説明

ビチューメンの移送特性を改良する方法

ビチューメンの硬化温度を低下させるために添加剤を使用し、それによってビチューメンをある場所から別の場所へとより容易に移送することができる。ビチューメンの硬化温度を低下させるのに使用することのできる添加剤は、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂及びオキシアルキル化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂と、アミン及びエステルと、溶剤とそれらの組み合わせとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビチューメン及びアスファルトを製造し、用いる方法に関する。より詳しくは、本発明は、ビチューメンとアスファルトとを移送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビチューメン、ケロゲン及びタール等の重質炭化水素は、地層中に存在することの多い高分子量炭化水素である。このような炭化水素は、周囲温度で、濃い粘稠な液体から固体に亘る状態にあり、一般に、有用な形態で回収するのには非常に費用がかかる。ビチューメンは、カナダのアルバータ州及びベネズエラのオリノコ川北部にあるオリノコ油田地帯等の場所におけるタールサンドで天然に産出する。ケロゲンは化石燃料の前駆体であり、油母頁岩を形成する材料でもある。ビチューメンの前駆体であると考えられているケロゲンは、堆積岩層中でよく発見される。
【0003】
一般に、重質炭化水素は、道路の舗装及び屋根葺き用のアスファルト及びタール組成物において、また、防水調合物の成分等の数多くの用途に使用されてきた。重要なこととしては、重質炭化水素はより軽質の炭化水素を生成するための潜在的価値のある原料であることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3,662,953号
【発明の概要】
【0005】
一面において、本発明は、無変性のビチューメンを添加剤と混合して変性ビチューメンを製造し、該変性ビチューメンの硬化点(set up point)が前記無変性のビチューメンの硬化点よりも少なくとも2℃低い、ビチューメンの変性方法である。
【0006】
別の面において、本発明は、無変性のビチューメンを添加剤と混合して製造され、前記無変性のビチューメンの硬化点(set up point)よりも少なくとも2℃低い硬化点を有する、変性ビチューメンの組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本願明細書においては、ビチューメンという用語は、ビチューメンのみならず、ケロゲン、タール及び周囲温度で固体又は高度に粘稠である他の高分子量炭化水素も意味する。例えば、ビチューメンとコークスとは、精製工程における原油にとっての最終残留物であることが多い。通常、ビチューメンとコークスとは原油から作られる製造物の内の最も価値の低いものである。ビチューメンはアスファルトと称されることもある。
【0008】
原油からは低分子量の炭化水素をできるだけ多く製造するのが望ましいことが多い。それに際する1つの問題点は、より低分子量の炭化水素を原油から抽出するにつれて、残った原油の粘度が増加することである。より低分子量の炭化水素を残っている原油から除去し過ぎると、固体や高度に粘稠な炭化水素を扱うことのできる処理段階にビチューメン又はコークスをさらに送ることができない段階で、残留原油がビチューメン又はコークスになってしまう。このような事態が発生すると、経費と時間がかかる回復努力がなされなければならなくなる場合がある。例えば、より低分子量である炭化水素を溶剤として戻すか、ビチューメン又はコークスで塞がれたユニットを清掃する機械的又は水圧力的方法を用いなくてはならない場合もある。
【0009】
ビチューメンを移送することに係る問題は、精製工程においては生じないということではない。ビチューメンは、ポリマーと混合して屋根葺き材及び舗装材を製造するのに使用される。もし、ビチューメンが過度に、典型的には硬化点近くまで冷却されると、再加熱するか、そうでなければ、固体として取り扱わなければならなくなる。このような事態は望ましくない。
【0010】
例えば、ビチューメンのある用途においては、当該目的のために特に装備されたトラックでビチューメンを対象面にスプレーすることができる。ウィーンズに与えられた米国特許第3,662,953号(この参照によってその全開示を本願明細書に取り入れる。)は、ヒータとスプレーバーとを有し、弁多岐管及び弁とシスタンと外部連結接続部材とを備えたタンク車を開示している。このタンク車は、スプレーバーによって単に道路にビチューメンをスプレーする以外にも様々な操作を行うために、好ましくは、所望のビチューメン回路の組み合わせにおいて流体圧によって操作される弁作動手段を備えた主幹制御機を有している。ビチューメンが前記多岐管内で凝固するのを防ぐために、ビチューメンをスプレーバーに導入することなく、加熱したタンクからビチューメンをポンプで送出して当該タンクに戻すことによって多岐管を暖めることができることも開示されている。
【0011】
一態様において、ここに開示される発明は、無変性のビチューメンを添加剤と混合することによって変性する方法であり、変性されたビチューメンは無変性のビチューメンよりも少なくとも2℃低い硬化点を有する。このような変性に使用することのできる添加剤としては、アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂及びオキシアルキル化アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0012】
アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂は、通常、アルキルフェノールとホルムアルデヒドとを酸又は塩基を触媒として縮合することによって製造される。アルキル基は直鎖状又は分岐しており、約3〜約18、好ましくは約4〜約12の炭素原子を有している。代表的な酸触媒としては、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)、トルエンスルホン酸、三フッ化ホウ素、蓚酸等を挙げることができる。代表的な塩基性触媒としては、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム等を挙げることができる。一態様においては、アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂の分子量(Mn)は、約1,000〜約50,000である。また別の態様においては、アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂の分子量は、約1,000〜約10,000である。
【0013】
アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂は、塩基性触媒の存在下でアルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂をエチレンオキシド等のエポキシドと接触させることによってオキシアルキル化してもよい。例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いてこのような樹脂を製造することもできる。樹脂が有するOH基に対するエポキシドのモル比は、約1〜約50であればよい。ある態様においては、このモル比は約2〜約8である。さらに別の態様においては、当該モル比は約3〜約7である。アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂及びオキシアルキル化アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂は、このような樹脂を製造する技術分野の当業者に有用であるとして知られているあらゆる方法を用いて製造することができる。
【0014】
本発明のいくつかの態様に対して使用することのできる添加剤は、その他の有機化合物及び有機溶剤を含むことができる。いくつかの態様の添加剤に対して用いることのできる有機化合物としてはアミン及びエステルを挙げることができるが、これらに限定されない。例えば、本発明の方法は、トリエチルテトラアミン、トリブチルテトラアミン、エチレンジアミン、テトラエチルペンタアミン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酪酸エチル等及びこれらの組み合わせを例として挙げることのできる添加剤を用いて行うことができる。
【0015】
本発明のいくつかの態様に対して使用することのできる有機溶剤としては、エチルベンゼン、キシレン、トルエン等を挙げることができるが、これらに限定されない。添加剤中に溶剤を存在させる場合には、約5w/v%〜約95w/v%の濃度で存在させることができる。他の態様においては、溶剤を存在させるのであれば、約10〜90%の濃度で存在させる。さらに他の態様においては、溶剤を約15〜約85%の濃度で存在させることができる。
【0016】
ここに開示されている添加剤は、無変性である同一のビチューメンに比べて、変性したビチューメンの硬化温度を少なくとも2℃低くすることのできる量であれば、いかなる量で使用することもできる。硬化温度の測定は、ビチューメンを試験するのに通常の技量を有する当業者に知られているあらゆる方法を用いて行うことができる。例えば、撹拌棒でビチューメンを撹拌して、撹拌棒が固定されて動かなくなったときの温度を記録するというような方法を採用することができる。また、例えば示差走査熱量計を使用する機器的な方法も採用することができる。
【0017】
本願明細書に開示される添加剤成分の内のあるものは、あまりにも急速に加熱されるか、当該成分をビチューメンと混合するのに好適ではない条件下で加熱されると、蒸発して無駄になってしまうような沸点又は蒸気圧を有していてもよい。この場合、ビチューメンがそのような添加剤成分の沸点近く又は沸点を超える温度にまで加熱されると、ビチューメンと添加剤とが先に混合され、次いで徐々に加熱されて、添加剤成分の全部、又はできるだけ多くがビチューメンに取り込まれる。
【0018】
ビチューメンが移送され又は動かされている最中であって、ビチューメンを再加熱しなければならない事態を避けるのが望ましいあらゆる場合において、使用方法の具体的な態様を採用することができる。例えば、一態様において、ビチューメンが鉄道又はタンク車で輸送されているときには、車両又はタンクはビチューメンが積載されるとすぐに冷え始める。本発明の添加剤を用いると、ビチューメンが当該ビチューメンの硬化温度に冷却される前に車両又はタンクが目的地に到着することができるように、硬化温度を下げることができる。これによって、再加熱することなく、ビチューメンを車両やタンク車から取り出すことができる。他の用途においては、本発明の添加剤を精油所内で使用して、無変性状態では粘稠度が高すぎてユニット内を動くことのできないビチューメンを、溶剤を使用したり、人手による洗浄を行ったりすることなく、ユニット内を動かすことができるようにする。さらに別の態様においては、ビチューメンをポンプで送出するのに必要なエネルギー量を低減するために本発明の添加剤を使用することができる。
【0019】
(実施例)
以下の例は、本発明の説明のために示される。以下に示す例は本発明の範囲を限定することを意図するものではなく、そのように理解すべきではない。量は、特に断りがない限り、w/v部又はw/v%で示されている。
【0020】
(添加剤試料の製造)
三種類の添加剤が製造された。
添加剤Aは、エチルベンゼン15重量部と、分子量が約5000〜約7000でエチレンオキシドと樹脂の水酸基との比が約6:1であるエトキシル化ノニルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂85重量部とを用いて製造された。
【0021】
添加剤Bは、分子量が約3000〜約5000であるノニルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂5重量部と、トリエチルテトラアミン1重量部と、トルエン94重量部とを混合することによって製造した。
【0022】
添加剤Cは、分子量が約3000〜約5000であるノニルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂5重量部と、トリエチルテトラアミン1重量部と、酢酸エチル47重量部と、トルエン47重量部とを混合することによって製造した。
【0023】
(例1)
ビチューメンの試料25gをオーブンで400°Fに加熱し、所定量の添加剤Aと共に缶に封入した。対照の試料は添加剤なしで行った。缶を10秒間転がして、ビチューメンと添加剤とを混合した。両試料について、缶を開けて温度プローブをビチューメンに挿入した。撹拌棒を用いて撹拌しながら、周囲条件下で試料を冷却した。試料を撹拌しながら、撹拌棒が固定されて動かせなくなった時点の温度を記録した。添加剤を含有している試料のこの「硬化」温度を、添加剤を含有していない試料の硬化温度と比較した。硬化点の低下が、対照と比較した試料の硬化温度における低下のパーセントとして報告された。結果が下の表に示されている。
【0024】
(例2)
添加剤として添加剤Bを使用した外は、実施例1を実質的に繰り返した。
【0025】
(例3)
添加剤として添加剤Cを使用した外は、実施例1を実質的に繰り返した。
【0026】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
無変性のビチューメンを添加剤と混合して変性ビチューメンを製造し、該変性ビチューメンの硬化点(set up point)が前記無変性のビチューメンの硬化点よりも少なくとも2℃低い、ビチューメンの変性方法。
【請求項2】
前記添加剤が、アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂、オキシアルキル化アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂及びこれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記添加剤がアルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂が約3〜約18の炭素原子を有するアルキル基を有することを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂が約4〜約12の炭素原子を有するアルキル基を有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂が、ドデシルベンゼンスルホン酸(DDBSA)、トルエンスルホン酸、三フッ化ホウ素、蓚酸、及びこれらの組み合わせよりなる群から選択される触媒を用いて製造されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂が、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシド、水酸化ナトリウム、及びこれらの組み合わせよりなる群から選択される触媒を用いて製造されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂の分子量が約1,000〜約5,000であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂の分子量が約1,000〜約10,000であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記添加剤がオキシアルキル化アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記オキシアルキル化アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂が、塩基性触媒の存在下で、前記アルキルフェノール−ホルムアルデヒド樹脂をエポキシドに接触させることによって製造されることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記エポキシドがエチレンオキシドであることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記塩基性触媒が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、及びこれらの組み合わせよりなる群から選択されることを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記樹脂が有するOH基に対するエポキシドのモル比が約1〜約50であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記樹脂が有するOH基に対するエポキシドのモル比が約2〜約8であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記樹脂が有するOH基に対するエポキシドのモル比が約3〜約7であることを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記添加剤がアミン及び/又はエステルをさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記アミン及びエステルが、トリエチルテトラアミン、トリブチルテトラアミン、エチレンジアミン、テトラエチルペンタアミン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酪酸エチル、及びこれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記添加剤が溶剤をさらに有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記溶剤が、エチルベンゼン、キシレン、トルエン、及びこれらの混合物よりなる群から選択されることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
無変性のビチューメンを添加剤と混合して製造され、前記無変性のビチューメンの硬化点(set up point)よりも少なくとも2℃低い硬化点を有する、変性ビチューメンの組成物。

【公表番号】特表2011−529120(P2011−529120A)
【公表日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−520153(P2011−520153)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【国際出願番号】PCT/US2009/051354
【国際公開番号】WO2010/011716
【国際公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(301008534)ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】