説明

ピロリドン側基を含む生分解性ポリホスファゼン

ピロリドン側基を含む生分解性のポリホスファゼンポリマおよびこのようなポリホスファゼンポリマの生物医学用途が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2005年4月15日に出願された米国暫定出願第60/672,191号の優先権を主張する。この出願の開示内容は本明細書全体に参照されている。
【0002】
本発明は、ピロリドン側基を含むポリホスファゼンに関する。このようなポリマは、ドラッグデリバリキャリア、血漿増量剤、医療デバイスの生体適合性コーティングとして特に有用でありうる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0003】
ポリホスファゼンは、リン元素と窒素元素を、単結合と二重結合を交互に挟んで有する主鎖を持つポリマである。各リン元素は2つのペンダント基「A」と共有結合により結合している。
【0004】
ポリホスファゼンの繰り返し単位は以下の化学式を持つ。
【0005】

【0006】
「A」は同じでも異なっていてもよく、繰り返し単位は「n」回繰り返される。
【0007】
ポリホスファゼンの主鎖に1種類のみのペンダント基又は側基が繰り返し結合されている場合、そのポリマはホモポリマと呼ばれる。ポリホスファゼンが1種類以上のペンダント基を持つ場合、ポリホスファゼンはコポリマである。ポリマ全体にわたって、ペンダント基や側基がランダムに変化する場合、ポリホスファゼンはランダムコポリマである。リンは2つの同様の基、又は2つの異なる基に結合することができる。
【0008】
所望の側基を持つポリホスファゼンは、まず、反応性の高分子前駆体、すなわちポリジクロロホスファゼンを生成し、次に、それを所望の側基を有する求核剤と反応させて生成することができる。このような求核剤として、アルコール、アミン、チオールが挙げられる。2種以上のペンダント基を持つポリホスファゼンはポリジクロロホスファゼンを2種以上の求核剤と所望の割合で反応させることで生成することができる。求核剤は同時に、又は、順番に反応液に加えることが出来る。ポリホスファゼンにおけるペンダント基の最終的な割合は、ポリマを生成するために使われる出発物質の割合、添加する順序、求核置換反応が行なわれる際の温度、使用される溶媒系を含む多くの要因によって決定される。ポリマにおける基の割合は当業者によって容易に決定することができる。
【0009】
本発明のポリマはポリジクロロホスファゼンを、ピロリドン部分を持つ有機求核剤と反応させることにより生成することができる。例えば、水酸基およびN−アルキルピロリドンを有する有機化合物はポリジクロロホスファゼン上の反応性の高い塩素原子と反応させて良い。1種類の又は混合した有機化合物を用いてそれぞれホモポリマ又は混合置換基を持つコポリマとすることができる。有機化合物の水酸基はこの分野で公知の方法でナトリウム、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウムによって活性化することができ、次いで、ポリホスファゼン主鎖に付いている塩素原子と反応させることが出来る。
【0010】
したがって、1つの局面において、本発明は以下の化学式で示される繰返し単位を含むポリホスファゼンポリマを提供する。
【0011】

【0012】
ただし、ポリマのそれぞれの単量体単位において、Rはそれぞれ同じであっても異なっていてもよく、ポリマの単量体単位の少なくとも一部において1個又は2個以上のR基が「X」である。ここで、「X」は次の式で表される。
【0013】

【0014】
ただし、Zはオキシアルキル;オキシアリールアルキル;オキシアリール;アミノアルキル;アミノアリールアルキル;アミノアリール;チオアルキル;−チオアリールアルキル;チオアリール;アリール;アリールアルキル;アリールである。
【0015】
残りのR基は、1又は2以上の多様な置換基であってよい。このような基の例として、脂肪族;アリール;アラルキル;アルカリール;カルボン酸;複素環式芳香族;グルコースを含む炭水化物;ヘテロアルキル;ハロゲン;アルキルアミノ−を含む(脂肪族)アミノ−;ヘテロアラルキル;ジアルキルアミノ−、アリールアミノ−、ジアリールアミノ−、アルキルアリールアミノ−を含むジ(脂肪族)アミノ−;−オキシフェニルCOH、−オキシフェニルSOH、−オキシフェニルヒドロキシル、及び−オキシフェニルPOHを含む(しかし、これに限定されない)−オキシアリール;−オキシアルキル、−オキシ(脂肪族)COH, −オキシ(脂肪族)SOH, −オキシ(脂肪族)POH、及びオキシ(アルキル)水酸基を含む−オキシ(脂肪族)水酸基、を含む−オキシ脂肪族;−オキシアルカリール、−オキシアラルキル;−チオアリール;アミノ酸、アミノ酸エステル、−チオアルキルを含むチオ脂肪族;−チオアルカリール;チオアラルキル;−NHC(O)O−(アリール又は脂肪族);−O−[(CHO]−(CH)−O−[(CHO](CHNH(CHSOH;および−O−[(CHO]−(アリール又は脂肪族)(xは1乃至8、yは1乃至20の整数)を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。残りのR基は免疫賦活性のカルボン酸を含む基であってよい。その基は例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子、炭素原子を介してリン原子と結合することができる。
【0016】
本発明の1つの局面として、上記および下記のポリホスファゼンポリマは1,000g/mol乃至10,000,000g/molの総分子量を持つ。
【0017】
本発明のポリホスファゼンは一種の側基を持つホモポリマ又は、2種以上の側基を持つ混合置換基を持つコポリマであってよい。
【0018】
本発明の好ましいポリマは、以下のN−エチルピロリドン基を有する。
【0019】

【0020】
本発明の特に好ましいポリマはポリ {ジ[2−(2−オキソ−1−ピロリジニル)エトキシ]ホスファゼン}又は、ポリ{ジ[2−(1−ピロリド−2−オン)エトキシ]ホスファゼン}、PYRP:
【0021】

【0022】
ただし、nは所望の分子量を与える数である。例えば、nは10乃至10,000である。
【0023】
混合置換基コポリマには、ピロリドン官能基を有する少なくとも1つの側基及び、ピロリドン官能基を有さない1種の側基がある。ピロリドン官能基を有さない側基をポリホスファゼンコポリマに導入してポリマの物理的又は物理化学的な特性を調節してもよい。このような側基は、例えば、水溶性、生分解性、疎水性を調整するために、又は生物学的活性を持たせるために利用することができる。物理的又は物理化学的特性を調節する側基を含む、このような非ピロリジン官能基の限定されない例として、アミノ酸及びそのエステル、カルボン酸、フェノキシ、アルコキシ、水酸基、ハロゲン、メトキシエトキシエトキシを有する側基を挙げることができる。
【0024】
コポリマにおいては、一般に、ピロリドン官能基を有する側基が全側基の0.5%乃至99.5%を、好ましくは、少なくとも全側基の10%を構成する。
【0025】
混合置換基コポリマの例は以下のとおりである。
【0026】

【0027】
本発明のポリホスファゼンは好ましくは、ヒト、動物のどちらに投与されても生分解性であるポリマである。ポリマの生分解性により、脾臓のような体の末端部における偶発的なポリマ分子の沈着や蓄積を防ぐ。ここで使われている「生分解性」という用語は、所望の使用において許容できる期間内に分解するポリマを意味する。許容できる期間は、典型的には約5年未満であり、もっとも好ましくは、約1年未満である。
【0028】
本発明のポリホスファゼンは好ましくは生体適合性のポリマである。「生体適合性物質」とは、体内に若しくは体表上に置かれ、又は体液若しくは体組織に接触するように設計及び構築されたポリマと定義することが出来る。理想的には、生分解性ポリマは、血液凝固、組織死、腫瘍形成、アレルギー反応、異物反応 (拒絶反応)または炎症反応のような、体内での望ましくない反応を誘引せず;意図する目的のために機能するのに必要な、物理的または生物学的特性を持ち;精製、製造、殺菌が容易にでき;体と接触した状態にある間中、実質的にその機能を保つ。
【0029】
本発明のポリホスファゼンは水溶性の形態又は固形材料として用いることができる。
【0030】
これらは、徐放性製剤において利用することができ、該ポリマが溶解しおよび/又は懸濁することのできる水または他の適当な液体媒質に溶解および/又は懸濁することができ、薬理化合物又は医薬化合物若しくは組成物と組み合わされて組成物を形成することができる。該ポリマは医薬のマトリックスとしての役割を果たし、このような医薬の制御放出のための製品を提供する。そのポリマは医薬を安定化し、保護することができる。医薬はそのポリマに共有結合的に結合することができ、又は、医薬はイオン結合、水素結合、疎水的相互作用のような非共有結合を通じてそのポリマと会合体を形成することができる。
【0031】
該ポリマは医薬品をカプセル化し、ミクロスフィア、マイクロカプセル、ミセルを作製するのに利用することができる。また、該ポリマはリポソームを安定化するのに利用することができる。
【0032】
得られる製品に含めることができる医薬は、医師用医薬品便覧、第57版、2003年に列挙されており、アレルゲン、抗アメーバ薬および殺トリコモナス剤、アミノ酸製剤、蘇生薬、鎮痛薬、鎮痛剤/制酸剤、麻酔薬、食欲抑制薬、制酸剤、抗蠕虫薬、抗アルコール剤、抗関節炎薬、抗ぜんそく薬、抗菌剤および防腐剤、抗生物質、抗ウイルス性抗生物質、抗癌剤、抗コリン作動薬阻害剤、血液凝固阻止薬、抗痙攣薬、抗鬱薬、糖尿病薬、下痢止剤、抗利尿薬、遺尿症治療剤、抗線維素溶解薬、繊維症治療薬(全身性の)、整腸剤、抗真菌物質、抗性腺刺激ホルモン抗体、抗ヒスタミン剤、抗高アンモニア剤、抗炎症剤、抗マラリア剤、代謝拮抗物質、抗偏頭痛剤、鎮吐薬、抗腫瘍薬、抗肥満薬、駆虫剤、抗パーキンソン剤、止痒剤、解熱剤、抗痙攣薬および抗コリン作用薬、抗トキソプラズマ薬剤、鎮咳薬、抗めまい薬、抗ウィルス物質、生物学的製剤、ビスマス製剤、骨代謝調節薬、腸瀉下薬、気管支拡張剤、カルシウム剤、循環器官用薬、中枢神経興奮薬、耳垢水、キレート剤、胆汁排泄促進薬、コレステロール低下薬および抗高脂血症剤、結腸内容物酸性化剤、感冒薬、うっ血除去薬、去痰薬およびその組み合わせ、利尿薬、催吐薬、酵素および消化剤、交配因子、フッ素製剤、ガラクトース動員性薬剤、老人医学、殺菌剤、造血剤、痔疾薬、ヒスタミンH受容体拮抗剤、ホルモン、水様胆汁分泌薬、高血糖治療薬、催眠薬、免疫抑制薬、緩下剤、ムコリチック、筋弛緩物質、麻薬拮抗薬、麻酔性解毒剤、眼科用浸透圧性脱水剤、耳製剤、子宮収縮薬、副交感神経遮断薬、副甲状腺製剤、殺シラミ薬、リン製剤、月経前治療薬、精神刺激薬、キニジン、放射性医薬品、呼吸興奮薬、代用塩、殺疥癬虫薬、硬化薬、鎮静薬、交感神経遮断薬、交感神経様作用薬、血栓溶解薬、甲状腺製剤、精神安定剤、結核製剤、尿酸排泄薬、尿酸性化剤、尿アルカリ化剤、尿路鎮痛剤、泌尿器洗浄液、子宮収縮剤、膣治療剤およびビタミンと、医師用医薬品便覧(上掲)における前述のそれぞれの分類に列挙されているそれぞれに特異的な化合物と組成物が挙げられる。
【0033】
本発明のポリマは、徐放製剤において放出される組成物や物質のマトリックスを形成するために、あるいは、このような製剤においてこのような組成物や物質用の担体としての役割を果たすために十分な量で利用される。また、本発明のポリマは、その周囲への組成物または物質の遅延放出を可能にするのに十分な量だけ用いることができる。その量は、例えば、徐放製剤の重量に対して約1重量%乃至約99重量%のいずれかの量であり、好ましくは、徐放製剤の重量に対して約5重量%乃至99重量%である。
【0034】
本発明のポリマは、使用中に血液や他の体細胞に表面が接触する医療機器のコーティングや材料として使用することができる。これは、例えば、後に患者に戻って来る血液と接触する、血液酸素付加装置、血液ポンプ、血液センサ、血液を輸送する管のような、手術中に使用される体外装置を含むことができる。また、人工血管、ステント、電気刺激リード、心臓弁、矯正装置、カテーテル、ガイドワイヤ、分流器、センサ、髄核置換装置、人工内耳または人工中耳、人工水晶体などの移植可能な装置をも含むことができる。医療装置用のコーティングや材料は長期間にわたって薬剤を放出するように設計することができる。
【0035】
本発明のポリホスファゼンポリマは、単層および複層の組立品の作成のためのコート剤として使うことができる。このような組立品は層ごとに高分子電解質を沈着することによって作成される。これは、固体と単層を形成する分子を含む液体相のとの境界面で、適当な固体に高分子電解質を直接沈着させることを含む。この過程は目標とする数の単層が得られるまで続けることができる(米国特許第4,539,061号)。典型的には、複層コートは5層から20層の高分子電解質の層を含むことができる。要求される一連の属性を持つ表層部を得るために、所望の官能基を、コーティングの表層に含めることができる。多層コートは産業上広範囲に応用することができる。例えば、限定されない例として、人工膜の製造、新規な超小型電子機器や光学装置用の受動能動の超薄膜部品、超薄のフォトレジスト、太陽エネルギィ変換に有用な分子フィルムの製造等が挙げられる。多層コーティングは生物医学的な装置において使用することができる。生物医学的な装置は、生物学的、医学的、または個人的なケア産業において用いられる広範な装置を含み、限定されない例として、眼用レンズ、経口浸透圧装置、経皮装置のような薬物送達装置、カテーテル、コンタクトレンズ消毒洗浄容器、豊胸手術、ステント、椎間板、人工臓器および人工組織等が挙げられる。生物医学的用途に用いられる多くの装置や材料は、その本体部分において、表層部で必要とされる特性とは異なった別個の特性を必要とする。例えば、コンタクトレンズは、高い酸素透過性と親水性を持つ芯材又は塊状材料、および親水性を増加させるような処理又はコートした表面を持ってよく、それにより、レンズが眼の上で自由に動くようになる。他の生物材料においては生体表面へのタンパク質の吸着を防ぎ、粘液化を防ぐのに有効なコーティングが必要とされる。
【0036】
本発明を、以下の実施例に基づいて記載する。もっとも、本発明の範囲はそれによって限定されるものではない。
【実施例1】
【0037】
ポリ{(ジ[2−(2−オキソ−1−ピロリジニル)エトキシ]ホスファゼン)、PYRPの合成
【0038】
水素化ナトリウム(0.066g;0.0026mol)を1,4−ジオキサン(0.0008L)中に懸濁した懸濁液を、窒素下、ゆっくりと、1−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドン(1.59g;0.0123mol)の1,4−ジオキサン(0.010L)中懸濁液に加え、1−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンナトリウムを生成した。この溶液を1,4−ジオキサン0.015Lで希釈し、次いで、乾燥窒素の下、撹拌しながら50℃まで加熱した。そして、ポリジクロロホスファゼン0.002L(0.116g;0.001mol)をシリンジで5分間に渡ってゆっくりと加えた。反応混合物を50℃で15時間撹拌し、次に、周囲温度へ冷却しヘキサンで沈殿させた。沈殿物を傾瀉により収集し、真空下で乾燥させ、次いで、水に溶かした。次に、Modcol CER 3662 カラムを備えたBiocad Perfusionクロマトグラフィーワークステーション(アプライドバイオシステムズ、フォースターヒル、カリフォルニア)を用い、0.02 M 炭酸水素アンモニウムを用いてポリマを精製した。ポリマの破片を収集し凍結乾燥した。収率は、0.113g(理論値の37.5%)であった。ポリマ構造をH NMR、13C NMR、および31P NMR(表1)で確認し、分子量をGPC−光散乱およびポリ(エチレンオキシド)基準を用いたGPC(表2)で決定した。
【0039】
表1 NMR特性データ

【0040】
表2 ポリマ組成物および分子量

* 反応混合液の組成物に基づく。
# マルチアングルレーザ光散乱検出を用いたGPCに基づく。
△ PEO標準を用いたGPCに基づく。
【実施例2】
【0041】
ポリ{[2−(2−オキソ−1−ピロリジニル)エトキシ](4−カルボキシラートフェノキシ)ホスファゼン}(CP1)の合成
【0042】
水素化ナトリウム(0.086g;0.003mol)の1,4−ジオキサン(0.002L)懸濁液を、窒素下、1−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンの0.010L 1,4−ジオキサン溶液(2.08g;0.016mol)にゆっくり加え、1−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンナトリウムを形成した。水素化ナトリウムのダイグライム(0.004L)懸濁液(0.61g;0.025mol)を乾燥窒素の下、4−ヒドロキシ安息香酸のプロピルエステル(5.19g;0.029mol)の0.010Lダイグライム溶液に加えることにより、プロピル4−ヒドロキシ安息香酸ナトリウムを調製した。0.0005Lのプロピル4−ヒドロキシ安息香酸ナトリウム溶液を周囲温度で1−(2−ヒドロキシエチル)ピロリドンナトリウム溶液に加えた。
【0043】
次に、0.002Lのポリジクロロホスファゼン(0.116g;0.001mol)を5分間に渡って室温でゆっくりと加えた。加えた後に、温度を50℃に上げ、15時間撹拌した。12.7Nの水酸化カリウム水溶液0.001Lをゆっくり加え、反応混合物を50℃で1時間撹拌した。
【0044】
沈殿物を傾瀉法で収集して、乾燥し、水に溶かした。次に、ポリマを上記のようにクロマトグラフィーによって精製した。ポリマ(CP1)の収率は0.228g(理論値の75%)であった。ポリマの特性データを表1と表2に示す。
【0045】
混合置換基ポリマの組成物は2つの方法を用いて決定した。(1)エチルピロリドン側基のエチレン陽子とカルボキシラートフェノキシ側基の芳香族陽子のH NMRにおけるピーク面積の比率に基づき計算した。(2)HPLCを用いて、PBS(pH7.4)中、254nmでのPCPPおよびPYRPのUV吸光度の差異に基づき組成を確定した。254nmでのHPLCピーク面積を混合組成に対してプロットすることにより、PCPPおよびPYRPの混合物の検量線を得た。全体のポリマ濃度を1mg/mLに保ち、結果をミレニアム(Millenium)ソフトウェア(ウォーターズ(Waters)、ミルフォード、マサチューセッツ)を用いて処理した。次に、コポリマを同一の条件を用いてHPLCにより分析し、そのモル組成を、ホモポリマの混合物の検量線を用いて決定した。ポリマ組成のデータを表2に示す。
【実施例3】
【0046】
ポリ{[2−(2−オキソ−1−ピロリジニル)エトキシ](4−カルボキシラートフェノキシ)ホスファゼン}(CP2)の合成
【0047】
水素化ナトリウム(0.247g;0.0098mol)の1,4−ジオキサン(0.105L)懸濁液を乾燥窒素下、1,4−ジオキサン(0.025L)中1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドン(5.989g;0.0464mol)にゆっくり加え、1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンナトリウム溶液を形成した。プロピル4−ヒドロキシ安息香酸ナトリウムは、水素化ナトリウム(0.707g;0.0279mol)のダイグライム(0.003L)懸濁液を、乾燥窒素雰囲気下、ダイグライム(0.010L)中4−ヒドロキシ安息香酸プロピルエステル(6.055g;0.3360mol)に加えることにより調製した。0.003Lのポリジクロロホスファゼン(0.232g;0.002mol)を窒素下、室温において、0.013Lのダイグライムで希釈し、その後、50℃に加熱した。0.0024Lのプロピル4−ヒドロキシ安息香酸ナトリウムを撹拌しながら加えた。温度を100℃に上げ、反応混合物を3時間撹拌し、50℃に冷却した。これに、0.015Lの1−(2−ヒドロキシエチル)−2−ピロリドンナトリウム溶液をゆっくり加え、反応を20時間継続した。0.010Lの12.7N水酸化カリウム溶液をゆっくり加え、1時間50℃で撹拌した。沈殿したポリマを収集し、蒸留水に溶解させ、1N塩酸をpH3になるまで加えることにより沈殿させた。沈澱物を0.05Mの炭酸水素アンモニウムに再溶解し、上記の分取HPLCにより精製した。ポリマ(CP2)の収率は0.29g(理論値の38.6%)であった。ポリマ組成物は実施例2に記載の方法で決定した。特性データを表1および表2に示す。
【実施例4】
【0048】
ポリマの分解の検討
【0049】
ポリマであるPYRP、CP1、CP2およびPCPPの溶液を以下の緩衝液の下で1mg/mLの濃度で調製した:クエン酸緩衝液、pH3.0(0.040Mクエン酸;0.021M水酸化ナトリウム;0.060M塩化ナトリウム)、トリス緩衝液、pH7.4(0.020Mトリス、0.9%NaCl)およびホウ酸塩緩衝液、pH9.3(0.02M四硼酸ナトリウム)。完全溶解を保証するため、試料を振とうしながら、室温で1時間インキュベートし、0.45μmのMillex−HVシリンジフィルター(ミリポア(Millipore)、ベッドフォード、マサチューセッツ州)を用いてろ過した。
【0050】
分解試験を55℃で行った。ポリマ溶液を含むバイアルをG24環境インキュベーターシェーカ(Environmental Incubator Shaker)(ニュー・ブランズウィック・サイエンティフィック(New Brunswick Scientific)、エジソン、ニュージャージー州)でインキュベートした。分子量測定および分解産物の定量のため、0.2mLの試料を定期的に収集した。三重検出システム(多角度レーザ光散乱(DAWN DSP−Fワイアットテクノロジィ(Wyatt Technology)、サンタバーバラ、カリフォルニア州)、ウォーターズ996(Waters 996)フォトダイオードアレイおよびウォーターズ410指差屈折率(Waters 410 refractive index)(ウォーターズ(Waters)、ミルフォード、マサチューセッツ州)を備えたサイズ排除HPLCを用いて分析を行なった。光散乱検出器、質量検出器としての屈折率検出器およびASTRA2.1ソフトウェア(ワイアットテクノロジィ(Wyatt Technology)、サンタバーバラ、カリフォルニア州)を用いて、絶対分子量パラメータを決定した。ポリ(エチレンオキシド)基準用の検量線に基づき、230nmで測定した吸光度におけるフォトダイオードアレイ検出を用いて、相対分子量特性を計算した。ミレニアム(Millenium)ソフトウェア(ウォーターズ(Waters)、ミルフォード、マサチューセッツ州)を用いて、280nmにおけるUV検出で、HPLCによりヒドロキシ安息香酸(HBA)の濃度を決定した。流量0.75ml/min、注入量0.1mLで移動相としてリン酸緩衝食塩水(PBS)、pH7.4を用いた。
【0051】
図2、図3は55℃における、pH9.3、pH7.4、pH3.0の水溶液でのPYRPの重量平均分子量減少の動態を示す。分解の割合がpHが減少するにつれて増加しているので、加水分解の割合はpHに依存しているように見える。この関係は、多角度レーザ光散乱検出器を用いてGPCによって決定する絶対分子量(図2)、およびPEO基準を用いてGPCにより測定した相対分子量(図3)の双方において観察される。図4はpH7.4でのPBSにおけるポリマであるPYRP、CP1、CP2およびPCPPの分解の様子を示す。ピロリドンを含むホモポリマPYRPが、最も高い加水分解率を示し、PCPPは最も低い加水分解率を示した。PCPP構造(CP1、CP2)にピロリドン側基を導入すると、分子量の減少率が著しく増加した。PCPPとピロリドン基を含むPCPPのコポリマ(CP1)の分解もまた、ヒドロキシ安息香酸の放出の際に現れる側基の開裂を伴った(図5)。興味深いことに、放出速度はコポリマCP1でより高かったため、これによりピロリドン側基による不安定化効果が確かめられる。ゆえに、エチルピロリドン部分がポリホスファゼンの分解を調節した。
【0052】
図6は、酸性水系環境におけるPYRPポリマの加水分解中に観察された31P NMRスペクトルの変化を示す。酸性条件ではポリマの水との反応は十分迅速に行われ、更なるピークが塩酸を混合した直後に現れた(図6b)。−3.2ppmでのピークはPPyrOによるものであり得、−9.8、−7.8および−8.0におけるシグナルはα、β、γPyrO−P−OPyrによるものとすることができる。加水分解が進むにつれて起きる、−7.4における最初のポリマのPyrO−P−OPyrのピークとαPyrO−P−OPyrのピークの比率の劇的な変化がこの仮定を支持している。−1から4ppmでのピークはおそらく低分子量のリン、オリゴマ、ジェミナルな加水分解の生成物に関するものでありうる。
【0053】
酸性水溶液において5日間加水分解したポリマのH NMRにおける分析により、なお元のピーク、つまり、PYRPの巨大分子のピークが示されている。これは、光散乱分析が27,000g/molの分子量を持つポリマの存在を示したため、予期されたことである。さらに、ポリマからの側基の放出を示すN−エチルピロリドンのピークが存在した。この系における低分子量の化合物の量はポリマから放出されうるN−アルキルピロリドンの合計の約70%と見積もられた。他の化合物はこの系において検出されなかった。このことは、開環反応が存在しなかったことを示している。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】図1は、N−アルキルピロリドン側基を持つポリホスファゼンの合成経路を示す。
【図2】図2は、時間に対する、様々なpHでの水溶液中のPYRPの分子量減少を示す。(光散乱によって決定した重量平均分子量、55℃、1mg/mL)
【図3】図3は、時間に対する、様々なpHでの水溶液中のPYRPの分子量減少を示す。(PEOを標準試料としてGPCによって決定した重量平均分子量、55℃、1mg/mL)
【図4】図4は、時間に対する、様々なpHでの水溶液中の(1)PYRP、(2)CP1、(3)CP2、(4)PCPPの分子量減少を示す。(光散乱によって決定した重量平均分子量、55℃、1mg/mL)
【図5】図5は、時間に対する、(1)CP1、(2)PCPPでの水溶液におけるp−ヒドロキシ安息香酸の放出量を示す。(55℃、1mg/mL)
【図6】図6は、(a)DOにおいて、pH6での、(b)重水素を含む塩酸(pH2)を加えた後のDOにおいて、pH2での、(c)5日間55℃でpH2の下でPYRPを重水素を含む塩酸を加えたDOにおいて定温放置した後の、PYRPの31P NMRスペクトルを示す。光散乱によって決定した分子量は(a)、(b)370,000g/mol、(c)27,000g/molであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の単位:

ただし、少なくとも1つのRが

ただし、Zはオキシアルキル;オキシアリールアルキル;オキシアリール;アミノアルキル;アミノアリールアルキル;アミノアリール;チオアルキル;−チオアリールアルキル;チオアリール;アリール;アリールアルキル;アリールである、
の化学式を持つ、ポリホスファゼンポリマ。
【請求項2】
Zがオキシエチル:

である請求項1に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項3】
Zがオキシエチルであり、R側基の少なくとも一部がカルボキシラートフェノキシ基:

である請求項1に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項4】
少なくとも1つのR基が、脂肪族;アリール;アラルキル;アルカリール;カルボン酸;複素環式芳香族;グルコースを含む炭水化物;ヘテロアルキル;ハロゲン;アルキルアミノ−を含む(脂肪族)アミノ−;ヘテロアラルキル;ジアルキルアミノ−、アリールアミノ−、ジアリールアミノ−、アルキルアリールアミノ−を含むジ(脂肪族)アミノ−;−オキシフェニルCOH、−オキシフェニルSOH、−オキシフェニルヒドロキシル、及び−オキシフェニルPOHを含む(しかし、これに限定されない)−オキシアリール;−オキシアルキル、−オキシ(脂肪族)COH, −オキシ(脂肪族)SOH,−オキシ(脂肪族)POH、及びオキシ(アルキル)水酸基を含む−オキシ(脂肪族)水酸基、を含む−オキシ(脂肪族);−オキシアルカリール、−オキシアラルキル;−チオアリール;アミノ酸、アミノ酸エステル、−チオアルキルを含むチオ脂肪族;−チオアルカリール;チオアラルキル;−NHC(O)O−(アリール又は脂肪族);−O−[(CHO]−CH)−O−[(CHO](CHNH(CHSOH;および−O−[(CHO]−(アリール又は脂肪族)(xは1乃至8、yは1乃至20の整数)から成る群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項5】
1,000g/mol乃至10,000,000g/molの分子量を有する請求項1に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項6】
ホモポリマの形態にある請求項1に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項7】
コポリマの形態にある請求項1に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項8】
nが10乃至10,000である請求項2に記載のポリホスファゼンポリマ。
【請求項9】
ピロリドン官能基を含む側基が側基全体の0.5%乃至99.5%を構成する請求項7に記載ポリホスファゼンコポリマ。
【請求項10】
ピロリドン官能基を含む側基が側基全体の少なくとも10%を構成する請求項9に記載のポリホスファゼンコポリマ。
【請求項11】
医薬活性薬剤および該医薬活性薬剤の徐放を提供する担体を含む医薬組成物であって、該担体が請求項1に記載のポリホスファゼンポリマを含む医薬組成物。
【請求項12】
前記担体が、マトリックス、マイクロスフィア、マイクロカプセル、ミセルおよび安定リポソームから成る群より選ばれる形態にある請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記ポリホスファゼンポリマは、前記医薬活性薬剤の制御された徐放を提供する前記担体の約1重量%乃至約99重量%を構成する請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記ポリホスファゼンポリマが、前記医薬活性薬剤の徐放を提供する前記担体の約5重量%乃至約99重量%を構成する請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬活性薬剤が、アレルゲン、抗アメーバ薬および殺トリコモナス剤、アミノ酸製剤、蘇生薬、鎮痛薬、鎮痛剤/制酸剤、麻酔薬、食欲抑制薬、制酸剤、抗蠕虫薬、抗アルコール剤、抗関節炎薬、抗ぜんそく薬、抗菌剤および防腐剤、抗生物質、抗ウイルス性抗生物質、抗癌剤、抗コリン作動薬阻害剤、血液凝固阻止薬、抗痙攣薬、抗鬱薬、糖尿病薬、下痢止剤、抗利尿薬、遺尿症治療剤、抗線維素溶解薬、繊維症治療薬(全身性の)、整腸剤、抗真菌物質、抗性腺刺激ホルモン抗体、抗ヒスタミン剤、抗高アンモニア剤、抗炎症剤、抗マラリア剤、代謝拮抗物質、抗偏頭痛剤、鎮吐薬、抗腫瘍薬、抗肥満薬、駆虫剤、抗パーキンソン剤、止痒剤、解熱剤、抗痙攣薬および抗コリン作用薬、抗トキソプラズマ薬剤、鎮咳薬、抗めまい薬、抗ウィルス物質、生物学的製剤、ビスマス製剤、骨代謝調節薬、腸瀉下薬、気管支拡張剤、カルシウム剤、循環器官用薬、中枢神経興奮薬、耳垢水、キレート剤、胆汁排泄促進薬、コレステロール低下薬および抗高脂血症剤、結腸内容物酸性化剤、感冒薬、うっ血除去薬、去痰薬およびその組み合わせ、利尿薬、催吐薬、酵素および消化剤、交配因子、フッ素製剤、ガラクトース動員性薬剤、老人医学、殺菌剤、造血剤、痔疾薬、ヒスタミンH受容体拮抗剤、ホルモン、水様胆汁分泌薬、高血糖治療薬、催眠薬、免疫抑制薬、緩下剤、ムコリチック、筋弛緩物質、麻薬拮抗薬、麻酔性解毒剤、眼科用浸透圧性脱水剤、耳製剤、子宮収縮薬、副交感神経遮断薬、副甲状腺製剤、殺シラミ薬、リン製剤、月経前治療薬、精神刺激薬、キニジン、放射性医薬品、呼吸興奮薬、代用塩、殺疥癬虫薬、硬化薬、鎮静薬、交感神経抑制薬、交感神経様作用薬、血栓溶解薬、甲状腺製剤、精神安定剤、結核製剤、尿酸排泄薬、尿酸性化剤、尿アルカリ化剤、尿路鎮痛剤、泌尿器洗浄液、子宮収縮剤、膣治療剤、ビタミン並びに医師用医薬品便覧(第57版、2003年)における前述のそれぞれの分類に列挙されているそれぞれの具体的な化合物及び組成物から成る群より選ばれる請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項16】
化学式Iに示されるポリ{ジ[2−(2−オキソ−1−ピロリジニル)エトキシ] ホスファゼン}:
化学式I

ただし、a、b、c、d、eおよびfはそれぞれ前記ポリ{ジ[2−(2−オキソ−1−ピロリジニル)エトキシ]ホスファゼン}を特徴付ける以下のNMRデータである。

【請求項17】
請求項1に記載のポリホスファゼンポリマを含むコーティング又は材料を具える、手術の際に用いる体外装置。
【請求項18】
血液酸素付加装置、血液ポンプ、血液センサ及び血液を輸送する管から成る群より選ばれる形態にある請求項17に記載の体外装置。
【請求項19】
請求項1に記載のポリホスファゼンポリマを含むコーティング又は材料を具える、外科移植可能な装置。
【請求項20】
人工血管、ステント、電気刺激リード、心臓弁、矯正装置、カテーテル、ガイドワイヤ、分流器、センサ、髄核置換装置、人工内耳または人工中耳及び人工水晶体から成る群より選ばれる形態にある請求項19に記載の外科移植可能な装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−536978(P2008−536978A)
【公表日】平成20年9月11日(2008.9.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−506639(P2008−506639)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【国際出願番号】PCT/US2006/013661
【国際公開番号】WO2006/113274
【国際公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(507336307)パラレル ソリューションズ,インク. (1)
【Fターム(参考)】