説明

ヒンジ装置

【課題】 耐用年数を飛躍的に向上させ、メンテナンスコストの低減を図ったヒンジ装置を提供する。
【解決手段】 カーテンウォール20を揺動自在に支持するヒンジ装置8において、支持体10に設けられたレール部13と、カーテンウォール20に装着され、カーテンウォール20の揺動に伴い、レール部13上を転動する被支持部材21と、を備えた構成とする。さらに、被支持部材21にはピニオン補助部材24を装着するとともに、レール部13にはラック補助部材14を設け、これらが噛み合った構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水中に配置されるカーテンウォールを、海底に基部が固定された支持体へ揺動自在に連結するためのヒンジ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所、原子力発電所等の発電プラントでは、蒸気流でタービン発電機を駆動して発電している。発電タービンは、入口の蒸気圧と出口の蒸気圧との差で回転するため、タービン発電機駆動後の蒸気流を水に戻して出口側の蒸気圧を下げることが不可欠である。このため、蒸気流をボイラ設備や原子炉に戻す前の工程で、復水器によってこの蒸気流を冷却し水に戻している。
【0003】
復水器には、発電所プラントに近い海域から取水された海水が冷却水として供給される。このように、冷却水として利用される海水は、海中の深層域から取水されて貯水プールや復水貯蔵槽に一時貯水されている。
【0004】
深層域の海水を取水するために、発電所プラントに近い海域には、取水口を取り囲むようにして、カーテンウォールと称する壁構造体が施設される。カーテンウォールは、海面から比較的浅層の海域を遮蔽し、深層域で取水口の周囲を外海とをつなぐ壁構造体である。
このカーテンウォールは、海水中に配置されるため、常時波の圧力を受けており、台風などの強風時にはその圧力は過大なものとなる。そこで、カーテンウォールは、支持体に対してヒンジ装置を介して揺動自在に支持され、柔軟に揺動することで過大な圧力を逃がし、耐久性の向上を図っている。
【0005】
従来、カーテンウォールを支持するヒンジ装置は、すべり軸受を利用した構造のものが多く採用されていた。しかし、カーテンウォールは重量物であり、このためヒンジ装置にはカーテンウォールの大きな重量が作用する。よって、カーテンウォールの揺動に伴うヒンジ装置の摩耗は避けられず、比較的短期間のうちに交換等のメンテナンスが必要となっていた。
【0006】
カーテンウォールの施設場所は海中であって、しかも重量物のため、メンテナンスには多大な労力を必要とする。したがって、従来のごとく短期間の周期でメンテナンスが必要となるヒンジ装置は、メンテナンスコストがきわめて高くついてしまう問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたもので、耐用年数を飛躍的に向上させ、メンテナンスコストの低減を図ったカーテンウォール支持用のヒンジ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、海底に基部が固定された支持体と、この支持体に揺動自在に支持されたカーテンウォールとを含むカーテンウォール構造体において、
支持体に設けられたレール部と、
カーテンウォールに装着され、カーテンウォールの揺動に伴い、レール部上を転動する被支持部材と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
かかる構成のヒンジ装置によれば、カーテンウォールに対して波の水圧がかかった場合に、カーテンウォールの揺動とともに被支持部材がレール部上を転動する。このため、レール部及び被支持部には、揺動による大きなトルクがかからず、ヒンジ装置の耐久性を向上させることができる。
【0010】
レール部は、水平配置された平滑な支持面を有し、被支持部材は、カーテンウォールの揺動に伴い、レール部に形成された支持面の上を転がる円弧状の周面を有していることを特徴とする。
【0011】
さらに、支持部材に形成された円弧状の周面と同芯円状のピッチ円を有し、カーテンウォールの揺動に伴い、支持部材と一体に転動するピニオン式補助部材と、レール部の支持面と平行に支持体へ設けられ、ピニオン部材が噛み合うラック式補助部材と、を更に備えた構成とすることができる。また、ピニオン式補助部材は、被支持部材の側面に装着されるとともに、レール部の側方近傍位置に配置された構成とすることもできる。
【0012】
ピニオン式補助部材及びラック式補助部材は、互いに噛み合うことで、被支持部材がレール部上を確実に転動するように、揺動のトルクを直線運動に転化することができる。また、これら補助部材によって、被支持部材がレール部の支持面から脱輪するのを防止できる。
【0013】
レール部は、支持体に水平配置されたラック部材で構成され、被支持部材は、ラック部材と噛み合い、カーテンウォールの揺動に伴い当該ラック部材上を転動するピニオン部材で構成されることもできる。
【0014】
ラック部材とピニオン部材によってヒンジ装置を構成することで、それぞれ一体に形成することが可能となり、部品点数が少なくなる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、耐用年数を飛躍的に向上させ、メンテナンスコストの低減を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1乃至図6は、本発明の実施形態に係るヒンジ装置を説明するための図である。図1(a)は、カーテンウォール壁構造体が設置された海岸を全体的に上方から見た図であり、図1(b)は、図1(a)のI−I線断面図である。また、図2は、図1(b)のI−I線断面図からカーテンウォール壁構造体の要部箇所を拡大して示した図である。
【0017】
まず、ヒンジ装置が組み込まれるカーテンウォール構造体について説明する。
上述したように、カーテンウォール構造体1は、火力発電または原子力発電プラントに利用される構造物である。よって、発電プラントが建設された場所から比較的近くにある海岸に設置される。
図1(a)に示すように、カーテンウォール構造体1は、陸地2から海面3に向かって敷設された複数の護岸4(図中では三箇所)の先端に並べて設置されている。すなわち、カーテンウォール構造体1と護岸4とで一部の沿岸を囲っており、海水が流入する貯水プール5が形成されている。このカーテンウォール構造体1には、平常的な気象や海流条件において、海上からの波浪が図中の矢印の方向から押し寄せている。
【0018】
貯水プール5の内部には、取水口6が設けられている。貯水プール5に蓄えられた海水は、この取水口6から火力発電又は原子力発電プラントの復水器(図示せず)に冷却水として導かれている。冷却水として利用された海水は、取水とは別ルートの放水ルートを通って海域に温排水として放流される。
【0019】
また、図1(b)に示すように、カーテンウォール構造体1は、海底7に基部が固定された支持体10と、この支持体10に揺動自在に支持されたカーテンウォール20と、を備えている。
このカーテンウォール構造体1の必須機能は、カーテンウォール20によって海面3から所望の位置までの範囲を覆い、比較的高温の浅層域の海水の流入を阻止しながら、比較的低温の深層域の海水を貯水プール5に選択的に流入することにある。
【0020】
図2に示すように、カーテンウォール構造体1の支持体10は、支持梁11を橋脚12によって支えた構造物で構成されている。橋脚12は、一端の基部12aが海底に埋め込まれて固定されており、他端が海面から突き出している。この突き出した橋脚12に支持梁11が設けられている。支持梁11は、橋脚12が前後方向から支えあうことで、波浪などの高い水圧に対向することが可能な構成となっている。また、支持梁11は、海面上にあって、カーテンウォール20を揺動可能に吊り下げている。このカーテンウォール20は、海面の潮汐に関わらずに、常時の上部が現れる高さで吊り下げられる。
【0021】
カーテンウォール20は、図1(a)に示すように直線的に押し寄せる波浪を壁面で受け止める壁面を構成する。図2に示すように、カーテンウォール20の下部は、海底面7から一定の間隔Hで空間が形成されている。この間隔Hによって、深層域の海水は、貯水プール5の内外を容易に流動することができる。
また、カーテンウォール20は、前後に揺動することで波の水圧を受け流す構成である。すなわち、カーテンウォール20は支持体10と接合するヒンジ装置8によって、その揺動が保障されている。
【0022】
図3は、本実施形態に係るヒンジ装置の全体構成を示す斜視図であり、図4は、同じくヒンジ装置の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
図3及び図4に示すように、ヒンジ装置8は、支持体10に設けられたレール部13と、カーテンウォール20に装着され、カーテンウォール20の揺動に伴い、レール部13上を転動する被支持部材21と、を備えている。なお、ヒンジ装置8は、カーテンウォール20の両側端部にそれぞれ対になって設けられる。
【0023】
ヒンジ装置8のレール部13には、その中央部に支持凸部15が延在して設けてある。この支持凸部15の上面は、水平配置された平滑な支持面14となっている。また、支持凸部15の両側には、一対のラック式補助部材16がそれぞれ延在して設けてある。
【0024】
ヒンジ装置8の被支持部材21は、円弧状の周面22を有した回転体23を有し、この回転体23がカーテンウォール20に固定されている。回転体23は、カーテンウォール20の揺動に伴い、レール部13に形成された支持面14の上を転動する。また、回転体23の両端面には、円弧状の周面22と同芯円状のピッチ円を有し、カーテンウォール20の揺動に伴い、被支持部材21と一体に転動する一対のピニオン式補助部材24がそれぞれ装着されている。このピニオン式補助部材24は、レール部13に設けられたラック式補助部材16に噛み合っている。なお、ピニオン式補助部材24は、取付ボルト25によって回転体23の両側面へ簡単に着脱することができる。
【0025】
図4(a)に示すように、一対のピニオン式補助部材24は、回転体23の両端面にあって、支持凸部15を挟み込むようにしてラック式補助部材16と噛み合っている。これにより、回転体23の支持凸部15からの脱輪が防止される。
【0026】
さらに、図4(b)に示すように、レール部13と被支持部材21が配置された状態では、支持凸部15の支持面14と回転体23の円弧状の周面22のみが当接している。つまり、ラック補助部材16とピニオン式補助部材24の互いの凹凸面には、一定のすき間Sが保たれている。このため、ヒンジ装置8は、回転体23を介して支持凸部15だけにカーテンウォール20の重量がかかることになる。すなわち、支持凸部15の支持面14と被支持部材21の円弧状の周面22による線接触(ころがり面による接触)だけでカーテンウォール20を支持するため、摩擦力が小さくなりヒンジ装置8の耐久性を向上させる。一方、ラック補助部材16及びピニオン式補助部材24は、すき間Sが形成されているため、カーテンウォール20の重量がかからずに互いの歯面への摩耗がなくなる。
【0027】
図5は、第1の実施形態に係るヒンジ装置の動作を示す側面図であり、(a)は図中の左方向から水圧を受けた状態、(b)は図中の右方向から水圧を受けた状態である。
ここで、海の波浪は、海岸の海底形状によって屈折をするが、なだらかな等深線に沿ってカーテンウォール構造体1を設けることで、カーテンウォール20に対し直角に波を当てることができる。すなわち、平常時の海の波浪では、一般的にカーテンウォール20に対して前後方向にのみ波の水圧Wがかかる。したがって、カーテンウォール構造体1は、波の水圧Wによってカーテンウォール20を図5中の左右方向にだけ揺動させる。
【0028】
図5(a)に示すように、波の水圧Wによって、カーテンウォール20を右方向に押圧すると、被支持部材21は、カーテンウォール20の揺動方向とは逆に左方向に転動する。この転動は、被支持部材21の回転体23がレール部13の支持凸部15上を転がることでなされる。また回転体23に装着されたピニオン式補助部材24も、ラック補助部材16上を互いの凹凸面が噛み合いながら転がる。このとき、波の水圧Wによって、被支持部材21を水平移動させる方向に力がかかるが、ピニオン式補助部材24がラック補助部材16と噛み合っているため、被支持部材21の水平移動を防いで回転させる力に転化させることができる。また、図5(b)に示すように、波の水圧Wによってカーテンウォール20を左方向に押圧すると、被支持部材21は右方向に転動することになる。
【0029】
以上のように、本実施形態に係るヒンジ装置によれば、カーテンウォール20を揺動自在に軸支することができるとともに、ヒンジ装置自体の摩耗や欠損を少なくすることができ、飛躍的に耐久性を向上させることができる。また、ピニオン式補助部材24及びラック補助部材16が長期間の使用によって摩耗してきた場合は、取付ボルト25を着脱するだけで交換することができ作業に手間取ることがない。
【0030】
図6及び図7は、本発明の他の実施形態に係るヒンジ装置を説明するための図である。図6は、本実施形態に係るヒンジ装置の全体構成を示す斜視図であり、図7は、同じくヒンジ装置の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【0031】
本実施形態に係るヒンジ装置8は、レール部13が支持体10に水平配置されたラック部材17で構成してある。また、被支持部材21は、ラック部材17と噛み合い、カーテンウォール20の揺動に伴い当該ラック部材17上を転動するピニオン部材28で構成してある。
【0032】
ラック部材17の側部には、ピニオン部材28の脱輪を防止する壁体18が設けられている。ピニオン部材28は、回転中心がカーテンウォール20の揺動軸に固定されている。これらラック部材17とピニオン部材28の噛み合いによって、カーテンウォール20を揺動自在に軸支することができる。
【0033】
カーテンウォール20が波の水圧Wによって揺動すると、ピニオン部材28は、ラック部材17上を転動する。このとき、レール部13の壁体18がピニオン部材28の脱輪を防止している。また、ピニオン部材28には水平移動する力も働くが、ピニオン部材28の凹凸面がラック部材17の凹凸面に噛み合っているため、水平移動を防いで回転力に転化させることができる。
【0034】
このように、本実施形態のヒンジ装置8を適用することにより、カーテンウォール20を揺動自在に支持することができる。また、先の実施形態に係るヒンジ装置8よりも、部品点数が少なく、ラック部材17及びピニオン部材28をそれぞれ一体に形成することができるため、耐久性に優れ、組み立て時などに手間がかからないなどの利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)はカーテンウォール構造体が設置された海岸を全体的に上方から見た図であり、(b)はI−I線断面図である。
【図2】カーテンウォール構造体の要部を拡大して示した図である。
【図3】本発明の実施形態に係るヒンジ装置の全体構成を示す斜視図である。
【図4】本発明の実施形態に係るヒンジ装置の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】本発明の実施形態に係るヒンジ装置の動作を示す側面図であり、(a)は図中の左方向から水圧を受けた状態、(b)は図中の右方向から水圧を受けた状態である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るヒンジ装置の全体構成を示す斜視図である。
【図7】図6に示すヒンジ装置の構成を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【符号の説明】
【0036】
1:カーテンウォール構造体、2:陸地、3:海面、4:護岸、5:貯水プール、6:取水口、7:海底、
10:支持体、11:支持梁、12:橋脚、12a:基部、13:レール部、14:支持面、15:支持凸部、16:ラック式補助部材、17:ラック部材、18:壁体、
20:カーテンウォール、21:被支持部材、22:円弧状の周面、23:回転体、24:ピニオン式補助部材、25:取付ボルト、26:軸、27:浮き防止ブロック、28:ピニオン部材、
H:間隔、S:すき間、W:波の水圧

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海底に基部が固定された支持体と、この支持体に揺動自在に支持されたカーテンウォールとを含むカーテンウォール構造体において、
前記支持体に設けられたレール部と、
前記カーテンウォールに装着され、前記カーテンウォールの揺動に伴い、前記レール部上を転動する被支持部材と、を備えたことを特徴とするヒンジ装置。
【請求項2】
前記レール部は、水平配置された平滑な支持面を有し、
前記被支持部材は、前記カーテンウォールの揺動に伴い、前記レール部に形成された支持面の上を転がる円弧状の周面を有していることを特徴とする請求項1のヒンジ装置。
【請求項3】
前記被支持部材に形成された円弧状の周面と同芯円状のピッチ円を有し、前記カーテンウォールの揺動に伴い、前記被支持部材と一体に転動するピニオン式補助部材と、
前記レール部の支持面と平行に前記支持体へ設けられ、前記ピニオン部材が噛み合うラック式補助部材と、を更に備えていることを特徴とする請求項2のヒンジ装置。
【請求項4】
前記ピニオン式補助部材は、前記被支持部材の側面に装着されるとともに、前記レール部の側方近傍位置に配置されていることを特徴とする請求項3のヒンジ装置。
【請求項5】
前記レール部は、前記支持体に水平配置されたラック部材で構成され、
前記被支持部材は、前記ラック部材と噛み合い、前記カーテンウォールの揺動に伴い当該ラック部材上を転動するピニオン部材で構成されていることを特徴とする請求項1のヒンジ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−19563(P2008−19563A)
【公開日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−190050(P2006−190050)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】