説明

ピリジン−3−カルバルデヒドO−(ピペリジン−1−イル−プロピル)−オキシム誘導体を有効成分として含有する網脈絡膜変性疾患の治療剤

【課題】新たな網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤の提供。
【解決手段】一般式(1)で表される化合物又はその塩は、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死および/又は視細胞死に対して抑制効果を有する。よって、加齢黄斑変性、網膜色素変性症などの網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤として有用である。式中Aは、p1〜3の下式を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピリジン−3−カルバルデヒド O−(ピペリジン−1−イル−プロピル)−オキシム誘導体又はその塩の少なくとも一つを有効成分として含有する網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤に関する。該誘導体は、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死および/又は視細胞死の抑制効果を有し、加齢黄斑変性、網膜色素変性症などの網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
後眼部組織における網脈絡膜変性疾患には難治性のものが多く、失明の原因となる重篤な症状を示すものが少なくない。網脈絡膜変性疾患の代表的なものとしては加齢黄斑変性、網膜色素変性症などが挙げられ、特に、加齢黄斑変性は、日本、米国、欧州などの先進国において、壮年から老年期における失明の主要原因の一つとなっている。
【0003】
この加齢黄斑変性は黄斑部の加齢に起因する疾患であり、高齢化社会となった現在、その患者数は増加の一途をたどっている。加齢黄斑変性は、脈絡膜から発生する新生血管を伴わない萎縮型(dry type)と脈絡膜からの新生血管を伴う滲出型(wet type)に大別され、前者の萎縮型には、現在のところ有効な治療方法はなく、また、後者の滲出型においても、レーザー光凝固術、新生血管抜去術、中心窩移動術等が行われているものの、それらの治療には限界があり、有効な薬剤の開発が望まれている。
【0004】
一方、特許文献1には、一般式(1)で表される化合物であるN−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライドやN−((2R)−2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライド(Arimoclomol)が開示され、そのインスリン抵抗性削減作用を有する糖尿病および糖尿病合併症の治療剤としての用途が記載されている。特許文献2には、一般式(1)で表される化合物であるN−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−3−カルボキシイミドイルクロライド(Bimoclomol)が開示され、その糖尿病性血管異常に対する治療用途が記載されている。特許文献3には、一般式(1)で表される化合物である(−)−5−(ピペリジン−1−イルメチル)−3−(ピリジン−3−イル)−5,6−ジヒドロ−2H−1,2,4−オキサジアジン(Iroxanadine)が開示され、その血管疾患や血管異常に関する疾患の治療剤としての用途が記載されている。特許文献4には、一般式(1)で表される化合物であるN−(2−ヒドロキシ−3−ピペリジン−1−イル−プロポキシ)−ニコチナミジン誘導体が開示され、その糖尿病性血管障害の治療用途が記載されている。また、特許文献5には、一般式(1)で表される化合物であるN−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライドやN−((2R)−2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライド(Arimoclomol)の神経変性疾患の治療用途(筋萎縮性側索硬化症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症等)が記載されている。
【0005】
しかしながら、一般式(1)で表されるピリジン−3−カルバルデヒド O−(ピペリジン−1−イル−プロピル)−オキシム誘導体の網脈絡膜変性疾患、例えば、加齢黄斑変性、網膜色素変性症などに対する予防又は治療効果については全く知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開00/50403号パンフレット
【特許文献2】国際公開90/04584号パンフレット
【特許文献3】国際公開00/35914号パンフレット
【特許文献4】米国特許第4187220号明細書
【特許文献5】国際公開2005/041965号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、ピリジン−3−カルバルデヒド O−(ピペリジン−1−イル−プロピル)−オキシム誘導体又はその塩に関して、新たな医薬用途を探索することは非常に興味深い課題である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ピリジン−3−カルバルデヒド O−(ピペリジン−1−イル−プロピル)−オキシム誘導体又はその塩の新たな医薬用途を探索すべく鋭意研究を行った。その結果、該誘導体又はその塩が、マウス光障害モデルにおける、光受容体細胞死および/又は視細胞死の抑制効果を有することを見出し、本発明に至った。
【0009】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩(以下、「本化合物」ともいう)の少なくとも一つを有効成分として含有する網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤、特に加齢黄斑変性、網膜色素変性症などの予防又は治療剤である。
【0010】
【化1】

【0011】
[式中、Aは、下記一般式(p1)、(p2)又は(p3)を示し;
【0012】
【化2】

【0013】
1は水素原子、低級アルキル基、アラルキル基又はヒドロキシ基若しくはそのエステルを示し;
2は水素原子又は低級アルキル基を示し;
3はハロゲン原子、水素原子、低級アルキル基又はヒドロキシ基若しくはそのエステルを示し;
4はハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、低級アルキルアミノ基又は低級シクロアルキルアミノ基を示し;又は
3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、不飽和の[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;
5は水素原子、低級アルキル基又は低級シクロアルキル基を示し;
mは0又は1を示し;
nは0又は1を示す。以下、同じ。]
本明細書中で使用される文言(原子、基等)の定義について以下に詳しく説明する。
【0014】
「ハロゲン原子」とは、フッ素、塩素、臭素又はヨウ素原子を示す。
【0015】
「低級アルキル基」とは、炭素原子数が1〜8個、好ましくは1〜6個、特に好ましくは1〜4個の直鎖又は分枝のアルキル基を示す。具体例として、メチル、エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−ヘプチル、n−オクチル、イソプロピル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、イソペンチル基等が挙げられる。
【0016】
「低級シクロアルキル基」とは、炭素原子数が3〜8個、好ましくは3〜6個のシクロアルキル基を示す。具体例として、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル又はシクロオクチル基が挙げられる。
【0017】
「アリール基」とは、炭素原子数が6〜14個の単環式芳香族炭化水素又は2環式若しくは3環式の縮合多環式芳香族炭化水素から水素1原子を除いた残基を示す。具体例として、フェニル、ナフチル、アントリル、フェナントリル基等が挙げられる。
【0018】
「低級アルコキシ基」とは、ヒドロキシ基の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例として、メトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、n−ブトキシ、n−ペントキシ、n−ヘキシルオキシ、n−ヘプチルオキシ、n−オクチルオキシ、イソプロポキシ、イソブトキシ、sec−ブトキシ、tert−ブトキシ、イソペントキシ基等が挙げられる。
【0019】
「アラルキル基」とは、低級アルキル基の1又は複数個の水素原子が置換基を有してもよいアリール基(ここで、置換基とは、1又は複数のハロゲン原子を意味する)で置換された基を示す。具体例として、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル基等が挙げられる。
【0020】
「低級アルキルアミノ基」とは、アミノ基の一方又は両方の水素原子が低級アルキル基で置換された基を示す。具体例として、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ジメルアミノ、ジエチルアミノ、エチル(メチル)アミノ基等が挙げられる。
【0021】
「低級シクロアルキルアミノ基」とは、アミノ基の一方又は両方の水素原子が低級シクロアルキル基で置換された基を示す。具体例として、シクロプロピルアミノ、シクロブチルアミノ、シクロペンチルアミノ、シクロヘキシルアミノ、シクロヘプチルアミノ、シクロオクチルアミノ、ジシクロプロピルアミノ基、シクロプロピル(メチル)アミノ基等が挙げられる。
【0022】
「ヒドロキシ基のエステル」とは、以下、一般式(2)で示される基を意味する。
【0023】
【化3】

【0024】
[式中、Rは炭素数1〜15個のアルキル基、置換基を有してもよいアリール基(ここで、置換基とは、ハロゲン原子、低級アルコキシ基又はトリフルオロメチル基から選択される1又は複数の基を意味する。)、チエニル基、フリル基又はピリジル基を示す。]
また、具体的には、メチルカルボニルオキシ、ヘプタデカニルカルボニルオキシ、2−クロロフェニルカルボニルオキシ、4−メトキシフェニルカルボニルオキシ、3−トリフルオロメチルカルボニルオキシ、チエニルカルボニルオキシ、フリルカルボニルオキシ基、ピリジルカルボニルオキシ基等を示す。
【0025】
「不飽和の[1,2,4]オキサジアジン」とは、以下、式(3)、(4)、(5)、(6)、(7)又は(8)で表される基を示す。
【0026】
【化4】

【0027】
本化合物に幾何異性体および/又は光学異性体が存在する場合は、それらの異性体も本化合物の範囲に含まれる。
【0028】
本化合物にプロトン互変異性が存在する場合には、それらの互変異性体(ケト体、エノール体)も本化合物の範囲に含まれる。
【0029】
例えば、一般式(1)において、R4がヒドロキシ基の場合、以下のようなプロトン互変異性体が想定され、これらの互変異性体も本化合物の範囲に含まれる。
【0030】
【化5】

【0031】
また、R4がアミノ基、低級アルキルアミノ基又は低級シクロアルキルアミノ基で、かつ、それらのアミノ基が1以上の水素原子を有する場合は、以下のような互変異性体が想定され、これらの互変異性体も本化合物の範囲に含まれる。
【0032】
【化6】

【0033】
本化合物の一般式(1)中の「N→O」の記載は、「N−O」と表すこともできる。
【0034】
本化合物に水和物および/又は溶媒和物が存在する場合は、それらの水和物および/又は溶媒和物も本化合物の範囲に含まれる。
【0035】
本化合物に結晶多形および結晶多形群(結晶多形システム)が存在する場合には、それらの結晶多形体および結晶多形群(結晶多形システム)も本化合物の範囲に含まれる。ここで、結晶多形群(結晶多形システム)とは、それら結晶の製造、晶出、保存等の条件および状態(尚、本状態には製剤化した状態も含む)により、結晶形が種々変化する場合の各段階における結晶形およびその過程全体を意味する。
【0036】
(a)本化合物の例として、下記一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が以下に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0037】
【化7】

【0038】
(a1)Aは下記一般式(p1)、(p2)又は(p3)を示し;および/又は
【0039】
【化8】

【0040】
(a2)R1は水素原子、低級アルキル基、アラルキル基又はヒドロキシ基若しくはそのエステルを示し;および/又は
(a3)R2は水素原子又は低級アルキル基を示し;および/又は
(a4)R3はハロゲン原子、水素原子、低級アルキル基又はヒドロキシ基若しくはそのエステルを示し;および/又は
(a5)R4はハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、低級アルキルアミノ基又は低級シクロアルキルアミノ基を示し;又は
(a6)R3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、不飽和の[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;および/又は
(a7)Rは水素原子、低級アルキル基又は低級シクロアルキル基を示し;および/又は
(a8)mは0又は1を示し;および/又は
(a9)nは0又は1を示す。
【0041】
すなわち、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、上記(a1)、(a2)、(a3)、(a4)、(a5)、[又は(a6)]、(a7)、(a8)および(a9)から選択される各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0042】
(b)本化合物における好ましい例として、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が下記に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0043】
(b1)Aは、下記一般式(p1)を示し;および/又は
【0044】
【化9】

【0045】
(b2)R1は水素原子を示し;および/又は
(b3)R2は水素原子を示し;および/又は
(b4)R3はヒドロキシ基又はそのエステルを示し;および/又は
(b5)R4はハロゲン原子を示し;又は
(b6)R3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、不飽和の[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;および/又は
(b7)mは0を示し;および/又は
(b8)nは0又は1を示す。
【0046】
すなわち、一般式(1)で示される化合物において、上記(b1)、(b2)、(b3)、(b4)、(b5)、[又は(b6)]、(b7)および(b8)から選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0047】
尚、この(b)の条件と前記(a)の条件との組み合わせを充足する化合物又はその塩も本化合物の範囲である。
【0048】
(c)本化合物におけるより好ましい例として、一般式(1)で示される化合物又はその塩において、各基が以下に示す基である化合物又はその塩が挙げられる。
【0049】
(c1)Aは、下記一般式(p1)を示し;および/又は
【0050】
【化10】

【0051】
(c2)R1は水素原子を示し;および/又は
(c3)R2は水素原子を示し;および/又は
(c4)R3はヒドロキシ基を示し;および/又は
(c5)R4は塩素原子を示し;又は
(c6)R3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、5,6−ジヒドロ−4H−[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;および/又は
(c7)mは0を示し;および/又は
(c8)nは0又は1を示す。
【0052】
すなわち、一般式(1)で示される化合物において、上記(c1)、(c2)、(c3)、(c4)、(c5)、[又は(c6)]、(c7)および(c8)から選択される1又は2以上の各組み合わせからなる化合物又はその塩。
【0053】
尚、この(c)の条件と前記(a)および/又は(b)の条件との組み合わせを充足する化合物又はその塩も本化合物の範囲である。
【0054】
(d)本化合物における好ましい具体例として、以下の化合物又はその塩を挙げることができる。
【0055】
・N−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライド(以下、「化合物A」ともいう)、
・N−((2R)−2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライド(以下、「化合物B」ともいう)、
・N−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−3−カルボキシイミドイルクロライド(以下、「化合物C」ともいう)、又は
・(−)−5−(ピペリジン−1−イルメチル)−3−(ピリジン−3−イル)−5,6−ジヒドロ−2H−1,2,4−オキサジアジン(以下、「化合物D」ともいう)。
【0056】
【化11】

【0057】
【化12】

【0058】
【化13】

【0059】
【化14】

【0060】
また、本化合物の一般式(1)において、Aが(p1):
【0061】
【化15】

【0062】
である場合とは、以下の一般式のものを表す。
【0063】
【化16】

【0064】
また、本化合物の一般式(1)において、Aが(p2):
【0065】
【化17】

【0066】
である場合とは、以下の一般式のものを表す。
【0067】
【化18】

【0068】
また、本化合物の一般式(1)において、Aが(p3):
【0069】
【化19】

【0070】
である場合とは、以下の一般式のものを表す。
【0071】
【化20】

【0072】
本化合物は、有機合成化学の分野における通常の方法に従って製造することができる。例えば、国際公開00/50403号パンフレット、国際公開90/04584号パンフレット、国際公開00/35914号パンフレット、米国4187220号特許公報等に記載された方法に準じて製造することができる。
【0073】
本化合物における『塩』とは、医薬として許容される塩であれば特に制限はなく、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硝酸、硫酸、リン酸等の無機酸との塩、酢酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、クエン酸、酒石酸、アジピン酸、グルコン酸、グルコヘプト酸、グルクロン酸、テレフタル酸、メタンスルホン酸、乳酸、馬尿酸、1,2−エタンジスルホン酸、イセチオン酸、ラクトビオン酸、オレイン酸、パモ酸、ポリガラクツロン酸、ステアリン酸、タンニン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、硫酸ラウリルエステル、硫酸メチル、ナフタレンスルホン酸、スルホサリチル酸等の有機酸との塩等が挙げられ、特にマレイン酸との塩が好ましい。
【0074】
本発明における網脈絡膜変性疾患とは、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、網膜色素変性症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤およびこれらの疾患に伴う視神経障害等が挙げられ、好ましくは、加齢黄斑変性又は網膜色素変性症が挙げられ、特に、本化合物は初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成又は萎縮型加齢黄斑変性の予防又は治療剤として有用である。
【0075】
また、本化合物は、必要に応じて、医薬として許容される添加剤を加えて、単独製剤又は配合製剤として汎用されている技術を用いて製剤化することができる。
【0076】
本化合物は、前述の眼疾患の予防又は治療に使用する場合、患者に対して経口的又は非経口的に投与することができ、投与形態としては、経口投与、眼への局所投与(点眼投与、結膜嚢内投与、硝子体内投与、結膜下投与、テノン嚢下投与等)、静脈内投与、経皮投与等が挙げられ、必要に応じて、製薬学的に許容され得る添加剤と共に、投与に適した剤型に製剤化される。経口投与に適した剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等が挙げられ、非経口投与に適した剤型としては、例えば、注射剤、点眼剤、眼軟膏、貼布剤、ゲル剤、挿入剤等が挙げられる。これらは当該分野で汎用されている通常の技術を用いて調製することができる。また、本化合物はこれらの製剤の他に眼内インプラント用製剤やマイクロスフェアー等のDDS(ドラッグデリバリーシステム)化された製剤にすることもできる。
【0077】
例えば、錠剤は、乳糖、ブドウ糖、D−マンニトール、無水リン酸水素カルシウム、デンプン、ショ糖等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースクロスカルメロースナトリウム、クロスポピドン、デンプン、部分アルファー化デンプン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤;ヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、アラビアゴム、デンプン、部分アルファー化デンプン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、含水二酸化ケイ素、硬化油等の滑沢剤;精製白糖、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ピロリドン等のコーティング剤;クエン酸、アスパルテーム、アスコルビン酸、メントール等の矯味剤などを適宜選択して用い、調製することができる。
【0078】
注射剤は、塩化ナトリウム等の等張化剤;リン酸ナトリウム等の緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート等の界面活性剤;メチルセルロース等の増粘剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができる。
【0079】
点眼剤は、塩化ナトリウム、濃グリセリンなどの等張化剤;リン酸ナトリウム、酢酸ナトリウムなどの緩衝化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ステアリン酸ポリオキシル40、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油等の界面活性剤;クエン酸ナトリウム、エデト酸ナトリウム等の安定化剤;塩化ベンザルコニウム、パラベン等の防腐剤等から必要に応じて選択して用い、調製することができ、pHは眼科製剤に許容される範囲内にあればよいが、通常4〜8の範囲内が好ましい。また、眼軟膏は、白色ワセリン、流動パラフィン等の汎用される基剤を用い、調製することができる。
【0080】
挿入剤は、生体分解性ポリマー、例えばヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸等の生体分解性ポリマーを本化合物とともに粉砕混合し、この粉末を圧縮成型することにより、調製することができ、必要に応じて、賦形剤、結合剤、安定化剤、pH調整剤を用いることができる。
【0081】
眼内インプラント用製剤は、生体分解性ポリマー、例えばポリ乳酸、ポリグリコール酸、乳酸・グリコール酸共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース等の生体分解性ポリマーを用い、調製することができる。
【0082】
本化合物の投与量は、剤型、投与すべき患者の症状の軽重、年令、体重、医師の判断等に応じて適宜変えるこができるが、経口投与の場合、一般には、成人に対し1日あたり0.01〜5000mg、好ましくは0.1〜2500mg、より好ましくは0.5〜1000mgを1回又は数回に分けて投与することができ、注射剤の場合、一般には、成人に対し0.0001〜2000mgを1回又は数回に分けて投与することができる。また、点眼剤又は挿入剤の場合には、0.000001〜10%(w/v)、好ましくは0.00001〜1%(w/v)、より好ましくは0.0001〜0.1%(w/v)の有効成分濃度のものを1日1回又は数回投与することができる。さらに、貼布剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mgを含有する貼布剤を貼布することができ、眼内インプラント用製剤の場合は、成人に対し0.0001〜2000mg含有する眼内インプラント用製剤を眼内にインプラントすることができる。
【発明の効果】
【0083】
その詳細については、後述の薬理試験の項で説明するが、本化合物は、マウス光障害モデルにおいて、その光受容体細胞死および/又は視細胞死を抑制した。すなわち、本化合物は、網脈絡膜変性疾患、例えば、加齢黄斑変性(初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成、萎縮型加齢黄斑変性、滲出型加齢黄斑変性)、網膜色素変性症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤およびこれらの疾患に伴う視神経障害等の、好ましくは、加齢黄斑変性又は網膜色素変性症の、特に、初期加齢黄斑変性におけるドルーゼン形成又は萎縮型加齢黄斑変性の予防又は治療剤として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0084】
以下に、薬理試験および製剤例を示すが、これらの例は本発明をよりよく理解するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0085】
[薬理試験]
マウス光障害モデルを用いた試験
マウス光障害モデルを用いて、化合物Aのマレイン酸塩(以下、「化合物A’」ともいう)の薬理効果を評価した。なお、マウス光障害モデルは光照射により、網膜光受容細胞および/又は視細胞の細胞死を誘発させたモデル動物であり、主に網脈絡膜変性疾患、例えば、加齢黄斑変性、網膜色素変性症などのモデル動物として汎用されている(Invest. Ophthalmol. Vis.Sci., 2005; 46: 979-987)。
【0086】
(マウス光障害モデルの作製方法および評価方法)
8週齢のBALB/c雄性マウスを、暗室にて暗順応を20時間施した後、白色蛍光灯で5000lux、2時間光照射を実施して、光障害を誘発した。その後、暗室にて暗順応を20時間施し、electroretinogram(ERG)を測定した。得られた波形からa波およびb波の振幅(μV)を算出した。なお、正常対照群は、光照射を行わず、暗室にて暗順応を20時間施したあと、ERGを測定した。[式3]に従い、a波およびb波のそれぞれについて、振幅減弱抑制率(%)を算出した。なお、各群の例数は、4匹(8眼)である。
【0087】
[式3]
振幅減弱抑制率(%)=(V−V)/(V−V)×100
:基剤投与群の振幅(μV)
:正常対照群の振幅(μV)
:薬物投与群の振幅(μV)
【0088】
(投与方法)
1)光照射前の単回投与時
化合物A’投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液に懸濁した化合物A’溶液を10mg/kgの用量で、光照射直前に1回、経口投与した。
【0089】
正常対照群および基剤投与群:
1%(W/V)メチルセルロース水溶液を、光照射1時間前に1回、経口投与した。
【0090】
(結果)
化合物A ’を使用した時の試験結果を以下の表1に示す。表1から明らかなように化合物A ’は光照射によるERGのa波およびb波の減弱に対して、顕著な抑制作用を示した。
【0091】
【表1】

【0092】
(考察)
以上の結果から、化合物A’に代表される本化合物は、光受容体細胞死および/又は視細胞死を抑制する。よって、本化合物は網脈絡膜変性疾患に対して予防又は改善効果を有することが示された。
【0093】
[製剤例]
製剤例を挙げて本発明の薬剤をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの製剤例にのみ限定されるものではない。
【0094】
処方例1 錠剤
100mg中
化合物A’ 1mg
乳糖 66.4mg
トウモロコシデンプン 20mg
カルボキシメチルセルロースカルシウム 6mg
ヒドロキシプロピルセルロース 6mg
ステアリン酸マグネシウム 0.6mg
化合物A’、乳糖を混合機中で混合し、その混合物にカルボキシメチルセルロースカルシウム及びヒドロキシプロピルセルロースを加えて造粒し、得られた顆粒を乾燥後整粒し、その整粒顆粒にステアリン酸マグネシウムを加えて混合し、打錠機で打錠する。また、化合物Cの添加量を変えることにより、100mg中の含有量が0.1mg、10mg又は50mgである錠剤を調製することができる。
【0095】
処方例2 眼軟膏
100g中
化合物A’ 0.3g
流動パラフィン 10.0g
白色ワセリン 適量
均一に溶融した白色ワセリン及び流動パラフィンに、化合物A’を加え、これらを十分に混合して後に徐々に冷却することで眼軟膏を調製する。化合物Bの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/w)、0.1%(w/w)、0.5%(w/w)又は1%(w/w)である眼軟膏を調製することができる。
【0096】
処方例3 注射剤
10ml中
化合物A’ 10mg
塩化ナトリウム 90mg
ポリソルベート80 適量
滅菌精製水 適量
化合物A’および塩化ナトリウムを滅菌精製水に加えて注射剤を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、10ml中の含有量が0.1mg、10mg又は50mgである注射剤を調製することができる。
【0097】
処方例4 点眼剤
100ml中
化合物A’ 10mg
塩化ナトリウム 900mg
ポリソルベート80 適量
リン酸水素二ナトリウム 適量
リン酸二水素ナトリウム 適量
滅菌精製水 適量
滅菌精製水に化合物A’およびそれ以外の上記成分を加え、これらを十分に混合して点眼液を調製する。化合物Aの添加量を変えることにより、濃度が0.05%(w/v)、0.1%(w/v)、0.5%(w/v)又は1%(w/v)である点眼剤を調製することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の有効成分である化合物A’は光受容体細胞死および/又は視細胞死を抑制した。よって、本発明の有効成分は網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤、特に加齢黄斑変性、網膜色素変性症などの予防又は治療剤として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩の少なくとも一つを有効成分として含有する網脈絡膜変性疾患の予防又は治療剤。
【化1】

[式中、Aは、下記一般式(p1)、(p2)又は(p3)を示し;
【化2】

1は水素原子、低級アルキル基、アラルキル基又はヒドロキシ基若しくはそのエステルを示し;
2は水素原子又は低級アルキル基を示し;
3はハロゲン原子、水素原子、低級アルキル基又はヒドロキシ基若しくはそのエステルを示し;
4はハロゲン原子、水素原子、ヒドロキシ基、低級アルコキシ基、アミノ基、低級アルキルアミノ基又は低級シクロアルキルアミノ基を示し;又は
3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、不飽和の[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;
5は水素原子、低級アルキル基又は低級シクロアルキル基を示し;
mは0又は1を示し;
nは0又は1を示す。]
【請求項2】
一般式(1)において、
Aは、下記一般式(p1)を示し;
【化3】

1は水素原子を示し;
2は水素原子を示し;
3はヒドロキシ基又はそのエステルを示し;
4はハロゲン原子を示し;又は
3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、不飽和の[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;
mは0を示し;
nは0又は1を示す、
請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
一般式(1)において、
Aは、下記一般式(p1)を示し;
【化4】

1は水素原子を示し;
2は水素原子を示し;
3はヒドロキシ基を示し;
4は塩素原子を示し;又は
3とR4が、窒素原子を介して一緒になって、5,6−ジヒドロ−4H−[1,2,4]オキサジアジン環を形成してもよく;
mは0を示し;
nは0又は1を示す、
請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項4】
一般式(1)で表される化合物が、
・N−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライド、
・N−((2R)−2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−1−オキシド−3−カルボキシイミドイルクロライド、
・N−(2−ヒドロキシ−3−(1−ピペリジニル)プロポキシ)−ピリジン−3−カルボキシイミドイルクロライド、又は
・(−)−5−(ピペリジン−1−イルメチル)−3−(ピリジン−3−イル)−5,6−ジヒドロ−2H−1,2,4−オキサジアジン
である請求項1記載の予防又は治療剤。
【請求項5】
網脈絡膜変性疾患が、加齢黄斑変性、網膜色素変性症、網膜動脈閉塞症、網膜静脈閉塞症、ぶどう膜炎、レーベル病、未熟児網膜症、網膜剥離、網膜色素上皮剥離、中心性漿液性脈絡網膜症、中心性滲出性脈絡網膜症、ポリープ状脈絡膜血管症、多発性脈絡膜炎、新生血管黄斑症、網膜動脈瘤およびこれらの疾患に伴う視神経障害である、請求項1〜4のいずれか1記載の予防又は治療剤。
【請求項6】
網脈絡膜変性疾患が、加齢黄斑変性又は網膜色素変性症である請求項1〜4のいずれか1記載の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2010−150243(P2010−150243A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262416(P2009−262416)
【出願日】平成21年11月18日(2009.11.18)
【出願人】(000177634)参天製薬株式会社 (177)
【Fターム(参考)】