説明

ピロリン酸の検出方法

【課題】ピロリン酸を特異的に検出・定量する簡便且つ高感度な方法、さらに該方法を利用した核酸の検出方法を提供する。
【解決手段】ピロリン酸を検出する方法であって、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、ここで、該電流値が試料中のピロリン酸の濃度を示す、ピロリン酸の検出方法。また、DNAプライマーを用いたPCRに伴って生成されるピロリン酸を検出する事による、核酸の検出方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピロリン酸を検出する方法に関する。さらに、前記検出により目的の核酸を簡便かつ高感度に検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、体外診断薬を含む分子診断市場は急速な伸びを示しており、医療分野では、疾患関連遺伝子を解析することにより、疾患の分子レベルでの治療が可能となってきている。
遺伝子検査においては、遺伝子の病気とさえ言われるようになった癌領域だけではなく、感染症や、アルツハイマー病、生活習慣病の発症リスクや、薬物治療に対する効果や安全性を調べる用途にも利用することができ、例えば、血栓塞栓症の治療及び予防を目的とした抗血液凝固剤であるワルファリンは遺伝子型を調べた上で、最適な処方量を決定することがFDAによって承認されている。
【0003】
このように遺伝子検査の中でも特に、上述した薬物治療前の体質診断や感染症の診断は、その場診断が必要なため、POCT(Point of Care Testing)性が高く、迅速、簡便な手法が求められている。
【0004】
現在、遺伝子検査の方法で主流となっている、リアルタイムPCRは血液に代表される体液中の細胞を破砕してDNAを抽出し、精製したDNAを鋳型に目的とする領域をPCR(Polymerase Chain Reaction)反応に供することによって増幅する(特許文献1)。インターカレーターを利用した検出方法では増幅した二本鎖DNAにインターカレートする蛍光色素、例えばSYBER GREEN Iが二本鎖DNAに結合する蛍光強度を検出することにより、目的とする核酸の増幅の有無およびその量を測定することができる。しかしながら、この方法では現時点においては各工程(DNA抽出、増幅)を人の手で行う必要があり、膨大な時間と手間がかかることや、インターカレーターを用いた発光は発がん性の問題があり、取り扱いには非常に注意を要し、医療現場の使用には不向きな方法である。
【0005】
一方で、DNA伸長反応の過程で発生するピロリン酸を酵素反応で特異的に検出する手法が検討されている。
【0006】
ピロリン酸にATPスルフリラーゼを作用させた後、ルシフェラーゼ−ルシフェリン反応において光を生成することにより、検出する方法がある(特許文献2)。
【0007】
しかしながら、この方法は光検出を行う点で、装置が大型になるという課題を有している。
【0008】
一方で、光検出を使用せず、ピロリン酸を電気化学的に検出する方法が検討されている。
DNA塩基配列の決定方法として、特開2008−233050(特許文献3)では、以下の方法を提示している。第1の方法は、ピロリン酸をホスホエノールピルビン酸(PEP)及びアデノシン一リン酸(AMP)の存在下で、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)の触媒作用で、ピルビン酸を生成させる反応で、生成したピルビン酸を、乳酸脱水素酵素(LDH)により触媒反応で、酸化還元反応による電位を検出している。第2の方法は、PPiをフルクトシル6リン酸の存在下でフルクトシル6リン酸キナーゼの触媒作用によりグリセロアルデヒドリン酸を生成し、酵素反応を経て酸化還元電位を測定する方法であり、フルクトシル6リン酸の生成量を測定することによってピロリン酸の量を測定している。これらの方法はピロリン酸を電気化学的に検出できる点で優れている。しかしながら、開示された方法では電極上へ絶縁性分子を用いて電極表面に電気化学活性物質を固定化することを必要とするため、電気化学活性物質の固定化量にばらつきが生じることや、煩雑な操作を要する点で課題が残る。
【特許文献1】米国特許第6174670号明細書
【特許文献2】国際公開第92/16654号パンフレット
【特許文献3】特開2008−233050号公報
【特許文献4】特許第3866277号公報
【特許文献5】特開昭64−037300号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来の問題点を解決することを目的とするものであり、ピルビン酸リン酸ジキナーゼとピルビン酸デヒドロゲナーゼの2つの酵素反応を組み合わせることにより、ピロリン酸を特異的に検出・定量する簡便且つ高感度な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決すべく、ピロリン酸を酵素を用いて酸化還元物質に変換し、この酸化還元物質を電気的に検出する。
【0011】
ピロリン酸を検出する方法であって、
アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;
及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、
ここで、該電流値が試料中のピロリン酸の濃度を示す、
ピロリン酸の検出方法である。
【0012】
前記電子メディエーターが、フェリシアン化物、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ジメチルベンゾキノン、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムサルフェート、メチレンブルー、ガロシアニン、チオニン、フェナジンメトサルフェート、およびメルドラブルーからなる群より選択される少なくとも一種である。
【0013】
核酸を検出する方法であって、
該核酸の配列に相補的な配列を持つDNAプライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチドを含む反応系に試料を供し、該DNAプライマーが該核酸の相補的な配列に結合し、該DNAプライマーからの伸長反応に伴って、ピロリン酸が生成される工程;
該試料を、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;
及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、ここで、該電流値が、該試料中の特定配列を有する核酸の濃度を示す、核酸の検出方法である。
【0014】
前記DNAプライマーからの伸長反応がPCR反応である。
【0015】
DNAのSNP配列をタイピングする方法であって、アレル特異的プライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチドを含む反応系に試料を供し、該アレル特異的プライマーが該核酸の目的の配列のうち相補的な配列に結合し、該アレル特異的プライマーからの伸長反応に伴って、ピロリン酸が生成される工程;
該試料を、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;
及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、ここで、該電流値の発生が該試料中のSNP配列の有無を判別する手段である、SNP検出方法である。
【0016】
前記アレル特異的プライマーからの伸長反応がPCR反応である、SNP配列をタイピングする方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明のピロリン酸検出方法によれば、ピロリン酸をホスホエノールピルビン酸(PEP)、アデノシン一リン酸(AMP)及びマグネシウムイオンの存在下で、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)の触媒作用で、ピルビン酸を生成させる反応で、生成したピルビン酸を、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)による触媒反応で、酸化還元反応による電流を検出している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(実施の形態1)
以下、本発明のピロリン酸検出方法を説明する。
【0019】
本発明の実施の形態1では、酵素反応を用いて簡便なピロリン酸の定量的検出を行う。本発明の実施の形態1は、ピロリン酸を検出する方法に関し、この方法は、ピロリン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)(EC 2.7.9.1)、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)(EC 1.2.4.1)及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程、およびこの測定系において電流値を測定する。
【0020】
試料を供した後の上記測定系においては、以下の反応式(化1)〜(化3)で示される反応が起こる。これらについて順に説明する。
【0021】
【化1】

【0022】
ピロリン酸(PPi)、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)及びマグネシウムイオン(Mg2+)を混合し、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)を作用させると、ピルビン酸、アデノシン三リン酸(ATP)とリン酸(Pi)が生成される。次に、生成されたピルビン酸を出発点として、以下の反応が起こる。
【0023】
【化2】

【0024】
ピルビン酸、リン酸(Pi)と電子メディエーターを混合し、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンヌクレオチド(FAD)とマグネシウムイオン(Mg2+)の存在下、ピルビン酸脱水素酵素を作用させると、アセチルリン酸と二酸化炭素(CO2)が生成される。その際、酸化型電子メディエーターは還元型に変換される。
【0025】
最後に、電極に電圧を印加すると、還元された電子メディエーターは電極上で電子を放出し、酸化型へと戻る。この反応は次式反応式(III)に表される。この時放出される電子を電荷量として検出することで、ピロリン酸に依存した電流値を測定することができる。
【0026】
【化3】

【0027】
本発明のピロリン酸検出装置の一例を図1に示す。
【0028】
より具体的には、電気化学の測定は、図1に示す測定装置系を用いて行われる。
本測定装置系は以下のように構成されている。図中、10は測定用セルであり、内部に撹拌子7を入れ、スタラーマシン8上に固定されている。測定用セル10には、電極固定器具9により、測定極3、対極4、参照極5がセットされている。測定極3には、金電極などの貴金属の電極やカーボン電極を用いる。対極4は白金極でそれぞれ構成されている。参照極5は銀/塩化銀電極で構成され、表面に塩化銀がコートされている。これらの電極は、それぞれポテンションスタット、ファンクションジェネレーターなどが一体化された電気化学測定システム20に接続されており、パソコン21により制御及びデータの記録を行っている。
【0029】
以下に測定手順の一例を示す。
【0030】
上記測定用セル10中には、上記測定系を含む反応溶液1が満たされており、反応溶液1は撹拌子7によって撹拌される。電気化学測定システム20を用いて、参照極5に対して一定以上の電位を測定極3に印加すると、反応溶液中のメディエーターが酸化され、この酸化による電子の放出により測定極3と対極4との間に電流が流れる。上記電位はメディエーター種によって異なる。そのメディエーター種の酸化還元電位よりも高い電位が測定極3に加えられる。この時の電流値が、電気化学測定システム20を用いて測定される。
【0031】
電流値は、最初のピロリン酸の存在に依存するので、この酸化電流値をもとにしてピロリン酸が検出される。
【0032】
本発明はピロリン酸、AMP、ホスホエノールピルビン酸、及び、マグネシウムイオンに、ピルビン酸リン酸ジキナーゼを作用させ、ATP,ピルビン酸及び、リン酸とに変換させる反応と、ピルビン酸、リン酸、チアミン二リン酸、フラビンアデニンヌクレオチド、マグネシウムイオン及び電子メディエーターに、ピルビン酸脱水素酵素を作用させ、アセチルリン酸、二酸化炭素を生成させ、酸化型電子メディエーターを還元型に変換させる反応を組み合わせたことを特徴としている。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明におけるピロリン酸検出方法及び検出装置は、核酸およびSNP検出を迅速・簡便かつ高感度に検出することが可能であり、医療分野や食品分野等、遺伝子検査を扱う分野に応用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明のピロリン酸検出装置を示す図
【符号の説明】
【0035】
1 反応溶液
2 注入チューブ
3 測定極
4 対極
5 参照極
7 撹拌子
8 スタラーマシン
9 電極固定器具
10 セル
20 電気化学測定システム
21 パソコン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピロリン酸を検出する方法であって、
アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;
及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、
ここで、該電流値が試料中のピロリン酸の濃度を示す、
ピロリン酸の検出方法。
【請求項2】
前記電子メディエーターが、フェリシアン化物、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、ジメチルベンゾキノン、1−メトキシ−5−メチルフェナジニウムサルフェート、メチレンブルー、ガロシアニン、チオニン、フェナジンメトサルフェート、およびメルドラブルーからなる群より選択される少なくとも一種である、請求項1に記載のピロリン酸検出方法。
【請求項3】
核酸を検出する方法であって、
該核酸の配列に相補的な配列を持つDNAプライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチドを含む反応系に試料を供し、該DNAプライマーが該核酸の相補的な配列に結合し、該DNAプライマーからの伸長反応に伴って、ピロリン酸が生成される工程;
該試料を、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;
及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、ここで、該電流値が、該試料中の特定配列を有する核酸の濃度を示す、核酸の検出方法。
【請求項4】
前記DNAプライマーからの伸長反応がPCR反応である請求項3に記載の核酸の検出方法。
【請求項5】
DNAのSNP配列をタイピングする方法であって、アレル特異的プライマー、DNAポリメラーゼ、デオキシヌクレオチドを含む反応系に試料を供し、該アレル特異的プライマーが該核酸の目的の配列のうち相補的な配列に結合し、該アレル特異的プライマーからの伸長反応に伴って、ピロリン酸が生成される工程;
該試料を、アデノシン一リン酸(AMP)、ホスホエノールピルビン酸(PEP)、ピルビン酸リン酸ジキナーゼ(PPDK)、リン酸(Pi)、チアミン二リン酸(TPP)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、マグネシウムイオン(Mg2+)、ピルビン酸脱水素酵素(PDH)、及び電子メディエーターを含む測定系に試料を供する工程;
及び該測定系において電流値を測定する工程を包含し、ここで、該電流値の発生が該試料中のSNP配列の有無を判別する手段である、SNP検出方法。
【請求項6】
前記アレル特異的プライマーからの伸長反応がPCR反応である、請求項5に記載のDNAのSNP配列をタイピングする方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−200656(P2010−200656A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−48770(P2009−48770)
【出願日】平成21年3月3日(2009.3.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】