説明

ファウリングを抑制させるための耐食材料、改良された耐食性およびファウリング抵抗性を有する伝熱装置、およびファウリングを抑制させるための方法

【課題】高温のプロセスストリームに曝される金属チューブ熱交換装置に腐蝕および腐蝕に誘導されるファウリングに対する抵抗性を賦与する。
【解決手段】内側表面および外側表面を有するプロセスストリームを加熱するための伝熱装置10であって、前記伝熱装置10は、X、YおよびZを含むスチール合金で形成されるチューブであり、前記チューブは、40マイクロインチ(1.1μm)未満の算術平均表面粗さを有するスチール合金からなる基材層、内側表面および外側表面の少なくとも一方の上に形成された10〜40重量%のクロムを含有するクロム富化酸化物層、硫化物、酸化物、酸硫化物またはそれらの混合物を含む前記クロム富化酸化物層、の3層を含むことを特徴とする伝熱装置10等の表面上に形成された表面保護層。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、米国仮特許出願第60/751,985号明細書(出願日:2005年12月21日、発明の名称:「Corrosion Resistant Material For Reduced Fouling, A Heat Exchanger Having Reduced Fouling And A Method For Reducing Heat Exchanger Fouling in a Refinery」)および、米国仮特許出願第60/815,844号明細書(出願日:2006年6月23日、発明の名称:「A Method of Reducing Heat Exchanger Fouling in a Refinery」)、および米国仮特許出願第60/872,493号明細書(出願日:2006年12月4日、発明の名称:「An Insert and Method For Reducing Fouling In A Process Stream」に関し、それらの優先権を主張するものであり、これらの開示内容を、具体的に参照することにより本明細書に援用する。
【0002】
本発明は、一般に、スルフィド化または硫化物腐食の抑制および析出ファウリングの抑制に関し、特に伝熱装置におけるスルフィド化/硫化物腐食の抑制および析出ファウリングの抑制に関するが、そのような伝熱装置としては、製油所設備および石油化学処理設備中に位置する熱交換器、炉および炉管、並びにファウリングを起こしやすいプロセスストリームを輸送または移送するために使用されるその他の装置などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。更に詳しくは、本発明は、プロセスストリームに伴う腐食およびファウリングの抑制に関する。本発明は、所望の表面粗さを有する耐食材料を使用することと、振動、脈動および内部乱流プロモーターを適用することとを組み合わせた、伝熱装置におけるファウリングを抑制するための方法に関する。
【背景技術】
【0003】
製油所および石油化学処理用途においては、その設備内の各種の場所に伝熱装置が使用されていて、処理流体(たとえば、原油またはその誘導体)の温度を調節(即ち、加熱または冷却)している。伝熱装置(たとえば、熱交換器、炉、および炉管)は、オイルの温度を予熱するために、炉の近くにあって、その後で炉(即ち、後系列(late−train))の中に入ってもよい。典型的なチューブ・イン・シェル式熱交換器には、複数の管が含まれていて、オイルはその中またはその周囲を通過することができる。高温流体と低温流体が、熱交換器ユニットのチャンバーまたは管に別途に入る。高温流体がその熱を低温流体に移動させる。熱交換器は、一方の流体から他方への熱を効率的に移動させるように設計されている。高温流体と低温流体が合流することはない。伝熱は、高温の液体と低温の液体を隔てている管壁を通して行われる。正しい流速を採用し、隔壁の面積を最大化させることによって、熱交換器の性能を最適に調節することが可能となる。各種その他の熱交換器の設計様式、たとえばスパイラル熱交換器、チューブ・イン・チューブ熱交換器、およびプレート・アンド・フレーム熱交換器もまた、実質的には同様の原理で作動する。
【0004】
オイルと熱交換器との間での接触を用いた通常の使用をしている間に、腐食と析出物の堆積とが起きる。この析出物の堆積は通常「ファウリング」と呼ばれる。ファウリングは、熱交換器の最良の調節に悪影響を与える。この文脈におけるファウリングは、熱交換器の管の表面上への望ましくない固形物の析出であって、そのために熱交換器の効率が低下する。ファウリングは、熱交換器に限られるものではない。ファウリングは、他の伝熱装置や、プロセス流体を輸送するための輸送装置においても起こりうる。伝熱効率の損失は、炉における燃料消費量の上昇と、処理能力の低下を招く。流体輸送装置中でファウリング物が堆積すると、処理能力の低下、ポンプ機器での負荷の増大、およびファウリング物の大きな塊が時々剥がれて下流に流れることによる、下流の装置の閉塞などが起きる。ファウリングの結果として、輸送装置および伝熱装置は、定期的に使用状態から外して洗浄しなければならない。このことは、保守のためのシャットダウンのために、設備全体の信頼性を低下させる。このことは更に、ファウリングを起こした熱交換器とプロセス流体輸送管を保守するための清浄作業用の人間が必要となるために、労働力が余分に必要となる。また別な問題点は、その清浄化プロセスによって生じる揮発性有機物の放出が増えることである。
【0005】
通常使用の間にも、熱交換器の管の表面は、原油および他の石油留分のストリームに長時間暴露された結果として腐食される。管の表面上が腐食されると、表面が平らでなくなり、そのことがファウリングを昂進させることがあり得るが、その理由は、石油ストリームの中に見出される各種の粒子がその粗面化された表面に自体付着する可能性があるからである。ファウリングは、処理される原油ばかりでない。管中の原油を加熱するために、多くの場合、減圧残留ストリームが使用される。それらのストリームには固形分が含まれていることが多く、ファウリング性が高い。ファウリングは、空気を含む他のプロセスストリームでも起こりうる(空気だけに限定される訳ではない)。ファウリングは、プロセスガス(たとえば空気)を含む他のプロセスストリームでも起こりうる(プロセスガスに限定される訳ではない)。
【0006】
ファウリングの問題は、石油精製および石油化学処理を超えて広い分野で存在しているが、原油が存在しているということがファウリングを防止することに障害を与えていて、これは、石油精製および石油化学処理に特有なもので、他の産業には存在しない。ファウリングの文脈においては、原油は実際のところ、地下の油層から抜き出した単なる石油製品以上のものである。原油は、有機および無機成分の複雑な混合物であって、熱交換器管の表面管の両側表面、バッフルおよび管板など(これらに限定される訳ではない)、熱交換器管の表面上に各種のファウリング析出物を発生させる可能性がある。たとえば、製油所から受け入れたままの原油は、多くの場合腐食の副生物たとえば硫化鉄を含んでいるが、これは、掘削管、パイプライン、タンカーの船倉、および原油貯蔵タンクの腐食によって生成したものである。この物質は、通常の条件下では、熱交換器の中で析出して、析出ファウリングとなる。原油は多くの場合、水性の夾雑物を含んでおり、それらのいくつかは、製油所に到達する。脱塩を用いてその物質のほとんどを除去するが、それらの夾雑物のいくつかは脱塩装置を通過して、原油予熱系統の中に入る。それらの溶解塩もまた、析出ファウリングの原因となりうる。塩化ナトリウムおよび各種の炭酸塩は、このタイプのファウリング析出物の典型である。古い油層からの原油の生産を向上させるために次から次へと化学物質が使用されるので、更なる無機物質が原油の中に入って製油所に到着し、ファウリングの有力な原因となっている。
【0007】
原油は典型的には製油所でブレンドされるが、ある種のタイプの原油を混合することが、また別なタイプのファウリング物質の原因となることもありうる。相溶性のない原油とブレンドすると沈殿を発生させるアスファルテン系物質は多くの場合、主として有機質タイプのファウリングとなり、これが長時間加熱されると、炭素質またはコークス状のファウリング析出物が生成する。原油には酸性の成分が含まれていることも多く、これもまた熱交換器材料を直接的に腐食する。ナフテン酸は表面から金属を除去してしまうし、硫化成分は、硫化物腐食を起こして、硫化鉄を形成させる。形成されたこの硫化物スケールは、スルフィド誘導ファウリングと呼ばれることが多い。
【0008】
合成原油は、ビチューメン、シェール、タールサンドまたは超重質油を処理することによって誘導され、製油所の運転で処理される。それらの合成原油は、更なるファウリングの問題を持ち込むが、その理由は、それらの物質が、典型的な製油所で処理するには重質すぎ、夾雑物が多すぎるからである。それらの物質は、多くの場合、製造サイトで前処理されてから、合成原油として製油所に送り込まれる。それらの原油には、たとえばタールサンドの場合のように、微粒子状のケイ素質の無機物質が含まれている。いくつかのものには、ある種の反応性オレフィン系物質も含まれていて、それらは、熱交換器の中でポリマー系のファウリング析出物を形成しやすい。この説明からも理解できるように、原油は、広い範囲のタイプのファウリング析出物を形成させることが可能な、複雑な混合物である。
【0009】
現在、製油所の運転におけるファウリングを抑制するために使用可能な、各種の方法が存在している。一つの方法は、ファウリング性の高い原油や腐食性の原油の購入を避けることである。しかしながら、これは、製油所に供給可能な供給原料の貯蔵を低下させる。更に、原油を試験して、その原油がその製油所において相溶性があるかどうかを調べることも可能である。この場合もまた、このことによって製油所に供給可能な供給原料が減少する可能性がある。抗ファウリング剤を、製油所ストリームに添加してもよい。これらの方法は、伝熱装置内のファウリング速度を低下させるのには有用であるが、ある種の条件下では、それでもなおファウリングが起こりうる。夾雑物の堆積を除去して清浄化させるために、依然として熱交換器を定期的に使用状態から取り外さなければならない。炉管をラインから取り外し、ファウリングが析出しているために、水蒸気−エアデコーキングまたはピギングしなければならない。それに代わる他の清浄化方法としては、機械式の機器(たとえば、「スピレルフ(SPIRELF)」および「ブラシ・アンド・バスケット(brush and basket)」機器)の使用が挙げられる。しかしながら、それらの機器は、信頼性が低く、保守の必要頻度が高い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
現行の方法に付随する欠点を有することなく、製油所および石油化学処理運転における伝熱装置中のファウリングを顕著に抑制する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一つの態様は、ファウリング抵抗性の高い伝熱装置を提供することである。その伝熱装置は、プロセス流体またはストリームの温度を、上げるかまたは下げるかのいずれかのために使用される。そのプロセス流体またはストリームは、好ましくは原油ベースのものであり、製油所または石油化学設備で処理される。しかしながら、本発明は、原油の使用だけに限定することは意図されておらず、他のプロセスストリームもまた、充分に本発明の範囲内であると考えている。その伝熱装置は、製油所または石油化学設備の中の熱交換器、炉、炉管、またはその他の装置であってよく、それらは、一つの媒体から、これまたファウリングを起こしやすい他の媒体へ熱を伝達させることが可能なものであって、非限定的な例としては以下のようなものが挙げられる:原油予熱器、コーカー予熱器、FCCスラリー塔底物、脱ブタン交換器/塔、その他の供給原料/流出物熱交換器、並びに製油所設備における炉エア予熱器および石油化学設備におけるフレア圧縮機装置および水蒸気分解装置/改質装置の管。伝熱装置には、少なくとも一つの伝熱要素が含まれる。その伝熱装置が、製油所ストリームにおける原油を、その原油が炉に入る前に加熱するための熱交換器であって、それにより熱交換器がファウリングに対する抵抗性を有していることが考えられている。その熱交換器は、ハウジングの内部に位置する管束を有する、チューブ・イン・シェルタイプの熱交換器であってもよい。本発明は、チューブ・イン・シェル熱交換器に限定されることは意図されておらず、むしろ本発明は、石油および/または減圧残留ストリームにかけたときに、ファウリングを起こしやすいその他の熱交換器においても用途を有している。チューブ・イン・シェル熱交換器には、中空の内部を形成させる壁面を有するハウジングが含まれている。その壁面は、中空の内部に隣接した内側表面を有している。その伝熱要素は、ハウジングの中空の内部の中に位置する管束であってよい。原油は、その原油が管束の上を流れながら、熱交換器ハウジングの中空の内部で加熱される。その管束には、好ましくは、複数の熱交換器管が含まれる。
【0012】
本発明の一つの態様は、プロセスストリームに暴露させたときにスルフィド化腐食および腐食ファウリングに対する抵抗性がある、プロセスストリームを加熱するための伝熱装置を提供することである。その伝熱装置には、中空の内部を形成する壁面を有するハウジングが含まれ、その壁面は、内部表面、そのハウジングの中空の内部の中のプロセスストリームを加熱するために、ハウジングの内部に位置する少なくとも一つの伝熱要素を有している。本発明においては、内部表面および少なくとも一つの伝熱要素の少なくとも一つは、40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有している。その表面粗さが20マイクロインチ(0.5μm)未満であれば好ましい。その表面粗さが10マイクロインチ(0.25μm)未満であれば、より好ましい。少なくとも一つの伝熱要素は、スルフィド化腐食および腐食に誘導されるファウリングに対する抵抗性を有する組成物から形成されている。
【0013】
その伝熱装置が熱交換器であってもよく、またその少なくとも一つの伝熱要素が複数の伝熱管を有する管束であって、ここで、その伝熱管のそれぞれが、内径表面および外径表面を有し、その内径表面および外径表面の少なくとも一つが、40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有している。その伝熱装置の壁面の内部表面、並びにその複数の熱交換器管の内側および/または外側表面の少なくとも一つが、本発明に従って、40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有する様に形成されていれば、好ましい。その表面粗さが20マイクロインチ(0.5μm)未満であれば好ましい。その表面粗さが10マイクロインチ(0.25μm)未満であれば、より好ましい。それらの複数の熱交換器管の内側および外側の両方の表面が上述の表面粗さを有しているのがよいと考えられる。そのような表面粗さであると、ファウリングが顕著に抑制される。管の内径の内部が滑らかな表面になっていると、その管の中を流れる石油ストリームのファウリングが抑制される。管の外径上およびハウジングの内部表面上が滑らかな表面になっていると、そのハウジング内部の減圧残留ストリームのファウリングが抑制される。管の位置を固定するための熱交換器の内部に位置するバッフルの表面および管板の表面もまた上述の表面粗さを有していてもよい、と考えられる。そのような表面粗さは、それらの要素の上でのファウリングを顕著に抑制することであろう。
【0014】
本発明の一つの態様は、伝熱装置の中で使用するための、スルフィド化腐食および腐食ファウリングに対する抵抗性を有するスリーブを提供することである。その伝熱装置には、内径表面および外径表面を有する少なくとも一つの伝熱要素が含まれるが、ここでその伝熱要素は第一の材料から形成される。本発明に従ったスリーブは、伝熱要素の内径表面および外径表面の一つと接触させるように構成された第一の表面と、プロセスストリームと接触させるように構成された第二の表面とを有するが、ここでその第二の表面は40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有する。そのスリーブは、スルフィド化腐食および腐食に誘導されるファウリングに対する抵抗性を有する組成物から形成されている。
【0015】
伝熱装置の少なくとも一部および/またはスリーブを形成させるために、スルフィド化または硫化物腐食およびファウリングに対する抵抗性を有する組成物を使用することによって、ファウリングおよび腐食が顕著に抑制され、それにより、多くの利点が得られるが、そのような利点を挙げれば、加熱効率における向上、原油を加熱するために必要な全エネルギー量の低下、製油所の処理能力の向上、および製油所の稼働停止時間の顕著な低下である。
【0016】
本発明の一つの態様においては、スリーブまたは伝熱装置のための組成物は、X、Y、およびZを含むスチール組成物であって、ここでXは、Fe、Ni、Co、およびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、ここでYは、Crであり、そしてここでZは、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、P、およびSからなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素である。スリーブまたは伝熱要素はその上に形成されたCr富化層を含み、ここでそのCr富化層は更に、スチール組成物X、YおよびZから形成されている。Cr富化層におけるYのXに対する比率は、その伝熱要素またはスリーブの残りの部分におけるYのXに対する比率よりも大きい。Cr富化層は、少なくとも伝熱要素の表面への電解研磨法、電気めっき法、溶射コーティング法、レーザー蒸着法、スパッタリング法、物理蒸着法、化学蒸着法、プラズマ粉体溶接オーバーレイ法、クラッディング法、および拡散接合法の一つによって、形成させてもよい。そのCr富化層の外側表面の上に、保護層を形成させてもよい。保護層には、マグネタイト、鉄−クロムスピネル、酸化クロム、およびそれらの混合物からなる群から選択される酸化物が含まれる。その保護層は、Cr富化層を1100℃までの高温でプロセスストリームに暴露させたときに形成される。
【0017】
本発明のまた別な態様においては、スリーブまたは伝熱装置のための組成物は、その上に配したアルミニウムまたはアルミニウム合金層を有する炭素鋼である。
【0018】
本発明のまた別な態様においては、スリーブまたは伝熱装置のための組成物は、1種のアルミニウム、チタン、クロム、およびアルミニウム、チタン、クロムの合金である。
【0019】
本発明のまた別な態様においては、スリーブまたは伝熱装置のための組成物は、組成物δ、ε、およびζから形成されるクロム富化酸化物含有物質である。ζは、少なくとも約5〜約40重量%のクロムを含むスチールである。εは、スチールζの表面上に形成されたクロム富化酸化物(M、Mまたはそれらの混合物)である。Mは、金属Mの全重量を基準にして少なくとも5重量%のCrを含む金属である。δは、クロム富化酸化物εの表面上に形成されたトップ層であって、硫化物、酸化物、酸硫化物、およびそれらの混合物を含む。トップ層δには、硫化鉄(Fe1−xS)、酸化鉄(Fe)、酸硫化鉄、鉄−クロム硫化物、鉄−クロム酸化物、鉄−クロム酸硫化物、およびそれらの混合物が含まれる。クロム富化酸化物(M、Mまたはそれらの混合物)の金属Mには、Fe、Cr、およびスチールζの構成元素が含まれていてよい。スチールζは、低クロムスチール、フェライト系ステンレススチール、マルテンサイト系ステンレススチール、オーステナイト系ステンレススチール、二相ステンレススチール、および析出硬化合金から選択されてもよい。
【0020】
本発明のまた別な態様においては、スリーブまたは伝熱装置のための熱交換表面の組成物が、ケイ素含有スチール組成物であって、それには、合金および、合金の表面の上に形成された非金属膜も含まれる。合金は、組成物η、θ、およびιから形成される。ηは、Fe、Ni、Co、およびそれらの混合物からなる群から選択される金属である。θは、Siである。ιは、Cr、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、La、Y、Ce、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb、Pb、B、C、N、P、O、S、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素である。非金属膜には、硫化物、酸化物、炭化物、窒化物、酸硫化物、酸炭化物、酸窒化物、およびそれらの混合物が含まれる。金属ηには、少なくとも約60重量%〜約99.98重量%の合金が含まれていてよい。合金化金属θには、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%の合金が含まれていてよい。合金化金属θには、少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%の合金が含まれているのが好ましい。合金化元素ιには、少なくとも約0.01重量%〜約40.0重量%の合金が含まれる。合金化元素ιには、少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%Alの合金が含まれているのが好ましい。合金化元素ιには、少なくとも約0.01重量%〜約30.0重量%Crの合金が含まれていてもよい。合金化元素ιには、少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%Al、および少なくとも約0.01重量%〜約30.0重量%Crの合金が含まれていてよい。合金の表面上の非金属膜には、厚みが少なくとも1nmのSiで仕切られた(Si−partitioned)非金属膜を含んでいてよい。その非金属膜は多層非金属膜であって、その非金属膜の濃度を基準にして少なくとも10原子パーセントのSiからなる。
【0021】
ファウリングを更に抑制および/または限定させるために、その伝熱装置には、その伝熱要素に振動力を与えるための振動発生機器を含んでいるか、或いはそれに操作可能に結合されていてもよく、その結果、熱交換器の内部を流れる液体に剪断的な動きが与えられる。伝熱装置の内部におけるこの剪断的な動きまたは乱流が、伝熱要素の壁面に近接した粘稠な境界層を減らすことによって、その構成要素の表面上でのファウリング物の形成が限定される。その伝熱装置には、プロセスストリームに圧力の脈動を与える脈動機器を含んでいるか、或いはそれに操作可能に結合されていてもよい。
【0022】
本発明のまた別な態様は、プロセスストリームのための熱交換器中におけるファウリングを抑制するための方法を提供することである。その熱交換器には、複数の既存の熱交換器管が存在している。その方法には、その熱交換器から複数の既存の熱交換器管の少なくとも一部を除去し、複数の置換え用熱交換器管を取り付けることが含まれる。複数の置換え用熱交換器管のそれぞれは、上述のスルフィド化腐食およびファウリングに対する抵抗性を有する組成物から形成されており、40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有している。或いは、それぞれの置換え用の管には、その中に位置するスリーブが含まれていてもよい。それらのスリーブは、スルフィド化腐食および腐食に誘導されるファウリングに対する抵抗性を有する組成物から形成される。
【0023】
本発明のまた別な態様は、高温でプロセスストリームに暴露される金属表面に、スルフィド化耐腐食性および腐食に誘導されるファウリング抵抗性を与えるための方法を提供することである。その方法に含まれるのは、X、Y、およびZを含む組成物から形成された、40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有する金属層を設ける工程であって、ここでXは、Fe、Ni、Co、およびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、ここでYはCrであり、そしてここでZは、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、P、およびSからなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素であるが、ここでそのCr富化層はその金属層の上に位置し、ここでそのCr富化層は更に、スチール組成物X、Y、およびZから形成されるが、そのCr富化層中のYのXに対する比率は、金属層におけるYのXに対する比率よりも高い。その方法には更に、Cr富化層の表面上に保護層を形成させる工程もまた含まれる。
【0024】
本発明の更に別な態様は、伝熱装置の表面にスルフィド化耐腐食性および腐食に誘導されるファウリング抵抗性を与えるための方法を提供することである。その方法には、合金を含むケイ素含有スチール組成物を設ける工程が含まれるが、その合金は、組成物η、θ、およびιから形成され、ここで、ηは、Fe、Ni、Co、およびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、θはSiであり、そしてιは、Cr、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、La、Y、Ce、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb、Pb、B、C、N、P、O、S、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素である。その方法には更に、その合金の表面上に、40マイクロインチ(1.1.μm)未満の表面粗さを有する非金属膜を形成させる工程が含まれるが、ここでその非金属膜には、硫化物、酸化物、炭化物、窒化物、酸硫化物、酸炭化物、酸窒化物、およびそれらの混合物が含まれる。
【0025】
本発明の更に別な態様は、伝熱装置の表面にスルフィド化耐腐食性および腐食に誘導されるファウリング抵抗性を与えるための方法を提供することである。その方法には、少なくとも約5〜約40重量%のクロムを含むスチール表面を得ることが含まれる。その方法には更に、スチールの表面上にクロム富化酸化物(M、Mまたはそれらの混合物)を形成させることが含まれ、ここでMは、金属Mの全重量を基準にして少なくとも5重量%のCrを含む金属である。その方法には更に、そのクロム富化酸化物の表面上に、硫化物、酸化物、酸硫化物、およびそれらの混合物を含む、40マイクロインチ(1.1.μm)未満の表面粗さを有するトップ層を形成させることが含まれる。
【0026】
ここで、以下の図面に関連させて本発明を説明するが、これらの図面においては、同様の参照番号は、同様の要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】製油所の運転において使用するための、複数の熱交換器管を有する熱交換器の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施態様における伝熱装置を形成させる際に使用される、スチール組成物を形成する各種の層を示す模式図である。
【図3】本発明の他の実施態様における伝熱装置を形成させる際に使用される、アルミニウムクラッド炭素鋼を形成する各種の層を示す模式図である。
【図4】本発明に従った熱交換器管の部分断面図である。
【図5】現場試験後の、従来からの熱交換器管上のファウリングを示す画像である。
【図6】現場試験後の、従来からの熱交換器管上のファウリングを示す画像である。
【図7】現場試験後の、本発明に従った熱交換器管上のファウリングが顕著に抑制されていることを示す画像である。
【図8】現場試験後の、本発明に従った熱交換器管上のファウリングが顕著に抑制されていることを示す画像である。
【図9】本発明に従った挿入スリーブの図である。
【図10】本明細書に開示された表面に従って形成されたその内径を有する伝熱装置の切断面の部分側面図である。
【図11】本明細書に開示された表面に従って形成されたその外径を有する伝熱装置の切断面の部分側面図である。
【図12】本明細書に開示された表面に従って形成されたその内径およびその外径の両方を有する伝熱装置の切断面の部分側面図である。
【図13】本明細書における第一の実施例に関連して説明されるようにして処理された表面の断面図である。
【図14】試験片についての、原子濃度対スパッター深さの関係を示すグラフである。
【図15】試験片についての、時間の経過に対する無次元温度変化を示すグラフである。
【図16】別の試験片についての、時間の経過に対する無次元温度変化を示すグラフである。
【図17】本明細書に開示された表面に従って形成されたその内径を有する伝熱装置の切断面の部分側面図である。
【図18】本明細書に開示された表面に従って形成されたその外径を有する伝熱装置の切断面の部分側面図である。
【図19】本明細書に開示された表面に従って形成されたその内径およびその外径の両方を有する伝熱装置の切断面の部分側面図である。
【図20】本明細書における第一の実施例に関連して説明されるようにして処理された表面の断面図である。
【図21】本明細書における第二の実施例に関連して説明されるようにして処理された表面の断面図である。
【符号の説明】
【0028】
10 チューブ・イン・シェル式熱交換器
11 ハウジング(シェル)
12 中空の内部
13 バンドル
14 管
15 中空の内部
21 主要層
22 Cr富化層
23 保護層
50 インサート
60 管
61 腐食層
70 管板
【発明を実施するための形態】
【0029】
添付された図面に関連させて、本発明を更に詳しく説明する。図1は、チューブ・イン・シェル式熱交換器10であって、炉(図示せず)からは上流側に位置していて、本発明の原理を採用している。本明細書に開示されているチューブ・イン・シェル式熱交換器10は、本発明の用途を説明するものであって、製油所および石油化学用途において、スルフィド化または硫化物腐食および析出ファウリングを抑制する。そのチューブ・イン・シェル式熱交換器10は、本発明に従った、腐食を抑制し、ファウリングを軽減させる手段の範囲に入る、伝熱装置の単なる一つである。本発明の原理は、他の熱交換器において使用することも意図されており、そのようなものとしては、少なくとも一つの伝熱要素を有するスパイラル熱交換器、チューブ・イン・チューブ式熱交換器、およびプレート・アンド・フレーム熱交換器などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。本発明の原理は、他の伝熱装置において採用することも意図されていて、そのようなものとしては、炉、炉管、および石油および/または減圧残留ファウリングを受けやすい他の伝熱装置などが挙げられる。熱交換器10は、製油所の運転において、炉に入る前に原油を予熱するために使用される。熱交換器10には、ハウジングまたはシェル11が含まれ、それが取り囲んで中空の内部12を形成している。図1に見られるように、熱交換器管14のバンドル13が、その中空の内部12の中に位置している。バンドル13には複数の管14が含まれている。管14は、三角配置または四角配置で配列されていてよい。その他の配列も考えられるが、それらも充分に本発明の範囲内であると考えられる。それぞれの管14は通常、中空の内部15を有していて、加熱される原油がその中を通過して流れるようになっている。加熱または加温流体(たとえば、減圧残留ストリーム)は、中空の内部12の中を流れて、原油ストリームを、そのストリームが中空の内部15の中を通過して炉の方へ流れる間に予熱する。或いは、ハウジング11の中空の内部12を通過するように原油を流してもよいとも考えられる。ハウジング11および管14が、スチール組成物で形成されているのが好ましい。ハウジング11および管14が同一の材料で形成されていてもよいと考えられる。ハウジング11および管14が異なった材料で形成されていてもよいとも考えられる。典型的には、管とハウジングは、炭素鋼または低クロム含量スチールで形成される。
【0030】
上述したように、熱交換器は、典型的には、原油に長時間暴露させた後にはファウリングを起こす。ファウリングが存在すると、熱交換器の性能が低下する。図5および6に、熱交換器管の表面上のファウリングの影響を示す。ファウリングが存在すると、処理能力が低下し、燃料消費量が増大する。図5および6に、5ヶ月の運転後での熱交換器管の内部に存在するファウリングの量を示している。このファウリングは、製油所における熱交換器効率が約31%低下することを表している。そのファウリング物には、塩化ナトリウム、硫化鉄、および炭素質物質が含まれる。図5および6から判るように、顕著な量の点食が存在している。点食は、ファウリングの問題を更に悪化させる可能性がある。
【0031】
それとは対照的に、図7および8は、本発明の原理を具体化させた熱交換器管14を用いて、ファウリングが抑制されていることを示している。図7および8に見られるその表面の横断面は、ファウリングが顕著に抑制されたことを示している。これらの管は同一の熱交換器に取り付けられ、同じ5ヶ月間の期間、同一の運転条件にかけたものである。熱交換器管14の中に存在していたファウリング物には、塩化ナトリウム、硫化鉄および炭素質物質がやはり存在していたが、ファウリング物の量は顕著に少なくなっていた。ファウリング物の厚みが、10ミクロン未満にまで減少していた。表面粗さが細かい管では、点食が少ないことも示していた。図5および6に示した従来からの管は、46mg/cmの平均ファウリング析出物重量密度を示した。それとは対照的に、本発明における原理を利用して構成された管14では、平均ファウリング析出物重量密度が少なくとも50%の低下を示した。そのサンプル管は、22mg/cmの平均ファウリング析出物重量密度を示した。析出物重量密度は、ナショナル・アソシエーション・オブ・コロージョン・エンジニアズ(National Association of Corrosion Engineers)(NACE)法TM0199−99によって求めた。図7および8に見られるファウリングにおける抑制は、本発明のメリットを表している。
【0032】
ファウリングにおける抑制は、管14および/またはシェル11の内部表面の内径表面および外径表面の表面粗さを調節した結果としても得られる。管の内径表面の表面粗さを調節することによって、管14の中におけるプロセス流体または原油のファウリングが軽減される。管14の外径表面およびシェル11の内部表面の表面粗さを調節することによって、中空の内部12の中を流れる加熱流体(たとえば、減圧残留物)によるファウリングが軽減される。本発明においては、中空の内部12の内部表面および管14の表面の少なくとも一方が、40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さを有する。表面粗さは各種の方法で測定することができる。業界においては、スキッド接触プロフィルメーターを使用するのが好まれる。粗さは通常、算術平均粗さ(Ra)として表される。サンプル長さLの間で、中心線からの不規則的粗さ成分の算術的平均高さを測定する。標準的なカットオフは、4.8mmの測定長さで、0.8mmである。この測定法は、ANSI/ASME B46.1「Surface Texture−Surface Roughness,Waviness and Lay」に合致しており、本発明における表面粗さの測定にも採用した。均質な40マイクロインチ(1.1μm)未満の表面粗さであれば、顕著なファウリングにおける抑制が得られる。
【0033】
表面粗さを更に細かくさせることが望ましい。表面粗さが20マイクロインチ(0.5μm)未満であれば好ましい。表面粗さが10マイクロインチ(0.25μm)未満であればより好ましい。内径表面と外径表面の両方が、上述の表面粗さを有しているのが好ましい。機械的研磨および電解研磨など(これらに限定される訳ではない)の、各種の方法によって、所望の表面粗さを得ることができる。図5および6に示したサンプルにおいては、それらの管の表面粗さは、38〜70マイクロインチの間で幅があった。図5および6の管は、研磨されていなかった。図7および8に示した管は、本発明の基礎となるものであるが、研磨して、より均質な20マイクロインチ(0.5μm)とした。これは、慣用される機械的研磨法を用いて達成できた。次いでそれらの管を酸性電解質の中で電解研磨すると、10マイクロインチ(0.25μm)未満の表面粗さを有す反射面が得られた。そのようにして処理された管は、ファウリングにおいて顕著な抑制を示した。
【0034】
本発明においては、管14は、スルフィド化または硫化物腐食および析出ファウリングに対する抵抗性を有するスチール組成物から形成させるのが好ましい。そのようなスチール組成物を使用すれば、ファウリングが顕著に抑制されるが、これによって多くのメリットがえられ、そのようなものとしては、加熱効率の向上、原油を予熱するために必要なエネルギー量の減少、および製油所の稼働停止時間の顕著な低下、および処理能力などが挙げられる。図3および4に見られるように、予熱熱交換器の管14および/またはハウジング11が、複数の層を有しているのが好ましい。主要層(primary layer)21は、3種の主成分または主構成要素X、YおよびZを含むスチール組成物である。Xは、好ましくはFe、Ni、およびCoからなる群から選択される金属を表す。Xには、Fe、NiおよびCoの混合物が含まれていてもよい。YはCrを表す。本発明においては、スチール組成物には、3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、少なくとも1重量%を超えるCrを含む。スルフィド化または耐硫化物腐食性を改良するためには、Cr含量をより高くするのが望ましい。3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、Cr含量が5重量%よりも高いのが好ましい。3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、Cr含量が10重量%よりも高いのがより好ましい。Zは、合金化元素であるのが好ましい。
【0035】
本発明においては、Zには、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、P、およびSからなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素が含まれているのが好ましい。Zには更に、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、P、およびSの混合物が含まれていてもよい。合金化元素の重量パーセントは、3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、好ましくは0.01重量%より高い、より好ましくは0.05重量%より高い、最も好ましくは0.1重量%より高い。スチール組成物におけるすべての合金化元素を合計した重量パーセントは、3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、好ましくは10重量%未満、より好ましくは5重量%未満である。他の組成物も本発明の範囲内であると考えられるが、上述の組成物がファウリングを抑制することが見出された。
【0036】
製油所および石油化学用途の両方で使用される、スルフィド化または硫化物腐食および腐食に誘導されるファウリングに対する抵抗性を有するスチール組成物の例を、表1に非限定的に示す。同等の性質を示すその他の材料も充分に本発明の範囲内であると考えられるが、ただし、そのような材料は上述の範囲の中に入っていなければならない。
【0037】
【表1】

【0038】
非ファウリング表面の表面をクロム富化させておくのが有利である。従って、スチール組成物にクロム富化層22が含まれているのが好ましい。Cr富化層22は、主要層21の上に形成させる。層22は、管の内部表面と外部表面との両方の上に形成させてもよい。Cr富化層22の厚みは、10オングストロームを超える。Cr富化層22には、同じ3種の主成分または構成要素X、YおよびZが含まれる。Xは、好ましくはFe、Ni、およびCoからなる群から選択される金属を表す。Xには、Fe、Ni、CoおよびTiの混合物が含まれていてもよい。YはCrを表す。Yには更にNi、O、Al、Siおよびそれらの混合物が含まれていてもよいと考えられる。Crのパーセントは、主要層21に比較すると層22の中の方が高い。本発明においては、層22中のCr含量は、3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして少なくとも2重量%よりも高い。3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、Cr含量が10重量%よりも高いのが好ましい。3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、Cr含量が30重量%よりも高いのがより好ましい。層22中のYのXに対する比率は、層21中におけるYのXに対する比率よりも高い。その比率を、少なくとも2倍より大きくするべきである。その比率を、好ましくは、少なくとも4倍より大きくするべきである。より好ましくは、その比率を、8倍より大きくするべきである。Zは、合金化元素であるのが好ましい。
【0039】
たとえば、5−クロム鋼(T5)は、公称では、約5重量%クロム/約95重量%鉄を含んでいるので、主要層21における非処理表面比が0.05となる。Cr富化層22中では、熱交換器管の表面層の中の鉄1原子あたり、少なくとも0.1まで、好ましくは0.2まで、最も好ましくは0.4クロム原子の比率にまで上げる。公称で16重量%Cr、11重量%Ni、2重量%Mn、2重量%Moの組成を有する316Lステンレス鋼の場合には、クロム対鉄のバルク比は、16/69=0.23となるであろう。表面クロムを富化させる処理をした後では、その比率を、少なくとも0.46まで、好ましくは0.92、最も好ましくは1.84にまで高めてもよい。
【0040】
Cr富化層22の中では、Zには、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、P、およびSからなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素が含まれているのが好ましい。合金化元素の重量パーセントは、3種の主構成要素X、YおよびZの合計した重量を基準にして、好ましくは0.01重量%より高い、より好ましくは0.05重量%より高い、最も好ましくは0.1重量%より高い。
【0041】
Cr富化層22を主要層21の両面に形成させて、その内部表面と外部表面の両方がCr富化層を含むようにすることも考えられる。Cr富化層22は、いくつかの方法の一つを用いて主要層21の上に形成させてもよい。Cr富化層は、クロム酸を含む溶液のなかで管を電解研磨させることによって形成させてもよい。スチール組成物中のCr含量が約15重量%未満の場合には、この方法が効果的である。Cr富化層22を各種その他の方法を用いて形成することも考えられるが、そのような方法としてはたとえば、他の合金たとえば炭素鋼の上へのクロム電気めっき法、光輝焼きなまし法、不動態化法、溶射コーティング法、レーザー蒸着法、スパッタリング法、物理蒸着法、化学蒸着法、プラズマ粉体溶接オーバーレイ法、クラッディング法、および拡散接合法などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。304Lステンレス鋼、316ステンレス鋼、およびAl6XN合金など(これらに限定される訳ではない)を含む高クロム合金を選択することもまた可能である。本発明においては、第二次層22は、上述のように機械的研磨および/または電解研磨をして、40マイクロインチ(1.1μm)未満、好ましくは20マイクロインチ(0.5μm)未満、より好ましくは10マイクロインチ(0.25μm)未満の均質な表面粗さとしてもよい。所望の表面粗さは、微細研磨または金属ピーニングを使用して達成することも可能である。
【0042】
管を光輝焼きなましすることによって、Cr富化層22を主要層21の上に形成させてもよい。光輝焼きなましは、調節された雰囲気の炉中または真空中で、酸化を最小限に抑制し、その表面が比較的光輝を保つように実施する、焼きなましプロセスである。光輝焼きなましプロセスの際に用いられるプロセス条件、たとえば雰囲気、温度、時間、および加熱/冷却速度などは、作用の対象となる合金の金属組織に依存するであろう。当業者であれば、その合金の金属組織を基準にして、それらの条件を容易に決めることができる。非限定的な例を挙げれば、オーステナイト系ステンレス鋼たとえば304Lは、純粋な水素または解離(dissociated)アンモニアのいずれの中で光輝焼きなましすることも可能であるが、ただしその雰囲気の露点が−50℃未満であり、炉へ入れる際に管が乾燥し徹底的にクリーンである必要がある。光輝焼きなまし温度は通常、1040℃よりも高い。高温における時間は通常、表面のスケーリングを最小限に保ったり、結晶粒の成長を調節したりするために短時間とする。
【0043】
本発明においては、Cr富化層22の上に保護層23を形成させるのが好ましい。保護層23を形成させるためには、Cr富化層22が必要である。保護層は、酸化物層、硫化物層、酸硫化物層、またはそれらの各種組合せであってよい。保護層23には、たとえば、マグネタイト、鉄−クロムスピネル、酸化クロム、それらの酸化物、およびそれらの混合物などの物質を含んでいるのが好ましい。層23には更に、混合酸化物、硫化物チオスピネルが含まれていてもよい。予熱熱交換器10のハウジング11の内部に管14を取り付けるより前に保護層23をCr富化層22の上に形成させることも可能ではあるが、管14を熱交換器10の中に配置し、予熱熱交換器を運転状態にした後に保護層23をCr富化層22の上に形成させるのが好ましい。Cr富化層を高温でプロセスストリームに暴露させたときに、保護層23が形成される。後系列熱交換器用途においては、400℃までの温度で保護層が形成される。炉の中、または後系列熱交換器の外での用途においては、600℃までの温度で保護層が形成される。水蒸気分解装置および改質装置の管での使用を含めた、石油化学用途においては、1100℃までの温度で保護層が形成される。保護層23の厚みは、好ましくは100nm超、より好ましくは500nm超、最も好ましくは1ミクロン超である。図6および7に見られるように、5−クロム鋼の現場試験では、約4ヶ月の期間の間に、約1ミクロンの厚みのCr富化マグネタイト層が形成されることが判った。熱交換器管の中を流れるストリームオイルが、強い還元性および硫化性の環境であるために、長期間の暴露の後には、保護層23が混合酸化物−硫化物層またはチオスピネル型の硫化物層に更に転化されていることもあり得る。本出願人らは、保護層23の生成は、Cr富化層21が電解研磨された結果であるということを指摘しておく。
【0044】
保護層が形成されると、ファウリングが更に抑制される。保護層23の上に形成されるファウリング物は、保護層を有していない表面の上に形成されたファウリング物に比較して、顕著に低い粘着特性を示す。このように粘着性が低下していることのメリットの一つは、熱交換表面を清浄化する際にある。それらの管から各種のファウリング物を除去するのに必要な時間が少なくてすむ。これによって、稼働停止時間を短縮することが可能となり、その結果、予熱熱交換器をより効率的に使用し、かつ短時間でオンライン状態に戻すことが可能となる。更に、粘着性の析出物が少ないために、オンライン清浄化方法が、より効率的になるか、或いは少なくともより迅速となり、稼働停止時間および処理能力の損失が更に少なくなるであろう。
【0045】
管14の表面粗さを細かくすることには、更にいくつかのメリットがある。そのようなメリットの一つは、ファウリング析出物の厚みの連続的な増加をもたらす、ファウリング物の直線的な成長速度から、一定の厚みにまで達すると、そこで厚みの増加が停止する漸近的な成長速度へと変化することである。
【0046】
先に開示された管14を使用して、新規な熱交換器を形成させてもよい。更に、その管14を、既存の熱交換器の中で置換え用の管として使用することもできる。管14を使用することによって、製油所の運転において多大のメリットが得られる筈である。ファウリングが抑制されることに加えて、計画的な稼働停止時間の回数が減少し、ファウリングによる有害な影響が低下するために、熱交換器がより効率的に運転される。更に、現場試験で示されたように、管14を使用することによって点食腐食が抑制されるために、管の寿命も長くなるであろう。
【0047】
本発明に従った管14を使用して、計画された稼働停止時間の間に、既存の熱交換器を改装してもよい。既存の管を、その熱交換器から除去することができる。上述の表面粗さおよび/または材料組成を有する管14を、ハウジング11の内部12の中に取り付ける。ファウリングにおける抑制を最大化させるためには、既存の熱交換器管の全部を、上述の構成を有する置換え用の管で置き換えるのが好ましいが、本発明をそのように限定することは、意図していない。既存の熱交換器管の一部だけを置換え用の管に置き換えることも考えられる。そのような構成では、ファウリングにおける同一の抑制結果を得ることはできないが、ファウリングの程度を軽減させることは可能であろう。置換え用の管で置き換えるべき既存の管の数と位置は、その熱交換器中のバンドルの中の管を物理的に検査することによって、決めることができる。炉に最も近い位置にある管の方が、ファウリングを起こしやすい。従って、炉の最も近いところに位置している管を管14で置き換えることが考えられる。
【0048】
本発明の原理に従って構成された管14を使用して、伝熱装置の管の全部または一部を置き換えることは、コスト的に効果がないかもしれない。本発明のまた別な態様においては、インサート50を設けて、既存の伝熱装置を改装してファウリングを軽減させるために使用する。図9に関連づけて、インサート50の説明をする。インサート50は、インサートの外径が管60の内径表面に接触するようなサイズとする。管60は、管板70に固定する。インサート50は、既存の運転している伝熱装置の中での改装を目的としているので、管60とインサート50との間に腐食層61(たとえば、酸化された層)が存在している可能性も考えられる。管を覆うようにはめるインサートを使用することもまた可能である。この場合には、そのインサートは、外径表面上でファウリング、堆積または腐食を受けやすい管を、密接に取り囲むサイズとする。本発明に従ったインサート50は、上述の表面粗さを有する、本明細書記載の各種材料で構成してもよい。インサートまたはスリーブ50が管60に接触していて、伝熱性能が悪影響を受けたり顕著に低下したりすることがないようにするのが重要である。
【0049】
インサート50を使用する一つの利点は、既存の熱交換器を改装して、それを非ファウリング熱交換器へと転化させる点にある。このことによって、新規なバンドルを構築することに伴うコストと時間が節約される。たとえば、繰り返してのファウリングが起こり、清浄化が必要なためにかなりの稼働停止時間を必要とする既存の熱交換器を、ステンレス鋼のインサートで改装し、インサイチュの電解研磨をさせることによって、滑らかで、耐腐食性で、非ファウリング性の管内径表面を得ることが可能である。これは、(管板およびバッフルを含む)同等のステンレス鋼を用いた熱交換器バンドルと置き換え、電解研磨されたステンレス鋼管を使用するよりは、はるかに経済的なものとなるであろう。
【0050】
更なる利点は、いくつかの用途においては、所定の合金から製造した固体管で内径上でのファウリングを防止することが可能であったとしても、それを使用するのが不可能である。そのような場合でも、新規または置換えの管を用いたインサートを使用することが可能である。たとえば、管の内径上でのファウリングが、現在使用されている5−クロム管の代わりに、電解研磨されたステンレス鋼管を使用することによって防止することが可能であるという、現実世界の例が存在する。しかしながら、この場合には、シェル側または管外径が、高温の水性環境に暴露され、そこではステンレス鋼を使用することはできない。応力腐食割れが起きる可能性があるのが問題である。本発明の有利な点は、5−クロム管の中で電解研磨されたステンレス鋼インサートが使用できるという点である。電解研磨されたステンレス鋼インサートは、管内径上のファウリングを抑制し、また5−クロム管そのものは、管外径での水性環境に関しては充分なものである。同様にして、高度に腐食性があるプロセス流体が管の中を通過し、腐食性がより弱い流体がその外径と接触するような用途で使用する場合、高度に耐食性で細かい表面粗さのチタン合金インサートを、耐食性の劣った外側管の中にインサートすることが可能である。これらは、電解研磨されたインサートの使用が管の内径でのファウリングを抑制するための唯一の可能な方法であるような場合の、一般的な状況の単に二つの例である。
【0051】
インサート50は、石油および石油化学産業の領域を超えて、ファウリングに対応できる。その他可能な用途の例としては、たとえば、紙パルプ産業における黒液ファウリングおよび紙スラリーパイプ系、水処理および蒸留産業における微生物汚染(バイオファウリング)、医薬品および半導体産業における製品汚染、原子力産業における循環配管のための、汚染物付着の抑制と従来からの除汚技術の効果の向上、並びに、製品の堆積が問題となる、食品、乳製品および飲料産業において使用される配管および熱交換器などが挙げられる。ポリマーを製造するために使用される化学反応器の配管および熱交換器、更には、結晶化プロセスの際に水を除去するために使用される熱交換器におけるポリマーシーティングもまた役に立つ。本発明によって緩和させることが可能な、熱交換器および配管のファウリング例は、その他にもたくさん存在している。
【0052】
インサートを形成させるためには、多くの可能性ある金属のタイプが使用できるが、その金属の選択は、流体ストリームの性質と、防止するべきファウリングのタイプに依存するであろう。たとえばタイプ304および316のようなオーステナイト系ステンレススチールを、管インサートを製造するために使用することができるが、その他のステンレス鋼合金、たとえばマルテンサイト系ステンレススチールたとえばタイプ410、フェライト系ステンレススチールたとえばタイプ430などもまた使用することができる。その他の高性能合金、たとえばスーパーオーステナイト系ステンレススチールたとえばAL−6XN、二相スチールたとえば合金2205、およびスーパーフェライトグレードなどもまた考えられる。ある種の環境においては、ニッケルベースの合金も有用であって、そのようなものとしては、Ni−Cu、Ni−Cr−Fe、およびNi−Cr−Mo−Fe系の合金が挙げられる。コバルトおよびチタン合金、更には純粋な金属インサートもまた可能である。電解研磨またはその他の平滑化が可能である各種の金属または合金は、インサートとして使用することが可能な材料である。本明細書に記載した金属は、インサートとして用いることだけに限定される訳ではなく、それらの材料は、伝熱装置の少なくとも一部を形成させるために使用してもよいと考えられる。
【0053】
上述したように、表面粗さを細かくさせるための電解研磨またはその他の手段は、所望の表面粗さを得るために、インサート付きの管を熱交換器バンドルに取り付ける前または後のいずれで使用してもよい。場合によっては、熱交換器の中にすでに自体取り付けられた管の中にインサートを取り付けた後に、そのインサートを電解研磨するのが最も有利となることもある。別なケースとしては、インサートを組み込んだ熱交換器管を備蓄しておいて、それらを電解研磨した後で、管シートの中にそれらを丸め込む(rolled)のが好ましいこともある。前者のシナリオでは、管がまだ良好な形状で存在している比較的新しい熱交換器バンドルを改装したり、新規な熱交換器バンドルを構築したりする際には適切となるであるが、それに対して、後者は、再配管がふさわしいような、より古いバンドルを改装する際に適切となるであろう。
【0054】
ここで熱交換器管の中にインサートを取り付ける場合と同様に、外側管と管のライナーとの間に空気ギャップが存在すると生じうる伝熱ロスを最小とするためには、金属対金属の良好な接触を確保しなければならない。すべての場合において、管の内径は可能な限り清浄にし、固体や液体がまったくないようにしておいてから、インサートを膨張させるようにしなければならない。清浄化を行ったとしても、腐食層61が存在する可能性はある。清浄な表面を確保することは、新しい配管では比較的単純明快であるが、使用ずみの配管の場合には問題が大きくなる可能性がある。使用ずみの管を水ブラストすると、乾燥と軽度の機械的ホーニングが必要となる。インサートを静水的に膨張させてから、インサートの終端を機械的に丸め込ませて、インサートと外側管との間に良好な機械的シールを作る必要がある。「外側」インサート即ちスリーブを用いて使用するための管もまた同様にして調製される。
【0055】
図3に関連させて、本発明の変形形態を更に詳しく説明する。図3は、腐食を抑制し、ファウリングを軽減させるのに効果的である、アルミニウム若しくはアルミニウム合金でコーティングした炭素鋼を示している。炭素鋼層31を、アルミニウム層32を用いてコーティングまたはクラッディングする。そのアルミニウム層またはアルミニウム合金は、溶融させたアルミニウムまたはアルミニウム合金の中にその鋼を浸漬させるか、或いは、霧状にしたアルミニウム粉体またはワイヤを溶射することによって、適用されてもよい。管14で使用する場合、そのアルミニウム層32が、Cr富化層22の場合と同様に、管14の内径表面と外径表面の両方の上に存在するようにする。
【0056】
本発明のまた別な態様においては、伝熱装置たとえば熱交換管を、合金とその合金の表面上に形成された非金属膜とを含むケイ素含有スチール組成物から構成させることもできる。その合金は、物質η、θ、およびιから形成される組成物である。この場合、ηは、Fe、Ni、Co、およびそれらの混合物からなる群から選択される金属である。θは、Siである。成分ιは、Cr、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、La、Y、Ce、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb、Pb、B、C、N、P、O、S、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素である。非金属膜には、硫化物、酸化物、炭化物、窒化物、酸硫化物、酸炭化物、酸窒化物およびそれらの混合物が含まれ、合金の上に形成される。
【0057】
合金の表面上に形成される非金属膜には、Siで仕切られた酸化物、硫化物、炭化物、窒化物、酸硫化物、酸炭化物、酸窒化物、およびそれらの混合物の少なくとも1種が含まれる。非金属膜が形成される温度は、各種変化する。後系列熱交換器用途においては、400℃までの温度で非金属膜が形成される。炉の中、または後系列熱交換器の外での用途においては、600℃までの温度で非金属膜が形成される。水蒸気分解装置および改質装置の管での使用を含めた、石油化学用途においては、1100℃までの温度で非金属膜が形成される。非金属膜が形成される際に用いられる温度は、作用を受けるスチールの金属組織に依存するであろう。当業者ならば、そのスチールの金属組織を基準にして、上限温度を容易に求めることができる。Siで仕切られた酸化物または酸硫化物膜は、非金属膜の中への鉄の輸送(たとえば硫化鉄腐食スケール)を効果的に抑制するので、スルフィド化腐食が実質的に軽減される。場合によっては、ケイ素含有スチール組成物の合金表面の更なる表面平滑化によって、優れたファウリング抵抗性を有する熱交換表面、たとえば製油所用途における熱交換器管が得られる。
【0058】
具体的には、その合金のためには、Fe、Ni、Co、およびそれらの混合物からなる群から選択される金属ηが、少なくとも約60重量%〜約99.98重量%、好ましくは少なくとも約70重量%〜約99.98重量%、より好ましくは少なくとも約75重量%〜約99.98重量%の範囲の濃度を有することができる。金属ηがFeであるのが好ましい。純Feの方が、純Niおよび純Coよりは良好なスルフィド化抵抗性を有していることは周知である。
【0059】
金属θはSiである。その合金には、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%のSiを含む。合金中の金属Siは、高温のストリームたとえば、温度が400℃までまたはそれよりも高い原油ストリームに暴露されたときに、合金の表面上に形成された非金属膜の中で酸硫化物のSiで仕切られた酸化物の形成を促進する。
【0060】
金属ιは、Cr、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、La、Y、Ce、Ru、Rh、Ir、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Ga、Ge、As、In、Sn、Sb、Pb、B、C、N、P、O、S、およびそれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素である。合金中の金属ιの濃度は、少なくとも約0.01重量%〜約30.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約30.0重量%、より好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約25.0重量%の範囲である。
【0061】
金属ιがAlであるのが好ましい。その合金には、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%のAlを含む。Alは、合金に相乗的な耐スルフィド化腐食性を与える。従って、この場合の合金には、Siが、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%の量で含まれ、Alが少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%の量で含まれる。
【0062】
金属ιには更にCrを含むことができる。その場合、その合金にはCrが少なくとも約0.01重量%〜約40.0重量%の量で含まれる。Crは、合金に相乗的な耐スルフィド化腐食性を与える。従って、この組成に従った合金には、Siが、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%の量で含まれ、Crが少なくとも約0.01重量%〜約40.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約30.0重量%の量で含まれる。
【0063】
金属ιが、元素の組合せであってもよい。たとえば、その合金には、Si(成分θ)を、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%、Alを、少なくとも約0.01重量%〜約5.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約3.0重量%、そしてCrを、少なくとも約0.01重量%〜約40.0重量%、好ましくは少なくとも約0.01重量%〜約30.0重量%の量で含むことができる。
【0064】
組成物η、θ、およびιを有する合金の例を下記の表2に非限定的に列記する。
【0065】
【表2】

【0066】
合金の表面上に形成された非金属膜には、硫化物、酸化物、炭化物、窒化物、酸硫化物、酸炭化物、酸窒化物、およびそれらの混合物が含まれる。その非金属膜には、厚みが少なくとも1nmのSiで仕切られた非金属膜が含まれていてよく、またその非金属膜の濃度を基準にして少なくとも10原子パーセントのSiが含まれていてよい。そのSiで仕切られた非金属膜が酸化物または酸硫化物であるのが好ましい。そのSiで仕切られた酸化物または酸硫化物の膜は、鉄の輸送を効果的に抑制し、それによって、スルフィド化腐食が実質的に軽減される。そのSiで仕切られた酸化物または酸硫化物の膜は、伝熱装置(たとえば、熱交換器またはインサート)の露出した表面上、たとえば、後系列の原油の予熱熱交換器の管の露出した外部表面および内部表面の一方または両方の上に形成されるのが好ましい。
【0067】
非金属膜は、伝熱装置の内部で、その場で形成させることができる。最初の非金属膜は、1100℃までの高温で原油ストリームに合金を暴露させることによって形成させるのが好ましい。
【0068】
それによって、非金属膜がその合金の表面上に形成されて、熱交換器たとえば特に後系列の原油予熱熱交換器における、スルフィド化腐食を抑制し、析出ファウリングを抑制する表面を構築する。その材料は、40マイクロインチ未満、好ましくは20マイクロインチ未満、より好ましくは10マイクロインチ未満の表面粗さを有する表面を形成する。
【0069】
非金属膜は、腐食およびファウリング軽減の必要性に応じて、合金の内径(ID)、外径(OD)またはIDとODとの両方の上に形成させることができる。非金属膜は、上述したように、合金のID、OD、またはIDとODとの両方を高温に暴露させることによって、合金の表面上に形成させる。
【0070】
非金属膜は更に、伝熱装置の合金を原油ストリーム中で400℃までの高温に暴露させるより前に、形成させておくこともできる。非金属膜は、約300℃〜1100℃の温度で、非金属膜の生成をもたらすに充分な時間をかけて、合金を低酸素分圧環境に暴露させることによって、合金の表面の上に形成させることができる。その非金属膜が、合金の表面の上に、少なくとも1nmの厚みのSiで仕切られた非金属膜を含み、その非金属膜の濃度を基準にして少なくとも10原子パーセントのSiからなるのが好ましい。
【0071】
低酸素分圧環境は、CO、CO、CH、NH、HO、H、N、Ar、He、およびそれらの混合物からなる群から選択されるガスから生じさせることが可能である。非限定的な例としては、CO/COおよびHO/Hガス混合物を使用することができる。合金の表面の上に、少なくとも1nmの厚みのSiで仕切られた非金属膜を含み、その非金属膜の濃度を基準にして少なくとも10原子パーセントのSiからなる、非金属膜を形成させるのに充分な時間は、1分間〜100時間の範囲である。その非金属膜の厚みは、少なくとも約1nm〜約100μm、好ましくは少なくとも約10nm〜約50μm、より好ましくは少なくとも約100nm〜約10μmの範囲である。その非金属膜は、製油所用途の熱交換器管において有利な、優れた腐食およびファウリング抵抗性を与える。
【0072】
非金属膜を、光輝焼きなまし法によって合金の表面の上に形成させてもよい。光輝焼きなまし法とは、酸化が最小限に抑制されその表面が比較的光輝のある状態に維持されるような低酸素分圧環境を与えるための、調節された雰囲気の炉または真空炉中で実施される、焼きなましプロセスである。光輝焼きなましプロセスの際に用いられるプロセス条件、たとえば雰囲気、温度、時間、および加熱/冷却速度などは、作用の対象となる合金の金属組織に依存する。当業者であれば、その合金の金属組織を基準にして、それらの条件を容易に決めることができる。非限定的な例を挙げれば、光輝焼きなましは、純水素若しくはアルゴンまたは解離アンモニアのいずれかの中で実施することができるが、ただし、その雰囲気の露点は−40℃未満である。光輝焼きなまし温度は通常、約1038℃よりも高い。高温における時間は通常、表面のスケーリングを最小限に保ったり、結晶粒の成長を調節したりするために短時間とする。真空炉は通常、光輝焼きなましの目的のためには最適な雰囲気の質を与えることができる。炉中の真空レベルは、1×10−3トルより高くしなければならない。真空炉における急速冷却は一般的に、アルゴンまたは窒素を用いてチャンバーを再充填し、次いでそのガスを高速で熱交換器に通して再循環させることによって達成される。
【0073】
図10に、熱交換構成要素、この場合パイプ200を示すが、合金η、θ、およびιから形成された基材202、並びにその合金基材のID表面の上に形成された非金属膜204を有している。
【0074】
図11に、熱交換構成要素、この場合パイプ200を示すが、合金η、θ、およびιから形成された基材202、並びにその合金基材のOD表面の上に形成された非金属膜204を有している。
【0075】
図12に、熱交換構成要素、この場合パイプ200を示すが、合金η、θ、およびιから形成された基材202、並びにその合金基材のIDおおびOD両方の表面の上に形成された非金属膜204を有している。
【0076】
本明細書に開示された組成物に従ったサンプルを調製する実施例を以下に挙げる。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
上述の表に列記されたケイ素含有スチールを、アーク溶融法によって調製する。アーク溶融されたスチールを熱間圧延して、厚み約1/2インチの厚いシートとする。そのシートを、不活性アルゴン雰囲気中1100℃で一夜かけて焼きなましをし、炉を冷却して室温とする。0.5インチ×0.25インチの長方形のサンプルを、そのシートから切り出す。そのサンプルの表面を研磨して、600グリット仕上げまたはリンデB(Linde B)(0.05μmアルミナ粉体)仕上げのいずれかとし、アセトン中で洗浄する。そのサンプルを、チュービングボンベ(tubing bomb)試験装置中で、60:40(容量%)混合原油(たとえば、60容量%マヤ(Maya)および40容量%オルメカ(Olmeca)の混合原油)に400℃で4時間暴露させる。試験の後、トルエン、アセトンの順に使用してその試験片を洗浄し、選択した分析機器により特性解析する。
【0078】
その試験した試験片の表面と断面の両方の画像を、走査型電子顕微鏡法(SEM)を用いて調べる。ケイ素含有スチール組成物中の元素の原子パーセントを、標準オージュ電子顕微鏡法(AES)分析により求める。焦点をしぼった電子ビームを試験片の表面を照射させると、オージェ電子が発生するが、そのエネルギーは、それを発生させた元素に特徴的なものである。元素の組成物の深さ方向のプロファイル作成は、独立したイオンビームを使用してサンプル表面をスパッターし、その一方でAESを使用してそれぞれ深さを連続的に分析することにより、実施する。
【0079】
(実施例2)
市販されているALCOR(アルコル)加熱液体プロセスシミュレーター(Hot Liquid Process Simulator)(HLPS)を使用して、以下の実施例に記載する原油またはブレンド物の相対的なファウリング特性(fouling potential)を評価する。この試験のための設計された試験ユニットの手順は以下のとおりである。
【0080】
標準ALCOR(アルコル)HLPS試験手順においては、ALCOR(アルコル)試験を、1リットルのリザーバーに原油またはブレンド物を仕込み、その液体を(150℃までに)加熱し、それをポンプ輸送して、垂直に位置させた炭素−スチールロッドに対して、3.0mL/分の流速で横切らせる。使用したオイルをALCOR(アルコル)リザーバーの上部に集め、それをシールピストンによって未処理のオイルから分離することによって、ワンパス操作を可能とする。それぞれの試験を実施する前に窒素(400〜500psig)を用いてその系を加圧し、試験の間ガスがオイルの中に溶解したままで留まるようにする。そのロッドを電気加熱して所定の温度とし、試験の間一定に維持する。これらの試験に使用するロッドの表面温度は275℃である。バルクの流体入口温度、出口温度(Toutlet)、およびロッドの表面の温度(Trod)について、熱電対の読みを記録する。加熱表面用熱電対は、ロッドの内側に位置させる。
【0081】
ファウリング試験の間に、アスファルテンが加熱表面の上に析出し、熱分解されてコークとなり、それが試験ロッドの表面上に蓄積していく。コークが析出するために、断熱効果が生じ、それがその加熱表面がその上を通過するオイルを加熱する効率および/または能力を低下させる。時間の経過と共に、その表面上にファウリング物がますます蓄積していくために、その結果、出口のバルク流体温度における低下が続く。この温度における低下が、出口液体デルタTと呼ばれ、これは、原油/ブレンド物のタイプ、試験条件、およびその他の影響に依存する。従って、デルタTは次式で表される。
【0082】
ΔT=Toutlet−Toutlet max
【0083】
デルタTは、ファウリング物層の伝熱の目安である。無次元デルタTは、次式で表される。
【0084】
無次元ΔT=(Toutlet−Toutlet max)/(Trod−Toutlet max
【0085】
無次元ΔTは、試験されたオイルの伝熱特性を補正している。
【0086】
これらの試験のための試験時間は、180分である。注目すべきは、ALCOR(アルコル)系のための流動域が層流であり、そのために現場試験との間の直接的な相関が困難であるということである。しかしながら、このユニットは、原油とブレンド物との間の相対的なファウリング特性を評価するには有効であることが証明された。
【0087】
原油/ブレンド物全体で使用した、ALCOR(アルコル)ユニット標準ファウリング試験パラメーターおよび操作試験条件を以下にまとめる。
流速/タイプ:3.0mL/分/ワンパス操作
金属組織:炭素鋼(1018)、合金1、合金4、ヒーターロッド
系圧力:400〜500psi
ロッド表面温度:275℃
系の温度設定(リザーバー、ポンプ、配管):150℃
実際のバルク流体入口温度:105〜120℃
時間:試験の開始前30分間、リザーバーの中での撹拌および予熱を行う。
【0088】
ALCOR(アルコル)試験のロッド試験片には、ケイ素含有スチール、合金1、および合金4が含まれているが、それらはアーク溶融法によって調製する。アーク溶融された合金は熱間圧延して、厚み約1/2インチの厚いシートとする。そのシートを、不活性アルゴン雰囲気中1100℃で一夜かけて焼きなましをし、炉を冷却して室温とする。ALCOR(アルコル)ロッド試験片は、シートから機械加工する。そのサンプルの表面を研磨して、600グリット仕上げまたはリンデB(Linde B)(0.05μmアルミナ粉体)仕上げのいずれかとし、アセトン中で洗浄する。
【0089】
第一の試験片については、合金1をチュービングボンベ試験装置中で、400℃で4時間、60:40容量%の混合原油に暴露させる。試験の後、その試験片をSEMによって特性解析する。図13に、その試験をした試験片の表面および断面の画像を示す。外側の硫化鉄(Fe1−xS)と内側のSiで仕切られた酸硫化物を含む非金属膜が観察される。その非金属膜は、ケイ素含有スチール表面の上に形成されている。同一の試験をした試験片を、AESによって特性解析する。
【0090】
図14に、その試験をした試験片の上側表面からの、AES深さプロファイルを示す。原子%で表した各種の元素(O、S、C、Fe、およびSi)の濃度を、スパッター深さ(単位nm)の関数としてプロットしている。このケースにおいては、非金属膜が外側の硫化鉄(Fe1−xS)と内側のSiで仕切られた酸硫化物との混合物として現れている。外側の硫化鉄膜の厚みは約800nmであり、内側のSiで仕切られた酸硫化物膜の厚みは約1000nmである。内側のSiで仕切られた酸硫化物膜のSi濃度は、厚みによって変化するが、14原子%にもなる。その非金属膜の濃度を基準にして少なくとも10原子パーセントのSiを含むSiで仕切られた酸硫化物膜の厚みは約500nmである。
【0091】
その第二の試験片においては、上述のALCOR(アルコル)HLPS試験法に従って、合金1から作成したALCOR(アルコル)ロッドをALCOR(アルコル)ユニットの中で試験する。図15に、合金1(図の中でFe−3.0スチールとして示す)の試験結果を標準ロッド(図の中で1018CSとして示す)と共に示す。合金1の無次元ΔTは、試験時間の180分間ほとんど一定に保たれている。この結果から、本発明のケイ素含有スチール組成物を使用することによって、析出ファウリングが実質的に抑制されたことが示唆されている。それに比較して、1018CSの無次元ΔTは試験時間の180分間の間に、時間の経過と共に低下している。この結果から、混合原油のアスファルテンが加熱されたALCOR(アルコル)ロッド表面の上に析出し、熱分解されてコークとなり、それが試験ロッドの表面上に蓄積していることが示差される。
【0092】
その第三の試験片においては、上述のALCOR(アルコル)HLPS試験法に従って、合金4から作成したALCOR(アルコル)ロッドをALCOR(アルコル)ユニットの中で試験する。図16に、合金4(図の中で、Bal.Fe:5Cr:1.5Siとして示す)の試験結果を標準ロッド(図の中で1018CSとして示す)と共に示す。合金4の無次元ΔTは、試験時間の180分間ほとんど一定に保たれている。この結果から、本発明のケイ素含有スチール組成物を使用することによって、析出ファウリングが実質的に抑制されたことが示唆されている。それに比較して、1018CSの無次元ΔTは試験時間の180分間の間に、時間の経過と共に低下している。この結果から、混合原油のアスファルテンが加熱されたALCOR(アルコル)ロッド表面の上に析出し、熱分解されてコークとなり、それが試験ロッドの表面上に蓄積していることが示差される。
【0093】
この表面処理は、いかなる熱交換構成要素においても、或いはファウリングまたは腐食を受け易いいかなる表面においても使用することができる。この処理を、ファウリングまたは腐食を抑制するための他のメカニズムと共に使用することもまた可能である。たとえば、この表面処理を、ファウリングおよび腐食析出を妨害するために使用されるメカニズムである、振動または脈動流体流動を受けている熱交換構成要素と共に使用することができる。
【0094】
一つの例示的な実施態様においては、その表面処理を、熱交換器管の形態にある熱交換構成要素、特に、熱交換器ハウジング中に保持される管束として形成されているものに適用することができる。その表面処理を、状況に応じて、置換え用の管において、または腐食またはファウリングを受けた管の内径若しくは外径を覆うために使用される管のシースにおいて、または同様にして新規な管において使用することが可能であるということも考えられる。
【0095】
本発明のまた別な態様においては、熱交換管またはインサートのような伝熱装置を、δ、ε、およびζを含む組成物を有する物質を含むクロム富化酸化物から構築することができる。この場合、ζは、少なくとも約5〜約40重量%のクロムを含むスチールである。εは、スチールζの表面上に形成された層であって、クロム富化酸化物(M、Mまたはそれらの混合物)であるが、ここで金属Mには、金属Mの全重量を基準にして少なくとも5重量%のCrを含んでいる。δは、硫化物、酸化物、酸硫化物、およびそれらの混合物を含む、クロム富化酸化物εの表面上に形成されたトップ層である。
【0096】
スチールζには、少なくとも約5〜約40重量%のクロムを含み、低クロムスチール、フェライト系ステンレススチール、マルテンサイト系ステンレススチール、オーステナイト系ステンレススチール、二相ステンレススチール、および析出硬化合金から選択される。基材金属ζの実施例を以下の表3に非限定的に列記する。
【0097】
【表3】

【0098】
クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)をスチールζの表面上に形成させた後で、クロム富化酸化物含有材料をたとえば後系列原油予熱熱交換器の中で使用する。クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)の金属Mには好ましくは、金属Mの全重量を基準にして少なくとも5重量%のCr、好ましくは少なくとも10重量%のCrを含む。クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)の金属Mには、Fe、Cr、およびスチールζの構成元素を含んでいるのが好ましい。スチールζの構成元素には、Ni、Co、Mn、Al、Si、B、C、N、P、Y、Ce、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、およびそれらの混合物が含まれる。クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)の金属Mは、Crリッチであるのが好ましい。クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)において、Crを過度に隔離させると、スチールζの耐腐食性が優れたものになる。クロムは、好ましくは、酸化物の格子の空き部位に入り込んで、腐食を持続させるための前提条件である、スチールからの鉄の輸送を効果的に抑制する。
【0099】
クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)は、スチールζの表面上に形成させるが、そのためには、スチールζを、低酸素分圧環境に、温度約300℃〜1100℃で、スチールの表面上にクロム富化酸化物(M、Mまたはそれらの混合物)を形成させるのに充分な時間暴露させる。熱力学的には、その環境における酸素のポテンシャルがその酸化物と平衡状態にある酸素の分圧よりも高い場合に、金属表面上に酸化物が形成される。たとえば、1000℃でCrと平衡状態にある酸素の分圧は、約10−21気圧である。このことは、酸素の部分ポテンシャルが10−21気圧よりも高い環境において、1000℃では、Crの生成が熱力学的に有利となることを示している。
【0100】
低酸素分圧環境は、CO、CO、CH、NH、HO、H、N、Ar、He、およびそれらの混合物からなる群から選択されるガスから生じさせることが可能である。非限定的な実施例としては、CO/COおよびHO/Hガス混合物を使用することができる。スチールの表面上にクロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)を形成させるのに充分な時間は、1分間〜100時間の範囲である。そのクロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)の厚みは、少なくとも約1nm〜約100μm、好ましくは少なくとも約10nm〜約50μm、より好ましくは少なくとも約100nm〜約10μmの範囲である。そのクロム富化酸化物εは、製油所用途の熱交換器管において有利な、優れた腐食およびファウリング抵抗性を与える。
【0101】
クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)は、光輝焼きなまし法によってスチールζの表面の上に形成させることができる。光輝焼きなまし法とは、酸化が最小限に抑制されその表面が比較的光輝のある状態に維持されるような低酸素分圧環境を与えるための、調節された雰囲気の炉または真空中で実施される、焼きなましプロセスである。光輝焼きなましプロセスの際に用いられるプロセス条件、たとえば雰囲気、温度、時間、および加熱/冷却速度などは、作用の対象となる合金の金属組織に依存する。当業者であれば、その合金の金属組織を基準にして、それらの条件を容易に決めることができる。非限定的な実施例を挙げれば、オーステナイト系ステンレス鋼たとえば304Lは、純粋な水素またはアルゴンまたは解離アンモニアのいずれの中で光輝焼きなましすることも可能であるが、ただしその雰囲気の露点が−40℃未満であり、炉へ入れる際に管が乾燥し徹底的にクリーンである必要がある。光輝焼きなまし温度は通常、約1038℃よりも高い。高温における時間は通常、表面のスケーリングを最小限に保ったり、結晶粒の成長を調節したりするために短時間とする。真空炉は通常、光輝焼きなましの目的のためには最適な雰囲気の質を与えることができる。炉中の真空レベルは、1×10−3トルより高くしなければならない。真空炉における急速冷却は一般的に、アルゴンまたは窒素を用いてチャンバーを再充填し、次いでそのガスを高速で熱交換器に通して再循環させることによって達成される。
【0102】
トップ層δの場合は、クロム富化酸化物含有材料を、たとえば後系列の原油予熱熱交換器において使用している際に、その場でクロム富化酸化物εの表面上に硫化物および酸硫化物が形成される。保護層が形成される温度は、各種異なる。後系列熱交換器用途においては、400℃までの温度で保護層が形成される。炉の中、または後系列熱交換器の外での用途においては、600℃までの温度で保護層が形成される。水蒸気分解装置および改質装置の管での使用を含めた、石油化学用途においては、1050℃までの温度で保護層が形成される。保護層が形成される際に用いられる温度は、作用を受けるスチールの金属組織に依存するであろう。当業者ならば、そのスチールの金属組織を基準にして、上限温度を容易に求めることができる。トップ層δには、クロム富化酸化物εおよびスチールζを構成している元素から形成される幾分かの不純物が含まれていてもよい。好ましくは、トップ層δには、硫化鉄(Fe1−xS)、酸化鉄(Fe)、酸硫化鉄、鉄−クロム硫化物、鉄−クロム酸化物、鉄−クロム酸硫化物、およびそれらの混合物が含まれる。トップ層δの厚みは、少なくとも約0.1μm〜約50μm、好ましくは少なくとも約0.1μm〜約30μm、より好ましくは少なくとも約0.1μm〜約10μmの範囲である。
【0103】
従って、そのようにして形成されたクロム富化酸化物含有材料を使用して、熱交換器たとえば、特に後系列の原油予熱熱交換器における、スルフィド化腐食を抑制し、析出ファウリングを抑制する表面を構成させる。その表面は、40マイクロインチ(1.1μm)未満、好ましくは20マイクロインチ(0.5μm)未満、より好ましくは10マイクロインチ(0.25μm)未満の表面粗さを有している。クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)は、腐食およびファウリングを軽減させる必要に応じて、スチールζの内径(ID)、外径(OD)またはIDとODとの両方の上に形成させることができる。上述したように、クロム富化酸化物ε(M、Mまたはそれらの混合物)は、スチールζのID、ODまたはIDとODとの両方を暴露させることによって、スチールζの表面の上に形成させる。
【0104】
図17に一つの熱交換構成要素、この場合パイプ100を示すが、クロム富化酸化物εの層104を有するスチールζでできている基材102と、IDの上でそのクロム富化酸化物層のコーティングδとして形成されたトップ層106とを有している。
【0105】
図18に一つの熱交換構成要素、この場合パイプ100を示すが、クロム富化酸化物εの層104を有するスチールζでできている基材102と、ODの上でそのクロム富化酸化物層のコーティングδとして形成されたトップ層106とを有している。
【0106】
図19に一つの熱交換構成要素、この場合パイプ100を示すが、クロム富化酸化物εの層104を有するスチールζでできている基材102と、IDとODとの両方の上でそのクロム富化酸化物層のコーティングδとして形成されたトップ層106とを有している。
【0107】
(実施例1)
表面を形成させる第一の実施例は、以下のとおりである。低クロムスチール、T5、試験片を、50%HOおよび50%Heを含むガス混合物に、566℃、流速約500cc/分で暴露させる。その試験片を20℃/分の速度で加熱して566℃とし、24時間保持し、冷却して室温とする。低酸素分圧環境における試験片の加熱処理の後、その試験片を走査型電子顕微鏡法(SEM)によって特性解析する。
【0108】
図20に、その加熱処理をした試験片の表面および断面の画像を示す。マグネタイト(Fe)およびクロム富化酸化物(M)を含むトップ層が観察できる。クロム富化酸化物(M)の金属Mの濃度は、バランスFe:12.0Cr:1.5Si(重量%)である。トップのFe層の厚みは、約5μmであり、クロム富化酸化物(M)の厚みは約4μmである。
【0109】
(実施例2)
第二の実施例においては、実施例1のようにして調製した試験片を、腐食およびファウリング試験のために使用する。その試験片を、チュービングボンベ試験装置中で、400℃で4時間、60:40容量%の混合原油に暴露させる。試験の後、トルエン、アセトンの順に使用してその試験片を洗浄し、SEMにより特性解析する。
【0110】
図21に、その試験をした試験片の表面および断面の画像を示す。トップ層は、硫化鉄(Fe1−xS)およびマグネタイト(Fe)からなる。トップ層の厚みは約5μmである。クロム富化酸化物(M)は保持されている。クロム富化酸化物(M)の金属Mの濃度は、バランスFe:12.0Cr:1.5Si(重量%)である。クロム富化酸化物(M)の厚みは約4μmである。
【0111】
この表面処理は、いかなる熱交換構成要素においても、或いはファウリングまたは腐食を受けやすいいかなる表面においても使用することができる。この処理を、ファウリングまたは腐食を抑制するための他のメカニズムと共に使用することもまた可能である。たとえば、この表面処理を、ファウリングおよび腐食析出を妨害するために使用されるメカニズムである、振動または脈動流体流動を受けている熱交換構成要素と共に使用することができる。
【0112】
一つの例示的な実施態様においては、その表面処理を、熱交換器管の形態にある熱交換構成要素、特に、熱交換器ハウジング中に保持される管束として形成されているものに適用することができる。その表面処理を、置換え用の管において、または腐食またはファウリングを受けた管の内径若しくは外径を覆うために使用される管のシースにおいて使用することが可能であるということも考えられる。
【0113】
上述の耐食材料を有する伝熱装置を、脈動発生機器または振動発生機器のいずれかと組み合わせて、ファウリングを更に抑制、軽減させるのが、本発明のまた別な態様である。それらの機器は、図1に参照番号3として一般的に示されている。
【0114】
脈動機器には、管の側の液体に液体圧力の脈動を与える各種の手段が含まれると考えられる。最も単純な概念においては、その機器には、熱交換器の入口/出口導管に接続されたシリンダーとそのシリンダー中でシリンダーの内部体積を変化させるための往復動ピストンとを有する往復ポンプタイプのメカニズムが含まれていてよい。ピストンがシリンダーの中で動くと、液体が交互にシリンダーに引き込まれ、次いでそれから押し出されることになり、機器に接続されている導管の中に脈動を発生させる。一方を入口導管に接続し、他方を出口導管に接続するこのタイプの複動式ポンプを使用するのが特に望ましいが、その理由は、熱交換器管束中で発生する圧力損失とは無関係に、管の中で所望の圧力脈動をそれが作り出すからである。脈動の振動数の変化は、ピストンの往復速度を変化させることによって得られ、脈動の振幅を各種所望に合わせて変化させることは、可変容量型ポンプ、たとえば可変容量型ピストンポンプ、斜板(固定板)ポンプ、並びにそれらの変形形態たとえばウッブルプレート(回転プレート)ポンプまたは斜軸ポンプなどを使用することによって得ることができる。
【0115】
本発明は、上述のポンプに限定されるものではない。むしろダイヤフラムポンプも含めて他のタイプのポンプもまた脈動機器として使用できると考えられ、ダイヤフラムポンプは実務的には魅力があるが、その理由は、電気的、空気的、または直接の機械的手段によりダイヤフラムを活性化させるポテンシャルを与え、ダイヤフラムの動きを調節して、所望の振動数と振幅(ダイヤフラムの動きの大きさを調節することによる)を与えるからである。その他のタイプを使用してもよいが、ただし、ギヤポンプおよびそれに関連するタイプたとえば、比較的スムーズな(非脈動的)流体流動を与えるヘリカルローターおよびマルチスクリューポンプは、問題の多い境界層の形成を妨害する脈動を導入しようという目的から考えると、あまり好ましくない。流動の脈動を発生させる他のタイプ、たとえばローブポンプ、ベーンポンプおよび同様のラジアルピストンポンプも、所望の目的のためには充分な脈動を発生させることが可能ではあるものの、あまり好ましくない。脈動を導入することが目的であるとすれば、他のタイプのパルセーター、たとえば管の側面で液体の流動を周期的に妨害する、フローインターラプターを使用してもよい。このタイプのパルセーターとしては、たとえば、サイレンタイプ、ロータリーベーンパルセーターが挙げられるが、その中では、それらのそれぞれが運動しているローター要素の回転と合致した半径流開口部を有している、ステーター/ローターの対の中で液体の流路の開閉を繰り返すことによって流動の妨害を起こしている。液体の流れの方向に対してある角度のベーンを使用することによって、たとえばローターディスクの中で半径方向に切り込みを入れ、ディスクの面から去る方向にタブを曲げてベーンを形成させることによって、ローターが適切なはずみを受けてよい。また別なタイプは、スプリング金属ベーンを用いたリード弁タイプであるが、このものは、ディスクの中の開口部を覆っているが、管の中の流体の圧力によって一時的に開口し、それに続けてある時間ベーンが閉まり、次いで流体圧力がもう一度ベーンを強制的に開く。
【0116】
伝熱装置の内部における衝撃を最適化するためには、管束の中の液体の流れに効果的に伝達される、即ち、たとえば弁のような間に入っている機器を通る通路によって脈動が弱められないようにするために、脈動機器を熱交換器の近くに位置させるのが好ましい。通常は、その液体の脈動の振動数は、0.1Hz〜20kHzの範囲とする。熱交換管の中を通過する増分流速によって測定される脈動の振幅は、脈動振動数の範囲の下端における、ほぼ通常の熱交換器の流速のオーダーから、高い振動数における通常流速の10−6未満の範囲とすることができるが、伝熱装置の操作における圧力損失の限界および/または流体中での高い振動数の消散のために、振動数が高くなると、脈動の振幅の上限が下がるであろう。従って、たとえば、この振動数範囲の下側半分では、脈動の振幅は、約10−2からほぼ通常の流速までとし、振動数がその範囲の上側半分の場合には、熱交換器を通過する通常の流速の約10−6〜0.1とすることができるであろう。
【0117】
振動発生機器は、振動力を熱交換器ユニットに与えることが可能な、各種の手段であってよいと考えられる。振動発生機器は、同時係属中の米国特許出願第11/436,802号明細書に開示されているタイプのものであってよい。振動発生機器は、熱交換ユニットに対して外部的に接続して、バンドルの管に調節された振動エネルギーを与えるようにしてもよい。振動発生機器は、熱交換器の構造的な完全性は維持しながら、管に振動を与える各種のタイプの機械装置の形態をとることができる。選択された振動数で、充分な動的な力を発生させることが可能な各種の機器が適しているであろう。振動発生機器が、単一の機器たとえば衝撃ハンマーまたは電磁シェーカーのようなものであってもよく、或いは、一連の機器たとえば、複数のハンマー、複数のシェーカー、または圧電スタックなどであってもよい。一連の機器は空間的に分散させ、所望の動的な信号を発生させて、最適な振動数が得られるようにすることができる。振動発生機器は、熱交換ユニットの上または近くの各種の位置に配置すればよいが、ただし、管と機械的につながっていなければならない。充分な振動エネルギーを各種の振動モードで、熱交換器の管に伝えることができる。低および高振動数の管の振動モードが存在する。低振動数モード(典型的には1000Hz未満)では、軸方向の励起が振動エネルギーを伝達させるのにより効率的であるが、それに対して、高振動数モードでは、横方向の励起の方が効率的である。振動モードの密度は、低振動数範囲(典型的には1000Hz未満)におけるよりも高振動数範囲における方が高く、振動エネルギーの伝達効率もまた高振動数範囲における方が高い。更に、管振動の変位は高振動数(1000Hzより高)では極めて小さく、管に害を与える可能性は微々たるものである。
【0118】
当業者には明らかなことであろうが、本発明の範囲から逸脱することなく、各種の修正および/または変更を実施することが可能である。本発明を、製油所の運転における熱交換器の文脈において説明してきたが、本発明はそのように限定されるものではなく、むしろ、本明細書に開示された所望の表面粗さおよび材料は、ファウリングが関わるような製油所の他の部門での運転においても使用できると考えられる。アルミナイズ炭素鋼、チタン、無電解ニッケルコーティング炭素鋼、およびその他の耐食性表面のようなその他の耐食材料の表面粗さを細かくさせることは、冒頭に説明するこのコンセプトの範囲である。本明細書に開示されたファウリングを抑制するための方法を、ファウリングを抑制するためのその他の抑制方法と組み合わせることも可能であると考えられる。これには、本明細書に開示された細かい表面粗さおよび/または材料組成物と、振動、脈動、ヘリカルシェルサイドバッフルおよび内部乱流プロモーターとの組合せが含まれる。従って、本明細書に記載の方法の修正および変更は、それらが添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲に入る限りにおいて、本発明に包含されていると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側表面および外側表面を有するプロセスストリームを加熱するための伝熱装置であって、
前記伝熱装置は、X、YおよびZを含むスチール合金で形成されるチューブであり、
Xは、Fe、Ni、Coおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、
YはCrであり、
Zは、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、PおよびSからなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素であり、
前記チューブは、下記δ、ε、ζの3層を含むことを特徴とする伝熱装置。
ζ:40マイクロインチ(1.1μm)未満の算術平均表面粗さを有するスチール合金からなる基材層
ε:内側表面および外側表面の少なくとも一方の上に形成された10〜40重量%のクロムを含有するクロム富化酸化物層であって、300〜1100℃の温度で前記チューブを光輝焼きなますことによって前記スチール合金から形成されるクロム富化酸化物層(但し、前記クロム富化酸化物層におけるYのXに対する比率は、前記伝熱要素の残りの部分におけるYのXに対する比率よりも大きい。)
δ:硫化物、酸化物、酸硫化物またはそれらの混合物を含む、前記クロム富化酸化物層の表面上に形成された表面保護層
【請求項2】
前記表面保護層は、マグネタイト、鉄−クロムスピネル、酸化クロムおよびそれらの混合物からなる群から選択される酸化物を含むことを特徴とする請求項1に記載の伝熱装置。
【請求項3】
前記表面保護層は、硫化鉄、酸化鉄、酸硫化鉄、鉄−クロム硫化物、鉄−クロム酸化物、鉄−クロム酸硫化物またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の伝熱装置。
【請求項4】
前記算術平均表面粗さは、20マイクロインチ(0.5μm)未満であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の伝熱装置。
【請求項5】
前記算術平均表面粗さは、10マイクロインチ(0.25μm)未満であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の伝熱装置。
【請求項6】
高温のプロセスストリームに曝される金属チューブ熱交換装置に腐蝕および腐蝕に誘導されるファウリングに対する抵抗性を賦与する方法であって、
該方法は、
(1)40マイクロインチ(1.1μm)未満の算術平均表面粗さを有し、かつ次のX、Y、Zを含むスチール合金からなる基材層上にクロム富化酸化物層を形成する工程
(但し、Xは、Fe、Ni、Coおよびそれらの混合物からなる群から選択される金属であり、YはCrであり、Zは、Si、Al、Mn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Sc、Y、La、Ce、Pt、Cu、Ag、Au、Ru、Rh、Ir、Ga、In、Ge、Sn、Pb、B、C、N、O、PおよびSからなる群から選択される少なくとも1種の合金化元素である)、および
(2)前記クロム富化酸化物層の表面上に形成される、硫化物層、酸化物層、酸硫化物層またはそれらの混合物層からなる表面保護層を形成する工程
を含み、
その際、前記クロム富化酸化物層は、前記チューブの表面上に形成された10〜40重量%のクロムを含有し、300〜1100℃の温度で前記チューブを光輝焼きなますことによって前記スチール合金から形成され、
前記クロム富化酸化物層におけるYのXに対する比率は、前記伝熱要素の残りの部分におけるYのXに対する比率よりも大きい、
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
前記クロム富化酸化物層の外側表面上に形成される前記表面保護層は、硫化物、酸化物、酸硫化物またはそれらの混合物を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記表面保護層は、マグネタイト、鉄−クロムスピネル、酸化クロムおよびそれらの混合物からなる群から選択される酸化物を含むことを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記クロム富化酸化物層は、前記スチールを温度300℃〜1100℃で低酸素分圧環境に暴露させることにより、前記スチールの表面上に形成されることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項10】
前記低酸素分圧環境は、CO、CO、CH、NH、HO、H、N、Ar、Heおよびそれらの混合物からなる群から選択されるガスから形成されることを特徴とする請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記低酸素分圧環境は、−40℃未満の雰囲気の露点を有する純水素またはアルゴンであることを特徴とする請求項10に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2013−11437(P2013−11437A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−178107(P2012−178107)
【出願日】平成24年8月10日(2012.8.10)
【分割の表示】特願2008−547424(P2008−547424)の分割
【原出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】