説明

ピストンの構造

【課題】ピストン強度の低下を抑制しつつ、冷却損失の低減とノッキングの改善を図ることが可能なピストンの構造を提供する。
【解決手段】ピストンの構造は、エンジン50のピストン53に適用されている。ピストンの構造は、オイルを流通させるクーリングチャンネル53aが、エンジン50の燃焼室Eのうち、燃焼速度が遅い部分に対応させて部分環状に設けられた構造となっている。燃焼速度が遅い部分は、エンジン50が所定の運転状態にある場合にその他の部分と比較して相対的に燃焼速度が遅くなる部分となっている。具体的には、エンジン50の回転数NEが高く、且つ高タンブル比である場合に吸気側の部分と比較して相対的に燃焼速度が遅くなる排気側の部分となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンのピストンに適用されるピストンの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
クーリングチャンネルを備えるエンジンのピストンが知られている。特許文献1では、環状のクーリングチャンネルの通路断面が、ピストン軸方向に比べてピストン半径方向の長さが大きくなる幅広形状に形成されている内燃機関用ピストンが開示されている。特許文献2では、ピストンの上部内で環状に延びるクーリングチャンネルが設けられている内燃機関用ピストンの冷却構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−185745号公報
【特許文献2】特開2002−48001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図5は機関回転数とタンブル比(ピストンが一往復する間にタンブル流が回転する回数)とに応じたノッキングの発生位置の一例を示す図である。図5ではタンブル比については、低タンブル比である場合と高タンブル比である場合とを示している。例えば燃焼室にタンブル流を生成するエンジンでは、機関回転数が高く、且つ高タンブル比である場合に燃焼室のうち、吸気側の部分で強い乱れが発生する傾向がある。そして、燃焼室の吸気側と排気側とで燃焼速度のバランスが大きく崩れる結果、燃焼速度が極端に遅くなる燃焼室の排気側で、ノッキングが発生し易くなる傾向がある。
【0005】
これに対し、ノッキングを改善するには、例えば全周に亘る環状のクーリングチャンネルをピストンに設けることができる。しかしながらこの場合には、ピストン強度が低下する結果、ピストンの破損を招き易くなる虞がある。また、ピストンのうち、吸気側の部分が過度に冷却される結果、冷却損失が増大する虞がある。
【0006】
本発明は上記課題に鑑み、ピストン強度の低下を抑制しつつ、冷却損失の低減とノッキングの改善を図ることが可能なピストンの構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明はエンジンのピストンに適用され、冷却媒体を流通させる冷却媒体通路が、前記エンジンの燃焼室のうち、燃焼速度が遅い部分に対応させて部分環状に設けられているピストンの構造である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ピストン強度の低下を抑制しつつ、冷却損失の低減とノッキングの改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】エンジンの概略構成図である。
【図2】ピストンの上面図である。
【図3】ECUの概略構成図である。
【図4】ECUの動作をフローチャートで示す図である。
【図5】機関回転数とタンブル比とに応じたノッキングの発生位置の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を用いて、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0011】
図1はエンジン50の概略構成図である。エンジン50は火花点火式の内燃機関であり、シリンダブロック51と、シリンダヘッド52と、ピストン53と、吸気弁54と、排気弁55と、点火プラグ56と、オイルジェット57と、電動ポンプ58とを備えている。
【0012】
シリンダブロック51には、シリンダ51aが形成されている。シリンダ51a内にはピストン53が収容されている。ピストン53はクーリングチャンネル53aが設けられている。クーリングチャンネル53aはピストン53の上部に設けられている。シリンダブロック51の上面にはシリンダヘッド52が固定されている。燃焼室Eはシリンダブロック51、シリンダヘッド52及びピストン53に囲まれた空間として形成されている。
【0013】
シリンダヘッド52には、燃焼室Eに吸気を導く吸気ポート52aと、燃焼室Eからガスを排出する排気ポート52bとが形成されている。吸気ポート52aは燃焼室Eにタンブル流Tを生成するように吸気を導入する。このため、燃焼室Eに導入された吸気はタンブル流Tを形成する。タンブル流Tを生成するにあたり、エンジン50は例えば吸気ポート52aにタンブル流Tを生成するための気流制御弁を備えてもよい。シリンダヘッド52には、吸気ポート52aを開閉する吸気弁54と、排気ポート52bを開閉する排気弁55とが設けられている。このほかシリンダヘッド52には、点火プラグ56が設けられている。
【0014】
オイルジェット57はオイル噴射部であり、シリンダブロック51に設けられている。オイルジェット57は、クーリングチャンネル53aに向けてオイルを噴射するように設けられている。電動ポンプ58はオイルジェット57にオイルを供給する。電動ポンプ58はオイルの吐出量を変更可能な可変オイルポンプとなっている。
【0015】
図2はピストン53の上面図である。クーリングチャンネル53aはピストン53の周方向に沿って設けられている。クーリングチャンネル53aの一端部にはオイル導入口Inが、他端部にはオイル排出口Outが設けられている。オイル導入口Inとオイル排出口Outとはともにピストン53の裏側に開口している。オイルジェット57は具体的にはオイル導入口Inに向けてオイルを噴射する。そして、噴射されたオイルはオイル導入口Inからクーリングチャンネル53aに導入され、クーリングチャンネル53aを流通した後、オイル排出口Outから排出される。
【0016】
クーリングチャンネル53aは、燃焼室Eのうち、燃焼速度が遅い部分に対応させて、ピストン53の内部に部分環状に設けられている。燃焼速度が遅い部分は、エンジン50が所定の運転状態にある場合にその他の部分と比較して相対的に燃焼速度が遅くなる部分となっている。燃焼速度が遅い部分は、具体的には燃焼室Eのうち、排気側の部分となっている。また、エンジン50の回転数NEが高く、且つ高タンブル比である場合に、吸気側の部分と比較して相対的に燃焼速度が遅くなる部分となっている。
【0017】
オイルは冷却媒体に相当する。また、クーリングチャンネル53aは冷却媒体通路に相当する。ピストン53では、上述したようにクーリングチャンネル53aが設けられているピストンの構造が実現されている。
【0018】
次にピストンの構造の作用効果について説明する。このピストンの構造は、部分環状にクーリングチャンネル53aを設けた構造になっている。このため、ピストン強度が低下することを抑制できる。同時にこのピストンの構造は、燃焼室Eのうち、燃焼速度が遅い部分に対応させて、クーリングチャンネル53aを設けた構造になっている。このため、クーリングチャンネル53aを流通するオイルの冷却効果によって、ノッキングの発生を抑制できる。また、燃焼室Eのうち、燃焼速度が遅い部分に対応する部分以外では、オイルによる冷却を行わないため、冷却損失の増大も抑制できる。
【0019】
このピストンの構造は、燃焼室Eのうち、排気側の部分を燃焼速度が遅い部分として、クーリングチャンネル53aを設けることで、排気側のエンドガス領域を冷却することができる。そしてこれにより、回転数NEが高く、且つ高タンブル比である場合に、ピストン強度の低下を抑制しつつ、冷却損失の低減とノッキングの改善を図ることができる。このため、燃焼室Eのうち、排気側の部分を燃焼速度が遅い部分とするピストンの構造は、エンジンが燃焼室Eにタンブル流Tを生成するエンジン50である場合に好適である。
【実施例2】
【0020】
本実施例では、実施例1で前述したエンジン50に適用されるエンジンの制御装置について説明する。図3はECU70の概略構成図である。ECU70は電子制御装置であり、エンジンの制御装置に相当する。ECU70はCPU71、ROM72、RAM73等からなるマイクロコンピュータと入出力回路74、75とを備えている。これらCPU71、ROM72、RAM73、および入出力回路74、75は互いにバス76で接続されている。
【0021】
ECU70には、エンジン50のクランク角度を検出するクランク角センサ81や、エンジン50の吸入空気量を計測するエアフロメータ82など、各種のセンサ・スイッチ類が電気的に接続されている。また、電動ポンプ58など各種の制御対象が電気的に接続されている。
【0022】
ROM72はCPU71が実行する種々の処理が記述されたプログラムやマップデータなどを格納するための構成である。CPU71がROM72に格納されたプログラムに基づき、必要に応じてRAM73の一時記憶領域を利用しつつ処理を実行することで、ECU70では各種の機能部が機能的に実現される。
【0023】
例えばECU70では、エンジン50の回転数NEと負荷KLとに応じて、電動ポンプ58が供給するオイル量を制御する制御部が機能的に実現される。制御部は具体的には、回転数NEと負荷KLとに基づき、回転数NEと負荷KLとに応じてオイル量を予め設定したマップデータを参照し、対応するオイル量を読み込む。そして、読み込んだオイル量を供給するように電動ポンプ58を制御することで、回転数NEと負荷KLとに応じて、電動ポンプ58が供給するオイル量を制御する。なお、マップデータはROM72に予め格納されている。
【0024】
次にECU70の動作を図4に示すフローチャートを用いて説明する。ECU70は、回転数NEおよび負荷KLを検出する(ステップS1)。回転数NEは例えばクランク角センサ81の出力に基づき、ECU70で検出できる。また、負荷KLはクランク角センサ81およびエアフロメータ82の出力に基づき、ECU70で検出できる。続いて、ECU70は検出した回転数NEおよび負荷KLに基づきマップデータを参照し、オイル量を読み込む(ステップS2)。その後、ECU70は読み込んだオイル量を供給するように電動ポンプ58を制御する(ステップS3)。
【0025】
次にECU70の作用効果について説明する。ECU70は回転数NEと負荷KLとに応じて、電動ポンプ58から供給するオイルの量を制御する。このため、ECU70は例えば回転数NEが低回転である場合など、ノッキングが発生する虞が低い場合には、電動ポンプ58からオイルを供給しないか、或いは高回転である場合よりも少量のオイルを供給することによって、過度な冷却を防止できる。結果、実施例1で前述したピストンの構造を適用したピストン53を備えるエンジン50において、さらにエンジン50の運転状態に応じて、冷却損失の増大を好適に抑制できる。
【0026】
ECU70は例えば次のようにして電動ポンプ58から供給するオイルの量を制御してもよい。すなわち、ECU70は例えば燃焼室Eのうち、燃焼速度が遅い部分(ここでは排気側の部分)と、燃焼速度が速い部分(ここでは吸気側の部分)とに対して燃焼圧センサをそれぞれ設けるとともに、燃焼圧センサそれぞれの出力に基づき、燃焼室Eのうち、燃焼速度が遅い部分でノッキングが発生するか否かを判定し、判定結果に基づき、電動ポンプ58から供給するオイルの量を制御してもよい。
【0027】
この場合、例えばノッキングが発生すると判定した場合に、電動ポンプ58からオイルを供給するとともに、ノッキングが発生しないと判定した場合に、電動ポンプ58からオイルを供給しないか、或いは高回転である場合よりも少量のオイルを供給することができる。この場合でも、エンジン50の運転状態に応じて、冷却損失の増大を好適に抑制できる。
【0028】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0029】
エンジン 50
シリンダブロック 51
シリンダヘッド 52
ピストン 53
クーリングチャンネル 53a
吸気弁 54
排気弁 55
点火プラグ 56
オイルジェット 57
電動ポンプ 58
ECU 70



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのピストンに適用され、
冷却媒体を流通させる冷却媒体通路が、前記エンジンの燃焼室のうち、燃焼速度が遅い部分に対応させて部分環状に設けられているピストンの構造。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−132399(P2012−132399A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286709(P2010−286709)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】