説明

ピラジンカルボン酸化合物からなる薬剤、及び食餌

【課題】癌細胞の浸潤を阻害することにより癌転移を抑制する薬剤並びに肝臓を炎症から保護する薬剤の提供。
【解決手段】下記一般式で表されるピラジンカルボン酸化合物を含有する薬剤並びに食餌。


[R、R及びRは水素原子、又はアルキル基、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウム基。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌細胞の浸潤を阻害ないしは抑制するための薬剤、並びに肝臓を炎症から保護する薬剤に関し、詳しくは癌細胞の浸潤を阻害ないしは抑制することにより癌の転移を予防ないしは治療する薬剤、肝臓を炎症から保護することにより肝炎を予防ないしは治療する薬剤、並びに悪液質を予防ないしは治療する薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒー飲用が肝臓癌発症を予防するという疫学研究報告がある(非特許文献1)。
コーヒー成分であるクロロゲン酸、キナ酸及びカフェー酸は弱いながらも肝癌細胞の浸潤を抑制するとの報告がある(非特許文献2)。同様に、ニコチン酸と、そのメチルベタイン構造体であるトリゴネリンも、肝癌細胞の浸潤を抑制することが知られている(非特許文献3参照。)。
一方、本発明者らは、焙煎コーヒーのメーラード反応産物中の香り成分であるメチルピラジン化合物は、肝臓で代謝されてピラジンカルボン酸化合物に変換されることを見出し、特許出願している(特願2005−285640)。
前記メチルピラジン化合物の血液凝固抑制作用を有することが知られ(特許文献1)、中国では、テトラメチルピラジンが循環器疾患用薬として使用されている(非特許文献4)。しかし、タバコの煙に含まれる前記メチルピラジンがニワトリの胚の成長を抑制する等の報告もある。
ピラジン骨格を有する薬剤として、ピラジン酸アミド(ピラジナミド)は医療用抗結核薬として知られている。同様に、アシピモックス(5−メチルピラジン−2−カルボン酸 4−N−オキシド)は、脂質代謝改善薬として知られている。
【0003】
【化1】

【0004】
ピラジンカルボン酸化合物及びその類縁体の薬理作用として、前記ピラジナミドとして抗結核菌作用の他、ホルモン感受性リパーゼ抑制作用(血中遊離脂肪酸低下作用)が知られている。
【0005】
ところで、肝臓癌、乳癌等の早い時期に全身に癌細胞が転移する癌については、手術、放射線等による主病巣の摘除だけでは十分でなく、ときには検出されない微小な癌細胞が全身に残っていることがしばしばあることは周知の事実である。そのような転移性癌細胞の増殖及び他臓器等への転移・再発は患者の処置を困難にし、ときには壊滅的となり救済し難くなるのが現状である。転移性癌の再発を防ぐため、術後補助療法(アジュバント療法)が試みられてきている。
しかし、前記アジュバント療法に用いる薬(以下アジュバント剤という。)は、従来、抗癌剤が用いられており、転移の防止を標的とするアジュバント剤は、これまでなかった。
【0006】
一方、肝臓癌のほとんどは、B型又はC型肝炎が原因と知られ、そのB型、C型肝炎はいずれもウイルス粒子による感染が原因であることが知られている。上述のようなウイルス感染の他、肝障害性物質(例えば、リポポリサッカライド(以下、LPSという。))、アルコール等の環境因子が、肝炎ないしは肝機能障害を引き起こす。そこで、そのような環境因子による炎症から肝臓を保護することは、ひいては肝臓癌の予防となる。
そのような抗炎症的肝臓保護の観点から、カフェインを含む飲料がLPS等に起因する肝炎を予防するという報告(非特許文献5)がなされている。さらに、コーヒー飲用が肝炎に起因する肝細胞破壊を予防するという疫学研究報告がなされている(非特許文献6)。コーヒーは、クロロゲン酸、カフェイン、トリゴネリン、ニコチン酸などを量的に主要成分として共存含有し、これらの成分の効果として認識されている。
また、LPS誘発性の肝機能障害に対して、カフェインが有効との報告もあるが、カフェインは強い覚醒作用と利尿作用を有するため、多量のカフェインの使用には専門医による処置が必要である。
【0007】
肝保護作用を有する薬物としては、グリチルリチン製剤、タウリン、グルクロン酸などが市販されているものの、肝炎ないしは肝機能障害に対して一般的に用いられる有効薬剤は乏しいのが現状である。ましてや、上記ピラジンカルボン酸化合物が抗炎症的肝保護に有効であるとの知見はなかった。
【非特許文献1】M.Inoue,et al.,J.Natl.Cancer Inst. 97:292−300,2005
【非特許文献2】K.Yagasaki,et al.,Cytotechnology 33:229−235,2000
【非特許文献3】Hirakawa,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem. 69:653−658,2005
【非特許文献4】A.L.S.Au,et al.,Eur.J.Pharmacol. 468:199−207,2003
【非特許文献5】P.He,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem. 65:1924−1927,2001
【非特許文献6】C.E.Ruhl, et al.,Gastroenterol. 128:24−32,2005
【特許文献1】特開昭63−22018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上述のような問題点を解消するため、癌細胞の浸潤を阻害ないしは抑制することにより癌転移を予防ないしは治療する薬剤を提供することにある。また、本発明の目的は、LPS、ウイルス粒子等の環境因子による炎症から肝臓を保護し、肝炎を予防ないしは治療する薬剤を提供することにある。また、本発明の目的は、悪液質を予防ないしは治療する薬剤を提供することにある。さらに、本発明の目的は、癌転移もしくは悪液質の予防用ないしは治療用の食餌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、焙煎コーヒー豆のメーラード反応産物の肝代謝産物であるピラジンカルボン酸化合物の薬理作用について鋭意検討を重ねた。
その結果、前述のように焙煎コーヒー豆成分のクロロゲン酸、キナ酸、カフェー酸、トリゴネリン、ニコチン酸等に比べてより強力な、癌細胞の組織浸潤性抑制効果を、ピラジンカルボン酸化合物が有することを見出した。さらにまた、前記ピラジンカルボン酸化合物が、LPSに起因する肝機能障害による炎症から肝臓を保護し、肝炎を予防できることを見出した。本発明はこの知見に基づきなされるに至ったものである。
すなわち本発明は、
(1) 下記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物を含有し、癌細胞浸潤、癌転移、炎症、及び肝炎ないしは肝機能障害からなる群より選択される少なくとも1つを抑制、予防もしくは治療する薬剤、
一般式(1)
【0010】
【化2】

【0011】
[式中、R、R及びRはそれぞれ、水素原子、又はアルキル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウム基を示す。]
(2) 前記癌が肝臓癌である、(1)に記載の薬剤、
(3) 前記薬剤が、抗癌アジュバント剤である、(1)又は(2)に記載の薬剤、
(4) 前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が、ピラジン−2−カルボン酸、3−メチルピラジン−2−カルボン酸、5−メチルピラジン−2−カルボン酸、6−メチルピラジン−2−カルボン酸、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸、2,5−ジメチルピラジン−3−カルボン酸、2,3−ジメチルピラジン−5−カルボン酸、又は3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸である、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の薬剤、
【0012】
(5) 前記薬剤が、癌細胞浸潤抑制剤、癌転移抑制剤又は抗癌アジュバント剤であって、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸である、(1)〜(4)のいずれか1項に記載の薬剤、
(6) 前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物2種以上が含有することを特徴とする、悪液質を治療もしくは予防する薬剤、
(7) 薬学的に許容できる担体物質を含有する、(1)〜(6)のいずれか1項に記載の薬剤、及び
(8) 前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が少なくとも1種含有してなることを特徴とする、抗癌アジュバント療法用、癌転移の治療用もしくは予防用、または悪液質の治療用もしくは予防用の食餌
を提供するものである。
【0013】
本明細書及び特許請求の範囲において、「抗癌アジュバント剤」とは、抗癌剤投与、手術、放射線等による主病巣の摘除後でも、残存する微小な転移性癌細胞の増殖及び転移による再発を防ぐ術後補助療法(アジュバント療法)に用いる剤をいう。
本明細書及び特許請求の範囲において、「悪液質」とは、癌の末期、糖尿病等に認められる病態であって、栄養の利用についての代謝が癌のために障害された状態をいう。前記悪液質の症状としては、全身の衰弱、るいそう(極度のやせ)、瞼や足のむくみ、貧血等が認められる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の薬剤は、癌細胞の浸潤を抑制することにより癌の転移を防止するという新規な作用を有する抗癌アジュバント剤とすることができる。
本発明の薬剤は、抗炎症作用を有し、肝炎もしくは肝機能障害を防ぐことができる。
本発明の薬剤は、ピラジンカルボン酸化合物を2種以上含有させることによりその肝癌細胞浸潤抑制作用とあいまって、脂質代謝改善作用や抗血栓作用により悪液質を改善することができる。
ここで、癌は転移することがなければ、死の病ではなくなる可能性が高くなる。癌転移のメカニズムには不明な点も多くあるが、癌の重症例に見られるいわゆる悪液質は、癌転移を助長する病態の1つと考えられる。
本発明の薬剤は、ピラジンカルボン酸化合物を2種以上含有させることにより、ピラジンカルボン酸化合物の薬理作用の多様性を利用して、2種以上の薬理作用を同時に効率よく発現し、肝癌細胞の浸潤性を抑制する作用をより効率化することができる。
本発明の食餌は、生活習慣的に常用されている食品に含ませることにより、長期の生活期間において、癌(特に肝臓癌)転移の予防、肝炎もしくは肝機能障害の予防、または悪液質の予防をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の薬剤は、有効成分として、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物を含有し、癌細胞浸潤、癌転移、炎症、及び肝炎ないしは肝機能障害からなる群より選択される少なくとも1つを抑制、予防もしくは治療するプレイオトロピック薬剤である。
ここで、「プレイオトロピック薬剤」とは、癌細胞の浸潤を抑制する活性を有する一方で、肝臓保護活性を有するなど、多面的に薬理活性を有する剤をいう。
すなわち、本発明の薬剤は、癌細胞浸潤抑制剤、癌転移抑制剤、抗癌アジュバント剤、抗炎症剤、肝臓保護剤、または肝炎ないしは肝機能障害抑制剤として使用されることが好ましく、抗癌アジュバント剤として使用されるのがより好ましい。
前記癌としては、任意の癌を標的とすることができるが、特には肝臓癌である。
【0016】
本発明において、前記一般式(1)中、R、R及びRはそれぞれ、水素原子、又はアルキル基であり、アルキル基は置換基を有していてもよい。このアルキル基は、炭素原子数1〜3の低級アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基)が好ましい。
本発明において、R、R及びRは、それぞれ、水素原子又はメチル基が好ましく、R、R及びRの少なくとも1つがメチル基であることがより好ましく、R、Rの少なくとも1つがメチル基であることがさらに好ましく、R、Rのいずれもがメチル基であることが特に好ましい。
前記アルキル基が置換されている場合、置換基としては、例えば、炭素原子数1〜3のアルキル基等が挙げられる。
前記一般式(1)中のMは、水素原子、又はナトリウムイオン、アンモニウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等の塩が好ましく、カルシウムなどの多価(n価)金属M’の塩のときはM’/nを意味する。
本発明において、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が、ピラジン−2−カルボン酸、3−メチルピラジン−2−カルボン酸、5−メチルピラジン−2−カルボン酸、6−メチルピラジン−2−カルボン酸、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸、2,5−ジメチルピラジン−3−カルボン酸、2,3−ジメチルピラジン−5−カルボン酸、又は3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸であることが好ましい。
本発明の薬剤が癌細胞浸潤抑制剤、癌転移抑制剤、又は抗癌アジュバント剤である場合には、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸であることが好ましい。
下記一般式(2)で表されるピラジン化合物は、肝代謝により対応する前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物に変換される。
【0017】
【化3】

【0018】
前記一般式(2)中、R、R及びRについては、一般式(1)について前述したR、R及びRと同様である。
以下、化合物1〜14を参照して、本発明に用いるピラジンカルボン酸化合物の肝代謝生成について説明する。
【0019】
【化4】

【0020】
本発明者らは、複数種のメチルピラジン化合物を投与したマウスの肝臓を摘出し、該肝臓から抽出することによりメチルピラジンカルボン酸化合物が肝代謝により生成することを実験的に確認している。
また、本発明者らは、焙煎コーヒー豆中にメーラード反応産物として複数種のピラジン化合物(例えば、化合物1〜6)が含まれており、焙煎コーヒー豆には含まれていないが、コーヒー飲用後、肝代謝反応によって体内で複数種のピラジンカルボン酸化合物(例えば、化合物7〜14)が生成すること、前記ピラジンカルボン酸化合物が脂肪組織の受容体HM74に結合して、ホルモン感受性リパーゼの活性を抑制し、血中遊離脂肪酸濃度を低下させる脂質代謝改善作用を有していることを見出し、特許出願した(例えば、特願2005−285640)。
【0021】
前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物は、構造的に類似する化合物の製造に適用される任意の有機化学の常法、例えば、含窒素複素環の化学及びピラジンの化学の総説等に記載されている方法により製造することができる(例えば、Chem.Ber.100,555−559(1967)参照。)
特に、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物のうち、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物11)は新規化合物であり、実施例の項において後述するように、癌細胞の浸潤性抑制効果が最も優れている。
下記反応経路に従って、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物11)の製造方法について説明する。
【0022】
【化5】

【0023】
出発物質3,5−ジメチルピラジンをラジカル反応によりアセチル化し、2−アセチル−3,5−ジメチルピラジンを得ることができる。
上記反応については、例えば、Chem.Pharm.Bull.28(1)202−207(1980)に詳しく記載されている。
なお、出発物質3,5−ジメチルピラジンは市販品として入手可能である。
得られたアセチル−3,5−ジメチルピラジンをハロホルム反応することにより、目的の3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物11)を得ることができる。
【0024】
まず、本発明の薬剤の癌細胞浸潤防止の有利な効果は、確立している下記標準実験室的方法、いわゆるマトリゲル法により証明することができる。
癌細胞が基底膜を破壊すれば浸潤性で悪性となることが知られている(例えば、東京化学同人社発行、「生化学辞典第3版」、351頁参照。)。その機序は、癌細胞がマトリックスメタロプロテアーゼを分泌し、それにより基底膜を破壊することに基づく(例えば、Sato,H.,et al.,Nature 370:61(1994)参照。)。
ここで、基底膜とは、動物の組織(例えば、臓器、血管等)において、上皮細胞層と間質細胞層の間に存在したり、個々の細胞(例えば、肝細胞、脂肪細胞)を取り囲んでいたりしている細胞外マトリックスをいう。
【0025】
前記マトリゲル(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン社製)は、ラミニンを主成分とする、マウス基底膜から調製された基底膜モデルである。
前記マトリゲル法は、インビトロ(in vitro)、インビボ(in vivo)いずれにおいても、数多くの癌細胞の浸潤能ないしは転移能評価試験に使用され、確立した評価試験系である(例えば、Tompson,E.W.,Cancer Res. 51(1991):2670参照。)。
特に、抗腫瘍剤(例えば、タキソール)等を培地に含有させた系を用いた薬剤による転移抑制試験も確立している(例えば、Melchiori,A.,et al.,Cancer Res. 52(1992):2353参照。)。
【0026】
図1を用いて、マトリゲル評価試験方法を具体的に説明する。
図1は、後述する実施例1〜3で使用したマトリゲル試験系の模式図を示す図である。
図1中、1は基底膜マトリゲル、2は基底膜フィルター、3はウェル、4は上層、5は下層、6は細胞を示す。
基底膜マトリゲル1をコートした基底膜フィルターにより、ウェル3は、上層4及び下層5に分割されている。基底膜フィルター2は網の目(ふるい)のように孔(例えば、孔径8μm)を有する。
上層4における培地には、本発明の薬剤を含有させ、下層5には任意の培地を満たす。
上層4に細胞6を撒いて培養する。
細胞6が正常細胞であれば、基底膜マトリゲル1がバリアーとなって、基底膜フィルター2に細胞6が至ることはない。
これに対し、細胞6が浸潤性であれば、マトリックスメタロプロテアーゼを分泌し、それにより基底膜マトリゲル1を破壊し、基底膜フィルター2に至るまで浸潤してくる。
図1中矢印に示した下層側からウェル3を顕微鏡を用いて観察し、マトリゲルに浸潤して基底膜フィルター2を通過しようとする細胞6の単位面積当たり細胞数を計数することにより評価することができる。
上層4の培地に含有させる有効成分の濃度は1〜5μM程度の濃度でも十分な抑制効果が得られるが、10μM以上が好ましく、10μM〜5mMがより好ましい。
【0027】
次に、本発明の薬剤が抗炎症作用を有し、肝炎ないしは肝機能障害を予防する有利な効果について説明する。
炎症は炎症性疾患に限らず、何時でも誰でも引き起こしている。あらゆる炎症は環境因子によって惹起されることがほとんどであり、一旦惹起されれば細胞障害性である。
そこで、そのような環境因子による炎症から肝臓を保護することは、ひいては肝臓癌の予防ともなる。
ここで、上記肝炎ないしは肝機能障害は、肝臓に関する血液検査項目のうち、血中逸脱酵素AST(グルタミン酸オキサロ酢酸転移酵素;慣用名GOT)値又はALT(グルタミン酸ピルビン酸転移酵素;慣用名GPT)値の増加で特徴付けられている。前記AST(GOT)値等の増加は、具体的には肝細胞の破壊ないしは損傷の増加を表している。
【0028】
本発明の薬剤の肝炎ないしは肝機能障害を予防する有利な効果は、確立している下記標準実験室的方法(ラット・インビボ試験)により証明することができる。
ラットを用いたリポポリサッカライド(以下、LPSという。)誘発性肝機能障害に対するピラジンカルボン酸化合物の抑制評価試験である。
例えば、P.He,et al.,Biosci.Biotechnol.Biochem. 65:1924−1927,2001を参照して行うことができる。
任意のラットに、対照群には生理食塩水を経口投与し、試験群にはピラジンカルボン酸化合物を経口投与する。投与量は例えば、100mg/kg/日でよい。
投与1時間後に、100μg/kgのLPSと250mg/kgのD−ガラクトサミン(GalN)の混合物を腹腔内に投与する。
その後、各時間毎に、尾静脈から血液50μLを採取する。直ちに25℃、3000rpmで10分間の遠心分離を行い、血漿を分離し、AST及びALTの血中濃度を、Wakoキット(商品名、和光純薬社製)を用いて測定する。
通常、LPSに起因して血中濃度上昇が見られる。血中濃度上昇が見られなければ、肝機能障害が抑制されたと評価することができる。
【0029】
本発明に用いるピラジンカルボン酸化合物は、癌細胞の浸潤を予防する薬剤としてのその使用に加え、ネコ、イヌ、ウサギ、サル、ネズミ及びハツカネズミ等の実験室動物における新規抗浸潤薬の評価のための試験系の開発及び標定における薬理学的道具としても有用である。
【0030】
本発明の薬剤は、経口的、静脈的に投与するか、または幾つかの医学的に許容される経路(例えば、吸入、経皮膚、経粘膜)によって投与することができる。
本発明の薬剤の投与量は、癌の種類、悪性度の程度、患者の年齢及び性別により変動し一義的に定められるものではないが、ヒトへのその投与量は、有効成分として1〜20mg/kg/日が好ましく、5〜20mg/kg/日がより好ましい。
上記投与量は、実施例1〜3で後述するようにマトリゲル評価試験の結果から、本発明の薬剤10μM以下でも十分な薬理効果が得られたことから支持される。
【0031】
本発明の薬剤は、すなわち薬学的に許容される希釈剤または担持剤に含有させた形の薬剤として投与することができる。
本発明の薬剤は、種々の投与形(剤型)とすることができる。例えば、経口投与のために錠剤、カプセル剤、溶液または懸濁液の形とすることができ、直腸投与のために坐薬の形とすることができ、静脈内または筋肉内注射による投与のために滅菌された溶液ないしは懸濁液の形とすることができ、吸入による投与のために煙霧質または噴霧質の形とすることができ、吸入による投与のためにラクトースのような薬学的に許容される不活性の固体希釈剤と一緒の粉末の形とすることができ、または経皮膚投与のためにスキンパッチの形とすることができる。
【0032】
本発明の薬剤は、当業界でよく知られた薬学的に許容される希釈剤及び担持剤を使用することにより常法によって得ることができる。経口投与のための錠剤及びカプセル剤は、有利にコーティング、例えば腸コーティング(例えば、セルロースアセテートフタレートをべースとするオヘ(ohe))と一緒に形成させることができ、胃内で活性成分の溶解を最小にするかまたは不快な味覚を遮蔽する。
【0033】
前述した、希釈剤等を含有させてなる薬剤の他、有効成分として、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が2種以上含有してなる薬剤とすることができる。
各ピラジンカルボン酸化合物の薬理作用(例えば、癌細胞浸潤抑制作用、抗炎症作用、抗血栓作用)の強度の順位は、薬理作用の種類によって変動するので、薬剤中に2種以上含有させることにより、2種以上の薬理作用を同時に効率よく発現させることができる。
前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物2種以上を組み合わせて投与することにより、悪液質を治療もしくは予防する薬剤とすることができる。
具体的には、悪液質について後述するように、TNF−αにより癌細胞の浸潤性(ないしは転移性)増加、炎症増大が引き起されるが、それら癌細胞の浸潤性(ないしは転移性)増加及び炎症増大のいずれをも治療もしくは防止する観点から、癌細胞浸潤抑制ないしは転移抑制作用が強力な3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸と、抗炎症作用が強力な5−メチルピラジン−2−カルボン酸とを組み合わせて投与することが好ましい。
すなわち、有効成分として、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸及び5−メチルピラジン−2−カルボン酸が含有してなる、悪液質を治療もしくは予防する薬剤である。
前記薬剤における有効成分中、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸30〜70質量%及び5−メチルピラジン−2−カルボン酸70〜30質量%とすることが好ましい。
【0034】
癌浸潤抑制ないしは転移抑制作用を有するピラジンカルボン酸が、さらに抗血栓作用を有すということは、成人病をもつ患者(心血管系疾患リスクの高い患者)にとっては血行動態が改善し有利に働くことが多いので、有益である。
ここで、3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物14)は特に強い抗血栓作用を有する(岡ら、「臨床薬理学会」、2005年12月、番号3P099)。
本発明の薬剤は、有効成分として、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸、5−メチルピラジン−2−カルボン酸及び3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸の少なくとも2つが含有してなる、悪液質を治療もしくは予防する薬剤とすることもできる。
前記薬剤における有効成分中、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸20〜40質量%、5−メチルピラジン−2−カルボン酸20〜40質量%及び3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸20〜40質量%とすることが好ましい。
【0035】
癌による死亡の原因の約1/3は、悪液質によることが知られている。
前述した、全身衰弱、るいそう等の悪液質の症状の原因としては、TNF(腫瘍壊死因子)−αの過度の産生、癌細胞が正常細胞の約10倍のブドウ糖を取り込んで増殖のエネルギー源とすること、癌細胞が分泌するトキソホルモンによる脂肪分解促進、食欲不振の促進等が挙げられる。
特に、TNF−αは、その名称の由来通り、元々は癌細胞を破壊する物質として認められ、腫瘍のTNFレセプターに結合し、その癌細胞をアポトーシスに導く因子とされていたにもかかわらず、現在は、いわゆる悪液質惹起因子として知られている。
すなわち、TNF−αは、上記作用の他に、血管の内側にある内皮細胞を傷害して、血管の透過性を高め血漿が血管外に漏れる状態を引き起こすと同時に、前記癌細胞の浸潤性(ないしは転移性)も高めることとなる。
これによりさらに炎症が引き起こされ、さらにTNF−αが産生されて悪循環を引き起こす。
この悪循環により、播腫性血管内凝固症候群、アトピー性皮膚炎等の炎症が引き起されたり、脂肪細胞からTNF−αが分泌されることにより糖尿病のインスリン抵抗性(インスリンが利きにくくなる)が高まったり、高血圧が誘発されたりする。
この結果として、前記悪液質の症状となるのである(例えば、「癌患者の栄養管理・癌悪液質の対策」、メディカルレビュー社発行(1994)参照。)。
【0036】
本発明において、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が少なくとも1種含有してなる食餌とすることができる。
前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物2種以上を組み合わせて投与することにより、悪液質を治療もしくは予防する食餌とすることが好ましい。
各ピラジンカルボン酸化合物の薬理作用(例えば、癌細胞浸潤抑制作用、抗炎症作用、抗血栓作用)の強度の順位は、薬理作用の種類によって変動するので、2種以上の薬理作用を同時に効率よく発現させる観点から、前記食餌中に2種以上含有させることが好ましい。
本発明の食餌は、アジュバント療法用食餌、癌(特に肝臓癌)転移の治療用もしくは予防用の食餌、または悪液質の治療用もしくは予防用の食餌とすることができる。本発明の食餌を摂取することにより、長期のうちに医薬効能をも得られることは極めて好ましいことである。
本発明の食餌の具体例として、食餌中3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸30〜70質量%、及び5−メチルピラジン−2−カルボン酸70〜30質量%が含有してなる食餌等が挙げられる。
本発明の食餌の一日当りの摂取量は特に制限はないが、有効成分として1〜20mg/kg/日が好ましく、5〜20mg/kg/日がより好ましい。
【0037】
本発明に用いるピラジンカルボン酸化合物は、広く、多くの人に嗜好品として愛好されているコーヒーに含まれている成分ピラジン化合物の肝代謝産物である。
本発明に用いるピラジンカルボン酸化合物は、構造的にも薬理学的にもビタミンB3であるニコチン酸の類似体であり、長期間連用しても副作用は軽微である。ニコチン酸は添加物として認可されているので、ニコチン酸を服用するか、またはニコチン酸添加食品を取ることによって、本発明のような薬理効果があるとも考えられる。しかし、ニコチン酸には強い副作用(顔面紅潮、蟻走感)が発現するので、好ましくない。
本発明者らは、前記ピラジンカルボン酸化合物には、このような副作用が認められないか、極めて弱いので、安全に使用することが可能であることを見出し、特許出願した(例えば、特願2005−285640)。
アシピモックス(商品名、イタリアファイザー社製)はピラジンカルボン酸化合物の1種であり、既に20年の臨床使用経験を有しているが、重大な副作用はほとんど報告されていない。この事実から考えても、本発明に用いるピラジンカルボン酸化合物にも重大な副作用はないと予測される。
従って、副作用がほとんど認められないピラジンカルボン酸化合物を食餌として日常的に摂取することは、例えば、慢性的な炎症の治療ないしは予防、肝炎もしくは肝機能障害の治療ないしは予防、癌細胞浸潤もしくは転移治療ないしは予防、悪液質改善等につながる。
【0038】
本発明の食餌は、コーヒー、牛乳、清涼飲料水、パン、ビスケット等任意の飲食品に、各飲食品の特性、目的に応じ、製造工程で、また飲食時に適宜、添加したものとすることができる。また、本発明の食餌は、任意の製剤方法により錠剤、顆粒剤、散剤などとしてもよい。
特に、本発明の食餌をコーヒーに添加する場合、使用者の嗜好に合わせて種々の形態が可能である。例えば、多くの人が通常コーヒーに添加して用いる砂糖などの甘味料、クリームなどの乳製品などに添加しておくことができるし、それ自体の液体ないしは粉末を単独で添加することもできる。添加するコーヒーに特別な制限はなく、ブラックコーヒーでもよく、乳原料、糖類、香料などを添加した如何なる種類のものでもよく、コーヒー抽出液を濃縮し、凍結乾燥した粉末コーヒーでもよく、ボトルまたは缶に詰めたインスタントコーヒーでもよい。本発明の食餌をこれらのコーヒーの製造工程で添加してもよく、また飲用時に適宜に添加しても使用できる。飲食時に適宜添加することは、コーヒー豆を熱水で抽出したときに発生する香を本発明の食餌で調節する観点からも好ましい。さらにまた、コーヒー以外の清涼飲料、医薬部外品としてのドリンク剤などへの添加も好ましい。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
<3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物11)の製造>
(参考例1)
【0040】
【化6】

【0041】
2L四ツ口フラスコに3,5−ジメチルピラジン(35.0g、324mmol、アルドリッチ社製)をアセトニトリル350mL、水400mLに溶かし、ペルオキソ二硫酸アンモニウム(111g、486mmol)、硝酸銀(5.50g、32.4mmol)を加え60℃で撹拌した。次いで、ピルビン酸(24.8mL 356mmol)のアセトニトリル50mL溶液をゆっくり滴下し、同温度で2時間撹拌した。反応溶液を室温に戻し飽和炭酸水素ナトリウム溶液を加えエーテル抽出操作を行った。抽出したエーテルを無水硫酸ナトリウムで乾燥を行った後にエーテルを減圧下で留去した。
得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン−酢酸エチル、5:1)で精製し、2−アセチル−3,5−ジメチルピラジン(収量:38.1g、収率:78%、性状:微黄色油状)を得た。
HNMR(400MHz、CDCl)δ:2.60(3H,s),2.69(3H,s),2.80(3H,s),8.34(1H,s).
【0042】
【化7】

【0043】
2L四ツ口フラスコに次亜塩素酸ナトリウム水溶液(1.19L、799mmol)を仕込み、氷冷下水酸化ナトリウム(32.0g、799mmol)を溶解した。
前記得られた2−アセチル−3,5−ジメチルピラジン(30.0g、199mmol)を加え、60℃に加温し3時間撹拌した。反応溶液に氷冷下亜硫酸ナトリウム(25.1g、199mmol)を加え15分撹拌した後、濃塩酸で酸性とし酢酸エチル抽出操作を行った。抽出した酢酸エチルを無水硫酸ナトリウムで乾燥を行った後に酢酸エチルを減圧下で溶媒留去したところ微黄色の粗結晶20.1gを得た。
微黄色の粗結晶20.0gを水20mLに80℃で溶かし、終夜22℃(室温)で放置した。析出物を濾集し、少量の水で洗浄し微褐色結晶を得た。得られた微褐色結晶をトルエン70mLに80℃で溶かし、終夜室温で放置した。析出物を濾集し、少量のトルエンで洗浄を行い目的の新規化合物3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸(収量:6.83g収率23%、性状:微褐色粉末)を得た。
HPLC純度99.2%、融点143℃〜145℃。
HNMR(400MHz、CDCl)δ:2.67(3H,s),2.98(3H,s),8.31(1H,s),11.0(1H,s).
【0044】
下記実施例1〜4において、ピラジンカルボン酸化合物からなる薬剤として前述した、ピラジン−2−カルボン酸(化合物7)、3−メチルピラジン−2−カルボン酸(化合物8)、5−メチルピラジン−2−カルボン酸(化合物9)、6−メチルピラジン−2−カルボン酸(化合物10)、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物11)、2,5−ジメチルピラジン−3−カルボン酸(化合物12)、2,3−ジメチルピラジン−5−カルボン酸(化合物13)、及び3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸(化合物14)はいずれも関東化学社製のものを用いた。
<基底膜マトリゲルを用いるピラジンカルボン酸化合物のインビトロ肝癌細胞浸潤抑制試験>
(実施例1)
本発明のピラジンカルボン酸化合物からなる薬剤として前記化合物7〜14を用いて行った。
図1を用いて、マトリゲル評価試験方法について前述したように、基底膜マトリゲルを塗った孔径8μmの基底膜フィルターを装着したウェル(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン社製)を用いて、上層に肝臓癌細胞系HepG2細胞(大日本製薬社製)を2.5×10個添加した。
上層に無血清培地500μLと、下層に10%FBS(ウシ胎仔血清)を加えた培地750μLを添加した。予め、上層に添加する培地には、培地中濃度が50μMとなるように前記ピラジンカルボン酸化合物のいずれかを添加しておき、37℃で48時間培養した。
下層に0.1Mホウ酸塩と0.1%のクリスタルVを添加し、2%エタノールを加えて、HepG2細胞を染色した。ウェルを下層側から観察し、マトリゲルに浸潤して基底膜フィルターを通過したHepG2細胞の単位面積(78mm)当たり細胞数を、顕微鏡(倍率15倍)を用いて計数した。
ピラジンカルボン酸化合物の種類による薬効の比較は、浸潤細胞の数で評価した。
【0045】
図2は、50μM濃度における各種ピラジンカルボン酸化合物のHepG2細胞のマトリゲル浸潤抑制試験結果を示すグラフである。得られた数値は、各々6回測定の平均値である。以下同様である。
図2から明らかなように、対照群と比較して、ピラジンカルボン酸化合物7〜14はいずれも肝臓癌細胞の浸潤性を十分に抑制した。特に、化合物11及び8は著しい浸潤性抑制効果を示した。
【0046】
(実施例2)
各種ピラジンカルボン酸化合物の濃度を1mMとした以外は実施例1と同様にしてインビトロ肝癌細胞浸潤抑制試験を行った。
図3は、1mM濃度における各種ピラジンカルボン酸化合物のHepG2細胞のマトリゲル浸潤抑制試験結果を示すグラフである。
図3から明らかなように、対照群と比較して、ピラジンカルボン酸化合物7〜14はいずれも肝臓癌細胞の浸潤性を十分に抑制し、さらに実施例1の場合と比較するといずれも浸潤性抑制効果が増加した。特に、化合物11は著しい浸潤性抑制効果を示した。
【0047】
(実施例3)
実施例1及び2で最も浸潤性抑制作用を示した化合物11について、肝臓癌細胞の浸潤性抑制効果の濃度依存性試験を行った。
ピラジンカルボン酸化合物として化合物11の培地中濃度を10μM、50μM、100μM、1mM又は10mMとする以外は、実施例1と同様な操作によって行った。
図4は、HepG2細胞のマトリゲル浸潤抑制に対する化合物11の濃度依存性試験結果を示すグラフである。
図4から明らかなように、化合物11がHepG2細胞の浸潤性を抑制する効果は、濃度依存的であった。また、図4から、1〜5μM程度の濃度でも十分な抑制効果が示されるのは明らかである。
したがって、実施例3において、十分な抑制効果を示す培地中のピラジンカルボン酸化合物の濃度は5μM以上ということができる。
この結果から、ヒトへの投与量は、1〜20mg/kg/日が好ましいといえる。
【0048】
(実施例4)
<ピラジンカルボン酸化合物によるLPS誘発性肝炎ないしは肝機能障害予防試験>
5週齢のウイスター系雄性ラットを、対照群として生理食塩水投与群(個体数(n)=3)、5−メチルピラジン−2−カルボン酸(化合物9)投与群(n=3)、及びピラジン−2−カルボン酸(化合物7)投与群(n=3)に分類した。
化合物7又は化合物9の投与量は100mg/kg/日とした。
各群に生理食塩水、化合物7又は化合物9を経口投与し、その1時間後に、100μg/kgのLPSと250mg/kgのD−ガラクトサミン(GalN)の混合物を腹腔内に投与した。
その後、0、3、6、12、及び24時間後に、尾静脈から血液50μLを採取した。直ちに25℃、3000rpmで10分間の遠心分離を行い、血漿を分離した。最後に、AST及びALTの血中濃度を、Wakoキット(商品名、和光純薬社製)を用いて測定した。結果を図5に示す。
図5は、LPS誘発性肝炎ないしは肝機能障害に対するピラジンカルボン酸化合物の予防試験結果を示す図である。図5のaは、ASTについての結果であり、図5のbは、ALTについての結果である。
図5のa及びbから明らかなように、対照群ではLPS投与後12時間で、AST及びALTがともに大きなピーク値を示した。
これに対し、化合物7投与群、化合物9投与群では、逸脱酵素AST及びALTの血中濃度はまったく変化していなかった。
上記結果から、本発明に用いるピラジンカルボン酸化合物は、LPSによる幹細胞の破壊を防ぐ抗炎症効果を有し、肝炎ないしは肝機能障害に対する予防効果を有していることが明らかである。
また、ヒトへの投与量は、1〜20mg/kg/日でも十分な効果を有するといえる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、実施例1〜3で使用したマトリゲル試験系の模式図を示す図である。
【図2】図2は、50μM濃度における各種ピラジンカルボン酸化合物のHepG2細胞のマトリゲル浸潤抑制試験結果を示すグラフである。
【図3】図3は、1mM濃度における各種ピラジンカルボン酸化合物のHepG2細胞のマトリゲル浸潤抑制試験結果を示すグラフである。
【図4】図4は、HepG2細胞のマトリゲル浸潤抑制に対する化合物11の濃度依存性試験結果を示すグラフである。
【図5】図5は、LPS誘発性肝機能障害に対するピラジンカルボン酸化合物の予防試験結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物を含有し、癌細胞浸潤、癌転移、炎症、及び肝炎ないしは肝機能障害からなる群より選択される少なくとも1つを抑制、予防もしくは治療する薬剤。
一般式(1)
【化1】

[式中、R、R及びRはそれぞれ、水素原子、又はアルキル基を示し、Mは水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属又はアンモニウム基を示す。]
【請求項2】
前記癌が肝臓癌である、請求項1に記載の薬剤。
【請求項3】
前記薬剤が、抗癌アジュバント剤である、請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項4】
前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が、ピラジン−2−カルボン酸、3−メチルピラジン−2−カルボン酸、5−メチルピラジン−2−カルボン酸、6−メチルピラジン−2−カルボン酸、3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸、2,5−ジメチルピラジン−3−カルボン酸、2,3−ジメチルピラジン−5−カルボン酸、又は3,5,6−トリメチルピラジン−2−カルボン酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項5】
前記薬剤が、癌細胞浸潤抑制剤、癌転移抑制剤又は抗癌アジュバント剤であって、前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が3,5−ジメチルピラジン−2−カルボン酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項6】
前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物2種以上が含有することを特徴とする、悪液質を治療もしくは予防する薬剤。
【請求項7】
薬学的に許容できる担体物質を含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の薬剤。
【請求項8】
前記一般式(1)で表されるピラジンカルボン酸化合物が少なくとも1種含有してなることを特徴とする、抗癌アジュバント療法用、癌転移の治療用もしくは予防用、または悪液質の治療用もしくは予防用の食餌。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−210926(P2007−210926A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−31604(P2006−31604)
【出願日】平成18年2月8日(2006.2.8)
【出願人】(592068200)学校法人東京薬科大学 (32)
【出願人】(591045677)関東化学株式会社 (99)
【出願人】(800000080)タマティーエルオー株式会社 (255)
【Fターム(参考)】