説明

ヒドロキシメチルジフェニルオキシラン及び対応する1−アゾリルメチル−1,2−ジフェニルオキシランを製造する方法

本発明はエポキシ化と還元により、2,3-ジフェニルプロペナールから1-ヒドロキシメチル-1,2-ジフェニルオキシランを製造する方法に関する。好ましくない副生成物の形成は、還元を2,3-ジフェニルプロペナールが完全に変換される前に開始すると抑制することができる。ヒドロキシメチルジフェニルオキシランは1-アゾリルメチル-1,2-ジフェニルオキシランを製造するための有用な中間体生成物であり、ここで、1-アゾリルメチル-1,2-ジフェニルオキシランは、アゾリル基を導入することにより前記中間体生成物から容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は2,3-ジフェニルプロペナールから、エポキシ化及び還元により1-ヒドロキシメチル-1,2-ジフェニルオキシランを調製する方法に関する。ヒドロキシメチルジフェニルオキシランは1-アゾリルメチル-1,2-ジフェニルオキシランの調製のための有用な中間体であり、1-アゾリルメチル-1,2-ジフェニルオキシランは、アゾリル基の導入によりヒドロキシメチルジフェニルオキシランから容易に調製することができる。従って、本発明は、さらに1-アゾリルメチル-1,2-ジフェニルオキシランを調製するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
アゾリルメチルジフェニルオキシランは工業的に非常に重要である。特に、薬学と作物保護の分野において、この構造群から多数の活性化合物が発見されている。従って、例えば、作物保護の分野から、殺菌性及び、場合によって成長調節性も有するエポキシコナゾール等の1-(1,2,4-トリアゾール-1-イルメチル)-1,2-ジフェニルオキシランをここで挙げることができる。
【0003】
ヒドロキシメチルジフェニルオキシランを調製する方法は、一般に公知であり、例えば、過酸化物と特定の触媒を使用するジフェニルプロペノールのエポキシ化(review: A. Pfenninger, 「Asymmetric Epoxidation of Allylic Alcohols: The Sharpless Epoxidation」, Synthesis 1986, 89)による。しかし、一般に、フェニル基に対してトランス位で置換された好ましいジフェニルプロペノールは得難く、或いは、工業規模では、合成条件が妥当な支出で実現できない。
【0004】
ヒドロキシメチルジフェニルオキシランは、適当に置換された2,3-ジフェニルプロペナールをエポキシ化により1-ホルミル-1,2-ジフェニルオキシランへと変換し、その後、それを還元して1-ヒドロキシメチル-1,2-ジフェニルオキシランを得ることにより優れた収率で調製できることが知られている。例えば、EP 330132、EP 332073、EP 334035、EP 352673、EP 352675及びEP 421125は、置換された2,3-ジフェニルプロペナール(例えば、2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナール)の対応するホルミルオキシランへのエポキシ化、及びその後の1-ヒドロキシメチル-1,2-ジフェニルオキシランへの還元の例を開示する。
【0005】
しかし、エポキシ化及び還元時に副生成物が生成する。特に、例えば、エポキシコナゾールを調製するために必要であるもののように置換された2,3-ジフェニルプロペナールを使用すると、ある種の親油性副生成物(これは、前記の2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナールの反応の場合構造A
【化1】

【0006】
を有する)が相当量生成する。特に厄介なことに、この副生成物は、汚染されたヒドロキシメチルジフェニルオキシランが通常の方法で目的とするアゾリルメチルジフェニルオキシランへ変換されると、実際の有用な生成物アゾリルメチルジフェニルオキシラン中にも見出される。この副生成物はアゾリルメチルジフェニルオキシランの性質に悪影響を及ぼすので、有用な生成物の高価な精製が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】EP330132
【特許文献2】EP332073
【特許文献3】EP334035
【特許文献4】EP352673
【特許文献5】EP352675
【特許文献6】EP421125
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Synthesis 1986, 89
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は前記親油性副生成物の量が減少したヒドロキシメチルジフェニルオキシランを調製する方法を提供することである。有用な生成物に対して1重量%未満、好ましくは0.6重量%未満の含有量が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的は請求項1による方法により達成される。本方法の特定の態様は特許請求の範囲の請求項2〜5、10及び13〜15の対象である。
【0011】
ここで、式(V):
【化2】

【0012】
[式中、
R1、R2は互いに独立してフェニルであり、ここで、それぞれのフェニル基は他から独立してハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C4-アルキル、ハロ-C1-C4-アルキル、ヒドロキシル、C1-C4-アルコキシ、ハロ-C1-C4-アルコキシ、メルカプト、C1-C4-アルキルチオ、ハロ-C1-C4-アルキルチオ、スルフィニル、スルホニル、C1-C4-アルキルスルホニル、フェニルスルホニル、フェニル、フェノキシ、アミノ、C1-C4-アルキルアミノ、ジ-C1-C3-アルキルアミノ、-NHCO-C1-C3-アルキル、-NHCOO-C1-C4-アルキル、-COO-C1-C4-アルキル及び-CONH-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、ここで、置換基フェニル、フェノキシ及びフェニルスルホニルのそれぞれは、他から独立してハロゲン及びC1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく;
R5は水素又はメチルである]
の2,3-プロペナールはエポキシ化されて式(IV):
【化3】

【0013】
(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
のホルミルオキシランを与え、式(IV)のホルミルオキシランは還元されて式(III):
【化4】

【0014】
(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
のヒドロキシメチルオキシランを与え、該方法は還元を反応混合物中の使用される式(V)の化合物の量が少なくとも2mol%である間に開始することを特徴とする。
【0015】
従って、本発明による方法は、式(V)の2,3-プロペナールが完全に変換される前に還元を開始することを特徴とする。
【0016】
得られた式(III)のヒドロキシメチルオキシランは大幅に少ない前記親油性副生成物を含む。好ましくは、副生成物の量は1重量%未満、特に0.6重量%又は0.5重量%未満である。かかる結果は予期しないものであった。
【0017】
得られたヒドロキシメチルオキシランは有用な中間体であるので、前記のように、本発明による方法について、多数の利用がある。従って、さらに、本発明による方法は請求項6に記載の方法、すなわち、式(I):
【化5】

【0018】
[式中、
XはN又はCHであり;
R3、R4は互いに独立して水素、ハロゲン、C1-C6-アルキル、メルカプト、-S-CN、C1-C6-アルキルチオ、C2-C6-アルケニルチオ、C6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ又はC6-C12-アリールチオであり、ここでC2-C6-アルケニルチオはハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、C6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ中のアリールはハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜5個の置換基を有していてもよく;
R1、R2及びR5は本明細書に記載される意味の1つを有する]
のアゾリルメチルオキシランを調製する方法の一部であることもできる。
【0019】
本方法の特定の態様は特許請求の範囲の請求項7〜15の対象である。
【0020】
追加の工程として、かかる方法はアゾリル基の式(III)の化合物への導入を含み、ここで、一般に、ヒドロキシル基は好適な離核性(nucleofugic)基により置換され、その後望ましいアゾリル化合物と反応させる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
エポキシ化反応のための出発原料(すなわち、式(V)の2,3-ジフェニルプロペナール)はそれ自体が公知の方法で調製することができる。例えば、好適なフェニルグリオキサールO,O-アセタールを、(a)ホーナー・ワズワース・エモンズ(Horner, Wadsworth and Emmons)によりジアルキルフェニルホスホナートと(W.S. Wadsworth, Synthetic Applications of Phosphoryl-Stabilized Anions, Org. Reactions 25, 73 (1977));(b)ウィッティヒ(Wittig)によりハロゲン化ベンジルトリフェニルホスホニウムと(M. Ogata et al., Eur. J. Med. Chem. 24 (1989) 137);又は(c)グリニャール類似のW. Madlung及びM. E. Oberwegner, Chem. Ber. 65, 936 (1936)によりベンジルマグネシウムハロゲン化物と反応させることができる。さらに、2,3-ジフェニルプロペナールを調製するために、変形として、d)WO 2005056498 A2による、アリールアルキルアルデヒドとアリールアルデヒドのアルドール縮合を利用でき、フェニル基に対してシス-位で置換された2,3-ジフェニルプロペナールを与え、該プロペナールは容易にエポキシ化される。
【化6】

【0022】
エポキシ化はそれ自体が公知の方法で行うことができる。
【0023】
エポキシ化のための通常の酸化剤はヒドロペルオキシド、例えば、過酸化水素、tert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、tert-アミルヒドロペルオキシド及びトリチルヒドロペルオキシド、酸素分子、過炭酸塩、過ホウ酸塩及びペルオキシカルボン酸、例えば過安息香酸、meta-クロロ過安息香酸、4-ニトロ過安息香酸、モノペルフタル酸、過酢酸、ペルプロピオン酸、ペルマレイン酸、モノ過コハク酸及びトリフルオロ過酢酸、さらに塩、特に過カルボン酸、過ホウ酸及び過酸のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩、例えば、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウム又はペルオキソ一硫酸カリウムを含む。好ましいのは立体的にかさ高い(demanding)ヒドロペルオキシド、例えば、tert-ブチルヒドロペルオキシドであり、好ましいトランス-オキシランの立体選択的な形成をもたらす。
【0024】
酸化剤は、一般に、式(V)の2,3-プロペナールに対し少なくとも等モル量で、好ましくは過剰に使用される。酸化剤対式(V)の2,3-プロペナールのモル比は、好ましくは3:1〜1:1、特に好ましくは2:1〜1:1、特に1.5:1〜1:1である。立体的にかさ高いヒドロペルオキシド(例えばtert-ブチルヒドロペルオキシド)は、好ましくは1.2:1〜1:1のモル比で使用される。
【0025】
エポキシ化は、好ましくは塩基性の範囲のpH、例えばpH7.1〜14、好ましくはpH10〜13で行われる。望ましいpHに調整するため、一般に、好適な塩基を反応媒体に加える。好適な塩基は、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム又は水酸化カルシウム、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム又は炭酸カルシウム、特にアルカリ金属及びアルカリ土類金属重炭酸塩、例えば重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム、重炭酸マグネシウム又は重炭酸カルシウムである。塩基性のpHに設定することは触媒として作用するので、加えられた塩基は触媒とも呼ばれる。
【0026】
塩基は、反応媒体が少なくともpH7.1、例えばpH7.1〜14、好ましくは少なくともpH10、例えばpH10〜13になるような量で使用される。過酸化水素が使用される場合、塩基は過酸化水素が好ましくは完全に(HOO-へ)脱プロトン化される量で使用される。
【0027】
エポキシ化は水性又は非水性媒体中で行うことができる。無機塩基が使用される場合、特に水性系が有利であり得る。有機溶媒に溶解する有機塩基が使用される場合、エポキシ化は、好ましくは非水性媒体中で行われる。この場合、好適な有機溶媒はエポキシ化反応中不活性である溶媒である。好適な有機溶媒の例はC1-C4-アルカノール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノール、環状及び開鎖(open-chain)エーテル、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル等、ハロゲン化炭化水素、例えばメチレンクロリド、クロロホルム又は四塩化炭素、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン及びキシレン、カルボン酸誘導体、例えばジメチルホルムアミド及びエチルアセテート、ニトリル、例えばアセトニトリル及びプロピオニトリル、並びにジメチルスルホキシドである。
【0028】
エポキシ化は、好ましくは最初に式(V)の2,3-ジフェニルプロペナールを入れ、酸化剤と、場合によって塩基を加えることにより行う。ここで、酸化剤と塩基の添加は別々に又は一緒に、一度に又は好ましくは少しずつ行うことができる。特に、全部の塩基を最初に加えてもよく、その後、酸化剤を少しずつ加えてもよい。
【0029】
エポキシ化中、反応温度は、一般に-20〜+80℃、好ましくは-0〜60℃、特に20℃〜35℃である。
【0030】
本発明によると、エポキシ化反応生成物は単離されないが、エポキシ化がまだ進行している中でも、反応混合物は還元に供される。この目的のため、エポキシ化反応の進行を、例えば、出発原料(すなわち式(V)の2,3-ジフェニルプロペナール)の変換によりモニターすることができる。
【0031】
本発明によると、前記の親油性副生成物の形成を防止するため、還元は少なくとも約2、3、4又は5mol%、特に少なくとも約7.5mol%、特定の条件下において、少なくとも約10mol%のエポキシ化反応に最初に導入された出発原料(すなわち式(V)の2,3-ジフェニルプロペナール)がまだ反応混合物中に存在している(すなわち、まだ反応していない)間に開始される。一方、特に、ジフェニルプロペナールの還元からの起こり得る副生成物の形成と付随する全収率の損失の点から、エポキシ化反応がすでにある程度進行した時点でのみ反応を開始することが適切である。従って、一般に、還元は約80mol%よりも多い、好ましくは約85mol%よりも多い、特に約90mol%よりも多いエポキシ化反応に最初に導入された式(V)の2,3-ジフェニルプロペナールが反応した時、すなわち、反応混合物中の2,3-ジフェニルプロペナールの量が、エポキシ化反応に最初に導入された式(V)の2,3-ジフェニルプロペナールの20mol%未満、好ましくは約15mol%未満、特に約10mol%未満である時に開始することができる。副生成物Aを最も完全に抑制すること、及び可能な最も高い全体量を達成することという2つの相反する目的を考慮すると、約2.5mol%〜15mol%、好ましくは約3mol%〜12mol%、特に約5mol%〜10mol%のエポキシ化反応に最初に導入された原料物質(すなわち式(V)の2,3-ジフェニルプロペナール)がまだ反応混合物中に存在している間に還元が開始されるように反応を行うことが特に有利である。
【0032】
反応混合物中の2,3-ジフェニルプロペナールの量は、それ自体が公知の方法、例えば、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)で決定することができ、反応の進み具合を全段階でモニターすることを可能にする。
【0033】
還元は、例えば、錯体ヒドリド又は非錯体金属及び半金属ヒドリドを使用して行うことができる。錯体ヒドリドは、一般に、少なくとも1個のヒドリド配位子を含む荷電した金属錯体を意味するとして理解される。これらの例はリチウムアルミニウムヒドリド(LiAlH4)、LiAlH(O-tert-ブチル)3、LiAlH(O-メチル)3、NaAlEt2H2、ナトリウムボロヒドリド(NaBH4)等である。非錯体金属及び半金属ヒドリドの例はボラン、例えばBH3、9-BBN(9-ボラビシクロ[3.3.1]ノナン)及びジシアミルボラン、AlH3、DIBAL-H(AlH(イソブチル)2)等である。
【0034】
好ましい還元剤は前記錯体ヒドリド及び非錯体金属及び半金属ヒドリドであり、これらの中で、特に好ましいのはアルカリ金属ボロヒドリド、例えば、ナトリウムボロヒドリドである。
【0035】
一般に、還元剤は、式(V)の2,3-プロペナールに対して少なくとも等モル量で、特に好ましくは過剰に使用される。好ましくは還元剤対式(V)の2,3-プロペナールのモル比は3:1〜1:1、特に好ましくは2:1〜1:1、特に1.5:1〜1:1である。
【0036】
還元は、好ましくは塩基性範囲のpH、例えば、pH7.1〜14、好ましくはpH10〜13で行う。望ましいpHに設定するため、一般に、好適な塩基を反応媒体に加える。好適な塩基は、例えば、アルカリ金属及びアルカリ土類金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム又は水酸化カルシウム、アルカリ金属及びアルカリ土類金属炭酸塩、例えば炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム又は炭酸カルシウム、弱酸のアルカリ金属塩、例えばホウ酸塩及び有機塩基、例えば、水酸化第四級アンモニウム及び特定の第三級アミン、例えばジアザビシクロオクタン(DABCO)、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ペンタメチルグアニジン又は環状ホスホラン塩基、例えばBEMPである。塩基性pHに設定することは触媒として作用するので、加えられた塩基は触媒とも呼ばれる。
【0037】
塩基は、反応媒体が少なくともpH7.1、例えばpH7.1〜14、好ましくは少なくともpH10、例えばpH10〜13になる量で使用される。しかし、ここで、強塩基、例えばNaOH、KOH又は水酸化第四級アンモニウムの濃度が高すぎると、前記の副生成物の形成の増加につながるという事実に注意を払わなければならない。
【0038】
本発明によると、形成したホルミルオキシランは単離されないので、還元はエポキシ化に使用される反応媒体中で行う。しかし、還元剤の添加前、添加中又は添加後にさらに溶媒を加えることが適切であり得る。この溶媒はエポキシ化に使用される溶媒と異なる溶媒であってもよく、反応混合物を希釈し、かつ/又はヒドロキシメチルオキシランの形成及び/又は単離に好ましい条件を確立する役割をすることができる。好適な溶媒は、例えば、好ましくは5〜8個の炭素原子を有する脂肪族炭化水素、例えば、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン若しくはシクロオクタン又は工業用アルカン又はシクロアルカン混合物、芳香族炭化水素、例えばベンゼン、トルエン及びキシレン、好ましくは4〜8個の炭素原子を有する脂肪族非環状及び環状エーテル、例えば、ジエチルエーテル、メチルtert-ブチルエーテル、エチルtert-ブチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン又は前記溶媒の混合物である。特に好ましいのは前記エーテル又は芳香族炭化水素を使用することである。
【0039】
反応は、好ましくは、場合によってさらなる溶媒を加え、還元剤と場合によって塩基を加えることにより行われる。ここで、還元剤と塩基の添加は、別々に又は一緒に、一度に又は好ましくは少しずつ行うことができる。特に、全ての塩基を最初に加えてもよく、その後、還元剤を少しずつ加えてもよい。
【0040】
還元中、反応温度は一般に-20〜+80℃、好ましくは-0〜60℃、特に20℃〜35℃である。
【0041】
還元反応で得られた反応混合物のワークアップは、通常の方法で、例えば、例えばプロトン性溶媒、例えば水又はC1-C3-アルコール、例えばメタノール、エタノール、プロパノール若しくはイソプロパノールを反応混合物に加えることにより未反応の還元剤を不活性化し、続いて、例えば、抽出、クロマトグラフィー等により精製することにより行うことができる。
【0042】
ヒドロキシメチルオキシランをさらに反応させることについて、とりわけ、高純度の生成物を得るために、抽出及び洗浄の後に得られたヒドロキシメチルオキシランの溶液を直接使用することができる。
【0043】
従って、式(I)のアゾリルメチルオキシランの前記の調製は、例えば、式(II)
【化7】

【0044】
(式中、R1、R2及びR5は本明細書に記載された通りであり、Lは求核置換性(nucleophilically substitutable)脱離基である)
の化合物を、式(VI)
【化8】

【0045】
(式中、R3、R4及びXは本明細書に記載される通りである)
の化合物と、又は式(VI)の化合物の塩基付加塩と反応させることにより行うことができる。
【0046】
さらなる関連のある詳細は、例えば、EP 0352675 A2に見出すことができ、その全体は本明細書に組み込まれる。
【0047】
従って、本反応は塩基、溶媒又は希釈剤の存在下で、かつ/又は反応促進剤を添加して10〜120℃の温度で行うことができる。
【0048】
好適な溶媒及び希釈剤は、ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトン又はシクロヘキサノン、ニトリル、例えばアセトニトリル又はプロピオニトリル、アルコール、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール又はグリコール、エステル、例えばエチルアセテート、メチルアセテート又はブチルアセテート、エーテル、例えばテトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、ジオキサン若しくはジイソプロピルエーテル、アミド、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド若しくはN-メチルピロリドン、さらにジメチルスルホキシド、スルホラン又は適切な混合物を含む。
【0049】
本反応において場合によって酸結合剤として使用することもできる好適な塩基は、例えば、アルカリ金属水酸化物、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム、アルカリ金属炭酸塩、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム若しくは炭酸セシウム、又は重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム若しくは重炭酸セシウム、ピリジン或いは4-ジメチルアミノピリジンである。しかし、他の通常の塩基を使用することもできる。
【0050】
好適な反応促進剤は、好ましくは金属ハロゲン化物、例えば、ヨウ化ナトリウム又はヨウ化カリウム、第四級アンモニウム塩、例えば、テトラブチルアンモニウムクロリド、テトラブチルアンモニウムブロミド、テトラブチルアンモニウムヨージド又はテトラブチルアンモニウム硫酸水素塩、ベンジルトリエチルアンモニウムクロリド又はベンジルトリエチルアンモニウムブロミド或いはクラウンエーテル、例えば12-クラウン-4、15-クラウン-5、18-クラウン-6、ジベンゾ-18-クラウン-6又はジシクロヘキサノ-18-クラウン-6である。
【0051】
本反応は、例えば、20〜150℃の温度で、大気圧又は大気圧よりも高い(superatmospheric)圧力下で、連続的に又はバッチ式で行う。
【0052】
金属カチオンを有する式(VI)の化合物の塩基付加塩が使用される場合、溶媒又は希釈剤の存在下で、無機又は有機強塩基を加え、-10〜120℃の温度で反応を行うことが適切である。この場合、好ましい溶媒及び希釈剤は、アミド、例えばジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド、スルホキシド、例えば、ジメチルスルホキシド、そしてスルホランを含む。本反応において、場合によって酸結合剤としても使用できる好適な強塩基は、例えば、アルカリ金属ヒドリド、例えばリチウムヒドリド、ナトリウムヒドリド及びカリウムヒドリド、アルカリ金属アミド、例えばナトリウムアミド及びカリウムアミド、さらにナトリウムtert-ブトキシド又はカリウムtert-ブトキシド、リチウムトリフェニルメチル、ナトリウムトリフェニルメチル又はカリウムトリフェニルメチル及びナフタレンリチウム、ナフタレンナトリウム又はナフタレンカリウムである。
【0053】
式(II)(式中、Lは求核置換脱離基、例えばハロゲン、C1-C6-アルキル-SO2-O-又はアリール-SO2-O-である)の化合物は、例えば、式(III)の化合物中のCH2OH基を好適な脱離基へと、例えば、基CH2L(式中、Lは前記の意味の1つを有する)へと変換することにより得ることができる。脱離基中のアルコール官能基の変換は一般に知られており、例えばOrganicum, VEB Deutscher Verlag der Wissenschaften, 17th edition, Berlin, 1988, page 179 ffに記載されており、その全体は本明細書によって組み込まれる。
【0054】
C1-C6-アルキルは1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルキル基である。その例は、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、2-ブチル、イソブチル又はtert-ブチルである。C1-C2-アルキルはメチル又はエチルであり、C1-C3-アルキルは、さらにn-プロピル又はイソプロピルである。
【0055】
ハロ-C1-C4-アルキルは、例えば、ハロメチル、ジハロメチル、トリハロメチル、(R)-1-ハロエチル、(S)-1-ハロエチル、2-ハロエチル、1,1-ジハロエチル、2,2-ジハロエチル、2,2,2-トリハロエチル、(R)-1-ハロプロピル、(S)-1-ハロプロピル、2-ハロプロピル、3-ハロプロピル、1,1-ジハロプロピル、2,2-ジハロプロピル、3,3-ジハロプロピル、3,3,3-トリハロプロピル、(R)-2-ハロ-1-メチルエチル、(S)-2-ハロ-1-メチルエチル、(R)-2,2-ジハロ-1-メチルエチル、(S)-2,2-ジハロ-1-メチルエチル、(R)-1,2-ジハロ-1-メチルエチル、(S)-1,2-ジハロ-1-メチルエチル、(R)-2,2,2-トリハロ-1-メチルエチル、(S)-2,2,2-トリハロ-1-メチルエチル、2-ハロ-1-(ハロメチル)エチル、1-(ジハロメチル)-2,2-ジハロエチル、(R)-1-ハロブチル、(S)-1-ハロブチル、2-ハロブチル、3-ハロブチル、4-ハロブチル、1,1-ジハロブチル、2,2-ジハロブチル、3,3-ジハロブチル、4,4-ジハロブチル又は4,4,4-トリハロブチルである。これはハロアルコキシ及びハロ-アルキルチオにも同様に適用される。
【0056】
ヒドロキシ-C1-C4-アルキルは、例えば、ヒドロキシメチル、(R)-1-ヒドロキシエチル、(S)-1-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシエチル、(R)-1-ヒドロキシプロピル、(S)-1-ヒドロキシプロピル、2-ヒドロキシプロピル、3-ヒドロキシプロピル、(R)-2-ヒドロキシ-1-メチルエチル、(S)-2-ヒドロキシ-1-メチルエチル、2-ヒドロキシ-1-(ヒドロキシメチル)エチル、(R)-1-ヒドロキシブチル、(S)-1-ヒドロキシブチル、2-ヒドロキシブチル、3-ヒドロキシブチル又は4-ヒドロキシブチルである。
【0057】
本発明において、ハロゲンはフッ素、塩素、臭素又はヨウ素である。フェニル基の好ましい置換基はフッ素及び塩素である。これはハロアルキル及びハロアルコキシにも同様に適用される。
【0058】
C2-C6-アルケニルは2、3、4、5又は6個の炭素原子を有する一価不飽和炭化水素基であり、例えばビニル、アリル(2-プロペン-1-イル)、1-プロペン-1-イル、2-プロペン-2-イル又はメタリル(2-メチルプロパ-2-エン-1-イル)である。
【0059】
C6-C12-アリールは6-〜12-員、特に6-〜10-員芳香族環状基である。これは、例えば、フェニル及びナフチルを含む。
【0060】
「…からなる群から選択される1〜3又は1〜5個の置換基により置換された」の表現は「…からなる群から選択される1、2若しくは3、又は1、2、3、4若しくは5個の置換基により置換された」ことを意味し、ここで置換基は同一であっても、或いは異なっていてもよい。
【0061】
好ましくは、出発原料、中間体及び最終生成物中の全ての基Rxは、エポキシ化及び還元条件に対して安定である。しかし、必要な場合には、不安定な基を、好適な基を導入することにより一時的に保護してもよい。
【0062】
本発明による出発原料、中間体及び最終生成物において、R1及びR2は、特に、ハロゲン、ニトロ、C1-C4-アルキル、C1-C4-アルコキシ、フェノキシ、アミノ、ハロ-C1-C2-アルキル及びフェニルスルホニルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有するフェニルである。R1及びR2が互いに独立して1〜3個のハロゲン原子を有するフェニルである最終生成物及び中間体が特に強調される。例えば、R1は4-フルオロフェニルであり、R2は2-クロロフェニルである。好ましくは、R1は2-クロロフェニルであり、R2は4-フルオロフェニルである(エポキシコナゾールのような)か、或いはR1は2-クロロフェニルであり、R2は2,4-ジフルオロフェニルである。
【0063】
本発明による出発原料、中間体及び最終生成物において、R3及びR4は、特に水素である。別の特定の実施形態によると、R3は、特に水素であり、R4は、特にメルカプト、-S-CN、C1-C6-アルキルチオ、C2-C6-アルケニルチオ(例えばアリルチオ)又はC6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ(例えばベンジルチオ)であり、ここで、C2-C6-アルケニルチオ(例えばアリルチオ)はハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、C6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ(例えばベンジルチオ)中のアリール(例えばフェニル)はハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜5個の置換基を有していてもよい。
【0064】
本発明による出発原料、中間体及び最終生成物において、R5は特に水素である。
【0065】
本発明の特定の実施形態によると、本発明は[1,2,4]トリアゾール-1-イルメチルオキシラン(すなわち、Xは窒素原子である)を調製するための方法に関する。
【0066】
式(I)のアゾリルメチルオキシランは、特に式(Ia)
【化9】

【0067】
(式中、R3及びR4は本明細書に記載される通りであり、好ましくは水素である)
の化合物である。
【0068】
本発明の別の特定の実施形態によると、式(I)のアゾリルメチルオキシランは式(Ib)
【化10】

【0069】
(式中、R3及びR4 は本明細書に定義される通りであり、R3は好ましくは水素であり、R4は好ましくはメルカプト、-S-CN、C1-C6-アルキルチオ、C2-C6-アルケニルチオ(例えば、アリルチオ)又はC6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ(例えばベンジルチオ)であり、ここでC2-C6-アルケニルチオ(例えば、アリルチオ)はハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、C6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ(例えばベンジルチオ)中のアリール(例えばフェニル)はハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜5個の置換基を有していてもよい)
の化合物である。
【0070】
本発明の出発原料、中間体及び最終生成物は1個以上の不斉中心を有する。従って、それらは光学活性化合物として、多くの場合、エナンチオマー混合物として得られる。化合物1-[3-(2-クロロフェニル)-2-(4-フルオロフェニル)オキシラニル]メチル-1H-[1,2,4]トリアゾールの(2R,3S)-と(2S,3R)-エナンチオマーのラセミ化合物が慣用名「エポキシコナゾール」として知られている。これらの化合物と類似化合物は4つの光学活性エナンチオマーの形態で存在することができ、その2つはシス-異性体と呼ばれ、2つはトランス-異性体と呼ばれる。
【化11】

【0071】
本発明による方法はこれらの全ての異性体の、混合物としての、及び、純粋な形態の両方の調製を含む。この目的で、適切な出発原料を選択し、中間体又は最終生成物を分離し、かつ/又は反応が立体配置を保持して進行するように反応条件を選択することが必要であり得る。本発明による方法を行うと、例えばエナンチオ選択的エポキシ化により、特定の立体配置を目的に応じてもたらすことができる。
【0072】
以下に記載する実施形態は本発明を限定することなく、より詳細に例示する目的である。
【実施例】
【0073】
実施例1 式(V)の2,3-プロペナールの調製
実施例1.1 ホーナー・エモンズ(Horner and Emmons)によるフェニルグリオキサールO,O-アセタールとジアルキルベンジルホスホネートの反応
実施例1.1.1 2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナールの調製
40℃で、カリウムtert-ブトキシド27.2g(0.24mol)を乾燥ジメチルホルムアミド300mlに溶解した4-フルオロフェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタール(純度96%)42.4g(0.2mol)に加えた。その後、窒素気流下で、混合物を100〜110℃に加熱し、ジエチル(2-クロロベンジル)-ホスホネート58g(0.22mol)を60分間かけて液滴で加えた。さらに15〜30分間撹拌を続け、この間、混合物をHPLCにより4-フルオロフェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタールの完全変換をチェックした。その後、10%濃度の塩化ナトリウム溶液約1000mlを加え、混合物を塩化メチレン200mlで3回抽出した。洗浄し、乾燥した後、溶媒を蒸発させ、MeOH 150mlと16%濃度の塩酸20mlを残渣に加えた。約30分後、沈殿物を別の追加の水(20〜30ml)により、終了させ、沈殿物を吸引濾別し、メタノール/水(3:1)の混合物を使用して無酸性で洗浄した。乾燥すると、2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナール48g(収率 91.7%、融点 87〜89℃、シス-異性体21%)が得られた。
【0074】
実施例1.1.2 2-(フェニル)-3-(フェニル)プロペナールの調製
実施例1.1.1と同様に、フェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタールをジエチルベンジルホスホネート(融点90〜92℃)と反応させた。
【0075】
実施例1.1.3 2-(4-クロロフェニル)-3-(フェニル)プロペナールの調製
実施例1.1.1と同様に、4-クロロフェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタールをジエチルベンジルホスホネート(融点82〜84℃)と反応させた。
【0076】
実施例1.1.4 2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-トリフルオロメチルフェニル)プロペナールの調製
実施例1.1.1と同様に、4-フルオロフェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタールをジエチル(2-トリフルオロメチルベンジル)ホスホネートと反応させた。しかし、アセタールの加水分解後、生成物を蒸留(0.25mbarで沸点112〜114℃)によりワークアップしなければならなかった。
【0077】
実施例1.2 ウィッテヒ(Wittig)によるフェニルグリオキサールO,O-アセタールとベンジルトリフェニルホスホニウムハロゲン化物の反応
実施例1.2.1 2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナールの調製
5〜10℃で、乾燥メタノール75ml中のカリウムtert-ブトキシド15.9gを乾燥メタノール200ml中の2-クロロベンジルトリフェニル-ホスホニウムクロリド42.44g(0.1mol)の溶液へと入れ、約30分後、メタノール25ml中の4-フルオロフェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタール(純度96%)20.2g(0.095mol)を加えた。65℃で、リフラックス下で2時間後、混合物を冷却させ、沈殿した塩を濾別し、溶媒を母液から取り除いた。その後、残渣を石油エーテル又はメチルtert-ブチルエーテル/シクロヘキサン(1:3)で繰り返し消化(digest)してトリフェニルホスフィンオキシドを分離し、溶液をもう1度蒸発により濃縮した。O,O-アセタールの加水分解と最終生成物の沈殿を実施例1.1で記載した通りに行った。これにより、2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナール21.1gが得られた(収率84.5%、融点79-84℃、シス-異性体56%)。
【0078】
実施例1.3 グリニャール(Grignard)によるフェニルグリオキサールO,O-アセタールとベンジルマグネシウムハロゲン化物の反応
実施例1.3.1 2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナールの調製
25〜35℃で、2-クロロベンジルクロリド5gとエチルブロミド0.2mlを数分かけて無水エーテル20ml中の削り粉マグネシウム(magnesium turning)10.6g(0.44mol)に加えた。反応開始後、無水エーテル200ml中の2-クロロ-ベンジルクロリド59.8g(0.369mol)の溶液を液滴で加えた。その後、グリニャール溶液を過剰なマグネシウムからデカンテーションし、0℃で最初に入れた。その後、乾燥トルエン400mlに溶解させた4-フルオロフェニルグリオキサールO,O-ジメチルアセタール71g(0.35mol)を反応温度が5℃未満に維持されるように液滴で加え、混合物を、アセタールが完全に変換されるまで(HPLC)(約2時間)攪拌した。
【0079】
その後、混合物を氷約50gに注ぎ、16%濃度の塩酸を、形成した沈殿物が丁度溶解するように加えた。エーテルを含む(Etherol)相を分離し、水相をメチルtert-ブチルエーテル100mlでさらに2回抽出した。ロータリーエバポレーターでの溶媒の除去に続いて、残渣をメタノール300mlと16%濃度の塩酸40ml中で処理し、得られた沈殿物をさらに水(約50ml)を使用して完了させた。これにより、2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナール73gが得られた(収率69.7%、融点82〜85℃、シス-異性体46%)。
【0080】
実施例2 式(III)のヒドロキシメチルオキシランの調製
実施例2.1 別々に行われるエポキシ化と還元
実施例1.1.1で得られた2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナール(DPP)125g(0.479mol)をメタノール300mlに溶解させ、NaOH(48%濃度)2.7ml(0.05mol)を加えた。その後、120分間かけてtert-BuOOH(70%)66g(0.512mol)を温度が31℃に維持されるように液滴で滴下し、その後、混合物をさらに90分間攪拌してエポキシ化を終了させた
(全反応時間=210分、DPP変換:98.8%)
その後、混合物をトルエン100mlで希釈し、Borol溶液(40%濃度NaOH中にNaBH45.29gを含む12.5%濃度のNaBH4溶液)42.3gを加えた。ワークアップ後(1×トルエン700mlによる抽出と2×水150mlによる洗浄)、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率92.2%で得られた。
【0081】
副生成物A(Difox)0.92%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール0.09%を含んだ固体が得られた。
【0082】
実施例2.2 本発明により行われるエポキシ化及び還元
実施例2.2.1 全反応時間165分、追加の攪拌45分
実施例2.1の手順を採用した。しかし、エポキシ化の全反応時間は165分に減少し、追加の攪拌時間は僅か45分であった。DPP変換94.3%で、Borol溶液を加えると、還元後、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率92.4%で得られた。
【0083】
副生成物A(Difox)0.55%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール0.55%を含んだ固体が得られた。
【0084】
実施例2.2.2 全反応時間150分、追加の攪拌30分
実施例2.1の手順を採用した。しかし、エポキシ化の全反応時間は150分に減少し、追加の攪拌時間は僅か30分であった。DPP変換94.3%で、Borol溶液を加えると、還元後、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率93.1%で得られた。
【0085】
副生成物A(Difox)0.24%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール1.06%を含んだ固体が得られた。
【0086】
実施例2.2.3 全反応時間120分、追加の攪拌なし
実施例2.1の手順を採用した。しかし、エポキシ化の全反応時間は120分に減少し、追加の攪拌を全く行わなかった。DPP変換92.3%で、Borol溶液を加えると、還元後、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率91.6%で得られた。
【0087】
副生成物A(Difox)0.14%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール1.29%を含んだ固体が得られた。
【0088】
実施例2.2.4 tert-ブチルヒドロペルオキシドをクメンヒドロペルオキシドに変更
実施例2.2.2の手順を採用した。しかし、tert-ブチルヒドロペルオキシドをクメンヒドロペルオキシドで置換した。DPP変換93.5%で、Borol溶液を加えると、還元後、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率92.1%で得られた。
【0089】
副生成物A(Difox)0.28%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール0.98%を含んだ固体が得られた。
【0090】
実施例2.2.5 高触媒量
実施例2.1の手順を採用した。しかし、エポキシ化の全反応時間は135分に減少し、混合物をさらに30分間攪拌し、触媒量を50%濃度のNaOH3.5mlに増加させ、反応開始後の反応温度を31℃から25℃に低下させた。
【0091】
DPP変換92.9%で、Borol溶液を加えると、還元後、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率90.1%で得られた。
【0092】
副生成物A(Difox)0.26%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール1.34%を含んだ固体が得られた。
【0093】
実施例2.2.6 2分割した還元剤
実施例2.2.2の手順を採用した。しかし、還元について、BoralをDPP変換94.9%で2分割して(すなわち、直後に4.2gを、残り(38.1g)を15分後に)加えた。これにより、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率92.1%で得られた。
【0094】
副生成物A(Difox)0.21%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール0.64%を含んだ固体が得られた。
【0095】
実施例2.2.7 NaOHを水酸化テトラメチルアンモニウムに変更
実施例2.2.2の手順を採用した。しかし、NaOHを水酸化テトラメチルアンモニウム(40%)11.4g(0.05mol)に置換した。DPP変換92.2%で、Borol溶液を加えると、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率88.9%で得られた。
【0096】
副生成物A(Difox)0.16%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール1.14%を含んだ固体が得られた。
【0097】
実施例2.2.8 DE 3825586(EP 352675)の実施例B及びGに類似の比較例:
実施例1.1.1で得られた2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペナール(DPP)85g(0.326mol)をメタノール300mlに溶解させ、NaOH(50%濃度)2.3ml(0.043mol)を加えた。その後、30分にわたってH2O2(50%)27.7g(0.794mol)を、温度が30℃に維持されるように液滴で加え、その後、さらに6時間攪拌を続け、エポキシ化を終了させた(反応時間=6.5時間、DPP変換:>99.5%)。
【0098】
Borol溶液(40%濃度のNaOH中の12.5%濃度のNaBH4溶液)35gで還元と、その後のワークアップ(1×トルエン600mlによる抽出と2×水150mlによる洗浄)の後、トルエン中に溶解したヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率63.5%で得られた。
【0099】
副生成物A(Difox)2.69%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール0.02%と別の副生成物(HPLC)を含んだ固体が得られた。
【0100】
実施例2.2.9 DE 3825586(EP 352675)の実施例B及びGに類似の別の比較例:
実施例2.2.8の手順を採用した。しかし、H2O2をtert-ブチルヒドロペルオキシド(70% 水中)45.3g(0.352mol)で置換した。DPP変換99.1%で、トルエン中のヒドロキシメチルオキシランのシス/トランス混合物がトランス-異性体の収率82.2%で得られた。
【0101】
副生成物A(Difox)2.45%と置換された2-(4-フルオロフェニル)-3-(2-クロロフェニル)プロペノール0.22%と別の副生成物(HPLC)を含んだ固体が得られた。
【0102】
実施例3 式(I)のアゾリルメチルオキシランの調製
実施例3.1 本発明によるヒドロキシメチルオキシランから得られるトリアゾリルメチルオキシラン
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン78g(0.612mol)を実施例2.2.2により得られたシス/トランス-ヒドロキシメチルオキシラン(トルエン800ml中 130g(0.471mol))の溶液に加え、混合物を共沸蒸留により乾燥させた。その後、25℃で、メタンスルホニルクロリド62g(0.541mol)を1時間かけて加えた。30分間の追加の攪拌後、反応を完了させ、形成した塩を水2×200mlを使用して抽出した。メシルオキシメチルオキシランのトルエン溶液を減圧下で、80℃未満の温度で蒸発濃縮し、その後、残渣をジメチルホルムアミド305mlに溶解させた。これにより、DMF中のメシルオキシメチルオキシラン約160g(0.45mol)の溶液が得られ、最初にそれを入れ、約50℃に加熱した。激しく攪拌しながら、ナトリウム1,2,4-トリアゾリド49g(0.54mol)と1,2,4-トリアゾール0.2gを加えた後、混合物を70℃に加熱した。70℃で4時間攪拌した後、メシルオキシメチルオキシランの完全変換をHPLCによりチェックした。メシルオキシメチルオキシラン含有量が0.2%未満の時、メタノール30mlを加え、混合物を30℃に徐々に冷却した。同時に、水350mlを液滴で加えて、形成したトリアゾリルメチルオキシランを沈殿させた。得られた沈殿物を吸引濾別し、2×水/MeOH(80/20)の混合物で洗浄し、乾燥させた。これにより、融点134.7℃のトリアゾリルメチルオキシラン約120g(トランス-異性体96.2%、シン(sym)-異性体2.7%、シス-異性体0.37%と副生成物A(Difox)0.20%を含む)が得られた。
【0103】
実施例3.2 本発明によるヒドロキシメチルオキシランから得られるイミダゾリルメチルオキシラン
実施例3.1の手順を採用した。しかし、ナトリウム1,2,4-トリアゾリドと1,2,4-トリアゾール0.2gをナトリウムイミダゾリド46.8g(0.52mol)とイミダゾール0.2gに置換した。これにより、融点122〜123℃のイミダゾリルメチルオキシラン約88g(トランス-異性体96.2%、シス-異性体0.96%と副生成物A(Difox)0.23%を含む)が得られた。
【0104】
実施例3.3 不純なヒドロキシメチルオキシランから得られるトリアゾリルメチルオキシラン
実施例3.1の手順を採用した。しかし、実施例2.2.2から得られたヒドロキシメチルオキシランを実施例2.2.8から得られたヒドロキシメチルオキシランに置換した。トリアゾリルメチルオキシランが副生成物A(Difox)II 1.77%を含んで得られた。シクロヘキサンからの再結晶後、IIの含有量を0.39%に減少させることができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(III):
【化1】

[式中、
R1、R2は互いに独立してフェニルであり、ここで、それぞれのフェニル基は他から独立してハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C4-アルキル、ハロ-C1-C4-アルキル、ヒドロキシル、C1-C4-アルコキシ、ハロ-C1-C4-アルコキシ、メルカプト、C1-C4-アルキルチオ、ハロ-C1-C4-アルキルチオ、スルフィニル、スルホニル、C1-C4-アルキルスルホニル、フェニルスルホニル、フェニル、フェノキシ、アミノ、C1-C4-アルキルアミノ、ジ-C1-C3-アルキルアミノ、-NHCO-C1-C3-アルキル、-NHCOO-C1-C4-アルキル、-COO-C1-C4-アルキル及び-CONH-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、ここで、置換基フェニル、フェノキシ及びフェニルスルホニルのそれぞれは、他から独立してハロゲン及びC1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく;
R5は水素又はメチルである]
のヒドロキシメチルオキシランを、
式(V):
【化2】

(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
の2,3-プロペナールのエポキシ化により、
式(IV):
【化3】

(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
のホルミルオキシランを得、この式(IV)のホルミルオキシランの還元により調製する方法であって、還元を反応混合物中の使用される式(V)の化合物の量が少なくとも2mol%である間に開始する、前記方法。
【請求項2】
エポキシ化のために、式(V)の化合物をヒドロペルオキシドと反応させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ヒドロペルオキシドがtert-ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、tert-アミルヒドロペルオキシド及びトリチルヒドロペルオキシドからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
エポキシ化が塩基触媒を使用して行われる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
還元のために、アルカリ金属ボロヒドリドと塩基を反応混合物に加える、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
式(I):
【化4】

[式中、
XはN又はCHであり;
R1、R2は互いに独立してフェニルであり、ここで、それぞれのフェニル基は他から独立してハロゲン、シアノ、ニトロ、C1-C4-アルキル、ハロ-C1-C4-アルキル、ヒドロキシル、C1-C4-アルコキシ、ハロ-C1-C4-アルコキシ、メルカプト、C1-C4-アルキルチオ、ハロ-C1-C4-アルキルチオ、スルフィニル、スルホニル、C1-C4-アルキルスルホニル、フェニルスルホニル、フェニル、フェノキシ、アミノ、C1-C4-アルキルアミノ、ジ-C1-C3-アルキルアミノ、-NHCO-C1-C3-アルキル、-NHCOO-C1-C4-アルキル、-COO-C1-C4-アルキル及び-CONH-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、ここで、置換基フェニル、フェノキシ及びフェニルスルホニルのそれぞれは、他から独立してハロゲン及びC1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく;
R3、R4は互いに独立して水素、ハロゲン、C1-C6-アルキル、メルカプト、-S-CN、C1-C6-アルキルチオ、C2-C6-アルケニルチオ、C6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ又はC6-C12-アリールチオであり、ここでC2-C6-アルケニルチオはハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜3個の置換基を有していてもよく、C6-C12-アリール-C1-C3-アルキルチオ中のアリールはハロゲン、C1-C4-アルキル及びハロ-C1-C4-アルキルからなる群から選択される1〜5個の置換基を有していてもよく;
R5は水素又はメチルである]
のアゾリルメチルオキシランを、
式(V):
【化5】

(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
の2,3-プロペナールのエポキシ化により、
式(IV):
【化6】

(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
のホルミルオキシランを得、この式(IV)のホルミルオキシランの還元により、式(III):
【化7】

(式中、R1、R2及びR5は前記の通りである)
のヒドロキシメチルオキシランを得、さらにこの式(III)の化合物へアゾリル基を導入することにより調製する方法であって、還元を反応混合物中の使用される式(V)の化合物の量が少なくとも2mol%である間に開始する、前記方法。
【請求項7】
式(II)
【化8】

(式中、R1、R2及びR5は請求項6に定義される通りであり、Lは求核置換脱離基である)
の化合物を式(VI)
【化9】

(式中、R3、R4 及びXは請求項6に定義される通りである)
の化合物と、或いは式(VI)の化合物の塩基付加塩と反応させることによりアゾリル基が式(III)の化合物に導入される、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
Lがハロゲン、C1-C6-アルキル-SO2-O-又はアリール-SO2-O-である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
XがNである、請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
R1及びR2が互いに独立して1〜3個のハロゲン原子を有するフェニルである、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
式(I)のアゾリルメチルオキシランが式(Ia)
【化10】

(式中、R3及びR4は請求項6に定義される通りである)
の化合物である、請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
R3及びR4がそれぞれ水素である、請求項6〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
R5が水素である、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
還元を反応混合物中の使用される式(V)の化合物の量が20mol%未満である時に開始する、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
還元を反応混合物中の使用される式(V)の化合物の量が2.5〜15mol%である時に開始する、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2012−516875(P2012−516875A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548687(P2011−548687)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051380
【国際公開番号】WO2010/089353
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】