説明

ヒドロフルオロアルカンの分析方法

【課題】ヒドロフルオロアルカンの分析方法を提供する。
【解決手段】ヒドロフルオロアルカン中の有機不純物含量の分析方法であって、(a)ヒドロフルオロアルカンがクロマトグラフィー操作に供され、かつ;(b)有機不純物が質量分析によって検出される操作が行われる方法であって、クロマトグラフィー操作がガスクロマトグラフィー操作である。クロマトグラフィー操作の初期温度が、最高40℃に調整され、かつクロマトグラフィー操作の初期温度が、約-20℃以下である。また選択イオンモニタリング(SIM)法によって検出が行われ、飛行時間(TOF)法によって検出が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、精製ヒドロフルオロアルカンの製造方法、精製ヒドロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカンの使用及びヒドロフルオロアルカンの分析方法である。
特に1,1,1,2-テトラフルオロエタン及び1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンのようないくつかのヒドロフルオロアルカンは、それらの物理的性質及び好ましい毒物学のため、製薬用途、特に医用エアゾールの噴霧ガスとして使用することができる。
【背景技術】
【0002】
しかし、このようなヒドロフルオロアルカンの工業生産は、飽和及び不飽和不純物を含む製品を提供する。これら不純物は多くの場合毒性なので、その含量を制限、例えば、オレフィン性不純物の含量は体積で5ppm未満に制限するという厳しい基準が採用されるようである(例えば、MDI製品用1,1,1,2-テトラフルオロエタン中の前記不純物の含量に関するFDAの草案基準(食品医薬品局、薬物評価研究センター、1998年9月)参照)。
従って、製薬グレードの製品を得るためには、工業グレードのヒドロフルオロアルカンを精製する必要がある。また、ヒドロフルオロアルカン中の微量の不飽和及び飽和有機不純物を検出かつ同定することを可能にする有用な分析方法を得る必要がある。これは、特にこれら不純物がヒドロフルオロアルカンの沸点に近い沸点を有する場合に問題を呈する。
【0003】
特許出願WO-A-90-8750は、オレフィン性不純物からの1,1,1,2-テトラフルオロエタンの精製方法に関しており、その方法によって1,1,1,2-テトラフルオロエタンは接触水素化に供される。この公知の方法により、10ppmまでの範囲の含量の単一オレフィン性不純物、すなわち1,1-ジフルオロ-2-クロロエチレンが観察される。この特許出願によれば、1,1-ジフルオロ-2-クロロエチレンの検出限界は10ppmである。さらに、この公知方法は、すべての飽和及び不飽和有機不純物から十分に精製することはできない。特に、この公知方法は、1,1,2,2-テトラフルオロエタン(HFC-134)を除去できない。製薬用途の1,1,1,2-テトラフルオロエタン中に相当量のHFCが存在すると、その毒性がどの程度か検査されていないので望ましくない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、好ましくは製薬グレードの精製ヒドロフルオロアルカンに接近できるようにする有効な製造方法を利用できることが要望されていた。特に有機不純物の非常に低い全体的な含量を達成しながら、それぞれ個々の有機不純物の含量を有効に低減できる製造方法を利用できることが望ましかった。
結果として、本発明は、精製ヒドロフルオロアルカンの製造方法に関し、本発明により、有機不純物を含むヒドロフルオロアルカンは、少なくとも2回の蒸留に供され、第2蒸留は第1蒸留の圧力より高い圧力で行われ、かつ有機不純物から精製されたヒドロフルオロアルカンで構成される少なくとも1留分は、第2蒸留の出口で回収される。一般に、この留分は、直接製薬用途に使用できる。しかし、本発明の方法は、1種以上のさらなる仕上げ段階を除外しない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の方法は、製薬用途に使用可能な精製ヒドロフルオロアルカンの製造に特に好適である。
本発明の第1の選択的形態では、第1蒸留で重い不純物がヒドロフルオロアルカンから分離され、第2蒸留で軽い不純物がヒドロフルオロアルカンから分離される。
好ましい選択的形態である、本発明の第2の選択的形態では、第1蒸留で軽い不純物がヒドロフルオロアルカンから分離され、第2蒸留で重い不純物がヒドロフルオロアルカンから分離される。この場合、有機不純物から精製されたヒドロフルオロアルカンで構成される留分は、第2蒸留の頂部で回収される。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】本発明の好ましい選択的形態の実施に使用可能なプラントのダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0007】
用語“軽い不純物”は、蒸留圧力でヒドロフルオロアルカンより低い沸点を示す不純物を意味するものと理解される。用語“重い不純物”は、蒸留圧力でヒドロフルオロアルカンより高い沸点を示す不純物を意味するものと理解される。
驚くべきことに、本発明の方法は、飽和及び不飽和有機不純物からの非常に効率的な精製を可能にし、それによって、前記有機不純物、特に飽和不純物、及び妥当ならば(クロロ)フルオロエタンと(クロロ)フルオロプロパンの含量に関し、低含量を示すヒドロフルオロアルカンを与えることが分かった。
【0008】
本発明の方法は、いずれのヒドロフルオロアルカンにも適用される。本発明は、特に製薬用途で使用可能なヒドロフルオロアルカンに適用される。例えば、好ましくは人に対して低い毒性を示すヒドロフルオロエタン、ヒドロフルオロプロパン及びヒドロフルオロブタンが挙げられる。このようなヒドロフルオロアルカンの特有の例は、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンである。これらヒドロフルオロアルカンの中で、本発明の方法は、好ましくは1,1,1,2-テトラフルオロエタン及び1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンに適用される。本発明の方法は、非常に特に好ましい仕方で製薬グレードの1,1,1,2-テトラフルオロエタンの製造に適用される。
【0009】
第1蒸留の圧力は、通常10バール絶対圧未満である。それは、多くの場合最高9バールである。それは、好ましくは最高8バールである。第1蒸留の圧力は、通常少なくとも1バールである。それは、多くの場合少なくとも1.5バールである。それは、好ましくは少なくとも2バールである。
第2蒸留の圧力は、通常10バール絶対圧より高い。それは、多くの場合少なくとも12バールである。それは、好ましくは少なくとも15バールである。特に好ましい方法では、それは、少なくとも17バールである。非常に特に好ましい方法では、それは、少なくとも19バールである。第2蒸留の圧力は、通常最高40バールである。それは、多くの場合最高30バールである。それは、好ましくは最高25バールである。
【0010】
本明細書では、圧力に対するいずれの言及も、蒸留カラムの頂部で測定した絶対圧力に相当する。
第1又は第2蒸留が行われる温度は、それぞれの蒸留について選択された圧力におけるヒドロフルオロアルカンの沸点にほぼ一致する。
2回の各蒸留は、1以上のカラム内で行うことができる。1蒸留につき単一カラムを使用することが好ましい。
本発明の方法で使用できる蒸留カラムは、それ自体公知である。例えば、従来のプレートカラム又はデュアルフロー型のプレートカラム、或いは代わりに大量又は構造化充填を有するカラムを使用しうる。
【0011】
第1蒸留における理論段数は、通常少なくとも10である。それは、多くの場合少なくとも15である。少なくとも20の段数が良い結果を与える。
第2蒸留における理論段数は、通常少なくとも20である。それは、多くの場合少なくとも30である。少なくとも40の段数が良い結果を与える。
第1蒸留におけるモル還流比は、通常少なくとも50である。
第2蒸留におけるモル還流比は、通常少なくとも5である。
【0012】
本発明の方法は、飽和及び不飽和有機不純物からの非常に効率的な精製を可能にし、それによって、前記有機不純物、特に妥当ならば(クロロ)フルオロエタンと(クロロ)フルオロプロパン、及び飽和不純物の含量に関して低含量を示すヒドロフルオロアルカンを与えることが分かった。これは、本発明の方法が、それぞれ個々の有機不純物の含量が非常に低減されたヒドロフルオロアルカンの製造を可能にするからである。
結果として、本発明は、各有機不純物の個々の含量が10モルppm未満を示すヒドロフルオロアルカンにも関する。この個々の含量は、好ましくは最大8ppmである。特に好ましい方法では、この個々の含量は、最大5ppmである。最大2.8ppmの個々の含量が、非常に特に好ましい。最大1ppmの個々の含量がさらに好ましい。
【0013】
本発明のヒドロフルオロアルカン中の不純物含量は、実施例4で述べられる方法によって有利に決定することができる。本発明のヒドロフルオロアルカンは、製薬用途に好ましく使用できる。
本発明のヒドロフルオロアルカン中の有機不純物の全含量は、通常最大200モルppmである。この全含量は、多くの場合最大100ppmである。全含量は、さらに多くの場合最大50ppmである。全含量は、好ましくは最大30ppmである。特に好ましい方法では、全含量は最大25ppmである。最大20ppmの全含量が、さらに好ましい。全含量は、最大5ppmでもありうる。
本発明のヒドロフルオロアルカン中の不飽和有機不純物の全含量は、通常最大5モルppmである。この含量は、多くの場合最大3ppmである。この含量は、さらに多くの場合最大2ppmである。この含量は、好ましくは最大1.8ppmである。特に好ましい方法では、この含量は最大1.7ppmである。
【0014】
ヒドロフルオロアルカンは、好ましくは1,1,1,2-テトラフルオロエタンである。
本発明の1,1,1,2-テトラフルオロエタン中で測定されるフルオロプロペンの含量は、通常1.4モルppm未満である。この含量は、多くの場合最大1.2ppmである。
この含量は、さらに多くの場合最大1.0ppmである。この含量は、好ましくは最大0.9ppmである。特に好ましい方法では、この含量は最大0.8ppmである。
本発明の1,1,1,2-テトラフルオロエタン中の1,1,2,2-テトラフルオロエタンの含量は、通常10モルppm未満である。この含量は、好ましくは最大8ppmである。
特に好ましい方法では、この含量は最大5ppmである。さらに好ましい方法では、この含量は最大2ppmである。
【0015】
本発明は、ヒドロフルオロアルカン中の有機不純物含量の分析方法にも関し、本方法では、
(a)ヒドロフルオロアルカンがクロマトグラフィー操作に供され、かつ;
(b)有機不純物が質量分析によって検出される操作が行われる。
本発明の方法は、驚くべきことに、単一の分析操作で、ヒドロフルオロアルカン中に存在する多数の有機不純物の性質と量を決定することができる。本発明の方法は、それらの間でクロマトグラフィー操作において同一保持時間を示す数種の有機不純物の定量的検出を行うことさえも可能にする。特に驚くべき方法では、本発明の方法は、クロマトグラフィー操作においてヒドロフルオロアルカンと同一の保持時間を示す不純物の定量的検出をも可能にする。
【0016】
1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン中に存在し、かつ本発明の以前には他の有機不純物と同時に決定しえなかった不純物、HCFC-124(1,1,1,2-テトラフルオロ-2-クロロエタン)が、本発明の方法によって、他の有機不純物と同じ操作で分析できることも分かった。
クロマトグラフィー操作は、好ましくはガスクロマトグラフィー操作である。
クロマトグラフィー操作における固定相は通常無極性である。固定相として多くの場合ポリシロキサンタイプのポリマーが使用される。任意に架橋されたポリジメチルシロキサンで構成される固定相が良い結果を与えた。ガスクロマトグラフィーの場合、Restek社によって販売されているRtx(登録商標)-1ガスクロマトグラフィーカラムで良い結果が得られた。
【0017】
選択的形態では、固定相が適度の極性を示す。このような固定相は、例えば、上述したような無極性ポリマーと極性ポリマーの組合せで構成することができる。このような極性ポリマーは、例えば、極性基で官能化されたポリマー、特に官能性ポリオレフィン又はポリアルキルシロキサンから選択される。極性基は、例えば、ヒドロキシル、エーテル、エステル、フェノキシ、及び好ましくはニトリルから選択される。極性ポリマーとして下記一般式のポリシロキサンが特に好ましい。
【化1】

式中、RはC1〜C4アルキル基、好ましくはメチル基である。上述の選択的形態では、極性ポリマーの含量は、通常固定相の1質量%以上である。この含量は、多くの場合2質量%以上である。それは、好ましくは約5質量%以上である。
極性ポリマーの含量は、通常固定相の15質量%以下である。この含量は、多くの場合10質量%以下である。それは、好ましくは約8質量%以下である。
クロマトグラフィー操作の初期温度は、通常最高40℃に調整される。この温度は、多くの場合最高0℃に調整される。この温度は、さらに多くの場合最高-20℃に調整される。この温度は、好ましくは最高-40℃に調整される。一般的な規則として、それは少なくとも-80℃である。
【0018】
クロマトグラフィー操作には、通常、初期温度から開始する制御された温度上昇を与える一定温度勾配の少なくとも1段階がある。この温度勾配は、通常少なくとも0.1℃/分である。それは、好ましくは少なくとも0.5℃/分である。
温度勾配は、通常最高10℃/分である。それは、好ましくは最高2℃/分である。
カラムは、好ましくはキャピラリーカラムである。カラムの長さは、通常最高200mである。この長さは、多くの場合最高120mである。カラムの長さは、通常少なくとも20mである。
【0019】
注入は、スプリット又はスプリットレス様式で行うことができる。スプリット様式の注入が好ましい。
キャリヤーガスは、多くの場合ヘリウム及び水素から選択される。ヘリウムが好ましい。
カラムの内径は、通常最大0.32mmである。この径は、多くの場合最大0.25mmである。この径は、好ましくは最大0.2mmである。カラムの内径は、多くの場合少なくとも0.10mmである。この径は、好ましくは少なくとも0.15mmである。
カラム内側に沈着される固定相膜の厚さは、通常少なくとも0.5μmである。この厚さは、好ましくは約1μm以上である。カラム内側に沈着される固定相膜の厚さは、通常最高5μmである。
【0020】
本発明の方法の特有の選択的形態は、好ましくは内径及び膜の厚さが好ましい範囲内にある場合に適用される。
この選択的形態では、カラムの長さは、少なくとも30mが有利である。特に好ましい方法では、カラム長は約40m以上である。カラム長は、有利には最高100mである。さらに特に好ましい方法では、カラム長は約60m以下である。
この選択的形態では、上で定義した温度勾配は通常少なくとも10℃/分である。それは、好ましくは少なくとも20℃/分である。さらに特に好ましい方法では、温度勾配は約40℃/分以上である。この選択的形態の温度勾配は、通常最高50℃/分である。
【0021】
この選択的形態における初期温度は、通常最高-10℃である。それは、好ましくは-20℃以下である。この選択的形態における初期温度は、通常少なくとも-50℃である。
本発明の方法のこの選択的形態は、驚くべきことに、本発明の方法の他の利点を保持しながら、特に有機不純物の同時検出及び定量に関して、さらに分析操作を促進させることができる。
本発明の方法を実施することができる前製造ガスクロマトグラフィーカラムとしては、例えば、RestecからRtx(登録商標)-624、及びJ & WからDB(登録商標)-624を商業的に入手可能である。
質量分析による検出は、好ましくは選択イオンモニタリング(SIM)法を用いて行われる。
【0022】
別の好ましい選択的形態に従い、飛行時間(TOF)法を用いて質量分析による検出が行われる。本発明の方法で好ましい、飛行時間法を用いることによる検出用の質量分析装置は、毎秒多数の質量スペクトルの記録が可能であり、すなわち1秒につき約1〜500、好ましくは100〜500スペクトルが可能である。本発明の方法の実施に使用可能な分析装置は、例えば、Leco株式会社によって商品名Pegasue(登録商標)IIで販売されているもの及びThermoquestによって商品名TempusTMで販売されているものである。
【0023】
本発明の方法で有機不純物含量を分析することができるヒドロフルオロアルカンは、本発明の方法によって得られるヒドロフルオロアルカンと同一である。本発明の方法は、好ましくは1,1,1,2-テトラフルオロエタン又は1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパンの分析に適用される。本発明の方法は、特に1,1,1,2-テトラフルオロエタンの分析に適用される。
本発明の方法は、単一の分析操作ですべての有機不純物含量を定量できるので、特に効率的である。その場合、この操作だけが有効、すなわち、標準化かつ確証されるはずである。結果として、種々の試料の分析間におそらく必要な較正が単純化される。
【0024】
本発明の方法は、分析に必要な持続時間を非常に短くすることができ、典型的には2時間未満、多くの場合1時間未満で行うことができる。不純物の完全な分析は、約10分という時間内に到達することができる。この能力は、特にヒドロフルオロアルカンの品質管理を必要とする工業的製造プロセスの実行を向上させることができる。これは、本方法が、多大なフレキシビリティーとスピードで、ヒドロフルオロアルカンの緊急の注文に応じ、かつヒドロフルオロアルカン貯蔵時間を減少させることができるからである。
結果として、本発明は、ヒドロフルオロアルカンの製造方法であって、ヒドロフルオロアルカンの品質を管理するために本発明の分析方法を使用することを含む方法にも関する。
【0025】
選択的形態では、ヒドロフルオロアルカンは精製ヒドロフルオロアルカンである。この選択的形態では、ヒドロフルオロアルカンの製造方法は、多くの場合精製段階を含む。この方法は、好ましくは以下を含む:
(a)粗製ヒドロフルオロアルカンの分析のため、本発明の方法の使用;
(b)精製ヒドロフルオロアルカンを得るため、粗製ヒドロフルオロアルカンの精製;
(c)及び精製ヒドロフルオロアルカンの分析のため、本発明の方法の二度目の使用。
妥当な場合、精製は、例えば本発明の製造方法に従って行うことができる。本発明のヒドロフルオロアルカンの製造方法は、好ましくは上述のヒドロフルオロアルカンに適用される。
【0026】
本発明は、少なくとも1種の製薬グレードのヒドロフルオロアルカンを含む製薬エアゾールの製造方法であって、製薬グレードのヒドロフルオロアルカンの品質を管理するたに本発明の分析方法を使用することを含む方法にも関する。
本発明の製薬エアゾールの製造方法は、圧力下液化された少なくとも1種のヒドロフルオロアルカンと、薬物を含む吸入用製薬エアゾールの製造に特に好適である。薬物は、好ましくは懸濁状態中に粉末形態で存在する。ヒドロフルオロアルカンは、噴霧ガスとして存在する。
製薬エアゾールの製造方法は、特に効率的な方法で製薬用途のために規定されている厳しい品質管理を遂行できるので、特に有利である。
本発明は、本発明のヒドロフルオロアルカンの、製薬エアゾールにおける噴霧ガスとしての使用にも関する。
本発明は、本発明のヒドロフルオロアルカンの、電子工業における使用にも関する。
【0027】
図1は、本発明の製造方法の好ましい選択的形態の実施に使用可能なプラントのダイアグラムを示す。番号は図1を参照する。有機不純物を含むヒドロフルオロアルカンが、経路(1)そ経由して第1蒸留カラム(2)中に導入される。このカラム(2)の頂部(3)で、軽い不純物(より低いが同様の沸点)及びこの圧力で最小沸点共沸混合物を形成するものを含む留分が得られる。このカラム(2)の底部(4)で、他の不純物含量が低減されたヒドロフルオロアルカンを含む留分が得られ、この留分が経路(5)を経由して、カラム(2)より高圧で作動する第2蒸留カラム(6)中に導入される。第2カラム(6)の底部(7)で、ヒドロフルオロアルカンの沸点より高い沸点を示す重い不純物に富む留分が回収される。第2カラム(6)の頂部(8)で、有機不純物から精製されたヒドロフルオロアルカンが得られる。
【0028】
以下に与えられる実施例は、暗黙の限定ではなく、本発明の方法、分析方法及びヒドロフルオロアルカンを例証することを意図している。
実施例1 (本発明に従う)
57.2モルppmの飽和有機不純物と10.6モルppmの不飽和有機不純物を含む不純な1,1,1,2-テトラフルオロエタン留分を使用した。この留分を、20理論段を含む第1蒸留カラム中第7理論段のレベルに導入した。第1カラム内の圧力は6.75バール絶対圧だった。250の還流比を与えた。頂部で、供給原料の10%に相当し、かつ51.4モルppmの飽和有機不純物と3.9モルppmの不飽和有機不純物を含む留分を回収した。底部で、1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成され、かつ41.5モルppmの飽和有機不純物と34.9モルppmの不飽和有機不純物を含む“軽い”不純物から精製された留分を回収し、この留分を、20理論段を含む第2蒸留カラム中第13段のレベルに導入した。この第2蒸留カラム内の圧力は19.3バール絶対圧だった。
14.8の還流比を与えた。カラム底部で、320モルppmの飽和有機不純物と9.8モルppmの不飽和有機不純物を含む、第1カラムの供給原料の10%を回収した。このカラムの頂部で、10.7モルppmの飽和有機不純物と1.3モルppmの不飽和有機不純物を含む重い不純物から精製された1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成される留分を回収した。
【0029】
実施例2 (本発明に従わない)
2750モルppmの飽和有機不純物と75モルppmの不飽和有機不純物を含む不純な1,1,1,2-テトラフルオロエタン留分を使用した。この留分を、20理論段を含む第1蒸留カラム中第14理論段のレベルに導入した。第1カラム内の圧力は13バール絶対圧だった。50の還流比を与えた。頂部で、供給原料の10%に相当し、かつ1950モルppmの飽和有機不純物と150モルppmの不飽和有機不純物を含む留分を回収した。底部で、2950モルppmの飽和有機不純物と40モルppmの不飽和有機不純物を含む“軽い”不純物から精製された1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成される留分を回収し、この留分を、20理論段を含む第2蒸留カラム中第14段のレベルに導入した。この第2蒸留カラム内の圧力は12バール絶対圧だった。12.5の還流比を与えた。カラム底部で、15500モルppmの飽和有機不純物と50モルppmの不飽和有機不純物を含む、第1カラムの供給原料の10%を回収した。このカラムの頂部で、275モルppmの飽和有機不純物と31モルppmの不飽和有機不純物を含む重い不純物から精製された1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成される留分を回収した。
【0030】
実施例3 (本発明に従わない)
2950モルppmの飽和有機不純物と50モルppmの不飽和有機不純物を含む不純な1,1,1,2-テトラフルオロエタン留分を使用した。この留分を、20理論段を含む第1蒸留カラム中第14理論段のレベルに導入した。第1カラム内の圧力は7.5バール絶対圧だった。50の還流比を与えた。頂部で、供給原料の10%に相当し、かつ1830モルppmの飽和有機不純物と200モルppmの不飽和有機不純物を含む留分を回収した。底部で、3200モルppmの飽和有機不純物と32モルppmの不飽和有機不純物を含む“軽い”不純物から精製された1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成される留分を回収し、この留分を、20理論段を含む第2蒸留カラム中第14段のレベルに導入した。この第2蒸留カラム内の圧力は6.5バール絶対圧だった。12.5の還流比を与えた。カラム底部で、27500モルppmの飽和有機不純物と50モルppmの不飽和有機不純物を含む、第1カラムの供給原料の10%を回収した。このカラムの頂部で、200モルppmの飽和有機不純物と28モルppmの不飽和有機不純物を含む重い不純物から精製された1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成される留分を回収した。
【0031】
実施例4
本発明の製造方法によって得られる製薬グレードの1,1,1,2-テトラフルオロエタンの分析を行った。これを行うため、Restek社によって販売され、固定相として、Crossbond(登録商標)法によって架橋された100%のジメチルポリシロキサンを含むRtx(登録商標)-1ガスクロマトグラフィーカラムで、ガスクロマトグラフィーを行った。カラムの寸法は、105m×0.25mm×1.0ミクロンだった。2段階を含む温度プログラムを使用し、まず-50℃で開始し、1℃/分の割合で温度を上げ、0℃にした。引き続き、第2段階で、温度を10℃/分の割合で上げて250℃にした。Hewlett-Packardによって販売されているHP 5972質量分析装置を用いて、選択イオンモニタリング(SIM)法による質量分析で検出を行った。標準化は、分析すべき各不純物10ppmで構成されるガス標準混合物を用いて行った。
【0032】
本発明の1,1,1,2-テトラフルオロエタン及び本発明の方法で使用される粗製1,1,1,2-テトラフルオロエタン中の種々の不純物含量は、下表に示される。本発明の分析方法の検出限界も示される。この検出限界は、それぞれ個々の不純物の1〜10ppmという5濃度に関するランダム較正によって確証した。得られた値を、較正混合物中に存在する各不純物の純度に応じて補正した。
下表は、上述の草案FDA標準に包含される値も含む。すべての値は、モルppmで表され、パーセントとして表される“アッセイ”値とは別である。空欄は、問題の不純物が観察されなかったことを意味する。
【0033】

【0034】


【0035】
< 検出限界未満
含量が検出限界未満の不純物は、不純物の合計の計算では考慮しなかった。
(1)推定値
(2)HFC-1234yfの反応因子を考慮して計算した値
(3)E/Z異性体、HCFC-1122の反応因子を考慮して計算した値
* 草案FDA標準で個別に言及されていない化合物。
【0036】
本発明の方法によって得られる本発明の1,1,2,2-テトラフルオロエタンは、非常に低くかつ草案FDA標準の値よりずっと低い有機不純物の含量を示すことは明白である。さらに、個々の有機不純物の含量は、1モルppmを超ない。
本発明の方法は、非常に高感度で、草案FDA標準に包含されるすべての不純物を検出かつ同定できることも明白である。
【0037】
また、本発明は以下に関する。
1. 精製1,1,1,2-テトラフルオロエタンの製造方法であって、有機不純物を含む1,1,1,2-テトラフルオロエタンが、少なくとも2回の蒸留に供され、第2蒸留は第1蒸留の圧力より高い圧力で行われ、かつ有機不純物から精製されたヒドロフルオロアルカンで構成される少なくとも1留分が、第2蒸留の出口で回収される事を特徴とする方法。
2. 第1蒸留の圧力が10バール未満であり、かつ第2蒸留の圧力が少なくとも10バールである、1に記載の方法。
3. 第1蒸留の圧力が、最高9バールである、1又は2に記載の方法。
4. 第1蒸留の圧力が、最高8バールである、3に記載の方法。
5. 第2蒸留の圧力が、少なくとも15バールである、1〜4のいずれか1に記載の方法。
6. 第2蒸留の圧力が、少なくとも19バールである、5に記載の方法。
7. 有機不純物から精製された1,1,1,2-テトラフルオロエタンで構成される留分が、第2蒸留の頂部で回収される、1〜6のいずれか1に記載の方法。
8. 各有機不純物の個々の含量が10モルppm未満を示す精製1,1,1,2-テトラフルオロエタン。
9. 各有機不純物の個々の含量が最大5モルppmを示す、8に記載の1,1,1,2-テトラフルオロエタン。
10. さらに、有機不純物の全含量が最大200モルppmを示す、8に記載の1,1,1,2-テトラフルオロエタン。
11. 8〜10のいずれか1に記載の1,1,1,2-テトラフルオロエタンの、製薬エアゾール中の噴霧ガスとしての使用。
12. ヒドロフルオロアルカン中の有機不純物含量の分析方法であって、
(a)ヒドロフルオロアルカンがクロマトグラフィー操作に供され、かつ;
(b)有機不純物が質量分析によって検出される操作が行われる方法。
13. クロマトグラフィー操作がガスクロマトグラフィー操作である、12に記載の方法。
14. クロマトグラフィー操作の初期温度が、最高40℃に調整される、12又は13に記載の方法。
15. クロマトグラフィー操作の初期温度が、約-20℃以下である、14に記載の方法。
16. 選択イオンモニタリング(SIM)法によって検出が行われる、12〜15のいずれか1に記載の方法。
17. 飛行時間(TOF)法によって検出が行われる、12〜15のいずれか1に記載の方法。
18. ヒドロフルオロアルカンが、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンから選択される、12〜17のいずれか1に記載の方法。
19. ヒドロフルオロアルカンが1,1,1,2-テトラフルオロエタンである、18に記載の方法。
20. ヒドロフルオロアルカンの品質を管理するために、12〜19のいずれか1に記載の方法を使用することを含むヒドロフルオロアルカンの製造方法。
21. 製薬グレードの少なくとも1種のヒドロフルオロアルカンを含む製薬エアゾールの製造方法であって、製薬グレードのヒドロフルオロアルカンの品質を管理するために、12〜19のいずれか1に記載の方法を使用することを含む方法。
22 1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン及び1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタンから選択される精製ヒドロフルオロアルカンの製造方法であって、有機不純物を含むヒドロフルオロアルカンが、少なくとも2回の蒸留に供され、第2蒸留は、第1蒸留の圧力より高い圧力で行われ、かつ有機不純物から精製されたヒドロフルオロアルカンで構成される少なくとも1留分が、第2蒸留の出口で回収される事を特徴とする方法。
23. 有機不純物から精製されたヒドロフルオロアルカンで構成される留分が、第2蒸留の頂部で回収される、22に記載の方法。
24. 各有機不純物の個々の含量が、10モルppm未満を示す精製ヒドロフルオロアルカン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロフルオロアルカン中の有機不純物含量の分析方法であって、
(a)ヒドロフルオロアルカンがクロマトグラフィー操作に供され、かつ;
(b)有機不純物が質量分析によって検出される操作が行われる方法。
【請求項2】
クロマトグラフィー操作がガスクロマトグラフィー操作である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
クロマトグラフィー操作の初期温度が、最高40℃に調整される、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項4】
クロマトグラフィー操作の初期温度が、約-20℃以下である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
選択イオンモニタリング(SIM)法によって検出が行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
飛行時間(TOF)法によって検出が行われる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
ヒドロフルオロアルカンが、1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3,3-ペンタフルオロブタン及び1,1,1,2-テトラフルオロエタンから選択される、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ヒドロフルオロアルカンが1,1,1,2-テトラフルオロエタンである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
ヒドロフルオロアルカンの品質を管理するために、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を使用することを含むヒドロフルオロアルカンの製造方法。
【請求項10】
製薬グレードの少なくとも1種のヒドロフルオロアルカンを含む製薬エアゾールの製造方法であって、製薬グレードのヒドロフルオロアルカンの品質を管理するために、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法を使用することを含む方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−154035(P2011−154035A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62969(P2011−62969)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【分割の表示】特願2001−565319(P2001−565319)の分割
【原出願日】平成13年3月7日(2001.3.7)
【出願人】(591001248)ソルヴェイ(ソシエテ アノニム) (252)
【Fターム(参考)】