説明

ピリジニウム−ベタイン化合物及びその使用

本発明は、下記の一般式(A)のピリジニウム−ベタイン化合物に関する。RはHであり、Rは、C5又はC6がそれぞれホスホリル基、スルホニル基、又はカルボキシル基の群から選択した酸残基で置換された糖ペントース又はヘキソース環によって形成される化学基であり、Rは、C1位又はC2位のいずれかでピリジン環に結合しており、Rは、イオン化形Oを含めたOHから成る群から選択され、Rは、脂肪族鎖(CHであり、nはn=0からn=4の範囲の鎖の長さであり、Rは、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、メチル、エチル、フルフリルチオの各基及び誘導体から成る群から選択され、対イオンは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、塩酸、炭酸、硫酸、リン酸の各イオンなどから成る群から選択される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジニウム−ベタイン化合物、及び味覚調整化合物(味覚調節剤)としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、いわゆる旨みは、味覚の種類である甘み、酸味、塩味、及び苦味とともに、第5の基本的味覚として認められてきた。これは、主としてmGluR4(N.Chaudariら、Nat.Neurosci.2000年、3、113〜119頁)、或いはヘテロマーT1R1+3リセプター(G.Nelsonら、Nature、2002年、416(6877)、199〜202頁)など、グルタミン酸塩に対するG蛋白質結合リセプターが同定されたからである。これは、多くのL−アミノ酸、特にグルタミン酸塩によって刺激される、対象の広いリセプターであると報告された。グルタミン酸一ナトリウム(MSG)は、最もよく知られた旨みを引き出す化合物である(K.Ikeda、J.Tokyo Chem.Soc.1909年、30、820〜826頁)。類似の感覚特性を有する他の化合物は、イノシン−5’−一リン酸(IMP)など、プリン−5’−ヌクレチドの群に属している(A.Kuninaka;Symposium on Foods、「The Chemistry and Physiology of Flavours」 Schultz,H.W.;Day,E.A.;Libbey,L.M.編、AVI Publishing Company、コネチカット州Westport、1967年、515〜535頁)。これらの化合物は、肉、魚、海産食物、マッシュルームなど、多くの美味の食物に存在している(S.Yamaguchi,J.Food Sci.、1967年、32、473〜478頁)。旨み化合物の興味深い特性は、味覚相互の相乗作用である。MSGとIMPとの相乗効果は研究され、文献で報告されている(S.Yamaguchiら、J.Food Sci.、1971年、36、1761〜1765頁)。
【0003】
本発明は、ピリジニウム−ベタイン化合物、及び味覚調整化合物(味覚調節剤)としてのその使用に関する。「味覚調整」という用語は、味覚化合物の感覚特性を増強或いは低減させる能力であると定義される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、一連のベタイン−ピリジニウム同族化合物、及び味覚調整特性を有する作用物質としてのその使用を開示する。味覚調整特性とは、味覚活性化合物の感覚特性を増強或いは低減させる化合物の能力を意味する。これらの味覚調整化合物は、このようなものとして使用することができ、或いは加熱又は酵素反応によって現場で生成することができる。
本発明の目的は、味覚調整特性を有する、例えば味覚活性化合物を含む試料の全体的な旨み感覚特性を増強させる化合物を同定することである。
【0005】
これらの化合物の発見は、分子モデリング及び定量的構造活性関係(QSAR)法を用いて行った。この一連の化合物は、イノシン一リン酸(IMP)或いはグアノシン一リン酸(GMP)など周知の旨み増強物質と、発味空間(sapophoric space)がぴったりと一致するように設計されている。本明細書中では発味性(sapophore)という用語は、特定の味、この場合は、旨みを引き出すために分子上に存在する必要がある、最小限の1組の化学的特徴を意味する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ピリジニウム−ベタイン化合物と呼ばれる一般式(A)の化合物に関する。
【化1】


式中、
は、Hであり、
は、C5又はC6がそれぞれホスホリル基、スルホニル基、又はカルボキシル基の群から選択した酸残基で置換された糖ペントース又はヘキソース環によって形成される化学基であり、Rは、C1位又はC2位のいずれかでピリジン環に結合しており、C1、C2、C5及びC6は糖部分に属しており、
は、イオン化形Oを含めた、OHであり、
は、脂肪族鎖(CHであり、n=0からn=4の範囲の鎖の長さであり、
は、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、プロポキシ、アリロキシ、メチル、エチル、フェニル、メチルチオ、エチルチオ、エトキシエチルチオ、エトキシカルボニルエチルチオ、フルフリオチオ、テトラヒドロフルフリルチオ、イソペンテニルチオ、(β−メチルアリル)チオ、(γ−メチルアリル)チオの各基及び誘導体から成る群から選択され、
対イオンは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、塩酸、硝酸、炭酸、硫酸、リン酸の各イオンなどから成る群から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の化合物の好ましい実施形態では、Rは糖リン酸エステルの残基であり、Rはイオン化形のOを含めたOHであり、RはCHであり、Rはイオン化形のOを含めた水酸基(OH)である。
【0008】
一般式(A)の化合物は、広い範囲のpHで、双性イオンの性質を有する。以下に示すように、双性イオン構造(A2)は、わずかに酸性及び中性条件下で優勢であり、その場合、負電荷は主に、糖部分[(A)中のR]に結合したリン酸基に位置している。構造(A3)で表される塩基性条件下では、負電荷は、糖成分に結合したリン酸残基[(A)のR基]、及びピリジニウム環に直接結合した水酸基[(A)のR]に位置することがある。強酸性条件下では、構造(A1)に示すように、リン酸残基及び水酸基は共に、プロトン化される。一般式(A)の化合物を含む水溶液のpHに応じて、構造(A1)、(A2)、及び(A3)が平衡状態で存在することがある。
【化2】

【0009】
上述の化合物は、糖又はその誘導体をアミノ化合物及びその誘導体で還元して得られる反応生成物である。
【0010】
化合物(A)の量は、全組成物1kg当たり0.01から3000mgの間である。
【0011】
さらに、本発明は、化合物(A)の合成方法に関するものであり、前記化合物は、5−(ヒドロキシメチル)−2−フランアルデヒド(HMF)及び対応するアミノ糖又はその誘導体を使用して合成することによって得られる。反応を進行させるもう一つの方法は、単糖及び多糖などHMFを生成する前駆物質と、対応するアミノ糖又はその誘導体を使用することである。
【0012】
以下の実施例で、本発明をより詳しく例示する。
【0013】
原理
上記の化合物は、旨み増強剤として設計された。この特性は、発味モデル(sapophoric model)により化合物を仮想スクリーニングすることによって推論した。このモデルは、旨み増強特性を有する分子の構造−活性データに含まれる情報のほとんどを捕捉するために、作成した。かかる分子は、S.Yamaguchi及びK.Ninomyia、Food Rev.Int.14(2&3)、123−138頁、1989年、及び同文献に記載の参考文献など入手可能な文献から収集した。
【実施例1】
【0014】
合成手順の概略
一般式(A)の化合物は、適切な出発物質、及び有機化学(J.March,最新有機化学:反応、機序及び構造(Advanced Organic Chemistry:Reactions,Mechanism,and Structure)、第4版、J.Wiley & Sons:ニューヨーク、1992年)に記載されている周知の保護及び結合方法を使用して調製することができる。
【0015】
一例として、文献(Kochら、炭水化物の化学(Carbohydrate Chemistry)、1988年、313、117〜123頁)に記載の一般的方法に従って、周知の糖分解生成物である5−ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)をアミノ糖誘導体と結合させて、化合物(A)が得られる。
【化3】

【実施例2】
【0016】
HMFの還元的アミノ化による合成
或いは、一般式(A)の化合物は、文献(Mullerら、Tetrahedron、1998年、54、10703〜10712頁)に記載されている一般的な手順に従って、5−ヒドロキシメチルフルフラール(HMF)の還元的アミノ化により調製することもできる。
【化4】

【実施例3】
【0017】
旨み感覚の増強
図1に、周知の旨み増強剤IMPが、任意選択の発味空間上にどのように突き出ているか(a)を、また今回提案するベタイン−ピリジニウム化合物の、同じ空間におけるマッピング(b)を示す。水素結合受容体部位(HBA)はうすい灰色で表し、陰イオン化可能な基(NI)の位置は濃い灰色で表している。球体の直径は、その位置での許容度を表している。任意選択の発味空間の詳しい幾何的特性を表1に示す。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】周知の旨み増強剤IMPが、任意選択の発味空間上にどのように突き出ているか(a)を、また今回提案するベタイン−ピリジニウム化合物の、同じ空間におけるマッピング(b)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の一般式(A)のピリジニウム−ベタイン化合物。
【化1】


[式中、
は、Hであり、
は、C5又はC6がそれぞれホスホリル基、スルホニル基、又はカルボキシル基の群から選択した酸残基で置換された糖ペントース又はヘキソース環によって形成される化学基であり、Rは、C1位又はC2位のいずれかでピリジン環に結合しており、C1、C2、C5及びC6は糖部分に属しており、
は、イオン化形Oを含めたOHから成る群から選択し、
は、脂肪族鎖(CHであり、nはn=0からn=4の範囲の鎖の長さであり、
は、ヒドロキシ、メトキシ、エトキシ、イソプロポキシ、プロポキシ、アリロキシ、メチル、エチル、フェニル、メチルチオ、エチルチオ、エトキシエチルチオ、エトキシカルボニルエチルチオ、フルフリルチオ、テトラヒドロフルフリルチオ、イソペンテニルチオ、(β−メチルアリル)チオ、(γ−メチルアリル)チオの各基及び誘導体から成る群から選択され、
対イオンは、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、塩酸、硝酸、炭酸、硫酸、リン酸の各イオンなどから成る群から選択される]
【請求項2】
は糖リン酸残基であり、Rはイオン化形のOを含めたOHであり、RはCHであり、Rは、水酸基(イオン化形のOを含めたOH)である、請求項1に記載のピリジニウム−ベタイン化合物。
【請求項3】
は糖リン酸エステル残基であり、Rはイオン化形のOを含めたOHであり、RはCHであり、Rは、フルフリルチオラジカルである、請求項1に記載のピリジニウム−ベタイン化合物。
【請求項4】
前記機能性を有する化合物の旨みを増強させるために、化合物(A)が食品組成物に添加される、請求項1から3までのいずれかに記載のピリジニウム−ベタイン化合物の使用。
【請求項5】
食品組成物が調理製品及びペットフードから成る群から選択される、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
化合物(A)の量が、全組成物1kg当たり0.01mgから3000mgまでの間である、請求項4のいずれかに記載の使用。
【請求項7】
化合物(A)が、5−(ヒドロキシメチル)−2−フランアルデヒド(HMF)及び対応するアミノアミノ糖又はその誘導体を使用して合成することによって得られる、請求項1から3までに記載のピリジニウム−ベタイン化合物の調製方法。
【請求項8】
化合物(A)が、単糖及び多糖などHMFを生成する前駆物質、及びその分解生成物を、対応するアミノ糖又はその誘導体と反応させることによって得られる、請求項1から3までに記載のピリジニウム−ベタイン化合物の調製方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−514089(P2006−514089A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−569278(P2004−569278)
【出願日】平成15年3月10日(2003.3.10)
【国際出願番号】PCT/EP2003/002594
【国際公開番号】WO2004/081018
【国際公開日】平成16年9月23日(2004.9.23)
【出願人】(599132904)ネステク ソシエテ アノニム (637)
【Fターム(参考)】