説明

ピックアンドプレース装置

【課題】ピックアンドプレース動作に伴う振動や騒音の発生を抑制し、ピック動作時及びプレース動作時の動作速度に起因する移載ミスを抑制する。
【解決手段】本発明のピックアンドプレース装置は、回転駆動源と、回転駆動源によって回転軸の周りに回転する回転体111と、回転体に一端側が連結されたリンク112と、リンクの他端側に連結され、回転体の回転に対応して所定の回動角範囲を往復回動する回動体113と、回動体の往復回動運動によって駆動され、回動体の回動角範囲の両端部がピック動作及びプレース動作に対応する態様で動作するピックアンドプレース機構とを具備し、回転体とリンクの連結点の回転経路111sは、上記回動角範囲の少なくともいずれか一方の端部に対応する連結点の位置を含む範囲において他の部分より曲率半径が増大し或いは直線状に構成された経路部分111s1、1111s2を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はピックアンドプレース装置に係り、特に、ピックアンドプレース機構を駆動するための駆動系の構成に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、部品を把持して他の場所へ移載するためのピックアンドプレース装置が種々の製造ラインに用いられているが、多くの場合、部品を把持するための把持部を動作させるために、エアシリンダ等によって上下方向や水平方向に個別に移動させる駆動機構、或いは、カムやリンク等を用いた姿勢変更機構が用いられているため、ピックアンドプレース動作の高速化には限界がある。そこで、発明者は先に、往復回動運動によって駆動され、旋回半径方向にスライド可能に形成された旋回部材と、この旋回部材によって駆動されるとともに姿勢を規制する案内機構で案内されることでピックアンドプレース動作を行うように構成されたアームとを連結し、旋回部材の軌跡が円弧状部分と直線状部分とが連結された態様となるように旋回半径を規制することで高速化を可能にした装置構造を提案した(以下の特許文献1参照)。
【0003】
一方、上記のピックアンドプレース装置に類する種々の移載装置の駆動系としては、古くから、クランク機構を用いて駆動モータ等の回転運動を往復回動運動に変換し、この往復回動運動でリンク構造を有するアームを駆動するように構成されたものが知られている(例えば、以下の特許文献2参照)。
【0004】
また、梃子クランク機構により梃子(アーム)を左右に揺動させつつ、この梃子に対してスライド可能に取り付けられたスライド部を駆動するようにし、さらに、梃子の揺動範囲を制限するストッパを設けることで動作態様が規定されるようにしたピックアンドプレースユニットも知られている(例えば、以下の特許文献3参照)。
【特許文献1】特許第3509668号公報
【特許文献2】特公昭46−34158号公報(特に、第6図及び第7図)
【特許文献3】特開2002−200582号(特に、図1及び図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述の高速化可能なピックアンドプレース装置では、旋回部材を所定の旋回角範囲で往復旋回させる必要があることから、旋回部材を駆動モータで直接に駆動しようとすると、駆動モータを高速に正逆反転駆動させなければならないため、駆動モータの反転時に生ずる大きな加速度、並びに、駆動モータによって駆動する駆動系、旋回部材及びアームの慣性の存在によって大きな振動や騒音が発生するという問題点がある。特に、上記の装置構成ではピックアンドプレース動作の周期を0.1秒程度にまで短縮することが可能であるが、動作周期を短縮するほど駆動モータの反転動作時の加速度が大きくなるため、振動や騒音が増大し、また、このような振動や騒音を低減するための防振台や防音カバー等を必要とすることから、装置が大型化したり複雑化したりするという問題点もある。
【0006】
一方、上記従来のクランク機構を用いた駆動系を用いる場合には、駆動モータの反転駆動で動作させる場合に比べてクランク機構の先の往復回動運動を行う機構部分の質量を低減できるため、ピックアンドプレース動作の高速化に比較的適した構成であるということができるが、このような装置ではピックアンドプレース動作の態様がリンク機構によって予め規定されてしまうことから、ピックアンドプレース動作の高速化を図るとピック動作及びプレース動作もそのまま高速化するため、これによってピック動作時における部品の把持状態やプレース動作時における部品の載置状態が不安定になり、部品の移載ミスが増大するという問題点がある。
【0007】
そこで、本発明は上記問題点を解決するものであり、その課題は、ピックアンドプレース動作に伴う振動や騒音の発生を抑制することができるとともに、ピック動作時及びプレース動作時の動作速度に起因する移載ミスを抑制することができるピックアンドプレース装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
斯かる実情に鑑み、本発明のピックアンドプレース装置は、回転駆動源と、該回転駆動源によって回転軸の周りに回転する回転体と、該回転体に一端側が連結されたリンクと、該リンクの他端側に連結され、前記回転体の回転に対応して所定の回動角範囲を往復回動する回動体と、該回動体の往復回動運動によって駆動され、前記回動体の回動角範囲の両端部がピック動作及びプレース動作に対応する態様で動作するピックアンドプレース機構と、を具備し、前記回転体と前記リンクの連結点の回転経路は、前記回動角範囲の少なくともいずれか一方の端部に対応する前記連結点の位置を含む範囲において他の部分より曲率半径が増大した、或いは、直線状に構成された経路部分を有することを特徴とする。
【0009】
この発明によれば、回転体とリンクがクランク機構を構成することにより、回動体の回動速度は回動角範囲の両端部において遅くなり回動角範囲の中央部において早くなることから、往復回動運動をする駆動系の構成部分が減少するとともに往復回動運動の反転時の加速度も小さくなるため、振動や騒音が低減されるとともに、ピック動作又はプレース動作の動作速度を低減できるため、移載ミスを低減できる。また、本発明では、回転体とリンクの連結点の回転経路が、回動体の回動角範囲の少なくともいずれか一方の端部に対応する位置を含む範囲において他の部分より曲率半径が増大し、或いは、直線状に構成された経路部分を有することにより、回動体の回動角範囲の両端部における回動速度がさらに低減されるため、これによってピック動作時又はプレース動作時の移動速度が低下することになるので、ピックアンドプレース動作を高速化しても、動作反転時の加速度に起因する振動や騒音の発生をさらに低減でき、しかも、移載ミスの発生を抑制することが可能になる。
【0010】
なお、上記の回転体は回転軸を中心に回転運動をするものであれば如何なるものであってもよく、例えば、回転板やリンク部材などの種々の部材で構成することができる。すなわち、回転体とリンクによってクランク運動が生ずるように構成されるものであればよい。このような構成は、上述のように駆動系のうち往復回動運動をする部分の質量の低減に効果がある他、駆動系全体の簡易化にも大きく寄与するものである。
【0011】
本発明において、前記回転体は回転半径方向にスライド可能に構成されたスライド部材を有し、該スライド部材に前記連結点が設けられ、前記スライド部材の回転半径方向の位置を回転角に応じて規制する回転半径規制手段を有することが好ましい。これによれば、回転半径規制手段によってスライド部材の回転半径方向の位置が規制されることにより、連結点の上記経路部分を含む回転経路を容易に設定することが可能になる。
【0012】
本発明において、前記回転半径規制手段は、前記スライド部材に係合して前記経路部分を含む前記回転経路に対応する経路で案内する係合案内構造を有することが好ましい。これによれば、係合案内構造によって経路部分を所望の態様で含む回転経路を確実に実現することができる。
【0013】
本発明において、前記回転半径規制手段は、前記スライド部材を回転半径方向に付勢する付勢部材と、前記経路部分に対応する位置において前記スライド部材に対して前記付勢部材による付勢の向きと逆向きに当接する当接部材とを含むことが好ましい。これによれば、付勢部材の付勢の向きと逆向きに当接部材がスライド部材に当接することによって、当接部材の当接位置や当接形状に応じて上記経路部分を設定できることから、当接部材によって回転経路を容易に調整することが可能になる。
【0014】
本発明において、前記回動体の前記回動角範囲は180度未満であり、前記回動体と前記ピックアンドプレース機構との間に回動角範囲を180度を越える値に増大させる増速手段をさらに具備することが好ましい。これによれば、回動体の回動角範囲が180度未満であることから、回転体の回転半径と回動体の回動半径との関係によって簡単な機構で往復回動運動を生じさせることが可能になるとともに、増速手段によって往復回動運動の回動角範囲を180度を超える値に設定することができるため、ピックアンドプレース機構の動作態様のうち、特にピック動作とプレース動作の動作ストローク(上下動作長)を充分に確保することが可能になる。ここで、増速手段としては、回動体とピックアンドプレース機構との間に配置された増速輪列で構成することができる。
【0015】
本発明において、前記ピックアンドプレース機構は、前記往復回動運動によって旋回軸の周りに往復回動するとともに、旋回半径方向にスライド可能に構成された旋回部材と、該旋回部材の旋回半径位置を前記旋回部材が旋回角範囲の両端部において直線状に移動するように少なくとも前記旋回角範囲の一部において規制する旋回半径規制手段と、前記旋回部材に連結され、ピックアンドプレース動作を行うアームと、該アームを前記旋回部材の旋回平面と平行な仮想平面上において姿勢を維持しつつ移動可能に案内する案内手段と、を有することが好ましい。これによれば、旋回部材の旋回運動によってアームを高速かつスムーズに移載方向に移動させることができるとともに、旋回角範囲の両端部における直線状の移動経路部分でピック動作及びプレース動作を実現することができるため、ピックアンドプレース動作の高速化を図ることが可能になる。この場合、旋回部材の回転経路に直線状部分に接続される円弧状部分が設けられることが好ましく、特に、直線状部分が当該円弧状部分の両端の接線方向に伸びるように構成されていることがスムーズな動作を実現し、動作の高速化や振動及び騒音の低減を図る上でより効果的である。
【0016】
また、本発明において、前記ピックアンドプレース機構は、前記往復回動運動によって旋回軸の周りに往復回動するとともに、旋回半径方向にスライド可能に構成された旋回部材と、該旋回部材の旋回半径位置を少なくとも前記旋回角範囲の一部において規制する旋回半径規制手段と、前記旋回部材に連結され、ピックアンドプレース動作を行うアームと、該アームを前記旋回部材の旋回平面と平行な仮想平面上において姿勢を維持しつつ移動可能に案内する案内手段と、を有し、前記旋回部材が円弧状部分及び該円弧状部分の両端に接線方向に伸びる直線状部分を備えた経路を往復移動することが好ましい。このように円弧状部分とその両端に接線方向に伸びる直線状部分とを備えた経路を旋回部材が往復移動するように構成することで、高速でスムーズな動作が可能になるため、動作の高速化や振動及び騒音の低減を図ることができる。なお、このような態様で動作する場合には、角速度と周速度の関係が変化することにより両端の直線状部分の移動速度が円弧状部分に比べて相対的に増大するが、本発明では旋回角範囲の経路の端部の角速度を大幅に低減することができるため、ピック動作やプレース動作において実質的な問題が生じない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図示例と共に説明する。図1は本実施形態の全体構成を側面側から示す縦断面図、図2は本実施形態の駆動系の構造を背面側から示す構成図、図3は本実施形態のピックアンドプレース機構を前面側から示す構成図である。
【0018】
本実施形態のピックアンドプレース装置100は、回転駆動源である駆動モータ101と、この駆動モータ101の回転駆動力によって動作し、ピックアンドプレース動作を実現するための往復回動運動を生成するための駆動系110と、この駆動系110によって形成された往復回動運動によって駆動されるピックアンドプレース機構120とを備えている。上記の駆動モータ101、駆動系110及びピックアンドプレース機構120はいずれも機台フレーム103により直接若しくは間接的に支持固定されている。
【0019】
駆動系110は、駆動モータ101の出力軸102に固定された回転体111と、この回転体111に一端側(図示上端)が連結されたリンク112と、このリンク112の他端側(図示下端)に連結軸113dを介して連結された回動体113とを備えている。また、この回動体113に固定された駆動側歯車114と、この駆動側歯車114に噛合する被動側歯車115とを有し、この被動側歯車115が駆動系110の出力軸である駆動軸116に固定されている。
【0020】
回転体111は、上記の出力軸102に固定され、回転軸線111xを中心に回転駆動される回転部材111aと、この回転部材111a上に搭載され、回転半径方向のスライド運動を実現するスライド機構111bと、このスライド機構111bによって回転半径方向にスライド可能に構成されたスライド部材111cとを有している。そして、このスライド部材111cは、連結軸111dを介して上記リンク112に対して上記回転軸111xと直交する平面上において回転可能な態様で連結されている。連結軸111dは、機台フレーム103に対して直接若しくは間接的に固定された規制板117に設けられた回転半径規制手段を構成する係合案内溝117aに対して回動可能に係合している。
【0021】
上記の構成により、駆動モータ101が稼動すると、出力軸102の回転に伴って回転体111が回転し、この回転体111のスライド部材の回転半径位置が係合案内溝117aに沿って案内された状態となり、連結軸111dは基本的には回転軸線111xを中心とする円にほぼ沿った回転運動を行う。そして、リンク112は上記回転運動に従って略上下方向に繰り返し昇降する。
【0022】
回動体113は回動軸線113xを中心に回動可能に軸支され、リンク112に対して連結軸113dを介して回動可能に連結されている。図2に示すように、回動体113は上記リンク112の昇降運動に従って既定の回動角範囲Rθ内において往復回動運動を行う。この場合、回動角範囲Rθの一端部(図示下端部)θaと上記連結軸111dの下死点(連結軸111dの回転経路が円であると仮定した場合のクランク機構の下死点、以下同様。)とが対応し、回動角範囲Rθの他端部(図示上端部)θbと上記連結軸111dの上死点(連結軸111dの回転経路が円であると仮定した場合のクランク機構の上死点、以下同様。)とが対応する。ここで、上記の回動角範囲Rθは180度未満であるため、回転体111とリンク112と回動体113とからなる簡単な機構で形成することができる。なお、図2は回転体111とリンク112の連結点(連結軸111dの軸線)が下死点にあり、リンク112と回動体113の連結点(連結軸113dの軸線)が回動角範囲Rθの一端部θaにある場合を示している。
【0023】
回動体113は駆動側歯車114に固定され、駆動側歯車114と被動側歯車115とによって構成される増速輪列によって駆動軸116の回動角範囲Rφが180度を越える範囲となるように変換される。ここで、図2に示すように、駆動軸116の回動角範囲Rφは、上記回動角範囲Rθの一端部θaに対応する一端部φaと、上記回動角範囲Rθの他端部θbに対応する他端部φbとの間の角度範囲である。上記増速輪列の増速比は、ピックアンドプレース機構120において必要とされる回動角範囲Rφを回動角範囲Rθに基づいて得られるように適宜に設定される。
【0024】
ピックアンドプレース機構120は、駆動軸116に固定された回動部材121と、この回動部材121に対してスライド機構122を介して旋回半径方向にスライド可能に搭載された旋回部材123と、この旋回部材123に対して連結軸125を介して連結されたアーム126と、アーム126を旋回部材123の旋回面と平行な仮想平面上にて同じ姿勢で移動可能となるように案内する案内体127と、この案内体127を移載方向(図示左右方向或いは水平方向)に案内する案内レール128と、旋回部材123の旋回半径位置を規制する規制板129と、を備えている。ここで、案内体127と案内レール128は上記の案内手段を構成する。案内レール128は機台フレーム103に固定され、案内体127を水平方向に移動自在に案内している。
【0025】
旋回部材123は回動部材121に対してコイルバネ等の付勢部材(弾性部材)124によって常に旋回半径方向に付勢されている。本実施形態の場合、図4に示すように、付勢部材124は旋回部材123を常に旋回半径が増加する向きに付勢し、また、規制板129の規制面129a、129b1、129b2が旋回部材123を旋回半径が減少する向きに規制するように構成されている。ただし、これとは逆に旋回部材123を旋回半径が減少する向きに付勢するように付勢部材124を構成し、その代わりに、規制板129が旋回部材123を旋回半径が増加する向きに規制するように構成してもよい。
【0026】
図2に示すように、旋回部材123は駆動軸116によって旋回角φaからφbにわたる旋回角範囲Rφにて往復旋回運動を行うが、図4に示すように、旋回角範囲Rφの両端部以外の部分では規制部材129に設けられた規制面の円弧状部分129aによって旋回部材123の旋回半径方向の位置が上記付勢部材124を圧縮する態様で規制され、これによって連結軸125は円弧状に旋回する。すなわち、連結軸125の旋回経路123sは、規制面の円弧状部分129aに対応する円弧状部分123saを備えている。図示例の場合、円弧状部分123saは半円となっている。
【0027】
一方、旋回角範囲Rφの両端部では、上記規制面の円弧状部分129aの端部の接線方向に伸びる直線状部分129b1、129b2に沿って旋回部材123が付勢部材124の付勢力で旋回半径が増大するため、連結軸125も上記直線状部分129b1、129b2に沿って直線状に移動する。すなわち、旋回経路123sは、上記円弧状部分123saの両端部において接線方向に伸びる直線状部分123s1及び123s2を備えている。
【0028】
上記のように連結軸125が円弧状部分123saとこの両端にて接線方向に伸びる直線状部分123s1、123s2からなる旋回経路123sに沿った往復回動運動を繰り返すことによって、アーム126は案内体127及び案内レール128によって姿勢が維持された状態で旋回部材123の旋回面と平行な仮想平面上を移動し、これによって、アーム126の先端部に取り付けられる図示しない把持部(吸着ヘッドや把持ヘッドなど)がピック動作、移送動作、プレース動作を繰り返すことになる。図示例の場合、ピック動作及びプレース動作は垂直方向に上下する動作となる。なお、コイルバネ等で構成される弾性部材126tは案内体127とアーム126の上端取付部との間に介挿され、連結軸125の往復旋回動作に伴う駆動負荷の変動を低減している。特に、弾性部材126tは往復旋回動作における動作反転時の駆動負荷の増大を抑制している。
【0029】
上記のようなピックアンドプレース機構120によれば、簡易な構造にも拘わらず連結軸125をスムーズに移動させることができるため、駆動重量も軽減されるとともに移動中に加わる加速度が低減されるため、ピックアンドプレース動作を高速に行うことが可能であり、実際に0.1秒の周期で動作させることが充分に可能である。
【0030】
上記の実施形態では、回転体111の回転運動をリンク112を介して回動体113の往復回動運動に変換していることにより、回動体113の回動角範囲Rθの両端部θa、θbの近傍では移動速度が低下し、これによって、連結軸125の旋回角範囲Rφの両端部φa、φbの近傍でも移動速度が低下するため、ピックアンドプレース動作の高速化を図りつつ、動作反転時の振動や騒音が低減される。しかしながら、本実施形態のピックアンドプレース機構120では上記のように他の機構では実現不可能な速度域まで動作を高速化することが可能であるため、上記のように構成されていても、動作反転時の振動や騒音が問題になる場合もありうる。そこで、本実施形態では、旋回角範囲Rφの両端部φa、φbの近傍の速度をさらに低減するために、回転体111にスライド部材111cを設けるとともに、このスライド部材111cの回転半径方向の位置を規制板117の係合案内溝117aによって規制している。
【0031】
図5(a)は、回転体111とリンク112の連結点の回転経路111sと、リンク112と回動体113の連結点の回動経路113sとの関係を示す説明図、図5(b)は、回転経路111sの詳細を示す拡大説明図である。
【0032】
本実施形態においては、回転体111とリンク112の連結点の上死点Ps1と下死点Ps2を結ぶ線111y(図示例の場合には垂線に対して僅かに傾斜した線)と、リンク112と回動体113の連結点がその回動経路113s上における回動角範囲Rθの一端部θaにあるときの位置を示す点113s1と他端部θbにあるときの位置を示す点113s2とを結ぶ線(図示例の場合には垂線)113yとは一致しない。そして、線111yが線113yよりも回動経路113s上において回動軸113xより離れた側にあるように、具体的には、線111yが上記の点113s1及び113s2と、回動経路113s上の回動軸113xから最も遠い点113s3との間を通過するように構成されている。これによって、動作時におけるリンク112(クランク機構の連接棒)の左右の角度差を低減している。
【0033】
回転経路111sは、多くの部分が円弧状に形成された円弧状部分111saとなっているが、図5(b)に示すように、上死点Ps1の角度位置を含む点P1から点P2にわたる角度範囲では、円弧状部分111saよりも曲率半径が小さいか、或いは、直線状に構成されている。図示例の場合、上記角度範囲には直線状部分111s1が構成されている。また、回転経路111sは、下死点Ps2の角度位置を含む点P3からP4にわたる角度範囲でも円弧状部分111saよりも曲率半径が小さいか、或いは、直線状に構成されている。図示例の場合、上記角度範囲には直線状部分111s2が構成されている。なお、図5(b)に示す垂線111zは回転軸線111xを通過する垂線である。
【0034】
上記のように構成すると、回転経路111sのうち上死点Ps1の角度位置を含む角度範囲に設けられた直線状部分111s1及び下死点Ps2の角度位置を含む角度範囲に設けられた111s2では、それぞれ回転体111とリンク112の連結点の昇降速度が0になり、これによってリンク112と回動体113の連結点の昇降速度もほとんど0に近くなるため、回動体113の往復回動運動における回動角範囲Rθの両端部θa及びθbにおける回動速度を小さくすることができる。
【0035】
なお、リンク112は所定の長さを有しているので、直線状部分111s1、111s2を回転経路111sに設けても、これらの直線状部分に対応する期間において回動体113の回動速度は厳密には0にはならない。この回動速度を完全に0とするためには直線状部分111s1、111s2の代わりにリンク112の長さを曲率半径とし、点113s1、111s2を曲率中心とする円弧状部分を形成する必要がある。
【0036】
本実施形態によれば、上記のように回転体111の回転をリンク112を介して回動体113の往復回動運動に変換しているため、ピックアンドプレース機構120に対する駆動態様をアーム126のピック動作及びプレース動作に対応する旋回角範囲Rφの両端部φa、φbの近傍で回動速度が小さくなるが、さらに、回転体111とリンク112の連結点の回転経路111sが回動角範囲Rθの両端部θa、θbに対応する上死点Ps1及び下死点Ps2の角度位置を含む角度範囲で直線状部分111s1、111s2となるように構成されていることにより、旋回角範囲Rφの両端部φa、φbの近傍の回動速度をさらに低下させることができる。したがって、ピックアンドプレース動作を高速化しても、動作の反転時における振動や騒音の発生を抑制できるとともに、ピック動作及びプレース動作の高速化に起因する移載不良の発生を抑制できる。
【0037】
図6(a)は上記実施形態とは異なる回転半径規制手段を備えた変形例を示す概略部分縦断面図及び回転経路を示す概略説明図、図6(b)は概略説明図を拡大して示す拡大説明図である。この変形例では、回転体111′にスライド部材111cを回転半径方向外側へ付勢するコイルバネ等の付勢部材118が設けられている点で上記実施形態とは異なる。また、連結軸111dを規制する回転半径規制手段が規制板117′に設けられた円弧状の凹部117a′と、この凹部117a′の内面から回転半径方向内側へ突出可能に構成された当接部材119A、119Bが上死点近傍及び下死点近傍に設けられている点でも異なる。
【0038】
この例では、図6(a)に示すように、スライド部材111cが付勢部材118によって常に回転半径方向外向きに付勢されていることにより、連結軸111dが規制板117′の凹部117a′の内面によって円周状に案内されるが、上死点及び下死点の近傍においては当接部材119A及び119Bの当接面形状に沿って連結軸111dが案内される。このため、図6(b)に示すように、回転体111とリンク112の連結点の回転経路111s′は、円弧状部分111sa′の他に、当接部材119A及び119Bの当接面に沿った直線状部分111s1′及び111s2′を有することとなる。この場合、これらの直線状部分111s1′及び111s2′は点P1′とP2′の間、及び、点P3′とP4′の間に形成されるが、この直線状部分111s1′及び111s2′の範囲は当接部材119A及び119Bを回転半径方向に移動(出没)させることによって変化させることができる。
【0039】
なお、この例でも当接部材119A、119Bの当接面を平坦に構成し、直線状部分111s1′及び111s2′を形成しているが、当接面形状を円弧状部分111sa′よりも曲率半径の小さい曲線に沿った曲面に構成し、この直線状部分111s1′及び111s2′の代わりに、当該曲面に対応した経路部分が設けられるようにしてもよい。この場合においても、直線状部分111s1′、111s2′の代わりにリンク112の長さを曲率半径とし、点113s1、111s2を曲率中心とする円弧状部分を形成することができる。
【0040】
この例のように構成すると、当接部材119A、119Bの位置を調整することによって移動経路111s′の上死点及び下死点の近傍の経路部分の範囲を変更することができるため、アーム126のピック時及びプレース時の動作態様を適宜に調整することが可能になる。なお、この例ではスライド部材111cを付勢部材118により回転半径方向外向きに付勢するとともに規制板117′や当接部材119A、119B等によって回転半径方向内向きに規制しているが、これとは逆に、スライド部材を付勢部材により回転半径方向内向きに付勢するとともに回転半径方向外向きに規制してもよい。
【0041】
尚、本発明のピックアンドプレース装置は、上述の図示例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、規制板117、117′によってスライド部材111cの回転半径方向の位置を回転経路111s、111s′の全体に亘って規制しているが、スライド部材111c自体のスライド範囲が限定される(すなわち、回転半径規制手段の一部がスライド部材111cのスライド構造によって構成される)ことによって回転経路のうちの円弧状部分においては規制板117、117′による規制を受けない(或いは受ける必要がない)ように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る実施形態の全体構成を示す側面断面図。
【図2】同実施形態の駆動系の構成を示す背面側内部構造図。
【図3】同実施形態のピックアンドプレース機構の構成を一部省略して示す前面側内部構造図。
【図4】同実施形態のピックアンドプレース機構の構成を図3とは別の省略態様で示す前面側内部構成図。
【図5】同実施形態の回転体、リンク及び回動体の動作を説明する説明図(a)及び回転体とリンクの連結点の回転経路を拡大して示す説明図(b)。
【図6】同実施形態の駆動系の他の構成を回転体とリンクの連結点の回転経路とともに示す説明図(a)及び同連結点の回転経路を拡大して示す説明図(b)。
【符号の説明】
【0043】
100…ピックアンドプレース装置、101…駆動モータ、102…出力軸、103…機台フレーム、110…駆動系、111…回転体、111c…スライド部材、111d…連結軸、112…リンク、113…回動体、113d…連結軸、114…駆動側歯車、115…被動側歯車、116…駆動軸、117…規制板、117a…係合案内溝、118…付勢部材、119A、119B…当接部材、120…ピックアンドプレース機構、121…固定部材、122…スライド機構、123…旋回部材、124…付勢部材、125…連結軸、126…アーム、127…案内体、128…案内レール、111s…回転経路、111sa…円弧状部分、111s1、111s2…直線状部分、113s…回動経路、123s…旋回経路、123sa…円弧状部分、123s1、123s2…直線状部分、Rθ…回動角範囲、θa、θb…端部、Rφ…旋回角範囲、φa、φb…端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動源と、
該回転駆動源によって回転軸の周りに回転する回転体と、
該回転体に一端側が連結されたリンクと、
該リンクの他端側に連結され、前記回転体の回転に対応して所定の回動角範囲を往復回動する回動体と、
該回動体の往復回動運動によって駆動され、前記回動体の回動角範囲の両端部がピック動作及びプレース動作に対応する態様で動作するピックアンドプレース機構と、
を具備し、
前記回転体と前記リンクの連結点の回転経路は、前記回動角範囲の少なくともいずれか一方の端部に対応する前記連結点の位置を含む範囲において他の部分より曲率半径が増大した、或いは、直線状に構成された経路部分を有することを特徴とするピックアンドプレース装置。
【請求項2】
前記回転体は回転半径方向にスライド可能に構成されたスライド部材を有し、該スライド部材に前記連結点が設けられ、前記スライド部材の回転半径方向の位置を回転角に応じて規制する回転半径規制手段を有することを特徴とする請求項1に記載のピックアンドプレース装置。
【請求項3】
前記回転半径規制手段は、前記スライド部材に係合して前記経路部分を含む前記回転経路に対応する経路で案内する係合案内構造を有することを特徴とする請求項2に記載のピックアンドプレース装置。
【請求項4】
前記回転半径規制手段は、前記スライド部材を回転半径方向に付勢する付勢部材と、前記経路部分に対応する位置において前記スライド部材に対して前記付勢部材による付勢の向きと逆向きに当接する当接部材とを含むことを特徴とする請求項2に記載のピックアンドプレース装置。
【請求項5】
前記回動体の前記回動角範囲は180度未満であり、前記回動体と前記ピックアンドプレース機構との間に回動角範囲を180度を越える値に増大させる増速手段をさらに具備することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のピックアンドプレース装置。
【請求項6】
前記ピックアンドプレース機構は、前記往復回動運動によって旋回軸の周りに往復回動するとともに、旋回半径方向にスライド可能に構成された旋回部材と、該旋回部材の旋回半径位置を、前記旋回部材が旋回角範囲の両端部において直線状に移動するように少なくとも前記旋回角範囲の一部において規制する旋回半径規制手段と、前記旋回部材に連結され、ピックアンドプレース動作を行うアームと、該アームを前記旋回部材の旋回平面と平行な仮想平面上において姿勢を維持しつつ移動可能に案内する案内手段と、を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のピックアンドプレース装置。
【請求項7】
前記ピックアンドプレース機構は、前記往復回動運動によって旋回軸の周りに往復回動するとともに、旋回半径方向にスライド可能に構成された旋回部材と、該旋回部材の旋回半径位置を少なくとも前記旋回角範囲の一部において規制する旋回半径規制手段と、前記旋回部材に連結され、ピックアンドプレース動作を行うアームと、該アームを前記旋回部材の旋回平面と平行な仮想平面上において姿勢を維持しつつ移動可能に案内する案内手段と、を有し、前記旋回部材が円弧状部分及び該円弧状部分の両端に接線方向に伸びる直線状部分を備えた経路を往復移動することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のピックアンドプレース装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−229905(P2007−229905A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−58033(P2006−58033)
【出願日】平成18年3月3日(2006.3.3)
【出願人】(599049820)株式会社ケイエスピー (1)
【Fターム(参考)】