説明

ビット

【課題】地中の掘削をするとともに鉄材料を完全に切削することができ且つ衝撃負荷による欠損を防止する単一の切刃部を備えたビットを提供する。
【解決手段】本発明のビット1は、すくい面21と、逃げ面24、25と、これらすくい面21と逃げ面24、25との交差稜線に形成された切刃22、23と、からなる切刃部を備え、前記切刃22、23を鋭利に形成し且つ前記切刃22、23に連なるすくい面21のすくい角αを−40°以上の負角に設定した。該切刃22、23を鋭利に形成するため、該切刃22、23に直交する断面において、稜線部をまったく丸みのないシャープエッジ又は曲率半径1.0mm以下の微小円弧状、好ましくは0.5mm以下の微小円弧状に形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は地中を掘削するビットに関し、地中に埋没した鉄筋、H鋼等の鉄骨や鋼矢板、鋼管杭等の鉄材料を切削するのに適したビットに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄材料からなる建築物の基礎杭は地下数10メートルに深く入っているために、これを除去するには基礎杭のまわりを掘削して取り除くが、その後クラッシャー等で押しつぶして除去したり、基礎杭をそのままクレーンで吊り上げて撤去したりすることがある。機械掘削で用いる従来のビットでは、土砂やレキを掘削することはできるが、鉄材料を安定的に切削することが困難である。これは、切れ味よりも耐衝撃性(耐欠損性)が重視されるビットの刃先の稜線には、欠損防止のための大きなアールや面取りが施されており、鉄切削には不向きだからである。このようなことから、掘削中に鉄材料を削って除去することができない場合には、途中で機械的に切断したりバーナによって切断したりする作業を併用することになるため困難な作業となっていた。
【0003】
この種のビットに関連する従来技術として、図7に示す掘削用ビットがある。この掘削用ビットは、略直方形ブロックを呈するビット本体に、掘削方向を基準にして、ガイド部材が掘削刃部材に先行するように連設されていて、前記ガイド部材が少なくとも一対のガイド片としてビット本体の両側面側に備えられ、その掘削方向では、前記掘削刃部材に向かって上り傾斜の案内面が形成されるようになっており、前記掘削刃部材は、その上面部分に、超硬合金からなる複数個の棒状チップが植込まれ、しかもこの棒状チップのうち最高位置にあるものが、前記ガイド部材の最高位置よりも高位にあるようにしたものである(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
図8に示す掘削用ビットは、ビット本体の先端に掘削用チップが備えられたものであり、前記掘削用チップには、すくい面および逃げ面にかけて突円弧状を呈する楔切刃が形成されたものである(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
図9に示すものは、前端にケーシングビットを管の円周方向に間隔をあけて複数個取付け、さらに、ケーシングビット間の管端面に、超硬合金粒を金属鑞材で固めて作られる鋼索切断歯を取付けて構成されるケーシング掘削機の掘削先頭管である(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
【特許文献1】特開2002−317596号公報
【特許文献2】特開平8−13973号公報
【特許文献3】特開平8−13975号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図7に示す掘削用ビットにおいて、複数の棒状チップが植え込まれた掘削刃部材は鉄筋を細かく切断するのに適するものの切削するのには不向きであるため、鉄骨や鋼矢板、鋼管杭等の鉄材料を含む障害地盤を掘削することが困難であった。図8に示す掘削用ビットは、切削溝が円弧で形成された細い溝になるため、掘削幅を広げるための他のビットを併用しなければならなかった。図9に示すケーシング掘削機の掘削先頭管は、ケーシングビットにより鋼索の素線を切削するものの、最終的に素線を折り曲げて切断するものであり、鉄骨や鋼矢板、鋼管杭等の鉄材料を含む掘削において、切削性能、刃先寿命等を十分に考慮した切刃形状の設計がなされているとはいえなかった。
【0008】
このように従来のビットでは、上記鉄材料を円滑に切削できず、ビットの刃先に大きなアールや面取りが施されたものでは上記鉄材料の表面を押し付けてしまうことになり、特に鉄板や鋼管のような薄肉形状のものでは変形させてしまい、結果的に押しつぶして回収できなくなるか、もしくは大きな破片のまま切り離すか、あるいは、巻き込んでしまうために回収するどころか掘削機械を止めて、人為的に取り除く方法を採らざるを得なかった。そのため、無理な切削によって変形させず切れ味に優れた切刃をもつビットが必要であった。
【0009】
しかしながら、過度に切刃形状を鋭利にすると大規模な欠損を招くことになる。すなわち、掘削用ビットの切刃の材料として一般的に用いられる超硬合金は、靭性が低く土木機械では送り量などの制御が甚だ困難であり、また、上記鉄材料は様々な形態で埋没しているうえに不安定な状態で埋没していることから、切刃の刃先には断続的な衝撃負荷がかかるからである。
【0010】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は地中の掘削をするとともに鉄材料を完全に切削することができ且つ衝撃負荷による欠損を防止する単一の切刃部を備えたビットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、すくい面と、逃げ面と、これらすくい面と逃げ面との交差稜線に形成された切刃と、からなる切刃部を備えた地中を掘削するためのビットにおいて、前記切刃を鋭利に形成し、且つ前記切刃に連なるすくい面のすくい角を0°未満且つ−40°以上の範囲としたことを特徴とするビットである。前記すくい角は、すくい面がその先端に向かうにしたがってビットの切削方向後方側に後退するように傾斜する場合を負とする。切刃を鋭利に形成するとは、切刃に直交する平面で切断した断面形状において、切刃の稜線部をまったく丸みのないシャープエッジ又は曲率半径1.0mm以下の微小円弧状、好ましくは曲率半径0.5mm以下の微小円弧状に形成することである。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明において、前記切刃に、前記すくい面と前記逃げ面とをつなぐように面取り状のホーニング面を形成したことを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係る発明において、該ビットを切削方向からみたとき、前記切刃がくさび角を有することを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係る発明において、前記切刃部を2種以上の硬度の異なる材料で形成し、該ビットの切削方向の最も前方側に位置していて切刃を含む部位に、最も硬度の高い材料を配置し、この材料を後方側から支持するように前記切削方向後方側に向かうにつれ前記材料より硬度の低い材料を順次、連続して配置したことを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係る発明において、前記切刃部を2種以上の硬度の異なる材料で構成し、切刃に沿う方向で、最も硬度の高い材料同士の間に前記材料より硬度の低い材料を少なくとも1種を介在するように配置したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明は、その切刃を鋭利に形成し、且つ前記切刃に連なるすくい面のすくい角を−40°以上の負角としたことから、地中の掘削において、前記切刃が鉄材料に食い込み引き裂く作用を有効にして、単一形状の切刃部により鉄材料の切削を可能にする。しかも、切刃が鉄材料に食い込むとき、切刃部が該切刃部に作用する押し付け力に対して十分な強度を確保するので、該切刃部の欠損や破損等の損傷が抑えられて切刃寿命の延長を可能とする。特に、地中に不安定な状態で埋没した鉄材料を切削するとき、切刃に作用する断続的な衝撃負荷によって切刃部が欠損するのを防止する。前記すくい角が正角になると、切刃に直交する平面で切断した断面形状において、すくい面と逃げ面とのなす角度が小さくなり欠損しやすくなるほか、刃先稜が最初に鉄材料に食い込むことになり該刃先稜近傍が刃こぼれしやすくなる。前記すくい角が−40°未満になると、鉄材料に食い込み引き裂くことができなくなるおそれがある。特に刃先稜近傍の刃こぼれを防止する作用と鉄材料に食い込み引き裂く作用を特に大きくすることに配慮して、前記切刃に連なるすくい面のすくい角を−5°〜−35°の範囲とするのが望ましい。このようにすくい角が−5°以下となるようにすくい面を傾斜させると、鉄材料の切削時に切刃部に作用する力(切削抵抗)が該切刃部の内部に向かうようになるため、該切刃部は切削抵抗に対する耐力が大きくなり欠損が防止される。
【0017】
請求項1に係る発明において、切刃の鋭利さはまったく丸みのないシャープエッジであることが好ましいが、鉄材料への食い込みの状況によっては切刃近傍の欠損を防止することに配慮して、請求項2に係るビットのように、すくい面と逃げ面とをつなぐ所定の面取り状をなすホーニング面を形成することが望ましい。加工の容易性ならびに切刃の刃先近傍を強化することに配慮して、前記ホーニング面のすくい角は、該ホーニング面の後方に連なるすくい面のすくい角より負とされ、切削方向からみて該ホーニング面の幅は、0.5mm〜3.0mmの範囲に設定されるのが好ましい。鉄材料の切削において、実効的なすくい面として機能するホーニング面30は、鉄材料への食い込み引き裂く効果を奏するうえに、先端切刃22及び横切刃23の近傍を強化するため、これら切刃22、23に作用する断続的な衝撃負荷による刃こぼれや欠損を大幅に抑制する。
【0018】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に係るビットにおいて、切刃がくさび角を有するようにしたことから、切刃の鉄材料への食い付き作用がいっそう有効となる。前記くさび角は、切刃部を切削方向からみたとき、切刃が掘削方向に向かって凸の山形により構成されることが望ましい。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係るビットにおいて、前記切刃部を2種以上の硬度の異なる材料で形成し、該ビットの切削方向の最も前方側に位置していて切刃を含む部位に、最も硬度の高い材料を配置し、この材料を後方側から支持するように前記切削方向後方側に向かうにつれ前記材料より硬度の低い材料を順次、連続して配置したことから、地中の掘削ならびに鉄材料の切削において、切刃部の摩耗を抑制して切刃寿命を延長させるほか、ビット本体にろう付けされた切刃部材において、ろう付けによる残留応力に伴う内部歪みによって発生する、切刃部とビット本体との接合強度の低下、ろう付け割れといった問題が解消する。
【0020】
請求項5に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項に係るビットにおいて、前記切刃部を2種以上の硬度の異なる材料で構成し、切刃に沿う方向で、最も硬度の高い材料同士の間に前記材料より硬度の低い材料を少なくとも1種を介在するように配置したことから、硬度差に起因する耐摩耗性の違いから生じる各材料間の切刃後退量の差によって切刃に段差が発生するため、鉄材料への切刃の食い込みがいっそう良好となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
次に、本発明を適用した第1の実施形態について図を参照しながら説明する。図1の(a)〜(c)は順に第1の実施形態に係るビットの平面図、正面図、A矢視図である。図2の(a)及び(b)はそれぞれ図1に示すビットの切刃に直交する平面で切断した拡大断面図である。図3は図1に示すビットの変形例の要部拡大平面図である。図4は図1に示すビットの変形例を説明する図であり図2に相当する図である。
【0022】
図1の(a)〜(c)において、ビット1は、ケーシングビットに用いられるビットであり、鋼材等からなる板状のビット本体10の先端部上面に段部11が切欠かれ、この段部11に超硬合金からなる切刃部材20がろう付けにより接合されてなる。ビット1の後端側には、ビット本体10の幅方向に対向するように一対の方形板状の取付け部12が略平行に形成されていて、これら取付け部12の高さ方向中央部には、該ビット1を図示しない円筒状のケーシングパイプの下端に取付けるための取付けボルトが挿通される取付け穴13が前記幅方向に貫通するように形成されている。なお、前記取付け部12を省略して、ケーシングパイプの下端に直接溶接により接合されてもよい。
【0023】
切刃部材20の上面に形成されたすくい面21、先端側縁辺及び幅方向の両側の縁辺にそれぞれ形成された先端切刃22及び横切刃23、先端切刃22及び横切刃23から下方に延びる側面にそれぞれ形成された先端逃げ面24及び横逃げ面25によって切刃部が構成されている。先端逃げ面24及び横逃げ面25は、切刃22、23から下方に向かうにつれ漸次内側に向かうように傾斜して、掘削時に土砂や岩石ならびに鉄材料との間にクリアランスが確保されるように正の逃げ角β1、β2が付されている。これら逃げ角β1及びβ2は、掘削抵抗の低減ならびに切刃部の強度を確保することに配慮して3°〜15°の範囲に設定されている。図2に示すように、先端切刃22に直交する平面で切断したときの断面形状において、すくい面21は、先端切刃22から後端側に向かうにつれ上方に向かうように傾斜して、切削方向に直交する面(図2において直線Hで示す。)となす角度であるすくい角αが−40°以上の負角となるように形成されている。さらに、先端切刃22はその切刃全体にわたって鋭利に形成されている。前記鋭利に形成するとは、前記断面形状において、先端切刃22の稜線部をまったく丸みのないシャープエッジ又は曲率半径1.0mm以下の微小円弧状、好ましくは曲率半径0.5mm以下の微小円弧状に形成することである。切刃稜線部はシャープエッジに形成されることが特に好ましいが、切刃稜線部の加工容易性と、鉄材料への切刃の食い込み引き裂き作用を両立することに配慮して、曲率半径1.0mm以下の微小円弧状に形成される。鉄材料への切刃の食い込み引き裂き作用を重視する場合には、曲率半径0.5mm以下とするのが好ましい。なお、図示しないが、本実施形態では横切刃23においてもその全体にわたって鋭利に形成されている。
【0024】
先端切刃22は、すくい面21に平行な方向からみて、その中央部から両側に行くにしたがって漸次下方に降下するように傾斜していることから、平面視では、該先端切刃22の中央部が両側よりも先端側に向かって若干突出するようにくさび角δが付されている。
【0025】
このように構成されたビット1によれば、先端切刃22及び横切刃23を鋭利に形成し、且つ先端切刃22に連なるすくい面21のすくい角αを0°未満且つ−40°以上の範囲としたことから、前記切刃22、23が掘削時に鉄材料に食い込み引き裂く作用を有効にして単一形状の切刃部によって鉄材料を完全に切削して切りくずとして除去することを可能にする。したがって、鉄筋や鋼索の素線を切断したり他の切刃と協働して切削したりするものとは異なり、前記切刃部のみにより鉄骨や鋼矢板、鋼管杭等の鉄材料を円滑に切削することができる。しかも、切刃22、23が鉄材料に食い込むとき、切刃部が該切刃部に作用する切削抵抗に対して十分な強度を確保するので、該切刃部の欠損や破損等の損傷が抑えられて切刃寿命の延長が可能となる。以上の効果から、地中に不安定状態で埋没した鉄材料を安定して切削できるほか、従来、強度の小さい鉄板や鋼管のような薄肉形状のものを変形させ押しつぶして回収不能になった鉄材料や切断後大きな破片になった鉄材料を、掘削作業を一旦止めて人為的に取り除いたり、前記破片を巻き込んでビット1が損傷したりすることがないため掘削効率が向上する。前記すくい角αが−40°以下になると切刃が鉄材料に食い込み引き裂く作用が得られなくなり鉄材料の切削が行えないおそれがあり、前記すくい角αが0°以上になると、切刃の強度が不足し刃こぼれや欠損を生じるおそれがある。
【0026】
さらに、上記ビット1によれば、平面視において、先端切刃22は中央部が両端部よりも先端側に向かって突出するようにくさび角δが付されていることから、鉄材料に食い付くとき前記中央部が最初に鉄材料に食い込んだ後、徐々に前記両端部が食い込むことになるため、食い込みによる鉄材料への押し付け力が一気に大きくなることがないので、先端切刃22の食い込みが円滑になり、地中に不安定な状態で埋没した鉄材料を安定して切削することができる。なお、ビット1が掘削した掘削溝の両溝壁に、該ビット1が挟まれて掘削時の負荷が大きくなるのを防止するため、溝底と溝壁との交差部に割れ(クラック)を発生させること、ならびに、くさびの頂部Cの欠損を防止することに配慮して、前記くさび角δは180°未満且つ160°以上の範囲に設定されるのが望ましい。図3に示すように、先端切刃22のくさびの頂部Cは、中央部以外に該先端切刃22のいずれかの端部側に偏倚していてもよい。
【0027】
すくい面21のすくい角αは−5°〜−35°の範囲に設定するのが特に望ましい。そうすれば、先端切刃22の鉄材料への食い込み引き裂く点でより大きな効果が得られるうえに、先端切刃22よりも先にすくい面21が鉄材料に食い込み前記先端切刃22を保護するため刃こぼれを防止する効果が奏される。さらに、すくい角αを−5°以下の負となるようにすくい面21を傾斜させ、鉄材料の切削時に切刃部に作用する力(切削抵抗)が該切刃部の内部に向かうようにすれば、該切刃部は切削抵抗に対する耐力が大きくなり欠損を防止する効果がいっそう大きくなる。
【0028】
すくい角αが0°未満且つ−40°以上の範囲に設定されたすくい面21は、鉄材料の切削に実質的に関与する実効的なすくい面にのみ形成されればよい。そのようなことから、先端切刃22の近傍に該先端切刃22に沿って所定の幅Wを有するホーニング面30が前記実効的なすくい面として形成されてもよい。このホーニング面30は、先端切刃22及び横切刃23に沿って、すくい面21と逃げ面24、25とをつなぐ面取り状をなし、切削方向Cでみた幅Wが0.5mm〜3.0mmの範囲内にあり、図2に示すように、先端切刃22、横切刃23にそれぞれ直交する平面で切断した断面形状において、前記切削方向に直交する平面Hに対する傾斜角度であるすくい角αが0°未満且つ−40°以上の範囲、特に好ましくは−5°〜−35°の範囲の負角となるように設定されている。前記幅Wが0.5mm未満になると切刃22、23の刃先近傍を強化する作用が得られなくなるおそれがあり、前記幅Wを3.0mmより大きくしても切刃22、23の刃先近傍を強化する効果の増加が見込めない。このホーニング面30の後方に連なるすくい面21についても実効的なすくい面として機能するように、すくい角α´は0°未満且つ−40°以上の範囲、特に好ましくは−5°〜−35°の範囲の負角に設定される。加工の容易性ならびに先端切刃22及び横切刃23の近傍を強化することに配慮して、前記ホーニング面30のすくい角αは、前記すくい面21のすくい角α´より負とされる。このように、実効的なすくい面としてホーニング面30を設けたことにより、鉄材料への食い込み引き裂く効果が奏されるうえに、先端切刃22及び横切刃23の刃先近傍を強化することができるため、これら切刃22、23に作用する断続的な衝撃負荷による刃こぼれや欠損を大幅に抑制することができる。なお、ホーニング面30を形成したときにも、先端切刃22及び横切刃23の切刃稜線部は、その断面形状がまったく丸みのないシャープエッジ又は曲率半径1.0mm以下の微小円弧状、好ましくは曲率半径0.5mm以下の微小円弧状に形成されている。
【0029】
以上に説明したビットの変形例を図4に示す。この断面図からわかるように、この変形例では、切刃部材20の上面のうち先端切刃22及び横切刃23に直接もしくはホーニング面30を介して連なる部位に第1すくい面21Aを形成したものである。この第1すくい面21Aは、先端切刃22にわたって図4に示す断面形状を呈するもので、前記先端切刃22とほぼ平行で、実質的なすくい面として機能させることを考慮して、切削方向Cでみた幅Wsが3.0mmを超え且つすくい面全体の幅を超えない範囲となるように設けられている。この第1すくい面21Aは、既述した先の実施形態のすくい面21と同一構成を有していて先の実施形態と同一の効果を奏する。第1すくい面21Aに連続して後方側且つ切削方向C反対側に向かうように形成された第2すくい面21Bは、実質的なすくい面として機能しないが、切削方向Cに直交する平面(図4において直線Hで示す。)に対する傾斜角度である、見かけ上のすくい角αbが正となっていて、後方側に向かうにつれ該第2すくい面21B前方側のスペースが漸次広くなるように形成されているので、掘削及び切削で除去された排出物をビット1の後方側に円滑に流す効果を奏する。第2すくい面21Bの見かけ上のすくい角αbは、過度に大きくなると切刃部材自体の強度が低下して破損するおそれがあるので、45°以下、好ましくは30°以下に設定されるのが好ましい。
【0030】
さらに、ケーシングビットに用いられるビットにおいて、本発明を適用した第2及び第3の実施形態について図面を参照しながら説明する。図5の(a)及び(b)はそれぞれ第2の実施形態に係るビットの平面図及び正面図である。図6の(a)及び(b)はそれぞれ第3の実施形態に係るビットの平面図及び正面図である。なお、図5及び図6において、第1の実施形態と同じ構成は同一符号で示し説明を省略する。
【0031】
図5に示す第2の実施形態に係るビット1は、ビット本体10にろう付けにより接合された切刃部材20が硬度の異なる2種の超硬合金で構成されている。すなわち、切刃部材20は、ビット1の切削方向(矢印Cの方向)最前部であって少なくとも先端切刃22を含む部位に配され硬度の高い超硬合金からなる第1部材20Aと、この第1部材20Aを切削方向後方側且つ後端側で支持するとともに前記第1部材20Aとビット本体10の間に介在し双方にろう付け接合又は拡散接合等により一体的に接合されていて前記第1部材20Aより硬度の低い超硬合金からなる第2部材20Bとから形成されている。なお、第1部材20Aは、先端切刃22だけでなく、図5に示すように横切刃23を形成してもよい。
【0032】
一般的に、超硬合金において硬度が異なる場合、耐摩耗性や靭性の差が生じる。すなわち、硬度の高い超硬合金は耐摩耗性が高い反面靭性が低くなり、硬度の低い超硬合金はその逆となる。このことから、第2の実施形態に係るビット1において、相対的に硬度の高い超硬合金からなる第1部材20Aによって形成された先端切刃22及び横切刃23は耐摩耗性が高く摩耗が抑制されるので寿命が長くなる。一方、相対的に硬度の低い超硬合金からなる第2部材20Bは、靭性が高いためろう付け接合又は拡散接合にともなう残留応力、内部歪みによる接合強度の低下やろう付け割れといった問題を解消する。第1部材20A及び第2部材20Bをそれぞれ構成する材料は、超硬合金に限らず、例えばセラミックと超硬合金、ダイヤモンド又は立方晶窒化硼素を含有する多結晶焼結体と超硬合金といった異種材料を組み合わせたものであってもよい。切刃部材20は硬度の異なる3種以上の材料で構成してもよく、その場合、先端切刃22を形成する材料が最も硬度の高い材料となり、この第1部材20Aから切削方向後方側且つ後端側に向かうにつれ、順次、硬度の低い材料が連続的に配されるのが望ましい。
【0033】
図6に示す第3の実施形態に係るビット1も、ビット本体10にろう付けにより接合された切刃部材20が2種の硬度の異なる超硬合金で構成されている。この場合、切刃部材20は、先端切刃22に沿う方向で、両端部及び中央部にほぼ等間隔となるように3箇所に配され最も硬度の高い超硬合金からなる第1部材20Aと、これら第1部材20A同士の間に配され第1部材20Aより硬度の低い超硬合金からなる第2部材20Bとから形成されている。隣接する第1部材20A及び第2部材20Bはろう付けによる接合又は拡散接合等により一体的に接合されて先端切刃22をそれぞれ分担して形成している。本実施形態では、第1部材20Aは切削方向(矢印C方向)及びビット1の前後方向の途中までしか形成されず、この第1部材20Aを第2部材20Bが前記切削方向後方側且つ後端側で支持するように形成され、前記第1部材20Aとビット本体10の間に介在し双方にろう付け接合又は拡散接合等により一体的に接合されている。先端切刃22に沿う方向で両端部に配された第1部材20Aは横切刃23を形成している。
【0034】
このように構成したビット1によれば、第1部材20A及び第2部材20Bを構成するそれぞれの超硬合金の耐摩耗性の差から、第1部材20Aと第2部材20Bとの間には、切刃後退量の差が生じ先端切刃22に段差が発生するため、鉄材料への先端切刃22の食い込みがいっそう良好となる。しかも、最も硬度の高い超硬合金でできた第1部材20Aを両端部に配し横切刃23を形成するようにしたことから、前記横切刃23の摩耗が抑制され、ビット1の寿命が向上する。さらに、前記第1部材20Aとビット本体10との間に介在するようにして、双方にろう付けされる第2部材20Bは、靭性が高いため、ろう付け接合又は拡散接合にともなう残留応力、内部歪みによって発生する接合強度の低下やろう付け割れといった問題を解消する。切刃部材20は硬度の異なる3種以上の材料で構成してもよい。
【0035】
本発明に係る実施形態は、以上に説明した実施形態に限定されることはなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更及び追加が可能であることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)〜(c)はそれぞれ第1の実施形態に係るビットの平面図、正面図、A矢視図である。
【図2】(a)及び(b)はそれぞれ図1に示すビットの切刃に直交する平面で切断した拡大断面図である。
【図3】図1に示すビットの変形例の要部拡大平面図である。
【図4】図1に示すビットの変形例を説明する図であり図2に相当する図である。
【図5】(a)及び(b)はそれぞれ第2の実施形態に係るビットの平面図及び正面図である。
【図6】(a)及び(b)はそれぞれ第3の実施形態に係るビットの平面図及び正面図である。
【図7】(a)及び(b)はそれぞれ従来の掘削用ビットの平面図及び正面図である。
【図8】(a)及び(b)はそれぞれ他の従来の掘削用ビットの正面図及び平面図である。
【図9】さらに他の従来掘削先頭管の展開側面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ビット
10 ビット本体
20 切刃部材
20A 第1部材
20B 第2部材
21 すくい面
22 先端切刃
23 横切刃
24 先端逃げ面
25 横逃げ面
30 ホーニング面
α すくい角
W ホーニング面の幅
δ 先端切刃のくさび角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
すくい面と、逃げ面と、これらすくい面と逃げ面の交差稜線に形成された切刃と、からなる切刃部を備えた地中を掘削するためのビットにおいて、
前記切刃を鋭利に形成し、且つ前記切刃に連なるすくい面のすくい角を0°未満且つ−40°以上の範囲としたことを特徴とするビット。
【請求項2】
前記切刃に、前記すくい面と前記逃げ面とをつなぐように面取り状のホーニング面を形成したことを特徴とする請求項1記載のビット。
【請求項3】
該ビットを切削方向からみたとき、前記切刃がくさび角を有することを特徴とする請求項1又は2記載のビット。
【請求項4】
前記切刃部を2種以上の硬度の異なる材料で形成し、該ビットの切削方向の最も前方側に位置していて切刃を含む部位に、最も硬度の高い材料を配置し、この材料を後方側から支持するように前記切削方向後方側に向かうにつれ前記材料より硬度の低い材料を順次、連続して配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のビット。
【請求項5】
前記切刃部を2種以上の硬度の異なる材料で構成し、切刃に沿う方向で、最も硬度の高い材料同士の間に前記材料より硬度の低い材料を少なくとも1種を介在するように配置したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載のビット。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−224549(P2007−224549A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−45156(P2006−45156)
【出願日】平成18年2月22日(2006.2.22)
【出願人】(000221144)株式会社タンガロイ (185)
【Fターム(参考)】