説明

ピラゾロン誘導体を含む動脈瘤の予防・治療剤

【課題】動脈瘤の予防及び/又は治療のための新規な医薬を提供すること。
【解決手段】3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンなどのピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む、動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラゾロン誘導体若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脳動脈瘤は、一般人口の1〜5%に認められる一般的な疾患である。しかし、もし未破裂の状態で脳動脈瘤が発見されても、破裂の予防のためには開頭手術によるクリッピング術や血管内手術によるコイル塞栓術といった侵襲を伴う治療法しか存在しない。この大きな原因として、この脳動脈瘤に対して、その発生増大に関する詳細な機構が明らかでないことがあげられる。この点に関して、本発明者らは、先に開発した実験的誘発脳動脈瘤モデル動物を用いて脳動脈瘤発生増大機構の解析を行ってきた。その結果、脳動脈壁ではマクロファージを中心とする慢性炎症反応が生じており、これが脳動脈瘤形成に関与していることを示してきた(非特許文献1)。
【0003】
一方、下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)で表されるピラゾロン誘導体については、医薬の用途として、脳機能正常化作用(特許文献1参照)、過酸化脂質生成抑制作用(特許文献2参照)、抗潰瘍作用(特許文献3参照)、血糖上昇抑制作用(特許文献4参照)等が知られている。
【0004】
また、上記式(I)の化合物のうち、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンを有効成分とする製剤は、2001年6月以来、脳保護剤(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)として上市されている。この「エダラボン」は、活性酸素に対して高い反応性を有することが報告されている(非特許文献2;非特許文献3参照)。このように、エダラボンは活性酸素をはじめとする種々のフリーラジカルを消去することで、細胞障害などを防ぐ働きをするフリーラジカルスカベンジャーである。しかしながら、これまでのところ、エダラボンの動脈瘤に対する治療効果については報告がない。
【0005】
【特許文献1】特公平5−31523号公報
【特許文献2】特公平5−35128号公報
【特許文献3】特開平3−215425号公報
【特許文献4】特開平3−215426号公報
【非特許文献1】Tomohiro Aoki et al., Stroke, 38, 162-169, 2007
【非特許文献2】Kawai, H., et al., J. Phamacol. Exp. Ther., 281(2), 921, 1997
【非特許文献3】Wu, TW. et al., Life Sci, 67(19), 2387, 2000
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、動脈瘤の予防及び/又は治療のための新規な医薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として、式(I)で示されるピラゾロン誘導体を用いて、動脈瘤に対する作用について検討した。その結果、上記ピラゾロン誘導体の投与により、動脈瘤の発生又は増大を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、下記式(I):
【化2】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)
で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬が提供される。
【0009】
好ましくは、本発明の医薬は、動脈瘤の発生又は増大を抑制するために使用される。
好ましくは、本発明の医薬は、動脈瘤の増大を抑制するために使用される。
好ましくは、動脈瘤は脳動脈瘤である。
好ましくは、式(I)で表されるピラゾロン誘導体は、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである。
【0010】
本発明の別の局面によれば、上記式(I)で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の有効量をヒトを含む哺乳動物に投与する工程を含む、動脈瘤を予防及び/又は治療する方法が提供される。
【0011】
本発明のさらに別の側面によれば、動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬の製造のための上記式(I)で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物の使用が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明による動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬は、動脈瘤の発生又は増大を効果的に抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明による動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬(以下、本発明の医薬とも称する)は、式(I)で示されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含む。
【0014】
式(I)で示される化合物は、互変異性により、以下の式(I')又は(I”)で示される構造をもとりうる。本明細書の式(I)には、便宜上、互変異性体のうちの1つを示したが、当業者には下記の互変異性体の存在は自明である。本発明の医薬の有効成分としては、下記の式(I')又は(I”)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を用いてもよい。
【0015】
【化3】

【0016】
式(I)において、R1の定義におけるアリール基は単環性又は多環性アリール基のいずれでもよい。例えば、フェニル基、ナフチル基などのほか、メチル基、ブチル基などのアルキル基、メトキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、塩素原子などのハロゲン原子、又は水酸基等の置換基で置換されたフェニル基等が挙げられる。アリール部分を有する他の置換基(アリールオキシ基など)におけるアリール部分についても同様である。
【0017】
1、R2及びR3の定義における炭素数1〜5のアルキル基は直鎖状、分枝鎖状のいずれでもよい。例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。アルキル部分を有する他の置換基(アルコキシカルボニルアルキル基)におけるアルキル部分についても同様である。
【0018】
1の定義における総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキル基としては、メトキシカルボニルメチル基、エトキシカルボニルメチル基、プロポキシカルボニルメチル基、メトキシカルボニルエチル基、メトキシカルボニルプロピル基等が挙げられる。
【0019】
1及びR2の定義における炭素数3〜5のアルキレン基としては、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、メチルトリメチレン基、エチルトリメチレン基、ジメチルトリメチレン基、メチルテトラメチレン基等が挙げられる。
【0020】
2の定義におけるアリールオキシ基としては、p−メチルフェノキシ基、p−メトキシフェノキシ基、p−クロロフェノキシ基、p−ヒドロキシフェノキシ基等が挙げられ、アリールメルカプト基としては、フェニルメルカプト基、p−メチルフェニルメルカプト基、p−メトキシフェニルメルカプト基、p−クロロフェニルメルカプト基、p−ヒドロキシフェニルメルカプト基等が挙げられる。
【0021】
2及びR3の定義における炭素数1〜3のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。R3の定義における炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。
【0022】
3の定義において、フェニル基の置換基における炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基等が挙げられ、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基等が挙げられ、炭素数1〜3のアルキルメルカプト基としては、メチルメルカプト基、エチルメルカプト基、プロピルメルカプト基等が挙げられ、炭素数1〜4のアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基等が挙げられ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等が挙げられる。
【0023】
本発明の医薬の有効成分として好適に用いられる化合物(I)として、例えば、以下に示す化合物が挙げられる。
3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(2−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(3,4−ジメチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロピルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0024】
1−(4−トリフルオロメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジメトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−プロポキシフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジクロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0025】
1−(4−ブロモフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−フルオロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−クロロ−4−メチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルメルカプトフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(3−メチル−5−オキソ−2−ピラゾリン−1−イル)安息香酸;
1−(4−エトキシカルボニルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ニトロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−エチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−3−プロピル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0026】
1,3−ジフェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−フェニル−1−(p−トリル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3,4−ジメチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−イソブチル−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
4−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェノキシ−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−4−フェニルメルカプト−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0027】
3,3',4,5,6,7−ヘキサヒドロ−2−フェニル−2H−インダゾール−3−オン;
3−(エトキシカルボニルメチル)−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1,3−ジメチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−エチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ブチル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキエチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−シクロヘキシル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−ベンジル−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0028】
1−(α−ナフチル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−メチル−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
3−メチル−1−(4−メチルフェニル)−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブトキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−クロロフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ジヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(2−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
【0029】
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(3,4−ヒドロキシフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシフェニル)−3−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ヒドロキシメチルフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−アミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−メチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−エチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ブチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(4−ジメチルアミノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;
1−(アセトアミドフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン;及び
1−(4−シアノフェニル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン
【0030】
本発明の医薬の有効成分としては、式(I)で表される遊離形態の化合物のほか、生理学的に許容される塩を用いてもよい。生理学的に許容される塩としては、塩酸、硫酸、臭化水素塩、リン酸等の鉱酸との塩;メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸等の有機酸との塩;ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩;マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩;アンモニア、エタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール等のアミンとの塩が挙げられる。
この他、生理的に許容されるものであれば塩の種類は特に限定されることはない。
【0031】
式(I)で表される化合物はいずれも公知の化合物であり、特公平5−31523号公報などに記載された方法により当業者が容易に合成できる。
【0032】
本発明の医薬の投与量は特に限定されないが、式(I)で示される化合物を有効成分として用いる場合、通常は、式(I)で示される化合物の重量として一般に経口投与の場合には一日あたり0.1〜100mg/kg体重であり、非経口投与の場合には一日あたり0.1〜100mg/kg体重である。上記投与量は1日1回又は2〜3回に分けて投与するのが好ましく、年齢、病態、症状により適宜増減してもよい。
【0033】
本発明の医薬としては、上記式(I)で表される化合物若しくはその生理学的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物をそのまま投与してもよいが、一般的には、有効成分である上記の物質と薬理学的及び製剤学的に許容される添加物を含む医薬組成物を調製して投与することが好ましい。
【0034】
薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、例えば、賦形剤、崩壊剤ないし崩壊補助剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、色素、希釈剤、基剤、溶解剤ないし溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、安定化剤、噴射剤、及び粘着剤等を用いることができる。
【0035】
経口投与に適する医薬組成物には、添加物として、例えば、ブドウ糖、乳糖、D−マンニトール、デンプン、又は結晶セルロース等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、デンプン、又はカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤を用いることができる。
【0036】
注射あるいは点滴用に適する医薬組成物には、注射用蒸留水、生理食塩水、プロピレングリコール等の水性あるいは用時溶解型注射剤を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D−マンニトール、グリセリン等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤等の添加物を用いることができる。
【0037】
本発明の医薬の形態は特に限定されず、当業者に利用可能な種々の形態をとることができる。経口投与に適する医薬として、例えば、固体の製剤用添加物を用いて錠剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤などを調製することができ、液状の製剤用添加物を用いてシロップ剤などを調製することができる。また、非経口投与に適する医薬として、注射剤、点滴剤、坐剤、経皮吸収剤などを調製することができる。なお、上記の式(I)の化合物を有効成分とする脳保護剤(点滴剤)が、すでに臨床において使用されているので(一般名「エダラボン」、商品名「ラジカット」:三菱ウェルファーマ株式会社製造・販売)、本発明の医薬において上記市販製剤をそのまま用いることができる。
【0038】
本発明の医薬の投与経路は特に限定されず、経口的又は非経口的に投与することができる。非経口投与の投与経路も特に限定されず、静脈内、動脈内に注射投与することができる。
【0039】
本発明の医薬の投与の対象としては、生体に発生する動脈瘤の全てが適用対象となる。動脈瘤は、発生部位、原因、または形状などにより分類されている。例えば、発生部位による分類としては、胸部大動脈瘤や腹部大動脈瘤などの大動脈瘤、脳動脈瘤や腎動脈瘤などの内臓動脈瘤、または末梢動脈に発生する末梢動脈瘤等が挙げられる。原因による分類としては、動脈硬化性動脈瘤、炎症性動脈瘤、先天性動脈瘤、外傷性動脈瘤、または感染性動脈瘤等が挙げられる。また、形状による分類としては、嚢状動脈瘤、または紡錘状動脈瘤等が挙げられる。本発明の医薬の適用対象となる動脈瘤は特に限定されないが、上記の中でも、脳動脈瘤に適用することが特に好ましい。
【実施例】
【0040】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例により限定されるものではない。
【0041】
合成例:3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン(以下、エダラボンと称す)の合成
エタノール50ml中にアセト酢酸エチル13.0g及びフェニルヒドラジン10.8gを加え、3時間還流攪拌した。反応液を放冷後、析出した結晶をろ取し、エタノールより再結晶して、表題の化合物11.3gを無色結晶として得た。
収率 67%
融点 127.5〜128.5℃
【0042】
試験例:
(1)方法
7週齢の雄SDラットに対して脳動脈瘤誘発手術を行った。ペントバルビタール腹腔内投与による麻酔導入の後、左総頚動脈及び両側腎動脈後枝を10−0ナイロン糸で閉塞する。覚醒後、8%塩分を含有する高塩分食負荷の元全身的高血圧を誘導し、脳動脈瘤を誘発した。ラットの血圧は、tail-cuff法にて測定した。
【0043】
脳動脈瘤誘発手術直後から、エダラボン投与群では、一日あたり100mg/kgの持続混餌投与を行った。脳動脈瘤誘発手術3ヵ月後に、ラットを致死量のネンブタールにて死亡させた後、経心臓的にパラホルムアルデヒドを還流して固定を行った。その後、前大脳動脈・嗅動脈分岐部を摘出して凍結標本とした。薄片後、Elastica van Gieson(EVG)染色を行い、光学顕微鏡下で脳動脈瘤形成を評価した(図2)。脳動脈瘤の評価は、脳動脈瘤の大きさ(ドームの最大縦径と最大横径の平均値)(図1のA)、内弾性板の変化(変化なしに0点、断裂に1点、消失に2点を与え定量化)(図1のB)、中膜の厚さ(図1のC)で行った。
【0044】
いくつかの切片は、免疫染色に供した。免疫染色は以下の通り行った。5%ロバ血清(Jackson Immuno Research)で切片をブロッキングした後、マウスモノクローナル抗CD68抗体(HyCult Biotechnology)(1:50に希釈)と室温で1時間インキュベートした。その後、蛍光標識二次抗体(FITC結合ロバ抗マウスIgG抗体)(Jackson Immuno Research)と室温で1時間インキュベートした。次いで、スライドをPERMAFLUOR(Immunotec)でカバーし、蛍光顕微鏡システム(BX51N-34-FL-1, オリンパス)で蛍光を測定した。免疫染色では、CD68陽性細胞、すなわちマクロファージの脳動脈瘤壁への浸潤も確認した(図2)。
【0045】
エダラボンによる活性酸素除去効果を確認するために、未固定凍結標本によるDHE(dye hydroethidine)染色と、8−OHdG染色を行った(図3)。8−OHdG染色は、一次抗体としてマウスモノクローナル抗8−ヒドロキシ−2−デオキシグアノシン抗体(日本老化制御研究所)(1:50に希釈)を用いて、CD68に対する免疫染色の場合と同様の方法で行った。
【0046】
また、マクロファージ浸潤に関与する因子について、免疫染色を行った(図4)。免疫染色の方法は、一次抗体として、ラビットポリクローナル抗MCP−1抗体(Santa Cruz)(1:50に希釈)、ラビットポリクローナル抗VCAM−1抗体(Santa Cruz)(1:50に希釈)、マウスモノクローナル抗p65抗体(Chemicom)(1:50に希釈)、ラビットポリクローナル抗MMP−2抗体(Santa Cruz)(1:50に希釈)を使用し、二次抗体として、FITC結合ロバ抗ラビットIgG抗体、FITC結合ロバ抗ヤギIgG抗体、又はFITC又はCy3結合ロバ抗マウスIgG抗体(Jackson Immuno Research)を用いて、CD68に対する免疫染色の場合と同様の方法で行った。
【0047】
さらに一部のラットでは、ウィリス輪を摘出し、そこからRNAを抽出し逆転写を行った後、PCRを行った(図5)。ウィリス輪からの全RNAの抽出は、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit (QIAGEN)を用いて取扱説明書に従って行った。300ngの全RNAを含む20μlの反応液を用いて、Sensiscript reverse transcriptase (QIAGEN)を用いてcDNAを合成した。1μlのcDNA(15ngのRNAに由来)を用いて各PCRを行った。PCRは、HotStar Taq polymerase (QIAGEN)を用いて行った。βアクチンを内部標準として用いた。使用したプライマーは以下の通りである。
【0048】
MCP−1:
5’−cctccaccactatgcaggtctc−3’(配列番号1)
5’−aagtccctcaccctcccaaag−3’ (配列番号2)
【0049】
VCAM−1:
5’−gcgaaggaaactggagaagaca−3’ (配列番号3)
5’−acacattagggaccgtgcagtt−3’ (配列番号4)
【0050】
MMP−2:
5’−ctgataacctggatgcagtcgt−3’ (配列番号5)
5’−ccagccagtccgatttga−3’ (配列番号6)
【0051】
PCRの反応条件は、95℃で10分処理した後、95℃で15秒、55℃で15秒及び72℃で30秒のサイクルを40サイクル行った。PCR産物は、2%アガロースゲル電気泳動で分離した。
【0052】
(2)結果
(i)脳動脈瘤形成におけるエダラボンの効果の評価
エダラボン投与群では、非投与群に比較し有意に脳動脈瘤サイズが小さかった(未投与群:71.2±24.5μm、n=11,投与群:32.5±20.7μm、n=10、p<0.01)(図1A)。内弾性板スコアはエダラボン投与群で低値すなわち変化が少なかった(未投与群1.47±0.51、n=11,投与群:1.2±0.42、n=10、p=0043)(図1B)。内膜の厚さはエダラボン投与群で厚かった(未投与群0.44±0.20、n=11,投与群:0.75±0.19、n=10、p<0.01)(図1C)。マクロファージ(CD68陽性細胞)浸潤はエダラボン投与群で有意に低下していた(図2)。なお、エダラボン投与群と非投与群で血圧に差を認めなかった(図1D)。
【0053】
(ii)脳動脈瘤壁での活性酸素に対するエダラボンの効果
エダラボン投与群では、8−OHdG、DHE染色にて明らかに活性酸素量、酸化DNAとも低下した(図3)。
【0054】
(iii)関連因子の発現
NFκBp65サブユニット(DNA結合型のみを認識する抗体を使用)、MCP−1、VCAM−1およびMMPといった脳動脈瘤形成とくにマクロファージ浸潤に関与する因子について免疫染色および定量PCRにて検討した。エダラボンによりこれらの因子が有意に低下していた(図4及び図5)
【0055】
(3)まとめ
脳動脈瘤壁では、活性酸素が産生されていることが今回明らかとなった。エダラボンは産生された活性酸素を消去することにより、活性酸素により誘導される転写因子NFκBの低下を介して、MCP−1、VCAM−1を低下させ、それによりマクロファージ浸潤の低下を起こし、最終的にマクロファージから産生されるMMPを低下させ、脳動脈瘤壁の変性を予防しているものと考えられる。以上のことから、エダラボンは、動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬として有効であり、特に脳動脈瘤の増大抑制に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、形成された脳動脈瘤の評価結果を示す。
【図2】図2は、切片の免疫染色の結果を示す。
【図3】図3は、未固定凍結標本によるDHE染色と8−OHdG染色の結果を示す。
【図4】図4は、マクロファージ浸潤に関与する因子についての免疫染色の結果を示す。
【図5】図5は、マクロファージ浸潤に関与する因子についての定量PCRの結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アリール、炭素数1〜5のアルキル又は総炭素数3〜6のアルコキシカルボニルアルキルを表し、R2は、水素原子、アリールオキシ、アリールメルカプト、炭素数1〜5のアルキル又は炭素数1〜3のヒドロキシアルキルを表し、あるいは、R1及びR2は、共同して炭素数3〜5のアルキレンを表し、R3は水素原子、炭素数1〜5のアルキル、炭素数5〜7のシクロアルキル、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、ベンジル、ナフチル又はフェニル、又は炭素数1〜5のアルコキシ、炭素数1〜3のヒドロキシアルキル、総炭素数2〜5のアルコキシカルボニル、炭素数1〜3のアルキルメルカプト、炭素数1〜4のアルキルアミノ、総炭素数2〜8のジアルキルアミノ、ハロゲン原子、トリフルオロメチル、カルボキシル、シアノ、水酸基、ニトロ、アミノ、及びアセトアミドからなる群から選ばれる同一若しくは異なる1〜3個の置換基で置換されたフェニルを表す。)
で表されるピラゾロン誘導体若しくはその生理的に許容される塩、又はそれらの水和物若しくは溶媒和物を有効成分として含有する、動脈瘤の予防及び/又は治療のための医薬。
【請求項2】
動脈瘤の発生又は増大を抑制するために使用される、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
動脈瘤の増大を抑制するために使用される、請求項1又は2に記載の医薬。
【請求項4】
動脈瘤が脳動脈瘤である、請求項1から3の何れかに記載の医薬。
【請求項5】
式(I)で表されるピラゾロン誘導体が、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オンである、請求項1から4の何れかに記載の医薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−107955(P2009−107955A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−280160(P2007−280160)
【出願日】平成19年10月29日(2007.10.29)
【出願人】(000002956)田辺三菱製薬株式会社 (225)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】