説明

ヒータの酸化物成長を阻止するために駆動パルスが増加するプリントヘッド

【課題】メディア基板上に液体の滴を吐出する吐出デバイスのアレイを備えるプリントヘッドを有するインクジェットプリンタを提供する。
【解決手段】各吐出デバイスは、液体を保持するチャンバと、チャンバと流体連通されたノズルと、ノズルを通じて液体の滴を吐出する蒸気バブルがヒータの抵抗加熱によって発生するように液体と接触してチャンバ内に配置されたヒータと、を備える。また、プリンタは、印刷データを受信し、印刷データに従ってヒータを駆動するための駆動パルスを発生させるコントローラ、を備える。このコントローラは、プリントヘッドの寿命中に駆動パルスエネルギーを増加させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSデバイスに関し、特に、動作時に液体を蒸発させて蒸気バブルを発生させるMEMSデバイスに関する。
【0002】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2005年4月4日出願の米国特許出願第11/097308号の一部継続出願でありその内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2006年7月10日出願の米国特許出願第11/482953号の一部継続出願である/。
【0003】
本発明に関する種々の方法、システム及び装置は、本出願人又は本発明の譲受人により出願された以下の米国特許/米国特許出願に記載されている。
米国特許出願第09/517539号、米国特許第6566858号、第6331946号、第6246970号、第6442525号、米国特許出願第09/517384号、第09/505951号、米国特許第6374354号、米国特許出願第09/517608号、米国特許第6816968号、第6757832号、第6334190号、第6745331号、米国特許出願第09/517541号、第10/203559号、第10/203560号、第10/203564号、第10/636263号、第10/636283号、第10/866608号、第10/902889号、第10/902833号、第10/940653号、第10/942858号、第10/727181号、第10/727162号、第10/727163号、第10/727245号、第10/727204号、第10/727233号、第10/727280号、第10/727157号、第10/727178号、第10/727210号、第10/727257号、第10/727238号、第10/727251号、第10/727159号、第10/727180号、第10/727179号、第10/727192号、第10/727274号、第10/727164号、第10/727161号、第10/727198号、第10/727158号、第10/754536号、第10/754938号、第10/727227号、第10/727160号、第10/934720号、第11/212702号、第11/272491号、第10/296522号、米国特許第6795215号、米国特許出願第10/296535号、第09/575109号、米国特許第6805419号、第6859289号、第6977751号、第6398332号、第6394573号、第6622923号、第6747760号、第6921144号、米国特許出願第10/884881号、第10/943941号、第10/949294号、第11/039866号、第11/123011号、米国特許第6986560号、第7008033号、米国特許出願第11/148237号、第11/248435号、第11/248426号、第10/922846号、第10/922845号、第10/854521号、第10/854522号、第10/854488号、第10/854487号、第10/854503号、第10/854504号、第10/854509号、第10/854510号、第10/854496号、第10/854497号、第10/854495号、第10/854498号、第10/854511号、第10/854512号、第10/854525号、第10/854526号、第10/854516号、第10/854508号、第10/854507号、第10/854515号、第10/854506号、第10/854505号、第10/854493号、第10/854494号、第10/854489号、第10/854490号、第10/854492号、第10/854491号、第10/854528号、第10/854523号、第10/854527号、第10/854524号、第10/854520号、第10/854514号、第10/854519号、第10/854513号、第10/854499号、第10/854501号、第10/854500号、第10/854502号、第10/854518号、第10/854517号、第10/934628号、第11/212823号、第10/728804号、第10/728952号、第10/728806号、米国特許第6991322号、米国特許出願第10/728790号、第10/728884号、第10/728970号、第10/728784号、第10/728783号、第10/728925号、第6962402号、第10/728803号、第10/728780号、第10/728779号、第10/773189号、第10/773204号、第10/773198号、第10/773199号、米国特許第6830318号、米国特許出願第10/773201号、第10/773191号、第10/773183号、第10/773195号、第10/773196号、第10/773186号、第10/773200号、第10/773185号、第10/773192号、第10/773197号、第10/773203号、第10/773187号、第10/773202号、第10/773188号、第10/773194号、第10/773193号、第10/773184号、第11/008118号、第11/060751号、第11/060805号、第11/188017号、第11/298773号、第11/298774号、第11/329157号、米国特許第6623101号、第6406129号、第6505916号、第6457809号、第6550895号、第6457812号、米国特許出願第10/296434号、米国特許第6428133号、第6746105号、米国特許出願第10/407212号、第10/407207号、第10/683064号、第10/683041号、第6750901号、第6476863号、第6788336号、第11/097308号、第11/097309号、第11/097335号、第11/097,299号、第11/097310号、第11/097213号、第11/210687号、第11/097212号、第11/212637号、第11/246687号、第11/246718号、第11/246685号、第11/246686号、第11/246703号、第11/246691号、第11/246711号、第11/246690号、第11/246712号、第11/246717号、第11/246709号、第11/246700号、第11/246701号、第11/246702号、第11/246668号、第11/246697号、第11/246698号、第11/246699号、第11/246675号、第11/246674号、第11/246667号、第11/246684号、第11/246672号、第11/246673号、第11/246683号、第11/246682号、第10/760272号、第10/760273号、第10/760187号、第10/760182号、第10/760188号、第10/760218号、第10/760217号、第10/760216号、第10/760233号、第10/760246号、第10/760212号、第10/760243号、第10/760201号、第10/760185号、第10/760253号、第10/760255号、第10/760209号、第10/760208号、第10/760194号、第10/760238号、第10/760234号、第10/760235号、第10/760183号、第10/760189号、第10/760262号、第10/760232号、第10/760231号、第10/760200号、第10/760190号、第10/760191号、第10/760227号、第10/760207号、第10/760181号、第10/815625号、第10/815624号、第10/815628号、第10/913375号、第10/913373号、第10/913374号、第10/913372号、第10/913377号、第10/913378号、第10/913380号、第10/913379号、第10/913376号、第10/913381号、第10/986402号、第11/172816号、第11/172815号、第11/172814号、第11/003786号、第11/003616号、第11/003418号、第11/003334号、第11/003600号、第11/003404号、第11/003419号、第11/003700号、第11/003601号、第11/003618号、第11/003615号、第11/003337号、第11/003698号、第11/003420号、第6984017号、第11/003699号、第11/071473号、第11/003463号、第11/003701号、第11/003683号、第11/003614号、第11/003702号、第11/003684号、第11/003619号、第11/003617号、第11/293800号、第11/293802号、第11/293801号、第11/293808号、第11/293809号、第11/246676号、第11/246677号、第11/246678号、第11/246679号、第11/246680号、第11/246681号、第11/246714号、第11/246713号、第11/246689号、第11/246671号、第11/246670号、第11/246669号、第11/246704号、第11/246710号、第11/246688号、第11/246716号、第11/246715号、第11/246707号、第11/246706号、第11/246705号、第11/246708号、第11/246693号、第11/246692号、第11/246696号、第11/246695号、第11/246694号、第11/293832号、第11/293838号、第11/293825号、第11/293841号、第11/293799号、第11/293796号、第11/293797号、第11/293798号、第10/760254号、第10/760210号、第10/760202号、第10/760197号、第10/760198号、第10/760249号、第10/760263号、第10/760196号、第10/760247号、第10/760223号、第10/760264号、第10/760244号、第10/760245号、第10/760222号、第10/760248号、第10/760236号、第10/760192号、第10/760203号、第10/760204号、第10/760205号、第10/760206号、第10/760267号、第10/760270号、第10/760259号、第10/760271号、第10/760275号、第10/760274号、第10/760268号、第10/760184号、第10/760195号、第10/760186号、第10/760261号、第10/760258号、第11/293804号、第11/293840号、第11/293803号、第11/293833号、第11/293834号、第11/293835号、第11/293836号、第11/293837号、第11/293792号、第11/293794号、第11/293839号、第11/293826号、第11/293829号、第11/293830号、第11/293827号、第11/293828号、第11/293795号、第11/293823号、第11/293824号、第11/293831号、第11/293815号、第11/293819号、第11/293818号、第11/293817号、第11/293816号、第11/014764号、第11/014763号、第11/014748号、第11/014747号、第11/014761号、第11/014760号、第11/014757号、第11/014714号、第11/014713号、第11/014762号、第11/014724号、第11/014723号、第11/014756号、第11/014736号、第11/014759号、第11/014758号、第11/014725号、第11/014739号、第11/014738号、第11/014737号、第11/014726号、第11/014745号、第11/014712号、第11/014715号、第11/014751号、第11/014735号、第11/014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これらの出願及び特許の開示は、参照により本明細書中に組み込まれる。
【0004】
[同時係属中の出願]
以下の出願が、本出願人により、親出願と同時に出願されている。
米国特許出願第11/482975号、第11/482970号、第11/482968号、第11/482972号、第11/482971号、第11/482969号、第11/482958号、第11/482955号、第11/482962号、第11/482963号、第11/482956号、第11/482954号、第11/482974号、第11/482957号、第11/482987号、第11/482959号、第11/482960号、第11/482961号、第11/482964号、第11/482965号、第11/482976号、第11/482973号、第11/482982号、第11/482983号、第11/482984号、第11/482979号、第11/482990号、第11/482986号、第11/482985号、第11/482978号、第11/482967号、第11/482966号、第11/482988号、第11/482989号、第11/482980号、第11/482981号、第11/482977号。
これら同時係属中の出願の開示は、参照により本明細書中に組み込まれる。
【背景技術】
【0005】
微小機械システム(MEMS)デバイスには液体を処理又は使用して動作するものがある。これら液体を含むデバイスの1つのクラスでは、抵抗ヒータを使用して液体の過熱限界まで液体を熱し、その結果、急速に膨張する蒸気バブルが形成される。バブルの膨張によってもたらされる衝撃は、デバイス内で液体を移動させるメカニズムとして使用可能である。各ノズルがバブルを発生させて印刷媒体上にインクの滴を吐出するヒータを有する、熱インクジェットプリントヘッドの場合がそうである。インクジェットプリンタの使用が普及している点を考慮し、本発明を、特にこの用途での使用に関して説明する。しかしながら、本発明はインクジェットプリントヘッドに限定されるものではなく、抵抗ヒータによって形成される蒸気バブルを使用して、液体をデバイス内で移動させる他のデバイス(例えば、一部の「ラボオンチップ」デバイス)にも等しく適用されることが理解されるであろう。
【0006】
インクジェットプリントヘッドの抵抗ヒータは極めて厳しい環境で動作する。インクジェットプリントヘッドの抵抗ヒータは、吐出可能な液体、通常約300℃の過熱限界を有する水溶性インク中で、急速かつ連続的に加熱及び冷却を行い、バブルを形成しなければならない。このような繰り返し応力の条件下で、高温のインク、水蒸気、溶存酸素及びおそらく他の腐食性化学種の存在により、ヒータは抵抗を増し、最終的には、ヒータ又はその保護酸化物層を腐食するメカニズム(化学的腐食及びキャビテーション腐食)によって促進される、酸化と疲労との組合せによって開回路となる。
【0007】
ヒータ材料に対する酸化、腐食及びキャビテーションの影響から保護するため、インクジェット製造業者は、一般にSi、SiC及びTaからなる積み重ねた保護層を使用する。ある種の先行技術のデバイスにおいては、保護層は比較的厚い。Andersonらに付与された米国特許第6786575号(Lexmarkに譲渡)では、例えば、厚さ約0.1μmのヒータに対し0.7μmの保護層を有する。
【0008】
バブルを形成する液体中で蒸気バブルを形成するために、バブルを形成する液体に接触する保護層の表面は、その液体の過熱限界(水では約300℃)まで加熱しなければならない。それには、保護層の厚さ全体を液体の過熱限界(又は場合によっては過熱限界を超える)まで加熱することが必要となる。この余分なボリュームの加熱により、デバイスの効率が低下し、噴射後に存在する残留熱のレベルが大幅に上昇する。この余分な熱がノズルの連続する噴射の間に除去できなければ、ノズル内のインクは絶えず沸騰し、ノズルが所期のようには液滴を吐出しなくなる。
【0009】
現在、市販されているプリントヘッドの主な冷却メカニズムは熱伝導式であり、既存のプリントヘッドがプリントヘッドチップから吸収した熱を放散するための大きなヒートシンクを実装する。ノズル内でこのヒートシンクが液体を冷却する能力は、ノズルとヒートシンクとの間の熱抵抗及び噴射ノズルによって発生する熱流束によって制限される。コーティングされたヒータの保護層を加熱するために必要とされる余分なエネルギーが熱の流れを増加させるため、プリントヘッド上のノズルの密度及びノズルの噴射率に対し、より厳しい制約が課される。この制約が、印刷の解像度、プリントヘッドのサイズ、印刷速度及び製造コストに影響を及ぼす。
【0010】
本出願人は、蒸気バブルを形成するために必要とされるエネルギーを削減するために、ヒータに保護コーティングが付加されない一連のプリントヘッドを開発した。これらのヒータは、さらなる酸化の速度を、プリントヘッドに許容可能な寿命を与えるレベルにまで遅らせるのに十分な低さの酸素拡散率を有する、薄い表面酸化物層を形成する。しかしながら、酸化物層は時間と共に、特に、ヒータに送られる駆動パルスの数又は作動の回数と共に成長する。これにより、ヒータの動作寿命にわたるヒータ抵抗が、したがって、滴の吐出特性も変化する。この変化は、印刷品質にとって有害となり得ることが理解されよう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第6786575号
【発明の概要】
【0012】
したがって、本発明は、メディア基板上に液体の滴を吐出する複数の吐出デバイスが配列されたプリントヘッドであって、前記吐出デバイスのそれぞれが、液体を保持するチャンバと、前記チャンバと流体連通されたノズルと、前記ノズルを通じて前記液体の滴を吐出する蒸気バブルがヒータの抵抗加熱によって発生するように前記液体と接触して前記チャンバ内に配置されたヒータと、を備えるプリントヘッドと、印刷データを受信し、前記印刷データに従って前記ヒータを駆動するための駆動パルスを発生させるコントローラと、を備え、前記コントローラが、前記プリントヘッドの寿命中に前記駆動パルスのエネルギーを増加させる、インクジェットプリンタを提供する。
【0013】
このコントローラは、プリントヘッドの動作寿命の接続時間中、蒸気バブルのサイズを、したがって、滴の吐出特性を維持するために、表面酸化物が成長するにつれて駆動パルスのエネルギーを増加させることができる。
【0014】
任意選択で、コントローラは、駆動パルスの接続時間を延長させることにより、駆動パルスのエネルギーを増加させるように構成される。
【0015】
任意選択で、コントローラは、所定の数の滴が吐出された後に駆動パルスエネルギーを増加させるように構成される。任意選択で、コントローラは、吐出デバイスのそれぞれによって吐出される滴の累計を監視し、吐出デバイスが所定の数の滴を吐出した後に、いずれの吐出デバイスに対しても駆動パルスのエネルギーを個別に増加させる。
【0016】
任意選択で、吐出デバイスは、いつヒータが所定のしきい値より低いピーク温度を有するかを判断する温度センサをさらに備え、コントローラは、ピーク温度がしきい値より低いことを温度センサが示すのに応答して、駆動パルスのエネルギーを増加させるように構成される。任意選択で、しきい値は450℃未満である。
【0017】
任意選択で、コントローラは、吐出デバイスの作動回数とヒータの電気抵抗の増加との間の所定の関係とは逆に駆動パルス幅を増加させる。
【0018】
任意選択で、ヒータは、Tiが40重量%超を占め、Alが40重量%超を占め、Xが5重量%未満を占め、ゼロ以上のAg、Cr、Mo、Nb、Si、Ta及びWを含有する、TiAlX合金から形成される。
【0019】
チタンアルミニウム(TiAl)合金は、優れた強度、低クリープ及び軽量という、これらの合金が航空産業及び自動車産業で広く使用されている由縁である特性を有する。しかしながら、本出願人の研究により、TiAlはインクジェットプリントヘッドのヒータ材料としての使用にも十分に適していることがわかった。この合金は、Alを主成分とし、非常にわずかなTiOを含有する、均一で、薄く、高密度のコーティングである表面酸化物を提供可能である。Alは低い酸素拡散率を有し、一方、TiOはより高い拡散率を有する。したがって、自然(すなわち自然に形成される)酸化物層がヒータを不動態化して酸化破壊を防ぐ一方、ヒータをインクから熱的に遮断しないよう十分な薄さを維持する。これにより、ヒータの動作寿命を損なうことなく、大きい(ページ幅)、高密度のノズルアレイに必要とされる、少ないエネルギーでの滴の吐出を維持する。
【0020】
任意選択で、XはWである、又はXは1.7重量%〜4.5重量%を占めるWを含有する。
【0021】
任意選択で、Tiは48重量%超を占め、Alは48重量%超を占め、Xは0重量%である。
【0022】
任意選択で、ヒータのTiAl成分は、ガンマ相構造を有する。
【0023】
任意選択で、ヒータは、粒径100ナノメートル未満の微細構造を有する。
【0024】
任意選択で、TiAlX合金は、使用時に、液体に直接接触するAl表面酸化物を形成する。
【0025】
任意選択で、TiAlX合金は、厚さ2ミクロン未満の層として堆積される。この層は、厚さ0.5ミクロン未満であることが好ましい。
【0026】
任意選択で、ヒータは、保護コーティングをさらに備え、保護コーティングは、0.5ミクロン未満の総厚を有する。任意選択で、保護コーティングは、単一材料の層である。任意選択で、保護コーティングは、少なくとも部分的に酸化ケイ素、窒化ケイ素又は炭化ケイ素から形成される。
【0027】
第2の態様において、本発明は、バブルを発生させるためのMEMSデバイスであって、
液体を保持するチャンバと、
チャンバ内に液体と熱接触して配置されたヒータとを備え、ヒータが、粒径100ナノメートル未満の微細構造を有し、作動時に、液体中に圧力パルスをもたらす蒸気バブルを発生させるために、ヒータが液体の一部を液体の沸点より高い温度まで加熱するよう、関連駆動回路から作動信号を受信するように構成されている、MEMSデバイスを提供する。
【0028】
粒径100nm未満(「ナノ結晶」微細構造)は良好な材料強度を提供し、しかも依然として高密度の粒界を有する点で有利である。より大きな結晶及びより低密度の粒界の材料と比較すると、ナノ結晶構造は、保護スケールを形成する元素Cr及びAlに、より高い拡散率(より急速なスケールの形成)を与え、スケールをヒータ表面全体にわたってより均一に成長させ、したがってより急速及びより効果的に保護かつ提供される。保護スケールはナノ結晶構造により良好に接着し、その結果、剥離が減少する。イットリウム、ランタン及び他のレアアース元素からなる群からの反応性金属の添加物を使用することにより、機械的安定性及びスケールの付着性のさらなる向上が可能である。
【0029】
ヒータを不動態化する酸化スケールの主な利点は、さらなる保護コーティングの必要がなくなることである。これにより、コーティングの加熱で無駄になるエネルギーがなくなるため、効率が上がる。その結果、特定の衝撃でバブルを形成するのに必要な入力エネルギーが減少し、プリントヘッドの残留熱のレベルが低下する。残った熱の大半は、吐出される滴を介して除去可能であり、これは「自己冷却」として公知の動作モードである。この動作モードの主な利点は、この設計が導電性冷却に依存しないため、ヒートシンクが必要なく、導電性冷却によって課されるノズル密度及び噴射率の制約がなくなるため、印刷の解像度及び速度が向上し、プリントヘッドのサイズ及びコストが減少する。
【0030】
任意選択で、チャンバは、圧力パルスがノズル開口を通じて液体の滴を吐出するように、ノズル開口を有する。
【0031】
任意選択で、チャンバは、供給源からの液体がチャンバ内に流入し、ノズル開口から吐出される液体の滴と入れ替わるように、液体供給物と流体連通する入口を有する。
【0032】
任意選択で、ヒータに、スパッタリングプロセスによって堆積される超合金が堆積される。
【0033】
任意選択で、ヒータ素子は、厚さ2ミクロン未満の超合金の層として堆積される。
【0034】
任意選択で、超合金は、2重量%〜35重量%のCr含有量を有する。
【0035】
任意選択で、超合金は、0.1重量%〜8.0重量%のAl含有量を有する。
【0036】
任意選択で、超合金は、1重量%〜17.0重量%のMo含有量を有する。
【0037】
任意選択で、超合金は、0.25重量%〜8.0重量%のNb含有量及び/又はTa含有量の合計を有する。
【0038】
任意選択で、超合金は、0.1重量%〜5.0重量%のTi含有量を有する。
【0039】
任意選択で、超合金は、イットリウム、ランタン及び他のレアアース元素からなる群からの反応性金属を5重量%以下有する。
【0040】
任意選択で、超合金は、60重量%以下のFe含有量を有する。
【0041】
任意選択で、超合金は、25重量%〜70重量%のNi含有量を有する。
【0042】
任意選択で、超合金は、35重量%〜65重量%のCo含有量を有する。
【0043】
任意選択で、超合金は、MCrAlXであり、ここでMはNi、Co、Feのうち1つ又は複数であり、Mは少なくとも50重量%を占め、Crは8重量%〜35重量%を占め、Alはゼロ以上8重量%未満を占め、Xは25重量%未満であり、Xはゼロ以上の他の元素からなり、好ましくはMo、Re、Ru、Ti、Ta、V、W、Nb、Zr、B、C、Si、Y、Hfを含むがこれらに限定されない。
【0044】
任意選択で、超合金は、Ni、Fe、Cr及びAlと、ゼロ以上の、好ましくはMo、Re、Ru、Ti、Ta、V、W、Nb、Zr、B、C、Si、Y又はHfを含むがこれらに限定されない他の元素からなる添加物とを含む。
【0045】
任意選択で、超合金は、以下から選択される。
INCONEL(登録商標)600合金、601合金、617合金、625合金、625LCF合金、690合金、693合金、718合金、783合金、X−750合金、725合金、751合金、MA754合金、MA758合金、925合金、又はHX合金、
INCOLOY(登録商標)330合金、800合金、800H合金、800HT合金、MA956合金、A−286合金、又はDS合金、
NIMONIC(登録商標)75合金、80A合金、又は90合金、
BRIGHTRAY(登録商標)B合金、C合金、F合金、S合金、又は35合金、或いは、
FERRY(登録商標)合金又はThermo−Span(登録商標)合金。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】動作サイクル中の特定の段階における、吊下ヒータ素子を備えるプリントヘッドのユニットセルのインクチャンバの概略横断面図である。
【図2】別の動作段階における、図1のインクチャンバの概略横断面図である。
【図3】さらに別の動作段階における、図1のインクチャンバの概略横断面図である。
【図4】さらにまた別の動作段階における、図1のインクチャンバの概略横断面図である。
【図5】蒸気バブルの崩壊を示す、本発明の一実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略横断面図である。
【図6】動作サイクル中の特定の段階における、フロア接合式ヒータ素子を備えるプリントヘッドのユニットセルのインクチャンバの概略横断面図である。
【図7】別の動作段階における、図6のインクチャンバの概略横断面図である。
【図8】動作サイクル中の特定の段階における、ルーフ接合式ヒータ素子を備えるプリントヘッドのユニットセルのインクチャンバの概略横断面図である。
【図9】別の動作段階における、図8のインクチャンバの概略横断面図である。
【図10】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図11】図10に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図12】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図13】図12に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図14】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図15】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図16】図15に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図17】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図18】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図19】図18に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図20】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図21】図20に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図22】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図23】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図24】図23に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図25】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図26】図25に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図27】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図28】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図29】図28に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの各概略平面図である。
【図30】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図31】図30に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの概略平面図である。
【図32】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図33】図32に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの各概略平面図である。
【図34】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図35】図34に示されたプリントヘッドの製造段階を実施する際の使用に適したマスクの各概略平面図である。
【図36】プリントヘッドの製造プロセスの連続する一段階における、本発明の吊下ヒータの実施形態によるプリントヘッドのユニットセルの概略斜視図である。
【図37】CMOS上に不動態化層が堆積された、部分的に完成した本発明の第2の実施形態の概略断面図である。
【図38】CMOS上に不動態化層が堆積された、部分的に完成した本発明の第2の実施形態の斜視図である。
【図39】第2の実施形態のCMOSの上部層までの不動態化層のエッチングを示す斜視図である。
【図40】第2の実施形態のCMOSの上部層までの不動態化層のエッチングを示すマスクの図である。
【図41】第2の実施形態のCMOSの上部層までの不動態化層のエッチングを示す断面図である。
【図42】第2の実施形態のヒータ材料の堆積を示す斜視図である。
【図43】第2の実施形態のヒータ材料の堆積を示す断面図である。
【図44】第2の実施形態のヒータ材料のエッチパターニングを示す斜視図である。
【図45】第2の実施形態のヒータ材料のエッチパターニングを示すマスクの図である。
【図46】第2の実施形態のヒータ材料のエッチパターニングを示す断面図である。
【図47】フォトレジスト層の堆積及びインク表穴の誘電エッチングのための次のエッチングを示す斜視図である。
【図48】フォトレジスト層の堆積及びインク表穴の誘電エッチングのための次のエッチングを示すマスクの図である。
【図49】フォトレジスト層の堆積及びインク表穴の誘電エッチングのための次のエッチングを示す断面図である。
【図50】インク表穴のためのウエハ内の誘電エッチングを示す斜視図である。
【図51】インク表穴のためのウエハ内の誘電エッチングを示す断面図である。
【図52】新しいフォトレジスト層の堆積を示す斜視図である。
【図53】新しいフォトレジスト層の堆積を示す断面図である。
【図54】フォトレジスト層のパターニングを示す斜視図である。
【図55】フォトレジスト層のパターニングを示すマスクの図である。
【図56】フォトレジスト層のパターニングを示す断面図である。
【図57】ルーフ層の堆積を示す斜視図である。
【図58】ルーフ層の堆積を示す断面図である。
【図59】ルーフ層内におけるノズルリムのエッチングを示す斜視図である。
【図60】ルーフ層内におけるノズルリムのエッチングを示すマスクの図である。
【図61】ルーフ層内におけるノズルリムのエッチングを示す断面図である。
【図62】ノズル開口のエッチングを示す斜視図である。
【図63】ノズル開口のエッチングを示すマスクの図である。
【図64】ノズル開口のエッチングを示す断面図である。
【図65】保護フォトレジストオーバーコートの堆積を示す斜視図である。
【図66】保護フォトレジストオーバーコートの堆積を示す断面図である。
【図67】ウエハの裏側のエッチングを示す斜視図である。
【図68】ウエハの裏側のエッチングを示す断面図である。
【図69】残ったフォトレジストを除去するリリースエッチングを示す断面図である。
【図70】第2の実施形態の完成したユニットセルの平面図である。
【図71】TiAlNヒータと比較した、ナノ結晶微細構造を有するInconel(登録商標)718ヒータ素子の信頼度を示すワイブルチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0047】
次に、本発明の好ましい実施形態について、添付の図面を参照して単に例として説明する。
【0048】
以下の説明中、別々の図で使用される対応する参照番号、又は対応する参照番号のプレフィックス(すなわち、参照番号の小数点の前に現れる部分)は、対応する部分に関する。参照番号に対して、対応するプレフィックスと異なるサフィックスとが存在する場合、これらは対応する部分の別々の特定の実施形態を示す。
【0049】
[本発明の概略及び動作の一般的考察]
図1〜図4を参照すると、本発明の一実施形態によるプリントヘッドのユニットセル1は、ノズル3を内部に有するノズルプレート2を備え、ノズルは、ノズルリム4と、ノズルプレートを通って延びる孔5とを有する。ノズルプレート2は、化学気相成長法(CVD)を用いて、後でエッチングされる犠牲材料の上に堆積された窒化ケイ素構造からプラズマエッチングされる。
【0050】
プリントヘッドは、また、各ノズル3に関して、ノズルプレートが支持される側壁6と、壁及びノズルプレート2によって画定されるチャンバ7と、多層基板8と、多層基板を貫通して基板の逆側(図示せず)まで延びる入口通路9とを含む。ループ状の細長いヒータ素子10がチャンバ7内に吊り下げられるため、素子は吊り梁の形である。図示されるプリントヘッドは、微小電気機械システム(MEMS)構造であり、これは以下で詳述されるリソグラフィプロセスにより形成される。
【0051】
プリントヘッドの使用時に、インク11は貯蔵室(図示せず)から入口通路9を介してチャンバ7へ入るため、チャンバは図1に示したレベルまで充填される。次に、ヒータ素子10が1マイクロ秒(μs)よりも多少短い時間にわたって加熱され、したがってその加熱は熱パルスの形である。ヒータ素子10はチャンバ7内のインク11と熱接触するため、素子が加熱されると、インク内に蒸気バブル12を発生させることが理解されよう。したがって、インク11はバブルを形成する液体となる。図1は、熱パルス発生の約1μs後、すなわち、バブルがちょうどヒータ素子10上に凝集したときのバブル12の形成を示す。熱はパルスの形で加えられるため、バブル12を発生させるために必要なすべてのエネルギーが短時間のうちに供給されることが理解されよう。
【0052】
図35を簡単に参照すると、以下でさらに詳述されるように、リソグラフィプロセス中に、プリントヘッド(このヒータは上記の素子10を含む)のヒータ14(図34に示す)を形成するためのマスク13が示されている。マスク13はヒータ14を形成するために使用されるので、マスクの様々な部分の形状は素子10の形状に対応する。したがって、マスク13は、ヒータ14の様々な部分を識別するための有用な基準を与える。ヒータ14は、マスク13の15.34で示される部分に対応する電極15と、マスクの10.34で示される部分に対応するヒータ素子10とを有する。動作時に、電圧が電極15の両端間に印加されて、素子10中に電流を流す。電極15は素子10よりも遙かに厚いので、電気抵抗の大部分は素子によって与えられる。したがって、ヒータ14を動作させる際に消費されるほとんどすべての電力は、上記の熱パルスを生ずる際に、素子10を介して放散される。
【0053】
素子10が上記のように加熱されるとき、バブル12が素子の全長にわたって形成される。このバブルは、図1の断面図では、断面図で示された素子部分の各々に1個ずつ、4個のバブル部分として現れている。
【0054】
バブル12は、いったん発生すると、チャンバ7内で圧力の増加を引き起こし、この増加した圧力により、インク11の滴16がノズル3を通って吐出される。リム4は、滴16が吐出される際に滴を方向付けるのを助けて、滴が方向を誤る可能性を最小限に抑える。
【0055】
入口通路9ごとに1つのノズル3及び1つのチャンバ7しか存在しない理由は、チャンバ内で発生する圧力波が、素子10の加熱時及びバブル12の形成時に、隣接するチャンバ及びチャンバに対応するノズルに影響を与えないようにするためである。しかしながら、圧力パルス拡散構造がチャンバ間に配置される限り、単一の入口通路を介していくつかのチャンバにインクを供給することが可能である。図37〜図70に示す実施形態は、クロストークを許容レベルにまで低減する目的で、これらの構造を組み込んでいる。
【0056】
ヒータ素子10がいずれかの固体材料に埋め込まれるのではなく吊されることの利点については後述する。しかしながら、ヒータ素子をチャンバの内部表面に接合することにも利点はある。これらの利点については下記で図6〜図9を参照して説明する。
【0057】
図2及び図3は、後の連続した2段階のプリントヘッド動作時のユニットセル1を示す。バブル12がさらに発生し、したがって成長し、その結果として、インク11がノズル3を通って前進することがわかる。図3に示されるように、成長中のバブル12の形状は、インク11の慣性力学及び表面張力の組合せによって決まる。表面張力はバブル12の表面積を最小化する傾向があるため、ある程度の量の液体が蒸発するまで、バブルは実質的に円板状である。
【0058】
チャンバ7内の圧力上昇は、インク11をノズル3から押し出すだけでなく、入口通路9を介して一部のインクを押し戻す。しかしながら、入口通路9は長さが約200〜300ミクロンであり、直径がわずか約16ミクロンである。したがって、逆流を制限するかなりの慣性及び粘性抵抗がある。その結果、チャンバ7内の圧力上昇の主要な効果は、インクを吐出された滴16としてノズル3から押し出すことであり、入口通路9内を押し戻すことではない。
【0059】
ここで図4を参照すると、さらに別の連続する動作段階におけるプリントヘッドが示され、滴が離脱する前の「ネッキングフェーズ」中の吐出されているインク滴16が示されている。この段階では、バブル12は既にその最大サイズに到達し、図5にさらに詳細に示されているように、その時点で崩壊点17へ向かって崩壊し始めている。
【0060】
崩壊点17へ向かうバブル12の崩壊により、一部のインク11がノズル3内部から(滴の側面18から)引き出され、一部が入口通路9から引き出され、崩壊点へ向かう。このようにして引き出されたインク11の大部分はノズル3から引き出され、滴16が離脱する前に滴16の基部に環状のネック19を形成する。
【0061】
滴16が離脱するためには、表面張力に打ち勝つためある運動量を必要とする。バブル12の崩壊によりインク11がノズル3から引き出されるとき、ネック19の直径が減少するため、滴を保持する総表面張力の量が減少し、その結果、滴がノズルから吐出されるときの滴の運動量が滴を離脱させるのに十分となる。
【0062】
滴16が離脱するとき、バブル12が崩壊点17まで崩壊するので、矢印20で示されるようなキャビテーション力が生じる。なお、崩壊点17の近傍には、キャビテーションが影響を及ぼす可能性のある固体表面がないことに留意されたい。
【0063】
[吊下ヒータ素子の実施形態のための製造プロセス]
次に、本発明の実施形態によるプリントヘッドの製造プロセスの関連部分を図10〜図33を参照して説明する。
【0064】
図10を参照すると、Memjet(登録商標)プリントヘッドの一部であり、製造プロセスの中間段階におけるシリコン基板部分21の断面図が示されている。同図はプリントヘッドの、ユニットセル1に対応する部分に関係する。以下の製造プロセスの説明はユニットセル1に関するものであるが、このプロセスはプリントヘッド全体を構成する数多くの隣接するユニットセルに適用されることが理解されよう。
【0065】
図10は、基板部21内の領域22におけるCMOS駆動トランジスタ(図示せず)の製作を含む標準的なCMOS製作プロセスの完了後、及び標準的なCMOS相互接続層23及び不動態化層24の完成後の、製造プロセス中における、次の連続ステップを示す。破線25で示される配線は、トランジスタ、他の駆動回路(同様に図示せず)及びノズルに対応するヒータ素子を電気的に相互接続する。
【0066】
保護リング26は、インク11が、ユニットセル1のノズルが形成される27で示される領域から、基板部分21を介して配線25を含む領域まで拡散し、22で示された領域に配置されたCMOS回路を腐食するのを防止するために、相互接続層23のメタライゼーション内に形成される。
【0067】
CMOS製作プロセス完了後の第1段階は、不動態化層24の一部分をエッチングして不動態化凹部29を形成することである。
【0068】
図12は、相互接続層23のエッチング後に、開口30を形成するための製造段階を示す。開口30は、プロセスのさらに後で形成される、チャンバへのインク入口通路となる。
【0069】
図14は、ノズル3が形成される位置で基板部分21に穴31をエッチングした後の製造段階を示す。製造プロセスのさらに後に、さらなる穴(破線32で示される)が穴31とつながるように基板部分21のもう一方の側(図示せず)からエッチングされて、チャンバまでの入口通路が完成する。したがって、穴32は、基板部21のもう一方の側から相互接続層23のレベルにまで通してエッチングする必要はない。
【0070】
その代わりに穴32を相互接続層23にまで通してエッチングすべき場合、穴32が領域22内のトランジスタを破壊するまでエッチングされるのを回避するために、穴32は、エッチングの不精密さのための適切なマージン(矢印34で示される)を残すように、その領域からより遠い距離までエッチングしなければならないことになる。しかし、基板部分21の上端から穴31をエッチングすると、その結果穴32の深さが短縮されるので、残すべきマージン34がより小さくなり、ノズルのパッキング密度を実質的により高くすることができる。
【0071】
図15は、厚さ4ミクロンの犠牲レジストの層35が層24上に堆積された後の製造段階を示す。この層35は、穴31を埋め、プリントヘッドの構造の一部となる。レジスト層35は、次いで、凹部36及び溝部37を形成するために、(図16に示されるマスクで表されるような)特定のパターンで露光される。これにより、製造プロセスの後の段階で形成されるヒータ素子の電極15用のコンタクトが形成される。溝部37は、プロセスの後の段階でチャンバ7の一部を画定することになる、ノズル壁6を形成する。
【0072】
図21は、本実施形態においては窒化チタンアルミニウムからなる、厚さ0.5ミクロンのヒータ材料の層38を層35上に堆積した後の製造段階を示す。
【0073】
図18は、ヒータ素子10及び電極15を含むヒータ14を形成するために、ヒータ層38をパターニング及びエッチングした後の製造段階を示す。
【0074】
図20は、厚さ約1ミクロンの別の犠牲レジスト層39が付加された後の製造段階を示す。
【0075】
図22は、ヒータ材料の第2の層40が堆積された後の製造段階を示す。好ましい一実施形態においては、この層40は、第1のヒータ層38と同様に、厚さ0.5ミクロンの窒化チタンアルミニウムからなる。
【0076】
図23は、参照番号41で示される、図に示すようなパターンを形成するようにエッチングされた後のヒータ材料の第2の層40を示す。この図において、このパターニングされた層はヒータ層素子10を含まず、この意味においてはヒータ機能を持たない。しかしながら、このヒータ材料の層は、ヒータ14の電極15の抵抗を減らすのを助けるので、動作時に電極によって消費されるエネルギーが減少し、ヒータ素子10がより多くのエネルギーを消費することが可能になり、したがって、ヒータ素子10の効果を高めることが可能である。図42に示される二重ヒータの実施形態において、対応する層40はヒータ14を含む。
【0077】
図25は、犠牲レジストからなる第3の層42が堆積された後の製造段階を示す。この層の最上レベルは、後で形成されるノズルプレート2の内側表面を構成することになる。また、この層の最上レベルは、ノズルの吐出孔5の内側範囲でもある。この層42の高さは、プリントヘッドの動作時に、43で示される領域内にバブル12を形成することを可能にするのに十分でなければならない。しかしながら、層42の高さにより、液滴を吐出するためにバブルが動かさねばならないインクの量が決まる。この点から、本発明のプリントヘッド構造は、ヒータ素子が先行技術のプリントヘッドよりも吐出孔により近くなるように設計される。バブルによって動かされるインクの量は減少する。所望の液滴の吐出に十分なバブルを発生するのに必要なエネルギーが減少し、それにより効率が上がる。
【0078】
図27は、ルーフ層44、すなわち、ノズルプレート2を構成する層が堆積された後の製造段階を示す。ノズルプレート2は、厚さ100ミクロンのポリイミド膜から形成されるのではなく、厚さわずか2ミクロンの窒化ケイ素から形成される。
【0079】
図28は、層44を形成する窒化ケイ素の化学気相成長(CVD)後の製造段階を示し、層44は、ノズルリム4の外側部分を形成するように、45で示される位置から部分的にエッチングされる。この外側部分は4.1で示されている。
【0080】
図30は、ノズルリム4の形成を完了し吐出孔5を形成するためにCVD窒化ケイ素を46の位置までずっとエッチングし、かつ、CVD窒化ケイ素を必要としない47で示される位置からCVD窒化ケイ素を除去した後の製造段階を示す。
【0081】
図32は、レジストの保護層48が塗布された後の製造段階を示す。この段階の後、基板部分21は、基板部分をその公称厚さである約800ミクロンから約200ミクロンまで削減し、次に、上記のように穴32をエッチングするために、その反対側(図示せず)から研磨される。穴32は、穴31に達するような深さまでエッチングされる。
【0082】
次に、一緒になってチャンバ7(壁及びノズルプレートの一部が切開して示されている)を画定する壁6及びノズルプレート2を備える図34に示される構造を形成するために、レジスト層35、レジスト層39、レジスト層42及びレジスト層48のそれぞれの犠牲レジストが酸素プラズマを使用して除去される。この工程は、穴31が、穴32(図34に示さず)と一緒になって、基板部21の下側からノズル3へ延びる通路を画定するように、穴31を埋めるレジストを除去する役割も果たし、この通路はチャンバ7へ至る全体を9で示すインク入口通路としての役割を果たすことに留意されたい。
【0083】
図36は、ヒータ素子10及び電極15の垂直に積み重ねた配置を明確に示すために、ノズルガード及びチャンバ壁が除去されたプリントヘッドを示す。
【0084】
[接合式ヒータ素子の実施形態]
他の実施形態において、ヒータ素子はチャンバの内部壁に接合される。ヒータをチャンバ内の固体表面に接合することにより、エッチング及び堆積製作プロセスの簡略化が可能となる。しかしながら、ヒータ素子がもはや「自己冷却」を行わなくなるので、シリコン基板への熱伝導がノズルの効率を低下させる可能性がある。したがって、ヒータがチャンバ内の固体表面に接合される実施形態では、基板からヒータを熱的に分離するよう措置を講ずる必要がある。
【0085】
ヒータと基板との間の熱分離を向上させる方法の1つは、米国特許第4,513,298号に記載されている、従来から使用されている熱バリア層である二酸化ケイ素よりも良い熱バリア特性を有する材料を探すことである。本出願人は、バリア層を選択する際に考慮すべき重要なパラメータが、熱積(thermal product)(pCk)1/2であることを示した。ヒータと接触する固体基層に奪われるエネルギーは、基層の熱積に比例し、これは、熱拡散の長さスケール及びその長さスケールにわたって吸収される熱エネルギーを考慮することによって導き出すことのできる関係である。この比例関係が与えられている場合、低密度及び低熱導電率を有する熱バリア層は、ヒータから吸収するエネルギーが少ないことがわかる。本発明のこの態様では、ヒータ層の下に挿入される熱バリア層として、従来の二酸化ケイ素層の代わりに密度及び熱導電率がより小さな材料を使用することに焦点を当てる。特に、本発明のこの態様では、熱バリアとして低k誘電体を使用することに焦点を当てる。
【0086】
低k誘電体は、近時、銅ダマシン集積回路技術の金属間誘電体として使用されてきた。金属間誘電体として使用される場合、低k誘電体の低い密度及び場合によっては低い多孔性が、集積回路の金属線とRC遅延の間の静電容量である、金属間誘電体の誘電率を低くする助けとなる。銅ダマシン用途において、低い誘電密度の望ましくない結果は、チップからの熱の流れを制限する低い熱導電率である。熱バリア用途においては、ヒータが吸収するエネルギーが制限されるため、低熱導電率が理想的である。
【0087】
熱バリアとしての用途に適した低k誘電体の2つの例は、Applied Materials社のBlack Diamond(登録商標)及び Novellus社のCoral(登録商標)であり、どちらもCVD堆積されたSiOCH膜である。これらの膜は、SiOより低い密度(約2200kgm−3に対して約1340kgm−3)及び低い熱導電率(約1.46Wm−1−1に対して約0.4Wm−1−1)を有する。したがって、これらの材料の熱積は、約600Jm−2−1−1/2であり、SiOの1495Jm−2−1−1/2と比較すると、熱積が60%削減される。これらの材料をSiO基層の代わりに使用することにより得ることができる利点を算定するために、詳細な説明の等式3を使用したモデルを使用すると、SiO基層を使用した場合、バブルを凝集させるのに必要なエネルギーの約35%が熱拡散により基層内に奪われることを示すことができる。したがって、この代用の利点は、35%のうち60%、すなわち、凝集エネルギーが21%削減されることである。本出願人は以下の2種のヒータで、バブルを凝集させるのに必要なエネルギーを比較することによりこの利点を確認した。
1.SiO上に直接堆積されたヒータ
2.Black Diamond(登録商標)上に直接堆積されたヒータ
オープンプール沸騰構成で、試験流体として水を使用し、ストロボスコープによるバブル形成の観察により、後者はバブル凝集の開始に必要なエネルギーが20%少ないことが決定された。10億回以上の動作にわたってオープンプール沸騰を行ったが、凝集エネルギーの移動又はバブルの崩壊もなく、これは基層が水の過熱限界、すなわち約300℃に達するまで熱的に安定であることを示している。実際、このような膜のCu拡散バリアとしての使用に関する研究(Chiu−Chih Chiangら、「Physical and Barrier Properties of Amorphous Silicon−Oxycarbide Deposited by PECVD from Octamethylcycltetrasiloxane」、Journal of The Electrochemical Society、151ページ(2004)を参照のこと)に記載されているように、このような層は550℃まで熱的に安定となり得る。
【0088】
熱導電率、熱積及びバブルを凝集させるのに必要なエネルギーをさらに削減するために、Trikon Technologies社が、密度約1040kgm−3及び熱導電率約0.16Wm−1−1である、同社のORION(登録商標)2.2 多孔質SiOCH膜について行ったように(IST 2000 30043、「Final report on thermal modeling」、from the IST project 「Ultra Low K Dielectrics For Damascene Copper Interconnect Schemes」を参照のこと)、誘電体に多孔性を導入してもよい。熱積が約334Jm−2−1−1/2であるこの材料は、吸収するエネルギーがSiO基層よりも78%少なく、結果として、バブルを凝集させるのに必要なエネルギーが78*35%=27%削減される。しかしながら、水はSiOの熱積に近い1579Jm−2−1−1/2の熱積を有するので、多孔性の導入により材料の耐湿性を損なう可能性があり、そのため熱特性を損なうことになる。ヒータと熱バリアとの間に水分バリアを導入することもできるが、この層における熱吸収により、総合効率が低下する可能性が高い。好ましい一実施形態において、熱バリアはヒータの下側に直接接触する。直接接触しない場合、熱バリア層は、ヒータ層から1μmを超えて離れていないことが好ましい。そうでなければほとんど効果がないからである(例えばSiOにおける加熱パルスの約1μs時間スケールにおける熱拡散の長さスケールは約1μmである)。
【0089】
多孔性を用いずに熱導電率をさらに低下させる代替策は、熱導電率が0.18Wm−1−1のDow Corning社のSiLK(登録商標)などのスピンオン誘電体を使用することである。スピンオン膜もまた多孔質に作製できるが、CVD膜と同様、耐湿性を損なう可能性がある。SiLKは、450℃まで熱安定性を有する。スピンオン誘電体に関して考慮すべき点の1つは、一般にスピンオン誘電体の熱膨張率(CTE)が大きいことである。実際、kを減らすと、概してCTEは増大するようである。このことはTakayuki Ohba、「A Study of Current Multilevel Interconnect Technologies for 90nm Nodes and Beyond」、Fujitsu magazine、Volume 38−1、paper 3に示されている。SiLKは、例えば、CTEが約70ppm.K−1である。これは上にあるヒータ材料のCTEよりもはるかに大きい可能性が高く、水性インクの過熱限界である約300℃まで加熱することにより、大きな応力及び層間剥離が生じる可能性が高い。一方、SiOCH膜は、約10ppm.K−1という適度に低いCTEを有し、これは本出願人のデバイスにおいては、TiAlNヒータ材料のCTEと一致し、本出願人のオープンプール試験において10億バブル凝集後にヒータの層間剥離は認められなかった。インクジェット用途に使用されるヒータ材料は、約10ppm.K−1のCTEを有する可能性が高いので、CVD堆積された膜はスピンオン膜よりも好ましい。
【0090】
この用途に関して興味のある最後の点は、熱バリアの横方向画定(lateral definition)に関するものである。米国特許第5,861,902号において、低熱拡散率の領域がヒータのすぐ下にあり、一方でさらに離れて高熱拡散率の領域があるように、堆積後に熱バリア層が改変される。この構成は2つの矛盾する要件を解決するために設計されている。
1.吐出のエネルギーを削減するために、ヒータが基板から熱的に隔離される。
2.チップ背面への熱伝導により、プリントヘッドチップが冷却される。
チップが除去を必要とする熱は、吐出された液滴によって除去される熱だけであるという意味で、自己冷却性となるように設計されている本出願人のノズルには、そのような構成は必要ない。正式には、「自己冷却される」又は「自己冷却性」ノズルとは、吐出可能な液体の滴を吐出するのに必要なエネルギーが、滴によって除去できる熱エネルギーの最大量未満であるノズルと定義できる。このエネルギーは、滴の量に等しい量の吐出可能な流体を、流体がプリントヘッドに入る温度から吐出可能な流体の不均質沸点(heterogeneous boiling point)まで加熱するのに必要なエネルギーである。この場合、プリントヘッドチップの定常温度は、ノズル密度、噴射率又は導電性ヒートシンクの有無に関わらず、吐出可能な流体の不均質沸点未満となる。ノズルが自己冷却性である場合、熱はプリントヘッドの表面から吐出された液滴によって除去され、チップの背面に輸送する必要はない。したがって、ヒータの下の領域に封入するように熱バリア層をパターニングする必要がない。これにより、デバイスの加工が簡略化する。事実、CVDされたSiOCHを単にCMOS上部不動態化層とヒータ層との間に挿入するだけでよい。これについては図6〜図9を参照して以下で説明する。
【0091】
[ルーフ接合式ヒータ素子及びフロア接合式ヒータ素子]
図6〜図9は、2つの埋め込み式ヒータの実施形態を概略的に示す。図6及び図7では、ヒータ10がチャンバ7のフロアに埋め込まれ、図8及び図9では、チャンバのルーフにヒータが埋め込まれる。これらの図は、バブル12の凝集及び成長の初期段階を示すという点において全体的に図1及び図2に一致する。簡略化のため、図3〜図5に対応する、継続的な成長及び滴吐出を示す図は省略される。
【0092】
まず第1に図6及び図7を参照すると、ヒータ素子10がインクチャンバ7のフロアに埋め込まれている。この場合、ヒータ層38は、不動態化凹部29(図10に最も良く示される)のエッチング後、インク入口穴30及びインク入口穴31のエッチング並びに犠牲層35(図14及び図15に示す)の堆積前に、不動態化層24上に堆積される。この製造順序の再配置が、ヒータ材料38が穴30及び穴31内に堆積するのを防止する。この場合、ヒータ層38は犠牲層35の下に位置する。これにより、ルーフ層50が、吊下ヒータの実施形態の場合のようにヒータ層38上ではなく、犠牲層35上に堆積されることが可能となる。吊下ヒータの実施形態において図25〜図35を参照して上述されている第2の犠牲層42の堆積及びそれに続くエッチングを必要とする一方、ヒータ素子10がチャンバフロアに埋め込まれる場合には他の犠牲層は必要ない。プリントヘッドの効率を維持するため、ヒータ素子10と基板8の残りの部分との間に位置するよう低熱積層25が不動態化層24上に堆積され得る。材料の熱積及びヒータ素子10を熱的に分離するその能力は上記及び等式3を参照してより詳細に下に説明される。しかしながら、本質的には加熱パルス中の不動態化層24への熱損失を低減する。
【0093】
図8及び図9は、インクチャンバ7のルーフに接合されたヒータ素子10を示す。図10〜図36を参照して説明した吊下ヒータの製作プロセスにおいて、ヒータ層38は犠牲層35の上に堆積され、したがって製造順序はヒータ層38がパターニングされエッチングされる後まで変わらない。この時点で、次いで、ルーフ層44が、介在する犠牲層なしに、エッチングされたヒータ層38の上に堆積される。ヒータ層38が低熱積層と接触し、それにより、加熱パルス中のルーフ50への熱損失を低減するように、低熱積層25をルーフ層44内に含めることができる。
【0094】
[埋め込み式ヒータ素子の製造プロセス]
図6〜図9に示すユニットセルは、かなり概略的であり、埋め込み式ヒータ素子と吊下ヒータ素子の間の相違を強調するため可能な限り、意図的に図1〜図4に示すユニットセルに対応させてある。図37〜図70は、より詳細で複雑な埋め込み式ヒータの実施形態の製作ステップを示す。この実施形態において、ユニットセル21は、4つのノズル、4つのヒータ素子及び1つのインク入口を有する。この設計により、楕円ノズル開口と、より薄いヒータ素子と、千鳥形のノズルの列とを使用して、単一のインク入口から複数のノズルチャンバに供給することにより、ノズルのパッキング密度が増す。ノズル密度が上がると、印刷の解像度が上がる。
【0095】
図37及び図38は部分的に完成したユニットセル1を示す。簡略化のため、この説明は、ウエハ8上における標準CMOS製作が完了した時点から始める。CMOS相互接続層23は、間に層間誘電体を有する4つの金属層である。一番上の金属層であるM4層50(点線で示す)は、不動態化層24で被覆されたヒータ電極コンタクトを形成するためにパターニングされる。M4層は、実際にはTiN層と、Al/Cu(>98% Al)層と、反射防止コーティング(ARC)として働く別のTiN層との3層で構成される。ARCは、次に続く露光ステップ中に光が拡散するのを阻止する。TiN ARCは、ヒータ材料に適した抵抗率を有する(以下で説明する)。
【0096】
不動態化層は、相互接続層23上に堆積された単一の二酸化ケイ素層であってもよい。任意選択で、不動態化層24は、2つの二酸化ケイ素層間の窒化ケイ素層(「ONO」層と呼ばれる)であってもよい。不動態化層24は、M4層50上の厚さが好ましくは0.5ミクロンとなるように平坦化される。不動態化層は、CMOS層をMEMS構造から分離し、また、下記で述べるインク入口のエッチングのためのハードマスクとしても使用される。
【0097】
図39及び図41は、図40に示すマスク52を使用して、不動態化層24内にエッチングされたウインドウ54を示す。通常通り、フォトレジスト層(図示せず)が不動態化層24上にスピンコートされる。クリアトーン(clear tone)マスク52(暗色領域は、紫外線がマスクを透過する領域を示す)が露光され、露光されたフォトレジストを除去するためにレジストがポジ現像溶液中において現像される。次いで、不動態化層24が、酸化膜エッチング装置(例えば、Applied Materials社のCentura DPS(Decoupled Plasma Source)Etcher)を使用してエッチングされる。エッチングはTiN ARC層の上又は部分的に内部で停止し、下のAl/Cu層に達してはならない。次いで、このフォトレジスト層(図示せず)が、標準CMOSアッシング装置内で0プラズマで剥離される。
【0098】
図42及び図43はヒータ材料56の0.2ミクロン層の堆積を示す。TiAl、TiAlN及びInconel(登録商標)718などの適切なヒータ材料は、本明細書の他の箇所で説明した。図44及び図46に示すように、ヒータ材料層56は、図45に示すマスク58を使用してパターニングされる。前のステップと同様に、フォトレジスト層(図示せず)がマスク58を通して露光され、現像される。マスク58は、クリア領域が、下にある材料が紫外線で露光され、現像溶液で除去される領域を示す点で、クリアトーンマスクであることが理解されよう。次いで、必要のないヒータ材料層56はヒータのみを残してエッチングされる。この場合も、残ったフォトレジストは0プラズマでアッシングされる。
【0099】
この後、図47に示すように、層フォトレジスト42が再度ウエハ8上にスピンコートされる。図48に示すダークトーン(dark tone)マスク60(暗色領域は紫外線を遮る)がレジストを露光させ、次いで不動態化層24上にインク入口31の位置を画定するために、レジストが現像及び除去される。図49に示すように、インク入口31の位置でレジスト42を除去することにより、不動態化層24が誘電エッチングに備えて露出される。
【0100】
図50及び図51は、不動態化層24、CMOS相互接続層23、及び下にあるウエハ8の誘電エッチングを示す。これは任意の標準CMOSエッチング装置(例えば、Applied Materials社のCentura DPS(Decoupled Plasma Source)Etcher)を使用した深掘り反応性イオンエッチング(DRIE)であり、ウエハ8内に約20ミクロン〜30ミクロン延びる。図示の実施形態において、表側インク入口エッチングの深さは約25ミクロンである。表側エッチングの精度は重要である。その理由は、裏側エッチング(以下に説明する)はノズルチャンバまでのインク流路を設けるために、表側に達するのに十分な深さでなければならないからである。インク入口31の表側エッチングの後、フォトレジスト42は0プラズマ(図示せず)でアッシングされる。
【0101】
図52及び図53に示すように、フォトレジスト層42が除去されると、フォトレジスト35の別の層がウエハ上にスピンコートされる。この層の厚さは注意深く制御される。その理由は、この層が次のチャンバルーフ材料(以下に記載される)堆積のための足場を形成するからである。本実施形態において、フォトレジスト層35は厚さ8ミクロンである(図53に最も良く示されるようにインク入口31を塞ぐ場所を除く)。次に、フォトレジスト層35が、図55に示すマスク62に従ってパターニングされる。このマスクは、暗色領域が紫外線に露光される領域を示す点で、クリアトーンマスクである。露光されたフォトレジストは現像され、除去され、図54に従って層35がパターニングされる。図56はパターニングされたフォトレジスト層35の断面図である。
【0102】
フォトレジスト35でチャンバルーフ及び支持壁を画定して、窒化ケイ素などのルーフ材料の層が犠牲スカフォルディング上に堆積される。図57及び図58に示す実施形態において、ルーフ材料の層44は厚さ3ミクロンである(壁又は柱特徴においては除く)。
【0103】
図59、図60及び図61は、ノズルリム4のエッチングを示す。フォトレジストの層(図示せず)がルーフ層44上にスピンコートされ、クリアトーンマスク64(暗色領域は紫外線に露光される)の下で露光される。ルーフ層44は、次いで、2ミクロンの深さまでエッチングされ、隆起したノズルリム4及びバブル出口特徴66が残る。残ったフォトレジストは、次いで、アッシングされる。
【0104】
図62、図63及び図64は、ルーフ層44におけるノズル孔のエッチングを示す。この場合も、フォトレジストの層(図示せず)が、ルーフ層44上にスピンコートされる。次いで、ダークトーンマスク68(クリア領域が露光される)を用いてパターニングされ、次いで、現像され、露光されたレジストが除去される。次いで、下にあるSiN層が、標準CMOSエッチング装置を用いて下のフォトレジスト層35までエッチングされる。これによってノズル孔3が形成される。バブル出口穴66もまた、このステップ中にエッチングされる。この場合も、残ったフォトレジストが0プラズマで除去される。
【0105】
図65及び図66は、保護フォトレジストオーバーコート74の塗布を示す。これにより、繊細なMEMS構造がさらなる取扱い時に損傷することが防止される。同様に、足場フォトレジスト35は依然として所定の位置にあり、ルーフ層44を支持する。
【0106】
次いで、「裏側」70(図67を参照のこと)がエッチングできるように、ウエハ8が裏返される。次いで、ウエハ8(又はより具体的には、フォトレジストオーバーコート74)の表側が、熱テープ又は類似物を用いてガラス製のハンドルウエハ上に貼り付けられる。当初ウエハは厚さ約750ミクロンであることが理解されよう。厚さを、したがって、ウエハの表側と裏側との間に流体連通を設けるのに必要なエッチングの深さを減らすために、ウエハの反対側70がウエハの厚さが約160ミクロンになるまで研磨され、次いで、DRIEエッチングされ、研磨された面の点食が除去される。裏側が、次いで、チャネル32のエッチングに備えてフォトレジスト層(図示せず)でコーティングされる。クリアトーンマスク72(図68に示す)が、露光及び現像のため裏側70に配置される。このとき、レジストは、チャネル32の幅(図示の実施形態では約80ミクロン)を画定する。次いで、チャネル32が、塞がれた表側インク入口31に達するまで及び塞がれた表側インク入口31をわずかに超える位置までDRIEエッチングされる。次いで、フォトレジストの裏側72が、0プラズマでアッシングされ、保護オーバーコート74及び足場フォトレジスト35の表側アッシングのためにウエハ8がやはり裏返される。図69及び図70は完成したユニットセル1を示す。図70は平面図であるが、説明の目的で、ルーフによって隠されたフィーチャが実線で示されている。
【0107】
使用時に、インクが裏側70からチャネル32及び表側入口31に供給される。プリントヘッドへのインク供給ライン内には気泡が形成されやすい。これは、溶解した気体が溶液から出てバブルとして集まる場所で気体が抜けるためである。バブルがインクと共にチャンバ7に供給される場合、ノズルからのインク吐出を妨げる可能性がある。圧縮可能なバブルは、ヒータ素子10上に凝集したバブルによって発生した圧力を吸収し、したがって圧力パルスは孔3からインクを吐出するには不十分となる。インクがチャンバ7に入ると、同伴されたバブルはインク入口31の両側において柱状フィーチャに追従し、バブル出口66に向かって押される傾向にある。バブル出口66は、インクの表面張力によってインク漏れが防止されるが、閉じ込められた気泡は排出できるような寸法である。各ヒータ素子10は、3つの面がチャンバ壁で、第4の面が別の柱状フィーチャで囲まれる。これらの柱状フィーチャは、放射圧力パルスを拡散させて、チャンバ7間のクロストークを低減する。
【0108】
[超合金ヒータ]
超合金は、高温下での使用のために開発された材料クラスである。超合金は通常、元素周期表のVIIA族の元素をベースとし、ジェットエンジン、発電所のタービンなど、材料の高温安定性を必要とする用途で主に使用される。超合金が熱インクジェットの分野で適していることはこれまで認識されていなかった。超合金は、公知の熱インクジェットプリントヘッドに使用される従来の薄膜ヒータ(アルミニウムタンタル、窒化タンタル又は二ホウ化ハフニウムなど)の高温強度、耐食性及び耐酸化性を大幅に超える高温強度、耐食性及び耐酸化性を提供することができる。超合金の主な利点は、親出願である米国特許出願第11/097,308号明細書で詳述されるように、ヒータが保護コーティングなしで動作できるのに十分な強度、耐酸化性及び耐食性を有し、したがってコーティングの加熱時に無駄になっていたエネルギーが設計から排除される。
【0109】
保護層なしで試験を行った場合、超合金は場合によっては従来の薄膜材料と比較して格段に長い寿命を有することができることが試験で示された。図71は、オープンプール沸騰(ヒータがノズル内ではなく単に水のオープンプール内で作動される)で試験が行われた2つの異なるヒータ材料のヒータ信頼度のワイブルプロットである。当業者には、ワイブルチャートがよく知られたヒータ信頼度の測定法であることが理解されよう。このチャートでは、故障の確率すなわち不信頼性を作動回数のログスケールに対してプロットする。また、図71に示すキーは各合金について故障及び一時停止したデータポイントの数を示すことにも留意されたい。例えば、キー中、Inconel718の下のF=8は、試験で使用されたヒータのうち8つが開路故障に至るまで試験されたことを示し、一方、S=1は、試験ヒータの1つが一時停止された、又は言い換えれば、試験が中断された時点でなお動作していたことを示す。公知のヒータ材料であるTiAlNが超合金Inconel718と比較されている。登録商標Inconelは、2060 Flavelle Boulevard,Mississauga,Ontario L5K 1Z9 CanadaのHuntington Alloys Canada Ltd社が所有している。
【0110】
本出願人の以前の研究で、耐酸化性がヒータの寿命と強い相関関係があることが示されている。AlをTiNに添加してTiAlNを生成することにより、ヒータの耐酸化性(炉内処理後の酸素含有量のオージェ深さプロファイリングによって測定)は大幅に向上し、ヒータの寿命も大幅に伸びた。Alはヒータの表面に拡散され、さらに酸素を透過するための拡散率が非常に低い薄い酸化スケールが形成された。ヒータを不動態化するのはこの酸化スケールであり、酸化環境又は腐食環境によるさらなる攻撃からヒータを保護し、保護層なしでの動作を可能とする。また、スパッタリングされたInconel718もこの形の保護をもたらし、やはりAlを含むが、Crの存在、及びナノ結晶構造という、耐酸化性をさらに強化する他の2つの有利な性質を有する。
【0111】
クロムは、酸化クロムの保護スケールを形成することにより自己不動態化特性をもたらすという点で、添加物としてアルミニウムと類似の挙動を示す。材料中でCrとAlとを併用するのが、どちらかを単独で使用するよりもよいと考えられる。その理由は、アルミナスケールはクロミアスケールより成長が遅いが、最終的には良好な保護を提供するからである。Crを添加すると有益である。その理由は、アルミナスケールが成長する一方で、クロミアスケールは短期的な保護をもたらすので、短期的な保護に必要な材料中のAl濃度を低くできるからである。Al濃度を低くすることは有益である。その理由は、酸化保護を強化する目的でAl濃度を高くすると、材料の相安定性が危うくなるからである。
【0112】
スパッタリングされたInconel718のX線回折及び電子顕微鏡による研究で、粒径100nm未満の結晶微細構造(「ナノ結晶」微細構造)が示された。Inconel718のナノ結晶微細構造は、良好な材料強度を提供する一方で高密度の粒界を有する点で有利である。より大きな結晶及びより低密度の粒界を有する材料と比較すると、ナノ結晶構造は、保護スケールを形成する元素であるCr及びAlの拡散率を高め(より急速なスケール形成)、ヒータ表面全体にスケールをより均一に成長させる。したがって、より急速かつより効果的に保護が行われる。ナノ結晶構造の方が保護スケールの付着性が高く、結果として剥離が減少する。イットリウム、ランタン及び他のレアアース元素からなる群からの反応性金属の添加物を使用することにより、スケールの機械的安定性及び付着性のさらなる向上が可能である。
【0113】
超合金は一般に鋳造又は鍛造されるが、これによりナノ結晶微細構造が生じるわけではないことに留意されたい。ナノ結晶構造によってもたらされる利点は、この用途のMEMSヒータ製作において使用されるスパッタリング技術に特有のものである。ヒータ材料としての超合金の利点は耐酸化性に関するものだけではないことにも留意されたい。超合金の微細構造は、高温強度及び耐疲労性を付与する相の形成を促進する添加物を用いて注意深く設計されている。潜在的に可能な添加としては、Niベースの超合金のガンマプライム相を形成するためのアルミニウム、チタン、ニオブ、タンタル、ハフニウム又はバナジウムの添加、ガンマ相を形成するための鉄、コバルト、クロム、タングステン、モリブデン、レニウム又はルテニウムの添加、或いは粒界において炭化物を形成するためのC、Cr、Mo、W、Nb、Ta、Tiの添加が含まれる。また、粒界を強化するためにZr及びBを添加してもよい。これらの添加物及び材料製作プロセスを制御することにより、脆化を引き起こして材料の機械的安定性及び延性を低下させる可能性のあるシグマ相、エータ相、ミュー相など、経年によって誘発される望ましくないTCP(Topologically Close Packed)相を抑制するように働くことができる。そのような相は、好ましいガンマ及びガンマプライム相形成に利用できるはずの元素を消費するようにも働くので、避けられる。したがって、ヒータ材料には、Cr及びAlの存在により酸化保護をもたらすことが好ましいが、超合金は概して優れた材料クラスであると考えられ、このクラスからヒータ材料の候補を選択することができる。その理由は、高温強度、耐酸化性及び耐食性のための超合金の設計には、MEMSに使用される従来の薄膜ヒータ材料の改良に投じられてきたよりも多大な労力が費やされてきたからである。
【0114】
本出願人の結果は、
Cr含有量が2重量%〜35重量%、
Al含有量が0.1重量%〜8重量%、
Mo含有量が1重量%〜17重量%、
Nb+Ta含有量が0.25重量%〜8.0重量%、
Ti含有量が0.1重量%〜5.0重量%、
Fe含有量が60重量%以下、
Ni含有量が26重量%〜70重量%、及び/又は、
Co含有量が35重量%〜65重量%
である超合金が、MEMSバブル発生器内の薄膜ヒータ素子としての使用に適している可能性が高く、特定のデバイス設計(例えば、吊下ヒータ素子、埋め込み式ヒータ素子等)において有効性に関してさらなる試験が妥当であることを示す。
【0115】
一般式MCrAlXで表される超合金であって、
MがNi、Co、Feのうち1つ又は複数からなり、Mは少なくとも50重量%を占め、
Crが8重量%〜35重量%を占め、
Alがゼロ以上8重量%未満を占め、
Xが25重量%未満を占め、Xはゼロ以上のMo、Re、Ru、Ti、Ta、V、W、Nb、Zr、B、C、Si、Y、Hfからなる超合金が、オープンプール試験(上述)において良好な結果を提供する。
【0116】
特に、Ni、Fe、Cr及びAlを含み、ゼロ以上のMo、Re、Ru、Ti、Ta、V、W、Nb、Zr、B、C、Si、Y又はHfを含む添加物を含む、超合金が優れた結果を示す。
【0117】
これらの基準を使用して、熱インクジェットプリントヘッドのヒータ用の適切な超合金材料を以下から選択することができる。
Inconel(登録商標)600合金、601合金、617合金、625合金、625LCF合金、690合金、693合金、718合金、X−750合金、725合金、751合金、MA754合金、MA758合金、783合金、925合金又はHX合金、
INCOLOY(登録商標)330合金、800合金、800H合金、800HT合金、MA956合金、A−286合金又はDS合金、
NIMONIC(登録商標)75合金、80A合金又は90合金、
BRIGHTRAY(登録商標)B合金、C合金、F合金、S合金又は35合金、或いは
FERRY(登録商標)合金又はThermo−Span(登録商標)合金。
【0118】
Brightray、Ferry及びNimonicは、Holmer Road HEREFORD HR4 9FL UNITED KINGDOMのSpecial Metals Wiggin Ltd社の登録商標である。
【0119】
Thermo−SpanはCarpenter Technology Corporation社の子会社であるCRS holdings Inc.社の登録商標である。
【0120】
[チタンアルミニウム合金のヒータ]
チタンアルミニウム(TiAl)合金は、優れた強度、低クリープ及び軽量という、これらの合金が航空産業及び自動車産業で広く使用される由縁である特性を有する。チタンアルミニウム合金は極めて高温下における耐酸化性のため、炉、窯等の耐火コーティングに適している(「Oxidation Resistance of Refractory γ−TiAlW Coatings」、L.Kaczmarckら、Surface & Coatings Technology 201(2007)6167〜6170ページを参照のこと)。
【0121】
本出願人の研究により、TiAlはインクジェットプリントヘッドのヒータ材料として使用するのにも十分適していることが明らかになった。この合金は、主にAl及び非常にわずかなTiOの、均一で薄い高密度のコーティングである表面酸化物をもたらすことができる。Alは、低い酸素拡散率を有する一方、TiOはより高い拡散率を有する。したがって、この自然(すなわち、自然に形成される)酸化物層は、ヒータを不動態化して酸化破壊を防ぐ一方、ヒータをインクから熱的に遮断しない程度には十分に薄い。これにより、ヒータの動作寿命を損なわずに、広く(ページ幅)高密度のノズルアレイに必要な滴の吐出エネルギーを低く保つ。厚さ0.2ミクロンのTiAlヒータを使用した試験では、1億8千万回の吐出を良好な印刷品質で達成した。
【0122】
TiO形成のさらなる抑制及び/又はヒータ表面のAl拡散率(したがって、Alの優先的形成)増大のために他の元素を合金に加えることができる。Ag、Cr、Mo、Nb、Si、Ta及びWは単独で又は組合せで、Alを強化し、TiOの保護低下を抑制する。添加物は合計でTiAl合金の5重量%を超えるべきではない。Ag、Cr、Mo、Nb、Si、Ta及びWのうち、Wが、最も高い耐酸化性を有する酸化スケールを有する合金を提供する。1.7重量%〜4.5重量%の範囲でWを添加すると、優れた結果が得られる。
【0123】
Wを加える別の利点は、Wが既に集積回路製作時に使用されていることである。CMOSの層間誘電材料(金属層間)を貫通するビアは一般にWである。吐出ヒータにWを使用することにより、集積回路又はMEMS内において他の成分の有害な汚染が起こる可能性が低くなる。
【0124】
TiAlの微細構造には別の重要な側面がある。ガンマ相TiAlは、アルファ相Al(コランダムとして公知である)と相補的な格子基板をもたらす。したがって、下の金属に対する酸化物層の付着性は強い。また、微細構造の粒径はナノ結晶領域のはずである。ナノ結晶構造により、Alの拡散を促す高密度の粒界が表面に生じる。これがさらに、高密度で機械的に安定な酸化スケールを促す。ナノ結晶構造は、粒径が100ナノメートルを下回るようにヒータ材料にマグネトロンスパッタリングを行うことにより容易に達成できることが理解されよう。
【0125】
薄く高密度のAl層は、既存のインクジェットプリントヘッドの動作寿命と同等の動作寿命をヒータに与える。酸化物を通る酸素拡散率は低いが、多少の酸素は到達し続ける。しかしながら、TiAlヒータ上に薄い保護コーティングを加えることにより、吐出効率は幾分損なわれるものの動作寿命を伸ばすことができる。非常に薄い保護コーティング(厚さ0.5ミクロン未満)が、自然酸化スケールの保護とあいまって、液滴吐出のエネルギー効率を大幅に低下させることなく動作寿命を大幅に伸ばす。保護コーティングは、単一層でも異なる材料の積層体であってもよい。酸化ケイ素、窒化ケイ素、及び炭化ケイ素が、インクジェットヒータ素子に適切な保護コーティングを形成する。
【0126】
[ヒータにおける酸化物成長を阻止するための増加する駆動パルス]
保護コーティングが使用されず、ヒータが高密度の表面酸化物層のみに依存する場合、滴の吐出特性はプリントヘッドの動作寿命全体にわたって変化しうる。本出願人の研究では、コーティングされていないヒータの抵抗率が、時間の経過と共に変化することが判明した。表面酸化物は低い酸素拡散率を有するかもしれないが、いかなる酸素拡散率でも、動作寿命の接続時間中は、ヒータ材料を継続的に酸化させる。酸化物層が成長するにつれて、ヒータ抵抗も増加する。抵抗が増すと、ヒータがチャンバ内に伝えるエネルギーの量が減少する(なぜなら、ヒータによって得られるエネルギーは、駆動パルス電圧を2乗し、それをヒータ抵抗で割り、パルス接続時間を掛けたものだからである)。チャンバ内のインクへのエネルギーが低下すると、インク内の蒸気バブルが小さくなる。小さくなったバブルは、液滴サイズ及び速度に影響を及ぼす。
【0127】
ヒータ上での酸化物成長の影響を阻止するために、プリントエンジンコントローラは、ヒータの動作寿命の接続時間中、駆動パルスのエネルギーを増加させる。パルスエネルギーを増加させることは、パルス接続時間を延長することにより最も容易に達成できる。ヒータに送られるパルスの数は、酸化物成長の良い尺度である。インクを蒸発させて液滴を吐出する際にチャンバ内に生成される環境は、極めて酸化性が高く、これまでのところ、ヒータの停止の際に起こる酸化に勝っている。したがって、各ヒータのパルス接続時間を、設定した回数のヒータ作動の後に増分的に延長することができる。代わりに、(抵抗をCMOS内のホイートストンブリッジ回路に組み込むことにより)コントローラでヒータの抵抗を監視し、測定された抵抗が特定のしきい値を超えるとパルス接続時間を延長することもできる。
【0128】
ヒータのピーク温度は、作動中にインクに伝えられるエネルギーが減少するにつれて低下する。プリントヘッド温度センサを使用して、動作温度を、個々のヒータに対する駆動パルスの接続時間を延長するトリガーとして使用することができる。
【0129】
ヒータ上での酸化物成長を補償すると、プリントヘッドの動作寿命中、各ノズルからの滴の吐出特性の変化が減少する。滴の吐出特性がより均一な接合、各プリントヘッドの寿命中の印刷品質の劣化が減少する。
【0130】
本発明を、本明細書中に単に例として説明してきた。当業者であれば、広範な発明の概念の精神及び範囲から逸脱しない多くの変更及び修正を容易に認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メディア基板上に液体の滴を吐出する複数の吐出デバイスが配列されたプリントヘッドであって、前記吐出デバイスのそれぞれが、液体を保持するチャンバと、前記チャンバと流体連通されたノズルと、前記ノズルを通じて前記液体の滴を吐出する蒸気バブルがヒータの抵抗加熱によって発生するように前記液体と接触して前記チャンバ内に配置されたヒータと、を備えるプリントヘッドと、
印刷データを受信し、前記印刷データに従って前記ヒータを駆動するための駆動パルスを発生させるコントローラと、
を備え、
前記コントローラが、前記プリントヘッドの寿命中に前記駆動パルスのエネルギーを増加させる、
インクジェットプリンタ。
【請求項2】
前記プリントヘッドが、前記液体の供給を周囲温度で受けるように構成され、
前記蒸気バブルを発生させるために前記ヒータに印加される前記駆動パルスが、吐出される前記滴の体積に等しい体積の前記液体を前記周囲温度に等しい温度から前記液体の沸点まで加熱するために必要なエネルギーよりも少ないエネルギーを有する、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項3】
前記コントローラが、前記駆動パルスの接続時間を延長させることにより、前記駆動パルスのエネルギーを増加させるように構成される、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項4】
前記コントローラが、所定の数の滴が吐出された後に、前記駆動パルスのエネルギーを増加させるように構成される、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項5】
前記コントローラが、前記吐出デバイスのそれぞれによって吐出される前記滴の累計を監視し、前記吐出デバイスが所定の数の滴を吐出した後、いずれの前記吐出デバイスに対しても前記駆動パルスのエネルギーを個別に増加させる、請求項4に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項6】
前記吐出デバイスが、いつ前記ヒータが所定のしきい値より低いピーク温度を有するかを判断する温度センサ、をさらに備え、
前記コントローラは、前記ピーク温度が前記しきい値より低いことを前記温度センサが示すのに応答して前記駆動パルスのエネルギーを増加させるように構成される、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項7】
前記しきい値が450℃未満である、請求項6に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項8】
前記コントローラが、前記吐出デバイスの作動回数と前記ヒータの電気抵抗の増加との間の予め定められた関係とは逆に、前記駆動パルスの接続時間を延長させる、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項9】
前記ヒータが、Tiが40重量%超を占め、Alが40重量%超を占め、Xが5重量%未満を占め、ゼロ以上のAg、Cr、Mo、Nb、Si、Ta及びWを含む、TiAlX合金から形成される、請求項1に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項10】
XがWである、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項11】
Xが1.7重量%〜4.5重量%のWを含む、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項12】
Tiが48重量%超を占め、Alが48重量%超を占め、Xが0重量%である、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項13】
前記ヒータの前記TiAl成分が、ガンマ相構造を有する、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項14】
前記ヒータが、粒径100ナノメートル未満の微細構造を有する、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項15】
使用時に、前記TiAlX合金が、前記液体に直接接触するAl表面酸化物を形成する、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項16】
前記TiAlX合金が、厚さ2ミクロン未満の層として堆積される、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。
【請求項17】
前記層が厚さ0.5ミクロン未満である、請求項9に記載のインクジェットプリンタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【公表番号】特表2012−506781(P2012−506781A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−532465(P2011−532465)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【国際出願番号】PCT/AU2008/001660
【国際公開番号】WO2010/051573
【国際公開日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(303024600)シルバーブルック リサーチ ピーティワイ リミテッド (150)
【Fターム(参考)】