説明

ビシナルジオールの酸化開裂によるカルボン酸の製造方法

【課題】ビシナルジオールの酸化開裂によるカルボン酸の製造方法の提供。
【解決手段】本発明は、ビシナルジオールの酸化開裂によるカルボン酸、特にモノ又はジカルボン酸の製造方法に関する。本発明によれば、上記方法は、式I:
[化1]


(式中、pは1〜6の整数;R及びRはそれぞれ独立に、炭素数1〜12のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は、−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一でも異なっていてもよい1〜11の整数;Mは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルカリカチオン)であるか、又は、R及びRは結合してアルキレン基:−(CH−(式中、mは2〜10、好ましくは2〜6の整数)を形成する)で表されるビシナルジオールと、産業用グレードの次亜塩素酸ナトリウム(又は漂白剤)とを有機溶媒の非存在下、触媒を添加せずに、好ましくは室温下で、反応させる方法である。本発明は、天然植物油を再利用するのに使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビシナルジオールの酸化開裂によるカルボン酸、特にモノ又はジカルボン酸の新規な製造方法に関する。
【0002】
本発明は、特に、天然由来の植物油、特に採油植物抽出油、及び、多価不飽和脂肪酸が豊富な動物油の再利用に有用である。
【背景技術】
【0003】
植物油及び植物油由来の物質(エステル、脂肪酸等)は、通常、そのままで用いられたり、多くの特殊製品を合成する際の中間体として用いられたりすることが知られている。
【0004】
植物油は豊富に入手できる再生可能な原料の供給源であり、これら植物油を構成する脂肪酸がオレイン酸を豊富に含むことから特に興味深いものである。事実、この不飽和酸が酸化開裂により変化して得られる生成物、すなわちペラルゴン酸及びアゼライン酸は、潤滑化や可塑化用のエステルの前駆体として使用されたり、ポリマー製造の中間体として使用される。
【0005】
このようなオレイン酸の酸化開裂反応は、以下の反応スキームで表すことができる。
【0006】
【化1】

【0007】
オレイン酸の酸化開裂によってペラルゴン酸及びアゼライン酸を得る方法としては、様々なものが従来より知られている。
【0008】
例えば、これらの酸はオレイン酸のオゾン分解により直接得られる(非特許文献1参照)。現在、この方法は産業規模で採用されている。だが、オゾンはその危険性から使用するのが非常に難しい。
【0009】
上記文献では、遷移金属及び各種酸化剤(Re/H、HWO/H、Ru(acac)/NaIO、RuO/NaOCl、RuCl/MeCOH)を用いてオレイン酸を酸化開裂させる触媒法が提案されている。だが、これらの方法はオゾン分解法に対して十分な競争力を持たないため、産業的に利用されていない。
【0010】
他の方法として、二段階の製造法も検討される。
【0011】
第一の公知の方法として、第一工程において、オレイン酸のメタセシス反応により9−デセン酸を調製し、次に第二工程において、得られた酸の末端二重結合を酸化開裂させる方法が挙げられる。この酸化開裂は、上記触媒系を用いるとより容易に行うことができる。
【0012】
上記二段階方法における反応スキームを以下に示す。該方法では、副産物としてアゼライン酸及び1−デセンが得られる。
【0013】
【化2】

【0014】
本発明者らは更に別の方法も検討した。該方法は、
・第一工程として、上記文献に記載された方法に従い、例えば、過酸化水素と、タングステン系若しくはレニウム系触媒又は酸化剤としてカルボン酸/H系を使用する接触酸化法等により、オレイン酸のジオールを調製する工程;その後、
・第二工程として、得られたジオールを酸化開裂させてペラルゴン酸及びアゼライン酸を形成する工程からなる。
【0015】
上記方法は、以下の反応スキームで表される。
【0016】
【化3】

【0017】
上記方法の改変法によれば、同様の反応条件でオレイン酸エポキシドを開環させることにより、ペラルゴン酸及びアゼライン酸が得られる。
【0018】
上記改変法は、以下の反応スキームで表される。
【0019】
【化4】

【0020】
特許文献1には、モノ過硫酸カリウムと触媒量のニッケル(20mol%)を用いて、オレイン酸のジオールを含む各種ビシナルジオールを酸化開裂させることが提案されている。
【0021】
また、上記文献には、遷移金属系触媒及び各種酸化剤(Re/H、RuCl/H、NiCl/NaOCl等)を用いて、多くの場合は有機媒体中において、ある種のジオールを開裂させる各種方法が提案されている。しかし、これらの方法はオレイン酸のジオールや同様のジオールの開裂にはほとんど使用されない。また、遷移金属系触媒、特にニッケルは非常に有毒であることから、産業規模ではこれらの物質の使用は一般に避けるべきであり、禁止されている場合さえある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0022】
【特許文献1】仏国特許発明第2086521号明細書
【非特許文献】
【0023】
【非特許文献1】review Rebrovic et al.,Lipids Technology(1996),135−137
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0024】
非常に簡単且つ安価で、環境に優しく、安全性にも何ら問題のない方法で、各種ジオール、特に不飽和カルボン酸(特にオレイン酸等)又はその誘導体(脂肪酸エステル等)のジオールを酸化開裂できることが見出され、これが本発明の根幹をなしている。
【0025】
従って、第一の態様によれば、本発明は、ビシナルジオールの酸化開裂によるカルボン酸、特にモノ又はジカルボン酸の製造方法であって、下記式I:
【0026】
【化5】

【0027】
(式中、
pは1〜6の整数、好ましくは1又は2;
及びRはそれぞれ独立に、
炭素数1〜12のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は、
−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一でも異なっていてもよい1〜11の整数;Mは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルカリカチオン)であるか、又は、
及びRは結合してアルキレン基:−(CH−(式中、mは2〜10、好ましくは2〜6の整数)を形成する)で表されるビシナルジオールと、
産業用グレードの次亜塩素酸ナトリウム(又は漂白剤)とを有機溶媒の非存在下、触媒を添加せずに、好ましくは室温下で、反応させることを特徴とする方法に関する。
【0028】
本発明に係る方法は、容易に入手できる安価な酸化剤を使用し、それを、有機溶媒の非存在下、特に触媒を添加せず、好ましくは低温であるため非常に安全で環境にも優しい条件下で使用できる点から新規であることは明らかである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本明細書中、「産業用グレードの次亜塩素酸ナトリウム」とは、産業界で通常入手可能であって、活性塩素量が10〜20%である市販品を意味する。
【0030】
本明細書中、「アルキル基」とは、直鎖又は分枝、好ましくは直鎖、の飽和炭化水素鎖を意味する。
【0031】
本明細書中、「ヒドロキシアルキル基」とは、少なくとも1つの水素原子がヒドロキシル基で置換されているアルキル基を意味する。
【0032】
本発明のある特定の特徴によれば、上記ジオールは、
及びRがそれぞれ独立に、
炭素数5〜9のアルキル基、又は、
−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一でも異なっていてもよい5〜9の整数;Mは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基)であり、pが好ましくは1である式(I)と一致する。
【0033】
本発明の方法は、通常、一価不飽和酸又は多価不飽和酸及びその誘導体(例えば、対応する脂肪酸エステル等)に由来するジオール、なかでも長鎖(特に炭素数10以上、好ましくは炭素数10〜30)であって、好ましくは天然由来、特に搾油原料由来(例えば、大豆油、ひまわり油、菜種油、亜麻仁油、オリーブ油、ひまし油、落花生油、ヤシ油等)のジオールを酸化開裂するのに使用できる。
【0034】
一価不飽和酸としては、ミリストレイン酸(9−テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(9−ヘキサデセン酸)、オレイン酸(9−オクタデセン酸)、リシノレイン酸(12−ヒドロキシ−9−オクタデセン酸)、ガドレイン酸(11−エイコセン酸)、エルカ酸(13−ドコセン酸)及びネルボン酸(15−テトラコセン酸)等が挙げられる。
【0035】
多価不飽和酸としては、リノール酸(9,12−オクタデカジエン酸)、α−リノレン酸(9,12,15−オクタデカトリエン酸)、γ−リノレン酸(6,9,12−オクタデカトリエン酸)、ジ−ホモ−γ−リノレン酸(8,11,14−エイコサトリエン酸)、アラキドン酸(5,8,11,14−エイコサテトラエン酸)、ティムノドン酸(5,8,11,14,17−エイコサペンタエン酸)及びセルボン酸(4,7,10,13,16,19−ドコサヘキサエン酸)等が挙げられる。
【0036】
上記方法は、オレイン酸のジオール(pが1、Rが−(CH−CH基、Rが−(CHCOOH基である上記式Iの化合物)を酸化開裂してペラルゴン酸及びアゼライン酸を生成させるのに特に好適である。
【0037】
また、上記方法は、環状アルケン由来のジオール、特にシクロヘキセンのジオールを酸化開裂するのに使用でき、それによりアジピン酸を調製できる。該物質の産業上の用途としては、ナイロンの製造がよく知られている。
【0038】
置換基R及びRのうち一方が−(CH−COM基(Mは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基;nは1〜11、好ましくは5〜9の整数)であり、他方が炭素数1〜12、好ましくは5〜9のアルキル基である場合、式(I)の化合物を酸化開裂することで、モノカルボン酸とジカルボン酸の混合物(例えば、オレイン酸の場合、ペラルゴン酸とアゼライン酸の混合物)、又は、モノカルボン酸とヘミエステルの混合物(例えば、オレイン酸アルキルの場合、ペラルゴン酸とアゼライン酸モノアルキルの混合物)が得られる。
【0039】
及びRが共に一般式−(CH−COM(式中、nは置換基R及びR中でそれぞれ異なっていてもよい)で表される基の場合、酸化開裂によってジカルボン酸の混合物が得られ、更には、出発物質のジオールが対称、すなわちRが−(CHn−1−COM基で、Rが−(CH−COM基であれば、単一のジカルボン酸が得られる。
【0040】
従って、本発明の特に有利な特徴によれば、出発物質のジオールは、
が、−(CHn−1−COM基(式中、nは6〜9の整数;Mは水素原子又はアルカリカチオン)であり、
が、−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一である6〜9の整数;Mは水素原子又はアルカリカチオン)であり、pが好ましくは1である式(I)と一致する。
【0041】
出発物質のジオールが9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸であるという特定の場合、ペラルゴン酸等の副産物を含むことなく、アゼライン酸を得ることが可能である。
【0042】
非常に驚くべきことに、本発明によれば、不飽和又は多価不飽和脂肪酸から得られたビシナルジオールを再結晶又は抽出によって98%以上という極めて高い純度で上記酸の天然源から単離できることが示された。
【0043】
例えば、オレイン酸を出発物質として以下の二段階方法によって9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸が得られる。該方法は、
・第一に、オレイン酸を、特に国際公開第2006/064131号(参照により本明細書に引用)に記載の生物変換法によって、9−オクタデセン二酸に変換し、
・第二に、以下で詳述する通り、上記9−オクタデセン二酸を、特に過酸化水素と有機酸(蟻酸や酢酸等)の混合物を用いて、ジヒドロキシ化する工程を含む。
【0044】
本発明の特に有利な特徴によれば、Yarrowia lipolyticaの変異株をオレインひまわり油からなる生物変換基質に付する生物変換によって、9−オクタデセン二酸が得られる。
【0045】
全く予想されなかったことだが、上記二段階方法によれば、第一工程の最後に得られた出発物質(9−オクタデセン二酸)が低純度(例えば80%以下、更には65%程度)の場合であっても、高純度(98%以上)の生成物が得られることが分かった。
【0046】
従って、上記方法の第二工程では、純粋ではない9−オクタデセン二酸、例えば純度65〜99%の市販品等を出発物質として使用できる。
【0047】
上述の経路でのオレイン酸からのアゼライン酸の合成は、以下の反応スキームで表される。
【0048】
【化6】

【0049】
本発明に係る方法のある特定の特徴によれば、酸化開裂で用いる反応混合物中には、式(I)のジオールと次亜塩素酸ナトリウムが、該ジオールに対する次亜塩素酸ナトリウムのモル比が2〜30、好ましくは3〜5となる割合で存在する。
【0050】
現時点で好ましい実施形態によれば、上記式(I)のジオールは、式(II):
【0051】
【化7】

【0052】
(式中、p、R及びRは、上記と同義)で表されるアルケンをジヒドロキシ化して得られる。
【0053】
式(II)のアルケンは、上で定義された通り、特に一価不飽和酸又は多価不飽和酸であって、好ましくは長鎖のものである。
【0054】
本発明の別の特定の特徴によれば、ジヒドロキシ化は、過酸化水素と一般式RCOH(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基)で表される有機酸の混合物を、好ましくは該有機酸に対する過酸化水素のモル比が1:5〜1:20となる割合で、用いて行われる。
【0055】
上記ジヒドロキシ化は、過酸化水素と蟻酸の混合物又は過酸化水素と酢酸の混合物を用いて行われるのが有利である。
【0056】
本発明の別の特定の特徴によれば、上記ジヒドロキシ化工程は、通常、30〜50℃の温度で6〜12時間(例えば40℃で8時間)行う。
【0057】
上記ジヒドロキシ化によれば、天然由来の脂肪酸画分から純粋なジヒドロキシ化物が得られる。
【実施例】
【0058】
例示のための以下の実施例を参照すれば、本発明を更に明確に理解できるだろう。
【0059】
実施例1:シクロヘキセンのジヒドロキシ化
30v/v%の過酸化水素水6.8mL(68.2mmol、1.4当量)と蟻酸24mL(0.67mol、13.7当量)の混合物を0℃まで冷却したものにシクロヘキセン4g(48.7mmol)を滴下した。滴下終了後、混合物を40℃で8時間加熱し、室温で一晩放置した。次いで、水と蟻酸の一部を減圧下で留去し、油状物を得た。該油状物を1N水酸化カリウム50mLに取り、90℃で1時間加熱した。この溶液に濃塩酸(37重量%)を加え、pHを2に近づけた。デカント後にろ過して、cis−1,2−シクロヘキサンジオールを白色粉体として収率50%(2.83g)で得た。
m.p.=74〜76℃、FTIR分析、H及び13C NMR(CDCl)並びにGC/MS分析は上記文献に従った(純度>99%)。
【0060】
実施例2:純度90%のオレイン酸のジヒドロキシ化
30v/v%の過酸化水素水25mL(248mmol、1.4当量)と蟻酸91.3mL(2.42mol、13.7当量)の混合物を0℃まで冷却したものに、純度90%(純度は、対応するメチルエステルのGC/MS分析により測定)のオレイン酸50g(159mmol)を滴下した。滴下終了後、混合物を40℃で8時間加熱し、室温で一晩放置した。次いで、水と蟻酸の一部を減圧下で留去し、油状物を得た。該油状物を1N水酸化カリウム150mLに取り、90℃で1時間加熱した。この溶液に濃塩酸(37重量%)を加え、pHを2に近づけた。得られた油相を滴下漏斗で分離し、水100mLで水洗した。これにより、59gの油状物を得た。
【0061】
分析するため、上記油状物をヘキサンで再結晶し、純粋な9,10−ジヒドロキシステアリン酸を白色固体として得た。
m.p.=130〜132℃、FTIR分析、H及び13C NMR(MeOD)、並びに、メチルエステルのGC/MS分析は上記文献に従った。
【0062】
実施例3:HCOH/H/CHCl系による9−オクタデセン二酸(65%)のジヒドロキシ化
本実施例で使用した9−オクタデセン二酸はSEDERMA社から商品名O.D.A.(純度65%)として市販されている製品である。
【0063】
0℃のH(30v/v%、0.14mol、14.3mL)/HCOH(1.4mol、52.8mL)/CHCl(50mL)混合物に、純度65%(純度は、対応するメチルエステルのGC/MS分析により測定)の9−オクタデセン二酸(65mmol、31.24g)を1時間かけて加えた。添加終了後、反応混合物を40℃で8時間加熱し、室温で一晩放置した。水と蟻酸の一部を減圧下で留去し、油状物を得た。該油状物を1N水酸化カリウム100mLに取り、90℃で1時間加熱した。この溶液に濃塩酸(37重量%)を加え、pHを酸性にした。析出した9,10−ジヒドロキシオクタデカン二酸を白色粉体として、単純ろ過により定量的収率(24.2g)で回収した。
m.p.=158〜160℃、FTIR分析、H及び13C NMR(MeOD)、並びに、メチルエステルのGC/MS分析は上記文献に従った(純度>99%)。
【0064】
実施例4:CHCOH/H系による9−オクタデセン二酸(65%)のジヒドロキシ化
純度65%(純度は、対応するメチルエステルのGC/MS分析により測定)の9−オクタデセン二酸(19.5mmol、9.37g)を濃酢酸35mLに溶解させた。この溶液を、0℃のH(30v/v%、42mmol、9.6mL)/CHCOH(0.42mol、24mL)混合物に30分かけて加えた。添加終了後、反応混合物を40℃で8時間加熱し、室温で一晩放置した。水と酢酸の一部を減圧下で留去し、油状物を得た。該油状物を1N水酸化カリウム50mLに取り、90℃で1時間加熱した。この溶液に濃塩酸(37重量%)を加え、pHを2に近づけた。析出した9,10−ジヒドロキシオクタデカン二酸を白色粉体として、単純ろ過により定量的収率(6.75g)で回収した。
【0065】
実施例5:オレイン酸メチル(75%)のジヒドロキシ化
本実施例で使用したオレイン酸メチルは市販品(産業用グレード)である。
【0066】
0℃のH(30v/v%、14mmol、1.43mL)/HCOH(0.14mol、5.05mL)混合物に、純度75%(純度はGC/MS分析で測定)のオレイン酸メチル(7.5mmol、2.96g)を25分かけて加えた。添加終了後、反応混合物を40℃で8時間加熱し、室温で一晩放置した。水と蟻酸の一部を減圧下で留去し、油状物を得た。該油状物を1N水酸化カリウム50mLに取り、90℃で1時間加熱した。この溶液に濃塩酸(37重量%)を加え、pHを2に近づけた。得られた油相を滴下漏斗で分離し、水5mLで水洗した。
【0067】
これにより、油状物を定量的収率(3.3g)で得た。
【0068】
分析するため、上記油状物をヘキサンで再結晶し、純粋な9,10−ジヒドロキシステアリン酸メチルを白色固体として得た。
m.p.158〜160℃、FTIR分析、H及び13C NMR(MeOD)並びにGC/MSは上記文献に従った。
【0069】
実施例6:trans−1,2−シクロヘキサンジオールの酸化開裂
1.46mol/Lの漂白剤(Acros Ref 21925)溶液21.6mL(31.5mmol)にtrans−1,2−シクロヘキサンジオール1.16g(10mmol)を加えた。室温で3時間後、水相を37重量%HClで酸性化した。ろ過により、アジピン酸を白色固体として収率50%(0.73g)で得た。
m.p.150〜152℃、FTIR分析並びにH及び13C NMR(DMSO)は上記文献に従った。
【0070】
実施例7:9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン酸の酸化開裂
1.46mol/Lの漂白剤(Acros Ref 21925)溶液10.8mL(15.75mmol)に、純粋な9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン酸1.58g(5mmol)を加えた。室温で5時間後、水相を37重量%HClで酸性化した。得られた油相を滴下漏斗で分離し、水6mLで水洗した。これにより、1.73gの油状物を得た。
【0071】
次に、分析するため、上記生成物をMeOH6mLに溶解させ、次いで濃硫酸0.6mLを加えた。反応混合物を還流下で2時間加熱した。生成物を水20mLに取り、有機相をヘキサン6mLで3回抽出した。得られた有機相を水20mL、炭酸ナトリウム溶液20mL、水20mLで順次洗浄した。有機相をNaSOで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。これにより、所望のエステル混合物を定量的収率(1.94g)で得た。溶媒留去後、生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(シクロヘキサン/EtOAc:5/2)で精製した。
【0072】
ペラルゴン酸メチル(Rf=0.84)を清澄な油状物として収率89%で得、アゼライン酸ジメチル(Rf=0.47)を清澄な油状物として収率40%で得た。
ペラルゴン酸メチル及びアゼライン酸ジメチルのH及び13C NMR分析(CDCl)並びにGC/MS分析は上記文献に従った。
【0073】
実施例8:9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸の酸化開裂
1.11mol/Lの漂白剤(Aldrich Ref 81070)溶液8.6mL(9.45mmol)に、純粋な9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸1.04g(3mmol)を加えた。室温で5時間後、水相を37重量%HClで酸性化した。デカント後にろ過して得られたアゼライン酸を冷水で水洗した。
【0074】
アゼライン酸は、白色固体として収率50%で得られた。
m.p.=107℃、FTIR分析、H及び13C NMR(CDCl)、並びに、メチルジエステルのGC/MSは上記文献に従った。
【0075】
実施例9:9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸の酸化開裂
アゼライン酸ナトリウムの15重量%水溶液3mLで、純粋な9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸(2mmol、693mg)をペースト化した。このペーストに1.11mol/Lの漂白剤(Aldrich Ref 81070)溶液5.7mL(6.3mmol)を加えた。室温で5時間後、水相を37重量%HClで酸性化した。デカント後にろ過して得られたアゼライン酸を冷水で水洗した。
【0076】
アゼライン酸は、白色固体として収率50%で得られた。
【0077】
実施例10:9,10−ジヒドロキシステアリン酸メチルの酸化開裂
1.46mol/Lの漂白剤(Acros Ref 21925)溶液7.5mL(11mmol)に、純粋な9,10−ジヒドロキシステアリン酸メチル1.16g(3.5mmol)を加えた。室温で3時間後、水相を37重量%HClで酸性化した。得られた油相を滴下漏斗で分離し、水4mLで水洗した。これにより、1.26gの油状物を得た。
【0078】
次に、分析するため、得られた生成物をMeOH2.8mLに溶解させ、濃硫酸0.28mLを加えた。反応混合物を還流下で2時間加熱した。生成物を水10mLに取り、有機相を酢酸エチル5mLで3回抽出した。得られた有機相を水10mL、炭酸ナトリウム溶液10mL、水10mLで順次洗浄した。有機相をNaSOで乾燥させ、減圧下で溶媒を留去した。
【0079】
こうして、所望のエステル混合物を定量的収率(1.36g)で得た。
【0080】
(上述の方法によるエステル化後の)GC/MS分析は上記文献に従った。
【0081】
以上の実施例から、本発明に係る方法によれば、ポリマー製造の合成中間体として有用な各種カルボン酸、特にモノ及びジカルボン酸(特にアゼライン酸やアジピン酸等)を調製できることが明らかとなった。
【0082】
本方法は、容易に入手できる安価な酸化剤を使用し、それを非常に安全で環境にも優しい条件下で使用できることから、特に有利である。
【0083】
本方法はまた、天然由来のもの、特に搾油原料から抽出した油より得たオレイン酸等を出発物質とできる点でも有利である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビシナルジオールの酸化開裂によるカルボン酸、特にモノ又はジカルボン酸の製造方法であって、
下記式I:
【化1】

(式中、
pは1〜6の整数;
及びRはそれぞれ独立に、
炭素数1〜12のアルキル基若しくはヒドロキシアルキル基、又は、
−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一でも異なっていてもよい1〜11の整数;Mは水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルカリカチオン)であるか、又は、
及びRは結合してアルキレン基:−(CH−(式中、mは2〜10、好ましくは2〜6の整数)を形成する)で表されるビシナルジオールと、
産業用グレードの次亜塩素酸ナトリウム(又は漂白剤)とを有機溶媒の非存在下、触媒を添加せずに、好ましくは室温下で、反応させることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ジオールは、
及びRがそれぞれ独立に、
炭素数5〜9のアルキル基、又は、
−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一でも異なっていてもよい5〜9の整数;Mは、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又は、アルカリカチオン)である式Iと一致することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ジオールは、
が、−(CHn−1−COM基(式中、nは6〜9の整数;Mは水素原子又はアルカリカチオン);
が、−(CH−COM基(式中、nは、R及びR中で同一である6〜9の整数;Mは水素原子又はアルカリカチオン)である式Iと一致することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記ジオールは、pが1である式Iと一致することを特徴とする請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記式Iのジオールは9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記9,10−ジヒドロキシ−オクタデカン二酸は、オレイン酸から得られた9−オクタデセン二酸を、好ましくは生物変換により、ジヒドロキシ化して得られることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記式Iのジオールと次亜塩素酸ナトリウムを、該ジオールに対する次亜塩素酸ナトリウムのモル比が3〜30、好ましくは3〜5となる割合で反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記式Iのジオールは、式II:
【化2】

(式中、p、R及びRは、前記請求項の記載と同義)で表されるアルケンをジヒドロキシ化して得られることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ジヒドロキシ化は、過酸化水素と一般式RCOH(式中、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基)で表される有機酸の混合物を、好ましくは該有機酸に対する過酸化水素のモル比が1〜20、好ましくは1〜5となる割合で、用いて行われることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記ジヒドロキシ化は、過酸化水素と蟻酸の混合物又は過酸化水素と酢酸の混合物を用いて行われることを特徴とする請求項9に記載の方法。

【公表番号】特表2013−521267(P2013−521267A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555475(P2012−555475)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【国際出願番号】PCT/FR2011/050456
【国際公開番号】WO2011/107721
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(512229861)オルガニザション ナショナル アンテルプロフェッショネル デ グレンヌ エ フリュイ オレアジヌー オエヌイデオエル (1)
【出願人】(501089863)サントル ナシオナル ドゥ ラ ルシェルシェサイアンティフィク(セエヌエールエス) (173)
【出願人】(508019311)ユニヴェルシテ クロード ベルナール リヨン 1 (6)
【Fターム(参考)】