説明

ヒドロキシルラジカル消去剤、ならびにこれを含む食品、薬品および化粧料

【課題】新規なヒドロキシルラジカル消去剤を提供する。
【解決手段】赤潮プランクトン抽出物を含むヒドロキシルラジカル消去剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤潮プランクトンから抽出されうるヒドロキシルラジカル消去剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に天然物由来のヒドロキシルラジカル消去剤としては、例えば、アスコルビン酸(ビタミンC)やトコフェロール類(ビタミンE)などのヒドロキシルラジカル消去ビタミン類、アントシアニンのような抗酸化ポリフェノールがよく知られており、現在、医薬品、食品、化粧品またはこれらの添加物として広く利用されている。
【0003】
また、我々の生活の中における、喫煙・飲酒、ストレス、アンバランスな食生活等は、生活習慣病の要因となるといわれているが、その予防手段または治療手段として、ヒドロキシルラジカル消去剤の摂取が提案されている。
【0004】
一方、特許文献1(特開2005−289940号公報)には、ムメフラールを有効成分とするフリーラジカル消去剤が開示されている。しかしながら、該フリーラジカル消去剤は、必ずしも消去能が充分であるとはいえない。
【0005】
【特許文献1】特開2005−289940号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、新規なヒドロキシルラジカル消去剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる状況のもと、発明者が鋭意検討した結果、赤潮プランクトンの抽出物を含むヒドロキシルラジカル消去剤が、上記課題を解決しうることを見出した。
これまで、抗酸化活性は、その大半が1,1-diphenyl-2-picryl hydrazyl(DPPH法)または化学発光法で測定されていた。しかしながら、本願発明者が鋭意検討した結果、赤潮プランクトン由来の抗酸化活性は、その赤潮プランクトンの種類によっては、DPPH法や化学発光法等では、鉄複合体のような妨害物質などが存在するために、抗酸化活性が検出されない場合があることを見出した。
そこで、本願発明者らは、赤潮プランクトン由来のヒドロキシルラジカル消去活性を、電子スピン共鳴(ESR法)で測定を試みた。
すなわち、本願発明者らが、赤潮プランクトン由来のヒドロキシルラジカル消去活性について、従来とは異なる方法でヒドロキシルラジカル消去活性を測定することにより、従来測定できなかった種類の赤潮プランクトンについてもヒドロキシルラジカル消去活性の測定に成功し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
具体的には、以下の手段により達成された。
(1)赤潮プランクトン抽出物を含むヒドロキシルラジカル消去剤。
(2)前記赤潮プランクトンは、ラフィド藻類、渦鞭毛藻類、緑藻類、クリプト藻類、珪藻類のいずれか1種以上である、(1)に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
(3)前記赤潮プランクトンは、ラフィド藻類または渦鞭毛藻類のいずれか1種以上である、(1)に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
(4)前記赤潮プランクトンは、Chattonella属、Heterosigma属、Fibrocapsa属、Scrippsiella属、Eutreptiella属、Gymnodinium属、Cryptomonas属、Karenia属、Dunaliella属、Heterocapsa属、Odontella属、Akashiwo属、Alexandrium属、Leptocylindrus属、Ditylum属、Skeletonema属のいずれか1種以上である、(1)に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
(5)前記赤潮プランクトンは、Chattonella属、Gymnodinium属、Alexandrium属のいずれか1種以上である、(1)に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
(6)前記赤潮プランクトン抽出物は、水抽出物である、(1)〜(5)のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル活性剤。
(7)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル消去剤を含む食品。
(8)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル消去剤を含む薬品。
(9)(1)〜(6)のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル消去剤を含む化粧料。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本願明細書において「〜」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0010】
本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、ヒドロキシルラジカルの量を減らすことができることをいう。好ましくは、ヒドロキシルラジカルの量を、90%以上減らすことができることをいう。
また、本発明のヒドロキシルラジカル消去活性剤は、その消去処理速度が速いという特徴を有する。例えば、109-1-1以上で90%以上消去させることができる。従って、早期に消去が必要なヒドロキシルラジカル消去活性剤として、特に有効に利用することができる。
【0011】
本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、赤潮プランクトン由来の抽出物を含むことを特徴とする。赤潮プランクトンとしては、ラフィド藻類、渦鞭毛藻類、緑藻類、クリプト藻類、珪藻類のいずれか1種以上であることが好ましく、ラフィド藻類または渦鞭毛藻類のいずれか1種以上であることがさらに好ましい。
【0012】
ラフィド藻としては、Chattonella属、Heterosigma属およびFibrocapsa属が好ましく、Chattonella属がより好ましい。
渦鞭毛藻類としては、Scrippsiella属、Gymnodinium属、Karenia属、Heterocapsa属、Akashiwo属、Alexandrium属が好ましく、Gymnodinium属がより好ましい。
緑藻類としては、Eutreptiella属、Dunaliella属が好ましい。
クリプト藻類としては、Cryptomonas属が好ましい。
珪藻類としては、Odontella属、Leptocylindrus属、Ditylum属、Skeletonema属が好ましい。
【0013】
Chattonella属としては、Chattonella antiqua、Chattonella marina、Chattonella ovataが好ましい。
Heterosigma属としては、Heterosigma akashiwoが好ましい。
Fibrocapsa属としては、Fibrocapsa japonicaが好ましい。
Scrippsiella属としては、Scrippsiella trochoideaが好ましい。
Gymnodinium属としては、Gymnodinium impudicum、Gymnodinium catenatumが好ましい。
Heterocapsa属としては、Heterocapsa triquetraが好ましい。
Akashiwo属としては、Akashiwo sanguineaが好ましい。
Alexandrium属としては、Alexandrium catenella、Alexandrium tamarenseが好ましい。
Leptocylindrus属としては、Leptocylindrus danicusが好ましい。
Ditylum属としては、Ditylum brightwelliiが好ましい。
Skeletonema属としては、Skeletonema costatumが好ましい。
【0014】
本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、特に、水溶性を有するものであることが好ましい。すなわち、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、水によって抽出することも可能となり、また、水溶性の食品等にも添加することも可能になる。
また、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤のうち、渦鞭毛藻類由来のヒドロキシルラジカル消去剤は、熱安定性にも優れているのでより好ましい。熱安定性は、渦鞭毛藻類の中でも、特に、Alexandrium属およびGymnodinium属が熱安定性に優れている。ここでいう熱安定性とは、例えば、加熱処理をしていないヒドロキシルラジカル消去活性に対する、30分間、100℃(好ましくは、30分間、200℃)で加熱処理した後のヒドロキシルラジカル消去活性の比(%)が70%以上であることをいい、好ましくは75%以上であることをいう。
さらに、Gymnodinium属では、150℃以上で加熱するとヒドロキシルラジカル消去活性が高まる傾向にあり、熱処理することが有効である。
加えて、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、乾燥状態でも、ヒドロキシルラジカル消去活性が低下しないものとすることができる。
【0015】
以下、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤の分取方法の一例を説明する。まず、赤潮プランクトンを大量培養する。このときの培地は、海産微細藻類を培養する場合に用いられているものであれば格別の制限はなく、例えばGuillard氏のf/2培地や岩崎氏のSWII培地などを用いることができる。しかしながら、渦鞭毛藻類については高濃度の栄養物質に曝されるとむしろ増殖が悪くなることもあり、また既存の培養液にはCuなど微細藻類の増殖を阻害する成分も含まれるため、その組成については培養条件や用いる種類に応じて若干の改変を行っても良い。
また、培養液の調製は蒸留水から行う必要はなく、ガラスフィルターなどで予めろ過され、暗所で数ヶ月程度エイジングされた天然ろ過海水に必要な栄養素を栄養強化したものが簡便でかつ好ましい結果が得られる。
得られた赤潮プランクトンは、必要により、超音波処理を行ってもよい。
そして、培養、採取された本発明の赤潮プランクトンは、死滅させ又は死滅させずにそのまま又は乾燥物の形で、あるいは、水もしくは水性溶媒による抽出物、又はメタノール、エタノールその他比較的極性の高い有機溶媒による抽出の形で、ヒドロキシルラジカル消去剤として利用できる。
本発明の赤潮プランクトン由来のヒドロキシルラジカル消去剤は、水溶液の形でも熱に対して安定であり、また、高熱条件で乾燥末にしても活性を失わないものとすることができる。
【0016】
さらに、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は安全で食用可能なものとすることができる。特に、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、液体・粉末の形態を問わず安定であるため、医薬品、医薬部外品、化粧料、飲食品などに広く利用することができる。
【0017】
医薬品若しくは医薬部外品としてのヒドロキシルラジカル消去剤として利用する場合、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤をそれ自体で投与してもよいが、好ましくは、当業者に周知の方法によって製造可能な医薬組成物として投与することができる。医薬組成物としては、例えば、錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、液剤、及びシロップ剤等をあげることができる。上記の医薬組成物は、薬理学的、製剤学的に許容し得る添加物を加えて製造することができる。薬理学的、製剤学的に許容し得る添加物の例としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等をあげることができる。上記の医薬組成物には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、他のヒドロキシルラジカル消去剤を1種又は2種以上配合してもよい。本発明のヒドロキシルラジカル消去剤の投与方法は特に限定されず、内用剤および外用剤のいずれでもよく、内用剤が好ましい。内用剤は、注射剤、輸液剤等として、静脈注射により投与してもよいし、経口的に投与してもよい。また、本発明の医薬の投与量は特に限定されず、有効成分の種類などに応じて適宜選択することができ、さらに患者の体重や年齢、疾患の種類や症状、投与経路など通常考慮すべき種々の要因に応じて、適宜増減することができる。一般的には、内用剤として用いる場合、成人一日あたり0.05〜50g、好ましくは0.5〜5gの範囲で用いることができる。また、外用剤として用いる場合、成人一日あたり0.01〜100g、好ましくは0.1〜10gの範囲で用いることができる。
【0018】
また、ヒドロキシルラジカル消去剤を含む化粧料としては、化粧水、美容液、水系ファンデーション、水系チーク、水系アイシャドー、水系マスカラ、水系リップ、クレンジング、洗顔料、シャンプー、メイクアップリムーバ、乳液、マッサージ剤およびパック剤等を好ましい例として挙げることができる。
【0019】
ヒドロキシルラジカル消去剤を含む飲食品としては、健康食品、ダイエット食品、即席食品類、嗜好飲料類、小麦粉製品、菓子類、基礎調味料、複合調味料、乳製品、冷凍食品、水産加工品、畜産加工品および農産加工品その他の市販食品などが好ましい例として挙げられる。
【0020】
さらに、本発明のヒドロキシルラジカル消去剤は、一般に、医薬品又は医薬部外品、飲食品等に用いられる各種担体や添加剤を含んでいてもよい。各種担体としては、各種キャリアー担体、イクステンダー剤、希釈剤、増量剤、分散剤、賦形剤、結合剤溶媒、溶解補助剤、緩衝剤、溶解促進剤、ゲル化剤、懸濁化剤、小麦粉、米粉、でん粉、コーンスターチ、プリサッカライド、ミルクタンパク質、コラーゲン、米油、レシチンなどが挙げられる。添加剤としては、例えば、ビタミン類、甘味料、有機酸、着色剤、香料、湿化防止剤、ファイバー、電解質、ミネラル、栄養素、ヒドロキシルラジカル消去剤、保存剤、芳香剤、湿潤剤、天然の植物抽出物、飼料添加物、コーヒー抽出物、ココア抽出物、フルーツ抽出物、野菜抽出物などが挙げられる。
【実施例】
【0021】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0022】
実施例1
各種赤潮プランクトンの水溶性抽出物のヒドロキシルラジカル消去活性を測定した。
【0023】
試料
下記に示す赤潮プランクトン(水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所より取得)について、ヒドロキシルラジカル消去活性を測定した。
【0024】
採用した赤潮プランクトンの詳細は以下の通りである。
【表1】

【0025】
下記の培地を用いて培養を行った。
(1)Sample1
(培地)
天然ろ過海水1000mLにNaNO3 45mg、NaH2PO4・2H2O 4mg、Fe−EDTA 0.21mg、Mn−EDTA 0.17mg、CoCl2・6H2O 0.12mg、EDTA・2Naを0.5μgと、ビタミン混合溶液1mL(ただしThiamine-HCl 0.1μg、Ca-pantothenate 0.1μg、p-Aminobenzoic acid 10ng、Biotine 1ng、Inositol 5μg、Thymine 3μg、Vitamine B12 1ng、Folic acid 2ngを含有する)を添加した後に、pHを調製することなく75℃で2時間の加熱処理を行ったものを用いた。
【0026】
(培養方法)
予め190℃で1時間程度乾熱滅菌された250mLの容器に培養液を125mL分注し、2%(w/w)のストレプトマイシン溶液を0.4mL添加し、G. impudicum保存株培養液を2mL接種した。
通気や攪拌は行わなかった。光の照射は、白色蛍光灯を光源として用い、照度は120μmol/m2/s(光合成有効光量子束密度)に設定し、16時間明:8時間暗の明暗周期を与え、培養温度22℃で培養を行うことにより、10日間で細胞密度が3万Cells/mLに達して集藻可能となった。
【0027】
(集藻方法)
培養された藻類は、スイング式の遠心分離器を用い、2200rpmで2分間の穏やかな条件下で藻体を回収した。
【0028】
(2)Sample2
(培地)
天然ろ過海水1000mLに、NaNO3 45mg、NaH2PO4・2H2O 4mg、Fe−EDTA 0.21mg、Mn−EDTA 0.17mg、CoCl2・6H2O 0.12mg、EDTA・2Na 0.5μg、ビタミン混合溶液1mL(ただしThiamine-HCl 0.1μg、Ca-pantothenate 0.1μg、p-Aminobenzoic acid 10ng、 Biotine 1ng、Inositol 5μg、Thymine 3μg、Vitamine B12 1ng、Folic acid 2ngを含有する)を添加した後に、pHを調製することなく75℃で2時間の加熱処理を行ったものを用いた。
【0029】
(培養方法)
予め190℃で1時間程度乾熱滅菌された250mLの容器に培養液を120mL分注し、2%(w/w)のストレプトマイシン溶液を0.4mL添加し、A.affine保存株培養液を2mL接種した。
通気や攪拌は行わなかった。光の照射は、白色蛍光灯を光源として用い、照度は120μmol/m2/s(光合成有効光量子束密度)に設定し、16時間明:8時間暗の明暗周期を与え、培養温度22℃で培養を行うことにより、10日間で細胞密度が3万Cells/mLに達して集藻可能となった。
【0030】
(集藻方法)
培養された藻類は、スイング式の遠心分離器を用い、2000rpmで2分間の穏やかな条件下で藻体を回収した。
【0031】
(3)Sample3
(培地)
天然ろ過海水1000mLにNaNO3 173mg、NaH2PO4・2H2O 15.6mg、Fe−EDTA 0.84mg、Mn−EDTA 0.69mg、CoCl2・6H2O 0.24mg、H2SeO3 1μg、EDTA・2Na 2mg、ビタミン混合溶液1mL(ただしThiamine 0.1 μg, Ca-pantothenat 0.1 μg, p-Aminobenzoic acid 10 ng, Biotine 1 ng, Inositol 5 μg, Thymine 3 μg, Vitamin B12 1 ng およびFolic acid 2 ng を含有する)を添加した後に、pHを調整することなく75℃で2時間の加熱処理を行ったものを用いた。
【0032】
(培養方法)
予め190℃で1時間程度乾熱滅菌された250mLの容器に培養液を125mL分注し、2%(w/w)のストレプトマイシン溶液を0.4mL添加し、C.ovata保存株培養液を2mL接種した。
通気や攪拌は行わなかった。光の照射は、白色蛍光灯を光源として用い、照度は120μmol/m2/s(光合成有効光量子束密度)に設定し、16時間明:8時間暗の明暗周期を与え、培養温度22℃で培養を行うことにより、10〜14日間で細胞密度が3万cells/mLに達して集藻可能になった。
【0033】
(集藻方法)
培養された藻類はスイング式の遠心分離機を用い、2000rpmで2分間の穏やかな条件下で藻体を回収した。
【0034】
(水溶性画分の調製方法)
上記方法により得られた各種赤潮プランクトンは、以下の方法により、水溶性画分を調整した。
各種赤潮プランクトンは調製時まで−30℃で冷凍保存した。各種赤潮プランクトンのクロロフィル含量を確認し最終濃度が60μg/mLになるように純水を添加し、ピペッティング後細胞を完全に破壊するため超音波処理を行った。超音波処理は1分間を目処に約10回繰り返して細胞が完全に壊れるまで実施した。すべての処理は4℃の低温で行った。超音波処理後のプランクトン懸濁液を遠心(15000rpm、5min)し、上清を水溶性画分のSampleとした。
【0035】
(各種Sample中のクロロフィルの定量方法)
赤潮プランクトンの現存量を把握するために、通常湿重量、乾燥重要及び炭素量などの数字が用いられる。ところが赤潮プランクトンの多くは粘質性の多糖類を細胞外に多量に分泌し、その量は遠心分離など物理的な刺激が加わることで更に増加する。このため如何に巧妙に培養した赤潮プランクトンを得たとしても、水溶性の多糖類に包合された液体培地の持ち込みは避けられず、それらの量は真に赤潮プランクトンが含有する体積の2倍にも達することがある。また液体培地が塩分を多量に含む海水を基本とするために、乾燥重量についてもミネラル分の重量が持ち込まれるために正確な量を把握することができない。このように、赤潮プランクトンには種類により多糖類の分泌量にバラツキがあるため、培養した赤潮プランクトンを一律に生物量として把握するには、炭素量で把握することが望ましい。ただし液体培地中には空気中の24倍もの二酸化炭素が含まれているために、その測定には精密な酸処理などを行う必要があり、煩雑でしかも測定結果の誤差が大きい。赤潮プランクトンは陸上植物と同じように細胞の中に葉緑体を有しており、それが細胞容積あたりに占める量は種類を超えてほぼ一定であることが既に知られている。このため、種類の異なる赤潮プランクトンの現存量を正確に把握するためには、広く一律に含まれるクロロフィル量を指標として評価することが望ましい。
よって、本実施例では、クロロフィル量を測定した。クロロフィル量は、ろ過や遠心分離などにより液体培地を可能な限り取り除かれたSampleに対して、冷却された98%ジメチルホルムアミドを適宜添加し、超音波でSampleを破砕してクロロフィルの抽出を行った。ジメチルホルムアミドは抽出力が高いため、溶媒を添加後一晩冷蔵庫で保存するだけでも十分な量のクロロフィルを抽出できた。得られた色素はクロロフィルの測定を目的とした蛍光光度計(励起波長:460nm、放射波長:665nm)を用いて定量化した。検量線は市販の精製クロロフィル粉末を同様に有機溶媒で適宜希釈したもので作成した。
【0036】
(ヒドロキシルラジカルのESR測定)
0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)に溶解した2mM過酸化水素50μl、8.9mMの5,5−ジメチル−1−ピロリン−N−オキシド(DMPO、ラボテック社製)水溶液50μl、上記Sample50μl、最後に0.2mMFeSO4水溶液50μlをテストチューブに入れて混合した。Sample濃度は、Sample1、2、3とも最終クロロフィル含有量として15.00、7.50、3.75、1.88、0.94、0.47、0.23、0.12、0.06、および0.03μg/mlであるものを採用した。
試料をESR分光分析セルに移し、生成したDMPO−OHスピンアダクトを0.2mMFeSO4水溶液添加後113秒後に測定した。 DMPO−OHのスピン濃度は、Kohnoらの論文Bull. Chem. Soc. Jpn., 67, 1085-1090 (1994).に記載の方法で算出した。即ち、20μMの4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン1―オキシル(TEMPOL)シグナル面積を標準とし、DMPO−OHのシグナルの面積からDMPO−OHのスピン濃度を求めた。
また、コントロールとして上記Sampleに替えて、各種濃度のマンニトール50μl(反応液中最終濃度:25、12.5、 6.25、3.13、1.56、0.78、0.39、0.20、および0.1mg/ml)を用いたものを採用し、同様に測定を行った。
ESRの測定条件は次の通りである。
共鳴周波数:9.42GHz,出力:4mW,磁場変調:100kHz,観測磁場:330.5−340.5mT,測定時間:2分、変調幅:0.1mT,増幅率:250、時定数:0.1秒。
【0037】
その結果を図1に示す。図1中、白三角がSample1を、白四角がSample2を、白丸がSample3を、黒丸がコントロールをそれぞれ示している。図1では、横軸が左側へ移動するほど、活性が高いことを示している。
これらの結果から、赤潮プランクトン抽出物は、ヒドロキシルラジカル消去剤として、有効であることが確認された。
【0038】
実施例2
実施例1におけるSample1〜3(いずれも60μgクロロフィル当量/mL)の熱安定性を調べた。
上記Sample1〜3を、16.5mm×45mmのバイアル瓶に300μLずつ分注し、乾熱滅菌器(SANYO製、MOV−112S)で、100℃で120分および200℃で60分加熱処理をし、30分毎に、実施例1と同様にヒドロキシルラジカル消去活性を測定した。尚、このときのSampleは乾燥した状態であった。
加熱処理をしていない試料のヒドロキシルラジカル消去活性を1とし、それぞれ加熱処理した後のヒドロキシルラジカル消去活性を、ヒドロキシルラジカル消去活性の比(%)として求めた。その結果を図2および図3に示した。
【0039】
図2および図3中、白丸はSample1を、黒丸はSample2を、黒三角はSample3をそれぞれ示している。
ここで、図2に示すように、Sample1(Gymnodinium属)およびSample2(Alexandrium属)では100℃において熱処理しても活性は殆ど変化しなかった。一方、Sample3(Chattonella属)については、100℃で熱処理することにより活性が低下した。
さらに、図3に示すように、Sample1(Gymnodinium属)では、200℃で熱処理することにより活性が高くなった。一方、Sample2(Alexandrium属)では200℃で熱処理しても活性は殆ど変化しなかった。また、Sample3(Chattonella属)については、200℃で熱処理することにより活性が低下した。
【0040】
下記表は、ヒドロキルラジカルの活性測定の結果から得られた、各種Sampleおよびコントロールであるマンニトールのスピン濃度のIC50である。
【表2】

ここで、マンニトールの反応速度定数は、以下の式に基づいて算出した。
IC50=9.5x102μg/ml=5.2x10-3
反応速度定数
2=3.4x109x2.225x10-3/5.2x10-3=1.5x 109 ( M-1-1
この結果より、マンニトールとヒドロキシルラジカルの反応速度定数は1.5 x 109 M-1s-1 となり、非常に反応が早いことが判明した。供試赤潮プランクトンエキスはいずれもIC50 がマンニトールよりも低いことから、マンニトールよりもさらにヒドロキシルラジカルの消去速度が早いことが示唆される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は、各種赤潮プランクトン抽出物のヒドロキシルラジカル消去活性を示す。
【図2】図2は、各種赤潮プランクトン抽出物を100℃で熱処理した場合のヒドロキシルラジカル消去活性を示す。
【図3】図3は、各種赤潮プランクトン抽出物を200℃で熱処理した場合のヒドロキシルラジカル消去活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤潮プランクトン抽出物を含むヒドロキシルラジカル消去剤。
【請求項2】
前記赤潮プランクトンは、ラフィド藻類、渦鞭毛藻類、緑藻類、クリプト藻類、珪藻類のいずれか1種以上である、請求項1に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
【請求項3】
前記赤潮プランクトンは、ラフィド藻類または渦鞭毛藻類のいずれか1種以上である、請求項1に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
【請求項4】
前記赤潮プランクトンは、Chattonella属、Heterosigma属、Fibrocapsa属、Scrippsiella属、Eutreptiella属、Gymnodinium属、Cryptomonas属、Karenia属、Dunaliella属、Heterocapsa属、Odontella属、Akashiwo属、Alexandrium属、Leptocylindrus属、Ditylum属、Skeletonema属のいずれか1種以上である、請求項1に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
【請求項5】
前記赤潮プランクトンは、Chattonella属、Gymnodinium属、Alexandrium属のいずれか1種以上である、請求項1に記載のヒドロキシルラジカル消去剤。
【請求項6】
前記赤潮プランクトン抽出物は、水抽出物である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル活性剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル消去剤を含む食品。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル消去剤を含む薬品。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のヒドロキシルラジカル消去剤を含む化粧料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−74833(P2008−74833A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−121174(P2007−121174)
【出願日】平成19年5月1日(2007.5.1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16〜18年度 農林水産省、委託プロジェクト研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(397008638)サニーヘルス株式会社 (10)
【出願人】(501168814)独立行政法人水産総合研究センター (103)
【出願人】(504205521)国立大学法人 長崎大学 (226)
【Fターム(参考)】