説明

ビニル系重合体の製造方法

【課題】原子移動ラジカル重合に用いた、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属を中心金属とする金属錯体の触媒を効率的に除き、高いヒドロシリル化反応が可能なビニル系重合体を得る。
【解決手段】原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を、非水溶性溶剤に溶解し、酸を溶解した水溶液と接触させ、水側に触媒として使用した周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族の遷移金属錯体を移行させ、油水分離操作において触媒を取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニル系重合体の製造方法、および金属錯体を除去する為の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビニル系重合体の精密合成法としてリビング重合法が一般的に知られている。リビング重合は分子量、分子量分布のコントロールが可能であるというだけでなく、末端構造が明確な重合体が得られる。従って、リビング重合は重合体末端に官能基を導入する有効な方法の一つとして挙げられる。最近、ラジカル重合においても、リビング重合が可能な重合系が見いだされ、リビングラジカル重合の研究が活発に行われている。特に原子移動ラジカル重合を利用することにより分子量分布の狭いビニル系重合体が得られる。原子移動ラジカル重合の例として有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体を触媒とする重合系が挙げられる。
【0003】
しかしながら、原子移動ラジカル重合で製造されるビニル系重合体には重合触媒である遷移金属錯体が残存するため、重合体の着色、物性面への影響および環境安全性等の問題が生ずる。例えば、原子移動ラジカル重合法を利用して製造された末端にアルケニル基を有するビニル系重合体においては残存触媒等がヒドロシリル化反応の触媒毒として働くため、ヒドロシリル化反応が阻害され、高価なヒドロシリル化触媒が多く必要になるという問題が生じる。よって実用上、重合反応を行った後は、重合体から重合触媒を取り除く必要がある。
【0004】
重合触媒の除去方法としては、たとえば、特許文献1に開示された、活性炭、活性アルミナ、アルミニウムシリケート、二酸化ケイ素などの吸着剤に接触させ、引き続き吸着剤を取り除くことによってビニル系重合体を精製する方法などがあげられる。また特許文献2には、固体の有機酸を添加して錯体を破壊し、金属を不溶化させて除去する方法が記載されている。
【0005】
しかしながら、前者の方法においては、吸着剤が高コストであったり、吸着に時間がかかったり、吸着が不完全であることが問題となる場合があった。後者の方法においては、固体酸の溶剤中への溶解性が低く、固体酸を錯体に対して過剰に投入する必要があり、触媒失活反応に長時間を有することがあった。
【0006】
また、特許文献3、特許文献4、特許文献5には、重合体を水と接触させて金属触媒を除去する方法も報告されているが、特許文献3、特許文献4で開示された操作では重合体を有機溶剤に溶解し、水と接触した後に有機相を減圧下留去し、更に重合体を再沈して、乾燥を行う必要があり、操作工数が多く生産性が低かったり、特許文献5は有機溶剤による希釈は行わないものの、洗浄水との接触後の製品中に触媒金属が数百ppmも残っており、触媒金属の除去率が低いことから、実用性が低いものとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−193307号公報
【特許文献2】特開2003−147015号公報
【特許文献3】特開2005−105265号公報
【特許文献4】特開2002−356510号公報
【特許文献5】特開2006−299070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、ビニル系重合体中の金属錯体を経済的かつ効率的に除去可能なビニル系重合体の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、原子移動ラジカル重合により重合されるビニル系重合体を有機溶剤に溶解し、水と酸成分を混合した洗浄水に重合体溶液を接触させることによってビニル系重合体中の金属錯体が効率良く除去でき、ヒドロシリル化反応性組成物用ビニル系重合体を得る事が出来ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、周期律表第7、8、9、10、11族の遷移金属を中心とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を有機溶剤に溶解し、水と酸成分を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによってビニル系重合体中に残存する金属錯体を除去する事を特徴としたビニル系重合体の製造方法に関する。
【0011】
洗浄水に含まれる酸成分が無機酸である事が好ましい。
【0012】
無機酸が硫酸である事が好ましい。
【0013】
洗浄水に含まれる酸成分が有機酸である事が好ましい。
【0014】
有機酸が酢酸である事が好ましい。
【0015】
洗浄水にさらに塩を混合する事が好ましい。
【0016】
ビニル系重合体を溶解する有機溶剤がアルコールである事が好ましい。
【0017】
ビニル系重合体に溶解する有機溶剤が炭素数4以上の直鎖アルコールである事が好ましい。 遷移金属錯体の中心金属が銅である事が好ましい。
【0018】
有機溶剤に溶解したビニル系重合体の溶液中で、ビニル系重合体の含有率が5wt%以上、90wt%以下である事が好ましい。
【0019】
上記記載の製造方法により得られるビニル系重合体に関する。
【0020】
上記のビニル系重合体とヒドロシリル基を有するシラン化合物を反応させて得られる架橋性シリル基を有するビニル系重合体の製造方法に関する。
【0021】
上記記載の製造方法により得られるビニル系重合体を含有するヒドロシリル反応性組成物に関する。
【0022】
上記記載のビニル系重合体とヒドロシリル基を有するシラン化合物をヒドロシリル化させて得られる架橋性シリル基を有するビニル系重合体に関する。
【0023】
上記記載の精製方法に関する。
【発明の効果】
【0024】
本発明のビニル系重合体の製造方法によれば、重合に用いた遷移金属錯体の含有量が著しく低減したヒドロシリル化反応性組成物用ビニル系重合体を容易に得ることができ、吸着剤による触媒除去に比べ水で洗浄することにより、固形廃棄物の削減や、吸着剤を固液分離操作等で取り除くために要する時間も短縮することが可能である。その結果、生産性を向上させつつ設備コストの面で有利な生産工程を提供することができ、その工業的価値は非常に大きい。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明につき、さらに詳細に説明するが、本発明は以下の製造方法に限定されるものではない。
【0026】
本発明は、周期律表第7、8、9、10、11族の遷移金属を中心とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を有機溶剤に溶解し、水と酸成分を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによってビニル系重合体中に残存する金属触媒を除去する事を特徴としたビニル系重合体の製造方法である。
【0027】
原子移動ラジカル重合
まず始めに原子移動ラジカル重合について詳述する。本発明における原子移動ラジカル重合とは、リビングラジカル重合の一つであり、有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤、遷移金属(M)を中心金属とする金属錯体を触媒としてビニル系モノマーをラジカル重合する方法である。具体的には、例えば、Matyjaszewskiら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカルソサエティー(J.Am.Chem.Soc.)1995年、117巻、5614頁、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、7901頁,サイエンス(Science)1996年、272巻、866頁、WO96/30421号公報,WO97/18247号公報、WO98/01480号公報,WO98/40415号公報、あるいはSawamotoら、マクロモレキュールズ(Macromolecules)1995年、28巻、1721頁、特開平9−208616号公報、特開平8−41117号公報などが挙げられる。
【0028】
この原子移動ラジカル重合では、有機ハロゲン化物、特に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を有する有機ハロゲン化物(例えば、α位にハロゲンを有するカルボニル化合物や、ベンジル位にハロゲンを有する化合物)、あるいはハロゲン化スルホニル化合物等が開始剤として用いられる。具体的に例示するならば、
−CHX、C−C(H)(X)CH
−C(X)(CH
(ただし、上の化学式中、Cはフェニル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
−C(H)(X)−CO
−C(CH)(X)−CO
−C(H)(X)−C(O)R、R−C(CH)(X)−C(O)R
(式中、R、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
−C−SO
(上記の各式において、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、またはアラルキル基、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
等が挙げられる。
【0029】
有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を開始剤としてビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を行うことにより、一般式(1)に示す末端構造を有するビニル系重合体が得られる。
−C(R)(R)(X) (1)
(式中、R及びRはビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基を示す。Xは塩素、臭素又はヨウ素を示す。)
原子移動ラジカル重合の開始剤として、重合を開始する官能基とともに重合を開始しない特定の反応性官能基を併せ持つ有機ハロゲン化物又はハロゲン化スルホニル化合物を用いることもできる。このような場合、一方の主鎖末端に特定の反応性官能基を、他方の主鎖末端に一般式(1)に示す末端構造を有するビニル系重合体が得られる。このような特定の反応性官能基としては、アルケニル基、架橋性シリル基、ヒドロキシル基、エポキシ基、アミノ基、アミド基等が挙げられる。これらの反応性官能基の反応性を利用して一段階又は数段階の反応を経ることによりビニル系重合体に他の適当な官能基を導入することができる。
【0030】
アルケニル基を有する有機ハロゲン化物としては限定されず、例えば、一般式(2)に示す構造を有するものが例示される。
C(X)−R−R−C(R)=CH (2)
(式中、Rは水素、またはメチル基、R、Rは水素、または、炭素数1〜20の1価のアルキル基、アリール基、またはアラルキル、または他端において相互に連結したもの、Rは、−C(O)O−(エステル基)、−C(O)−(ケト基)、またはo−,m−,p−フェニレン基、Rは直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基で1個以上のエーテル結合を含んでいても良い、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
置換基R、Rの具体例としては、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等が挙げられる。RとRは他端において連結して環状骨格を形成していてもよい。
【0031】
一般式(2)で示される、アルケニル基を有する有機ハロゲン化物の具体例としては、
XCHC(O)O(CHCH=CH
CC(H)(X)C(O)O(CHCH=CH
(HC)C(X)C(O)O(CHCH=CH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHCH=CH
【0032】
【化1】

【0033】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
XCHC(O)O(CHO(CHCH=CH
CC(H)(X)C(O)O(CHO(CHCH=CH
(HC)C(X)C(O)O(CHO(CHCH=CH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHO(CHCH=CH
【0034】
【化2】

【0035】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CH−CH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CH−O−(CHCH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−CH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−O−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CH−CH=CH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CH−CH=CH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
【0036】
アルケニル基を有する有機ハロゲン化物としてはさらに一般式(3)で示される化合物が挙げられる。
C=C(R)−R−C(R)(X)−R10−R (3)
(式中、R、R、R、R、Xは上記に同じ、R10は、直接結合、−C(O)O−(エステル基)、−C(O)−(ケト基)、または、o−,m−,p−フェニレン基を表す)
【0037】
9は直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基(1個以上のエーテル結合を含んでいても良い)であるが、直接結合である場合は、ハロゲンの結合している炭素にビニル基が結合しており、ハロゲン化アリル化物である。この場合は、隣接ビニル基によって炭素−ハロゲン結合が活性化されているので、R10としてC(O)O基やフェニレン基等を有する必要は必ずしもなく、直接結合であってもよい。Rが直接結合でない場合は、炭素−ハロゲン結合を活性化するために、R10としてはC(O)O基、C(O)基、フェニレン基が好ましい。
【0038】
一般式(3)の化合物を具体的に例示するならば、
CH=CHCHX、
CH=C(CH)CHX、
CH=CHC(H)(X)CH、CH=C(CH)C(H)(X)CH
CH=CHC(X)(CH、CH=CHC(H)(X)C
CH=CHC(H)(X)CH(CH
CH=CHC(H)(X)C、CH=CHC(H)(X)CH
CH=CHCHC(H)(X)−COR、
CH=CH(CHC(H)(X)−COR、
CH=CH(CHC(H)(X)−COR、
CH=CH(CHC(H)(X)−COR、
CH=CHCHC(H)(X)−C
CH=CH(CHC(H)(X)−C
CH=CH(CHC(H)(X)−C
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基)
等を挙げることができる。
【0039】
アルケニル基を有するハロゲン化スルホニル化合物の具体例を挙げるならば、
o−,m−,p−CH=CH−(CH−C−SOX、
o−,m−,p−CH=CH−(CH−O−C−SOX、
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、nは0〜20の整数)
等である。
【0040】
上記架橋性シリル基を有する有機ハロゲン化物としては特に限定されず、例えば一般式(4)に示す構造を有するものが例示される。
C(X)−R−R−C(H)(R)CH−[Si(R112−b(Y)O]−Si(R123−a(Y) (4)
(式中、R、R、R、R、R、Xは上記に同じ、R11、R12は、いずれも炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、または(R’)SiO−(R’は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であって、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R11またはR12が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するときそれらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0,1,2,または3を、また、bは0,1,または2を示す。mは0〜19の整数である。ただし、a+mb≧1であることを満足するものとする)
一般式(4)の化合物を具体的に例示するならば、
XCHC(O)O(CHSi(OCH
CHC(H)(X)C(O)O(CHSi(OCH
(CHC(X)C(O)O(CHSi(OCH
XCHC(O)O(CHSi(CH)(OCH
CHC(H)(X)C(O)O(CHSi(CH)(OCH
(CHC(X)C(O)O(CHSi(CH)(OCH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、ヨウ素、nは0〜20の整数、)
XCHC(O)O(CHO(CHSi(OCH
CC(H)(X)C(O)O(CHO(CHSi(OCH
(HC)C(X)C(O)O(CHO(CHSi(OCH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHO(CHSi(OCH
XCHC(O)O(CHO(CHSi(CH)(OCH
CC(H)(X)C(O)O(CHO(CH−Si(CH)(OCH
(HC)C(X)C(O)O(CHO(CH−Si(CH)(OCH
CHCHC(H)(X)C(O)O(CHO(CH−Si(CH)(OCH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、ヨウ素、nは1〜20の整数、mは0〜20の整数)
o,m,p−XCH−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−XCH−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CHSi(OCH
o,m,p−XCH−C−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−XCH−C−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−Si(OCH
o,m,p−XCH−C−O−(CH−O−(CH−Si(OCH
o,m,p−CHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CHSi(OCH
o,m,p−CHCHC(H)(X)−C−O−(CH−O−(CHSi(OCH
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素)
等が挙げられる。
【0041】
上記架橋性シリル基を有する有機ハロゲン化物としてはさらに、一般式(5)で示される構造を有するものが例示される。
(R123−a(Y)Si−[OSi(R112−b(Y)−CH−C(H)(R)−R−C(R)(X)−R10−R (5)
(式中、R、R、R、R、R10、R11、R12、a、b、m、X、Yは上記に同じ)
このような化合物を具体的に例示するならば、
(CHO)SiCHCHC(H)(X)C
(CHO)(CH)SiCHCHC(H)(X)C
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−COR、
(CHO)Si(CHC(H)(X)−C
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−C
(CHO)Si(CHC(H)(X)−C
(CHO)(CH)Si(CHC(H)(X)−C
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基)
等が挙げられる。
【0042】
上記ヒドロキシル基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
HO−(CH−OC(O)C(H)(R)(X)
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
上記アミノ基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
N−(CH−OC(O)C(H)(R)(X)
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
上記エポキシ基を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物としては特に限定されず、下記のようなものが例示される。
【0043】
【化3】

【0044】
(上記の各式において、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、Rは水素原子または炭素数1〜20のアルキル基、アリール基、アラルキル基、nは1〜20の整数)
【0045】
反応性官能基を1分子内に2つ以上有する重合体を得るためには、2つ以上の開始点を持つ有機ハロゲン化物、またはハロゲン化スルホニル化合物が開始剤として用いるのが好ましい。具体的に例示するならば、
【0046】
【化4】

【0047】
【化5】

【0048】
等があげられる。
【0049】
重合触媒として用いられる遷移金属錯体としては特に限定されないが、好ましくは周期律表第7族、8族、9族、10族、または11族元素を中心金属とする金属錯体である。更に好ましいものとして、0価の銅、1価の銅、2価のルテニウム、2価の鉄又は2価のニッケルの錯体が挙げられる。なかでも、銅の錯体が好ましい。1価の銅化合物を具体的に例示するならば、塩化第一銅、臭化第一銅、ヨウ化第一銅、シアン化第一銅、酸化第一銅、過塩素酸第一銅等である。
【0050】
上記触媒の活性を高めるため、窒素を含有する配位子を添加するのが好ましく、窒素を含有する配位子が、2以上の配位座を有するキレート配位子であることがより好ましい。この場合の触媒は、ハロゲン化されたMと窒素を含有する配位子との反応により生成したものであることが好ましい。
【0051】
上記2以上の配位座を有するキレート配位子としては2,2′−ビピリジル若しくはその誘導体、1,10−フェナントロリン若しくはその誘導体、又はテトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン若しくはヘキサメチルトリス(2−アミノエチル)アミン等のポリアミン等が挙げられる。 金属Mが銅の場合、上記窒素を含有する配位子が好ましい。
【0052】
また、2価の塩化ルテニウムのトリストリフェニルホスフィン錯体(RuCl(PPh)も触媒として好適である。ルテニウム化合物を触媒として用いる場合は、活性化剤としてアルミニウムアルコキシド類が添加される。更に、2価の鉄のビストリフェニルホスフィン錯体(FeCl(PPh)、2価のニッケルのビストリフェニルホスフィン錯体(NiCl(PPh)、及び、2価のニッケルのビストリブチルホスフィン錯体(NiBr(PBu)も、触媒として好適である。
【0053】
この重合において用いられるビニル系モノマーとしては特に制約はなく、例えば(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸−n−ペンチル、(メタ)アクリル酸−n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−n−ヘプチル、(メタ)アクリル酸−n−オクチル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸トルイル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸−2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−メトキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチル、γ−(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(メタ)アクリル酸のエチレンオキサイド付加物、(メタ)アクリル酸トリフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−トリフルオロメチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル−2−パーフルオロブチルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロメチル、(メタ)アクリル酸ジパーフルオロメチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロメチル−2−パーフルオロエチルメチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロデシルエチル、(メタ)アクリル酸2−パーフルオロヘキサデシルエチル等の(メタ)アクリル酸系モノマー;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、クロルスチレン、スチレンスルホン酸及びその塩等のスチレン系モノマー;パーフルオロエチレン、パーフルオロプロピレン、フッ化ビニリデン等のフッ素含有ビニルモノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン等のケイ素含有ビニル系モノマー;無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;フマル酸、フマル酸のモノアルキルエステル及びジアルキルエステル;マレイミド、メチルマレイミド、エチルマレイミド、プロピルマレイミド、ブチルマレイミド、ヘキシルマレイミド、オクチルマレイミド、ドデシルマレイミド、ステアリルマレイミド、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系モノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニル系モノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニル系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル、桂皮酸ビニル等のビニルエステル類;エチレン、プロピレン等のアルケン類;ブタジエン、イソプレン等の共役ジエン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、塩化アリル、アリルアルコール等が挙げられる。これらは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも、生成物の物性等から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、特に好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、更に好ましくは、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチルである。なお上記表現形式で例えば(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/あるいはメタクリル酸を表す。
【0054】
重合反応は、無溶剤でも可能であるが、各種の溶剤中で行うこともできる。溶剤の種類としては特に限定されず、例えば、ベンジエン、トルエン等の炭化水素系溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、アニソール、ジメトキシベンジエン等のエーテル系溶剤;塩化メチレン、クロロホルム、クロロベンジエン等のハロゲン化炭化水素系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶剤;アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶剤;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶剤等が挙げられる。これらは、単独でもよく、2種以上を併用してもよい。また、エマルジョン系もしくは超臨界流体COを媒体とする系においても重合を行うことができる。
【0055】
限定はされないが、重合は、0〜200℃の範囲で行うことができ、好ましくは、室温〜150℃の範囲である。
【0056】
ビニル系重合体について
次に本発明におけるビニル系重合体について詳述する。
【0057】
ビニル系重合体は特に限定されないが、ビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合により製造されるものである。このようなビニル系モノマーとしては特に限定されず、既に例示されたものを用いることができる。これらのビニル系モノマーは、単独で用いても良いし、複数を共重合させても構わない。なかでも、生成物の物性等から、スチレン系モノマー及び(メタ)アクリル酸系モノマーが好ましい。より好ましくは、アクリル酸エステルモノマー及びメタクリル酸エステルモノマーであり、特に好ましくはアクリル酸エステルモノマーであり、更に好ましくは、アクリル酸ブチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−2−メトキシエチル、アクリル酸ステアリルである。本発明においては、これらの好ましいモノマーを他のモノマーと共重合、更にはブロック共重合させても構わなく、その際は、これらの好ましいモノマーが重量比で40%以上含まれていることが好ましい。
【0058】
ビニル系重合体の分子量分布、すなわち、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定した重量平均分子量と数平均分子量の比は、特に限定されないが、好ましくは1.8未満であり、好ましくは1.7以下であり、より好ましくは1.6以下であり、さらに好ましくは1.5以下であり、特に好ましくは1.4以下であり、最も好ましくは1.3以下である。本発明でのGPC測定においては、通常、移動相としてクロロホルムを用い、測定はポリスチレンゲルカラムにておこない、数平均分子量等はポリスチレン換算で求めることができる。
【0059】
ビニル系重合体の数平均分子量は特に制限はないが、500〜1,000,000の範囲が好ましく、1000〜100,000がさらに好ましい。分子量が低くなりすぎると、ビニル系重合体の本来の特性が発現されにくく、また、逆に高くなりすぎると、取扱いが困難になる。
【0060】
本発明の精製方法はビニル系重合体の重合後すぐに行ってもよいが、重合後のビニル系重合体の分子内に反応性官能基を付けてから行ってもよい。分子内に反応性官能基を有する場合には側鎖又は分子鎖末端のいずれに存在していてもよい。反応性官能基としては特に限定されないが、例えばアルケニル基、水酸基、アミノ基、架橋性シリル基、重合性炭素−炭素二重結合基等が挙げられる。
【0061】
さらに、官能基の導入方法としては、特に限定されず、様々な方法が利用される。例えば下記方法等が例示される。
(1) 官能基を有するビニル系モノマーを、原子移動ラジカル重合条件下で、所定のビニル系モノマーと共重合させる方法、
(2) 官能基を有するラジカル重合性の低いオレフィン化合物を、ビニル系重合体の末端ハロゲン基に原子移動ラジカル重合条件下で反応させる方法、
(3) 官能基を有する特定の化合物により、ビニル系重合体の末端ハロゲン基を置換する方法、
(4) ビニル系重合体の末端ハロゲンと、一般式(6)
+−OC(O)C(R)=CH (6)
(式中、Rは水素、又は、炭素数1〜20の有機基を表す。Aはアルカリ金属、又は4級アンモニウムイオンを表す。)
で表される化合物を反応させる方法。
【0062】
反応性官能基を一段階もしくは数段階で別の適当な官能基へ変換することもできる。例えば本発明においても水酸基等の反応性官能基を変換することによりアルケニル基を有するビニル系重合体が合成される。
【0063】
その中でも、ヒドロシリル化を行なう場合は(2)の方法で末端にアルケニル基を有するビニル系重合体を得る事が好ましい。以下(2)の方法について説明する。ビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合により得られるビニル系重合体に重合性の低いアルケニル基を少なくとも2個有する化合物(以下、「ジエン系化合物」という。)を反応させることを特徴とする。
【0064】
ジエン系化合物の少なくとも2つのアルケニル基は互いに同一又は異なっていてもよい。アルケニル基としては末端アルケニル基[CH=C(R)−R’;Rは水素又は炭素数1〜20の有機基、R’は炭素数1〜20の有機基であり、RとR’は互いに結合して環状構造を有していてもよい。]又は内部アルケニル基[R’−C(R)=C(R)−R’;Rは水素又は炭素数1〜20の有機基、R’は炭素数1〜20の有機基であり、二つのR(若しくは二つのR’)は互いに同一であってもよく異なっていてもよい。二つのRと二つのR’の二つの置換基のうちいずれか二つが互いに結合して環状構造を有していてもよい。]のいずれでもよいが、末端アルケニル基がより好ましい。Rは水素又は炭素数1〜20の有機基であるが、炭素数1〜20の有機基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリ−ル基、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましい。これらの中でもRとしては水素又はメチル基が特に好ましい。
【0065】
また、ジエン系化合物のアルケニル基のうち、少なくとも2つのアルケニル基が共役していてもよい。
【0066】
ジエン系化合物の具体例としては例えば、イソプレン、ピペリレン、ブタジエン、ミルセン、1、5−ヘキサジエン、1、7−オクタジエン、1、9−デカジエン、4−ビニル−1−シクロヘキセン等が挙げられるが、1、5−ヘキサジエン、1、7−オクタジエン、1、9−デカジエンが好ましい。
【0067】
ビニル系重合体の精製方法
次に本発明におけるビニル系重合体の精製方法について詳述する。本発明は以下の精製方法に限定されるものではない。
【0068】
本発明は、周期律表第7、8、9、10、11族の遷移金属を中心とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を有機溶剤に溶解し、水と酸成分を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによってビニル系重合体中に残存する金属触媒を除去する(A)重合体と水を混合攪拌する精製工程に関するものであるが、本精製方法を行った後、(B)脱ハロゲン化を行い、重合体1kg中のハロゲン原子の量を1000mg以下にする脱ハロゲン工程、(C)重合体と水とを混合攪拌分離する精製工程を経て、ビニル系重合体を得る製造方法が好ましい。
【0069】
<(A)重合体と水を混合攪拌する精製工程について>
重合によって得られたビニル系重合体溶液は、重合体および触媒である遷移金属錯体を含んでいるため、重合活性を消失させるとともに、これら遷移金属を分離除去する必要がある。本発明では非水溶性溶剤と酸成分を含む水溶液を用いて精製処理することにより、遷移金属錯体を除去する。
【0070】
本発明の精製操作は、ビニル系重合体を非水溶性溶剤で溶解した上で行う。重合体の溶解には、以下のような各種溶剤を選択することが出来る。非水溶性溶剤としては、たとえばn−ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンなどの飽和炭化水素系溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソールなどの芳香族炭化水素系溶剤;塩化メチレン、四塩化炭素、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶剤;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソアミルなどのエステル系溶剤;メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、n−ペンタノール、n−ヘキサノールなどのアルコール系溶剤などがあげられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。この中で好ましい溶剤は、アルコール系溶剤である。中でも炭素数4以上のアルコールが好ましく、さらに好ましくはn−ブタノールである。
【0071】
上記溶剤の使用量は、特に限定されない。通常はビニル系重合体が5wt%〜90wt%の範囲になるように溶剤を添加する事が好ましく、経済性と操作面からビニル系重合体が10〜50wt%の範囲となるのが好ましい。
【0072】
使用する水については、重合体の汚染防止を考慮すること以外に選択条件はない。50μm以下のフィルターを通した水が好ましく、イオン交換樹脂で処理した純水がより好ましい。
【0073】
本発明では重合体溶液中の金属錯体を除去する為、水に酸成分を混合させる。水に溶解する酸成分の例は、無機酸または有機酸である事が好ましい。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、リン酸などがあげられる。その中でも、設備保護の点で、硫酸が好ましい。有機酸としてはシュウ酸、酢酸、クエン酸、アジピン酸等が単独または併用して使用する事が出来る。経済性から見ると酢酸等が好ましい。
【0074】
水に加える酸の含有量は特に限定されないが、それぞれ酸の溶解度に対応して添加量を調整することが好ましい。酸水溶液と重合体溶液とを混合した後の金属触媒の除去を促進するためには、無機酸の場合の添加量は0.001〜5wt%にすることが好ましく、廃水処理の負荷を低減するために0.01〜0.5wt%にすることが好ましい。有機酸の場合の添加量は0.01〜10wt%にすることが好ましく、廃水処理の負荷を低減するために0.5〜3wt%にすることが好ましい。
【0075】
また、重合体溶液との分離性を高めるために、水に塩成分を混合させても良い。水に溶解する塩成分の例は、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、フタル酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウムおよびメタクリル酸ナトリウムである。これらのナトリウム塩はカリウム塩もしくはアンモニウム塩でもよい。この中では、入手が容易であり、中性塩で廃水処理における負荷の低い、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウムが好ましく、硫酸ナトリウムがより好ましい。
【0076】
水に加える塩成分の含有量は特に限定されないが、完全に溶解している必要があるため、それぞれ塩成分の溶解度に対応して添加量を調整することが好ましい。塩成分と水の混合水溶液と重合体溶液とを混合した後の分離性を促進するためには、塩成分の添加量を0.1〜15wt%にすることが好ましく、廃水処理の負荷を低減するために0.1〜10wt%にすることが好ましい。
【0077】
酸を溶解した水溶液と重合体溶液を接触させる際の水の使用量は特に制限はないが、ビニル系重合体100重量部に対して水は10〜2000重量部の範囲が好ましい。さらに好ましくは経済性と操作面から、100〜300重量部であることが好ましい。
【0078】
酸を溶解した水溶液と重合体溶液の液々接触には様々な実施態様が可能であるが、撹拌混合と液々分離を回分操作で行う回分式のほか、水と重合体を向流方式で容器に通液する抽出塔方式やスプレー塔方式等も利用できる。さらに必要に応じて撹拌による混合分散に加えて、容器の振とう、超音波の利用など、分散効率を向上させる諸操作を取り入れることができる。2相を混合させる駆動力を必要としない方法として、スプレー塔、充填塔、バッフル塔、多孔板抽出塔、オリフィス塔、スタティックミキサーなどのフローミキサーと呼ばれる方法などが挙げられる。また、駆動力を必要とする方法としては、脈動式充填塔、脈動式多孔板塔、振動板塔、ポドビルニアク抽出機やルウェスタ抽出機のような遠心式抽出装置が挙げられる。駆動力として撹拌方式を用いる装置は様々な方式があり、ミキサーセトラー抽出装置や、シャイベル塔、回転円板抽出塔、オルドシュー−ラシュトン塔、ARD塔などが上げられる。
【0079】
水もしくは酸、塩成分を溶解した水溶液と重合体溶液を接触させる際の温度としては特に限定されず、一般に0〜200℃であればよい。好ましくは20〜100℃であり、より好ましくは30〜80℃である。温度を高くすれば、重合体溶液の粘度が下がり分散する油滴が小さくなるため、水との接触面積が大きくなり、金属触媒の抽出が促進されるので好ましい。ただし高すぎるとビニル系重合体の品質が悪化する恐れがある。
【0080】
上記接触を行う時間も特に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲内であればよい。重合体を溶解する非水溶性溶剤や酸、無機塩の種類を限定することにより、1分程度の混合攪拌により精製を完了する組み合わせもある。その他の組み合わせでも、通常、5〜300分程度で行うことができる。
【0081】
水もしくは酸、塩成分を溶解した水溶液と重合体溶液との油水分離には、比重差を利用する遠心分離または静置分離、あるいは電気的性質の違いを利用する静電浄油などを利用することが出来る。上記油水分離を行う時間も特に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲内であればよい。通常、1〜300分程度で行うことが出来る。
【0082】
上記の酸成分を溶解した水溶液と重合体溶液との接触および油水分離の回数は特に限定されず、一回でも数回行ってもかまわない。さらに、酸成分で洗浄した後に純粋または塩成分の溶解した水溶液で洗浄しても良い。
【0083】
上記の精製処理により、本発明の重合体における遷移金属成分の含有量を重合体1kgに対して1mg以下にすることができる。
【0084】
以上において本発明にかかる方法は、原子移動ラジカル重合によるビニル系重合体の製造の際に、広範に適用することが出来る。
【0085】
<(B)脱ハロゲン化工程について>
(A)重合体と水を混合攪拌する精製工程によって得られた、ハロゲン含有ビニル系重合体は以下の2つの方法により脱ハロゲン化されることが好ましい。
(a)加熱法:ハロゲン含有ビニル系重合体は加熱により脱ハロゲン化を行なう。
(b)置換法:ビニル系重合体の末端ハロゲンを、オキシアニオン化合物で置換することにより、脱ハロゲンを行なう。
以下(a)について詳しく説明する。
【0086】
(a)加熱法
ハロゲン含有ビニル系重合体は加熱により脱ハロゲン化が可能である。処理温度は特に限定されない。処理時間の短縮のためにはより高温の方が好ましいが、高温にしすぎるとビニル系重合体の分解が起こるため、ビニル系重合体の分解が顕著に起こらない温度領域でビニル系重合体を加熱処理することが好ましい。具体的には100℃以上250℃以下が好ましく、120℃以上250℃以下がより好ましく、140℃以上250℃以下が更に好ましく、170℃以上250℃以下が特に好ましく、190℃以上250℃以下が最も好ましい。
【0087】
さらに、上記加熱処理は減圧下で行うのが好ましい。
【0088】
ビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合で製造される末端に一般式(A)で表される基を有するビニル系重合体は上述の加熱処理で脱ハロゲン化される。
−C(R)(R)(X) (A)
(式中、R及びRはビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基を示す。Xは塩素、臭素又はヨウ素を示す。)
ここでR及びRはビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基であるが、(メタ)アクリル酸系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基であることが好ましい。
【0089】
高温加熱処理による酸の遊離、分子量ジャンプ等のポリマー劣化、ビニル系重合体の官能基への影響が問題となる場合には、ハロゲン含有構造を特定の構造に変換することが好ましい。例えば、一般式(A)で表される基を下記の一般式(B)で表される基に変換し、加熱処理することで重合体同士のカップリングを抑制しつつ速やかに脱ハロゲン化が進行する。
−C(R)(R)−CH−CH(X)− (B)
(式中、R及びRはビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基を示す。Xは塩素、臭素又はヨウ素を示す。)
ここでR及びRはビニル系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基であるが、(メタ)アクリル酸系モノマーのエチレン性不飽和基に結合した基であることが好ましい。
【0090】
また、ハロゲン含有構造がγ−ハロカルボン酸構造、γ−ハロカルボン酸塩構造もしくはγ−ハロエステル構造(以下、γ−ハロカルボン酸構造等という)である場合には加熱処理により容易に脱ハロゲン化が可能であるため、脱ハロゲン化方法としてはより好ましいハロゲン含有構造である。γ−ハロカルボン酸構造等としては特に限定されないが、下記一般式(D)で表される基がより好ましい。
−C(R50)(CO51)−CH−CH(X)−CH(R52)−R53 (D)
(式中、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、R50は水素原子または炭素数1〜10の有機基、R51は水素原子、炭素数1〜20の有機基又はアルカリ金属原子、R52は水素原子、水酸基又は有機基、R53は水素原子、水酸基又は有機基)
ここで、R50は水素原子または炭素数1〜10の有機基であって、好ましく水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基、さらに好ましくは水素原子またはメチル基、最も好ましくは水素原子である。
【0091】
51は水素原子、炭素数1〜20の有機基又はアルカリ金属原子である。炭素数1〜20の有機基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基等が例示されるが、1個以上のエーテル結合を有するものであってもよく、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基等が例示される。R51は、水素原子、アルカリ金属原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基が好ましく、水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基がより好ましく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基が特に好ましい。
【0092】
52、R53は水素原子、水酸基、1価若しくは2価の有機基であってR52及びR53は同一又は異なる基であってよい。R52、R53が有機基である場合には1個以上のエーテル結合又は1個以上のエステル結合を含んでいてもよい。また、R52、R53は他端において連結して環状骨格を形成していてもよい。またビニル系重合体等の重合体に結合する2価の有機基であってもよい。またエチレン性不飽和基、水酸基、アミノ基、シリル基等の官能基に結合する2価の有機基であってもよい。R52は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又はメチル基が特に好ましい。R53が1価の有機基である場合には炭素数1〜20の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の炭化水素基が特に好ましい。R53が官能基又は重合体に結合する2価の有機基である場合には炭素数1〜20の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の炭化水素基が特に好ましい。官能基としてはエチレン性不飽和基又は水酸基が好ましい。
【0093】
一般式(D)で表される基を有するビニル系重合体はラクトン環形成を経て脱ハロゲン化される。この際、ハロゲンは有機ハロゲン化物として脱離するため、遊離酸の発生が抑制される。
【0094】
【化6】

【0095】
一般式(A)で表される基、一般式(B)で表される基、一般式(D)で表される基を有するビニル系重合体の製造方法は特に限定されないが、原子移動ラジカル重合を利用して直接的若しくは間接的に製造することができる。以下に具体的な製造例を示す。
【0096】
一般式(A)で表される基を有するビニル系重合体は、例えばビニル系モノマーを上述の原子移動ラジカル重合法により重合することで製造される。特にビニル系モノマーが(メタ)アクリル酸系モノマーである場合には末端に一般式(C)で表される基を有するビニル系重合体が製造される。この場合には一般式(C)で表される基の置換基であるR50、CO51は(メタ)アクリル酸系モノマーのエチレン性不飽和基に結合する基に由来する基となる。
−C(R50)(CO51)−X (C)
(式中、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、R50は水素原子または炭素数1〜10の有機基、R51は水素原子、炭素数1〜20の有機基又はアルカリ金属原子)
一般式(B)で表される基を有するビニル系重合体は一般式(A)で表される基を有するビニル系重合体を製造し、末端ハロゲンにエチレン性不飽和基含有化合物を反応させることにより製造される。
【0097】
一般式(D)で表される基を有するビニル系重合体はビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合で製造される一般式(A)で表される基を有するビニル系重合体の末端ハロゲンにペンテン酸又はその誘導体等のエチレン性不飽和基含有化合物を反応させる方法により製造される。
【0098】
また、一般式(D)で表される基を有するビニル系重合体は以下の方法によっても製造される。
【0099】
ビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用して下記一般式(C)で表される基を末端に有するビニル系重合体を製造し、ビニル系重合体の末端ハロゲンに下記一般式(E)で表されるエチレン性不飽和基含有化合物を反応させることにより上述の一般式(D)で表される基に変換することができる。
−C(R50)(CO51)―X (C)
(式中、Xは塩素、臭素、またはヨウ素、R50は水素原子または炭素数1〜10の有機基、R51は水素原子、炭素数1〜20の有機基又はアルカリ金属原子、R52は水素原子、水酸基又は有機基、R53は水素原子、水酸基又は有機基)
ここで、R50は水素原子または炭素数1〜10の有機基であって、好ましく水素原子または炭素数1〜5の炭化水素基、さらに好ましくは水素原子またはメチル基、最も好ましくは水素原子である。
【0100】
51は水素原子、炭素数1〜20の有機基又はアルカリ金属原子である。炭素数1〜20の有機基としては炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基等が例示されるが、1個以上のエーテル結合を有するものであってもよく、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基等が例示される。R51は、水素原子、アルカリ金属原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基が好ましく、水素原子、ナトリウム原子、カリウム原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基がより好ましく、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルコキシアルキル基が特に好ましい。
CH=CH−CH(R52)−R53 (E)
(式中、R52は水素原子、水酸基又は有機基、R53は水素原子、水酸基又は有機基)
ここで、R52、R53は水素原子、水酸基又は有機基であってR52及びR53は同一又は異なる基であってよい。R52、R53が有機基である場合には1個以上のエーテル結合又は1個以上のエステル結合を含んでいてもよく、また重合体であってもよい。また、R52、R53は他端において連結して環状骨格を形成していてもよい。)
一般式(E)で表されるエチレン性不飽和基含有化合物のR52、R53は水素原子、水酸基、1価若しくは2価の有機基であってR52及びR53は同一又は異なる基であってよい。R52、R53が有機基である場合には1個以上のエーテル結合又は1個以上のエステル結合を含んでいてもよい。また、R52、R53は他端において連結して環状骨格を形成していてもよい。またビニル系重合体等の重合体に結合する2価の有機基であってもよい。またエチレン性不飽和基、水酸基、アミノ基、シリル基等の官能基に結合する2価の有機基であってもよい。R52は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基であることが好ましく、水素原子又はメチル基が特に好ましい。R53が1価の有機基である場合には炭素数1〜20の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の炭化水素基が特に好ましい。R53が官能基又は重合体に結合する2価の有機基である場合には炭素数1〜20の有機基であることが好ましく、炭素数1〜20の炭化水素基が特に好ましい。官能基としてはエチレン性不飽和基又は水酸基が好ましい。
【0101】
一般式(C)で表される基を末端に有するビニル系重合体の製造方法は特に限定されないが、(メタ)アクリル酸系モノマーの原子移動ラジカル重合を利用した製造方法が簡便であるため好ましい。(メタ)アクリル酸系モノマーを使用した原子移動ラジカル重合により製造されるビニル系重合体の一般式(C)で表される基におけるR50、CO51は(メタ)アクリル酸系モノマーのエチレン性不飽和基に結合する基である。
【0102】
一般式(E)で表されるエチレン性不飽和基含有化合物としては特に限定されないが、ラジカル重合活性の低い化合物が好ましい。このような化合物としては炭化水素系化合物が好ましく、例えばCH=CH−(CH−CH(nは0〜20の整数)等のエチレン性不飽和基含有脂肪族炭化水素系化合物、CH=CH−(CH−C(nは1〜20の整数)等のエチレン性不飽和基含有芳香族炭化水素系化合物が例示される。
【0103】
分子内に複数個のエチレン性不飽和基を有する化合物も好適に使用される。分子内に複数個のエチレン性不飽和基を有する化合物を使用する場合はエチレン性不飽和基と分子鎖末端のモル比を調節することにより、重合体同士のカップリングもしくは重合体へのエチレン性不飽和基の導入が可能となる。このような化合物としては例えば1,7−オクタジエン等の非共役ジエン化合物が挙げられる。
【0104】
分子内に水酸基、アミノ基等の官能基を有するエチレン性不飽和基含有化合物も好適に使用される。この場合には重合体への水酸基、アミノ基等の官能基の導入が可能となる。
【0105】
一般式(C)で表される基を末端に有するビニル系重合体の末端ハロゲンと一般式(E)で表されるエチレン性不飽和基含有化合物との反応方法は特に限定されないが、「原子移動ラジカル重合の反応系」を利用した方法が好ましい。「原子移動ラジカル重合の反応系」とは、原子移動ラジカル重合で使用される反応系という意味である。すなわち一般式(C)で表される基を有するビニル系重合体を原子移動ラジカル重合における開始剤である有機ハロゲン化物に相当するものとして使用し、原子移動ラジカル重合で好適に使用される遷移金属錯体、配位子、活性化剤、溶剤等を使用し、原子移動ラジカル重合での好適な条件でビニル系重合体のハロゲンにエチレン性不飽和基含有化合物を反応させることをいう。従ってビニル系モノマーの原子移動ラジカル重合途中若しくは重合終了時に重合系中にエチレン性不飽和基含有化合物を添加し、ビニル系モノマーの重合工程及びビニル系重合体とエチレン性不飽和基含有化合物との反応工程をワンポットで完結させる方法に限定されず、ビニル系モノマーの重合工程と別の工程で原子移動ラジカル重合の反応条件下でビニル系重合体にエチレン性不飽和基含有化合物を反応させる方法であってもよい。また、ビニル系モノマーの重合条件及びビニル系重合体にエチレン性不飽和化合物を反応させる条件が同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0106】
一般式(C)で表される基は脱ハロゲン化処理によりビニル系重合体の分子量ジャンプを引き起こす要因となるので分子量ジャンプが問題となる場合にはできる限り完全に一般式(D)で表される基に変換ことが好ましい。しかしながら一般式(C)で表される基が完全に変換されずに、一般式(C)で表される基を有するビニル系重合体と一般式(D)で表される基を有するビニル系重合体の混合物となる場合には、一般式(C)で表される基と一般式(D)で表される基の比〔一般式(C)で表される基のモル数〕/〔一般式(D)で表される基のモル数〕が0.01以上0.2以下が好ましく、0.01以上0.1以下がより好ましく、0.01以上0.05以下が更に好ましい。また、残存する一般式(C)で表される基がビニル系重合体1kgに対して0.1mmol以上10mmol以下であることが好ましく、0.1mmol以上5.0mmol以下であることがより好ましく、0.1mmol以上3.0mmol以下であることが特に好ましい。
【0107】
脱ハロゲン化の際に重合体から遊離するハロゲン化合物が製品の品質、製造設備等に悪影響を与える場合には、減圧下でハロゲン化合物を除去しながら脱ハロゲン化反応をすることが好ましい。好ましくは100torr以下、より好ましくは20torr以下である。また、攪拌等により表面更新が良好な状態で加熱減圧することがより好ましい。
【0108】
<(C)重合体と水を混合攪拌する精製工程について>
脱ハロゲン化されたビニル系重合体溶液にはヒドロシリル化阻害物質を含んでいるため、これら阻害物質を除去する目的で、さらに重合体と水を混合攪拌する精製工程行ってもよい。精製操作は、(A)と同様の操作を行うが、洗浄水は中性水溶液を使用することが好ましい。
【0109】
ヒドロシリル化反応
前述の精製処理を行ったビニル系重合体はヒドロシリル化反応に用いることができ、架橋させることによってゴム状の硬化物が得られる。
【0110】
ヒドロシリル化反応を用いたゴム状の硬化物を得る方法としては、例えば以下の2点が挙げられる。
(I)分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体とヒドロシリル基含有化合物を含有する組成物を作製し、ヒドロシリル化反応を行うことによって、硬化物を得る方法。
(II)分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体と架橋性シリル基を併せ持つヒドロシラン化合物をヒドロシリル化反応させて、架橋性シリル基を有するビニル系重合体を得て、得られた架橋性シリル基を有するビニル系重合体を含有する組成物を作製し、架橋性シリル基同士を架橋させて硬化物を得る方法。
【0111】
<(I)の方法>
(I)の方法に用いるヒドロシリル基含有化合物は、ヒドロシリル化反応により硬化物を与えるためには分子内に少なくとも1.1個のヒドロシリル基を有することが好ましい。このような分子内に少なくとも1.1個のヒドロシリル基を有する化合物としては特に限定されないが、例えば、一般式(22)または(23)で表される鎖状ポリシロキサン;
23SiO−[Si(R23O]−[Si(H)(R24)O]−[Si(R24)(R25)O]−SiR23 (22)
HR23SiO−[Si(R23O]−[Si(H)(R24)O]−[Si(R24)(R25)O]−SiR23H (23)
(式中、R23およびR24は炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基、R25は炭素数1〜10のアルキル基またはアラルキル基を示す。aは0≦a≦100、bは2≦b≦100、cは0≦c≦100を満たす整数を示す。)
一般式(24)で表される環状シロキサン;
【0112】
【化7】

【0113】
(式中、R26およびR27は炭素数1〜6のアルキル基、または、フェニル基、R28は炭素数1〜10のアルキル基またはアラルキル基を示す。dは0≦d≦8、eは2≦e≦10、fは0≦f≦8の整数を表し、かつ3≦d+e+f≦10を満たす。)
等の化合物を用いることができる。
【0114】
これらは単独で用いても2種以上を混合して用いてもかまわない。これらのシロキサンの中でも(メタ)アクリル系重合体との相溶性の観点から、フェニル基を有する下記一般式(25)、(26)で表される鎖状シロキサンや、一般式(27)、(28)で表される環状シロキサンが好ましい。
(CHSiO−[Si(H)(CH)O]−[Si(CO]−Si(CH (25)
(CHSiO−[Si(H)(CH)O]−[Si(CH){CHC(H)(R28)C}O]−Si(CH (26)
(式中、R28は水素またはメチル基を示す。gは2≦g≦100、hは0≦h≦100の整数を示す。C6H5はフェニル基を示す。)
【0115】
【化8】

【0116】
(式中、R29は水素、またはメチル基を示す。iは2≦i≦10、jは0≦j≦8、かつ3≦i+j≦10を満たす整数を示す。
【0117】
少なくとも1.1個のヒドロシリル基を有する化合物としてはさらに、分子中に2個以上のアルケニル基を有する低分子化合物に対し、一般式(22)から(28)に表されるヒドロシリル基含有化合物を、反応後にも一部のヒドロシリル基が残るようにして付加反応させて得られる化合物を用いることもできる。分子中に2個以上のアルケニル基を有する化合物としては、各種のものを用いることができる。例示するならば、1,4−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、1,6−ヘプタジエン、1,7−オクタジエン、1,8−ノナジエン、1,9−デカジエン等の炭化水素系化合物、O,O’−ジアリルビスフェノールA、3,3’−ジアリルビスフェノールA等のエーテル系化合物、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、トリアリルトリメリテート、テトラアリルピロメリテート等のエステル系化合物、ジエチレングリコールジアリルカーボネート等のカーボネート系化合物が挙げられる。
【0118】
上記一般式(22)から(28)に示した過剰量のヒドロシリル基含有化合物に対し、ヒドロシリル化触媒の存在下、上に挙げたアルケニル基含有化合物をゆっくり滴下することにより該化合物を得ることができる。このような化合物のうち、原料の入手容易性、過剰に用いたシロキサンの除去のしやすさ、さらにはビニル系重合体への相溶性を考慮して、下記のものが好ましい。
【0119】
【化9】

【0120】
分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体とヒドロシリル基含有化合物は任意の割合で混合することができるが、硬化性の面から、アルケニル基とヒドロシリル基のモル比が5〜0.2の範囲にあることが好ましく、さらに、2.5〜0.4であることが特に好ましい。モル比が5以上になると硬化が不十分でべとつきのある強度の小さい硬化物しか得られず、また、0.2より小さいと、硬化後も硬化物中に活性なヒドロシリル基が大量に残るので、クラック、ボイドが発生し、均一で強度のある硬化物が得られない。
【0121】
分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体とヒドロシリル基含有化合物との硬化反応は、2成分を混合して加熱することにより進行するが、反応をより迅速に進めるために、ヒドロシリル化触媒を添加することができる。このようなヒドロシリル化触媒としては特に限定されず、例えば、有機過酸化物やアゾ化合物等のラジカル開始剤、および遷移金属触媒が挙げられる。
【0122】
ラジカル開始剤としては特に限定されず、例えば、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ)イソプロピルベンゼンのようなジアルキルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、p−クロロベンゾイルペルオキシド、m−クロロベンゾイルペルオキシド、2,4−ジクロロベンゾイルペルオキシド、ラウロイルペルオキシドのようなジアシルペルオキシド、過安息香酸−t−ブチルのような過酸エステル、過ジ炭酸ジイソプロピル、過ジ炭酸ジ−2−エチルヘキシルのようなペルオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンのようなペルオキシケタール等を挙げることができる。
【0123】
また、遷移金属触媒としても特に限定されず、例えば、白金単体、アルミナ、シリカ、カーボンブラック等の担体に白金固体を分散させたもの、塩化白金酸、塩化白金酸とアルコール、アルデヒド、ケトン等との錯体、白金−オレフィン錯体、白金(0)−ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体が挙げられる。白金化合物以外の触媒の例としては、RhCl(PPh,RhCl,RuCl,IrCl,FeCl,AlCl,PdCl・HO,NiCl,TiCl等が挙げられる。これらの触媒は単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもかまわない。触媒量としては特に制限はないが、(A)成分のアルケニル基1molに対し、10−1〜10−8molの範囲で用いるのが良く、好ましくは10−3〜10−6molの範囲で用いるのがよい。10−8molより少ないと硬化が十分に進行しない。またヒドロシリル化触媒は一般に高価で腐食性であり、また、水素ガスを大量に発生して硬化物が発泡してしまう場合があるので10−1mol以上用いないのが好ましい。
【0124】
硬化温度については特に制限はないが、一般に0℃〜200℃、好ましくは30℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜150℃で硬化させるのがよい。これにより短時間で硬化性組成物を得ることができる。
【0125】
<(II)の方法>
(II)の方法に用いる架橋性シリル基を併せ持つヒドロシラン化合物としては特に制限はないが、代表的なものを示すと、一般式29で示される化合物が例示される。
H−[Si(R112−b(Y)O]−Si(R123−a(Y) (29)
{式中、R11、R12は、いずれも炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、または(R’)SiO−(R’は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であって、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R11またはR12が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するときそれらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0,1,2,または3を、また、bは0,1,または2を示す。mは0〜19の整数である。ただし、a+mb≧1であることを満足するものとする。}
加水分解性基としては、たとえば、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などの一般に使用されている基があげられる。これらのうちでは、アルコキシ基、アミド基、アミノオキシ基が好ましいが、加水分解性がマイルドで取り扱い易いという点から、アルコキシ基がとくに好ましい。
【0126】
加水分解性基や水酸基は、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、(a+Σb)は1〜5個の範囲が好ましい。加水分解性基や水酸基が架橋性シリル基中に2個以上結合する場合には、それらは同じであってもよいし、異なってもよい。架橋性シリル基を形成するケイ素原子は1個以上であるが、シロキサン結合などにより連結されたケイ素原子の場合には、20個以下であることが好ましい。
【0127】
これらヒドロシラン化合物の中でも、特に一般式30
H−Si(R123−a(Y) (30)
(式中、R12、Y、aは前記に同じ)
で示される架橋性基を有する化合物が入手容易な点から好ましい。
【0128】
(II)の方法に用いる分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体を得る方法は、以下の方法が考えられる。
【0129】
(a)原子移動ラジカル重合によりビニル系重合体を合成する際に、例えば下記の一般式(9)に挙げられるような一分子中に重合性のアルケニル基と重合性の低いアルケニル基を併せ持つ化合物を第2のモノマーとして反応させる方法。
C=C(R14)−R15−R16−C(R17)=CH (9)
(式中、R14は水素またはメチル基を示し、R15は−C(O)O−、またはo−,m−,p−フェニレン基を示し、R16は直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基を示し、1個以上のエーテル結合を含んでいてもよい。R17は水素又は炭素数1〜20の有機基を示す)
一般式(9)において、R17は水素又は炭素数1〜20の有機基である。炭素数1〜20の有機基としては特に限定されないが、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリ−ル基、炭素数7〜20のアラルキル基が好ましく、具体的には以下のような基が例示される。
−(CH−CH、−CH(CH)−(CH−CH、−CH(CHCH)−(CH−CH、−CH(CHCH、−C(CH−(CH−CH、−C(CH)(CHCH)−(CH−CH、−C、−C(CH)、−C(CH、−(CH−C、−(CH−C(CH)、−(CH−C(CH
(nは0以上の整数で、各基の合計炭素数は20以下)
これらの内では、R17としては水素又はメチル基がより好ましい。
【0130】
なお、一分子中に重合性のアルケニル基と重合性の低いアルケニル基を併せ持つ化合物を反応させる時期に制限はないが、ビニル系重合体を硬化させてなる硬化物にゴム的な性質を期待する場合には、重合反応の終期あるいは所定のモノマーの反応終了後に第2のモノマーとして反応させるのが好ましい。
【0131】
(b)原子移動ラジカル重合によりビニル系重合体を合成する際に、重合反応の終期あるいは所定のモノマーの反応終了後に、例えば1,5−ヘキサジエン、1,7−オクタジエン、1,9−デカジエンなどのような重合性の低いアルケニル基を少なくとも2個有する化合物を反応させる方法。
【0132】
(c)原子移動ラジカル重合により得られる末端に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を少なくとも1個有するビニル系重合体に、例えばアリルトリブチル錫、アリルトリオクチル錫などの有機錫のようなアルケニル基を有する各種の有機金属化合物を反応させてハロゲンを置換する方法。
【0133】
(d)原子移動ラジカル重合により得られる末端に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を少なくとも1個有するビニル系重合体に、一般式(10)に挙げられるようなアルケニル基を有する安定化カルバニオンを反応させてハロゲンを置換する方法。
(R18)(R19)−R20−C(R17)=CH (10)
(式中、R17は上記に同じ。R18、R19はともにカルバニオンCを安定化する電子吸引基であるか、または一方が前記電子吸引基で他方が水素または炭素数1〜10のアルキル基、またはフェニル基を示す。R20は直接結合、または炭素数1〜10の2価の有機基を示し、1個以上のエーテル結合を含んでいてもよい。Mはアルカリ金属イオン、または4級アンモニウムイオンを示す。)
18、R19の電子吸引基としては、−COR(エステル基)、−C(O)R(ケト基)、−CON(R)(アミド基)、−COSR(チオエステル基)、−CN(ニトリル基)、−NO(ニトロ基)等が挙げられるが、−COR、−C(O)Rおよび−CNが特に好ましい。なお、置換基Rは炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基または炭素数7〜20のアラルキル基であり、好ましくは炭素数1〜10のアルキル基もしくはフェニル基である。
【0134】
(e)原子移動ラジカル重合により得られる末端に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を少なくとも1個有するビニル系重合体に、例えば亜鉛のような金属単体あるいは有機金属化合物を作用させてエノレートアニオンを調製し、しかる後にハロゲンやアセチル基のような脱離基を有するアルケニル基含有化合物、アルケニル基を有するカルボニル化合物、アルケニル基を有するイソシアネート化合物、アルケニル基を有する酸ハロゲン化物等の、アルケニル基を有する求電子化合物と反応させる方法。
【0135】
(f)原子移動ラジカル重合により得られる末端に反応性の高い炭素−ハロゲン結合を少なくとも1個有するビニル系重合体に、例えば一般式(11)あるいは(12)に示されるようなアルケニル基を有するオキシアニオンあるいはカルボキシレートアニオンを反応させてハロゲンを置換する方法。
C=C(R17)−R21−O (11)
(式中、R17、Mは上記に同じ。R21は炭素数1〜20の2価の有機基で1個以上のエーテル結合を含んでいてもよい)
C=C(R17)−R22−C(O)O (12)
(式中、R17、Mは上記に同じ。R22は直接結合、または炭素数1〜20の2価の有機基で1個以上のエーテル結合を含んでいてもよい)
などが挙げられる。
【0136】
(a)から(f)の方法の中でも制御がより容易である点から(b)、(f)の方法が好ましい。
【0137】
上述のヒドロシラン化合物と分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体とをヒドロシリル化反応させることにより分子内に架橋性シリル基を有するビニル系重合体が得られる。
【0138】
分子内に少なくとも1.1個架橋性シリル基を有するビニル系重合体は架橋し、硬化物を与える。
【0139】
架橋性シリル基としては、一般式31;
−[Si(R112−b(Y)O]−Si(R123−a(Y) (31)
{式中、R11、R12は、いずれも炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアラルキル基、または(R’)SiO−(R’は炭素数1〜20の1価の炭化水素基であって、3個のR’は同一であってもよく、異なっていてもよい)で示されるトリオルガノシロキシ基を示し、R11またはR12が2個以上存在するとき、それらは同一であってもよく、異なっていてもよい。Yは水酸基または加水分解性基を示し、Yが2個以上存在するときそれらは同一であってもよく、異なっていてもよい。aは0,1,2,または3を、また、bは0,1,または2を示す。mは0〜19の整数である。ただし、a+mb≧1であることを満足するものとする。}
で表される基があげられる。
【0140】
加水分解性基としては、たとえば、水素原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、ケトキシメート基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、メルカプト基、アルケニルオキシ基などの一般に使用されている基があげられる。これらのうちでは、アルコキシ基、アミド基、アミノオキシ基が好ましいが、加水分解性がマイルドで取り扱い易いという点から、アルコキシ基がとくに好ましい。
【0141】
加水分解性基や水酸基は、1個のケイ素原子に1〜3個の範囲で結合することができ、(a+Σb)は1〜5個の範囲が好ましい。加水分解性基や水酸基が架橋性シリル基中に2個以上結合する場合には、それらは同じであってもよいし、異なってもよい。架橋性シリル基を形成するケイ素原子は1個以上であるが、シロキサン結合などにより連結されたケイ素原子の場合には、20個以下であることが好ましい。とくに、一般式32
−Si(R123−a(Y) (32)
(式中、R12、Y、aは前記と同じ。)で表される架橋性シリル基が、入手が容易であるので好ましい。
【0142】
架橋性シリル基を有するビニル系重合体を硬化させて成る硬化物にゴム的な性質が特に要求される場合には、ゴム弾性に大きな影響を与える架橋点間分子量が大きくとれるため、架橋性シリル基の少なくとも1個は分子鎖の末端にあることが好ましい。より好ましくは、全ての官能基を分子鎖末端に有するものである。
【0143】
分子内にアルケニル基を有するビニル系重合体と架橋性シリル基を併せ持つヒドロシラン化合物の割合は特に限定されないが、ヒドロシリル基がアルケニル基に対して当量以上であることが好ましい。
【0144】
ヒドロシリル化反応をより迅速に進めるために、ヒドロシリル化触媒を添加することができる。このようなヒドロシリル化触媒としては既に例示したものが使用されてよい。
【0145】
反応温度については特に制限はないが、一般に0℃〜200℃、好ましくは30℃〜150℃、さらに好ましくは80℃〜150℃である。
【0146】
架橋性シリル基を有するビニル系重合体を含有する硬化性組成物を硬化させるにあたっては縮合触媒を使用してもしなくてもよい。縮合触媒としてはテトラブチルチタネート、テトラプロピルチタネート等のチタン酸エステル;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセチルアセトナート、ジブチル錫マレエート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジメトキシド、オクチル酸錫、ナフテン酸錫等の有機錫化合物;オクチル酸鉛、ブチルアミン、オクチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、オレイルアミン、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、ベンジルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、キシリレンジアミン、トリエチレンジアミン、グアニジン、ジフェニルグアニジン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、モルホリン、N−メチルモルホリン、1,3−ジアザビシクロ(5,4,6)ウンデセン−7等のアミン系化合物あるいはそれらのカルボン酸塩;ラウリルアミンとオクチル酸錫の反応物あるいは混合物のようなアミン系化合物と有機錫化合物との反応物および混合物;過剰のポリアミンと多塩基酸から得られる低分子量ポリアミド樹脂;過剰のポリアミンとエポキシ化合物の反応生成物;アミノ基を有するシランカップリング剤、例えば、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン等の公知のシラノール触媒1種または2種以上を必要に応じて用いればよい。使用量は末端に架橋性シリル基を有するビニル系重合体に対し、0〜10重量%で使用するのが好ましい。加水分解性基Yとしてアルコキシ基が使用される場合は、この重合体のみでは硬化速度が遅いので、硬化触媒を使用することが好ましい。
【実施例】
【0147】
本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0148】
下記実施例中の銅の残存率の測定方法は、以下に示す分析装置を使用して測定した。
分析装置:理学電機工業(株)エネルギー分散型蛍光X線分析装置 SPECTRO XEPOS
測定方法:測定試料をセルに取り、蛍光X線分析装置にセットし測定を行った。試料に含まれる元素はX線管球による一次X線により励起され、元素の含有量に比例したスペクトルの強度が得られる。予め装置内にデータベースとして保存されている検量線と比較し、各種の補正計算を経た後に数値化した。
【0149】
〔製造例1〕(アクリル酸n−ブチルの重合)
以降、重合体100kgあたりの必要量について記述する。攪拌機、ジャケット付きの反応機にCuBr(0.84kg)を仕込み、反応容器内を窒素置換した。アセトニトリル(8.79kg)を加え、ジャケットに温水を通水し80℃で30分間攪拌した。これにアクリル酸ブチル(100kg)、2,5−ジブロモアジピン酸ジエチル(3.51kg)を加え、さらに80℃で25分間撹拌した。これにペンタメチルジエチレントリアミン(以下、トリアミンと表す)を加え、反応を開始した。反応途中トリアミンを適宜添加し、反応開始から6時間後1,7−オクタジエン(21.5kg)、トリアミンを添加して6時間撹拌を続け、重合体溶液を得た。この重合体溶液を80℃、真空条件下で溶剤を除去し、アルケニル末端を有する銅触媒含有ビニル系重合体[重合体1]を得た。得られたビニル系重合体のGPC分析(システム:ウォーターズ(Waters)社製GPCシステム、カラム:昭和電工(株)製Shodex K−804(ポリスチレンゲル))を行ったところ、数平均分子量Mnが12700、分子量分布Mw/Mnが1.18であった。
【0150】
〔実施例1〕
製造例1で得られた[重合体1]100gに、n−ブタノール200gを加え攪拌することで、[重合体溶液1]を得た。1Lのセパラブルフラスコ(攪拌機、およびジャケット付き)に洗浄水として0.1wt%硫酸水溶液を200g仕込み、45℃に昇温し、[重合体溶液1]を滴下していき、全量滴下後に5分間攪拌を行った。攪拌停止後には速やかに油相と水相が分離され、油相は淡黄色に、水相は青色に変化した。20分間静置後、油相を回収し、さらに水を200g仕込み、5分間攪拌を行った。攪拌停止後には速やかに油相と水相が分離され、20分間静置後、油相を回収した。油相をロータリーエバポレータを用いて溶剤および水分を減圧留去した。次に脱ハロゲン化工程として、スミライザーGSを0.1g添加し、185℃、12h、真空条件化で撹拌を行なった。その後、精製工程として、n−ブタノール200g、純水200gを加え、45℃10分間混合し、20分間静置し、油相、水相の2相に分離させ、油相を回収した。この精製工程を2回繰り返した後、100℃、真空条件下で溶剤および水分を減圧留去し、アルケニル末端を有するビニル系重合体[重合体2]を得た。[重合体2]の銅分析を行った所、ポリマー中の銅の残存率は1ppm以下であった。
【0151】
300mlの四つ口フラスコに[重合体2]50gを仕込み、撹拌を行い、100℃で加熱減圧した。窒素で圧戻しをした後、窒素気流下でオルト蟻酸メチル0.861ml、0価白金の1、1、3、3−テトラメチル−1、3−ジビニルジシロキサン錯体のキシレン溶液0.019mlを添加し、混合した後に、DMS(ジメトキシメチルシラン)2.914mlを添加して、100℃で2、5時間加熱撹拌し、加熱脱揮することによりアルコキシシリル基を有するビニル系重合体を得た。NMR分析(日本電子(株)製JMN−LA400)にてビニル系重合体中アルケニル基を測定した所、残存率1%以下であった。
【0152】
〔実施例2〕
洗浄水として0.1wt%硫酸水溶液198gに対して、無水硫酸ナトリウム(以下、芒硝と表す)を2g添加したものを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、[重合体3]を得た。[重合体3]の銅分析を行った所、ポリマー中の銅の残存率は1ppm以下であった。
【0153】
この[重合体3]を用いて実施例1と同様の操作を行い、アルコキシシリル基を有するビニル系重合体を得た。NMR分析(日本分光(株) 製JMN−LA400)にてビニル系重合体中アルケニル基を測定した所、残存率1%以下であった。
【0154】
〔実施例3〕
洗浄水として1wt%酢酸水溶液198gに対して、無水硫酸ナトリウム(以下、芒硝と表す)を2g添加したものを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、[重合体4]を得た。[重合体4]の銅分析を行った所、ポリマー中の銅の残存率は1ppm以下であった。
【0155】
この[重合体4]を用いて実施例1と同様の操作を行い、アルコキシシリル基を有するビニル系重合体を得た。NMR分析(日本分光(株) 製JMN−LA400)にてビニル系重合体中アルケニル基を測定した所、残存率1%以下であった。
【0156】
〔比較例1〕
洗浄水として1wt%芒硝水溶液200gを用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、[重合体5]を得た。[重合体5]の銅分析を行った所、ポリマー中の銅の残存率は6ppmであった。
【0157】
この[重合体5]を用いて実施例1と同様の操作を行い、アルコキシシリル基を有するビニル系重合体を得た。NMR分析(日本分光(株) 製JMN−LA400)にてビニル系重合体中アルケニル基を測定した所、残存率10%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第7、8、9、10、11族の遷移金属を中心とする金属錯体を触媒として、原子移動ラジカル重合により重合したビニル系重合体を有機溶剤に溶解し、水と酸成分を混合した洗浄水に、重合体溶液を接触させることによってビニル系重合体中に残存する金属触媒を除去する事を特徴としたビニル系重合体の製造方法。
【請求項2】
洗浄水に含まれる酸成分が無機酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
無機酸が硫酸である、請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
洗浄水に含まれる酸成分が有機酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
有機酸が酢酸である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
洗浄水にさらに塩を混合する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
ビニル系重合体を溶解する有機溶剤がアルコールである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
ビニル系重合体に溶解する有機溶剤が炭素数4以上の直鎖アルコールである、請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項9】
遷移金属錯体の中心金属が銅である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
有機溶剤に溶解したビニル系重合体の溶液中で、ビニル系重合体の含有率が5wt%以上、90wt%以下である、請求項1〜9のいずれか1項に記載の製造方法
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに一項に記載の製造方法により得られるビニル系重合体。
【請求項12】
請求項11のビニル系重合体とヒドロシリル基を有するシラン化合物を反応させて得られるか架橋性シリル基を有するビニル系重合体の製造方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の製造方法により得られるビニル系重合体を含有するヒドロシリル反応性組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載のビニル系重合体とヒドロシリル基を有するシラン化合物をヒドロシリル化させて得られる架橋性シリル基を有するビニル系重合体。
【請求項15】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の精製方法。


【公開番号】特開2012−224825(P2012−224825A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−96438(P2011−96438)
【出願日】平成23年4月22日(2011.4.22)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】