説明

ビスマス系超電導線材の製造方法および超電導線材

【課題】臨界電流値を向上させることが可能なビスマス系超電導線材の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の製造方法は、ビスマス系超電導線材の原料粉末を銀または銀合金の管製容器に充填する工程(S20)と、原料粉末に含まれるビスマスを含む化合物を溶融するように加熱する工程(S50)と、ビスマスを含む化合物をBi2223相にするために焼結する工程(S70)とを備える。加熱する工程(S50)においては、不活性ガス雰囲気中でビスマスを含む化合物を820℃以上900℃以下に加熱することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビスマス系超電導線材の製造方法および超電導線材に関するものであり、より特定的には、当該ビスマス系超電導線材に流れる臨界電流値をさらに向上させることが可能なビスマス系超電導線材の製造方法、および上記製造方法を用いて形成された超電導線材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置などの超電導応用機器には、酸化物超電導線材が広く用いられている。酸化物超電導線材の一例として、たとえば(Bi、Pb)SrCaCuの化学式で表わすことができるBi(Pb)2223相などを有する酸化物超電導体を銀などのシース部で被覆した多芯線からなるテープ状の超電導線材(超電導テープ)は、液体窒素温度での使用が可能であり、比較的高い臨界電流値が得られること、長尺化が比較的容易であることから、超電導コイルやマグネットへの応用が期待されている。
【0003】
酸化物超電導線材において高い臨界電流値を得るためには、当該超電導線材を構成する(超電導体の)結晶粒子の配向性が高いことが望まれる。ここで結晶粒子の配向性が高いとは、当該超電導線材を構成する各結晶粒子のうち、最も寸法の大きい(長い)長手方向が、すべてほぼ同じ方向に沿うように配置されている状態をいう。逆に各結晶粒子の長手方向が無秩序に配置されている状態を、当該結晶粒子の配向性が低いという。
【0004】
酸化物超電導線材を構成する結晶粒子の配向性を高めるために、従来からたとえば特開2007−335102号公報(特許文献1)に開示される方法が行なわれている。これは具体的には図12のフローチャートに示す製造方法である。図12は、従来から行なわれるBi2223相のビスマス系超電導線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。なおBi2223とは、たとえばBiSrCaCuの化学式で表わすことができる酸化物超電導体であるが、ここではBi2223にはBi(Pb)2223を含むこととする。同様にここではたとえば(Bi、Pb)SrCaCuの化学式で表わすことができる酸化物超電導体をBi(Pb)2212相とし、BiSrCaCuの化学式で表わすことができるBi2212にはBi(Pb)2212を含むこととする。
【0005】
図12に示すように、粉末準備工程にて酸化物超電導線材の前駆体としての材料粉末を準備する。具体的にはたとえばBi(Pb)2212相を主相とし、(Ca、Sr)−Cu−Oなどの不純物を含む材料粉末を準備する。次に充填工程にて当該材料粉末を、超電導線材を形成するための金属管の内部に充填する。次に伸線・嵌合工程にて当該金属管の延在する方向に交差する断面が所望の直径となるように伸線したものを複数本束ねて、上記金属管よりも断面の直径が大きい金属管の内部に嵌合する。上記の直径が大きい金属管が伸線加工されて断面が所望の直径となったところで、プレアニール工程を行なう。これは上記金属管の内部の材料粉末が焼結されない程度に熱処理を行なう工程である。
【0006】
図13は、従来から行なわれるプレアニール工程の態様を具体的に示す概略図である。プレアニール工程においては図13に示すように、たとえば巻回用ドラム90の外枠部に巻回された金属管9を、誘導加熱用コイル99に囲まれる中空の領域に配置し、誘導加熱用コイル99に交流電流を流すことにより、金属管9の内部の材料粉末を加熱する。このプレアニール工程により、Bi(Pb)2212相が結晶成長して結晶粒子が大きくなる。このように形成しようとする酸化物超電導線材を構成する主相の結晶粒子が成長すれば、続く圧延工程において当該主相の結晶粒子の配向性を高くすることができる。図14はプレアニール工程を行なった上で圧延工程を行なった場合における、酸化物超電導線材を構成する結晶粒子の配向性を示す概略断面図である。図14は金属管9(図13参照)の内部に複数本配置された金属製の管状容器5の内部の断面図である。管状容器5の内部(フィラメント30)に存在する複数のBi(Pb)2212粒子33の長手方向が、いずれも同一方向に沿った方向、すなわち図14の左右方向に沿った方向に延在するように配置される。この状態において焼結工程を行なえば、焼結により形成されるBi(Pb)2223の結晶粒子を、上述したBi(Pb)2212粒子33と同様に、一方向(図14の左右方向に沿った方向)に沿うように配置させることができる。すなわちBi(Pb)2223の結晶粒子の配向性を高くすることができ、その結果、臨界電流値の高い酸化物超電導線材を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−335102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
主相がBi(Pb)2212相である材料粉末を用いてBi(Pb)2223相のビスマス系超電導線材を形成する場合、上述したようにBi(Pb)2212の粉末に(Ca、Sr)−Cu−Oの材料粉末を混合させた混合粉末を用いる。このようにすれば、焼結工程においてBi(Pb)2212と(Ca、Sr)−Cu−Oとが反応することによりBi(Pb)2223を生成することができる。(Ca、Sr)−Cu−Oの材料粉末は、図14において(Ca、Sr)−Cu−O粒子31として配置されている。
【0009】
(Ca、Sr)−Cu−OはBi(Pb)2212の反応に必要ではあるが、(Ca、Sr)−Cu−Oの粉末が存在すれば、圧延工程においてBi(Pb)2212の結晶粒子の配向性を高めることを阻害する。つまり圧延工程において
Bi(Pb)2212の各粒子の長手方向がほぼ一定の方向に沿うように配向しようとしても、Bi(Pb)2212の粒子の周囲に多数の(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子が存在するために、Bi(Pb)2212の配向性を高めることが困難となる。
【0010】
また上述したように、圧延工程においてBi(Pb)2212の粒子の配向性を高めるためには、プレアニール工程においてBi(Pb)2212の粒子が結晶成長を起こして粒子のサイズが大きくなることが好ましい。しかしBi(Pb)2212が結晶成長を起こすと、それに伴い(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子も同様に結晶成長を起こして粒子のサイズが大きくなる。(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子が肥大化すると、続く圧延工程においてBi(Pb)2212の粒子の配向性を高めることが困難になる。これは肥大化された(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子が多数存在するために、所望の位置に所望の角度でBi(Pb)2212の粒子が配置されることが妨げられるためである。(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子はBi(Pb)2212の粒子に比べて比較的変形度が低いことも、(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子がBi(Pb)2212の配向性を劣化させる要因となる。具体的には、プレアニール工程を行なった後に圧延工程を行なった場合、圧延工程後における各Bi(Pb)2212の粒子の長手方向のばらつき(結晶粒子の配向度)は約15°である。
【0011】
焼結工程を行なう前の段階におけるBi(Pb)2212の粒子の配向性が低いと、続く焼結工程において(Ca、Sr)−Cu−Oの粒子と反応することにより形成されるBi(Pb)2223の結晶粒子の配向性も同様に低くなる。すると形成されるBi(Pb)2223のビスマス系超電導線材の臨界電流値を向上することが難しくなる。
【0012】
本発明は、以上の問題に鑑みなされたものである。その目的は、臨界電流値を向上させることが可能なビスマス系超電導線材の製造方法を提供することである。また、上記製造方法を用いて形成されたビスマス系超電導線材を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係るビスマス系超電導線材の製造方法は、ビスマス系超電導線材の原料粉末を銀または銀合金の管状容器に充填する工程と、上記原料粉末に含まれるビスマスを含む化合物を溶融するように加熱する工程と、上記ビスマスを含む化合物をBi2223相にするために焼結する工程とを備える。
【0014】
本発明の発明者は鋭意研究の結果、銀製の管状容器の内部に充填されたビスマス系超電導線材の原料粉末(たとえばBi2212相の粉末)を、当該ビスマス系超電導線材の原料粉末が溶融する温度まで加熱すれば、当該Bi2212相の粒子の配向性を高めることができることを発見した。すなわち溶融したビスマス系超電導線材の原料粉末が管状容器の銀に濡れると、当該原料粉末は自ずと銀の管状容器を構成する結晶粒子の配向する方向に沿った形で再配列する。銀は管状容器の内部において高い結晶粒子の配向性を保っているため、ビスマス系超電導線材の原料粉末の配向性を高めることができる。
【0015】
以上のようにビスマス系超電導線材の原料粉末を加熱により溶融するだけで、当該原料粉末の配向性を高めることができる。このため本発明の製造方法においては、従来の製造方法において圧延工程の前に行なっていたプレアニール工程を行なう必要がない。つまりプレアニール工程を省略するため、Bi2212の原料粉末に混合されている不純物としての(Ca、Sr)−Cu−O粒子が結晶成長することはない。つまりBi2212の配向性の向上を阻害する、肥大化された(Ca、Sr)−Cu−O粒子が形成されないため、Bi2212の粒子の配向性をさらに高めることができる。以上よりビスマス系超電導線材を構成する粒子の配向性を高めることができるため、当該超電導線材の臨界電流値を高めることができる。
【0016】
上記のビスマス系超電導線材の製造方法において、上記の溶融するために加熱する工程においては、不活性ガス雰囲気中で上記ビスマスを含む化合物を820℃以上900℃以下に加熱することが好ましい。
【0017】
たとえばBi2212などの、ビスマスを含む化合物を820℃以上に加熱すれば、ビスマスを含む化合物を溶融させることができる。ただし900℃を超える温度に加熱すれば、銀の融点が962℃であることから、ビスマスの化合物のみならず管状容器の銀が溶融する可能性がある。銀を溶融させることなくビスマスの化合物を溶融させることにより、溶融したビスマスの化合物を銀の配向性に合わせるように配列させることができる。このためビスマスを溶融する過程において銀は溶融しないことが好ましい。銀を溶融させずにビスマスを溶融させるためには不活性ガス雰囲気中で加熱することが好ましい。
【0018】
上記のビスマス系超電導線材の製造方法においては、加熱する工程と焼結する工程との間に、溶融されたビスマスを含む化合物から固相Bi2212相を再生成する工程をさらに備えることが好ましい。
【0019】
焼結工程により形成される超電導線材において、酸化物超電導体の結晶粒子の配向性を高めるためには、溶融されたビスマスの化合物が固相となった状態で焼結されることが好ましい。固相となったBi2212などのビスマスの化合物が、上述した(Ca、Sr)−Cu−Oなどの不純物と反応することにより、Bi2223相の結晶粒子からなるビスマス系超電導線材が形成される。このとき、溶融されたビスマスの化合物の結晶粒子の配向性が高くなっていれば、焼結した後におけるビスマスの化合物の結晶粒子の配向性を高くすることができる。
【0020】
以上の製造方法を用いて形成された超電導線材は、上述したようにビスマス系の酸化物超電導体を構成する結晶粒子の配向性が向上されている。このため、当該超電導線材の臨界電流値が高くなる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、臨界電流値の高いビスマス系超電導線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態1に係るビスマス系超電導線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図2】図1の充填工程を示す概略図である。
【図3】図1の伸線・嵌合工程のうちの伸線工程を示す概略図である。
【図4】図1の伸線・嵌合工程のうちの嵌合工程を示す概略図である。
【図5】図1の圧延工程を示す概略図である。
【図6】本発明の実施の形態1における、図1の溶融工程(S50)から焼結工程(S70)における原料粉末の加熱温度を示すグラフである。
【図7】本発明の実施の形態1に係る原料粉末の再生成を行なった後の、管状容器の内部における原料粉末の結晶の配向性を示す概略断面図である。
【図8】本発明の実施の形態1の製造方法により形成された超電導線材を示す概略図である。
【図9】本発明の実施の形態2における、図1の溶融工程(S50)から焼結工程(S70)における原料粉末の加熱温度を示すグラフである。
【図10】本発明の実施の形態3に係るビスマス系超電導線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図11】本発明の実施の形態3における、図1の溶融工程(S50)から焼結工程(S70)における原料粉末の加熱温度を示すグラフである。
【図12】従来から行なわれるBi2223相のビスマス系超電導線材の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図13】従来から行なわれるプレアニール工程の態様を具体的に示す概略図である。
【図14】プレアニール工程を行なった上で圧延工程を行なった場合における、酸化物超電導線材を構成する結晶粒子の配向性を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の各実施の形態について説明する。なお、各実施の形態において、同一の機能を果たす要素には同一の参照符号を付し、その説明は、特に必要がなければ繰り返さない。
【0024】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態1に係る超電導線材の製造方法としてはまず粉末準備工程(S10)が実施される。これは具体的には、ビスマス系の超電導線材の原料粉末などを準備する工程である。
【0025】
ビスマス系の超電導線材は、液体窒素温度において優れた超電導特性を備える、すなわち77K以上の高い臨界温度を示す高品質な超電導線材である。このため高い臨界温度において高い臨界電流値を示す超電導線材を形成する際には、ビスマス系の超電導線材が主に用いられる。
【0026】
酸化物超電導線材を形成するための酸化物超電導体としては、上述したようにたとえば(Bi、Pb)SrCaCuの化学式で表わされるBi(Pb)2212を含めた、BiSrCaCuの化学式で表わされるBi2212の原料粉末を用いることが好ましい。なお、たとえば最終的に形成したい超電導線材がBi2223相からなるものである場合においても、工程(S10)にて準備する原料粉末としてはBi2223相よりもBi2212相を主相とした原料粉末を準備した方がよい。このようにすれば、後の工程にて電気的特性の良好な(Bi2223相を主体とする)超電導相が得られる。ただしここで準備すべき酸化物超電導体は必ずしもBi2212の原料粉末に限られず、Bi2212以外のビスマス系超電導線材であるたとえばBi2201相(BiSrCuOの化学式で表わされる)を準備してもよい。
【0027】
Bi2212の原料粉末を準備する場合は、原料粉末としてとしてはたとえばBi、PbO、SrCO、CaCO、CuOを用いることが好ましい。これらの粉末を混合したものを700℃〜870℃で10〜40時間、大気雰囲気または減圧雰囲気下にて少なくとも1回焼結を行なう。このような焼結により、Bi2212相が主体となった原料粉末を得ることができる。
【0028】
なお、Bi2212相が主体となった原料粉末を準備する際に、必ずしも各原料の組成比を厳密に調整する必要はない。具体的な組成比は、準備する原料粉末の化学式をBiPbSrCaCuとしたときに(a+b):c:d:e=1.7〜2.8:1.7〜2.5:1.7〜2.8:3を満足するものが好ましい。特に、(BiまたはBi+Pb):Sr:Ca:Cu=2:2:2:3付近の組成比となることが好ましく、Biは1.8付近、Pbは0.3〜0.4、Srは2付近、Caは2.2付近、Cuは3.0付近であることが特に好ましい。
【0029】
また、当該原料粉末は、最大粒径が0.1μm以上2.0μm以下であり、平均粒径が0.5μm以上1.0μm以下であることが好ましい。このように微細な粉末を用いれば、臨界温度の高い、高品質な高温超電導相を容易に生成することができる。なお、その中でも、最大粒径が0.1μm以上1.0μm以下、平均粒径が0.6μm以上0.9μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
さらに、Bi2212相の原料粉末を準備する場合においても、当該原料粉末には焼結時にBi2223相を生成させる役割を有する(Ca、Sr)−Cu−Oの粉末を、不純物として混合することが好ましい。ここで(Ca、Sr)−Cu−Oの粉末は、Bi2212相の原料粉末を準備する物質量の0.95倍以上1.05倍以上の量となるように準備することが好ましい。この(Ca、Sr)−Cu−Oは、焼結時にBi2212相に対してCaとSrとの組成を補充することによりBi2223相を形成するためのものである。
【0031】
次に図1に示すように充填工程(S20)が実施される。これは図2に示すように、工程(S10)にて準備した原料粉末1を、たとえば漏斗3を用いて、金属製の管状容器5(パイプ)の内部に充填する工程である。ここで原料粉末1とは、Bi2212などのビスマス系超電導線材の原料粉末と、(Ca、Sr)−Cu−Oなどの不純物の粉末とが混合されたものを指す。
【0032】
管状容器5は、後の工程において原料粉末1に含まれるビスマスを含む化合物を溶融する際に、熱により溶融したり原料粉末1と反応したりすることのない金属材料からなることが好ましい。具体的には銀または銀合金からなるものであることが好ましい。管状容器5が銀合金からなるものである場合、管状容器5はたとえば銀と金やマグネシウムとの合金であることが好ましい。なお管状容器5が上述した銀合金である場合、当該管状容器5を構成する銀以外の金属材料の質量比は0.01質量%以上0.05質量%以下であることが好ましい。
【0033】
また図2の管状容器5は、断面形状が円形となっている。しかし管状容器5は円形のほかに、たとえば多角形の断面形状を有するものであってもよい。多角形としては正多角形、特に正六角形の断面形状を有するものを用いることが特に好ましい。このようにして、原料粉末1を充填した管状容器5である、単芯線としての素線を形成する。
【0034】
次に図1に示すように伸線・嵌合工程(S30)が実施される。これは具体的には、工程(S20)にて準備された原料粉末1が充填された管状容器5が細線化されたものが、より内部の断面積が大きい金属管の内部に嵌合される工程である。
【0035】
図3に示すように、原料粉末1が充填された管状容器5の素線が、丸ダイス7の中空の領域の内部に嵌挿される。そして丸ダイス7の貫通された穴部において管状容器5の断面がなす円形の直径が小さくなり、その分丸ダイス7の長尺方向の長さが長くなるように加工がなされる。すなわち伸線加工を行なう前には図3の加工前素線5aが示す断面積を有する素線であったものが、丸ダイス7による伸線加工を行なうことにより、図3の加工後素線5bが示すように加工前素線5aよりも断面積が小さくなる(細線化される)。この伸線加工により、管状容器5中に原料粉末1が単芯に配置された、所望の断面積で長尺形状を有する素線が形成される。当該素線の断面についても管状容器5と同様に、円形のものを用いてもよいし、多角形状のものを用いてもよい。
【0036】
次に図4を参照して、上述した伸線加工により細線化された素線(管状容器5)を複数本束ねたものを、管状容器5とは異なる金属管9の内部に嵌合することにより、多芯線を形成する。これが伸線・嵌合工程(S30)のうちの嵌合工程である。
【0037】
図4に示すように、原料粉末1が充填され、細線化がなされた管状容器5からなる素線を複数本束ねて、管状容器5の素線よりも断面積の大きい金属管9の内部に束ねて挿入する。ここでは細線化がなされた管状容器5からなる素線を長尺方向に関してほぼ一定の長さごとに複数本に切断したものを束ねて金属管9の内部に挿入してもよい。あるいは、上記の管状容器5からなる素線を複数本準備したものを束ねて金属管9の内部に挿入してもよい。
【0038】
なお金属管9の金属材料は、基本的に管状容器5と同様に銀または銀合金であることが好ましい。ただしたとえば管状容器5が純銀からなる場合においても、金属管9に銀合金からなるものを用いてもよい。逆に管状容器5が銀合金からなる場合であっても、金属管9には純銀からなるものを用いることもできる。
【0039】
次に図1に示すように圧延工程(S40)が実施される。これは具体的には、工程(S30)にて嵌合工程により形成された、金属管9の内部に複数本の素線が入った多芯線が、超電導線材としての所望の形状(テープ状)となるように圧縮加工される工程である。この圧延加工は図5を参照して、たとえばロール圧延による扁平加工を行なうことが好ましい。
【0040】
ロール圧延においては、図5に示すように、たとえば金属管9の内部に複数本の素線が入った多芯線が、長尺方向に交差する両側から1対のロール11により挟み込まれた状態で、1対のロール11を多芯線の長尺方向に関する一方の端部から他方の端部へ、長尺方向に沿った方向に相対的に移動される。具体的には、位置が固定された1対のロール11に挟まれた領域に、上記の多芯線を挟み込み、ロール11を回転させる。この状態で多芯線(図5における金属管9)の一方の端部(たとえば図5においては多芯線の左側の端部)から当該多芯線を引き抜く。するとロール11に挟まれた多芯線は圧延され、図5に示すように扁平形状(テープ状)となる。図5において圧延加工が行なわれる前の管状の多芯線を加工前多芯線9aで表わし、圧延加工を行なった後のテープ状の多芯線を加工後多芯線9bで表わしている。ここで、図5の多芯線の金属管9が破断を起こさない程度の圧縮応力にて圧縮を行なうことが好ましい。このため、圧延工程(S40)を行なった後における多芯線を圧縮した方向における多芯線の寸法が、圧縮を行なう前の寸法の30%以上となるように圧縮を行なうことが好ましい。
【0041】
あるいは圧延工程(S40)として、上述したロール圧延の代わりに、矩形ダイス伸線による圧延を行なってもよい。これは工程(S30)の伸線工程と同様にダイスを用いて、多芯線の断面積が減少し、かつ断面の形状が扁平な長方形状となる(つまり多芯線がテープ状となる)ように加工を施すことが好ましい。異形ダイスに形成された扁平な長方形状の穴の内部に上記多芯線を挿入し、多芯線を一方の端部から他方の端部へ、長尺方向に沿った方向に移動させる。このようにすれば、上述したロール圧延を行なった場合と同様に、管状の多芯線をテープ状の多芯線に加工することができる。
【0042】
以上の工程によりテープ状の多芯線が形成されたところで、図1に示すように、溶融工程(S50)を行なう。これは具体的には、多芯線の内部に複数本挿入されている素線の内部の、ビスマス系超電導線材の原料粉末1(図2参照)を加熱することにより溶融する工程である。
【0043】
溶融工程(S50)においては、原料粉末1を保持する管状容器5を構成する金属材料、たとえば銀が溶融しない程度に原料粉末1を加熱し、原料粉末1中のビスマスの化合物(たとえばBi2212)を溶融することが好ましい。仮に管状容器5の銀が溶融すれば、Bi2212が溶融したものに溶解した銀が混合する。Bi2212が溶融したものに銀が混合すれば、酸化物超電導体が変質する恐れがある。このため溶融工程(S50)においては銀が溶融しないことが好ましい。つまり溶融工程(S50)においてはBi2212が溶融し、銀が溶融しない程度の温度に加熱することが好ましい。また従来から行なわれていたプレアニール工程の加熱温度に達すると、Bi2212と混合されている不純物(Ca、Sr)−Cu−Oの粉末が肥大化する可能性がある。このため工程(S50)においてはBi2212が溶融し、銀が溶融せず、かつプレアニール工程のような不純物(Ca、Sr)−Cu−Oの粉末の結晶成長がなされない程度の温度に加熱することが好ましい。
【0044】
具体的には溶融工程(S50)においては、不活性ガス雰囲気中でビスマスを含む化合物(原料粉末1)を820℃以上900℃以下に加熱することが好ましい。原料粉末1を820℃以上に加熱すれば、原料粉末1のBi2212相が分解して液相が発生する。つまり原料粉末1のBi2212相が溶解する。しかし銀の融点は大気圧下にて962℃であるため、原料粉末1を900℃を超える温度に加熱すれば、原料粉末1を保持する管状容器5の銀成分が溶融し始める可能性がある。このため上述したように、原料粉末1を820℃以上900℃以下に加熱することが好ましい。なお、このなかでも825℃以上860℃以下に加熱することが特に好ましい。このようにすれば、さらに確実にBi2212を溶融させ、溶融したBi2212の液相を銀製の管状容器5の方へ流動させることができる。
【0045】
上述したように溶融工程(S50)においては、たとえば窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガス雰囲気中で加熱を行なうことにより、さらに確実に管状容器5の銀の溶融を抑制することができる。仮に管状容器5が銀の成分を含まない場合には、溶融工程(S50)において必ずしも不活性ガス雰囲気中で加熱を行なう必要がない。しかし銀の成分を含む管状容器5を用いるので、加熱によりBi2212よりも銀が先に溶融することを抑制するために、不活性ガス雰囲気中で加熱することが好ましい。
【0046】
溶融工程(S50)における加熱温度や加熱の態様は、図6のグラフに示すとおりである。図6のグラフにおいて横軸は時刻(経過時間)を、縦軸は原料粉末1の加熱温度を示している。また図6の実線グラフ13は本実施の形態1における加熱温度の時間変化を示しており、図6の点線グラフ23は従来の超電導線材の製造方法における加熱温度の時間変化を示している。図6の実線グラフ13に示すように溶融工程(S50)においては原料粉末1を、常温から一定の昇温速度(たとえば50℃/min以上1000℃/min以下の昇温速度)で加熱し、原料粉末中のBi2212を溶融する。図6の実線グラフ13の溶融時加熱到達温度15が、溶融工程(S50)における加熱温度である。また図6に示すように、溶融時加熱到達温度15に到達すれば直ちに加熱温度を下げ始めることが好ましい。これは長時間加熱温度を保持すれば、銀が溶融する可能性があるためである。
【0047】
溶融工程(S50)が終わったところで図1に示すように再生成工程(S60)を行なう。これは具体的には、溶融工程(S50)の加熱により溶融された原料粉末1中のBi2212を再び冷却することにより、結晶粒子を再生成する工程である。
【0048】
後の焼結工程において、Bi2212相と不純物((Ca、Sr)−Cu−Oの粉末)とを焼結するためには、焼結工程を行なう直前の時点でBi2212が固相として存在することが好ましい。このようにすれば、高効率にBi2212相が焼結されることにより、高効率にBi2223相を形成することができる。このため工程(S50)において溶融され、銀製の管状容器5の表面上に流動して当該管状容器5の表面を濡らした液相のBi2212を冷却して再度固相にする。
【0049】
再生成工程(S60)においては、液相のBi2212を700℃以上800℃以下に加熱することが好ましい。上述したように工程(S50)における図6の最初の溶融時加熱到達温度15が820℃以上であるため、再生成工程(S60)においても加熱をしているとはいえ、工程(S50)の直後に行なうため材料を冷却していることになる。再生成工程(S60)における加熱状態は、図6の中央部の再生成加熱温度17に表わされている。
【0050】
再生成工程(S60)において、液相のBi2212を700℃未満に冷却すると、Bi2212の固相を再生成することが困難となる。また再生成工程(S60)において、液相のBi2212を800℃を超える温度に設定すれば、生成されるBi2212の固相(結晶粒子)が、配向性を向上させるために必要なサイズに結晶成長しなくなる。つまり再生成されるBi2212の固相が十分に緻密な組織とならなくなる。このように再生成されるBi2212の固相の結晶粒子の密度が低ければ、当該Bi2212に対して後工程にて焼結しても、結晶粒子間の接合性が低下する。このため、形成される超電導線材のBi2223の結晶粒子間の接合性も低下し、結果として当該超電導線材の臨界電流値も低下する。以上により再生成工程(S60)における液相のBi2212の設定温度は700℃以上800℃以下とすることが好ましい。しかしそのなかでも当該設定温度を730℃以上790℃以下とすることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに確実に緻密化され、かつ適度に結晶成長された、固相のBi2212の結晶粒子を再生成することができる。また再生成工程(S60)においては、上記の加熱温度を1時間以上3時間以下の時間、より好ましくは2時間以上3時間以下の時間、保持することが好ましい。このようにすれば、さらに確実に緻密化され、かつ適度に結晶成長された、固相のBi2212の結晶粒子を再生成することができる。
【0051】
上述した加熱温度条件にて、銀の管状容器5の壁面上に流動した液相のBi2212が再生成して固相となれば、当該固相の結晶粒子は銀の管状容器5の壁面に沿うように高い配向性をもって再配列される。具体的には銀の管状容器5を構成する銀の結晶粒子の配向性に沿うように、再生成されたBi2212の固相の粒子が再配列される。一般に銀の結晶粒子の配向性は高いため、銀の結晶粒子の高い配向性に倣ってBi2212の固相の粒子が再配列される。
【0052】
ここで図7と図14とを比較検討する。図7と図14はいずれも超電導線材の内部に複数本挿入された素線のうち1本の内部の断面の状態を示すものである。このため図7、図14ともに素線を構成する、たとえば銀製の管状容器5の内部のフィラメント30と呼ばれる領域に、図1の原料粉末1が変化したBi(Pb)2212粒子33と、不純物である(Ca、Sr)−Cu−O粒子31とが複数存在する。なお図7や図14に示すように、一般にBi(Pb)2212粒子33は平板形状(矩形状)を有している。
【0053】
図14におけるBi(Pb)2212粒子33は、平板状の主表面の配置される方向、つまり図14の断面図における長手方向が、粒子ごとに比較的大きくばらついている。これは(Ca、Sr)−Cu−O粒子31のサイズにばらつきが大きく、特にサイズの大きく変形度が低い(Ca、Sr)−Cu−O粒子31が、Bi(Pb)2212粒子33の長手方向の配列を所望の方向から大きく外す方向に配置させているためである。
【0054】
これに対して図7におけるBi(Pb)2212粒子33は、特に銀の管状容器5の内部の壁面に近い領域において、長手方向が、管状容器5の壁面に沿った図7の左右方向に延在するように配列されている。つまりBi(Pb)2212粒子33は平板状の形状を有するため、平板状の粒子の主表面(最も面積の大きい矩形状の主要な面)が、特に管状容器5の壁面に近い領域において、壁面の延在する方向に沿うように配置されている。これは管状容器5の壁面に近い領域に再生成される粒子は、銀の管状容器5の表面に付着していた液相が固相となった粒子である割合が高いためである。しかし銀の管状容器5を構成する銀の結晶粒子の配向性が乱れていれば、たとえ銀の管状容器5の表面に付着したBi2212の液相であっても、それが再生成により形成される固相の粒子の配向性が乱れることもある。
【0055】
具体的には、図14に示す従来のプレアニール工程および圧延工程によりBi2212の粒子を配列させた場合の当該粒子の配向度は15°であるのに対し、図7に示す本実施の形態1の、プレアニール工程を省略して溶融工程と再生成工程を行ないBi2212の粒子を配列させた場合の当該粒子の配向度は11°となった。また図7に示すように、本実施の形態1の製造方法においても、特に管状容器5から離れた、図7の上下方向に関する中央付近に配置されたBi(Pb)2212粒子33は、図14のBi(Pb)2212粒子33と同様に配向性が乱れている。これは図7の上下方向に関する中央付近には(Ca、Sr)−Cu−O粒子31が多数存在するためと考えられる。しかし全体としては上述のように本実施の形態1において従来例に比べてBi(Pb)2212粒子33の配向性は高くなっている。
【0056】
以上のように、再生成により配向性の高いBi2212粒子が生成できたところで、図1の焼結工程(S70)を行なう。具体的には、最終的に多芯線全体を加熱して、工程(S60)で再生成させた固相のBi2212粒子と、(Ca、Sr)−Cu−O粒子とを反応させ、Bi2223相を形成する。
【0057】
図6の加熱温度のグラフで見ると、右側の焼結時加熱温度19が、焼結工程(S70)におけるBi2212相の加熱温度に該当する。なお図12〜図14の従来から行なわれる製造方法においても焼結工程を行なうため(図12参照)、当該焼結工程における加熱の態様を図6のグラフ中に点線グラフ23にて示している。
【0058】
図6に示すように、焼結時加熱温度19は、再生成加熱温度17よりも高く、溶融時加熱到達温度15よりも低いことが好ましい。ただし焼結時加熱温度19は溶融時加熱到達温度15とほぼ同じ温度であってもよいし、場合によっては溶融時加熱到達温度15よりも高くてもよい。
【0059】
具体的には焼結工程(S70)では、再生成されたBi2212の粒子を800℃以上850℃以下に加熱することが好ましい。ここで800℃に満たない温度に加熱すると、Bi2212の粒子と(Ca、Sr)−Cu−O粒子とが十分に反応しないため、Bi2223相が生成されないことがある。また850℃を超える温度に加熱すると、生成されたBi2223の結晶粒子が過度に結晶成長することがある。このため、結晶粒子同士が衝突を起こし、衝突時に加わる衝撃力により結晶粒子の配置される角度が変化する。その結果、Bi2223の結晶粒子の配向性が低下することがある。このため上述した800℃以上850℃以下に加熱することが好ましく、このなかでも当該加熱温度を815℃以上840℃以下とすることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに確実に、適度なサイズのBi2223の結晶粒子を形成することができる。
【0060】
再生成工程(S60)において固相のBi2212の結晶粒子が高い配向度で配列されていれば、焼結工程(S70)を行なった後においても、上述したようにBi2223の結晶粒子が過度に結晶成長して粒子同士が衝突するような場合を除いて基本的には良好な配向度を維持することができる。このため本実施の形態1のように、溶融工程(S50)と再生成工程(S60)により溶融した液相Bi2212の濡れ性を利用すれば、最終的な焼結工程(S70)により配向性の高いBi2223相を有するビスマス系の酸化物超電導線材を形成することができる。このため従来から結晶成長のために行なわれていたプレアニール工程を省略することができる。プレアニール工程を省略することにより、(Ca、Sr)−Cu−Oの不純物粒子が肥大化されない状況でBi2212相を焼結し、Bi2223相を形成することができる。このように、結晶粒子の配向性を劣化させる要因となる粒子を形成させないという観点からも、本製造方法において、形成されるBi2223相の結晶粒子の配向性をさらに向上させることができるといえる。
【0061】
また圧延工程(S40)さえも、本実施の形態1の製造方法においてはもっぱら形成する超電導線材の形状をテープ状にするために行なわれるものとなる。つまり圧延工程を行なう時点では、酸化物超電導体の結晶粒子の配向性の向上はなされないことになる。
【0062】
なお焼結工程(S70)においても再生成工程(S60)と同様に、上記の加熱温度を1時間以上3時間以下の時間、より好ましくは2時間以上3時間以下の時間、保持することが好ましい。このようにすれば、さらに確実に緻密化され、かつ適度に結晶成長された、固相のBi2212の結晶粒子を再生成することができる。
【0063】
なお本実施の形態1においては、以上に述べた工程(S50)から工程(S70)までの各工程を、すべて同一の装置内で連続して行なうことができる。
【0064】
当該酸化物超電導線材はたとえば図8の超電導線材10のように、テープ状を有する臨界電流値の高い超電導線材であり、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置などの超電導応用機器に広く用いることができる。
【0065】
(実施の形態2)
本実施の形態2に係る超電導線材の製造方法は、本実施の形態1に係る超電導線材の製造方法と、大筋で同様の手順である。すなわち実施の形態2の製造方法についても、実施の形態1の製造方法と同様に上述した図1のフローチャートに記載の製造工程に基づき説明できる。
【0066】
図9は図6と同様に、横軸は時刻(経過時間)を、縦軸は原料粉末1の加熱温度を示している。つまり図9は実施の形態1における図6のグラフに相当する。また図9は図6と異なり実線のグラフのみを示している。すなわち図9においては本実施の形態2における加熱温度の時間変化のみを示している。
【0067】
図9のグラフと図6の実線グラフ13とを比較すると、溶融工程(S50)における加熱状態を示す溶融時加熱到達温度15や、溶融時加熱到達温度15に到達するまでの昇温の速度、焼結工程(S70)における焼結時加熱温度19や、焼結時加熱温度19に加熱された状態を保持する時間などはいずれもほぼ同じである。しかし図1の再生成工程(S60)における加熱状態を示す、図9における再生成冷却温度16の態様が、図6における再生成加熱温度17と異なる。具体的には本実施の形態2においては、溶融工程(S50)と焼結工程(S70)との間に挟まれた工程である再生成工程(S60)は、溶融工程(S50)と焼結工程(S70)とを別のラインで行なう独立した工程とするための工程である。
【0068】
つまり本実施の形態2の工程(S60)は、たとえば工程(S50)での加熱に用いた設備からいったん金属管9を取り出し、焼結工程(S70)を別の設備で行なうために金属管9を移し替える場合に用いることが好ましい。この点において、工程(S50)から工程(S70)までをすべて同一の設備内で行なう本実施の形態1と異なる。このため実施の形態2においては、図9の再生成冷却温度16は、溶融工程(S50)から焼結工程(S70)へ移行する際の切り替えにおいて、溶融された原料粉末1が自然に冷却される温度を示している。したがって図9において、再生成冷却温度16は図6の再生成加熱温度17のように一定の温度とはなっておらず、徐冷される態様となっている。
【0069】
再生成冷却温度16は一定ではないが、実施の形態1の再生成加熱温度17のように、液相のBi2212の設定温度は700℃以上800℃以下とすることが好ましい。しかしそのなかでも当該設定温度を730℃以上790℃以下とすることがさらに好ましい。このようにすれば、さらに確実に緻密化され、かつ適度に結晶成長された、固相のBi2212の結晶粒子を再生成することができる。また実施の形態2の再生成工程(S60)においては、上記のBi2212の温度範囲である状態が1時間以上10時間以下の時間、より好ましくは3時間以上8時間以下の時間、保持されることが好ましい。このようにすれば、さらに確実に緻密化され、かつ適度に結晶成長された、固相のBi2212の結晶粒子を再生成することができる。
【0070】
以上の過程により、本実施の形態2においても、本実施の形態1における製造方法に従った場合と同様に、最終的に形成されるBi2223相の配向性や臨界電流値が向上された超電導線材10(図8参照)を提供することができる。
【0071】
本発明の実施の形態2は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態2について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
【0072】
(実施の形態3)
本実施の形態3に係る超電導線材の製造方法は、本実施の形態1に係る超電導線材の製造方法と、大筋で同様の手順である。しかし本実施の形態3の製造方法は、図10のフローチャートに示すように、図1のフローチャートの記載に対して、溶融工程(S50)と再生成工程(S60)との間に冷却工程(S55)がさらに備えられている。
【0073】
このように、工程(S50)において溶融された原料粉末1を、再生成工程(S60)よりもさらに低い温度に冷却する工程を、溶融工程(S50)と再生成工程(S60)との間に挟んでもよい。工程(S55)は、図11のグラフにおける冷却温度18で表わされる。図11は図6などと同様に、横軸は時刻(経過時間)を、縦軸は原料粉末1の加熱温度を示している。つまり図11は実施の形態1における図6のグラフに相当する。また図11も図9と同様に実線のグラフのみを示している。すなわち図11においては本実施の形態3における加熱温度の時間変化のみを示している。
【0074】
図11に示すように冷却工程(S55)においては原料粉末1を、常温から一定の冷却速度(たとえば50℃/min以上400℃/min以下の冷却速度)で冷却する。また図11に示すように、冷却温度18に到達すれば直ちに次の再生成工程(S60)に移行するために加熱温度を上げ始めることが好ましい。これは冷却された時間が長いと、工程(S60)における加熱に時間を要する可能性があるためである。
【0075】
冷却工程(S55)においては、溶融工程(S50)において溶融されたBi2212の原料粉末1の液相表面からBi2201相が析出する。なおここではBi2201とは(Bi、Pb)SrCuOの化学式で表わされるBi(Pb)2201を含むものとする。つまりたとえ工程(S10)においてBi2201相を主相とした原料粉末ではなくBi2212相を主相とした原料粉末を準備した場合においても、冷却によりBi2201相が析出する。
【0076】
具体的には工程(S55)においては、溶融された原料粉末1を、550℃以下の温度まで冷却することが好ましい。工程(S55)において当該原料粉末1が550℃を超える温度までしか冷却しない場合、Bi2201が十分に析出できない可能性がある。このため溶融された原料粉末1を上述した範囲内の温度に冷却することが好ましい。
【0077】
Bi2201相は管状容器5の内部において析出される際に、図7に示す銀または銀合金からなる管状容器5とフィラメント30との境界部分において、管状
容器を構成する銀の結晶粒子の配向する方向に沿った方向に配向する。つまりBi2201は銀の結晶粒子に倣って高い配向性を有するように配向する。このBi2201相の結晶表面は、Bi2212相が形成される起点としての役割を有する部分である。言い換えればBi2212相は、Bi2201相を構成する結晶粒子の表面から生成することが知られている。このため、予め配向性の高いBi2201相を形成しておくことにより、次の再生成工程(S60)における加熱において配向性の高いBi2212相を形成することができる。
【0078】
工程(S55)においても、工程(S50)と同様に、窒素やアルゴンなどの不活性ガス雰囲気中にて行なうことが好ましい。工程(S55)では工程(S50)に比べて溶融された原料粉末1は低温となるが、Bi2212を形成する前工程であるため、銀が酸化することを抑制するために、不活性ガス雰囲気中にて処理を行なうことが好ましい。
【0079】
なお本実施の形態3においては、実施の形態1と同様に、工程(S50)から工程(S70)までの各工程を、すべて同一の装置内で連続して行なうことが好ましい。
【0080】
本発明の実施の形態3は、以上に述べた各点についてのみ、本発明の実施の形態1と異なる。すなわち、本発明の実施の形態3について、上述しなかった構成や条件、手順や効果などは、全て本発明の実施の形態1に順ずる。
【0081】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した各実施の形態ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、臨界電流値の高い高品質なビスマス系超電導線材を形成する技術として、特に優れている。
【符号の説明】
【0083】
1 原料粉末、3 漏斗、5 管状容器、5a 加工前素線、5b 加工後素線、7 丸ダイス、9 金属管、9a 加工前多芯線、9b 加工後多芯線、10 超電導線材、11 ロール、13 実線グラフ、15 溶融時加熱到達温度、16 再生成冷却温度、17 再生成加熱温度、18 冷却温度、19 焼結時加熱温度、23 点線グラフ、30 フィラメント、31 (Ca、Sr)−Cu−O粒子、33 Bi(Pb)2212粒子、90 巻回用ドラム、99 誘導加熱用コイル。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスマス系超電導線材の原料粉末を銀または銀合金の管状容器に充填する工程と、
前記原料粉末に含まれるビスマスを含む化合物を溶融するように加熱する工程と、
前記ビスマスを含む化合物をBi2223相にするために焼結する工程とを備える、ビスマス系超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱する工程においては、不活性ガス雰囲気中で前記ビスマスを含む化合物を820℃以上900℃以下に加熱する、請求項1に記載のビスマス系超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記加熱する工程と前記焼結する工程との間に、溶融された前記ビスマスを含む化合物から固相Bi2212相を再生成する工程をさらに備える、請求項1または2に記載のビスマス系超電導線材の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のビスマス系超電導線材の製造方法を用いて形成された超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−96609(P2011−96609A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252197(P2009−252197)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】