説明

ピリジン骨格を有する血液脳関門透過性化合物

【課題】血液脳関門透過性の高い医薬又は造影剤の提供。
【解決手段】下記一般式:


(式中、R1は水素原子、アルキル基等を表し、Xは、酸素原子、アルキレン基、N(R2)、CO、COO、CONH、SO2、SO2NH又はSO3を表し、R2は水素原子、等を表し、nは1〜3の整数を表し、Strは脳内で薬理作用を発揮する医薬化合物の残基又は造影剤化合物の残基を示す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液脳関門透過性の高いピリジン骨格を有する化合物を含む医薬又は造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常生体内では、血液中の物質は毛細血管の内皮細胞に存在する細胞間腔や細孔から速やかに組織細胞間液中に移行する。しかし、脳血管の内皮細胞は他の組織のそれとは異なり、細孔が少なく互いに結合織によって隙間無く密着しているため(Tight Junction)、物質の移行が厳密に制限されている。このようなフィルター機能を血液脳関門(Blood Brain Barrier;BBB)という。また、脳血管内皮細胞にはP糖蛋白質(多剤耐性蛋白質)が存在し、毒物や薬物を内皮細胞内から血中へ汲み出す排泄トランスポーターとしての役割を担っていることが知られている。
【0003】
グルコース、アミノ酸及びヌクレオチド等の神経活動のエネルギー源となる栄養素は選択的に血液脳関門を透過するが、一般に脂溶性の高いもの、血漿蛋白質との結合が少ないもの、若しくは血漿pHにおけるイオン化が低く分子量の小さいもの(200ダルトン以下)でないと血液脳関門を透過できず、例えば分子量の大きいタンパク質、一定のイオン、水溶性の高い薬物等は通過できない(非特許文献1)。これは脳疾患の治療における大きな障害となっており、血液脳関門透過性が高く、高濃度に脳の疾患部位に送り込むことが可能な治療薬及び診断薬の開発が多々試みられている(特許文献1〜3参照)。
【0004】
一方、近年進歩した画像診断の1つに磁気共鳴イメージング(Magnetic Resonance Imaging;MRI)がある。これは、核磁気共鳴現象を利用して生体内の内部情報を画像化する検査法である。MRIは特に脳検査でよく用いられており、脳梗塞や脳動脈瘤の有無の判定等、脳腫瘍や脳血管障害の発見に威力を発揮する。このMRIの普及に伴い、血液脳関門透過性の高い磁気共鳴用造影剤の研究も種々なされている(特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2007−70368号公報
【特許文献2】特開2002−338569号公報
【特許文献3】特表2004−513123号公報
【特許文献4】特開2002−85374号公報
【非特許文献1】ジャーナル オブ ニューロバイロロジー(Journal of Neurovirology)1999年、5巻、556−569頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、医薬化合物を脳内で作用させるためのドラッグデリバリーに有用な血液脳関門透過性の高い医薬を提供することである。本発明はまた、又は脳内の造影を可能とする血液脳関門透過性の高い造影剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは長年に亙り鋭意研究を行った結果、特定の構造を有するピリジン誘導体が高い血液脳関門透過性を有することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下(1)〜(8)を提供するものである。
【0007】
(1)下記一般式(I):
【化1】

【0008】
(式中、R1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、アミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はヘテロ環残基を表し、Xは、酸素原子、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、N(R2)、CO、COO、CONH、SO2、SO2NH又はSO3を表し、R2は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、nは1〜3の整数を表し、nが2以上の場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、Strpharmは脳内で薬理作用を発揮する医薬化合物の残基を示す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む医薬。
(2)Strpharmが、ドーパミン作用薬、鎮痛薬、精神安定薬、抗うつ薬、麻酔薬、抗てんかん薬、抗痙攣薬、筋弛緩薬、抗生物質、抗菌薬、抗ウイルス薬、制がん若しくは抗腫瘍薬、抗炎症薬、神経伝達物質、ヌクレオシド薬又はホルモン剤から選択される医薬化合物の残基である(1)に記載の医薬。
(3)Strpharmが、ドーパミン又は5−FUの残基である(1)に記載の医薬。
【0009】
(4)下記一般式(V):
【化2】

【0010】
(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、Strimageは造影剤化合物の残基を示す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む造影剤を含む医薬。
(5)下記一般式(VI)で表される化合物と医薬化合物又は造影剤化合物とを反応させ
る工程を含む(1)〜(4)のいずれか一項に記載の医薬の製造方法。
【0011】
【化3】

(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、Yは水酸基、アミノ基、又はハロゲン原子を示す。)
【0012】
(6)下記一般式(II):
【化4】

【0013】
(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、R3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、アミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はヘテロ環残基を表し、mは0〜5の整数を表し、mが2以上の場合、複数のR3は同じでも異なっていてもよく、また隣接する2つのR3が結合して環を形成していてもよい。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む血液脳関門透過性の医薬。
【0014】
(7)下記一般式(III):
【化5】

【0015】
(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、R4は水素原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子又はヘテロ環残基を表す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む血液脳関門透過性の医薬。
(8)R4が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子である(7)に記載の医薬。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、血液脳関門透過性の高い医薬又は造影剤が提供される。本発明により種々の医薬組成物を脳内で作用させること、又は脳内の造影が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
フェニルピリジンの還元体が脳関門を通ることは既に証明されている。そして下記に示す例のように、多くの中枢神経系、精神分裂症の治療剤にフェニルピリジン還元体部分構造が含まれていることが知られている。
【0018】
【化6】

【0019】
以下の実施例に示すように、
下記式(I´):
【化7】

(式中#は結合部分を表す。)
【0020】
で表される部分構造をふくむビピリジン還元体(化合物102)はフェニルピリジンの還元体(化合物101)よりも高い脳関門透過性を示した。従って、公知の医薬化合物の残基と上記部分構造とを含む構造を有する化合物は、高い血液脳関門透過性を有し、結果として脳内に上記の医薬化合物を分布させることが可能となり、脳内でその公知の薬理作用を発揮させることができることが期待できる。
【0021】
公知の医薬化合物としては、脳内で薬理作用を発揮できる化合物であれば特に限定されず、例としては、ドーパミン作用薬、鎮痛薬、精神安定薬、抗うつ薬、麻酔薬、抗てんかん薬、抗痙攣薬、筋弛緩薬、抗生物質、抗菌薬、抗ウイルス薬、制がん若しくは抗腫瘍薬、抗炎症薬、神経伝達物質、ヌクレオシド薬、ホルモン剤等が挙げられる。具体的には、ドーパミン、5−FU等の抗腫瘍薬が挙げられる。
医薬化合物の残基については、個々の医薬化合物の薬理活性部位についての公知の情報を元に当業者が適宜決定することが可能である。
【0022】
同様に、造影剤化合物の残基と上記式(I´)で表される部分構造を含む構造で表される化合物は、脳内でその公知の造影効果を発揮する。造影剤化合物とはX線造影法、MRI造影法、シンチグラフィー造影法などのいずれかの造影において、用いられている造影剤であればよい。このような造影剤としては、例えばトリヨードベンゼン骨格を持ったCT用造影剤や、常磁性金属錯体のMRI用造影剤が挙げられる。
【0023】
式(I´)で表される部分構造が、公知の医薬化合物又は造影剤化合物の残基と結合する際の結合形式は、共有結合であることが好ましい。両者は直接結合していてもよいが、後述のリンカー部分を介して結合していることが好ましい。このような式(I´)で表される部分構造が、公知の薬剤と結合した化合物は例えば、下記式(VI)で表される化合物と薬剤化合物の一部を脱離基に変換した化合物との置換反応で得ることができる。
【0024】
【化8】

式中、Yは水酸基、アミノ基、又はハロゲン原子を示す。
【0025】
また、式(I´)で表される部分構造を含む化合物として下記式(II)及び式(III)で表される化合物は、モノアミンオキシダーゼ阻害活性を示す。
【化9】

【0026】
モノアミンオキシダーゼ(以下、MAOと略する)は、情報伝達物質であるモノアミン類を酸化的脱アミノ化により分解、代謝して生物活性を消失させる機能を有し、その阻害剤特異性や基質特異性によってA型とB型に分類される(バイオケミカル ファーマコロジー(Biochemical Pharmacology)1968年、17号、1285−1297頁参照)。近年脳神経学の分野において、MAOがアルツハイマー病、パーキンソン病や脳血管性痴呆、うつ病等の神経疾患と強い関連性があることが見いだされ、研究開発が活発に行われている(特開昭62−15547号公報参照)。例えば、うつ病は感情の憂鬱や意欲抑制を主症状とする気分障害であり、脳内のセロトニン及びノルアドレナリン神経系における機能異常が一因と考えられている。セロトニン及びノルアドレナリンはMAO−Aにより分解されることから、MAO−A阻害剤は抗うつ薬として有望と考えられ、研究が進められている(特表2001−516719号公報、特開平11−139975号公報参照)。一方、パーキンソン病は振戦、筋固縮、無動、姿勢反射異常等を主徴とする慢性進行性疾患であり、脳内、特に尾状核と被殻において神経伝達物質ドーパミンの含量が低下することに起因することが明らかにされている。近年、ドーパミン分解酵素であるMAO−Bを阻害しドーパミンの分解を抑制してパーキンソン病を治療する試みが多々行われている(特表2005−539015号公報、特開平9−59264号公報参照)。
【0027】
以下、各置換基について、更に詳しく説明する。
R1〜R4が表すアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシル、ヘプタデシル、オクタデシル、ノナデシル、イコシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル、シクロデシルなどの直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20のアルキル基が挙げられる。R1〜R4が表すアルキル基としては、それぞれ炭素数1〜6のアルキル基が好ましい。
【0028】
R1、R3が表すアルケニル基としては、ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル、ウンデセニル、ドデセニル、トリデセニル、テトラデセニル、ペンタデセニル、ヘキサデセニル、ヘプタデセニル、オクタデセニル、ノナデセニル、イコセニル、ヘキサジエニル、ドデカトリエニル等の直鎖、分岐、又は環状の炭素数2〜20のアルケニル基が挙げられる。R1、R3が表すアルケニル基としては、それぞれ炭素数2〜6のアルケニル基が好ましい。
R1、R3が表すアルキニル基としては、エチニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、シクロオクチニル、シクロノニニル、シクロデシニル等の直鎖、分岐又は環状の炭素数2〜20のアルキニル基が挙げられる。R1、R3が表すアルキニル基としては、それぞれ炭素数2〜6のアルキニル基が好ましい。
R1〜R4が表すアリール基としては、フェニル、ナフチル等の炭素数6〜10員の単環式又は二環式アリール基が挙げられる。R1〜R4が表すアリール基としては、それぞれフェニル基が好ましい。
【0029】
R1、R3及びR4が表すアルコキシ基としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ドデシルオキシ、オクタデシルオキシ等の炭素数1〜20のアルコキシ基が挙げられる。R1、R3及びR4が表すアルコキシ基としては、それぞれ炭素数1〜6のアルコキシ基が好ましい。
R1、R3及びR4が表すアリールオキシ基としては、フェノキシ、ナフチルオキシ等が挙げられる。R1、R3及びR4が表すアリールオキシ基としては、フェノキシ基が好ましい。
【0030】
R1、R3が表すアルキルカルボニル基としては、アセチル、プロピオニル、ブチリル、バレリル、デカノイル、テトラデカノイル等の炭素数1〜20のアルキル基が置換したカルボニル基が挙げられる。R1、R3が表すアルキルカルボニル基としては、それぞれ炭素数1〜6のアルキル基が置換したカルボニル基が好ましい。
R1、R3が表すアリールカルボニル基としては、ベンゾイル、ナフトイル等の炭素数6〜10員の単環式又は二環式アリール基で置換されたアリールカルボニル基が挙げられる。R1、R3が表すアリールカルボニル基としては、それぞれベンゾイル基が好ましい。
【0031】
R1、R3が表すカルバモイル基としては、無置換カルバモイル基;N−メチルカルバモイル、N−(tert−ブチル)カルバモイル、N−ドデシルカルバモイル、N−オクタデシルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等のモノ置換カルバモイル基;N,N−ジメチルカルバモイル、N,N−ジヘキシルカルバモイル、N,N−ジドデシルカルバモイル、N,N−ジフェニルカルバモイル等のジ置換カルバモイル基が挙げられる。。R1、R3が表すカルバモイル基としては、無置換又は炭素数1〜4のアルキル基でジ置換されたカルバモイル基が好ましい。
【0032】
R1、R3が表すアルキルスルホニル基としては、メチルスルホニル、エチルスルホニル、プロピルスルホニル、ブチルスルホニル、ペンチルスルホニル、ヘキシルスルホニル、オクチルスルホニル、ドデシルスルホニル、ヘキサデシルスルホニル等の炭素数1〜20のアルキル基が置換したスルホニル基が挙げられる。R1、R3が表すアルキルスルホニル基としては、それぞれ炭素数1〜6のアルキル基が置換したスルホニル基が好ましい。
R1、R3が表すアリールスルホニル基としては、フェニルスルホニル、ナフチルスルホニル等の炭素数6〜10員の単環式又は二環式アリール基で置換されたスルホニル基が挙げられる。R1、R3が表すアリールスルホニル基としては、それぞれフェニルスルホニル基が好ましい。
【0033】
R1、R3が表すスルファモイル基としては、無置換スルファモイル基;N−エチルスルファモイル、N−(iso−ヘキシル)スルファモイル、N−エチルスルファモイル、N−デシルスルファモイル、N−ヘキサデシルスルファモイル、N−フェニルスルファモイル等のモノ置換スルファモイル基;N,N−ジメチルスルファモイル、N,N−ジブトキシスルファモイル、N,N−ジオクチルスルファモイル、N,N−テトラデシルスルファモイル、N,N−ジフェニルスルファモイル等のジ置換スルファモイル基が挙げられる。R1、R3が表すスルファモイル基としては、無置換スルファモイル基、又は炭素数1〜4のアルキル基でモノ置換若しくはジ置換されたアミノ基が好ましい。
【0034】
R1、R3及びR4が表すアミノ基としては、無置換アミノ基;N−メチルアミノ、N−ブチルアミノ、N−ヘキシルアミノ、N−デシルアミノ、N−テトラデシルアミノ、N−オクタデシルアミノ、N−フェニルアミノ、N−ナフチルアミノ等のモノ置換アミノ基;N,N−ジエチルアミノ、N,N−ジヘプチルアミノ、N,N−ジオクチルアミノ、N,N−ドデシルアミノ、N,N−オクタデシルアミノ、N,N−ジフェニルアミノ、N−メチル−N−フェニルアミノ等のジ置換アミノ基が挙げられる。R1、R3及びR4が表すアミノ基としては、無置換アミノ基、又は炭素数1〜4のアルキル基でモノ置換若しくはジ置換されたアミノ基が好ましい。
【0035】
R1、R3が表すアルキルカルボニルアミノ基としては、アセチルアミノ、エチルカルボニルアミノ、tert−ブチルカルボニルアミノ、n−オクチルカルボニルアミノ、n−ヘキサデシルカルボニルアミノ等の炭素数1〜20のアルキル基で置換されたカルボニルアミノ基が挙げられる。R1、R3が表すアルキルカルボニルアミノ基としては、それぞれ炭素数1〜6のアルキル基で置換されたカルボニルアミノ基が好ましい。
R1、R3が表すアリールカルボニルアミノ基としては、ベンゾイルアミノ、ナフトイルアミノ等の炭素数6〜10員の単環式又は二環式アリール基で置換されたカルボニルアミノ基が挙げられる。R1、R3が表すアリールカルボニルアミノ基としては、それぞれベンゾイルアミノ基が好ましい。
【0036】
R1、R3が表すアルキルスルホニルアミノ基としては、メチルスルホニルアミノ、iso−プロピルスルホニルアミノ、n−オクチルスルホニルアミノ、n−オクタデシルスルホニルアミノ等の炭素数1〜20のアルキル基で置換されたアルキルスルホニルアミノ基が挙げられる。R1、R3が表すアルキルスルホニルアミノ基としては、それぞれ炭素数1〜6のアルキル基で置換されたアルキルスルホニルアミノ基が好ましい。
R1、R3が表すアリールスルホニルアミノ基としては、フェニルスルホニルアミノ、ナフチルスルホニルアミノ等の炭素数6〜10員の単環式又は二環式アリール基で置換されたスルホニルアミノ基が挙げられる。R1、R3が表すアリールスルホニルアミノ基としては、それぞれフェニルスルホニルアミノ基が好ましい。
【0037】
R1、R3及びR4が表すハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子又はフッ素原子であればよい。R1、R3及びR4が表すハロゲン原子としては、塩素原子又は臭素原子が好ましい。
【0038】
R1、R3及びR4が表すヘテロ環残基としては、5〜10員の単環式又はニ環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基を表し、例えば、チオフェン、フラン、ピラン、ピリジン、ピロール、ピラジン、アゼピン、アゾシン、アゾニン、アゼシン、オキサゾール、チアゾール、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、トリアゾール、テトラゾール、イミダゾール、ピラゾール、モルホリン、チオモルホリン、ピペリジン、ピペラジン、キノリン、イソキノリン、インドール、イソインドール、キノキサリン、フタラジン、キノリジン、キナゾリン、キノキサリン、ナフチリジン、クロメン、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン等が挙げられる。R1、R3及びR4が表すヘテロ環残基としては、5〜6員の単環式又はニ環式の窒素又は酸素から選択される1〜3個の原子を含有するヘテロ環基が好ましい。
【0039】
式(II)において、mが2以上の場合、隣接する2つのR3が結合して環を形成してもよい。形成される環は、不飽和の環であっても飽和の環であってもよい。また、5員環又は6員環であることが好ましく、1個以上のヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子)を含んでいてもよい。
【0040】
なお、R1〜R4における上記で述べた置換基は更に置換基を有していてもよく、その種類は特に限定されない。置換基としては、例えばアルキル、アルケニル、フェニル、ヒドロキシ、アルコキシ、フェノキシ、アミノ、アルキルチオ、フェニルチオ、ハロゲン原子、ヘテロ環残基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0041】
式(I)〜(III)において、R1は好ましくは水素原子である。
式(II)においてmは0〜2が好ましく、0〜1がより好ましい。R3としてはハロゲン原子、炭素数1〜3のアルコキシ基が好ましい。
式(III)においてR4は好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、又は炭素数1〜3のアルコキシ基である。
【0042】
―(X)n−構造部分は、上記式(I´)で表される部分構造と医薬化合物又は造影剤化合物の残基とを結びつけるリンカーに該当する。このリンカーの長さを調節することによって血液脳関門透過性又は薬理学的活性を調節することが可能である。リンカーの長さとしては直鎖の炭素鎖の2〜20個に相当する長さであることが好ましく、2〜10個に相当する長さであることがさらに好ましい。好ましいリンカーの例としては、炭素数2〜5の直鎖アルキレン基、炭素数1〜5の直鎖アルキレン基にN(R2)及び又はCOが結合した基が挙げられる。R2は好ましくは、水素原子である。
【0043】
本発明の医薬にかかる化合物は薬学的に許容される塩の形で存在していてもよい。本発明において薬学的に許容される塩とは、安全且つ無毒性であり、生物学的のみならずそれ以外においても無害であって、親化合物の望ましい薬理活性を有している塩を意味する。そのような塩は、無機又は有機の酸又は塩基から誘導される。具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸との酸付加塩;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マレイン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、p−トルエンスルホン酸、トリメチル酢酸、2,2,2−トリフルオロ酢酸等の有機酸との酸付加塩;ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等のアルカリ金属イオン若しくはアルカリ土類金属イオンなどの金属イオンで置換されることによって形成される塩;アンモニウム塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基との塩等が挙げられる。更に本発明において、本発明の医薬にかかる化合物及びその付加塩には、分子内塩や付加物、各種水和物や溶媒和物、結晶多形の物質も含まれる。
【0044】
また、本発明の医薬にかかる化合物には、生体内において本発明の化合物やその塩に変換される化合物、いわゆるプロドラッグも全て含まれる。
以下に本発明の化合物の具体例を挙げるが、本発明はこれに限定されない。
【0045】
【化10】

【0046】
【化11】

【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
次に、製造法について説明する。
式(I´)で表される部分構造を有する化合物及びその薬学的に許容される塩は、その基本骨格や置換基の種類に応じて、従来から知られている種々の反応を組み合わせて合成することが可能である。以下に式(I´)で表される部分構造の合成法の一例を示すが、本発明はこれに限定されない。
【0050】
式(I´)で表される部分構造を有する化合物の出発物質である一般式(IIa)で表
される化合物(以下、ビピリジン化合物と略記する)は市販の試薬を用いてもよいし、公知のピリジン誘導体の合成法(例えば、特許第3032980号、特許第3272326号、特開2001−158773号公報、特開2005−213239号公報等)によって容易に合成することも可能である。
【0051】
これらビピリジン化合物を用い、まず公知の方法(例えばWO2005/16910号;Bull.Soc.Chim.Fr.,1996年、369−380頁等)で還元反応を行い、一般式(IIb)で表される中間体に導く。この還元反応では、目的物に応じて母核の4’−又は3’−ピリジン環を飽和化(以下、ピリジルピペリジン類と略記する)、又は一部飽和化(以下、ピリジルテトラヒドロピリジン類と略記する)させる。
本発明では、ビピリジン化合物を適当な溶媒下、ハロゲン化ベンジル類又はベンジルオキシカルボニルハライド類と反応させ、次いで得られた中間体をパラジウム触媒類、白金触媒類、ルテニウム触媒類又はロジウム触媒類の少なくとも1つを用いて水素を添加する方法が好ましい。以下にその反応式の一例として、2,4‘−ジピリジン化合物と臭化ベンジルとを反応した例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
【化14】

【0053】
本発明で用いられるハロゲン化ベンジル類としては、具体的にはベンジルクロライド、ベンジルブロミド、ベンジルヨージド等が挙げられる。またベンジルオキシカルボニルハライド類としては、ベンジルオキシカルボニルクロライド、ベンジルオキシカルボニルブロミド、ベンジルオキシカルボニルヨージド等が挙げられる。好ましくはベンジルクロライド、ベンジルブロミド、ベンジルオキシカルボニルクロライドであり、より好ましくはベンジルブロミドである。ハロゲン化ベンジル類の使用量はビピリジン化合物1molに対し、好ましくは0.5〜2.0倍molであり、より好ましくは0.9〜1.2倍molである。ベンジルオキシカルボニルバライド類の使用量はビピリジン化合物1molに対し、好ましくは0.5〜3.0倍molであり、より好ましくは1.0〜1.5倍molである。
【0054】
ビピリジン化合物とハロゲン化ベンジル又はベンジルオキシカルボニルハライド類との反応における反応温度は0〜200℃で行われ、好ましくは10〜100℃の範囲、より好ましくは20〜80℃の範囲である。これらの反応は通常24時間以内で終了し、多くの場合10分〜12時間で原料の消失が確認され、好ましくは10分〜4時間である。
【0055】
次に、得られた中間体は水素化触媒存在下、水素接触還元を行う。
本発明で用いられる水素化触媒は、パラジウム触媒類、白金触媒類、ルテニウム触媒類、又はロジウム触媒類である。具体的には、パラジウム触媒類としては、パラジウム炭素、硫黄化合物で被毒されたパラジウム炭素、パラジウム担持シリカ触媒、パラジウム担持アルミナ触媒、パラジウム担持硫酸バリウム触媒、パラジウム担持ゼオライト触媒等の担持触媒、パラジウムブラック、ラネーパラジウム、パラジウム金属、水酸化パラジウム、酸化パラジウム等が挙げられる。白金触媒類としては、白金炭素、硫黄化合物で被毒された白金炭素、白金担持シリカ触媒、白金担持アルミナ触媒等の担持触媒、白金金属、白金ブラック、二酸化白金(アダムス触媒)等が挙げられる。ルテニウム触媒類としては、ルテニウム担持シリカ、ルテニウム担持アルミナ、ルテニウム担持炭素等の担持触媒、ルテニウムブラック、塩化ルテニウム、酸化ルテニウム等が挙げられる。ロジウム触媒類としては、ロジウム担持シリカ触媒、ロジウム担持アルミナ触媒、ロジウム担持炭素触媒等の担持触媒、ロジウム金属、ロジウムブラック、塩化ロジウム、酸化ロジウム等が挙げられる。好ましくは、硫黄化合物で被毒されたパラジウム炭素、硫黄化合物で被毒された白金炭素、二酸化白金(アダムス触媒)が用いられる。より好ましくは硫黄化合物で被毒されたパラジウム炭素が用いられる。触媒の使用量はビピリジン誘導体に対し、通常0.001〜2倍質量の範囲で使用されるが、好ましくは0.005〜1倍質量、より好ましくは0.008〜0.08倍質量の範囲である。また2種以上の触媒を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。
【0056】
上記触媒中、本発明の化合物でピリジルテトラヒドロピリジン類を合成する場合、好ましくは、硫黄化合物で被毒されたパラジウム炭素、硫黄化合物で被毒された白金炭素、二酸化白金(アダムス触媒)が挙げられ、より好ましくは硫黄化合物で被毒されたパラジウム炭素、硫黄化合物で被毒された白金炭素である。また、ピリジルピペリジン類を合成する場合、好ましくは、パラジウム炭素、白金炭素、二酸化白金(アダムス触媒)が挙げられ、より好ましくはパラジウム炭素、二酸化白金(アダムス触媒)である。
【0057】
上記触媒の使用量は、ピリジルテトラヒドロピリジン類を合成する場合、ビピリジン誘導体に対し、通常0.001〜2倍質量の範囲であり、好ましくは0.005〜1倍質量の範囲であり、より好ましくは0.008〜0.08倍質量の範囲である。ピリジルピペリジン類を合成する場合、ビピリジン誘導体に対し、通常0.001〜2倍質量の範囲であり、好ましくは0.005〜1倍質量の範囲であり、より好ましくは0.008〜0.1倍質量の範囲である。
【0058】
還元反応の反応温度は、通常20〜200℃で行われるが、好ましくは20〜100℃の範囲、より好ましくは30〜80℃の範囲である。
【0059】
水素源は、水素ガスを使用する他、イソプロパノール等の炭素数3〜6の二級アルコール;シクロヘキセン;1,3−シクロヘキサジエン;ヒドラジン;ホスフィン酸;ハイポホスファイトナトリウム、ハイポホスファイトカリウム等のハイポホスファイトアルカリ金属塩;インドリン;ギ酸、及びギ酸アンモニウム等のアンモニア、トリエチルアミン、アルカリ又はアルカリ土類元素、ハロゲン化水素等からなるその塩を用いることができる。これらは2種以上の水素源を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。
【0060】
還元の際の水素圧は、通常10〜20,000kPaの範囲で行われ、ピリジルテトラヒドロピリジン類を合成する場合、好ましくは100〜10,000kPaの範囲であり、より好ましくは100〜1,000kPaの範囲である。ピリジルピペリジン類を合成する場合、好ましくは100〜10,000kPaの範囲であり、より好ましくは300〜1,000kPaの範囲である。これらの反応は通常24時間以内で終了し、多くの場合、30分〜12時間で原料の消失が確認される。
【0061】
反応で使用する溶媒としては、水;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族溶媒;ピリジン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどの極性溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;メタノ−ル、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ル、t−ブタノ−ルなどのアルコ−ル系溶媒;ジエチルエ−テル、ジイソプロピルエ−テル、ジブチルエ−テル、メチルt−ブチルエ−テル、テトラヒドロフランなどのエ−テル系溶媒等、極性、非極性溶媒を問わずいずれも利用し得る。好ましくは水、メタノ−ル、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ル、ブタノ−ル、t−ブタノ−ルなどのアルコ−ル系溶媒であり、より好ましくはメタノ−ル、エタノ−ル、イソプロピルアルコ−ルである。また2種以上の溶媒を混合して用いることができ、混合使用の際の混合比は任意に定めることができる。上記反応溶媒の使用量はビピリジン誘導体に対して、1〜50倍質量の範囲で使用されるが、より好ましくは2〜30倍質量、より好ましくは5〜10倍質量の範囲である。
【0062】
反応終了後、ピリジルテトラヒドロピリジン類又はピリジルピペリジン類を精製する方法としては、水と酢酸エチル又はトルエンなどの有機溶媒を用いた抽出、アルコ−ル、へキサン、トルエンなどを用いた再結晶、シリカゲル、アルミナ等を用いたカラム精製、減圧蒸留などが挙げられる。これらの方法は、単独又は2つ以上組み合わせて精製を行うことにより、目的物を高純度で得ることが可能である。
【0063】
次に、前記の還元反応で得られた中間体(IIb−1)又は中間体(IIb−2)は、
さらにリンカー部分を形成する化合物と反応させればよい。リンカー部分を形成する化合物としてはリンカー部分に脱離基及びY又は脱離基及び薬理学的活性構造などの所望の構造が結合した化合物を用いればよい。脱離基としては特に制限されないが、好ましくはヨウ素、臭素、塩素等のハロゲン原子;メトキシ、エトキシ等の炭素数1〜4の低級アルコキシ基;メチルチオ、エチルチオ等の炭素数1〜4の低級アルキルチオ基;ヒドロキシル基;チオール基であり、より好ましくはハロゲン原子、特に好ましくは塩素原子又は臭素原子が挙げられる。
【0064】
得られた化合物は、通常の有機化合物の単離・精製方法を用いて単離・精製することが出来る。例えば、1,2−ジクロロエタン、酢酸エチル、アルコール等の溶媒で抽出し、その抽出液を濃縮すれば粗成物が得られる。更にその粗成物は酢酸エチル、トルエン、アルコール、ヘキサン等を用いた再結晶、シリカゲルを用いたカラム精製、減圧蒸留等により精製する。これらの方法は、単独又は2つ以上組み合わせて精製を行うことにより目的物を高純度で得ることが可能である。
【0065】
式(I´)で表される部分構造は血液脳関門透過性が高いため、医薬化合物の残基と結合させることによって、該医薬化合物が脳に分布することを可能とし、該医薬化合物の作用を脳内で発揮させることができる。すなわち、式(I´)で表される部分構造を有する化合物を含む本発明の医薬は脳内の損傷に起因する疾患の治療又は予防に有効である。すなわち、本発明の医薬は、ドーパミン作用薬、鎮痛薬、精神安定薬、抗うつ薬、麻酔薬、抗てんかん薬、抗痙攣薬、筋弛緩薬、抗生物質、抗菌薬、抗ウイルス薬、制がん若しくは抗腫瘍薬、抗炎症薬、神経伝達物質、ヌクレオシド薬又はホルモン剤等を脳内で作用させ、認知症、てんかん、及びパーキンソン病などの中枢神経系疾患、脳感染症、脳腫瘍等の治療及び/又は予防に有効である。
【0066】
本発明の医薬の有効成分としては、前記式(I)〜(III)で表される化合物及び生理学的に許容されるその塩、並びにそれらの溶媒和物及びそれらの水和物からなる群より選ばれる物質を用いることができる。本発明の医薬としては、該物質自体を投与してもよいが、有効成分として前記の物質と1又は2以上の製剤用添加物とを含む医薬組成物の形態の医薬を投与することが望ましい。本発明の医薬の有効成分としては、上記の物質の2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
医薬組成物の種類は特に限定されず、経口又は非経口投与用、好ましくは非経口投与用の任意の製剤形態として提供される。例えば、医薬組成物は、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、液剤等の経口投与用医薬組成物の形態として、又は、静脈内投与用、筋肉内投与用、若しくは皮下投与用の注射剤、点滴剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、点鼻剤、吸入剤、坐剤等の非経口投与用医薬組成物の形態として調製することができる。特に、静脈内投与用の注射剤用医薬組成物の形態として調製することが好ましい。
【0068】
本発明の医薬の投与量及び投与回数は、特に限定されず、予防及び/又は治療の目的、疾患の種類、患者の体重や年齢、疾患の重篤度などの条件に応じて、適宜選択することが可能であり、本発明の医薬に係る薬理学的活性構造部分が由来する薬剤の投与量及び投与回数に準じて適宜選択すればよい。一般的には、経口投与における成人一日あたりの投与量は0.01〜1000mg(有効成分質量)程度であり、一日1回又は数回に分けて、あるいは数日ごとに投与することができる。該医薬を注射剤として用いる場合には、成人に対して一日量0.001〜3000mg(有効成分質量)を連続投与又は間欠投与することが望ましい。
【0069】
一般式(V)で表される化合物を造影剤として用いる場合には、好ましくは非経口的に投与することができ、より好ましくは静脈内投与することができる。例えば、注射剤や点滴剤などの形態の製剤を凍結乾燥形態の粉末状組成物として提供し、用時に水又は他の適当な媒体(例えば生理食塩水、ブドウ等輸液、緩衝液など)に溶解ないし再懸濁して用いることができる。一般式(V)で表される化合物を造影剤として用いる場合、投与量は一般式(V)で表される化合物含有量が従来の造影剤の化合物含有量と同程度になるように適宜決定することが可能である。
【実施例】
【0070】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0071】
合成例1:化合物102及び101の合成
【化15】

【0072】
4−フェニルピリジン(5g)とヨ−ドメタン(10g)をクロロホルム(10ml)に溶解させ、この反応液を4時間還流させた。溶媒を留去し、酢酸エチル20mlを加え、晶析した。析出した結晶を濾過して化合物101Bを9.7g得た。それをNaBH4で還元して化合物101を4.6g得た。
【0073】
合成例2: 化合物02の合成
【化16】

【0074】
2,4'-ビピリジン4H体の塩酸塩(0.60g)をDMF(15ml)に溶解し、炭酸カリウム(0.37g)とブロモアセトニトリル(0.44g)を加え、室温で12時間攪拌した。反応液に酢酸エチルを加え、有機層を水で洗浄した後、溶媒を減圧で留去した。残留物をカラムで精製し、0.25gの中間体を得た。それをTHF(6ml)に溶解し、0℃でLiAlH4(0.10g)を添加し、0℃で攪拌した。TLCより原料が消失したことを確認した後、不溶解物を濾別し、濾液にp-クロロベンゾイルクロライド(0.21g)を滴下し、1時間攪拌した。酢酸エチル(20ml)と水(20ml)を加え、分液し、有機層をそれぞれ重曹水と食塩水で洗浄した。減圧で有機溶媒を留去した後、残留物をカラムで精製し、目的物0.18gを得た。
【0075】
合成例3:化合物01の合成
【化17】

【0076】
4−(2−ピリジル)ピペリジン (0.81g)をDMF(10ml)に溶解し、炭酸カリウム(0.45g)とブロモアセトニトリル(0.61g)を加え、室温で12時間攪拌した。反応液に酢酸エチルを加え、有機層を水で洗浄した後、溶媒を減圧で留去した。残留物をカラムで精製し、0.69gの中間体を得た。それをTHF(7ml)に溶解し、0℃でLiAlH4(0.21g)を添加し、0℃で攪拌した。TLCより原料が消失したことを確認した後、不溶解物を濾別し、濾液にp−クロロベンゾイルクロライド(0.60g)を滴下し、1時間攪拌した。酢酸エチル(20ml)と水(20ml)を加えて分液し、有機層をそれぞれ重曹水と食塩水で洗浄した。減圧で有機溶媒を留去した後、残留物をカラムで精製し、目的物0.46gを得た。
【0077】
合成例4:化合物04の合成
【化18】

【0078】
1’,2’,3’,6’−テトラヒドロ−2,4’−ビピリジン塩酸塩480mg(3mmol)をトルエン5mlに溶解し、炭酸ナトリウム424mg(4mmol)の水5ml溶液を加えて、氷冷した。4−クロロフェニル酢酸クロリド756mg(4mmol)をゆっくり滴下し、その後室温で7時間攪拌した。反応終了後トルエンで抽出し、抽出液を濃縮後シリカゲルカラムで精製して、目的物の淡褐色結晶490mg(収率52.2%)を得た。
【0079】
合成例5:化合物33の合成
【化19】

【0080】
4−フルオロ安息香酸(0.07g)をアセトニトリル(3ml)に溶解し、それに塩化チオニル(0.18g)を加え、1時間還流した。溶媒を減圧留去し、濃縮物をアセトニトリル(3ml)に溶解した。1'、2'、3'、6'−テトラヒドロ−2,4'―ビピリジン(0.08g)をアセトニトリル(3ml)に溶解し、水(0.5ml)、炭酸ナトリウム(0.07g)を加えた。溶液を0℃まで冷却した後、上記で得られた4−フルオロ安息香酸クロリドのアセトニトリル溶液を滴下した。室温で4時間反応し、生成物をカラムクロマトグラフィーで精製して、目的物0.096gを得た。
【0081】
合成例6:化合物45及び46の合成
【化20】

【0082】
2,4'−ビピリジン4H体の塩酸塩(10g)と炭酸ナトリウム(16.2g)のメタノール(100ml)ををメタノール(100ml)に溶解させ、1時間還流した後、メタノールを留去した。アセトニトリル(150ml)を加え、更に炭酸ナトリウム(10.8g)と1−ブロモー3−クロロプロパン(12.0g)を添加し、室温で15時間反応した。溶媒を留去した後、カラムで精製し、3−クロロプロピル−1−1’,2’,3’,6’−テトラヒドロ−2,4’−ビピリジンを6.88g(57.2%)得た。
5−フルオロウラシル(2.0g)にHMDS(10ml)とTMCS(0.8ml)を加え、120℃で4時間反応した。溶媒を留去した後、DMAc(20ml)を加え、残留物を溶解させた。KI(0.15g)を添加し、窒素雰囲気下で 上述で得られた化合物(3.43g)のDMAc溶液を滴下し、120℃で30時間反応した。減圧で溶媒を留去し、残留物をカラムで精製し、3−[4−(2−ピリジル)−1,2,3,6−テトラヒドロ−1−ピリジル]プロピル−5−フルオロウラシルと1−[4−(2−ピリジル)−1,2,3,6−テトラヒドロ−1−ピリジル]プロピル−5−フルオロウラシルの混合物を0.33g得た。
【0083】
合成例7:化合物48の合成
【化21】

【0084】
6−Bromo-n-hexanoic Acid(10g)のメタノール(20ml)溶液に塩化チオニル(8.0g)を加え、2滴のDMFを滴下し、6時間還流させた。減圧でメタノール溶媒を留去した後、クロロホルムを加え、得られた有機層を炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、乾燥し、溶媒を留去し、メチルエステルを10.6g(98.9%)得た。
ピペリジン塩酸塩(5.9g)と上述で得られたエステル(7.0g)をDMF(80ml)に溶解させ、炭酸カリウム(6.36g)とKI(0.5g)を添加し、100℃で6時間反応させた。無機塩を濾別し、減圧で溶媒を留去した後、残留物をカラムで精製し、メチル 6−[4−(2−ピリジル)−1’,2’,3’,6’−テトラヒドロ−ビピリジン−1'−yl]へキサノエートを4.02g(60.3%)得た。それを塩酸で加水分解し、カルボン酸を合成した。
【0085】
得られたカルボン酸とドーパミンの塩酸塩(0.5g)とを塩化メチレン(20ml)に溶解させ、DCC(0.65g)とHOBt(0.33g)及びトリエチルアミン(1.2g)を加え、室温で20時間攪拌した。不溶解物を濾別し、カラムで精製して0.6gの目的物を得た。
【0086】
試験例1:血液脳関門透過性モデル試験
ウシの血管内皮細胞とラットの新件膠細胞を用いる共培養系(図1:Cellial社 CT Bovial@4DScreen)を用いて化合物の血液脳関門透過性を調べた。各化合物のDMSO溶液を希釈し、濃度5〜100μMとした。図1のA層に希釈した溶液を添加し、1時間後のA層(残層)、B層(透過)に存在する化合物の量をLCMSで定量した。血液内皮細胞のあるモデル(24穴BBBモデル)とないモデル(比較モデル)での化合物の透過量を比較することにより。血液脳関門透過性(BBB透過性)を算出した。
【0087】
(結果)
化合物102と化合物101の比較
フェニルピリジン還元体である化合物101(N−メチル置換体)は72.8%のBBB透過性を示し、一方で、ビピリジン還元体である化合物102(N−メチル置換体)は89.2%のBBB透過性を示した。
化合物45及び化合物46の混合物
抗がん剤と抗エイズ薬として開発されているウラシル誘導体とにフェニルピリジン還元体部分構造を有する化合物として、製造した化合物45及び化合物46の混合物につき、28.92%のBBB透過性が得られた。
【0088】
化合物48
ドーパミンはパーキンソン病の治療に効果があることが知られているが、ドーパミンは血液脳関門透過性を有しない。しかし、ドーパミンのビピリジン誘導体として合成した化合物48は13.9%のBBB透過性を示した。
化合物01及び04
化合物01は79.8%、化合物04は77.8%の良好なBBB透過性を示した。
【0089】
試験例2:MAO阻害活性試験
化合物01、化合物02、化合物04について、FEBS Lett.,286巻,1−2号,1991年,142〜146頁;Biochem.Pharmacol.,41巻,2号,1991年,155〜162頁に記載の方法で、MDS Pharm Services社にてMAO阻害活性を測定した。以下に測定条件を示す。
source ヒト組換えHi5昆虫細胞;基質 50μMキュヌラミン;
溶媒 1%ジメチルスルホキシド;試験方法 4−ヒドロキシキノリンを用いた定量蛍光分光法;
標準物質(MAO−A)クロルジリン、(MAO−B)R(−)−デプレニル。
結果を表1に示す。
【0090】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】血液脳間門透過性モデル試験で用いたウシの血管内皮細胞とラットの新件膠細胞を用いる共培養系を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、R1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ホルミル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、アミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はヘテロ環残基を表し、Xは、酸素原子、炭素数1〜20の直鎖又は分岐鎖のアルキレン基、N(R2)、CO、COO、CONH、SO2、SO2NH又はSO3を表し、R2は水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、nは1〜3の整数を表し、nが2以上の場合、複数のXは同じでも異なっていてもよく、Strpharmは脳内で薬理作用を発揮する医薬化合物の残基を示す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む医薬。
【請求項2】
Strpharmが、ドーパミン作用薬、鎮痛薬、精神安定薬、抗うつ薬、麻酔薬、抗てんかん薬、抗痙攣薬、筋弛緩薬、抗生物質、抗菌薬、抗ウイルス薬、制がん若しくは抗腫瘍薬、抗炎症薬、神経伝達物質、ヌクレオシド薬又はホルモン剤から選択される医薬化合物の残基である請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
Strpharmが、ドーパミン又は5−FUの残基である請求項1に記載の医薬。
【請求項4】
下記一般式(V):
【化2】

(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、Strimageは造影剤化合物の残基を示す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む造影剤を含む医薬。
【請求項5】
下記一般式(VI)で表される化合物と医薬化合物又は造影剤化合物とを反応させる工程
を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の医薬の製造方法。
【化3】

(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、Yは水酸基、アミノ基、又はハロゲン原子を示す。)
【請求項6】
下記一般式(II):
【化4】

(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、R3はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、カルバモイル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、スルファモイル基、アミノ基、アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、ハロゲン原子、又はヘテロ環残基を表し、mは0〜5の整数を表し、mが2以上の場合、複数のR3は同じでも異なっていてもよく、また隣接する2つのR3が結合して環を形成していてもよい。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む血液脳関門透過性の医薬。
【請求項7】
下記一般式(III):
【化5】

(式中、R1、X及びnは請求項1の一般式(I)における定義とそれぞれ同じ意味を有し、R4は水素原子、アルキル基、アリール基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、ハロゲン原子又はヘテロ環残基を表す。)で表される化合物又はその薬学的に許容される塩を有効成分として含む血液脳関門透過性の医薬。
【請求項8】
R4が炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、カルボキシル基又はハロゲン原子である請求項7に記載の医薬。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−249346(P2009−249346A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−99972(P2008−99972)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【出願人】(000175607)富士フイルムファインケミカルズ株式会社 (34)
【Fターム(参考)】