説明

ビーズ状熱可塑性重合体粒子、該粒子の製造方法および該粒子を含む熱可塑性樹脂組成物

【課題】少量添加することにより、樹脂の耐衝撃性を向上することができ、かつ、粘着性が少なく、取り扱い性が良好で、混練り工程を省略することができる熱可塑性重合体粒子を提供する。また、該熱可塑性重合体粒子の製造方法および該熱可塑性重合体粒子を含む樹脂組成物を提供する。
【解決手段】3次元架橋構造を有するガラス転移温度0℃以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるゴム質核、およびガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を含む粘着性のない殻からなるコアシェル構造のビーズ状熱可塑性重合体粒子であって、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂が、ゴム質核よりも殻に多く含まれることを特徴とするビーズ状熱可塑性重合体粒子である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた常温取り扱い性を有し、少量添加することで樹脂に耐衝撃性を付与することができるビーズ状熱可塑性重合体粒子、該粒子の製造方法および該粒子を含む熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂などは耐衝撃性を保持するためにブタジエン系ゴムを含有している。しかし、これらの樹脂は熱や光、機械的圧力処理などにより耐衝撃性が低下することがあり、これはブタジエン単位の劣化によるものと考えられる。
【0003】
このようなジエン含有プラスチックの耐衝撃性回復方法として、アルキル(メタ)アクリル酸エステルおよび架橋剤からなるゴム状重合体にメチルメタクリレート、スチレン、アクリロニトリルなどをグラフト重合させた重合体を樹脂に添加して耐衝撃性を付与する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、衝撃強度を発現させるには多量に添加する必要があり、さらに、衝撃強度発現性も充分ではない。
【0004】
さらに、ガラス転移温度の異なる成分構成のアクリルゴムによる耐衝撃性改善が提案されており(例えば、特許文献2参照)、また、アクリル複合ゴムの粒子径分布を規定することにより耐衝撃性を向上させる提案がなされている(例えば、特許文献3参照)。しかし、これらの方法では、耐衝撃性発現は不充分である。また、添加量を少なくするためにゴム成分比率を上げると、得られる重合体が粘着性を発現するため、取り扱い性が悪くなるという問題が発生する。
【0005】
これらを解決する方法として、ガラス転移温度の低いアクリル酸エステル共重合物を内層、メタクリル酸エステル重合体を外層とする多層構造のアクリル樹脂粒子が提案されている(例えば、特許文献4参照)。しかし、該粒子は架橋構造を形成していないため、耐衝撃性付与性能が低く、また、外層がメタクリル酸エステル系重合物であるため、多種の硬質樹脂への耐衝撃性付与に対応しにくいという欠点がある。
【0006】
また、内層をアクリル酸エステル系樹脂の架橋弾性体、外層をメタクリル酸エステル系樹脂とする乳化重合法による多層構造粒子が提案されている(例えば、特許文献5参照)。さらに熔融流動性を改善するために、内層をガラス転移温度の比較的高い架橋樹脂で構成し、かつ最外層をガラス転移温度の比較的低い軟質樹脂で構成し、さらに架橋樹脂からなる内層と軟質樹脂からなる最外層との間にグラフト結合を生成させる方法が提案されている(例えば、特許文献6参照)。しかし、これらの方法では、重合を数段階に分けて行う必要があり、操作が煩雑であり、さらに、乳化重合において残存する乳化剤により品質に影響を及ぼすことや、塩析などの樹脂の取り出し操作が必要などの欠点がある。
【0007】
このように、弾性特性を保持しながら、非粘着性、加工性および作業性を保持するために、軟質樹脂と硬質樹脂とを組み合わせた材料が利用されている。用途としては、前記の耐衝撃性樹脂成形物および耐衝撃性改質材以外に、たとえば、塗料および接着剤などがあげられる。
【0008】
弾性と非粘着性の相反する特性を両立させる手法として、ゴム成分を内部に有し、外殻部に硬質樹脂を有する多層構造の重合物はその一例であり、一般的に多段階の乳化重合法により得られている(例えば、特許文献7〜10参照)。
【0009】
乳化重合法では層数に応じた回数の反応が必要であり、また、樹脂の取り出しには塩析法や凍結凝固法などが用いられているため、作業が煩雑である。また、界面活性剤の残存により、耐水性、耐候性および加工性が低下するなど、品質に影響を及ぼすことがある。
【0010】
また、懸濁重合法を利用した多層構造の重合物の製造には、モノマーに樹脂を溶解させ、相溶性の違いから相分離を形成させる方法がある。
【0011】
不飽和モノマーと重合体化合物との混合物を懸濁重合した重合物では、相溶性が異なるため、複雑な内部構造および表面構造を有する粒子が得られている(例えば、特許文献11参照)。また、ポリエステル系またはポリスチレン系樹脂、リン酸エステル類およびモノマーからなる溶液を用いて、懸濁重合により一粒子中に異なる樹脂種を部分偏在させる方法がある(例えば、特許文献12参照)。これらは、モノマー由来の樹脂と溶解した樹脂との相溶性の差から相分離を利用して偏在させるものであるが、偏在化の度合いについては、原料の配合比率に由来し、同配合において制御することはできない。
【0012】
また、軟質のアクリル酸エステルモノマーに、硬質のメタクリル酸エステル重合物を溶解した多層構造のアクリル樹脂粒子が得られている(例えば、特許文献13参照)。モノマー由来の樹脂と溶解した樹脂との相溶性は比較的似ているが、この重合物の殻部分における硬質樹脂の偏在化の有無は確認されていない。
【0013】
【特許文献1】特公昭51−28117号公報
【特許文献2】特開2000−26552号公報
【特許文献3】特開2000−319482号公報
【特許文献4】特開2003−128736号公報
【特許文献5】特公平3−15648号公報
【特許文献6】特開平7−10937号公報
【特許文献7】特開平8−48704号公報
【特許文献8】特開2002−128844号公報
【特許文献9】特開2004−339350号公報
【特許文献10】特開2005−255872号公報
【特許文献11】特開平10−7704号公報
【特許文献12】特開2004−43557号公報
【特許文献13】特開2003−128736号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、このような従来の問題を解決するものであり、少量添加することにより、樹脂の耐衝撃性を向上することができ、かつ、粘着性が少なく、取り扱い性が良好で、混練り工程を省略することができる熱可塑性重合体粒子を提供する。また、該熱可塑性重合体粒子を含む樹脂組成物を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、一粒子中の内部(コア)に軟質樹脂、外殻部(シェル)に硬質樹脂が偏在したビーズ状重合体を一重合工程で完了する製造方法において、その外殻部に含有される硬質樹脂の偏在化度を制御することができる製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
すなわち、本発明は、3次元架橋構造を有するガラス転移温度0℃以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるゴム質核、およびガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を含む粘着性のない殻からなるコアシェル構造のビーズ状熱可塑性重合体粒子であって、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂が、ゴム質核よりも殻に多く含まれることを特徴とするビーズ状熱可塑性重合体粒子に関する。
【0017】
また、本発明は、ガラス転移温度0℃以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるゴム質核、およびガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を含む殻からなるビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法であって、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとビニル系モノマーに、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を分散または溶解した混合溶液を懸濁重合する工程からなる、該硬質樹脂が、ゴム質核よりも殻に多く含まれるコアシェル構造を有するビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法に関する。
【0018】
前記混合溶液を、水溶性重合禁止剤の存在下で懸濁重合することが好ましい。
【0019】
前記混合溶液を、分散媒に連続的に投入して懸濁重合することが好ましい。
【0020】
さらに、本発明は、前記熱可塑性重合体粒子および熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の熱可塑性重合体粒子は、混練や成形時に粘着に起因する作業性問題が発生せず、少量添加するのみで樹脂の耐衝撃性を向上させることができるものであり、衝撃強度改質材としての性能が高いものである。また、該熱可塑性樹脂粒子は、製造が簡便で生産コストを抑えることが可能である。
【0022】
また、本発明によれば、特定の要因(水溶性禁止剤の添加量、および、原料の連続的な投入条件)を制御することにより、配合を変更することなく、外殻への硬質樹脂の含有率を任意に制御することができる。
【0023】
さらに、本発明によれば、ビーズ状重合体において、外殻への硬質樹脂の偏在化を制御することができるので、用途に応じた粘着性の制御や非粘着化、および弾性を保持しながら相反する高い作業性を保持する有用な特性を、容易にビーズ状重合体に付加することが可能である。また、本発明によれば、乳化重合法における多段階の操作や樹脂析出における煩雑な作業をおこなうことなく、一重合工程により層分離構造(コアシェル構造)をもつ重合体を製造することができるため、非常に簡便である。さらに、界面活性剤などによる品質の低下のないビーズ状の重合体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、3次元架橋構造を有するガラス転移温度0℃以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるゴム質核、およびガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を含む粘着性のない殻からなるコアシェル構造のビーズ状熱可塑性重合体粒子であって、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂が、ゴム質核よりも殻に多く含まれることを特徴とするビーズ状熱可塑性重合体粒子に関する。
【0025】
ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体のガラス転移温度は0℃以下であり、−10℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が0℃をこえると、常温において柔軟性が低く、粘着性や弾性の特長を保持せず、耐衝撃強度付与効果が小さい傾向がある。
【0026】
(メタ)アクリル酸エステル共重合体を構成するモノマーとしては、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸i−プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソミリスチル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルなどの(メタ)アクリル酸エステルがあげられる。これらは単独または2種以上併用して用いることができる。これらの中でも、特に衝撃強度付与効果や反応性、価格などの点から、アクリル酸ブチルが好ましい。
【0027】
前記モノマーからなるポリ(メタ)アクリル酸エステルは、弾性、粘着性およびそれらによる衝撃強度付与効果を得るための有効成分であり、その含有量は、熱可塑性重合体中、40〜95重量%が好ましく、50〜90重量%がより好ましく、60〜90重量%がさらに好ましく、70〜85重量%がとくに好ましい。ポリ(メタ)アクリル酸エステルが40重量%未満であると、弾性や粘着性の効果が不充分な物性となり、充分な衝撃強度付与効果が得られない傾向がある。また、重合時において、溶液粘度が高く、重合時の取り扱いや重合槽での水媒体への分散が困難となるため、ビーズ状の重合体が得られない傾向がある。95重量%をこえると、硬質樹脂などの他の成分が少なくなるため、粘着性による樹脂凝集や接着の問題が発生する傾向があり、硬質樹脂の偏在化が不充分であるため、取り扱い性に問題が生じる傾向がある。
【0028】
また、ポリ(メタ)アクリル酸エステルの架橋構造を形成させるモノマーとしては、分子中に2個以上の不飽和結合を有するビニル系モノマーがあげられる。
【0029】
ビニル系モノマーとしては、例えば、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、多官能メタクリル基変性シリコーンなどや、アリルメタクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレートなどの架橋剤またはグラフト交叉剤があげられる。これらは単独または2種以上で用いられる。
【0030】
ポリ(メタ)アクリル酸エステルの架橋構造を形成させるモノマーの配合量としては、熱可塑性重合体粒子中、1〜20重量%であることが好ましく、3〜15重量%であることが好ましい。架橋構造を形成させるモノマーが1重量%未満であると充分架橋されないため、耐衝撃性付与効果が低い傾向があり、20重量%をこえると弾性付与効果は低下する傾向があり、かつ、コストの面でも不利である。
【0031】
ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂としては、アクリル酸エステルモノマーに均一に分散するか、または溶解することが可能な熱可塑性樹脂であればよく、特に限定されるものではない。たとえば、ポリスチレン(PS)、アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル酸系樹脂(PAc)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂(PEs)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、ポリスルフォン系樹脂(PSO)、ポリアリレート系樹脂(PAr)、ポリフェニレンサルファイド系樹脂(PPS)、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、塩化ビニル系樹脂(PVC)などがあげられる。これらは衝撃性向上の対象である樹脂単独またはそれを含む2種以上が使用される。これらの硬質樹脂は、改質の対象となるプラスチックに応じて選定する必要がある。改質の対象がHIPSの場合にはポリスチレン、ABS樹脂の場合にはスチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)が例としてあげられる。
【0032】
前記硬質樹脂の配合の主目的は、熱可塑性重合体粒子の粘着性を低減させることによって、取り扱い性を向上させるためである。その配合量は、熱可塑性重合体粒子中、5重量%以上であることが好ましく、10重量%以上であることがより好ましい。また、60重量%以下であることが好ましく、40重量%以下であることがより好ましく、30重量%以下であることがさらに好ましく、25重量%以下であることがとくに好ましい。硬質樹脂が5重量%未満であると、粘着性による樹脂凝集や接着の問題が発生する傾向があり、60重量%をこえると、溶液粘度が上昇することにより、重合時に分散媒中で懸濁状態とするのが困難になる傾向があり、また、衝撃強度付与効果が低下する傾向がある。
【0033】
また、本発明の熱可塑性重合体粒子のゴム質核は、ポリ(メタ)アクリル酸エステルを主成分とするものであるが、その製法上、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂も含まれるものである。ただし、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂は、ゴム質核よりも殻に多く含まれることが非粘着性および非柔軟性による取り扱い性の点から好ましく、その含有割合としては、ゴム質核には、ゴム質核全重量中5〜30重量%であることが好ましく、殻には、殻全重量中20〜90重量%であることが好ましい。また、殻には、ゴム質核よりも5重量%以上多く含まれていることが好ましく、20重量%以上多いことがより好ましい。
【0034】
また、本発明の熱可塑性重合体粒子の殻は、粘着性がないものであるため、常温で扱い易いものであり、混練や成形時に機器への凝集、付着などが起こらない。また、スクリューなどによる練り込み時に剪断力が加わり易いため、樹脂中に分散し易いものである。ここで、粘着性がないとは、混練や成形作業に支障の無い、粒子流動性を示す状態をさす。
【0035】
本発明のビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法は、特に限定されるものではないが、以下に説明する本発明の製造方法により得られるものであることが好ましい。
【0036】
すなわち、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとビニル系モノマーに、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を分散または溶解した混合溶液を懸濁重合する工程からなる。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルモノマーとビニル系モノマーに、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を分散または溶解した混合溶液の懸濁重合することにより、3次元架橋構造を有する(メタ)アクリル酸エステル系共重合体を主体とするゴム質核と、核よりも硬質樹脂を多く含む殻からなるコアシェル構造のビーズ状熱可塑性重合体粒子を得ることができる。
【0038】
さらに詳細に説明すると、まず、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと架橋用のビニル系モノマーの混合液に、硬質樹脂を均一に分散または溶解させる。得られた混合溶液に重合開始剤を添加する。
【0039】
重合開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、パーオキシエステル、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、パーオキシケタールなどの過酸化物やアゾ系またはジアゾ系化合物があげられる。これらの中でも、使用するモノマーに可溶であるものが望ましい。
【0040】
重合開始剤の添加量としては、特に限定されるものではないが、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとビニル系モノマーの合計量100重量部に対して、0.1〜5.0重量部であることが好ましく、0.5〜2.0重量部であることがより好ましい。重合開始剤が0.1重量部未満であると、重合が充分進行しない傾向があり、5.0重量部をこえると、反応が激しく、進行を制御できずに危険度が高くなる傾向がある。
【0041】
本発明の製造方法においては、懸濁重合に必要な水等の媒体を投入した重合槽に、(メタ)アクリル酸エステルモノマーと架橋用のビニル系モノマーとの混合液に、硬質樹脂を均一に分散または溶解したモノマー混合溶液を、またはこの混合溶液に重合開始剤を添加した溶液を投入して、攪拌することにより懸濁させて重合を行う。
【0042】
また、媒体には懸濁安定剤を添加することが好ましい。懸濁安定剤としては、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミドおよびカルボキシメチルセルロースなどの高分子化合物、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウムおよびリン酸アルミニウムなどのリン酸塩、ピロリン酸カルシウムおよびピロリン酸マグネシウムなどのピロリン酸塩、硫酸カルシウム、水酸化アルミニウムおよび硫酸バリウムのような水難溶性無機物などがあげられる。なかでも、懸濁安定性、価格および取り扱いなどの点から、ポリビニルアルコールが好ましい。
【0043】
さらに、懸濁安定剤の助剤として界面活性剤を添加してもよい。界面活性剤としては、ドデシルスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチルアルキルエーテル、ポリオキシエチル脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンアルキルアミンなどのノニオン性界面活性剤、ラウリルアミンアセテートおよびステアリルアミンアセテートなどのアルキルアミン塩、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリドなどの第四級アンモニウム塩などがあげられる。
【0044】
懸濁安定剤および助剤の添加量は、特に限定されるものではなく、本発明の効果が損なわれない範囲で添加することができる。
【0045】
重合温度、重合時間などの諸条件は適宜設定することができる。たとえば、10〜100℃、好ましくは35〜80℃で、30分〜12時間、好ましくは1〜4時間重合を行うことができる。
【0046】
さらに、以下の2つの方法により、外殻への硬質樹脂の含有率を任意に制御することができ、硬質樹脂が外殻部に偏在化されたビーズ状熱可塑性重合体粒子を得ることができる。
【0047】
第1の方法は、軟質樹脂を形成するモノマーにガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を分散または溶解した混合液を、水溶性重合禁止剤の存在下に懸濁重合する。第2の方法は、前記混合溶液を分散媒に連続的に投入する。これら2つの方法、またはそれらの組み合わせにより、外殻に硬質樹脂が多く偏在し、かつ、原料配合を変えることなく、その含有率を簡便に制御することができる。
【0048】
本発明の第1の製造方法においては、軟質樹脂を形成するモノマーに硬質樹脂を分散または溶解した混合液を、水溶性重合禁止剤の存在下に懸濁重合するが、たとえば懸濁重合に必要な水等の媒体と水溶性重合禁止剤とが投入された重合槽に、前記混合液、または、必要に応じてこの混合液に重合開始剤を添加した溶液を投入して、攪拌することにより懸濁重合する。水溶性重合禁止剤を添加することにより、硬質樹脂が外殻に多く偏在することになる。
【0049】
前記水溶性重合禁止剤としては、亜硫酸塩、ハイドロキノン類、アスコルビン酸類、アルカリ金属のヨウ化物およびチオシアン酸塩など、水に可溶なラジカル捕捉剤があげられる。具体的には、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、アスコルビン酸、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、チオシアン酸ナトリウム、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸アンモニウム、塩化第二銅、酢酸銅、五酸化バナジウム、二クロム酸カリウム、シュウ酸カリウムおよびクエン酸三ナトリウムなどの無機水溶性禁止剤、2−メルカプトエタノール、チオグリコール酸、システイン、グルタチオン、ジメルカプロール、1,4−ジチオスレイトール、ジメルカプト琥珀酸および2,3−ジメルカプト−1−プロパンスルホン酸などの水溶性メルカプタン化合物、エチレンジアミン化合物、水溶性ニグロシン、ホウ水素化物およびモノアゾ染料の金属錯体化合物などがあげられる。これらの中でも、コアシェル構造の形成作用および価格の点から、亜硝酸ナトリウムが好ましい。
【0050】
また、この水溶性重合禁止剤は、粘着性微小懸濁物の発生防止のためにも配合されるが、その点においても亜硝酸ナトリウムが好ましい。
【0051】
水溶性重合禁止剤の配合量は特に限定されるものではなく、品質目標として設定された外殻での硬質樹脂の含有率に応じて決定される。例えば、外殻での硬質樹脂の含有率を内部よりも5重量%以上高くする場合、配合量は、仕込み全量(モノマー、溶媒など重合槽に仕込んだ全ての量)100重量部に対して、少なくとも0.0002重量部であることが好ましく、0.0002〜0.05重量部であることがより好ましい。重合禁止剤の配合量が0.0002重量部より少ないと、硬質樹脂の偏在化効果が小さくなる傾向があり、0.05重量部をこえると、重合での反応性や重合物の混練性が低くなり、耐衝撃性付与効果が劣る傾向がある。
【0052】
本発明の第2の製造方法においては、軟質樹脂を形成するモノマーに硬質樹脂を分散または溶解した混合溶液を、分散媒に連続的に投入して懸濁重合するが、たとえば、懸濁重合に必要な水等の媒体が投入された重合槽に、前記混合液、または、必要に応じてこの混合液に重合開始剤を添加した溶液を、一括ではなく、たとえば数時間かけて連続的に投入して、攪拌することにより懸濁させて重合を行う。原料を連続的に投入することにより、硬質樹脂が外殻に多く偏在することになる。
【0053】
ここで、連続的に投入する投入速度としては、とくに限定されないが、混合溶液100重量%を、10重量%/分以下(滴下時間10分以上)で投入することが好ましく、5重量%/分以下(滴下時間20分以上)で投入することがより好ましい。10重量%/分以上(滴下時間10分未満)で投入すると、反応開始前に原料の多くが投入されるため、一括投入と同様な状態となり、連続的に投入による硬質樹脂が外殻に多く偏在する効果が小さくなる傾向がある。一方、0.5重量%/分未満(滴下時間200分以上)で投入しても、偏在化の程度に変化が見られなくなる傾向がある。
【0054】
本発明の製造方法においては、重合槽に、重合開始剤を含む溶液を投入することにより懸濁重合が開始され、接着が無く、表面粘着性も少なく、適度な硬度を持ち、良好な取り扱い性を有し、さらには、外殻に設定された含有率で硬質樹脂が分布したビーズ状熱可塑性重合体粒子が得られるものである。ここで、ビーズ状とは、懸濁重合により得られた粒子を示すものであり、球状もしくは断面楕円形状である。
【0055】
得られたビーズ状熱可塑性重合体粒子の粒径は、分散媒および攪拌条件により制御することが可能であるが、100μm〜4mmであることが好ましく、500μm〜2mmであることがより好ましい。粒径が100μm未満であるとプラスチックペレットとの粒度差異が大きく、取り扱いにくくなり、練り込み工程ではスクリューの剪断力が加わらずに分散が困難になる傾向があり、2mmをこえるとモールドブレンドにおいて、重合体の塊が樹脂中に残り、物性を低下させる傾向がある。さらに微小な重合体を得るために、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとビニル系モノマーに、硬質樹脂を均一に分散または溶解したモノマー混合溶液に、水および懸濁安定剤または界面活性剤を添加し、ホモミキサーなどの攪拌機器において高速攪拌により乳化分散した原料を重合槽へ投入することも可能である。このとき粒径は0.1〜100μm程度の範囲とすることができる。
【0056】
また、本発明の樹脂組成物は、前記熱可塑性重合体粒子と、熱可塑性樹脂、とくには硬質熱可塑性樹脂とからなる。
【0057】
硬質熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン(PS)、アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)などのアクリル酸系樹脂(PAc)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)などのポリエステル系樹脂(PEs)、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、ポリスルフォン系樹脂(PSO)、ポリアリレート系樹脂(PAr)、ポリフェニレンサルファイド系樹脂(PPS)、ポリオキシメチレン樹脂(POM)、塩化ビニル系樹脂(PVC)などがあげられる。
【0058】
熱可塑性樹脂、とくには硬質熱可塑性樹脂に、本発明のビーズ状熱可塑性重合体粒子を添加することで、衝撃強度を大幅に改善することができる。
【0059】
ビーズ状熱可塑性重合体粒子の添加量は、後述する実施例1〜実施例3に記載の如く、使用目的により異なり、特に限定されないが、耐衝撃性を改善したい熱可塑性樹脂中に、ポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体が5〜50重量%となるように添加することが好ましく、10〜40重量%となることがより好ましい。5重量%未満であると、耐衝撃性向上効果が小さく、熱可塑性樹脂の物性との差異が小さい傾向があり、50重量%をこえると、汎用プラスチックとしては柔軟性が高すぎて強度不足となる傾向がある。
【0060】
本発明の製造方法では、ゴム質核生成とコアシェル構造の形成を同時に行うことができるものであり、多段重合を要する通常のコアシェル構造形成方法とは異なるものである。
また、硬質樹脂存在下に、ゴム質核生成するため、ゴム質核にも硬質樹脂が取り込まれるものである。
【0061】
本発明の製造方法で得られる熱可塑性重合体粒子は、表面粘着性がないため、常温で扱い易いものであり、混練や成形時に機器への凝集、付着などが起こらない。また、スクリューなどによる練り込み時に剪断力が加わり易いため、熱可塑性樹脂中に分散し易いものである。
【0062】
また、光(紫外線)、熱、機械的破壊により耐衝撃性が低下した樹脂に少量添加することにより、バージン材と同等の耐衝撃性に回復させることもできる。
【0063】
この場合、添加量は、耐衝撃性を回復させたい樹脂100重量部に対して、0.1〜15重量部であることが好ましく、0.5〜10重量部であることがより好ましい。0.1重量部未満であると、耐衝撃性付与効果が小さい傾向があり、15重量部をこえると、耐衝撃性が同等となっても強度の低下が大きく、バージン材と同等の物性とはならない傾向がある。
【0064】
また、耐衝撃性のほか、リサイクル性の特徴があり、用途に制限は無く、例えば建材、自動車、玩具、文房具、OA機器、家電機器などに広く利用できる。
【0065】
本発明のビーズ状熱可塑性重合体粒子は、練り込み機器での均一分散を行わず、成形時に直接重合体粒子を添加することができる。また、押し出し機、バンバリーミキサー、ローラー、ニーダーなどを使用し、回分的または連続的に混合することもできる。
【0066】
このとき、滑剤、着色剤、帯電防止剤、導電性付与剤、界面活性剤、抗菌剤、発泡剤、防曇剤、耐熱向上剤、離型剤、流動改良剤、難燃剤などを目的に応じて添加することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により本発明を詳しく説明するが、これらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りが無い限り、「部」は重量部、「%」は重量%を示す。
【0068】
<Izod衝撃値測定>
得られた熱可塑性重合体をポリアクリル酸エステルの割合が20%となるようにポリスチレンペレットと混合し、30mmΦの軸径でニーダースクリュー部が3箇所ある二軸押し出し機により混練を行った。230℃、速度1.6kg/hr処理後、樹脂組成物を冷却、ペレット化、射出成形の工程により試験片を作製した。
【0069】
耐衝撃性評価は23℃でのIzod衝撃値で比較を行った。ノッチありの試験片で、デジタル衝撃試験機((株)東洋精機製作所、形式 DU−BG)によりJIS K 7110に準じて測定を行った。
【0070】
<取り扱い性評価>
取り扱い性は実作業が可能であるかの点で評価した。特に二軸押し出し機での材料投入の状態、伝熱により高温となったフィーダー内および軸内へ投入時の材料の流動性で判断した。
○・・・粒子流動性があり、材料の移動が円滑である
△・・・粒子表面に粘着性があり、材料がつまりやすい
×・・・粒子同士が接着し、取り扱いが困難である
【0071】
<引張破壊強さ>
機器はミネベア(株)製、TCM−50kNB型引張圧縮試験機によりISO527−1に準じて行った。引張速度は10mm/minであった。
【0072】
<引張破壊伸び>
機器はミネベア(株)製、TCM−50kNB型引張圧縮試験機によりISO527−1に準じて行った。引張速度は10mm/minであった。
【0073】
<曲げ強さ>
機器は(株)島津製作所製、オートグラフAG50kNEよりISO178に準じて行った。試験速度は3mm/min、支点間距離は80mmであった。
【0074】
<荷重たわみ温度>
機器は(株)安田精機製作所製、No.148−HD−500よりISO75−A法に準じて行った。条件はエッジワイズ、曲げ応力181.3N/cm2であった。
【0075】
<ポリスチレン含有率測定>
コアシェル構造形成における内部(ゴム質核)および外殻に存在する軟質樹脂であるアクリル酸エステルと、硬質樹脂であるポリスチレンの含有率を、IRスペクトル測定により、アクリル酸エステル由来の1739cm-1付近のエステルC=Oと、ポリスチレン由来の698cm-1付近の芳香環CHとの吸光度比から換算して求めた。
【0076】
実施例1
アクリル酸ブチル228部に、架橋剤であるジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート12部(日立化成工業(株)製 ファンクリルFA−512A)を添加したのち、攪拌しながらポリスチレン(PS)(PSジャパン(株)製 GPPS HF−77)51.6部を投入して、均一になるまで分散させた。また、撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水902.06部、懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部および亜硝酸ナトリウム0.06部を入れ、撹拌機を200rpm一定で撹拌した。窒素曝気を行いながら加熱し、65℃に達したときに、前記PS混合のモノマー溶液に重合開始剤であるtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)0.28部を溶解して得られた溶液を、前記フラスコに投入した。
【0077】
外部湯浴温度を65℃一定に保ちながら反応させ、材料投入から4時間後に重合を終了し、室温まで冷却した。次いで、反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥して熱可塑性重合体粒子を得た。この粒子は、表面粘着性が少なく、取り扱いに適した硬さを有し、粒径が500μm〜2mmであった。
【0078】
本発明の熱可塑性重合体粒子は、軟質樹脂成分比率が高い状態でも粘着性が低く、優れた作業性を持つ。この要因を調査するため、実施例1で得られた熱可塑性重合体粒子の重合物内部と表面の赤外スペクトルにより、アクリル酸ブチルとPSの成分比率を測定した。698cm-1付近の芳香環CH(PS由来)と1739cm-1付近のエステルC=O(アクリル酸ブチル由来)の吸光度比(ACH/AC=O)は、内部が0.46、表面が1.09であった。このことは、得られた粒子が、アクリル酸エステル共重合体を主体とするゴム質核と、PSがゴム質核に比べ多く含まれている殻とからなるコアシェル構造を形成していることを示している。また、ゴム質とPSの混合物から求めた検量線による赤外吸光度分析では、PSは、殻に52.2重量%含まれており、ゴム質核の約2倍量含まれていた。
【0079】
得られた熱可塑性重合体粒子からなる試験片の引張破壊強さ、引張破壊伸び、曲げ強さ、荷重たわみ温度などの他物性を表1に示す。比較のためPSジャパン(株)製のハイインパクトポリスチレン(HIPS408)の測定値も示す。
【0080】
【表1】

【0081】
比較例1
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水836.8部および懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液3部を入れ、150rpmで撹拌した。窒素曝気を行いながら加熱し、65℃に達したときに、アクリル酸ブチル228部、スチレンモノマー120部およびジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製 ファンクリルFA−512A)12部を混合したモノマー溶液に、重合開始剤であるtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)を0.24部溶解したのち、得られた溶液を前記フラスコに投入した。
【0082】
外部湯浴温度を65℃一定に保ちながら反応させ、材料投入から2時間後に外部湯浴温度を70℃に上げて2時間熟成させ重合を終了し、室温まで冷却した。次いで、反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥して熱可塑性重合体を得た。この重合物は、粘着性が強く粒子同士が接着しており、非常に取り扱いが困難であった。また、作業性が悪いため、耐衝撃強度発現性の評価はおこなわなかった。
【0083】
比較例2
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水836.8部および懸濁安定剤であるポリビニルアルコール5%水溶液3部を入れ、150rpmで撹拌した。窒素曝気を行いながら加熱し、65℃に達したときに、アクリル酸ブチル228部およびジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製 ファンクリルFA−512A)12部を混合したモノマー溶液に重合開始剤のtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)を0.14部溶解して得られた溶液を、前記フラスコに投入した。
【0084】
外部湯浴温度を65℃一定に保ちながら反応させ、材料投入から2時間後に外部湯浴温度を70℃に上げて、スチレンモノマー120部にtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)0.10部を溶解した溶液を、1時間かけて全量を滴下した後、さらに1時間反応させ重合を終了した。室温まで冷却してから反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥して熱可塑性重合体を得た。この重合物は、粘着性が強く粒子同士が接着しており、粒子流動性が全くなかった。また、作業性が悪いため、耐衝撃強度発現性の評価は行わなかった。
【0085】
比較例1および2のように、軟質樹脂形成モノマーにスチレンモノマーを予め混合する方法や、軟質樹脂重合後にスチレンモノマーを加えて反応させる方法では粘着性が高く、柔軟性と作業性を確保した重合物を得ることは困難であった。ポリスチレン(PS)を予めモノマーに分散させることは、一重合工程において、柔軟性に富み、かつ良好な作業性を有するコアシェル構造形成のために必須であることがわかる。
【0086】
比較例3
アクリル酸ブチル228部に、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製 ファンクリルFA−512A)12部を添加したのち、攪拌しながらポリスチレン(PS)17.2部を投入して、均一になるまで分散した。撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水939.52部および懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液3部を入れ、200rpmで撹拌した。窒素曝気を行いながら加熱し、65℃に達したときに、前記PS混合のモノマー溶液に重合開始剤であるtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)0.28部を溶解して得られた溶液を、前記フラスコに投入した。
【0087】
外部湯浴温度を65℃一定に保ちながら反応させ、材料投入から4時間後に重合を終了し、室温まで冷却した。次いで、反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥して熱可塑性重合体粒子を得た。この重合物は、表面粘着性による粒子接着が見られ、常温で扱いにくく、混練や成形時に機器への凝集、付着などの問題が発生した。また、スクリューなどによる煉り込み時に剪断力が加わりにくいため、樹脂中に分散しにくく、粒形状のまま残る傾向も確認された。ポリスチレン(PS)量が少ないと、作業性に問題が発生しやすく、分散性が不十分となるため、耐衝撃性付与効果が小さくなることがわかる。
【0088】
比較例4
アクリル酸ブチル240部に、攪拌しながらポリスチレン(PS)51.6部を投入し、均一になるまで分散した。また、撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水905.12部および懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液3部を入れ、200rpmで撹拌した。窒素曝気を行いながら加熱し、65℃に達したときに、前記PS混合のモノマー溶液に重合開始剤であるtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)0.28部を溶解したのち、得られた溶液を投入した。
【0089】
外部湯浴温度を65℃一定に保ちながら反応させ、材料投入から4時間後に重合を終了し、室温まで冷却した。次いで、反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥して熱可塑性重合体粒子を得た。この粒子は実施例1と粘着性、外観などは同様であった。
【0090】
耐衝撃性評価の結果を表2に示す。
【0091】
【表2】

【0092】
実施例1の粒子は、高いIzod衝撃値を示し、作業性も良好であったが、比較例3では、重合粒子の粘着性が高いために作業性が悪く、かつ、均一に分散せずに粒子が一部残った状態であったため、耐衝撃性が非常に低かった。比較例4では作業性には問題がないが、架橋構造がないために衝撃強度付与効果が低い結果となった。
【0093】
実施例1で得られた熱可塑性重合体粒子からなる試験片は、市販HIPSとほぼ同等の物性値を示しており、HIPS代替の材料として利用できることがわかる。また、熱可塑性重合体粒子の添加量を変えることにより、耐衝撃性と強度のバランスを変更することができ、目的に応じた物性に制御することも可能である。
【0094】
実施例2(モールドブレンドによる耐衝撃性付与効果)
実施例1と同じ重合体を、成形時にポリアクリル酸エステルの割合が20%となるようにPSペレットと混合して、混練することなく、成形段階で混合(モールドブレンド)により作製した試験片を用いて、Izod衝撃値を測定した。その結果を表3に示す。
【0095】
【表3】

【0096】
使用した重合体は、混練を行わずともPS樹脂と溶融混合し、混練時(実施例1で作成した試験片)と同程度の耐衝撃性を有していた。また、他の物性値にも大きな違いは見られなかった。混練を行わずとも衝撃強度付与効果が発現されるため、高いコストメリットを有する。
【0097】
実施例3(耐衝撃性が低下した劣化樹脂への耐衝撃性回復効果)
ハイインパクトポリスチレン(HIPS408、PSジャパン(株)製)の物性を劣化させるために、二軸押し出し機で250℃に加熱しながら、速度1.8kg/hrで処理を行った。劣化度は処理回数によりいくつかの条件を設定した。劣化した樹脂に、表4に示す配合割合で、実施例1で得られた熱可塑性重合体粒子を成形段階で混合(モールドブレンド)して試験片を作製し、耐衝撃性回復度を測定した。劣化処理を行っていない場合のHIPS408のIzod衝撃値を100%として、劣化度(%)(熱可塑性重合体粒子添加前のIzod衝撃値)、および回復度(%)(熱可塑性重合体粒子添加後のIzod衝撃値)を測定した。その結果を表4に示す。
【0098】
【表4】

【0099】
劣化程度に応じて重合体粒子を数%添加すると、未処理HIPS408と同等の耐衝撃性に回復している。したがって、わずかな添加量で衝撃強度を向上させる優れた性能を有していることが確認された。
【0100】
比較例5
アクリル酸ブチル228部に、架橋剤であるジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製 ファンクリルFA−512A)12部を添加し、攪拌しながらポリスチレン(PSジャパン(株)製 GPPS HF−77)51.6部を投入し、均一になるまで分散させた。また、撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、撹拌機を200rpm一定で撹拌し、窒素曝気を行いながら加熱して65℃に設定した。前記ポリスチレン混合のモノマー溶液に、重合開始剤であるtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)を2.8部溶解したのち、得られた混合溶液を前記フラスコ(重合槽)に投入した。
【0101】
この重合槽を65℃で一定に保ちながら反応させ、材料投入から4時間後に重合を終了し、室温まで冷却した。ついで、反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥してビーズ状重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0102】
比較例6
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.0012部添加したこと以外は比較例5と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0103】
実施例4
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤のポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.006部添加すること以外は比較例5と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0104】
実施例5
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.012部添加したこと以外は比較例5と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0105】
実施例6
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.12部添加したこと以外は比較例5と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0106】
実施例7
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.60部添加したこと以外は比較例5と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0107】
比較例5〜6および実施例4〜7で得られた重合体の内部および外殻のIRスペクトル測定から求められたポリスチレンの含有率を表5に示す。内部のポリスチレン含有率は亜硝酸ナトリウムの添加量によらず同じであるが、外殻のポリスチレン含有率は亜硝酸ナトリウムの添加量が増加すると共に高くなる傾向が見られた。したがって、目的に応じて亜硝酸ナトリウム添加量を調節することにより、外殻のポリスチレン量は制御可能であることが分かる。
【0108】
【表5】

【0109】
比較例5〜6および実施例4〜7で得られたビーズ状重合体におけるIzod衝撃値測定結果および取り扱い性評価を表6に示す。比較例5〜6では、ビーズ状重合体の表面に粘着性があり、粒子流動性が低く、混練や成形作業に支障のある状態だった。実施例7では、やや耐衝撃性が低下する傾向がみられるが、これは、外殻の硬質樹脂の含有率が非常に高く、内部は軟質樹脂の割合が比較的高い状態のため、粒子に弾性があり、混練性がやや低下し、そのためポリスチレンへのビーズ状重合体の分散が不充分になったためであると考えられる。
【0110】
実施例5および6は粒子流動性が高く、取り扱い性が良好で、かつ、耐衝撃性も充分な値を示した。取り扱い性を保持しながら、耐衝撃性付与の効果が高い重合体として、外殻における硬質樹脂の含有率が重要な因子となることが分かる。本発明の方法によれば、この因子の調節を重合禁止剤の添加量の制御により簡便に達成することが可能となった。
【0111】
【表6】

【0112】
実施例8
アクリル酸ブチル228部に架橋剤であるジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート(日立化成工業(株)製 ファンクリルFA−512A)12部を添加し、攪拌しながらポリスチレン51.6部を投入し、均一になるまで分散した。また、撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、撹拌機を200rpm一定で撹拌し、窒素曝気を行いながら加熱して65℃に設定した。前記ポリスチレン混合のモノマー溶液に重合開始剤であるtert−ヘキシルペルオキシピバレート70%炭化水素溶液(日本油脂(株)製 パーヘキシルPV)2.8部を溶解し、重合槽に1時間かけて連続的に投入した(投入速度1.67重量%/分(滴下時間60分))。重合槽温度を65℃一定に保ちながら反応させ、材料投入から4時間後に重合を終了し、室温まで冷却した。次いで、反応物を固液分離し、水で充分に洗浄した後、乾燥器を用いて80℃で6時間乾燥してビーズ状重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0113】
実施例9
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.0012部添加したこと以外は実施例8と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0114】
実施例10
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.006部添加したこと以外は実施例8と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0115】
実施例11
撹拌機を備えたガラス製セパラブルフラスコに、水849.6部と懸濁安定剤であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業(株)製 ゴーセノールGH−20)5%水溶液6部を入れ、重合禁止剤である亜硝酸ナトリウムを0.012部添加したこと以外は実施例8と同様にして重合体を得た。この粒子は粒径が500μm〜2mmであった。
【0116】
実施例8〜11で得られた重合体の内部および外殻のIRスペクトル測定から求められたポリスチレンの含有率を表7に示す。比較例5〜6および実施例4〜5と比較して同じ亜硝酸ナトリウム添加量において、外殻のポリスチレン含有率が高くなっており、原料を連続的に投入することにより、硬質樹脂の偏在化が促進されていることが分かる。また、原料の連続的投入した場合においても、同様に外殻のポリスチレン含有率は亜硝酸ナトリウムの添加量が増加すると共に高くなる傾向が見られた。したがって、設定された外殻での硬質樹脂含有量とするために、原料の連続的投入と亜硝酸ナトリウム添加量の調節により、外殻のポリスチレン量が制御可能であることが確認された。高弾性でありながら非粘着性を保持する特殊な性状を持つ粒子製造などの目的において硬質樹脂を外殻に強く偏在化する場合には、原料の連続投入と重合禁止剤の高濃度添加の併用が有効である。
【0117】
【表7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
3次元架橋構造を有するガラス転移温度0℃以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるゴム質核、およびガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を含む粘着性のない殻からなるコアシェル構造のビーズ状熱可塑性重合体粒子であって、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂が、ゴム質核よりも殻に多く含まれることを特徴とするビーズ状熱可塑性重合体粒子。
【請求項2】
ガラス転移温度0℃以下のポリ(メタ)アクリル酸エステル共重合体からなるゴム質核、およびガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を含む殻からなるビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法であって、(メタ)アクリル酸エステルモノマーとビニル系モノマーに、ガラス転移温度60℃以上の硬質樹脂を分散または溶解した混合溶液を懸濁重合する工程からなる、該硬質樹脂が、ゴム質核よりも殻に多く含まれるコアシェル構造を有するビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記混合溶液を、水溶性重合禁止剤の存在下で懸濁重合することを特徴とする、請求項2記載のコアシェル構造を有するビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記混合溶液を、分散媒に連続的に投入して懸濁重合することを特徴とする、請求項2または3記載のコアシェル構造を有するビーズ状熱可塑性重合体粒子の製造方法。
【請求項5】
請求項1記載の熱可塑性重合体粒子および熱可塑性樹脂からなる樹脂組成物。

【公開番号】特開2007−70624(P2007−70624A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−219793(P2006−219793)
【出願日】平成18年8月11日(2006.8.11)
【出願人】(391011157)株式会社トウペ (8)
【Fターム(参考)】