン)用いて製品取扱説明書に従い単離した。cDNAをAMVファーストストランドcDNA合成キット(ロシュ)を使用して全RNAのうち1μgから合成し、プラチナTaqDNAポリメラーゼ(インビトロジェン)を使用してPCR反応を実施した。PCR反応は4つの初期ステップ−ダウンサイクルが含まれ、アニーリング温度ごとにサイクルを二回繰り返し、94℃で15秒間変性させ、66乃至60℃で15秒間アニールさせそして72℃で30秒間伸展させた。下記のサイクルは58℃のアニーリング温度で35回の繰り返しを含んでいた。Oct−4の前進方向及び逆方向へのプライマー配列は前述した。−アクチンプライマーを内部コントロールとして使用した(センス,5’−TGGCACCACACCTTCTACAATGAGC−3’;アンチセンス、5’−GCACAGCTTCTCCTTAATGTC−ACGC−3’;400bp製品)。PCR生成物を、1.5%アガロースゲルを使用してゲル電気泳動によりサイズ分画した。ヒトの肝臓をPCR反応に関して陽性コントロールとして使用し、水を陰性コントロールとして使用した。
【0101】
実施例6及び7の結果
細胞株SA002、AS038,SA121及びSA167は冷凍保存技術を利用して冷凍及び解凍し、特性に関する変化が見られるかどうかにつき調べた。解凍後4つ全ての細胞株が生存し、マトリゲル(商標)被覆プレート上で同様のパターンで成長を開始した。
【0102】
フィーダーなしの条件において4つの異なるhBS細胞株の多能性及び保守性を実証し、各細胞株のフィーダー培養に関する先の結果と比較した。これらの特性決定を、形態、未分化マーカーの発現、テロメラーゼ活性、核型及び生体内の分化を調べることで実施した。
【0103】
免疫細胞化学:SSEA−1発現は、フィーダーなしで培養されたhBS細胞株の全てにおいて陰性であったのに対し、SSEA−3、SSEA−4、TRA−1−60及びTRA1−80に対する抗体による染色では多能性hBS細胞を示す明らかな陽性免疫反応が示された。更に、細胞は4つ全てのマトリゲル(商標)増殖細胞株において高いレベルのAP反応性を示した(図8)。
【0104】
テロメラーゼ活性:3つのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株(AS038、SA121及びSA167)にて分析が実施された。マトリゲル(商標)上で培養されたhBS細胞は高いレベルのテロメラーゼ活性を有することが分かった(図9)。
【0105】
染色体分析及びFISH:染色体分析を2つのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株、AS038及びSA121上で実施した。細胞株AS038からの3つの細胞の内の3つと、細胞株SA121からの12の細胞の内の10個が正常なヒトの46,XY核型を有することが分かった(図10)。SA121細胞株からの残りの2つの細胞は45,XY及び42,XYの異常な核型を発現した。しかしながら、核型変化はフィーダー及びフィーダーなしのhBS培養の両方にとって長期培養後には通常生じる事象である。本研究においフィーダー培養hBS細胞の核型分析はマトリゲル(商標)増殖後の結果と同程度であり、これはhBS細胞の核型がこれらのフィーダーなしの条件の下で正常性及び安定性を維持していることを示した。FISH分析を2つのマトリゲル(商標)増殖細胞株(SA121(XY)及びSA167(XX))について実施した。分析をX、Y、18,13及び21染色体に関して行った。試験された両方の細胞株に対して、少なくとも93%は正常であった。FISH分析からの結果をフィーダー培養されたhBS細胞株からの結果同程度であった。
【0106】
奇形腫形成:奇形腫形成は2つのマトリゲル(商標)培養hBS細胞株、SA167及びSA002に関して実施され、結果は、奇形腫が3つの胚葉(内胚葉、中胚葉、及び外胚葉)全てに相当する分化した細胞及び組織から形成され(図11)、マトリゲル(商標)増殖hBS培地がその多能性を維持している証拠を提供していることを示した。
【0107】
Oct−4発現:Oct−4発現はマトリゲル(商標)上に培養された4つ全ての細胞株において高かった(図12)。
【0108】
実施例8
胚性マウスフィーダー細胞上で培養されたhBS細胞に対してマトリゲル(商標)被覆プレート上でフィーダーなしの条件の下で培養されたhBS細胞の分裂指数の比較
細胞株SA121をマトリゲル(商標)被覆プレート上でフィーダーなしの条件の下と、胚性マウスフィーダー細胞上とで並行して3日間培養した。次に有糸分裂時の細胞数をリン酸化ヒストンH3に対する核免疫反応により定量化した。両培養における分裂指数を算出し、フィーダーなし及びフィーダー培養hBS細胞の間の増殖率を比較した。
【0109】
実施例8の結果
分裂指数はフィーダー層条件と比較してフィーダーなし(マトリゲル(商標))の下で成長させた培養と類似していた(図13)。フィーダーなし培養の倍増時間はフィーダー増殖hBS細胞のものとおよそ同じ(約35時間)であった。
【0110】
実施例9
マトリゲル(商標)培養細胞のラット心臓への移植
上記のとおり調製されたヒト胚盤胞由来幹細胞コロニーを0.5mlコラゲナーゼ溶液(コラゲナーゼIV型、凍結乾燥、179ユニット/mg、ギブコ、インビトロジェン社、HBSSに溶解し200U/mlとする)で分離し、(P10391PC/P10387に記載の)15mlチューブへ移送する。チューブを400×gで5分間遠心分離する。上清(コラゲナーゼ溶液)を捨て、ペレットを5mlの事前に温めた無菌のHBSS(37℃)に溶解する。チューブを400×gで5分間遠心分離する。上清を捨て、ペレットを25μlの事前に温めた無菌のHBSS(37℃)に溶解する。細胞を無菌のシリンジへ移送し、動物手術室へ運搬する。細胞を麻酔して酸素を供給しているラットへ直接心筋に1−2回導入、左心室中への導入、又は静脈で全身投与の何れかによって投与した。
【0111】
より詳細には、200gのオスのSDラットを使用し、3mmプローブを用いて直接的な冷凍障害によってMIを誘発した。この処理は先のMIが左心室(LV)の15−20%を占めるようにした。犯された領域に隣接した生存心筋中へhBS細胞を心筋内注射、又は凍結障害の直後に静脈で全身投与の何れかによって移植した。全ての動物を移植から1週間後の経胸壁心エコー検査、連続的なECG及びLVカテーテル法で調査した。
【0112】
解剖は、hBS細胞の検出及び特徴づけのため、心臓を組織学的に評価した。hBS細胞で処理したラットに死亡したものはなく、不整脈も検出されなかった。hBS細胞移植の部分に異常な組織の兆候も見られなかった。
【0113】
梗塞した(periinfarcted)領域中のヒト細胞の存在を細胞学的分析によって確認した。心臓を切除し、注射領域を取り囲む組織を切開した。この断片を冷凍容器(クリオモールド)中のOCT溶液中にて凍結した。次に断片全体をマイクロトームを用いて10μmの薄片に低温切開し、薄片を冷凍庫中でマイクロスライド(プラス)上に載せた。免疫組織化学分析の直前にスライドを室温で溶解し、各細胞スライスの周りにイムエッジペン(ImmEdge Pen)を用いて円が加えられた。サンプルを4%ホルムアルデヒドで固定し、5分間PBSで洗浄し5分間TBSで3回洗浄した。スライスを次に30分間室温でブロッキング剤(ヤギ血清)とインキュベートし5分間TBSで3回洗浄した。全てのスライドを次に2分間DAPIで染色しPBSで5分間洗浄した。最後にスライドを蛍光培地(S3023,DAKO)中で標本にし、ヒト細胞を蛍光顕微鏡を用いて確認した。
【0114】
実施例9の結果
hBS細胞の投与による心臓関連疾患治療のためのhBS細胞を別の方法で培養した。ここで実施例(図15)から分かるように、hBS細胞の投与の効果は如何なる細胞が培養されているかに依存する。hBS細胞がマトリゲル(商標)上で培養され本実施例のように移植される場合、大量の細胞が移植24時間後に上記技術を用いて確認される。これはマトリゲル(商標)培養技術は劇的に細胞の生存率や、ホスト組織中において細胞が樹立する可能性を増加させることが示唆される。
【0115】
本発明の方法における使用に適切なhBS細胞の樹立方法
国際公開第03/055992号パンフレット(同一出願人)として2003年7月10日に、すなわち本発明の優先日より後に公開されたPCT出願において、hBS細胞を樹立する好適な方法が記載されている。本願の一つの態様において、採用される細胞は国際公開第03/055992号パンフレットにて請求された方法により得られ、これはここで参考として組み込まれる。
【0116】
受精卵母細胞からの多能性ヒト胚盤胞由来幹細胞又は細胞株の樹立方法は、
i)等級A又はBを必要に応じて有する、胚盤胞を得るために、等級1又は2を有する、受精卵母細胞を必要に応じて使用して、
ii)フィーダー細胞と共に胚盤胞を共培養し、一つ以上の内細胞塊細胞のコロニーを樹立し、
iii)機械的切開により内細胞塊細胞を単離し、
iv)フィーダー細胞と共に内細胞塊細胞を共培養し胚盤胞由来幹細胞株を得て、
v)必要に応じて、胚盤胞由来幹細胞株を増殖させる、
ステップからなる。
【0117】
この手順の出発原料として受精卵母細胞が使用される。受精卵母細胞の質は結果として得られる胚盤胞の質に対して重要である。この方法のステップi)におけるヒト胚盤胞は凍結又は新鮮な生体外ヒト受精卵母細胞から派生される。以下に、国際公開第03/055992号パンフレットで用いた好適な卵母細胞を選択する手順について記載する。本方法の重要な成功のための規準は適切な卵母細胞を選択することであることが分かった。従って、等級3の卵母細胞しか適用しない場合、通常の要求(以下に記載される)を満たすhBS細胞株を得る可能性が低い。
【0118】
提供された新鮮な受精卵母細胞:0日目に、卵母細胞をAsp−100(ビトロライフ)中に吸引し、1日目にIVF−50(ビトロライフ)中にて受精させる。受精した卵母細胞は3日目に形態及び細胞分裂に基づき評価する。以下のスケールを受精卵母細胞の評価に使用する:
【0119】
等級1の受精卵母細胞:ちょうど1割球、断片なし
等級2の受精卵母細胞:<20%の断片
等級3の受精卵母細胞:>20%の断片
【0120】
第3日目に評価を行った後、等級1及び2の受精卵母細胞を着床させるか貯蔵用に冷凍する。等級3の受精卵母細胞をICM−2(ビトロライフ)に移送する。受精卵母細胞を更に3−5日間(すなわち、受精後5−7日)培養する。胚盤胞を以下のスケールで評価する。
等級Aの胚盤胞:6日目に明確な内細胞塊(ICM)に拡大する
等級Bの胚盤胞:拡大はしないがそれ以外は等級Aと類似
等級Cの胚盤胞:ICMは見られない
提供された冷凍受精卵母細胞:2日目(受精後)に、受精卵母細胞をフリーズ−キット(ビトロライフ)を使用して第4−細胞期で冷凍する。冷凍受精卵母細胞を液体窒素中で貯蔵する。第5年の期限が過ぎる前にインフォームドコンセントが提供者から得られる。受精卵母細胞は解凍−キット(ビトロライフ)を使用して解凍され、更に上述の手順が第2日目から行われる。
【0121】
上述のように、新鮮な受精卵母細胞は等級3の質に由来し、冷凍受精卵母細胞は等級1及び2に由来する。樹立方法により得られたデータによると、胚盤胞に発育する新鮮な受精卵母細胞の割合は19%であり、一方50%の冷凍受精卵母細胞が胚盤胞に発育する。このことは冷凍受精卵母細胞の方が非常に多くの胚盤胞が得られ、これは恐らく受精卵母細胞の質がより高いためである。新鮮受精卵母細胞由来の胚盤胞の11%が幹細胞株に発育するが、一方冷凍受精卵母細胞由来の胚盤胞の15%が幹細胞株に発育する。つまり、培養中に置かれた新鮮受精卵母細胞の2%が幹細胞株に発育し、培養中に置かれた冷凍受精卵母細胞の7%が幹細胞株に発育した。
【0122】
胚盤胞−段階への受精卵母細胞の培養は、当技術分野において公知の手順の後に実施される。胚盤胞を調製する手順はガードナー等、胚培養システム、トラウンソン、A.O.及びガードナー、D.K.(eds)、体外受精ハンドブック、第二版。CRCプレス、ボーカ・ラトーン、pp.205−264;ガードナー等,無菌的受精(Fertil Steril),74,Suppl3,O−086;ガードナー等,Hum Reprod,13,3434,3440;ガードナー他,J Reprod Immunol,近刊;及びホッパー他,Biol Reprod,62,Suppl 1,249に記載される。
【0123】
状況に応じて等級1又は2を有する受精卵母細胞由来のステップi)における胚盤胞の樹立後、等級A及びBを有する胚盤胞をフィーダー細胞と共に共培養し内細胞塊細胞の一つ以上のコロニーを樹立した。フィーダー細胞上に平板培養した後、それらの成長を監視しコロニーが手動で継代するのに十分大きくなると(平板培養からおよそ1〜2週間後)、細胞を別の細胞型から切開し新規のフィーダー細胞上で成長することにより拡大する。内細胞塊細胞の単離を機械的切開により実施し、これは切断器具としてガラス毛細管を使用することで実施する。内細胞塊細胞の検出を顕微鏡法により目視にて容易に実施し、これにより、栄養外胚葉を損傷あるいは除去するために、酵素及び/又は抗体で卵母細胞に対して何らかの処置を行う必要がない。
【0124】
従って、国際公開第03/055992号パンフレットの手段は免疫手術の必要性を軽減する。免疫手術を使用するのと栄養外胚葉を無傷のままにする本方法との成功率を比較することにより、非常に単純、迅速及び免疫手術を避ける非外傷方法の方が、免疫手術よりも効果的であることが分かった。これらの手順は幹細胞株の調製、及びこれら細胞株の分化を商業的に実行可能にする。全体として122の胚盤胞から、19の細胞株が樹立された(15.5%)。42の胚盤胞が免疫手術により処置されその結果これらの内の6つが細胞株の樹立に成功した(14%)。80の胚盤胞が本発明により処置され更に13の細胞株が樹立された(16%)。
【0125】
内細胞塊の切開に続いて、内細胞塊細胞をフィーダー細胞と共に共培養し胚盤胞由来幹(BS)細胞株を得る。hBS細胞株を得た後、細胞株を状況に応じて増殖させ細胞量を増加させる。すなわち、胚盤胞由来幹細胞株は例えば、4〜5日ごとに幹細胞株を継代することにより、増殖する。幹細胞株が継代前に4〜5日より長く培養されると、細胞が不要に分化する可能性が増加する。
【0126】
フィーダー培養システムにおける細胞の具体的な継代手順をここでは樹立実施例5に示す。
【0127】
ヒトBS細胞株は自然孵化胚盤胞、又は無傷透明帯を備える拡大胚盤胞のいずれかから単離され得る。上述の方法において、ステップi)における胚盤胞は自然孵化胚盤胞である。孵化胚盤胞に関し栄養外胚葉は無傷なままであり、孵化胚盤胞又は除去されたまたは部分的に除去された透明帯を備える胚盤胞を不活化フィーダー細胞上に置いても良い。
【0128】
胚盤胞の透明帯はステップii)の前に、例えばZD(商標)−10(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)などの一つ以上の酸性試薬、一つ以上の酵素又はプロナーゼなどの酵素混合物により処置することにより、少なくとも部分的に消化あるいは化学的にひだをつけても良い。
【0129】
無傷透明帯を備える胚盤胞の簡単なプロナーゼ(シグマ)処理により、帯を除去する。プロナーゼと同様のあるいは類似のプロテアーゼ活性を備える別の型のプロテアーゼも使用可能である。この胚盤胞は前記不活化フィーダー細胞上に平板培養され次にプロナーゼ処理されることが可能である。
【0130】
樹立方法において、ステップii)及び/又はステップiv)は胚盤胞及び/又は関連すれば内細胞塊細胞をフィーダー細胞に接着させることを改良する薬剤により実施されても良い。この目的のための適な物質はヒアルロン酸である。
【0131】
フィーダー細胞上に胚盤胞を平板培養するのに好適な培地はヒアルロン酸を補充するhBS−培地であると良く、これはフィーダー細胞上に胚盤胞が接着し更に内細胞塊が成長することを促進するものである。ヒアルロン酸(HA)は接合における細胞外マトリックスの重要なグリコサミノグリカン成分である。これは少なくとも2つの細胞表面受容体:CD44及びHA−媒介運動性(RHAMM)用受容体の、細胞外マトリックスのタンパク質に対する結合相互作用を介してその生物学的効果を発揮するようである。hBS細胞の樹立の間のHAの効能はその細胞膜中のリン脂質の界面活性剤の極性頭部との相互作用を介して発揮され得、これにより界面活性剤層を安定化させ、よって、内細胞塊又は胚盤細胞の表面張力を低下させて、フィーダー細胞に対する結合効果を増大させることになる。別の方法として、HAは内細胞塊又は胚盤胞上受容体及び/又はフィーダー細胞に対して結合して内細胞塊の接着及び成長を増進させる生物学的効果を発揮する。これにより、流体の表面張力を変化させ得る、或いは別の方法で胚盤胞とフィーダー細胞との間の相互作用に影響を与える別の試薬もヒアルロン酸の代わりに使用可能である。
【0132】
上述の方法において、フィーダー細胞の培養はhBS細胞株の樹立に重要である。胚盤胞由来幹細胞株の増殖は最大3回、例えば最大2回のフィーダー細胞の継代からなる。
【0133】
本発明の方法に使用される好適なフィーダー細胞は胚性又は成体の繊維芽細胞である。本発明の方法において、ステップii)及びiv)に採用されるフィーダー細胞は同一でも異なっていても良く、例えばヒト、マウス,ラット、サル、ハムスター、カエル、ウサギ等を含む如何なる哺乳類などの動物に源を発する。ヒト又はマウス種からのフィーダー細胞が好ましい。
【0134】
一般的要求事項を満たすhBS細胞株を得るための別の重要な規準は、胚盤胞が培養される条件である。従って、胚盤胞由来幹細胞株は幹細胞を1cm2当り約60,000細胞未満、例えば1cm2当り約55,000細胞未満、あるいは1cm2当り約50,000細胞未満の密度を有するフィーダー細胞と共に培養されることにより増殖される。具体的な実施の形態において、胚盤胞由来幹細胞株の増殖は幹細胞を1cm2当り約45,000細胞の密度のフィーダー細胞と共に培養することからなる。これらの値はマウスフィーダー細胞が使用され好適な密度が別の型のフィーダー細胞に対しても同様に達成できる場合に適用される。本発明者の発見に基づき、当業者は好適な密度を得ることができる。フィーダー細胞はフィーダー細胞の不要な成長を避けるために分裂期に不活化される。
【0135】
上述の樹立方法により得られた胚盤胞由来幹細胞株は好適な周期の間自己再生及び多分化能を維持し、従って好適な周期の間安定する。この場合、用語「安定」とは分裂期に不活化された胚性フィーダー細胞の成長の際に21か月以上の未分化状態における増殖能を示すことを意味する。
【0136】
上述の樹立方法により得られた幹細胞株は一般要求事項を満足する。すなわち、この細胞株は、
i)分裂期不活化胚性フィーダー細胞で成長する場合に、21か月以上の未分化状態における増殖能を示し、
ii)正常正倍数性染色体核型を示し、
iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体に進化する可能性を保持し、
iv)以下の分子マーカー、OCT−4、アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアの内の少なくとも二つを示し、
v)分子マーカーSSEA−1又は別の分化マーカーは示さず、
vi)その多分化能を維持し更に免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、
vii)分化可能である。
【0137】
上述の方法により得られた未分化hBS細胞は以下の基準により規定され;それらはヒトの着床前受精卵母細胞、すなわち胚盤胞から単離され、分裂期不活化フィーダー細胞上で成長する際に未分化状態において増殖能を示し;それらは正常染色体核型を示し;それらは未分化hBS細胞に対して典型的なマーカー、例えば、OCT−4,アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアを示し、炭水化物エピトープSSEA−1又は別の分化マーカーの発現は示さないとする基準である。その上、生体外或いは生体内(奇形腫)における多分化能テストは全ての胚葉の誘導体への分化を実証する。
【0138】
上述により、本方法は多分化能ヒトBS細胞の実質的に純粋な調製物を提供し、これはi)分裂期不活化胚性フィーダー細胞で成長する場合に、21か月以上の未分化状態における増殖能を示し;ii)正常正倍数性染色体核型を示し;iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体への進化の可能性を保持し;iv)以下の分子マーカー、OCT−4,アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアの内の少なくとも二つを示し、v)分子マーカーSSEA−1あるいは別の分化マーカーは示さず、更にvi)その多分化能を維持し更に免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、更にvii)分化可能である。細胞マーカーの検出用方法はGage,F.H.,サイエンス,287:1433−1438(2000)に記載される。
【0139】
この樹立方法は以下に「樹立実施例」として記載する。これらの実施例は例示を目的としてのみここに記載され、いかなる方法においても本発明の範囲は限定されない。ここに記載される一般的な方法は当業者にとって公知であり更に全ての試薬及びバッファは利用し易く、市販あるいは当業者の手により既知のプロトコルに従って容易に生成し易いものである。全ての培養はCO2雰囲気下において、37℃で実施される。
【0140】
使用される好適な培地の一つは「BS−細胞培地」又は「BS−培地」と称し、ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に、20%ノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度における成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組み換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が追加されたものから構成されていて良い。
【0141】
別の好適な培地は「BS細胞体培地」であり、これは以下の;ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に、20%ノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度における成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノールから構成される。
【0142】
本文において、用語「安定」とは有糸分裂時不活性化された胚性フィーダー細胞を成長させるときに21か月以上の未分化状態における増殖能を意味することが意図される。
【0143】
樹立実施例
樹立実施例1
自然孵化された胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
ヒト胚盤胞は凍結あるいは新鮮なヒト生体外受精卵胚由来であった。hBS細胞培地(ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に20%ノックアウト血清代替物及び以下の終末濃度における成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組み換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)に0.125mg/mlのヒアルロン酸が追加されたものが追加される)中のフィーダー細胞(EF)上に自然孵化胚盤胞を直接置いた。EF細胞上で胚盤胞を平板培養した後、成長を監視し、そしてコロニーが手動で継代するのに十分大きくなる平板培養後およそ1−2週間後、内細胞塊細胞を別の細胞型から切開し新しいEF細胞上での成長によって増やした。
【0144】
樹立実施例2
無傷透明帯を備える胚盤胞からの未分化幹細胞の実質的に純粋な調製物の樹立
無傷の透明帯を備えた胚盤胞に対して、rS2(ICM−2)培地(ビトロライフ,イェーテボリ,スウェーデン)中での短時間のプロナーゼ(10U/ml,シグマ)インキュベーションを用いて透明帯を消化し、胚盤胞をヒアルロン酸(0.125mg/ml)の添加されたhBS培地中でEF細胞層上に直接置いた。
【0145】
樹立実施例3
アルカリホスファターゼ用組織化学的染色
細胞をRT−PCR、組織化学的(アルカリホスファターゼ)及び免疫細胞化学的分析(以下参照)のため収穫した。RNA単離及びRT−PCR。全ての細胞性RNAをRNイージーミニキット(キアゲン)を使用して製造業者の推奨事項に従って調製した。cDNA合成をRT−PCR(ロシュ)用AMVファーストストランドcDNA合成キットを用いて実施し、PCRをプラチナTaq DNAポリメラーゼ(インビトロジェン)を用いて実施した。アルカリホスファターゼ用組織化学的染色を市販キット(シグマ)を使用して製造業者の推奨事項に従って実施した。
【0146】
樹立実施例4
hBS細胞株の調製及び培養
マウスの胚性線維芽細胞フィーダー細胞をDMEM(ダルベッコ改良イーグル培地)に10の%FCS(ウシ胎仔血清)、0.1Mの−メルカプトエタノール、50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン及び2mMのL−グルタミン(ギブコBRL)が追加されたEMFI−培地中、組織培養皿上で収穫した。フィーダー細胞をマイトマイシンC(10g/ml、3時間)で分裂期に不活化した。ヒトBS細胞コロニーを手動による切開によって不活化されたマウス胚性繊維芽細胞フィーダー細胞上で増やした。
【0147】
ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に20%のノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度の以下の成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、100Mの−メルカプトエタノール、4ng/mlのヒト組み換えbFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)が追加されたhBS−細胞培地で組織培養皿中の分裂期に不活化されたマウス胚性繊維芽細胞フィーダー細胞上で培養された。継代7日後コロニーはBS細胞体を作り出すのに充分成長した。
【0148】
BS細胞コロニーをガラス毛細管により0.4×0.4mm切片に切断してBS細胞体培地:ノックアウトダルベッコ改良イーグル培地に20%のノックアウト血清代替物及びそれぞれの終末濃度の以下の成分:50ユニット/mlのペニシリン、50g/mlのストレプトマイシン、0.1mMの非必須アミノ酸、2mMのL−グルタミン、及び100Mの−メルカプトエタノール:を含む非付着性細菌培養皿上で平板培養した。嚢胞性hBS細胞体を含む、hBS細胞体は7−9日間で形成された。
【0149】
樹立実施例5
hBS細胞の継代
継代前に、hBS細胞をニコンエクリプスTE2000−U倒立顕微鏡(10×物体)及びDXM1200デジタルカメラを使用して撮影する。コロニーを4−5日ごとに継代する。コロニーは、切片(0.1−0.3×0.1−0.3mm)に切断可能となったとき、継代するのに充分に大きい。初めて細胞を継代するとき、細胞を1−2週間成長させ、そしておよそ4切片に切断することが可能である。
【0150】
立体顕微鏡でひとつずつコロニーに焦点を合わせ、上述の寸法に従って市松模様に切断する。内部の均質構造のみを継代する。コロニーの各角をナイフで除去し、毛細管中に吸引し、(最高年齢4日の)新規のフィーダー細胞上に置く。10−16個の切片を各々新規のIVF−皿に均一に平板培養する。皿を5乃至10分間放置することで細胞が新規のフィーダーに接着でき、次にインキュベータ内に設置する。hBS培地を1週間に3回交換する。コロニーが継代される場合、その週のみに限り培地を2回交換する。通常「半分交換」が実施され、これは培地の半分だけを吸引し、そして同量の新鮮で調節された培地に置換されることを意味する。必要であれば、培地の全量を交換することも可能である。
【0151】
樹立実施例6
hBS細胞のガラス化
細胞株から適切な未分化形態を有するコロニーを継代用として切除する。100−200mlの液体窒素を十分な容量の冷凍管内に無菌ろ過する。2つの溶液A及びBを調製し(A:1Mトレハロース、100μlエチレングリコール及び100μlDMSOを含有した800μlの冷凍PBS、B:1Mトレハロース、200μlエチレングリコール及び200μlDMSO含有600μl冷凍PBS)更にコロニーをA液中に1分間、B液中に25秒間配置する。凍結コロニーを貯蔵するために閉塞ストローを使用する。コロニーをストロー内に移送した後、それを無菌ろ過した窒素を有する冷凍管内に迅速に配置する。
【0152】
樹立実施例7
胚性マウスフィーダー(EMFi)細胞の播種
細胞をマイトマイシンCを含有するEMFi培地で37℃で3時間インキュベートすることにより不活化する。IVF−皿をゼラチンで被覆する。培地を吸引し細胞をPBSで洗浄する。PBSをトリプシンで置換し細胞を引き離す。インキュベーション後、トリプシン活性をEMFi培地で止める。細胞を次に遠心分離により回収し、EMFi培地中に1:5で希釈し、さらにバーカー(Buerker)チャンバ内で計測される。細胞を終末濃度170K細胞/mlとなるようEMFi培地に希釈する。IVF皿中のゼラチンを1ml細胞懸濁液で置換し、インキュベータ中へ配置する。EMFi培地を播種の翌日交換した。
【図面の簡単な説明】
【0153】
【図1】図1は、ヒトBS細胞株167が樹立された胚盤胞(プロナーゼ処理前)を示す。
【図2】図2は、ヒトBS細胞株167が樹立された胚盤胞(プロナーゼ処理後)を示す。
【図3】図3は、マウスの胚性線維芽細胞上で平板培養した2日後の胚盤胞167を示す。
【図4】図4は、マウスの胚性線維芽細胞上で71継代培養したヒトBS細胞を示す。
【図5】図5は、マトリゲル(商標)上で細胞株を樹立する場合にhES細胞を分離するために用いる2つの異なる技術(コラゲナーゼ処理及び機械的処理)の比較表を示す。2つの異なる分離技術の間で、mEF培養からマトリゲル(商標)へhES細胞を移送した2日及び6日後の相対コロニー面積(mm2)を比較した。
【図6】図6は、播種後(a)2時間、(b)10時間、(c)1日、(d)2日、(e)3日、(f)4日、(g)5日及び(h)6日間マトリゲル(商標)上で培養した細胞株SA167の未分化コロニー成長の実施例を示す。
【図7】図7は、播種4日後のマトリゲル(商標)上で培養した4つ全ての細胞株(SA002,AS038,SA121,SA167)の未分化コロニーのコロニー形態を示す。
【図8】図8は、マトリゲル(商標)上で培養した未分化細胞株SA167に、そして凍結/解凍のサイクルの後に実施される蛍光免疫染色及びアルカリホスファターゼ(AP)活性のための染色の例;(a)AP,(b)SSEA−1,(c)SSEA−3,(d)SSEA−4,(e)Tra−1−60,(f)Tra−1−81染色を示す。
【図9】図9は、相対テロメラーゼ活性(RTA)であって、細胞株SA121,AS038,SA167及び陰性コントロールのマトリゲル(商標)培養について陽性コントロールのパーセンテージで示す。
【図10】図10は、マトリゲル(商標)上で培養した、そして凍結/解凍のサイクルの後の細胞株SA121について実施された核型解析の実施例を示す。
【図11】図11は、(a)奇形腫現象、(b)外胚葉性分化、神経外胚葉、(c)中胚葉性分化、軟骨組織及び(d)内胚葉性分化、多数の杯細胞を有する円柱上皮を示す免疫不全SCIDマウスに腎被膜下注射した後のマトリゲル(商標)培養細胞株SA002から生み出された奇形腫を示す。
【図12】図12は、マトリゲル(商標)上で樹立後及び凍結/解凍のサイクル後の4つ全ての細胞株(SA002,AS038,SA121,SA167)で実施されたOct−4発現に関するRT−PCR分析を示す。ゲルは1.5%アガロースであり、エチジウムブロマイドで染色されている。(1)100bp DNAラダー、(2)細胞株SA002、(3)細胞株SA121、(4)細胞株SA167、(5)細胞株AS038及び(6)陰性コントロール(水)。Oct−4PCR生成物は274bpである。
【図13】図13は、3日培養での有糸分裂時における細胞のパーセンテージ;マウス胚性フィーダー層(mEF)上で培養したhES細胞と、マトリゲル(商標)上で培養したhES細胞(細胞株SA121)との間の比較を示す。
【図14】図14は、hBS細胞株樹立のフローチャートであって、マウスフィーダー上での培養、フィーダーなしの培養への移送、フィーダーなしのシステムにおける培養及び心筋中への培養細胞の導入を示す。
【図15】図15は、ラット心筋中のフィーダーなしの培養によるヒトBS細胞を示す。ヒト細胞は抗−ヒト核抗原抗体(緑)を用いて検出される。ラット周囲心筋細胞は核染色DAPI(青)で染色されている。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーダーなしの培養システム中へのhBS細胞の移送方法であって、該方法は
a.hBS細胞をフィーダーからフィーダーなしの培養へ機械的処理によって移送するステップからなるhBS細胞の移送方法。
【請求項2】
更に、
b.胚盤胞由来幹細胞をフィーダー細胞なしの成長条件の下で好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上で培養するステップからなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に、
c.胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに酵素的及び/又は機械的処理により継代するステップからなる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
機械的処理がフィーダー培養システム中のhBSの好適な切断器具による分離又は切開によって実施される請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
移送されるhBS細胞がhBS細胞のコロニーであり、切片がコロニーの中心部から切断され細胞集合体として好適な培地中に懸濁される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞集合体が機械的に1回以上分離される請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
機械的分離が細胞集合体の寸法を元のコロニーの寸法の少なくとも50%、例えば最大約40%、最大約30%、最大約20%、最大約10%又は最大約5%の寸法とするまで実施される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
その寸法は集合体又はコロニー各々の直径で測定される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)が胚盤胞由来幹細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進し及び/又は付着を促進する物質、たとえばゼラチン、ポリオルニチン、フィブロネクチン、アガロース、ポリ−L−リジン又はI型コラーゲン及び/又は、マトリゲル(商標)、ラミニン又は胎盤からのヒト細胞外マトリックス(hECM)といった細胞外マトリックス成分からなる支持基質上で実施される請求項2−8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞外マトリックス成分がマトリゲル(商標)である請求項9記載の方法。
【請求項11】
ステップb)がhBS細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進する要因からなる成長培地を使用することからなる請求項2−10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
成長培地がフィーダー細胞の事前増殖により条件設定された細胞なしの培地、例えばk−hBS−培地、「k−ビトロHES(商標)−培地又はビトロHES(商標)−培地である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)が酵素的処理によるhBS細胞の分離からなる請求項3−12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
酵素がコラゲナーゼ、例えばコラゲナーゼIVである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)が機械的切開によるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップc)がhBS細胞をEDTA溶液へさらすことによるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
EDTA溶液の濃度が最高約100mM、例えば約0.1乃至約100mM、約0.2乃至約75mM、約0.3乃至約50mM、約0.4乃至約25mM又は約20mM未満、約15mM未満、約10mM未満、約5mM未満、約1mM未満又は約0.5mM未満である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
hBS細胞が
i)フィーダーなしの成長条件の下で成長する場合に、12か月以上の未分化状態における増殖能を示し、
ii)正常正倍数性染色体核型を示し、
iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体に進化する潜在性を保持し、
iv)以下の分子マーカー、OCT−4、アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアの内の少なくとも二つを示し、
v)マーカーSSEA−1あるいは別の分化マーカーは示さず、更に
vi)その多分化能を維持し更に免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、及び/又は
vii)分化可能である請求項1乃至17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ更に分化する能力を有する請求項3−18に記載の方法。
【請求項20】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ分化する能力を有し、これはα−ミオシン重鎖、α−アクチン、トロポニンI又はトロポニンIIの少なくとも一つを含む心筋細胞マーカーの発現、或いはGATA4,Mkx2.5,α−MHC,β−MHC又はANFを含む心筋細胞特異遺伝子の少なくとも一つを表示する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
心臓様−細胞が、α又はβアゴニスト又はアンタゴニストが培養培地へ投与されるとその個体数を増加させ又は減少させることができる収縮コロニーのその組織によって特徴付けられる心筋−様細胞である請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
多能性ヒトBS細胞株由来の心臓−様細胞の量が培養中の細胞の総量の25%以上、例えば35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上である請求項19−21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の薬剤における使用。
【請求項24】
疾病の予防又は治療のため哺乳類中へhBS細胞を移植するための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項25】
心臓に関する疾病の予防又は治療のための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項26】
心臓に関する疾病の予防又は治療のため哺乳類の心筋又は血液の循環中へヒト胚盤胞由来幹細胞の移植のための薬剤の製造のための請求項24又は25に記載の使用。
【請求項27】
疾病が晩発性心筋梗塞、慢性虚血性心筋症、特発性拡張型心筋症、続発性心筋症(例えば中毒性、糖尿病、妊娠、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病及び血色素症)、左心機能障害又は心不全を備えた末期肥大性心筋症、拘束型心筋症、末期高血圧性心疾患、急性心筋梗塞、狭心症、劇症心筋炎、AV−ブロックIII,幼児及び成人における先天性心疾患の特異型(例えば圧縮しない左心室、心房及び心室中隔欠損)、ファロー四徴症及びその他の類似症状、弁膜の復元及び心臓弁膜症に続発する心不全からなる群より選択される請求項24−26の何れか一項に記載の使用。
【請求項28】
薬剤は医薬品として許容範囲にある培地中に分散された未分化hBS細胞又は分化hBS細胞からなる請求項24−27の何れか一項に記載の使用。
【請求項29】
培地が水性培地である請求項28に記載の使用。
【請求項30】
更にpH調整剤、安定剤、防腐剤、浸透圧調整剤及び生理学的に許容範囲にある塩よりなる群より選択される一つ以上の薬剤からなる請求項28又は29に記載の使用。
【請求項31】
更に治療的に活性な物質、予防的に活性な物質、移植性改良剤、生存率改良剤、分化改良剤及び免疫抑制剤よりなる群から選択される一つ以上の薬剤からなる請求項24−30の何れか一項に記載の使用。
【請求項32】
哺乳類における心臓に関する疾病を治療する方法であって、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞を有効な量それを必要とする哺乳類に心臓−様細胞中へ移植することからなる心臓に関する疾病を治療する方法。
【請求項33】
区切られた区画中に少なくとも二つの以下の成分、
請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞の移植率及び存続率を改良する薬剤、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞、hBS細胞の分化を促進する一つ以上の薬剤及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなるキット。
【請求項34】
更にhBS細胞の移植率及び生存率を改良する第二の細胞型からなる請求項33記載のキット。
【請求項35】
更に分離していない又は分離している分化したhBS−細胞コロニーからなる請求項33又は34記載のキット。
【請求項36】
モノクローナル抗体の生成のための請求項1−18の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項37】
生体外毒性試験のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項38】
潜在的な製剤原料の生体外スクリーニングのための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項39】
潜在的な製剤原料の検証のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーダーなしの培養システム中へのhBS細胞の移送方法であって、該方法は
a.hBS細胞をフィーダーからフィーダーなしの培養へ酵素的処理なしで機械的処理のみによって移送するステップからなるhBS細胞の移送方法。
【請求項2】
更に、
b.胚盤胞由来幹細胞をフィーダー細胞なしの成長条件の下で好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上で培養するステップからなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に、
c.胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに機械的処理により継代するステップからなる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
機械的処理がフィーダー培養システム中のhBSの好適な切断器具による分離又は切開によって実施される請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
移送されるhBS細胞がhBS細胞のコロニーであり、切片がコロニーの中心部から切断され細胞集合体として好適な培地中に懸濁される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞集合体が機械的に1回以上分離される請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
機械的分離が細胞集合体の寸法を元のコロニーの寸法の少なくとも50%、例えば最大約40%、最大約30%、最大約20%、最大約10%又は最大約5%の寸法とするまで実施される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
その寸法は集合体又はコロニー各々の直径で測定される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)が胚盤胞由来幹細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進し及び/又は付着を促進する物質、たとえばゼラチン、ポリオルニチン、フィブロネクチン、アガロース、ポリ−L−リジン又はI型コラーゲン及び/又は、マトリゲル(商標)、ラミニン又は胎盤からのヒト細胞外マトリックス(hECM)といった細胞外マトリックス成分からなる支持基質上で実施される請求項2−8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞外マトリックス成分がマトリゲル(商標)である請求項9記載の方法。
【請求項11】
ステップb)がhBS細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進する要因からなる成長培地を使用することからなる請求項2−10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
成長培地がフィーダー細胞の事前増殖により条件設定された細胞なしの培地、例えばk−hBS−培地、k−ビトロHES(商標)−培地又はビトロHES(商標)−培地である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)が酵素的処理によるhBS細胞の分離からなる請求項3−12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
酵素がコラゲナーゼ、例えばコラゲナーゼIVである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)が機械的切開によるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップc)がhBS細胞をEDTA溶液へさらすことによるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
EDTA溶液の濃度が最高約100mM、例えば約0.1乃至約100mM、約0.2乃至約75mM、約0.3乃至約50mM、約0.4乃至約25mM又は約20mM未満、約15mM未満、約10mM未満、約5mM未満、約1mM未満又は約0.5mM未満である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
hBS細胞が
i)フィーダーなしの成長条件の下で成長する場合に、12か月以上の未分化状態における増殖能を示し、
ii)正常正倍数性染色体核型を示し、
iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体に進化する潜在性を保持し、
iv)以下のマーカー、OCT−4、アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアのうちの少なくとも2つを示し、
v)マーカーSSEA−1又は別の分化マーカーは示さず、
vi)その多分化能を維持しそして免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、及び/又は
vii)分化可能である請求項1乃至17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ更に分化する能力を有する請求項3−18に記載の方法。
【請求項20】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ分化する能力を有し、これはα−ミオシン重鎖、α−アクチン、トロポニンI及びトロポニンIIの少なくとも一つを含む心筋細胞マーカーの発現、或いはGATA4,Mkx2.5,α−MHC,β−MHC又はANFを含む心筋細胞特異遺伝子の少なくとも一つを表示する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
心臓−様細胞が、α又はβアゴニスト又はアンタゴニストが培養培地へ投与されるとその個体数を増加させ又は減少させることができる収縮コロニーのその組織によって特徴付けられる心筋−様細胞である請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
多能性ヒトBS細胞株由来の心臓−様細胞の量が培養中の細胞の総量の25%以上、例えば35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上である請求項19−21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
更に、
c.胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに機械的処理により継代するステップからなる請求項1、2及び4−22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の薬剤における使用。
【請求項25】
疾病の予防又は治療のため哺乳類中へhBS細胞を移植するための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項26】
心臓に関する疾病の予防又は治療のための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項27】
心臓に関する疾病の予防又は治療のため哺乳類の心筋又は血液の循環中へヒト胚盤胞由来幹細胞の移植のための薬剤の製造のための請求項25又は26に記載の使用。
【請求項28】
疾病が晩発性心筋梗塞、慢性虚血性心筋症、特発性拡張型心筋症、続発性心筋症(例えば中毒性、糖尿病、妊娠、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病及び血色素症)、左心機能障害又は心不全を備えた末期肥大性心筋症、拘束型心筋症、末期高血圧性心疾患、急性心筋梗塞、狭心症、劇症心筋炎、AV−ブロックIII,幼児及び成人における先天性心疾患の特異型(例えば圧縮しない左心室、心房及び心室中隔欠損)、ファロー四徴症及びその他の類似症状、弁膜の復元及び心臓弁膜症に続発する心不全からなる群より選択される請求項25−27の何れか一項に記載の使用。
【請求項29】
薬剤が医薬品として許容範囲にある培地中に分散された未分化hBS細胞又は分化hBS細胞からなる請求項25−28の何れか一項に記載の使用。
【請求項30】
培地が水性培地である請求項29に記載の使用。
【請求項31】
更にpH調整剤、安定剤、防腐剤、浸透圧調整剤及び生理学的に許容範囲にある塩よりなる群より選択される一つ以上の添加物からなる請求項29又は30に記載の使用。
【請求項32】
更に治療的に活性な物質、予防的に活性な物質、移植性改良剤、生存率改良剤、分化改良剤及び免疫抑制剤よりなる群から選択される一つ以上の剤からなる請求項25−31の何れか一項に記載の使用。
【請求項33】
哺乳類における心臓に関する疾病を治療する方法であって、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞を有効な量それを必要とする哺乳類に心臓−様細胞中へ移植することからなる心臓に関する疾病を治療する方法。
【請求項34】
区切られた区画中に少なくとも二つの以下の成分、
請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞の移植率及び存続率を改良する剤、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞、hBS細胞の分化を促進する一つ以上の剤及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなるキット。
【請求項35】
更にhBS細胞の移植率及び生存率を改良する第二の細胞型からなる請求項34記載のキット。
【請求項36】
更に分離していない又は分離している分化したhBS−細胞コロニーからなる請求項34又は35記載のキット。
【請求項37】
モノクローナル抗体の生成のための請求項1−18の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項38】
生体外毒性試験のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項39】
潜在的な製剤原料の生体外スクリーニングのための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項40】
潜在的な製剤原料の検証のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項1】
フィーダーなしの培養システム中へのhBS細胞の移送方法であって、該方法は
a.hBS細胞をフィーダーからフィーダーなしの培養へ機械的処理によって移送するステップからなるhBS細胞の移送方法。
【請求項2】
更に、
b.胚盤胞由来幹細胞をフィーダー細胞なしの成長条件の下で好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上で培養するステップからなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に、
c.胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに酵素的及び/又は機械的処理により継代するステップからなる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
機械的処理がフィーダー培養システム中のhBSの好適な切断器具による分離又は切開によって実施される請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
移送されるhBS細胞がhBS細胞のコロニーであり、切片がコロニーの中心部から切断され細胞集合体として好適な培地中に懸濁される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞集合体が機械的に1回以上分離される請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
機械的分離が細胞集合体の寸法を元のコロニーの寸法の少なくとも50%、例えば最大約40%、最大約30%、最大約20%、最大約10%又は最大約5%の寸法とするまで実施される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
その寸法は集合体又はコロニー各々の直径で測定される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)が胚盤胞由来幹細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進し及び/又は付着を促進する物質、たとえばゼラチン、ポリオルニチン、フィブロネクチン、アガロース、ポリ−L−リジン又はI型コラーゲン及び/又は、マトリゲル(商標)、ラミニン又は胎盤からのヒト細胞外マトリックス(hECM)といった細胞外マトリックス成分からなる支持基質上で実施される請求項2−8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞外マトリックス成分がマトリゲル(商標)である請求項9記載の方法。
【請求項11】
ステップb)がhBS細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進する要因からなる成長培地を使用することからなる請求項2−10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
成長培地がフィーダー細胞の事前増殖により条件設定された細胞なしの培地、例えばk−hBS−培地、「k−ビトロHES(商標)−培地又はビトロHES(商標)−培地である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)が酵素的処理によるhBS細胞の分離からなる請求項3−12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
酵素がコラゲナーゼ、例えばコラゲナーゼIVである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)が機械的切開によるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップc)がhBS細胞をEDTA溶液へさらすことによるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
EDTA溶液の濃度が最高約100mM、例えば約0.1乃至約100mM、約0.2乃至約75mM、約0.3乃至約50mM、約0.4乃至約25mM又は約20mM未満、約15mM未満、約10mM未満、約5mM未満、約1mM未満又は約0.5mM未満である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
hBS細胞が
i)フィーダーなしの成長条件の下で成長する場合に、12か月以上の未分化状態における増殖能を示し、
ii)正常正倍数性染色体核型を示し、
iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体に進化する潜在性を保持し、
iv)以下の分子マーカー、OCT−4、アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアの内の少なくとも二つを示し、
v)マーカーSSEA−1あるいは別の分化マーカーは示さず、更に
vi)その多分化能を維持し更に免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、及び/又は
vii)分化可能である請求項1乃至17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ更に分化する能力を有する請求項3−18に記載の方法。
【請求項20】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ分化する能力を有し、これはα−ミオシン重鎖、α−アクチン、トロポニンI又はトロポニンIIの少なくとも一つを含む心筋細胞マーカーの発現、或いはGATA4,Mkx2.5,α−MHC,β−MHC又はANFを含む心筋細胞特異遺伝子の少なくとも一つを表示する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
心臓様−細胞が、α又はβアゴニスト又はアンタゴニストが培養培地へ投与されるとその個体数を増加させ又は減少させることができる収縮コロニーのその組織によって特徴付けられる心筋−様細胞である請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
多能性ヒトBS細胞株由来の心臓−様細胞の量が培養中の細胞の総量の25%以上、例えば35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上である請求項19−21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の薬剤における使用。
【請求項24】
疾病の予防又は治療のため哺乳類中へhBS細胞を移植するための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項25】
心臓に関する疾病の予防又は治療のための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項26】
心臓に関する疾病の予防又は治療のため哺乳類の心筋又は血液の循環中へヒト胚盤胞由来幹細胞の移植のための薬剤の製造のための請求項24又は25に記載の使用。
【請求項27】
疾病が晩発性心筋梗塞、慢性虚血性心筋症、特発性拡張型心筋症、続発性心筋症(例えば中毒性、糖尿病、妊娠、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病及び血色素症)、左心機能障害又は心不全を備えた末期肥大性心筋症、拘束型心筋症、末期高血圧性心疾患、急性心筋梗塞、狭心症、劇症心筋炎、AV−ブロックIII,幼児及び成人における先天性心疾患の特異型(例えば圧縮しない左心室、心房及び心室中隔欠損)、ファロー四徴症及びその他の類似症状、弁膜の復元及び心臓弁膜症に続発する心不全からなる群より選択される請求項24−26の何れか一項に記載の使用。
【請求項28】
薬剤は医薬品として許容範囲にある培地中に分散された未分化hBS細胞又は分化hBS細胞からなる請求項24−27の何れか一項に記載の使用。
【請求項29】
培地が水性培地である請求項28に記載の使用。
【請求項30】
更にpH調整剤、安定剤、防腐剤、浸透圧調整剤及び生理学的に許容範囲にある塩よりなる群より選択される一つ以上の薬剤からなる請求項28又は29に記載の使用。
【請求項31】
更に治療的に活性な物質、予防的に活性な物質、移植性改良剤、生存率改良剤、分化改良剤及び免疫抑制剤よりなる群から選択される一つ以上の薬剤からなる請求項24−30の何れか一項に記載の使用。
【請求項32】
哺乳類における心臓に関する疾病を治療する方法であって、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞を有効な量それを必要とする哺乳類に心臓−様細胞中へ移植することからなる心臓に関する疾病を治療する方法。
【請求項33】
区切られた区画中に少なくとも二つの以下の成分、
請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞の移植率及び存続率を改良する薬剤、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞、hBS細胞の分化を促進する一つ以上の薬剤及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなるキット。
【請求項34】
更にhBS細胞の移植率及び生存率を改良する第二の細胞型からなる請求項33記載のキット。
【請求項35】
更に分離していない又は分離している分化したhBS−細胞コロニーからなる請求項33又は34記載のキット。
【請求項36】
モノクローナル抗体の生成のための請求項1−18の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項37】
生体外毒性試験のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項38】
潜在的な製剤原料の生体外スクリーニングのための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項39】
潜在的な製剤原料の検証のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィーダーなしの培養システム中へのhBS細胞の移送方法であって、該方法は
a.hBS細胞をフィーダーからフィーダーなしの培養へ酵素的処理なしで機械的処理のみによって移送するステップからなるhBS細胞の移送方法。
【請求項2】
更に、
b.胚盤胞由来幹細胞をフィーダー細胞なしの成長条件の下で好適な成長培地中及び/又は好適な支持基質上で培養するステップからなる請求項1記載の方法。
【請求項3】
更に、
c.胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに機械的処理により継代するステップからなる請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
機械的処理がフィーダー培養システム中のhBSの好適な切断器具による分離又は切開によって実施される請求項1乃至3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
移送されるhBS細胞がhBS細胞のコロニーであり、切片がコロニーの中心部から切断され細胞集合体として好適な培地中に懸濁される請求項4に記載の方法。
【請求項6】
細胞集合体が機械的に1回以上分離される請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
機械的分離が細胞集合体の寸法を元のコロニーの寸法の少なくとも50%、例えば最大約40%、最大約30%、最大約20%、最大約10%又は最大約5%の寸法とするまで実施される請求項6に記載の方法。
【請求項8】
その寸法は集合体又はコロニー各々の直径で測定される請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)が胚盤胞由来幹細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進し及び/又は付着を促進する物質、たとえばゼラチン、ポリオルニチン、フィブロネクチン、アガロース、ポリ−L−リジン又はI型コラーゲン及び/又は、マトリゲル(商標)、ラミニン又は胎盤からのヒト細胞外マトリックス(hECM)といった細胞外マトリックス成分からなる支持基質上で実施される請求項2−8の何れか一項に記載の方法。
【請求項10】
細胞外マトリックス成分がマトリゲル(商標)である請求項9記載の方法。
【請求項11】
ステップb)がhBS細胞の分化を阻害し及び/又は生存及び増殖を促進する要因からなる成長培地を使用することからなる請求項2−10の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
成長培地がフィーダー細胞の事前増殖により条件設定された細胞なしの培地、例えばk−hBS−培地、k−ビトロHES(商標)−培地又はビトロHES(商標)−培地である請求項11に記載の方法。
【請求項13】
ステップc)が酵素的処理によるhBS細胞の分離からなる請求項3−12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
酵素がコラゲナーゼ、例えばコラゲナーゼIVである請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ステップc)が機械的切開によるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項16】
ステップc)がhBS細胞をEDTA溶液へさらすことによるhBS細胞の分離からなる請求項3−14の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
EDTA溶液の濃度が最高約100mM、例えば約0.1乃至約100mM、約0.2乃至約75mM、約0.3乃至約50mM、約0.4乃至約25mM又は約20mM未満、約15mM未満、約10mM未満、約5mM未満、約1mM未満又は約0.5mM未満である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
hBS細胞が
i)フィーダーなしの成長条件の下で成長する場合に、12か月以上の未分化状態における増殖能を示し、
ii)正常正倍数性染色体核型を示し、
iii)生体外及び生体内の両方において全ての型の胚葉の誘導体に進化する潜在性を保持し、
iv)以下のマーカー、OCT−4、アルカリホスファターゼ、炭水化物エピトープSSEA−3,SSEA−4,TRA1−60、TRA1−81及びモノクローナル抗体GCTM−2により認識された硫酸ケラチン/硫酸コンドロイチン細胞周囲マトリックスプロテイングリカンのタンパクコアのうちの少なくとも2つを示し、
v)マーカーSSEA−1又は別の分化マーカーは示さず、
vi)その多分化能を維持しそして免疫不全マウスに投与される際に生体内に奇形腫を形成し、及び/又は
vii)分化可能である請求項1乃至17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ更に分化する能力を有する請求項3−18に記載の方法。
【請求項20】
継代されたhBS細胞が心臓組織に関連する心臓−様細胞へ分化する能力を有し、これはα−ミオシン重鎖、α−アクチン、トロポニンI及びトロポニンIIの少なくとも一つを含む心筋細胞マーカーの発現、或いはGATA4,Mkx2.5,α−MHC,β−MHC又はANFを含む心筋細胞特異遺伝子の少なくとも一つを表示する請求項19に記載の方法。
【請求項21】
心臓−様細胞が、α又はβアゴニスト又はアンタゴニストが培養培地へ投与されるとその個体数を増加させ又は減少させることができる収縮コロニーのその組織によって特徴付けられる心筋−様細胞である請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
多能性ヒトBS細胞株由来の心臓−様細胞の量が培養中の細胞の総量の25%以上、例えば35%以上、又は40%以上、又は45%以上、又は50%以上である請求項19−21の何れか一項に記載の方法。
【請求項23】
更に、
c.胚盤胞由来幹細胞株を3−10日ごとに機械的処理により継代するステップからなる請求項1、2及び4−22の何れか一項に記載の方法。
【請求項24】
請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の薬剤における使用。
【請求項25】
疾病の予防又は治療のため哺乳類中へhBS細胞を移植するための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項26】
心臓に関する疾病の予防又は治療のための薬剤の製造のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法によって得られたhBS細胞の使用。
【請求項27】
心臓に関する疾病の予防又は治療のため哺乳類の心筋又は血液の循環中へヒト胚盤胞由来幹細胞の移植のための薬剤の製造のための請求項25又は26に記載の使用。
【請求項28】
疾病が晩発性心筋梗塞、慢性虚血性心筋症、特発性拡張型心筋症、続発性心筋症(例えば中毒性、糖尿病、妊娠、アミロイドーシス、サルコイドーシス、ファブリー病及び血色素症)、左心機能障害又は心不全を備えた末期肥大性心筋症、拘束型心筋症、末期高血圧性心疾患、急性心筋梗塞、狭心症、劇症心筋炎、AV−ブロックIII,幼児及び成人における先天性心疾患の特異型(例えば圧縮しない左心室、心房及び心室中隔欠損)、ファロー四徴症及びその他の類似症状、弁膜の復元及び心臓弁膜症に続発する心不全からなる群より選択される請求項25−27の何れか一項に記載の使用。
【請求項29】
薬剤が医薬品として許容範囲にある培地中に分散された未分化hBS細胞又は分化hBS細胞からなる請求項25−28の何れか一項に記載の使用。
【請求項30】
培地が水性培地である請求項29に記載の使用。
【請求項31】
更にpH調整剤、安定剤、防腐剤、浸透圧調整剤及び生理学的に許容範囲にある塩よりなる群より選択される一つ以上の添加物からなる請求項29又は30に記載の使用。
【請求項32】
更に治療的に活性な物質、予防的に活性な物質、移植性改良剤、生存率改良剤、分化改良剤及び免疫抑制剤よりなる群から選択される一つ以上の剤からなる請求項25−31の何れか一項に記載の使用。
【請求項33】
哺乳類における心臓に関する疾病を治療する方法であって、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞を有効な量それを必要とする哺乳類に心臓−様細胞中へ移植することからなる心臓に関する疾病を治療する方法。
【請求項34】
区切られた区画中に少なくとも二つの以下の成分、
請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞の移植率及び存続率を改良する剤、請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られ得るhBS細胞、hBS細胞の分化を促進する一つ以上の剤及び一つ以上の医薬品及び/又は免疫抑制剤からなるキット。
【請求項35】
更にhBS細胞の移植率及び生存率を改良する第二の細胞型からなる請求項34記載のキット。
【請求項36】
更に分離していない又は分離している分化したhBS−細胞コロニーからなる請求項34又は35記載のキット。
【請求項37】
モノクローナル抗体の生成のための請求項1−18の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項38】
生体外毒性試験のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項39】
潜在的な製剤原料の生体外スクリーニングのための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【請求項40】
潜在的な製剤原料の検証のための請求項1−22の何れか一項に規定された方法により得られたhBS細胞の使用。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2006−525007(P2006−525007A)
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−505415(P2006−505415)
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005033
【国際公開番号】WO2004/099394
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(503071598)セルアーティス アーベー (10)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/005033
【国際公開番号】WO2004/099394
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(503071598)セルアーティス アーベー (10)
【Fターム(参考)】
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