説明

ビスフェノール類の製造方法

【課題】 フェノール/ホルムアルデヒドのモル比をさほど高めなくとも高純度のビスフェノールFを得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】 フェノール類とホルムアルデヒド類を縮合させてビス(ヒドロキシフェニル)メタン類を製造する方法において、フェノール類とホルムアルデヒド類を塩基触媒の存在下にて反応し生成したヒドロキシベンジルアルコールを含む第1液と、酸触媒を含む第2液からなる2つの液の内、少なくとも1つの液を幅1〜500μmの複数の微小流路から、且つ2つの液を流路の中心軸が1点で交差する流路から混合空間に供給し、混合し、酸性条件下で反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂原料等として有用なビスフェノールFの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
モノフェノール類とホルムアルデヒド類との反応により製造されるビスフェノール、例えばビス(ヒドロキシフェニル)メタン(以下、ビスフェノールFという)は、ビスフェノールAを原料とするいわゆるビスA型エポキシ樹脂より低粘性で耐熱性に優れたエポキシ樹脂を提供できる他、エポキシ樹脂用硬化剤やフェノール樹脂改質剤としても利用されており、注目されている。中でも、エポキシ樹脂用途では、ニーズの多様化に伴って更なる粘性及び耐熱性の改善が強く望まれている。
【0003】
一般に、ビスフェノールFは、酸性触媒、例えば蓚酸を触媒としてフェノールとホルムアルデヒドとの縮合反応により製造されるが、生成したビスフェノールF中には、4,4'‐ビスフェノールF、2,4'‐ビスフェノールF及び2,2'‐ビスフェノールFの三種類の異性体(二核体)に加え、更にホルムアルデヒドが付加し、引き続きフェノールと高次に重縮合した三核体をはじめとする多様な重質物が含まれている。これら重質物を含むビスフェノールFをエポキシ化して得られるエポキシ樹脂は高粘度となり、ビスフェノールFエポキシの特徴である低粘度性を大きく損なう。また、重質物を含むビスフェノールFエポキシ樹脂を構成成分とする塗料は高純度ビスフェノールFエポキシ樹脂を構成成分とする塗料よりも、塗膜の耐蝕性、耐薬品性等の点で劣ることも報告されている(特開平2-166114号公報)。
【0004】
したがって、ビスフェノールF製造においては、重質物の生成を抑制するための様々な方法が検討されている。例えば、現在用いられている純度90〜94%のビスフェノールFは、前記の蓚酸触媒による均一反応系において、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比を理論モル比の15倍以上である30〜40としている。そのため、反応終了後に過剰のフェノールを蒸留回収するのに長い時間と運転コストを必要としており、釜生産性も10%以下と非常に低いものになっている。
【0005】
下記特許文献1には、85%の高濃度リン酸を多量に用いて、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比を5程度で、反応温度を45℃で、純度88%のビスフェノールFを得る方法が記載されている。また、特許文献2には、多量のトルエン等の有機溶剤と水と蓚酸等の触媒を用い、フェノール/ホルムアルデヒドを低モル比で、トルエン等を主体とする液相と水及び蓚酸等を主体とする液相との撹拌下の液‐液不均一系で反応を行い、反応後、トルエン等の有機溶剤及びフェノールを蒸留回収し、ビスフェノールFを得る方法が開示されている。更に、特許文献3には、50〜80%リン酸水を触媒として、原料アルデヒドを逐次的に加え、生成するビスフェノールFを速やかにフェノール相に抽出することで、重質分の副生を抑える方法が提案されている。しかしながら、いずれの場合も、生産性と品質を共に満足できる方法を提供するには至っていない。
【0006】
【特許文献1】特公平3-72049号公報
【特許文献2】特開平6-135872号公報
【特許文献3】特開平09-67287号公報
【特許文献4】特開2002-346355号公報
【特許文献5】特表2002-512272号公報
【0007】
ところで、2以上の微小流路と混合空間又は混合領域を有するマイクロミキサは上記特許文献4〜5等で知られているが、これがビスフェノールFの製造装置として適することを教えるものはない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、フェノール/ホルムアルデヒドのモル比をさほど高めることなく優れた生産性を有する上に、生成するビスフェノールFの純度を向上できる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記事情に鑑み鋭意研究を行った結果、フェノール類とホルムアルデヒド類を塩基触媒の存在下にて反応し生成したヒドロキシベンジルアルコールを含む第1液と酸触媒を含む第2液とを混合する際、2液の少なくとも1つが幅1〜500μmの複数の微小流路から混合空間に供給され、且つ2液の流路の中心軸を1点で交差させることで、ヒドロキシベンジルアルコールを効率良く速やかに反応せしめ、重質物の生成比率を小さくすることができることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、フェノール類とホルムアルデヒド類を縮合させてビス(ヒドロキシフェニル)メタン類を製造する方法において、フェノール類とホルムアルデヒド類を塩基触媒の存在下にて反応し生成したヒドロキシベンジルアルコールを含む第1液と酸触媒を含む第2液からなる2つの液の内、少なくとも1つの液を幅1〜500μmの複数の微小流路から、且つ2つの液を流路の中心軸が1点で交差する流路から混合空間に供給し、混合し、酸性条件下で反応させることを特徴とするビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法である。
【0011】
ここで、次の要件のいずれか1以上を満足させることは更によい製造方法となる。1)第1液が、フェノール類/ホルムアルデヒド類のモル比が2〜30で反応させて得られたヒドロキシベンジルアルコールを含む液であること、2)塩基触媒の存在下での反応温度が40〜100℃、酸性条件下での反応温度が50〜170℃であること、3)塩基触媒の存在下の反応生成物が、速やかな温度変化をもって連続して酸性条件下の反応へ供されること、4)2液を供給する少なくとも1つの流路が、途中で分岐して複数の流路を形成し、混合空間に供給されること、5)分岐した複数の流路が同じ断面形状を有すること、6)複数の微小流路から混合空間に供給される際の線速度が1m/sec以上であること、又は7)微小流路及び混合空間を有する装置が、マイクロミキサであること。
【0012】
反応装置としては、流入した2種の液体をそれぞれ独立して混合空間に供給する装置であって、少なくとも1種の液体を供給する供給チャンネルは、概液体を混合空間に供給する複数のサブチャンネルを有してなり、複数のサブチャンネルの中心軸、分岐しない場合は、その液体を混合空間に供給するチャンネルの、すべての中心軸が1点で交差するように、供給チャンネル及びサブチャンネルが形成されて、速やかに均一混合される構成とされた構造の装置が望ましく、例えばこのような構造を有するマイクロミキサが好ましく例示される。
【0013】
以下、本発明の反応条件について詳細に説明する。
反応原料は、フェノール類及びホルムアルデヒド類である。この反応原料を、塩基触媒を使用してヒドロキシベンジルアルコールを生成させ、ヒドロキシベンジルアルコールを含む液を、酸性触媒を使用してビスフェノールFを生成させる。以下、ヒドロキシベンジルアルコールを生成させる反応を第1の反応、ビスフェノールFを生成させる反応を第2の反応ということがある。
【0014】
フェノール類としては、ビスフェノールFを生成するフェノールが好ましいが、その他に耐熱性その他物性を制御する目的で、モノ、ジ置換フェノールなども使用できる。置換フェノールとしては、クレゾール、キシレノール等の低級アルキル置換フェノール類が好ましく挙げられる。
【0015】
ホルムアルデヒド類としては、ホルムアルデヒドの他、ホルマリンや反応系でホルムアルデヒドを生じるパラホルムアルデヒド、トリオキサン及びテトラオキサンが挙げられるが、好ましくはパラホルムアルデヒドである。
上記のように、本発明でいうフェノールとホルムアルデヒドは、その誘導体を含む場合があるが、理解を容易にするため、誤解の生じない範囲で、フェノール類とホルムアルデヒド類をフェノールとホルムアルデヒドということがあり、ビス(ヒドロキシフェニル)メタン類をビスフェノールFで代表させることがある。
【0016】
第1の反応に用いる塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、tert‐ブトキシカリウムなどの金属アルコキシドのような、フェノールよりも塩基性度の高い金属塩基が好ましい。中でも水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属水酸化物が好適である。
【0017】
第1の反応に供するフェノール/ホルムアルデヒドのモル比は、2〜30、好ましくは5〜15である。このモル比が30を超えると生産性が大きく低下し、経済的ではない。またモル比2は量論比であるが、2〜5の範囲では、条件によって塩基触媒反応でのホルムアルデヒドの転化が終結せず、続いて行われる酸触媒反応においてフェノールと反応し、二核体含有率(二核体/二核体以上の多核体)が低くなる場合がある。5〜15の範囲において、より好適に二核体含有率の高いビスフェノールを効率良く製造できる。
【0018】
第1の反応では、ホルムアルデヒドとフェノールを塩基触媒の存在下に反応させる。原料のフェノールは、溶融フェノール溶液のまま用いるほか、各種溶媒を用いて溶液状態で用いることも可能である。溶媒としては、フェノール及び触媒を好適に溶解するものなら支障無いが、中でもトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素や1,4‐ジオキサン、ジフェニルエーテルなどのエーテル類、ベンゾニトリルなどが好ましい。
【0019】
第1の反応である塩基触媒反応は、40〜100℃、好ましくは60〜90℃である。100℃以上では、ホルムアルデヒドがフェノールと2個以上反応し、ビス又はトリス‐(ヒドロキシメチル)‐フェノールを生成し、次いで行う第2の反応である酸触媒反応において重質物を生じる原因となる。一方、40℃未満では反応が十分進行せず、長い時間を要するばかりでなく、未反応のホルムアルデヒドが第2の反応においてフェノール類と高次に反応し、重質物を生成する。
【0020】
第1の反応では、ホルムアルデヒドの90%以上、好ましくは99%以上を反応させることが好ましいが、過剰に加えるフェノールは未反応のまま多くが残存してもよい。第1の反応終了後は、生成したヒドロキシベンジルアルコールを分離、濃縮してもよいが、溶媒や未反応フェノール、触媒などを含んだままの溶液で第2の反応に供することが簡便である。
【0021】
第2の反応は、第1の反応で得られたヒドロキシベンジルアルコールを含む第1液と酸触媒を含む第2液とを酸性条件下で反応させる。第1液は、ヒドロキシベンジルアルコールを含む液であり、第1の反応で得られたヒドロキシベンジルアルコールを濃縮又は分離して得られた液又はこれに溶媒を加えた液であることができるが、第1の反応で得られたヒドロキシベンジルアルコールを含む反応混合液であることが有利である。なお、この反応混合液には、必要により溶媒やフェノール等を配合してもよい。第2液は、酸触媒を含む液であり、必要により水、有機溶媒等の溶媒やフェノール等を配合してもよい。
【0022】
酸触媒としては、塩酸、硫酸、りん酸等の無機鉱酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、リンモリブドタングステン酸等のヘテロポリ酸、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属塩、トリクロル酢酸、ジクロル酢酸等のハロゲン化カルボン酸、芳香族スルホン酸、蟻酸、蓚酸が挙げられるが、中でも蓚酸や無機鉱酸、芳香族スルホン酸が好適である。酸触媒の使用量は、第1液に塩基触媒が含まれる場合は、それを中和し、全体を酸性にするに足る量以上である。
【0023】
第2の反応では、ヒドロキシベンジルアルコールを含む第1液と酸触媒を含む第2液が、複数の微小流路を経て混合され、酸性条件となっている条件で行われる。この反応における温度は50〜170℃、好ましくは80〜140℃である。50℃未満では反応が十分進行せず、混合空間内で反応が終結しない。また、170℃を超えると、生成物の着色などによる品質低下が起こる他、溶媒や未反応フェノールの部分気化により、混合空間内での生成物による閉塞などが懸念される。反応時間は、ヒドロキシベンジルアルコールの90%以上、好ましくは99%以上が反応するように調整する。
【0024】
ここで、第1液は速やかに第2の反応に供給することが望まれる。特に、塩基触媒を含んだままの第1液が、第2液と混合される前に100℃以上の温度に加温されると、ヒドロキシベンジルアルコールが互いに縮合して架橋型の重質物を生成する。したがって、第1液を連続して第2の反応装置に装入する場合は、急速に第2の反応温度に加温して、第2液と混合して第2の反応に速やかに供給することがよい。このためには、例えば高い熱交換効率を持つマイクロ熱交換器などを経て、急速に第2の反応温度に加温し、第2の反応が生じる混合空間に送液されることが望ましい。
【0025】
次に、第2の反応で使用する反応装置、好ましくはマイクロミキサについて説明する。
第2の反応は、迅速且つ均一な混合を行い、基質を一斉に反応させることが重要であるので、第1液と第2液の混合が急速に行われる装置を使用する。かかる装置は、反応原料として供給する2液の少なくとも1つが、幅1〜500μmの複数の微小流路から混合空間に供給され、且つ2液の流路の中心軸が1点で交差するような構造のものである。
【0026】
つまり、少なくとも1種の流体を供給する供給チャンネルは、混合空間に流入する複数のサブチャンネルを有してなり、そして、これらのサブチャンネルが液体を混合空間に供給し、分岐しない場合は、1つの供給チャンネルが液体を混合空間に供給する。そして、それら供給チャンネル及び複数のサブチャンネルのすべての中心軸とが一点で交差するように、形成される。中心軸が交差する点は、混合空間内に位置する。ここで言う、「チャンネル」とは液体が流れる流路であり、「サブチャンネル」はチャンネルから複数に分岐した各々の流路を指す。通常、サブチャンネルは微小流路を構成する。
【0027】
供給チャンネル又はサブチャンネルの中心軸とは、混合空間に流入する液体の質量中心(又は重心)の移動方向に沿った軸(又は直線)を意味する。具体的には、混合空間に流入する液体の供給チャンネル又はサブチャンネルが円筒又は角筒状である場合、筒の長さ方向に垂直な断面(すなわち、円形又は矩形)の重心(円の中心又は対角線の交点)を通過して筒の長さ方向に沿った軸が、中心軸に相当する。また、一点で交差するとは中心軸の延長線上で交差することをいい、数学的な意味での点でなくとも多少の面積を有する点であってもよい。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、フェノールとホルムアルデヒドのモル比を高めることなく優れた生産性を有する上に、生成するビスフェノールFの純度を向上できる。また、同一の二核体含有率を得る場合には、ホルムアルデヒドのモル比を高め、生産性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
更に、図面を参照して、装置をより具体的に説明する。
図1は、原料液の流れ及び混合を模式的に示す図面である。矢印で示すように、2種の液体A及びBが、それぞれ供給チャンネル12、供給チャンネル18を経由して流れ、その後、液体Aは分岐点14にて分割されてサブチャンネル16及び16'を経由して、混合空間10に供給される。液体Bは、供給チャンネル18を経由したまま、分割されることなく混合空間10に供給される。
【0030】
図示するように、サブチャンネル16及び16'を経由して混合空間10に流入した液体Aの中心軸、分割されることなく供給チャンネル18を経由して混合空間10に流入した液体Bの中心軸を一点鎖線で示す。図示した態様は、チャンネル及びサブチャンネルは円筒状又は角筒状である場合を示し、従って、中心軸がチャンネル及びサブチャンネルの実質的に中央を通過するように描き、中心軸が点20で交差する様子を示す。
【0031】
また、図1では液体A、Bが合流した混合空間10に続いて、混合液体の排出チャンネル26が始まり、これらの全てのチャンネルが実質的に同一の平面内で配置されている。この時の各供給サブチャンネル16、16'と排出チャンネル26の成す角度α、α'及び供給チャンネル18と供給サブチャンネル16、16'との成す角度β、β'は、それぞれ0°より大きく180°以下の値を採り得るが、αとα'、βとβ'は、それぞれ等しい方がより好ましい。また、供給チャンネル18と排出チャンネル26の成す角度も、同様に0°より大きく180°以下の値を採り得る。
【0032】
チャンネル及びサブチャンネルから供給された原料液は、混合空間で速やかに均一に混合されて反応が生じる。混合空問の容積は所定の滞留時間が得られるように調整されるが、反応が十分でない場合は、その後に続く排出チャンネル26にて引き続き反応が進行しても良く、排出チャンネル26も複数であってもよい。
【0033】
チャンネル及びサブチャンネルは、それぞれ半円形や矩形、その他の断面を持つが、同じ液体が流れるサブチャンネルは同じ断面を持つことが好ましい。更に、サブチャンネルはその液体が流れるチャンネルと同じ、若しくは更に小さな断面を持つことが好ましい。チャンネル及びサブチャンネルの深さは、幅と同じ、若しくは小さい値が好ましく、その流路長さには制限はない。
【0034】
ここで、2つの原料液は、合流した後の混合空間にて反応が進行し、触媒濃度、反応温度等の条件は、ヒドロキシベンジルアルコールの濃度や未反応フェノールの濃度等の混合空間における混合物の状態で決定される。したがって、各液体の混合前の温度、流量、経路については混合空間における所定の条件を満足するような任意の値を取り得る。但し、混合空間に供給されるチャンネルの断面積に応じた流量で供給され(逆に、供給される液体の流量に応じたチャンネルの断面積が決定される)、その線速度は1m/sec以上が好ましく、より好ましくは2m/sec以上である。
【0035】
このように本発明では、合流する液体の中心軸が一点で交差するように衝突・接触するので、これら流体は、それが有する運動エネルギーによって瞬間的により小さい流体塊に分割(又は微細化)すると共に流体塊の接触状態も改善される。その結果、合流する液体同士の接触界面積が急激に増加し、これらの液体間の混合が促進され、よって、より迅速かつ均一な混合が達成される。故に、このような装置を用いることで、高速逐次反応を制御することが可能となり、その顕著な成果がビスフェノール類の製造法と言える。
【0036】
反応終了後は、従来法(例えば蒸留、抽出など)により溶媒や未反応フェノール、触媒などを除去することで、二核体含有率の高いビスフェノールを容易に得ることができる。
【0037】
次に、実施例で使用した反応装置を図2、図3に示す。
図2は、装置100を構成する3つのパーツを分解した様子を示す斜視図である。供給部102では、液体A、Bが、断面が矩形の環状チャンネル108及び110に到るボア112及び114より供給される。合流部104では、環状チャンネルの周方向で等間隔に配置された貫通ボア116、118を経由して、液体A、Bは4つに分割されたサブチャンネル124及び126から中心128に向かって流入する。言うまでも無く、サブチャンネル124の中心軸とサブチャンネル126の中心軸は、中心128にて交差しており、合流した液体Cは、ボア130を経由して装置外部に排出される。
【0038】
図3は他の反応装置を示すが、図2と同様装置100を構成する3つのパーツを分解した様子を示す斜視図である。図3及びその説明において、図2と同じな符号は同様な意味を有する。図3の反応装置では、液体Bを供給部102の中央から導入できるようになっている。液体Aは、断面が矩形の環状チャンネル108及び110に到るボア112及び114より供給され、液体Bは供給部102の中央を貫通するチャンネル132より供給される。合流部104では、2つの環状チャンネルの周方向で等間隔に配置された貫通ボア116、118を経由して、液体Aが8つに分割されたサブチャンネル124及び126から中心128に向かって流入するのに対し、液体Bは、分割されること無く、チャンネル134を経由して中心128に流入する。言うまでも無く、サブチャンネル124、126の中心軸とチャンネル134の中心軸は、中心128にて交差しており、合流した液体Cは、ボア130を経由して装置外部に排出される。
【0039】
このように本発明では、合流する液体の中心軸が一点で交差するように衝突・接触するので、これら流体は、それが有する運動エネルギーによって瞬間的により小さい流体塊に分割(又は微細化)すると共に流体塊の接触状態も改善され、迅速かつ均一な混合が達成される。これにより、高速逐次反応を制御することが可能となり、ビスフェノールFの選択率を向上させると考えられる。
【0040】
反応終了後は、従来法(例えば蒸留、抽出など)により溶媒や未反応フェノール、触媒などを除去することで、二核体含有率の高いビスフェノールを容易に得ることができる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。なお、分析は高速液体クロマトグラフを用いて行った。また、%は特に断りのない限り重量%である。
【0042】
装置の材質は、ステンレススチールであり、各チャンネル、サブチャンネル、ボアの仕様は以下のようであった:
環状チャンネル108の断面形状、幅、深さ、直径:矩形断面、1.5mm、1.5mm、25mm
環状チャンネル110の断面形状、幅、深さ、直径:矩形断面、1.5mm、1.5mm、20mm
ボア112の直径、長さ1.5mm、10mm(円形断面)
ボア114の直径、長さ1.5mm、10mm(円形断面)
ボア132の直径、長さ1.5mm、10mm(円形断面)
ボア116の直径、長さ0.5mm、4mm(円形断面)
ボア118の直径、長さ0.5mm、4mm(円形断面)
ボア134の直径、長さ0.5mm、4mm(円形断面)
マイクロチャンネル124の断面形状、幅、深さ、長さ:矩形断面、200μm、200μm、12.5mm
マイクロチャンネル126の断面形状、幅、深さ、長さ:矩形断面、200μm、200μm、10mm
ボア130の直径、長さ:1mm、10mm(円形断面)
【0043】
実施例1
200mlナスフラスコに、フェノール80g(0.850mol)と94%パラホルムアルデヒド3.6g(0.11mol)を加え、90℃の油浴中で加熱撹拌しパラホルムアルデヒドを溶解させた。これに、2N水酸化ナトリウム水溶液1ml(0.002mol)を加え、10分間撹拌し、反応を終了させ、A液を得た。分析の結果、ホルムアルデヒド転化率は99.5%、o‐ヒドロキシベンジルアルコールとp‐ヒドロキシベンジルアルコールの収率は各々72.0%と27.1%であった。同様にフェノール80g(0.85mol)に、パラトルエンスルホン酸一水和物3.42g(0.018mol)を加え、80℃の水浴中で加熱撹拌し、パラトルエンスルホン酸一水和物を溶解させたものをB液とした。
A液、B液の各入り口上流側に50cmのステンレス管(外径1.6mm、内径1.0mm)をらせ
ん状に巻いた予熱部を備えた図2に示す装置を油浴中に浸漬し、これに原料液A、B液を、ともに9.0ml/分で流した。混合器の出口後部に装備した30cmのテフロン(登録商標)管(外径1.6mm、内径1.0mm)を油浴中に浸し、反応部とした。反応温度は110℃であった。生成物は急速に冷却し反応を停止したのち、分析した。ホルムアルデヒド転化率及び2核体含有率は表1に示した。
【0044】
実施例2
300mlナスフラスコに、フェノール175.5g(1.865mol)と94%パラホルムアルデヒド4.24g(0.133mol)を加え、90℃の油浴中で加熱撹拌しパラホルムアルデヒドを溶解させた。これに、2N水酸化ナトリウム水溶液3.6ml(0.007mol)を加え、10分間撹拌し、反応を終了させ、A液を得た。分析の結果、ホルムアルデヒド転化率は99.8%、o‐ヒドロキシベンジルアルコールとp‐ヒドロキシベンジルアルコールの収率は各々72.2%と27.2%であった。
50mlナスフラスコに、フェノール12.5g(0.133mol)とパラトルエンスルホン酸一水和物5.22g(0.027mol)を加え、80℃の水浴中で加熱撹拌し、パラトルエンスルホン酸一水和物を溶解させたものをB液とした。
このA液、B液を使用し、各々14.0ml/分、1.0ml/分で流した他は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0045】
実施例3
300mlナスフラスコに、フェノール175.5g(1.865mol)、94%パラホルムアルデヒド4.24g(0.13mol)を加え、90℃の油浴中で加熱撹拌しパラホルムアルデヒドを溶解させた。これに、2N水酸化ナトリウム水溶液3.6ml(0.007mol)を加え、10分間撹拌し、反応を終了させ、A液を得た。分析の結果、ホルムアルデヒド転化率は99.8%、o‐ヒドロキシベンジルアルコールとp‐ヒドロキシベンジルアルコールの収率は各々72.2%と27.2%であった。
50mlナスフラスコに、フェノール12.5g(0.13mol)とパラトルエンスルホン酸一水和物5.22g(0.027mol)を加え、80℃の水浴中で加熱撹拌し、パラトルエンスルホン酸一水和物を溶解させたものをB液とした。
図3に示す装置を使用し、このA液、B液を各々14.0ml/分、1.0ml/分で流した他は、実施例1と同様にして反応を行った。
【0046】
比較例1
200mlのバッフル付きセパラブルフラスコに、フェノール120g(1.275mol)、94%パラホルムアルデヒド2.71g(0.085mol)を入れ、油浴中で加熱、タービン翼(回転数600rpm)で撹拌した。内温は90℃であった。パラホルムアルデヒドが完全に溶解したのち、2N水酸化ナトリウム水溶液0.75ml(0.0015mol)を加え、更に10分間撹拌を続け、第1の反応を終了させた。分析の結果、ホルムアルデヒド転化率は99.5%、o‐ヒドロキシベンジルアルコールとp‐ヒドロキシベンジルアルコールの収率は各々72.0%と27.1%であった。引き続いて、パラトルエンスルホン酸一水和物2.57g(0.0135mol)を加え、加熱撹拌を30分間継続し、第2の反応を終了し、内容物を分析した。
【0047】
比較例2
図2に示した装置に替えて、流路幅800μmの流路を有する図4に示すPEEK製T字流路ミキサーを用いた以外は、すべて実施例1と同じ反応を行った。
分析結果をまとめて表1に示す。
【0048】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】混合様式の模式図
【図2】反応装置の分解斜視図
【図3】他の反応装置の分解斜視図
【図4】従来例のミキサの模式図
【符号の説明】
【0050】
100:反応装置、102:供給部、108及び110:環状チャンネル、112及び114:ボア、104:合流部、116、118:貫通ボア、124及び126:サブチャンネル、128:交差中心、130:排出ボア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール類とホルムアルデヒド類を縮合させてビス(ヒドロキシフェニル)メタン類を製造する方法において、フェノール類とホルムアルデヒド類を塩基触媒の存在下にて反応し生成したヒドロキシベンジルアルコールを含む第1液と酸触媒を含む第2液からなる2つの液の内、少なくとも1つの液を幅1〜500μmの複数の微小流路から、且つ2つの液を流路の中心軸が1点で交差する流路から混合空間に供給し、混合し、酸性条件下で反応させることを特徴とするビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項2】
第1液が、フェノール類/ホルムアルデヒド類のモル比が2〜30で反応させて得られたヒドロキシベンジルアルコールを含む液である請求項1記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項3】
塩基触媒の存在下での反応温度が40〜100℃、酸性条件下での反応温度が50〜170℃である請求項1又は2記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項4】
塩基触媒の存在下の反応生成物が、速やかな温度変化をもって連続して酸性条件下の反応へ供されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項5】
2液を供給する少なくとも1つの流路が、途中で分岐して複数の流路を形成し、混合空間に供給される請求項1〜4のいずれかに記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項6】
分岐した複数の流路が同じ断面形状を有する請求項5に記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項7】
複数の微小流路から混合空間に供給される際の線速度が1m/sec以上である請求項1〜6に記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。
【請求項8】
微小流路及び混合空間を有する装置が、マイクロミキサである請求項1〜7のいずれか
に記載のビス(ヒドロキシフェニル)メタン類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−8634(P2006−8634A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191230(P2004−191230)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成15年度、新エネルギー・産業技術総合開発機構革新的部材産業創出プログラム「マイクロ分析・生産システムプロジェクト」委託研究、産業活力再生特別処置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】