説明

ピリダジノン誘導体の純粋なエナンチオマーの取得方法

【課題】ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンの光学分割法、および光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの新規結晶状多形体の提供。
【解決手段】a)前記ラセミ混合物を酢酸エチル溶媒中でD−またはL−酒石酸と接触させる工程、b)結晶状塩を回収する工程;およびc)任意に前記塩を塩基化して対応する遊離塩基を形成する工程を含むラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンの光学分割法。特定のピーク位置を有するX線回折図によって特徴づけられる(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの結晶状多形体I。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン(II)の光学分割法に関する。さらに本発明は、[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル(I)の(−)エナンチオマーの新規な結晶状多形体に関する。
【背景技術】
【0002】
[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル(I)のラセミ混合物は、本出願人の欧州特許第383449号明細書にすでに記載されている。化合物(I)は、うっ血性心不全の治療に効果があり、有意にカルシウムに依存してトロポニンと結合することが示された。
【0003】
【化1】

【0004】
(I)の光学活性なエナンチオマーは、本出願人の欧州特許第565546号明細書にすでに記載されている。(I)の強心効果は、その(−)エナンチオマーによるところが大きいということが示された。中間体化合物として6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン(II)の光学的に純粋な(−)エナンチオマーを用いた(I)の純粋な(−)エナンチオマーの製造法も開示された。
【0005】
【化2】

【0006】
ラセミ化合物(II)は文献(J. Med. Chem., 17, 273-281 (1974))中で知られている方法で合成され得る。しかしながら、ラセミ化合物(II)の分割は、分子内の4位のアミノ基が弱塩基性であるがゆえに非常に困難であるということが示されている。光学活性な酸との6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンの塩は、結晶化中に加水分解し、容易に化合物(II)に戻り、また分割に用いる化合物(resolving compound)に戻って分割手順を妨げたり分割手順を全体的に不可能にする。
【0007】
キラルHPLCカラムにおける化合物(II)の純粋なエナンチオマーの分離は、欧州特許出願第208518号明細書に記載されている。しかしながら、この方法は工業的規模には応用できない。(+)−2−クロロプロピオン酸から開始される(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンのエナンチオ選択的7工程合成は文献(J. Org. Chem., 56, 1963 (1991))にも記載されている。この方法における全体の収率は、97.2%の光学純度を有する(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンについてはわずか12%である。
【0008】
前記欧州特許第565546号明細書において、ラセミ中間体(II)は、2−プロパノール中の過剰のL−またはD−酒石酸で処理し、ジアステレオマー結晶状塩を回収することにより分割され得るということが見出された。この生成物の光学純度は、回収された塩基化生成物をジオキサン中に溶解させることによりさらに高められた。このラセミ残留物をジオキサンから結晶化し、その濾液を蒸発乾固して中間体(II)の目的とする純粋なエナンチオマーを得た。前記欧州特許第383449号明細書に記載されているように、(I)の純粋な(−)エナンチオマーは、中間体(II)の(−)エナンチオマーをさらに酸性条件下で硝酸ナトリウムおよびマロノニトリルで処理することにより製造した。
【0009】
たとえこの方法によって(I)の純粋な(−)エナンチオマーが得られるとしても、有害なジオキサンを用いる必要性は、大幅にその適応性を制限する。したがって、(I)の純粋な(−)エナンチオマーを製造するための改良された方法が必要なのである。
【発明の開示】
【0010】
今や、(I)の実質的に純粋な(−)エナンチオマーは、分割を2つの異なった合成段階で行なえば、より簡便に、かつジオキサンを使うことなく製造しうることが見出された。最初の分割工程は、ラセミ中間体(II)を分割することからなり、また、最後の分割工程は光学純度が高められた最終生成物(I)を分割することからなる。溶媒として2−プロパノールのかわりに酢酸エチルを用いると、最初の分割工程はより光学純度の高い中間体(II)を生じることも見出された。さらに、最終生成物(I)の部分濃縮された(partly enriched)エナンチオマー混合物におけるマイナーな成分をアセトンから結晶化し得ることも見出された。
【0011】
したがって、本発明は、光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの製造法を提供するものであり、前記製造法は、
a)溶媒の存在下、分割に用いる酸(resolving acid)を使用して沈殿させることによってラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンを分割する工程、
b)回収された(−)エナンチオマーの豊富な6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンを硝酸ナトリウムおよびマロノニトリルで処理する工程、
c)得られた(−)エナンチオマーの豊富な[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルをアセトンと接触させる工程、
d)沈殿物を除去する工程、
e)工程d)の母液から結晶化により光学的に実質上純粋な、(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを回収する工程
を含む。
【0012】
さらに本発明は、光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの製造法を提供するものであり、前記製造法は
a)アセトン溶媒中に(−)エナンチオマーの豊富な[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを懸濁させる工程、
b)沈殿物を除去する工程、
c)工程b)の母液から結晶化により光学的に実質上純粋な、(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを回収する工程
を含む。
【0013】
本発明はまた、ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンの光学分割法を提供するものであり、かかる分割法は、
a)前記ラセミ混合物を酢酸エチル溶媒中でD−またはL−酒石酸と接触させる工程、
b)結晶状塩を回収する工程;および
c)任意に前記塩を塩基化して対応する遊離塩基を形成する工程
を含む。
【0014】
さらに本発明は、(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの新規な結晶状多形体Iおよびその製造法を提供するものである。
【0015】
[発明の効果]
本発明の光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルは、強心剤として有用である。また、この(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの新規な結晶状多形体Iは、その水に対する高い溶解度から医薬製剤の製造に特に有用になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
「光学的に実質上純粋な」という用語は、ここでは、エナンチオマー過剰率を百分率で表わした光学純度が約90%をこえる、好ましくは95%をこえる、さらに好ましくは99%をこえることを意味するものである。「分割する」および「分割」という用語は、2つの光学的エナンチオマーを完全にまたは部分的に分離することを包含するものである。
【0017】
本発明によれば、ラセミ化合物(II)は、酢酸エチル溶媒中で(II)のラセミ混合物をD−またはL−酒石酸とともに反応させることで好ましく分割される。有利には、酢酸エチル溶媒は、水を0〜約6重量%、好ましくは2〜4重量%、さらに好ましくは約3重量%含有する。D−またはL−酒石酸と化合物(II)はほぼ等モル量で用いるのが好ましい。D−酒石酸との(−)6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンのジアステレオマー塩またはL−酒石酸との対応する(+)6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンのジアステレオマー塩は、酢酸エチルから高収率で結晶化する。結晶状ジアステレオマー塩を濾過し、たとえば炭酸カリウム溶液またはアンモニアを用いて前記塩を塩基化することで遊離塩基を遊離しうる。その母液は濾過ののちに回収されうるし、沈殿によって予め除かれなかったエナンチオマーの回収のためにさらに処理されうる。その処理は、たとえば母液を冷却し、生じた結晶状ジアステレオマー塩を回収することからなっていてもよい。
【0018】
典型的には、前記方法により得られた生成物は、目的の(II)のエナンチオマーを約90重量%含有する。生成物の純度は、再結晶によって約96重量%まで上げることができる。アセトニトリルは再結晶に好ましい溶媒である。たとえば、(−)エナンチオマーの豊富な生成物は、生成物をアセトニトリル溶媒に加え、その混合物を還流し、沈殿物を濾過することによって再結晶化される。濾液を、(II)の(−)エナンチオマーを結晶化させるために要すれば、濃縮し、冷却する。
【0019】
比較手段として、2−プロパノール中の過剰のL−またはD−酒石酸を用いた(II)の処理からなる欧州特許第565546号明細書の分割法では、生成物をさらにジオキサンで処理しなければ、目的の(II)のエナンチオマーは70重量%未満しか含まない生成物しか得られないことが言及しうる。
【0020】
化合物(II)の部分分割は、実施例で示されているように、酢酸エチル以外の溶媒系を用いても得られうる。かような溶媒としては、イソプロパノール、イソブタノール、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、アセトンおよびアセトニトリルなどがあげられる。また、D−またはL−酒石酸以外の分割に用いる酸を用いても、たとえば安息香酸または硫酸などを用いても、化合物(II)の部分分割を生じうる。しかしながら、酢酸エチル中の、または水性酢酸エチル溶媒中のD−もしくはL−酒石酸を用いた方法は、本発明にしたがって最も高い光学純度を有する化合物(II)を提供する。
【0021】
最終生成物である(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル(I)は、(−)エナンチオマーの豊富な6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンの中間体(II)から、欧州特許第383449号明細書に記載されているように、酸性条件下で、この中間体を硝酸ナトリウムおよびマロノニトリルと反応せしめることにより製造される。(−)エナンチオマーの豊富な化合物(I)はそののち回収される。
【0022】
部分濃縮された化合物(I)のエナンチオマー混合物中のマイナー成分は、溶液中に主成分の残留物(rest)を残したまま、アセトンから濾別されうる。このようにして、母液から(I)の実質上純粋な(−)エナンチオマーを再結晶によって回収せしめるのである。
【0023】
したがって、(I)の実質上純粋な(−)エナンチオマーを製造するために、(−)エナンチオマーが豊富な、前もって回収された化合物(I)を、アセトン溶媒中で懸濁する。前記アセトン溶媒は水を2重量%まで含有するのが好ましい。この混合物を還流し、沈殿物を濾過する。濾液をついで要すれば、濃縮し、約0〜(−5)℃まで冷却する。沈殿した(I)の結晶状(−)エナンチオマーを回収する。この生成物は、典型的には、目的物である(I)の(−)エナンチオマーを99重量%より多く含有し、そのため、医薬として使用するのに適している。
【0024】
生成物のエナンチオマー純度は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって決定した。化合物(II)のエナンチオマーは、セルロース系キラルカラム(Chiralcel OJ 25×0.46cm)を用いて分離した。流動相はエタノールであり、流速は0.5ml/minであった。化合物(I)のエナンチオマーは、β−シクロデキストリンカラム(Cyclobond I Beta,4.6×250mm)を用いて分離した。流動相は1%酢酸トリエチルアンモニウムでpH6.0に緩衝化した36%メタノール水溶液であり、流速は0.8ml/minであった。
【0025】
さらに、前記の実質上純粋な(I)の(−)エナンチオマーの製造法により、新規で結晶学上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの多形体(ここでは便宜上、多形体Iと呼ぶ)が得られることが発見された。多形体Iの重要な利点は、水に対する高い溶解度である。この高い溶解度により、多形体Iは、(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの医薬製剤の製造にとくに有用となる。
【0026】
多形体Iの結晶学的な純度は、要すれば、結晶学上純粋な多形体Iの形成に必要な時間、約70℃以上の温度で、得られた(−)エナンチオマー生成物を加熱することで上げうるということも見出された。適切な温度は、典型的には、70〜160℃の範囲内、好ましくは80〜130℃の範囲内にある。時間は、典型的には、1〜48時間の範囲内、好ましくは4〜24時間の範囲内にある。この処理は、生成物の乾燥過程の一部になりうるし、また、減圧下で行なってもよい。
【0027】
(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの多形体Iは、X線結晶学によって特徴づけられる。多形体Iの2θが3〜33°である範囲におけるX線粉末回折図を図1に、また、結晶学的データを表1に示す。
【0028】
この回折図は、X線粉末回折(XRPD)装置、シーメンスD500(Siemens AG、カールスルエ(Karlsruhe)、ドイツ連邦共和国)によって測定した。銅標的のX線(copper target X-ray)(波長0.1541nm)管は、40kV×40mAの出力で操作した。X線回折分析のために、試料は直径が20mmで高さが約2mmの特殊な円柱状試料台に約500mgの粉末を軽く圧縮してのせた。回折図の数学的評価はDiffrac AT V3.1ソフトウェア・パッケージを用いて行なった。2θ値と相対的ピーク強度としての回折図の主な特徴は、出力データとして示した。
【0029】
【表1】

【0030】
相対的強度の値は、結晶の異なった配向性により著しく変化しうる。したがって、図1に示された相対的強度の値は、たとえば微小化していない粉末のみにかわる代表的なものとして見なされうる。
【0031】
以下の実施例は、本発明をさらに説明しようとするものである。
【0032】
実施例1
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン100gを酢酸エチル2997ml、水94.4ml、D−酒石酸77.8gおよび(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンのD−酒石酸塩1.0gに窒素雰囲気下(under nitrogen)で加えた。この混合物を、室温で1.5時間攪拌した。そののち、この混合物を65℃まで加熱し、2時間攪拌した。得られた沈殿物を熱いうちに濾過し、酢酸エチル561mlで洗った。得られた沈殿物を水400mlと混合し、混合物のpHをアンモニアで9〜10に調整した。この混合物を0℃まで冷却し、2時間攪拌した。得られた沈殿物を濾過し、冷水322mlで3回洗い、50℃、減圧下で乾燥した。収量は35gであり、(−/+)エナンチオマーの比率は93/7%であった。生成物(35g)を、さらにアセトニトリル777mlとセライト2.0gに窒素雰囲気下で加えた。沈殿物を熱いうちに濾過し、アセトニトリル33mlで洗い、洗液も濾液に加えた。アセトニトリル253mlを得られた濾液から蒸留し、残留混合物を−5℃まで冷却した。得られた沈殿物を濾過し、アセトニトリル76mlで洗い、50℃、減圧下で乾燥した。収量は24.5gであった。(−/+)エナンチオマーの比率は96/4%であった。
【0033】
実施例2
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン50gを酢酸エチル1500ml、水46ml、D−酒石酸37.5gおよび(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンのD−酒石酸塩1.0gに加えた。この混合物を室温で1.5時間攪拌した。そののち、この混合物を65±3℃まで加熱し、3時間攪拌した。得られた沈殿物を熱いうちに濾過し、室温の酢酸エチル116mlで洗った。得られた沈殿物を室温の水200mlと混合し、水90ml中の炭酸水素カリウム44gをゆっくりと加えた。pHが9.0をこえていることを確認した。この混合物を0±3℃まで冷却し、2時間攪拌した。得られた沈殿物を濾過し、冷水120mlで3回洗い、50±5℃、減圧下で乾燥した。収量は17.87gであった。(−/+)エナンチオマーの比率は90.7/8.6%であった。
【0034】
実施例3
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン50gを酢酸エチル1500ml、水45ml、L−酒石酸37.3gに加えた。この混合物を60℃まで加熱し、2時間攪拌した。得られた沈殿物を濾過し、濾液を−10℃まで冷却し、2時間この温度に保った。濾液から結晶化した沈殿物を濾過し、50℃、減圧下で乾燥した。得られた沈殿物を室温で水200mlと混合し、水90ml中の炭酸水素カリウム43gをゆっくりと加えた。pHが9.0をこえていることを確認した。この混合物を0℃まで冷却し、2時間攪拌した。得られた沈殿物を濾過し、冷水120mlで3回洗い、50±5℃、減圧下で乾燥した。収量は20.61gであった。(−/+)エナンチオマーの比率は78.7/21.2%であった。
【0035】
実施例4
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gをイソプロパノール30mlおよび安息香酸0.6gに加えた。この混合物を溶解するまで煮沸し、室温まで冷却し、そののち生成物を結晶化した。この結晶状の生成物を濾過し、エナンチオマーの安息香酸塩の比率を決定した。(−/+)エナンチオマーの比率は74.1/25.5%であった。
【0036】
実施例5
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gをイソプロパノール30mlおよび濃硫酸0.48gに加えた。この混合物を煮沸したのち、室温まで冷却した。得られた結晶状の生成物を濾過し、エナンチオマーの硫酸塩の比率を決定した。(−/+)エナンチオマーの比率は65.1/34.9%であった。
【0037】
実施例6
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン5gを酢酸エチル75ml、水3.1mlおよびL−酒石酸3.73gに加えた。この混合物を3.5時間煮沸し、得られた沈殿物を濾過し、濾液を−10℃まで冷却した。濾液から結晶化した沈殿物を濾過し、50℃、減圧下で乾燥した。収量は2.86gであった。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は72/27%であった。
【0038】
実施例7
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gをイソブタノール20mlおよびL−酒石酸0.75gに加えた。この混合物を煮沸したのち、冷却した。(64℃で)結晶化が始まるとすぐに試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は53/46%であった。水0.6mlをこの混合物に加え、その混合物を煮沸したのち冷却し、(64℃で)結晶化が始まったときに試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は60/40%であった。再び水0.6mlをこの混合物に加え、先ほどの手順をくり返した。生成物は46℃で結晶化を始めた。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は56/44%であった。
【0039】
実施例8
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gを酢酸イソプロピル60mlおよびL−酒石酸0.75gに加えた。この混合物を煮沸し、不溶な沈殿物から試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は44/56%であった。水1.2mlをこの混合物に加えると、沈殿物は溶解した。この混合物を冷却し、(68℃で)結晶化が始まったときに試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は24/76%であった。
【0040】
実施例9
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gを酢酸エチル50ml、L−酒石酸0.75gおよび水A)0.5ml、B)1.0mlまたはC)1.5mlに加えた。この混合物を煮沸したのち、冷却した。この混合物を濾過し、得られた沈殿物および結晶化が始まったときの濾液から試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率(%)は以下のとおりであった。
沈殿物 濾 液 結晶化温度、℃
A) 29/71 66/30 52
B) 22/77 65/32 54
C) 20/80 85/13 50
【0041】
実施例10
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gを酢酸ブチル50mlおよびL−酒石酸0.75gに加えた。この混合物を煮沸したのち、冷却した。この混合物を濾過し、(64℃で)結晶化が始まったときに沈殿物から試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は44/55%であった。
【0042】
実施例11
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gをアセトン10mlおよびL−酒石酸0.75gに加えた。この混合物を溶解するまで加温したのち(54℃)、0℃まで冷却した。得られた沈殿物から試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は49/42%であった。
【0043】
実施例12
(−)−6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノン1gをアセトニトリル44mlおよびL−酒石酸0.75gに加えた。この混合物を煮沸したのち、冷却した。結晶化が始まったときに沈殿物から試料を取り出した。(−/+)エナンチオマーのL−酒石酸塩の比率は43/50%であった。
【0044】
実施例13
(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル
欧州特許第383449号明細書に記載されているように、(−/+)分割%が96/4である実施例2で得られた6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンを硝酸ナトリウムおよびマロノニトリルで処理した。(−/+)分割%が96/4である回収された[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル10gを、アセトン150ml、水0.9ml、活性炭0.2gおよびセライト(Celite)0.4gに加えた。この混合物を1時間還流し、熱いうちに濾過した。沈殿物を、熱いアセトン(hot acetone)10mlで洗い、その洗液も濾液に加えた。得られた濾液を30分間還流した。アセトン61mlをこの濾液から蒸留し、残留混合物を0〜(−5)℃まで冷却した。この混合物を濾過し、冷却したアセトン10mlで洗った。この結晶状の生成物を50℃、減圧下で乾燥した。得られた生成物は、99%をこえる目的の(−)エナンチオマーを含有しており、収量は6.8mgであった。得られた生成物は実質上純粋な結晶状多形体Iであった。
【0045】
実施例14
(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル
表題の生成物を、100℃で5時間乾燥を行った以外は実施例13と同様に製造した。得られた生成物は純粋な結晶状多形体Iであった。
【0046】
実施例15
(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリル
表題の生成物を、120℃で18時間乾燥を行った以外は実施例13と同様に製造した。得られた生成物は純粋な結晶状多形体Iであった。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの多形体Iの2θが3〜33°の範囲内のX線粉末回折図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンの光学分割法であって、
a)前記ラセミ混合物を酢酸エチル溶媒中でD−またはL−酒石酸と接触させる工程、
b)結晶状塩を回収する工程;および
c)任意に前記塩を塩基化して対応する遊離塩基を形成する工程
を含む光学分割法。
【請求項2】
溶媒が6重量%以下、好ましくは2〜4重量%、さらに好ましくは約3重量%の水を含む請求項1記載の光学分割法。
【請求項3】
つぎのピーク位置を有するX線回折図によって特徴づけられる(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルの結晶状多形体I。

【請求項4】
光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを、
a)溶媒の存在下、分割に用いる酸を使用して沈殿させることによってラセミ体の6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンを分割する工程、
b)回収された(−)エナンチオマーの豊富な6−(4−アミノフェニル)−4,5−ジヒドロ−5−メチル−3(2H)−ピリダジノンを硝酸ナトリウムおよびマロノニトリルで処理する工程、
c)得られた(−)エナンチオマーの豊富な[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルをアセトンと接触させる工程、
d)沈殿物を除去する工程、
e)工程d)の母液から結晶化により光学的に実質上純粋な、(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを回収する工程
を含む製造方法により製造し、要すれば、生成物を70℃以上の温度で加熱することを含む請求項3記載の結晶状多形体Iの取得方法。
【請求項5】
光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを、
a)アセトン溶媒中に(−)エナンチオマーの豊富な[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを懸濁させる工程、
b)沈殿物を除去する工程、
c)工程b)の母液から結晶化により光学的に実質上純粋な、(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを回収する工程
を含む製造方法により製造し、要すれば、生成物を70℃以上の温度で加熱することを含む請求項3記載の結晶状多形体Iの取得方法。
【請求項6】
多形体Iと他の多形体との混合物である光学的に実質上純粋な(−)−[[4−(1,4,5,6−テトラヒドロ−4−メチル−6−オキソ−3−ピリダジニル)フェニル]ヒドラゾノ]プロパンジニトリルを純粋な多形体Iの形成に必要な時間70℃以上の温度で加熱することを含む請求項3記載の結晶状多形体Iの取得方法。

【図1】
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【公開番号】特開2008−179645(P2008−179645A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−34860(P2008−34860)
【出願日】平成20年2月15日(2008.2.15)
【分割の表示】特願平9−534063の分割
【原出願日】平成9年3月27日(1997.3.27)
【出願人】(300046083)オリオン コーポレーション (31)
【Fターム(参考)】