説明

ピストンリング

【課題】ピストンリングにおいて、内燃機関の運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保すると共に、周方向における面圧の均一化を図ることで摺動面の摩耗を抑制可能とする。
【解決手段】ピストン14の外周面にリング溝44,45,46を形成し、このリング溝44,45,46にトップリング51、セカンドリング52、オイルリング53を嵌合し、このトップリング51にて、合口隙間Sをもって対向する合口端面51a,51bから周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域A1,A2を除く周方向における中間領域Bで、内周部57a,57bを外周部56a,56bより熱膨張率の高い材料により形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関用に用いられるピストンの外周面に形成されたリング溝に装着されるピストンリングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、内燃機関において、シリンダヘッドはシリンダブロックの上部に組み付けられ、複数の締結ボルトにより締結されており、直列をなして複数のシリンダボアが設けられ、各シリンダボアにピストンが上下動自在に支持されている。そして、シリンダヘッドとシリンダブロックとピストン区画される各燃焼室に対して吸気ポート及び排気ポートが対向して形成され、この吸気ポート及び排気ポートは吸気弁及び排気弁により開閉自在となっている。また、吸気ポート(または燃焼室)に燃料を噴射するインジェクタが装着されると共に、燃焼室の混合気に着火する点火プラグが装着されている。
【0003】
従って、吸気弁の開放時に、空気が吸気ポートから燃焼室に吸入されると共に、インジェクタから噴射された燃料が燃焼室に吸入され、空気と燃料との混合気がピストンの上昇により圧縮され、この高圧の混合気が点火プラグに導かれて着火して爆発することで駆動力を得ることができ、排気弁の開放時に、燃焼後の排ガスが排気ポートから排出される。
【0004】
そして、上述した内燃機関において、ピストンの外周部には複数のピストンリングが装着されている。上方側に装着されるトップリング及びセカンドリング等の圧力リングは、ガスシール機能及び熱伝導機能を有し、その下方側に装着されるオイルリングは、オイルコントロール機能を有している。即ち、ガスシール機能は、内燃機関の吸気、圧縮、膨張、排気行程における燃焼室の機密性を確保するものであり、特に、燃焼室における燃焼ガスの膨張によりピストンが圧力を受けて下降するが、このとき、燃焼ガスがシリンダボアとピストンとの隙間を通ってクランクケース内に漏れないように、ピストンリングがシリンダボアの壁面に接して機密性を確保している。また、熱伝導機能は、ピストンリングがシリンダボアの壁面に接することで、ピストンの熱をシリンダボア側に逃がし、ピストンやピストンリングの性能を確保するものである。更に、オイルコントロール機能は、潤滑油を必要最小限の量だけシリンダボアの壁面に残し、余分な潤滑油をかき落として回収するものである。
【0005】
ところで、燃焼室で燃焼後に発生する排ガス(ブローバイガス)は、有害成分であるNOx(窒素酸化物)、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)などを含んでおり、上述したように、ピストンリングによりこの排ガスがクランクケース内に漏洩するのを防止している。この場合、トップリング及びセカンドリングは、自身の弾性力により外周面がシリンダボアの壁面に接することで機密性を確保し、燃焼室からクランクケース内への排ガスの漏洩を阻止している。
【0006】
ところが、内燃機関の高回転高負荷状態では、燃焼室における排ガスの圧力や温度がより一層高くなると共にシリンダボアが熱膨張するが、トップリング及びセカンドリングへの追従性が低下することで、ピストンリングの外周面とシリンダボアの壁面との機密性が低下し、燃焼室からクランクケース内への排ガスの漏洩を十分に阻止することができない。
【0007】
このような問題点を解決するものとして、例えば、下記特許文献1から6に記載されたものがある。特許文献1に記載されたエンジンのピストンリングは、外周部を熱膨張率の低い、内周部を熱膨張率の高い異なる金属で構成したものである。また、特許文献2に記載されたピストンリングは、シリンダの内径壁に接して設けた耐熱耐摩耗性金属からなる外側リングに対して、その内側に熱膨張率の大きい金属からなる内側金属を一体結合したものである。特許文献3に記載されたピストンリングは、厚みを合口の反対側で厚くし、その他の部分を合口の反対側の厚みより薄くしたものである。特許文献4に記載された内燃機関のピストンリングは、半径方向外方に働く面圧を、円周方向に不平衡とする不平衡力発生機構を設けたものである。特許文献5に記載された内燃機関のピストンリングは、リング本体の内周面にバックリングを結合し、このバックリングの膨張係数をリング本体の膨張係数より大きくしたものである。特許文献6に記載された組合せピストンリングは、金属リングの内側に中間樹脂リングと内周樹脂リングからなる樹脂製リングを固定し、中間樹脂リングと内周樹脂リングにおける合口の突き当たる温度を相違したものである。
【0008】
【特許文献1】特開平06−066371号公報
【特許文献2】特開昭61−136060号公報
【特許文献3】実開昭56−015437号公報
【特許文献4】実開昭62−084648号公報
【特許文献5】実開昭55−139242号公報
【特許文献6】特開2004−116648号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、ピストンリングは、ピストンのリング溝に装着する際、その内径を一旦ピストンの外径以上になるように押し広げる必要があり、また、ピストンのリング溝に装着され、シリンダ内に装着された後は、シリンダ内壁に対して張力を発生することによりシリンダ内壁との密着を図るため、1箇所に合口と呼ばれる切れ目を設けている。この合口は、低温時と高温時における熱膨張差を吸収する役目を有している。そのため、ピストンリングの周方向における面圧分布、つまり、ピストンリングの外周面がシリンダボアの壁面を押圧する面圧は、周方向において、この合口端部の近傍が最も高いものとなっている。
【0010】
そして、上述した特許文献1のエンジンのピストンリングのように、外周部を熱膨張率の低い金属とし、内周部を熱膨張率の高い金属とすると、高温時には、外周部に対して内周部が大きく膨張することから、ピストンリング全体の面圧が高くなると共に、合口端部での面圧が局部的により高くなる。すると、ピストンが上下動するとき、ピストンリングの合口端部とシリンダボアの壁面との摺動抵抗が局所的に高くなり、ピストンリングの合口端部やシリンダボアの壁面が局所的に摩耗してしまい、潤滑油の消費量が増加したり、燃焼室からクランクケース内へ漏洩する排ガス量が増加したりして、燃費悪化、出力低下、潤滑油の劣化、騒音の増大などを招いてしまうという問題がある。
【0011】
また、上述した特許文献2から6のように、ピストンリングを内側と外側で異なる材料により構成しても、上述したように、低温時と高温時とで、ストンリング全体の面圧に対して合口端部での面圧が高くなり、局所的な摩耗に伴って潤滑油の消費量が増加したり、排ガス漏洩量が増加したりしてしまう。
【0012】
本発明は、このような問題を解決するためのものであって、内燃機関の運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保すると共に合口部付近における面圧を低減して周方向における面圧の均一化を図ることで摺動面の摩耗を抑制可能としたピストンリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明のピストンリングは、内燃機関用ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着される略円形状をなし、シリンダに対して摺動する外周面と前記ピストンに対向する内周面と上面と下面とからなり、前記略円形状を半径方向に分断する一つの合口部を備えるピストンリングにおいて、前記合口端面から周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域を除く周方向における中間領域で、内周部が外周部より熱膨張率の高い材料により形成されたことを特徴とするものである。
【0014】
本発明のピストンリングでは、前記中間領域は、外周部が低熱膨張材料により形成され、内周部が高熱膨張材料により形成されたことを特徴としている。
【0015】
本発明のピストンリングでは、前記合口端部領域は、外周部が高熱膨張材料により形成され、内周部が低熱膨張材料により形成されたことを特徴としている。
【0016】
本発明のピストンリングでは、前記合口端部領域は、外周部が低熱膨張材料により形成され、内周部が高熱膨張材料により形成されると共に、前記合口端面に向かって、前記外周部の低熱膨張材料の厚さが直線的あるいは曲線的に増加する一方、前記内周部の高熱膨張材料の厚さが減少することを特徴としている。
【0017】
本発明のピストンリングでは、前記合口端部領域は、外周部が前記中間領域における外周部の低熱膨張材料と同じ低熱膨張材料により形成され、内周部が該低熱膨張材料より熱膨張率が高くて前記中間領域における内周部の高熱膨張材料より熱膨張率の低い中熱膨張材料により形成されたことを特徴としている。
【0018】
本発明のピストンリングでは、前記中間領域は、外周部の低熱膨張材料の厚さと内周部の高熱膨張材料の厚さが同じに形成され、前記中間領域における前記合口部と径方向に対向する合口対向領域は、内周部の高熱膨張材料の厚さが外周部の低熱膨張材料の厚さより薄く形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
本発明のピストンリングによれば、内燃機関用ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着される略円形状をなし、シリンダに対して摺動する外周面とピストンに対向する内周面と上面と下面とからなり、略円形状を半径方向に分断する一つの合口部を設けて構成し、合口端面から周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域を除く周方向における中間領域で、内周部を外周部より熱膨張率の高い材料により形成したので、高温時、中間領域では、外周部に比べて内周部が大きく膨張することから、この中間領域における張力が高くなるが、合口端部領域では、外周部と内周部との膨張差がなくこの合口端部領域における張力は変化せず、周方向における面圧の均一化を図ることができ、ピストンの上下動時に、ピストンリングの合口端部とシリンダボアの壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、ピストンリングの合口端部やシリンダボアの壁面などの摺動面の摩耗を抑制することができ、内燃機関の運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下に、本発明に係るピストンリングの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
図1は、本発明の実施例1に係るピストンリングとしてのトップリングを表す平面図、図2は、実施例1のトップリングの装着状態を表す図1のII−II断面図、図3は、実施例1のトップリングの装着状態を表す図1のIII−III断面図、図4は、実施例1のトップリングにおける面圧分布を表す概略図、図5は、一般的なエンジンの縦断面図、図6は、ピストンリングが装着されたピストンの要部断面図である。
【0022】
実施例1の内燃機関は、多気筒エンジンであり、図5に示すように、シリンダヘッド11はシリンダブロック12上に組み付けられ、複数の図示しない締結ボルトにより締結されている。シリンダブロック12には複数のシリンダボア13が形成され、各シリンダボア13にピストン14が摺動自在に嵌合している。そして、シリンダブロック12の下部に図示しないクランクシャフトが回転自在に支持されており、各ピストン14はコネクティングロッド15を介してこのクランクシャフトに連結されている。
【0023】
シリンダブロック12の各シリンダボア13に対応してその上方に燃焼室16が直列するように形成されている。この燃焼室16は、シリンダボア13の内壁面と、シリンダヘッド11の下面と、ピストン14の頂面により囲繞されており、天井部(シリンダヘッド11の下面)の中央部が高くなるように傾斜したペントルーフ形状をなしている。そして、この各燃焼室16の上方、つまり、シリンダヘッド11の下面に吸気ポート17と、排気ポート18が対向して開口している。
【0024】
そして、この吸気ポート17及び排気ポート18に対して吸気弁19及び排気弁20がそれぞれ位置している。この吸気弁19及び排気弁20は、シリンダヘッド11に固定された各ステムガイド21,22により軸方向に沿って移動自在に支持されると共に、各バルブスプリング23,24により上方、つまり、吸気ポート17及び排気ポート18を閉止する方向に付勢支持されている。また、吸気弁19及び排気弁20は、上端部にローラロッカアーム25,26の一端部が連結され、このローラロッカアーム25,26の他端部はシリンダヘッド11に固定されたラッシュアジャスタ27,28に連結されており、吸気カムシャフト29の吸気カム30及び排気カムシャフト31の排気カム32が各ローラロッカアーム25,26に接触している。
【0025】
従って、エンジンに同期して吸気カムシャフト29及び排気カムシャフト31が回転すると、吸気カム30及び排気カム32がローラロッカアーム25,26を作動させ、各吸気弁19及び排気弁20が所定のタイミングで上下動することで、吸気ポート17及び排気ポート18を開閉し、吸気ポート17と燃焼室16、燃焼室16と排気ポート18とをそれぞれ連通することができる。
【0026】
燃焼室16の側部、つまり、吸気ポート17側のシリンダヘッド11の下面には、この燃焼室16に直接燃料を噴射するインジェクタ33が装着されている。また、燃焼室16の天井部中央、つまり、吸気ポート17と排気ポート18の間のシリンダヘッド11の下面には、点火プラグ34が装着されている。そして、車両には、電子制御ユニット(ECU)が搭載されており、このECUは、インジェクタ33の燃料噴射量や噴射時期、点火プラグ34による点火時期などを制御可能となっており、検出した吸入空気量、スロットル開度(アクセル開度)、エンジン回転数などのエンジン運転状態に基づいて燃料噴射量、噴射時期、点火時期などを決定している。
【0027】
また、上述したピストン14は、図5及び図6に示すように、ピストン本体41の外周面42に3つのピストンリング51,52,53が装着されて構成されている。そして、このピストン本体41は、シリンダボア13の内径より若干小さい外径を有する円柱形状をなし、外周面42がシリンダボア13の内壁面と所定のクリアランスを有している。また、ピストン本体41は、上部に燃焼室16を区画形成する頂面43を有している。
【0028】
また、ピストン本体41は、外周面に周方向に沿って所定深さを有する3つのリング溝44,45,46が上下方向に対して所定間隔で形成されている。そして、各リング溝44,45,46に、ピストンリングとしてのトップリング51、セカンドリング52、オイルリング53を装着しており、外周面42は、トップランド42a、セカンドランド42b、サードランド42cとして区画されている。
【0029】
この場合、ピストン本体41の頂面43側に位置するトップリング51及びセカンドリング52は、ガスシール機能及び熱伝導機能を有している。即ち、トップリング51及びセカンドリング52は、エンジンの吸気、圧縮、膨張、排気行程における燃焼室16の機密性を確保することができるものであり、特に、燃焼室16における燃焼ガスの膨張によりピストン14が圧力を受けて下降するが、トップリング51及びセカンドリング52が張力をもってシリンダボア13の壁面に接することで、排ガスがピストン14とシリンダボア13との隙間を通ってクランクケース内に漏れないように機能している。また、トップリング51及びセカンドリング52は、外周面がシリンダボア13の壁面に接することで、ピストン14の熱をシリンダボア13側に逃がし、ピストン14やトップリング51及びセカンドリング52の性能を確保することができる。
【0030】
また、セカンドリング52とその下方側に装着されるオイルリング53は、外周面がシリンダボア13の壁面に接することで、ピストン14の下降時にシリンダボア13の壁面に付着している潤滑油をかき落とし、必要最小限の量の潤滑油をシリンダボア13の壁面に残し、余分な潤滑油を回収することができる。
【0031】
ところで、内燃機関の高回転高負荷状態では、燃焼室16における燃焼ガスの圧力や温度がより一層高くなると共にシリンダボア13が熱膨張する一方、トップリング51やセカンドリング52は、シリンダボア13への追従性が低下することで張力が低下し、燃焼室16からクランクケース内への排ガスの漏洩を十分に阻止することができない。
【0032】
また、トップリング51及びセカンドリング52は、ピストン14のリング溝44,45に装着する際、その内径を一旦ピストン14の外径以上になるように押し広げる必要があり、また、ピストン14のリング溝44,45に装着され、シリンダ内に装着された後は、シリンダボア13の内壁に対して張力を発生することによりシリンダ内壁との密着を図るため、1箇所に合口と呼ばれる切れ目を設けている。この合口において、低温時と高温時における熱膨張差を吸収するために、合口隙間が設けられている。そのため、このトップリング51及びセカンドリング52をピストン14のリング溝44,45に装着した状態では、周方向における面圧分布、つまり、外周面がシリンダボア13の壁面を押圧する面圧は、周方向で合口端部の近傍が最も高いものとなる。すると、ピストン14が上下動するとき、トップリング51及びセカンドリング52の外周面とシリンダボア13の壁面との摺動抵抗が局所的に高くなり、これらの摺動面が摩耗してしまい、種々の問題を招いてしまう。
【0033】
そこで、本実施例では、図1乃至図3に示すように、トップリング51にて、合口隙間Sをもって対向する合口端面から周方向に沿って所定長さを有する各合口端部領域A1,A2を除く周方向における中間領域Bで、内周部を外周部より熱膨張率の高い材料により形成している。
【0034】
具体的に説明すると、トップリング51は、合口隙間Sをもって対向する合口端面51a,51bから周方向に沿って所定長さを有する2つの合口端部領域A1,A2が設けられると共に、この各合口端部領域A1,A2を除く周方向に沿って所定の長さを有する中間領域Bが設けられている。この中間領域Bにて、外周部54が低熱膨張材料により形成され、内周部55が高熱膨張材料により形成されている。また、各合口端部領域A1,A2にて、外周部56a,56bが高熱膨張材料により形成され、内周部57a,57bが低熱膨張材料により形成されている。
【0035】
この場合、高熱膨張材料は、例えば、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)合金により構成され、低熱膨張材料は、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)合金により構成されている。そして、中間領域Bにおける外周部54と内周部55、合口端部領域A1,A2における外周部56a,56bと内周部57a,57bとは、それぞれ溶着や圧着、または接着剤をもって貼り合わされている。また、中間領域Bにおける外周部54及び内周部55と、合口端部領域A1,A2における外周部56a,56b及び内周部57a,57bとは、溶着や圧着、または接着剤、ろう付け、機械的接合等をもって貼り合わされている。
【0036】
そのため、低温状態では、単に外周部を低熱膨張材料により形成して内周部を高熱膨張材料により形成した従来例のピストンリングと、中間領域Bにおける外周部54を低熱膨張材料により形成して内周部55を高熱膨張材料により形成すると共に、合口端部領域A1,A2における外周部56a,56bを高熱膨張材料により形成して内周部57a,57bを低熱膨張材料により形成した実施例1のトップリング51は、合口隙間Sをもって対向する合口端部における張力(シリンダボアから受ける面圧、以下、単に面圧と称する。)が、その他の部分における張力(面圧)よりも局所的に大きくなっている。
【0037】
ところが、内燃機関の運転状態では、ピストンリングが燃焼ガスにより加熱され、合口端部が高温化された燃焼ガスに曝された高温状態となるため、この高温状態では、従来のピストンリングは、図4に点線で示すように、外周部に比べて内周部が大きく膨張することから、合口隙間Sをもって対向する合口端部における張力(面圧)が、その他の部分における張力(面圧)よりも一層大きくなる。一方、実施例1のトップリング51は、図4に一点鎖線で示すように、中間領域Bでは外周部54に比べて内周部55が大きく膨張するが、合口端部領域A1,A2では反対に内周部57a,57bに比べて外周部56a,56bが大きく膨張することから、この合口端部領域A1,A2の張力(面圧)が抑制されることとなり、合口端部領域A1,A2及び中間領域Bを含む全ての領域における張力(面圧)が周方向で均一化される。
【0038】
ここで、本実施例のピストンリングを有する内燃機関における作用を説明する。
【0039】
図5に示すように、エンジンの運転時には、ピストン14が上昇し燃焼室16の混合気が圧縮され、高圧の混合気に点火することで膨張して爆発するが、爆発後の燃焼ガス、つまり、排ガスには、有害成分であるNOx、HC、COが含まれている。そのため、ピストン14の上下動時に、このピストン14の外周面に装着されたトップリング51及びセカンドリング52がシリンダボア13の内壁面に摺接することで、燃焼室16の排ガスがピストン14とシリンダボア13との隙間を通ってクランクケースに漏洩することを防止することができる。
【0040】
そして、本実施例では、トップリング51は、中間領域Bの外周部54が低熱膨張材料により形成され、内周部55が高熱膨張材料により形成される一方、合口端部領域A1,A2の外周部56a,56bが高熱膨張材料により形成され、内周部57a,57bが低熱膨張材料により形成されている。そのため、このトップリング51が高温状態になると、中間領域Bでは、外周部54に比べて内周部55が大きく膨張することから、この中間領域Bにおける張力が高くなるが、合口端部領域A1,A2では反対に、内周部57a,57bに比べて外周部56a,56bが大きく膨張することから、この合口端部領域A1,A2における張力は高くならない。
【0041】
そのため、トップリング51は、周方向における面圧が均一化されることとなり、ピストン14の上下動時に、トップリング51の合口端部とシリンダボア13の壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、燃焼室16の排ガスがピストン14とシリンダボア13との隙間を通ってクランクケースに漏洩することが確実に防止される。その結果、燃焼室16から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量が低減されることから、図示しないオイルパンに貯留されている潤滑油の劣化が抑制される。
【0042】
このように実施例1のピストンリングにあっては、ピストン14の外周面に図6に示すリング溝44,45,46を形成し、このリング溝44,45,46にトップリング51、セカンドリング52、オイルリング53を装着し、このトップリング51にて、合口隙間Sをもって対向する合口端面51a,51bから周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域A1,A2を除く周方向における中間領域Bで、内周部57a,57bを外周部56a,56bより熱膨張率の高い材料により形成している。
【0043】
従って、高温時、中間領域Bでは、外周部54に比べて内周部55が大きく膨張することから、この中間領域Bにおける張力は高くなるが、合口端部領域A1,A2では、内周部57a,57bに比べて外周部56a,56bが大きく膨張することから、この合口端部領域A1,A2における張力は高くならず、周方向における面圧の均一化を図ることができ、ピストン14の上下動時に、トップリング51の端部とシリンダボア13の壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、トップリング51の合口端部やシリンダボア13の壁面などの摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0044】
また、実施例1では、トップリング51は、中間領域Bで、温度上昇に応じて、外周部54に対して内周部55が大きく膨張することから、低温時に比べて高温時の方が張力が高くなるため、エンジンの高負荷領域でも、燃焼室16から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量を確実に低減することができ、エンジンの運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保することができる。
【実施例2】
【0045】
図7は、本発明の実施例2に係るピストンリングとしてのトップリングを表す要部平面図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0046】
実施例2では、図7に示すように、トップリング61は、外周部62が低熱膨張材料により形成され、内周部63が高熱膨張材料により形成され、合口隙間S側の合口端面61a,61bに向かって、外周部62の低熱膨張材料の厚さが増加する一方、内周部63の高熱膨張材料の厚さが減少するようにしている。
【0047】
即ち、トップリング61は、外周部62が低熱膨張材料により形成され、内周部63が高熱膨張材料により形成されている。また、トップリング61は、合口隙間Sをもって対向する合口端面61a,61bから周方向に沿って所定長さを有する2つの合口端部領域A1,A2が設定されると共に、この合口端部領域A1,A2を除く周方向に沿って所定の長さを有する中間領域Bが設定されている。そして、この中間領域Bでは、低熱膨張材料で形成された外周部62の厚さD1と、高熱膨張材料で形成された内周部63の厚さD2が同じ厚さ設定されている。一方、合口端部領域A1,A2では、低熱膨張材料で形成された外周部62の厚さD1が合口端面61a,61bに向かって増加する一方、高熱膨張材料で形成された内周部63の厚さD2が合口端面61a,61bに向かって減少しており、合口端面61a,61bにおける内周部63の厚さD2がほぼ0となるようにしている。なお、合口端部領域A1,A2にて、外周部62の厚さD1は、合口端面61a,61bに向かって直線的あるいは曲線的に増加するように変化する一方、内周部63の厚さD2が合口端面61a,61bに向かって直線的あるいは曲線的に減少するように変化するように形成することが望ましい。
【0048】
そのため、本実施例のトップリング61は、低温状態では、合口隙間Sをもって対向する合口部の端部における張力(面圧)が、その他の部分における張力(面圧)よりも局所的に大きくなっているが、高温状態では、外周部62に比べて内周部63が大きく膨張するが、合口端部領域A1,A2では、高熱膨張材料で形成された内周部63の厚さD2が合口端面61a,61bに向かって減少しているため、膨張量が合口端面61a,61bに向かって減少することとなり、中間領域Bの面圧に比べてこの合口端部領域A1,A2の面圧が低減されることとなり、合口端部領域A1,A2及び中間領域Bを含む全ての領域における面圧が周方向で均一化される。
【0049】
従って、ピストンの上下動時に、トップリング61の合口端部とシリンダボアの壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、燃焼室の排ガスがピストンとシリンダボアとの隙間を通ってクランクケースへ漏洩することが確実に防止される。その結果、燃焼室から合口隙間Sを通ってクランクケースの漏洩する排ガス量が低減されることから、オイルパンに貯留されている潤滑油の劣化が抑制される。
【0050】
このように実施例2のピストンリングにあっては、トップリング61にて、外周部62を低熱膨張材料により形成し、内周部63を高熱膨張材料により形成し、合口隙間S側の合口端面61a,61bに向かって、外周部62の低熱膨張材料の厚さを増加する一方、内周部63の高熱膨張材料の厚さを減少するようにしている。なお、外周部62の低熱膨張材料の厚さの増加する変化量は、合口端部領域A1,A2内から合口端面61a,61bに向かうにつれて曲線状または直線状に形成することが好ましい。
【0051】
従って、高温時、中間領域Bでは、外周部62に比べて内周部63が大きく膨張することから、この中間領域Bにおける張力は高くなるが、合口端部領域A1,A2では、内周部63の厚さが合口端面61a,61bに向かって減少していることから、内周部63の膨張量が合口端面61a,61bに向かって減少することとなり、合口端部領域A1,A2における面圧は高くならず、周方向における面圧の均一化を図ることができ、ピストンの上下動時に、トップリング61の端部とシリンダボアの内壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、トップリング61の合口端部やシリンダボアの壁面などの摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0052】
また、実施例2では、トップリング61は、中間領域Bで、温度上昇に応じて、外周部62に対して内周部63が大きく膨張することから、低温時に比べて高温時の方が張力が高くなるため、エンジンの高負荷領域でも、燃焼室から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量を確実に低減することができ、エンジンの運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保することができる。
【実施例3】
【0053】
図8は、本発明の実施例3に係るピストンリングとしてのトップリングを表す平面図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0054】
実施例3では、図8に示すように、トップリング71は、外周部72が低熱膨張材料により形成され、内周部73が高熱膨張材料により形成され、合口隙間S側の合口端面71a,71bに向かって、外周部72の低熱膨張材料の厚さが増加する一方、内周部73の高熱膨張材料の厚さが減少すると共に、合口隙間Sと径方向に対向する周方向における中央部で、内周部73の厚さが外周部72の厚さより薄く形成されている。
【0055】
即ち、トップリング71は、外周部72が低熱膨張材料により形成され、内周部73が高熱膨張材料により形成されている。また、トップリング71は、合口隙間Sをもって対向する合口端面71a,71bから周方向に沿って所定長さを有する2つの合口端部領域A1,A2が設定されると共に、この合口端部領域A1,A2を除く周方向に沿って所定の長さを有する中間領域Bが設定され、この中間領域Bにおける合口隙間Sと径方向に対向する位置に周方向に沿って所定長さを有する合口対向領域Cが設定されている。そして、この合口対向領域Cを除く中間領域Bでは、低熱膨張材料で形成された外周部72の厚さD1と、高熱膨張材料で形成された内周部73の厚さD2が同じ厚さ設定されている。一方、合口端部領域A1,A2では、低熱膨張材料で形成された外周部72の厚さD1が合口端面71a,71bに向かって増加する一方、高熱膨張材料で形成された内周部73の厚さD2が合口端面71a,71bに向かって減少しており、合口端面71a,71bにおける内周部73の厚さD2がほぼ0となるようにしている。更に、合口対向領域Cにて、高熱膨張材料で形成された内周部73の厚さD2が、低熱膨張材料で形成された外周部72の厚さD1より薄く設定されている。
【0056】
そのため、低温状態では、本実施例のトップリング71は、合口隙間Sをもって対向する合口端部における張力(面圧)が、その他の部分における張力(面圧)よりも局所的に大きくなると共に、合口隙間Sと対向する合口対向部における張力(面圧)が、その他の部分における張力(面圧)よりも若干大きくなっている。ところが、高温状態では、トップリング71は、外周部72に比べて内周部73が大きく膨張するが、合口端部領域A1,A2では、高熱膨張材料で形成された内周部73の厚さD2が端面71a,71bに向かって減少しているため、膨張量が合口端面71a,71bに向かって減少することとなり、中間領域Bの面圧に比べて、合口端部領域A1,A2の面圧が低減されることとなる。また、合口対向領域Cでは、高熱膨張材料で形成された内周部73の厚さD2が低熱膨張材料で形成された外周部72の厚さD1より薄くなっているため、膨張量が減少することとなり、中間領域Bの面圧に比べて、合口対向領域Cの面圧が若干低減されることとなる。その結果、合口端部領域A1,A2と合口対向領域Cにおける面圧が低下し、合口端部領域A1,A2と合口対向領域Cの負荷を減らすことができる。
【0057】
従って、ピストンの上下動時に、トップリング71の合口端部とシリンダボアの内壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、燃焼室の排ガスがピストンとシリンダボアとの隙間を通ってクランクケースに漏洩することが確実に防止される。その結果、燃焼室から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量が低減されることから、オイルパンに貯留されている潤滑油の劣化が抑制される。
【0058】
このように実施例3のピストンリングにあっては、トップリング71にて、外周部72を低熱膨張材料により形成し、内周部73を高熱膨張材料により形成し、合口隙間S側の合口端面71a,71bに向かって、外周部72の低熱膨張材料の厚さを増加する一方、内周部73の高熱膨張材料の厚さを減少すると共に、合口隙間Sと径方向に対向する周方向における中央部で、内周部73の厚さを外周部72の厚さより薄く形成するようにしている。
【0059】
従って、高温時、中間領域Bでは、外周部72に比べて内周部73が大きく膨張することから、この中間領域Bにおける張力は高くなるが、合口端部領域A1,A2では、内周部73の厚さが合口端面71a,71bに向かって減少していることから、内周部63の膨張量が合口端面61a,61bに向かって減少し、合口端部領域A1,A2における張力は高くならず、また、合口対向領域Cでは、内周部73の厚さが外周部72の厚さより薄くなっていることから、内周部73の膨張量が中間領域Bに比べて若干減少し、合口対向領域Cにおける張力はそれほど高くならず、合口端部領域A1,A2と合口対向領域Cにおける高温時の張力を下げ、トップリング71の負荷を低減することができ、ピストンの上下動時に、トップリング71の合口端部とシリンダボアの内壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、トップリング71の合口端部やシリンダボアの壁面などの摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0060】
また、実施例3では、トップリング71は、中間領域Bで、温度上昇に応じて、外周部72に対して内周部73が大きく膨張することから、低温時に比べて高温時の方が張力が高くなるため、エンジンの高負荷領域でも、燃焼室から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量を確実に低減することができ、エンジンの運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保することができる。
【実施例4】
【0061】
図9は、本発明の実施例4に係るピストンリングとしてのトップリングを表す要部平面図である。なお、前述した実施例で説明したものと同様の機能を有する部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0062】
実施例4では、図9に示すように、トップリング81は、外周部82が低熱膨張材料により形成され、内周部83が高熱膨張材料により形成されると共に、合口隙間Sをもって対向する合口端面81a,81bから周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域A1,A2で、内周部84a,84bが外周部82の低熱膨張材料より熱膨張率が高く内周部83高熱膨張材料より熱膨張率の低い中熱膨張材料により形成されている。
【0063】
即ち、トップリング81は、外周部82が低熱膨張材料により形成され、内周部83が高熱膨張材料により形成されている。また、トップリング81は、合口隙間Sをもって対向する合口端面81a,81bから周方向に沿って所定長さを有する2つの合口端部領域A1,A2が設定されると共に、この合口端部領域A1,A2を除く周方向に沿って所定の長さを有する中間領域Bが設定されている。そして、高熱膨張材料により形成された内周部83は、この中間領域Bだけに設けられ、合口端部領域A1,A2における内周部84a,84bは、外周部82の低熱膨張材料より熱膨張率が高く、且つ、内周部83の高熱膨張材料より熱膨張率の低い中熱膨張材料により形成されている。
【0064】
そのため、本実施例のトップリング81は、低温状態では、合口隙間Sをもって対向する合口端部における張力(面圧)が、その他の部分における張力(面圧)よりも局所的に大きくなっているが、高温状態では、外周部82に比べて内周部83が大きく膨張するが、合口端部領域A1,A2では、中熱膨張材料により形成された内周部84a,84bが、高熱膨張材料により形成された内周部83より膨張しないため、中間領域Bの張力(面圧)に比べて合口端部領域A1,A2の張力(面圧)が低減されることとなり、合口端部領域A1,A2及び中間領域Bを含む全ての領域における張力(面圧)が周方向で均一化される。
【0065】
従って、ピストンの上下動時に、トップリング81の合口端部とシリンダボアの壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、燃焼室の排ガスがピストンとシリンダボアとの隙間を通ってクランクケースへ漏洩することが確実に防止される。その結果、燃焼室から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量が低減されることから、オイルパンに貯留されている潤滑油の劣化が抑制される。
【0066】
このように実施例4のピストンリングにあっては、トップリング81にて、外周部82を低熱膨張材料により形成し、内周部83を高熱膨張材料により形成すると共に、合口隙間Sをもって対向する合口端面81a,81bから周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域A1,A2で、内周部84a,84bを外周部82より熱膨張率が高くて内周部83より熱膨張率の低い中熱膨張材料により形成している。
【0067】
従って、高温時、中間領域Bでは、外周部82に比べて内周部83が大きく膨張することから、この中間領域Bにおける張力は高くなるが、合口端部領域A1,A2では、内周部84a,84bが外周部82より熱膨張率が高くて内周部83より熱膨張率の低い中熱膨張材料により形成されていることから、内周部84a,84bの膨張量が減少することとなり、合口端部領域A1,A2における面圧はそれほど高くならず、周方向における面圧の均一化を図ることができ、ピストンの上下動時に、トップリング81の合口端部とシリンダボアの内壁面との摺動抵抗が局所的に高くなることはなく、トップリング81の合口端部やシリンダボアの内壁面などの摺動面の摩耗を抑制することができる。
【0068】
また、実施例4では、トップリング81は、中間領域Bで、温度上昇に応じて、外周部82に対して内周部83が大きく膨張することから、低温時に比べて高温時の方が張力が高くなるため、エンジンの高負荷領域でも、燃焼室から合口隙間Sを通ってクランクケースへ漏洩する排ガス量を確実に低減することができ、エンジンの運転状態に拘らず安定したガスシール機能を確保することができる。
【0069】
なお、上述した各実施例において、合口端部領域A1,A2、中間領域B、合口対向領域Cの長さは、トップリング51,61,71,81の径や厚さ、材料、またはエンジン形態に応じて適宜設定すればよく、結果として、使用する温度領域で周方向における面圧が均一となればよいものである。
【0070】
また、上述した各実施例では、本発明のピストンリングをトップリング51,61,71,81に適用したが、セカンドリングに適用してもよい。
【0071】
そして、上述した各実施例では、燃料を直接燃焼室に噴射する筒内噴射式の内燃機関として説明したが、燃料を吸気ポートに噴射するポート噴射式内燃機関に適用しても前述と同様の作用効果を奏することができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
以上のように、本発明に係るピストンリングは、周方向における面圧の均一化を図ることで摺動面の摩耗を抑制可能とするものであり、いずれの種類の内燃機関に用いても好適である。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の実施例1に係るピストンリングとしてのトップリングを表す平面図である。
【図2】実施例1のトップリングの装着状態を表す図1のII−II断面図である。
【図3】実施例1のトップリングの装着状態を表す図1のIII−III断面図である。
【図4】実施例1のトップリングにおける面圧分布を表す概略図である。
【図5】一般的なエンジンの縦断面図である。
【図6】ピストンリングが装着されたピストンの要部断面図である。
【図7】本発明の実施例2に係るピストンリングとしてのトップリングを表す要部平面図である。
【図8】本発明の実施例3に係るピストンリングとしてのトップリングを表す平面図である。
【図9】本発明の実施例4に係るピストンリングとしてのトップリングを表す要部平面図である。
【符号の説明】
【0074】
11 シリンダヘッド
12 シリンダブロック
13 シリンダボア
14 ピストン
16 燃焼室
17 吸気ポート
18 排気ポート
33 インジェクタ
34 点火プラグ
41 ピストン本体
42 外周面
43 頂面
44,45,46 リング溝
51,61,71,81 トップリング(ピストンリング)
51a,51b,61a,61b,71a,71b,81a,81b 合口端面
52 セカンドリング(ピストンリング)
53 オイルリング(ピストンリング)
54,56a,56b,62,72,82 外周部
55,57a,57b,63,73,83,84a,84b 内周部
A1,A2 合口端部領域
B 中間領域
C 合口対向領域
S 合口隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関用ピストンの外周面に形成されたリング溝に装着される略円形状をなし、シリンダに対して摺動する外周面と前記ピストンに対向する内周面と上面と下面とからなり、前記略円形状を半径方向に分断する一つの合口部を備えるピストンリングにおいて、前記合口端面から周方向に沿って所定長さを有する合口端部領域を除く周方向における中間領域で、内周部が外周部より熱膨張率の高い材料により形成されたことを特徴とするピストンリング。
【請求項2】
前記中間領域は、外周部が低熱膨張材料により形成され、内周部が高熱膨張材料により形成されたことを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
前記合口端部領域は、外周部が高熱膨張材料により形成され、内周部が低熱膨張材料により形成されたことを特徴とする請求項2に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記合口端部領域は、外周部が低熱膨張材料により形成され、内周部が高熱膨張材料により形成されると共に、前記合口端面に向かって、前記外周部の低熱膨張材料の厚さが直線的あるいは曲線的に増加する一方、前記内周部の高熱膨張材料の厚さが減少することを特徴とする請求項2に記載のピストンリング。
【請求項5】
前記合口端部領域は、外周部が前記中間領域における外周部の低熱膨張材料と同じ低熱膨張材料により形成され、内周部が該低熱膨張材料より熱膨張率が高くて前記中間領域における内周部の高熱膨張材料より熱膨張率の低い中熱膨張材料により形成されたことを特徴とする請求項2に記載のピストンリング。
【請求項6】
前記中間領域は、外周部の低熱膨張材料の厚さと内周部の高熱膨張材料の厚さが同じに形成され、前記中間領域における前記合口部と径方向に対向する合口対向領域は、内周部の高熱膨張材料の厚さが外周部の低熱膨張材料の厚さより薄く形成されたことを特徴とする請求項2から5のいずれか一つに記載のピストンリング。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−57671(P2008−57671A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235886(P2006−235886)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(390022806)日本ピストンリング株式会社 (137)
【Fターム(参考)】