説明

ピストン

【課題】上下ストロークするピストンに対し、ピストンジェットから噴射される冷却オイルが、補強壁で遮られることなく確実に天井裏面に到達して、ピストンを効率的に冷却することができるピストンを提供する。
【解決手段】ピストン23は、天井面51から垂下する一対のスカート部52と、一対のスカート部52を連結する一対の連結壁53と、スカート部52とピストンピンボス54間において一対の連結壁53を連結する一対の補強壁56とを有する。補強壁56の中間部は、ピストンピンボス54に接近する方向に屈曲する屈曲部56bを有し、ピストンジェット28から噴射される冷却オイルは、屈曲部56bの側方を通り、補強壁56の開口部60を通過して天井裏面58に到達してピストン23を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンに関し、特に、ピストンジェットから噴射される冷却オイルによって冷却される内燃機関のピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のエンジンの高性能化に伴ってピストンに対する熱負荷が増大する傾向があり、ピストンを冷却する手段の一つとして、ピストン下方に配置したピストンジェットからピストン裏面に向けて冷却オイルを噴射してピストンの温度上昇を抑制するようにしたピストン冷却装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。一方、ピストンピンが嵌装される一対のピストンピンボスを連結壁に連結すると共に、この一対の連結壁を一対の補強壁で接続して、重量増加を抑制しつつ、剛性を高めるようにしたピストンがある(例えば、特許文献2参照)。このタイプのピストンは、ピストンピンに嵌合するコネクティングロッドの小径部側の周囲が連結壁と補強壁によって囲まれた形状となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−301744号公報
【特許文献2】特開2001−289117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ピストンの天井裏面が連結壁と補強壁によって囲まれているタイプのピストンの場合、ピストンジェットから噴射する冷却オイルによって冷却するには、冷却オイルが補強壁を避けて天井裏面に到達するように設計する必要がある。特に、効果的に冷却するには、エンジンの発熱源であるピストン天井面の中心部近傍に冷却オイルを噴射することが望ましい。
【0005】
しかしながら、エンジン作動時にはピストンが上下にストロークするため、例えば、ピストンが下死点位置にあるとき、冷却オイルが天井裏面に到達するように設計されたピストンジェットによると、ピストンが下死点から上死点にストロークする途中で、ピストンジェットからの噴射冷却オイルが補強壁で遮られて天井裏面に到達できなくなる場合があった。また、上死点位置で冷却するように設計されたピストンジェットでも同様に、下死点へのストローク途中で噴射冷却オイルが補強壁で遮られて天井裏面に到達できなくなる場合があり、効果的に冷却するためには改善の余地があった。
【0006】
本発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、上下ストロークするピストンに対し、ピストンジェットから噴射される冷却オイルが、補強壁で遮られることなく確実に天井裏面に到達して、ピストンを効率的に冷却することができるピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1に係る発明は、ピストンの天井面から垂下する一対のスカート部と、ピストンピンが嵌装されるピストンピンボスを含み、一対のスカート部を連結する一対の連結壁と、スカート部とピストンピンボス間において一対の連結壁を連結する一対の補強壁とを有し、ピストンを冷却する冷却オイルを、クランクケースからピストンの天井裏面に向かって噴射するピストンジェットを備える内燃機関に嵌装されるピストンであって、ピストンの中心軸方向視において、両端の連結部によって一対の連結壁に連結する補強壁の中間部は、ピストンピンボスに接近又は離間する方向に屈曲する屈曲部又は湾曲する湾曲部を有することを特徴とする。
【0008】
請求項2に係る発明は、ピストンの天井面から垂下する一対のスカート部と、ピストンピンが嵌装されるピストンピンボスを含み、一対のスカート部を連結する一対の連結壁と、スカート部とピストンピンボス間において一対の連結壁を連結する一対の補強壁とを有し、ピストンを冷却する冷却オイルを、クランクケースからピストンの天井裏面に向かって噴射するピストンジェットを備える内燃機関に嵌装されるピストンであって、補強壁は、ピストンピンの中心軸方向視において、ピストンの中心軸に対して傾斜する傾斜部を有することを特徴とする。
【0009】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2の構成に加えて、補強壁の屈曲部、湾曲部、及び傾斜部は、ピストンの全ストロークにおいて、噴射される冷却オイルと干渉が生じない範囲で屈曲、湾曲又は傾斜することを特徴とする。
【0010】
請求項4に係る発明は、請求項1〜3のいずれか1項の構成に加えて、補強壁の屈曲部、湾曲部、及び傾斜部は、冷却オイルの噴射方向延長線と重なる部分にのみ設けられることを特徴とする。
【0011】
請求項5に係る発明は、請求項1、3、4のいずれか1項の構成に加えて、ピストンの中心軸方向の補強壁の高さは、屈曲部、及び湾曲部の高さが、連結壁との連結部の高さより低いことを特徴とする。
【0012】
請求項6に係る発明は、請求項5の構成に加えて、補強壁の高さは、連結部から屈曲部、又は湾曲部に向けて次第に低くなることを特徴とする。
【0013】
請求項7に係る発明は、請求項1〜6のいずれか1項の構成に加えて、補強壁は、ピストンピンを挟んで両側に配置される一対の補強壁からなり、一対の補強壁の内、ピストンジェットが配置される側の補強壁に、屈曲部、湾曲部、及び傾斜部が設けられることを特徴とする。
【0014】
請求項8に係る発明は、ピストンの天井面から垂下する一対のスカート部と、ピストンピンが嵌装されるピストンピンボスを含み、一対のスカート部を連結する一対の連結壁と、スカート部とピストンピンボス間において一対の連結壁を連結する一対の補強壁とを有し、ピストンを冷却する冷却オイルを、クランクケースからピストンの天井裏面に向かって噴射するピストンジェットを備える内燃機関に嵌装されるピストンであって、両端の連結部によって一対の連結壁に連結する補強壁の中間部は、ピストンの中心軸方向視において、ピストンピンボスに接近又は離間する方向に屈曲する屈曲部又は湾曲する湾曲部を有すると共に、ピストンピンの中心軸方向視において、ピストンの中心軸に対して傾斜する傾斜部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1の発明によれば、ピストンに設けられた一対の連結壁を連結する一対の補強壁は、中間部がピストンピンボスに接近又は離間する方向に屈曲する屈曲部又は湾曲する湾曲部を有するため、ピストンジェットからピストンの天井裏面に向かって噴射される冷却オイルと補強壁との干渉が、屈曲部又は湾曲部によって回避され、単一の噴射口からの冷却オイル噴射により、確実に冷却オイルを天井裏面に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
【0016】
請求項2の発明によれば、補強壁は、ピストンピンの中心軸方向から見たとき、ピストンの中心軸に対して傾斜して形成されているため、ピストンジェットからピストンの天井裏面に向かって噴射される冷却オイルと補強壁との干渉が回避されて、単一の噴射口から噴射する冷却オイルを、確実に天井裏面に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
【0017】
請求項3の発明によれば、補強壁の屈曲部、湾曲部、及び傾斜部は、ピストンの全ストロークにおいて、噴射される冷却オイルと干渉が生じない範囲で屈曲、湾曲又は傾斜するため、単一の噴射口を有するピストンジェットでも、ピストンの全ストロークで、冷却オイルを確実に天井裏面に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
【0018】
請求項4の発明によれば、補強壁の屈曲部、湾曲部、及び傾斜部は、冷却オイルの噴射方向延長線と重なる部分にのみ設けられるため、冷却オイルとの干渉を回避する補強壁の変形を最小限に抑制することができ、補強壁の補強強度を維持したまま冷却オイルとの干渉を回避することができる。
【0019】
請求項5の発明によれば、補強壁の高さ(ピストンの中心軸方向長さ)は、屈曲部、及び湾曲部の高さが、連結壁との連結部の高さより低いため、噴射冷却オイルを屈曲部、及び湾曲部近傍を通過させることで、連結壁との連結強度を維持したまま、補強壁との干渉を回避して冷却オイルを確実に天井裏面に到達させることができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、補強壁の高さは、連結部から屈曲部、又は湾曲部に向けて次第に低くなるようにしたため、補強壁に発生する応力の急激な変化を抑制して、補強壁の部分的な強度低下を防止することができる。
【0021】
請求項7の発明によれば、ピストンピンを挟んで両側に配置される一対の補強壁の内、ピストンジェットが配置される側の補強壁に、屈曲部、湾曲部、及び傾斜部が設けられるため、ピストンの成形型が簡素化されて、ピストンの成形性を向上することができる。
【0022】
請求項8の発明によれば、連結部によって一対の連結壁に連結する補強壁の中間部は、ピストンピンボスに接近又は離間する方向に屈曲する屈曲部又は湾曲する湾曲部を有すると共に、ピストンの中心軸に対して傾斜する傾斜部を有するため、ピストンジェットから噴射される冷却オイルと補強壁との干渉が確実に回避されて、冷却オイルを天井裏面に到達させることができる。これにより、高い冷却性能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るピストンの第1実施形態が嵌装される内燃機関を説明する縦断面図である。
【図2】ピストン上死点における図1に示すピストン周辺の拡大断面図である。
【図3】ピストン下死点における図1に示すピストン周辺の拡大断面図である。
【図4】図2に示すピストンのA‐A線断面図である。
【図5】第2実施形態のピストンのピストン上死点における要部拡大断面図である。
【図6】第2実施形態のピストンのピストン下死点における要部拡大断面図である。
【図7】第3実施形態のピストンの縦断面図である。
【図8】第3実施形態のピストンのピストン上死点における要部拡大断面図である。
【図9】第4実施形態のピストンの下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係るピストンの各実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【0025】
(第1実施形態)
まず、図1〜図4を参照して、本発明に係るピストンの第1実施形態について説明する。
【0026】
本実施形態のエンジン(内燃機関)10は、図1に示すように、水冷式エンジンであって、その主な外殻は、上クランクケース12及び下クランクケース13からなるクランクケース11と、クランクケース11の上端部に取り付けられるシリンダブロック14と、シリンダブロック14の上端部に取り付けられるシリンダヘッド15と、シリンダヘッド15の上部開口を覆うヘッドカバー16と、クランクケース11の側部開口を覆う不図示のケースカバーと、クランクケース11の下端開口を覆うオイルパン17と、によって構成され、クランク室18及び変速機室19が形成される。
【0027】
クランク室18内には、クランクケース11に配設された軸受により、クランクシャフト20が回動自在に支持される。このクランクシャフト20のクランクピン20aには、ピストン23のピストンピン21がコネクティングロッド22を介して接続されており、ピストン23は、シリンダブロック14のシリンダライナー24内でシリンダ軸線方向に往復運動する。
【0028】
また、クランクシャフト20は、不図示のポンプドライブスプロケット、ポンプチェーン、ポンプドリブンスプロケットを介してオイルポンプ25に接続されており、クランクシャフト20によって回転駆動されるオイルポンプ25が、オイルパン17に貯留されるエンジン用オイルをオイルストレーナ26から吸入し、オイルフィルタエレメント27を介して、後述するピストンジェット28を含む、シリンダブロック14、シリンダヘッド15、ヘッドカバー16、及びクランク室18内の各潤滑部に供給する。
【0029】
シリンダヘッド15には、吸気バルブ31が配置される吸気ポート32と、排気バルブ33が配置される排気ポート34が形成されており、吸気ポート32には、電子制御式のインジェクタ35を有するスロットルボディ36が組み付けられる。このスロットルボディ36は、不図示のエンジンコントロールユニットに接続・制御されており、このエンジンコントロールユニットの電気信号によって、エンジン10の回転数に応じた最適な混合気を吸気ポート32内に供給する。
【0030】
また、シリンダヘッド15の下面には、燃焼室37が形成されており、この燃焼室37に臨むように不図示のスパークプラグが装着される。シリンダヘッド15内には、動弁機構の2本のカム軸38が回動自在に支持されており、それぞれの端部に固定される不図示のカムドリブンスプロケットと、クランクシャフト20の中央部に設けられるカムドライブスプロケットとの間にカムチェーンが巻き掛けられている。これにより、クランクシャフト20の回転がカム軸38を介してカム39に伝達されて、吸気バルブ31及び排気バルブ33が所定のタイミングで開閉する。
【0031】
変速機室19内には、変速ギヤ機構を構成するメイン軸41、カウンタ軸42、シフトドラム43などが配設されている。メイン軸41は、クランクシャフト20と平行に配置され、クランクケース11(上クランクケース12)に回転自在に軸支されている。メイン軸41と、メイン軸41に平行に軸支されたカウンタ軸42との間には、変速段を設定する歯車列の集合である変速歯車列群が構成されている。
【0032】
シフトドラム43は、クランクケース11に回転自在に架設され、シフトドラム43の外周面に形成された3条のシフト溝43aに、ガイド軸44に摺動自在に支持されたシフトフォーク45a,45b,45cの各シフトピン45dが嵌合している。シフトドラム43の回動によりシフト溝43aにガイドされて軸方向に移動するシフトフォーク45aが、メイン軸41上のシフターを軸方向に移動させる。また、シフトフォーク45b,45cが、カウンタ軸42上のシフターを軸方向に移動させて噛み合う変速ギヤの組を変更する。
【0033】
ピストン23は、例えば、アルミニウム合金材料から形成されており、図2〜図4に示すように、最上端の円環状の天井部51と、天井部51の外周部から円弧状に垂下する一対のスカート部52と、一対のスカート部52の端部52a同士を連結する一対の連結壁53と、を備える。
【0034】
それぞれの連結壁53の略中央には、ピストンピンボス54が設けられている。ピストンピンボス54には、ピストン23の内外周側に開口するピストンピン孔55が貫通して形成され、このピストンピン孔55に挿入される中空状のピストンピン21に、コネクティングロッド22が嵌合してクランクシャフト20のクランクピン20aに連結されている。
【0035】
また、スカート部52とピストンピンボス54の間には、ピストンピン孔55の半径方向両側に対峙して、一対の補強壁56がピストンピン孔55の軸方向に設けられて、一対の連結壁53同士を連結する。一対の補強壁56は、連結壁53の下端53bから、ピストンピン21の中心軸CL1を含みピストン23の中心軸CL2に直交する仮想平面Nに亘って形成されている。即ち、一対の補強壁56は、両端の連結部56aが連結壁53に接続して、天井部51の天井裏面58から離間するブリッジ状に形成されている。これにより、天井裏面58と補強壁56との間に開口部60が形成される。また、両端の連結部56aによって、一対の連結壁53に連結する補強壁56の中間部は、ピストンピンボス54に接近する方向に略くの字形状に屈曲して形成される屈曲部56bを有する。なお、本実施形態では、一対の補強壁56の両者に屈曲部56bを設けているが、ピストンジェット28が配置される側(図2の左側)の補強壁56にだけ、屈曲部56bを設けるようにしてもよい。
【0036】
天井部51の上面には、窪み状の燃焼室57が形成されると共に、外周面に3本のピストンリング溝61,62,63が上方から順に形成されている。ピストンリング溝61,62は、コンプレッションリング溝であり、ピストンリング溝63は、オイルリング溝である。
【0037】
また、図2に示すように、シリンダブロック14と接合されるクランクケース11の前側上部には、シリンダライナー24に対向してピストンジェット28が配置されている。ピストンジェット28は、クランクシャフト20と略平行にクランクケース11で支持されるパイプであり、図中略上方に開口する噴射口71が径方向に明けられている。噴射口71は、天井裏面58と補強壁56との間に設けられた開口部60の軸方向中央付近、即ち、補強壁56の中間部である屈曲部56bに対応して配置されている。
【0038】
ピストンジェット(パイプ)28は、不図示の給油ホースによってオイルポンプ25の吐出口に接続され、オイルポンプ25から供給されるオイル(冷却オイル)を、噴射口71からジェット流として冷却オイルの噴射方向延長線J方向に向けて吐出させる。冷却オイルの噴射方向延長線Jは、図2に示すように、上死点位置にあるピストン23の天井裏面58に向かう方向Pに設定されている。
【0039】
図2に示すように、このようなピストンジェット28を備えるエンジン10が作動してクランクシャフト20が回転すると、ピストン23がシリンダブロック14のシリンダライナー24内でシリンダ軸線方向に往復運動すると共に、クランクシャフト20によって回転駆動されるオイルポンプ25が、オイルパン17に貯留されるエンジンオイルをオイルストレーナ26から吸入し、オイルフィルタエレメント27を介して、ピストンジェット28に供給して、噴射口71から天井裏面58に向けて冷却オイルを噴射させる。
【0040】
そして、ピストン23が上死点近傍にあるときには、噴射口71から噴射される冷却オイルは、補強壁56の屈曲部56bの外側(図2の左側)を通り、更に天井裏面58と補強壁56との間に設けられる開口部60を通過して、天井裏面58に到達してピストン23を冷却する。
【0041】
また、図4に示すように、屈曲部56bは、ピストンピンボス54に接近する方向に屈曲して形成される。これにより、噴射冷却オイルは、コネクティンロッド22に接近した位置を通過し、発熱源であるピストン23の中心部に対応する天井裏面58の中心部近傍に到達して、ピストン23を効果的に冷却する。
【0042】
また、図3に示すように、ピストン23が下死点近傍にあるときには、噴射口71から矢印P方向に向けて噴射される噴射冷却オイルは、直接、天井裏面58に到達してピストン23を冷却する。
【0043】
これにより、ピストンジェット28(噴射口71)から矢印P方向に噴射される冷却オイルは、ピストン23の全ストロークに亘って、補強壁56で遮られることなく、開口部60を通過して天井裏面58に到達してピストン23を効率的に冷却する。
【0044】
また、補強壁56に形成される屈曲部56bは、ピストン23の全ストロークにおいて、噴射冷却オイルと干渉が生じない範囲で屈曲することが好ましい。また、屈曲部56bは、補強壁56の中間部が、ピストンピンボス54に接近する方向に湾曲して形成される湾曲部とすることもできる。また、屈曲部56bの屈曲方向及び湾曲部の湾曲方向は、上記の説明とは逆に、ピストンピンボス54から離間する方向に屈曲及び湾曲させることもできる。
【0045】
以上説明したように、本実施形態のピストン23によれば、一対の連結壁53を連結する一対の補強壁56は、中間部がピストンピンボス54に接近する方向に屈曲する屈曲部56bを有するため、ピストンジェット28からピストン23の天井裏面58に向かって噴射される冷却オイルと補強壁56との干渉が、屈曲部56bによって回避され、単一の噴射口71からの冷却オイル噴射により、確実に天井裏面58に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
【0046】
また、本実施形態のピストン23によれば、補強壁56の屈曲部56bは、ピストン23の全ストロークにおいて、噴射冷却オイルと干渉が生じない範囲で屈曲するため、単一の噴射口71を有するピストンジェット28でも、ピストン23の全ストロークで、冷却オイルを確実に天井裏面58に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
【0047】
(第2実施形態)
次に、図5及び図6を参照して、本発明に係るピストンの第2実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0048】
本実施形態のピストン23では、図5及び図6に示すように、補強壁56が、ピストン23の中心軸CL2に対して、天井裏面58に向かうに従って次第に中心軸CL2に接近するように傾斜して形成される傾斜部56cを有する。この傾斜部56cは、ピストン23の全ストロークにおいて、噴射される冷却オイルと干渉が生じない範囲で傾斜することが好ましい。
【0049】
図5に示すように、ピストン23が上死点近傍にあるときには、噴射口71から噴射される冷却オイルの噴射方向延長線Jは、補強壁56の傾斜部56cの外側(図5の左側)を通り、更に天井裏面58と補強壁56との間に設けられる開口部60を通過して、天井裏面58に到達する。
【0050】
このとき、傾斜部56cが、冷却オイルの噴射方向延長線Jと同じ方向に傾斜して形成されているので、噴射冷却オイルは、補強壁56に干渉することなく、コネクティンロッド22に接近した位置を通過する。これにより、冷却オイルを、発熱源であるピストン23の中心部に対応する天井裏面58の中心部に到達させて、ピストン23を効果的に冷却することができる。
【0051】
また、図6に示すように、ピストン23が下死点近傍にあるときには、噴射口71から矢印P方向に向けて噴射される噴射冷却オイルは、直接、天井裏面58に到達してピストン23を冷却する。
【0052】
以上説明したように、本実施形態のピストン23によれば、補強壁56は、噴射する冷却オイルの噴射方向Pと同じ方向に、ピストン23の中心軸CL2に対して傾斜して形成されているため、ピストンジェット28からピストン23の天井裏面58に向かって噴射される冷却オイルと補強壁56との干渉が回避されて、単一の噴射口71から噴射する冷却オイルを、確実に天井裏面58に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
【0053】
また、本実施形態のピストン23によれば、補強壁56の傾斜部56cは、ピストン23の全ストロークにおいて、噴射冷却オイルと干渉が生じない範囲で傾斜するため、単一の噴射口71を有するピストンジェット28でも、ピストン23の全ストロークで、冷却オイルを確実に天井裏面58に到達させることができ、高い冷却性能を維持することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0054】
(第3実施形態)
次に、図7及び図8を参照して、本発明に係るピストンの第3実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0055】
本実施形態のピストン23では、図7に示すように、ピストンジェット28が配置される側(図7の左側)の補強壁56Aだけに、湾曲部56e及び傾斜部56fが設けられる。具体的には、一対の連結壁53に連結する両端の連結部56aの中間部が、ピストンピンボス54に接近する方向に湾曲して形成される湾曲部56eを有すると共に、補強壁56Aの冷却オイルの噴射方向延長線J側の側面(図7の左側)が、ピストン23の中心軸CL2に対して傾斜して形成される傾斜部56fとなっている。また、傾斜部56fは、冷却オイルの噴射方向延長線Jと略平行に傾斜する。即ち、傾斜部56fは、ピストン23の中心軸CL2に対して、天井裏面58に向かうに従って次第に中心軸CL2に接近するように傾斜して形成されている。
【0056】
また、補強壁56Aは、その湾曲部56eの高さBが、連結部56aの高さAより低くなるように設定され、その高さが連結部56aから湾曲部56eに向けて次第に低くなるように形成されている。
【0057】
図8に示すように、ピストン23が上死点近傍にあるときには、噴射口71から噴射される冷却オイルの噴射方向延長線Jは、補強壁56Aの傾斜部56fの外側(図8の左側)を通り、更に天井裏面58と補強壁56Aとの間に設けられる開口部60を通過して、天井裏面58に到達する。
【0058】
このとき、湾曲部56eが、ピストンピンボス54に接近する方向に湾曲して形成され、さらに、湾曲部56eの側面が、冷却オイルの噴射方向延長線Jと同じ方向に傾斜する傾斜部56fとなっているので、噴射冷却オイルは、補強壁56Aに干渉することなく、コネクティンロッド22に接近した位置を通過する。これにより、冷却オイルを、発熱源であるピストン23の中心部に対応する天井裏面58の中心部に到達させて、ピストン23を効果的に冷却することができる。
【0059】
以上説明したように、本実施形態のピストン23によれば、連結部56aによって連結壁53に連結する補強壁56Aの中間部は、ピストンピンボス54に接近する方向に湾曲する湾曲部56eを有すると共に、ピストン23の中心軸CL2に対して傾斜する傾斜部56fを有するため、ピストンジェット28から噴射される冷却オイルと補強壁56Aとの干渉が確実に回避されて、冷却オイルを天井裏面58の中心部近傍に到達させることができる。これにより、高い冷却性能が維持することができる。
【0060】
また、本実施形態のピストン23によれば、補強壁56Aは、その湾曲部56eの高さBが、連結部56aの高さAより低くなるように設定されるため、噴射冷却オイルを湾曲部56e近傍を通過させることで、連結壁53との連結強度を維持したまま、補強壁56Aとの干渉を回避して冷却オイルを確実に天井裏面58の中心部近傍に到達させることができる。
【0061】
また、本実施形態のピストン23によれば、補強壁56Aの高さを、連結部56aから湾曲部56eに向けて次第に低くなるようにしたため、補強壁56Aに発生する応力の急激な変化を抑制して、補強壁56Aの部分的な強度低下を防止することができる。
【0062】
また、本実施形態のピストン23によれば、ピストンジェット28が配置される側の補強壁56Aだけに、湾曲部56e及び傾斜部56fが設けられるため、ピストン23の成形型が簡素化されて、ピストン23の成形性を向上することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【0063】
(第4実施形態)
次に、図9を参照して、本発明に係るピストンの第4実施形態について説明する。なお、第1実施形態と同一又は同等部分については、図面に同一符号を付してその説明を省略或いは簡略化する。
【0064】
本実施形態のピストン23では、図9に示すように、ピストンジェット28が配置される側(図9の左側)の補強壁56Bだけに、ピストンピンボス54に接近する方向に略くの字形状に屈曲して形成される屈曲部56gが設けられる。
【0065】
また、屈曲部56gは、冷却オイルの噴射方向延長線Jと重なる部分、即ち、補強壁56Bの中央部分にのみ設けられる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態のピストン23によれば、補強壁56Bの屈曲部56gは、冷却オイルの噴射方向延長線Jと重なる部分にのみ設けられるため、冷却オイルとの干渉を回避する補強壁56Bの変形を最小限に抑制することができ、補強壁56Bの補強強度を維持したまま冷却オイルとの干渉を回避することができる。
【0067】
また、本実施形態のピストン23によれば、ピストンジェット28が配置される側の補強壁56Bだけに、屈曲部56gが設けられるため、ピストン23の成形型が簡素化されて、ピストン23の成形性を向上することができる。
その他の構成及び作用効果については、上記第1実施形態と同様である。
【符号の説明】
【0068】
10 エンジン(内燃機関)
11 クランクケース
21 ピストンピン
23 ピストン
28 ピストンジェット
51 天井部(天井面)
52 スカート部
53 連結壁
54 ピストンピンボス
56 補強壁
56A 補強壁
56B 補強壁
56a 連結部
56b 屈曲部
56c 傾斜部
56e 湾曲部
56f 傾斜部
56g 屈曲部
58 天井裏面
A 連結部の高さ
B 屈曲部及び湾曲部の高さ
CL2 ピストンの中心軸
J 冷却オイルの噴射方向延長線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストン(23)の天井面(51)から垂下する一対のスカート部(52)と、ピストンピン(21)が嵌装されるピストンピンボス(54)を含み、前記一対のスカート部を連結する一対の連結壁(53)と、前記スカート部と前記ピストンピンボス間において前記一対の連結壁を連結する一対の補強壁(56)とを有し、
前記ピストンを冷却する冷却オイルを、クランクケース(11)から前記ピストンの天井裏面(58)に向かって噴射するピストンジェット(28)を備える内燃機関(10)に嵌装されるピストンであって、
前記ピストンの中心軸方向視において、両端の連結部(56a)によって前記一対の連結壁に連結する前記補強壁の中間部は、前記ピストンピンボスに接近又は離間する方向に屈曲する屈曲部(56b,56g)又は湾曲する湾曲部(56e)を有することを特徴とするピストン。
【請求項2】
ピストンの天井面から垂下する一対のスカート部と、ピストンピンが嵌装されるピストンピンボスを含み、前記一対のスカート部を連結する一対の連結壁と、前記スカート部と前記ピストンピンボス間において前記一対の連結壁を連結する一対の補強壁とを有し、
前記ピストンを冷却する冷却オイルを、クランクケースから前記ピストンの天井裏面に向かって噴射するピストンジェットを備える内燃機関に嵌装されるピストンであって、
前記補強壁は、前記ピストンピンの中心軸方向視において、前記ピストンの中心軸(CL2)に対して傾斜する傾斜部(56c,56f)を有することを特徴とするピストン。
【請求項3】
前記補強壁の前記屈曲部、前記湾曲部、及び前記傾斜部は、前記ピストンの全ストロークにおいて、噴射される前記冷却オイルと干渉が生じない範囲で屈曲、湾曲又は傾斜することを特徴とする請求項1又は2に記載のピストン。
【請求項4】
前記補強壁の前記屈曲部、前記湾曲部、及び前記傾斜部は、前記冷却オイルの噴射方向延長線(J)と重なる部分にのみ設けられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項5】
前記ピストンの中心軸方向の前記補強壁の高さは、前記屈曲部、及び前記湾曲部の高さ(B)が、前記連結壁との連結部の高さ(A)より低いことを特徴とする請求項1、3、4のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項6】
前記補強壁の前記高さは、前記連結部から前記屈曲部、又は前記湾曲部に向けて次第に低くなることを特徴とする請求項5に記載のピストン。
【請求項7】
前記補強壁は、前記ピストンピンを挟んで両側に配置される一対の前記補強壁からなり、
前記一対の補強壁の内、前記ピストンジェットが配置される側の前記補強壁に、前記屈曲部、前記湾曲部、及び前記傾斜部が設けられることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のピストン。
【請求項8】
ピストンの天井面から垂下する一対のスカート部と、ピストンピンが嵌装されるピストンピンボスを含み、前記一対のスカート部を連結する一対の連結壁と、前記スカート部と前記ピストンピンボス間において前記一対の連結壁を連結する一対の補強壁とを有し、
前記ピストンを冷却する冷却オイルを、クランクケースから前記ピストンの天井裏面に向かって噴射するピストンジェットを備える内燃機関に嵌装されるピストンであって、
両端の連結部によって前記一対の連結壁に連結する前記補強壁の中間部は、前記ピストンの中心軸方向視において、前記ピストンピンボスに接近又は離間する方向に屈曲する屈曲部又は湾曲する湾曲部を有すると共に、前記ピストンピンの中心軸方向視において、前記ピストンの中心軸に対して傾斜する傾斜部を有することを特徴とするピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−185215(P2011−185215A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53444(P2010−53444)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】