説明

ピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つとを含む組み合わせ、およびアトピー性皮膚炎の治療におけるその使用

アトピー性皮膚炎の治療および/または予防での使用のための、ピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニンおよびアスパラギンのうちの少なくとも1つの化合物との組み合わせおよびそれらの使用。本発明はアトピー性皮膚炎の治療および/または予防での使用のための薬剤の製造のための、生理学的に許容されるキャリアー中にピロリドン‐5‐カルボン酸と、ラセミ体または異性体、およびそれらの塩であるシトルリン、アルギニンおよびアスパラギンから選択される化合物うちの少なくとも1つとの組み合わせを含む組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアトピー性皮膚炎の治療および/または予防に特に適切な組み合わせに関する。
【0002】
アトピー性皮膚炎は湿疹とも称されるが、小児および青年を含む多数の個体が罹患する表皮の状態である。欧州では、小児のおよそ10%および人口のおよそ20%が罹患しており、ここ数十年を通して症例数の増加を伴う。
【0003】
アトピー性皮膚炎は遺伝的にアトピーおよびアトピーの症状、即ち喘息、アレルギー性鼻炎およびアレルギーにかかりやすい個体で発症する。この慢性的な皮膚病は、本来は炎症であるが、個体の遺伝的素因と環境因子の間の複雑な相互作用による。多くの遺伝学的研究は免疫機構に集中してきた。
【背景技術】
【0004】
アトピー性皮膚炎は両方の性別の個体において共通の状態であり、しばしば3ヶ月の年齢から罹患し、乾燥、鱗状および高度に湿疹性の病変により特徴付けられる皮膚の湿疹の繰り返しの発症により特徴付けられる。アトピー性皮膚炎の発生において、皮膚の乾燥が主な因子の1つであることは注目されてきた。最近、上皮性関門の欠乏の影響が研究されてきている。特にPalmer等(Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nat Genet. 2006 Apr; 38(4):441-6)およびWeidinger等(Loss-of-function variations within the filaggrin gene predispose for atopic dermatitis with allergic sensitizations. J Allergy Clin Immunol. 2006 Jul; 118(1):214-9)は、上皮性関門蛋白質であるフィラグリンをコードする遺伝子の変異体がアトピー性皮膚炎についての素因であると報告する。さらに、Seguchi等およびJensen等はアトピー性皮膚炎に罹患する個体の皮膚でのフィラグリンの発現減少を証明した(Jensen JM. et al., Impaired sphingomyelinase activity and epidermal differentiation in aropic dermatitis. J Invest Dermatol. 2004 Jun; 122(6):1423-31; Seguchi T. et al., Decreased expression of filaggrin in atopic skin. Arch Dermatol Res. 1996 Jul; 288(8):442-6)。
【0005】
その構造的な機能に従い、皮膚の水和で重要な役割を果たす遊離アミノ酸の貯留を放出するために、フィラグリンは角質層において崩壊させられる。したがってPalmer等およびWeidinger等による観察は、Tagami等により観察されたようなアトピー性皮膚炎における角質層の減少した水和と関連して注目されるはずである(Decreased hydration state of the stratum corneum and reduced amino acid content of the skin surface in patients with seasonal allergic rhinitis. Br J Dermatol. 1998 Oct; 139(4):618-21)。
【0006】
翻訳段階の時点でフィラグリンに組み込まれる20の天然アミノ酸に加え、シトルリン、ウロカニン酸およびピロリドン‐5‐カルボン酸の3種全ては、アミノ酸誘導体に相当する生成物であるが、フィラグリン加水分解物中にも存在することは注目されるべきである。フィラグリンが崩壊する場合、これら3つの化合物はアミノ酸と共に単量体の形態で一緒に放出され、角質層で見い出される「遊離アミノ酸」貯留の重要な要素を構成する(Scott IR, Harding CR, Barrett JG. Histidine-rich protein of the keratohyalin granules. Source of the free amino acids, urocanic acid and pyrrolidone carboxylic acid in the stratum corneum. Biochim Biophys Acta. 1982 Oct 28; 719(1):110-7; Horii I et al. Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum. J Dermatol. 1983 Feb; 10(1):25-33; Scott IR, Harding CR. Filaggrin breakdown to water binding compounds during development of the rat stratum corneum is controlled by the water activity of the environment. Dev Biol. 1986 May; 115(1):84-92)。
【0007】
種々の文献はアトピー性皮膚炎の治療のための軟化組成物中の加湿剤としてのピロリドンカルボン酸の使用を提案している(Takaoka,JP2004168763; Fukiya,JP2002053428; NakamuraおよびTakada,JP61215307, JP61215308およびJP62267515)。一方、Harano等WO2005077349においてアトピー性皮膚炎の治療のため他の化合物の間でシトルリンまたは一定のアミノ酸(グリシン、メチオニン、アラニン)の使用が提案されている。Nenoff等はこの病理学的状態で観察される尿素欠乏を再構成する目的で、アトピー性皮膚炎における塩酸アルギニンの使用を記述している(Topically applied arginine hydrochloride. Effect on urea content of stratum corneum and skin hydration in atopic eczema and skin aging; Hautarzt 2004 Jan; 55(1):58-64)。彼らは乾燥した皮膚の症状の改善に注目している。それ以上に、アトピー性皮膚炎を改善する目的で、TezukaおよびTezuka(JP08020525)はモンモリロナイトナトリウムと、それ自身は尿素、アミノ酸、蛋白質、ピロリドンカルボン酸または絹蛋白質加水分解物であり得る加湿剤の複合体を含むシャンプーを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】JP2004168763
【特許文献2】JP2002053428
【特許文献3】JP61215307
【特許文献4】JP61215308
【特許文献5】JP62267515
【特許文献6】WO2005077349
【特許文献7】JP08020525
【特許文献8】EP0761204
【特許文献9】EP0765668
【特許文献10】EP0909556
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Common loss-of-function variants of the epidermal barrier protein filaggrin are a major predisposing factor for atopic dermatitis. Nat Genet. 2006 Apr; 38(4):441-6
【非特許文献2】Loss-of-function variations within the filaggrin gene predispose for atopic dermatitis with allergic sensitizations. J Allergy Clin Immunol. 2006 Jul; 118(1):214-9
【非特許文献3】Jensen JM. et al., Impaired sphingomyelinase activity and epidermal differentiation in aropic dermatitis. J Invest Dermatol. 2004 Jun; 122(6):1423-31
【非特許文献4】Seguchi T. et al., Decreased expression of filaggrin in atopic skin. Arch Dermatol Res. 1996 Jul; 288(8):442-6
【非特許文献5】Decreased hydration state of the stratum corneum and reduced amino acid content of the skin surface in patients with seasonal allergic rhinitis. Br J Dermatol. 1998 Oct; 139(4):618-21
【非特許文献6】Scott IR, Harding CR, Barrett JG. Histidine-rich protein of the keratohyalin granules. Source of the free amino acids, urocanic acid and pyrrolidone carboxylic acid in the stratum corneum. Biochim Biophys Acta. 1982 Oct 28; 719(1):110-7
【非特許文献7】Horii I et al. Histidine-rich protein as a possible origin of free amino acids of stratum corneum. J Dermatol. 1983 Feb; 10(1):25-33
【非特許文献8】Scott IR, Harding CR. Filaggrin breakdown to water binding compounds during development of the rat stratum corneum is controlled by the water activity of the environment. Dev Biol. 1986 May; 115(1):84-92
【非特許文献9】Topically applied arginine hydrochloride. Effect on urea content of stratum corneum and skin hydration in atopic eczema and skin aging; Hautarzt 2004 Jan; 55(1):58-64
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アトピー性皮膚炎の新しい治療の必要性が存在する文脈において、本発明者らは化合物の組み合わせを、より格別にはより広い範囲で上皮性関門の欠乏の埋め合わせを可能にする医薬または皮膚科学組成物を提案することにより、新規の解決策を提供する。
【0011】
事実、ラセミ体または異性体の、およびそれらの塩であるピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つとを含む組み合わせまたは組成物の応用は、皮膚のこの部分における加湿作用を有し、それゆえアトピー性皮膚炎の治療のために著しい効果を導く。
【0012】
本発明による組み合わせまたは組成物は成人および小児の両方でアトピー性皮膚炎または湿疹の治療のために特に適切である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
それゆえ本発明の対象は、アトピー性皮膚炎の治療および/または予防における使用のための、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つとの組み合わせである。
【0014】
本発明による組み合わせは、前記の組み合わされた化合物が1つおよび同一の組成物内に存在することを特に意味する。
【0015】
本発明の対象は、アトピー性皮膚炎の治療および/または予防における使用のための薬剤の製造における、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸の使用でもある。本発明の対象はより格別には、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、シトルリンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用、またはアルギニンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用、またはアスパラギンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用、またはシトルリンおよびアルギニンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用、またはシトルリンおよびアスパラギンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用、またはアルギニンおよびアスパラギンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用、またはシトルリン、アルギニン、およびアスパラギンとの組み合わせでのピロリドン‐5‐カルボン酸の使用である。
【0016】
本発明は医薬的に許容可能なキャリアー中にラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つとを含む組成物にも関する。
【0017】
本発明に係る組成物は医薬、皮膚科学、または化粧品の組成物でよい。
【0018】
本発明の対象はアトピー性皮膚炎(または湿疹)の予防および/または治療における使用のための薬剤の調製における本発明に係る組成物の使用でもある。
【0019】
用語「生理学的に許容可能なキャリアー」はヒトの皮膚に適合するキャリアーを意味することを意図する。
【0020】
LまたはDまたはD,L体のピロリドン‐5‐カルボン酸は下記化学式に相当する:
【0021】
【化1】

【0022】
LまたはDまたはD,L体のシトルリンは下記化学式に相当する:
【0023】
【化2】

【0024】
LまたはDまたはD,L体のアルギニンは下記化学式に相当する:
【0025】
【化3】

【0026】
LまたはDまたはD,L体のアスパラギンは下記化学式に相当する:
【0027】
【化4】

【0028】
用語「異性体」はピロリドン‐5‐カルボン酸、シトルリン、アルギニン、またはアスパラギンのD体またはL体を特に意味することを意図する。用語「ラセミ体」はこれらD体およびL体の混合物を意味することを意図し、D,L体とも呼ばれる。
【0029】
本発明に係る化合物の塩は、例えばリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩のようなアルカリ金属塩;マグネシウム塩、カルシウム塩のようなアルカリ土類金属塩;亜鉛塩;モルフォリン、ピペラジンのような有機アミンの塩のような、有機または無機塩基との塩を含む。
【0030】
シトルリン塩、アルギニン塩およびアスパラギン塩はマレート、クロライド、トリフルオロアセテート、ハイドロゲンサルフェート、サルフェートおよびジヒドロフォスフェートの形態でもあり得る。
【0031】
好ましくは、本発明に係る組成物は、上記で規定されるように、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、シトルリンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸、またはアルギニンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸、またはアスパラギンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸、またはアルギニンおよびアスパラギンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸、またはシトルリンおよびアスパラギンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸、またはシトルリンおよびアルギニンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸、またはシトルリン、アルギニン、およびアスパラギンと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸のどれかを含む。
【0032】
本発明に係る組成物において使用し得るラセミ体または異性体またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸、シトルリン、アルギニン、またはアスパラギンの量は、もちろん治療される患者および投与方法に従い所望される効果および用量に依存し、それゆえ広い範囲で変動し得る。一般的に、ピロリドン‐5‐カルボン酸、シトルリン、アルギニン、またはアスパラギンは、アトピー性皮膚炎の皮膚徴候の減少に関する所望の水和および著しい効果を得るために十分な量で存在するであろう。
【0033】
好ましくは、この組成物の総重量に対して、この組成物は0.001重量%から15重量%の間の各化合物の量を含み、好ましくは0.01重量%から10重量%の間であり、より好ましくは0.5重量%から5重量%の間である。
【0034】
量の順位を与えると:
‐組成物中に存在する場合、ラセミ体または異性体またはそれらの塩であるピロリドン‐5‐カルボン酸は組成物の0.001%から15%(m/m)に相当することが可能であり、好ましくは0.01%から10%(m/m)であり、より好ましくは0.5%から5%(m/m)である;
‐組成物中に存在する場合、ラセミ体または異性体またはそれらの塩であるシトルリンは組成物の0.001%から15%(m/m)に相当することが可能であり、好ましくは0.01%から10%(m/m)であり、より好ましくは0.5%から5%(m/m)である;
‐組成物中に存在する場合、ラセミ体または異性体またはそれらの塩であるアルギニンは組成物の0.001%から15%(m/m)に相当することが可能であり、好ましくは0.01%から10%(m/m)であり、より好ましくは0.5%から5%(m/m)である;
‐組成物中に存在する場合、ラセミ体または異性体またはそれらの塩であるアスパラギンは組成物の0.001%から15%(m/m)に相当することが可能であり、好ましくは0.01%から10%(m/m)であり、より好ましくは0.5%から5%(m/m)である。
【0035】
これらパーセンテージは組成物の総質量と比較した質量パーセンテージである(m/m)。
【0036】
本発明に係る組成物は皮膚に対する局所的な応用に一般的に適しており、それゆえ生理学的に許容可能な媒体、すなわち皮膚に適用可能な媒体を含む。本発明に係る組成物は所望の皮膚科学的または医薬的形態に従い選択される生理学的に許容可能な支持体または少なくとも1つの医薬的に許容可能な賦形剤を含む。
【0037】
本発明に係る組成物は好ましくは皮膚への局所的な応用に適切な形態である。例えば、それは任意にゲル化された油性溶液、ローションタイプの任意の二相分散液、水性相における脂肪相の分散液(O/W)またはその逆(W/O)により得られるエマルション、または三重エマルション(W/O/WまたはO/W/O)またはイオン性および/または非イオン性タイプのベシクル分散液の形態でよい。それは脂質またはポリマーまたは制御された放出のためのヒドロゲルでよいマイクロスフィア、ナノスフィアまたはベシクルの懸濁液の形態でもよい。この局所的組成物は無水形態、水性形態またはエマルションの形態でよい。これら組成物は通常の方法により調製される。本発明によると、水性相における脂肪相の分散液(O/W)により得られるエマルションの形態の組成物が好んで使用される。
【0038】
この組成物は流動性がより多くまたはより少なくてよく、膏薬、エマルション、クリーム、乳液、軟膏、含浸パッド、合成洗剤、溶液、漿液、ゲル、スプレーまたはエアロゾル、フォーム、懸濁液、ローションまたはスティックの形態でよい。それにも関わらずエマルション形態の組成物は好ましい。
【0039】
上記のような医薬の、好ましくは皮膚科学の組成物は、不活性な添加物または薬物動態学的に活性な添加物でさえ、またはこれら添加物の組み合わせを含んでよい。したがって既知の態様において本発明により使用されるこの組成物は、親水性または脂溶性のゲル剤、パラハイドロキシベンゾイックアシッドエステルのような保存剤、更なる加湿剤、鎮静剤、抗酸化剤、溶媒、UV-AおよびUV-Bスクリーン、湿潤剤、安定化剤;湿度調節剤、pH調節剤、浸透圧調節剤または乳化剤のような、局所的組成物の技術分野において慣例である添加物を含み得る。
【0040】
これら様々なアジュバントの量は考慮している分野で慣例で使用されるものであり、例えば組成物の総質量の0.01%から20%までである。これらアジュバントはその性質に依存し、脂肪相、水相またはベシクル内に導入されてよい。何れの場合でも、これらアジュバントおよびこれらの割合もまた、本発明により使用される加湿剤の所望の性質を害さないように選択されるであろう。
【0041】
本発明により使用される組成物がエマルションである場合、脂肪相の割合は組成物の総重量に対してして、5重量%から80重量%までの範囲が可能であり、好ましくは5重量%から50重量%である。エマルション形態の本組成物で使用される油、乳化剤および共乳化剤は考慮している分野で慣例的に使用されるものから選択される。乳化剤および共乳化剤は組成物の総重量に対して、0.3重量%から30重量%、好ましくは0.5重量%から20重量%までの範囲の割合で存在する。
【0042】
本発明において使用し得る油として、無機油(液化石油ゼリー)、植物起源の油(アボカド油、大豆油)、動物起源の油(ラノリン)、合成油(パーヒドロスクアレン)、シリコン油(シクロメチコン)、およびフッ化油(パーフルオロポリエーテル)を挙げることができる。脂肪族アルコール(セチルアルコール)、脂肪酸およびワックス(カルナウバワックス、オゾケライト)もまた脂質として使用し得る。
【0043】
本発明において使用し得る乳化剤および共乳化剤として、例えばPEG-100ステアレートのようなポリエチレングリコールの脂肪酸エステル、グリセリルステアレートのようなグリセロールの脂肪酸エステルを挙げることができる。
【0044】
親水性のゲル化剤として、特にカルボキシビニルポリマー(カルボマー)、アクリレート/アルキルアクリレートコポリマーのようなアクリリックコポリマー、ポリアクリルアミド、ポリサッカライド、天然のガムおよび粘土を挙げることができ、親油性のゲル化剤としてベントナイトのような修正された粘土、脂肪酸の金属塩、疎水性シリカおよびポリエチレンを挙げることができる。
【0045】
抗酸化剤として、アルファトコフェロール、ブチルヒドロキシアニソールまたはブチルヒドロキシトルエン、スーパーオキシドジスムターゼ、ユビキノールまたは一定の金属キレート化剤を挙げることができる。
【0046】
用語「更なる加湿剤」は以下の意味を意図する:
角質層の水和を維持する観点でバリヤー機能を果たす化合物、または閉塞性化合物のどちらか。セラミド、スフィンゴイドを基礎とした化合物、レシチン、グリコスフィンゴリピッド、フォスフォリピッド、コレステロールおよびその誘導体、ファイトステロール(スチグマステロール、ベータシトステロール、カンペステロール)、長さが炭素数12から20である脂肪酸、必須脂肪酸、1,2-ジアシルグリセロール、4-クロマノン、ウルソル酸のようなペンタサイクリックトリテルペン、石油ゼリーおよびラノリン、グリセロール、PEG400、チアモルフォリノンおよびその誘導体、および尿素を挙げることができる;
またはスレアロースおよびその誘導体、ヒアルロン酸およびその誘導体、グリセロール、ペンタンジオール、ピドレートナトリウム、キシリトール、乳酸ナトリウム、グリセロールポリアクリレート、エクトインおよびその誘導体、キトサン、オリゴサッカライド、ポリサッカライドまたはサイクリックカーボネートのような角質層の水含有量を直接増加させる化合物。
【0047】
鎮静剤として効果的である出発原料の間で、非制限的な態様において、下記活性剤を挙げることができる:ベータグリシルレチニックアシッドおよびその塩および/またはその誘導体(グリシルレチックアシッドモノグルクロニド、ステアリルグリシルレチネート、3-ステアロイル-オキシグリシルレチックアシッド)のようなペンタサイクリックトリテルペンテン、ウルソル酸およびその塩、オレアノリックアシッドおよびその塩、ベツリン酸およびその塩;ボタン(Paeonia suffruticosa および/またはlactiflora)、マンネンロウ(Rosamrinus officinalis)、アカバナ、ピジウム(Pygeum)、ボスウェリアセラタ(Boswellia serrata)、センチペダカンニガミ(Centipeda cunnighami)、ヒマワリ(Helianthus annuus)、コラノキ(Cola nitida)、クローブおよびバコパモニエラ(Bacopa moniera)の抽出物;サリチル酸塩、および特にサリチル酸亜鉛;藻類の抽出物、特にラミナリアサッカリナ(Laminaria saccharina)の抽出物;カノーラ油、タマヌ油、ビューティーリーフ油、マスクローズ油のようなオメガ-3-不飽和油、クロフサスグリ油、エキウム油又は魚油;アルファビサボロールおよびカモミール抽出物;アラントイン;ビタミンEまたはCのリン酸ジエステル;カプリルオイルグリシン;トコトリエノール;ピペロナール;アオエベラ;ファイトステロール。
【0048】
ストロンチウム塩;温泉および特にVichy basin温泉およびLa Roche Posy温泉;バクテリア抽出物、特に特許出願EP0761204で記述される非光合成性繊維状バクテリアであり、好ましくはベギアトア目に属するバクテリアから調製され、より格別にはビトレオシラ(Vitoreoscilla)属の抽出物を挙げることもできる。好ましくは、ビトレオシラフィリフォルミス(Vitreoscilla filiformis)の種族が本発明により使用される。
【0049】
in vitroの培養により得られるアヤメ科の少なくとも1つの植物の細胞(好ましくは未分化である)の抽出物を挙げることもできる。好ましくはアヤメ科の植物はアヤメ属に属する。特に、出願EP0765668で記述されているように、ニオイアヤメ(Iris pallida)の水性抽出物の使用が好ましい。最後に、好ましくはin vivo で培養されたバラ科の少なくとも1つの植物の抽出物を挙げることができる。バラ属に属する植物、好都合にはロザガリカ(Rosa gallica)種、より好ましくは特許出願EP0909556に記述されるように、ロザガリカ(Rosa gallica)の花弁の水性アルコール抽出物が、本発明によると好んで使用される。
【0050】
本発明、その利点、および本発明の使用により達成される特有の目的をより良好に理解するために、本発明の好ましい実施態様を例示し開示する図面および記載事項を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図面において、図1はネガティブコントロールとしての水に対する全ての5%溶液について、50℃でのパーセントで表示される時間に対応する残留水の重量の変動を表す。
【図2】図面において、図2は全ての溶液について45分から120分まで測定された曲線下面積(AUC)として表示される50℃での残留水の重量の変動を表す。
【図3】図面において、図3はネガティブコントロールとしての水に対する全ての5%溶液について、30℃でのパーセントで表示される時間に対応する残留水の重量の変動を表す。
【図4】図面において、図4は全ての溶液について90分から135分までに決定された曲線下面積として表示される30℃での残留水の重量の変動を表す。
【図5】図面において、図5は時間(分)に対応する乾燥抽出物の割合の変動を表す。
【図6】図面において、図6は0分と150分の間の乾燥/傾斜値の割合を表す。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下は本発明によって使用される組成物の利点を明確に実証する研究を詳述する。
【0053】
本発明は以下に続く組成物の非制限的な実施例によっても例示されるであろう。組成物のこれら実施例において、量は重量パーセントで示される。
【実施例】
【0054】
I.アミノ酸の吸湿性の試験
材料および方法
化合物:
2-ピロリドン‐5‐カルボン酸ナトリウム塩(PCA Na; CAS番号 54571-67-4)はSolabia Cosmeticsより購入された。L-アルギニン[CAS番号 74-79-3]はSigma Aldrichより購入された。
【0055】
各化合物は5%の溶液を得るため水(w/w)に溶解された。5%の2つのアミノ酸溶液を調製するため、L-アルギニン粉末は5%PCAナトリウム塩溶液(w/w)に直接溶解された。
【0056】
方法:
アミノ酸の吸湿性を試験するため、我々は時間に対応する各種溶液の残留水の重量を研究した。我々はサーマルコンテナ(Votsch VC0018)内の温度および湿度が管理された環境における各種時間後の各溶液中の残留水の重量を決定した。我々の試験のために使用された温度は開始時に50℃に設定され、その後おおよそ皮膚の状態により近い30℃となった。湿度は30%に設定された。これらパラメーターを使用し、我々は加熱前および加熱している間の各種時間での各溶液の重量を決定した。加熱は50℃で120分間継続し、45分から120分までデータは記録された。30℃での加熱は135分間継続し、90分から135分までデータは記録された。溶液中の化合物の重量に相当する、本研究の終了時で予想される残留重量が計算された(例えば、5%溶液について開始時の総重量が100mgであった場合、化合物の重量は5mgである)。各溶液の残留水の重量は、各種時間での溶液の総重量から化合物の予想される重量を減算することにより得られた。我々は開始時の水の重量が100%であるとみなした。各実験において、何れのアミノ酸も含まない水がネガティブコントロールとして使用された。
【0057】
結果
我々はPCAナトリウム塩単独、L-アルギニン単独またはこの2つのアミノ酸について、何れかを含む各種溶液の吸湿性を試験した。各化合物は5%で使用された。
【0058】
第一の実験的アプローチとして、我々は50℃での強制的な蒸発という条件を使用した。
【0059】
図1で見られるように、アミノ酸を含まない水は45分後に50℃で全て蒸発した。50℃での120分後における残留水のパーセント増加として見られるように、水に5%でPCA NaまたはL-アルギニンを付加することにより溶液に含まれる水の蒸発は減少した。この増加はこのアミノ酸が組み合わせで使用された場合により大きかった。
【0060】
図2で見られるように、このアミノ酸が5%で組み合わせで使用された場合に観察された残留水の重量は、アミノ酸が5%で単独で使用された場合に観察された残留水の重量と同程度であった。
【0061】
50℃での強制的な蒸発におけるポジティブな結果に基づき、次に我々は生理学的条件をより近く反映する実験条件に注意を向け、30℃での蒸発研究を実施した(皮膚表面の温度は30℃から32℃の近くである)。
【0062】
図3および図4で見られるように、50℃で観察されたものと類似の結果が30℃で得られた。
【0063】
要約すると、これら全ての結果は、残留水の重量の研究を通して、この2つのアミノ酸の吸湿性を実証した。我々はこの2つのアミノ酸の組み合わせが、どちらかのアミノ酸が単独で使用された場合よりもより良好な吸湿性を有することを観察した。
【0064】
II.熱重量測定分析
1.本研究の目的
試験、すなわち熱重量測定分析はアミノ酸の吸湿性および皮膚の水和を試験するために各種製剤で実施される。これについて、時間に対応する水損失の割合は皮膚上での製剤の応用の条件を再現するために32℃で研究される(皮膚の温度)。
【0065】
材料および方法
Sartorius MA100分析器が熱重量測定の原理を用いて液体、固体および半固体の物質の湿度含有量を決定するために使用される。この方法は加熱による重量損失を決定することを可能にする。製剤は重量損失を測定するために加熱の前および後で重量が測定される。
【0066】
操作条件
この後の表は本試験の操作条件を記述する(表1を参照):
【0067】
【表1】

【0068】
これら操作条件は皮膚の条件を模倣するために選択された(皮膚の温度は30から32℃の近くである)。
【0069】
3.結果および考察
3.1.試験された生成物
全ての試験された生成物はゲル化剤Natrosol 250HHX(INCI名はヒドロキシエチルセルロース)を0.5%で含む製剤に基づく。生成物のpHは5.0から5.5の間より成る(クエン酸およびクエン酸ナトリウムにより調節される)。下記表2は試験された生成物の質的および量的組成を示す:
【0070】
【表2】

【0071】
3.2熱重量測定分析:結果
熱重量測定分析は、蒸発が非常に迅速に起こることを示す、0分から150分あたりの間での乾燥抽出物の割合の急激な低下を示す。その後、150分から480分の間で安定した蒸発が観察される。本試験の最後における蒸発の割合は、生成物中にアミノ酸が有る場合にはより重要ではない。
【0072】
アミノ酸の吸湿性を更に定量化するため、0分から150分の間の傾斜/勾配が計算された(図6を参照)。生成物についての傾斜/勾配が低いほど、吸湿性はより良好である。
【0073】
最も高い乾燥割合は生成物A(アミノ酸無し)について観察される。これは生成物Aがアミノ酸を含む生成物とは異なり水の蒸発を抑制しないことを意味する。アミノ酸を含む生成物B、CおよびDにおける乾燥の低い割合により観察されたように、アミノ酸の付加は水分損失の割合を減少させる。
【0074】
4.結論
要約するに、熱重量測定分析は、蒸発の割合がアミノ酸を含む生成物についてはより低いことを証明した。アミノ酸は水損失の割合を減少させることが可能である。
【0075】
セクションIおよびIIにおいて記述された結果は、我々にアミノ酸が吸湿剤であることおよび特に組み合わされた場合、皮膚の水和において著しい役割を果たすことが可能であることを証明することを可能にした。
【0076】
III.組成物の例
1)水中油型エマルション
【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
2)水中油型リポクリーム
【0080】
【表5】

【0081】
【表6】

【0082】
3)ゲル
【0083】
【表7】

【0084】
4)クリーム‐ゲル
【0085】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アトピー性皮膚炎の治療および/または予防における使用のための、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つとピロリドン‐5‐カルボン酸との組み合わせ。
【請求項2】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸とシトルリンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項3】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸とアルギニンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項4】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸とアスパラギンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項5】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸とシトルリンおよびアルギニンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項6】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸とシトルリンおよびアスパラギンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項7】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸とアルギニンおよびアスパラギンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項8】
ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニンおよびアスパラギンとを含むことを特徴とする、請求項1に記載の組み合わせ。
【請求項9】
アトピー性皮膚炎の治療および/または予防における使用のための薬剤の製造における、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体および/またはそれらの塩である、シトルリンとアルギニンおよびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つと組み合わせたピロリドン‐5‐カルボン酸の使用。
【請求項10】
生理学的に許容されるキャリアー中に、ラセミ体またはD-もしくはL-異性体、および/またはそれらの塩である、ピロリドン‐5‐カルボン酸と、シトルリン、アルギニン、およびアスパラギンから選択される化合物の少なくとも1つとの組み合わせを含むことを特徴とする組成物。
【請求項11】
前記組成物の総重量に対して0.001重量%と15重量%の間、好ましくは0.01重量%と10重量%の間、より好ましくは0.5重量%と5重量%の間の量の各化合物を含むことを特徴とする、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
局所的な応用に適切な形態であることを特徴とする、請求項10または11に記載の組成物。
【請求項13】
膏薬、エマルション、クリーム、乳液、軟膏、含浸パッド、合成洗剤、溶液、漿液、ゲル、スプレーまたはエアロゾル、フォーム、懸濁液、ローションまたはスティックの形態であることを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
アトピー性皮膚炎の治療における使用のための請求項10から13の何れか一項に記載の組成物。
【請求項15】
アトピー性皮膚炎の治療および/または予防における使用のための薬剤の製造における、請求項10から14の何れか一項に記載の組成物の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2010−527970(P2010−527970A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508859(P2010−508859)
【出願日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際出願番号】PCT/EP2008/056333
【国際公開番号】WO2008/142147
【国際公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(599045604)ガルデルマ・リサーチ・アンド・デヴェロップメント (117)
【Fターム(参考)】