説明

ビンガム流動組成物

【課題】従来のフラワーペースト特有のもったりした口溶けの悪い食感とは異なる、新規な餅様食感を有し、且つ、菓子、パン用フィリングとして、連続生産が可能な包あん機、充填機、デポジッターなどの機械適性を有する、フラワーペーストを提供すること。
【解決手段】油脂を2〜25重量%、加工澱粉を2〜12.5重量%及び水を含み、加工澱粉がエーテル化澱粉及び/又はエステル化澱粉であるビンガム流動組成物であり、好ましくは、加工澱粉がタピオカ澱粉のエーテル化澱粉であるビンガム流動組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビンガム流動組成物に関し、さらに詳しくは餅様食感のフラワーペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に製菓、製パンで使用されるカスタードクリームやフラワーペーストは、小麦粉や澱粉を主要原料とし、これに糖類、乳製品、卵、その他風味原料を加え、混合、加熱して得られるペースト状のものであり、菓子やパンのフィリングの材料として広く用いられている。しかし、フラワーペーストは澱粉質を糊化して得られる独特の強い粘りのある食感のため、もったりとした口当たりや口溶け、あるいは食感の重いものが多く、また甘味がくどく感じられるといった問題があった。
【0003】
上記の問題を解決するために、新規な食感を得ることを目的とした、いくつかの方法が提案されており、例えば、特許文献1では、加工澱粉をゲル状化材とし、弾力があってスライム性をもつ、これまでにない食感を有するデザート類が提案されている。しかし、これは糖類、水、澱粉類よりなる、油脂を含まないゼリーなどのゲル状の単体で喫食するようなデザート類であり、菓子やパンのフィリングとして用いられるフラワーペーストとは組成や用途、さらには物性が異なるものである。
【0004】
さらに、特許文献2では、タピオカ澱粉を用いた、もちのようにのびる、新規な食感を有する冷菓及びその製造方法が提案されている。しかしながら、これはアイスクリームやシャーベットのような冷凍温度域で食する冷菓に新規な食感を付与する方法であり、冷蔵から常温の温度域で流通、食される菓子やパンのフィリングとして用いられるフラワーペーストでは同様の食感を得ることができない。
【0005】
また、特許文献3では、加工原料を主原料とする液状生地を焼成することによる求肥のような餅様食品の製造方法が提案されているが、餅様の食感を得るため、焼成という工程が必須であり、焼成工程を経ない従来のフラワーペーストの製造方法では、同様の物性を得ることはできない。
【0006】
また、最近では、求肥、わらび餅、生八つ橋に代表される餅様食感の和風の食品素材を菓子やパンのフィリングとして組み合わせた菓子類も開発されているが、これらの和菓子はわらび餅粉や白玉粉などから作られるため、包あん機や充填機などの機械適正がなく、これら組み合わせ菓子類を製造する際は、求肥を一個一個、手作業で菓子やパンにサンドするといった面倒な工程が避けられず、省人力化や菌、異物混入といった安全性の面から、機械化できるような改善が求められていた。
【特許文献1】特開2006−42727号公報
【特許文献2】特開2002−272383号公報
【特許文献3】特開2002−51703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のフラワーペースト特有のもったりした口溶けの悪い食感とは異なる、新規な餅様食感を有し、且つ、菓子、パン用フィリングとして、連続生産が可能な包あん機、充填機などの機械適性を有する、フラワーペーストを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる現状に鑑み、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねたところ、油脂を含むフラワーペーストにおいて、加工澱粉として、エーテル化澱粉及び/又はエステル化澱粉を用いることで、これまでのフラワーペーストとは全く異なる流動性を有する口溶けの良い、餅様食感のフラワーペーストが得られ、さらに包あん機、充填機などの機械適性をも有するという知見を得て、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明の第一は、油脂を2〜25重量%、加工澱粉を2〜12.5重量%及び水を含み、加工澱粉がエーテル化澱粉及び/又はエステル化澱粉であるビンガム流動組成物である。第二は、加工澱粉がタピオカ澱粉のエーテル化澱粉である第一記載のビンガム流動組成物である。第三は、FUDOHレオメーターによる5℃における引っ張り強度が70〜170g/28.26cm(直径3cmプランジャー、テーブル下降速度5cm/分、株式会社レオテック製)である第一又は第二記載のビンガム流動組成物である。第四は、5℃における粘度が200〜1800Pa・s(B型粘度計)である、第一又は第二記載のビンガム流動組成物である。第五は、第一〜四いずれか記載のビンガム流動組成物が包あんされた菓子又はパンである。第六は、第一〜四いずれか記載のビンガム流動組成物を外皮として用いた菓子である。第七は、油脂を2〜25重量%、加工澱粉を2〜12.5重量%及び水を含む原料を混合し、予備乳化、均質化、殺菌後、静置冷却することを特徴とする第一〜四いずれか記載のビンガム流動組成物の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、従来のフラワーペーストとは異なる口溶けの良い餅様食感を有し、且つ、菓子又はパン用フィリングとして、あるいは菓子の外皮として、連続生産が可能な包あん機、充填機などの機械適性を有する、フラワーペーストを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明をより詳細に説明する。
本発明は油脂を2〜25重量%、加工澱粉を2〜12.5重量%及び水を含み、加工澱粉がエーテル化澱粉及び/又はエステル化澱粉であるビンガム流動組成物であり、油脂と水とを含んだ乳化物が配合されることにより、風味のコクを付与することができ、また口溶けの良好な風味、物性、さらには色調を付与することが可能となる。
【0012】
本発明のおけるビンガム流動組成物とは、冷蔵から常温の温度域において、ビンガム流体の物性を示すものであり、ビンガム流体とは、ある応力以下ではボディー性のある保形性を有するが、ある応力を超えると流動性のある物性を示すものである。例えば、液状の組成物であれば、容器に入れて傾けると、すぐに流れ出してしまい、また、ペースト状の組成物であれば、容器に入れて傾けても、全く流れ出さないが、本発明のビンガム流動組成物は、容器に入れて傾けると、ゆっくり流れ出るような半流動性の物性を示す。
【0013】
本発明のビンガム流動組成物に使用できる油脂は、液状油、固形脂等、特に限定されず、例えば、大豆油、菜種油、サフラワー油、コーン油、ヒマワリ油、綿実油、米油、落花生油、ごま油、オリーブオイル、パーム油、ヤシ油、カカオ脂、牛脂、豚脂、魚鯨脂、中鎖脂肪酸トリグリセリドなどの任意の食用油、あるいはこれらに硬化、分別、エステル交換等を施した加工油脂などが挙げられ、これら単独又は2種以上を組み合わせて使用することが出来るが、風味や乳化性の良好さから、パームオレインや菜種油などの10℃におけるSFCが10以下である、構成脂肪酸がオレイン酸に富む低融点油脂が好ましい。油脂のSFCはパルスNMRを用いて測定することができる。
【0014】
本発明のビンガム流動組成物は、油脂を2〜25重量%含むが、より好ましくは10〜15重量%含まれる。ビンガム流動組成物中の油脂が2重量%未満では、風味のコクを付与することができず、またビンガム流動組成物の物性が低粘度となり好ましくない、また、油脂が25重量%を越えると、逆に風味がくどく油っぽいものとなり、不適である。
【0015】
本発明のビンガム流動組成物に用いられる加工澱粉としては、馬鈴薯澱粉、とうもろこし澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉等の穀類澱粉のエーテル化及び/又はエステル化澱粉であり、これらの加工澱粉を用いることで、従来のフラワーペーストとは異なる、ビンガム流動状の物性や良好な口溶け、口当たりのよい食感を得ることが可能となる。
【0016】
本発明のビンガム流動組成物は、加工澱粉を2〜12.5重量%含むが、ビンガム流動組成物中の加工澱粉が2重量%未満では、ビンガム流動状の物性や餅様の食感を付与する効果が弱く、また得られた組成物の引っ張り強度が低いため、包あん機などの機械適性がなく、また、加工澱粉が12.5重量%を越えると、組成物の粘度が高すぎ、流動性がなくなるため、包あん、充填に際し、扱いづらいため、不適である。
【0017】
本発明のビンガム流動組成物は、加工澱粉として、タピオカ澱粉のエーテル化澱粉を用いると、わらび餅粉や白玉粉から作られた求肥やわらび餅のような餅様の食感を付与させながら、従来の求肥やわらび餅では使用出来なかった、包あん機、充填機等の機械適性を有するビンガム流動組成物を得ることが可能となり好ましい。
【0018】
また、本発明のビンガム流動組成物としての好ましい物性は、レオメーターによる5℃における引っ張り強度が、70〜170g/28.26cmである。本発明のビンガム流動組成物は、従来のフラワーペーストとは異なり、スプーンですくうと、切れずに伸びるという餅様の物性を有するため、以下の方法により引っ張り強度を測定することができる。
まず、底面の直径が6.5cmで高さが3.5cmのプラスチックカップに、品温5℃のビンガム流動組成物120gを充填し、FUDOHレオメーター(株式会社レオテック製)のテーブルに設置する。つぎに、直径3cmの円板状のプランジャーがビンガム流動組成物の充填されたプラスチックカップの底面に接触するまで、テーブルを押し上げ、底面に接触した時点での荷重を0点に合わせる。つぎに、テーブルを5cm/分の速度で下降させ、プランジャーがビンガム流動組成物に引っ張られる荷重を記録し、引っ張り強度を測定した。
【0019】
さらに、本発明のビンガム流動組成物としての好ましい物性は、5℃における粘度が200〜1800Pa・s(B型粘度計)であり、より好ましくは400〜1000Pa・sであり、半流動性のある物性でありながら、粘性を有するビンガム流動物性により、餅様の食感や物性と包あん機、充填機等の機械適性を付与することが可能となる。ビンガム流動組成物の粘度は、JIS Z8803に準じて測定することが出来る。
【0020】
本発明のビンガム流動組成物は、油脂、加工澱粉及び水を含むが、それ以外に必要に応じて、ショ糖、マルトース、ブドウ糖、トレハロース、ラクトース、ソルビトール、グルコース転化糖、果糖等の糖類や、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳、練乳、全粉乳、脱脂粉乳、カゼイン、ホエーパウダー、バター、クリーム、ナチュラルチーズ、プロセスチーズ、発酵乳等の乳や乳製品、ステビア、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムカリウム等の甘味料、β−カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、ホエー蛋白濃縮物、トータルミルクプロテイン等の乳蛋白や動物蛋白、卵及び各種卵加工品、フレーバー、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、香辛料抽出物、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物を使用することが出来る。また、乳化剤として、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等を必要に応じて使用することもできる。
【0021】
本発明のビンガム流動組成物は、一般的なフラワーペーストの製造方法により得ることができるが、製造方法としては、各原料を混合し、予備乳化した後、均質化、殺菌、冷却の工程を経て製造することが出来る。予備乳化の調合温度としては、35℃〜60℃、好ましくは40℃〜50℃が望ましく、均質化圧力は0〜100kg/cm、殺菌条件は80℃〜100℃、0.5〜15分が適している。
【0022】
さらに、本発明のビンガム流動組成物の製造方法は、殺菌、充填後、冷却方法として、静置状態での冷却が好ましく、冷蔵庫内で静置冷却することが望ましいが、冷却工程において攪拌などの過度の物理的な負荷が加えられると、形成された澱粉のゲルのネットワークが弱くなり、粘度が低下してしまい、良好なビンガム流動物性や餅様の食感が失われてしまい、好ましくない。
【0023】
このようにして得られたビンガム流動組成物は、従来のフラワーペーストにはない、新規な半流動性の餅様食感を有し、且つある応力を超えると流動状の物性を示すため、菓子又はパン用フィリングとして、包あん機、充填機、デポジッターなどの連続生産が可能な機械適性を有する。また、使用できる包あん機、充填機やデポジッターは、各社でその構造は異なるが、特にメーカー、機種は限定されず、いずれの機械を用いても良く、例えば、レオン自動機株式会社、株式会社コバードなどの製品が挙げられる。
【0024】
本発明のビンガム流動組成物が包あんされた菓子又はパンとしては、クッキー、ビスケット、シュー、まんじゅう等のフィリングとして充填、サンド、包あんされた菓子や、食パン、菓子パン、蒸しパン等のフィリングとして充填、サンド、包あんされたパン類を挙げることができ、求肥やわらび餅のような餅様食感の和風の食品素材が包あんされた新しい菓子又はパン類を包あん機などの使用により、大量生産し提供することが出来る。
【0025】
さらに本発明のビンガム流動組成物の物性的な特徴である、ある応力以下では保形性のあるボディー性を有することから、包あん機などに対する機械適性を生かすことで、菓子又はパン類の中に充填する用途のみならず、まんじゅうの外皮として使用することもでき、例えば、フィリングとして、バタークリーム、生クリーム、ホイップクリーム、あんペースト、フラワーペースト、ジャム、バター、マーガリン、ピーナツバター、アイスクリーム等のペースト状、クリーム状食品素材を包あんした、新規な洋風和菓子を提供することが出来る。
【実施例】
【0026】
以下に本発明の実施例を示す。なお、例中、%は重量基準を意味する。
【0027】
(実施例1〜5、比較例1〜5)
表1に示す配合により、前述の製造法に従って、ビンガム流動組成物を製造した(パームオレインの10℃におけるSFCは4、菜種油の10℃におけるSFCは0であった)。なお実施例1〜3及び5、比較例1〜5は、殺菌後、すぐにピロー充填し、冷蔵庫内で静置冷却した。一方、実施例4は、殺菌後、品温40℃まで攪拌冷却し、冷却後、ピロー充填したものを冷蔵庫内で冷却した。また、得られた各組成物の引っ張り強度を測定し、BH型粘度計(東機産業株式会社製)を用いて粘度を測定した(ローターNo.6、回転数2rpm)。

【0028】
表1

【0029】
フルーツサンドの製造
実施例1〜5及び比較例1〜5において得られた各ビンガム流動組成物を用い、以下の表2の配合で、フルーツサンドを製造した。なお、食パンへのビンガム流動組成物の充填は、デポジッターを用いて行った。このときの、ビンガム流動組成物の機械適性及びフルーツサンドの評価を表3に示す。
【0030】
表2

【0031】
表3/フルーツサンド評価

【0032】
洋風饅頭の製造
実施例1〜5及び比較例1〜5において得られたビンガム流動組成物を外皮として用い、フィリングとしてホイップクリームを用い、卓上型小型包あん機(レオン自動機株式会社製)を使用して、外皮:フィリング=6:4の重量比で洋風饅頭を製造した。このときの、ビンガム流動組成物の機械適性及び洋風饅頭の評価を表4に示す。
【0033】
表4/洋風饅頭評価


【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂を2〜25重量%、加工澱粉を2〜12.5重量%及び水を含み、加工澱粉がエーテル化澱粉及び/又はエステル化澱粉であるビンガム流動組成物。
【請求項2】
加工澱粉がタピオカ澱粉のエーテル化澱粉である請求項1記載のビンガム流動組成物。
【請求項3】
FUDOHレオメーターによる5℃における引っ張り強度が70〜170g/28.26cm(直径3cmプランジャー、テーブル下降速度5cm/分、株式会社レオテック製)である請求項1又は2記載のビンガム流動組成物。
【請求項4】
5℃における粘度が200〜1800Pa・s(B型粘度計)である、請求項1又は2記載のビンガム流動組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載のビンガム流動組成物が包あんされた菓子又はパン。
【請求項6】
請求項1〜4いずれか記載のビンガム流動組成物を外皮として用いた菓子。
【請求項7】
油脂を2〜25重量%、加工澱粉を2〜12.5重量%及び水を含む原料を混合し、予備乳化、均質化、殺菌後、静置冷却することを特徴とする請求項1〜4いずれか記載のビンガム流動組成物の製造方法。

【公開番号】特開2009−22253(P2009−22253A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−191517(P2007−191517)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】