説明

ビードエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤ

【課題】良好な操縦安定性が得られるとともに、その性能の低下も抑制できるビードエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分と、COAN75〜130ml/100g、BET比表面積25〜50m/gのカーボンブラックと、酸化亜鉛と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が55〜80質量部、前記酸化亜鉛の含有量が7〜12質量部であるビードエイペックス用ゴム組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードエイペックス用ゴム組成物及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車や自動二輪車の高性能化に伴い、タイヤに対して高速で安全に走行できる性能が求められている。このような性能を満足させるには、高い操縦安定性が必要である。
【0003】
操縦安定性を高める方法として、ビードエイペックスのゴム硬度を高める方法が知られている。ゴム硬度を高める方法として樹脂架橋が知られているが、走行による繰り返し歪みにより、発熱による硬度低下や樹脂架橋の破壊が生じ、操縦安定性が低下してしまうという問題がある。
【0004】
特許文献1には、(変性)フェノール樹脂、非反応性フェノール樹脂及びカーボンブラックを用いることが開示されているが、操縦安定性の性能安定性(リピタビリティー)について未だ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−127041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、良好な操縦安定性が得られるとともに、その性能の低下も抑制できるビードエイペックス用ゴム組成物及び空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ゴム成分と、COAN75〜130ml/100g、BET比表面積25〜50m/gのカーボンブラックと、酸化亜鉛と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が55〜80質量部、前記酸化亜鉛の含有量が7〜12質量部であるビードエイペックス用ゴム組成物に関する。
【0008】
フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂を含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の合計含有量が5〜18質量部であることが好ましい。前記フェノール樹脂がクレゾール樹脂であることが好ましい。
前記ゴム成分100質量部に対して、ステアリン酸を2.1質量部以上含むことが好ましい。
前記ゴム成分は、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムとブタジエンゴムとを含み、前記ゴム成分100質量%中の前記ブタジエンゴムの含有量が20〜80質量%であることが好ましい。
前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄を4〜8質量部含むことが好ましい。
【0009】
本発明はまた、前記ゴム組成物を用いて作製したビードエイペックスを有する空気入りタイヤに関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、ゴム成分、特定のカーボンブラック、酸化亜鉛及びアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含み、該カーボンブラック及び該酸化亜鉛の含有量がそれぞれ特定量であるビードエイペックス用ゴム組成物であるので、良好な操縦安定性が得られるとともに、その性能の経時的な低下も抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のビードエイペックス用ゴム組成物は、ゴム成分と、COAN75〜130ml/100g、BET比表面積25〜50m/gのカーボンブラックと、酸化亜鉛と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含み、前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が55〜80質量部、前記酸化亜鉛の含有量が7〜12質量部である。
【0012】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含むゴムに対して、特定のCOAN及びBET比表面積を持つ高ストラクチャーカーボンブラックと酸化亜鉛とをそれぞれ所定量配合することで、優れた操縦安定性(ハンドル応答性など)が得られるとともに、その性能の低下も抑制できる。また、良好な低燃費性や加工性も得られる。
【0013】
更に、フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂を配合することにより、操縦安定性の低下をより効果的に抑制できる。このような効果が発揮される理由は明らかではないが、従来のカーボンブラックに代えて上記高ストラクチャーカーボンブラックを使用することにより、形成される(変性)フェノール樹脂、カーボンブラック及びゴム成分からなる複合球体が大きくなるか、又は硬くなるためであると推測される。
【0014】
また、ゴム成分としてシンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するブタジエンゴムを使用することで、シンジオタクチック結晶成分が上記複合球体中に入り込み、高硬度の複合球体が形成されるため、一層優れた操縦安定性が得られ、その性能の低下も抑制できる。更に、(変性)フェノール樹脂や硫黄を増量し架橋密度を高めること、オイルを減量することなどによっても同様の効果が一層発揮される。
【0015】
上記ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)などのジエン系ゴムが挙げられる。なかでも、破断強度、発熱性、加硫速度の早さ、カーボンとの混ざり易さ(分散性)、加工性の点からNR、IRが好ましく、硬度の点からBRが好ましく、加工性の点からSBRが好ましい。NR及び/又はIRとBRとを併用すること、並びに、NR及び/又はIRとSBRとを併用することがより好ましい。
【0016】
BRとしては特に限定されず、例えば、高シス含有量のBR、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)などを使用できる。なかでも、良好な操縦安定性、押し出し加工性、粘着性、低燃費性が得られるという点から、SPB含有BRが好ましい。
【0017】
SPB含有BRを使用する場合、SPB含有BR中におけるSPBの含有率は、好ましくは8質量%以上、より好ましくは12質量%以上である。8質量%未満では、加工性改善効果が充分得られないおそれがある。上記含有率は、好ましくは20質量%以下、より好ましくは18質量%以下である。20質量%を超えると、加工性が悪化する傾向がある。なお、SPB含有BR中のSPB含有率は、沸騰n−ヘキサン不溶物量により示される。
【0018】
上記SBRとしては、乳化重合スチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合スチレンブタジエンゴム(S−SBR)が挙げられ、なかでも、加工性が良く、カーボンブラックを良好に分散でき、カーボンブラック高配合系でも好適に使用できるという点から、E−SBRが好ましい。
【0019】
SBRのスチレン含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、加工性が向上しないおそれがあり、充分な硬度が得られない傾向がある。また、該スチレン含有量は、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。40質量%を超えると、低燃費性が低下する傾向がある。
なお、本明細書において、SBRのスチレン含量は、H−NMR測定により算出される。
【0020】
ゴム成分100質量%中のNR及びIRの合計含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。10質量%未満であると、充分な破断強度が得られないおそれがある。該合計含有量は、上限は100質量%であってもよいが、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。80質量%を超えると、充分な硬度が得られず、また加硫速度が早く、押出し時に焼け易くなる傾向がある。
【0021】
ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0022】
ゴム成分100質量%中のSPB含有BRの含有量は、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
BR又はSPB含有BRの含有量が下限未満であると充分な硬度が得られないおそれがある。該含有量が上限を超えると、粘度が上昇し、カーボンブラックの分散性や押出し加工性が悪化する傾向、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0023】
ゴム成分100質量%中のSBRの含有量は、好ましくは5質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。5質量%未満であると、加工性が向上しないおそれがあり、充分な硬度が得られない傾向がある。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。80質量%を超えると、破断伸び、低燃費性が悪化する傾向がある。
【0024】
本発明のゴム組成物は、特定のCOAN及びBET比表面積を有するカーボンブラック及び酸化亜鉛をそれぞれ所定量含む。
【0025】
上記カーボンブラックのCOANは、75ml/100g以上、好ましくは80ml/100g以上、より好ましくは95ml/100g以上である。75ml/100g未満では、操縦安定性が悪化するとともに、その性能変化も大きくなる傾向がある。また、該COANは、130ml/100g以下、好ましくは120ml/100g以下である。130ml/100gを超えると、低燃費性が悪化し、また、ゴムの粘度が高くなることでカーボンブラックの分散性が低下する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのCOANは、ASTM D3493に準拠して測定される。また、使用オイルはジブチルフタレート(DBP)である。
【0026】
上記カーボンブラックのBET比表面積は、25m/g以上、好ましくは35m/g以上である。25m/g未満では、操縦安定性が悪化するとともに、その性能変化も大きくなる傾向がある。また、該BET比表面積は、50m/g以下、好ましくは45m/g以下である。50m/gを超えると、低燃費性が悪化する傾向がある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのBET比表面積は、ASTM D6556に準拠して測定される。
【0027】
上記カーボンブラックのDBP吸油量(OAN)は、好ましくは100ml/100g以上、より好ましくは150ml/100g以上である。100ml/100g未満であると、低燃費性が悪化し、また、ゴムの粘度が高くなることでカーボンブラックの分散性が低下する傾向がある。該DBP吸油量は、好ましくは250ml/100g以下、より好ましくは200ml/100g以下である。250ml/100gを超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのDBP吸油量(OAN)は、ASTM D2414に準拠して測定される。
【0028】
上記カーボンブラックは、ファーネス法やチャンネル法などの従来から公知の方法により製造できる。
【0029】
上記カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、55質量部以上、好ましくは58質量部以上である。また、該含有量は、80質量部以下、好ましくは75質量部以下、より好ましくは70質量部以下である。上記範囲内であると、良好な操縦安定性が得られ、かつその性能の低下も抑制できる。また、良好な低燃費性や押出し加工性が得られる。
【0030】
酸化亜鉛としては特に限定されず、タイヤ工業において汎用されているものを使用でき、例えば、酸化亜鉛1〜3号などが挙げられる。
【0031】
酸化亜鉛の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、7質量部以上、好ましくは8質量部以上、より好ましくは9質量部以上である。該含有量は、12質量部以下、好ましくは10質量部以下である。上記範囲内であると、良好な操縦安定性が得られ、かつその性能の低下も抑制できる。また、良好な低燃費性や押出し加工性が得られる。
【0032】
本発明のゴム組成物は、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含有する。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物としては特に限定されないが、良好な低発熱性、硬度が得られるという点から、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【化1】

(式(1)中、R、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数5〜12のアルキル基を表す。x及びyは、同一若しくは異なって、2〜4の整数を表す。tは0〜250の整数を表す。)
【0033】
tは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、0〜100の整数が好ましい。x及びyは、高硬度が効率良く発現できる点から、ともに2が好ましい。R〜Rは、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物のゴム成分中への分散性が良い点から、炭素数6〜9のアルキル基が好ましい。
【0034】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物は、公知の方法で調製でき、例えば、アルキルフェノールと塩化硫黄とを、モル比1:0.9〜1.25などで反応させる方法などが挙げられる。アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の具体例として、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(下記式(2))などが挙げられる。
【化2】

(式中、tは0〜100の整数を表す。)
【0035】
上記アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上である。該含有量は、好ましくは6質量部以下、より好ましくは1.3質量部以下である。上記範囲内であると、良好な操縦安定性が得られ、かつその性能の低下も抑制できる。また、良好な低燃費性や押出し加工性が得られる。
【0036】
本発明のゴム組成物は、フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂を含むことが好ましい。ゴム成分、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、所定量の特定カーボンブラック及び酸化亜鉛に、更に上記成分を配合することで、本発明の効果を顕著に得ることが可能となる。
【0037】
上記フェノール樹脂は、フェノール類と、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、フルフラールなどのアルデヒド類とを酸又はアルカリ触媒で反応させることにより得られるものであり、上記変性フェノール樹脂は、カシューオイル、トールオイル、アマニ油、各種動植物油、不飽和脂肪酸、ロジン、アルキルベンゼン樹脂、アニリン、メラミンなどの化合物を用いて変性したフェノール樹脂である。
【0038】
硬化反応により充分な硬度が得られることで硬い複合球体が形成される点、又は大きな複合球体が形成される点から、変性フェノール樹脂が好ましく、カシューオイル変性フェノール樹脂、ロジン変性フェノール樹脂がより好ましい。
【0039】
上記カシューオイル変性フェノール樹脂としては、下記式(3)で示されるものを好適に使用できる。
【化3】

【0040】
式(3)中、pは、反応性が良く、分散性が向上する点で、1〜9の整数であり、5〜6が好ましい。
【0041】
なお、上記フェノール樹脂としては、クレゾール樹脂が好適であり、下記式で示されるものがより好適である。
【0042】
【化4】

【0043】
式中、rは、8〜20の整数であり、12が好ましい。
【0044】
上記クレゾール樹脂の具体例として、住友ベークライト(株)製PR−X11061などが挙げられる。
【0045】
フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の合計含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは5質量部以上、より好ましくは8質量部以上である。5質量部未満であると、充分な硬度が得られないおそれがある。該合計含有量は好ましくは18質量部以下、より好ましくは12質量部以下である。18質量部を超えると、充分な低燃費性が得られないおそれがある。
【0046】
本発明のゴム組成物は、更に非反応性アルキルフェノール樹脂を含むことが好ましい。非反応性アルキルフェノール樹脂は、フェノール樹脂、変性フェノール樹脂と相溶性が高く、上記複合球体の軟化を抑制できるため、操縦安定性の低下を抑制できる。また、良好な加工性(特に粘着性)も得られる。非反応性アルキルフェノール樹脂とは、鎖中のベンゼン環の水酸基のオルソ位及びパラ位(特にパラ位)において反応点を有さないアルキルフェノール樹脂をいう。ここで、非反応性アルキルフェノール樹脂としては、下記式(4)又は(5)で示されるものを好適に使用できる。
【0047】
【化5】

【0048】
式(4)中、mは整数である。適度なブルーム性という点で、mは1〜10が好ましく、2〜9がより好ましい。Rは、同一又は異なって、アルキル基を表し、ゴムとの親和性という点で、その炭素数は4〜15が好ましく、6〜10がより好ましい。
【0049】
【化6】

【0050】
式(5)中、nは整数である。適度なブルーム性という点で、nは1〜10が好ましく、2〜9がより好ましい。
【0051】
非反応性アルキルフェノール樹脂の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.2質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。0.2質量部未満であると、粘着性が低下する傾向がある。該含有量は、好ましくは7質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。7質量部を超えると、低燃費性と硬度、Eが低下する傾向がある。
【0052】
本発明のゴム組成物は、フェノール樹脂などの硬化作用を有する硬化剤を含むことが好ましい。これにより、フェノール樹脂などが架橋された複合球体が形成され、本発明の効果が良好に得られる。上記硬化剤としては、上記硬化作用を有するものであれば特に限定されず、例えば、ヘキサメチレンテトラミン(HMT)、ヘキサメトキシメチロールメラミン(HMMM)、ヘキサメトキシメチロールパンタメチルエーテル(HMMPME)、メラミン、メチロールメラミンなどが挙げられる。なかでも、フェノール樹脂などの硬度を上昇させる作用に優れるという点から、HMT、HMMM、HMMPMEが好ましい。
【0053】
硬化剤の含有量の下限は、フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の合計量100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上であり、上限は、好ましくは50質量部以下、より好ましくは15質量部以下である。下限未満であると充分に硬化できない場合があり、上限を超えると硬化が不均一になるおそれ、押出し時に焼けが発生するおそれがある。
【0054】
本発明のゴム組成物は、シリカを含有してもよい。これにより、良好な粘着性が得られる。シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられるが、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0055】
シリカのチッ素吸着比表面積(NSA)は、70〜220m/gが好ましい。70m/g未満では、補強効果が小さく、充分なゴム強度が得られないおそれがあり、220m/gを超えると、分散性が低下し、発熱性が増大する傾向がある。
なお、シリカの窒素吸着比表面積は、ASTM D3037−81に準じてBET法で測定される値である。
【0056】
シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下である。下限は特に限定されない。該含有量が10質量部を超えると、硬度が低下する傾向、押出し時ビードワイヤーとアッセンブル後先端ゴムが折れ曲がる(シュリンク)する傾向があり、生地は若干良好となる。
【0057】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来ゴム工業で使用される配合剤、例えば、オイル、ステアリン酸、各種老化防止剤、硫黄、加硫促進剤、遅延剤などを必要に応じて配合してもよい。
【0058】
本発明のゴム組成物は、通常、硫黄を含む。硫黄の含有量は、操縦安定性に優れるという点から、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは4質量部以上、より好ましくは5.5質量部以上である。該含有量は、硫黄のブルームや粘着性、耐久性の点から、好ましくは8質量部以下、より好ましくは6.5質量部以下である。なお、本明細書において、硫黄の含有量は、純硫黄分量であり、不溶性硫黄を用いる場合はオイル分を除いた含有量である。
【0059】
本発明のゴム組成物は、酸化亜鉛の含有量/硫黄の含有量>0.6の関係を満たすことが好ましい。この場合、硫黄のブルームを抑制でき、押出し時の粘着性が良好となる。
【0060】
本発明のゴム組成物は、オイルを含んでいてもよい。オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生油、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油などが挙げられる。
【0061】
上記ゴム組成物がオイルを含有する場合、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上であり、好ましくは5質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。該含有量が上記範囲内であると、良好な硬度とハンドル応答性が得られる。
【0062】
本発明のゴム組成物は、通常、ステアリン酸を含む。ステアリン酸の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは2.1質量部以上、より好ましくは2.5質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは4質量部以下である。該含有量が上記範囲内であると、良好な硬度、低燃費性、加工性、粘着性が得られる。
【0063】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0064】
本発明のゴム組成物は、ビードコアから半径方向外側にのびるように、タイヤクリンチの内側に配されるビードエイペックスに使用される。具体的には、特開2008−38140号公報の図1〜3、特開2004−339287号公報の図1などに示される部材に使用される。
【0065】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法によって製造できる。すなわち、ゴム組成物を未加硫の段階でビードエイペックスの形状に合わせて押し出し加工し、タイヤ成形機上にて通常の方法にて成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、未加硫タイヤを形成する。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧してタイヤを製造できる。
【0066】
本発明の空気入りタイヤは、モーターサイクル用タイヤ、SUV用タイヤなどとして好適に用いられ、特にモーターサイクル用タイヤとして好適に用いられる。
【実施例】
【0067】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0068】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR、ML1+4(100℃):62、沸騰n−ヘキサン不溶物量:17質量%)
SBR:JSR(株)製の乳化重合SBR(E−SBR)1502(スチレン含量:23.5質量%)
カーボンブラック:表1
シリカ:ローディア社製のZ115Gr
アルキルフェノール樹脂:(株)日本触媒製のSP1068(上記式(4)で表される非反応性アルキルフェノール樹脂:m=1〜10の整数、R=オクチル基)
TDAEオイル:H&R社製のvivatec500
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(6PPD)
ステアリン酸:日油(株)製
亜鉛華:三井金属鉱業(株)製
不溶性硫黄:フレキシス社製のクリステックスHSOT20(硫黄80質量%及びオイル分20質量%含む不溶性硫黄)
加硫促進剤:大内新興化学工業(株)製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
CTP:大内新興化学工業(株)製のN−シクロヘキシルチオ−フタルアミド(CTP)
変性フェノール樹脂:住友ベークライト(株)製のPR12686(上記式(3)で表されるカシューオイル変性フェノール樹脂)
HMT(硬化剤):大内新興化学工業(株)製のノクセラーH(ヘキサメチレンテトラミン)
タッキロールV200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(上記式(2)で表されるアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物、硫黄含有率:24質量%)
【0069】
【表1】

【0070】
<実施例及び比較例>
表2〜4に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄、加硫促進剤、CTP及び硬化剤以外の材料を150℃の条件下で5分間混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄、加硫促進剤、CTP及び硬化剤を添加し、オープンロールを用いて、80℃の条件下で3分間練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物を170℃で12分間、2mm厚の金型でプレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0071】
また、得られた未加硫ゴム組成物をビードエイペックスの形状に成形し、他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫し、多目的スポーツ車用タイヤ(SUV用タイヤ、サイズP265/65R17 110S)を製造した。
【0072】
得られたSUV用タイヤをSUV(排気量:3500cc)に装着し、周回路、旋回路を組み合わせたモード実車試験コースを約1時間走行する慣らし走行を行った。
【0073】
得られた未加硫ゴム組成物、加硫ゴム組成物、SUV用タイヤ(新品、慣らし走行品)について下記の評価を行った。結果を表2〜4に示す。
【0074】
(粘弾性試験)
粘弾性スペクトロメータVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、周波数10Hz、初期歪10%および動歪2%の条件下で、SUV用タイヤから得た試験片の複素弾性率(E)及び損失正接(tanδ)を測定した。Eが大きいほど剛性が高く、操縦安定性が優れることを示し、tanδが小さいほど低燃費性に優れることを示す。
【0075】
(操縦安定性(ハンドル応答性))
路面温度が25℃のドライアスファルト路面のテストコースにてそれぞれ実車走行を行い、その際の操縦安定性(微小操舵角変化に対する車両の応答性)をテストドライバーが6段階で官能評価した。なお、数値が大きいほど操縦安定性が良好であり、4+及び5+はそれぞれ4及び5より少し優れていることを示す。
【0076】
(転がり抵抗試験)
25℃の条件下で、上記SUV用タイヤ(P265/65R17 110S、17×7.5)をドラム上、荷重4.9N、タイヤの内圧2.00kPa、速度80km/時間の条件で走行させて転がり抵抗を測定した。下記計算式により比較例1の転がり抵抗を基準とし、各配合の転がり抵抗を指数化した。
なお、指数が大きいほど、転がり抵抗特性が改善されたことを示す。
転がり抵抗率=比較例1の転がり抵抗/各配合の転がり抵抗×100
【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
【表4】

【0080】
アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物を含むゴムに対して、高ストラクチャーカーボンブラックと酸化亜鉛とをそれぞれ所定量配合した実施例では、良好な操縦安定性が得られるとともに、操縦安定性の低下を抑制できた。なかでも、SPB含有BRを併用した実施例は、特に良好であった。一方、高ストラクチャーカーボンブラック及び酸化亜鉛のいずれかが上記所定量から外れた比較例では、操縦安定性の低下を充分に抑制できなかった。なお、カーボンブラックを所定量以上配合した比較例17〜19では、練り込めず、ゴム生地を作製できなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分と、COAN75〜130ml/100g、BET比表面積25〜50m/gのカーボンブラックと、酸化亜鉛と、アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物とを含み、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記カーボンブラックの含有量が55〜80質量部、前記酸化亜鉛の含有量が7〜12質量部であるビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項2】
フェノール樹脂及び/又は変性フェノール樹脂を含み、
前記ゴム成分100質量部に対して、前記フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の合計含有量が5〜18質量部である請求項1に記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項3】
前記フェノール樹脂がクレゾール樹脂である請求項1又は2に記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対して、ステアリン酸を2.1質量部以上含む請求項1〜3のいずれかに記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項5】
前記ゴム成分は、天然ゴム及び/又はイソプレンゴムとブタジエンゴムとを含み、
前記ゴム成分100質量%中の前記ブタジエンゴムの含有量が20〜80質量%である請求項1〜4のいずれかに記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項6】
前記ゴム成分100質量部に対して、硫黄を4〜8質量部含む請求項1〜5のいずれかに記載のビードエイペックス用ゴム組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したビードエイペックスを有する空気入りタイヤ。

【公開番号】特開2012−229397(P2012−229397A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260892(P2011−260892)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000183233)住友ゴム工業株式会社 (3,458)
【Fターム(参考)】