説明

ヒドロキシ基又は第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子とその製造方法

【課題】有機溶媒の種類による膨潤度程度の差が小さく、固相合成用担体として好適にもことができる多孔質樹脂粒子の製造方法と、そのようにして得られる多孔質樹脂粒子を提供する。
【解決手段】ラジカル重合可能な芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、この単量体溶液を分散安定剤の存在下に水中に分散させ、懸濁重合反応系として、懸濁共重合を行う際に、全重合時間の0〜80%が経過したときに、一般式(I)
HS−R−X … (I)
(式中、Rは炭素原子数2〜12のアルキレン基を示し、官能基Xはヒドロキシ基又は第1級アミノ基から選ばれる官能基を示す。)
で表されるメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固相合成用担体として好適に用いることができるヒドロキシ基又は第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン−ジビニルベンゼン系多孔質樹脂粒子は、イオン交換樹脂、吸着剤、液体クロマトグラフィー用充填剤、固相合成用担体等の分野において広く用いられている。このような用途に用いられる多孔質樹脂粒子は、何らかの官能基を有していることが多く、通常、複数の工程を経て製造されている。例えば、懸濁重合によるスチレン−ジビニルベンゼン系多孔質樹脂粒子の製造、得られた樹脂粒子の回収、次いで、残存ビニル基に種々の物質を反応させて樹脂に官能基を導入する方法が知られているが(例えば、特許文献1から3参照)、このような方法によれば、重合工程と官能化工程の2つの工程が必要である。
【0003】
また、ポリクロロメチルスチレン系樹脂にポリエチレングリコールをグラフト化して、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子を製造する方法も知られているが(特許文献4参照)、この方法も、重合工程とグラフト化工程の2工程が必要である。
【0004】
スチレン−ジビニルベンゼン系多孔質樹脂粒子のもう一つの問題として、トルエン、ジクロロメタン等の非極性溶媒にはよく膨潤するが、アセトニトリル、エタノール等の極性溶媒に膨潤し難い点が挙げられる。特に、固相合成用担体としてスチレン−ジビニルベンゼン系多孔質樹脂粒子を用いる固相合成反応において、目的とする反応生成物を多く得るためには、多孔質樹脂粒子は、有機溶媒中において、ある程度、膨潤することが望ましいが、しかし、複数の有機溶媒を順次に用いて、化学反応を行う場合には、それぞれの有機溶媒中における樹脂粒子の膨潤の程度がそれぞれ異なるときは、例えば、一定容量のカラム状反応容器を用いるときには、容器中において、圧力が変動し、それが原因となって、目的とする合成反応の収率にばらつきが生じたりする。
【特許文献1】米国特許第3586644号明細書
【特許文献2】米国特許第4098727号明細書
【特許文献3】米国特許第4950408号明細書
【特許文献4】米国特許第4908405号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した上記事情に鑑み、有機溶媒の種類による膨潤の程度の差が小さい多孔質樹脂粒子とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、ラジカル重合可能な芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、この単量体溶液を分散安定剤の存在下に水中に分散させ、懸濁重合反応系として、懸濁共重合を行う際に、全重合時間の0〜80%が経過したときに、一般式(I)
HS−R−X … (I)
(式中、Rは炭素原子数2〜12のアルキレン基を示し、官能基Xはヒドロキシ基又は第1級アミノ基から選ばれる官能基を示す。)
で表されるメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行うことからなる官能基Xを有する多孔質樹脂粒子の製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明によれば、このような方法によって得られる多孔質樹脂粒子が提供される。
【発明の効果】
【0008】
従来の方法におけるように、重合工程の後に官能化工程を必要とすることなく、本発明の方法によれば、単一の工程によって、ヒドロキシ基又は第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子を得ることができる。
【0009】
更に、本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子は、種々の有機溶媒中における膨潤度の程度の差が小さいので、固相合成用担体として用いて、種々の有機溶媒中にて順次に化学反応を行う場合に、担体上での合成反応を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるヒドロキシ基又は第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子の製造方法は、ラジカル重合可能な芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、この単量体溶液を分散安定剤の存在下に水中に分散させ、懸濁重合反応系として、懸濁共重合を行う際に、全重合時間の0〜80%が経過したときに、一般式(I)
HS−R−X … (I)
(式中、Rは炭素原子数2〜12のアルキレン基を示し、官能基Xはヒドロキシ基又は第1級アミノ基から選ばれる官能基を示す。)
で表されるメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行うことからなる。
【0011】
本発明において、芳香族モノビニル単量体としては、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3−エチルスチレン、4−エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン等の核アルキル置換スチレン、α−メチルスチレン、α−メチル−p−メチルスチレン等のα−アルキル置換スチレンのほか、p−アセトキシスチレン等を挙げることができる。これらの芳香族モノビニル単量体は単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明によれば、なかでも、スチレンが好ましく用いられる。
【0012】
本発明において、芳香族ジビニル単量体は、芳香環上に2つのビニル基を有する多官能性化合物であって、架橋剤として用いられる。即ち、前記芳香族モノビニル単量体と共に、架橋構造を有する共重合体を形成する。芳香族ジビニル単量体としては、通常、ジビニルベンゼンが好ましく用いられる。
【0013】
本発明において、芳香族ジビニル単量体は、芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体との合計量において、通常、6〜80重量%の範囲で用いられ、好ましくは、8〜70重量%の範囲で用いられ、最も好ましくは、15〜65重量%の範囲で用いられる。芳香族ジビニル単量体の割合が6重量%よりも少ないときは、得られる多孔質樹脂粒子が耐溶媒性や熱安定性において十分でなく、固相合成用担体として用いたときに、所望の効果を期待し難い。しかし、80重量%よりも多いときは、架橋が過度となって、膨潤性の乏しい多孔質樹脂粒子しか得られず、固相合成用担体として用いたときに、十分な反応効率を得ることができないおそれがある。
【0014】
本発明によれば、芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させ、これを水中に分散させて、懸濁重合を行うことによって、懸濁重合において効果的に相分離を起こさせることができ、これによって、生成する樹脂粒子の内部を均質な多孔質構造とすることができる。
【0015】
本発明において、上記有機溶媒としては、反応媒体である水に不溶性であれば、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素(例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ウンデカン、ドデカン等)、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、ジエチルベンゼン等)、脂肪族アルコール(例えば、2−エチルヘキサノール、t−アミルアルコール、ノニルアルコール、2−オクタノール、デカノール、ラウリルアルコール、シクロヘキサノール等)等を挙げることができる。これらの 有機溶媒は、単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
上記有機溶媒は、芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計に対して、重量比で、通常、0.1〜2倍、好ましくは、0.5〜1.5倍の範囲で用いられる。有機溶媒の使用量が芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計に対して、重量比で、2倍を超えるときは、得られる樹脂粒子が多孔度が高すぎて、十分な強度をもたず、また、球状粒子が得難くなって、固相合成用担体として用いたときに、所望の効果を得ることができない。しかし、有機溶媒の使用量が芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計に対して、重量比で、0.1倍よりも少ないときは、得られる粒子の多孔度が十分でなく、イオン交換樹脂、クロマトグラフィー充填材、固相合成用担体、吸着剤等に用いたときに所望の効果を発現し難くなる。
【0017】
本発明の方法によれば、前記芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、この単量体溶液を分散安定剤の存在下に水中に分散させ、懸濁重合反応系として、懸濁共重合を行う際に、全重合時間の0〜80%が経過したときに、前記メルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行うことによって、単一の工程によって、即ち、この懸濁重合工程に引き続く官能化工程なしに、この懸濁重合工程のみによって、上記用いたメルカプト化合物に応じて、直ちに、ヒドロキシ基又は第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子を得ることができる。
【0018】
本発明において、全重合時間の0%が経過したときに、前記一般式(I)で表されるメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行うとは、懸濁重合を開始する前か、懸濁重合を開始するときに、懸濁重合反応系にメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えることをいう。
【0019】
特に、本発明によれば、好ましくは、全重合時間の5〜60%が経過したとき、最も好ましくは、全重合時間の10〜50%が経過したときに、メルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えることが好ましい。
【0020】
本発明において、上記メルカプト化合物は、官能基Xがヒドロキシ基であるとき、メルカプトアルキルアルコールであり、官能基Xが第1級アミノ基であるとき、メルカプトアルキルアミンである。
【0021】
上記メルカプトアルキルアルコールの具体例としては、例えば、メルカプトエタノール、3−メルカプト−1−プロパノール、1−メルカプト−2−プロパノール、6−メルカプトヘキサノール、3−メルカプト−1−ヘキサノール、メルカプトヘキサノール、2−メルカプトフェノール、3−メルカプトフェノール、4−メルカプトフェノール、11−メルカプト−1−ウンデカノール等を挙げることができる。
【0022】
また、メルカプトアルキルアミンの具体例としては、2−メルカプトエチルアミン、3−メルカプトプロピルアミン、4−メルカプトブチルアミン、2−アミノ−2−メチルプロパンチオール、2−アミノ−1−メチルエタンチオール、2−アミノ−1,1−ジメチルプロパンチオール、3−アミノ−3−メチル−2−メチル−2−ブタンチオール、1−アミノ−2−ヘキサンチオール、11−アミノ−1−ウンデカンチオール、p−アミノベンゼンチオール等を挙げることができる。
【0023】
本発明において、前記一般式(I)で表されるメルカプト化合物、即ち、上述したようなメルカプトアルキルアルコール又はメルカプトアルキルアミンは、前記芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計量において、通常、1〜20重量%の範囲、好ましくは、2〜15重量%の範囲で、最も好ましくは、3〜12重量%の範囲で用いられる。
【0024】
芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計量において、メルカプト化合物の使用量が1重量%よりも少ないときは、得られる多孔質樹脂粒子に固相合成用担体として用いるに十分な量のヒドロキシ基又は第1級アミノ基を付与することができず、他方、メルカプト化合物の使用量が20重量%よりも多いときは、懸濁共重合において、連鎖移動反応が強く起こるために、重合反応が進行しなくなる虞がある。
【0025】
本発明において、用いる分散安定剤は、特に限定されず、従来から知られているポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ゼラチン、デンプン、カルボキシルメチルセルロース等の親水性保護コロイド剤、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、ベントナイト等の難溶性粉末等が用いられる。このような分散安定剤は、特に限定されないが、通常、懸濁重合反応系の水の重量に対して、0.01〜10重量%の範囲で用いられる。分散安定剤の使用量が懸濁重合反応系の水の重量に対して、0.01重量%よりも少ないときは、懸濁重合の分散安定性が損なわれて、多量の凝集物が生成する。他方、分散安定剤の使用量が懸濁重合反応系の水の重量に対して、10重量%よりも多い場合は、微小な粒子が多量に生成し、重合後の濾過が困難になり、又は水洗浄による分散安定剤の除去が困難になることがある。
【0026】
重合開始剤も、特に限定されず、従来から知られているものが適宜に用いられる。例えば、ジベンゾイルパーオキサイド、ジラウロイルパーオキサイド、ジステアロイルパーオキサイド、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、ジ(t−ヘキシルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルペルオキシイソプロピルモノカルボネート等の過酸化物、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル等のアゾ化合物が用いられる。
【0027】
本発明の方法において、反応媒体としては、水が用いられ、好ましくは、イオン交換水や純水が用いられる。また、懸濁重合は、窒素のような不活性ガス気流中、60〜90℃の温度において、30分間乃至48時間、攪拌することによって行われる。
【0028】
このようにして、所定時間の懸濁重合の後、重合生成物を濾過によって集め、これを洗浄し、乾燥して、目的とする多孔質樹脂粒子を粉末として得ることができる。必要に応じて、更に、分級等の処理を施してもよい。
【0029】
本発明の方法によれば、このように、単一の工程によって、直ちに、ヒドロキシ基又は第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子を得ることができる。即ち、懸濁重合の後に、得られた樹脂粒子にヒドロキシ基又は第1級アミノ基を付与するための官能化工程を必要としない。例えば、従来は、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子を得るためには、重合工程と官能化工程を必要としており、従って、各工程の後に樹脂粒子の洗浄や乾燥工程を必要とするが、本発明の方法によれば、洗浄と乾燥も一工程でよい。
【0030】
本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子は、種々の有機溶媒中における膨潤の程度の差が小さいので、これを固相合成用担体として用いて、種々の有機溶媒中にて順次に化学反応を行う場合に担体上での合成反応を効率よく行うことができる。即ち、化学合成反応の一連の工程において、複数の有機溶媒を交換して使用する場合においても、それぞれの有機溶媒中での膨潤の程度の差が小さいので、本発明の多孔質樹脂粒子を固相合成用担体として用いることによって、例えば、一定容量のカラム状反応容器での圧力変動等の問題をなくすことができる。
【0031】
本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子は、前記Xで表される官能基、即ち、ヒドロキシ基又は第1級アミノ基を10〜1500μmol/g、好ましくは、25〜1200μmol/g、最も好ましくは、50〜1000μmol/gの範囲で有する。官能基量が10μmol/gよりも少ないときは、固相合成用担体として用いたとき、得られる合成反応物の量が少なくなる。他方、官能基量が1500μmol/gよりも多い場合は、樹脂粒子上で隣接する官能基間の距離が不十分なために、隣り合って起こる化学反応が互いに阻害されやすくなるので、固相合成用担体として用いるとき、得られる合成反応物の純度が低くなったりする。
【0032】
本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子は、通常、0.1〜500m2/g、好ましくは、10〜300m2/g、最も好ましくは、30〜200m2/gの範囲の比表面積を有する。多孔質樹脂粒子の比表面積が小さすぎるときは、反応場である固相合成用担体表面の官能基と反応に関わる物質との接触機会が少なくなるので、所望の合成反応が起こり難くなり、合成物量が少なくなる。逆に、比表面積が大きすぎるときは、空隙率が大きくなりすぎ、担体自体の強度が低下して、取り扱い難くなることがある。
【0033】
本発明の方法による多孔質樹脂粒子の有する細孔の平均細孔径は、通常、1〜300nm、好ましくは、5〜250nm、最も好ましくは、10〜200nmの範囲にある。平均細孔径が1nmよりも小さいときは、固相合成用担体として用いるときに、反応に関わる物質が担体内部に瞬時に浸透せずに、所望の合成反応が起こり難くなり、合成物量が少なくなる。また、合成後、合成物を担体から切り離すときに、担体内部の合成物が回収し難くなり、収率が低下するおそれがある。しかし、平均細孔径が300nmよりも大きいときは、比表面積が小さく、反応場である固相合成用担体表面の官能基と反応に関わる物質との接触機会が少なくなるので、固相合成用担体として好ましくない。
【0034】
本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子は、固相合成用担体として好適に用いられるが、固相合成の対象は、特に限定されず、ペプチド、オリゴヌクレオチド、糖鎖、糖ペプチド又はそれらの誘導体等を挙げることができる。特に、オリゴヌクレオチド又はそれらの誘導体の合成に好適に用いられる。
【0035】
本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子を用いたオリゴヌクレオチド合成には、従来から知られている方法によることができる。例えば、多孔質樹脂粒子のヒドロキシ基又は第1級アミノ基にリンカーを結合し、次に、このリンカーの末端から所定の塩基配列となるように、アミダイト(nucleoside phosphoramidite)を一段ずつ結合する。この合成反応は自動合成装置を用いて行うことができる。例えば、リンカーを結合した多孔質樹脂粒子を充填した装置内のフロー式反応器に、アセトニトリル等の各種有機溶媒やアミダイト溶液が順次に送られ、反応が繰返される。最終的には、リンカー部分を加水分解等によって切断して、目的のオリゴヌクレオチドを得ることができる。リンカーは、従来から知られているものが用いられる。例えば、ヌクレオシドリンカーを結合した本発明による多孔質樹脂粒子からなる固相合成用担体の一例として、次式に示すものを挙げることができる。
【0036】
【化1】

【0037】
ここに、○は本発明による多孔質樹脂粒子(固相合成用担体)、DMTは5’ 位置の保護基ジメトキシトリチル基、B1 は塩基、YはH、F又はOH(適宜の保護基で保護されていてもよい。)を示す。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を挙げて、本発明を詳細に説明するが、本発明は、これら実施例によって何ら限定されるものではない。
【0039】
実施例1
冷却機、攪拌機及び窒素導入管を備えた500mL容量のセパラブルフラスコにポリビニルアルコール1.97gと蒸留水197gを入れ、200rpmにて攪拌してポリビニルアルコールを水に溶解させた。別に、スチレン22.4g、ジビニルベンゼン(純度55%、残余の殆どはエチルベンゼン)22.4g、2−エチルヘキサノール41.9g、イソオクタン17.5g及び過酸化ベンゾイル(25%含水物)0.84gを混合し、溶解させて単量体溶液とした。この単量体溶液を上記セパラブルフラスコに投入し、窒素気流下、室温にて攪拌速度480rpmで攪拌した後、80℃に昇温して、重合を開始した。重合を開始して、2時間経過したとき、メルカプトエタノール2.50gを懸濁重合反応系(即ち、懸濁重合反応液)に加えて、更に、8時間、重合を続けた。重合後、得られた重合生成物を濾取し、蒸留水、アセトン及びメタノールを用いて洗浄した後、真空乾燥して、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子Aを粉末として得た。
【0040】
実施例2
重合を開始して、4時間経過したときにメルカプトエタノール2.50gを
加えた以外は、実施例1と同様にして、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子Bを粉末として得た。
【0041】
実施例3
スチレン13.5g、ジビニルベンゼン31.4g及びメルカプトエタノール1.73gを用いた以外は、実施例1と同様にして、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子Cを粉末として得た。
【0042】
実施例4
スチレン13.5gとジビニルベンゼン31.4gを用いて重合を開始して4時間が経過したときに、メルカプトエタノールに代えて、メルカプトヘキサノール4.50gを懸濁重合反応系に加えた以外は、実施例1と同様にして、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子Dを粉末として得た。
【0043】
実施例5
メルカプトエタノールに代えて、2−メルカプトエチルアミン1.73gを用いた以外は、実施例1と同様にして、第1級アミノ基を有する多孔質樹脂粒子Eを粉末として得た。
【0044】
比較例1
(懸濁重合)
冷却機、攪拌機及び窒素導入管を備えた500mL容量のセパラブルフラスコにポリビニルアルコール2.5gと蒸留水250gを投入し、200rpmにて攪拌して、ポリビニルアルコールを水に溶解させた。別に、スチレン49g、p−アセトキシスチレン4g、ジビニルベンゼン(純度55%、残余の殆どはエチルベンゼン)7g、2−エチルヘキサノール55g、イソオクタン23g及び過酸化ベンゾイル(25%含水物)1gを混合、溶解して単量体溶液とした。この単量体溶液を上記セパラブルフラスコに入れ、窒素気流下、室温にて攪拌速度400rpmで攪拌した後、80℃に昇温し、その後、10時間、重合を続けた。重合後、重合生成物を濾取し、蒸留水、アセトン及びメタノールを用いて洗浄した後、真空乾燥して、スチレン−アセトキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体からなる多孔質樹脂粒子40gを粉末として得た。
【0045】
(加水分解)
500mL容量のセパラブルフラスコに上記スチレン−アセトキシスチレン−ジビニルベンゼン共重合体の粉末40gとエタノール250gを入れ、500rpmにて攪拌して、上記共重合体をエタノール中に分散させた。この分散液に水酸化ナトリウム2gを蒸留水100gに溶解させた水溶液を加えた後、80℃に昇温して、24時間、加水分解反応を行った。これを塩酸で中和した後、蒸留水とアセトンを用いて、濾過洗浄を行った。この分散液を濾過し、減圧乾燥して、ヒドロキシ基を有する多孔質樹脂粒子Fを粉末として得た。
【0046】
実験例
上記実施例1〜5及び比較例1で得られた多孔質樹脂粒子A〜Fについて、以下の物性値を求めた。結果を表1に示す。
【0047】
(1)ヒドロキシ基の定量
JIS K 0070に準拠した滴定法よって定量した。
【0048】
(2)第1級アミノ基の定量
微量全窒素分析装置(三菱化学(株)製TN−110)を用いて窒素を定量した。
【0049】
(3)比表面積と平均細孔径
水銀圧入法によって求めた。即ち、約0.2gの測定試料を水銀ポロシメータ(Quantachrome Co.製PoreMater 60GT)に投入し、水銀接触角140°、水銀表面張力480dyn/cmの条件における水銀注入圧から、測定試料の平均細孔径と比表面積を求めた。
【0050】
(4)平均粒子径
レーザー回折(光散乱式)によってメジアン径を求めた。
【0051】
【表1】

【0052】
(5)膨潤度
多孔質樹脂粒子1gを20mL容量メスシリンダーに入れて見掛けの体積(即ち、乾燥体積Vd)を測定した。次に、上記メスシリンダーに大過剰量の有機溶媒を加え、室温にて24時間静置して、膨潤させた。このようにして、多孔質樹脂粒子が膨潤した後の見掛けの体積(即ち、膨潤体積Vs)を求め、Vs/Vdを膨潤度とした。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2に示すように、本発明による多孔質樹脂粒子の膨潤度は、Aが1.68〜1.96の範囲にあり、Bが1.29〜1.54の範囲にあり、Cが1.67〜2.01の範囲にあり、Dが1.17〜1.31の範囲にあり、Eが1.71〜1.97の範囲にある。これに対して、比較例による多孔質樹脂粒子Fの膨潤度は1.14〜1.98の範囲にわたる。即ち、本発明の方法によって得られる多孔質樹脂粒子は、種々の有機溶媒中での膨潤の程度の差が小さく、従って、固相合成用担体として用いるとき、化学反応を効率よく行うことができる反応場を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合可能な芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、この単量体溶液を分散安定剤の存在下に水中に分散させ、懸濁重合反応系として、懸濁共重合を行う際に、全重合時間の0〜80%が経過したときに、一般式(I)
HS−R−X … (I)

(式中、Rは炭素原子数2〜12のアルキレン基を示し、官能基Xはヒドロキシ基又は第1級アミノ基から選ばれる官能基を示す。)
で表されるメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行うことからなる官能基Xを有する多孔質樹脂粒子の製造方法。

【請求項2】
芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計量に基づいて、芳香族ジビニル単量体の割合が6〜80重量%の範囲にあると共に、芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計量に基づいて、メルカプト化合物を1〜20重量%の範囲で懸濁重合反応系に加える請求項1に記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子の製造方法。
【請求項3】
芳香族モノビニル単量体がスチレンである請求項1又は2に記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子の製造方法。
【請求項4】
全重合時間の5〜60%が経過したときにメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加える請求項1に記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子の製造方法。
【請求項5】
ラジカル重合可能な芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体を重合開始剤と共に有機溶媒に溶解させて単量体溶液とし、この単量体溶液を分散安定剤の存在下に水中に分散させ、懸濁重合反応系として、懸濁共重合を行う際に、全重合時間の0〜80%が経過したときに、一般式(I)
HS−R−X … (I)
(式中、Rは炭素原子数2〜12のアルキレン基を示し、官能基Xはヒドロキシ基又は第1級アミノ基から選ばれる官能基を示す。)
で表されるメルカプト化合物を懸濁重合反応系に加えて懸濁共重合を行うことによって得られる官能基Xを有する多孔質樹脂粒子。
【請求項6】
芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計量に基づいて、芳香族ジビニル単量体の割合が6〜80重量%の範囲にあり、芳香族モノビニル単量体と芳香族ジビニル単量体の合計量に基づいて、メルカプト化合物を1〜20重量%の範囲で用いる請求項5に記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子。
【請求項7】
芳香族モノビニル単量体がスチレンである請求項5又は6に記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子。
【請求項8】
ヒドロキシ基又は第1級アミノ基を10〜1500μmol/gの範囲で有する請求項5から7のいずれかに記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子。
【請求項9】
請求項5から8のいずれかに記載の官能基Xを有する多孔質樹脂粒子からなる固相合成用担体。
【請求項10】
オリゴヌクレオチド又はその誘導体の合成用である請求項9に記載の固相合成用担体。


【公開番号】特開2009−114271(P2009−114271A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286836(P2007−286836)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】