説明

ピレン化合物及びこれを含む高分子化合物

【課題】有機電子材料、発光素子材料、光学材料として有用なピレン化合物及び高分子化合物を提供する。
【解決手段】下記式(I)


で表されることを特徴とするピレン化合物及び高分子化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規のピレン化合物、及びそれを含む高分子化合物に係り、特に、このピレン化合物及び高分子化合物は、例えば、有機電子材料、発光素子材料、光学材料として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
(メタ)アクリル酸及びその誘導体は、単独重合又は共重合することによって高分子を製造する原料モノマーとして重要であり、所望の性能を有する高分子を得るために、さらなる新規(メタ)アクリレートモノマーの開発が求められている。
【0003】
一方、ピレン化合物は、青色領域に強い発光を示すため青色発光材料として広く用いられている。発光分子が単独もしくは高濃度で存在した場合、発光分子同士の近接による相互作用で発光効率の低下が起こることが知られている。そこで、構造の異なるピレン化合物の合成が盛んに行われ、発光素子材料及び発光素子(特許文献1〜5参照)や有機光導電性化合物(特許文献6参照)として適用されている。これらピレン化合物を実用化するには、発光を持続的に維持することが必要となる。このピレン基の発光はその配向によって決まることが知られており、濃度が高いと発光力、持続力が低下する。そのため、ポリカーボネートなどの高分子に分散させて使用される。しかしながら、この方法では、高分子との相溶性などを考慮する必要があり、実用化に制限が生じてしまう。
【特許文献1】特開2001−118682号公報
【特許文献2】特開2003−272864号公報
【特許文献3】特開2004−75567号公報
【特許文献4】特開2007−77185号公報
【特許文献5】特開2007−224171号公報
【特許文献6】特開平5−301876号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、有機電子材料、発光素子材料、光学材料として有用なピレン化合物及び高分子化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によるピレン化合物は、
下記式(I)
【化2】


(式中、
〜R10は:
それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基及びシリル基からなる群から選択された置換基を示し;
隣接する置換基同士で環を形成してもよく;又は
〜R10の少なくとも一つは、アミド基との連結に用いられ、
11は、ビニル基、(メタ)アクリル基などの重合可能な反応性官能基を含有する、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基、シリル基及びピレン基からなる群から選択された置換基を示す。)
で表されることを特徴とする。
【0006】
本発明による高分子化合物は、上記のピレン化合物と、他のモノマーとの共重合によって得られることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の新規ピレン化合物及びこれを含む高分子化合物は、疎水性であるピレン化合物にアミド基由来の親水性を付与することにより共重合可能なモノマーとの相溶性を改善し、ピレン基によるπスタッキングなどの分子間の相関で構造を制御した高分子であり、有機電子材料、発光素子材料、光学材料として提供できる。さらに、高分子中に導入されたピレン基は、化学的に安定であり、溶出が抑えられた安全性の高い高分子及び高分子ゲルであることから医療用デバイスとしても提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<本発明によるピレン化合物>
本発明において用いる一般式(I)で表されるピレン化合物について説明する。
【0009】
【化3】

【0010】
式(I)において、R〜R10は、それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基及びシリル基からなる群から選択されてもよい。また、R〜R10は、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。R〜R10の少なくとも一つは、アミド基との連結に用いられる。
【0011】
また、式(I)において、R11は、ビニル基、(メタ)アクリル基などの重合可能な反応性官能基を含有する、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基、シリル基及びピレン基からなる群から選択された置換基を示す。
【0012】
これらの置換基のうち、アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。置換されている場合の追加の置換基には特に制限はなく、例えば、アルキル基、アリール基、ヘテロアリール基等を挙げることができ、この点は、以下の記載にも共通する。また、アルキル基の炭素数は特に限定されないが、通常1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0013】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル、シクロへキシル、ノルボルニル、アダマンチルなどの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキル基部分の炭素数は特に限定されないが、通常3以上20以下の範囲である。
【0014】
複素環基とは、例えば、ピラン環、ピペリジン環、環状アミドなどの炭素以外の原子を環内に有する脂肪族環を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。複素環基の炭素数は特に限定されないが、通常2以上20以下の範囲である。
【0015】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、アリル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、通常2以上20以下の範囲である。
【0016】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。
【0017】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、通常2以上20以下の範囲である。
【0018】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、この脂肪族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、通常1以上20以下の範囲である。
【0019】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、通常1以上20以下の範囲である。
【0020】
アリールエーテル基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介した芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常6以上40以下の範囲である。
【0021】
アリールチオエーテル基とは、アリールエーテル基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールエーテル基における芳香族炭化水素基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリールチオエーテル基の炭素数は特に限定されないが、通常6以上40以下の範囲である。
【0022】
アリール基とは、例えば、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、ビレニル基などの芳香族炭化水素基を示す。アリール基は置換基を有していても有していなくてもよい。アリール基の炭素数は特に限定されないが、通常6以上40以下の範囲である。
【0023】
ヘテロアリール基とは、フラニル基、チオフェニル基、ベンゾフラニル基、ジベンゾフラニル基など炭素以外の原子を一個環内に有する5員環芳香族基、ビリジル基、キノリニル基などの炭素以外の原子を一個または複数個環内に有する6員環芳香族基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。ヘテロアリール基の炭素数は特に限定されないが、通常2以上30以下の範囲である。
【0024】
ハロゲン原子とは、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素を示す。
【0025】
カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基は、置換基を有していても有していなくてもよく、置換基は例えばアルキル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基などが挙げられ、これら置換基はさらに置換されてもよい。
【0026】
シリル基とは、例えば、トリメチルシリル基などのケイ素原子への結合を有する官能基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。シリル基の炭素数は特に限定されないが、通常3以上20以下の範囲である。また、ケイ素数は、通常、1以上6以下である。
【0027】
ピレン基とは、4つの6員環(ベンゼン環)が縮合した多環芳香族基を示し、これは置換基を有していても有していなくてもよい。また、置換基は同じでも異なっていてもよく、隣接する置換基同士で環を形成していてもよい。
【0028】
隣接置換基との間に形成される縮合環とは、前記一般式(I)で説明すると、R〜R10の中から選ばれる任意の隣接2置換基(例えばRとR)が互いに結合して共役または非共役の縮合環を形成するものである。縮合環の構成元素として、炭素以外にも窒素、酸素、硫黄、リン、ケイ素原子を含んでいてもよいし、さらに別の環と縮合していてもよい。
【0029】
上記のような一般式(I)で表されるピレン化合物として、特に限定されないが、具体的には以下(II)、(III)、(IV)のような例が挙げられる。
【0030】
【化4】

【0031】
【化5】

【0032】
【化6】

【0033】
本発明の新規ピレン化合物は、従来のアミド結合形成反応であれば得られるが、例えばカルボキシル基含有モノマーとアミノピレンの脱水縮合反応、カルボン酸ハロゲン化物、酸無水物、カルボン酸アジドなどの活性化エステルとアミノピレンとの置換反応などから得られる。
【0034】
アミノピレンとしては、1−アミノピレン、1,3−ジアミノピレン、1,6−ジアミノピレン、1,8−ジアミノピレン、1−(アセチルアミノ)ピレンなどが挙げられ、1−アミノピレンは東京化成工業株式会社から入手可能である。
【0035】
アミノピレンと脱水縮合するカルボキシル基含有モノマーとしては、少なくとも一個以上のカルボキシル基を分子内に有するものである。例えば、メタクリル酸、コハク酸1−(2−メタクリロイルオキシエチル)、イタコン酸などが挙げられる。
【0036】
カルボキシ基含有モノマーとアミノピレンとの脱水縮合反応に用いる脱水縮合剤としては、カップリング剤であれば使用することができ、例えばDCC(N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド)などのカルボジイミド系縮合剤、TBTU(テトラフルオロホウ酸2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウム)などのベンゾトリアゾール系縮合剤、BOP試薬(ベンゾトリアゾール−1−イルオキシ−トリスジメチルアミノホスホニウム塩)などが使用でき、これを2種以上併用することもできる。
【0037】
アミノピレンとの置換反応に用いられる活性化エステルとしては、(メタ)アクリル酸無水物、(メタ)アクリル酸クロライドなどが挙げられる。
【0038】
<本発明による高分子化合物>
本発明の新規ピレン化合物は、ラジカル重合によって、硬質、軟質及び含水性材料などの本発明による高分子化合物を合成できる。高分子化合物の合成は、本発明の新規ピレン化合物のみでも可能であるが、このピレン化合物とは異なるモノマーと共重合することも可能である。異なるモノマーと共重合することで、合成した高分子の物性を制御でき、各種用途で利用できる。例えば、有機ELディスプレイ、オーディオ機器などの動作状態表示、自動車の表示パネル、デジタル時計、パソコンなどの電子輸送性の有機薄膜や発光素子、有機導電性化合物などが挙げられる。さらに、高分子中へ安定して導入できるためピレン基の発光特性を生かした医療用デバイスとしての利用も可能となる。例えば、眼用レンズ、DDSデバイス、創傷被覆材、再生医療支援のための細胞培養デバイスなどが挙げられる。
【0039】
本発明のピレン化合物と共重合可能なモノマーとしては、分子内に1個以上の重合性官能基を有するものである。重合性官能基としては、例えばメタクリレート基、アクリレート基、ビニル基、アリル基などが挙げられ、これを2種以上併用することもできる。
【0040】
本発明は、上記に加えて架橋性モノマーを使用することができる。架橋性モノマーは、使用しなくてもよいが、使用することで網目構造の形成及び機械強度の調節を図ることができる。さらに、親水性モノマーと共重合した場合、含水ゲルが得られる。架橋性モノマーとしては、例えばエチレングリコールジメタクリレート、メチレンビスアクリルアミド、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。架橋性モノマーの使用量は、総モノマー使用量に対して0.1〜4.0重量%が好ましい。特に好ましくは、0.1〜1.0重量%である。
【0041】
本発明の新規ピレン化合物を含む高分子化合物の製造は、まず上記モノマーの混合物に重合開始剤を添加し、さらに撹拌・溶解させる。重合開始剤としては、一般的なラジカル重合開始剤であるラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの過酸化物やアゾビスバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などが使用できる。上記重合開始剤の添加量としては、モノマー総量に対して10〜3500ppm程度が好ましい。
【0042】
上記モノマー混合液を金属、ガラス、プラスチックなどの成形型に入れ、密閉し、恒温槽などにより段階的もしくは連続的に25〜120℃の範囲で昇温し、5〜120時間で重合を完結させる。重合に際しては、紫外線や電子線、ガンマ線などを利用することも可能である。また、上記モノマー混合液に水や有機溶媒を添加し、溶液重合を適用することもできる。
【0043】
上記の重合終了後、室温に冷却し、得られた重合物を成形型から取り出し、必要に応じて切削、研磨加工して所望の形状に加工できる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記の各実施例にある化合物の番号は上記の化学式に記載した化合物の番号を指す。
【0045】
(評価方法)
[化合物の構造解析]
H−NMR及び13C−NMRは超伝導FTNMR UNITY INOVA 400S(Varian)を用い、重クロロホルム溶液にて測定を行った。
【0046】
[赤外吸収スペクトルの測定]
赤外分光光度計(FT/IR−4100:ジャスコ)を用いて化合物の赤外吸光スペクトルを測定した。
【0047】
[光線透過率の測定]
高分子化合物を、紫外−可視分光光度計(UV−3150:島津製作所)を用いて光線透過率を測定した。
【0048】
[吸光スペクトルの測定]
紫外−可視分光光度計(UV−3150:島津製作所)を用いて高分子の吸光スペクトルを測定した。
【0049】
[発光性の評価]
波長254nm及び386nmの光線下での発光色を観察した。
【0050】
[含水率の測定]
親水性モノマーと共重合した高分子ゲルの含水率を「ハイドロゲルレンズの含水率測定(ISO10339:1997)」に準じて測定した。
【0051】
[溶出性の評価]
ピレン化合物を含む高分子化合物及び高分子ゲルを水へ24時間浸漬後、浸漬液に紫外線を照射することでピレンの溶出性を判断した。溶出が認められた場合は×、認められなかった場合は○として評価した。
【0052】
(実施例1)(化合物[II]の合成方法)
1−アミノピレン2.17g(10ミリモル)、メタクリル酸1.03g(12ミリモル)、EDC1.86g(12ミリモル)とジクロロメタン40mLの混合溶液をアルゴン雰囲気下、室温で24時間攪拌した。反応液を0.5N塩酸、飽和NaHCO水溶液、飽和NaCl水溶液で洗浄後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。得られた固体を再結晶し、真空乾燥した後、淡緑色結晶1.77g(収率62%)を得た。得られた粉末のH−NMR及び13C−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた淡緑色結晶が化合物[II]であることが確認された。
【0053】
H−NMR(CDCl)δppm;2.12(s,3H),5.50(s,1H),5.95(s,1H),7.67−8.17(m,10H)
【0054】
13C−NMR(CDCl)δppm;16.86,118.00,118.41,120.28,121.63,122.36,122.70,122.74,122.84,123.19,123.87,123.90,124.61,125.03,125.45,126.91,127.88,128.48,129.02,138.47
【0055】
(実施例2)(化合物[III]の合成方法)
1−アミノピレン2.17g(10ミリモル)、メタクロイルオキシエチルコハク酸2.76g(12ミリモル)、EDC1.86g(12ミリモル)とジクロロメタン40mLの混合溶液をアルゴン雰囲気下、室温で24時間攪拌した。反応液を0.5N塩酸、飽和NaHCO水溶液、飽和NaCl水溶液で洗浄後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。得られた固体を再結晶し、真空乾燥した後、灰色結晶2.57g(収率60%)を得た。得られた粉末のH−NMR及び13C−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた赤色結晶が化合物[III]であることが確認された。
【0056】
H−NMR(CDCl)δppm;1.89(s,3H),2.81(s,4H),4.35(s,4H),5.50(s、1H),6.09(s,1H),7.78−8.36(m,9H)
【0057】
13C−NMR(CDCl)δppm;16.19,27.50,29.59,60.25,60.56,118.35,120.31,121.60,122.34,122.71,122.74,122.77,123.15,123.88,124.18,124.59,124.99,125.48,126.86,127.96,128.52,129.02,133.71,165.12,168.64,170.98
【0058】
(実施例3)(化合物[IV]の合成方法)
1−アミノピレン2.72g(12.5ミリモル)、イタコン酸0.65g(5ミリモル)、EDC1.94g(12.5ミリモル)とジクロロメタン40mLの混合溶液をアルゴン雰囲気下、室温で24時間攪拌した。反応液を0.5N塩酸、飽和NaHCO水溶液、飽和NaCl水溶液で洗浄後、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製した。得られた固体を再結晶し、真空乾燥した後、赤色結晶1.32g(収率50%)を得た。得られた粉末のH−NMR及び13C−NMR分析結果は次の通りであり、上記で得られた赤色結晶が化合物[IV]であることが確認された。
【0059】
H−NMR(CDCl)δppm;2.25(s,2H),6.64(s、2H),7.80−8.25(m,20H)
【0060】
13C−NMR(CDCl)δppm;9.39,108.05,108.60,109.19,111.87,111.90,114.77,118.08,119.54,121.46,121.66,122.03,122.19,122.33,123.01,123.32,123.41,123.75,123.91,123.96,123.99,124.18,124.32,125.01,125.54,125.86,126.37,126.79,128.64,128.92,129.56,129.85,130.11,138.82,144.27,161.93,169.37
【0061】
(実施例4〜6)(化合物[II、III、IV]を含む高分子化合物の合成)
化合物[II]、[III]及び[IV]0.1g、メチルメタクリレート9.9g、AIBN 2000ppmを混合し、十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50〜100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。実施例4〜6の高分子化合物において、図2〜4に示す350nm付近にピレン基に由来するピークを確認した。なお、図1は、実施例4〜6で得た重合体についての赤外スペクトルである。
【0062】
(実施例7〜9)(化合物[II、III、IV]を含む高分子ゲルの合成)
化合物[II]、[III]及び[IV]0.1g、2−ヒドロキシエチルメタクリレート9.9g、エチレングリコールジメタクリレート0.01g、AIBN 2000ppmを混合し、十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50〜100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、容器から取り出し、約60℃の蒸留水中に約4時間浸漬することで水和膨潤させ、含水ゲルを得た。
【0063】
(比較例1)
メチルメタクリレート10g、AIBN 2000ppmを混合し、十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50〜100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。図5に示すように350nm付近に現れるピレン基に由来するピークが出現しないことを確認した。
【0064】
(比較例2)
メチルメタクリレート10g、AIBN 2000ppmを混合し、アミノピレン1gを添加して十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50〜100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。表1に示すように、ピレン基由来の発光が認められたが、水への溶出も認められた。
【0065】
(比較例3)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート10g、エチレングリコールジメタクリレート0.1g、AIBN 2000ppmを混合し、十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50〜100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、容器から取り出し、約60℃の蒸留水中に約4時間浸漬することで水和膨潤させ、含水ゲルを得た。
【0066】
(比較例4)
2−ヒドロキシエチルメタクリレート10g、エチレングリコールジメタクリレート0.1g、AIBN 2000ppmを混合し、アミノピレン1gを添加して十分に窒素置換をしながら約1時間撹拌した。撹拌後、モノマー混合液を成形型に入れ、50〜100℃の範囲で25時間かけて昇温させ、重合体を得た。得られた重合体を室温に戻し、容器から取り出し、約60℃の蒸留水中に約4時間浸漬することで水和膨潤させ、含水ゲルを得た。表1に示すように、ピレン基由来の発光が認められたが、水への溶出も認められた。
【0067】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】実施例4〜6で得た重合体についての赤外スペクトルである。
【図2】実施例4のUVスペクトルである。
【図3】実施例5のUVスペクトルである。
【図4】実施例6のUVスペクトルである。
【図5】比較例1のUVスペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】


(式中、
〜R10は:
それぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基及びシリル基からなる群から選択された置換基を示し;
隣接する置換基同士で環を形成してもよく;又は
〜R10の少なくとも一つは、アミド基との連結に用いられ、
11は、ビニル基、(メタ)アクリル基などの重合可能な反応性官能基を含有する、アルキル基、シクロアルキル基、複素環基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルキルチオ基、アリールエーテル基、アリールチオエーテル基、アリール基、ヘテロアリール基、ハロゲン、カルボニル基、カルボキシル基、オキシカルボニル基、カルバモイル基、アミノ基、ホスフィンオキサイド基、シリル基及びピレン基からなる群から選択された置換基を示す。)
で表されることを特徴とするピレン化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のピレン化合物と、他のモノマーとの共重合によって得られることを特徴とする高分子化合物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−221404(P2009−221404A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69401(P2008−69401)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000131245)株式会社シード (30)
【Fターム(参考)】