説明

ピストン燃焼室凹部の溶融処理されたエッジ部

本発明は、ピストンヘッド(2)に設けられた燃焼室凹部(3)を備えた、内燃機関に使用される、軽金属製のピストン(1)を製造するための方法に関する。この場合、凹部のエッジ部(4)は溶融処理される。このために、第1の方法段階で、前記燃焼室凹部(3)のエッジ部(4)を誘導加熱し、第2の方法段階で、前記凹部の、仕切りゾーンとも称呼されるエッジ部(4)の領域の材料をレーザ光線によって精製することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンヘッドに対応配置された、少なくとも部分的に溶融処理された燃焼室凹部を備えた、内燃機関に使用されるピストンを軽金属から製造するための方法に関する。
【0002】
内燃機関のピストンは、運転状態において燃焼室凹部が熱的に特に高い交番負荷にさらされ、これによってひび割れが発生する危険性がある。このようなひび割れを避けるために、耐熱性の鋼又は粉末冶金材料より成る挿入体がピストンヘッドに挿入することが公知である。このような形式の挿入体は、軽金属ピストンの重量を重くすることになるので不都合であり、また熱伝導率が悪くなり、それによって挿入体を包囲する軽金属は運転中に、強度を弱める温度に加熱される。また挿入体及び軽金属のそれぞれ異なる熱膨張率によって、不都合な応力が発生する。
【0003】
さらに、材料を鋳直しすることによって精製することも公知である。この方法は、材料に侵入する電荷担体光線が、直接的にその領域内に位置する少量の材料を溶融し、これに対して溶融ゾーンの周囲は冷たい状態に維持され、それによって溶融された材料は、電荷担体を取り除くか若しくは移動させると、強く冷やされ、直ちに再凝固することに基づいている。
【0004】
鋳直しすることによって、表面強度及び表面靱性が改善される。この場合、材料特性の変化は、溶融過程及び急冷過程によって生ぜしめられる組織変形に基づいている。
【0005】
ドイツ連邦共和国特許出願第21245595号明細書によれば、電荷担体光線が材料に侵入する際に、ピストンを鋳直し精製することが公知である。この方法における欠点は、電荷担体光線の範囲内に存在する小さい材料ゾーンが直接溶融されるという点にある。ドイツ連邦共和国特許公開第102005034905号明細書によれば、燃焼凹部を備えたピストンを製造するために、凹部の底部を溶融処理して、溶融処理されて溶けた、所定の深さの領域内において材料を変化させるようになっている。ドイツ連邦共和国実用新案登録第8028685号明細書によれば、ピストン材料内で局所的に規定された、ピストンの運転中に有利に作用する電圧比を生ぜしめるために、鋳直し処理を実施することが公知である。特開昭59−108849号公報によれば、高密度エネルギーによって燃焼室凹部の領域を局所的に鋳直し、電子ビーム、レーザ、プラズマ又はWIGプロセスが開示されている。ピストンの各領域を誘導加熱によって鋳直しする方法については、ドイツ連邦共和国特許公開第10335843号明細書に開示されている。この方法は、材料鋳直しの有効性を直接的に決定する深部への効果が限定的である、という欠点を有している。ヨーロッパ公開特許EP03003199号明細書に開示された、ピストンを製造するための方法によれば、溶融処理するためにアーク放電溶接法が用いられている。
【0006】
本発明の課題は、燃焼室凹部の高負荷されたゾーンの領域に局所的に、耐用年数を高める改良された材料継ぎ目を有するピストンを提供することである。
【0007】
この課題は、請求項1及び請求項8に記載した特徴によって解決された。
【0008】
請求項1による本発明は、2つの段階を包含する方法の組合せより成っている。鋳直しするために設けられた、燃焼室凹部は、第1の方法段階で誘導加熱される。次いで、凹部の、仕切りゾーンとも称呼されるエッジ部の材料が、第2の方法段階でレーザ光線によって鋳直しされ、それによって精製されるようにした。この方法段階は、短い時間的間隔で、できるだけ直接連続して実施される。選択的に本発明は、材料鋳直しも含んでおり、この場合、第1の方法段階としてレーザ溶融が行われ、このレーザ鋳直しに続いて誘導加熱が行われるようになっている。
【0009】
レーザ鋳直しプロセスによって、必要な深部への効果が得られる。もっぱらレーザ光線によって鋳直しを行うと、溶融物の過熱によって、及びそれに伴う高いガス吸収によって、強い穿孔形成が得られることを特徴としている。これに対して、純粋に誘導式の加熱によれば、得ようとする鋳直しの深部に達する作用は得られない。本発明による方法の組合せによれば、所望の効果的な鋳直し深さが得られ、しかもこの場合、溶融物の過熱は避けられる。
【0010】
燃焼室凹部のゾーンを、凹部のエッジ部の領域に限定して鋳直しするによって、及びプロセス特性に基づく迅速な凝固によって、凹部のエッジ部に酸化物の少ない微粒子状の材料構造が得られる。このような材料構造によって、強度が高められ、ひび割れ形成のリスクは効果的に減少される。しかも、以上の方法の組合せによって、場合によっては凹部のエッジに存在する酸化物は粉砕される。
【0011】
溶融処理された層の材料は、その下に位置するピストン材料に対して、大きさの小さい粒子を含む変化した構造を有しており、それによって、材料特性特に組織強度及びひいては強度が改善される。本発明による方法の組合せによって、形状強度が改善されると共に、鋳物組織特に熱的に強く負荷されるピストン領域の結晶化過程に有利な影響が及ぼされる。本発明による鋳直しによって、例えば温度分布が変化することに基づいて、ピストンの凹部のエッジ部が破壊されることは避けられる。凹部のエッジ部を、その他の作用面を除いて局所的に限定的に溶融処理した領域は、有効な効果を得るために十分である。このような、本発明によって安価に実現可能な手段によって、耐用年数が高められ、ひいては、軽金属より製造された本発明によるピストンの経済性が高められる。
【0012】
前記課題は、前記方法段階を確実に実施する、請求項8に記載した装置によって解決される。請求項8に記載した装置の手段によれば、誘導加熱によって凹部のエッジ部の材料を鋳直す手段も、またレーザ光線による処理手段も含んでいる。これらの手段は、凹部のエッジ部の領域内で組織構造に局所的に影響を及ぼすために、同期的に実施されるか、又は短い時間的連続で実施される。これによって、ピストンの、所定の深さにおける処理されていない領域と比較して、強度が改善され、ひいては高い耐用年数が得られるように、材料構造が変えられている。本発明の装置によれば、材料を鋳直しするために、有利な形式で2段階の溶融処理を選択的な連続が実施されるようになっており、この場合、まずレーザ光線処理が行われ、次いで誘導加熱処理が行われるようになっている。
【0013】
本発明によれば、ピストンヘッド部及び燃焼室凹部の特に異なる熱負荷を考慮するために、選択的に、溶融処理された環状の凹部のエッジ部に続いて、凹部のエッジ部の部分的に溶融処理された領域が続いている。
【0014】
本発明の方法によって処理されたピストンは、有利な形式でアルミニウム又はアルミニウム合金より成っている。非鉄材料は、非磁性であるので、特に誘導加熱時に金属の流動傾向が避けられる、という利点を提供する。従って、本発明による方法段階を、確実に所望の層厚に限定することができる。
【0015】
有利には、本発明の枠内で、誘導加熱及びレーザ光線処理を、ピストンの少なくとも燃焼室凹部の最終成形作業に従って実施するようにした。これによって、溶融処理された領域の形状を後作業で修正する必要がある、従来の鋳直し処理法に対して、費用的な利点が提供される。
【0016】
熱処理された材料ゾーンは、本発明に従って、≧150μm〜≦2mmの深さまで鋳直し処理されている。しかしながら、本発明の方法段階に基づいて、追加的な費用を必要とすることなしに、それよりも深く鋳直し処理することができる。例えば鋳直し後に得られた、表面の領域を、鋳直された材料層を完全に失うことなしに、切削加工によって後処理する場合に、有利である。使用されたレーザ光線、並びに誘導加熱及び/又は作用時間の出力によって、溶融処理された層の深さに影響を及ぼすことができる。鋳直し処理の終了後に、本発明によれば、150〜1050K/Secの冷却率が設けられている。溶融された表面層を迅速に凝固させることによって、組織を変形させて、粒子を所望に微細化し、溶融物内の粒子を微粒子状に結晶化することができる。溶融処理された凹部のエッジ部のために、有利には250〜600K/secの冷却率が設けられている。
【0017】
本発明の別の手段によれば、凹部のエッジ部の溶融処理を実施するために、ピストンがその長手方向軸線を中心にして回転せしめられるようになっている。このために、装置内に収容されたピストンを、熱処理若しくは鋳直し処理中に連続的に回転させるようにした。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明によるピストン1の縦断面図である。
【0019】
以下に本発明の実施例を図面を用いて詳しく説明する。
【0020】
図面は、主にピストン上部だけを示す、本発明によるピストン1の縦断面図である。
ピストン1のピストンヘッド2には、ピストン1内に深く延在する、円筒形に形成された燃焼室凹部3が対応配置されており、この燃焼室凹部3は、凹部3のエッジ部4によってピストンヘッド2に向かって先細りしている。改善されたより高い表面強度及び表面靭性を得るための手段として、特に強く熱負荷された凹部のエッジ部4が、2つの段階を有する方法で限定的に溶融処理されている。この方法段階を実施するために、図面に示されていない装置内に受容されたピストン1がその長手方向軸線5を中心にして回転せしめられる。この装置はさらに、局所的な領域、つまり燃焼室凹部3のエッジ部4を、所望に電気誘導式にレーザ光線で加熱するための手段を有している。熱的に処理された若しくは精製された、凹部のエッジ部4の鋳直しゾーンの深さ「S」の寸法は、≧150μm乃至≦2mmである。
【符号の説明】
【0021】
1 ピストン、 2 ピストンヘッド、 3 燃焼室凹部、 4 凹部のエッジ部、 5 長手方向軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンヘッド(2)に設けられた、少なくとも部分的に溶融処理された燃焼室凹部(3)を備えた、内燃機関に使用される、軽金属製のピストン(1)を製造するための方法において、
第1の方法段階で、前記燃焼室凹部(3)のエッジ部(4)を誘導加熱し、第2の方法段階で、前記凹部の、仕切りゾーンとも称呼されるエッジ部(4)の領域の材料をレーザ光線によって鋳直すことを特徴とする、内燃機関に装着されるピストン(1)を軽金属から製造するための方法。
【請求項2】
環状に溶融処理された凹部のエッジ部(4)の代わりに、各セクタ領域を処理する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
ピストン(1)のための材料としてアルミニウム又はアルミニウム合金が設けられている、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
凹部のエッジ部(4)の成形加工終了後に溶融処理を行う、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
凹部のエッジ部(4)を、≧150μm〜≦2mmの深さ「S」まで鋳直しする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
凹部のエッジ部(4)の溶融処理終了後に、150〜1050K/Secで材料の冷却を行う、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ピストン(1)を溶融処理中にその長手方向軸線(5)を中心にして回転させる、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項記載の、内燃機関に装着されるピストン(1)を軽金属から製造するための方法を実施するための装置において、
ピストンヘッド(2)に燃焼室凹部(3)が設けられていて、組織構造に局所的に影響を及ぼすために、該燃焼室凹部(3)のエッジ部(4)が誘導加熱され、次いでレーザ光線によって溶融処理されるようになっており、誘導加熱及びレーザ光線処理によって凹部のエッジ部(4)の材料を鋳直しする手段が設けられていることを特徴とする、内燃機関に装着されるピストン(1)を軽金属から製造するための方法を実施するための装置。

【図1】
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【公表番号】特表2010−531946(P2010−531946A)
【公表日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−513685(P2010−513685)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2008/003343
【国際公開番号】WO2009/003551
【国際公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【出願人】(504233247)カーエス コルベンシュミット ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (20)
【氏名又は名称原語表記】KS Kolbenschmidt GmbH
【住所又は居所原語表記】Karl−Schmidt−Strasse, D−74172 Neckarsulm, Germany
【Fターム(参考)】