説明

ビニル環状炭化水素重合体を含有する樹脂組成物からなる成形物及びその製造方法

【課題】ビニル環状炭化水素重合体を主成分とする樹脂組成物からなる成形物であって、透明性、耐熱性、低吸水性などに優れ、複屈折が小さく、長期間にわたる高温高湿試験及び繰り返しスチーム試験でも白濁することがない成形物を提供すること。
【解決手段】少なくとも一種のビニル環状炭化水素重合体、及び該重合体に非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を樹脂温度を220〜320℃に、かつ、射出成形機のシリンダー内で250℃以上の樹脂温度で滞留する時間を30分間以内に制御して射出成形され、波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を温度65℃、相対湿度90%の雰囲気下に1000時間保持した後の成形物の光線透過率(b)とが、[(b)/(a)]×100≧70の関係を満足する成形物とその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル環状炭化水素重合体を含有する樹脂組成物からなる成形物及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、透明性、耐熱性、低吸水性などに優れ、複屈折が小さく、しかも高温高湿度環境下での白濁防止性に優れた樹脂組成物を成形してなる成形物及びその製造方法に関する。本発明の成形物は、光学部品や医療用成形品として特に好適である。
【背景技術】
【0002】
従来より、ポリスチレンなどのビニル芳香族系重合体の芳香環を水素添加した水素添加物、ビニルシクロヘキセン系重合体の水素添加物、ビニルシクロヘキサン系重合体などのビニル環状炭化水素重合体は、透明性、耐熱性、低吸水性などに優れ、複屈折が小さいため、光学部品などの透明性が要求される分野に好適な樹脂材料であることが知られている。
【0003】
例えば、特開昭63−43910号公報(特許文献1)には、分子鎖中にビニルシクロヘキサン成分を80重量%以上含有するビニルシクロヘキサン系重合体80〜100重量%とビニル芳香族系重合体0〜20重量%とを含有し、光線透過率が85%以上、吸水率が0.1重量%以下、及び複屈折が50nm以下の非晶性熱可塑性樹脂よりなる光ディスク基板が開示されている。該公報には、ビニルシクロヘキサン系重合体を製造する方法として、ビニル芳香族系重合体を水素化する方法、及びビニルシクロヘキサン類を重合する方法が示されている。
【0004】
また、特開平1−132603号公報(特許文献2)には、ビニル芳香族炭化水素化合物またはそれと共重合可能な単量体を(共)重合し、得られた重合体中の芳香族炭化水素環の少なくとも30%を水素添加して得られる重合体を構成成分とすることを特徴とする光学材料が開示されている。
【0005】
しかしながら、これらのビニル環状炭化水素重合体を成形して得られる成形品は、高温高湿環境下において白濁するという問題があった。より具体的に、これらのビニル環状炭化水素重合体からなる光ディスク基板やプラスチックレンズなどの光学部品は、高温高湿環境下に長時間置かれると、白濁して透明性が損なわれる。これらの光学部品は、様々な環境下で使用され、保管されるため、高温高湿環境下での白濁は、それらの本来の機能の喪失につながる重大な問題である。
【0006】
また、医療用成形品は、成形後または使用前に、スチーム滅菌処理を行うことが多いが、これらのビニル環状炭化水素重合体からなる注射器シリンダーなどの医療用成形品は、スチーム滅菌処理などの高温高湿条件下で白濁してしまい、その後の薬液充填時や使用時に、内容物を確認することができなくなるという問題があった。
【0007】
従来、透明な熱可塑性樹脂からなる成形品の高温高湿環境下での白濁(環境白化)を防止する方法として、特開平7−76657号公報(特許文献3)には、熱可塑性樹脂中に、ゴム質重合体などの非相溶な配合剤を粒径0.5μm以下のミクロドメインを形成するように分散させる方法が提案されている。該公報には、熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ−4−メチルペンテン−1等が例示されている。該公報の実施例には、ポリカーボネート中に少量のスチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体を微細に分散させた樹脂組成物から、121℃のスチームで30分間加熱するスチーム試験、及び温度85℃、相対湿度(RH)90%の環境下に48時間放置する高温高湿環境試験で白濁しない成形品の得られることが示されている(実施例1及び2)。
【0008】
また、特開平6−199950号公報(特許文献4)には、低分子量成分含有量及び遷移金属原子残留量が低いビニル環状炭化水素重合体からなる成形材料が開示されている。該公報の実施例には、ポリスチレン水素添加物に少量のゴム質重合体を配合した樹脂組成物を用いることにより、121℃、30分間のスチーム滅菌処理に耐える注射器シリンダーの得られることが示されている(実施例3)。
【0009】
しかしながら、これら公知文献に開示されている方法によれば、高温高湿環境下での白濁をある程度防止することができるものの、十分ではなく、例えば、精密光学部品に要求されるような長期間にわたる高温高湿環境試験及び医療用成形品に要求されるような繰り返しスチーム試験では、白濁を完全に防止することが極めて困難であった。
【0010】
【特許文献1】特開昭63−43910号公報
【特許文献2】特開平1−132603号公報
【特許文献3】特開平7−76657号公報
【特許文献4】特開平6−199950号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ビニル環状炭化水素重合体を主成分とする樹脂組成物からなる成形物であって、透明性、耐熱性、低吸水性などに優れ、複屈折が小さく、しかも長期間にわたる高温高湿試験及び繰り返しスチーム試験でも白濁することがない成形物、及びその製造方法を提供することにある。
【0012】
本発明者らは、前記従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、ビニル環状炭化水素重合体に、該重合体と非相溶な配合剤を配合した樹脂組成物を用いて成形物を成形する際に、成形温度や成形機内での樹脂組成物の滞留時間などの成形条件を工夫することにより、透明性、耐熱性、低吸水性、複屈折などの諸特性に優れると共に、長期間にわたる高温高湿試験及び繰り返しスチーム試験でも白濁することがない成形物の得られることを見いだした。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、(A)ビニル芳香族系重合体の水素添加物、ビニルシクロヘキセン系重合体またはその水素添加物、及びビニルシクロヘキサン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル環状炭化水素重合体、及び(B)該重合体に非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を樹脂温度を220〜320℃に、かつ、射出成形機のシリンダー内で250℃以上の樹脂温度で滞留する時間を30分間以内に制御して射出成形されたものである成形物であって、波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を温度65℃、相対湿度90%の雰囲気下に1000時間保持した後の成形物の光線透過率(b)とが、式(1)
[(b)/(a)]×100≧70 (1)
の関係を満足することを特徴とする成形物が提供される。
【0014】
また、本発明によれば、(A)ビニル芳香族系重合体の水素添加物、ビニルシクロヘキセン系重合体またはその水素添加物、及びビニルシクロヘキサン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル環状炭化水素重合体、及び(B)該重合体に非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を、射出成形するに際し、樹脂温度を220〜320℃に、かつ、射出成形機のシリンダー内で250℃以上の樹脂温度で滞留する時間を30分間以内に制御して射出成形することを特徴とする成形物の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の成形物は、波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を121℃の飽和蒸気圧1.1kg/cmの条件下に20分間保持し、室温に戻す操作を2回繰り返した後の光線透過率(c)とが、式(2)
[(c)/(a)]×100≧60 (2)
の関係を満足することができる。
本発明の成形物は、光学部品及び医療用成形品として特に好適である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成形物は、長期間にわたる高温高湿度環境下やスチーム環境下での白濁を防止することができ、しかも、透明性や耐熱性に優れ、複屈折が小さい。本発明の成形物は、光学部品や医療用成形品として特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
(ビニル環状炭化水素重合体)
本発明で使用するビニル環状炭化水素重合体は、(i)ビニル芳香族系重合体の水素添加物、(ii)ビニルシクロヘキセン系重合体またはその水素添加物、及び(iii)ビニルシクロヘキサン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種の重合体である。
【0018】
本発明で使用するビニル環状炭化水素重合体を得るために用いられる単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン、α−プロピルスチレン、α−イソプロピルスチレン、α−t−ブチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、2,4−ジイソプロピルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、4−t−ブチルスチレン、5−t−ブチル−2−メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノフルオロスチレン、4−フェニルスチレンなどのビニル芳香族化合物(スチレン系単量体);ビニルシクロヘキサン、3−メチルイソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン系単量体;4−ビニルシクロヘキセン、4−イソプロペニルシクロヘキセン、1−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセン、2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン系単量体;d−テルペン、1−テルペン、ジテルペンなどのテルペン系単量体などのビニル六員環炭化水素系単量体またはその置換体などが挙げられる。
【0019】
本発明においては、重合体中の繰り返し単位が50重量%未満となる範囲で、前述の単量体以外の単量体を共重合させてもよい。共重合可能な単量体としては、ラジカル重合、アニオン重合、カチオン重合などの重合法により共重合可能なものであれば特に制限はない。その具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブテン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテンなどのα−オレフィン系単量体;シクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5、5−ジメチルシクロペンタジエンなどのシクロペンタジエン系単量体;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、ジシクロペンタジエンなどの環状オレフィン系単量体;ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、フラン、チオフェン、1,2−シクロヘキセンなどの共役ジエン系単量体;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリルなどのニトリル系単量体;メタクリル酸メチルエステル、メタアクリル酸エチルエステル、メタアクリル酸プロピルエステル、メタアクリル酸ブチルエステル、アクリル酸メチルエステル、アクリル酸エチルエステル、アクリル酸プロピルエステル、アクリル酸ブチルエステルなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸などの不飽和脂肪酸系単量体;フェニルマレイミド;エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、トリメチレンオキサイド、トリオキサン、ジオキサン、シクロヘキセンオキサイド、スチレンオキサイド、エピクロルヒドリン、テトラヒドロフランなどの環状エーテル系単量体;メチルビニルエーテル、N−ビニルカルバゾール、N−ビニル−2−ピロリドンなどの複素環含有ビニル化合物系単量体;などが挙げられる。
【0020】
一般に、これらの共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位の含有量が多くなると、得られる重合体の透明性が低下する傾向を示す。したがって、これらの共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位の含有割合は、全繰り返し単位に基づいて、通常50重量%未満、好ましくは30重量%未満、より好ましくは10重量%未満である。
【0021】
単量体として、芳香環を含有するスチレン系単量体を用いる場合は、複屈折を小さくするために、重合後、水素添加反応を行うことにより、芳香環の水素添加率が通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上になるように水素添加することが好ましい。この水素添加率は、多くの場合99〜100%である。また、単量体として、ビニルシクロヘキセン系単量体を用いる場合も、耐熱性、耐候性などを向上させるために、重合後に、水素添加反応を行って炭素−炭素二重結合を飽和させることが好ましい。この場合も、水素添加率が通常80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、多くの場合99〜100%になるように水素添加することが好ましい。また、得られる重合体中に、共重合可能な単量体に起因する炭素−炭素不飽和結合が存在する場合にも、水素添加反応により飽和させることが好ましい。この水素添加率が過度に小さいと、複屈折が大きくなったり、耐熱性や耐候性が低下するので好ましくない。水素添加率は、常法に従って、H−NMR測定により求めることができる。
【0022】
本発明で使用するビニル環状炭化水素重合体は、ビニル環状炭化水素の繰り返し単位を通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上含有するものであることが望ましい。このビニル環状炭化水素の繰り返し単位の割合の上限は、100重量%である。
【0023】
本発明において使用するビニル環状炭化水素重合体の重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算値で、通常10,000〜1,000,000、好ましくは50,000〜500,000、より好ましくは100,000〜300,000の範囲である。該重合体の分子量分布は、GPCで測定されるポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)で表すと、通常5.0以下、好ましくは3.0以下、より好ましくは2.5以下、最も好ましくは2.0以下である。
【0024】
ビニル環状炭化水素重合体の重量平均分子量(Mw)が小さすぎると強度特性に劣り、大きすぎると、成形性に劣り複屈折が十分ではなくなる。重量平均分子量(Mw)が上記範囲にあると、該重合体の強度特性、成形性、及び複屈折が高度にバランスされて好適である。ビニル環状炭化水素重合体のMw/Mnが上記範囲にあるとき、機械強度及び耐熱性が特に優れる。このMw/Mnが大きすぎると、強度特性やガラス転移温度(Tg)が低下し、機械的強度や耐熱性に優れた成形物を得ることが困難となる。
【0025】
本発明で使用するビニル環状炭化水素重合体が水素添加物の場合には、未水素添加重合体の重量平均分子量(Mw)が過度に大きいと、環の水素添加反応が困難となり、水素添加率が100%近くになるまで水素添加反応を進ませると、競争反応である分子鎖切断反応が進んで分子量分布が大きくなり、かつ、低分子量成分が増加するため、強度特性や耐熱性が低下する。未水素添加重合体の重量平均分子量(Mw)が過度に小さいと、強度特性に劣り、十分な機械的強度を有する成形物を得ることができない。したがって、未水素添加重合体の重量平均分子量(Mw)も、前記範囲内にあることが機械的強度、耐熱性などの観点から好ましい。
【0026】
(ビニル環状炭化水素重合体の製造方法)
本発明で使用するビニル環状炭化水素重合体の製造方法は、前記の如き各種単量体をラジカル重合、アニオン重合、アニオンリビング重合、カチオン重合、カチオンリビング重合などの公知の重合方法を用いて重合し、必要に応じて水素添加反応することにより得ることができる。重合方法として、ラジカル重合法を採用する場合には、触媒として有機過酸化物を用いた公知の方法で重合することができ、カチオン重合法を採用する場合には、触媒としてBF、PFなどを用いた公知の方法で重合することができる。
【0027】
分子量分布の小さい重合体を得るには、アニオンリビング重合法により重合するのが好ましく、具体的には、単量体を炭化水素系溶媒中で、有機アルカリ金属を開始剤として重合することにより容易に得ることができる。
【0028】
有機アルカリ金属としては、例えば、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、ヘキシルリチウム、フェニルリチウム、スチルベンリチウムなどのモノ有機リチウム化合物;ジリチオメタン、1,4−ジリチオブタン、1,4−ジリチオ−2−エチルシクロヘキサン、1,3,5−トリリチオベンゼンなどの多官能性有機リチウム化合物;ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレンなどが挙げられる。これらの中でも、有機リチウム化合物が好ましく、モノ有機リチウム化合物が特に好ましい。
【0029】
これらの有機アルカリ金属は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。有機アルカリ金属の使用量は、要求される生成重合体の分子量によって適宜選択され、通常、単量体100g当り、0.05〜100ミリモル、好ましくは0.10〜50ミリモル、より好ましくは0.15〜20ミリモルの範囲である。
【0030】
重合方法としては、塊状重合、乳化重合、懸濁重合、溶液重合などの各種重合法が適用できるが、重合後に水素添加反応を行う場合には、水素添加反応を連続して行う上で、溶液重合が好ましい。
【0031】
溶液重合に使用する溶媒としては、炭化水素系溶媒が好ましく、具体的には、上記開始剤を破壊しないものであれば格別な制限はなく、例えば、n−ブタン、n−ペンタン、iso−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、iso−オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、デカリンなどの脂環式炭化水素類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;などが挙げられる。これらの中でも、脂肪族炭化水素類や脂環式炭化水素類を用いると、水素添加反応をそのまま行うことができるので好ましい。これらの炭化水素系溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて、通常、単量体濃度が1〜40重量%になる量比で用いられる。
【0032】
重合反応は、等温反応、断熱反応のいずれでもよく、通常−70〜150℃、好ましくは−50〜120℃の重合温度範囲で行われる。重合時間は、0.01〜20時間、好ましくは0.1〜10時間の範囲である。
【0033】
重合反応後は、スチームストリッピング法、直接脱溶媒法、アルコール凝固法などの公知の方法により重合体を回収することができる。重合時に水素添加反応に不活性な溶媒を用いた場合は、重合溶液から重合体を回収せずに、そのまま水素添加工程に供することができる。
【0034】
重合体の水素添加方法は、格別な制限はなく、常法に従って行うことができる。好ましくは、芳香族環の水素添加率が高く、かつ、重合体鎖切断の少ない水素添加方法である。具体的には、例えば、有機溶媒中で、ニッケル、コバルト、鉄、チタン、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、及びレニウムから選ばれる少なくとも一種の金属を含む水素化触媒を用いて行うことができる。水素化触媒は、これらの中でも、ニッケル触媒が、特にMw/Mn値の小さい水素添加物が得られるので好適である。水素化触媒は、不均一触媒及び均一触媒のいずれでもよい。
【0035】
不均一系触媒は、金属または金属化合物のままか、または適当な担体に担持して用いることができる。担体としては、例えば、活性炭、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、チタニア、マグネシア、ジルコニア、ケイソウ土、炭化珪素等が挙げられる。この場合の担体上の上記金属の担持量は、通常0.01〜80重量%、好ましくは0.05〜60重量%の範囲である。
【0036】
均一系触媒としては、ニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物と、有機金属化合物(例えば、有機アルミニウム、有機リチウム化合物)とを組み合わせた触媒;または、ロジウム、パラジウム、白金、ルテニウム、レニウム等の有機金属錯体を用いることができる。均一系触媒に用いられるニッケル、コバルト、チタンまたは鉄化合物としては、例えば、各種金属のアセチルアセトン塩、ナフテン酸塩、シクロペンタジエニル化合物、シクロペンタジエニルジクロロ化合物等が用いられる。有機アルミニウムとしては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムクロリド、エチルアルミニウムジクロリド等のハロゲン化アルキルアルミニウム;ジイソブチルアルミニウムハイドライド等の水素化アルキルアルミニウム;などが好適に用いられる。有機金属錯体の例としては、上記各金属のγ−ジクロロ−π−ベンゼン錯体、ジクロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体、ヒドリッド−クロロ−トリス(トリフェニルホスフィン)錯体等の金属錯体が使用される。
【0037】
これらの水素添加触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。水素添加触媒の使用量は、ビニル芳香族系重合体100重量部当り、通常0.03〜50重量部、好ましくは0.16〜33重量部、より好ましくは0.33〜15重量部の範囲である。
【0038】
水素化反応に用いる有機溶媒としては、例えば、前述の重合反応に用いた溶媒の他に、アルコール類などが挙げられる。これらの有機溶媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。有機溶媒の使用量は、ビニル芳香族系重合体の濃度が、通常1〜50重量%、好ましくは3〜40重量%となる量である。
【0039】
水素添加反応は、通常10〜250℃、好ましくは50〜200℃、より好ましくは80〜180℃の範囲の温度で、通常1〜300kg/cm、好ましくは5〜250kg/cm、より好ましくは10〜200kg/cmの範囲の水素圧力で行う。
【0040】
(非相溶な配合剤)
本発明で使用する非相溶な配合剤は、前述のビニル環状炭化水素重合体に完全に溶解しない物質(例えば、分子状に混ざらないポリマーや化合物、その他の物質)であれば特に限定はされず、該重合体中に非相溶成分としてミクロに分散し得るものであればよい。
【0041】
非相溶な配合剤としては、有機化合物及び無機充填剤のいずれであってもよい。有機化合物の場合は、汎用の老化防止剤、安定剤、難燃剤、可塑剤等のような低分子量の配合剤ではなく、有機高分子化合物、及び有機オリゴマーが好ましい。
【0042】
非相溶な配合剤として、有機化合物を使用する場合は、多くの場合、ビニル環状炭化水素重合体のマトリックス中でミクロドメインを形成する。有機化合物がミクロドメインを形成する場合は、粒径0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.2μm以下のミクロドメインを形成して、微細に分散していることが望ましい。
【0043】
本発明で使用する樹脂組成物が重合体に非相溶な配合剤を含有するものである場合、該樹脂組成物から形成された成形物が高温高湿環境下で耐白濁性を示すのは、微細に分散した配合剤の界面に過飽和の水分が凝集するためであると推定される。過飽和の水分が樹脂組成物中で凝集する際、重合体と配合剤との界面に凝集しやすいので、樹脂組成物中の界面の総面積が大きいこと、すなわち、配合剤の分散粒径を小さくすることが好ましい。配合剤の粒径を小さくすることによって、樹脂組成物からなる成形物を透明にし、耐白濁性を向上させることが可能であり、しかも界面の単位面積当りの歪みの大きさを小さくすることができる。非相溶な配合剤は、無機質充填剤でも有機化合物でもよいが、一般には有機化合物の方が水蒸気の凝集によって生じた歪みに対する緩衝作用があり、好ましい。
【0044】
以下、ビニル環状炭化水素重合体に非相溶な配合剤の具体例について、グループ分けして例示する。
【0045】
無機質充填剤としては、例えば、シリカ、アルミナ、ガラスなどの超微粉末が例示される。
【0046】
有機化合物としては、ブリードアウトの原因となりにくい高分子化合物が好ましく、例えば、ポリフェニレンスルフィド、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルスルホン、ポリスルフォンなどのポリエーテル系重合体;液晶プラスチック、芳香族ポリエステル、ポリアリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンなどのポリエステル系重合体;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4−メチル−ペンテン−1、環状オレフィン系重合体などのポリオレフィン系重合体;ポリメチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートとメチクメタクリレート共重合体、ポリアクリロニトリルスチレン(AS樹脂)などの汎用透明プラスチック;脂環式アクリル樹脂;MS樹脂;ゴム質重合体;などの各種高分子化合物を挙げることができる。
【0047】
これらの中でも、水蒸気の凝集によって生じた歪みに対する緩衝作用を有するガラス転移温度が40℃以下のゴム質重合体(エラストマーを含む)が好ましい。ブロック共重合したゴム質重合体などで、ガラス転移温度が2点以上ある場合には、その最も低いガラス転移温度が40℃以下であれば、本発明のガラス転移温度が40℃以下のゴム質重合体として用いることができる。
【0048】
ゴム質重合体の具体例としては、イソプレンゴム、その水素添加物;クロロプレンゴム、その水素添加物;エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体などの飽和ポリオレフィンゴム;エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、α−オレフィン・ジエン共重合体、ジエン共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体、イソブチレン・ジエン共重合体などのジエン系重合体、これらのハロゲン化物、ジエン系重合体またはそのハロゲン化物の水素添加物;アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、その水素添加物;フッ化ビニリデン・三フッ化エチレン共重合体、フッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン・六フッ化プロピレン・四フッ化エチレン共重合体、プロピレン・四フッ化エチレン共重合体などのフッ素ゴム;ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリエーテル系ゴム、アクリルゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム、エピクロルヒドリンゴム、プロピレンオキサイドゴム、エチレンアクリルゴムなどの特殊ゴム;ノルボルネン系単量体とエチレンまたはα−オレフィンの共重合体、ノルボルネン系単量体とエチレンとα−オレフィンの三元共重合体、ノルボルネン系単量体の開環重合体、ノルボルネン系単量体の開環重合体水素添加物などのノルボルネン系ゴム質重合体;乳化重合または溶液重合したスチレン・ブタジエン・ゴム、ハイスチレンゴムなどのランダムまたはブロック・スチレン・ブタジエン系共重合体、これらの水素添加物;スチレン・ブタジエン・スチレン・ゴム、スチレン・イソプレン・スチレン・ゴム、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ゴムなどの芳香族ビニル系モノマー・共役ジエンのランダム共重合体、これらの水素添加物;スチレン・ブタジエン・スチレン・ゴム、スチレン・イソプレン・スチレン・ゴム、スチレン・エチレン・ブタジエン・スチレン・ゴムなどのビニル芳香族系単量体・共役ジエン単量体の直鎖状または放射状ブロック共重合体、それらの水素添加物などのスチレン系熱可塑性エラストマー;ウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマーなどのその他の熱可塑性エラストマー;などを挙げることができる。
【0049】
ビニル環状炭化水素重合体として、ビニル芳香族系重合体の水素添加物を使用する場合、該重合体と非相溶であれば、ビニル芳香族系単量体と共役ジエン単量体の共重合体及びその水素添加物が、一般に該重合体との分散性が良好であるので、ゴム質重合体として特に好ましい。ビニル芳香族系単量体と共役ジエン単量体の共重合体は、ブロック共重合体でもランダム共重合体でもよい。該共重合体は、耐候性の点から、芳香環以外の不飽和部分を水素添加しているものがより好ましい。具体的には、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・ブロック共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン・ブロック共重合体、及びこれらの水素添加物、スチレン・ブタジエン・ランダム共重合体、及びこれらの水素添加物などが挙げられる。
【0050】
本発明で使用する樹脂組成物が高度の透明性を要求される場合は、配合剤とビニル環状炭化水素重合体との間の屈折率の差が小さいことが好ましい。両者の屈折率の差は、好ましくは0.2以下、より好ましくは0.1以下、特に好ましくは0.05以下である。特に高度の透明性が要求される場合は、屈折率の差は、一般に0.02以下、好ましくは0.015以下、より好ましくは0.01以下とする。屈折率の差が大きい配合剤を混合すると、多量に添加した場合に、透明性が損なわれやすい。例えば、ビニル芳香族系重合体の水素添加物の種類が異なれば屈折率も異なるが、一方、ゴム質重合体の屈折率は、各単量体の比率を変化させたり、主鎖の不飽和結合の数を水素添加により変化させることなどにより、連続的に変化させることができる。したがって、ビニル芳香族系重合体の水素添加物の屈折率に応じて、配合するゴム質重合体の屈折率を調整することにより、透明性を確保することができる。すなわち、ビニル環状炭化水素重合体の屈折率に応じて、適当な屈折率を有するゴム質重合体を選択することができる。
【0051】
非相溶な配合剤(以下、単に配合剤ということがある)は、ビニル環状炭化水素重合体に適量配合して、該重合体中でミクロドメインを形成するように分散させる。配合剤の好ましい配合量は、ビニル環状炭化水素重合体と配合剤との組み合せによって変動する。一般に、ゴム質重合体の配合量が多すぎると、樹脂組成物のガラス転移温度が大きく低下し、また、ミクロドメインが形成されないか、凝集してしまう。配合量が少なすぎると、ミクロドメイン間の距離が離れすぎるため、ミクロドメインの界面に水分を凝集させることができず、それ以外の部分に凝集させてしまい、高温高湿環境下で成形物の白濁が生じる場合がある。例えば、ゴム質重合体を配合剤として使用する場合には、ビニル環状炭化水素重合体100重量部に対して、ゴム質重合体を通常0.01〜15重量部、好ましくは0.02〜10重量部、より好ましくは0.05〜5重量部、特に好ましくは0.1〜2重量部の割合で添加する。他の配合剤についても、透明性と耐白濁性とのバランス、機械的強度、耐熱性などを考慮して、その配合量を適宜定めることができるが、同様に、前記範囲内が好ましい。
【0052】
配合方法は、配合剤がビニル環状炭化水素重合体中でミクロドメインを形成して、十分微細に分散する方法であれば、特に限定されない。例えば、ミキサーや一軸混練機、二軸混練機などでビニル環状炭化水素重合体を溶融した状態で配合剤を添加して混練する方法や、ビニル環状炭化水素重合体を適当な溶剤に溶解してから配合剤を分散させた後、凝固法、キャスト法、または直接乾燥法により溶剤を除去する方法などがある。
【0053】
ビニル環状炭化水素重合体と配合剤とを溶融混練する場合には、該重合体のガラス転移温度をTgと表記すると、通常、Tg+20℃〜Tg+150℃の樹脂温度で、十分に剪断力をかけて混練することが好ましい。混練時の樹脂温度が低すぎると、樹脂の粘度が高くなり混練が困難となり、高すぎると、ビニル環状炭化水素重合体やゴム質重合体が劣化し、そして、粘度や融点の差により両者が満足に混練されない。
【0054】
例えば、ラボプラストミル(東洋精機製)を用いる場合、二軸異方向ミキサーモードで、回転数20〜70rpmで、フィード・レートを調節して滞留時間を1〜20分間程度にして混練すれば、通常、ビニル芳香族系重合体水素添加物などのビニル環状炭化水素重合体中に、ゴム質重合体などの配合剤を直径0.5μm以下のミクロドメインを形成するように分散させることができる。通常、二軸混練機においては、L/Dを25以上、好ましくは30以上とし、滞留時間を1〜20分間程度にする。滞留時間が長いほど、ミクロドメインを形成しやすいが、ビニル環状炭化水素重合体やゴム質重合体が劣化しやすいので、使用する重合体成分と配合剤成分の組み合わせ、及び混練に用いる装置の組み合せによって、予備的に混練して、それらの組み合せに適合した回転数、滞留時間等を決めることが望ましい。
【0055】
ゴム質重合体を配合剤として使用すると、ミクロドメインは、ほぼ球形となり、粒子間での粒径のばらつきは小さい。このミクロドメインの大きさは、直径が通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2μm以下である。ミクロドメインの粒径が0.3μm以下であれば、ゴム質重合体の添加によるビニル環状炭化水素重合体の透明性の低下の度合は小さく、実用上問題とならない程度である。他の配合剤の場合も、ミクロドメインは、ほぼ球形となることが好ましく、粒子間での粒径のばらつきがないことが好ましく、粒径を通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2μm以下にする。ミクロドメインが球形とならない場合でも、そのミクロドメインを閉じ込めることのできる最小の球の直径が通常0.5μm以下、好ましくは0.3μm以下、特に好ましくは0.2μm以下となるようにする。
【0056】
(エーテル結合を有するアルコール性有機化合物)
本発明で使用する樹脂組成物には、非相溶な配合剤以外に、少なくとも1個のアルコール性水酸基と少なくとも1個のエーテル結合とを有する有機化合物を含有させてもよい。少なくとも1個のアルコール性水酸基と少なくとも1個のエーテル結合とを有する有機化合物は、フェノール性の水酸基ではないアルコール性の水酸基を少なくとも1個と、分子中にエーテル結合単位を少なくとも1個有するアルコール性有機化合物(部分エーテル化物)である。該有機化合物には、付加的にフェノール性水酸基が存在していてもよい。アルコール性有機化合物は、このような部分エーテル化物であれば、特に限定されないが、ビニル環状炭化水素重合体に配合したときに、該重合体の透明性を低下させないために、該アルコール性水酸基以外の部分は疎水性であり、かつ、少なくとも該疎水性部分が該重合体に部分的に相溶しているような化合物が好ましい。
【0057】
このようなアルコール性有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの2価以上の多価アルコールの部分エーテル化合物が好ましく、さらには、少量添加で白濁防止効果及び記録膜に対する密着性向上効果が得られるので、3価以上の多価アルコールの部分エーテル化合物が特に好ましい。
【0058】
多価アルコールの部分エーテル化合物は、少なくとも3個以上、好ましくは3〜8個の水酸基を有する多価アルコールの部分エーテル化物であることが特に好ましい。
【0059】
3価以上の多価アルコールの具体例としては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、1,6,7−トリヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドリキシメチル)−4−オキソヘプタン、ソルビトール、2−メチル−1,6,7−トリヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−4−オキソヘプタン、1,5,6−トリヒドロキシ−3−オキソヘキサンなどを挙げることができる。
【0060】
多価アルコールのアルコール性水酸基の一部をエーテル化した部分エーテル化合物を使用することが好ましい。この部分エーテル化合物は、樹脂組成物を成形した場合にブリードの発生を抑制するため、その分子量は、通常100〜2000、好ましくは150〜1500、より好ましくは200〜1000である。エーテル化により導入される置換基の種類にもよるが、これらの置換基がアルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基などの場合には、部分エーテル化物の分子量は、好ましくは200〜800、より好ましくは250〜650である。部分エーテル化物は、エーテル化していないフリーのアルコール性水酸基を一分子中に少なくとも1個、好ましくは2〜16個、より好ましくは2〜10個有しているものであり、一方、多価アルコールのアルコール性水酸基の10〜50%、より好ましくは12〜35%がエーテル化されたものである。
【0061】
エーテル化に用いる置換基は、必ずしも限定されないが、通常、炭素数4〜100個、好ましくは炭素数4〜30個、より好ましくは炭素数8〜22個の置換基である。エーテル化に使用する置換基の好ましい具体例としては、炭素数4〜30個の直鎖状または分岐状アルキル基、アルキレン基、炭素数6〜30個のアリール基、アリーレン基が例示される。置換基の炭素数が少なすぎると、揮発しやすく、成形物にブリードが発生しやすくなる。置換基の炭素数が多すぎると、ビニル環状炭化水素重合体との相溶性が低下することがある。
【0062】
アルキル基としては、例えば、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、セチル基、ラウリル基、ミリスチル基、パルミチル基、ステアリル基、アラキジル基、ベヘニル基、オレイル基などが挙げられる。
【0063】
アルキレン基としては、例えば、ブチレン基、オクチルエチレン基、1,4−シクロヘキシレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基などが挙げられる。
【0064】
アリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−オクチルフェニル基、4−ノニルフェニル基、4−クミルフェニル基、ナフチル基、4−フェニルフェニル基などが挙げられる。
【0065】
アリーレン基としては、例えば、1,4−フェニレン基、4,4′−ビフェニレン基、1,4−フェニレン−イソプロピリデン−1,4−フェニレン基、1,4−フェニレンオキシ−1,4−フェニレン基、1,4−(2′−t−ブチル−5′−メチル)フェニレン−ブチリデン−1,4−(2′−メチル−5′−t−ブチル)フェニレン基などが挙げられる。
【0066】
これらの置換基により多価アルコールのアルコール性水酸基の一部をエーテル化する方法は、周知であって、特に特定の方法に限定されない。
【0067】
エーテル化する場合、フェノール類とアルデヒド類及び/またはケトン類とを縮合させた化合物、該縮合物の水素添加物、フェノール類とジオレフィン類などの不飽和炭化水素とをアリーデル・クラフツ反応により縮合させた化合物、該縮合物の水素添加物、これらの2種以上の混合物を用いてもよい。これらの化合物では、炭素数が通常13〜100個、好ましくは15〜75個、より好ましくは13〜30個のノボラック型縮合残基またはその水素添加物が、置換基として、エーテル化に用いられる。これらの中でも、縮合度が4以下の縮合物(水素添加物を含む)が好ましい。縮合度が大きすぎると、部分エーテル化物とビニル炭化水素重合体との相溶性が悪くなる。好ましい縮合度は、縮合物中の分子の平均値で、1.5〜4.0である。この場合、エーテル化物の分子量は、好ましくは280〜2000、より好ましくは350〜1500となる。
【0068】
フェノール類としては、フェノール、ブチルフェノール、オクチルフェノール、ノニルフェノール、クレゾールなどが挙げられ、アルデヒド類としては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒドなどが挙げられ、ケトン類としては、アセトン、メチル−エチル・ケトン、メチル−イソブチル・ケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどが挙げられる。ジオレフィン類としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、ジシクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0069】
フェノール類とアルデヒド類及び/またはケトン類との縮合物として、p−ノニルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体、p−オクチルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体、p−オクチルフェノールとアセトンの縮合体などが挙げられる。フェノール類とジオレフィン類の縮合物として、p−オクチルフェノールとジシクロペンタジエンとの縮合体などが挙げられる。このような縮合物によるエーテル化物は、実際に縮合して製造するほか、クレゾール・ノボラック型エポキシ樹脂を加水分解しても得ることができる。
【0070】
多価アルコールの部分エーテル化合物は、例えば、3価以上の多価アルコールとしてグリセロールまたはポリグリセロールを用いた場合、その代表的なものは、下記の一般式で表すことができる。
【0071】
R〔(O−CHCH(OH)−CH−OH〕
〔式中、
R:炭素数4〜30個の直鎖状または分岐状アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基、ノボラック型縮合体残基、またはノボラック型縮合体残基の水素添加物、
n及びm:1以上の自然数である。〕
【0072】
単一成分のグリセロールまたはポリグリセロールの部分エーテル化合物の場合は、一般式のnは、通常1〜4、好ましくは1〜3であり、mは、通常1〜6、好ましくは1〜4であり、mは、通常1〜6、好ましくは1〜4である。
【0073】
グリセロールまたはポリグリセロールの部分エーテル化合物は、通常、混合物として得られ、各成分を単離・精製することなく用いることができる。その場合、部分エーテル化合物全体の平均値で、nは、通常1.0〜4.0、好ましくは1.0〜3.0であり、mは、通常1.0〜6.0、好ましくは1.5〜4.0である。nまたはmが大きすぎると、ビニル環状炭化水素重合体との相溶性が低下する傾向を示す。
【0074】
このようなグリセロールまたはポリグリセロールの部分エーテル化合物は、例えば、1〜4価のアルコール類または1〜4価のフェノール類とグリシドールとを反応させる方法、エポキシ化合物とグリセロールもしくはポリグリセロールを反応させる方法などにより合成することができる。
【0075】
それらの具体例として、例えば、3−(オクチルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(デシルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(ラウリルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(ミリスチルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(パルミチルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(ステアリルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(アラキジルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(ベヘニルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(オレイルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(2−ヘキシルデシルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−フェノキシ−1,2−プロパンジオール、3−(4−メチルフェニルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(4−i−プロピルフェニルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(4−オクチルフェニルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−(4−ノニルフェニルオキシ)−1,2−プロパンジオール、3−〔4−〔1−メチル−1−(4−ヒドロキシフェニル)エチル〕フェニルオキシ〕−1,2−プロパンジオール、1,6−ジ(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン、1,4−ジ(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)シクロヘキサン、1,4−ジ(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)ベンゼン、2,2−ビス〔4−(2,3−ジヒドロキシプロピルオキシ)フェニル〕プロパン、1−(4−ノニルフェニル)−2,6,7−トリヒドロキシ−4−オキソヘプタン、ポリ(オキシ−2−ヒドロキシトリメチレン)フェニルエーテル、ポリ(オキシ−2−ヒドロキシトリメチレン)オクチルフェニルエーテル、ポリ(オキシ−2−ヒドロキシトリメチレン)ノニルフェニルエーテル、ポリ(オキシ−2−ヒドロキシトリメチレン)ラウリルエーテル、ポリ(オキシ−2−ヒドロキシトリメチレン)セチルエーテル、ポリ(オキシ−2−ヒドロキシトリメチレン)ステアリルエーテル、p−ノニルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体とグリシドールの反応により得られるエーテル化合物、p−オクチルフェノールとホルムアルデヒドの縮合体とグリシドールの反応により得られるエーテル化合物、p−オクチルフェノールとジシクロペンタジエンの縮合体とグリシドールの反応により得られるエーテル化合物、などが挙げられる。
【0076】
その他の3価以上の多価アルコールの部分エーテル化合物としては、例えば、1,6−ジヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)−7−(4−ノニルフェニルオキシ)−4−オキソヘプタン、1,6−ジヒドロキシ−2−メチル−2−ヒドロキシメチル−7−(4−ノニルフェニルオキシ)−4−オキソヘプタン、2−ヒドロキシメチル−2−(4−ノニルフェニルオキシ)メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2−(4−ノニルフェニルオキシ)メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,6−トリ(ヒドロキシメチル)−6−(4−ノニルフェニルオキシ)メチル−1,7−ジヒドロキシ−4−オキシヘプタン等を挙げることができる。
【0077】
これらの部分エーテル化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用する。その配合割合は、ビニル環状炭化水素重合体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。この配合割合が小さすぎると、高温高湿環境下での白濁防止効果が十分ではなく、逆に、大きすぎると、熱変形温度が著しく低下したり、機械的強度が低下したりするので、いずれも好ましくない。
【0078】
よって配合量が上記範囲にある場合に、白濁防止効果と、機械強度、耐熱性との特性が高度にバランスされて好適である。
【0079】
これらの部分エーテル化合物は、一般的に、前記重合体に混合した後、二軸押出機などにより溶融混練するか、前記重合体の溶液に添加して溶解させた後、溶媒を留去するなどの方法で配合することができる。溶融混練する場合には、ビニル環状炭化水素重合体のガラス転移温度をTgと表記すると、通常、Tg+20℃〜Tg+150℃の樹脂温度で、十分に剪断力をかけて混練することが好ましい。混練時の樹脂温度が低すぎると、樹脂の粘度が高くなり混練が困難となり、高すぎると、ビニル環状炭化水素重合体や部分エーテル化物が劣化し、そして、粘度や融点の差により両者が満足に混練されない。重合体溶液を使用する場合には、部分エーテル化物を添加後、凝固法、キャスト法、直接乾燥法などによって、溶剤を除去することができる。
【0080】
(エステル結合を有するアルコール性有機化合物)
本発明の樹脂組成物には、非相溶な配合剤以外に、少なくとも1個のアルコール性水酸基と少なくとも1個のエステル結合とを有する有機化合物を含有させてもよい。少なくとも1個のアルコール性水酸基と少なくとも1個のエステル結合とを有する有機化合物とは、フェノール性の水酸基ではないアルコール性の水酸基を少なくとも1個と、分子中にエステル結合単位を少なくとも1個有するアルコール性有機化合物(部分エステル化物)である。該有機化合物には、付加的にフェノール性水酸基が存在していてもよい。前記アルコール性有機化合物は、このような部分エステル化物であれば特に限定はされないが、中でも、ポリエチレングリコール、ソルビトール、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート等の2価以上の多価アルコール、更に好ましくは、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールなどの3価以上の多価アルコールなどの水酸基の少なくとも1つがエステル化された化合物が好ましい。これらの中でも、少量配合で白濁防止効果が得られるので、3価以上の多価アルコールの部分エステル化合物が特に好ましい。さらに、α、β−ジオールを含む部分エステル化合物を合成可能なグリセロール、ジグリセロール、トリグリセロールなどの多価アルコールが好ましい。
【0081】
多価アルコールの部分エステル化合物は、少なくとも3個以上、好ましくは3〜8個の水酸基を有する多価アルコールの部分エステル化物であることが特に好ましい。
【0082】
3価以上の多価アルコールの具体例としては、例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、トリグリセロール、ジペンタエリスリトール、1,6,7−トリヒドロキシ−2,2−ジ(ヒドロキシメチル)−4−オキソヘプタン、ソルビトール、2−メチル−1,6,7−トリヒドロキシ−2−ヒドロキシメチル−4−オキソヘプタン、1,5,6−トリヒドロキシ−3−オキソヘキサンなどを挙げることができる。
【0083】
上記の如き多価アルコールのアルコール性水酸基の一部がエステル置換された部分エステル化合物を使用するのが好ましく、さらには、1組以上のα,β−ジオールを有する部分エステル化合物がより好ましい。この部分エステル化合物は、分子量が通常100〜2000、好ましくは150〜1500、より好ましくは200〜1000である。部分エステル化物の分子量が低すぎると、揮発性が大きく成形物にブリード等が発生し、分子量が高すぎると、ビニル環状炭化水素重合体との相溶性に劣り、樹脂組成物の成形物が白濁するようになる。よって、部分エステル化物の分子量が上記範囲内にあるときに、有機化合物の低溶出性と相溶性が高度にバランスされて好適である。また、部分エステル化合物は、エステル置換していないフリーのアルコール性水酸基を、一分子中に少なくとも1個、好ましくは2〜16個、より好ましくは2〜10個有しているものであり、また、多価アルコールのアルコール性水酸基の10〜50%、より好ましくは12〜35%がエステル置換されたものである。
【0084】
エステル化に用いる置換基は、必ずしも限定されないが、通常、炭素数4〜100個、好ましくは炭素数8〜30個、より好ましくは炭素数12〜22個の置換基である。このような置換基の好ましい具体例としては、炭素数4〜30個の直鎖状または分岐状アルキル基、アルキレン基、炭素数6〜30個のアリール基、アリーレン基が例示される。置換基の炭素数が少なすぎると、揮発しやすく、成形物にブリードが発生しやすくなる。置換基の炭素数が多すぎると、ビニル炭化水素重合体との相溶性が低下することがある。
【0085】
アルキル基としては、例えば、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、2−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ベンジル基、オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基などが挙げられ、好ましくは、ラウリル基、アラキジル基、ベヘニル基などが挙げられる。
【0086】
アルキレン基としては、例えば、ブチレン基、オクチルエチレン基、1,4−シクロヘキシル基、オクタメチレン基、デカメチレン基などが挙げられ、好ましくは、ラウリルメチレン基、セチルメチレン基等が挙げられる。
【0087】
アリール基としては、例えば、フェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−フェニルフェニル基、ナフチル基などが挙げられ、好ましくは、4−オクチルフェニル基、4−ノニルフェニル基、4−クミルフェニル基などが挙げられる。
【0088】
アリーレン基として、例えば、1,4−フェニレン基、4,4′−ビフェニレン基などが挙げられ、好ましくは、1,4−フェニレン−イソプロピリデン−1,4−フェニレン基、1,4−フェニレンオキシ−1,4−フェニレン基、1,4−(2′−t−ブチル−5′−メチル)フェニレン−ブチリデン−1,4−(2′−メチル−5′−t−ブチル)フェニレン基などが挙げられる。
【0089】
これらの置換基の中でも、好ましいものとして例示されている置換基が好ましい理由として、それらから得られる部分エステル化物が揮発しにくく、かつ、ビニル環状炭化水素重合体との樹脂組成物から得られる成形物が透明性に優れることが挙げられる。
【0090】
多価アルコールの部分エステル化物としては、前述の多価アルコールのアルコール性水酸基の一部がエステル化された化合物が好ましい。したがって、使用される多価アルコールの部分エステル化物の具体例としては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノオレエート、グリセリンジステアレート、グリセリンジラウレート、グリセリンジオレエート、などのグリセリン脂肪酸エステル;ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールモノラウレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールジラウレート、ペンタエリスリトールトリステアレートなどのペンタエリスリトールの脂肪酸エステルが例示できる。
【0091】
エステル化物の場合も、3価以上の多価アルコールとしてグリセロールまたはポリグリセロールを用いた部分エステル化物が好ましいが、その代表的なものは、下記の一般式で表すことができる。
【0092】
RCO〔(O−CHCH(OH)−CH−OH〕
〔式中、
R:炭素数4〜30個の直鎖状または分岐状アルキル基、アルキレン基、アリール基、アリーレン基、
n:1以上の自然数である。〕
【0093】
単一成分のグリセロールまたはポリグリセロールの部分エステル化合物の場合は、上記一般式のnは、通常1〜4、好ましくは1〜3である。
【0094】
グリセロールまたはポリグリセロールの部分エステル化物は、通常、混合物として得られ、そのまま単離・精製せずに用いることができる。その場合、部分エステル化物全体の平均値で、nは、通常1.0〜4.0、好ましくは1.0〜3.0である。nが大きすぎると、ビニル環状炭化水素重合体との相溶性が低下することがある。
【0095】
これらの部分エステル化物は、α、β−ジオール部を含む場合、白濁防止効果が顕著に向上するので、α、β−ジオールを含む部分エステル化物を合成可能なグリセロール、ジグリセロール、ポリグリセロールなどの多価アルコールの部分エステル化物がより好ましい。
【0096】
これらの部分エステル化物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0097】
これらの部分エステル化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用する。その配合割合は、ビニル環状炭化水素重合体100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部である。この配合割合が小さすぎると、高温高湿環境下での白濁防止効果が十分ではなく、逆に、大きすぎると、熱変形温度が著しく低下したり、機械的強度が低下したりするので、いずれも好ましくない。
【0098】
よって配合量が上記範囲にある場合に、白濁防止効果と、機械強度、耐熱性との特性が高度にバランスされて好適である。
【0099】
これらの部分エステル化合物は、一般的に、前記重合体に混合した後、二軸押出機などにより溶融混練するか、前記重合体の溶液に添加して溶解させた後、溶媒を留去するなどの方法で配合することができる。溶融混練する場合には、ビニル環状炭化水素重合体のガラス転移温度をTgと表記すると、通常、Tg+20℃〜Tg+150℃の樹脂温度で、十分に剪断力をかけて混練することが好ましい。混練時の樹脂温度が低すぎると、樹脂の粘度が高くなり混練が困難となり、高すぎると、ビニル環状炭化水素重合体や部分エステル化物が劣化し、そして、粘度や融点の差により両者が満足に混練されない。重合体溶液を使用する場合には、部分エーテル化物を添加後、凝固法、キャスト法、直接乾燥法などによって、溶剤を除去することができる。
【0100】
(その他の添加剤)
本発明のビニル環状炭化水素重合体には、特定波長領域の光線のみを吸収する吸収剤や、染料や顔料などの着色剤を均一分散配合してフィルター機能を持たせることができる。
【0101】
このような吸収剤や着色剤には、格別な限定はないが、例えば、600〜2500nmの近赤外線波長領域における任意の波長領域の光線を選択的に吸収する近赤外線吸収剤;600nm以下の可視光域の波長領域の光線を選択的に吸収する染料や顔料などの着色剤などが挙げられる。
【0102】
近赤外線吸収剤の具体例としては、例えば、シアニン系近赤外線吸収剤、ピリリウム系近赤外線吸収剤、スクワリリウム系近赤外線吸収剤、クロコニウム系近赤外線吸収剤、アズレニウム系近赤外線吸収剤、フタロシアニン系近赤外線吸収剤、ジチオール金属錯体系近赤外線吸収剤、ナフトキノン系近赤外線吸収剤、アントラキノン系近赤外線吸収剤、インドフェノール系近赤外線吸収剤、アジ系近赤外線吸収剤などが挙げられる。
【0103】
市販の近赤外線吸収剤としては、例えば、SIR−103、SIR−114、SIR−128、SIR−130、SIR−132、SIR−152、SIR−159、SIR−162(以上、三井東圧染料社製)、Kayasorb IR−750、Kayasorb IRG−002、Kayasorb IRG−003、IR−820B、Kayasorb IRG−022、Kayasorb IRG−023、Kayasorb CY−2、Kayasorb cCY−4、Kayasorb CY−9(以上、日本火薬社製)などを挙げることができる。
【0104】
着色剤としては、有機着色剤と無機着色剤が挙げられるが、均一分散性の点から有機着色剤が好ましい。有機着色剤としては、有機顔料及び染料を用いることができる。染料は、水不溶性のものが好ましい。
【0105】
有機着色剤としては、格別な限定はなく、透明性樹脂に一般的に配合される有機顔料や染料を用いることができる。有機着色剤の好適な例としては、例えば、ピグメントレッド38等のジアリリド系顔料;ピグメントレッド48:2、ピグメントレッド53、ピグメントレッド57:1等のアゾレーキ系顔料;ピグメントレッド144、ピグメントレッド166、ピグメントレッド220、ピグメントレッド221、ピグメントレッド248等の縮合アゾ系顔料;ピグメントレッド171、ピグメントレッド175、ピグメントレッド176、ピグメントレッド185、ピグメントレッド208等のペンズイミダゾロン系顔料;ピグメントレッド122等のキナクリドン系顔料;ピグメントレッド149、ピグメントレッド178、ピグメントレッド179等のペリレン系顔料;ピグメントレッド177等のアントラキノン系顔料;アントラキノン系着色染料;などを挙げることができる。
【0106】
これら吸収剤や着色剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合せて用いることができ、使用目的に応じて適宜選択される。
【0107】
また、本発明で使用する樹脂組成物は、必要に応じて、各種添加剤を配合することができる。添加剤としては、成形材料で一般的に用いられるものであれば格別な制限はなく、例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオエーテル系などの酸化防止剤;ヒンダードフェノール系などの紫外線吸収剤;脂肪族アルコール、脂肪族エステル、芳香族エステル、トリグリセライド類、フッ素系界面活性剤、高級脂肪酸金属塩等の離型剤;その他滑剤;可塑剤;帯電防止剤;重金属不活性材などが挙げられる。
【0108】
これらの添加剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。添加剤の使用量は、本発明の目的を損ねない範囲で適宜選択される。
【0109】
(成形物の成形方法)
本発明の成形物は、ビニル環状炭化水素重合体に前記の如き特定の配合剤や有機化合物を配合してなる樹脂組成物を、射出成形法により、任意の形状の成形物に成形したものである。
【0110】
前記樹脂組成物の中でも、特に、ビニル炭化水素重合体及び該重合体と非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を用いる場合には、成形条件を適切に選択する必要がある。そこで、以下、当該樹脂組成物を用いる場合の成形条件について詳述する。
【0111】
ビニル炭化水素重合体及び該重合体と非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を成形するには、非相溶な配合剤のミクロドメインが凝集を起こさずに、その微細に分散した粒径及び分布が実質的に変化しないで保持されるような成形条件を選択する必要がある。
【0112】
従来、この種の樹脂材料を用いて成形物を成形する場合、特に光学部品を成形する場合には、複屈折や面精度を向上させることを優先し、また、医療用成形品の場合には、残留応力(大きいと耐薬品性の低下が生じる)を低減させることを優先して、比較的高い樹脂温度に加熱溶融して、金型内に充填し、十分に時間をかけて冷却していた。
【0113】
しかし、ビニル環状炭化水素重合体と前記配合剤とを含有する樹脂組成物をこのような成形条件で成形すると、該樹脂組成物中に非相溶に均一分散している配合剤同士が成形物の内部で凝集し、粒径が大きくなって表面積が減少する。そのために、高温高湿環境下での白濁を完全に防止することができなかったと推定される。
【0114】
このような問題を解決する成形条件として、加熱溶融して成形する際の溶融樹脂温度が320℃を超えないようにし、さらに、該樹脂組成物が成形機のシリンダー内に滞留するとき、樹脂温度250℃を超える時間を30分間以内に制御すれば、非相溶成分が凝集を起こさないため、十分な白濁防止効果が得られ、しかも複屈折、面積度、残留応力などの特性も保持することができ、諸特性のバランスのとれた成形物が得られることがわかった。
【0115】
成形条件として、射出成形法を採用する場合、樹脂温度は、成形物の形状、重合体のガラス転移温度、分子量、分子量分布などによって最適値は変化するが、220〜320℃、好ましくは230〜300℃、最も好ましくは240〜280℃である。さらに、該樹脂組成物が成形機のシリンダー内に滞留するときに、樹脂温度が250℃以上になる時間を30分間以内、好ましくは20分間以内、より好ましくは15分間以内に調整する。
【0116】
金型温度は、通常50〜180℃、好ましくは80〜150℃である。射出圧力は、通常300〜2000kg/cm、好ましくは600〜1500kg/cmである。保圧時間は、通常1〜300sec、好ましくは5〜150secである。冷却時間は、通常20〜300sec、好ましくは30〜150secである。
【0117】
上記成形条件に関して、シリンダ温度が高すぎるか、滞留時間が長すぎる場合は、非相溶成分のミクロドメインが凝集を起こして高温高湿条件での白濁防止効果が低下し、樹脂温度が低すぎたり滞留時間が短すぎると樹脂組成物が十分に可塑化しないで、成形品に残留応力が発生して複屈折が大きくなる。したがって、樹脂温度が上記範囲にあるときに成形物の高温高湿度環境下での白濁防止性能と複屈折が適度にバランスされて好適であるが、成形物の複屈折が許容される範囲で樹脂温度はできるだけ低くして成形するのが好ましい。特に、ビニル芳香族系重合体の水素添加物に非相溶の配合剤を添加した樹脂組成物を用いて医療用成形品を成形する場合、繰り返しスチーム試験による白濁を防止するには、成形時の樹脂温度を260℃未満、好ましくは220〜255℃、より好ましくは230〜250℃程度に調整することが効果的であることが多い。
【0118】
金型温度は、樹脂温度同様、高すぎると白濁防止効果が低下し、低すぎると成形品に残留応力が発生して複屈折が大きくなる。保圧時間は、長すぎると分解や劣化が起こって強度特性が低下し、短すぎると成形収縮が大きくなる。冷却時間は、長すぎると白濁防止効果が低下し、短すぎると成形物中に残留応力が残って複屈折が大きくなる。よって、これらの成形条件が上記範囲にある場合、成形品の白濁防止性能、機械強度、複屈折が高度にバランスされて好適である。
【0119】
(成形物)
本発明の成形物は、透明性に優れるとともに、長期間にわたる高温高湿試験及び繰り返しスチーム試験を行っても白濁することがない。したがって、本発明の成形物は、高温高湿環境下での白濁と透明性の低下が問題となる精密光学部品や、繰り返しスチーム滅菌などの高温高湿条件下での処理が行われる医療用成形品の用途分野に特に好適である。
【0120】
本発明の成形物は、波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を温度65℃、相対湿度90%の雰囲気下に1000時間保持した後の成形物の光線透過率(b)とが、式(1)
[(b)/(a)]×100≧70 (1)
の関係を満足する。
【0121】
また、本発明の成形物は、波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を121℃の飽和蒸気圧1.1kg/cmの条件下に20分間保持し、室温に戻す操作を2回繰り返した後の光線透過率(c)とが、式(2)
[(c)/(a)]×100≧60 (2)
の関係を満足する。
【0122】
特に、ビニル環状炭化水素重合体と非相溶な配合剤とを含有する樹脂組成物を用いて成形物を得る場合、前記式(1)及び(2)を満足する成形物が得られるように、成形条件を厳密に制御することが必要である。また、ビニル環状炭化水素重合体と前記の如き有機化合物と含有する樹脂組成物を用いて成形物を製造する場合には、通常の成形条件下で、前記式(1)及び(2)を満足する成形物が得られる。[(b)/(a)]×100の値は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、特に好ましくは95以上であり、多くの場合99に近い値とすることができる。[(c)/(a)]×100の値は、好ましくは80以上、より好ましくは90以上、特に好ましくは95以上である。
【0123】
本発明の成形物は、透明性に優れており、その光線透過率は、成形物の形状や大きさなどによって異なるものの、例えば、CDプレイヤー用非球面ピックアップレンズにした場合、波長780nmでの光線透過率が、通常70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上のものを容易に得ることができる。
【0124】
(光学部品)
本発明の光学部品は、前記樹脂組成物を成形加工して得られる光学部品のことであり、従来公知のプラスチックで成形可能な光学部品であれば特に限定されず、例えば、光学レンズ、プリズム、光ディスク基板、ミラー、医療用検査セル、導光板、光学フィルムなどを挙げることができる。
【0125】
より具体的に、本発明の光学部品は、例えば、カメラの撮像系レンズ、ビデオカメラの撮像系レンズ、顕微鏡レンズ、内視鏡レンズ、望遠鏡レンズ、双眼鏡レンズ、眼鏡レンズ、拡大レンズなどの全光線透過型レンズ、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ、レーザービームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザー走査系レンズ、カメラのファインダー系のプリズムレンズなどの幅広い用途に用いられる。
【0126】
また、本発明の光学部品としては、前述の吸収剤や染料・顔料などを配合した赤外線センサーレンズ、オートフォーカスレンズ、バンドパスフィルターレンズなど光学レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスク基板;光学ミラー;プリズム;液晶ディスプレイなどの導光板、医療用の血液検査セル等の各種検査セル;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルムなどが挙げられる。
【0127】
(医療用成形品)
本発明の成形物は、さらに厳しい高温高湿条件である繰り返しスチーム滅菌処理を必要とするような医療用の各種透明成形品として好適である。具体的には、例えば、注射用の液体薬品容器、アンプル、プレフィルドシリンジ、輸液用バッグ、固体薬品容器、点眼薬容器、点滴薬容器などの、液体、粉体、または固体の薬品容器;血液検査用のサンプリング用試験管、採血試験管、検体容器などのサンプル容器;注射器などの医療器具;医療器具などの滅菌に用いる滅菌用容器;医薬検査用プラスチックレンズなどの医療用光学部品;などを例示することができる。
【実施例】
【0128】
以下に、製造例、実施例、及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。これらの例中の部及び%は、特に断わりのない限り重量基準である。各種の物性の測定は、下記の方法に従って行った。
【0129】
(1)重合体の分子量は、トルエンを溶媒にしてGPCで測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0130】
(2)重合体の分子量分布は、トルエンを溶媒にしてGPCで測定し、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を求め、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の比(Mw/Mn)を算出した。
【0131】
(3)重合体のガラス転移温度は、示差走査熱量計(DSC)により測定した。
(4)芳香環の水素添加率は、H−NMRにより測定し、算出した。
【0132】
(5)高温高湿度試験は、成形物を恒温恒湿度試験器内に温度65℃、相対湿度90%の環境下に1000時間放置し、次いで、急激に室温環境(試験器外)に取り出して、レンズの場合には、数分経過後の白濁状態(400〜800nmの波長領域における任意の光線透過率の変化;実施例では780nmの光線透過率を測定)を観察して評価した。
【0133】
(6)耐スチーム滅菌試験は、成形物をオートクレーブ中に121℃、飽和蒸気圧1.1kg/cmの条件にて20分間保持し、その後、オートクレーブ外に成形物を取り出して数分経過後の透過率変化を測定する操作を、合計2回繰り返す毎に行って評価した。
【0134】
[製造例1](ビニル芳香族系重合体の水素添加物A1の製造)
十分に乾燥し、窒素置換した、内容量1リットルの電磁撹拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、脱水シクロヘキサン320部、スチレンモノマー80部、及びジブチルエーテル1.83部を仕込み、40℃で400rpmで撹拌しながらn−ブチルリチウム溶液(15%含有ヘキサン溶液)0.31部を添加して重合を開始した。同条件下で3時間重合を行った後、イソプローピルアルコール0.42部を添加して反応を停止させた。このようにして得られたビニル芳香族系重合体の重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)を測定したところ、それぞれ、Mn=113,636、Mw=125,000であった。
【0135】
次いで、上記ビニル芳香族系重合体を含有する重合溶液400部に、安定化ニッケル水素化触媒N163A(日本化学工業社製;40%ニッケル担持シリカ−アルミナ担体)12部を添加混合し、次いで、水素化反応温度を調節するための電熱加熱装置と電磁撹拌装置を備えた内容積1.2リットルのスチンレス鋼製オートクレーブに仕込んだ。仕込み終了後、オートクレーブ内部を窒素ガスで置換し、700rpmの回転速度で撹拌しながら、温度230℃、水素圧45kg/cmで8時間水素添加反応を行った。水素添加反応終了後、反応溶液からろ過により水素添加触媒を除去し、次に、シクロヘキサン1200部を加えた後、10リットルのイソプロパノール中に注いで、ビニル芳香族系重合体の水素添加物A1を析出させた。水素添加物A1をろ過により分離後、減圧乾燥器により乾燥させ、ビニル芳香族系重合体水素添加物A1を回収した。得られた水素添加物A1の物性は、Mn=48,421、Mw=92,000、Mw/Mn=1.90で、水素化率は100%、Tgは140℃であった。
【0136】
[製造例2](水素添加物A2の製造)
十分に乾燥し,窒素置換した、内容量が1リットルの電磁撹拌装置を備えたステンレス鋼製オートクレーブに、スチレンモノマー100部,及びアゾビスイソブチロニトリル0.05部を仕込み、70℃で400rpmで撹拌しながら24時間重合を行った。反応系にシクロヘキサン1200部を加えた後、10リットルのイソプロパノール中に注ぎ重合体を析出させた。重合体をろ過により分離した後、減圧乾燥器により乾燥させて90部のポリスチレンを得た。この重合体80部を脱水シクロヘキサン320部に溶解し、製造例1と同様に12時間水添して水素添加物A2を得た。得られた水素添加物A2の物性は、Mn=69,565、Mw=160,000、Mw/Mn=2.30で、水素化率は99%、Tgは140℃であった。
【0137】
[製造例3](水素添加物A3の製造)
アゾビスイソブチロニトリルを0.04部、重合温度を90℃とした以外は、製造例2と同様に行い、水素添加物A3を得た。得られた水素添加物A3の物性は、Mn=25,556、Mw=92,000、Mw/Mn=3.60で、水素化率は99%、Tgは139℃であった。
【0138】
[実施例1〜3](プラスチックレンズの成形)
上記製造例1〜3で製造したビニル芳香族系重合体の水素添加物A1〜A3のそれぞれ100部に、ゴム質重合体(旭化成社製タフテックH1052、ガラス転移温度0℃以下)0.2部、老化防止剤(チバガイギー社製イルガノックス1010)0.05部を添加し、2軸混練機(東芝機械社製TEM−35B、スクリュー径37mm、L/D=32、スクリュー回転数250rpm、樹脂温度240℃、フィードレート10kg/時間)で混練し、押し出し、ペレット化した。
【0139】
このようにして得られた3種類のペレットを用いて、射出成形機(ファナック株式会社製AUTOSHOTC MODEL 30A)を用いて、型締力30t、樹脂温度260℃、型温度100℃、射出圧力900kg/cmにて、有効径4.5mm、厚さ3.4mm、焦点距離4.5mmのCDプレイヤー用非球面ピックアップレンズをそれぞれ3種類成形した。射出成形機のシリンダー内での樹脂の滞留時間(樹脂温度250℃以上)は25分間に制御した。得られたレンズの780nmでの光線透過率は、すべて91%以上であった。
【0140】
得られた3種類のピックアップレンズに高温高湿度試験を実施して、780nmにおける光線透過率を測定した。その結果、いずれも試験後の光線透過率の低下は0.05%以内であり、(試験後の光線透過率/試験前の光線透過率)×100=99%であった。
【0141】
[実施例4]
実施例1で水素添加物A1を用いて作成したペレットを用いて、樹脂温度を250℃にする以外は実施例1と同様の射出成形条件で外径18mm、内径14mm、長さ110mmの内容積10ml用の注射器シリンダーを成形した。この注射器シリンダーを用いて、耐スチーム滅菌試験を合計2回実施して、透明性の変化を観察したところ、2回目の耐スチーム滅菌試験の実施後でもシリンダーの透明性には変化が観察されず、(試験後の全光線透過率/試験前の全光線透過率)×100=99%であった。
【0142】
[比較例1]
ピックアップレンズの射出成形時の樹脂温度を330℃に変えたこと以外は、実施例1同様の条件でピックアップレンズを成形し、次いで、高温高湿度試験を実施して光線透過率を測定した。その結果、ゴム質重合体の白濁防止性能が低下して、光線透過率は62%に低下し、(試験後の光線透過率/試験前の光線透過率)×100=68%になった。
【0143】
[比較例2]
ピックアップレンズの射出成形時のシリンダー内での樹脂の滞留時間(樹脂温度250℃以上)を40分間に変えたこと以外は、実施例1同様の条件でピックアップレンズを成形し、高温高湿度試験を実施して光線透過率を測定した。その結果、ゴム質重合体の白濁防止性能が低下して、光線透過率は60%に低下し、(試験後の光線透過率/試験前の光線透過率)×100=66%になった。
【0144】
[比較例3]
注射器シリンダーの射出成形時の樹脂温度を260℃に変えたこと以外は、実施例4と同様の条件で注射器シリンダーを成形し、次いで、耐スチーム滅菌試験を合計2回実施して透明性を観察した。その結果、1回目の耐スチーム滅菌試験実施後の透明性には実質的な変化はなく、(試験後の全光線透過率/試験前の全光線透過率)×100=90%であった。しかしながら、2回目の耐スチーム滅菌試験後に、注射器シリンダーの透明性は急激に低下して完全に白濁し、(試験後の全光線透過率/試験前の全光線透過率)×100=50%になった。
【0145】
[比較例4]
注射器シリンダーの射出成形時の樹脂の成形機シリンダー内での滞留時間(樹脂温度250℃以上)を40分間に変えた以外は、実施例4と同様の条件で注射器シリンダーを成形し、次いで、耐スチーム滅菌試験を合計2回実施して透明性を観察した。その結果、1回目の耐スチーム滅菌試験実施後の透明性には、実質的な変化がなく、(試験後の全光線透過率/試験前の全光線透過率)×100=90%であった。しかしながら、2回目の耐スチーム滅菌試験実施後の注射器シリンダーの透明性は急激に低下して、完全に白濁し、(試験後の全光線透過率/試験前の全光線透過率)×100=45%になった。
【0146】
[比較例5]
水素添加物A1をペレット化する際にゴム質重合体を配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ペレットを調製し、次いで、ピックアップレンズを成形して、評価した。その結果、高温高湿度試験後の光線透過率が60%に低下し、レンズが白濁して半透明状態になり、(試験後の全光線透過率/試験前の全光線透過率)×100=66%になった。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明によれば、長期間にわたる高温高湿度環境下やスチーム環境下での白濁を防止することができ、しかも、透明性や耐熱性に優れ、複屈折が小さい樹脂組成物から形成された成形物が提供される。本発明の成形物は、光学部品や医療用形成品として特に好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビニル芳香族系重合体の水素添加物、ビニルシクロヘキセン系重合体またはその水素添加物、及びビニルシクロヘキサン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル環状炭化水素重合体、及び(B)該重合体に非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を樹脂温度を220〜320℃に、かつ、射出成形機のシリンダー内で250℃以上の樹脂温度で滞留する時間を30分間以内に制御して射出成形されたものである成形物であって、波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を温度65℃、相対湿度90%の雰囲気下に1000時間保持した後の成形物の光線透過率(b)とが、式(1)
[(b)/(a)]×100≧70 (1)
の関係を満足することを特徴とする成形物。
【請求項2】
波長780nmで測定した、該成形物の当初の光線透過率(a)と、該成形物を121℃の飽和蒸気圧1.1kg/cmの条件下に20分間保持し、室温に戻す操作を2回繰り返した後の光線透過率(c)とが、式(2)
[(c)/(a)]×100≧60 (2)
の関係を満足することができる請求項1記載の成形物。
【請求項3】
ビニル環状炭化水素重合体に非相溶な配合剤が、ゴム質重合体である請求項1または2に記載の成形物。
【請求項4】
ビニル環状炭化水素重合体100重量部に対して、ゴム質重合体を0.01〜15重量部の割合で含有する樹脂組成物を成形してなる請求項3記載の成形物。
【請求項5】
ゴム質重合体が、ビニル芳香族系単量体と共役ジエン系単量体との共重合体またはその水素添加物である請求項3記載の成形物。
【請求項6】
樹脂温度220〜255℃で射出成形されたものである請求項1記載の成形物。
【請求項7】
成形物が、光学部品である請求項1または2に記載の成形物。
【請求項8】
成形物が、医療用成形品である請求項1または2に記載の成形物。
【請求項9】
(A)ビニル芳香族系重合体の水素添加物、ビニルシクロヘキセン系重合体またはその水素添加物、及びビニルシクロヘキサン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル環状炭化水素重合体、及び(B)該重合体に非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を、射出成形するに際し、樹脂温度を220〜320℃に、かつ、射出成形機のシリンダー内で250℃以上の樹脂温度で滞留する時間を30分間以内に制御して射出成形することを特徴とする成形物の製造方法。
【請求項10】
樹脂温度を220〜255℃で射出成形する請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
成形物が、光学部品または医療用成形品である請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
(A)ビニル芳香族系重合体の水素添加物、ビニルシクロヘキセン系重合体またはその水素添加物、及びビニルシクロヘキサン系重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種のビニル環状炭化水素重合体、及び(B)該重合体に非相溶な配合剤を含有する樹脂組成物を、射出成形するに際し、樹脂温度を220〜320℃に、かつ、射出成形機のシリンダー内で250℃以上の樹脂温度で滞留する時間を30分間以内に制御して射出成形してなる光学部品。

【公開番号】特開2007−107007(P2007−107007A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−305915(P2006−305915)
【出願日】平成18年11月10日(2006.11.10)
【分割の表示】特願2000−504196(P2000−504196)の分割
【原出願日】平成10年7月28日(1998.7.28)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】