説明

ピストンとコンロッドとの球面連結構造

【課題】 ピストンとコンロッド小端部との連結部の隙間をより均一にするとともに、その連結部の温度を低減することにより、連結部のより均一な油膜形成を促進させる。
【解決手段】 ピストン13の冠部50の裏面53に突出部54を設け、この突出部54に凹状の第1球面85を設け、この第1球面85にコンロッド16に設けた球状の小端部24の上半球部24aを滑り可能に嵌合させ、小端部24の下半球部24bに、下部保持部材57に設けた凹状の第2球面91を滑り可能に嵌合させ、突出部54におねじ78を形成し、下部保持部材57を保持する筒部95にめねじ103を形成し、これらのおねじ78とめねじ103とをねじ結合することで小端部24を第1球面85と第2球面91とで保持し、突出部54内に凹部75を設け、この凹部75内に位置調整可能に上部保持部材56を配置し、この上部保持部材56に第1球面85を形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンとコンロッドとの球面連結構造の改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のピストンとコンロッドとの球面連結構造として、本出願人は、特願2003−381416で、ピストン側とコンロッド側とを締結部材でねじ結合することで球面継手を構成するものを提案した。また他に、ピストンとコンロッドとの球面連結構造に球面継手を用いたものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】実開平3−17369号公報
【0003】
上記特願2003−381416の図4(ここでは、図の下部は省いた。)を図9で説明する。なお、符号は振り直した。
図9は従来のピストンとコンロッドとの球面連結構造を示す第1断面図であり、ピストン200の冠部201の裏面に突出部としてのカップ状支持部202を形成し、このカップ状支持部202に下向き凹部203、凹状半球面204及びめねじ206を形成し、凹状半球面204にコンロッド207の小端部208の上半部を滑り自在に嵌合させ、小端部208の下半部にホルダ211に形成した凹状の球面212,212を滑り自在に嵌合させ、締結部材213に形成したおねじ214を上記しためねじ206にねじ結合することで、カップ状支持部202にホルダ211を固定してピストン200とコンロッド207とを連結したことを示す。
【0004】
また、特許文献1の第1図を以下の図10で説明する。なお、符号は振り直した。
図10は従来のピストンとコンロッドとの球面連結構造を示す第2断面図であり、ピストン220の冠部裏面に半球状の凹部221を形成し、この凹部221にロッド222の略球状とした小端部223を当て、凹部221の周囲の面に小端部223を保持するフランジ224を複数のボルト226で取付けることでピストン220とロッド222とを連結したことを示す。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図9において、例えば、ピストン200における凹状半球面204とめねじ206との加工精度によって、凹状半球面204の中心を通り冠面216に垂直な中心線217と、めねじ206の軸線218とにずれが生じ、締結部材213を締め込むときに締め付けが難しくなることがある。上記の加工精度を高めれば、コストアップを招く。
【0006】
また、上記の中心線217と軸線218とのずれがほとんど無い場合でも、例えば、締結部材213の締め付けによってホルダ211が下向き凹部203内で端に寄った状態で取付けられ、ホルダ211の球面212,212の一部がコンロッド207の小端部208の下半部に局部的に強く当たった状態になり、凹状半球面204及び球面212,212と、小端部208との隙間が均一にならず、油膜の形成が不均一となる場合がある。
【0007】
図10において、例えば、ボルト226,226を締め込んで、ピストン220にフランジ224を取付ける場合に、フランジ224が所定位置から大きく移動してフランジ224の一部がコンロッド222の小端部223に局部的に強く当たり、小端部223とフランジ224との間の油膜の形成が困難になる場合がある。
【0008】
また、ピストン220とコンロッド222とをこのような球面継手構造で連結する場合、ピストン220とコンロッド222との連結部がピストン220の中央に位置し、且つ凹部221が燃焼室により近い位置にあると、上記の連結部の温度が高くなり、連結部の油膜形成が更に困難になる。
【0009】
本発明の目的は、ピストンとコンロッドとの球面連結構造を改良することで、ピストンとコンロッド小端部との連結部の隙間をより均一にするとともに、その連結部の温度を低減することにより、連結部のより均一な油膜形成を促進させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、内燃機関に組み込むピストンの冠部裏面に突出部を設け、この突出部の底に凹状の第1球面を設け、この第1球面にコンロッドに設けた球状の小端部の先端側を滑り可能に嵌合させ、小端部の大端部側に、保持部材に設けた凹状の第2球面を滑り可能に嵌合させ、突出部に第1ねじを形成し、保持部材を保持する保持締結部に第2ねじを形成し、これらの第1ねじと第2ねじとをねじ結合することで小端部を第1球面と第2球面とで保持するピストンとコンロッドとの球面連結構造であって、突出部内に位置調整空間を設け、この位置調整空間内に位置調整可能に位置調整部材を配置し、この位置調整部材に第1球面を形成したことを特徴とする。
【0011】
コンロッドの球状とした小端部の先端側を、位置調整部材に形成した第1球面に滑り自在に嵌合させ、保持部材に設けた凹状の第2球面を、小端部の大端部側に滑り自在に嵌合させるときに、位置調整空間内に配置した位置調整部材で位置調整して第1球面と第2球面とを自動的に調心させる。
【0012】
請求項2に係る発明は、ピストンを、突出部を含む上部ピストンと、保持締結部を含む下部ピストンとに分割したことを特徴とする。
突出部を含む上部ピストンと、保持締結部を含む下部ピストンとを分割することで、上部ピストンと下部ピストンとの間に油膜が介在し、上部ピストンから下部ピストンへ熱が伝達し難くなる。また、上部ピストンと下部ピストンとを別の材料で造ることが可能になる。
【0013】
請求項3に係る発明は、位置調整部材及び保持部材の少なくとも一方を、セラミックスから構成したことを特徴とする。
位置調整部材及び支持部材の少なくとも一方の耐摩耗性、耐熱性が向上する。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、位置調整部材に第1球面を形成したので、第1球面が位置調整可能なため、第1球面と第2球面とを自動調心することができ、小端部と、第1球面及び第2球面との隙間を均一にすることができて、より均一な油膜を形成することができる。
【0015】
また、突出部への保持締結部の締め付けを容易に行うことができ、作業性を向上させることができるとともに、突出部及び保持締結部を高精度に加工しなくてもよいからコストを低減することができる。
【0016】
更に、ピストンの冠部裏面に設けた突出部と位置調整部材とが分離されるため、ピストン冠部からの熱が位置調整部材に伝わり難くなり、第1球面の熱変形、油膜切れを抑制することができ、第1球面とコンロッド小端部の先端側との摺動部の摩耗を小さくすることができる。
【0017】
請求項2に係る発明では、上部ピストンと下部ピストンとに分離したので、上部ピストンから下部ピストンへの熱伝達を抑制することができ、下部ピストン、特にスカート部の熱変形、熱膨張が小さくなるため、下部ピストンとシリンダ壁とのクリアランスを小さくすることができ、ピストンの首振り、並進等のスラップ運動が小さくなり、ピストン打音の発生を抑えることができる。
【0018】
また、上部ピストンと下部ピストンとを別な材料で造ることができ、例えば、上部ピストンを、下部ピストンよりも耐熱性の良い材料で造ることができるから、ピストン全体を耐熱性の良い材料で造るよりもコストを削減することができる。
【0019】
請求項3に係る発明では、位置調整部材及び支持部材の少なくとも一方を、セラミックスから構成したので、耐摩耗性、耐熱性を向上させることができ、ピストンの耐久性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明を実施するための最良の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
図1は本発明に係るピストンとコンロッドとの球面連結構造を採用した内燃機関の断面図であり、内燃機関10は、シリンダブロック11と、このシリンダブロック11に設けたシリンダボア12に移動自在に挿入したピストン13と、このピストン13に球面継手14を介して連結したコンロッド16と、シリンダブロック11の下部に回転自在に取付けるとともに中空のクランクピン17でコンロッド16をスイング自在に支持する組立式のクランクシャフト18とを備える。
【0021】
シリンダブロック11は、上部に設けたシリンダ部21と、このシリンダ部21の内側に嵌合させるとともにシリンダボア12を形成した筒状のスリーブ22と、シリンダ部21の下部に取付けたアッパークランクケース23とからなる。
【0022】
コンロッド16は、ピストン13に連結した球形状の小端部24と、クランクピン17に連結した大端部25と、これらの小端部24及び大端部25のそれぞれを連結するロッド部26とを一体成形した部材であり、大端部25をクランクピン17に滑り軸受31を介して連結したものである。
【0023】
ここで、32はクランクシャフト18に設けたカウンタウエイト、33はシリンダブロック11の上部にヘッドガスケット(不図示)を介して取付けたシリンダヘッド、34は吸気バルブ、36は排気バルブ、37は燃焼室、38はアッパークランクケース23とでクランクケースを形成するためにアッパークランクケース23の下部に複数のボルト41で取付けたロワークランクケース、42はロワークランクケース38の下部に複数のボルト44で取付けたオイルパンである。
【0024】
図2は本発明に係るピストン、コンロッド及びクランクシャフトの組立状態を示す斜視図であり、ピストン13にコンロッド16をスイング自在に取付け、クランクシャフト18にコンロッド16をスイング自在に取付けたことを示す。
【0025】
ピストン16は、例えば、材質AC8A[JIS H 5202]の素材を鋳造にて製造し、熱処理としてT6処理を施した後に機械加工を施した部材である。
コンロッド16としては、クロム鋼、クロムモリブデン鋼、又はチタン合金製が好適である。
【0026】
図3は本発明に係るピストン及びコンロッドの断面図であり、ピストン13は、燃焼室37(図1参照)を形成する冠部50を備える上部ピストン51と、コンロッド16の小端部24の上半球部24aを滑り可能に保持するために上部ピストン51の冠部50の裏面53から突出させた突出部54内に配置した上部保持部材56と、コンロッド16の小端部24の下半球部24bを滑り可能に保持する下部保持部材57と、この下部保持部材57を保持するために上部ピストン51にねじ結合した下部ピストン58とからなる。
【0027】
上部ピストン51は、円板状とした冠部50と、この冠部50の縁から下方に延ばした筒状で厚肉としたランド部61と、このランド部61から更に下方に延ばした筒状でランド部61よりも薄肉とした上部スカート部62と、前述の突出部54とを一体成形した部材である。
【0028】
冠部50は、燃焼室37(図1参照)に臨む冠面64を備える。
ランド部61は、冠面64側から順に、トップランド66、トップリング溝67、セカンドランド68、セカンドリング溝71、サードランド72及びオイルリング溝73を設けた部分であり、トップリング溝67にトップリング(不図示)を嵌め、セカンドリング溝71にセカンドリング(不図示)を嵌め、オイルリング溝73にオイルリング(不図示)を嵌める。
【0029】
突出部54は、上部保持部材56をピストン13の半径方向に移動可能に収納する凹部75と、この凹部75の開口部76側の外周面77に形成したおねじ78とを備え、凹部75は、底部81に小凹部82を形成した部分である。
【0030】
上部保持部材56は、耐熱性、耐摩耗性に優れた窒化ケイ素系セラミックス製であり、コンロッド16の小端部24の上半球部24aに滑り可能に嵌合する凹状の球面としての第1球面85と、上部ピストン51の小凹部82内に位置する小凸部86とを備え、凹部75の内周面87と上部保持部材56の外周面88とは片側にそれぞれ隙間Cを有し、同様に、小凹部82と小凸部86との間にも片側にそれぞれ隙間C(不図示)を有する。この隙間Cは凹部75の内周面87とコンロッド16の小端部24との間にも片側にそれぞれ有する。
上記の窒化ケイ素系セラミックスとしては、Si(窒化ケイ素)、BN(窒化ホウ素)、AlN(窒化アルミニウム)、TiN(窒化チタン)が好適である。
【0031】
下部保持部材57は、コンロッド16の小端部24の下半球部24bに滑り可能に嵌合する凹状の球面としての第2球面91と、下部ピストン58に嵌合する外周面92及びおすテーパ部93と、上部ピストン51の突出部54の端面54aに当接する当接面94とを備える4分割とした窒化ケイ素系セラミックス(上に上げた材料が好適である。)製の部材であり、回り止め用ピン(不図示)で上部ピストン51の突出部54に対して回転しないようにするとともに、コンロッド16のロッド部26に当てる被案内面を設けることでピストン13をコンロッド16に対して回転しないようにする部材でもある。なお、57a〜57d(57c,57dは不図示)は、下部保持部材57を構成する4つの分割体である。
【0032】
下部ピストン58は、上部ピストン51の突出部54の下部及び下部保持部材57を囲むように配置した筒部95と、この筒部95から放射状に延ばした複数のリブ96と、これらのリブ96の各先端に連結した円筒状の下部スカート部97とを一体成形した部材であり、全周に備える下部スカート部97の上端面97aを上部ピストン51の上部スカート部62の下端面62aに当てた部材である。
【0033】
筒部95は、穴部98に、下部保持部材57のおすテーパ部93に密着させためすテーパ部101と、下部保持部材57の外周面92に所定の隙間を有して嵌合する内周面102と、上部ピストン51のおねじ78にねじ結合するために内周面102の上部に形成しためねじ103とを備える。
【0034】
おすテーパ部93とめすテーパ部101とは、嵌合させることにより筒部95の軸線に対して下部保持部材57の軸線を一致させることが可能な部分である。
上記した上部ピストン51のおねじ78及び下部ピストン58のめねじ103とは、ねじ結合部104を構成する部分である。
【0035】
上部ピストン51と下部ピストン58とは、それらの質量をほぼ同一とした部材であり、上部保持部材56と下部保持部材57との質量をほぼ同一としているから、上部ピストン51及び上部保持部材56からなる上部ピストン半体105Aの質量と、下部ピストン58及び下部保持部材57からなる下部ピストン半体105Bの質量とはほぼ同一となる。
【0036】
コンロッド16は、ロッド部26の内部に軽量化のための中空部106,107,108,110を設け、小端部24の内部に軽量のための中空部110を設けた部材であり、大端部25(図1参照)側から球面継手14の滑り面にオイルを供給するためにオイル穴114,115を設けたものである。
【0037】
上記した突出部54、上部保持部材56、下部保持部材57、筒部95及び小端部24は、上記した球面継手14を構成する部分である。
117は球状の小端部24の中心を示す中心点であり、ピストン13の重心でもあるが、中心点117をピストン13の重心にほぼ一致させてもよい。
118はピストン13の軸線である。119は中心点117を通り且つ軸線118に直交する平面に含まれる直線である。
【0038】
図4は本発明に係るピストン及びコンロッドを示す底面図(一部断面図)であり、下部ピストン58は、筒部95と下部スカート部97とを連結する複数のリブ96を備える。ここでは、隣り合うリブ96のなす角度θを皆等しくしたが、これに限らず、隣り合うリブ96のなす角度を、スラスト側と反スラスト側とで異ならせてもよいし、あるいは、スラスト−反スラスト方向に直交する方向、例えば、クランクシャフトを車両前後方向に延ばした内燃機関ではフロント−リヤ方向のフロント側とリヤ側とで異ならせてもよい。また、このようなリブ96に相当するものを上部ピストン51(図3参照)に設けてもよく、これにより、上部ピストン51の冠部50(図3参照)に発生する応力を各リブへ均等に分散することができ、上部ピストン51に発生する応力の最大値を低くすることができる。
【0039】
コンロッド16は、小端部24(図3参照)に近いロッド部26の側面26a,26aに、平坦で且つコンロッド16がスイング(揺動)する方向(図の左右方向である。)に平行な案内面26b、26bをそれぞれ形成したものであり、下部保持部材57(形状の理解を容易にするために太線で示した部分である。)は、コンロッド16を通すために設けた矩形状開口部57eに各分割体57a〜57d毎に、上記の案内面26b,26bに当たりながら案内される被案内面57fを設けたものである。
【0040】
上記したように、コンロッド16に案内面26b、26bを設け、下部保持部材57に案内面26b,26bに案内される被案内面57f、57fを設けたことで、コンロッド16に対してピストン13のシリンダ軸回りの回転を防ぐことができる。
【0041】
以上に述べたピストン13とコンロッド16との組立要領を図5〜図7で説明する。
図5(a),(b)は本発明に係るピストンとコンロッドとの組立要領を示す第1作用図である。
(a)において、下部ピストン58の穴部98にコンロッド16の小端部24が入るように下部ピストン58を矢印の向きに移動させ、(b)に示すように、下部ピストン58を小端部24から離した状態で、下部保持部材57の各分割体57a〜57d(57a,57bのみ示す。)の各第2球面91が小端部24の下半球部24bに密着するように矢印の向きに移動させる。
【0042】
図6(a),(b)は本発明に係るピストンとコンロッドとの組立要領を示す第2作用図である。
(a)において、下部保持部材57の各分割体57a〜57d(57a,57bのみ示す。)を小端部24に密着させた状態で、下部ピストン58を矢印の向きに移動させ、下部ピストン58の内周面102及びめすテーパ部101を、それぞれ下部保持部材57の外周面92及びおすテーパ部93に嵌合させる。
(b)において、矢印で示すように、上部保持部材56を小端部24に被せ、小端部24の上半球部24aと上部保持部材56の第1球面85とを密着させる。
【0043】
図7(a),(b)は本発明に係るピストンとコンロッドとの組立要領を示す第3作用図である。
(a)において、上部ピストン51の凹部75に上部保持部材56が入るように上部ピストン51を矢印の向きに移動させ、上部ピストン51のおねじ78を下部ピストン58のめねじ103にねじ結合する。
【0044】
このとき、(b)に示すように、例えば、おねじ78(又はめねじ103((a)参照))の軸線120と、コンロッド16の小端部24の中心点117を通る中心線121(この中心線121は、(a)に示した第1球面85及び第2球面91の中心も通る。)とにずれ量δがあっても、上部ピストン51の凹部75内を上部保持部材56及び小端部24が矢印の向きに一体的に移動することで軸線120に対して中心線121が自動調心され(即ち、軸線120と中心線121とが一致し)、おねじ78とめねじ103とのねじ結合を容易に行うことができるとともに、小端部24と、第1球面85及び第2球面91との隙間をより均一に保つことができる。
【0045】
図8は本発明に係るピストンの作用を示す作用図である。
燃焼室37内の混合気の爆発によって、上部ピストン51の冠部50の温度が上昇すると、冠部50の熱は、矢印で示すように、突出部54に伝わるが、上部保持部材56は冠部50とは別部材であり、しかも、冠部50と上部保持部材56との間には油膜が存在するために、冠部50から上部保持部材56には熱が伝わり難い。従って、上部保持部材56の第1球面85とコンロッド16の小端部24との摺動部の温度を低くすることができ、摺動部の熱変形を小さくでき、油膜切れを発生し難くすることができる。
【0046】
また、上部ピストン51と下部ピストン58とを別体としたので、上部ピストン51から下部ピストン58へ熱が伝わり難くなり、下部ピストン58の温度、詳しくは、下部スカート部97の温度を低くすることができるから、シリンダボア12と下部スカート部97との隙間を小さく設定することができ、ピストン13の首振り(小端部24を中心とした揺動運動)、並進(スラスト−反スラスト方向の移動)等のスラップ運動時のシリンダボア12への衝突エネルギーを小さくすることができて、ピストン打音を発生し難くすることができる。
【0047】
以上の図3及び図7(a),(b)に示したように、本発明は第1に、内燃機関10(図1参照)に組み込むピストン13の冠部50の裏面53に突出部54を設け、この突出部54の底に凹状の第1球面85を設け、この第1球面85にコンロッド16に設けた球状の小端部24の先端側、即ち、上半球部24aを滑り可能に嵌合させ、小端部24の大端部25側、即ち、下半球部24bに、保持部材としての下部保持部材57に設けた凹状の第2球面91を滑り可能に嵌合させ、突出部54に第1ねじとしてのおねじ78を形成し、下部保持部材57を保持する保持締結部としての筒部95に第2ねじとしてのめねじ103を形成し、これらのおねじ78とめねじ103とをねじ結合することで小端部24を第1球面85と第2球面91とで保持するピストン13とコンロッド16との球面連結構造であって、突出部54内に位置調整空間としての凹部75を設け、この凹部75内に位置調整可能に位置調整部材としての上部保持部材56を配置し、この上部保持部材56に第1球面85を形成したことを特徴とする。
【0048】
上部保持部材56に第1球面85を形成したので、第1球面85が位置調整可能なため、第1球面85と第2球面91とを自動調心することができ、小端部24と、第1球面85及び第2球面91との隙間を均一にすることができて、より均一な油膜を形成することができる。
【0049】
また、突出部54への筒部95の締め付けを容易に行うことができ、作業性を向上させることができるとともに、突出部54及び筒部95を高精度に加工しなくてもよいからコストを低減することができる。
【0050】
更に、図8に示したように、ピストン13の冠部50の裏面53に設けた突出部54と上部保持部材56とが分離されるため、ピストン13の冠部50からの熱が上部保持部材56に伝わり難くなり、第1球面85の熱変形、油膜切れを抑制することができ、第1球面85とコンロッド16の小端部24の上半球部24aとの摺動部の摩耗を小さくすることができる。
【0051】
本発明は第2に、図3及び図8に示したように、ピストン13を、突出部54を含む上部ピストン51と、筒部95を含む下部ピストン58とに分割したことを特徴とする。
上部ピストン51と下部ピストン58とに分離したので、上部ピストン51から下部ピストン58への熱伝達を抑制することができ、下部ピストン58、特に下部スカート部97の熱変形、熱膨張が小さくなるため、下部スカート部97とシリンダボア12とのクリアランスを小さくすることができ、ピストン16の首振り、並進等のスラップ運動が小さくなり、ピストン打音の発生を抑えることができる。
【0052】
また、上部ピストン51と下部ピストン58とを別な材料で造ることができ、例えば、上部ピストン51を、下部ピストン58よりも耐熱性の良い材料で造ることができるから、ピストンの全体を耐熱性の良い材料で造るよりもコストを削減することができる。
【0053】
本発明は第3に、上部保持部材56及び下部保持部材57の少なくとも一方を、セラミックスから構成したことを特徴とする。
上部保持部材56及び下部保持部材57の少なくとも一方の耐摩耗性、耐熱性を向上させることができ、ピストン16の耐久性を高めることができる。
【0054】
また、上部保持部材56をセラミックス製とした場合には、上部保持部材56が断熱部材となり、冠部50側から第1球面85と上半球部24aとの摺動部へ伝わる熱を大幅に減少させることができる。
【0055】
尚、本発明では、上部ピストンの突出部内に位置調整空間を設け、この位置調整空間内に位置調整可能に位置調整部材を配置し、この位置調整部材に第1球面を形成したが、これに限らず、下部ピストン(詳しくは、図3に示した筒部95に相当する部分)内に位置調整空間を設け、この位置調整空間内に位置調整可能に位置調整部材(図3に示した下部保持部材57に相当する部材)を配置し、この位置調整部材に第2球面を形成してもよい。
【0056】
また、本実施形態では、図3で説明したように、上部保持部材56と下部保持部材57との両方を窒化ケイ素系セラミックス製としたが、これに限らず、上部保持部材56及び下部保持部材57の少なくとも一方を窒化ケイ素系セラミックス製としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のピストンとコンロッドとの球面連結構造は、二輪車、四輪車の内燃機関に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明に係るピストンとコンロッドとの球面連結構造を採用した内燃機関の断面図である。
【図2】本発明に係るピストン、コンロッド及びクランクシャフトの組立状態を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るピストン及びコンロッドの断面図である。
【図4】本発明に係るピストン及びコンロッドを示す底面図である。
【図5】本発明に係るピストンとコンロッドとの組立要領を示す第1作用図である。
【図6】本発明に係るピストンとコンロッドとの組立要領を示す第2作用図である。
【図7】本発明に係るピストンとコンロッドとの組立要領を示す第3作用図である。
【図8】本発明に係るピストンの作用を示す作用図である。
【図9】従来のピストンとコンロッドとの球面連結構造を示す第1断面図である。
【図10】従来のピストンとコンロッドとの球面連結構造を示す第2断面図である。
【符号の説明】
【0059】
10…内燃機関、13…ピストン、16…コンロッド、24…小端部、24a…上半球部、24b…下半球部、50…冠部、51…上部ピストン、53…裏面、54…突出部、56…位置調整部材(上部保持部材)、57…保持部材(下部保持部材)、58…下部ピストン、75…位置調整空間(凹部)、78…第1ねじ(おねじ)、85…第1球面、91…第2球面、95…保持締結部(筒部)、103…第2ねじ(めねじ)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に組み込むピストンの冠部裏面に突出部を設け、この突出部の底に凹状の第1球面を設け、この第1球面にコンロッドに設けた球状の小端部の先端側を滑り可能に嵌合させ、前記小端部の大端部側に、保持部材に設けた凹状の第2球面を滑り可能に嵌合させ、
前記突出部に第1ねじを形成し、前記保持部材を保持する保持締結部に第2ねじを形成し、これらの第1ねじと第2ねじとをねじ結合することで前記小端部を前記第1球面と前記第2球面とで保持するピストンとコンロッドとの球面連結構造であって、
前記突出部内に位置調整空間を設け、この位置調整空間内に位置調整可能に位置調整部材を配置し、この位置調整部材に前記第1球面を形成したことを特徴とするピストンとコンロッドとの球面連結構造。
【請求項2】
前記ピストンは、前記突出部を含む上部ピストンと、前記保持締結部を含む下部ピストンとに分割されることを特徴とする請求項1記載のピストンとコンロッドとの球面連結構造。
【請求項3】
前記位置調整部材及び前記保持部材の少なくとも一方は、セラミックスからなることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のピストンとコンロッドとの球面連結構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−275113(P2006−275113A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−92821(P2005−92821)
【出願日】平成17年3月28日(2005.3.28)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】