説明

ヒータおよびこれを備えたグロープラグ

【課題】 パルス駆動、DC駆動あるいは急速昇温等の際に抵抗体に大電流が流れても抵抗体とリードとの接合部へのマイクロクラックの発生や製品抵抗の変化が抑制された高い信頼性および耐久性を有するヒータおよびこれを備えたグロープラグを提供する。
【解決手段】 本発明は、絶縁基体9と、絶縁基体9に埋設され、折返し形状をなしている抵抗体3と、絶縁基体9に埋設され、先端側で抵抗体3に接続されるとともに後端側で絶縁基体9の表面に導出された一対のリード8とを備えたヒータ1であって、一対のリード8を軸方向に垂直な断面で見たとき、互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され、非対向領域に円弧状部を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば燃焼式車載暖房装置における点火用若しくは炎検知用のヒータ、石油ファンヒータ等の各種燃焼機器の点火用のヒータ、自動車エンジンのグロープラグ用のヒータ、酸素センサ等の各種センサ用のヒータ、測定機器の加熱用のヒータ等に利用されるヒータおよびこれを備えたグロープラグに関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンのグロープラグ等に用いられるヒータは、発熱部を有する抵抗体、リードおよび絶縁基体を含む構成になっている。そして、リードの抵抗が抵抗体の抵抗より小さくなるように、これらの材料の選定や設計がされている。
【0003】
ここで、抵抗体とリードとの接合部は、形状変化点であったり材料組成変化点であったりするので、使用時の発熱や冷却での熱膨張の差に起因した影響を受けないように接合面積を大きくする目的で、図13(a)に示すように、リードの軸方向に平行な断面で視たときに抵抗体3とリード8との境界面が斜めになっているヒータが知られている(例えば、特許文献1,2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-334768号公報
【特許文献2】特開2003-22889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、エンジンの燃焼状態を最適化するために、ヒータの駆動方法としてECUからの制御信号がパルス化した駆動方法がとられるようになってきた。
【0006】
ここで、パルスとしては矩形波を用いることが多い。パルスの立ち上がり部分には高周波成分があって、この高周波成分はリードの表面部で伝送する。この高周波成分は伝播するリードの平坦な表面よりも曲面状の表面に集中して伝播する特徴がある。これは磁界分布がリードを中心としてリング状に形成されるためである。
【0007】
そのため、図13(b)に示すように、リードの断面が円や楕円形状で2本平行に並んでいると、高周波成分が集中しやすい円弧状の部分が対向する部位にあることから、2本のリードで磁界分布が結合して、高周波信号が相互に混信するクロストーク現象が生じてしまい、パルス波形が乱れたまま信号が伝達される。そして、異なるインピーダンスを持つリードの端面と抵抗体の端面とが対向するようにして継ぎ目部分(接続部)が形成されると、この接続部でインピーダンスの整合が取れなかった高周波成分の一部は反射し、残りは周囲の誘電体を介してジュール熱として散逸する。そのため、接続部が局所的に発熱する。
【0008】
また、パルス駆動を採用せずに、DC駆動を採用した場合でも、同じような問題点が生じてきた。すなわち、近年のECUでは回路ロスがなくなったために、急速昇温を目的として、エンジン動作開始時に抵抗体に大電流が流れるようになっている。したがって、パルスの矩形波のように、電力突入の立ち上がりが急峻になり、高周波成分を含んだ高電力が、ヒータに突入してくるようになってきたため、同じような問題点が生じてきた。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的は、パルス駆動、DC駆動あるいは急速昇温等の際に抵抗体に大電流が流れても、高周波のクロストーク現象を抑止することで、抵抗体とリードとの接続部へのマイクロクラックの発生および製品抵抗の変化が抑制された高い信頼性および耐久性を有するヒータおよびこれを備えたグロープラグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のヒータは、絶縁基体と、該絶縁基体に埋設され、折返し形状をなしている抵抗体と、前記絶縁基体に埋設され、先端側で前記抵抗体に接続されるとともに後端側で前記絶縁基体の表面に導出された一対のリードとを備え、前記一対のリードを軸方向に垂直な断面で見たとき、互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され、非対向領域に円弧状部を有することを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、前記一対のリードの対向領域に直線同士が当接した角部を有することを特徴とするものである。
【0012】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、前記一対のリードが、前記軸方向に垂直な断面で見て線対称な形状であることを特徴とするものである。
【0013】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、前記一対のリードが、前記軸方向に垂直な断面で見て中央付近に肉厚部を有することを特徴とするものである。
【0014】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、前記抵抗体と前記一対のリードとが前記軸方向に垂直な方向に重なる接続部を含み、該接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、前記接続部は非対向領域に円弧状部を有し、前記一対のリードにおける接続部対向領域側が直線で構成されていることを特徴とするものである。
また、本発明のヒータは、上記の構成において、前記接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、前記抵抗体における前記接続部対向領域側が直線で構成されていることを特徴とするものである。
【0015】
また、本発明のヒータは、上記の構成において、前記接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、前記抵抗体が前記一対のリードにそれぞれ取り囲まれていることを特徴とするものである。
【0016】
また、本発明は、上記の構成のヒータと、前記リードと電気的に接続されて前記ヒータを保持する金属製保持部材とを備えたことを特徴とするグロープラグである。
【発明の効果】
【0017】
本発明のヒータによれば、一対のリードを軸方向に垂直な断面で見たとき、互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され、非対向領域に円弧状部を有することで、リード表面に伝播する高周波の集中箇所を円弧状の非対向領域とし、リード同士の磁界結合を抑止し、高周波信号が相互に混信するクロストーク現象を抑止することができる。これにより、リードを伝送するパルス波形を乱さずに、リードから抵抗体へ高周波を伝送できる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0018】
したがって、パルス駆動、DC駆動にかかわらず、電力突入の立ち上がりが急峻になっても、抵抗体とリードとの接続部へのマイクロクラックの発生が抑制され、長期間抵抗が安定する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のヒータの実施の形態の一例を示す縦断面図である。
【図2】図1に示すX−X線における横断面図である。
【図3】図1に示すX−X線における他の例の横断面図である。
【図4】図1に示すX−X線における他の例の横断面図である。
【図5】図1に示すX−X線における他の例の横断面図である。
【図6】図1に示すX−X線における他の例の横断面図である。
【図7】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの接続部を含む領域Aを拡大した他の例の拡大縦断面図であり、(b)は(a)に示すY−Y線における横断面図である。
【図8】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの接続部を含む領域Aを拡大した他の例の拡大縦断面図であり、(b)は(a)に示すY−Y線における横断面図である。
【図9】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの接続部を含む領域Aを拡大した他の例の拡大縦断面図であり、(b)は(a)に示すY−Y線における横断面図である。
【図10】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの接続部を含む領域Aを拡大した他の例の拡大縦断面図であり、(b)は(a)に示すY−Y線における横断面図である。
【図11】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの接続部を含む領域Aを拡大した他の例の拡大縦断面図であり、(b)は(a)に示すY−Y線における横断面図である。
【図12】(a)は図1に示す抵抗体とリードとの接続部を含む領域Aを拡大した他の例の拡大縦断面図であり、(b)は(a)に示すY−Y線における横断面図である。
【図13】(a)は従来のヒータの要部を示す縦断面図であり、(b)は(a)に示すX−X線における横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明のヒータの実施の形態の例について図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
図1は本発明のヒータの実施の形態の一例を示す縦断面図であり、図2は図1に示すX−X線における横断面図である。
【0022】
本実施の形態のヒータ1は、絶縁基体9と、絶縁基体9に埋設され折返し形状をなしている抵抗体3と、絶縁基体9に埋設され先端側で抵抗体3に接続されるとともに後端側で絶縁基体9の表面に導出された一対のリード8を備えたヒータであって、一対のリード8を軸方向に垂直な断面で見たとき、互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され、非対向領域に円弧状部を有するものである。
【0023】
本実施の形態のヒータ1における絶縁基体9は、例えば棒状に形成されたものである。この絶縁基体9は抵抗体3およびリード8を被覆しており、言い換えると、抵抗体3およびリード8が絶縁基体9に埋設されている。ここで、絶縁基体9はセラミックスからなることが好ましく、これにより、金属よりも高温まで耐えることができるようになるので、急速昇温時の信頼性がより向上したヒータ1を提供することが可能になる。具体的には、酸化物セラミックス,窒化物セラミックス,炭化物セラミックス等の電気的な絶縁性を有するセラミックスが挙げられる。特に、絶縁基体9は、窒化珪素質セラミックスからなることが好適である。窒化珪素質セラミックスは、主成分である窒化珪素が高強度、高靱性、高絶縁性および耐熱性の観点で優れているからである。この窒化珪素質セラミックスは、例えば、主成分の窒化珪素に対して、焼結助剤として3〜12質量%のY,Yb,Er等の希土類元素酸化物、0.5〜3質量%のAl、さらに焼結体に
含まれるSiO量として1.5〜5質量%となるようにSiOを混合し、所定の形状に
成形し、その後、例えば1650〜1780℃でホットプレス焼成することにより得ることができる。
【0024】
また、絶縁基体9として窒化珪素質セラミックスから成るものを用いる場合、MoSi
,WSi等を混合し分散させることが好ましい。この場合、母材である窒化珪素質セラミックスの熱膨張率を抵抗体3の熱膨張率に近づけることができ、ヒータ1の耐久性を向上させることができる。
【0025】
抵抗体3は、特に発熱する領域である発熱部4を有しており、一部断面積を小さくした領域やらせん形状の領域を設けることで、この領域を発熱部4とすることができる。抵抗体3が図1に示すような折返し形状をなしている場合は、折返しの中間点付近が最も発熱する発熱部4となる。
【0026】
この抵抗体3としては、W,Mo,Tiなどの炭化物、窒化物、珪化物などを主成分とするものを使用することができる。絶縁基体9が上述の材料の場合、絶縁基体9との熱膨張率の差が小さい点、高い耐熱性を有する点および比抵抗が小さい点で、上記の材料のなかでも炭化タングステン(WC)が抵抗体3の材料として優れている。さらに、絶縁基体9が窒化珪素質セラミックスからなる場合、抵抗体3は、無機導電体のWCを主成分とし、これに添加される窒化珪素の含有率が20質量%以上であるものが好ましい。例えば、窒化珪素質セラミックスから成る絶縁基体9中において、抵抗体3となる導体成分は窒化珪素と比較して熱膨張率が大きいため、通常は引張応力がかかった状態にある。これに対して、抵抗体3中に窒化珪素を添加することにより、抵抗体3の熱膨張率を絶縁基体9の熱膨張率に近づけて、ヒータ1の昇温時および降温時の熱膨張率の差による応力を緩和することができる。
【0027】
また、抵抗体3に含まれる窒化珪素の含有量が40質量%以下であるときには、抵抗体3の抵抗値を比較的小さくして安定させることができる。従って、抵抗体3に含まれる窒化珪素の含有量は20質量%〜40質量%であることが好ましい。より好ましくは、窒化珪素の含有量は25質量%〜35質量%がよい。また、抵抗体3への同様の添加物として、窒化珪素の代わりに窒化硼素を4質量%〜12質量%添加することもできる。
【0028】
抵抗体3の厚み(図2の上下方向の厚み)は、0.5mm〜1.5mm程度がよく、抵抗体3の幅(図2の水平方向の厚み)は、0.3mm〜1.3mm程度がよい。この幅の範囲内とすることにより、抵抗体3の抵抗が小さくなって効率良く発熱するものとなり、また、積層構造の絶縁基体9の積層界面の密着性を保持することができる。
【0029】
抵抗体3の端部に先端側が接続されたリード8は、W,Mo,Tiなどの炭化物、窒化物、珪化物などを主成分とする抵抗体3と同様の材料を使用することができる。特に、WCが、絶縁基体9との熱膨張率の差が小さい点、高い耐熱性を有する点および比抵抗が小さい点で、リード8の材料として好適である。また、絶縁基体9が窒化珪素質セラミックスからなる場合、リード8は、無機導電体であるWCを主成分とし、これに窒化珪素を含有量が15質量%以上となるように添加することが好ましい。窒化珪素の含有量が増すにつれてリード8の熱膨張率を絶縁基体9の熱膨張率に近づけることができる。また、窒化珪素の含有量が40質量%以下であるときには、リード8の抵抗値が小さくなるとともに安定する。従って、窒化珪素の含有量は15質量%〜40質量%が好ましい。より好ましくは、窒化珪素の含有量は20質量%〜35質量%とするのがよい。なお、リード8は、絶縁基体9の形成材料の含有量を抵抗体3よりも少なくすることによって抵抗体3よりも単位長さ当たりの抵抗値が低くなっていてもよく、抵抗体3よりも断面積を大きくすることによって抵抗体3よりも単位長さ当たりの抵抗値が低くなっていてもよい。
【0030】
そして、図2に示すように、一対のリード8を軸方向に垂直な断面で見たとき、互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され、非対向領域に円弧状部を有している。
【0031】
この構成によれば、リード8表面に伝播する高周波の集中箇所を円弧状の非対向領域に
できるので、リード8同士の磁界結合を抑止することで、高周波信号が相互に混信するクロストーク現象を抑止することができる。ゆえに、リード8を伝送するパルス波形を乱さずに、リード8から抵抗体3へ高周波を伝送できる。その結果、リード8と抵抗体3との接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0032】
すなわち、ECUからの制御信号がパルス駆動、DC駆動にかかわらず、電力突入の立ち上がりが急峻になっても、抵抗体とリードとの接続部へのマイクロクラックの発生が抑制され、長期間抵抗が安定する。これにより、ヒータの信頼性および耐久性が向上する。
【0033】
なお、ここでいう軸方向に垂直な断面で見たとき互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され非対向領域に円弧状部を有している一対のリード8とは、接続部の手前までの領域(接続部を含まない領域)のことであり、軸方向に垂直な断面で見て、絶縁基体9中に埋設されたリード8のみがあらわれ、絶縁基体9中に埋設された抵抗体3があらわれていない領域のことである。
【0034】
さらに、図3のように、一対のリード8の対向領域に直線同士が当接した角部7を有するのが好ましい。この構成によれば、角部7において、伝送する高周波の節(ふし)が形成される。この節(ふし)は、振幅が0に近くほとんど振動しない部分である。すなわち、角部7近傍では、クロストークを発生させる高周波の伝播能力を極端に抑止させることができるので、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0035】
また、図4のように、一対のリード8の対向領域に直線同士が当接した角部7を対向するように配置するのが好ましく、この構成によれば、伝送する高周波の節(ふし)同士が対向する位置となるため、クロストークの送信側、受信側ともに高周波の伝播能力を極端に抑止させ、陽極側接続部から陰極側接続部へのクロストークとともに、陰極側接続部から陽極側接続部へのクロストークも遮断することができる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0036】
また、図4〜6のように、一対のリード8が軸方向に垂直な断面で見て線対称な形状であるのが好ましい。この構成によれば、リード8を伝送する高周波の集中箇所を軸方向に垂直な断面で視て左右対称にできるので、高周波の伝送ルートも左右対称になり、高周波が安定に伝播するからパルス波形が乱れない。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0037】
さらに、図4〜6のように、一対のリード8が軸方向に垂直な断面で見て中央付近に肉厚部を有するのが好ましい。なお、中央付近とは図4〜6の上下方向における中央付近のことであり、肉厚部とは図4〜6の水平方向の厚みが厚くなっている部位のことである。この構成によれば、高周波の集中箇所をリードの外周側中央にできるので、リード対向部への高周波の回り込みがほとんど無く、クロストークが発生しにくくなる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができるので好ましい。
【0038】
そして、図7のように、抵抗体3と一対のリード8とが軸方向に垂直な方向に重なる接続部を含み、接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、接続部は非対向領域に円弧状部を有し、一対のリード8における接続部対向領域側が直線で構成されているのが好ましい。なお、図7では、一対のリード8が接続部における内側の対向領域に配置されているが、一対のリード8における接続部対向領域側が直線で構成されているのであれば、後述する図8に示す形態のように一対のリード8が接続部における外側の非対向領域に配置され
ていてもよい。
【0039】
ここでいう接続部とは、リード8の軸方向に平行な断面で視たとき、抵抗体3とリード8との界面が存在する領域のことをいう。例えば、図7に示すように、抵抗体3の端面とリード8の端面との接合面積を大きくするために、リード8の軸方向に平行な縦断面で見て、抵抗体3の端面とリード8の端面との境界線がリード8の軸方向に対して傾斜しているように接続部が設けられる。なお、軸方向に対する境界線の傾斜角としては、例えば10〜80度である。
【0040】
接続部の非対向領域に円弧状部を有し、一対のリード8における接続部対向領域側を直線で構成することで、リード8を伝送してきたパルス波形を乱さずに、クロストークを防止しながら、抵抗体3へ高周波を伝播できる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0041】
さらに、接続部において、一対のリード8の対向領域に直線同士が当接した角部7を対向するように配置するのが好ましく、この構成によれば、伝送する高周波の節(ふし)同士が対向する位置となるため、クロストークの送信側、受信側ともに高周波の伝播能力を極端に抑止させ、陽極側接続部から陰極側接続部へのクロストークとともに、陰極側接続部から陽極側接続部へのクロストークも遮断することができる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0042】
そして、図8のように、接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、抵抗体3における接続部対向領域側が直線で構成されていてもよい。なお、図8では、抵抗体3が接続部における内側の対向領域に配置されているが、抵抗体3における接続部対向領域側が直線で構成されているのであれば、前述した図7に示す形態のように抵抗体3が接続部における外側の非対向領域に配置されていてもよい。この構成によれば、陽極側の抵抗体8から陰極側の抵抗体8へのクロストークを防止しながら高周波を伝送できる。すなわち、リード8を伝送してきたパルス波形を乱さずに、クロストークを防止しながら、抵抗体3表面に沿って高周波を伝播できる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0043】
さらに、接続部において、一対の抵抗体3の対向領域に直線同士が当接した角部7を対向するように配置すると、伝送する高周波の節(ふし)同士が対向する位置となるため、クロストークの送信側、受信側ともに高周波の伝播能力を極端に抑止させ、陽極側接続部から陰極側接続部へのクロストークとともに、陰極側接続部から陽極側接続部へのクロストークも遮断することが出来るので、その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0044】
さらに、図9、10のように、一対のリード8と一対の抵抗体3ともに接続部対向領域側に直線同士が当接した角部7を対向するように配置すると、伝送する高周波の節(ふし)同士が対向する位置となるため、クロストークの送信側、受信側ともに高周波の伝播能力を極端に抑止させ、陽極側接続部から陰極側接続部へのクロストークとともに、陰極側接続部から陽極側接続部へのクロストークも遮断することができる。その結果、接続部での異常発熱と、異常発熱に起因したマイクロクラックの発生を抑制することができる。
【0045】
また、図11、12のように、接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、抵抗体3が一対のリード8にそれぞれ取り囲まれているのが好ましい。この構成によれば、抵抗体3の加熱が開始されて熱膨張しても応力を完全に閉じ込めることができる。さらに、リード8の表面に沿って伝播してきた高周波成分は、抵抗体3との接続部でインピーダンスの整合が取れない一部が反射し、残りは周囲の誘電体を介してジュール熱として散逸し、接続部が
局所的に発熱するが、このとき、接続部の後端側において抵抗体3がリード8に包みこまれていると、接続部で反射した高周波がこの領域に集中して、全てジュール熱に変換できるので、高周波成分の反射をなくすことができる。結果的に、リード8と抵抗体3との接続部にマイクロクラックが発生しにくくなり、境界面に沿って亀裂が一気に進展することを抑止し、長期間抵抗値が安定する。
【0046】
特に、図12のように、接続部において、抵抗体3を楕円もしくは円形の断面形状とすることで、抵抗体3の加熱が開始されて熱膨張しても応力の集中を避けて完全に閉じ込めることができる。また、直流でヒータを加熱した場合には抵抗体3の断面内で直流電流が最短経路を進行するように偏ることになるが、このような場合であっても、突入電力の高周波成分のクロストークを抑止した上に、抵抗体3外周に沿って熱に起因した応力を分散できるので、応力集中よる抵抗体3の亀裂を防止することができる。
【0047】
また、本実施の形態のヒータ1は、上記の構成のいずれかに記載のヒータ1と、リード8の端子部(図示せず)に電気的に接続されるとともにヒータ1を保持する金属製保持部材とを備えたグロープラグとして使用することが好ましい。具体的には、ヒータ1は、棒状の絶縁基体9の内部に、折返し形状をなした抵抗体3が埋設されているとともに一対のリード8が抵抗体3の両端部にそれぞれ電気的に接続されて埋設されていて、一方のリード8に電気的に接続された金属製保持部材(シース金具)と、他方のリード8に電気的に接続されたワイヤとを備えたグロープラグとして使用することが好ましい。
【0048】
なお、金属製保持部材(シース金具)は、ヒータ1を保持する金属製の筒状体であり、セラミック基体9の側面に引き出された一方のリード8にロウ材などで接合される。また、ワイヤは、他方のセラミック基体9の後端に引き出された他方のリード8にロウ材などで接合される。これにより、高温のエンジン中でON/OFFが繰り返されながら長期使用しても、ヒータ1の抵抗が変化しないので、どんなときでも着火性に優れたグロープラグを提供できる。
【0049】
次に、本実施の形態のヒータ1の製造方法について説明する。
【0050】
本実施の形態のヒータ1は、例えば、抵抗体3、リード8および絶縁基体9の形状の金型を用いた射出成形法等によって形成することができる。
【0051】
まず、導電性セラミック粉末,樹脂バインダー等を含む、抵抗体3およびリード8となる導電性ペーストを作製するとともに、絶縁性セラミック粉末,樹脂バインダー等を含む絶縁基体9となるセラミックペーストを作製する。
【0052】
次に、導電性ペーストを用いて射出成形法等によって抵抗体3となる所定パターンの導電性ペーストの成形体(成形体a)を形成する。そして、成形体aを金型内に保持した状態で、導電性ペーストを金型内に充填してリード8となる所定パターンの導電性ペーストの成形体(成形体b)を形成する。これにより、成形体aと、この成形体aに接続された成形体bとが、金型内に保持された状態となる。
【0053】
次に、金型内に成形体aおよび成形体bを保持した状態で、金型の一部を絶縁基体9の成形用のものに取り替えた後、金型内に絶縁基体9となるセラミックペーストを充填する。これにより、成形体aおよび成形体bがセラミックペーストの成形体(成形体c)で覆われたヒータ1の成形体(成形体d)が得られる。
【0054】
次に、得られた成形体dを例えば1650℃〜1780℃の温度、30MPa〜50MPaの圧力で焼成することにより、ヒータ1を作製することができる。なお、焼成は水素ガス等の非酸
化性ガス雰囲気中で行なうことが好ましい。
【実施例】
【0055】
本発明の実施例のヒータを以下のようにして作製した。
【0056】
まず、炭化タングステン(WC)粉末を50質量%、窒化珪素(Si)粉末を35質量%、樹脂バインダーを15質量%含む導電性ペーストを、金型内に射出成形して抵抗体となる成形体aを作製した。
【0057】
次に、この成形体aを金型内に保持した状態で、リードとなる上記の導電性ペーストを金型内に充填することにより、成形体aと接続させてリードとなる成形体bを形成した。このとき、表1および表2に示すように、種々の形状を有する金型を用いて、4種の形状のリードおよび抵抗体とリードとの接合部を形成した。
【0058】
次に、成形体aおよび成形体bを金型内に保持した状態で、窒化珪素(Si)粉末を85質量%、焼結助剤としてのイッテリビウム(Yb)の酸化物(Yb)を10質量%、抵抗体およびリードに熱膨張率を近づけるための炭化タングステン(WC)を5質量%含むセラミックペーストを、金型内に射出成形した。これにより、絶縁基体となる成形体c中に成形体aおよび成形体bが埋設された構成の成形体dを形成した。
【0059】
次に、得られた成形体dを円筒状の炭素製の型に入れた後、窒素ガスから成る非酸化性ガス雰囲気中で、1700℃、35MPaの圧力でホットプレスを行ない焼結してヒータを作製した。得られた焼結体の表面に露出したリード端部(端子部)に筒状の金属製保持部材(シース金具)をロウ付けしてグロープラグを作製した。
【0060】
このグロープラグの電極にパルスパターンジェネレータを接続し、印加電圧7V、パルス幅10μs、パルス間隔1μsの矩形パルスを連続通電した。1000時間経過後、通電前後の抵抗値の変化率((通電後の抵抗値−通電前の抵抗値)/通電前の抵抗値)を測定した。その結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示すように、試料番号1は、最も発熱した箇所がリードと抵抗体との接続部であった。そして、通電状態を確認するために、オシロスコープを用いて試料番号1のヒータに流れるパルス波形を確認したところ、入力波形と異なり、パルスの立ち上がりが急峻にならず、7Vに到達するまで1μs要し、オーバーシュートしながら波打っていた。
【0063】
これは、試料番号1のヒータでは、パルスの立ち上がり部分に含まれる高周波成分が、クロストーク現象により波形が合成されたものと考えられる。また、ヒータの最も発熱した箇所が、リードと抵抗体との接続部で、特に陰極側となっていることについても、クロストークに起因した異常パルスによって、陰極側のリードと抵抗体との接続部でインピー
ダンスの整合が取れないことで、局所的な発熱が生じたものと考えられる。
【0064】
さらに、試料番号1の通電前後の抵抗変化は55%と非常に大きくなったため、パルス通電後、走査型電子顕微鏡で試料番号1のリードと抵抗体との接続部を観察したところ、境界面に外周方向から内側に向けて、マイクロクラックが生じていることを確認した。
【0065】
一方、試料番号2〜4については、最も発熱した箇所はヒータ先端の抵抗体発熱部であった。そして、通電状態を確認するために、オシロスコープを用いてヒータに流れるパルス波形を確認したところ、入力波形とほぼ同じ波形であった。
【0066】
これは、リードと抵抗体との接続部で異常加熱せずに通電できたことを示している。
【0067】
また、試料番号2〜4の通電前後の抵抗変化は5%以下と小さく、パルス通電後、走査型電子顕微鏡でこれらの試料番号のリードと抵抗体との接続部を観察したところ、マイクロクラックは無かった。
【0068】
次に、ヒータにDC電源を接続して抵抗体の温度が1400℃になるように印加電圧を設定し、1)5分間通電、2)2分間非通電の1),2)を1サイクルとし、1万サイクル繰り返した。通電前後のヒータの抵抗値の変化率を測定した。その結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示すように、試料番号1の通電前後の抵抗変化は55%と非常に大きくなったため、DC通電後、走査型電子顕微鏡で試料番号1のリードと抵抗体との接続部を観察したところ、境界面に外周方向から内側に向けて、マイクロクラックが生じていることを確認した。
【0071】
一方、試料番号2〜4については、通電前後の抵抗変化は5%以下と小さく、DC通電後に走査型電子顕微鏡でこれらの試料番号のリードと抵抗体との接続部を観察したところ、マイクロクラックは無かった。
【符号の説明】
【0072】
1:ヒータ
3:抵抗体
4:発熱部
8:リード
9:絶縁基体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基体と、
該絶縁基体に埋設され、折返し形状をなしている抵抗体と、
前記絶縁基体に埋設され、先端側で前記抵抗体に接続されるとともに後端側で前記絶縁基体の表面に導出された一対のリードとを備え、
前記一対のリードを軸方向に垂直な断面で見たとき、互いに対向して近接する対向領域が直線で構成され、非対向領域に円弧状部を有することを特徴とするヒータ。
【請求項2】
前記一対のリードの対向領域に直線同士が当接した角部を有することを特徴とする請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
前記一対のリードが、前記軸方向に垂直な断面で見て線対称な形状であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒータ。
【請求項4】
前記一対のリードが、前記軸方向に垂直な断面で見て中央付近に肉厚部を有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のヒータ。
【請求項5】
前記抵抗体と前記一対のリードとが前記軸方向に垂直な方向に重なる接続部を含み、
該接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、前記接続部は非対向領域に円弧状部を有し、前記一対のリードにおける接続部対向領域側が直線で構成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のヒータ。
【請求項6】
前記接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、前記抵抗体における前記接続部対向領域側が直線で構成されていることを特徴とする請求項5に記載のヒータ。
【請求項7】
前記接続部を軸方向に垂直な断面で見たときに、前記抵抗体が前記一対のリードにそれぞれ取り囲まれていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載のヒータ。
【請求項8】
請求項1に記載のヒータと、前記一対のリードのうちの一方のリードと電気的に接続されて前記ヒータを保持する金属製保持部材とを備えたことを特徴とするグロープラグ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−248439(P2012−248439A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119812(P2011−119812)
【出願日】平成23年5月28日(2011.5.28)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】