説明

ピストンリング

【課題】往復動内燃機関、特に2サイクル大型ディーゼル機関のピストン用ピストンリング、それも曲げ剛性と捩り剛性とを有し、かつ作動時にピストンのリング溝内に安定的に位置するピストンリングを提供する。また、この種のピストンリングを有するピストンリング・パックと、この種のピストン又はピストンリング・パックを有するピストンと、この種のピストンを有する往復動内燃機関をも提供する。
【解決手段】ピストンリングが、内半径及び外半径と、軸線方向で測定した高さHと、前記外半径及び内半径の差に相当する幅Bとを有し、前記ピストンリング1の高さが、ピストンリングの幅より大であるか、又は幅と等しくされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は請求項1の上位概念部分に記載された往復動内燃機関のピストン用ピストンリングと、この種のピストンリングを有するピストン用ピストンリング・パックと、1個のピストンリング又はこの種のピストンリング・パックを有するピストンと、この種のピストンを有する往復動内燃機関とに関するものである。
【背景技術】
【0002】
往復動内燃機関、特にディーゼル機関のピストンは、ピストンリングを備え、このピストンリングがピストン溝にはめ込まれ、外部に対しシリンダ空間を密封するのに役立っている。往復動内燃機関、特に2サイクル大型ディーゼル機関に使用されているピストンリングは、大ていは事実上長方形横断面である。滑り面の特殊な付形のために滑り面区域には、長方形状からの僅かな偏差が生じることが往々にしてある。軸線方向で測定した従来型のピストンの高さは、100mmを超える呼び直径から見ると、半径方向の断面寸法より通常はかなり小さい。すなわち外径と内径の差よりも小さい。軸方向高さを増すことが通常勧められないのは、それに関連して質量が増し、かつ作動時の慣性が大きくなり、そのことがピストンリングの作動時の振る舞いに悪影響を及ぼすからである。このことは、特に高速往復動内燃機関に当てはまる。ピストンリングの呼び直径に応じた軸方向高さの典型的な値は、例えばDIN34110に挙げられている。
【0003】
この種のピストンリングの欠点は、作動時に振動が励起されることである。振動に関しては、曲げ振動と捩り振動とが特に有害である。これらの振動は、溝壁に対する衝撃を生じさせ、特に溝前縁を摩耗させる。このため、ピストンリングの支持箇所が溝の内方へ移動せしめられる。ピストンリングは、その場合、もはや安定的に溝内に位置することがなくなり、それにより更に摩耗が増大する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、往復動内燃機関、特に2サイクル大型ディーゼル機関のピストン用ピストンリング、それも曲げ剛性と捩り剛性とを有し、かつ作動時にピストン溝内に安定的に位置するピストンリングを提供することである。本発明の別の目的は、ピストン用のこの種のピストンリングを有するピストンリング・パック、並びにこの種のピストン又はピストンリング・パックを有するピストンと、更にこの種のピストンを有する往復動内燃機関をも提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この目的は、本発明により請求項1に定義されたピストンリングと、請求項8に定義されたピストンリング・パックと、請求項9に定義されたピストンと,更に請求項10に定義された往復動内燃機関によって達成された。
往復動内燃機関、例えばディーゼル機関、特に2サイクルの大型ディーゼル機関のピストン用の、本発明によるピストンリングは、外半径および内半径r,rと、軸線方向で測定した高さHと、外半径/内半径間の差に相応する幅Bとを有し、しかも、ピストンリングの高さはピストンリングの幅より大か、幅と等しい。ピストンリングの高さ/幅比は、好ましくは少なくとも1:1、特に1.1:1又は1.5:1である。
一好適実施例では、ピストンリングに滑り面と、上面と、下面と、滑り面と反対側の内側面とが形成されており、しかも、少なくとも滑り面は保護層、例えば摩耗低減保護層及び/又は滑り層を有することができる。残る面も保護層を備え得ることは言うまでもない。
【0006】
一好適実施例の場合、ピストンリングは鋳鉄、特に片状黒鉛、バーミキュラー黒鉛、球状黒鉛のいずれかを有する鋳鉄から成っている。別の一好適変化形では、保護層が、電気めっき(galvanically)又は溶射処理により被着された。保護層は、好ましくは、所定位置に溶着されるか、又は保護層及び基材が融着され、かつ/又は保護層が、基材内への不純原始拡散によって形成される。保護層形成の場合及び/又は溶接金属結合の場合、必要な熱は局所的に制限された区域に、例えばレーザー又は誘導加熱によって供給される。
ピストンリングの滑り面は、上下縁部が面取りされるか又は丸められ、少なくとも軸線方向高さの一部にわたり外方へアーチ形及び/又は円錐状に付形されるのが好ましい。
別の一好適実施例の場合、ピストンリングは、例えば、周方向に形成された結合部内で互いに当接する、ピストンリング軸線に対し直角の結合面により、事実上ガス不透過性にされた結合部を含んでいる。
【0007】
本発明は、更に往復動内燃機関のピストン用ピストンリング・パック、それも既述の種類の複数ピストンリング、好ましくは等幅の複数ピストンリングから成るピストンリング・パックと、少なくとも1つのこの種のピストンリング又はこの種のピストンリング・パックを有するピストンと、往復動内燃機関、例えば往復動ディーゼル機関、特に前記種類の少なくとも1つのピストンを有する2サイクル大型ディーゼル機関とを含んでいる。
【0008】
軸線方向高さを増すことにより、本発明によるピストンリングは、かなり曲げ剛性及び捩り剛性が増大した。こうすることで、作動中の有害な曲げ振動や捩り振動が、効果的に低減され、完全に阻止さえされる。それにより、溝内でのピストンリングの安定的な保持が容易になる。シリンダ又はシリンダライナの仕上げ時に、不規則な輪郭、例えば直径の差が生じたり、残ったりする。その場合、例えば、2サイクル大型ディーゼル機関のシリンダライナの直径差は、作動状態で最大0.2mmに達する。本発明によりピストンリングの軸方向高さを増すことで、この種の差の補償が改善され、かつ実際の輪郭への適合が改善される。特に、軸方向高さを増すことにより、滑り・支持面がより大となり、これに関連して、作動時の動液力の対抗作用及び潤滑油膜厚が増大する。これによってシリンダの輪郭に対するピストンリングの適合が容易になり、かつピストンリングの滑り面とシリンダ又はシリンダライナとの双方の摩耗が低減される。
【0009】
加えて、本発明によるピストンリングにより、ピストンリングの事実上ガス不透過性の結合部が得られる。この種の結合部は突出部を含むが、これら突出部は、従来型のピストンリングでは普通のことだが、軸線方向高さが小さければ破断しやすい。本発明により軸線方向高さがより大であるため、突出部は安定的に形成できる。
別の好適実施例は独立請求項及び図面から知ることができる。
以下で、本発明を実施例及び図面について詳細に説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、先行技術によるピストンに取り付けられたピストンリング1の断面詳細図である。一部分のみ示されているピストン10は、作動時にはシリンダ内壁又はシリンダ挿入体20に沿って移動する。ピストンとシリンダ内壁又はシリンダライナとの間には、ギャップが形成され、そのギャップの幅は、シリンダの輪郭の不規則性のために、僅かに変わることがある。ピストン10には溝11が形成されており、この溝には、事実上長方形横断面の従来型のピストンリング1が配置されている。ピストンリング1の寸法は、ピストンリングがルーズに溝11内にはめ込まれ、ピストンリングの滑り面がシリンダ内壁又はシリンダライナに接触するように、選択されている。このようにすることで、作動時にピストンリングは、シリンダ又はシリンダライナの輪郭が不規則でも、その輪郭に追従することができる。ピストンリングがルーズに溝内にはめ込まれていることで、作動時にシリンダ内を支配する圧力が、溝とピストンリングとの間に作用するため、ピストンリングは、ピストンリングの固有応力によってだけでなく前記圧力によっても、シリンダ内壁又はシリンダライナに押し付けられる。
【0011】
従来型のピストンリング1は、曲げ剛性及び捩り剛性が制限されているため、図1に示すように、ピストンリングに作用する摩擦力及び動的な力によって溝内で捩じられる。このため、ピストンリングは溝壁12に均等には接触せず、むしろ溝の前縁12aにより多くの荷重がかかる。ピストンの運動方向が変ることで、従来型のピストンリングの場合、捩りが変化して、曲げ振動と捩り振動が生じ、これと関連して、ピストンリングが溝壁12にぶつかり、溝11の前縁12aの摩耗が増大する。
【0012】
図2には、本発明によるピストンリングの一実施例が示されている。図示のピストンリングは、往復動内燃機関、例えば往復動ディーゼル機関特に2サイクル大型ディーゼル機関のピストンのシールに役立つ。ピストンリング1は、外半径及び内半径r,rと、軸線方向で測定した高さHと、幅Bとを有しており、幅Bは、外半径と内半径との差r−rに合致し、ピストンリング1の高さHは、ピストンリングの幅より大か、又は幅に等しい。ピストンリング1は、更に滑り面2と、上面及び下面4,5と、滑り面2と反対側の内側面3とを有している。便宜上、高さ/幅比H:Bは少なくとも1:1であり、好ましくは少なくとも1.1:1又は1.5:1である。この種のピストンリングは、等しい直径の従来型のピストンリングより曲げ剛性及び捩り剛性がかなり大である。曲げ剛性と捩り剛性がより大であることで、作動時に生じる摩擦力や動的力によるこの種のピストンリングの捩れは、事実上無視できる。
【0013】
端部の突合せ部8は、図3a−3cに示したように、ピストンリング1の1箇所に形成され、継ぎ目と呼ばれる。この継ぎ目によりピストンリングは、シリンダ直径又はシリンダライナの不規則箇所に適応することができる。この継ぎ目は、更にピストンへのピストンリングの取り付けを容易にし、かつ作動時のピストンリングの予め定めた固有緊諦力の発揮を容易にする。図3aは、単純な継ぎ目の変化形の詳細図である。この変化形の場合、継ぎ目が軸線方向に延びるように構成されている。この変化形は、製造費が安価であるという利点と同時に、継ぎ目のシール効果が最小であるという欠点を有している。図3bに示した継ぎ目の別の変化形は、斜めに延びる継ぎ目を有している。この継ぎ目もまた、容易に製造できる。
【0014】
図3cに示した継ぎ目の変化形では、ピストンリングの一方の端部には舌状部が、他方の端部にはカットアウト部が形成されており、これらがピストンリングの幅と高さとの一部にわたって延在している。舌状部とカットアウト部とは、ピストンリング周方向に互いに対して滑り変位可能となるように設計され、配置されている。この舌状部によって、端部継ぎ目は、軸線方向にのみでなく、半径方向にも中断される。軸方向高さの低い従来のピストンリングの図示の実施例の場合、舌状部がきわめて薄手で、折れがちである。このため、ガス不透過性継ぎ目なしで済ますことがしばしばある。本発明によるこのピストンリングは、これと異なり、比較的に高い軸線方向高さのため、何ら問題なしにガス不透過性継ぎ目を備えることができる。
【0015】
図4は、本発明によるピストンリングの一実施例の断面図である。ピストンリング1は滑り面2を含み、該滑り面は、この実施例では、摩耗低減用の保護層6bを有し、またその上に任意に滑り層6aを被着できる。必要とあれば、ピストンリングのその他の面にも保護層を設けることができる。ピストンリングの基材は、好ましくは鋳鉄、例えば片状黒鉛、バーミキュラー黒鉛、球状黒鉛のいずれかの鋳鉄から成っている。内燃機関の種類によって、他の基材を使用することもできる。単数又は複数の保護層は、例えば電気めっき又は溶射処理によって被着させることができる。保護層は、所定箇所への溶着、溶接、ろう付け、基材内への不純物拡散のうちの1つ以上により被着させることができる。保護層の形成に必要な熱は、好ましくは局所的に限られた区域に、例えばレーザー又は誘導加熱により供給される。表面の溶着区域は、例えば被覆粉体及び/又はろう付け配合物及び/又は基材表面を含んでいる。表面は、僅かだけ、被覆粉体への金属結合が生じる程度にだけ溶融されるのが好ましい。
【0016】
図4に示した実施例の場合、滑り面2は、上下縁部2aが面取りされ、かつ上下縁部間の区域2bが外方へアーチ状に突出している。面取り部は、また滑り面の上下縁部2aに丸みを付ける代わりに設けることもできる。
一好適実施例では、ピストンは、本発明による複数のピストンリング、例えば3個から5個のピストンリングを備えている。ピストン用の複数ピストンリングは、またピストンリング・パックとも呼ばれ、個々のピストンリングは、ピストンへの取り付け位置に応じて異なる特徴を有している。したがって、例えば個々のピストンリングの軸線方向高さ及び/又は継ぎ目は、理想的なシール及び滑り特性を得るために、ピストンへの配置位置にしたがって異なる設計にすることができる。ピストンリング・パックは、好ましくは等しい幅のピストンリングで形成される。
【0017】
往復動内燃機関、特に2サイクルディーゼル機関のピストン用ピストンリング1は、外半径及び内半径と、軸線方向で測定した高さHと、外半径/内半径差に相応する幅Bとを有し、ピストンリングの高さは、ピストンリングの幅より大か、又は幅と等しい。この種のピストンリングは、従来のピストンリングに比してかなり高い曲げ剛性と捩り剛性とを有している。したがって、作動中に生じる曲げ振動及び捩り振動や、これらに関連する、ピストンリング、リング溝、シリンダライナに生じる摩耗は、ほとんど無視してよい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】先行技術のピストンに取り付けられたピストンリングの詳細断面図。
【図2】本発明によるピストンリングの一実施例の図。(実施例1)
【図3a−3c】ピストンリングの3種類の異なる継ぎ目を示す詳細図。
【図4】本発明によるピストンリングの一変化形の断面図で、輪郭付けされた滑り面と保護層とを示した図。(実施例2)
【符号の説明】
【0019】
1 ピストンリング
2 滑り面
2a ピストンリングの上下縁部
2b 上下縁部間の区域
3 内側面
4 ピストンリングの上面
5 ピストンリングの下面
6a 滑り層
6b 保護層
7 軸線
8 継ぎ目
10 ピストン
11 リング溝
12 溝壁
12a リング溝の前縁
20 挿入体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復動ピストン内燃機関、特に2サイクル大型ディーゼル機関のピストン用ピストンリングであって、前記ピストンリング(1)が内半径及び外半径(r,r)と、軸線方向で測定した高さ(H)と、前記外半径及び内半径の差に相当する幅(B)とを有する形式のものにおいて、
ピストンリング(1)の前記高さが、ピストンリングの幅より大であるか、または幅と等しいことを特徴とする、ピストンリング。
【請求項2】
少なくとも1.1:1、特に少なくとも1.5:1の高さ/幅比を有する、請求項1に記載されたピストンリング。
【請求項3】
滑り面(2)と、上下の面(4,5)と、滑り面と反対側の内側面(3)とを有し、少なくとも滑り面が保護層、特に摩耗低減保護層及び/又は滑り層を有する、請求項1または請求項2に記載されたピストンリング。
【請求項4】
基材が鋳鉄製、特に、片状黒鉛、バーミキュラー黒鉛、球状黒鉛のいずれかを有する鋳鉄製である、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたピストンリング。
【請求項5】
前記摩耗低減保護層又は滑り層が、電気めっき又は溶射処理によって被着され、かつまた/もしくは前記摩耗低減保護層が、基材内への不純物拡散によって形成される、請求項3又は請求項4に記載されたピストンリング。
【請求項6】
滑り面(2)を有し、該滑り面の上下縁部が、面取りされるか又は丸くされており、かつ滑り面(2)が、軸線方向高さの少なくとも一部にわたって外方へアーチ状かつ円錐状に突出している、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載されたピストンリング。
【請求項7】
事実上ガス不透過性の継ぎ目を有する、請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載されたピストンリング。
【請求項8】
往復動ピストン内燃機関のピストン用のピストンリング・パックにおいて、
前記ピストンリング・パックが、請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された複数ピストンリング、特に等幅の複数ピストンリングで構成されている、ピストンリング・パック。
【請求項9】
ピストンにおいて、
請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載された少なくとも1個のピストンリングを有しているか、又は請求項8に記載されたピストンリング・パックを有している、ピストン。
【請求項10】
往復動ピストン内燃機関、特に2サイクル大型往復動ディーゼル機関において、
請求項9に記載された少なくとも1個のピストンを有している、往復動ピストン内燃機関。

【図1】
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【図2】
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【図3a−3c】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−132775(P2006−132775A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−320254(P2005−320254)
【出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(501082602)ヴェルトジィレ シュヴァイツ アクチェンゲゼルシャフト (46)
【Fターム(参考)】