説明

ピメクロリムスの合成の化学酵素的アプローチ

アスコマイシンの24位および33位に存在するヒドロキシル基の選択的官能基化に特に関する精製された酵素系の選択性の特性を利用して、アスコマイシンから出発するピメクロリムスを調製するための方法。かかる方法は、ピメクロリムスを調製するための化学酵素合成の初めての例を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピメクロリムス(pimecrolimus)を調製するための化学酵素合成方法に関する。
【0002】
ピメクロリムス(登録番号137071−32−0、図1)は、抗炎症性、抗増殖性および免疫抑制の特性を有するマクロリドである。この物質は、ヨーロッパおよびアメリカ合衆国で最近承認された、アトピー性皮膚炎などの皮膚の炎症状態の局所的治療のための薬品、エリデル(Elidel)(登録商標)中に有効成分として存在する。
【0003】
【化1】

【背景技術】
【0004】
ピメクロリムスの調製は、特許出願、サンド(Sandoz)を代表とする特許文献1に初めて記載された。かかる文献において原料として使用されているのは、アスコマイシン(登録番号11011−38−4によって同定される化合物)、すなわちストレプトミセス(Streptomyces)株から発酵によって得られた天然物(例えば、ストレプトミセスハイグロスコピクス変種アスコミセチクス(Streptomyces hygroscopicus var ascomyceticus)、またはストレプトミセスハイグロスコピクスツクバエンシス(Streptomyces hygroscopicus tsukubaensis)NO9993など)である。ピメクロリムスは、アスコマイシンから、合成の一連の4つのステップによって得られる(スキーム1)。
【0005】
【化2】

【0006】
構造の観点から、ピメクロリムスは、アスコマイシンの33−エピ−クロロ誘導体である。特許文献1に記載の通り、アスコマイシンの構造中に、24位および33位に2個の二級ヒドロキシル基が同時に存在するので、24位のヒドロキシルを保護してから、塩素の原子で33位の第2のヒドロキシルを置換する必要がある。
【0007】
アスコマイシンの24位のヒドロキシルのモノ保護(monoprotection)を得るために、かかる合成方法は、24,33−ジシリル誘導体の調製および33位のシリルエステルの引き続いての選択的な除去を提供する。
【0008】
シリル化剤と基質との高い割合および脱保護の引き続いてのステップの完全でない選択性により、シリカゲルのカラムでの2つのクロマトグラフィー精製を実行する必要がある(非特許文献1参照。)。
【0009】
かかる合成方法の一般的な収率は、文献に示されておらず、本出願者による実験は、かかる収率がアスコマイシンから出発して約16%モルに達することを明らかにした。
【0010】
その他の合成方法が、特許文献1の合成の代替の方法として最近、提案された。
【0011】
特に、Novartisを代表とする国際特許出願、特許文献2は、塩素の原子でのアスコマイシンの33位のヒドロキシルの直接的な置換を提供し、Tevaを代表とする国際特許出願、特許文献3に記載された第2の代替方法は、アスコマイシンの33位のスルホン酸塩誘導体を、合成の中間体として使用する。
【0012】
特許文献2においては、提案されたハロゲン化剤(クロロホスホランおよびN−クロロスクシンイミド)が、同著者らによると、33位のヒドロキシル官能基を位置選択的に置換することができない、また特許文献3においては、得られた生成物の品質の特徴が、クロマトグラフィー精製および/または結晶化の後でさえも、医薬品用に使用される生成物にとって低い(すなわち実験の部分に記載されている通り、純度96%)という点で、提案された合成の代替方法は両方とも、完全には満足できない。
【0013】
一般に、精製された酵素系は、多官能性の分子の有機合成のために使用されてよい(非特許文献2、非特許文献3、非特許文献4)、特許文献4参照。)。
【0014】
特許文献5および特許文献6は、カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼの存在下での、42位のラパマイシンのアシル化を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】EP427680
【特許文献2】国際公開第2006040111号パンフレット
【特許文献3】国際公開第2006060614号パンフレット
【特許文献4】国際公開第2006024582号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2007103348号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2005105811号パンフレット
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】Baumann K., Bacher M., Damont A., Hogenauer K., Steck A. Tetrahedron, (2003), 59, 1075-1087
【非特許文献2】Wang Y-F, Wong C-H. J Org Chem (1988) 53, 3127-3129
【非特許文献3】Santaniello E., Ferraboschi P., Grisenti P., Manzocchi A. Chem. Rev. (1992), 92(5), 1071-140
【非特許文献4】Ferraboschi P., Casati S., De Grandi S., Grisenti P., Santaniello E. Biocatalysis (1994), 10(1-4), 279-88
【非特許文献5】Ferraboschi P., Grisenti P., Pengo D., Prestileo P,. Biocatalysis and Biotransformation (2006), 24(3), 209-213
【非特許文献6】Heldt-Hansen, Hans Peter; Ishii, Michiyo; Patkar, Shamkant A.; Hansen, Tomas T.; Eigtved, Peter.Novo Ind. A/S, Bagsvaerd, Den. ACS Symposium Series (1989), 389 (Biocatal. Agric. Biotechnol.), 158-72
【非特許文献7】Regent S.L., Lee D.P Journal of Organic Chemistry, (1975), 40, 1669-1670
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0017】
したがって、本発明の目的は、アスコマイシンの24位および33位に存在するヒドロキシル基の選択的官能基化の可能性に特に関する精製された酵素系の選択性の特性を利用して、アスコマイシンから出発するピメクロリムスを調製するための代替の方法である。かかる方法は、ピメクロリムスを調製するための化学酵素合成の初めての例を表す。
【発明の効果】
【0018】
特に、本発明による方法は収率約30%モルを有する、すなわち特許文献1に概説されている方法によって得ることができる収率より約87.5%高い収率を有する、アスコマイシンから出発するピメクロリムスを得ることを可能にする。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の目的は、アスコマイシンの33位または24位のヒドロキシルの選択的な酵素的官能基化を含む、ピメクロリムスの代替の合成のための方法である。
【0020】
例えばカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B、E.C.3.1.1.3)、カンジダシリンドラセア(Candida cylindracea)由来のリパーゼ(CCL、E.C.3.1.1.3)、ブタ膵臓(porcine pancreas)由来のリパーゼ(PPL、E.C.3.1.13)およびシュードモナスセパシア(Pseudomonas cepacia)由来のリパーゼ(PFL、E.C.3.1.13)などの市場で入手可能な酵素は、基質としてアスコマイシン24,33ジアセテート(スキーム3の化合物V)を使用する加水分解条件およびalcoho lysis条件下ならびに基質としてアスコマイシンを使用するエステル転移反応条件下の両方で実行された選別により評価された。
【0021】
したがって、アスコマイシンの24,33−ジアセテート(diacetate)での加アルコール分解条件下で作用する、カンジダ・アンタルチカ(Candida antarticaI由来のリパーゼのみ、特にCAL Bが、対応するアスコマイシンの24−モノアセテート(monoacetate)(スキーム3の化合物VI)を化学選択的にもたらすことが可能であると、驚いたことにわかったのとちょうど同じように、不可逆的なエステル転移反応条件(アシル化剤として酢酸ビニルおよび溶媒としてtert−ブチルジメチルエーテルの使用を提供する条件)下で、カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(市場で入手可能な遊離型酵素の形態で、またはポリマー樹脂上に固定された酵素として、後者の形態はまた、CAL Bと呼ばれる)のみが、80時間以内に定量的にアスコマイシンの33位を選択的にアシル化することが可能であることが、驚いたことに発見された。
【0022】
したがって、本発明の目的は、ピメクロリムスを調製するための方法であって、方法はアシル化および/またはカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼによる酵素的加アルコール分解のステップを含むことを特徴とし、好ましくはカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)からの前記リパーゼは、CAL B(E.C.3.1.1.3.)である。
【0023】
さらに、本発明の目的はピメクロリムスの合成の方法であって、アスコマイシンの33位におけるエステル(好ましくは、C1〜C4エステル)の選択的な酵素的加アルコール分解、またはかかるエステルのシリル化された誘導体、さらに詳しくは33−アシル−24シリルアスコマイシンおよびカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ、好ましくはリパーゼCAL B(E.C.3.1.1.3.)によって、24位および33位でジアセチル化されたアスコマイシンなどのそれらの誘導体の選択的な酵素的加アルコール分解のステップを含む。
【0024】
かかる方法は、ピメクロリムスを調製するための化学酵素合成の初めての例を表す。文献に以前に記載された化学的な合成に対して、この方法は、アスコマイシンまたはアスコマイシンの誘導体などの多官能性の高分子において、極端ではない反応条件(例えばpHおよび温度)を使用して、したがって生成物それ自体の分解を最小化するという有利性を有する。
【0025】
アスコマイシンの33位および24位に存在するヒドロキシル官能基の保護/脱保護を得るための、ポリマーのマトリックスに結合されたカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B)の使用は、支持された酵素の使用が反応の後処理をかなり単純化するばかりでなく、数回の使用周期でのリパーゼの使用を可能にするという点で、この合成のさらなる有利性を表す。事実、支持されていないリパーゼとは違って、CAL Bは、ほとんどの有機溶媒および水に不溶性であり、したがって単純な濾過による反応媒体からのリパーゼの容易な回収を可能にするばかりでなく、かかる種類の支持されたリパーゼは、酵素の活性の観点から、より安定的であることが知られている(非特許文献5、非特許文献6参照。)。
【0026】
本発明の別の目的は、ピメクロリムスの合成のための方法であって、以下のステップ、a)アスコマイシンの33位のヒドロキシルの選択的な酵素的アシル化のステップと、b)対応する24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル中でのそのようにして得られた33−アシル化された誘導体の転換のステップと、c)ステップb)において調製された化合物の33位のアシルを酵素的に除去(加アルコール分解)して、アスコマイシンの24−tert−ブチルジメチルシリルエーテルを得るステップと、d)塩素の原子で、アスコマイシンの24−tert−ブチルジメチルシリルエーテルの33のヒドロキシルを置換して、誘導体24−tert−ブチルジメチルシリル−33−エピ−クロロアスコマイシンを得るステップと、最後にe)24位のtert−ブチルジメチルシリルエーテルの除去のステップとを含む。
【0027】
特に、上記に示されたステップは、以下の通り実行される:
a)33位のヒドロキシルでのアスコマイシンの化学選択的なエステル化反応は、ビニルエステルまたはC1〜C8トリフルオロエチルエステルのタイプの活性化されたエステル、好ましくはトリフルオロエチルアセテートまたは酢酸ビニルなどのアシル化剤の存在下で、例えばトルエン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルムおよびtert−ブチルジメチルエーテル(butyldimethylether)などの0.5を超える分配係数(logP)を有する非プロトン性有機溶媒の中から選択された適切な有機溶媒中で、酵素としてカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B、E.C.3.1.1.3)を特徴的に使用することによって実行される。かかるエステル化反応は、15℃から50℃の間に含まれる温度、好ましくは30℃で撹拌しながら、0.1から1の間に含まれる、好ましくは0.4のアスコマイシンのmgとCAL Bのユニットとの相対比を使用して実行される。アスコマイシンと活性化されたエステルとの相対的モル比は、1から6の間に含まれ、好ましくは4.5である。かかるエステル転移の反応が実行される基質の濃度は、0.01モルから0.1モルの間に含まれる。
【0028】
b)24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル(butyldimethylsilylether)−33−アシルアスコマイシン誘導体の調製反応は、例えばイミダゾール、ピリジンまたは2,6−ルチジンなどの有機塩基、好ましくは2,6−ルチジンの存在下で、1/2から1/7の間に含まれる、好ましくは1/5の相対的モル比で使用されるtert−ブチルジメチルシリルクロリドまたはtert−ブチルジメチルシリルトリフレートなどのシリル化剤の存在下で得られる。シリル化剤と有機塩基との相対的モル比は、1/1から1/4の間に含まれ、好ましくは1/3である。反応は、例えばジクロロメタンまたはテトラヒドロフランなどの非プロトン性有機溶媒中で実行され、0℃から40℃の間に含まれる温度、好ましくは25℃で、濃度範囲0.02モル〜0.15モル、好ましくは0.04モルで作用する。
【0029】
c)アスコマイシンの24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル(butyldimethylsilylether)(中間体24−シリル−33−OH、スキーム2の化合物III)を調製するための酵素反応、すなわち33位の加アルコール分解反応は、酵素としてカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B、E.C.3.1.1.3)を特徴的に使用して実行される。使用される有機溶媒は、C1〜C8第1級脂肪族アルコール、好ましくはn−オクタン−1−オールの存在下で、例えばtert−ブチルメチルエーテル(butylmethylether)、ジクロロメタンまたはトルエン、好ましくはtert−ブチルメチルエーテルなどの0.5を超えるlogPを有する非プロトン性溶媒の中から選択される。かかる加アルコール分解反応は、0.1から0.5の間に含まれる、好ましくは0.25の、24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル(butyldimethylsilylether)−33−アセチルアスコマイシン誘導体のmgとCAL Bのユニットとの相対比を使用して実行され、15℃から60℃の間に含まれる温度、好ましくは40℃で撹拌しながら作用する。基質と第1級脂肪族アルコールとの相対的モル比は、0.1から0.4の間に含まれ、好ましくは0.2である。反応は、0.01モルから0.1モルの間に含まれる、好ましくは0.02モルの基質の濃度で実行される。
【0030】
d)24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル(butyldimethylsilylether)−33−エピ−クロロアスコマイシン(中間体24−シリル−33−クロロ、スキーム2の化合物IV)の調製は、試薬としてジクロロ−トリフェニルホスホラン(triphenylphosphorane)またはN−クロロスクシンイミド(chlorosuccinimide)を特徴的に使用して実行され、試薬は、例えばトルエン、n−ヘキサン、またはジクロロメタン、好ましくはトルエンなどの非プロトン性溶媒中で、1.2から1.8の間に含まれる、好ましくは1.6の基質との相対的モル比で使用される。実行されるのは、25℃から80℃の間に含まれる温度範囲で、好ましくは60℃で、0.05モルから0.1モルの間に含まれる、好ましくは0.07モルの基質の濃度である。
【0031】
e)ピメクロリムス(pimecrolimus)を得るための24位のtert−ブチルシリルエーテル(butilsilyl ether)の除去は、酸触媒作用を用いて実行され、酸触媒作用は、フッ化水素酸(fluorhydric acid)もしくは塩酸などの一塩基の無機酸またはp−トルエンスルホン酸一水和物もしくはメタンスルホン酸、好ましくはp−トルエンスルホン酸一水和物などの有機酸を使用して、1:0.3から1:1の間に含まれる、好ましくは1:0.4の基質と酸とのモル比を使用して、24時間から72時間の間に含まれる反応時間をかけて、15℃から40℃の間に含まれる温度範囲、好ましくは25℃で作用して得られてよい。かかる反応は、反応溶媒として、2/8から8/2の間に含まれる相対的な容積の比で使用される非プロトン性溶媒とプロトン性溶媒との混合物を使用することによって実行され、0.05Mから0.2Mの間に含まれる基質のモル濃度で、好ましくは0.12Mの濃度で作用する。かかるステップにおいて使用可能な非プロトン性溶媒の例は、ジクロロメタンおよび炭化水素または直鎖状のC5〜C7炭化水素もしくは分枝状のC5〜C7炭化水素の混合物、好ましくはジクロロメタンである。このステップにおいて使用可能なプロトン性溶媒の例は、直鎖のC1〜C4アルコールまたは分枝鎖のC1〜C4アルコール、好ましくはメタノールである。
【0032】
上記の方法による好ましい合成は、以下のスキーム2に図式化されている。
【0033】
【化3】

【0034】
初期生成物、すなわちアスコマイシンにおいて実行されるのは、アシル化剤として酢酸ビニルおよび溶媒としてtert−ブチルジメチルエーテル(TBDME)を使用する、カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B)によって触媒される不可逆的なエステル転移反応である。これによって、80時間内で定量的に、アスコマイシンの33位の選択的なアセチル化を得ることが可能になる。
【0035】
得られた反応生成物(中間体アスコマイシン33−OAc、スキーム2の化合物I)は、いずれの精製も受けることなく、0.5時間内で、ジクロロメタンおよび2,6−ルチジン中でtert−ブチルジメチルシリルトリフレートによって、対応する24−tert−ブチル−ジメチル−シリルエーテル(中間体24−シリル−33−OAc、スキーム2の化合物II)に転換され、収率75%を有した。
【0036】
シリカゲルでのクロマトグラフィー精製の後で、中間体24−シリル−33−OAcの33位のアセテートは、加アルコール分解条件下でCAL Bをさらに使用して、すなわちtert−ブチルジメチルエーテル中でオクタン−1−オールを使用して除去され、アスコマイシンの24−シリルエーテル誘導体(スキーム2の化合物III)を生成し、80%から100%の間に含まれる収率を有した。
【0037】
この中間体は、ジクロロトリフェニルホスホラン(dichlorotriphenylphosphorane)との反応によって、塩素の原子で33位のヒドロキシルを置換して、最終生成物に転換された。中間体24−シリル−33−クロロ(スキーム2の化合物IV)は、クロマトグラフィー精製の後で得られた。
【0038】
最後に、ジクロロメタン/メタノール中でp−トルエンスルホン酸一水和物を使用する、24位のシリルエーテルの除去は、アスコマイシンから出発するピメクロリムスを得ることを可能にし、全体の収率約30%モルを有する。
【0039】
したがって、以前に記載されたピメクロリムスの合成より高い収率、特に、特許文献1に記載の方法によって得ることができる収率より87.5%高い収率がある。事実、特許文献1に概説された記載に関する、本願出願人によって実行された実験的な試験は、比較例4に示した通り、全体の転換収率16%を確認した。とりわけ、方法の全体の収率を特に不利にするのは、前述の特許の実施例1bおよび47(45%〜50%収率)に記載された条件下で実行された24位および33位のter−ブチルジメチルシリルエーテル(butyldimethylsilylether)基の脱保護のための停止、ならびに実施例1(50%〜60%収率)に記載されたハロゲン化であった。化合物24−シリル−33−OAc(スキーム2の化合物II)、すなわち化合物24−tert−ブチルジメチルシリル−33−アセチル−アスコマイシンは、文献に一度も記載されていない化合物であり、その化合物は本発明で初めて合成され、特徴付けられた。
【0040】
したがって、本発明のさらなる態様は、ピメクロリムスの酵素的合成方法において中間体として得られた、化合物24−tert−ブチルジメチルシリル−33−アセチル−アスコマイシンによって表される。
【0041】
本発明の別の主題は、ピメクロリムスの合成における中間体としての、化合物24−tert−ブチルジメチルシリル−33−アセチル−アスコマイシンの使用にある。
【0042】
本発明の別の目的は、ピメクロリムスの合成のための方法であって、以下のステップ、a’)24位および33位でアセチル化されたアスコマイシンを調製するステップと、b’)33位のアシルを酵素的に除去(加アルコール分解)して、24位でモノアセチル化されたアスコマイシンを得るステップと、c’)塩素の原子でアスコマイシンの33のヒドロキシルを置換して、化合物24−アセテート−33−エピ−クロロアスコマイシンを得るステップと、d’)24位のアセテートの除去のステップとを含む。
【0043】
特に、上記に示されたステップは、以下の通り実施される:
a’)アスコマイシン24,33−ジアセテート(中間体24,33ジアセテート、スキーム3の化合物V)の調製は、N,N−ジメチルアミノピリジン(dimethylaminopyridine;DMAP)の存在下で、3から6の間に含まれる、好ましくは4.5の基質との相対的モル比で、アシル化剤として塩化アセチルまたは無水酢酸を使用して特徴的に実行され、DMAPは、1.0から1.2の間に含まれる、好ましくは1.0のアシル化剤との相対比で使用される。反応は、溶媒としてピリジンまたはトリエチルアミン、好ましくはピリジンなどの有機塩基を使用して実行され、0.08モル〜0.5モルの間に含まれる、好ましくは0.1モルの基質の濃度で作用する。この反応の温度は、−5℃から25℃の間に含まれ、好ましくは0℃の温度であってよい。
【0044】
b’)アスコマイシン24,33−ジアセテート(中間体24,33−ジアセテート)から出発する24−アセチル−アスコマイシン(中間体24−アセテート−33−OH、スキーム3の化合物VI)を調製するための酵素反応(加アルコール分解)は、第1級C1〜C8脂肪族アルコール、好ましくはn−オクタン−1−オールの存在下で、例えばtert−ブチルメチルエーテル(butylmethylether)、ジクロロメタンまたはトルエン、好ましくはtert−ブチルメチルエーテル(butylmethylether)などの0.5を超えるlogPを有する、非プロトン性溶媒の中から選択された適切な有機溶媒中で、酵素としてカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B、(E.C.3.1.1.3.))を特徴的に使用して実行される。かかる反応は、0.1から0.5の間に含まれる、好ましくは0.23のアスコマイシン24,33−ジアセテートのmgとCAL Bのユニットとの相対比(relative ratio between mg of ascomycin 24,33-diacetate and units of CAL B)を使用して実行され、15℃から60℃の間に含まれる温度、好ましくは30℃で撹拌しながら作用する。第1級脂肪族アルコールと基質との相対的モル比は、0.2から0.8の間に含まれ、好ましくは0.5である。反応は、0.01モルから0.1モルの間に含まれる、好ましくは0.02モル濃度の基質で実行される。
【0045】
c’)24−アセチルアスコマイシンから出発する24−アセチル−33−エピ−クロロアスコマイシン(中間体24−アセテート−33−クロロ、スキーム3の化合物VII)の調製は、2.0から3.0の間に含まれる、好ましくは2.3の基質に対するモル比(トリフェニルホスフィン含有量で計算される)で、(スチレンとジビニルベンゼンとのコポリマー1gに付きトリフェニルホスフィン約3ミリモルの力価で)市場で入手可能な、ポリマーに担持されたトリフェニルホスフィンを使用して、特徴的に実行される。反応は、四塩化炭素のみ、または例えばトルエンもしくはキシレン、好ましくは四塩化炭素などの直鎖状のもしくは分枝状のC5〜C8脂肪族炭化水素もしくは直鎖状のもしくは分枝状のC5〜C8芳香族炭化水素などの別の非極性の非プロトン性有機溶媒の存在下でのヘキサクロロエタンなどのC1〜C2塩素化された溶媒中で実行され、0.05モル濃度から0.20モル濃度の間に含まれる、好ましくは0.1モル濃度の基質で、60℃から85℃の間に含まれる温度、好ましくは77℃で作用する。
【0046】
d’)ピメクロリムスを得るための24位のアセテートの除去は、酸触媒作用を使用して実行され、0.05から0.2モル濃度の間に含まれる濃度で、例えば直鎖状のC1〜C8アルコールまたは分枝状のC1〜C8アルコール、好ましくはメタノールなどの極性のプロトン性溶媒中で、5℃から40℃の間に含まれる温度範囲で作用する。このステップにおいて使用できる酸触媒は、フッ化水素酸(fluorhydric acidもしくは塩酸などの無機の一塩基酸または例えばp−トルエンスルホン酸一水和物(p-toluenesulfonic monohydrate acid)もしくはメタンスルホン酸などの有機酸、好ましくは塩酸であってよい。このステップにおける基質と最適な酸とのモル比は、1:5から1:20の間に含まれ、好ましくは1:13である。
【0047】
有利なことに、ステップc’)の塩素の原子での33位のヒドロキシルの置換反応における、支持されたトリフェニルホスフィンの使用は、合成のかかるステップの後処理のかなりの単純化を可能にし、実際に単純な濾過に低減される。かかる合成的修飾のさらなる有利性は、反応の終わりに回収された、支持された酸化されたトリフェニルホスフィンが、同じ方法において、トリクロロシラン(登録番号10025−778−2、非特許文献7参照。)を使用する再生の後で、再利用されてよいという事実にある。
【0048】
上記の方法による合成は、以下のスキーム3に図式化される。
【0049】
【化4】

【0050】
上記の方法による好ましい合成は、0℃でのピリジン中での無水酢酸およびジメチルアミノピリジン(dimethylaminopyridine;DMAP)とのアスコマイシンの反応を提供する。24,33−ジアセテート誘導体は、1時間内で調製された(スキーム3の化合物V、95%収率)。
【0051】
この基質上ではまた、加アルコール分解条件下で作用するカンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B、E.C.3.1.1.3)が、対応するアスコマイシンの24−モノアセテート(スキーム3の化合物VI)を化学選択的にもたらすことが可能であることが、驚いたことに発見された。
【0052】
したがって、アスコマイシンの24,33−ジアセテート(化合物V)は、オクタン−1−オールによるCAL Bからのtert−ブチルジメチルエーテル(butyldimethylether)(TBDME)への触媒された転換の間に、24−モノアセテート(24−アセテート−33−OH、化合物VI)に転換された(5時間内で、100%)。
【0053】
33位の塩素は、支持されたトリフェニルホスフィンおよび四塩化炭素との反応によって導入されて収率40%を有し、中間体24−アセテート−33−クロロを得た(スキーム3の化合物VII)。
【0054】
アスコマイシンの保護された24位のヒドロキシル上に塩素を導入するための、文献に以前に記載されたトリフェニルホスフィンの使用の代替としての、合成のこのステップ中の支持されたトリフェニルホスフィンの使用は、同じ転換収率を考慮すると、反応の後処理をかなり単純化することを可能にし、後処理は、支持されたトリフェニルホスフィンの場合、反応混合物を単純に濾過するステップおよび真空下で濾過物を蒸発させるステップによって実行される。
【0055】
かかる試薬はまた、同じ方法において、トリクロロシランによる再生の後で、再利用を可能にするという有利性を有する。
【0056】
外界温度でのメタノール中での3N HClによる24位のアセテートの除去(収率40%)は、参考試料と同一の特徴を有するピメクロリムスおよび全体の収率13%を得た(スキーム3)。方法の中間体アスコマイシン24,33−ジアセテート(化合物V)、アスコマイシン24−モノアセテート(化合物VI)およびアスコマイシン24−アセテート−33−エピ−クロロ(化合物VII)は、文献に記載されておらず、それらは、本発明において初めて合成され、特徴付けられた。
【0057】
したがって、本発明のさらなる態様は、ピメクロリムスの酵素的合成方法における中間体として得られたアスコマイシン24,33−ジアセテート、アスコマイシン24−モノアセテートおよびアスコマイシン24−アセテート−33−クロロ化合物によって表される。
【0058】
本発明のその他の目的は、ピメクロリムスの使用、すなわち合成における中間体としてのアスコマイシン24,33−ジアセテート、アスコマイシン24−モノアセテートおよびアスコマイシン24−アセテート−33−クロロ化合物の使用である。
【0059】
以下の実施例は、何であれいかなる方法においても本発明を制限することなく、本発明を例証する。
【実施例】
【0060】
材料および方法
以下の実施例において、1H−NMR(500MHz)分析を、Bruker AM500の装置上で、デューテロクロロホルム中に記録した、そして表示されたスペクトル値は、ppm(δ)であり、表示されたスペクトル値は、主要な異性体に特徴的なピークを示す。
【0061】
IR分析を、ATRを備えたPerkin Elmer FT IR(フーリエ変換赤外分光分析装置;Mod.Spectrum One)の装置上で記録した。偏光分析を、Perkin Elmer(Mod.343)の装置上で実行した。質量スペクトルを、直接注入技術を使用するFinnigan LCQ Deca Termoquest分光計装置(イオントラップ、ESIポジティブ)上で記録した。
【0062】
表示された示差走査熱量測定(DSC)値を、5℃/分の熱量で、Perkin Elmer(Mod.DSC7)の装置上で記録した。カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B 2U/mg、E.C.3.1.1.3)、カンジダシリンドラセア(Candida cylindracea)由来のリパーゼ(CCL 15〜25U/mg、E.C.3.1.1.3)、ブタ膵臓由来のリパーゼ(PPL ≧200U/mg、E.C.3.1.13)、シュードモナスセパシア(seudomonas cepacia)由来のリパーゼ(PFL 50U/mg、E.C.3.1.13)および支持されたトリフェニルホスフィン(トリフェニルホスフィンの約3.2ミリモル/g)を、Flukaから取得した。合成の初期試薬として使用されたアスコマイシンは、Poli Industria Chimica SpA,Quinto de Stampi,Rozzano(MI),Italyによって調製された。
【0063】
(実施例1)
アスコマイシンの33−アセチル誘導体(スキームIIの化合物I)の調製
カンジダアンタークティカ(Candida antarctica)由来のリパーゼ(CAL B Novozym435)[0.140g(2U/mg)FLUKA]を、トルエン(8ml)および酢酸ビニル(4.5eq、0.473g)中のアスコマイシン(100mg、0.126ミリモル)の溶液に加えた。30℃の温度で80時間、撹拌しながら反応を維持し、次に酵素を濾過のために取り出し、濾過物を低圧で濃縮して、33−アセチルアスコマイシン、105mgを得る。
【0064】
かかる中間体の試料を、分析の目的で、シリカゲルでのクロマトグラフィー(溶出剤として、n−ヘキサン/アセトン=8/2v/v)によって精製し、したがってアセトン/水によって結晶化した。
【0065】
以下の分析を、かかる試料に実行した。1H-NMR (500MHz) δ: 2.10 (CH3CO), 3.92および4.70 (24CHおよび33CH); IR (cm-1): 3484.245, 2935.287, 1735.331, 1649.741, 1450.039,
1372.278; DSC:134.25℃で吸熱、[α]D=−74,0°(c=0.5CHCl3)。
MSのスペクトル(ESI+):m/z:856.4(M+23、100.0%)
4571NO13のために計算された元素分析:C64.80%;H、8.58%;N、1.68%;O、24.94%
得られた元素分析:C64.78%;H、8.54%;N、1.59%;O、24.89%
【0066】
アスコマイシンの24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル−33−アセチル誘導体(中間体24−シリル−33−Oac、スキーム2の化合物II)の調製
2,6−ルチジン(0.290g、2.7ミリモル)およびtert−ブチルジメチルシリルトリフレート(0.238g、0.9ミリモル)を、ジクロロメタン(5ml)中のアスコマイシンの33−アセチル誘導体(150mg、0.18ミリモル)の溶液に加える。外界温度で30分間、撹拌しながら反応を放置する。この期間の後で、反応混合物を、炭酸水素ナトリウムで飽和させた溶液(5ml)によって洗浄し、得られた有機相をHCl、0.1N(5ml、3回)によって、およびNaClの30%の溶液(5ml)によって、続けて洗浄する。有機相を硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、真空下で濃縮して残渣を生成し、生成物128mgを得る。
【0067】
MSのスペクトル(ESI+):m/z:970.5(M+23、100.0%)
1H-NMR (500 MHz) δ: 0.05および0.06 ((CH3)2Si), 0.90 ((CH3)3C-Si), 2.10 (CH3CO), 4.70 (33CH)
IR (cm-1): 3462.948, 2934.450, 1739.236, 1649.937
5185NO13Siのために計算された元素分析:C64.59%;H、9.03%;N、1.48%;O、21.93%
得られた元素分析:C64.50%;H、9.05%;N、1.41%;O、21.88%
DSC=236.43℃で内皮性(endoderma)。[α]D=−81,4°(c=0.5CHCl3)。
【0068】
アスコマイシンの24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル(中間体24−シリル−33−OH、スキーム2の化合物III)の調製
n−オクタン−1−オール(0.035g、0.265ミリモル)およびCAL B(Novozym435)[0.100g(2U/mg)FLUKA]を、tert−ブチルメチルエーテル(4ml)中のアスコマイシンの24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル−33−アセチル誘導体(50mg、0.053ミリモル)の溶液に加える。40℃の温度で120時間、撹拌しながら反応を維持する。この期間の後で、反応混合物を濾過し、濾過物を真空下で蒸発させて残渣を生成し、未加工の反応生成物を得て、その生成物をシリカゲルでのクロマトグラフィーによって精製し、生成物44mg(0.048ミリモル)を石油エーテル/アセトン7/3による溶出によって回収する。
【0069】
得られた生成物の化学的特性/物理的特性は、特許文献1によって得られた参考試料のそれらの特性に匹敵する。
【0070】
24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル−33−エピ−クロロアスコマイシン(中間体24−シリル−33−クロロ、スキーム2の化合物IV)の調製
無水トルエン(1.4リットル)およびピリジン(50ml)中の24−シリルFR520、すなわち24−シリルアスコマイシン(165g、0.18モル)の溶液を、不活性雰囲気において外界温度(20℃〜25℃)で撹拌しながら、無水トルエン(1.1リットル)中のジクロロトリフェニルホスホラン(dichlorotriphenylphosphorane)(99.95g)の懸濁液に加える。
【0071】
加えた後で、反応混合物を60℃の温度で1時間、加熱する。この期間の後で、反応混合物の温度を25℃に下げ、したがって有機相を水(1Lで1回)によって、および10%のNaClの水溶液(各回1Lで4回)によって続けて洗浄し、次に有機相を硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、真空下で濃縮して、トルエンの湿潤固体約250gを得る。かかる残留物を、(存在するトルエンを除去するために)n−ヘキサン(500ml)によって再び取り出し、次に乾燥するまで蒸発させる。残留物を外界温度で約45分間、撹拌しながらn−ヘキサン(500ml)中で希釈し、次に溶解しなかった固体はbuckner上での濾過のために取り出す(それは、ジクロロホスホランの副産物である)。
【0072】
濾過物を低圧で濃縮して、固体148.6gを得て、この固体をシリカゲルでのクロマトグラフィー(n−ヘプタン/アセトン=9/1での溶出)で引き続いて精製し、生成物123g(0.13モル)を得る。
【0073】
得られた生成物の化学的/物理的特性は、文献(特許文献1)に記載されたそれらの特性に匹敵する。
【0074】
24−tert−ブチルジメチルシリルエーテル−33−エピ−クロロアスコマイシンからのピメクロリムスの調製
中間体24−シリル−33−クロロ(123g、0.13モル、スキーム2の化合物IV)を、ジクロロメタン/メタノール混合物=1/1=v/v(1.1リットル)中に、外界温度で撹拌しながら溶解させ、次にp−トルエンスルホン酸一水和物(10.11g)を加える。
【0075】
20℃〜25℃の温度で72時間、撹拌しながら反応を放置し、したがって水(600ml)と炭酸水素ナトリウム(4.46g)との溶液を、反応混合物に加える。反応混合物を外界温度で10分間、撹拌しながら維持し、次に有機相を調製し、塩化ナトリウムの10%の水溶液(600ml)によって洗浄する。
【0076】
有機相を硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、真空下で濃縮して、未加工のピメクロリムス119gを得る。かかる原産物を、シリカゲルでのクロマトグラフィー(溶出剤として、n−ヘキサン/アセトン)で精製し、そして酢酸エチル、シクロヘキサン/水によって結晶化して、精製ピメクロリムス66g(81.5ミリモル)を得る。
【0077】
得られた化学的/物理的データは、文献に示されたデータに匹敵する。
【0078】
(実施例2)
アスコマイシン24,33−ジアセテート(中間体24,33−ジアセテート、スキーム3の化合物V)の調製
DMAP(4.5eq、0.136g)および無水酢酸(4.5eq、0.114g)を、0℃の温度で撹拌しながら、ピリジン(2.5ml)中のアスコマイシン(200mg、0.25ミリモル)の溶液に加える。
【0079】
1.5時間、0℃の温度で撹拌しながら反応を維持し、次にそれを水によって希釈し、それを酢酸エチル(5mlで3回)によって抽出する。有機抽出物をHCl、0.5N(10mlで5回)によって洗浄し、Na2SO4上で無水化し、真空下で濃縮する。
【0080】
残留物をシリカゲルでのクロマトグラフィー(溶出剤として、n−ヘキサン/アセトン8/2v/v)で精製して、アスコマイシン24,32−ジアセテート(210mg、0.24ミリモル)を得た。
【0081】
本発明者らは、かかる精製された試料への以下の分析を実行した。
1H-NMR (500 MHz) δ: 2.02および2.06 (2 CH3CO), 5.20および4.70 (24CHおよび33CH);
IR (cm-1): 3462.749, 2935.824, 1734.403, 1650.739, 1449.091, 1371.079.
DSC:234.10℃で吸熱のピーク、[α]D=−100.0°(C=0.5CHCl3)。
MSのスペクトル(ESI+):m/z:898.4(100.0%、M+23)。
4773NO14のために計算された元素分析:C64.44%;H8.40%;N1.60%;O25.57%
得られた元素分析:C64.55%;H8.44%;N1.61%;O25.40%
【0082】
24−アセチルアスコマイシン(中間体24−アセテート−33−OH、スキーム3の化合物VI)の調製
カンジダ・アンタルチカ(Candida antartica)由来のリパーゼ(CAL B Novozym435)[1.1g(2U/mg)FLUKA]を、TBDME(25ml)およびn−オクタン−1−オール(4.5eq、0.371g)中のアスコマイシン33,24−ジアセテート(500mg、0.57ミリモル)の溶液に加える。30℃で100時間、撹拌しながら反応を維持し、次に酵素を濾過のために取り出し、得られた濾過物を低圧下で濃縮して、生成物425mg(0.51ミリモル)を得る。
【0083】
試料を、分析の目的で、シリカゲルでのクロマトグラフィー(溶出剤として、n−ヘキサン/アセトン=7:3v/v)によって精製し、したがってアセトン/水によって結晶化した。
【0084】
本発明者らは、かかる精製された試料への以下の分析を実行した。1H-NMR (500MHz) δ: 2.05 (CH3CO); IR (cm-1): 3491.528, 2935.860, 1744.728, 1710.227, 1652.310, 1448.662, 1371.335. DSC:134.68℃で吸熱のピーク、C;[α]D=−102.7°(c=0.5CHCl3
MSのスペクトル(ESI+):m/z:856.4(M+23、100.0%)
4571NO13のために計算された元素分析:C64.80%;H、8.58%;N、1.68%;O、24.94%
得られた元素分析:C64.71%;H、8.49%;N、1.60%;O、24.97%
【0085】
24−アセチル−33エピ−クロロアスコマイシン(中間体24−アセテート−33−クロロ、スキーム3の化合物VII)の調製
支持されたトリフェニルホスフィン(0.335g、1.1ミリモル)を、四塩化炭素(5ml)中の24−アセチルアスコマイシン(400mg、0.48ミリモル)の溶液に加える。反応混合物を3時間、還流下で維持し、次に反応混合物を外界温度で冷却する。得られた懸濁液を濾過し、濾過物を真空下で濃縮して残渣を生成し、反応原産物0.45gを得て、この生成物をシリカゲルでのクロマトグラフィーによって精製し、生成物163mg(0.19ミリモル)を、石油エーテル/アセトン=90/10による溶出によって得る。
1H-NMR δ: 2.08 (CH3CO); 4.60 (33CH); IR (cm-1)= 3464.941, 2934.360, 1738.993, 1650.366, 1450.424, 1371.557; DSC:231.67℃で吸熱のピーク、[α]D=−75.2°(c=0.5CHCl3
MSのスペクトル(ESI+):m/z:874.3(M+23、100.0%)
4570ClNO12のために計算された元素分析:C63.40%;H、8.28%;Cl、4.16%;N、1.64%;O、22.52%
得られた元素分析:C63.31%;H、8.30%;Cl、4.05%;N、1.58%;O、22.42%。
【0086】
24−アセチル−33−エピ−クロロアスコマイシンからのピメクロリムスの調製
メタノール(2ml)およびHCl 3N(1ml)中の24−アセチル−33−エピ−クロロアスコマイシン(200mg、0.23ミリモル、化合物VII)の溶液を、外界温度で40時間、撹拌する。この期間の後で、反応を重炭酸塩水溶液によって中和して、メタノールを真空下で蒸発させる。混合物をジクロロメタン(5mlで3回)によって抽出し、硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、濃縮して残渣を生成し、残留物を得て、その残留物を、シリカゲルでのクロマトグラフィー(溶出剤としてn−ヘキサン/アセトン)によって精製し、そして酢酸エチル、シクロヘキサン/水によって結晶化して、精製されたピメクロリムス78mg(0.096ミリモル)を得る。
【0087】
得られた生成物の化学的/物理的特徴は、ピメクロリムスのための文献に示されたデータに匹敵する。
【0088】
(実施例3)
リパーゼの選別:アスコマイシンでのエステル転移反応およびアスコマイシン33,24−ジアセテート(スキーム3の化合物V)での加アルコール分解
酵素反応の位置選択性を、1H−NMR分析の使用によって判定した。アスコマイシンの24,33−ジアセテート(化合物V)ならびに24−モノアセテートおよび33−モノアセテート(それぞれ、スキーム3の化合物VIおよびスキーム2の化合物I)は、文献において特徴付けられていない。記載されたアスコマイシンのエステルのみが、24,33−ジホルミエート(diformiate)であり、この化合物のために、24位および33位のプロトンは、2つの特徴的な信号、それぞれ5.22ppmおよび4.71ppmを示す。
【0089】
33−モノアセテート(化合物I)のスペクトルに存在するのは、提案された構造に適合する3.92ppmおよび4.70ppmでの2つのピークである。
【0090】
アスコマイシンの24,33−ジアセテート(化合物V)のスペクトルにおいて、かかるプロトンは、5.20ppmおよび4.70ppmになる。
【0091】
24−アセテート(化合物VI)のスペクトルにおいて、5.0ppmから5.4ppmの間の領域が改変され、ピークが4.7ppmで不在になることが観察される。
【0092】
表1および表2は、エステル化(エステル転移反応)、加水分解および加アルコール分解において、アスコマイシンおよびアスコマイシン33,24−ジアセテート(化合物V)上で実行された酵素反応に関する実験データを要約している。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
(実施例4)
(比較)
特許文献1に記載されたピメクロリムスの合成の方法の検証
イミダゾール(508mg)およびtert−ブチルジメチルシリルクロリド(1.125g)を、無水N,N−ジメチルホルムアミド(40ml)中のアスコマイシン2g(2.53ミリモル)の溶液に、分けて加える。反応混合物を外界温度で4.5日間、撹拌しながら維持する。酢酸エチル(200ml)によって混合物を希釈し、水(5x100ml)を使用して反応物を処理し、反応をそのようにして処理する。有機相を分離し、硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、真空下で蒸発させて残渣を生成し、泡沫状の原産物を得て、生成物をシリカゲルでのクロマトグラフィー(1:30p/p)によって、引き続いて精製する。アスコマイシン24,33ジシリル中間体2.1g(2.05ミリモル、収率81%モル)を、n−ヘキサン/酢酸エチル3/1による溶出によって得る。かかる中間体の化学的/物理的データは、特許文献1に示されたデータに匹敵する。
【0096】
アスコマイシン24,33ジシリル中間体2.1g(2.05ミリモル)を、0℃の温度で撹拌しながら、アセトニトリル(42ml)および水性HF40%(23.1ml)からなる溶液中に溶解させる。反応混合物を0℃の温度で2時間、撹拌しながら維持し、次にその反応混合物をジクロロメタン(30ml)によって希釈する。次に、反応物を、炭酸水素ナトリウム(30ml)および水(30ml)を使用する飽和水溶液によって、引き続いて洗浄する。分離された有機相を硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、真空下で蒸発させて残渣を生成し、泡沫状の残渣を得て、その残渣を引き続いてシリカゲルでのクロマトグラフィー(1:30p/p)によって精製し、アスコマイシン24モノシリル中間体839mg(0.92ミリモル、収率45%モル)を、ジクロロメタン/メタノール9/1による溶出によって得る。かかる中間体の化学的/物理的データは、スキーム2の化合物IIIで得られたデータに匹敵し、特許文献1に示された文献のデータに匹敵する。
【0097】
四塩化炭素(36.4ml)中のアスコマイシン24モノシリル中間体839mg(0.92ミリモル、収率45%モル)、トリフェニルホスフィン(337mg)の混合物を、還流下で15時間、撹拌しながら加熱する。この期間の後で、反応混合物を真空下で蒸発させて残渣を生成し、シリカゲルでのクロマトグラフィー(1:30p/p)によって精製された固体生成物を得て、アスコマイシン24モノシリル中間体、33−クロロ誘導体535mg(0.57ミリモル、収率63%モル)を、n−ヘキサン/酢酸エチル2/1による溶出によって得る。かかる中間体の化学的/物理的データは、本発明者らがスキーム2の化合物IVで得たデータに匹敵し、特許文献1に示された文献のデータに匹敵する。
【0098】
アスコマイシン24モノシリル中間体、33−クロロ誘導体535mg(0.57ミリモル)を、アセトニトリル(16.4ml)および水性HF40%(0.44ml)中に、外界温度で撹拌しながら溶解させる。反応混合物を外界温度で45分間(45’)、撹拌しながら維持し、次にその反応混合物を、酢酸エチル(100ml)によって希釈する。したがって、有機相を炭酸水素ナトリウムの水溶液(70ml)によって、水によって(2x70ml)引き続いて洗浄し、したがって、有機相を硫酸ナトリウム上で無水化し、濾過し、真空下で蒸発させて、固体を得て、その固体をシリカゲルでのクロマトグラフィー(1:30p/p)によって引き続いて精製し、ピメクロリムス323mg(0.399ミリモル、収率70%モル)を、n−ヘキサン/酢酸エチル2/3による溶出によって得る。得られた生成物の化学的/物理的特徴は、ピメクロリムスに関する文献に示されたデータに匹敵し、方法の全体の収率は、16%である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピメクロリムスを調製するための方法であって、酵素的アシル化のステップおよびカンジダ・アンタルチカ由来のリパーゼによる酵素的加アルコール分解のステップを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記カンジダ・アンタルチカ由来のリパーゼは、CAL B(E.C.3.1.1.3.)であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記加アルコール分解が、アスコマイシンの33位のエステルまたはそれらのシリル化された誘導体、好ましくはC1〜C4エステルまたはそれらのシリル化された誘導体の選択的な加アルコール分解であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記アスコマイシンの33位のエステルまたはそれらのシリル化された誘導体が、33−アシル−24−シリルアスコマイシンならびに24位および33位がジアセチル化されたアスコマイシンであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法であって、以下の、
a)アシル化剤および有機溶媒の存在下における、カンジダ・アンタルチカ由来のリパーゼによるアスコマイシンの33位のヒドロキシルの選択的な酵素的アシル化のステップと、
b)有機塩基の存在下におけるシリル化剤による、対応する24−tert−ブチル−ジメチル−シリルエーテル中でのそのようにして得られた33位−アシル化誘導体の転換のステップと、及び
c)有機溶媒およびC1〜C8第1級脂肪族アルコールの存在下における、ステップb)において調製された化合物の33位のアシルをカンジダ・アンタルチカ由来のリパーゼにより酵素的に除去して、アスコマイシンの24−tert−ブチル−ジメチル−シリルエーテルを得るステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記ステップa)のアシル化剤は、ビニルエステルまたはC1〜C8トリフルオロエチルエステル、好ましくは酢酸ビニルまたはトリフルオロエチルアセテートから選択されることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ステップa)およびステップc)の有機溶媒は、0.5を超える分配係数を有する非プロトン性有機溶媒であって、ステップa)においては好ましくはトルエン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、ジクロロメタン、クロロホルムまたはtert−ブチルジメチルエーテル、およびステップc)においては好ましくはtert−ブチルジメチルエーテル、ジクロロメタンまたはトルエン、さらにより好ましくはtert−ブチルジメチルエーテルであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
ステップb)の前記シリル化剤は、tert−ブチルジメチルシリルクロリドまたはtert−ブチルジメチルシリルトリフレートであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
ステップb)の前記有機塩基は、イミダゾール、ピリジンまたは2,6−ルチジン、好ましくは2,6−ルチジンであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項10】
ステップc)の前記第1級脂肪族アルコールは、n−オクタン−1−オールであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項11】
塩素の原子でアスコマイシンの24−tert−ブチル−ジメチル−シリルエーテルの33位のヒドロキシルを置換して、24−tert−ブチルジメチルシリル−33−エピ−クロロアスコマイシン誘導体を得るステップ、および24位のtert−ブチル−ジメチル−シリルエーテルを引き続いて除去するステップを含むことを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項12】
前記塩素の原子でのアスコマイシンの24−tert−ブチル−ジメチル−シリルエーテルの33のヒドロキシルによる置換が、ジクロロトリフェニルホスホランまたはN−クロロスクシンイミドを使用して実行されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記24位のtert−ブチル−ジメチル−シリルエーテルの除去は、一塩基の無機酸、好ましくはフッ化水素酸もしくは塩酸、または有機酸、好ましくはp−トルエンスルホン酸一水和物もしくはメタンスルホン酸、さらにより好ましくはp−トルエンスルホン酸一水和物による酸触媒作用を用いて実行されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】

【化1】

の24−tert−ブチルジメチルシリル−33−アセチル−アスコマイシン。
【請求項15】
ピメクロリムスの合成における反応中間体としての請求項14に記載の前記化合物の使用。
【請求項16】
請求項1に記載の方法であって、以下の、
a’)N,N−ジメチルアミノピリジンの存在下において、有機溶媒中のアスコマイシンおよびアシル化剤から出発して、24位および33位がアセチル化されたアスコマイシンを調製するステップと、及び
b’)有機溶媒およびC1〜C8第1級脂肪族アルコールの存在下において、ステップa’)で調製された化合物の33位のアシルをカンジダ・アンタルチカ由来のリパーゼにより酵素的に除去して、24位がモノアセチル化されたアスコマイシンを得るステップと
を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
ステップa’)の前記アシル化剤が、塩化アセチルまたは無水酢酸であることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ステップa’)の前記有機溶媒が、有機塩基、好ましくはピリジンまたはトリエチルアミンであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
ステップb’)の前記有機溶媒が、0.5を超える分配係数を有する非プロトン性有機溶媒、好ましくはtert−ブチルジメチルエーテル、ジクロロメタンまたはトルエン、さらにより好ましくはtert−ブチルジメチルエーテルであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項20】
ステップb’)の前記第1級脂肪族アルコールが、n−オクタン−1−オールであることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項21】
塩素の原子で、24位がモノアセチル化されたアスコマイシンの33位のヒドロキシルを置換して、24−アセテート−33−エピ−クロロアスコマイシン誘導体を得るステップ、および引き続いて24位のアセテートを除去するステップを含むことを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項22】
請求項21に記載の方法であって、塩素の原子での24位がモノアセチル化された前記アスコマイシンの33位の前記ヒドロキシルの置換が、ポリマーに担持されたトリフェニルホスフィンを使用して、C1〜C2塩素化された溶媒、好ましくは四塩化炭素中、または、別の非極性の非プロトン性有機溶媒、好ましくは直鎖状もしくは分枝状のC5〜C8脂肪族炭化水素または芳香族炭化水素、好ましくはトルエンもしくはキシレンの存在下において、ヘキサクロロエタンを使用して実行されることを特徴とする方法。
【請求項23】
24位の前記アセテートの除去が、一塩基の無機酸、好ましくはフッ化水素酸もしくは塩酸、または有機酸、好ましくはp−トルエンスルホン酸一水和物もしくはメタンスルホン酸、さらに好ましくは塩酸による酸触媒作用を用いて実行されることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項24】

【化2】

の24,33−ジアセテートアスコマイシン。
【請求項25】
ピメクロリムスの合成における反応中間体としての請求項24に記載の前記化合物の使用。
【請求項26】

【化3】

の24−モノアセテートアスコマイシン。
【請求項27】
ピメクロリムスの合成における反応中間体としての請求項26に記載の前記化合物の使用。
【請求項28】

【化4】

の24−アセテート−33−エピ−クロロアスコマイシン。
【請求項29】
ピメクロリムスの合成における反応中間体としての請求項28に記載の前記化合物の使用。

【公表番号】特表2012−527229(P2012−527229A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511394(P2012−511394)
【出願日】平成22年5月19日(2010.5.19)
【国際出願番号】PCT/IB2010/052218
【国際公開番号】WO2010/134027
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511159934)ユーティカルズ ソシエタ ペル アチオニ (4)
【Fターム(参考)】