ビニル重合体およびその製造方法ならびにビニル重合体の重合開始剤
【課題】空気雰囲気下で製造可能な新規な重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒を提供する。
【解決手段】空気雰囲気下、40℃乃至80℃の範囲でトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−ヘキシルピリジニウム テトラフルオロホウ酸、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリフルオロメチルスルホン酸、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロホウ酸または1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロリン酸を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させ、ビニル重合体を製造する。
【解決手段】空気雰囲気下、40℃乃至80℃の範囲でトリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−ヘキシルピリジニウム テトラフルオロホウ酸、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロリン酸、1−ブチル−1−メチルピロリジニウム トリフルオロメチルスルホン酸、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム テトラフルオロホウ酸または1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ヘキサフルオロリン酸を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させ、ビニル重合体を製造する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のビニル重合体およびその製造方法として、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9−BBN)を重合開始剤として空気雰囲気下、60℃でアクリル系モノマーをリビングラジカル重合させて成るものが本発明者により開発されている(特許文献1参照)。
また、芳香族溶媒にジオキサン・テトラヒドロフラン・ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)やアミン系の添加剤を共存させたものを用いて、9−BBNを開始剤として空気雰囲気下でスチレンをリビングラジカル重合させて成るものもまた、本発明者により開発されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−194014号公報
【特許文献2】特開2004−83727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、空気中の酸素分子バイラジカルが重合反応に対してインヒビター的な働きをする場合など重合反応に悪影響を与える場合が多く、したがって空気雰囲気下でラジカル重合を可能とする重合開始剤は一般的には使用されていない。このような意味で、空気雰囲気下で定量的に進行するラジカル重合は本発明者により確認されたもの以外、知られていない。さらに、そのような重合開始剤を用いてビニルモノマーを重合させて成るビニル重合体、ラジカル重合体は、知られていない。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、空気雰囲気下で製造可能な新規なビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸メチル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸メチル重合用溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有する。
本発明に係る重合体製造方法は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を熱重合させることを特徴とする。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルを用いることが好ましい。そのメタクリル酸エステル重合体製造方法によりメタクリル酸エステル重合体を製造することができる。
本発明に係る重合体製造方法で、熱重合は、60℃乃至100℃の範囲、好ましくは60℃乃至80℃の範囲で行うことが好ましい。60℃乃至100℃の範囲で熱重合させるのは、60℃未満では熱重合が十分に起こらず、100℃を超える温度では熱重合が進みすぎるためである。
本発明に係る重合体は、本発明に係る重合体製造方法により製造することができる。すなわち、本発明に係る重合体は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方をを熱重合させて成ることを特徴とする。本発明に係るメタクリル酸エステル重合体は、本発明に係るメタクリル酸エステル重合体製造方法により製造することができる。すなわち、本発明に係るメタクリル酸エステル重合体は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルを熱重合させて成ることを特徴とする。本発明に係るメタクリル酸メチル重合体は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸メチルを熱重合させて成ることを特徴とする。
本発明に係る空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒は、ジグリムから成ることを特徴とする。本発明に係る空気雰囲気下のメタクリル酸エステル熱重合用溶媒は、ジグリムから成ることを特徴とする。
【0007】
第1の本発明に係るビニル重合体製造方法は、ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とする。
第2の本発明に係るビニル重合体製造方法は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることが好ましい。
第3の本発明に係るビニル重合体製造方法は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることが好ましく、ボラン-トリエチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させてもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、例えば、重合させるビニルモノマーはスチレンである。第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、重合させるビニルモノマーはメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルであってもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、重合させるビニルモノマーはアクリル酸メチル、アクリル酸エチルまたはアクリル酸ブチルであってもよい。この場合、1-ドデカンチオールの存在下で重合させてもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、1-ドデカンチオールの存在下で重合させてもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法においては、空気雰囲気下で重合させることが好ましい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法においては、エーテル酸素を有する液体化合物を溶媒として重合させることが好ましく、特に、ジオキサン、ジグリムまたはテトラヒドロフランを溶媒として重合させることが好ましい。また、40℃乃至70℃の範囲で重合させることが好ましい。
第4の本発明に係るビニル重合体製造方法は、空気雰囲気下、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤とし、ジアルキルスルホキシドを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を重合させることを特徴とし、特に、空気雰囲気下、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤とし、ジメチルスルホキシドを溶媒としてメタクリル酸メチルを重合させることが好ましい。
本発明に係るビニル重合体は、第1乃至第4の本発明に係るビニル重合体製造方法により製造することができる。
【0008】
第1の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とする。
第1の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とする。
第2の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることが好ましい。
第2の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることが好ましい。
第3の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリエチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ってもよい。
第3の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリエチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ってもよい。
第4の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ってもよい。
第4の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ってもよい。
第1の本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、ボラン-アンモニア錯体から成ることを特徴とする。
第2の本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体から成ることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体から成ることが好ましい。
第3の本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、ボラン-トリアルキルアミン錯体から成ることを特徴とし、特に、トリメチルアミン錯体から成ることが好ましく、トリエチルアミン錯体から成ってもよい。
本発明に係る重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒は、空気雰囲気下で重合させることが可能である。従って、実際の重合に当っては、重合系内の不活性ガスによる置換が不十分であっても、本発明の場合には良好な重合を行うことができる。
本発明において、製造されるビニル重合体またはラジカル重合体の数平均分子量(Mn)は、千以上百万程度まで一般的には数万から数十万以下の範囲である。但し、製造されるビニル重合体またはラジカル重合体がアクリル酸エステルの場合には、千以上数百万程度まで一般的には数万から数十万以下の範囲である。製造されるビニル重合体またはラジカル重合体は、ポリマーのほか、オリゴマーであってもよい。低い分子量で製造することにより、生分解性を高めることができる。
なお、上記化合物におけるアルキル基の炭素数は通常、1〜20、好ましくは1〜4である。
【0009】
本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、前述の本発明に係るビニル重合体製造方法に用いられて、前述の本発明に係るビニル重合体を製造可能にする。
本発明に係るビニル重合体またはビニルラジカル重合体は、例えば、樹脂成形用の充填材として利用可能である。本発明に係るビニル重合体またはビニルラジカル重合体は、生分解性樹脂に充填されて成形されてもよい。生分解性樹脂としては、ポリ乳酸その他の脂肪族ポリエステル樹脂を用いることができる。生分解性樹脂には、シリコーン系化合物、金属塩、金属水酸化塩、りん系化合物その他の難燃化合物が含まれていてもよい。また、生分解性樹脂には、ガラス繊維またはカーボン繊維が含まれていてもよい。本発明に係るビニル重合体またはラジカル重合体は、生分解性樹脂に充填されて成形された場合、廃棄後、生分解性樹脂が微生物の作用で自然に分解し、分散可能である。また、本発明に係るビニル重合体またはビニルラジカル重合体は、塗料、接着剤などに利用可能である。
イオン性液体の物理的化学的性質はまだまだ解明されていないことが多いが、本発明によりイオン性液体の新たな用途を提供できる。
なお、後述の実験データは酸素雰囲気の重合によるものであるが、この重合によって転換率が低いものであっても、不活性雰囲気又は重合条件を選択すれば、相当の重合収率は得られるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空気雰囲気下で製造可能な新規な重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、種々の溶媒を用いたときのビニルモノマーの重合に関する。
図1乃至図3は、本発明の実施の形態を示している。
各種ビニルモノマーの熱重合に関する検討を行った。バルク重合はもちろん、ジオキサン・ジグリム・THF・トルエン・ベンゼン・DMF・四塩化炭素などの有機溶媒中での溶液重合の検討を行った。これは非常に基礎的な検討であるにもかかわらず、特に、空気雰囲気下の溶液重合に関する熱重合のデータなどは、体系的に公表されているデータは非常に限られている。
ジオキサン・ジグリム・THF・トルエン・ベンゼン・DMF・四塩化炭素の構造式を以下に示す。
【化1】
【0012】
1−1.Stの熱重合
表1(Table64)には、空気雰囲気下70℃におけるジオキサン・ジグリム・トルエン・ベンゼン中でのStの溶液重合およびのバルク重合の結果をそれぞれ示す。90分ではほとんど重合は進まなかった。
【表1】
表2(Table65)には、空気雰囲気下60℃におけるStのジグリム溶液重合の結果を示す。後に述べるように、同一条件でMMAの重合が進むことがわかったが、Stの熱重合はほとんど進まなかった。
【表2】
【0013】
1−2.MMAの熱重合
表3(Table66)には、空気雰囲気下50℃・60℃・70℃・80℃におけるMMAのバルク重合の結果をそれぞれ示す。バルク状態における空気雰囲気下でのMMAの熱重合は全く進まないことを確認した。
【表3】
表4(Table67)には、空気雰囲気下70℃におけるジオキサン・ジグリム・トルエン・ベンゼン中でのMMAの溶液重合およびのバルク重合の結果をそれぞれ示す。空気雰囲気下70℃において、ジグリムを溶媒に用いたときに熱重合が進むことがわかった。
【表4】
表5(Table68)には、空気雰囲気下60℃におけるTHF・ジグリム・ベンゼン・ジオキサン・DMF・四塩化炭素・ジグリムとベンゼンの混合溶媒中でのMMAの溶液重合の結果をそれぞれ示す。重合時間をのばすとTHF中でもある程度熱重合が進む(6時間で転化率3.3%)傾向が認められたものの、ジグリムを溶媒に用いたときに安定的に熱重合が進むことがわかった。
【表5】
図1に示すのに加えて、先にも述べたように同一条件でMMAの熱重合が進むのに対して、Stの熱重合はほとんど進まなかった。
表6(Table69)に示すように、ジグリムを溶媒に用いた空気雰囲気下おけるMMAの熱重合は70℃においても安定的に進み、60℃の場合と比較して重合速度も速くなったが、生成ポリマー分子量は60℃の場合も70℃の場合も顕著な差は認められなかった。
【表6】
さらに、図2に示すように、このジグリムを溶媒に用いた空気雰囲気下おけるMMAの熱重合は40℃においては全く進まなかった。
一方、図3に示すように、このジグリムを溶媒に用いた60℃におけるMMAの熱重合はアルゴン雰囲気中では著しく抑制された。
さらに、表7(Table70)に示すように、この空気雰囲気下ジグリムを溶媒に用いた60℃におけるMMAの熱重合は,HQやBHTの添加で完全に禁止されたことから、ラジカル機構で反応が進むことが示唆された。また、ラジカル連鎖移動剤として知られる1-DTの添加で生成ポリマー分子量が著しく小さくなることもこのことを支持した。
【表7】
【0014】
1−3. MA・EA・BAの熱重合
表8(Table71)には、空気雰囲気下60℃におけるTHF・ジグリム中でのMA・EA・BAの溶液重合およびのバルク重合の結果をそれぞれ示す。ここでも熱重合が進まないことが確認された。
【表8】
以上、ビニルモノマーの熱重合に関する検討 結果をまとめると、ジグリムを溶媒に用いた空気雰囲気下おけるMMAの熱重合が進むことがわかった。同一条件下、St・MA・EA・BAの熱重合は進まない。この知見はここで初めて明らかになったことである。その分子構造中エーテル酸素原子を有するTHFは、空気中の酸素で過酸化物を生成することが広く知られている。一方、同じくその分子構造中エーテル酸素原子を有するジグリムは、60℃において分解が始まることが知られており、ジグリムを空気下で加熱すると空気中の酸素と反応し過酸化物を生成し、さらにホモリシスで解裂しラジカルの発生すると考えられる。
この分解の際に発生するラジカルが重合を開始すると推定している。このラジカルがMMAの重合のみを開始し、St・MA・EA・BAの重合を開始しないことについては不明である。
【0015】
第2の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、空気雰囲気下ボラン-アンモニア錯体(BAC)の存在下におけるビニルモノマーの重合に関する。
図4乃至図7は、本発明の実施の形態を示している。
1.ルイス酸であるボランは、様々なルイス塩基と錯体を形成することが知られている。本発明者はBAC・ボラン-ジフェニルホスフィン錯体(BDPP)・ボラン-トリメチルアミン錯体(BTMA)・ボラン-トリエチルアミン錯体 (BTEA) などのボラン錯体についてビニル重合開始剤としての検討を行った。以下、BACのビニル重合開始能について説明する。
2.図4に示すように、BAC・BDPP・BTMA・BTEAを開始剤とした空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合は、BACを開始剤として用いた場合に最も速やかに進行した。ボラン-アンモニア錯体の構造式を以下に示す。
【化2】
さまざまなボラン錯体を開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化3】
3.図5に示すように、BACを開始剤とした60℃におけるStのバルク重合は、空気雰囲気下では速やかに進行するものの、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。また、この空気雰囲気下の重合は、ラジカル重合禁止剤あるいはラジカル重合遅延剤として知られるBHTの添加で完全に禁止された。
BACを開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化4】
4.さらに、このBACを開始剤とした空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合は、ラジカル連鎖移動剤である1-DTの添加によって、その添加量の多いほど効果的に重合反応が抑制されると同時に、生成物はオリゴマーであった。ここで最も注目すべきは、この空気雰囲気下の重合は、重合時間とともに転化率が増加するのはもちろん、生成Stポリマー分子量の増大する傾向が認められたことである。得られた結果は、この重合が空気中の酸素原子の関与するラジカル機構で進み、リビング性を有する可能性のあることを示唆した。実験条件と結果を表9(Table1)に示す。
【表9】
5.古典的なラジカル重合開始剤は、適性使用温度範囲で概念的に分類できる。実験室的には、その適性使用温度範囲が40℃〜100℃の中温開始剤がよく使用され、過酸化ベンゾイルやアゾビスイソブチロニトリルなどが一般的である。BACを開始剤とした空気雰囲気下でのバルク重合は、0℃においては全く進行しなかったが、40℃〜70℃の温度範囲で進行し重合温度が高いほど初期重合速度は大きくなる傾向が認められた。80℃以上の温度では熱重合も進行することを確認したので、検討を行わなかった。実験条件と結果を表10(Table2)に示す。
また、空気雰囲気下BACを開始剤とするStのバルク重合における重合温度の影響を示す反応式を以下に示す。
【化5】
【表10】
6.図6に示すように、70℃での重合も先に示した60℃での重合同様、重合時間とともに転化率が増加するのはもちろん、生成Stポリマー分子量が明確に増大する傾向を示した。
空気雰囲気下BACを開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化6】
7.得られた結果から、この重合の反応機構を以下のように推定した。つまり、重合開始反応には、StとBACのヒドロホウ素化反応が関与すると思われる。反応式を以下に示す。
【化7】
8.このヒドロホウ素化生成物と空気中の酸素が反応して過酸化物が生成されると考えられる。反応式を以下に示す。
【化8】
次に、この過酸化物がホモリシスで解裂して生成する酸素中心ラジカル、あるいはこの過酸化物が先のヒドロホウ素化反応生成物と反応して発生する炭素中心ラジカルが重合を開始すると推定した。反応式を以下に示す。
【化9】
9.図7に示すように、BACを開始剤とする空気雰囲気下60℃におけるStの溶液重合は、DMF中では完全に禁止された。その他の溶媒中ではバルク重合と比較して重合速度は遅くなったものの、反応は進んだ。一方、70℃まで温度をあげても、バルク重合の場合と異なり、反応時間に伴う生成ポリマー分子量の増加傾向は認められなかった。実験条件と結果を表11(Table3)に示す。
また、BACを開始剤とするStの重合の反応式を以下に示す。
【化10】
【表11】
10.BACは、ルイス酸であるBH3に対してルイス塩基であるNH3が配位することによって、常温常圧で固体として安定に存在している。これは、BH3が常温常圧で二量体として気体でしか存在できないのに対してきわだった特徴である。この重合系に、ルイス塩基であるアミンを共存させることで、NH3と添加したアミンの競合効果によって、重合反応に影響を及ぼすことが予想される。アミンのpKaが大きくなるにしたがって、効果的に重合が抑制されたことは、アミンがヒドロホウ素化反応を妨害していることを示唆し、その意味で推定重合機構を支持した。実験条件と結果を表12(Table4)に示す。
BACを開始剤とするStの重合のアミンの添加による反応式を以下に示す。
【化11】
アミンの構造式を以下に示す。
【化12】
【表12】
11.BACを開始剤とした空気雰囲気下60℃におけMMA・MA・EA・BAのバルク重合は、同一条件でStを重合させた場合と比較して、ほとんど進まなかった。実験条件と結果を表13(Table5)に示す。従って、BACは、空気雰囲気下Stのみを選択的に重合することがわかる。
BACを開始剤としたその他ビニルモノマーの重合の反応式を以下に示す。
【化13】
【表13】
12.空気雰囲気下60℃において、BACを開始剤としたSt・MMA・MA・EA・BAのバルク重合を試みた。Stの重合は速やかに進行するものの、MMA・MA・EA・BAの重合はほとんど進まなかった。このように、BACにはStに対する選択的なビニル重合開始能のあることがわった。このStのバルク重合は、40℃〜70℃の温度範囲で進行し重合温度が高いほど初期重合速度は大きくなる傾向が認められた。しかし、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。一方、この空気雰囲気下で進むStの重合は、ラジカル重合禁止剤あるいはラジカル重合遅延剤として知られるBHTの添加で完全に禁止されるとともに、ラジカル連鎖移動剤である1-DTの添加によって、生成物はポリマーではなくオリゴマーとなった。さらに注目すべきことに、反応時間とともに転化率が増加するのはもちろん、生成Stポリマー分子量の増大する重合挙動が認められた。得られた結果は、この重合が空気中の酸素原子の関与するラジカル機構で進み、しかもリビング性を有する可能性のあることを示唆した。種々検討した結果、重合機構を以下のように推定した。つまり、重合開始反応はStとBACのヒドロホウ素化反応ではじまり、このヒドロホウ素化生成物と空気中の酸素が反応して生成する過酸化物がホモリシスで解裂して発生する酸素中心ラジカル、あるいはこの過酸化物がヒドロホウ素化反応生成物と反応して発生する炭素中心ラジカルが重合を開始すると思われる。この重合系に種々のアミンを添加したところ、アミンのpKaが大きくなるにしたがって、効果的に重合が抑制された。このことは、アミンがヒドロホウ素化反応を妨害していることを示唆し、その意味で推定重合機構を支持した。
【0016】
第3の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、ビニル重合開始剤としてのBDPPの特性に関する。
図8乃至図11は、本発明の実施の形態を示している。
1.新規なビニル重合開始剤として、BDPPについて検討した。BDPPを開始剤とする60℃におけるStのバルク重合は、空気雰囲気下では速やかに進むものの、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。又、この空気雰囲気下の重合は、BHTやHQの添加で抑制されることなどから、ラジカル機構で進むものと推定した。さらに、この空気雰囲気下の重合は、重合反応が進むにしたがい、新たなピークが徐々に高分子側に現れ、そのピーク自体もさらに高分子側にシフトしていく傾向が認められた。この事実は、2つのラジカル重合機構が併発していることを示唆する。一方、BDPPを開始剤とする空気雰囲気下70℃におけるMMAの重合には、著しい溶媒依存性が認められた。つまり、重合はジメチルスルホキシドを溶媒として用いた時にのみ進行し、バルク重合はもちろん、ジオキサン・ジグリム・ベンゼン・トルエン・DMFを溶媒として用いた場合には、ほぼ完全に禁止された。さらに、モノマーとしてアクリル酸エステルを重合させた場合はStを重合させた場合と似た重合挙動を示したが、特異的な現象が認められた。それは、空気雰囲気下60℃の重合において、ラジカル連鎖移動剤として知られる1-DTを添加すると、テロメル化反応が促進されオリゴマーが高収率で合成されるということである。ここで得られた結果は、BDPPに特殊なビニル重合開始能のあることを明らかにしたものである。
2.アルキルボラン、特にトリアルキルボランは1950年代からその特殊なビニル重合開始能が注目され、多くの研究報告がある。一方、これらトリアルキルボランは、ボラン-テトラヒドロフラン錯体(BH3-THF)やボラン-メチルスルフィド錯体(BMS)などのボラン錯体とアルケンのヒドロホウ素化反応から合成されることが知られている。以下、ボラン錯体であるBDPPのビニル重合開始能について検討し、ボラン錯体の新しい可能性について説明する。
BH3-THFおよびBMSの構造式を以下に示す。
【化14】
ボラン-ジフェニルフォスフィン(BDPP)の構造式を以下に示す。
【化15】
3.図8に示すように、BDPPを開始剤とする60℃におけるStのTHF溶液重合は、空気雰囲気下では速やかに進行した。この重合はBHTやHQの添加で完全に禁止されることからラジカル機構で進んでいると思われるが、アルゴン雰囲気中では全く進まなかった。一方、バルク重合においても類似の重合挙動を示した。さらにバルク重合で得られたポリマーの分子量分布は、重合反応が進むにつれて二峰性を示した。実験条件と結果を表14(Table1)に示す。
BDPPを開始剤とするStの重合の反応式を以下に示す。
【化16】
【表14】
4.図9に示すように、この空気雰囲気下、60℃におけるバルク重合のGPC曲線をみると重合反応が進むにしたがい、新たなピークが徐々に高分子側に現れ、そのピーク自体もさらに高分子側にシフトしていく傾向が認められる。この事実は、2つの重合機構が併発していることを示唆する。
5.図10に示すように、重合温度を60℃から70℃まであげると初期重合速度は若干大きくなったが、重合が進むにつれて分子量分布が二峰性を示す傾向は変わらなかった。実験条件と結果を表15(Table2)に示す。
【表15】
6.図11に示すように、空気雰囲気下60℃におけるBDPPを開始剤とするStの溶液重合は、ジオキサン・トルエン・THF中でほぼ同じ重合速度で進んだ。通常のラジカル重合の重合速度は、一般的に溶媒の影響を受けないとされている。この点でこの重合は、通常のラジカル重合と共通した性質をもつ。又、この重合はバルク重合同様、生成ポリマー分子量及び分子量分布は重合が進むにつれて大きくなる傾向が認められた。実験条件と結果を表16(Table3)に示す。
【表16】
7.ここまで得られた結果から、重合機構を次のように推定した。つまり、StとBDPPがヒドロホウ素化反応をすることで生成した化合物が、さらに空気中の酸素で酸化され過酸化物を生成する。この過酸化物を経て発生する酸素中心ラジカル及び炭素中心ラジカルが、重合を開始すると思われる。生長末端についてはドーマント種を形成する場合としない場合があり、見かけ上、2つの重合機構が併発しているような反応挙動を示すものと推定した。その反応式を以下に示す。
【化17】
8.空気雰囲気下70℃において、BDPPを開始剤に用いたMMAの重合を試みた。バルク重合はもちろん、ジオキサン・ジグリム・ベンゼン・トルエン・DMF・四塩化炭素中で、この重合は全く進まなかった。しかし溶媒としてDMSOを用いた場合に、重合は進んだ。このように、この重合には著しい溶媒依存性のあることがわかると同時に、BDPPの重合開始能はモノマーによって異なることがわかった。実験条件と結果を表17(Table4)に示す。
【表17】
9.空気雰囲気下60℃において、BDPPはMAのバルク重合を速やかに開始した。この重合はBHTやHQの添加で禁止される一方、アルゴン雰囲気下でも著しく抑制された。得られた結果は、空気下で進む特殊なラジカル重合であることを示唆した。一方、1-DTの添加でテロメリゼージョンが促進された。さらに著しい溶媒効果が認められ、ベンゼン・トルエン・四塩化炭素中では全く重合しなかった。実験条件と結果を表18(Table5),19(Table6)に示す。
BDPPを開始剤とするMAの重合の反応式を以下に示す。
【化18】
【表18】
【表19】
10.前述のMAの重合同様、BDPPは空気雰囲気下60℃においてEAのバルク重合を開始したが、アルゴン雰囲気下では重合は進まなかった。BHTや1-DTの添加効果はこの重合が特殊なラジカル機構で進んでいることを示唆した。溶媒効果としてはDMFやDMSOを溶媒に用いたときに重合が速やかに進む傾向が認められた。実験条件と結果を表20(Tabel7),21(Table8)に示す。
BDPPを開始剤とするEAの重合の反応式を以下に示す。
【化19】
【表20】
【表21】
11.BDPPを開始剤とするBAの重合挙動は、前述までのMA・EAの場合と同様であった。ここで注目すべきは、これらアクリル酸エステル類の重合において1-DTを添加することによるテロメリゼーション促進効果が明らかとなり、高収率でのテロマー合成に関する応用に期待が持てることである。実験条件と結果を表22(Table9),23(Table10)に示す。
BDPPを開始剤とするBAの重合の反応式を以下に示す。
【化20】
【表22】
【表23】
12.BDPPにビニル重合開始能のあることを明らかにした。BDPPを開始剤とするモノマーとしてSt・MMA・MA・EA・BAを用いた重合挙動は以下の通りである。(1)空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合は速やかに進行したが、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。この空気雰囲気下の重合は、ラジカル重合禁止剤であるHQやBHTの添加で抑制されるのに加えて、ラジカル連鎖移動剤である1-DTの添加でオリゴマーを生成した。これらの事実から、この重合は空気中の酸素が関与する特殊なラジカル機構で進むものと推定した。この特殊なラジカル重合は、重合反応が進むにしたがい生成ポリマー分子量分布は単峰性から二峰性へと変化し、高分子側のピークがさらに高分子側へ移動する傾向が認められた。このような傾向は、他のボラン錯体を開始剤とするビニル重合では認められなかった。詳しい原因については引き続き検討を要するが、2つのラジカル重合機構が併発しているものと考えられる。(2)BDPPを開始剤とするMMAの重合は、特異的な溶媒依存性が認められた。つまり、空気雰囲気下70℃における重合はDMSO溶媒中でのみ進行した。(3)BDPPを開始剤とするMA・EA・BAの重合は、基本的にStを重合させた場合と似た傾向を示したが、1-DTを添加するとテロメル化反応が促進されることが特徴的であった。以上得られた結果は、BDPPのビニル重合開始剤としての特徴を示したものである。
【0017】
第4の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、ビニル重合開始剤としてのBTMA及びBTEAの特性に関する。
図12乃至図18は、本発明の実施の形態を示している。
1.BTMA又はBTEAを開始剤とする、空気雰囲気下60℃におけるSt・MMA・アクリル酸エステル類の重合を試みた。空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合については、BTMAよりもBTEAの方が重合開始活性が高かった。このBTEAを開始剤とするStのバルク重合は、ラジカル重合禁止剤であるBHTの添加で禁止された。又、ラジカル連鎖移動剤として知られる1-DTの添加でオリゴマーしか生成しなかった。一方、この空気雰囲気下の重合には著しい溶媒依存性が認められ、トルエンやベンゼンを溶媒として用いた場合はほとんど進まないものの、ジオキサンやジグリムを溶媒として用いた場合は速やかに進行した。しかし、アルゴン雰囲気下では著しく抑制される傾向が認められた。得られた結果から、この重合は空気雰囲気下で進むラジカル重合であることが示唆されたが、動力学的な検討では通常のラジカル重合とは異なることがわかった。又、ジグリムの溶液重合については、重合時間とともに生成ポリマー分子量の減少する傾向が認められ、高収率で低分子量のポリマーを合成する応用への期待がもたれる。BTMA及びBTEAは、空気雰囲気下60℃~70℃という温和な温度でMMAの重合をすることは、Stをモノマーとして用いた場合と同様であったが、アクリル酸エステル類に対しては空気雰囲気下での重合開始能をもたなかった。しかし、BTMAはアルゴン雰囲気下、アクリル酸エステル類に対する重合開始能が認められた。ここで得られた結果は、BTMA及びBTEAの特異的なビニル重合開始能を初めて明らかにしたものである。
2.ボランはジボランとして常温常圧で気体として存在する。それ故、通常の実験室では取り扱いにくく重合開始剤としての検討はされていない。
ボランの状態の式を以下に示す。
【化21】
本発明者は前述のとおり、ルイス酸であるボランにルイス塩基が配位した各種ボラン錯体の特殊なビニル重合開始能を明らかにしてきた。
種々のボラン錯体の構造式を以下に示す。
【化22】
これらボラン錯体を開始剤とする重合は空気雰囲気下、比較的温和な反応温度(30℃〜100℃)で進むことが特徴であり、その重合機構はラジカル反応で進むと推定している。本研究ではボラン錯体を開始剤とする重合の反応機構を明確にすることを目的として、これまで検討していないBTMA及びBTEAのビニル重合開始能について詳しく検討した。
BTMA及びBTEAの構造式を以下に示す。
【化23】
3.図12に示すように、BTMA又はBTEAを開始剤とする空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合を試みた。BTEAの方が重合開始活性が高かった。この重合は転化率はさほど大きくないものの、高分子量のポリマーを生成した。又、BHTの添加で禁止されると同時に、1-DTの添加で生成ポリマー分子量が著しく小さくなった。実験条件と結果を表24(Table1)に示す。
BTMAまたはBTEAを開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化24】
【表24】
4.空気雰囲気下60℃におけるBTEAを開始剤とするStのバルク重合はあまり進まなかった。図13に示すように、溶液重合においてもトルエンやベンゼンを溶媒として用いた場合はあまり進まなかったがジオキサンやジグリムを溶媒として用いた場合には重合が速やかに進むことがわかった。図14に示すように、この重合はBHTの添加で完全に禁止された。又、この重合はアルゴン雰囲気下では著しく抑制される傾向が認められた。
5.ここで注目すべきは、図15に示すように、この空気雰囲気下の重合において重合時間の経過にともない転化率は増大するものの、生成ポリマー分子量の減少する傾向が認められることである。実験条件と結果を表25(Table2)に示す。
【表25】
6.BTEAは、ルイス酸であるボランに対して、ルイス塩基であるトリエチルアミンが配位することによって常温常圧で液体として安定に存在している。ここに新たなルイス塩基であるアミンを添加することによって、重合反応に何らかの影響が及ぼされることが予想されたので検討した。アミンのpKaが大きくなるにしたがって効果的に重合が抑制されることがわかった。実験条件と結果を表26(Table3)に示す。
種々のアミンの構造式を以下に示す。
【化25】
【表26】
7.ここまでの検討で、BTEAを開始剤とするStの重合は、特殊なラジカル機構で進んでいることが強く示唆された。図16,21に示すように、通常のラジカル重合における初期重合速度は、モノマー濃度の1次、そして開始剤濃度の0.5次に比例する。しかし、この重合における初期重合速度は、モノマー濃度にも開始剤濃度にも依存しないことがわかった。この点でも、このラジカル重合は通常のラジカル重合とは異なることが示唆された。
8.ここまで得られた結果から、次のように重合機構を推定した。
StとBTEAのヒドロホウ素化生成物が、空気中の酸素によって自動酸化され、過酸化物が生成する。この過酸化物を経て発生する酸素中心ラジカル、あるいは炭素中心ラジカルが重合を開始するとともに、連鎖移動反応にも関与して生成ポリマー分子量が減少するものと思われる。反応式を以下に示す。
【化26】
9.図18に示すように、BTMAを開始剤とするMMAのバルク重合は、空気雰囲気下60℃において速やかに進行した。この重合はBHTやHQの添加で完全に禁止されるとともに、1-DTの添加で生成ポリマー分子量は著しく小さくなった。又この重合は、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。一方、BTEAを開始剤に用いた、70℃におけるMMAのジオキサン溶液重合でも、同様の重合挙動を示した。このことから、Stの場合と同様にBTEA及びBTMAを開始剤とするMMAの重合はラジカル機構で進んでいると推定した。実験条件と結果を表27(Table4)に示す。
BTEAまたはBTMAを開始剤とするMMAの重合の反応式を以下に示す。
【化27】
【表27】
10.空気雰囲気下60℃におけるBTEAを開始剤とするMMA重合には、顕著な溶媒効果が認められた。つまりこの重合は、ベンゼン・トルエン・DMF・四塩化炭素中では全く進まないのに対して、ジオキサン・ジグリム・THF中では速やかに進行した。これは、BTEA分子構造中のBH3に対してこれら溶媒分子の酸素原子ローンペアが、トリエチルアミンと競合しながらも弱く配位することによって、重合反応に影響を与えているものと推定した。実験条件と結果を表28(Table5)に示す。各溶媒が配位した構造式を以下に示す。
【化28】
【表28】
11.BTMA又はBTEAを開始剤とするMA・EA・BAのバルク重合を試みた。重合挙動は前述のStやMMAの場合とは全く異なった。つまり、空気雰囲気下60℃において、これらアクリル酸エステル類に対するBTMA及びBTEAの重合開始能は全く認められなかった。しかし、アルゴン雰囲気下において、特にBTMAを開始剤としたMA・EA・BAの重合は速やかに進み、その重合速度はMA>EA>BAという傾向が認められた。実験条件と結果を表29(Table6)に示す。
BTMA又はBTEAを開始剤とするアクリル酸エステル類のバルク重合の反応式を以下に示す。
【化29】
【表29】
12.重合開始剤としてこれまで報告例のない、BTMA及びBTEAのビニル重合開始能について検討した。BTMA及びBTEAにはビニル重合開始能のあることがわかった。検討対象としたビニルモノマーはSt・MMA・MA・EA・BAである。この重合は、モノマーの種類によってその重合挙動が大きく異なった。最もきわだった違いは、以下のとおりである。BTMA及びBTEAは空気雰囲気下でStやMMAの重合を開始するが、アルゴン雰囲気下においてこれらの重合は禁止された。これら空気雰囲気下で進む重合は、ラジカル重合禁止剤の添加効果などからラジカル機構で進むと推定した。一方、これに対して、BTMAはアルゴン雰囲気下MA・EA・BAの重合を開始するが、これらの重合は空気雰囲気下では完全に禁止された。さらに、BTEAには、これらアクリル酸エステルに対する重合開始能はほとんど認められなかった。このように、BTMAやBTEAを開始剤とする重合が、モノマーによってアルゴン雰囲気下で進む場合と空気雰囲気下で進む場合など異なる重合開始能をもつことを明らかにした。この原因については十分に解明出来なかった。ここで注目すべきは、空気雰囲気下BTEAを開始剤とするStのジグリム溶液重合において、重合時間の経過にともない転化率は増大するものの、生成ポリマー分子量の減少する傾向が認められることである。このことは、生長反応とともにラジカル連鎖移動反応が併発していることを示唆し、低分子量ポリマーを高収率で得る新技術として期待できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、種々の実施が可能である。
なお、実施例で用いた各重合開始剤の濃度は、重合させるビニルモノマーに対して0.5モル%あるいは1モル%である。
[実施例1]
空気雰囲気下、60℃で表68に示す各種溶媒を用いてMMAを重合させ、MMA重合体を製造した。各種溶媒の量は、MMA9.4ミリモルに対し2.0ミリリットルであった。より具体的には、MMAと溶媒を重合管内に注入しセプタムキャップで蓋をした。この重合管をウォーターバスに移し替えて、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールを入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を表5に示す。
さらに、表6および表7に示す条件で、重合を行った。その結果を各表に示す。
[実施例2]
空気雰囲気下またはアルゴン雰囲気下、BACを重合開始剤として、表9乃至13に示す条件でStを重合させ、St重合体を製造した。より具体的には、モノマーや溶媒といった媒体の入った重合管のセプタムキャップを通してマイクロシリンジでBACを注入することで重合を開始した。アルゴン雰囲気の重合の場合には、この重合管のセプタムキャップをとおしてアルゴンを吹き込むことによりアルゴン雰囲気とした後、セプタムキャップを通してマイクロシリンジでBACを注入することで重合を開始した。次に、重合管をウォーターバスまたはオイルバスに移し替え、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールとトリエチルアミン(BACに対して3倍当量)を入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を各表に示す。
[実施例3]
空気雰囲気下またはアルゴン雰囲気下、BDPPを重合開始剤として、表14乃至23に示す条件でSt,MMA,MA,EA,BAを重合させ、各重合体を製造した。より具体的には、モノマーや溶媒といった媒体の入った重合管のセプタムキャップを通してマイクロシリンジでBDPPを注入することで重合を開始した。アルゴン雰囲気の重合の場合には、この重合管のセプタムキャップをとおしてアルゴンを吹き込むことによりアルゴン雰囲気とした後、セプタムキャップを通してマイクロシリンジでBDPPを注入することで重合を開始した。次に、重合管をウォーターバスまたはオイルバスに移し替え、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールとトリエチルアミン(BDPPに対して3倍当量)を入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を各表に示す。
[実施例4]
空気雰囲気下またはアルゴン雰囲気下、BTMAまたはBTEAを重合開始剤として、表24乃至29に示す条件でSt,MMA,MA,EA,BAを重合させ、各重合体を製造した。より具体的には、モノマーや溶媒といった媒体の入った重合管のセプタムキャップを通してマイクロシリンジでBTMAまたはBTEAを注入することで重合を開始した。アルゴン雰囲気の重合の場合には、この重合管のセプタムキャップをとおしてアルゴンを吹き込むことによりアルゴン雰囲気とした後、セプタムキャップを通してマイクロシリンジでBTMAまたはBTEAを注入することで重合を開始した。次に、重合管をウォーターバスまたはオイルバスに移し替え、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールとトリエチルアミン(BTMAまたはBTEAに対して3倍当量)を入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を各表に示す。
[実施例5]
空気雰囲気下、60℃または70℃で表30に示す各種溶媒を用いてMMAを熱重合させ、MMA重合体を製造した。
【表30】
[実施例6]
空気雰囲気下、60℃または70℃で表31に示す各種溶媒を用いてMAを熱重合させ、MA重合体を製造した。
【表31】
[実施例7]
空気雰囲気下、60℃または70℃で表32に示す各種溶媒を用いてEAを熱重合させ、EA重合体を製造した。
【表32】
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の本発明を実施するための最良の形態において、ジグリム溶媒中のビニルモノマーの熱重合におけるタイムコンバージョンを示すグラフである。
【図2】第1の本発明を実施するための最良の形態において、空気雰囲気下、40℃、60℃、70℃のジグリム溶媒中のMMAの熱重合におけるタイムコンバージョンを示すグラフである。
【図3】第1の本発明を実施するための最良の形態において、アルゴンガス雰囲気下および空気雰囲気下のジグリム溶媒中のMMAの熱重合におけるタイムコンバージョンを示すグラフである。
【図4】第2の本発明を実施するための最良の形態における、ボラン錯体を開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図5】第2の本発明を実施するための最良の形態における、BACを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図6】第2の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示すグラフである。
【図7】第2の本発明を実施するための最良の形態における、BACを開始剤とするStの重合における重合溶媒の影響を示すグラフである。
【図8】第3の本発明を実施するための最良の形態における、BDPPを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図9】第3の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示すグラフである。
【図10】第3の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示す他のグラフである。
【図11】第3の本発明を実施するための最良の形態における、BDPPを開始剤とするStの重合における重合溶媒の影響を示すグラフである。
【図12】第4の本発明を実施するための最良の形態における、60℃空気雰囲気下のBTMAまたはBTEAを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図13】第4の本発明を実施するための最良の形態における、種々の溶媒中のBTEAを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図14】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図15】第4の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示す他のグラフである。
【図16】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするStの重合におけるモノマー濃度の影響を示すグラフである。
【図17】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするStの重合における開始剤濃度の影響を示すグラフである。
【図18】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするMMAの重合を示すグラフである。
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のビニル重合体およびその製造方法として、9−ボラビシクロ[3.3.1]ノナン(9−BBN)を重合開始剤として空気雰囲気下、60℃でアクリル系モノマーをリビングラジカル重合させて成るものが本発明者により開発されている(特許文献1参照)。
また、芳香族溶媒にジオキサン・テトラヒドロフラン・ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグリム)やアミン系の添加剤を共存させたものを用いて、9−BBNを開始剤として空気雰囲気下でスチレンをリビングラジカル重合させて成るものもまた、本発明者により開発されている(特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2002−194014号公報
【特許文献2】特開2004−83727号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、空気中の酸素分子バイラジカルが重合反応に対してインヒビター的な働きをする場合など重合反応に悪影響を与える場合が多く、したがって空気雰囲気下でラジカル重合を可能とする重合開始剤は一般的には使用されていない。このような意味で、空気雰囲気下で定量的に進行するラジカル重合は本発明者により確認されたもの以外、知られていない。さらに、そのような重合開始剤を用いてビニルモノマーを重合させて成るビニル重合体、ラジカル重合体は、知られていない。
【0005】
本発明は、このような従来の課題に着目してなされたもので、空気雰囲気下で製造可能な新規なビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸メチル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸メチル重合用溶媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は以下の特徴を有する。
本発明に係る重合体製造方法は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を熱重合させることを特徴とする。メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチルまたはメタクリル酸エチルを用いることが好ましい。そのメタクリル酸エステル重合体製造方法によりメタクリル酸エステル重合体を製造することができる。
本発明に係る重合体製造方法で、熱重合は、60℃乃至100℃の範囲、好ましくは60℃乃至80℃の範囲で行うことが好ましい。60℃乃至100℃の範囲で熱重合させるのは、60℃未満では熱重合が十分に起こらず、100℃を超える温度では熱重合が進みすぎるためである。
本発明に係る重合体は、本発明に係る重合体製造方法により製造することができる。すなわち、本発明に係る重合体は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方をを熱重合させて成ることを特徴とする。本発明に係るメタクリル酸エステル重合体は、本発明に係るメタクリル酸エステル重合体製造方法により製造することができる。すなわち、本発明に係るメタクリル酸エステル重合体は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルを熱重合させて成ることを特徴とする。本発明に係るメタクリル酸メチル重合体は、空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸メチルを熱重合させて成ることを特徴とする。
本発明に係る空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒は、ジグリムから成ることを特徴とする。本発明に係る空気雰囲気下のメタクリル酸エステル熱重合用溶媒は、ジグリムから成ることを特徴とする。
【0007】
第1の本発明に係るビニル重合体製造方法は、ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とする。
第2の本発明に係るビニル重合体製造方法は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることが好ましい。
第3の本発明に係るビニル重合体製造方法は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることが好ましく、ボラン-トリエチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させてもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、例えば、重合させるビニルモノマーはスチレンである。第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、重合させるビニルモノマーはメタクリル酸エステルまたはアクリル酸エステルであってもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、重合させるビニルモノマーはアクリル酸メチル、アクリル酸エチルまたはアクリル酸ブチルであってもよい。この場合、1-ドデカンチオールの存在下で重合させてもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法において、1-ドデカンチオールの存在下で重合させてもよい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法においては、空気雰囲気下で重合させることが好ましい。
第1乃至第3の本発明に係るビニル重合体製造方法においては、エーテル酸素を有する液体化合物を溶媒として重合させることが好ましく、特に、ジオキサン、ジグリムまたはテトラヒドロフランを溶媒として重合させることが好ましい。また、40℃乃至70℃の範囲で重合させることが好ましい。
第4の本発明に係るビニル重合体製造方法は、空気雰囲気下、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤とし、ジアルキルスルホキシドを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を重合させることを特徴とし、特に、空気雰囲気下、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤とし、ジメチルスルホキシドを溶媒としてメタクリル酸メチルを重合させることが好ましい。
本発明に係るビニル重合体は、第1乃至第4の本発明に係るビニル重合体製造方法により製造することができる。
【0008】
第1の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とする。
第1の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とする。
第2の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることが好ましい。
第2の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることが好ましい。
第3の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリエチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ってもよい。
第3の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリエチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ってもよい。
第4の本発明に係るビニル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ってもよい。
第4の本発明に係るビニルラジカル重合体は、ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とし、特に、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることが好ましく、ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ってもよい。
第1の本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、ボラン-アンモニア錯体から成ることを特徴とする。
第2の本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、ボラン-ジアリールホスフィン錯体から成ることを特徴とし、特に、ボラン-ジフェニルホスフィン錯体から成ることが好ましい。
第3の本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、ボラン-トリアルキルアミン錯体から成ることを特徴とし、特に、トリメチルアミン錯体から成ることが好ましく、トリエチルアミン錯体から成ってもよい。
本発明に係る重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒は、空気雰囲気下で重合させることが可能である。従って、実際の重合に当っては、重合系内の不活性ガスによる置換が不十分であっても、本発明の場合には良好な重合を行うことができる。
本発明において、製造されるビニル重合体またはラジカル重合体の数平均分子量(Mn)は、千以上百万程度まで一般的には数万から数十万以下の範囲である。但し、製造されるビニル重合体またはラジカル重合体がアクリル酸エステルの場合には、千以上数百万程度まで一般的には数万から数十万以下の範囲である。製造されるビニル重合体またはラジカル重合体は、ポリマーのほか、オリゴマーであってもよい。低い分子量で製造することにより、生分解性を高めることができる。
なお、上記化合物におけるアルキル基の炭素数は通常、1〜20、好ましくは1〜4である。
【0009】
本発明に係るビニル重合体の重合開始剤は、前述の本発明に係るビニル重合体製造方法に用いられて、前述の本発明に係るビニル重合体を製造可能にする。
本発明に係るビニル重合体またはビニルラジカル重合体は、例えば、樹脂成形用の充填材として利用可能である。本発明に係るビニル重合体またはビニルラジカル重合体は、生分解性樹脂に充填されて成形されてもよい。生分解性樹脂としては、ポリ乳酸その他の脂肪族ポリエステル樹脂を用いることができる。生分解性樹脂には、シリコーン系化合物、金属塩、金属水酸化塩、りん系化合物その他の難燃化合物が含まれていてもよい。また、生分解性樹脂には、ガラス繊維またはカーボン繊維が含まれていてもよい。本発明に係るビニル重合体またはラジカル重合体は、生分解性樹脂に充填されて成形された場合、廃棄後、生分解性樹脂が微生物の作用で自然に分解し、分散可能である。また、本発明に係るビニル重合体またはビニルラジカル重合体は、塗料、接着剤などに利用可能である。
イオン性液体の物理的化学的性質はまだまだ解明されていないことが多いが、本発明によりイオン性液体の新たな用途を提供できる。
なお、後述の実験データは酸素雰囲気の重合によるものであるが、この重合によって転換率が低いものであっても、不活性雰囲気又は重合条件を選択すれば、相当の重合収率は得られるものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空気雰囲気下で製造可能な新規な重合体製造方法、重合体、ビニル重合体製造方法、ビニル重合体、ビニルラジカル重合体、ビニル重合体の重合開始剤、メタクリル酸エステル重合体製造方法、メタクリル酸メチル重合体、および空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
第1の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、種々の溶媒を用いたときのビニルモノマーの重合に関する。
図1乃至図3は、本発明の実施の形態を示している。
各種ビニルモノマーの熱重合に関する検討を行った。バルク重合はもちろん、ジオキサン・ジグリム・THF・トルエン・ベンゼン・DMF・四塩化炭素などの有機溶媒中での溶液重合の検討を行った。これは非常に基礎的な検討であるにもかかわらず、特に、空気雰囲気下の溶液重合に関する熱重合のデータなどは、体系的に公表されているデータは非常に限られている。
ジオキサン・ジグリム・THF・トルエン・ベンゼン・DMF・四塩化炭素の構造式を以下に示す。
【化1】
【0012】
1−1.Stの熱重合
表1(Table64)には、空気雰囲気下70℃におけるジオキサン・ジグリム・トルエン・ベンゼン中でのStの溶液重合およびのバルク重合の結果をそれぞれ示す。90分ではほとんど重合は進まなかった。
【表1】
表2(Table65)には、空気雰囲気下60℃におけるStのジグリム溶液重合の結果を示す。後に述べるように、同一条件でMMAの重合が進むことがわかったが、Stの熱重合はほとんど進まなかった。
【表2】
【0013】
1−2.MMAの熱重合
表3(Table66)には、空気雰囲気下50℃・60℃・70℃・80℃におけるMMAのバルク重合の結果をそれぞれ示す。バルク状態における空気雰囲気下でのMMAの熱重合は全く進まないことを確認した。
【表3】
表4(Table67)には、空気雰囲気下70℃におけるジオキサン・ジグリム・トルエン・ベンゼン中でのMMAの溶液重合およびのバルク重合の結果をそれぞれ示す。空気雰囲気下70℃において、ジグリムを溶媒に用いたときに熱重合が進むことがわかった。
【表4】
表5(Table68)には、空気雰囲気下60℃におけるTHF・ジグリム・ベンゼン・ジオキサン・DMF・四塩化炭素・ジグリムとベンゼンの混合溶媒中でのMMAの溶液重合の結果をそれぞれ示す。重合時間をのばすとTHF中でもある程度熱重合が進む(6時間で転化率3.3%)傾向が認められたものの、ジグリムを溶媒に用いたときに安定的に熱重合が進むことがわかった。
【表5】
図1に示すのに加えて、先にも述べたように同一条件でMMAの熱重合が進むのに対して、Stの熱重合はほとんど進まなかった。
表6(Table69)に示すように、ジグリムを溶媒に用いた空気雰囲気下おけるMMAの熱重合は70℃においても安定的に進み、60℃の場合と比較して重合速度も速くなったが、生成ポリマー分子量は60℃の場合も70℃の場合も顕著な差は認められなかった。
【表6】
さらに、図2に示すように、このジグリムを溶媒に用いた空気雰囲気下おけるMMAの熱重合は40℃においては全く進まなかった。
一方、図3に示すように、このジグリムを溶媒に用いた60℃におけるMMAの熱重合はアルゴン雰囲気中では著しく抑制された。
さらに、表7(Table70)に示すように、この空気雰囲気下ジグリムを溶媒に用いた60℃におけるMMAの熱重合は,HQやBHTの添加で完全に禁止されたことから、ラジカル機構で反応が進むことが示唆された。また、ラジカル連鎖移動剤として知られる1-DTの添加で生成ポリマー分子量が著しく小さくなることもこのことを支持した。
【表7】
【0014】
1−3. MA・EA・BAの熱重合
表8(Table71)には、空気雰囲気下60℃におけるTHF・ジグリム中でのMA・EA・BAの溶液重合およびのバルク重合の結果をそれぞれ示す。ここでも熱重合が進まないことが確認された。
【表8】
以上、ビニルモノマーの熱重合に関する検討 結果をまとめると、ジグリムを溶媒に用いた空気雰囲気下おけるMMAの熱重合が進むことがわかった。同一条件下、St・MA・EA・BAの熱重合は進まない。この知見はここで初めて明らかになったことである。その分子構造中エーテル酸素原子を有するTHFは、空気中の酸素で過酸化物を生成することが広く知られている。一方、同じくその分子構造中エーテル酸素原子を有するジグリムは、60℃において分解が始まることが知られており、ジグリムを空気下で加熱すると空気中の酸素と反応し過酸化物を生成し、さらにホモリシスで解裂しラジカルの発生すると考えられる。
この分解の際に発生するラジカルが重合を開始すると推定している。このラジカルがMMAの重合のみを開始し、St・MA・EA・BAの重合を開始しないことについては不明である。
【0015】
第2の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、空気雰囲気下ボラン-アンモニア錯体(BAC)の存在下におけるビニルモノマーの重合に関する。
図4乃至図7は、本発明の実施の形態を示している。
1.ルイス酸であるボランは、様々なルイス塩基と錯体を形成することが知られている。本発明者はBAC・ボラン-ジフェニルホスフィン錯体(BDPP)・ボラン-トリメチルアミン錯体(BTMA)・ボラン-トリエチルアミン錯体 (BTEA) などのボラン錯体についてビニル重合開始剤としての検討を行った。以下、BACのビニル重合開始能について説明する。
2.図4に示すように、BAC・BDPP・BTMA・BTEAを開始剤とした空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合は、BACを開始剤として用いた場合に最も速やかに進行した。ボラン-アンモニア錯体の構造式を以下に示す。
【化2】
さまざまなボラン錯体を開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化3】
3.図5に示すように、BACを開始剤とした60℃におけるStのバルク重合は、空気雰囲気下では速やかに進行するものの、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。また、この空気雰囲気下の重合は、ラジカル重合禁止剤あるいはラジカル重合遅延剤として知られるBHTの添加で完全に禁止された。
BACを開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化4】
4.さらに、このBACを開始剤とした空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合は、ラジカル連鎖移動剤である1-DTの添加によって、その添加量の多いほど効果的に重合反応が抑制されると同時に、生成物はオリゴマーであった。ここで最も注目すべきは、この空気雰囲気下の重合は、重合時間とともに転化率が増加するのはもちろん、生成Stポリマー分子量の増大する傾向が認められたことである。得られた結果は、この重合が空気中の酸素原子の関与するラジカル機構で進み、リビング性を有する可能性のあることを示唆した。実験条件と結果を表9(Table1)に示す。
【表9】
5.古典的なラジカル重合開始剤は、適性使用温度範囲で概念的に分類できる。実験室的には、その適性使用温度範囲が40℃〜100℃の中温開始剤がよく使用され、過酸化ベンゾイルやアゾビスイソブチロニトリルなどが一般的である。BACを開始剤とした空気雰囲気下でのバルク重合は、0℃においては全く進行しなかったが、40℃〜70℃の温度範囲で進行し重合温度が高いほど初期重合速度は大きくなる傾向が認められた。80℃以上の温度では熱重合も進行することを確認したので、検討を行わなかった。実験条件と結果を表10(Table2)に示す。
また、空気雰囲気下BACを開始剤とするStのバルク重合における重合温度の影響を示す反応式を以下に示す。
【化5】
【表10】
6.図6に示すように、70℃での重合も先に示した60℃での重合同様、重合時間とともに転化率が増加するのはもちろん、生成Stポリマー分子量が明確に増大する傾向を示した。
空気雰囲気下BACを開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化6】
7.得られた結果から、この重合の反応機構を以下のように推定した。つまり、重合開始反応には、StとBACのヒドロホウ素化反応が関与すると思われる。反応式を以下に示す。
【化7】
8.このヒドロホウ素化生成物と空気中の酸素が反応して過酸化物が生成されると考えられる。反応式を以下に示す。
【化8】
次に、この過酸化物がホモリシスで解裂して生成する酸素中心ラジカル、あるいはこの過酸化物が先のヒドロホウ素化反応生成物と反応して発生する炭素中心ラジカルが重合を開始すると推定した。反応式を以下に示す。
【化9】
9.図7に示すように、BACを開始剤とする空気雰囲気下60℃におけるStの溶液重合は、DMF中では完全に禁止された。その他の溶媒中ではバルク重合と比較して重合速度は遅くなったものの、反応は進んだ。一方、70℃まで温度をあげても、バルク重合の場合と異なり、反応時間に伴う生成ポリマー分子量の増加傾向は認められなかった。実験条件と結果を表11(Table3)に示す。
また、BACを開始剤とするStの重合の反応式を以下に示す。
【化10】
【表11】
10.BACは、ルイス酸であるBH3に対してルイス塩基であるNH3が配位することによって、常温常圧で固体として安定に存在している。これは、BH3が常温常圧で二量体として気体でしか存在できないのに対してきわだった特徴である。この重合系に、ルイス塩基であるアミンを共存させることで、NH3と添加したアミンの競合効果によって、重合反応に影響を及ぼすことが予想される。アミンのpKaが大きくなるにしたがって、効果的に重合が抑制されたことは、アミンがヒドロホウ素化反応を妨害していることを示唆し、その意味で推定重合機構を支持した。実験条件と結果を表12(Table4)に示す。
BACを開始剤とするStの重合のアミンの添加による反応式を以下に示す。
【化11】
アミンの構造式を以下に示す。
【化12】
【表12】
11.BACを開始剤とした空気雰囲気下60℃におけMMA・MA・EA・BAのバルク重合は、同一条件でStを重合させた場合と比較して、ほとんど進まなかった。実験条件と結果を表13(Table5)に示す。従って、BACは、空気雰囲気下Stのみを選択的に重合することがわかる。
BACを開始剤としたその他ビニルモノマーの重合の反応式を以下に示す。
【化13】
【表13】
12.空気雰囲気下60℃において、BACを開始剤としたSt・MMA・MA・EA・BAのバルク重合を試みた。Stの重合は速やかに進行するものの、MMA・MA・EA・BAの重合はほとんど進まなかった。このように、BACにはStに対する選択的なビニル重合開始能のあることがわった。このStのバルク重合は、40℃〜70℃の温度範囲で進行し重合温度が高いほど初期重合速度は大きくなる傾向が認められた。しかし、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。一方、この空気雰囲気下で進むStの重合は、ラジカル重合禁止剤あるいはラジカル重合遅延剤として知られるBHTの添加で完全に禁止されるとともに、ラジカル連鎖移動剤である1-DTの添加によって、生成物はポリマーではなくオリゴマーとなった。さらに注目すべきことに、反応時間とともに転化率が増加するのはもちろん、生成Stポリマー分子量の増大する重合挙動が認められた。得られた結果は、この重合が空気中の酸素原子の関与するラジカル機構で進み、しかもリビング性を有する可能性のあることを示唆した。種々検討した結果、重合機構を以下のように推定した。つまり、重合開始反応はStとBACのヒドロホウ素化反応ではじまり、このヒドロホウ素化生成物と空気中の酸素が反応して生成する過酸化物がホモリシスで解裂して発生する酸素中心ラジカル、あるいはこの過酸化物がヒドロホウ素化反応生成物と反応して発生する炭素中心ラジカルが重合を開始すると思われる。この重合系に種々のアミンを添加したところ、アミンのpKaが大きくなるにしたがって、効果的に重合が抑制された。このことは、アミンがヒドロホウ素化反応を妨害していることを示唆し、その意味で推定重合機構を支持した。
【0016】
第3の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、ビニル重合開始剤としてのBDPPの特性に関する。
図8乃至図11は、本発明の実施の形態を示している。
1.新規なビニル重合開始剤として、BDPPについて検討した。BDPPを開始剤とする60℃におけるStのバルク重合は、空気雰囲気下では速やかに進むものの、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。又、この空気雰囲気下の重合は、BHTやHQの添加で抑制されることなどから、ラジカル機構で進むものと推定した。さらに、この空気雰囲気下の重合は、重合反応が進むにしたがい、新たなピークが徐々に高分子側に現れ、そのピーク自体もさらに高分子側にシフトしていく傾向が認められた。この事実は、2つのラジカル重合機構が併発していることを示唆する。一方、BDPPを開始剤とする空気雰囲気下70℃におけるMMAの重合には、著しい溶媒依存性が認められた。つまり、重合はジメチルスルホキシドを溶媒として用いた時にのみ進行し、バルク重合はもちろん、ジオキサン・ジグリム・ベンゼン・トルエン・DMFを溶媒として用いた場合には、ほぼ完全に禁止された。さらに、モノマーとしてアクリル酸エステルを重合させた場合はStを重合させた場合と似た重合挙動を示したが、特異的な現象が認められた。それは、空気雰囲気下60℃の重合において、ラジカル連鎖移動剤として知られる1-DTを添加すると、テロメル化反応が促進されオリゴマーが高収率で合成されるということである。ここで得られた結果は、BDPPに特殊なビニル重合開始能のあることを明らかにしたものである。
2.アルキルボラン、特にトリアルキルボランは1950年代からその特殊なビニル重合開始能が注目され、多くの研究報告がある。一方、これらトリアルキルボランは、ボラン-テトラヒドロフラン錯体(BH3-THF)やボラン-メチルスルフィド錯体(BMS)などのボラン錯体とアルケンのヒドロホウ素化反応から合成されることが知られている。以下、ボラン錯体であるBDPPのビニル重合開始能について検討し、ボラン錯体の新しい可能性について説明する。
BH3-THFおよびBMSの構造式を以下に示す。
【化14】
ボラン-ジフェニルフォスフィン(BDPP)の構造式を以下に示す。
【化15】
3.図8に示すように、BDPPを開始剤とする60℃におけるStのTHF溶液重合は、空気雰囲気下では速やかに進行した。この重合はBHTやHQの添加で完全に禁止されることからラジカル機構で進んでいると思われるが、アルゴン雰囲気中では全く進まなかった。一方、バルク重合においても類似の重合挙動を示した。さらにバルク重合で得られたポリマーの分子量分布は、重合反応が進むにつれて二峰性を示した。実験条件と結果を表14(Table1)に示す。
BDPPを開始剤とするStの重合の反応式を以下に示す。
【化16】
【表14】
4.図9に示すように、この空気雰囲気下、60℃におけるバルク重合のGPC曲線をみると重合反応が進むにしたがい、新たなピークが徐々に高分子側に現れ、そのピーク自体もさらに高分子側にシフトしていく傾向が認められる。この事実は、2つの重合機構が併発していることを示唆する。
5.図10に示すように、重合温度を60℃から70℃まであげると初期重合速度は若干大きくなったが、重合が進むにつれて分子量分布が二峰性を示す傾向は変わらなかった。実験条件と結果を表15(Table2)に示す。
【表15】
6.図11に示すように、空気雰囲気下60℃におけるBDPPを開始剤とするStの溶液重合は、ジオキサン・トルエン・THF中でほぼ同じ重合速度で進んだ。通常のラジカル重合の重合速度は、一般的に溶媒の影響を受けないとされている。この点でこの重合は、通常のラジカル重合と共通した性質をもつ。又、この重合はバルク重合同様、生成ポリマー分子量及び分子量分布は重合が進むにつれて大きくなる傾向が認められた。実験条件と結果を表16(Table3)に示す。
【表16】
7.ここまで得られた結果から、重合機構を次のように推定した。つまり、StとBDPPがヒドロホウ素化反応をすることで生成した化合物が、さらに空気中の酸素で酸化され過酸化物を生成する。この過酸化物を経て発生する酸素中心ラジカル及び炭素中心ラジカルが、重合を開始すると思われる。生長末端についてはドーマント種を形成する場合としない場合があり、見かけ上、2つの重合機構が併発しているような反応挙動を示すものと推定した。その反応式を以下に示す。
【化17】
8.空気雰囲気下70℃において、BDPPを開始剤に用いたMMAの重合を試みた。バルク重合はもちろん、ジオキサン・ジグリム・ベンゼン・トルエン・DMF・四塩化炭素中で、この重合は全く進まなかった。しかし溶媒としてDMSOを用いた場合に、重合は進んだ。このように、この重合には著しい溶媒依存性のあることがわかると同時に、BDPPの重合開始能はモノマーによって異なることがわかった。実験条件と結果を表17(Table4)に示す。
【表17】
9.空気雰囲気下60℃において、BDPPはMAのバルク重合を速やかに開始した。この重合はBHTやHQの添加で禁止される一方、アルゴン雰囲気下でも著しく抑制された。得られた結果は、空気下で進む特殊なラジカル重合であることを示唆した。一方、1-DTの添加でテロメリゼージョンが促進された。さらに著しい溶媒効果が認められ、ベンゼン・トルエン・四塩化炭素中では全く重合しなかった。実験条件と結果を表18(Table5),19(Table6)に示す。
BDPPを開始剤とするMAの重合の反応式を以下に示す。
【化18】
【表18】
【表19】
10.前述のMAの重合同様、BDPPは空気雰囲気下60℃においてEAのバルク重合を開始したが、アルゴン雰囲気下では重合は進まなかった。BHTや1-DTの添加効果はこの重合が特殊なラジカル機構で進んでいることを示唆した。溶媒効果としてはDMFやDMSOを溶媒に用いたときに重合が速やかに進む傾向が認められた。実験条件と結果を表20(Tabel7),21(Table8)に示す。
BDPPを開始剤とするEAの重合の反応式を以下に示す。
【化19】
【表20】
【表21】
11.BDPPを開始剤とするBAの重合挙動は、前述までのMA・EAの場合と同様であった。ここで注目すべきは、これらアクリル酸エステル類の重合において1-DTを添加することによるテロメリゼーション促進効果が明らかとなり、高収率でのテロマー合成に関する応用に期待が持てることである。実験条件と結果を表22(Table9),23(Table10)に示す。
BDPPを開始剤とするBAの重合の反応式を以下に示す。
【化20】
【表22】
【表23】
12.BDPPにビニル重合開始能のあることを明らかにした。BDPPを開始剤とするモノマーとしてSt・MMA・MA・EA・BAを用いた重合挙動は以下の通りである。(1)空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合は速やかに進行したが、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。この空気雰囲気下の重合は、ラジカル重合禁止剤であるHQやBHTの添加で抑制されるのに加えて、ラジカル連鎖移動剤である1-DTの添加でオリゴマーを生成した。これらの事実から、この重合は空気中の酸素が関与する特殊なラジカル機構で進むものと推定した。この特殊なラジカル重合は、重合反応が進むにしたがい生成ポリマー分子量分布は単峰性から二峰性へと変化し、高分子側のピークがさらに高分子側へ移動する傾向が認められた。このような傾向は、他のボラン錯体を開始剤とするビニル重合では認められなかった。詳しい原因については引き続き検討を要するが、2つのラジカル重合機構が併発しているものと考えられる。(2)BDPPを開始剤とするMMAの重合は、特異的な溶媒依存性が認められた。つまり、空気雰囲気下70℃における重合はDMSO溶媒中でのみ進行した。(3)BDPPを開始剤とするMA・EA・BAの重合は、基本的にStを重合させた場合と似た傾向を示したが、1-DTを添加するとテロメル化反応が促進されることが特徴的であった。以上得られた結果は、BDPPのビニル重合開始剤としての特徴を示したものである。
【0017】
第4の本発明を実施するための最良の形態について、以下に詳細を説明する。
本実施の最良の形態は、ビニル重合開始剤としてのBTMA及びBTEAの特性に関する。
図12乃至図18は、本発明の実施の形態を示している。
1.BTMA又はBTEAを開始剤とする、空気雰囲気下60℃におけるSt・MMA・アクリル酸エステル類の重合を試みた。空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合については、BTMAよりもBTEAの方が重合開始活性が高かった。このBTEAを開始剤とするStのバルク重合は、ラジカル重合禁止剤であるBHTの添加で禁止された。又、ラジカル連鎖移動剤として知られる1-DTの添加でオリゴマーしか生成しなかった。一方、この空気雰囲気下の重合には著しい溶媒依存性が認められ、トルエンやベンゼンを溶媒として用いた場合はほとんど進まないものの、ジオキサンやジグリムを溶媒として用いた場合は速やかに進行した。しかし、アルゴン雰囲気下では著しく抑制される傾向が認められた。得られた結果から、この重合は空気雰囲気下で進むラジカル重合であることが示唆されたが、動力学的な検討では通常のラジカル重合とは異なることがわかった。又、ジグリムの溶液重合については、重合時間とともに生成ポリマー分子量の減少する傾向が認められ、高収率で低分子量のポリマーを合成する応用への期待がもたれる。BTMA及びBTEAは、空気雰囲気下60℃~70℃という温和な温度でMMAの重合をすることは、Stをモノマーとして用いた場合と同様であったが、アクリル酸エステル類に対しては空気雰囲気下での重合開始能をもたなかった。しかし、BTMAはアルゴン雰囲気下、アクリル酸エステル類に対する重合開始能が認められた。ここで得られた結果は、BTMA及びBTEAの特異的なビニル重合開始能を初めて明らかにしたものである。
2.ボランはジボランとして常温常圧で気体として存在する。それ故、通常の実験室では取り扱いにくく重合開始剤としての検討はされていない。
ボランの状態の式を以下に示す。
【化21】
本発明者は前述のとおり、ルイス酸であるボランにルイス塩基が配位した各種ボラン錯体の特殊なビニル重合開始能を明らかにしてきた。
種々のボラン錯体の構造式を以下に示す。
【化22】
これらボラン錯体を開始剤とする重合は空気雰囲気下、比較的温和な反応温度(30℃〜100℃)で進むことが特徴であり、その重合機構はラジカル反応で進むと推定している。本研究ではボラン錯体を開始剤とする重合の反応機構を明確にすることを目的として、これまで検討していないBTMA及びBTEAのビニル重合開始能について詳しく検討した。
BTMA及びBTEAの構造式を以下に示す。
【化23】
3.図12に示すように、BTMA又はBTEAを開始剤とする空気雰囲気下60℃におけるStのバルク重合を試みた。BTEAの方が重合開始活性が高かった。この重合は転化率はさほど大きくないものの、高分子量のポリマーを生成した。又、BHTの添加で禁止されると同時に、1-DTの添加で生成ポリマー分子量が著しく小さくなった。実験条件と結果を表24(Table1)に示す。
BTMAまたはBTEAを開始剤とするStのバルク重合の反応式を以下に示す。
【化24】
【表24】
4.空気雰囲気下60℃におけるBTEAを開始剤とするStのバルク重合はあまり進まなかった。図13に示すように、溶液重合においてもトルエンやベンゼンを溶媒として用いた場合はあまり進まなかったがジオキサンやジグリムを溶媒として用いた場合には重合が速やかに進むことがわかった。図14に示すように、この重合はBHTの添加で完全に禁止された。又、この重合はアルゴン雰囲気下では著しく抑制される傾向が認められた。
5.ここで注目すべきは、図15に示すように、この空気雰囲気下の重合において重合時間の経過にともない転化率は増大するものの、生成ポリマー分子量の減少する傾向が認められることである。実験条件と結果を表25(Table2)に示す。
【表25】
6.BTEAは、ルイス酸であるボランに対して、ルイス塩基であるトリエチルアミンが配位することによって常温常圧で液体として安定に存在している。ここに新たなルイス塩基であるアミンを添加することによって、重合反応に何らかの影響が及ぼされることが予想されたので検討した。アミンのpKaが大きくなるにしたがって効果的に重合が抑制されることがわかった。実験条件と結果を表26(Table3)に示す。
種々のアミンの構造式を以下に示す。
【化25】
【表26】
7.ここまでの検討で、BTEAを開始剤とするStの重合は、特殊なラジカル機構で進んでいることが強く示唆された。図16,21に示すように、通常のラジカル重合における初期重合速度は、モノマー濃度の1次、そして開始剤濃度の0.5次に比例する。しかし、この重合における初期重合速度は、モノマー濃度にも開始剤濃度にも依存しないことがわかった。この点でも、このラジカル重合は通常のラジカル重合とは異なることが示唆された。
8.ここまで得られた結果から、次のように重合機構を推定した。
StとBTEAのヒドロホウ素化生成物が、空気中の酸素によって自動酸化され、過酸化物が生成する。この過酸化物を経て発生する酸素中心ラジカル、あるいは炭素中心ラジカルが重合を開始するとともに、連鎖移動反応にも関与して生成ポリマー分子量が減少するものと思われる。反応式を以下に示す。
【化26】
9.図18に示すように、BTMAを開始剤とするMMAのバルク重合は、空気雰囲気下60℃において速やかに進行した。この重合はBHTやHQの添加で完全に禁止されるとともに、1-DTの添加で生成ポリマー分子量は著しく小さくなった。又この重合は、アルゴン雰囲気下では著しく抑制された。一方、BTEAを開始剤に用いた、70℃におけるMMAのジオキサン溶液重合でも、同様の重合挙動を示した。このことから、Stの場合と同様にBTEA及びBTMAを開始剤とするMMAの重合はラジカル機構で進んでいると推定した。実験条件と結果を表27(Table4)に示す。
BTEAまたはBTMAを開始剤とするMMAの重合の反応式を以下に示す。
【化27】
【表27】
10.空気雰囲気下60℃におけるBTEAを開始剤とするMMA重合には、顕著な溶媒効果が認められた。つまりこの重合は、ベンゼン・トルエン・DMF・四塩化炭素中では全く進まないのに対して、ジオキサン・ジグリム・THF中では速やかに進行した。これは、BTEA分子構造中のBH3に対してこれら溶媒分子の酸素原子ローンペアが、トリエチルアミンと競合しながらも弱く配位することによって、重合反応に影響を与えているものと推定した。実験条件と結果を表28(Table5)に示す。各溶媒が配位した構造式を以下に示す。
【化28】
【表28】
11.BTMA又はBTEAを開始剤とするMA・EA・BAのバルク重合を試みた。重合挙動は前述のStやMMAの場合とは全く異なった。つまり、空気雰囲気下60℃において、これらアクリル酸エステル類に対するBTMA及びBTEAの重合開始能は全く認められなかった。しかし、アルゴン雰囲気下において、特にBTMAを開始剤としたMA・EA・BAの重合は速やかに進み、その重合速度はMA>EA>BAという傾向が認められた。実験条件と結果を表29(Table6)に示す。
BTMA又はBTEAを開始剤とするアクリル酸エステル類のバルク重合の反応式を以下に示す。
【化29】
【表29】
12.重合開始剤としてこれまで報告例のない、BTMA及びBTEAのビニル重合開始能について検討した。BTMA及びBTEAにはビニル重合開始能のあることがわかった。検討対象としたビニルモノマーはSt・MMA・MA・EA・BAである。この重合は、モノマーの種類によってその重合挙動が大きく異なった。最もきわだった違いは、以下のとおりである。BTMA及びBTEAは空気雰囲気下でStやMMAの重合を開始するが、アルゴン雰囲気下においてこれらの重合は禁止された。これら空気雰囲気下で進む重合は、ラジカル重合禁止剤の添加効果などからラジカル機構で進むと推定した。一方、これに対して、BTMAはアルゴン雰囲気下MA・EA・BAの重合を開始するが、これらの重合は空気雰囲気下では完全に禁止された。さらに、BTEAには、これらアクリル酸エステルに対する重合開始能はほとんど認められなかった。このように、BTMAやBTEAを開始剤とする重合が、モノマーによってアルゴン雰囲気下で進む場合と空気雰囲気下で進む場合など異なる重合開始能をもつことを明らかにした。この原因については十分に解明出来なかった。ここで注目すべきは、空気雰囲気下BTEAを開始剤とするStのジグリム溶液重合において、重合時間の経過にともない転化率は増大するものの、生成ポリマー分子量の減少する傾向が認められることである。このことは、生長反応とともにラジカル連鎖移動反応が併発していることを示唆し、低分子量ポリマーを高収率で得る新技術として期待できる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、本実施例に限定されるものではなく、種々の実施が可能である。
なお、実施例で用いた各重合開始剤の濃度は、重合させるビニルモノマーに対して0.5モル%あるいは1モル%である。
[実施例1]
空気雰囲気下、60℃で表68に示す各種溶媒を用いてMMAを重合させ、MMA重合体を製造した。各種溶媒の量は、MMA9.4ミリモルに対し2.0ミリリットルであった。より具体的には、MMAと溶媒を重合管内に注入しセプタムキャップで蓋をした。この重合管をウォーターバスに移し替えて、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールを入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を表5に示す。
さらに、表6および表7に示す条件で、重合を行った。その結果を各表に示す。
[実施例2]
空気雰囲気下またはアルゴン雰囲気下、BACを重合開始剤として、表9乃至13に示す条件でStを重合させ、St重合体を製造した。より具体的には、モノマーや溶媒といった媒体の入った重合管のセプタムキャップを通してマイクロシリンジでBACを注入することで重合を開始した。アルゴン雰囲気の重合の場合には、この重合管のセプタムキャップをとおしてアルゴンを吹き込むことによりアルゴン雰囲気とした後、セプタムキャップを通してマイクロシリンジでBACを注入することで重合を開始した。次に、重合管をウォーターバスまたはオイルバスに移し替え、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールとトリエチルアミン(BACに対して3倍当量)を入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を各表に示す。
[実施例3]
空気雰囲気下またはアルゴン雰囲気下、BDPPを重合開始剤として、表14乃至23に示す条件でSt,MMA,MA,EA,BAを重合させ、各重合体を製造した。より具体的には、モノマーや溶媒といった媒体の入った重合管のセプタムキャップを通してマイクロシリンジでBDPPを注入することで重合を開始した。アルゴン雰囲気の重合の場合には、この重合管のセプタムキャップをとおしてアルゴンを吹き込むことによりアルゴン雰囲気とした後、セプタムキャップを通してマイクロシリンジでBDPPを注入することで重合を開始した。次に、重合管をウォーターバスまたはオイルバスに移し替え、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールとトリエチルアミン(BDPPに対して3倍当量)を入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を各表に示す。
[実施例4]
空気雰囲気下またはアルゴン雰囲気下、BTMAまたはBTEAを重合開始剤として、表24乃至29に示す条件でSt,MMA,MA,EA,BAを重合させ、各重合体を製造した。より具体的には、モノマーや溶媒といった媒体の入った重合管のセプタムキャップを通してマイクロシリンジでBTMAまたはBTEAを注入することで重合を開始した。アルゴン雰囲気の重合の場合には、この重合管のセプタムキャップをとおしてアルゴンを吹き込むことによりアルゴン雰囲気とした後、セプタムキャップを通してマイクロシリンジでBTMAまたはBTEAを注入することで重合を開始した。次に、重合管をウォーターバスまたはオイルバスに移し替え、所定時間経過後、貧溶媒のメタノールとトリエチルアミン(BTMAまたはBTEAに対して3倍当量)を入れたビーカーに重合溶液を投ずることで重合を停止した。転化率は、沈殿したポリマーを分別し40℃乃至50℃で一昼夜減圧乾燥後、重量法で求めた。数平均分子量は、溶離液としてTHFを用いたGPC測定で決定した。分子量は、標準ポリスチレンの校正曲線より計算した。その条件と結果を各表に示す。
[実施例5]
空気雰囲気下、60℃または70℃で表30に示す各種溶媒を用いてMMAを熱重合させ、MMA重合体を製造した。
【表30】
[実施例6]
空気雰囲気下、60℃または70℃で表31に示す各種溶媒を用いてMAを熱重合させ、MA重合体を製造した。
【表31】
[実施例7]
空気雰囲気下、60℃または70℃で表32に示す各種溶媒を用いてEAを熱重合させ、EA重合体を製造した。
【表32】
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】第1の本発明を実施するための最良の形態において、ジグリム溶媒中のビニルモノマーの熱重合におけるタイムコンバージョンを示すグラフである。
【図2】第1の本発明を実施するための最良の形態において、空気雰囲気下、40℃、60℃、70℃のジグリム溶媒中のMMAの熱重合におけるタイムコンバージョンを示すグラフである。
【図3】第1の本発明を実施するための最良の形態において、アルゴンガス雰囲気下および空気雰囲気下のジグリム溶媒中のMMAの熱重合におけるタイムコンバージョンを示すグラフである。
【図4】第2の本発明を実施するための最良の形態における、ボラン錯体を開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図5】第2の本発明を実施するための最良の形態における、BACを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図6】第2の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示すグラフである。
【図7】第2の本発明を実施するための最良の形態における、BACを開始剤とするStの重合における重合溶媒の影響を示すグラフである。
【図8】第3の本発明を実施するための最良の形態における、BDPPを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図9】第3の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示すグラフである。
【図10】第3の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示す他のグラフである。
【図11】第3の本発明を実施するための最良の形態における、BDPPを開始剤とするStの重合における重合溶媒の影響を示すグラフである。
【図12】第4の本発明を実施するための最良の形態における、60℃空気雰囲気下のBTMAまたはBTEAを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図13】第4の本発明を実施するための最良の形態における、種々の溶媒中のBTEAを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図14】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするStの重合を示すグラフである。
【図15】第4の本発明を実施するための最良の形態における、生成ポリ(St)の転化率増加に伴うGPC溶出曲線の変化を示す他のグラフである。
【図16】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするStの重合におけるモノマー濃度の影響を示すグラフである。
【図17】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするStの重合における開始剤濃度の影響を示すグラフである。
【図18】第4の本発明を実施するための最良の形態における、BTEAを開始剤とするMMAの重合を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を熱重合させることを特徴とする重合体製造方法。
【請求項2】
前記メタクリル酸エステルとしてメタクリル酸メチルを用いることを特徴とする請求項1記載の重合体製造方法。
【請求項3】
60℃乃至100℃の範囲で熱重合させることを特徴とする請求項1または2記載の重合体製造方法。
【請求項4】
60℃乃至80℃の範囲で熱重合させることを特徴とする請求項1または2記載の重合体製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の重合体製造方法により製造されることを特徴とする重合体。
【請求項6】
空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方をを熱重合させて成ることを特徴とする重合体。
【請求項7】
空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸メチルを熱重合させて成ることを特徴とするメタクリル酸メチル重合体。
【請求項8】
ジグリムから成ることを特徴とする空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒。
【請求項9】
ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項10】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項11】
ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項12】
ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項13】
重合させるビニルモノマーはスチレンであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項14】
重合させるビニルモノマーはメタクリル酸エステルであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項15】
重合させるビニルモノマーはアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項16】
1-ドデカンチオールの存在下で重合させることを特徴とする請求項9乃至15記載のビニル重合体製造方法。
【請求項17】
空気雰囲気下で重合させることを特徴とする請求項9乃至16のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項18】
エーテル酸素を有する液体化合物を溶媒として重合させることを特徴とする請求項9乃至17のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項19】
40℃乃至70℃の範囲で重合させることを特徴とする請求項9乃至18のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項20】
空気雰囲気下、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤とし、ジアルキルスルホキシドを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項21】
請求項9乃至20のいずれかに記載のビニル重合体製造方法により製造されることを特徴とするビニル重合体。
【請求項22】
ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項23】
ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項24】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項25】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項26】
ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項27】
ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項28】
ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項29】
ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項30】
ボラン-アンモニア錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項31】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項32】
ボラン-トリアルキルアミン錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項33】
ボラン-トリメチルアミン錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項1】
空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を熱重合させることを特徴とする重合体製造方法。
【請求項2】
前記メタクリル酸エステルとしてメタクリル酸メチルを用いることを特徴とする請求項1記載の重合体製造方法。
【請求項3】
60℃乃至100℃の範囲で熱重合させることを特徴とする請求項1または2記載の重合体製造方法。
【請求項4】
60℃乃至80℃の範囲で熱重合させることを特徴とする請求項1または2記載の重合体製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の重合体製造方法により製造されることを特徴とする重合体。
【請求項6】
空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方をを熱重合させて成ることを特徴とする重合体。
【請求項7】
空気雰囲気下、ジグリムを溶媒としてメタクリル酸メチルを熱重合させて成ることを特徴とするメタクリル酸メチル重合体。
【請求項8】
ジグリムから成ることを特徴とする空気雰囲気下のメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステル熱重合用溶媒。
【請求項9】
ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項10】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項11】
ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項12】
ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項13】
重合させるビニルモノマーはスチレンであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項14】
重合させるビニルモノマーはメタクリル酸エステルであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項15】
重合させるビニルモノマーはアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項9乃至12のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項16】
1-ドデカンチオールの存在下で重合させることを特徴とする請求項9乃至15記載のビニル重合体製造方法。
【請求項17】
空気雰囲気下で重合させることを特徴とする請求項9乃至16のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項18】
エーテル酸素を有する液体化合物を溶媒として重合させることを特徴とする請求項9乃至17のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項19】
40℃乃至70℃の範囲で重合させることを特徴とする請求項9乃至18のいずれかに記載のビニル重合体製造方法。
【請求項20】
空気雰囲気下、ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤とし、ジアルキルスルホキシドを溶媒としてメタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルの少なくとも一方を重合させることを特徴とするビニル重合体製造方法。
【請求項21】
請求項9乃至20のいずれかに記載のビニル重合体製造方法により製造されることを特徴とするビニル重合体。
【請求項22】
ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項23】
ボラン-アンモニア錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項24】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項25】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項26】
ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項27】
ボラン-トリアルキルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項28】
ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーを重合させて成ることを特徴とするビニル重合体。
【請求項29】
ボラン-トリメチルアミン錯体を重合開始剤として、ビニルモノマーをラジカル重合させて成ることを特徴とするビニルラジカル重合体。
【請求項30】
ボラン-アンモニア錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項31】
ボラン-ジアリールホスフィン錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項32】
ボラン-トリアルキルアミン錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【請求項33】
ボラン-トリメチルアミン錯体から成ることを特徴とするビニル重合体の重合開始剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2006−348290(P2006−348290A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140958(P2006−140958)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【出願人】(304025345)
【出願人】(304025334)有限会社アートパテント (3)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月10日 社団法人高分子学会発行の「高分子学会予稿集 54巻1号」に発表
【出願人】(304025345)
【出願人】(304025334)有限会社アートパテント (3)
【Fターム(参考)】
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