説明

ピッチ繊維の紡糸方法、炭素繊維の製造方法、カーボンナノファイバー

【課題】導電性に異方性がないカーボンナノファイバーが製造できる方法を提供する。
【解決手段】エレクトロスピニング法により、ピッチ系物質の溶融物を紡糸ノズルからコレクタに向けて吐出することで、ピッチ繊維を紡糸する方法であって、ピッチ系物質1として、軟化点が210℃を超え280℃未満である無水添ピッチ、または軟化点が120℃を超え250℃未満である水添ピッチを用いる。溶融物吐出ノズル5として、紡糸ノズルと外筒との間にガスが導入される空間を有するものを用い、この空間に、予熱されたガスを供給する。この予熱ガスを、溶融物吐出ノズル5の紡糸ノズルからピッチ系物質1の溶融物を吐出する際に、その吐出方向と平行にコレクタ6に向けて吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ピッチ繊維の紡糸方法と、この方法からなる紡糸工程を備えた炭素繊維(黒鉛繊維を含む)の製造方法と、カーボンナノファイバーに関する。
【背景技術】
【0002】
ピッチ系炭素繊維は、石油系または石炭系のピッチを原料とし、紡糸工程、不融化工程、不活性ガス雰囲気での熱処理工程(炭素化工程または炭素化工程と黒鉛化工程)をこの順に行うことで製造される。紡糸工程では原料のピッチを溶融紡糸することで繊維状にする。紡糸工程で得られたピッチ繊維(繊維状のピッチ)をそのまま高温で熱処理するとピッチ繊維が互いに融着するため、これを避ける目的で不融化工程が行われる。
【0003】
炭素繊維の原料である石油系または石炭系のピッチを得る方法としては、次のような方法がある。一つは、石油系タールまたは石炭タールを常圧蒸留および減圧蒸留して重質留分と軽質留分に分離し、得られた重質留分をそのまま熱処理し、重縮合させて所定の軟化点に調製する方法である。この方法で得られたピッチ(無水添ピッチ)は、光学的等方性を有し、「General Purpose ピッチ」と称される。
もう一つは、得られた重質留分を水添分解することで熱安定性を高めた後に熱処理し、所定の軟化点に調整する方法である。この方法で得られたピッチ(水添ピッチ)は、光学的異方性を有し、「High Peformance ピッチ」、「液晶ピッチ」と称され、高強度、高弾性率の炭素繊維の原料とされる。
【0004】
一方、カーボンナノファイバー(カーボンナノチューブを含む)は、導電材料および熱伝導材料として極めて有用な素材である。カーボンナノファイバーの製造方法としては、アーク法や気相成長法などがある。これらの方法で製造されたカーボンナノファイバーの構造は、図6の(a)〜(c)に示すように、グラフェンシート(炭素の六員環ネットワーク)が特定の方向を向いて重なった構造や、径の異なる複数の円筒状に巻かれたグラフェンシートが同軸状に入れ子になっている構造である。
図6の(a)はヘリングボーンタイプ、(b)はマルチウォールタイプ(多層型カーボンナノチューブ)、(c)はカップスタックタイプと称されている。このような構造のカーボンナノファイバーは、グラフェンシート面に沿って伝達する電流または熱伝導の程度に方向性(異方性)が生じる。
【0005】
下記の特許文献1には、リチウムイオン二次電池の大電流放電特性やサイクル特性を改善するために、負極材料として使用される黒鉛に、気相成長法で製造された炭素繊維を添加することが提案されている。しかしながら、この方法では十分な改善効果が得られていないのが実情である。その原因の一つとして、気相成長法で製造された炭素繊維が例えば図6(b)の構造を有する場合、円筒状の繊維の軸に沿った方向の導電性は極めて高いが、円筒状の周面からの導電性が低いため、黒鉛に対する炭素繊維の接触方向を制御しないと高い導電性が得られないことが推定される。
【0006】
下記の特許文献2には、エレクトロスピニング法を実施することができる紡糸装置が記載されている。この紡糸装置は、原料の溶融物を貯蔵する貯蔵容器と、貯蔵容器に貯蔵された溶融物を細糸状に吐出する溶融物吐出ノズルと、溶融物吐出ノズルに対向して配置されたコレクタと、コレクタと溶融物吐出ノズルとの間に電圧を印加して、溶融物吐出ノズルから吐出された溶融物を帯電させる溶融物帯電手段と、を備えている。この溶融物吐出ノズルは、溶融物を入れる第1のノズル部と、ガスを入れる第2のノズル部とからなり、第2のノズル部に入れたガスにより加圧しながら、第1のノズル部内の溶融物を細糸状に吐出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−168429号公報
【特許文献2】特開2009−275339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献2に記載の装置を用いて紡糸されたピッチ繊維に対して、炭素化工程または炭素化工程と黒鉛化工程を行って得られた炭素繊維は、導電性に異方性がないという点で改善の余地がある。
この発明の課題は、導電性に異方性がない、すなわち繊維の軸方向と軸に垂直な方向の導電性が等しいカーボンナノファイバーが製造できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、この発明のピッチ繊維の紡糸方法は、エレクトロスピニング法により、ピッチ系物質の溶融物を紡糸ノズルからコレクタに向けて吐出することで、ピッチ繊維を紡糸する方法であって、前記ピッチ系物質として、軟化点が210℃を超え280℃未満である無水添ピッチ、または軟化点が120℃を超え250℃未満である水添ピッチを用い、前記紡糸ノズルの周囲に予熱されたガスを供給し、この予熱ガスを、前記紡糸ノズルから前記溶融物を吐出する際に、その吐出方向と平行に前記コレクタに向けて吹き付けることを特徴とする。
【0010】
この発明のピッチ繊維の紡糸方法は、エレクトロスピニング法により、ピッチ系物質の溶融物を紡糸ノズルからコレクタに向けて吐出することで、ピッチ繊維を紡糸する方法であって、特定の軟化点を有するピッチ系物質を用いることを必須要件としている。
具体的には、無水添ピッチの場合は、軟化点が210℃を超え280℃未満のものを、好ましくは、軟化点が220℃以上250℃以下のものを用いる。また、水添ピッチの場合は、軟化点が120℃を超え250℃未満のものを、好ましくは、軟化点が200℃以上230℃以下のものを用いる。
【0011】
軟化点が210℃を超える無水添ピッチには結晶の種(embryo)が多数、非晶質状態で存在するため、これをピッチ系物質として用いて紡糸されたピッチ繊維を、炭素化または黒鉛化する際に、いろいろな方向を向いたembryoを起点とした結晶成長が生じる。これにより、多数の結晶がランダムに存在する炭素繊維が得られる。
ただし、軟化点が280℃以上の無水添ピッチは、ピッチ系物質の熱変質温度(340℃程度)に加熱された溶融物として紡糸ノズルから突出する際の粘度が高くなり、良好な紡糸状態が得られないため使用しない。
【0012】
軟化点が210℃以下の無水添ピッチにはembryoがほとんど存在しないため、これをピッチ系物質として用いて紡糸されたピッチ繊維を、炭素化または黒鉛化しても、多数の結晶がランダムに存在する炭素繊維は得られない。また、紡糸の際に、紡糸ノズルから溶融物を吐出し、この吐出された溶融物に静電引力が加わることで、炭素化または黒鉛化の際に、少し配向しながら結晶が成長していくと考えられる。
【0013】
軟化点が250℃以上の水添ピッチは紡糸の際に配向しやすいため、これをピッチ系物質として用いて紡糸されたピッチ繊維を、炭素化または黒鉛化しても、多数の結晶がランダムに存在する炭素繊維は得られない。得られた炭素繊維の結晶構造はa軸が繊維軸に沿った(配向した)構造となる。よって、水添ピッチの場合は軟化点が250℃未満のものを使用する。
【0014】
軟化点が120℃以下の水添ピッチは、炭素繊維を得るために、この発明の方法で紡糸工程を行った後に行う不融化工程で、処理温度を100℃程度と低くする必要があり、不融化工程にかかる時間が極端に長くなる。これに対して、軟化点が120℃を超える水添ピッチは、不融化工程の処理温度を100℃を超えた高温で行うことができるため、不融化工程にかかる時間を短縮できる。
【0015】
この発明のピッチ繊維の紡糸方法は、さらに、前記紡糸ノズルの周囲に予熱されたガスを供給し、この予熱ガスを、前記紡糸ノズルから前記溶融物を吐出する際に、その吐出方向と平行に前記コレクタに向けて吹き付けることを必須要件としている。この吹き付けられた予熱ガスの剪断力で、ピッチ繊維がランダムな微細構造を有するようになると推定できる。
【0016】
そして、この発明の方法でピッチ繊維の紡糸工程を行った後に、ピッチ繊維の不融化工程と、不融化されたピッチ繊維を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程(炭素化工程および黒鉛化工程)を通常の方法で行うことにより、平均直径が50nm以上800nm以下であり、ランダムに配向した多数の微結晶の黒鉛から構成され、Cu−Kα線のX線回折により測定される(002)面の面間隔が0.3400nm以上0.3700nm以下であるカーボンナノファイバーを得ることができる。
なお、熱処理する工程(炭素化工程および黒鉛化工程)の温度は、500℃以上2700℃未満が好ましく、800℃以上2500℃以下がより好ましい。
【発明の効果】
【0017】
この発明のピッチ繊維の紡糸方法によれば、使用するピッチ系物質の軟化点を特定することにより、後工程として、不融化工程、不活性ガス雰囲気での熱処理工程を行うことで得られる炭素繊維を、導電性に異方性がない、すなわち繊維の軸方向と軸に垂直な方向の導電性が等しいカーボンナノファイバーとすることができる。
この発明の炭素繊維の製造方法によれば、ピッチ繊維の紡糸工程で使用するピッチ系物質の軟化点を特定することにより、導電性に異方性がない、すなわち繊維の軸方向と軸に垂直な方向の導電性が等しいカーボンナノファイバーが製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】この発明の実施形態に相当する方法が実施できる紡糸装置を示す概略構成図である。
【図2】図1の装置の溶融物吐出ノズル5の構造を示す断面図である。
【図3】この発明の方法(実施例のNo.1およびNo.2の方法)で得られた炭素繊維の微細構造を模式的に示す模式図である。
【図4】気相成長法で得られた(実施例のNo.4で使用した)炭素繊維の微細構造を模式的に示す模式図である。
【図5】実施例で作製したNo.1〜No.5の試験用電池のサイクル特性を調べた結果を示すグラフである。
【図6】従来の方法で得られるカーボンナノファイバーの微細構造の例を示す図であって、(a)はヘリングボーンタイプ、(b)はマルチウォールタイプ(多層型カーボンナノチューブ)、(c)はカップスタックタイプである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、この発明を実施するための形態について説明する。
この実施形態の方法は図1の紡糸装置を用いて実施することができる。
図1の紡糸装置は、ピッチ系物質1を貯蔵する貯蔵容器2と、貯蔵容器2を加熱して内部のピッチ系物質1を溶融状態に保持する電熱ヒーター3と、貯蔵容器2に接続された窒素ガス供給ライン4と、貯蔵容器2の下端に配置された溶融物吐出ノズル5と、溶融物吐出ノズル5の先端と対向する位置に配置された平板状のコレクタ6と、コレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間に電圧を印加する電圧発生器7と、で構成されている。
【0020】
ピッチ系物質1は別の容器で溶融状態とされ、その容器からギヤポンプ等により貯蔵容器2内に供給されるようになっている。貯蔵容器2は密閉構造となっていて、例えば0.3〜0.7MPa程度に加圧された窒素ガスが、窒素ガス供給ライン4から供給されるように構成されている。この加圧ガスの供給により、貯蔵容器2内のピッチ系物質1が溶融物吐出ノズル5に導入される。
【0021】
溶融物吐出ノズル5は、図2に示すように、紡糸ノズル51と、外筒52と、ノズルガイド53とで構成されている。紡糸ノズル51は、主要部51aと後端部51bと先端ノズル部51cとで構成されている。紡糸ノズル51の後端部51bに、内部5Aに溶融物を導入する配管54が接続されている。この配管54を介して、紡糸ノズル51の内部5Aに、貯蔵容器2から溶融状態のピッチ系物質1が導入される。
【0022】
紡糸ノズル51の主要部51aと外筒52およびノズルガイド53との間に、空間5Bが設けてある。この空間5Bにガスを導入する配管55が、外筒52に接続されている。紡糸ノズル51の先端ノズル部51cは、先端に向けて段階的に直径が小さく形成されている。ノズルガイド53は、紡糸ノズル51の先端ノズル部51cの形状に対応させて、先端に向けて内径が段階的に小さく形成されている。そして、ノズルガイド53の先端に、例えば直径が0.5mm程度のノズル口53aが形成されている。
この実施形態の紡糸方法では、軟化点が210℃を超え280℃未満である無水添ピッチ、または軟化点が120℃を超え250℃未満である水添ピッチを用意して、これを別の容器に入れて溶融状態とする。この溶融状態となったピッチ系物質1が、図1の紡糸装置の貯蔵容器2内に供給される。
【0023】
電熱ヒーター3で、ピッチ系物質1の粘度が(1〜100ポイズ)となるように貯蔵容器2を加熱し、窒素ガス供給ライン4から供給された加圧窒素ガスにより、貯蔵容器2内のピッチ系物質1を配管54から溶融物吐出ノズル5の紡糸ノズル51内に導入する。また、300℃程度に加熱された不活性ガス(窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等)を、配管55から溶融物吐出ノズル5の空間5Bに導入する。これにより、加熱された不活性ガスが、溶融物吐出ノズル5の空間5B(紡糸ノズル51の主要部51aの周囲)に供給される。
【0024】
また、電圧発生器7により、コレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間に0.5〜100kVの範囲で電圧を印加する。ここでは、安全性の観点から、コレクタ6を接地し、溶融物吐出ノズル5を正電圧側としている。コレクタ6の接地位置と溶融物吐出ノズル5の先端位置との距離は、例えば10〜200mmとする。この距離を10mm以上とすることにより、コレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間の絶縁破壊が防止され、安定した電位環境を保持することができる。また、この距離が200mmを超えると、コレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間に十分な電場が生じない。
【0025】
これにより、紡糸ノズル51の内部5Aに導入された溶融状態のピッチ系物質1が、ノズル口53aからコレクタ6に向けて吐出され、その際に、300℃程度に予熱された不活性ガスが溶融物吐出ノズル5の空間5Bに導入され、この不活性ガスが、溶融状態のピッチ系物質1の吐出方向と平行に、コレクタ6に向けて吹き付けられる。この不活性ガスの剪断力により、コレクタ6で捕集されるピッチ繊維の微細構造がランダムになると推定できる。
【0026】
このようにして得られたピッチ繊維に対して、一般的な不融化工程(ピッチ繊維を酸素含有雰囲気中で加熱する工程)を行った後、不融化されたピッチ繊維を不活性ガス雰囲気で熱処理する炭素化工程および黒鉛化工程を、それぞれ通常の方法で行う。その結果、平均直径が50nm以上800nm以下であり、ランダムに配向した多数の微結晶の黒鉛から構成され、Cu−Kα線のX線回折により測定される(002)面の面間隔が0.3400nm以上0.3700nm以下であるカーボンナノファイバーを得ることができる。
【0027】
なお、不融化工程の加熱温度は、使用したピッチ系物質の軟化点に応じて、例えば100〜300℃とする。また、炭素化工程は500℃以上1200℃以下で行い、黒鉛化工程は、炭素化工程の後に2000℃以上2700℃未満の温度で行う。不融化工程後のピッチ繊維を500〜1200℃で加熱すると揮発性物質が大量に発生するため、炭素化工程は、揮発性物質を除去できる構造になっている炉(炭素化炉)を使用して行う。黒鉛化工程は、炭素化工程で揮発性物質が除去された炭素繊維を、熱効率が高く、酸化性物質の混入がない構造の炉(黒鉛化炉)に移し換えて行う。
【0028】
この発明の方法で製造されたカーボンナノファイバーは導電性に優れるため、導電材料として使用することができる。例えば、合成樹脂に混合することで、絶縁体である合成樹脂に導電性を付与することもできる。また、リチウムイオン二次電池の負極材料の導電性を向上させる添加剤(導電剤)として使用することもできる。以下に、この発明で製造されたカーボンナノファイバーのリチウムイオン二次電池への適用について説明する。
【0029】
<リチウムイオン二次電池の構造>
リチウムイオン二次電池は、通常、負極、正極および非水電解質を主たる電池構成要素としている。正極および負極はそれぞれリチウムイオンの担持体であり、充電時にはリチウムイオンが負極に吸蔵され、放電時に負極から離脱することで、二次電池として作用する。
【0030】
リチウムイオン二次電池の構造は、用途、搭載機器、要求される充放電容量などに応じて、円筒型、角型、コイン型、ボタン型などの中から任意に選択することができる。より安全性の高い密閉型非水電解液電池を得るためには、過充電などの異常時に電池内圧の上昇を感知して電流を遮断させる手段を備えたものであることが好ましい。高分子固体電解質二次電池や高分子ゲル電解質二次電池などの高分子電解質二次電池の場合には、アルミラミネートフィルムに封入した構造とすることもできる。
これらの高分子電解質二次電池は、負極、正極および高分子電解質を、例えば、負極、高分子電解質、正極の順で積層し、電池の外装内に収容することで構成される。さらに、負極と正極の外側に高分子電解質を配するようにしてもよい。
【0031】
<リチウムイオン二次電池の負極>
リチウムイオン二次電池の負極は、炭素材料からなる負極材料(負極活物質)と、結合材と、導電剤などの添加剤とで構成される負極合剤を、集電材の表面に塗布することにより形成される。
炭素材料は、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛が使用できる。人造黒鉛としては、ピッチを加熱して黒鉛化したもの、ピッチを加熱して得られるメソカーボン小球体、バルクメソフェーズ、コークスなどの黒鉛化したもの、これらの黒鉛化物の表面をピッチ、フェノール樹脂で被覆後、焼成したものなどが例示できる。また、これらの複数の炭素材料を混合して用いてもよい。さらに、粉状、球状、リン片状、繊維状の炭素材料を負極材料として使用できる。
【0032】
負極の導電剤として、この発明の方法で製造されたカーボンナノファイバーを用いることで、負極材料の導電性を向上させることができる。このカーボンナノファイバーの含有率は、負極材料とカーボンナノファイバーの合計量に対して、0.1質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。なお、負極の導電剤としては、この発明の方法で製造されたカーボンナノファイバーだけでなく、カーボンブラック、気相成長法で得られた炭素繊維などが含有されたものを使用してもよい。
【0033】
リチウムイオン二次電池の負極の作製は、従来公知の負極の作製方法に準じて実施されるが、化学的、電気化学的に安定な負極を作製できる方法であれば、何ら制限されない。負極の作製時には、本発明の複合黒鉛質粒子を含むリチウムイオン二次電池用負極材料に、結合剤を加え、予め調製した負極合剤を用いることが好ましい。
結合剤としては、電解質に対して化学的安定性、電気化学的安定性を有するものが好ましく、有機溶媒に溶解および/または分散させる有機系結合剤はもちろんのこと、水系溶媒に溶解および/または分散する水系結合剤を用いても、優れた充放電特性を発現する負極を得ることができる。
【0034】
例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂、さらにはカルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴムなどのゴムなどが用いられるが、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、スチレンブタジエンゴムなどの水系結合剤を用いることが好ましい。これらを併用することもできる。結合剤は、通常、負極合剤の全量中0.5〜20質量%の割合で使用されるのが好ましい。
溶媒としては、負極合剤の調製に使用される通常の溶媒が使用される。具体的には、N ーメチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、水、アルコールなどが挙げられるが、水系溶媒の使用が環境汚染、安全性の点から好ましい。
【0035】
より具体的な負極の作製方法は、まず、負極材料を分級などにより所望の粒度に調整し、結合剤と混合して得た混合物を溶媒に分散させ、ペースト状にして負極合剤を調製する。すなわち、負極材料と、結合剤を、水、イソプロピルアルコール、N ーメチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどの溶媒に混合または分散して得たスラリーを、公知の攪拌機、混合機、混練機、ニーダーなどを用いて攪拌混合してペーストを調製する。該ペーストを、集電材の片面または両面に塗布し、乾燥すれば、負極合剤層が均一かつ強固に接着した負極が得られる。負極合剤層の膜厚は10〜200μm、好ましくは20〜100μmである。
【0036】
また、負極材料と、ポリエチレン、ポリビニルアルコールなどの樹脂粉末を、必要ならば、他の黒鉛質材料とともに乾式混合し、通常の成形方法に準じて負極を成形することができる。例えば、金型内で該混合物をホットプレス成形して負極を成形することができる。負極合剤層を形成した後、プレス加圧などの圧着を行うと、負極合剤層と集電材との接着強度をより高めることができる。
負極に用いる集電材の形状は特に限定されないが、箔状、またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状のものなどが用いられる。集電材の材質としては、銅、ステンレス、ニッケルなどが挙げられる。集電材の厚さは、箔状の場合は、5〜20μmであることが好ましい。
【0037】
<リチウムイオン二次電池の正極>
正極は、例えば正極材料と結合剤と導電剤よりなる正極合剤を集電材の表面に塗布することにより形成される。正極材料(正極活物質)は、十分量のLiを吸蔵・離脱し得るものを選択することが好ましい。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物、遷移金属カルコゲン化物、バナジウム酸化物(V2 5 、V6 13、V2 4 、V3 8 など)およびそのリチウム化合物などのリチウム含有化合物、一般式Mx Mo6 8-y (式中Mは少なくとも一種の遷移金属元素であり、Xは0≦X≦4、Yは0≦Y≦1の範囲の数である)で表されるシェブレル相化合物、活性炭、活性炭素繊維などを用いることができる。該リチウム含有遷移金属酸化物はLiと遷移金属との複合酸化物であり、Liと2種類以上の遷移金属を固溶したものであってもよい。
【0038】
該リチウム含有遷移金属酸化物は、具体的には、LiM11-p2 p 2 (式中M1 およびM2 は少なくとも一種の遷移金属元素であり、pは0≦p≦1の範囲の数である)、またはLiM12-q2 q 4 (式中M1 およびM2 は少なくとも一種の遷移金属元素であり、qは0≦q≦2の範囲の数である)で示される。
M、M1 およびM2 で示される遷移金属は、Co、Ni、Mn、Cr、Ti、V、Fe、Zn、Al、In、Snなどであり、好ましいのはCo、Fe、Mn、Cr、Ti、V、Alなどである。好ましい具体例はLiCoO2 、LiNiO2 、LiMnO2 、LiNi0.9 Co0.1 2 、LiNi0.5 Co0.5 2 などである。
【0039】
該リチウム含有遷移金属酸化物は、例えば、Liと遷移金属の酸化物または塩類を出発原料として、これら出発原料を所望の金属酸化物の組成に応じて混合し、酸素雰囲気下、600〜1000℃の温度で焼成することにより得ることができる。出発原料は酸化物または塩類に限定されず、水酸化物などでもよい。
正極活物質は、前記化合物を単独で使用しても、2種類以上併用してもよい。例えば、正極材料に炭酸リチウムなどの炭酸アルカリ塩を添加することもできる。
このような正極材料によって正極を形成するには、例えば、正極活物質と結合剤および電極に導電性を付与するための導電剤よりなる正極合剤を集電材の片面または両面に塗布することで正極合剤層を形成する。結合剤としては、負極で用いたものが使用可能である。導電剤としては、黒鉛やカーボンブラックなどの炭素材料が用いられる。
【0040】
正極に用いる集電材の形状は特に限定されないが、箔状、またはメッシュ、エキスパンドメタルなどの網状のものなどが用いられる。集電材の材質としては、アルミニウム、銅、ステンレス、ニッケルなどが挙げられる。集電材の厚さは、箔状の場合は、10〜40μmであることが好ましい。
正極の場合も負極の場合と同様に、正極合剤を溶剤中に分散させることでペースト状にし、このペースト状負極合剤を集電材に塗布し乾燥することによって正極合剤層を形成してよく、正極合剤層を形成した後、さらにプレス加圧などの圧着を行っても構わない。これにより、正極合剤層が均一かつ強固に集電材に接着される。
【0041】
<リチウムイオン二次電池の非水電解質>
リチウムイオン二次電池は、非水電解質として液系の電解質のほかに、固体電解質またはゲル電解質などの高分子電解質を使用することができる。液系の場合は非水電解質二次電池は、いわゆるリチウムイオン二次電池として構成され、高分子系の場合は高分子固体電解質二次電池、高分子ゲル電解質二次電池などの高分子電解質二次電池として構成される。
【0042】
リチウムイオン二次電池に使用される非水電解質は、通常の非水電解液に使用される電解質塩であり、具体的には、LiPF6 、LiBF4 、LiAsF6 、LiClO4 、LiB(C6 5 )、LiCl、LiBr、LiCF3 SO3 、LiCH3 SO3 、LiN(CF3 SO2 2 、LiC(CF3 SO2 3 、LIN(CF3 CH2 OSO2 2 、LIN(CF3 CF3 OSO2 2 、LIN(HCF2 CF2 CH2 OSO2 2 、LIN[(CF3 2 CHOSO2 2 、LIB[C6 3 (CF3 2 4 、LiAlCl4 、LiSiF6 などのリチウム塩が挙げられる。
特にLiPF6 とLiBF4 が酸化安定性の点から好ましい。電解液中の電解質塩の濃度は0.1〜5mol/l であることが好ましく、0.5〜3.0mol/l であることがより好ましい。
【0043】
非水電解質液とするための溶媒としては、通常の非水電解液の溶媒として使用されるものが挙げられる。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのカーボネート、1,1−または1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、γ−ブチロラクトン、1,3−ジオキソフラン、4−メチルー1,3−ジオキソフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル、スルホラン、メチルスルホランなどのチオエーテル、アセトニトリル、クロロニトリル、プロピオニトリルなどのニトリル、ホウ酸トリメチル、ケイ酸テトラメチル、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、酢酸エチル、トリメチルオルトホルメート、ニトロベンゼン、塩化ベンゾイル、臭化ベンゾイル、テトラヒドロチオフェン、ジメチルスルホキシド、3−メチル−2−オキサゾリドン、エチレングリコール、ジメチルサルファイトなどの非プロトン性有機溶媒を用いることができる。
【0044】
高分子電解質を用いる場合は、マトリックス構成する高分子として可塑剤(非水電解液)でゲル化した高分子を用いる。高分子電解質とするためのマトリックスとしては、ポリエチレンオキサイドやその架橋体などのエーテル系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライドーヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを単独または混合して用いることができる。これらの中では、酸化還元安定性などの観点から、ポリビニリデンフルオライドやビニリデンフルオライドーヘキサフルオロプロピレン共重合体などのフッ素系高分子化合物などを用いることが好ましい。
高分子電解質の場合、可塑剤が配合されるが、可塑剤としては、前記電解質塩や非水溶媒が使用される。高分子ゲル電解質の場合、可塑剤である非水電解液中の電解質塩濃度は0.1〜5mol/l であることが好ましく、0.5〜2.0mol/l であることがより好ましい。
【0045】
このような高分子電解質の製造方法は特に制限されないが、例えば、マトリックスを構成する高分子化合物、リチウム塩および非水溶媒(可塑剤)を混合し、加熱して高分子化合物を溶融・溶解する方法、混合用有機溶媒に高分子化合物、リチウム化合物および非水溶媒を溶解させた後、混合用有機溶媒を蒸発させる方法、重合性モノマー、リチウム塩および非水溶媒を混合し、混合物に紫外線、電子線または分子線などを照射して重合させる方法などを挙げることができる。
前記高分子電解質中の非水溶媒の割合は10〜90質量%が好ましく、30〜80質量%がより好ましい。10質量%未満であると導電率が低くなり、90質量%を越えると機械的強度が弱くなり、成膜しにくくなる。
【0046】
<リチウムイオン二次電池のセパレータ>
リチウムイオン二次電池のセパレータとしては、例えば、織布、不織布、合成樹脂製微多孔膜などが挙げられる。合成樹脂製微多孔膜が好ましいが、なかでもポリオレフィン系製微多孔膜が厚さ、膜強度、膜抵抗などの点から好ましい。具体的には、ポリエチレンおよびポリプロピレン製微多孔膜、またはこれらを複合した微多孔膜などである。
【実施例】
【0047】
以下、具体的な実施例および比較例を挙げてこの発明を説明する。
[サンプルNo.1]
ピッチ系物質として、コールタールを原料として調製された無水添ピッチ(軟化点232℃)を使用した。図1の紡糸装置として、容量が10mLであるステンレス製のバレル(樽形容器)からなる貯蔵容器2を備えたものを用意した。また、この紡糸装置は、溶融物吐出ノズル5として、基本的に図2に示すものであるが、紡糸ノズル51の先端部51cの形状は図2とは異なり、直径が一定のもの(段階的に直径が小さく形成されていないもの)を備えている。この先端部51cが27G(内径0.20mm、外径0.42mm)で、外筒52の内径が0.50mmで、ノズルガイド53のノズル口53aが0.50mmである。
【0048】
電熱ヒーター3に温度調節器を接続して、貯蔵容器2内のピッチ系物質1の温度が330℃となるように制御した。溶融物吐出ノズル5の外筒52の外側にも電熱ヒーターを巻いて温度調節器を接続し、紡糸ノズル51の内部5Aの温度が330℃になるように制御した。
330℃に予熱した窒素ガスを配管55から溶融物吐出ノズル5の空間5Bに導入し、ノズル口53aで1000mm/sの線速度となるように流量を調節した。この状態で、電圧発生器7により30kVの電圧を発生させて、コレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間に印加した。溶融物吐出ノズル5の真下で、ノズル口53aとの距離が120mmとなる位置にアース電極を置いた。この状態で、貯蔵容器2に窒素ガス供給ライン4から0.3MPaの加圧窒素を導入して紡糸を行った。これにより、紡糸が良好に進み、直径250nm前後のピッチ繊維が得られた。
【0049】
得られたピッチ繊維を、大気中において、先ず200℃で24時間、次に250℃で12時間、さらに300℃で5時間と、段階的に加熱することで不融化工程を行った。次に、不融化工程を行った炉内に窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、3℃/minの速度で1000℃まで昇温した後、1000℃に0.5時間保持する熱処理(炭素化工程)を行った。次に、この熱処理がなされた炭素繊維を黒鉛化炉に入れて、炉内にアルゴンガスを導入してアルゴンガス雰囲気とし、3℃/minの速度で1400℃まで昇温した後、1400℃で10時間保持する熱処理(黒鉛化工程)を行った。これにより、直径が比較的均一で250nm前後であるカーボンナノファイバーが得られた。
【0050】
得られたカーボンナノファイバーを、めのう製乳鉢で粉砕して、平均繊維長が100μmとなるようにした。このカーボンナノファイバーをX線回折装置にかけて、(002)面間隔を測定したところ、0.3462nmであった。なお、この面間隔は(002)面のピークトップのθ角より算出した。このカーボンナノファイバーを透過電子顕微鏡で観察した結果、その繊維構造は、図3に示すような、多数の微細結晶がランダムに存在する構造であることが判明した。図3に示すように、このような構造であると、電子(e- )は繊維の軸に沿った方向だけでなく、軸に交差する方向にも通過する。
【0051】
上述のようにして製造したカーボンナノファイバーを、メソフェーズ小球体の黒鉛化品に対して、3質量%の含有率となるように混合した。この混合物とバインダーであるポリビニリデンフルオロライド(PVdF)を、質量比で混合物:PVdF=90: 10となるように混合した。この混合物にN−メチルピロリドンを添加することでPVdFを溶解し、ペースト状炭素材を得た。
【0052】
このペースト状炭素材を、クリアランスを200μmに設定したドクターブレード塗布器具を用いて、集電体である銅箔の片面に塗布して電極板を作製した。この電極板を100℃で12分間乾燥した後、電極密度が1.8〜2.2g/cm3 になるようにプレスした。これを130℃で一昼夜、真空乾燥することで、試験電極を得た。
得られた試験電極のうち電極密度が1.9g/cm3 のものと、対極として用いたリチウム箔との間に多孔質のセパレーターを介在させ、非水系電解液に浸漬させることで、試験用電池を作製した。非水系電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)を、体積比でEC:EMC=1: 2の割合で混合した溶媒に、LiPF6 を1mol/kgの濃度となるように溶解させたものを用いた。
【0053】
この試験用電池の電池特性を調べたところ、放電容量は345mAh/gであり、負荷逆容量は20mAh/gであった。これらの値から算出された充放電効率は94.2%であった。また、充電受入れ性は1.0Cの充電で35.4%、放電率は2.0Cの放電で92.0%であった。なお、「C」は、定電流放電(充電)時の電流値の時間率を示す係数であって、「1.0Cの充電(放電)」は、1時間で充電(放電)が終了する電流値で定電流充電(放電)を行うことを意味する。「2.0Cの放電(充電)」は、0.5時間で放電が終了する電流値で定電流放電(充電)を行うことを意味する。
【0054】
[サンプルNo.2]
ピッチ系物質として、コールタールを原料として調製された水添ピッチ(軟化点158℃)を使用した。図1の紡糸装置としてNo.1と同じものを使用して、貯蔵容器2内のピッチ系物質1の温度を250℃に制御し、紡糸ノズル51の内部5Aの温度を250℃に制御し、コレクタ6と溶融物吐出ノズル5との間に印加する電圧を15kVとした。これ以外はNo.1と同じ方法で紡糸を行った。これにより、紡糸が良好に進み、直径800nm前後のピッチ繊維が得られた。
【0055】
得られたピッチ繊維を、大気中において300℃で5時間加熱することで不融化工程を行った。次に、不融化工程を行った炉内に窒素ガスを導入して窒素ガス雰囲気とし、3℃/minの速度で1000℃まで昇温した後、1000℃に0.5時間保持する熱処理(炭素化工程)を行った。次に、この熱処理がなされた炭素繊維を黒鉛化炉に入れて、炉内にアルゴンガスを導入してアルゴンガス雰囲気とし、3℃/minの速度で2500℃まで昇温した後、2500℃で10時間保持する熱処理(黒鉛化工程)を行った。これにより、平均直径が800nmであるカーボンナノファイバーが得られた。
【0056】
得られたカーボンナノファイバーを、めのう製乳鉢で粉砕して、平均繊維長が100μmとなるようにした。このカーボンナノファイバーをX線回折装置にかけて、No.1と同じ方法で(002)面間隔を測定したところ、0.3485nmであった。このカーボンナノファイバーを透過電子顕微鏡で観察した結果、図3に示すような構造であることが判明した。
【0057】
上述のようにして製造したカーボンナノファイバーを、No.1で使用したものと同じメソフェーズ小球体の黒鉛化品に対して、3質量%の含有率となるように混合した。この混合物を用い、No.1と同じ方法で試験電極を得た。得られた試験電極のうち電極密度が1.9g/cm3 のものと、対極として用いたリチウム箔との間に多孔質のセパレーターを介在させ、非水系電解液に浸漬させることで、試験用電池を作製した。非水系電解液はNo.1と同じものを用いた。
この試験用電池の電池特性を調べたところ、放電容量は346mAh/gであり、負荷逆容量は20mAh/gであった。これらの値から算出された充放電効率は94.2%であった。また、充電受入れ性は1.0Cで35.3%、放電率は2.0Cの放電で91.8%であった。
【0058】
[サンプルNo.3]
ピッチ系物質として、No.1と同じ軟化点が232℃の無水添ピッチを使用した。図1の紡糸装置としてNo.1と同じものを使用したが、予熱した窒素ガスを溶融物吐出ノズル5の空間5Bに導入しなかった。これ以外はNo.1と同じ方法で紡糸を行った。これにより、紡糸が良好に進み、直径250nm前後のピッチ繊維が得られた。
得られたピッチ繊維に対する不融化工程と、炭素化工程と、黒鉛化工程を、No.1と同じ方法で行った。これにより、直径が250nmで均一なカーボンナノファイバーが得られた。
【0059】
得られたカーボンナノファイバーを、めのう製乳鉢で粉砕して、平均繊維長が100μmとなるようにした。このカーボンナノファイバーをX線回折装置にかけて、No.1と同じ方法で(002)面間隔を測定したところ、0.3398nmであった。このカーボンナノファイバーを透過電子顕微鏡で観察した結果、図3に示す構造に似ているが、黒鉛微結晶のa軸が、繊維の軸方向に少し配向している構造であった。
【0060】
上述のようにして製造したカーボンナノファイバーを、No.1で使用したものと同じメソフェーズ小球体の黒鉛化品に対して、3質量%の含有率となるように混合した。この混合物を用い、No.1と同じ方法で試験電極を得た。得られた試験電極のうち電極密度が1.9g/cm3 のものと、対極として用いたリチウム箔との間に多孔質のセパレーターを介在させ、非水系電解液に浸漬させることで、試験用電池を作製した。非水系電解液はNo.1と同じものを用いた。
この試験用電池の電池特性を調べたところ、放電容量は345mAh/gであり、負荷逆容量は21mAh/gであった。これらの値から算出された充放電効率は93.9%であった。また、充電受入れ性は1.0Cの充電で33.3%、放電率は2.0Cの放電で90.5%であった。
【0061】
[サンプルNo.4]
気相成長法で作製された炭素繊維(VGCF)として、平均直径が150nmで平均繊維長がμmであるカーボンナノファイバーを入手した。このカーボンナノファイバーをX線回折装置にかけて(002)面間隔を測定したところ、0.3383nmであった。また、このカーボンナノファイバーを透過電子顕微鏡で観察した結果、その繊維構造は、図4に示すようなマルチウォールタイプであった。図4に示すように、このような構造であると、電子(e- )は繊維の軸に沿った方向には通過するが、軸に交差する方向には通過しない。
【0062】
このカーボンナノファイバーを、No.1で使用したものと同じメソフェーズ小球体の黒鉛化品に対して、3質量%の含有率となるように混合した。この混合物を用い、No.1と同じ方法で試験電極を得た。得られた試験電極のうち電極密度が1.9g/cm3 のものと、対極として用いたリチウム箔との間に多孔質のセパレーターを介在させ、非水系電解液に浸漬させることで、試験用電池を作製した。非水系電解液はNo.1と同じものを用いた。
この試験用電池の電池特性を調べたところ、放電容量は345mAh/gであり、負荷逆容量は22mAh/gであった。これらの値から算出された充放電効率は93.6%であった。また、充電受入れ性は1.0Cで29.2%、放電率は2.0Cの放電で89.0%であった。
【0063】
[サンプルNo.5]
No.1で使用したものと同じメソフェーズ小球体の黒鉛化品(カーボンナノファイバーを混合しないでそのままのもの)と、バインダーであるポリビニリデンフルオロライド(PVdF)を、質量比でメソフェーズ小球体の黒鉛化品:PVdF=90: 10となるように混合した。この混合物にN−メチルピロリドンを添加することでPVdFを溶解し、ペースト状炭素材を得た。
【0064】
このペースト状炭素材を用いた以外はNo.1と同じ方法で、試験電極を得た。得られた試験電極のうち電極密度が1.9g/cm3 のものと、対極として用いたリチウム箔との間に多孔質のセパレーターを介在させ、非水系電解液に浸漬させることで、試験用電池を作製した。非水系電解液はNo.1と同じものを用いた。
この試験用電池の電池特性を調べたところ、放電容量は345mAh/gであり、負荷逆容量は20mAh/gであった。これらの値から算出された充放電効率は94.2%であった。また、充電受入れ性は1.0Cで25.1%、放電率は2.0Cの放電で87.4%であった。
得られたNo.1〜No.5の試験用電池の電池特性を、下記の表1にまとめて示す。
【0065】
【表1】

【0066】
また、No.1〜No.5の試験用電池のサイクル特性を調べたところ、図5に示すグラフが得られた。
これらの試験結果から以下のことが分かる。炭素繊維(CF)を添加した炭素材からなる試験電極を有するNo.1〜No.4の試験用電池は、炭素繊維を添加しない炭素材からなる試験電極を有するNo.5の試験用電池と比較して、優れた電池特性が得られている。また、No.1〜No.4の試験用電池のうちNo.1とNo.2の試験用電池は、この発明の実施形態の方法で製造されたカーボンナノファイバーを添加していることで、特に優れた電池特性が得られている。
【符号の説明】
【0067】
1 ピッチ系物質
2 貯蔵容器
3 電熱ヒーター
4 窒素ガス供給ライン
5 溶融物吐出ノズル
51 紡糸ノズル
51a 主要部
51b 後端部
51c 先端ノズル部
52 外筒
53 ノズルガイド
53a ノズル口
54 溶融物導入用の配管
55 ガス導入用の配管
5A 紡糸ノズルの内部
5B ガスが導入される空間
6 コレクタ
7 電圧発生器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトロスピニング法により、ピッチ系物質の溶融物を紡糸ノズルからコレクタに向けて吐出することで、ピッチ繊維を紡糸する方法であって、
前記ピッチ系物質として、軟化点が210℃を超え280℃未満である無水添ピッチ、または軟化点が120℃を超え250℃未満である水添ピッチを用い、
前記紡糸ノズルの周囲に予熱されたガスを供給し、この予熱ガスを、前記紡糸ノズルから前記溶融物を吐出する際に、その吐出方向と平行に前記コレクタに向けて吹き付けることを特徴とするピッチ繊維の紡糸方法。
【請求項2】
ピッチ繊維の紡糸工程と、ピッチ繊維の不融化工程と、不融化されたピッチ繊維を不活性ガス雰囲気で熱処理する工程と、を有する炭素繊維の製造方法であって、
前記紡糸工程として、請求項1記載の紡糸方法を行うことを特徴とする炭素繊維の製造方法。
【請求項3】
平均直径が50nm以上800nm以下であり、ランダムに配向した多数の微結晶の黒鉛から構成され、Cu−Kα線のX線回折により測定される(002)面の面間隔が0.3400nm以上0.3700nm以下であるカーボンナノファイバー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−157668(P2011−157668A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−22304(P2010−22304)
【出願日】平成22年2月3日(2010.2.3)
【出願人】(591067794)JFEケミカル株式会社 (220)
【Fターム(参考)】