説明

ヒートセットオフ輪インキ組成物

【課題】地球環境に配慮しつつ、流動性、乾燥性、機上安定性、経時安定性に優れたオフセットインキ及びそれを用いた印刷物の提供。
【解決手段】バインダー樹脂、植物油および溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、特定の、植物油を含有するヒートセットオフ輪インキ組成物。
すなわち、前記植物油が、植物油全体に対して90〜100重量%の一般式(1)で表される化合物を含有するヒートセットオフ輪インキ組成物。
一般式(1)
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、書籍、チラシ、カタログ等の印刷に使用されるヒートセットオフ輪インキに関し、更に詳しくは、従来よりも乾燥性、印刷機上での安定性、経時安定性に優れた環境負荷の少ないオフセットインキに関する。
【背景技術】
【0002】
オフセットインキ業界は地球環境や作業環境の改善にも取り組んできており、インキ中の石油系溶剤の全部または一部を大豆油に替えたものは大豆油インキとしてアメリカ大豆協会から認定を受けることができることもあり、環境問題,VOC(揮発性有機化合物)規制,大豆農業振興を背景として大豆油インキが主流になりつつある。
【0003】
ヒートセットオフ輪印刷は紙に転写されたインキに熱を加えることでインキ中の溶剤分を蒸発させる加熱乾燥方式である。揮発成分である石油系溶剤の全てを沸点の高い大豆油に代表される植物油に置換することは非常に困難である。
【0004】
ヒートセットオフ輪印刷においては、インキに使用する溶剤の沸点は低い方が乾燥性は優れており、印刷物の乾燥不良による印刷機上での擦れや結束後のブロッキングに関して優位である。しかし、沸点の低い溶剤を多用し、乾燥性を重視していくと、印刷機上での印刷インキの安定性が悪くなり、印刷機上でインキが増粘し、流動性の劣化やタックアップしたインキが紙剥けを誘発したり、紙粉を巻き込みパイリングを起こしやすくなる等の問題が生じ易くなるため、乾燥性と機上安定性のどちらにも優れているインキを作るのは困難であった。
【0005】
ヒートセットオフ輪インキ中に含まれる大気汚染原因物質であるVOC成分のインキからの排除という観点から、過去印刷適性・印刷効果は従来の石油系溶剤使用のオフセットインキと遜色の無い環境対応型インキの検討がなされてきた。
【0006】
特許文献1と特許文献2にロジン変性フェノール樹脂と植物エステルを溶剤主成分とし、従来のインキに比べて大幅にVOC成分を削減し、かつ高速セット性を備えた印刷インキ組成物が提案されているが、ヒートセットオフ輪インキでは乾燥性が大幅に悪く実用することは不可能であった。
【0007】
特許文献3では、ロジン変性フェノール樹脂、米ぬか油と脂肪酸モノエステルを主原料とし、従来のインキに比べ大幅にVOC成分を削減し臭気が少なくゴム部材の変質又は劣化が少なく、かつ良好な機上安定性を備えた印刷インキが提案されているが、これも乾燥性が悪くヒートセットオフ輪インキとしての実用性に乏しい。
【0008】
特許文献4では、ヨウ素価を100以上に調整した米ぬか油を用いたオフセットインキについて提案されているが、ヒートセットオフ輪印刷においてはヨウ素価の高い植物油よりも石油系溶剤のアニリン点や沸点が乾燥性・機上安定性に依存する。さらに、ヨウ素価が高い植物油を多用すると、保存容器内でのインキの増粘や流動性の劣化を招きやすい。
さらに、近年、大豆油などの農作物がバイオエタノール原料に転用される様になり、大豆油の価格の高騰や、安定した供給量の確保が懸念されている。一方、世界規模でのCO排出量削減の急激な動きで、脱石化素材・VOCのインキ成分からの排除を目的とした考え方が普及しつつあった。しかし、輸送燃料に対しても同様の考え方が適用される。
【0009】
輸送マイレージ、即ち原料や製品などの生産・製造地と消費地との距離を短縮することでCO排出量を削減していくという観点では、インキ製造地から近いところでインキの原料を調達することで、CO排出量の削減に貢献できる。
【0010】
しかしながら、物油成分として用いられている大豆油は北米・南米で収穫された大豆を海外で搾油したものが輸入されているのが主であり、輸送マイレージが悪く環境に好ましくない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−69354号公報
【特許文献2】特開2002−155227号公報
【特許文献3】特開2004−330317号公報
【特許文献4】特開2003−96375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、地球環境に配慮しつつ、流動性、乾燥性、機上安定性、経時安定性に優れたオフセットインキ及びそれを用いた印刷物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために誠意研究した結果、バインダー樹脂、植物油および溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、特定の、植物油を含有するヒートセットオフ輪インキ組成物が優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明は、バインダー樹脂、植物油および溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、前記植物油が、植物油全体に対して90〜100重量%の一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とするヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0015】
一般式(1)
【0016】
【化1】

【0017】
また、本発明は、一般式(1)で表される化合物中の(R1+R2+R3)の全量に対して、二重結合を2つ有するC18の不飽和炭化水素基のモル比率が30〜40%であって、かつ、二重結合を3つ有するC18の不飽和炭化水素基のモル比率が1.5%以下であることを特徴とする上記のヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0018】
さらに、本発明は、バインダー樹脂が、重量平均分子量10000〜100000およびトレランス20〜30重量%であるロジン変性フェノール樹脂であることを特徴とする上記のヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0019】
また、本発明は、溶剤が、アニリン点75〜95℃および沸点範囲230〜260℃である溶剤を溶剤全体の5〜15重量%含有することを特徴とする上記のヒートセットオフ輪インキ組成物に関するものである。
【0020】
さらに、本発明は、上記のヒートセットオフ輪インキ組成物を基材上に印刷してなる印刷物に関するものである。
【発明の効果】
【0021】
書籍、チラシ、カタログ等の印刷において、本発明が提供するヒートセットオフ輪インキは、従来よりも乾燥性、印刷機上での安定性、経時安定性に優れ、しかも環境負荷が少ない。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
なお、以下の一般式(1)で表される化合物を総称して、本発明においては、化合物Zとする。
【0023】
一般式(1)
【0024】
【化2】

【0025】
本発明で用いられる化合物Zは、(R1+R2+R3)の全量に対して、二重結合を2つ有するC18の不飽和炭化水素基のモル比率が30〜40%が良く、好ましくは32〜38%が良い。さらに、二重結合を3つ有するC18の不飽和炭化水素基のモル比率が1.5%以下がより好ましく、1.0%以下が良く、さらに好ましくは、0.5%以下であることが望ましく、できれば含まれない方が良い。すなわち、化合物Zは、二重結合の割合が特定のものが好ましい。
【0026】
また、化合物Zの含有量は、植物油全体に対して、90〜100重量%が良く、さらに好ましくは95〜100重量%が良い。さらに、ヒートセットオフ輪インキ全量に対しては、5〜15重量%、より好ましくは6〜12重量%、さらに好ましくは7〜10重量%含有されていることが望ましい。化合物Zの含有量が、ヒートセットオフ輪インキ全量に対して5重量%よりも少ないと、印刷機上でのインキの安定性が劣り、インキの増粘、流動性の低下を招く。化合物Zの含有量が、ヒートセットオフ輪インキ全量に対して15重量%よりも多いと、乾燥性が劣り、印刷機上での擦れや印刷紙面結束後ブロッキング等を招き、ドライヤー温度を上げることによる火皺の発生等品質紙面の劣化を誘発するため好ましくない。
【0027】
また、二重結合を2つ有するC18の不飽和炭化水素基の比率が30%以下であると、インキ乾燥後の印刷物の耐摩擦性や光沢が劣り、40%以上であると、保存容器内でのインキの経時安定性が劣るため好ましくない。また、三重結合を1つ有するC18の不飽和炭化水素基が存在すると保存容器内でのインキの経時安定性が著しく劣るためなるべく少なくした方が好ましくない(好適なのは、含有量0重量%である。)。
【0028】
また、本発明で用いられる化合物Zは、輸送マイレージ短縮によるCO排出量削減という観点から80重量%以上、好ましくは90重量%以上、より好ましくは100重量%以上国内で原料生産及び搾油されていることが望ましい。国内で生産した原料を調達することで、海外で収穫及び搾油された大豆油に代表される植物油と比べ、大幅に輸送燃料を削減し、CO排出量を削減することができるため、環境負荷をより小さくすることが可能となる。この点からも工業的にかなりのメリットがある。本発明において、化合物Zを典型的に入手する方法は、国内で生産及び搾油された米ぬか油として入手すればよいが、他の植物油等を精製して、一般式(1)になるように加工すればよい。
【0029】
本発明では、必要に応じて例えば大豆油、再生大豆油、菜種油、ヤシ油、綿実油、落花生油、パーム油、コーン油、オリーブ油、亜麻仁油、大豆油、サフラワー油等の植物油由来のものや、それらの熱重合油及び酸素吹き込み重合油等を併用することもでき、これらを単独或いは2種類以上組み合わせて併用して用いることもできるが、好ましくはヒートセットオフ輪インキ全量に対して3重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下の含有率にすることが望ましい。3重量%以上併用させると、インキのセット性・乾燥性が劣り、保存容器内でのインキの経時安定性が劣るため好ましくない。
【0030】
本発明におけるトレランスとは、試験管中に樹脂2.50gとAFソルベント5号(新日本石油(株)製)を5g入れ、適時攪拌しながら5分間で180℃に昇温し、溶解したものを25.0℃まで冷却し、攪拌しつつ0号ソルベント(新日本石油(株)製)で少量ずつ希釈していき、微濁状態を終点とした時の0号ソルベントの量から以下の式によりトレランスの値を求める。
【0031】
【数1】

【0032】
本発明で用いられるバインダー樹脂としては、重量平均分子量10000〜100000、好ましくは20000〜80000、且つトレランスが20〜30重量%好ましくは22〜28重量%であるロジン変性フェノール樹脂であることが望ましい。
重量平均分子量が10000以下ではインキの粘弾性が低下し、1000000以上ではインキの流動性、光沢が劣る。また、トレランスが20重量%以下ではインキのセット性が低下し、さらにセットオフ汚れ、ミスチング性能の劣化を招く。トレランスが30重量%以上では、印刷機上での溶剤離脱の促進によるインキの増粘、流動性の低下、タック上昇による印刷適性の劣化を招き、さらに光沢が低下するため好ましくない。
【0033】
本発明では、芳香族炭化水素の含有率が1重量%以下で、アニリン点が75〜95℃、好ましくは80〜90℃及び沸点が230〜260℃好ましくは245〜260℃である石油系溶剤をインキ全量の5〜15重量%、好ましくは7〜13重量%含有するのが望ましい。石油系溶剤のアニリン点が75℃未満の場合には、樹脂を溶解させる能力が高すぎる為、インキのセット性が遅くなり好ましくなく、また95℃を越える場合には樹脂の溶解性が乏しい為、光沢、着肉等が悪くなり好ましくない。
【0034】
また、本発明に用いられる石油系溶剤は必要に応じて、沸点が260〜350℃、好ましくは280℃〜340℃の範囲にある石油系溶剤を併用することができる。併用する石油系溶剤の沸点が260℃未満の場合には、印刷機上でのインキの溶剤蒸発が多くなり、インキの流動性の劣化により、インキがローラー、ブランケット、版等への転移性が悪くなり好ましくない。また、併用する石油系溶剤の沸点が350℃を越える場合には、インキの乾燥性が劣るため好ましくない。
【0035】
また、本発明に用いられる顔料としては、任意の無機及び有機顔料が使用できる。無機顔料としては、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、弁柄、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、カーボンブラック、グラファイト、アルミニウム粉などがあげられ、有機顔料としては、アゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系などオフセットインキに用いられる顔料が相当する。有機顔料に関しては、例えば、銅フタロシアニン系顔料(C.I.Pigment Blue 15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、C.I.Pigment Green 7、36)、モノアゾ系顔料(C.I.Pigment Red 3、4、5、23、48:1、48:2、48:3、48:4、49:1、49:2、53:1、57:1)、ジスアゾ系顔料(C.I.Pigment Yellow 12、13、14、17、83)、アントラキノン系顔料(C.I.Pigment Red 177)、キナクリドン系顔料(C.I.Pigment Red 122、C.I.PigmentViolet 19)、ジオキサジン系顔料(C.I.Pigment Violet 23)などがあげられるが、これらに限定されるものではない。
さらに、本発明のヒートセットオフ輪インキ組成物には、必要に応じて ゲル化剤、顔料分散剤、金属ドライヤー、乾燥抑制剤、酸化防止剤、耐摩擦向上剤、裏移り防止剤、非イオン系海面活性剤、多価アルコール等の添加剤を便宜使用することができる
【実施例】
【0036】
次に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。尚、本発明中の「部」は重量部を表す。
【0037】
<粘度の測定方法>
HAAKE Rheostress600(Thermo ELECTRON CORPORATION社製)による25℃、シェアレートが117/s時の粘度を、本発明における粘度とした。
【0038】
(フェノール樹脂製造例1)
撹拌機、冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコにP−オクチルフェノール1000部、35%ホルマリン850部、93%水酸化ナトリウム60部、トルエン1000部を加えて、90℃で6時間反応させたる。その後6N塩酸125部、水道水1000部の塩酸溶液を添加し、撹拌、静置し、上層部を取り出し、不揮発分49%のレゾールタイプフェノール樹脂のトルエン溶液2000部を得て、これをレゾール液Yとした。
【0039】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例1)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液Y1360部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン110部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量40000、トレランス22重量%のロジン変性フェノール樹脂A(以下、樹脂Aと称す)を得た。
【0040】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例2)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液Y1500部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン115部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量70000、トレランス26重量%のロジン変性フェノール樹脂B(以下、樹脂Bと称す)を得た。
【0041】
(ロジン変性フェノール樹脂の製造例3)
撹拌機、水分分離器付き冷却器、温度計をつけた4つ口フラスコに、ガムロジン1000部を仕込み、窒素ガスを吹き込みながら200℃で溶解し、レゾール液Y1800部を添加し、トルエンを除去しながら230℃で4時間反応させた後、グリセリン130部を仕込み、250〜260℃で酸化20以下になるまでエステル化して、重量平均分子量140000、トレランス33重量%のロジン変性フェノール樹脂C(以下、樹脂Cと称す)を得た。
【0042】
(ヒートセットオフ輪インキ用ゲルワニスの製造)
撹拌機、リービッヒ冷却管、温度計付4つ口フラスコに樹脂A(重量平均分子量50000、トレランス22重量%)45部、植物油D(化合物Zの割合が98重量%、化合物Z中の(R1+R2+R3)の全量に対して二重結合を2つ有するC18の不飽和炭化水素のモル比率が34%、化合物Z中の(R1+R2+R3)の全量に対して二重結合を3つ有するC18の不飽和炭化水素のモル比率が0.6%)14部、市販の石油系溶剤X(アニリン点84℃、沸点範囲244〜260℃)17部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)23部を仕込み、190℃に昇温、同温で30分間攪拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1重量部(川研ファインケミカル(株)製ALCH、以下ALCHと称す)を仕込み、190℃で30分間攪拌してヒートセットオフ輪インキ用ゲルワニス1(以下ワニス1と称す)を得た。
【0043】
さらに、表1の組成に基づいて、上記と同等のゲルワニス製造方法により、ゲルワニス2〜8(以下ワニス2〜8と称す)を得た。また、表1中のC14〜C18は、化合物Zの含有割合を示す。また、C18:2は、化合物Z中の(R1+R2+R3)の全量に対して二重結合を2つ有するC18の不飽和炭化水素のモル比率を示し、C18:3は、二重結合を3つ有するC18の不飽和炭化水素のモル比率を示す。
【0044】
【表1】

【0045】
(ヒートセットオフ輪ベースインキ及びインキの製造)
LIONOL BLUE FG7330(東洋インキ製造(株)製)を17部、ゲルワニス1を60部、耐摩擦コンパウンド(森村ケミカル(株)製)5部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)10部、計92部を3本ロール上に仕込み、60℃の3本ロールで2回練肉したところ、顔料粒子は7.5μm以下に分散され、ベースインキ1を得た。このベースインキ1の粘度が40±5Pa・sになり、且つ100部になる様にゲルワニス1とAFソルベント5号にて調整を行ったところ、ベースインキ1にゲルワニス1を4重量部、AFソルベント5号を4部加えて40Pa・sの実施例1のインキを約100重量部得た。
【0046】
上記と同等のベースインキ作製方法にて、表2に示す配合にてベースインキを作製し、同等にゲルワニスとAFソルベント5号量の調整にて40±5Pa・sにインキの粘度調整を行ったところ、実施例2〜4、比較例1〜4のインキを約100部得た。
また、表2に、実施例1〜4及び比較例1〜4それぞれのインキに含まれる化合物Z、石油系溶剤X、AFソルベント5号の重量%を示す。
【0047】
【表2】

【0048】
(評価結果)
上記実施例1〜4及び比較例5〜8のヒートセットオフ輪インキにおける、流動性、乾燥性、機上安定性、経時安定性について評価を実施し、結果を表3に示した。
【0049】
【表3】

【0050】
<流動性の測定方法>
インキ2.1ccを半球状の容器にセットし、15分間静置させた後、60°に傾けた傾斜板の上にインキを垂らし、10分間で流れた長さを測定し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。値が高いほどインキのしまりが少なく、流動性が良好であることを示す。
(評価基準)
○:80mm以上
△:60mm以上、80mm未満
×:60mm未満
【0051】
<乾燥性の測定方法>
インキをRIテスター(株式会社明製作所製)にてコート紙に展色し、自製コンベア式熱風乾燥試験機を通した後、展色面のベタ付きが無くなった時の紙面温度を測定し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。低温度で展色面のベタ付きがなくなる程、乾燥性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:85℃未満
△:85℃以上、90℃未満
×:90℃以上
【0052】
<機上安定性の測定方法>
株式会社東洋精機製デジタルインコメーターにインキ1.32ccをセットし、40℃、1200rpmの条件においてタック値が最大値になるまでの時間を測定し、以下の評価基準に基づいて評価を行った。最大値になるまでの時間が長い程、インキのタック値が緩やかに変動するため印刷機上でのインキの粘度上昇や流動性の変化が少ないことを示しているため、機上安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:20min以上
△:15min以上、20min未満
×:15min未満
【0053】
<経時安定性の測定方法>
HAAKE Rheostress600(Thermo ELECTRON CORPORATION社製)による25℃、シェアレートが117/s時の粘度(Pa・s)を測定したインキを、最大容量220ccの密閉容器に180cc量り取る。容器内を窒素パージした後蓋を閉め、70℃のオーブンで1週間保管し、促進をかける。1週間後、オーブンから取り出し、再度粘度を測定し、オーブン保管前のインキとの粘度差を求め、以下の評価基準に基づいて評価を行った。粘度変化量が少ない程、経時安定性に優れていることを示す。
(評価基準)
○:5Pa・s未満
△:5Pa・s以上、10Pa・s未満
×:10Pa・s以上
【0054】
表3の結果より、流動性、乾燥性、機上安定性、経時安定性の全てがバランス良く、優れているものは、実施例であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によるヒートセットオフ輪インキは、従来よりも乾燥性、印刷機上での安定性、経時安定性に優れ、しかも環境負荷が少なく、書籍、チラシ、カタログ等の印刷分野において有益な活用が図られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バインダー樹脂、植物油および溶剤を含有するオフセット印刷インキ組成物において、前記植物油が、植物油全体に対して90〜100重量%の一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とするヒートセットオフ輪インキ組成物。
一般式(1)
【化1】

【請求項2】
一般式(1)で表される化合物中の(R1+R2+R3)の全量に対して、二重結合を2つ有するC18の不飽和炭化水素基のモル比率が30〜40%であって、かつ、二重結合を3つ有するC18の不飽和炭化水素基のモル比率が1.5%以下であることを特徴とする請求項1記載のヒートセットオフ輪インキ組成物。
【請求項3】
バインダー樹脂が、重量平均分子量10000〜100000およびトレランス20〜30重量%であるロジン変性フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1または2に記載のヒートセットオフ輪インキ組成物。
【請求項4】
溶剤が、アニリン点75〜95℃および沸点範囲230〜260℃である溶剤をインキ全量の5〜15重量%含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヒートセットオフ輪インキ組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のヒートセットオフ輪インキ組成物を基材上に印刷してなる印刷物。

【公開番号】特開2010−168477(P2010−168477A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12528(P2009−12528)
【出願日】平成21年1月23日(2009.1.23)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】