説明

ヒンジ機構

【課題】回転対象物を途中で動作停止させときに回転対象物が下方向に動いたり、上方向に跳ね上がったりすることが無いコンパクトなヒンジ機構を提案すること。
【解決手段】係止部を有するシャフト部材と、そのシャフト部材との間に所定のトルク値を発生するトルク発生部材とからなるトルクリミッタ、及び第1の円環状カム面を有する第1のカム部材と、この円環状カム面に組み合わされる第2の円環状カム面を有する第2のカム部材と、前記第1、第2の円環状カム面の間に押圧力を与える弾性部材とからなる一方向クラッチを組み合わせてなるヒンジ機構。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転対象物、例えば車体の後部ドア又はピアノの蓋体などを所定の角度の範囲で回転させるのに適したヒンジ機構に関する。
【背景技術】
【0002】
各種のドア、パソコンの蓋体などの開閉機構に多種多様なヒンジ機構が用いられている。それぞれの開閉機構に適った構造のヒンジ機構が数多く提案されているが、構造の簡単なものとしてシャフト部材又は内輪部材にコイルバネを巻装、又は他のバネ部材を装着して、それらの間に生じるトルクを利用するヒンジ機構など(例えば、特許文献1、2参照)が提案されている。また、比較的重量のある車体の後部ドアの開閉機構の一例としてヒンジとダンパーなどを組み合わせたヒンジ機構が提案されている(例えば、特許文献3、4参照)。
【0003】
前掲の特許文献1、2の発明に係るヒンジ機構は、シャフト部材などにバネ体を装着すると共に一方向クラッチを固定し、シャフト部材などとバネ体との間に生じるトルクを発生させて、一方向クラッチの一方向性を利用するので、構造が簡潔であり、部品点数も少ないので小型で経済性に優れ、一方の回転方向には空転し、他方向には所望の大きさの回転トルクを発生するものである。
【0004】
しかしながら、特許文献1、2の発明に係るヒンジ機構は、例えば車体の後部ドアの開閉機構などのように、後部ドアを開けるときには比較的小さい力で開けることができ、閉めるときには後部ドアの重さによって急激に閉じないような開閉特性、つまり要求される回転トルクが大きく、かつ回転方向によって生じる回転トルクの大きさが異なる特性を要求される開閉機構には適しているとは言えない。
【0005】
この点について説明すると、一方向クラッチが内輪部材と外輪部材とローラのような転動部材とその転動部材に押圧力(予圧)を与えるバネ部材などからなる場合、ある回転方向に対しては転動部材が内輪部材と外輪部材との間に食い込まずに回転することによって、内輪部材と外輪部材は非係止状態であって空転する。逆の回転方向では、転動部材が内輪部材と外輪部材との間に食い込むことによって、内輪部材と外輪部材は係止状態となって回転できない。この一方向回転動作については広く知られているので更に詳しく説明することはしないが、このような構造の一方向クラッチはバックラッシが生じることが知られている。特に大きな回転トルクを扱う一方向クラッチにあっては、前述のような構造上からバックラッシが大きくなる場合がある。
【0006】
このバックラッシによって、例えば回転対象物が車体の後部ドアの場合、後部ドアを上方向に開いている途中で手を離した瞬間、若干だけ後部ドアが下方向に動くことがある。また、車体の後部ドアを下方向に閉めている途中で手を離すと、その瞬間、後部ドアが上方向に若干跳ね上がることがある。更に、特許文献1、2の発明に係るヒンジ機構は、各種のドア又は蓋体などのような回転対象物を特定の位置に安定に保持するのは難しく、衝撃などが回転対象物などに加えられると、回転対象物が動いてしまう場合があるという問題もある。
【0007】
前掲の特許文献3、4に開示されている発明のヒンジ機構は、車体の後部ドアの開閉機構用に造られているので、ヒンジ機構に要求される特性を満足するが、汎用性に乏しく、取り付けが複雑であって大きな取り付け場所が必要であることが難点である。また、開閉機構がヒンジだけでなく、曲線を描いて動くヒンジ部材とダンパーとなどとを組み合わせて構成されているので、開閉機構が大型化せざるを得ず、コンパクトな構造とすることは難しかった。さらに、これらヒンジ機構は開閉の途中の特定位置で安定に後部ドアを所望の位置に停止させる補助機構が必要であり、その補助機構が互いに噛み合うときに生じる騒音も好ましくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−042181号公報
【特許文献2】特開2000−352427号公報
【特許文献3】特開2005−088714号公報
【特許文献4】特開平10−153045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、従来のヒンジ機構にあっては、その一方向クラッチのバックラッシによって、特に、回転対象物を上方向又は下方向に回転させるヒンジ機構に適用した場合に、回転対象物を動作停止させた瞬間に、回転対象物が回転させていた方向に若干動いたり、逆方向に跳ね上がったりすることがあるというところにある。
【0010】
本発明は、上述のような従来の課題を解決することを目的とし、コンパクトなヒンジ機構であって、一方向クラッチのバックラッシを無くしたことによって、回転対象物を上方向又は下方向に回転させるヒンジ機構に適用した場合でも、回転対象物の上方向の動作を停止させた瞬間に回転対象物が下方向に動いたり、又は回転対象物の下方向の動作を停止させた瞬間に回転対象物が跳ね上がったりすることが無いヒンジ機構を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の発明は、係止部を有するシャフト部材と、そのシャフト部材の一部分との間に所定のトルク値を発生するトルク発生部材と、前記シャフト部材と前記トルク発生部材とを包囲してなる第1のハウジングとを備えると共に、第1の円環状カム面と係止部とを有する第1のカム部材と、その第1の円環状カム面に組み合わされる第2の円環状カム面を有する第2のカム部材と、前記第1の円環状カム面と前記第2の円環状カム面との間に押圧力を与える弾性部材と、前記第1のカム部材と前記第2のカム部材と前記弾性部材とを包囲してなる第2のハウジングとを備え、前記第2のカム部材と前記弾性部材、又は前記第2のハウジングは、前記第1のハウジングから外部に延びる前記シャフト部材を挿通させる中央穴を有し、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとはそれぞれ取付け部を有し、前記第1のハウジングから外部に延びる前記シャフト部材を前記第2のハウジング内に挿入し、前記シャフト部材の係止部を前記第1のカム部材の係止部に係止させることを特徴とするヒンジ機構を提案する。
【0012】
第2の発明は、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとに相対的に逆方向の回転力がかかるとき、その回転方向によって、前記第1のカム部材と前記第2のカム部材とは、互いに回転不能な係止状態を呈するか、あるいは所定値以上の回転力が働くときに相対的に逆方向に回転可能な非係止状態を呈する一方向クラッチとして動作し、前記第1のカム部材と前記第2のカム部材とが互いに回転不能な係止状態を呈する回転方向に設定値以上の回転力がかかるとき、前記シャフト部材に対して前記第1のハウジングが回転することを特徴とする請求項1に記載のヒンジ機構を提案する。
【0013】
第3の発明は、前記第1のカム部材は、前記第1のハウジングに対して回転可能なように前記第1のハウジングに支承されており、前記第2のカム部材は前記第2のハウジングに対して回転方向には実質的に動くことができないが、前記シャフト部材の長さ方向には動けるように、前記第2のハウジングは前記第2のカム部材が有する係合部と係合する係合溝を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒンジ機構を提案する。
【0014】
第4の発明は、前記第1の円環状カム面と前記第2の円環状カム面は、それぞれ前記第1のカム部材の円環状の側面、前記第2のカム部材の円環状の側面に形成された、一方の回転方向に対しては急傾斜で、他方の回転方向に対しては緩傾斜である一定幅で繰り返す凹凸構造からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のヒンジ機構を提案する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コンパクトで一方向動作のバックラッシが無く、回転対象物を途中で動作停止させた瞬間に、回転対象物が下方向に動いたり、上方向に跳ね上がったりすることが無いヒンジ機構を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る実施形態1のヒンジ機構を構成する部品の外観を示す図である。
【図2】本発明に係る実施形態1のヒンジ機構の断面を示す図である。
【図3】本発明に係る実施形態1のヒンジ機構を構成する一部分の部品の外観を示す図である。
【図4】本発明に係る実施形態1のヒンジ機構に用いられる第1のカム部材のカム面を説明するための図である。
【図5】本発明に係る実施形態1のヒンジ機構に用いられる第2のカム部材のカム面を説明するための図である。
【図6】本発明に係る実施形態1のヒンジ機構の第1のカム部材と第2のカム部材とのカム面を説明するための図である。
【図7】本発明に係る実施形態2のヒンジ機構の断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、係止部を有するシャフト部材と、そのシャフト部材の一部分との間に所定のトルク値を発生するトルク発生部材とを包囲してなる第1のハウジングと、第1の円環状カム面を有する第1のカム部材と、その第1の円環状カム面に組み合わされる第2の円環状カム面を有する第2のカム部材と、前記第1の円環状カム面と前記第2の円環状カム面との間に押圧力を与える弾性部材とを包囲してなる第2のハウジングとを組み合わせるヒンジ機構である。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。本明細書及び図面において、符号が同じ構成要素は同一の名称の部材を示すものとする。
【0018】
[実施形態1]
図1〜図6によって本発明に係る実施形態1のヒンジ機構1について説明する。図1は、第1のハウジング2と第2のハウジング4とをシャフト部材3で互いに組み合わせる前のそれぞれの外観図を示す。図2は、第1のハウジング2と第2のハウジング4とをシャフト部材3で組み合わせ後のヒンジ機構1の断面を示す図である。図3は、第1のカム部材6と第2のカム部材7とを組み合わせた図面を示す。図4は、第1のカム部材6の一方の環状の側面に形成された第1の円環状カム面6Cを説明するための図であり、図5は、第2のカム部材7の一方の環状の側面に形成された第2の円環状カム面7Cを説明するための図である。図6は、第1のカム部材6と第2のカム部材7の双方の円環状カム面の凹凸形状を説明するための図である。
【0019】
このヒンジ機構1の概略は、図1に示すように、外観上からみてケース又は樹脂モールド体のような第1のハウジング2、この第1のハウジング2から外に延びるシャフト部材3、シャフト部材3を受け入れて係止させる第2のハウジング4からなる。シャフト部材3を第2のハウジング4に挿しこみ、シャフト部材3を第2のハウジング4内の部品に係止することにより、ヒンジ機構1が構成される。図2に示すように、第1のハウジング2にはトルク発生部材5が収納されており、第2のハウジング4には第1のカム部材6と第2のカム部材7と弾性部材8と側壁部材9とが収納されている。ここで、第1のハウジング2とシャフト部材3とからなる部品はトルクリミッタを形成し、第2のハウジング4と第1、第2のカム部材6、7などからなる部品は一方向クラッチを形成する。
【0020】
図2において、第1のハウジング2はシャフト部材3の一部分と所定の大きさのトルクを発生するトルク発生部材5を包囲している。実施形態1では、トルク発生部材5はシャフト部材3の一部分に強く巻かれた板状のバネ部材であるので、以下ではバネ部材5という。バネ部材5は種々の形状の板バネ又はコイルバネなど、シャフト部材3とバネ部材5との間に所望以上のトルクを発生するトルク発生部を形成するバネ部材であればよい。第1のハウジング2は、バネ部材5とそのバネ部材5が巻かれたシャフト部材3の一部分からなるトルク発生部を樹脂モールドしてなるモールド体、あるいは予め成型などによって形成された樹脂性又は金属性のケースである。なお、ここでは図2に示すように、シャフト部材3の中心をその長さ方向に延びる軸線を中心軸線X−Xという。
【0021】
第1のハウジング2は、シャフト部材3に固定されておらず、所定値以上の回転力が第1のハウジング2にかかることによって、シャフト部材3に対してバネ部材5が回転するときには、バネ部材5と一緒に回転する。つまり、第1のハウジング2とシャフト部材3との間に所定値以上の回転力が加わるときには、第1のハウジング2とシャフト部材3とが相対的に逆方向に回転することができる。図1に示すように、第1のハウジング2は2個の取り付け穴2Aを有する。取り付け穴2Aは少なくとも1個は必要である。取り付け穴2Aを利用して、例えば不図示のビスなどにより車体の後部窓などのような回転対象物、又は車体や機器などのような固定物に取付けられる。
【0022】
シャフト部材3は、好ましくは硬質の金属材料からなる丸棒であり、バネ部材5が巻かれてトルク発生部を形成する部分が摩滅しにくい材料からなる。第1のハウジング2から外方向に延びるシャフト部材3の先端部分に形成された係止部は、第2のハウジング4内の後述する第1のカム部材6の係止部としての係止穴に係止される係止突起部3Aとなっている(以後、シャフト部材3の係止部を係止突起部3A、第1のカム部材6の係止部を係止穴6Bと言う)。係止突起部3Aは一般的なDカット、又は四角形状の先端部、あるいは先端部分の丸棒状面から起立する突起部などからなり、シャフト部材3の係止突起部3Aが前記係止穴に対して挿入が可能で前記係止穴にしっかりと係止される構造のものが好ましいが、挿入と抜脱が可能、つまり挿抜可能であって、前記係止穴に一旦係止される構造のものでもよい。
【0023】
第2のハウジング4は、好ましくは射出成形などにより所定の形状に形成された樹脂材料又は金属材料からなるケースであり、第2のハウジング4の一方側(図2で右側)の端部4Aは開放されており、他方側の端部4Bには中央穴4Cが形成されている(図2で左側)。この中央穴4Cは、後述する実施形態2のように、シャフト部材3を中央穴4Cを通して挿入するのに使用することも考慮して設けたものである。したがって、後述する実施形態2のような構造としない場合には、中央穴4Cは必ずしも必要でなく、第2のハウジング4の他方側は閉じていてもよい。
【0024】
第2のハウジング4は、図1、図2に示すように、その内側に等間隔で中心軸線X−Xに沿って延びる3本の係着溝4Dを有する。また、図1に示すように、第2のハウジング4は2個の取り付け穴4Eを有する。取り付け穴4Eは2個以上でも勿論よい。第2のハウジング4は、取り付け穴4Eを利用して、例えば不図示のビスなどにより車体や機器などのような固定物又は車体の後部窓などのような回転対象物に取付けられる。第2のハウジング4には、前記開いた端部4A側から第1のカム部材6と第2のカム部材7と弾性部材8と側壁部材9とが納められる。
【0025】
第1のカム部材6は、シャフト部材3の先端部分の係止突起部3Aを受け入れて互いに係止し合う係止穴6Bを有する円筒状本体6Aを備える。係止穴6Bは、シャフト部材3の係止突起部3Aに適合する形状であって、シャフト部材3の係止突起部3Aを受け入れることができ、しっかりと互いに係止し合う構造が好ましい。しかし、シャフト部材3の係止突起部3Aが挿抜可能な係止穴6Bであってもよい。円筒状本体6Aの一方の環状側面には、図4、図6に示すような第1の円環状カム面6Cが形成されている。第1の円環状カム面6Cについては、第2のカム部材7のカム面と一緒に後述する。円筒状本体6Aは、その円筒状の外面6Aaがハウジング4の内面4Fに対して回転可能なように、円筒状の外面6Aaの直径(外径)はハウジング4の内面4Fの直径(内径)よりも幾分小さい形状となっている。第1のカム部材6の第1の円環状カム面6Cとは反対側の端面6Dは、弾性部材8の弾性力で第2のハウジング4の端部4Bの内面に押し付けられる。
【0026】
ここで、第1のカム部材6は前述した係止穴6Bに代えて、その中央部から突出する係止突起部を有してもよい。この場合、シャフト部材3は、係止突起部3Aに代えて、シャフト部材の先端面に形成された係止穴を有する。前記係止突起部は前記係止穴に挿入されて互いに係止し合う形状と大きさをそれぞれ有する。
【0027】
第2のカム部材7は、シャフト部材3を挿通させる断面が円形状の中央穴7Bを有する筒状本体7Aを備える。その筒状本体7Aの第1のカム部材6側の環状側面には、図5、図6に示すような第2の円環状カム面7Cが形成されている。筒状本体7Aの外面7Aaには、図3、図5に示すように、外面7Aaから起立する回転抑止用突起7Abが等間隔で3個形成される。回転抑止用突起7Abは、第2のハウジング4の内側に等間隔で形成された係着溝4Dそれぞれに受け入れられ、回転抑止用突起7Abと係着溝4Dとの働きによって、第2のカム部材7は回転方向には動けないが、中心軸線X−X方向には動くことができる。
【0028】
図5に示すように、3個の回転抑止用突起7Abの内、1個だけが他のものよりも背高になっており、この背高の回転抑止用突起7Abに適合するように、第2のハウジング4の三つの係着溝4Dの内、1つだけが深溝となっている。この背高の回転抑止用突起7Abと深溝の係着溝4Dとで、第2のハウジング4の回転方向に対する第2のカム部材7の位置決め、及び第2のカム7の回転抑止を確実に行っている。第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとの組み合わせ構造を、図2、図3では一方向クラッチ部Wで示している。なお、係着溝4D及び回転抑止用突起7Abの個数は3個に限定されるものではない。
【0029】
第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cは、図4〜図6に示すように、一定幅で鋸波状に繰り返す凹凸からなる。図4において、凹凸の境界を示す直線6xと隣の直線6xとの間隔はすべてほぼ同じで、第1の円環状カム面6Cの鋸波状の凹凸の回転方向の幅がほぼ等しいことを示す。図5においても同様に、凹凸の境界を示す直線7xと隣の直線7xとの間隔はすべてほぼ同じで、第2の円環状カム面7Cの鋸波状の凹凸の回転方向の幅がほぼ等しいことを示す。第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとの鋸波状の凹凸の幅と高さはほぼ同等である。つまり、第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとは一方向のカム動作を行える互いに適合した形状を有する。
【0030】
図6では、円環状に配置される第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとを直線状の構造で示している。図6(a)に示すように、第1の円環状カム面6Cは一方の回転方向(矢印A1方向)に対して緩やかな傾斜、つまり緩傾斜の斜面6Caを有し、他方の回転方向(矢印A2方向)に対して急な傾斜となる急傾斜の斜面6Cbを有する複数の凹凸からなる。同様に、第2の円環状カム面7Cも一方の回転方向(矢印A1方向)に対して緩傾斜の斜面7Caを有し、他方の回転方向(矢印A2方向)に対して急傾斜の斜面7Cbとからなる複数の凹凸からなる。
【0031】
これら傾斜の角度について制限するものではないが、図6の矢印A1方向と逆の矢印方向A2の回転力が第1のカム部材6と第2のカム部材7との間に加えられる場合、急傾斜の斜面6Cbと急傾斜の斜面7Cbは、第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとが係止し合い、第2のカム部材7は第1のカム部材6が図6の矢印方向A2に回転するのを阻止する程度に急勾配でなければならない。他方、第1のカム部材6に図6の矢印A1方向の回転力が加えられる場合、後述するバネ部材8の弾性力で緩傾斜の斜面6Caと斜面7Caとの間に生じる摩擦力に逆らって、第1の円環状カム面6Cが第2の円環状カム面7Cに対して非係止であって滑り、第1のカム部材6が矢印A1方向に、かつ第2のカム部材7が矢印A2方向にできるだけ容易に回転できる緩やかな傾斜であることが好ましい。
【0032】
図3に示す第1のカム部材6と第2のカム部材7との組み合わせでは、第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとの傾斜から、第1のカム部材6に矢印A1方向の回転力がかかるときに、第1のカム部材6は非係止であって、矢印A1方向に回転する。他方、図3及び図6から分かるように、第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとの構造から、それらの急傾斜の斜面6Cbと急傾斜の斜面7Cbとが蜜に接触しており、矢印A1方向とは逆の矢印A2方向の回転力がかかるときは、第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとの間に全く遊びが無いので、第1のカム部材6は矢印A2方向には係止状態であって、第2のカム部材7は矢印A1方向には全く動かない。つまり、一方向クラッチ部Wで回転が生じない。
【0033】
図6(b)は第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cの別の形状を示す。第1の円環状カム面6Cの緩傾斜の斜面6Caの両側がより一層緩やかな傾斜又は平坦な面6Ccと6Cdとなっている。また、第2の円環状カム面7Cの緩傾斜の斜面7Caの両側がより一層緩やかな傾斜又は平坦な面7Ccと7Cdとなっている。このように第1の円環状カム面6Cの一方側の傾斜面が緩傾斜の斜面6Caとそれよりも更に緩やかな傾斜又は平坦な面6Ccと6Cdとからなり、また、第2の円環状カム面7C一方側の傾斜面が緩傾斜の斜面7Caとそれよりも更に緩やかな傾斜又は平坦な面7Ccと7Cdとからなるので、第1のカム部材6に矢印A1方向の回転力がかかるとき、図6(a)に示したものに比べてより小さな回転力で一方向クラッチ部Wに回転が生じるだけでなく、騒音が小さい。また、第2のカム部材7に矢印A2方向の回転力がかかるとき、同様に図6(a)に示したものに比べてより小さな回転力で一方向クラッチ部Wに回転が生じるだけでなく、騒音が小さい。矢印方向A2の回転力が第1のカム部材6に加えられる場合、又は矢印方向A1の回転力が第2のカム部材7に加えられる場合には、図6(a)に示したものと同様に遊びが実質的に無い。
【0034】
図2に戻って、弾性部材8と側壁部材9とについて説明する。この実施形態1では、弾性部材8が複数の巻数を有するコイルバネからなり、当然にシャフト部材3を挿通させる中央穴を有する。側壁部材9は、外径が小さい小径部9Aと小径部9Aよりも外径の大きな大径部9Bと大径部9Bの外面から少し突出している圧入部9Cとシャフト部材3を挿通させる中央穴9Dとからなる。側壁部材9の小径部9Aは弾性部材8とシャフト部材3との間にあり、弾性部材8に中心軸線X−X方向の力がかかって弾性部材8が収縮したときに、シャフト部材3に接しないようにする働きを行う。側壁部材9の圧入部9Cは、第2のハウジング4の内側に形成された円環状の浅溝4Gに圧入される。
【0035】
側壁部材9の圧入部9Cが円環状の浅溝4Gに圧入された状態では、弾性部材8は第2のカム部材7の筒状本体7Aと側壁部材9の大径部9Bとの間に挟まれて収縮状態にあり、第2のカム部材7に押圧力を与える。つまり、一方向クラッチ部Wに常に押圧力を与える。弾性部材8はコイルバネの他に、弾性力に優れた円環状の波板バネ、C字状の板バネなどの各種の細い板状のバネ又はゴムなど、第2のカム部材7に押圧力を継続して与えるものならばよい。
【0036】
次に動作について説明する。先ず前述したように、第1のハウジング2とシャフト部材3とからなる部品はトルクリミッタとして働き、第2のハウジング4と第1、第2のカム部材6、7などからなる部品は一方向クラッチとして働く。したがって、第1のハウジング2とシャフト部材3とからなる部品が単体であるとき、トルクリミッタとして使用できる。また、第2のハウジング4と第1、第2のカム部材6、7などからなる部品は不図示のシャフト部材と組み合わせることによって、一方向クラッチとして使用することが可能である。
【0037】
次に図2に示すように、シャフト部材3を側壁部材9の中央穴9Dから挿入し、第2のカム部材7の中央穴7Bを挿通させ、シャフト部材3の係止部3Aを第1のカム部材6の係止部6Bに挿入して係止することにより、ヒンジ機構1を形成する。第2のカム部材7及び側壁部材9はシャフト部材3を回転可能に支承する役割ももつ。第1のハウジング2が不図示の回転対象物に取付けられ、第2のハウジング4が不図示の固定物に取付けられるものとする。今、第1のハウジング2に、図3及び図6で第1のカム部材6を矢印A1方向に回転させる力が加わったとすると、その回転力はシャフト部材3を通して第1のカム部材6に伝達され、第1のカム部材6を矢印A1方向に回転させようとする。第2のカム部材7は、前述したように、第2のハウジング4に対して回転できない。
【0038】
第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとの一方向クラッチ部Wには、弾性部材8による押圧力がかかっているが、第1のカム部材6にかかる矢印A1方向の回転力がある程度大きいと、図6において、第1のカム部材6の緩傾斜の斜面6Caが第2のカム部材7の緩斜面7Caを滑って上るのに伴い、第2のカム部材7が弾性部材8の押圧力に逆らって中心軸線X−Xに沿って側壁部材9方向に後退する。このような動作によって、第1のカム部材6の緩傾斜の斜面6Caが第2のカム部材7の緩斜面7Caを滑って凹凸の頂部を越える動作を繰り返すことができる。以上述べたように、第1のカム部材6を矢印A1方向に回転させる回転力が第1のハウジング2にかかるときには、小さな外部回転力で第1のハウジング2を矢印A1方向に回転させることができる。つまり、回転対象物の重さにより発生するモーメント力よりも少し大きな力で、回転対象物を上方向に上げることができる。
【0039】
次に、第1のカム部材6を矢印A2方向に回転させる回転力が第1のハウジング2にかかるときには、第1の円環状カム面6Cの急傾斜の斜面6Cbと第2の円環状カム面7Cの急傾斜の斜面7Cbとに働く力は実質的に回転方向だけであって、中心軸線X−X方向には実質的に力が働かない。したがって、中心軸線X−X方向に働く力は弾性部材8の押圧力を越えることが無いので、急傾斜の斜面6Cbと急傾斜の斜面7Cbとが互いに中心軸線X−X方向に動いて外れることが無い。つまり、一方向クラッチ部Wは矢印A1方向の回転力に対しては非係止状態となって回転し、矢印A2方向の回転力に対しては係止状態となって回転しないという一方向特性を呈する。
【0040】
本発明の第1の円環状カム面6Cと第2の円環状カム面7Cとからなる一方向クラッチ部Wの場合、弾性部材8の押圧力は中心軸線X−X方向にかかっているが、回転方向には弾性力がかかっておらず、また、第1のカム部材6の急傾斜の斜面6Cbと第2のカム部材7の急傾斜の斜面7Cbとが互いに密接すると共に、緩傾斜の斜面6Caと緩斜面7Caも互いに密接する構造になっている。したがって、この一方向クラッチ部Wには一方向動作のバックラッシが全く発生しない。
【0041】
つまり、一方向クラッチ部Wでは、第1のカム部材6の急傾斜の斜面6Cbと第2のカム部材7の急傾斜の斜面7Cbとが互いに密接すると共に、緩傾斜の斜面6Caと緩斜面7Caも互いに密接する状態で停止するので、第1のカム部材6を矢印A2方向に回転させる回転力が第1のハウジング2にかかっても、バックラッシが発生せず、急傾斜の斜面6Cbと急傾斜の斜面7Cbとの間で動きが生じることは無い。したがって、第1のカム部材6を矢印A2方向に回転させる回転力が第1のハウジング2にかかる初期において第1のハウジング2が動くことが無い。また、第1のカム部材6を矢印A2方向に回転させる回転力が除去されても、一方向クラッチ部Wにおいて動きが生じることが無いので、第1のハウジング2が跳ね上がることも無い。
【0042】
一方向クラッチ部Wが係止状態にある場合、例えば、第1のハウジング2に取付けられる回転対象物の重さにより発生するモーメント力では、第1のハウジング2内において、シャフト部材3とトルク発生部材5との間で回転が生じることが無いので、回転対象物が動くことは無い。しかし、回転対象物を下方向に押し下げる外力が働くとき、その外力と回転対象物の重さにより発生するモーメント力との和の力がシャフト部材3とトルク発生部材5との間に発生するトルクを超えると、トルク発生部材5が回転する。これに伴い、トルク発生部材5と一緒に第1のハウジング2が回転し、したがって、回転対象物は下方向に回転する。外力を除くと、前述したように、第1のカム部材6の急傾斜の斜面6Cbと第2のカム部材7の急傾斜の斜面7Cbとが互いに密接しているので、回転対象物は外力を除去した位置に正確に停止し、跳ね上がる現象は生じない。
【0043】
したがって、シャフト部材3とトルク発生部材5との間に発生するトルクを適切に設定することによって、衝撃などの外力で回転対象物が下方向に動かず、かつ比較的小さな力によって楽に回転対象物を下方向に回転させることができる。なお、以上の説明では、第1のハウジング2を不図示の回転対象物に取付け、第2のハウジング4を不図示の固定物に取付けたが、逆に第1のハウジング2を不図示の固定物に取付け、第2のハウジング4を不図示の回転対象物に取付けてもよい。この場合には、動作が逆になるだけであるので、説明を省略する。
【0044】
[実施形態2]
図7に示す本発明に係る実施形態2のヒンジ機構10は、実施形態1のヒンジ機構1で用いられたものと同様な構造の第1のハウジング2、シャフト部材3及び第2のハウジング部材4で構成される。図2に示した一方向クラッチ部と同一構造の第2のハウジング4を中心軸線X−X方向に180度逆にして配置し、第1のハウジング2から延びるシャフト部材3を第2のハウジング4の中央穴4Cから挿入し、シャフト部材3の係止部3Aを第1のカム部材6の係止部6Bに挿入し、係止させる。
【0045】
図7に示す第2のハウジング4内の収納された第1のカム部材6、第2のカム部材7、弾性部材8及び側壁部材9は配置の順序や向きが逆になっているだけであり、それらからなる一方向クラッチ部の構造、働き及び動作は、図2に示したヒンジ機構1の場合と全く同じである。第1のカム部材6、第2のカム部材7、弾性部材8及び側壁部材9を第2のハウジング4内に収納する順序なども、図2に示したヒンジ機構1の第2のハウジング4の場合と全く同じでよいので、これ以上説明するのを省略する。
【0046】
以上の説明では、ヒンジ機構1及びヒンジ機構10に共通に使用できるように、第1のカム部材6、第2のカム部材7、弾性部材8及び側壁部材9を構成したが、いずれか一方に適する構造にしても勿論よい。具体的に一例を述べると、この実施例2では、第1のカム部材6の係止部6Bによって、シャフト部材3をしっかりと係止できれば良いので、第2のカム部材7、弾性部材8及び側壁部材9には、必ずしもシャフト部材3を挿通させる中央穴を設ける必要はない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、車体の後部窓又はピアノの蓋など比較的重量のある回転対象物を上下方向に開閉するのに適したヒンジ機構などに広く適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1・・・ヒンジ機構
2・・・第1のハウジング
3・・・シャフト部材
3A・・・係止部(係止突起部)
4・・・第2のハウジング
4A・・・一方の端部
4B・・・他方の端部
4C・・・中央穴
4D・・・係着溝
4E・・・取り付け穴
4F・・・内面
4G・・・浅溝
5・・・トルク発生部材(バネ部材)
6・・・第1のカム部材
6A・・・円筒状本体
6Aa・・・円筒状の外面
6B・・・係止部(係止穴)
6C・・・第1の円環状カム面
6Ca・・・緩傾斜の斜面
6Cb・・・急傾斜の斜面
6Cc、6Cd・・・より緩やかな傾斜又は平坦な面
6D・・・端面
6x・・・凹凸の幅を示す直線
7・・・第2のカム部材
7A・・・筒状本体
7Aa・・・外面
7Ab・・・回転抑止用突起
7B・・・中央穴
7C・・・第2の円環状カム面
7Ca・・・緩傾斜の斜面
7Cb・・・急傾斜の斜面
7Cc、7Cd・・・より緩やかな傾斜又は平坦な面
7x・・・凹凸の幅を示す直線
8・・・弾性部材
9・・・側壁部材
9A・・・小径部
9B・・・大径部
9C・・・圧入部
9D・・・中央穴
10・・・ヒンジ機構
W・・・一方向クラッチ部
A1、A2・・・矢印
X−X・・・中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
係止部を有するシャフト部材と、
該シャフト部材の一部分との間に所定のトルク値を発生するトルク発生部材と、
前記シャフト部材と前記トルク発生部材とを包囲してなる第1のハウジングとを備えると共に、
第1の円環状カム面と係止部とを有する第1のカム部材と、
該第1の円環状カム面に組み合わされる第2の円環状カム面を有する第2のカム部材と、
前記第1の円環状カム面と前記第2の円環状カム面との間に押圧力を与える弾性部材と、
前記第1のカム部材と前記第2のカム部材と前記弾性部材とを包囲してなる第2のハウジングとを備え、
前記第2のカム部材と前記弾性部材、又は前記第2のハウジングは、前記第1のハウジングから外部に延びる前記シャフト部材を挿通させる中央穴を有し、
前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとはそれぞれ取付け部を有し、
前記第1のハウジングから外部に延びる前記シャフト部材を前記第2のハウジング内に挿入し、前記シャフト部材の係止部を前記第1のカム部材の係止部に係止させることを特徴とするヒンジ機構。
【請求項2】
前記第1のハウジングと前記第2のハウジングとに相対的に逆方向の回転力がかかるとき、その回転方向によって、前記第1のカム部材と前記第2のカム部材とは、互いに回転不能な係止状態を呈するか、あるいは所定値以上の回転力が働くときに相対的に逆方向に回転可能な非係止状態を呈する一方向クラッチとして動作し、
前記第1のカム部材と前記第2のカム部材とが互いに回転不能な係止状態を呈する回転方向に設定値以上の回転力がかかるとき、前記シャフト部材に対して前記第1のハウジングが回転することを特徴とする請求項1に記載のヒンジ機構。
【請求項3】
前記第1のカム部材は、前記第1のハウジングに対して回転可能なように前記第1のハウジングに支承されており、
前記第2のカム部材は、前記第2のハウジングに対して回転方向には実質的に動くことができないが、前記シャフト部材の長さ方向には動けるように、前記第2のハウジングは前記第2のカム部材が有する回転抑止用突起と係合する係着溝を備えることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のヒンジ機構。
【請求項4】
前記第1の円環状カム面と前記第2の円環状カム面は、それぞれ前記第1のカム部材の円環状の側面、前記第2のカム部材の円環状の側面に形成された、一方の回転方向に対しては急傾斜で、他方の回転方向に対しては緩傾斜である一定幅で繰り返す凹凸構造からなることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のヒンジ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−102797(P2012−102797A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251426(P2010−251426)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【出願人】(000152169)株式会社栃木屋 (50)
【Fターム(参考)】