説明

ヒト脂肪由来細胞の免疫表現型および免疫原性

本発明は、低レベルの免疫原性を示す単離された脂肪組織由来間質細胞を作成するための方法および組成物を包含する。本発明は、レシピエントに、宿主拒絶および/または宿主対移植片病を低減または阻止するのに有効な量の脂肪組織由来間質細胞を投与することによって、移植に伴う免疫応答を低減するための方法および組成物を包含する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
発明の背景
現在発展しつつある再生医療分野は、新規治療法として生体材料、増殖因子、および細胞を組み合わせることにより、損傷した組織および臓器を修復することを目指すものである。この分野の成長に伴って、組織工学の応用に役立つ、信頼できて安全かつ効率的なヒト成体幹細胞の供給源が必要とされている。規制上、これらの細胞は定量化可能な純度基準によって定義されるものでなければならない。臨床レベルで実際に使用するためには、これらの細胞は、治療時の需要に応じて即使用できる「既製」製品として入手可能なものであるべきである。商業上、移植に自己のものではなく同種異系の成体幹細胞を使用できるということは、製品開発に著しくかつ好ましい影響を与える。こうした状況では、一人のドナーに由来する単一ロットの細胞を複数の患者に移植することにより、品質管理と品質保証の両方に掛かる費用を削減することができるかもしれない。
【0002】
幹細胞は成体にも存在する。最もよく特徴付けられている成体幹細胞の例は、骨髄および末梢血から単離された造血前駆細胞である。致死的な放射線を照射したマウスは、処置を行わずにいると、それらの循環血球を補充することができずに死亡したが、同系ドナー動物から得た骨髄細胞の移植によりこの宿主動物は救命された。このドナーの細胞は循環血球の再増殖に関与していた。その後、未分化の造血幹細胞には宿主動物において種々の血球系列を再生させる能力があるということを証明するために諸研究が行われた。これらの研究により、骨髄移植、つまり広く受け入れられている癌および先天性代謝異常の治療法の基盤が提供された。
【0003】
最近までは、骨髄起源の造血幹細胞(HSC)は、多能性分化能および自己再生能を有する唯一認められた「成体(adult)」幹細胞であった。現在は、多数の組織部位における幹細胞の存在を支持する証拠が集まりつつある。これらのものとしては、多能性成体前駆細胞(MAPC)、骨髄から得られる間葉系幹細胞(MSC)、皮膚幹細胞、耳のMSC、中枢神経系から得られる神経幹細胞、肝臓および膵臓の幹細胞、ならびに骨格筋から得られる幹細胞が挙げられる。脂肪由来幹細胞(ASC)は有利な特色を幾つか示す。白色脂肪組織に由来する成体幹細胞は、脂肪細胞、軟骨細胞、内皮細胞、造血支持細胞、肝細胞、神経細胞、筋原細胞、および骨芽細胞系列経路に沿ってin vitroで分化させることができる(Gimbleら、2003 Curr. Top. Dev. Biol. 58:137-60;Halvorsenら、2001 Metabolism 50:407-13;Halvorsenら、2001 Tissue Eng. 7:729-41;Hicokら、2004 Tissue Eng. 10:371-80;Ericksonら、2002 Biochem. Biophys. Res. Commun. 290:763-9;Saffordら、2004 Exp. Neurol. 187:319-28;Saffordら、2002 Biochem. Biophys. Res. Commun. 294:371-9;Zukら、2001 Tissue Eng. 7:211-28;Zukら、2002 Mol. Biol. Cell. 13:4279-95;Mizunoら、2003 J. Nippon Med. Sch. 70:300-6;Seoら、2005 Biochem. Biophys. Res. Commun. 328:258-64)。脂肪組織は入手しやすく、豊富で、しかも補充しうることから、各個体に潜在的な成体幹細胞の貯蔵器(reservoir)が提供される。これらの知見は、独立して研究を行っている多くのグループの業績である。しかし、異なる研究室におけるそれら細胞調製物は同一ではない。そのような独立したグループは、細胞単離手順を、刻んだ脂肪組織をコラゲナーゼ消化とその後の遠心分離ステップに供することから始めていると考えられる。この初期細胞ペレットは「間質血管系画分(stromal vascular fraction)」(SVF)として同定されている。幾つかのグループは、もっぱらこの最小限に処理された細胞集団に注目している。他のグループは複数回の継代を目的としてプラスチック接着性のSVF細胞亜集団を増幅しているが、これらはASCとして同定されている細胞である。
【0004】
哺乳動物の免疫系は、個体を感染病原体から保護したり、腫瘍の成長を阻止したりする上で中心的な役割を担っている。とは言え、同じ免疫系が非血縁ドナーからの細胞、組織および臓器移植組織の拒絶などの望ましくない結果をもたらすこともある。免疫系は移植組織などの有益な侵入者と有害なものとを識別することができず、このため免疫系は移植された組織または臓器を拒絶する。移植臓器の拒絶は一般に、宿主にあってドナーの同種抗原または異種抗原を認識する同種反応性T細胞によって媒介される。
【0005】
遺伝的に異なる個体間での細胞、組織、および臓器の移植には、常に移植片拒絶というリスクが伴う。殆ど全ての細胞は、主要組織適合遺伝子複合体の産物であるMHCクラスI分子を発現する。さらに、多くの細胞型は、炎症性サイトカインに曝露されるとMHCクラスII分子を発現するよう誘導される可能性がある。さらなる免疫原性分子としては、女性レシピエントにより認識されるY染色体抗原などの副組織適合抗原に由来するものが挙げられる。同種移植片の拒絶は、主にCD4とCD8の両サブクラスのT細胞によって媒介される(Rosenbergら、1992 Annu. Rev. Immunol. 10:333)。同種反応性のCD4+T細胞は、抗原刺激後に、同種抗原に対する細胞溶解性CD8応答に悪影響を及ぼすサイトカインを産生する。これらのサブクラス内では、自らが産生したサイトカインによって特徴付けられる抗原刺激後に、競合する細胞亜集団が発生する。IL-2およびIFN-γを産生するTh1細胞は、主に同種移植片拒絶に関与している(Mossmannら、1989 Annu. Rev. Immunol. 7:145)。IL-4およびIL-10を産生するTh2細胞は、IL-10を介してTh1応答をダウンレギュレートすることができる(Fiorentino et., 1989 J. Exp. Med. 170:2081)。実際、望ましくないTh1応答をTh2経路にそらすために多くの努力が払われている。患者における望ましくない同種反応性T細胞応答(同種移植片拒絶、移植片対宿主病)は、典型的には、プレドニゾン、アザチオプリン、およびシクロスポリンAなどの免疫抑制剤で治療する。残念なことに、これらの薬は一般に患者の一生にわたって維持する必要があり、しかもそれらには全身性の免疫抑制を含む数多くの危険な副作用がある。汎免疫抑制よりはるかに良いアプローチは、ドナー細胞同種抗原に対する特異的または局所的な抑制を誘導しつつ、他の免疫系はそのまま残すというものである。
【0006】
同種異系幹細胞の移植を可能にする、同種抗原に対する免疫寛容を誘導するための方法は数多くあると考えられる。残念なことに、齧歯動物モデルにおいてうまく機能したアプローチの多くは、非ヒト霊長類またはヒトに適用しても成功しなかった。同様に、レシピエントと遺伝学的に同一の胚性幹細胞のクローンを作製するための核移植の利用は、ヒトについては最近になってある程度の成果が報告されている(Hwangら、2004, Science 303:1669)ものの、高等種については問題が多い。この技術をどうすれば他のタイプの幹細胞の操作に適用できるか、また処置および増幅(expansion)に要する期間によってそれらの有用性が損なわれるかどうかは不明である。
【0007】
幹細胞は、恐らくはそれらの分化および免疫調節性の性質の未熟状態が原因で、低度の免疫原性を示すことが報告されている。ラット胚性幹細胞様株は低レベルのMHCクラスI抗原を発現するが、MHCクラスII分子およびCD80(B7-l)/86(B7-2)共刺激分子の発現に対しては陰性である(Fandrichら、2002 Nat. Med. 8:171)。これらの細胞は、免疫能が正常に保たれている同種異系レシピエントラットの門脈に注入されたときにその肝臓に生着した。生着は、共刺激分子の欠如と幹細胞株によるFasL発現に起因していた。活性化されたT細胞はFas受容体を発現するため、それらは幹細胞株によるアポトーシスを受けやすくなる。移植された胎児性および胚性幹細胞由来組織はレシピエントの免疫系により拒絶されることが多いため、これらの性質が他の胚性幹細胞株にもあるのかどうかは現時点では不明である(Bradleyら、2002 Nat. Rev. 2:859;Kaufmanら、2000 E-biomed 1:11)。齧歯動物由来の神経幹細胞は、低いかまたは無視できるレベルのMHCクラスIまたはクラスII抗原を発現する(McLarenら、2001 J. Neuroimmunol 112:35)が、これらの細胞は普通、免疫抑制剤を使用しない限り、同種異系レシピエントへの人工移植後に拒絶される(Masonら、1986 Neuroscience 19:685;Sloanら、1991 Trends Neurosci. 14:341;Woodら、1996 Neuroscience 70:775)。拒絶は、MHC分子がIFNファミリーの炎症性サイトカインへの曝露後に細胞膜上にアップレギュレートされると開始される(McLarenら、2001 J. Neuroimmunol 112:35)。
【非特許文献1】Gimbleら、2003 Curr. Top. Dev. Biol. 58:137-60
【非特許文献2】Halvorsenら、2001 Metabolism 50:407-13
【非特許文献3】Halvorsenら、2001 Tissue Eng. 7:729-41
【非特許文献4】Hicokら、2004 Tissue Eng. 10:371-80
【非特許文献5】Ericksonら、2002 Biochem. Biophys. Res. Commun. 290:763-9
【非特許文献6】Saffordら、2004 Exp. Neurol. 187:319-28
【非特許文献7】Saffordら、2002 Biochem. Biophys. Res. Commun. 294:371-9
【非特許文献8】Zukら、2001 Tissue Eng. 7:211-28
【非特許文献9】Zukら、2002 Mol. Biol. Cell. 13:4279-95
【非特許文献10】Mizunoら、2003 J. Nippon Med. Sch. 70:300-6
【非特許文献11】Seoら、2005 Biochem. Biophys. Res. Commun. 328:258-64
【非特許文献12】Rosenbergら、1992 Annu. Rev. Immunol. 10:333
【非特許文献13】Mossmannら、1989 Annu. Rev. Immunol. 7:145
【非特許文献14】Fiorentino et., 1989 J. Exp. Med. 170:2081
【非特許文献15】Fandrichら、2002 Nat. Med. 8:171
【非特許文献16】Bradleyら、2002 Nat. Rev. 2:859
【非特許文献17】Kaufmanら、2000 E-biomed 1:11
【非特許文献18】McLarenら、2001 J. Neuroimmunol 112:35
【非特許文献19】Masonら、1986 Neuroscience 19:685
【非特許文献20】Sloanら、1991 Trends Neurosci. 14:341
【非特許文献21】Woodら、1996 Neuroscience 70:775
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
臓器移植の主な目標は、レシピエントが生じる移植片拒絶免疫応答を誘導することなく、他の外来抗原に対する該レシピエントの免疫能は維持するドナー臓器の永久生着である。通常は、宿主拒絶応答を防ぐために、シクロスポリン、メトトレキサート、ステロイドおよびFK506などの非特異的免疫抑制剤を使用する。これらの薬剤は毎日に投与しなければならず、投与を止めると普通は移植片拒絶が起きる。と言っても、非特異的免疫抑制剤を使用することの主な問題は、それらが免疫応答のあらゆる側面を抑制することによって機能するため、感染症および癌を含む他の疾患に対するレシピエントの感受性が大幅に増大してしまうということである。その上、免疫抑制剤の使用にもかかわらず、移植片拒絶は未だにヒト臓器移植における発病および死亡の主な原因となっている。大抵のヒト移植組織は、移植片が永久に受け入れられることはなく10年以内に機能しなくなる。心臓移植組織のうち5年もつのはわずか50%であり、腎臓移植組織のうち10年もつのは20%である(Opelzら、1981 Lancet 1:1223)。
【0009】
今のところ、移植の成功は、ドナー組織の宿主拒絶を回避するための、免疫エフェクター細胞により媒介される移植組織に対する宿主による望ましくない免疫応答の予防および/または低減に左右されると考えられている。移植片対宿主病として知られる、レシピエント組織に対するドナー組織による望ましくない免疫応答を排除または低減する方法もまた、移植を成功させるには都合がよい。このように、遺伝的に異なる個体間での細胞、組織、および臓器の移植に伴う望ましくない免疫応答を抑制するかまたは他のやり方で予防するための方法が長年必要とされている。本発明はこの必要に応えるものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の概要
本発明は、少なくとも第2継代(the second passage)まで継代されており、さらにヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)からなる群より選択される幹細胞関連特性を発現する、非免疫原性特性(non-immunogenic characteristic)を示す単離された脂肪組織由来成体間質(adipose tissue-derived adult stromal)(ADAS)細胞を含む。
【0011】
本発明のある態様では、ADAS細胞は、少なくとも第16継代まで継代されたものである。
【0012】
別の態様では、外来性遺伝子材料(exogenous genetic material)がADAS細胞に導入されている。
【0013】
さらに別の態様では、ADAS細胞はヒトに由来するものである。
【0014】
別の態様では、ADAS細胞はそのレシピエントにとって同種異系のものである。さらに別の態様では、ADAS細胞はそのレシピエントにとって異種のものである。
【0015】
また本発明は、移植組織のレシピエントにおいて同種抗原に対するエフェクター細胞の免疫応答を低減するために該レシピエントを処置する方法であって、少なくとも第2継代まで継代されており、さらにヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)からなる群より選択される幹細胞関連特性を発現する、非免疫原性特性を示すADAS細胞を、移植組織のレシピエントに、同種抗原に対するエフェクター細胞の免疫応答を低減するのに有効な量で投与し、それによって該移植組織のレシピエントにおいて該同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を低減することを含む上記方法も含む。
【0016】
ある態様では、エフェクター細胞はT細胞である。別の態様では、T細胞はドナーから得たものであり、かつ同種抗原はレシピエントから得たものである。さらに別の態様では、T細胞はレシピエントから得たものであり、かつ同種抗原はドナーから得たものである。
【0017】
別の態様では、T細胞は移植組織(transplant)に存在するものである。
【0018】
さらに別の態様では、エフェクター細胞はADAS細胞をレシピエントに投与する前に活性化されたT細胞であり、さらに免疫応答はドナーから得たT細胞の再活性化である。
【0019】
さらなる態様では、ADAS細胞を移植組織のレシピエントに投与することにより、該レシピエントによる該移植組織の拒絶を処置する。
【0020】
別の態様では、ADAS細胞は哺乳動物に由来するものである。好ましくは、該哺乳動物はヒトである。
【0021】
さらなる態様では、免疫抑制剤をADAS細胞と共にレシピエントに投与する。
【0022】
ある態様では、ADAS細胞を移植組織より前にレシピエントに投与する。別の態様では、ADAS細胞を移植組織と同時にレシピエントに投与する。さらに別の態様では、ADAS細胞を移植組織の一部として投与する。別の態様では、ADAS細胞を移植組織の移植後にレシピエントに投与する。
【0023】
ある態様では、ADAS細胞をレシピエントに静脈内投与する。
【0024】
別の態様では、エフェクター細胞は、ドナー移植組織のレシピエントの細胞である。
【0025】
さらに別の態様では、ADAS細胞は遺伝的に改変されている。
【0026】
また本発明は、同種抗原に対するエフェクター細胞による免疫応答を低減する方法であって、少なくとも第2継代まで継代されており、さらにヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)からなる群より選択される幹細胞関連特性を発現する非免疫原性特性を示すADAS細胞を、エフェクター細胞に、該同種抗原に対する該エフェクター細胞による免疫応答を低減するのに有効な量で接触させることを含む上記方法も含む。好ましくは、エフェクター細胞はT細胞である。
【0027】
また本発明は、ADAS細胞を脂肪組織に由来する細胞の集団から単離する方法であって、ABCG2に特異的な抗体を提供すること;脂肪由来細胞の集団に、抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体の形成に適した条件下で該抗体を接触させること;および該抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を該脂肪由来細胞の集団から実質的に分離すること;それによって該脂肪組織由来間質細胞を単離すること、を含む上記方法も含む。
【0028】
ある態様では、抗体は物理的支持体(physical support)にコンジュゲート化されている。
【0029】
別の態様では、物理的支持体は、マイクロビーズ、磁気ビーズ、パンニング表面、密度遠心分離用の高密度粒子、吸着カラムおよび吸着膜からなる群より選択される。
【0030】
さらに別の態様では、物理的支持体は、ストレプトアビジンビーズおよびビオチンビーズからなる群より選択される。
【0031】
ある態様では、抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を、蛍光活性化セルソーティング(FACS)および磁気活性化(magnetic activated)セルソーティング(MACS)からなる群より選択される方法を用いて、脂肪由来細胞の集団から実質的に分離する。
【0032】
また本発明は、脂肪組織由来間質細胞を脂肪由来細胞の集団から濃縮する方法であって、ABCG2に特異的な抗体を提供すること;脂肪由来細胞の集団に、抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体の形成に適した条件下で該抗体を接触させること;および該抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を該脂肪由来細胞の集団から実質的に分離すること;それによって該脂肪組織由来間質細胞を単離すること、を含む上記方法も含む。
【0033】
また本発明は、ALDH陽性のADAS細胞を脂肪組織に由来する細胞の集団から同定する方法であって、ALDHに特異的な切断可能な基質を該細胞の集団に提供することを含み、ここで該基質はALDH+細胞にそのように存在する場合には切断され、さらに切断された該基質が蛍光を発し、それによってALDH+ADAS細胞を同定する、上記方法も含む。
【0034】
図面の簡単な説明
本発明を例示するために、本発明の幾つかの実施形態を図で表す。とは言え、本発明がこれらの図で表した実施形態の厳密な処理および手段に限定されることはない。
【0035】
(各図面の説明については後述を参照されたい)
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
詳細な説明
本発明は、脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞が新規な免疫表現型特性および免疫学的特性を持つという知見に関する。このADAS細胞の新規特性により、これらの細胞を細胞治療および/または遺伝子治療において単離、培養および使用する方法が提供される。本発明は、ADAS細胞を単離および培養するための組成物および方法、ならびにADAS細胞をレシピエントに移植する(その際、宿主または移植片のいずれか一方による免疫拒絶が起きる可能性が低くなる)ための組成物および方法を含む。
【0037】
本発明は、レシピエント自身の免疫系による移植組織に対する免疫応答を低減および/または排除するという点で、該移植組織、例えば、生体適合性格子(biocompatible lattice)またはドナーの組織、臓器もしくは細胞の移植において有用である。下記にさらに十分に記載するように、ADAS細胞は、移植組織の同種移植片拒絶を阻止および/または予防する役割を果たす。
【0038】
さらに、本明細書中に記載した開示内容は、移植片対宿主病として知られる、レシピエント組織に対するドナー移植組織、例えば、生体適合性格子またはドナーの組織、臓器もしくは細胞による望ましくない免疫応答の阻止および/または予防にADAS細胞が役立つことを証明するものである。
【0039】
従って、本発明は、レシピエントを移植組織の宿主拒絶を低減または阻止するのに有効な量のADAS細胞で処置することにより該レシピエントにおいて該移植組織に対する免疫応答を低減および/または排除するための方法および組成物を包含する。同様に、移植組織ADAS細胞のレシピエントに対するドナー移植組織による有害な応答を阻害または低減するために該ドナー移植組織および/または該レシピエントを処置することにより、該宿主において該宿主に対する外来移植組織による免疫応答、すなわち移植片対宿主病を低減および/または排除するための方法および組成物も包含する。
【0040】
定義
本明細書中で使用する場合、以下の用語はそれぞれ、本節における意味と関連する意味を持つものとする。
【0041】
冠詞「(a)」および「(an)」は、本明細書中では、該冠詞の1つまたは2つ以上(すなわち、少なくとも1つ)の文法上の目的語を指して使用される。一例を挙げると、「ある要素(an element)」は1つの要素または2つ以上の要素を意味する。
【0042】
「約」という用語は、当業者には明らかであろうが、該用語が使用される文脈に合わせてある程度変化する。
【0043】
「脂肪組織由来細胞」という用語は、脂肪組織を起源とする細胞を指す。脂肪組織から単離された初期細胞集団は、間質血管系画分(SVF)細胞を含むがこれに限定されない不均一な細胞集団である。
【0044】
本明細書中で使用する場合、「脂肪由来間質細胞」、「脂肪組織由来間質細胞」、「脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞」または「脂肪由来幹細胞(ASC)」という用語は、互いに互換的に使用しうるものであって、様々な異なる細胞型(例えば、限定するものではないが、脂肪細胞、骨細胞、軟骨細胞、筋および神経/グリア細胞系列)の幹細胞様前駆体として機能しうる脂肪組織を起源とする間質細胞を指す。本開示内容によれば、ADAS細胞は、ABCG2およびALDHの発現(これらに限定されないが)を含む新規な免疫表現型特性を持つ実質的に均一な幹細胞様細胞集団を包含する。さらに、本発明のADAS細胞は、T細胞増殖の誘発に関しては免疫原性を示さない。ADAS細胞は、標準的な培養手順または本明細書中に開示した別の方法を利用して脂肪組織の他の成分から分離しうる、該脂肪組織に由来するサブセット集団を構成する。しかもADAS細胞は、細胞の混合物から、本明細書中に開示した細胞表面マーカーを使用して単離することもできる。
【0045】
本明細書中で使用する場合、「後期継代(late passaged)脂肪組織由来間質細胞」という用語は、早期継代(earlier passaged)細胞に比べて低い免疫原性特性(immunogenic characteristic)を示す細胞を指す。脂肪組織由来間質細胞の免疫原性は継代数に対応している。好ましくは、該細胞は少なくとも第2継代まで継代されたものであり、より好ましくは、該細胞は少なくとも第3継代まで継代されたものであり、最も好ましくは、該細胞は少なくとも第4継代まで継代されたものである。
【0046】
「脂肪」は、あらゆる脂肪組織を指す。脂肪組織は褐色または白色の脂肪組織でありうる。好ましくは、脂肪組織は白色の皮下脂肪組織である。かかる細胞は、初代細胞培養物または不死化細胞株を含みうる。脂肪組織は、脂肪組織を有している生物であればどんな生物から得たものであってもよい。好ましくは脂肪組織は哺乳動物のものであり、最も好ましくは脂肪組織はヒトのものである。都合の良いヒト脂肪組織の供給源は、脂肪吸引手術で生じるものである。と言っても、脂肪組織の供給源または脂肪組織の単離方法は、本発明にとって重要ではない。
【0047】
「同種異系(allogeneic)」は、同種の別の動物に由来する移植片を指す。
【0048】
本明細書中で使用する場合、「同種異系の脂肪由来成体間質細胞」は、レシピエントと同種の別の個体から取得したものである。
【0049】
「同種抗原」は、レシピエントにより発現される抗原とは異なる抗原である。
【0050】
本明細書中で使用する場合、「自己(autologous)」という用語は、同じ個体に由来し、後に該個体に再導入されるあらゆる材料を指すものとする。
【0051】
「異種(xenogeneic)」は、別の種の動物に由来する移植片を指す。
【0052】
本明細書中で使用する場合、「生体適合性格子」という用語は、組織発達の助けとなる3次元構造の形成を促す基質を指すものとする。従って、例えば、細胞をかかる生体適合性格子(例えば、細胞外マトリックス材料、合成ポリマー、サイトカイン、増殖因子などを含むもの)上で培養するかまたは該格子上に蒔くことができる。該格子は、組織型の発達を促すために所望の形状に成形することができる。また、少なくとも細胞培養の早期段階で、その培地および/または基質に、適当な組織型および構造の発達を促す因子(例えば、増殖因子、サイトカイン、細胞外マトリックス材料など)を添加する。
【0053】
「ドナー抗原」は、レシピエントに移植しようとするドナー組織により発現される抗原を指す。
【0054】
「分化培地」は、本明細書中では、完全には分化していない幹細胞、脂肪由来成体間質細胞または他のこうした前駆細胞をその培地でインキュベートすると該細胞が分化細胞の特性の一部または全部を備えた細胞へと発達するような、添加物を含むかまたは添加物のない細胞増殖培地を指して使用される。
【0055】
本明細書中で使用する場合、「エフェクター細胞」は、抗原に対する免疫応答を媒介する細胞を指す。移植組織をレシピエントに導入する状況では、エフェクター細胞は、ドナー移植組織に存在する抗原に対する免疫応答を誘発するレシピエント自身の細胞でありうる。 別の状況では、エフェクター細胞が移植組織の一部である可能性もあり、その場合は、移植組織をレシピエントに導入すると、該移植組織に存在するエフェクター細胞が該移植組織のレシピエントに対する免疫応答を誘発する。
【0056】
「増幅能(expandability)」は、本明細書中で使用する場合、細胞が増殖する能力、例えば、その数を増やす能力、または細胞集団について言えば該集団が倍加する能力を指して使用される。
【0057】
「移植片」は、移植用の細胞、組織、臓器または他のあらゆる生物学的適合格子を指す。
【0058】
「増殖因子」と言えば、ピコグラム/mL〜ミリグラム/mLレベルの濃度の成長ホルモン、エリスロポエチン、トロンボポエチン、インターロイキン3、インターロイキン6、インターロイキン7、マクロファージコロニー刺激因子、c-kitリガンド/幹細胞因子、オステオプロテジェリンリガンド、インスリン、インスリン様増殖因子、上皮増殖因子(EGF)、線維芽細胞増殖因子(FGF)、神経成長因子、毛様体神経栄養因子、血小板由来増殖因子(PDGF)、および骨形成タンパク質を含むがこれらに限定されない具体的な因子を意味する。
【0059】
本明細書中で使用する場合、「増殖培地」という用語は、細胞の増殖を促進する培養培地を指すものとする。増殖培地は一般に動物血清を含有している。時には増殖培地が動物血清を含有していないこともある。
【0060】
細胞の「免疫表現型」は、本明細書中では、細胞の表面タンパク質プロフィールという点から見た細胞の表現型を指して使用される。
【0061】
「単離した(された)細胞」は、本来は組織または哺乳動物中にこの単離された細胞と共存している他の成分および/または細胞から分離された細胞を指す。
【0062】
本明細書中で使用する場合、「多能性の(multipotential)」または「多能性(multipotentiality)」という用語は、中枢神経系の幹細胞が2つ以上の細胞型に分化するその能力を指すものとする。
【0063】
本明細書中で使用する場合、「モジュレート(modulate)」という用語は、生物学的状態におけるあらゆる変化、すなわち、増加、減少などを指すものとする。
【0064】
本明細書中で使用する場合、「非免疫原性(non-immunogenic)」という用語は、ADAS細胞はMLRにおいてT細胞の増殖を誘導しないという知見を指すものとする。とは言え、非免疫原性はMLRにおけるT細胞増殖に限定すべきではなく、in vivoでT細胞増殖を誘導しないADAS細胞にも適用すべきである。
【0065】
「増殖」は、本明細書中では、類似した形態のもの、特に細胞の繁殖または増加を指して使用される。つまり、増殖にはより多くの細胞を産生させることが包含されており、また増殖は、特に、細胞の数を単純に計数すること、3H-チミジンの細胞への取り込みを測定することなどにより判定することができる。
【0066】
「細胞周期の進行または細胞周期を経る進行」は、本明細書中では、細胞が有糸分裂および/または減数分裂に備える過程および/または入る過程を指して使用される。細胞周期を経る進行としては、G1期、S期、G2期、およびM期を経る進行が挙げられる。
【0067】
「前駆細胞(precursor cell)」、「前駆細胞(progenitor cell)」および「幹細胞」という用語は、当分野および本明細書中では互いに置き換えて使用しうるものであって、無限に有糸分裂して自己再生するかまたは所望の細胞型に分化する子孫細胞を産生する潜在能力がある多能性前駆細胞または系列拘束されていない(lineage-uncommitted)前駆細胞を指す。多能性幹細胞と違って、系列拘束された(lineage-committed)前駆細胞は一般に、互いに表現型の異なる多数の細胞型を生じさせることはできないと考えられている。その代わり、前駆細胞は1つ、場合によっては2つの系列拘束細胞型を生じる。
【0068】
本明細書中で使用する「間質細胞培地」という用語は、ADAS細胞を培養するのに有用な培地を指す。間質細胞培地の一例は、DMEM/ハムF12、10%ウシ胎仔血清、100 Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgファンギゾンを含む培地である。典型的には、間質細胞培地は、基本培地、血清および抗生物質/抗真菌薬を含む。とは言え、ADAS細胞は、抗生物質/抗真菌薬を含まず、かつ少なくとも1種の増殖因子を添加した間質細胞培地を用いて培養することができる。好ましくは、該増殖因子はヒト上皮増殖因子(hEGF)である。hEGFの好適な濃度は約1〜50 ng/mLであり、より好ましくは該濃度は約5 ng/mLである。好適な基本培地はDMEM/F12(1:1)である。好適な血清はウシ胎仔血清(FBS)であるが、ウマ血清またはヒト血清を含む他の血清を使用してもよい。好ましくは、20%以下のFBSを上記培地に加えることによって間質細胞の増殖を支持する。とは言え、間質細胞の増殖に必要なFBS中の増殖因子、サイトカイン、およびホルモンが判明していて、それらが適当な濃度で増殖培地に提供されているのであれば、合成培地を使用してもよい。さらに、追加の成分を培養培地に加えてもよいと認識されている。かかる成分としては、限定するものではないが、抗生物質、抗真菌薬、アルブミン、増殖因子、アミノ酸、および細胞培養分野で公知の他の成分が挙げられる。培地に加えうる抗生物質としては、限定するものではないが、ペニシリンおよびストレプトマイシンが挙げられる。培養培地中のペニシリンの濃度は、mL当たり約10〜約200単位である。培養培地中のストレプトマイシンの濃度は、約10〜約200μg/mLである。とは言え、本発明は決して、間質細胞を培養するためのいずれか1種の培地に限定されると解釈されるべきではない。もっと正確に言えば、組織培養時に間質細胞を支持することができる培地であればいずれを使用してもよい。
【0069】
本明細書中で使用する場合、「実質的に精製された(substantially purified)」細胞は、他の細胞型を本質的に含まない細胞である。従って、実質的に精製された細胞は、その自然状態では通常共存している他の細胞型から精製された細胞を指す。
【0070】
「移植組織」は、移植しようとする生体適合性格子またはドナーの組織、臓器もしくは細胞を指す。移植片の一例としては、限定するものではないが、組織、幹細胞、神経幹細胞、皮膚細胞、骨髄、ならびに実質臓器(例えば、心臓、膵臓、腎臓、肺および肝臓)を挙げることができる。
【0071】
本明細書中で使用する場合、「治療上有効な量」は、ADAS細胞を投与する被検体に有益な効果をもたらすのに十分な該細胞の量である。
【0072】
「エフェクター細胞にとっての同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を移植組織レシピエントにおいて低減するために該レシピエントを処置(治療)する」という用語は、この表現を本明細書中で使用する場合、何らかの方法で、例えばADAS細胞をレシピエントに投与することにより、該レシピエントにおける同種抗原に対する内因性免疫応答を、ADAS細胞で処置(治療)してはいないが他の点では同一の動物における内因性免疫応答と比較して減少させることを意味する。内因性免疫応答の減少は、本明細書中に開示した方法または動物の内因性免疫応答を評価するための他のいずれかの方法を利用して評価することができる。
【0073】
本明細書中で使用する場合、「内因性」は、生物、細胞または系から得られるかまたはその内部で産生される全ての材料を指す。
【0074】
「外因性」は、生物、細胞または系から導入されるかまたはその外部で産生される全ての材料を指す。
【0075】
「コード(encoding)」は、規定のヌクレオチド配列(すなわち、rRNA、tRNAおよびmRNA)または規定のアミノ酸配列ならびにそれらの配列に起因する生物学的性質を有する、生物学的過程において他のポリマーおよび巨大分子の合成の鋳型として機能する遺伝子、cDNA、またはmRNAなどのポリヌクレオチド中のヌクレオチドの特定配列の固有の性質を指す。従って、ある遺伝子に対応するmRNAの転写および翻訳により細胞または他の生命システム内でタンパク質が産生されるのであれば、該遺伝子は該タンパク質をコードしている。遺伝子またはcDNAの転写の鋳型として使用されるコード鎖(そのヌクレオチド配列はmRNA配列と同一であり、普通は配列表に記載されている)と非コード鎖は共に、タンパク質または該遺伝子もしくは該cDNAの他の産物をコードしていると言うことができる。
【0076】
特に指定しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、互いの縮重型であって同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質およびRNAをコードするヌクレオチド配列はイントロンを含んでいる場合がある。
【0077】
「単離された核酸」は、自然状態では隣接している配列から分離された核酸の部分または断片、すなわちDNA断片であって、本来ならば該断片の近傍にある配列(すなわち、天然に存在するゲノム内では該断片の近傍にある配列)から引き離されているものを指す。また、該用語は、本来は共存している他の成分、すなわち、細胞内で共存しているRNAまたはDNAまたはタンパク質から実質的に精製された核酸にも当てはまる。従って該用語には、例えば、ベクター、自律複製プラスミドもしくはウイルス、または原核生物もしくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれる組換えDNA、あるいは他の配列とは無関係な別個の分子として(すなわち、PCRまたは制限酵素消化によって生じたcDNAまたはゲノムもしくはcDNA 断片として)存在する組換えDNAが含まれる。追加のポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部である組換えDNAもまた含まれる。
【0078】
本発明の文脈上、普通に存在する核酸塩基については次の略語を使用する。「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンを指し、さらに「U」はウリジンを指す。
【0079】
本明細書中で使用する「転写制御下」または「機能しうる形で連結」という表現は、ポリヌクレオチドのRNAポリメラーゼ開始および発現を制御するためのプロモーターが該ポリヌクレオチドに関して正しい位置および向きにあることを意味する。
【0080】
本明細書中で使用する場合、「プロモーター/調節配列」という用語は、プロモーター/調節配列に機能しうる形で連結された遺伝子産物の発現に必要な核酸配列を意味する。 時には、この配列がコアプロモーター配列である場合があり、また他の例では、この配列がさらにエンハンサー配列および遺伝子産物の発現に必要な他の調節エレメントを含んでいる場合もある。プロモーター/調節配列は、例えば、組織特異的な様式で遺伝子産物を発現するものであってもよい。
【0081】
「構成的」プロモーターは、ある遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドに機能しうる形で連結されると、細胞の大抵のまたは全ての生理条件下で該細胞内に該遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0082】
「誘導性」プロモーターは、ある遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドに機能しうる形で連結されると、実質的には該プロモーターに対応する誘導物質が細胞内に存在する場合にのみ該細胞内に該遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0083】
「組織特異的」プロモーターは、ある遺伝子産物をコードまたは指定するポリヌクレオチドに機能しうる形で連結されると、実質的には細胞が該プロモーターに対応する組織型の細胞である場合にのみ該細胞内に該遺伝子産物を産生させるヌクレオチド配列である。
【0084】
「ベクター」は、単離された核酸を含み、この単離された核酸を細胞内部に送達するために使用しうる組成物である。直鎖状ポリヌクレオチド、イオン化合物または両親媒性化合物と結合させたポリヌクレオチド、プラスミド、およびウイルスを含むがこれらに限定されない多数のベクターが当分野で知られている。従って、「ベクター」という用語には自律複製プラスミドまたはウイルスが含まれる。また該用語は、例えば、ポリリシン化合物、リポソームなどといった核酸の細胞内への移入を容易にする非プラスミドおよび非ウイルス化合物も含むと解釈されるべきである。ウイルスベクターの具体例としては、限定するものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。
【0085】
「発現ベクター」は、発現させようとするヌクレオチド配列に機能しうる形で連結された発現制御配列を含む組換えポリヌクレオチドを含むベクターを指す。発現ベクターは発現のための十分なシス作用エレメントを含んでおり、発現のための他のエレメントは、宿主細胞により、またはin vitro発現系で補うことができる。発現ベクターとしては、組換えポリヌクレオチドを組み込むコスミド、プラスミド(すなわち、裸のプラスミドまたはリポソームに含有されているプラスミド)およびウイルスなどの当分野で公知の全てのものが挙げられる。
【0086】
説明
本発明は、脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞に別の個体から取得したT細胞(同種異系T細胞)を接触させた場合、該同種異系T細胞は増殖しないという知見に関する。従来技術における定説では、T細胞を他のどんな細胞型と混合してもその後にT細胞増殖が起こると言われている。混合リンパ球反応(MLR)は、免疫原性(すなわち、MLRによって測定される、細胞がT細胞の増殖を誘導するその能力)を調べるために利用される標準的なアッセイである。本明細書中に開示したデータは、ある個体に由来するT細胞は別の個体から取得したADAS細胞には応答しないことを証明するものである。従って、本明細書中に記載した開示内容によると、ADAS細胞は、T細胞応答の顕在化という点ではその免疫系に対して免疫原性を示さない。
【0087】
本発明のある実施形態では、ADAS細胞の免疫表現型および免疫原性は継代数に対応している。本明細書中に記載した開示内容によると、後期継代細胞は早期継代細胞に比べて免疫原性が低い。好ましくは、該細胞は、少なくとも2回の継代にわたって継代されたものである。好ましくは、該細胞は、少なくとも3回の継代にわたって継代されたものである。より好ましくは、該細胞は、少なくとも4回の継代にわたって継代されたものである。
【0088】
本発明の別の実施形態では、前記細胞を単離後に培養し、さらに適当であれば、治療に使用する前にそれらの免疫原性および免疫表現型について解析することができる。好ましくは、該細胞を、本明細書中に開示した標準的な細胞培養培地を使用して分化させずに培養する。好ましくは、細胞を少なくとも5回の継代まで継代することが可能であり、より好ましくは細胞を少なくとも10回まで、またはそれ以上継代することが可能である。例えば、細胞を、少なくとも15回の継代、好ましくは少なくとも16回の継代、より好ましくは少なくとも17回の継代、さらにより好ましくは少なくとも18回の継代、好ましくは少なくとも19回の継代または少なくとも20回の継代まで、それらの多能性を損なうことなく継代することができる。本明細書中に提示した開示内容を踏まえれば、該細胞は免疫原性を示さず、またそれ故に哺乳動物への移植に有利であることが当業者には理解されよう。
【0089】
本明細書中に記載した開示内容を踏まえれば、別個体のTリンパ球に対する本発明のADAS細胞の非免疫原性表現型に加えて、ADAS細胞が同種異系細胞間、例えば、ある個体から得たT細胞と別の個体から得た末梢血単核細胞(PBMC)との間のMLRを抑制しうることが当業者には理解されよう。ある態様では、ADAS細胞により、それぞれ別の個体から取得したT細胞とPBMCとの間のMLRにおける同種異系T細胞応答を積極的に低減することができる。
【0090】
さらに、本明細書中の他の箇所でより詳しく述べるように、ADAS細胞の免疫表現型は、細胞の培養に利用される方法にも関係がある。例えば、ADAS細胞の免疫表現型は、限定するものではないが、それらの単離の段階、それらの継代数、該細胞が接着性の集団として培養されたかどうか、および培養期間の長さの関数として定義される。本開示内容によると、ADAS細胞は、細胞および/または遺伝子治療にうまく使用することができる。つまり、本発明の細胞は、該細胞を個体に移植した時にその宿主または移植片のいずれか一方による免疫拒絶が起きる可能性が低い。さらに、ADAS細胞は、移植組織の宿主拒絶を阻止するための治療用物質として、また移植後の移植片対宿主病を予防または他のやり方で阻止するための治療用物質として使用することもできる。従って、本発明は実験/治療に役立つADAS細胞を作成するための組成物および方法を含む。
【0091】
I. ADASの単離および培養
本発明の方法において有用なADAS細胞は、当業者に公知の様々な方法により単離することができる。例えば、かかる方法は米国特許第6,153,432号(この文献はその全内容が本明細書中に含まれるものとする)に記載されている。好適な方法では、ADAS細胞を哺乳動物被検体、好ましくはヒト被検体から単離する。
【0092】
脂肪由来細胞の免疫表現型は、培養手順(すなわち、継代数)に応じて次第に変化する。ヒト脂肪由来細胞のプラスチックへの接着とその後の増幅により、粗間質血管系画分の不均一性と比べて比較的均一な細胞集団を選択し、「間質」免疫表現型を発現する細胞を濃縮する。またADAS細胞は、ヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を含むがこれらに限定されない幹細胞関連マーカーも発現する。
【0093】
本開示内容によると、脂肪由来細胞のこの免疫表現型を活用してADAS細胞特有の識別子とすることができる。つまり、本発明の細胞上にあるこの特有の細胞表面マーカーを利用して、脂肪組織に由来する細胞の混合集団から特定の細胞亜集団を単離することができる。当業者であれば、該細胞表面マーカーに特異的な抗体を物理的支持体(すなわち、ストレプトアビジンビーズ)にコンジュゲート化することが可能であり、またそれ故に、細胞表面特異的脂肪由来細胞を単離する機会を提供しうることが理解されよう。単離した細胞はその後、本明細書中に開示した方法または従来の方法を利用してin vitroで培養および増幅する(expand)ことができる。
【0094】
本発明のさらなる実施形態は、脂肪組織に由来する細胞の亜集団を枯渇させるかまたは分離する方法を包含する。本発明は、脂肪組織に由来する細胞の免疫表現型は継代数の関数であるという知見に関する。従って、ADAS細胞などの特定の細胞集団を、こうした脂肪組織に由来する細胞の混合集団から、ADAS細胞に特異的に結合する抗体を該細胞の混合集団内でインキュベーションし、その後磁気分離を含むがこれらに限定されない分離ステップを行うことにより枯渇させることができる。ADAS細胞に特異的に結合する抗体の一例としては、限定するものではないが、抗ABCG2抗体が挙げられる。磁気分離プロセスは、Dynabeads(登録商標)(Dynal Biotech, Brown Deer, WI)を含むがこれらに限定されない磁気ビーズを使用して達成する。Dynabeads(登録商標)の使用に加えて、MACS分離試薬(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を使用することによってもADAS細胞を細胞の混合集団から枯渇させることができる。この分離ステップの結果として、濃縮されたADAS細胞の集団を取得することができる。好ましくは、このADAS細胞の集団は精製された細胞集団である。
【0095】
本発明の細胞の免疫表現型により、フローサイトメトリーに基づくセルソーターを利用して特定の脂肪由来細胞を選別する方法が提供される。好ましくは、ADAS細胞は、本明細書中に開示した方法を利用して単離する。単離したADAS細胞をその後in vitroで培養することにより、実験または治療に役立つ望ましい数の細胞を作成することができる。
【0096】
細胞培養時に線維芽細胞を支持しうる培地であれば、いずれを使用してADASを培養してもよい。線維芽細胞の増殖を支持する培地製剤としては、限定するものではないが、イーグル最小必須培地、ADC-1、LPM(ウシ血清アルブミン不含)、F10(ハム)、F12(ハム)、DCCM1、DCCM2、RPMI 1640、BGJ培地(フィットン-ジャクソンにより改変されたものと改変されていないもの)、イーグル基礎培地(アール塩ベース(Earle's salt base)を加えたBME)、ダルベッコ改変イーグル培地(血清を含まないDMEM)、ヤマネ(Yamane)、IMEM-20、グラスゴー変法イーグル培地(GMEM)、リーホビッツL-15培地、マッコイ5A培地、M199培地(アール塩ベースを含むM199E)、M199培地(ハンクス塩ベース(Hank's salt base)を含むM199H)、イーグル最小必須培地(アール塩ベースを含むMEM-E)、イーグル最小必須培地(ハンクス塩ベースを含むMEM-H)およびイーグル最小必須培地(非必須アミノ酸を含むMEM-NAA)などが挙げられる。ADASを培養するための好適な培地はDMEMであり、より好ましくはDMEM/F12(1:1)である。
【0097】
本発明の方法において有用な培地のさらなる非限定的な例は、ウシまたは他種の胎仔血清を少なくとも1%〜約30%、好ましくは少なくとも約5%〜15%、最も好ましくは約10%の濃度で含有しうる。ニワトリまたは他種の胚抽出物は、約1%〜30%、好ましくは少なくとも約5%〜15%、最も好ましくは約10%の濃度で存在しうる。
【0098】
単離後、ADAS細胞を培養装置内の間質細胞培地で一定期間、または該細胞がコンフルエントになるまでインキュベートしてから、該細胞を別の培養装置に移す。最初の平板培養(initial plating)後、細胞を培養下で約6日間維持することにより、継代0(Passage 0)(P0)集団を得ることができる。該細胞は無限に継代することが可能であり、各継代は細胞を約6〜7日間培養することを含み、その間の細胞倍加時間は3〜5日となる。培養装置は、細胞をin vitroで培養する際によく用いられる培養装置であればどんな培養装置でもありうる。好適な培養装置は培養フラスコであり、より好適な培養装置はT-225培養フラスコである。
【0099】
ADAS細胞は、一定期間または該細胞があるレベルのコンフルエンスに達するまで、抗生物質/抗真菌薬の非存在下、hEGFを添加した間質細胞培地で培養することができる。コンフルエンスのレベルは70%を超えていることが好ましい。コンフルエンスのレベルは90%を超えていることがより好ましい。一定期間は、in vitroでの細胞の培養に適した期間であればどんな長さの期間でもありうる。間質細胞培地は、ADAS細胞培養中のどの時点で交換してもよい。好ましくは、間質細胞培地は3〜4日毎に交換する。その後、ADAS細胞を培養装置から採取するが、該ADAS細胞はすぐに使用するか、または後で使用するために低温保存して貯蔵することができる。ADAS細胞は、トリプシン処理、EDTA処理、または培養装置から細胞を回収するために用いられる他の手法により回収してもよい。
【0100】
本明細書中に記載したADAS細胞は、常法に従って低温保存してもよい。好ましくは、約100万〜1000万個の細胞を、液体N2の気相中、10%DMSOを含有する間質細胞培地中で低温保存する。凍結細胞は、37℃の浴槽内で旋回させる(swirling)ことにより解凍し、新鮮な増殖培地に再懸濁し、その後通常通りに増殖させることができる。
【0101】
また本発明は、ADAS細胞の免疫表現型は継代数の関数であるという知見にも関する。ADAS細胞の免疫表現型および免疫原性の性質は、培養手順(すなわち、接着性、継代数、培養期間の長さ)の関数として定義される。本開示内容により、新たに単離した間質血管系画分(SVF)細胞および早期継代ADAS細胞はPBMCを刺激するが、後期継代ADAS細胞は免疫原性を示さないということが示された。
【0102】
脂肪組織に由来するヒトSVF細胞および早期継代接着細胞は、同種異系PMBCの用量依存的MLR応答と同程度の応答を誘発することが観察された。継代の進行に伴い、ADAS細胞は、継代1(P1)では、自己PBMCで観察されるMLR応答と同程度のレベルまで下がった低いMLR応答を誘発した。該細胞は無限に継代することができる。事実、後期継代ADAS細胞は免疫原性を示さない。例えば、該細胞を少なくともP2まで継代する;より好ましくは、該細胞を少なくともP3まで継代する;さらに好ましくは、該細胞を少なくともP4まで継代する。後期継代ADAS細胞に見られる免疫原性特性の欠如は、細胞/遺伝子治療のためにADAS細胞を哺乳動物へ投与する際に、宿主または移植片のいずれか一方による免疫拒絶が起きる可能性が低いことを示唆するものである。
【0103】
また、本開示内容によると、後期継代細胞は、既知の刺激細胞に対するPBMCの増殖反応を阻害する免疫抑制因子を発現している可能性があるとも考えられる。従って、本発明の細胞を使用することにより、それらを導入した哺乳動物において免疫抑制効果を誘導することができる。例えば、刺激細胞としての同種異系PBMCの存在下でMLRに加えると、後期継代細胞はその増殖反応を抑制することができる。
【0104】
本発明に包含されるように、ADAS細胞は、典型的には、ヒトから得た脂肪吸引材料から単離する。本発明の細胞をヒト被検体に移植する場合、ADAS細胞を同じ被検体から単離して自己移植組織を提供することが望ましい。とは言え、同種異系移植組織もまた本発明が意図するものである。
【0105】
従って、本発明の別の態様では、投与するADAS細胞はレシピエントに対して同種異系のものであってもよい。同種異系ADAS細胞は、レシピエントと同じ種の別の個体であるドナーから単離することができる。単離後、該細胞を本明細書中に開示した方法を利用して培養することで、同種異系産物を産生させる。また本発明は、レシピエントに対して異種のADAS細胞も包含する。
【0106】
II. 移植組織の宿主拒絶を阻止するための治療
本発明は、移植組織の宿主拒絶を阻止するための治療としてのADAS細胞を使用する方法を含む。本発明は、ADAS細胞は同種異系のT細胞の増殖を刺激しないという知見に基づいている。従って、本発明は、外来性の臓器、組織または細胞の移植組織に応答したT細胞増殖を抑制するためにADAS細胞を使用することを包含する。また本発明は、ADAS細胞をT細胞増殖に関する免疫応答を低減するのに有効な量で哺乳動物に投与する方法も含む。
【0107】
本明細書中に記載した開示内容を踏まえれば、ADAS細胞を活用することで、哺乳動物に移植されかつ別の個体から取得したあらゆるタイプの臓器、組織または細胞に応答したT細胞増殖の抑制も達成しうることが当業者には理解されよう。例えば、神経幹細胞(NSC)、肝細胞、心臓細胞、軟骨細胞、腎細胞、脂肪細胞などを含むがこれらに限定されない細胞に応答したT細胞増殖は、ADAS細胞を使用して抑制することができる。
【0108】
本発明は、移植組織のレシピエントに、該移植組織の宿主拒絶を低減または阻止するのに有効な量のADAS細胞を投与することにより、該レシピエントにおいて該移植組織に対する免疫応答を低減および/または排除する方法を包含する。特定の理論に縛られるつもりはないが、移植組織のレシピエントに投与されたADAS細胞は、該レシピエントのT細胞の活性化および増殖を阻害する。
【0109】
移植組織としては、移植しようとする生体適合性格子またはドナーの組織、臓器もしくは細胞が挙げられる。移植組織の具体例としては、限定するものではないが、幹細胞、皮膚細胞または組織、骨髄、ならびに実質臓器(例えば、心臓、膵臓、腎臓、肺および肝臓)を挙げることができる。好ましくは、移植組織はヒトNSCである。
【0110】
本明細書中に記載した開示内容によると、ADAS細胞は、あらゆる供給源から、例えば、組織ドナー、移植組織レシピエントまたは他の無関係な供給源(要するに、別の個体もしくは種)から取得することができる。ADAS細胞はT細胞に対して自己のもの(同じ宿主から取得したもの)であっても、またはT細胞に対して同種異系のものであってもよい。ADAS細胞が同種異系のものである場合、該ADAS細胞はT細胞が応答する移植組織に対しては自己ものであってもよいし、または該ADAS細胞はT細胞の供給源と該T細胞が応答する移植組織の供給源の両方に対して同種異系の個体から取得したものであってもよい。さらに、ADAS細胞は、T細胞にとって異種のもの(別の種の動物から取得したもの)であってもよく、例えば、ラットADAS細胞を使用してヒトT細胞の活性化および増殖を抑制してもよい。
【0111】
さらなる実施形態では、本発明で使用するADAS細胞は、ヒト、マウス、ラット、類人猿、テナガザル、ウシを含むがこれらに限定されない、あらゆる種の哺乳動物の脂肪組織から単離することができる。好ましくは、ADAS細胞をヒト、マウス、またはラットから単離する。より好ましくは、ADAS細胞をヒトから単離する。
【0112】
本発明の別の実施形態は、ADAS細胞を移植組織のレシピエントに投与するその経路を包含する。ADAS細胞は、移植組織、すなわち、移植しようとする生体適合性格子またはドナーの組織、臓器もしくは細胞の埋植に適した経路で投与することができる。ADAS細胞は、静脈内注射により全身的に、すなわち非経口的に投与することができるし、または特定の組織もしくは臓器をその標的とすることができる。ADAS細胞は、皮下人工移植で、または該細胞の結合組織(例えば、筋肉)への注射により、投与することができる。
【0113】
ADAS細胞は、適当な希釈剤に約0.01〜約5×106細胞/mLの濃度で懸濁することができる。注射液として適切な賦形剤は、ADAS細胞およびレシピエントと生物学的および生理学的に適合するもの、例えば、緩衝生理食塩溶液または他の適切な賦形剤である。投与用組成物は、適当な無菌性および安定性を満たす標準的な方法に従って製剤、製造および貯蔵することができる。
【0114】
ADAS細胞の投与量は広い範囲内で変動するが、各具体的な症例における個々の必要量に応じて調整してもよい。使用する細胞の数は、レシピエントの体重および健康状態、投与の数および/または頻度、ならびに当業者に公知の他の変数によって決まる。
【0115】
体重100 kg当たり約105〜約1013個のADAS細胞を個体に投与することができる。幾つかの実施形態では、体重100 kg当たり約1.5×106〜約1.5×1012細胞を投与する。幾つかの実施形態では、体重100 kg当たり約1×109〜約5×1011細胞を投与する。他の実施形態では、体重100 kg当たり約4×109〜約2×1011細胞を投与する。さらに他の実施形態では、体重100 kg当たり約5×108個の細胞〜約1×1010細胞を投与する。
【0116】
本発明の別の実施形態では、ADAS細胞を移植組織より前に、または移植組織と同時にレシピエントに投与することで、該移植組織の宿主拒絶を低減および/または排除する。特定の理論に縛られるつもりはないが、ADAS細胞を移植組織の移植より前に、または移植と同時に、レシピエントのT細胞による該移植組織に対する免疫応答を低減、阻害または排除するのに有効な量で該レシピエントに投与することによって該移植組織に対して該レシピエントの免疫系を条件付けるために、ADAS細胞を使用することができる。ADAS細胞は、移植組織と共に提示されるとT細胞応答を低減、阻害または排除するような形でレシピエントのT細胞に影響を与える。従って、ADAS細胞を移植より前に、または移植と同時にレシピエントに投与することで、移植組織の宿主拒絶を回避するか、またはその重症度を低減することができる。
【0117】
さらに別の実施形態では、ADAS細胞を、移植組織の投与後に該移植組織のレシピエントに投与することができる。さらに、本発明は、ADAS細胞を、移植組織の宿主拒絶としても知られる移植組織に対する免疫応答を低減、阻害または排除するのに有効な量で患者に投与することにより、該移植組織に対して有害な免疫応答を起こしている患者を治療する方法を含む。
【0118】
III. 移植後の移植片対宿主病を阻止するための治療
本発明は、移植後の移植片対宿主病を阻止するための治療としてのADAS細胞を使用する方法を含む。本発明は、ADAS細胞は同種異系のT細胞の増殖を刺激しないという知見に基づいている。ADAS細胞はMLR反応においてT細胞増殖を抑制することができると考えられる。また本発明は、ADAS細胞を、T細胞増殖に関する免疫応答を低減するのに有効な量で哺乳動物に投与する方法も含む。
【0119】
また本発明は、ドナー移植組織によるそのレシピエントに対する免疫応答(すなわち、移植片対宿主反応)を低減および/または排除する方法も提供する。従って、本発明は、ドナー移植組織、例えば、生体適合性格子またはドナーの組織、臓器もしくは細胞、好ましくは神経幹細胞に、該移植組織をレシピエントに移植する前にADAS細胞を接触させる方法を包含する。ADAS細胞は、ドナー移植組織によるそのレシピエントに対する有害な応答を改善、阻害または低減する役割を果たす。
【0120】
本明細書中の他の箇所で述べたように、ADAS細胞は、移植組織のレシピエントに対する該移植組織による望ましくない免疫応答を排除または低減する際に使用するために、あらゆる供給源から、例えば、組織ドナー、移植組織レシピエントまたは他の無関係な供給源(要するに、別の個体もしくは種)から取得することができる。従って、ADAS細胞は、組織ドナー、移植組織レシピエントまたは他の無関係な供給源にとって自己、同種異系または異種のものでありうる。
【0121】
本発明のある実施形態では、移植組織を、該移植組織をレシピエントに移植する前にADAS細胞に曝露する。この状況では、同種反応性レシピエント細胞によって引き起こされる移植組織に対する免疫応答は、該移植組織に存在するADAS細胞によって抑制される。ADAS細胞はレシピエントに対して同種異系のものであり、またドナー、またはドナーもしくはレシピエント以外の供給源に由来するものであってもよい。場合によっては、レシピエントにとって自己のADAS細胞を使用することで移植組織に対する免疫応答を抑制してもよい。別の場合には、ADAS細胞はレシピエントに対して異種のものであってもよく、例えば、マウスまたはラットのADAS細胞を使用することでヒトにおける免疫応答を抑制することができる。とは言え、本発明ではヒトのADAS細胞を使用することが好ましい。
【0122】
移植組織をレシピエントに移植する前に該移植組織をADAS細胞で処置するだけでなく、ドナー移植組織をその移植前にレシピエントから得た細胞または組織で「前条件付け(preconditioned)」または「前処置(pretreated)」することによっても、該移植組織と関係している可能性があるT細胞を活性化することができる。レシピエントから得た細胞または組織による移植組織の処置後は、該細胞または組織を該移植組織から取り除いてもよい。処置した移植組織をその後さらにADAS細胞と接触させることで、レシピエントから得た細胞または組織の処理により活性化されていたT細胞の活性を低減、阻害または排除する。このADAS細胞による移植組織の処置後は、レシピエントに移植する前に該ADAS細胞を該移植組織から取り除いてもよい。とは言え、一部のADAS細胞は移植組織に接着している可能性があり、またそれ故に、該移植組織と共にレシピエントに導入される可能性がある。この状況では、レシピエントに導入されたADAS細胞は、移植組織と関係があるあらゆる細胞によって引き起こされる該レシピエントに対する免疫応答を抑制することができる。特定の理論に縛られるつもりはないが、移植組織をレシピエントに移植する前の該移植組織のADAS細胞による処置は、活性化T細胞の活性を低減、阻害または排除する役割を果たし、それによって、レシピエントから得た組織および/もしくは細胞からのその後の抗原刺激に対するT細胞の再刺激を防ぐかまたは低応答性を誘導する。本開示内容を踏まえれば、移植前の移植組織の前条件付けまたは前処置により移植片対宿主応答を低減または排除しうることが当業者には理解されよう。
【0123】
例えば、骨髄または末梢血幹細胞(造血幹細胞)移植との関連では、移植片による宿主の攻撃は、本明細書中に開示した前処置方法を利用してドナー骨髄を前条件付けし、レシピエントに対する該移植片の免疫原性を低減することで、低減、阻害または排除することができる。本明細書中の他の箇所に記載したように、ドナー骨髄は、該ドナー骨髄をレシピエントに移植する前に、in vitroであらゆる供給源から得られるADAS細胞を用いて、好ましくはレシピエントのADAS細胞を用いて前処置することができる。好適な実施形態では、ドナー骨髄をまずレシピエントの組織または細胞に曝露し、その後ADAS細胞で処置する。特定の理論に縛られるつもりはないが、このドナー骨髄とレシピエントの組織または細胞との最初の接触が、該ドナー骨髄のT細胞を活性化する働きをすると考えられる。ADAS細胞によるドナー骨髄の処置は、その後の抗原刺激に対するT細胞の低応答性を誘導するかまたは再刺激を予防し、それによって、レシピエントに対して該ドナー骨髄により誘導される悪影響を低減、阻害または排除する。
【0124】
本発明のある実施形態では、移植片対宿主病に苦しむ移植組織のレシピエントを、ADAS細胞を該レシピエントに投与して治療することにより、該移植片対宿主病の重症度を低減、阻害または排除してもよい(この際、ADAS細胞は、移植片対宿主病を低減または排除するのに有効な量で投与される)。
【0125】
本発明のこの実施形態では、好ましくは、レシピエントのADAS細胞を移植前に該レシピエントから取得してもよく、また該ADAS細胞を貯蔵する、および/または培養下で増幅することにより、進行中の移植片対宿主反応を治療するのに十分な量のADAS細胞の予備を提供してもよい。とは言え、本明細書中の他の箇所で述べたように、ADAS細胞は、あらゆる供給源から、例えば、組織ドナー、移植組織レシピエントまたは他の無関係な供給源(要するに、別の個体もしくは種)から取得することができる。
【0126】
IV. ADAS細胞を使用することの利点
本明細書中に記載した開示内容によると、本発明のADAS細胞は、ドナー組織に対する宿主拒絶または移植片対宿主病の治療のために、現行の様式、例えば免疫抑制剤療法の利用と併せて使用することができると考えられる。移植時に ADAS細胞を免疫抑制剤と併用することの利点は、本発明の方法を利用して移植組織レシピエントにおける免疫応答の重症度を改善すれば、使用する免疫抑制剤療法の量および/または免疫抑制剤療法の投与頻度を減らすことができるということである。免疫抑制剤療法の使用を減らすことの利益は、免疫抑制剤療法に伴う全身性の免疫抑制および望ましくない副作用の緩和である。ある実施形態では、本発明の細胞を、免疫抑制剤療法を必要とせずに使用する。
【0127】
また、本発明の細胞は、ドナー組織の宿主拒絶または移植片対宿主病を治療するための「1回限りの(one-time)」治療としてレシピエントに投与しうるものとも考えられる。ADAS細胞を移植組織のレシピエントに1回だけ投与すれば、長期免疫抑制剤療法が不要になる。とは言え、必要であれば、ADAS細胞の反復投与を行ってもよい。
【0128】
また、本明細書中に記載した本発明は、移植組織の宿主拒絶および/または移植片対宿主病を予防、治療または改善するためにADAS細胞を予防上または治療上有効な量で投与することにより、移植組織拒絶および/または移植片対宿主病を予防または治療する方法も包含する。本開示内容によると、ADAS細胞の「治療上有効な量」は、ADAS細胞を投与しなかった場合の活性化T細胞の数と比較して、活性化T細胞の数を抑えるかまたは減らす細胞の量である。移植組織の宿主拒絶という状況では、ADAS細胞の有効な量は、ADAS細胞を投与する前の該移植組織のレシピエントにおける活性化T細胞の数と比較して、該レシピエントにおける活性化T細胞の数を抑えるかまたは減らす量である。移植片対宿主病の場合、ADAS細胞の有効な量は、移植組織に存在する活性化T細胞の数を抑えるかまたは減らす量である。
【0129】
ADAS細胞の有効な量は、レシピエントまたは移植組織にADAS細胞を投与する前の該レシピエントまたは移植組織における活性化T細胞の数を、レシピエントまたは移植組織にADAS細胞を投与した後の該レシピエントまたは移植組織に存在する活性化T細胞の数と比較することによって決定できる。移植組織のレシピエントまたは移植組織それ自体へのADAS細胞の投与に伴う該移植組織のレシピエントまたは移植組織それ自体における活性化T細胞の数の減少、または増加の欠如は、投与したADAS細胞の数がADAS細胞の治療上有効な量であることを示している。
【0130】
遺伝的改変(genetic modification)
本発明の細胞は、治療目的で、またはレシピエントにおけるそれらの同化および/または分化を追跡する方法において、外来タンパク質または分子を発現させるために使用することもできる。従って、本発明は、外来性DNAをADAS細胞に導入して該外来性DNAを該ADAS細胞で発現させるための発現ベクターおよび方法を包含する。細胞にDNAを導入してこれを発現させるための方法は当業者に周知であり、例えば、Sambrookら(2001, Molecular Cloning:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, New York)、およびAusubelら(1997, Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons, New York)に記載されているものが挙げられる。
【0131】
単離された核酸は、レシピエントに導入した後のADAS細胞の移動、同化および生存を追跡するために使用される分子をコードしている可能性がある。細胞を追跡するのに有用なタンパク質としては、限定するものではないが、緑色蛍光タンパク質(GFP)、他の蛍光タンパク質(例えば、高感度緑色、シアン、黄色、青色および赤色蛍光タンパク質;Clontech, Palo Alto, CA)のいずれか、または他のタグタンパク質(例えば、LacZ、FLAG-tag、Myc、His6など)が挙げられる。
【0132】
本発明のADAS細胞の移動、同化および/または分化の追跡は、ベクターまたはウイルスにより発現される検出可能な分子の使用に限定されない。細胞の移動、同化、および/または分化は、哺乳動物体内の移植ADAS細胞の位置測定を容易にする一連のプローブを使用して評価することもできる。さらに、ADAS細胞移植組織の追跡は、ABCG2、ALDHなどが挙げられるがこれらに限定されない、本明細書中の他の箇所に詳述した細胞特異的マーカーの抗体または核酸プローブを使用して行ってもよい。
【0133】
本明細書中で使用する「遺伝的改変」という用語は、外来性DNAの意図的な導入によるADAS細胞の遺伝子型の安定した、または一過性の変更を指す。DNAは合成のものであっても天然由来のものであってもよく、また遺伝子、遺伝子の一部、または他の有用なDNA配列を含有していてもよい。本明細書中で使用する「遺伝的改変」という用語は、自然なウイルス活性、自然な遺伝的組換えなどを通じて生じる変更といった自然発生的な変更を含むものではない。
【0134】
外来性DNAは、ウイルスベクター(レトロウイルス、改変ヘルペスウイルス、ヘルペスウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルスなど)を使用して、または直接DNAトランスフェクション(リポフェクション、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン、電気穿孔など)によりADAS細胞に導入してもよい。
【0135】
細胞の遺伝的改変の目的が生物活性物質の産生である場合、該物質は一般に、所定の障害の治療に有用な物質である。例えば、細胞が特定の増殖因子産物を分泌するようにそれらを遺伝的に改変することが望ましい場合がある。
【0136】
本発明の細胞は、外来性遺伝子材料を該細胞に導入して遺伝的に改変することにより、該細胞を培養するのに有益な栄養因子、増殖因子、サイトカインなどといった分子を産生させることができる。さらに、細胞を遺伝的に改変してかかる分子を産生させることで、追加の治療効果を提供する必要がある患者に移植した場合に、該細胞により該患者に該効果を提供することができる。
【0137】
本明細書中で使用する場合、「増殖因子産物」という用語は、タンパク質、ペプチド、マイトジェン、または細胞に成長、増殖、分化、もしくは栄養効果を及ぼす他の分子を指す。例えば、CNS障害の治療に有用な増殖因子産物としては、限定するものではないが、神経成長因子(NGF)、脳由来神経栄養因子(BDNF)、ニューロトロフィン(NT-3、NT-4/NT-5)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、アンフィレグリン、FGF-1、FGF-2、EGF、TGFα、TGFβ、PDGF、IGF、およびインターロイキン(IL-2、IL-12、IL-13)が挙げられる。
【0138】
また、細胞を改変することにより、p75低親和性NGFr、CNTFr、ニューロトロフィン受容体のtrkファミリー(trk、trkB、trkC)、EGFr、FGFr、およびアンフィレグリン受容体を含むがこれらに限定されない特定の増殖因子受容体(r)を発現させることもできる。細胞を操作することにより、セロトニン、L-ドーパ、ドーパミン、ノルエピネフリン、エピネフリン、タキキニン、サブスタンス-P、エンドルフィン、エンケファリン、ヒスタミン、N-メチルD-アスパラギン酸、グリシン、グルタミン酸、GABA、AChなどといった種々の神経伝達物質またはそれらの受容体を産生させることができる。有用な神経伝達物質合成遺伝子としては、TH、ドーパ脱炭酸酵素(DDC)、DBH、PNMT、GAD、トリプトファン水酸化酵素、ChAT、およびヒスチジン脱炭酸酵素が挙げられる。CNS障害の治療に有用であるかもしれない種々の神経ペプチドをコードする遺伝子としては、サブスタンス-P、神経ペプチド-Y、エンケファリン、バソプレッシン、VIP、グルカゴン、ボンベシン、コレシストキニン(CCK)、ソマトスタチン、カルシトニン遺伝子関連ペプチドなどが挙げられる。
【0139】
また、本発明の細胞を改変してサイトカインを発現させることもできる。サイトカインは、好ましくは IL-12、TNFα、IFNα、IFNβ、IFNγ、IL-7、IL-2、IL-6、IL-15、IL-21、およびIL-23からなる群より選択されるが、これらに限定されない。
【0140】
本発明によれば、異種タンパク質をコードするヌクレオチド配列を含む遺伝子構築物をADAS細胞に導入する。つまり、該細胞を遺伝的に変更することで、その発現が個体に治療効果をもたらす遺伝子を導入する。本発明の幾つかの態様によれば、治療しようとする個体または別の個体または非ヒト動物から得たADAS細胞を遺伝的に変更することで、欠陥遺伝子を置き換えてもよいし、および/またはその発現が治療しようとする個体に治療効果をもたらす遺伝子を導入してもよい。
【0141】
遺伝子構築物を細胞にトランスフェクトする全ての場合において、異種遺伝子は、該細胞内で該遺伝子を発現させるのに必要な調節配列に機能しうる形で連結されている。かかる調節配列として、典型的には、プロモーターおよびポリアデニル化シグナルが挙げられる。
【0142】
遺伝子構築物を、好ましくは必須調節配列に機能しうる形で連結された異種タンパク質のコード配列を含む発現ベクターとして提供することで、該ベクターを細胞にトランスフェクトした時に該コード配列が該細胞により発現されるようにする。コード配列は、細胞内で該配列の発現に必要な調節エレメントに機能しうる形で連結されている。タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、cDNA、ゲノムDNA、合成DNAもしくはそのハイブリッドまたはmRNAなどのRNA分子であってもよい。
【0143】
遺伝子構築物は調節エレメントに機能しうる形で連結された有益なタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含んでおり、機能性細胞質分子、機能性エピソーム分子として細胞内に存在し続ける可能性があるか、または細胞の染色体DNAに組み込まれる可能性がある。外来性遺伝子材料は、それが独立した遺伝子材料としてプラスミドの形で残る細胞に導入してもよい。あるいは、染色体に組み込まれうる直鎖DNAを細胞に導入してもよい。DNAを細胞に導入する時に、染色体へのDNA組み込みを促進する試薬を加えてもよい。また、組み込みを促進するのに有用なDNA 配列をDNA分子に含めてもよい。あるいは、RNAを細胞に導入してもよい。
【0144】
遺伝子発現の調節エレメントとしては、プロモーター、開始コドン、終結コドン、およびポリアデニル化シグナルが挙げられる。これらのエレメントは、本発明の細胞内で操作しうるものであることが好ましい。また、これらのエレメントは、タンパク質をコードするヌクレオチド配列が細胞内で発現され、その結果該タンパク質が産生されるように、該ヌクレオチド配列に機能しうる形で連結されていることが好ましい。開始コドンおよび終結コドンは、一般に、タンパク質をコードするヌクレオチド配列の一部とみなされる。とは言え、これらのエレメントは細胞内で機能しうるものであることが好ましい。同様に、使用するプロモーターおよびポリアデニル化シグナルは、本発明の細胞内で機能しうるものでなければならない。本発明を実施する上で有用なプロモーターの具体例としては、限定するものではないが、多くの細胞において活性を示すプロモーター、例えば、サイトメガロウイルスプロモーター、SV40プロモーターおよびレトロウイルスプロモーターなどが挙げられる。本発明を実施する上で有用なプロモーターの他の具体例としては、限定するものではないが、組織特異的プロモーター、すなわち一部の組織では機能するが他の組織では機能しないプロモーター、および特異的または一般的なエンハンサー配列を持つかまたは持たない、通常は細胞で発現される遺伝子のプロモーターが挙げられる。幾つかの実施形態では、エンハンサー配列を持つかまたは持たない遺伝子を細胞で構成的に発現させるプロモーターを使用する。適当な場合または望ましい場合には、エンハンサー配列をかかる実施形態に提供する。
【0145】
本発明の細胞は、当業者であれば容易に利用しうる周知技術を利用してトランスフェクトすることができる。外来性遺伝子は、標準的な方法を利用して、該遺伝子によりコードされているタンパク質を発現する細胞に導入してもよい。幾つかの実施形態では、リン酸カルシウム沈澱によるトランスフェクション、DEAE デキストランによるトランスフェクション、電気穿孔、微量注入、リポソーム媒介導入、化学物質媒介導入、リガンド媒介導入または組換えウイルスベクターによる導入によって細胞にトランスフェクトする。
【0146】
幾つかの実施形態では、組換えアデノウイルスベクターを使用して所望の配列を有するDNAを細胞に導入する。幾つかの実施形態では、組換えレトロウイルスベクターを使用して所望の配列を有するDNAを細胞に導入する。幾つかの実施形態では、標準的なCaPO4、DEAEデキストランまたは脂質担体媒介トランスフェクション技術を用いて所望のDNAを分裂細胞に組み入れる。標準的な抗生物質耐性選択技術を利用して、トランスフェクト細胞を同定および選択することができる。幾つかの実施形態では、DNAを微量注入により直接細胞に導入する。同様に、周知の電気穿孔または微粒子銃(particle bombardment)技術を利用して外来DNAを細胞に導入することができる。2つ目の遺伝子は、普通は治療用遺伝子とともに共トランスフェクトするか、または治療用遺伝子に連結する。トランスフェクト細胞は、選択可能な遺伝子を取り込まない細胞を死滅させる抗生物質中で細胞を増殖させることにより選択できる。2つの遺伝子を連結せずに共トランスフェクトした場合は大抵、抗生物質処理に耐えられる細胞はその内部に両遺伝子を有しており、かつそれらの遺伝子を共に発現している。
【0147】
本明細書中に記載した方法は、当業者に周知の様々なやり方で、種々の改変およびその置き換え(permutation)を行って実施しうることを理解されたい。また、細胞型間の作用または相互作用の様式について記載した理論はいずれも、決して本発明を限定すると解釈されるべきではなく、本発明の方法をさらに十分に理解できるように提示されたものであるということも理解されよう。
【0148】
V. 移植
本発明は、新しい無傷の細胞の導入により何らかの形で治療的軽減を得る疾患を治療する目的でADAS細胞を動物、例えばヒトに投与するための方法を包含する。
【0149】
当業者であれば、ADAS細胞をレシピエントに移植することが可能であり、またそれによって、周囲環境からのシグナルおよび合図を受けて該細胞がさらにin vivoで周辺の細胞環境によって決定される成熟細胞に分化しうることが容易に理解されよう。あるいは、ADAS細胞をin vitroで所望の細胞型に分化させることができるし、この分化細胞をその必要がある動物に投与することもできる。
【0150】
また本発明は、CNS、皮膚、肝臓、腎臓、心臓、膵臓などを含む身体の疾患または損傷を治療するために、ADAS細胞を他の治療手段と共に移植すること(grafting)を包含する。従って、ADAS細胞は、患者に有益な効果をもたらす他の細胞、遺伝的に改変されている細胞と遺伝的に改変されていない細胞のどちらとも、同時移植することができる。従って、本明細書中に開示した教示内容を身に付けた当業者には明らかなように、本明細書中に開示した方法は、他の治療手段と組み合わせることができる。
【0151】
本発明のADAS細胞は、当分野で公知の技術、例えば、すなわち、米国特許第5,082,670号および第5,618,531号(それぞれ参照により本明細書中に含まれるものとする)に記載されている技術を利用して患者に、または身体の他のいずれか適切な部位に移植することができる。
【0152】
本発明の細胞の移植は、当分野で周知の技術ならびに本明細書中に記載した技術または将来開発される技術を利用して達成することができる。本発明は、前記細胞を哺乳動物、好ましくはヒトに移植するか、生着させるか、注入するかまたは他のやり方で導入する方法を含む。本明細書中に例示したのは前記細胞を種々の哺乳動物の心血管組織に移植するための方法であるが、本発明はかかる解剖学的部位または哺乳動物に限定されない。同様に、骨移植に関する方法は当分野で周知であって、例えば米国特許第4,678,470号に記載されており、膵臓細胞移植については米国特許第6, 342,479号に記載されており、また米国特許第5,571,083号には、細胞を身体のいずれかの解剖学的位置に移植するための方法が教示されている。
【0153】
また、前記細胞を、マイクロカプセル化(例えば、米国特許第4,352,883号;第4,353,888号;および第5,084,350号(これらの文献は参照により本明細書中に含まれるものとする)を参照されたい)、またはマクロカプセル化(例えば、米国特許第5,284,761号;第5,158,881号;第4,976,859号;および第4,968,733号;ならびに国際公開公報WO 92/19195;WO 95/05452(これらの文献は全て、参照により本明細書中に含まれるものとする)を参照されたい)を含む公知カプセル化技術に従って、生物活性分子を送達するためにカプセル化および使用してもよい。マクロカプセル化の場合、その装置内の細胞数を変えることが可能であり、好ましくは、各装置は103〜109細胞、最も好ましくは約105〜107細胞を含有する。幾つかのマクロカプセル化装置(microencapsulation devices)を患者に人工移植してもよい。細胞をマクロカプセル化および人工移植するための方法は当分野で周知であり、例えば、米国特許第6,498,018号に記載されている。
【0154】
ADAS細胞の投与量は広い範囲内で変動するが、各具体的な症例における個々の必要量に応じて調整してもよい。使用する細胞の数は、レシピエントの体重および健康状態、投与の数および/または頻度、ならびに当業者に公知の他の変数によって決まる。
【0155】
患者に投与するADAS細胞の数は、例えば、脂肪組織処理後の細胞収率に関係している場合がある。細胞の総数の一部を後で使用するために残しておくか、または低温保存しておいてもよい。さらに、送達する用量は、患者に細胞を送達するその経路によって決まる。本発明のある実施形態では、患者に送達する細胞の数は、約5.5×104細胞であると予想される。とは言え、この数は、所望の治療効果を達成するために桁単位で調整することができる。
【0156】
患者に本発明の細胞を投与するその形式は、治療しようとしている疾患の種類、哺乳動物の年齢、該細胞が分化しているかどうか、該細胞がその内部に導入された異種DNAを有しているかどうかなどを含む幾つかの因子によって変わる場合がある。該細胞は、直接注射により、または特定の疾患または障害を患う患者に投与する化合物を導入するために当分野で利用されている他のいずれかの手段により、所望の部位に導入してもよい。
【0157】
ADAS細胞は、多種多様なやり方で宿主に投与することができる。好適な投与様式は、血管内、脳内、非経口、腹腔内、静脈内、硬膜外、髄腔内、胸骨内(intrastemal)、関節内、滑液嚢内、クモ膜下、動脈内、心臓内、または筋肉内である。
【0158】
また、ADAS細胞は、目的とする治療効果を高めるか、制御するか、または他の状態に方向付ける(direct)ために添加剤と共に適用してもよい。例えば、ある実施形態では、該細胞を抗体の媒介による陽性および/または陰性細胞の選択を利用してさらに精製し、細胞集団を濃縮することにより、効果を高めて罹病率を低下させるか、または手順の簡便性を向上させてもよい。同様に、該細胞を、人工移植細胞の運命を支持および/または方向付けることによりin vivoでの組織操作を容易にする生体適合性マトリックスと共に適用してもよい。
【0159】
患者にADAS細胞を投与する前に、前記細胞に、プラスミド、ウイルスまたは別のベクター戦略を利用して、興味のある核酸を安定にまたは一過性にトランスフェクトまたは形質導入してもよい。この細胞を、該細胞によってもたらされる1種または数種の治療応答を促進することを目的とした遺伝子産物を該細胞が発現するように遺伝子操作してから投与してもよい。
【0160】
疾患、障害、または症状を治療するためにADAS細胞を使用すると、ADAS細胞は免疫抑制剤を必要とせずにレシピエントに導入できるという追加の利点が提供される。細胞移植を成功させるには、レシピエントにより生じる移植片拒絶免疫応答を誘導することなくドナー細胞を永久生着させることが必要だと考えられている。典型的には、宿主拒絶応答を予防するために、シクロスポリン、メトトレキサート、ステロイドおよびFK506などの非特異的免疫抑制剤を使用する。これらの薬剤は毎日投与されるものであり、投与を止めると普通は移植片拒絶が起きる。と言っても、非特異的免疫抑制剤を使用することの望ましくない影響は、それらが免疫応答のあらゆる側面を抑制すること(全身性の免疫抑制)によって機能するため、感染症および他の疾患に対するレシピエントの感受性が大幅に増大してしまうということである。
【0161】
本発明は、免疫抑制剤を必要とせずにADAS細胞または分化ADAS細胞をレシピエントに導入することにより疾患、障害、または症状を治療する方法を提供する。本発明は、レシピエントに利益をもたらすために、レシピエントに同種異系もしくは異種のADAS細胞、または該レシピエントとは遺伝的に異なる他のADAS細胞を投与することを含む。本発明は、ADAS細胞をレシピエントに投与する時に免疫抑制剤の使用を必要とせずに疾患、障害または症状を治療するためにADAS細胞または分化ADAS細胞を使用する方法を提供する。従って、移植するADAS細胞または分化ADAS細胞のレシピエントの、免疫抑制療法に伴う癌関連症状を含む感染症および他の疾患にかかる感受性は減少する。
【0162】
下記実施例により本発明の態様をさらに詳しく説明する。とは言え、それらは決して本明細書中に記載した本発明の教示内容または開示内容を限定するものではない。
【実施例】
【0163】
以下、本発明について下記実施例を参照しながら説明する。これらの実施例は単なる例示目的で提供されたものであって、本発明がこれらの実施例に限定されることはなく、むしろ本発明は本明細書中に記載した教示内容を見れば明らかな全ての変形物を包含する。
【0164】
単離、精製および増幅の種々の段階にあるヒトSVF細胞およびADAS細胞を含むヒト脂肪由来細胞の免疫表現型を明らかにするために、フローサイトメトリーに基づくアッセイを利用して下記実験を実施した。さらに、ヒトSVF細胞およびADAS細胞を含むヒト脂肪由来細胞の免疫原性を、in vitro混合リンパ球反応で調べた。本明細書中に開示した結果は、ADASの同種異系移植は細胞治療および/または遺伝子治療の手段として適していることを証明するものである。
【0165】
本明細書中に開示した結果は、ADAS細胞の単離および増幅により、初期SVFと比べて比較的均一な細胞集団が選択されることを示している。in vitro MLRアッセイは、それが同種異系ADAS細胞の宿主への移植に適していることを証明するものであり、また治療時に医師および患者が入手しうる「既製」製品としての成体幹細胞の臨床用途の裏付けを提供するものである。
【0166】
実施例1:ヒト脂肪由来細胞の免疫表現型:間質関連マーカーおよび幹細胞関連マーカーの経時変化
脂肪組織は、組織工学的用途のための豊富でかつ入手しやすい多能性成体幹細胞供給源である。とは言え、全ての研究所が同じ単離および継代段階にある細胞を使用しているわけではない。一部の研究者は組織工学用に新たに単離した間質血管系画分(SVF)細胞を使用しているという事実を考慮して、ヒトSVF細胞およびADAS細胞を含むヒト脂肪由来細胞の免疫表現型を接着および継代の関数として比較するために、ここに記載した実験を実施した。新たに単離したヒト脂肪組織由来間質血管系画分細胞(SVF)の免疫表現型を、連続継代したADAS細胞と比較した。初期SVFは、線維芽細胞コロニー形成単位(CFU-F)を1:30の頻度で含有していた。脂肪細胞コロニー形成単位(CFU-Ad)および骨芽細胞コロニー形成単位(CFU-Ob)は、同程度の頻度(それぞれ1:40および1:12)でSVFに存在していた。フローサイトメトリーに基づくADAS細胞の免疫表現型は、接着および継代に伴って次第に変化した。例えば、間質細胞関連マーカー(CD13、CD29、CD44、CD63、CD73、CD90、CD166)は、初めのうちはSVF上にあまり見られなかったが、連続的な継代に伴って有意に増加した。幹細胞関連マーカーCD34はSVFおよび/または早期継代のADAS細胞で最高レベルとなり、その後も低いレベルではあるものの、培養期間中はずっと存在していた。アルデヒド脱水素酵素(ALDH)および多剤耐性輸送体タンパク質(ABCG2)(いずれも造血幹細胞を同定し特徴付けるために使用されているものである)はSVFおよびADAS細胞により検出可能なレベルで発現されることが観察された。内皮細胞関連マーカー(CD31、CD144またはVE-カドヘリン、VEGF受容体2、フォンウィルブランド因子)はSVF上に発現されたが、連続継代に伴って有意に変化することはなかった。従って、ウシ胎仔血清添加培地におけるヒトADAS細胞のプラスチックへの接着とその後の増幅により、粗間質血管系画分の不均一性と比べて比較的均一な細胞集団が選択され、それには「間質」免疫表現型を発現する細胞が濃縮される。
【0167】
本明細書中に開示した実験に用いた材料および方法を以下に記載する。
【0168】
ADAS細胞の単離および増幅
皮下脂肪組織部位からの脂肪吸引物は、地方の形成外科医院で随意の手術を受けた男性および女性の被検者から取得した。組織をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で3〜4回洗浄し、 1%ウシ血清および0.1%I型コラゲナーゼを添加して37℃に温めておいた等量のPBSに懸濁した。該組織を、37℃の振盪水浴内に連続的に攪拌しながら60分間入れておき、その後室温で5分間、300〜500 X gで遠心分離した。成熟脂肪細胞を含有する上清を吸引した。そのペレットを間質血管系画分(SVF)として同定した。該SVFの一部を低温保存用培地(10%ジメチルスルホキシド、10%DMEM/ハムF12、80%ウシ胎仔血清)に再懸濁し、エタノールで被覆した(ethanol jacketed)密閉容器に入れて-80℃で冷凍し、その後これを液体窒素中で保存した。このSVFの一部を本明細書中に開示したコロニー形成単位アッセイに使用した。SVFの残りの細胞を懸濁し、その後速やかに、増幅および培養のためにT225フラスコ中の間質培地(DMEM/ハムF12、10%ウシ胎仔血清(Hyclone, Logan, UT)、100 Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgファンギゾン)に0.156 mLの組織消化物/表面積平方cmの密度で蒔いた。この初代細胞培養の最初の世代を「継代0(Passage 0)」(P0)と呼ぶことにした。まず37℃、5%CO2で48時間インキュベートした後、培養物をPBSで洗浄し、それらが75〜90%のコンフルエンスに達するまで(培養状態でおよそ6日間)間質培地中で維持した。細胞をトリプシン(0.05%)消化により継代し、5,000細胞/cm2の密度で蒔いた(「継代1」)。継代時の細胞の生存率および数をトリパンブルー排除および血球計による細胞計数によって測定した。細胞を、75〜90%の密度に達してから(培養状態でおよそ6日間)継代4まで繰り返し継代した。
【0169】
脂肪生成(adipogenesis)
初代ADAS細胞のコンフルエントな培養物を、前記間質培地を、DMEM/F-12を含み3%FBS、33μMビオチン、17μMパントテン酸塩、1μMウシインスリン、1μMデキサメタゾン、0.25 mMイソブチルメチルキサンチン(IBMX)、5μMロシグリタゾン、および100 Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgファンギゾンを加えた脂肪細胞誘導培地と交換することにより、誘導して脂肪生成を生じさせた。3日後、培地を、IBMXおよびロシグリタゾンが共に除去されていることを除けば誘導培地と同一の脂肪細胞維持培地に変えた。細胞を、該維持培地の90%を3日毎に交換しながら、培養下で最長9日間維持した。培養物をPBSですすぎ、ホルマリン溶液で固定してから、オイルレッドOによる中性脂質の染色によって脂肪細胞分化を測定した。
【0170】
骨形成
初代ADAS細胞のコンフルエントな培養物を、前記間質培地を、DMEM/ハムF-12を含み10%FBS、10 mMβ-グリセロリン酸、50μg/mLアスコルビン酸2-リン酸ナトリウム、100 Uペニシリン/100μgストレプトマイシン/0.25μgファンギゾンを加えた骨形成誘導培地と交換することにより、誘導して骨形成を生じさせた。培養物に、最長で3週間にわたり、3〜4日毎に新鮮な骨形成誘導培地を与えた。培養物を0.9%NaClですすぎ、70%エタノールで固定してから、アリザリンレッドによるリン酸カルシウムの染色によって骨形成分化を測定した。
【0171】
コロニー形成単位(CFU)アッセイ
コロニー形成単位の頻度は、前駆細胞の数はポアソン分布に従うという想定(Bellowsら、1989 Dev. Biol. 133:8-13)の下で限界希釈アッセイにより測定した。25 mLの脂肪吸引組織吸引物に相当するSVFの一部を限界希釈アッセイに供してCFUの頻度を測定した。SVFペレットを、1%BSA を添加したPBS 20 mLに懸濁し、加圧滅菌した金属スクリーンを通して濾過することにより、大きな組織片を取り除いた。この細胞懸濁物の一部400μLを取り出して2 mL遠心管に入れ、室温で3,000 rpmにて3分間遠心分離し、その後ペレットを400μLのRed Cell Lysis Buffer (Sigma, St. Louis, MO)に再懸濁した。5分間の溶解時間後、その溶解物のうちの20μL量を等量のトリパンブルーと混合し、有核細胞の数を血球計計数によって測定した。SVFの残りの細胞を室温で5分間300 X gで遠心分離し、得られたペレットを間質培地に再懸濁して最終濃度を1mL当たり2×105細胞とした。
【0172】
ウェル当たり100μLの間質培地を入れた4枚の96ウェルプレートを調製した。前記のSVF細胞懸濁物を各プレートの12列にわたって2倍段階希釈し、ウェル当たり約104〜4個の細胞が含まれるようにした。これらの96ウェルプレートを37℃、5%CO2で9日間インキュベートした。その際、4枚のプレートのうちの1枚を線維芽細胞CFU(CFU-F)アッセイに供した。該プレートをPBSですすぎ、ホルマリンで固定し、ホルマリン中の0.1%トルイジンブルーで20分間染色し、水ですすいでから、陰性のウェル(すなわち、20個より多くのトルイジンブルー細胞のコロニーを含有していないウェル)の数を各細胞濃度について測定した。このデータを利用し、方程式F0 = e-uおよびu = -In F0(式中のF0はコロニーが見られないウェルの割合(fraction)であり、uはウェル当たりの前駆体の平均数である)に従ってCFU-Fの数を測定した。従って、コロニーが見られないウェルの割合が「0.37」である場合、ウェル当たりの前駆細胞平均数は「1」となる。
【0173】
2枚目のプレートは、アルカリホスファターゼCFU(CFU-ALP)アッセイに供した。該プレートをPBSですすぎ、100%エタノールで固定し、36 mMメタホウ酸ナトリウム、0.46 mM 5-ブロモ-4-クロロ-3-インドキシルホスフェート、1.2 mMニトロブルーテトラゾリウム、および8.3 mM硫酸マグネシウム(pH 9.3)を含む溶液の存在下で1時間インキュベートし、水ですすいでから、20個より多くのALP細胞のコロニーを含有していないウェルの数を各細胞濃度について測定した。このデータを利用し、上記の式に従ってCFU-ALPの数を決定した。
【0174】
残りの2枚の96ウェルプレートは、それぞれ本明細書中に記載した通りに誘導して脂肪生成および骨形成を生じさせた。脂肪細胞CFU(CFU-Ad)は、誘導から9日後にオイルレッドO染色により測定した。骨芽細胞CFU(CFU-O)は、誘導から15日後以降にアリザリンレッド染色により測定した。
【0175】
フローサイトメトリー
SVFならびに継代0〜4の培養細胞から得た細胞に対してフローサイトメトリーを実施した。 細胞を、3つの一般的なカテゴリー(造血、間質および幹細胞)に分けられる複数の表現型マーカーならびにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)活性(Stem Cell Technologies, Seattle, WA)について解析した。細胞は、コンジュゲート化および非コンジュゲート化マウスモノクローナルの両方を使用して解析した。簡単に言えば、各集団からおよそ4〜8×106 個を得た。1×106細胞をALDH解析のために取り出し、1〜2×106細胞を非コンジュゲート化モノクローナルによる染色のために取り出した。抗体セット当たり10,000イベントが得られ、CELLQuest取り込みソフトウェア(CELLQuest acquisition software)(Becton Dickinson)を使用したBecton Dickinson FACSCaliberフローサイトメーターでのALDHアッセイに関しては少なくとも25,000イベントが得られた。データ解析はFlow Jo解析ソフトウェア(Tree Star)を利用して実施した。
【0176】
コンジュゲート化(conjugated)モノクローナル抗体
前記細胞を、フロー洗浄(flow wash)緩衝液(1X DPBS、0.5%BSAおよび0.1%アジ化ナトリウム)中で1回洗浄し、ブロッキング緩衝液(25μg/mLのマウスIgGを含む洗浄緩衝液)に再懸濁してから、氷上で10分間インキュベートした。チューブ当たり100μLの細胞懸濁物(およそ5×105細胞)を分注し、3色解析(FITC、PEおよびAPC)のために適当に標識したmAbを加えた。適当なアイソタイプコントロールの組み合わせを行うことによりモノクローナルアイソタイプの組み合わせを反映させた。下記抗原に対する抗体(カタログ番号)は、他に特記しない限りはBD-Pharmingenから購入し、ベンダーが推奨する量で使用した:CD 13 PE (#555394)、CD29 FITC (Caltag #CD2901)、CD31 FITC (Caltag #MHCD3101)、CD34 PE (#348057)、CD44 FITC (Cell Sciences #852.601.010)、CD49a PE (#559596)、CD63 FITC (#557288)、CD73 PE (#550257)、CD90 FITC (#555595)、CD105 PE (Caltag #MHCD10504)、CD144 (Chemicon # MAB1989)、CD146 PE (#550315)、CD166 PE (#559263)、ABCG2 FITC (Chemicon #MAB4155F)、VEGFr2 (Chemicon #MAB1667)、およびフォンウィルブランド因子(Chemicon MAB3442)。全てのチューブを氷上でインキュベートし、光から30分間保護した。該細胞を洗浄緩衝液で1回洗浄してから、200μLの1%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0177】
非コンジュゲート化(unconjugated)モノクローナル抗体
前記細胞を先に述べたように洗浄し、5%ヤギ血清を含有する洗浄緩衝液でブロッキングし、10分間インキュベートしてから、各100μLのアリコートに分けた。一次抗体(CD144、抗VEGFR2 [KDR]および抗フォンウィルブランド因子)を加え(10μg/mL)、細胞を氷上で30分間インキュベートした。該細胞を洗浄緩衝液で1回洗浄し、血清を含まない洗浄緩衝液に再懸濁した。ヤギ抗マウスPEコンジュゲート化二次抗体を、一次抗体を含有する懸濁物ならびに「二次抗体のみ(secondary only)」のコントロールに加えた(5μg/mL)。細胞を氷上でインキュベートし、光から15分間保護した。その後、該細胞をフロー洗浄緩衝液で洗浄し、1%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0178】
これらの実験の結果を以下に記載する。
【0179】
細胞収率
計44名のドナーから取得した皮下脂肪組織脂肪吸引物をコラゲナーゼ消化および分画遠心法により処理した。44名のドナーの年齢(平均値±S.D;41±10歳、年齢幅は18〜64歳)およびBMI(平均値±S.D;26.1±4.8、値の幅は19.9〜39.2)、ならびに性別分布(女性84%:男性16%)は、以前の研究(Austら、2004 Cytotherapy 6:7-14;Senら、2001 J. Cell. Biochem. 81:312-9)で報告されているものと類似していた。脂肪組織における前駆細胞の頻度を評価するために、間質血管系画分に存在する有核細胞数の平均数を測定したところ、脂肪吸引組織mL当たり308,849個であった(表1A)。これらの計算結果に基づいて、限界希釈アッセイによる96ウェルプレートでのCFUアッセイを確立し、組織化学的染色特性に基づいて特定系列の表現型のCFU頻度を測定した(表2)。9日間の培養後に、トルイジンブルーまたはアルカリホスファターゼ染色陽性の細胞を含有するウェルの数を利用して、それぞれCFU-FおよびCFU-ALPの頻度を測定した(図1)。その際、同一プレートを誘導して脂肪生成または骨形成を生じさせた。オイルレッドOによる中性脂質またはアリザリンレッドによるリン酸カルシウム染色陽性ウェルの数を、それぞれ、さらに9日後に、または14日を超えた後に測定した。得られた平均CFU頻度は次の通りであった:CFU-Fは1:30;CFU-ALPは1:285;CFU-Adは1:40;および;CFU-Obは1:12 (表2)。
【0180】

【0181】
最初の平板培養後、細胞を培養下で平均6日間(表1B)維持して継代0(P0)集団を得た。トリプシン消化による回収の際に、元の脂肪吸引組織1 mL当たり平均247,401個の接着性P0細胞(表1B)を取得した。これらの値は、以前の研究(Austら、2004 Cytotherapy 6:7-14)と同程度であった。細胞を、さらなる4回の連続的な継代(各6〜7日)によって継代した。各継代期間中の細胞倍加時間は3.6〜4.7日であった(表1B)。
【0182】

【0183】
免疫表現型
各精製および継代段階後に低温保存しておいた細胞に対してフローサイトメトリー解析を実施した(表3)。その典型的なフローヒストグラムを図2に示す。初期SVF細胞は、CD31、CD144(VE-カドヘリン)、VEGF受容体2、およびフォンウィルブランド因子を含む内皮細胞関連マーカー群に対して陽性を示す細胞のサブセットを含有していた(表3および図2)。これらのマーカーのレベルは、継代4(P4)までは有意に変化することはなかった。
【0184】


【0185】
初期SVF細胞集団のサブセットだけが間質細胞関連マーカーを発現した(表3および図3)。1%未満のSVFが活性化リンパ球共通接着分子(Activated Lymphocyte Common Adhesion Molecule)(ALCAM、CD166)を発現した一方で、63%のSVFがヒアルロン酸受容体(CD44)を発現し、CD29、CD73、CD90、およびCD 105のレベルはこれらの値の中間であった。連続的な継代に伴い、これらの各マーカーに対して染色陽性を示す細胞の割合が増加し、継代4(P4)までに69%(CD 166)〜98%(CD44)となった。
【0186】
初期SVFは、幹細胞関連マーカーに対して陽性を示す細胞亜集団を含有していた。平均60%のSVFが造血幹細胞関連マーカーCD34、シアロムチンおよびL-セレクチンリガンド(Shailubhaiら、1997 Glycobiology 7:305-14)を発現した。CD34のレベルはP0集団では同程度のままであったが、その後は連続継代中に有意に低下した(図3)。CD34集団の大きさは、汎造血マーカー(pan-hematopoietic marker)であるCD45の発現を基準とすると、いずれの継代においても常に造血細胞集団の大きさを上回っていた。平均31%のSVFが、Hoescht色素の排出に関与し造血幹細胞の側方散乱集団の同定に使用される多剤耐性輸送体であるABCG2(Goodellら、1996 J. Exp. Med. 183:1797-806)を呈示した。これらのレベルはP0からP1への継代中に上昇したが、その後の継代中に低下したため、これらの変化はSVFに対して統計的に有意と言えるものではなかった。
【0187】
高レベルの酵素アルデヒド脱水素酵素(ALDHbr)は、造血幹細胞を同定および単離するための新規マーカーであることが分かっている(Stormsら、1999 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:9118-23;Fallonら、2003 Br. J. Haematol. 122:99-108;Stormsら、2005 Blood)。 蛍光基質を使用したフローサイトメトリー解析によれば、脂肪由来細胞はALDHbr亜集団を含有していた(表3、図4)。ALDHのレベルはSVF細胞では低いものの、ALDHbrの割合はP0からP4までの継代中に70%超に達し、その平均蛍光強度は114〜306であった。ALDHbr ADAS細胞の割合は、該細胞をP9まで培養下で維持すると10%に下がった。
【0188】
本明細書中に開示した結果および他のグループが得た結果から、継代2以降のプラスチック接着性ADAS細胞の免疫表現型が明らかとなった(Gronthosら、2001 J. Cell. Physiol. 189:54-63;Austら、2004 Cytotherapy 6:7-14;Zukら、2002 MoI. Biol. Cell. 13:4279-95)。ADAS細胞は骨髄由来間質細胞またはMSCのものと似た表面タンパク質プロフィールを呈示し(Pittengerら、1999 Science 284:143-7)、またADAS細胞は複数の系列経路に沿って分化することができる(Gimbleら、2003 Curr. Top. Dev. Biol. 58:137-60)。実際、ヒトADAS細胞の環状クローニング解析では、継代4まで増幅したクローンのうちの50%超が2つ以上の系列特異的経路に沿って分化する能力を持つことが証明された(Gimbleら、2003 Curr. Top. Dev. Biol. 58:137-60)。従って、脂肪組織は、可能性としての再生医療用途のための、入手しやすく豊富で代替的な成体幹細胞供給源を与える。51名の成人被検者から単離した骨髄MSCを使用した研究では、CFU-Fの頻度はおよそ1:10,000 STRO-1細胞であることが確認された(Stenderupら、2001 J. Bone Miner. Res. 16:1120-9)。これらの筆者はSTRO-1抗体による濃縮ステップを採用しているので、これらの値はヒト脂肪組織について現在報告されているものより少なくとも3桁少ない。従って、脂肪組織中のCFU-Fの存在量は骨髄のそれよりもかなり多い。
【0189】
脂肪組織におけるCFU-AdおよびCFU-Obの頻度はCFU-Fのそれと同程度であったが、CFU-ALPの出現はおよそ一桁少ない頻度であった。アルカリホスファターゼ酵素活性は、骨髄骨芽細胞前駆細胞およびWestin-Bainton間質細胞(Friedenstein, 1968 Clin. Orthop. Relat. Res. 59:21-37;Westenら、1979 J. Exp. Med. 150:919-37)の決定的な特徴として利用されている。本研究では9日間の培養後にアルカリホスファターゼ活性を測定し、アリザリンレッド染色はさらに14〜21日後に実施した。強い(robust)アルカリホスファターゼ染色は多層(multi-tiered)細胞層と関係がある(図1)ため、CFU-ALPの頻度を長期間の培養後に評価すれば、該頻度はCFU-F およびCFU-Obのそれに近くなると考えられる。
【0190】
多くのグループがin vitroとin vivoの両方の用途のために脂肪由来細胞を単離するようになっているが、研究中の細胞集団の単離および特徴付けに関する研究所間の一定性の程度は未だ不明である。最近の研究では、単離の早期段階にある脂肪組織由来細胞が注目されており、早期継代ののSVFまたは接着細胞も注目されている。これらの細胞は、VEGF受容体、Flk-1、CD31、VE-カドヘリン、フォンウィルブランド因子に対するマーカー、および内皮細胞系列に関連する他のマーカーを呈示した。脂肪由来のSVF細胞は、致死的な放射線照射を施したマウスの骨髄を再構成させるために使用されている。該SVF集団は、マクロファージ(および、可能性としては他の造血系列)の前駆体を含有することが報告されている。同様に、本開示内容も、SVF細胞集団は造血系列の細胞を含むことがそれらのCD11、CD14、CD45および他のマーカーの発現に基づいて示された。しかし、それらの発現は継代の進行に伴って失われ、このことは、それらではこの接着細胞集団を説明できないことを示唆している。
【0191】
「幹細胞」関連マーカー(CD34、ABCG2、ALDHbr)のレベルは培養の最も早期の段階(継代0/1)で最高(ピーク)レベルに達する。本明細書中に提示した結果は、未分化ヒトADAS細胞および脂肪細胞に分化したヒトADAS細胞のタンデム質量分光プロテオーム解析によりミトコンドリアALDHの存在を証明するものである。ALDHbrであるADAS細胞のパーセンテージは、未分画骨髄において検出されるALDHbr細胞のパーセンテージ(総細胞集団の1%以下)(Stormsら、1996 Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 96:9118-23;Fallonら、2003 Br. J. Haematol. 122:99-108)を大幅に上回る。他のグループは、これらの同じ「幹細胞」関連マーカーのうちの幾つか(CD 34およびABCG2)をCD31と組み合わせて用いて、脂肪由来細胞集団において内皮前駆細胞の特徴付けおよび定義づけを行った(Miranvilleら、2004 Circulation 110:349-55)。骨髄から得た造血幹細胞を特徴付けし単離するために現在利用されているのと似た方法で脂肪組織に由来する幹細胞を定義するために、この群内の抗原または酵素マーカーのサブセットを排他的に使用できるかどうかは確認されていない。
【0192】
単離の最も早期の段階では、間質血管系画分(SVF)の細胞は、低レベルの「間質」関連マーカー(CD13、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166)を示す。培養の後期段階(継代3/4)では、該細胞は、「間質」マーカーのレベルが一貫して高い、より均一なプロフィールを呈する。全体的に、この時間的発現パターンは、ヒト骨髄由来MSCについて報告されているものと似ている。骨髄MSCでは、14日にわたるin vitro培養中に、それらによるSH2およびSH3と同定されたマーカー(それぞれ、エンドグリン(CD 105)および5'-エクトヌクレオチダーゼ(CD73)に相当する)の表面発現が次第に増加した。継代4までは、5種の「間質マーカー」(CD13、CD29、CD44、CD73、CD90)が90%超のADAS細胞集団上に一貫して存在する。CD10などの追加の「間質マーカー」もまた、この集団の均一性を証明する上で役に立つだろう。これらの知見は、単離および増幅の種々の段階にある脂肪由来細胞の現行の免疫表現型による特徴付けと一致している。
【0193】
本実施例中の実験は、ヒト脂肪組織に由来する細胞を接着特性および免疫表現型に基づいて調べるように設計されたものである。最初に単離した間質血管系画分細胞は不均一であることが観察された。しかし、実際に接着してその後の脂肪由来幹細胞と呼ばれる細胞の増殖の元となったのは、30個の細胞のうちの約1個に過ぎなかった。間質血管系画分における脂肪細胞および骨芽細胞前駆細胞の頻度は、接着細胞集団のそれと同程度であった。このCFU-F、CFU-Ad、およびCFU-Obデータ間の密接な相関関係は、ヒト脂肪組織における二分化能および三分化能をもつクローン細胞の存在を証明する他のデータ(Zukら、2002 13:4279-95)と一致している。古典的な「間質」細胞マーカー(CD13、CD29、CD44、CD73、CD90、CD105、CD166)は、最初の間質血管系画分細胞のうちの0.8%〜54%にしか存在しないことが観察された。後期継代まで、間質マーカーは最高で98%の脂肪由来幹細胞集団上に存在していた。発現のこれら経時変化は、ヒト骨髄MSCについて報告されているものと似ている。また、ヒトADAS細胞は、CD34、ABCG2およびアルデヒド脱水素酵素などの幹細胞関連マーカーも発現する。従って、本明細書中に示した結果は、脂肪由来細胞集団中でそれらの単離および培養の関数として有意な変化が生じることを証明するものであり、また再生医療用の成体幹細胞供給源としてのヒト脂肪組織の潜在的有用性に関する意義を持つものである。
【0194】
実施例2:ヒト脂肪由来細胞の免疫原性
再生医療技術は、治療時に容易に入手することができるヒト成体幹細胞の豊富な供給源を必要とする。特定の理論に縛られるつもりはないが、同種異系幹細胞であればこの目標を達成することができると考えられる。脂肪組織はヒト細胞の未利用の貯蔵器であることから、継代したADAS細胞に対して新たに単離したヒト脂肪組織由来の間質血管系画分細胞(SVF)の免疫原性の性質を比較するために下記実験を設計した。本明細書中に提示した結果は、脂肪由来細胞における造血関連マーカー(CD11a、CD14、CD45、CD86、HLA-DR)の発現が継代に伴って低下したことを示している。
【0195】
さらに、混合リンパ球反応(MLR)では、SVFおよび早期継代のADAS細胞が同種異系レスポンダーT細胞による増殖を刺激することが観察された。これに対し、継代P1より後に継代されたADAS細胞は、T細胞からの応答を誘発しなかった。さらに、後期継代されたADAS細胞はMLR応答を抑制することが観察された。従って、ヒト脂肪由来細胞のプラスチックへの接着とその後の増幅により、比較的均一な細胞集団が免疫表現型および免疫原性に基づいて選択される。これらの結果は、移植における同種異系ヒトADAS細胞の利用が実施可能であることを裏付けるものである。
【0196】
本明細書中に開示した実験に用いた材料および方法を以下に記載する。
【0197】
BMSC細胞の単離および増幅
下記実験では、骨髄間質細胞(BMSC)を、SVFおよびADAS細胞を含むがこれらに限定されない脂肪組織由来細胞で観察された結果に対する対照として使用した。簡単に言えば、ヒト骨髄をCambrex Bioscience (Walkersville, MD)またはAllCell, LLC (Berkeley, CA)から購入した。へパリンを用いて骨髄穿刺液を回収し、1.073 g/mLの密度勾配(リンパ球分離培地[LSM]、Cambrex Bio Sciences, Walkersville, MD)で分画してから、その境界面(interface)で回収した単核細胞を、BMSCの増幅を支持するその能力に基づいて選択した10%FBS(JRH Biosciences, Lenexa, KS)を含有するダルベッコ改変イーグル培地-低グルコース(HyQ DME/Low Glucose, HyClone, Logan, UT)に蒔いた。有核細胞を、T185-cm2フラスコ当たり30×107細胞の密度で蒔いた。細胞を、初代培養(P0)下で12〜17日間、3〜4日毎に培地を変えながら増殖させた。該細胞がコンフルエントになったところで、 その培養物を、接着細胞を取り出すために0.05%トリプシン(GIBCO, Grand Island, NY)を使用して継代し、P1細胞としてT185-cm2フラスコ当たり1×106細胞で蒔きなおした。この時点から、BMSCを、1種の培地を3〜4日毎に変えながら7日毎に継代した。最後の回収時に、BMSCを、プラズマライト(plasmalyte)(Baxter Health Care, Deerfield, IL)中に10%DMSO (Edwards Life Sciences, Irvine, CA)および5%ヒト血清アルブミン(JRH Biosciences)を含有する凍結溶液を使用して低温保存した。増幅したBMSC(P2〜P4)は、見た目は線維芽細胞様であって、造血マーカー(CD45、CD14、CD3、MHCクラスII 抗原)に対しては陰性を示し、かつ間質マーカー(CD13、CD29、CD44、CD90、CD105)に対しては陽性を示す均一集団であった。BMSCは、骨形成および脂肪生成系列に沿って分化するそれらの能力が示すように、P2およびP4では多能性を有していた。
【0198】
フローサイトメトリー
フローサイトメトリーを本明細書中の他の箇所で記載した通りに実施した。下記抗原に対する抗体(カタログ番号)は、他に特に指示しない限りはBD-Pharmingenから購入し、ベンダーが推奨する量で使用した:CD11a APC (#550852)、CD14 APC (#555394)、CD40 APC (#555591)、CD45 FITC (#555482)、CD54 APC (#559771)、CD80 FITC (Caltag #MHCD8001)、CD86 PE (Caltag #MHCD8601)、HLA-ABC APC (#555555)、HLA-DR APC (#559868)。
【0199】
混合リンパ球反応(MLR)
ヒトリンパ球集団
末梢血単核細胞(PBMC)は、白血球を除去した(leukopheresed)末梢血細胞(AllCells, LLC)のLSM密度勾配での遠心分離により調製した。T細胞は、該PBMCの一部から磁気ビーズを使用したネガティブ選択により精製した。簡単に言えば、PBMCを、単球(抗CD 14;クローンUCHM1)、B細胞(抗-CD 19;クローンLT 19)、ナチュラルキラー細胞(抗CD56;クローンERIC-1)およびMHCクラスII抗原を発現する細胞(抗MHCクラスII DR;クローンHL-39)に結合させるために選択したモノクローナル抗体のカクテル(いずれもSerotec, Inc., Raleigh, NCから入手したmAb)で処置した。PBMCを、抗マウスIgG抗体(Dynal Corp, Lake Success, NY)で被膜された磁気ビーズと混合した。ビーズと結合した細胞を磁石を使用して除去すると、精製されたT細胞の集団(抗CD3 mAbを使用したフローサイトメトリーによると90%超のT細胞)が残った。PBMCと精製T細胞の両方をアリコートに分けて液体窒素中で低温保存した。
【0200】
免疫原性アッセイ
一方向(one-way)MLRアッセイを利用して、脂肪由来細胞集団の免疫原性を測定した。MLRは、ピルビン酸ナトリウム、非必須アミノ酸、抗生物質/抗真菌薬、2-メルカプトエタノール(いずれの試薬もGIBCO, Grand Island, NYから入手した)および5%ヒトAB 血清(Pel-Freez Biologicals, Rogers,AK)を添加したイスコフ(Iscove's)改変ダルベッコ培地(IMDM)を使用して96ウェルマイクロタイタープレートで実施した。2名のドナーに由来する精製T細胞を、2×105細胞/ドナー/ウェルで蒔いた。異なるドナーを採用することで、T細胞集団のうちの少なくとも1つが脂肪由来の被検細胞に対して最も不適合(major mismatch)となる可能性を最大限に高めた。アッセイに使用した刺激細胞には、自己PBMC(基準となる応答)、同種異系PBMC(陽性対照応答)、および被検脂肪由来細胞集団が含まれていた。刺激細胞にセシウム照射装置により送達される5000ラドのガンマ線を照射してから、該細胞を様々な数で、典型的にはウェル当たり5000〜20,000細胞として培養ウェルに加えた。追加の対照培養物は、培地のみ(刺激細胞なし)に蒔いたT細胞から構成した。各処理について3連培養(triplicate cultures)を実施した。培養物を5%CO2中37℃で6日間インキュベートし、3H-チミジン(1μCi/ウェル、 Amersham Biosciences, Piscataway, NJ)を16時間適用してから、Skatron96ウェル・セルハーベスター(Molecular Devices Corp., Sunnyvale, NY)を利用してグラスファイバー製フィルターマット上に該細胞を回収した。該フィルター上に沈着した分裂中のT細胞に取り込まれた放射活性を、シンチレーション計数管(Microbeta Trilux Scintillation and Luminescence Counter, Wallac Inc., Gaithersburg, MD)を利用して測定した。
【0201】
細胞集団の免疫原性を評価する際に3つの基準を使用した。これらは、以下:1) そのT細胞増殖応答(CPM)と自己PBMCにより誘導される該応答との統計的に有意な差(p<0.05、スチューデントt検定);2) 自己PBMCに対して誘導された応答との、少なくとも750 CPM の差;および3) 少なくとも3.0の刺激指数(被検集団により誘導されたCPMを自己PBMCにより誘導されたCPMで割ったもの)である。3つの基準全てを満たした被検集団を、免疫原性を示すものとした。
【0202】
抑制アッセイ
二方向(two-way)MLRアッセイを利用して、脂肪由来細胞集団による抑制を調べた。簡単に言えば、2名のドナーから得たPBMCを、96ウェルマイクロタイタープレート中の完全培地に2×105細胞/ドナー/ウェルで混合した。脂肪由来細胞を、このMLRに5,000、10,000および20,000細胞/ウェルで加えた。対照MLR培養物には脂肪由来細胞を加えないか、またはヒト脾臓線維芽細胞(CRL-7433, American Type Culture Collection, Manassas, VA)をADAS細胞に使用される数で加えた。脾臓線維芽細胞は、解析した中で最も抑制性の低い線維芽細胞型であることが見出されたので、該細胞をこれらの実験に使用することで、本アッセイにおいてADAS細胞による抑制を算出するのに相応しい細胞用量、すなわち、対照MLRの10%を超える抑制を媒介することのない脾臓線維芽細胞の最高用量を定めた。抑制は、次式:
抑制パーセント=(1−[被検細胞+MLR cpm÷MLR cpm])×100
により算出した。対照と被検培養物との間の統計的有意性は、スチューデントt検定を利用して評価した。
【0203】
本実験の結果を以下に記載する。
【0204】
免疫表現型
各精製および継代段階後に低温保存しておいた細胞に対してフローサイトメトリー解析を実施した(表1、図5)。初期のSVFおよびP0細胞は、白血球共通抗原CD45、単球/マクロファージマーカーCD11aおよびCD 14、MHCクラスII DR組織適合抗原ならびに共刺激分子CD86を含む造血マーカー群に対して陽性を示すことから単球であると思われる細胞のサブセットを含有していた。この集団は、前述のマーカーの大部分の発現の低下に伴ってP1までに消失した。該集団における単球の存在は重要である。何故なら、これらの細胞は免疫原性を示し、拒絶応答を誘導しうるからである。他の造血関連マーカーは「間質細胞」関連マーカーと類似した動向を示した。CD40、CD54 (ICAM-1)、およびMHCクラスI ABC組織適合抗原の表面レベルは、SVF細胞集団とP3 ADAS細胞集団との間で有意に増加した(表4)。その変動幅は、CD40については1.3%〜66%、HLA-ABCについては67%〜92%であった。共刺激活性を伴う中〜高レベルの分子(CD40、CD54、CD80)と連動する高レベルのクラスI 抗原発現は、これらの細胞が混合リンパ球反応において抗原提示細胞として機能しうることを示唆している。この点を、下記の通りにして詳しく調べた。
【0205】

【0206】
免疫原性:
一方向MLRアッセイを実施して、ヒトSVF細胞およびADAS細胞を含むヒト脂肪由来細胞の免疫原性を評価した。T細胞の増殖は、漸増用量の放射線照射した刺激細胞の存在下での3H-チミジンの取り込みに基づいて測定した。自己および同種異系のPBMCをそれぞれ陰性および陽性の刺激細胞対照とした。ヒトSVF細胞は同種異系PBMCと同程度の用量依存的MLR応答を誘発することが観察された(図6)。継代の進行に伴い、ADAS細胞は、P1では、自己PBMCで観察されるものと同程度のレベルまで下がった低い応答を誘発した。複数名のドナーから得たヒトSVF細胞およびADAS細胞を含む脂肪由来細胞集団の免疫原性を表5に示す。免疫原性が陽性および陰性であることを表す記号は、本明細書中の他の箇所に記載した基準に基づくものであり、また各実験における最も高い細胞用量(20,000細胞/ウェル(ドナー902〜917)〜30,000細胞/ウェル(ドナー407〜611))について示したものである。いずれか一方または両方のT細胞集団に対する陽性応答を基準とすると、次の集団:SVF細胞(4/7ドナー)、P0細胞(7/9ドナー)およびP1細胞(4/7ドナー)は免疫原性を示した。残りの継代細胞集団(P2〜P4)は、あるドナーから得たP2細胞を除き、MLRアッセイでT細胞増殖を誘導することはなかった。
【0207】

【0208】
免疫抑制:
特定の理論に縛られるつもりはないが、継代されたADAS細胞がT細胞応答を刺激できないのは、本来的に低い免疫原性、ADAS細胞によって媒介される能動的免疫抑制機構、またはその両方の性質の組み合わせが原因である可能性があると考えられる。脂肪由来細胞が免疫抑制性であるかどうかを確認するために、それらをMLR培養物に5000、10,000または20,000細胞/ウェルで加えた。対照MLR培養物には細胞を加えないか、または細胞密集に起因する抑制を考慮に入れるために非抑制性のヒト脾臓線維芽細胞を本明細書中の他の箇所に記載した数で加えた。図7に示すように、脾臓線維芽細胞は最高用量(20,000細胞/ウェル)でのみMLR培養物を抑制した。これより低い他の2つの用量を有効なもの(人為的抑制なし)として利用すると、有意な抑制はSVF集団を除く全てのADAS細胞継代物によって媒介された。P0〜P4のADAS細胞により媒介される、対照MLR反応(添加細胞なし)に対する抑制パーセントは33〜63%であった。4名のドナーから得た結果を表6にまとめる。抑制パーセントは最低細胞用量(5000細胞/ウェル)で測定したが、これは該用量の脾臓線維芽細胞では、これらの実験のいずれにおいてもMLRの抑制が見られなかったからである。SVF集団による抑制平均値は最小であった(10%)が、P0〜P4細胞による抑制は平均して32.0+3.2%となった。この抑制の程度は、これらの培養物に占めるADAS細胞の割合が低い(1.3%)ことを考慮すると有意である。ADAS細胞とBMSCの抑制特性を比較することは重要である。何故なら、BMSCはADAS細胞と類似した表現型特性および分化能を持つからである(Gimbleら、2003 Curr Top Dev Biol 58:137-60)。どちらの細胞型も、3300〜10,000細胞/ウェルの用量で加えるとMLRを抑制した(図8)。ADAS細胞による抑制の規模はBMSCのそれを最大で13%上回っていた。
【0209】

【0210】
経時変化:
本明細書中に提示した結果は、新たに単離したSVF細胞が混合リンパ球反応において同種異系末梢血単核細胞と同等のT細胞増殖応答を誘発しうることを証明するものである。この免疫原性応答は、早期継代(P0、P1)ADAS細胞で低下し、後期継代ADAS細胞(P2〜P4)で本質的に消失した。同種反応性という意味での細胞集団の免疫原性は、主に該集団内の抗原提示細胞(APC)の存在によって確認される。古典的APCは、CD80およびCD86などの共刺激分子だけでなくMHCクラスIおよびクラスII分子も発現する造血細胞、典型的には、樹状細胞またはマクロファージである。免疫原性を示すことが見出されている脂肪由来細胞のSVFおよびP0集団が単球(CD45、CD11a、CD14、CD86およびMHCクラスII抗原に対して陽性を示す)である可能性が最も高い細胞のAPC亜集団を含有しているのに対して、単球を含有していないP1〜P4集団は大抵免疫原性を示さなかったということは、注目に値する。特定の理論に縛られるつもりはないが、ADAS細胞は同種抗原(MHCクラスI抗原)ならびに共刺激活性を示しうる多くの細胞表面分子(例えば、CD54、CD40、CD80およびCD86)を発現するので、APCそのものとして代替的に働く可能性があると考えられる。興味深いことに、ADAS細胞はこれらの分子の多くを少なくともP4まで発現しており、このことは、これらのタンパク質はADAS細胞にAPC機能を与えるには十分ではないということ、または能動的免疫抑制などの他の機構が免疫原性に優先する可能性があることを示唆している。本研究では、ADAS細胞はMLRにおいてT細胞増殖を有意に抑制することが示された。この性質はP0〜P4細胞で顕著に見られた(平均32%の抑制)が、SVF集団ではそうでもなかった(平均10%の抑制)。結果、すなわち細胞密集に起因する抑制を人為的に解釈することのないように、MLRにおける応答細胞と被検細胞との比率を非常に高くして(80:1)抑制実験を実施した。対照とした脾臓線維芽細胞は、この比率では抑制性を示さなかった。ADAS細胞による抑制をBMSCと比較したのは、これら2つの細胞型が類似した表現型特性と機能特性を備えており、しかもBMSCは分裂刺激に対するT細胞増殖だけでなくMLRアッセイにおけるT細胞増殖も阻害するその能力により免疫抑制性であることが分かっているからである。実際、ADAS細胞およびBMSCは同程度の抑制を示すことが観察された。本明細書中に提示した結果により、最近Puissantらにより報告された結果(2005 Br. J. Haematol. 129:118-29)が確認および拡張された。
【0211】
BMSCは、肝細胞増殖因子および形質転換増殖因子ベータ、プロスタグランジンおよびインドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼを含む抑制分子を産生することが報告されている。 幾つかの異なる機構が、BMSC媒介性リンパ球増殖抑制の要因であると提唱されている。これらの機構としては、サイクリンD2発現の阻害による活性化T細胞およびB細胞の分裂停止、調節性T細胞またはAPCの誘導、ならびに樹状細胞および細胞傷害性T細胞の成熟への干渉が挙げられる。特定の理論に縛られるつもりはないが、ADAS細胞が媒介する抑制はBMSCの機構と類似した機構を持っている可能性があると考えられる。本明細書中に提示した免疫学的データは、培養増幅した脂肪由来細胞は同種反応性T細胞増殖を刺激するのではなく能動的に抑制することを示しており、このことは、これらの細胞を古典的な組織適合性の壁を越えて移植しうることを示している。BMSCは、免疫能が正常に保たれている同種異系および異種のレシピエントにおいては予想される期間よりも長く生存することが報告されている。移植片を操作して単球を除去することでSVF集団の免疫原性を弱めることができるものの、この集団の免疫原性の性質が原因でSVF細胞の移植が自己適用に限定される恐れがある。しかし、同種異系ADAS細胞を組織修復または組織置換用の細胞の供給源として使用することには、診療時の成体幹細胞の入手し易さならびにそれらの製造および品質保証という実用的および商業的な側面に関わる重要な意味がある。
【0212】
本明細書中に提示した結果は、ヒト脂肪組織に由来する細胞の特性がin vitroでの接着および増幅の関数として変化することを証明するものである。コラゲナーゼ消化および分画遠心法により単離した間質血管系画分細胞は、古典的な造血マーカーの発現に関しては不均一であった。これらの初期細胞のうちの8.1%〜17.6%は、単球/マクロファージならびに汎造血抗原(pan-hematopoietic antigens)CD11a、CD14、CD45、CD86、およびHLA-DRを発現した。4回の連続的な継代後には、1%未満の接着性脂肪由来幹細胞がCD14、CD45、またはCD86を発現したが、CD11aまたはHLA-DRのいずれかを発現した細胞は3%以下に過ぎなかった。これらの免疫表現型の変化は、混合リンパ球反応においてヒト脂肪由来細胞により呈示される免疫原性のレベルと相関関係にあった。間質血管系画分細胞および早期継代の脂肪由来幹細胞 (P0/P1)は同種異系T細胞からの増殖応答を誘発したが、後期継代細胞は誘発できなかった。実際、脂肪由来幹細胞を混合リンパ球反応に加えると、同種異系刺激細胞に対するT細胞の増殖応答が抑制された。本明細書中に提示した結果は、脂肪由来幹細胞を、従来の組織適合性の壁を越えて移植しうることを示している。
【0213】
実施例3:ADAS細胞の選択
本開示内容は、ADAS細胞がヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)を含むがこれらに限定されない幹細胞関連マーカーを発現することを証明するものである。ALDHに関して言えば、ALDHは、ADAS細胞を選択するために使用しうる細胞内酵素である。特定の理論に縛られるつもりはないが、切断可能な基質をADAS細胞に提供することが可能であり、ここで、該基質が切断可能な状態でALDH+ADAS細胞に存在する場合には切断され、その切断された基質がALDH+ADAS細胞の存在を表すシグナルを発すると考えられる。かかるシグナルは、ALDHADAS細胞を選別するために使用しうる蛍光という形をとりうる。
【0214】
本明細書中で引用したありとあらゆる特許、特許出願、および刊行物の開示内容は、参照によりそれらの全内容が本明細書中に含まれるものとする。
【0215】
特定の実施形態を参照しながら本発明を開示してきたが、他の当業者が本発明の真の精神および範囲を逸脱することなく本発明の他の実施形態および変形物を考案しうることは明らかである。添付の特許請求の範囲は、かかる実施形態および等価変形物を全て含むと解釈されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0216】
【図1】図1A〜1Dを含む図1は、脂肪組織に由来する細胞のコロニー形成単位アッセイ(CFU)を表す一連の画像である。これらの画像は、次のコロニーの典型的な染色プロフィールを表している:(図1A)トルイジンブルーCFU-F;(図1B)アルカリホスファターゼCFU-ALP;(図1C)オイルレッドOCFU-Ad;および(図1D)アリザリンレッドCFU-Ob。
【図2】図2は、脂肪由来細胞のフローサイトメトリーによるヒストグラムを表すグラフである。間質血管系画分(SVF)および継代2(P2)の段階における、典型的なドナーから得た、選択した造血、幹細胞、および間質細胞マーカーのフローサイトメトリーによるヒストグラムが呈示されている。染色陽性細胞のパーセンテージは各パネルの右上隅に表示されている。青線は染色陽性細胞を示し、赤線はアイソタイプが一致したモノクローナル抗体コントロールを示す。
【図3】図3Aおよび3Bを含む図3は、脂肪由来細胞の免疫表現型の相対変化を精製および継代の関数として明示した一連の図表である。染色陽性細胞のパーセンテージは、その単離段階および継代数に対して示されている。図3Aは、間質細胞関連マーカーであるCD166、CD73、CD44、およびCD29を表す。図3Bは、幹細胞関連マーカーであるヒト多剤輸送体(ABCG2)およびCD34を表す(図3Aと図3Bでは継代数の順番が逆転している)。
【図4】図4は、脂肪由来細胞のアルデヒド脱水素酵素染色を精製および継代の関数として表した図表である。
【図5】図5は、脂肪由来細胞のフローサイトメトリーによるヒストグラムを表すグラフである。間質血管系画分(SVF)および継代2(P2)段階における、典型的なドナーから得た、選択された造血マーカーのフローサイトメトリーによるヒストグラムが示されている。染色陽性細胞のパーセンテージは各パネルの右上隅に表示されている。青線は染色陽性細胞を示し、赤線はアイソタイプが一致したモノクローナル抗体コントロールを示す。
【図6】図6は、脂肪由来細胞の混合リンパ球反応(MLR)により調べた脂肪由来細胞の免疫原性を精製および継代の関数として表したグラフである。図5は単一ドナーから得た典型的な MLRを表している。T細胞の増殖は、刺激細胞の非存在下、自己放射線照射PBMC(陰性対照)の存在下、同種異系放射線照射PBMC(陽性対照)の存在下、および脂肪由来細胞(SVF、P0〜P4)の存在下で測定した。刺激細胞は、ウェル当たり5,000、10,000、または20,000個という密度で存在していた。
【図7】図7は、二方向混合リンパ球反応における、ヒトSVF細胞およびADAS細胞を含むヒト脂肪由来細胞の免疫抑制効果を明示した図表である。
【図8】図8 は、MLRにより測定した骨髄間質細胞(BMSC)およびADAS細胞の免疫抑制効果を比較した図表である。ADAS群とBMSC群の差は有意ではなかった(p>0.05、スチューデントt検定)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも第2継代まで継代されており、さらにヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)からなる群より選択される幹細胞関連特性を発現する、非免疫原性特性を示す単離された脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞。
【請求項2】
前記細胞が少なくとも第16継代まで継代されたものである、請求項1記載の細胞。
【請求項3】
外来性遺伝子材料が前記細胞に導入されている、請求項1記載の細胞。
【請求項4】
前記細胞がヒトに由来するものである、請求項1記載の細胞。
【請求項5】
前記細胞がそのレシピエントにとって同種異系のものである、請求項1記載の細胞。
【請求項6】
前記細胞がそのレシピエントにとって異種のものである、請求項1記載の細胞。
【請求項7】
移植組織のレシピエントにおいて同種抗原に対するエフェクター細胞の免疫応答を低減するために該レシピエントを処置する方法であって、少なくとも第2継代まで継代されており、さらにヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)からなる群より選択される幹細胞関連特性を発現する非免疫原性特性を示す単離された脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞を、移植組織のレシピエントに、同種抗原に対するエフェクター細胞の免疫応答を低減するのに有効な量で投与し、それによって該移植組織のレシピエントにおいて該同種抗原に対する該エフェクター細胞の免疫応答を低減することを含む、上記方法。
【請求項8】
前記エフェクター細胞がT細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記T細胞がドナーから得たものであり、かつ前記同種抗原がレシピエントから得たものである、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記T細胞がレシピエントから得たものであり、かつ前記同種抗原がドナーから得たものである、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記T細胞が移植組織に存在する、請求項8記載の方法。
【請求項12】
前記エフェクター細胞が、前記ADAS細胞をレシピエントに投与する前に活性化されたT細胞であり、さらに前記免疫応答がドナーから得た前記T細胞の再活性化である、請求項7記載の方法。
【請求項13】
前記ADAS細胞を移植組織のレシピエントに投与することで該レシピエントによる該移植組織の拒絶を処置する、請求項7記載の方法。
【請求項14】
前記ADAS細胞が哺乳動物に由来するものである、請求項7記載の方法。
【請求項15】
前記哺乳動物がヒトである、請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記レシピエントに免疫抑制剤を投与することをさらに含む、請求項7記載の方法。
【請求項17】
前記ADAS細胞を前記移植組織より前にレシピエントに投与する、請求項7記載の方法。
【請求項18】
前記ADAS細胞を、前記移植組織と同時にレシピエントに投与する、請求項7記載の方法。
【請求項19】
前記ADAS細胞を移植組織の一部として投与する、請求項7記載の方法。
【請求項20】
前記ADAS細胞を、移植組織の移植後にレシピエントに投与する、請求項7記載の方法。
【請求項21】
前記ADAS細胞をレシピエントに静脈内投与する、請求項7記載の方法。
【請求項22】
前記エフェクター細胞が、前記ドナー移植組織のレシピエントの細胞である、請求項7記載の方法。
【請求項23】
前記ADAS細胞が遺伝的に改変されている、請求項7記載の方法。
【請求項24】
同種抗原に対するエフェクター細胞による免疫応答を低減する方法であって、少なくとも第2継代まで継代されており、さらにヒト多剤輸送体(ABCG2)およびアルデヒド脱水素酵素(ALDH)からなる群より選択される幹細胞関連特性を発現する非免疫原性特性を示す単離された脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞を、該同種抗原に対する該エフェクター細胞による免疫応答を低減するのに有効な量で、エフェクター細胞に接触させることを含む、上記方法。
【請求項25】
前記エフェクター細胞がT細胞である、請求項24記載の方法。
【請求項26】
脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞を脂肪組織に由来する細胞の集団から単離する方法であって、ABCG2に特異的な抗体を提供すること;脂肪由来細胞の集団に、抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体の形成に適した条件下で該抗体を接触させること;および該抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を該脂肪由来細胞の集団から実質的に分離すること;それによって該脂肪組織由来間質細胞を単離すること、を含む上記方法。
【請求項27】
前記抗体が物理的支持体にコンジュゲート化されている、請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記物理的支持体が、マイクロビーズ、磁気ビーズ、パンニング表面、密度遠心分離用の高密度粒子、吸着カラムおよび吸着膜からなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項29】
前記物理的支持体が、ストレプトアビジンビーズおよびビオチンビーズからなる群より選択される、請求項27記載の方法。
【請求項30】
前記抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を、蛍光活性化セルソーティング(FACS)および磁気活性化セルソーティング(MACS)からなる群より選択される方法を用いて前記の脂肪由来細胞の集団から実質的に分離する、請求項26記載の方法。
【請求項31】
脂肪組織由来間質細胞を脂肪由来細胞の集団から濃縮する方法であって、ABCG2に特異的な抗体を提供すること;脂肪由来細胞の集団に、抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体の形成に適した条件下で該抗体を接触させること;および該抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を該脂肪由来細胞の集団から実質的に分離すること;それによって該脂肪組織由来間質細胞を単離すること、を含む上記方法。
【請求項32】
前記抗体が物理的支持体にコンジュゲート化されている、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記物理的支持体が、マイクロビーズ、磁気ビーズ、パンニング表面、密度遠心分離用の高密度粒子、吸着カラムおよび吸着膜からなる群より選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記物理的支持体が、ストレプトアビジンビーズおよびビオチンビーズからなる群より選択される、請求項32記載の方法。
【請求項35】
前記抗体-脂肪組織由来間質細胞複合体を、蛍光活性化セルソーティング(FACS)および磁気活性化セルソーティング(MACS)からなる群より選択される方法を用いて前記の脂肪由来細胞の集団から実質的に分離する、請求項31記載の方法。
【請求項36】
ALDH陽性の脂肪組織由来成体間質(ADAS)細胞を脂肪組織に由来する細胞の集団から同定する方法であって、ALDHに特異的な切断可能な基質を該細胞の集団に提供することを含み、ここで該基質はALDH+細胞にそのように存在する場合には切断され、さらに切断された該基質は蛍光を発し、それによってALDH+ADAS細胞を同定する、上記方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2009−501526(P2009−501526A)
【公表日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−521677(P2008−521677)
【出願日】平成18年7月14日(2006.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2006/027515
【国際公開番号】WO2007/011797
【国際公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【出願人】(507077592)コグネート セラピューティクス,インコーポレーテッド (5)
【出願人】(508013434)ボード オブ スーパーバイザーズ オブ ルイジアナ ステイト ユニバーシティ アンド アグリカルチュラル アンド メカニカル カレッジ (2)
【Fターム(参考)】