説明

ファスナ、航空機組立品、航空機組立品の製造方法、および治具

【課題】低コストでありながら、防爆性能を十分に確保できるファスナ、航空機組立品、航空機組立品の製造方法、および製造に用いられる治具の提供。
【解決手段】航空機の機体を構成する少なくとも2つの部材11,12どうしを締結するファスナ1は、ファスナ本体15と、ファスナ本体15の先端部15Bに装着される締結部材17と、シーラント材料から形成された成形体であり、ファスナ本体15の先端部15Bおよび締結部材17を内包する開口21を有する絶縁性のキャップ20と、キャップ20の開口21の内側に充填されるシーラント材30と、を備え、キャップ20には、部材12に対向する位置での外径が外周側に拡径することで形成された脚部25が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の機体を構成する部材どうしを締結するファスナ、航空機組立品、航空機組立品の製造方法、および製造に用いられる治具に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の機体を構成する翼は一般に中空構造となっており、翼表面を形成する翼面パネルは、翼内部にある構造部材にファスナ部材(留め具)によって固定されている。
また、この他にも翼内部や胴体部で、翼面パネル以外の構造部材や装備品の固定用の部材もファスナ部材によって締結・固定されている。
これらの場合、ファスナ部材は、ピン状のファスナ本体を、互いに固定される部材の双方に形成された貫通孔の双方を貫通するように挿入し、その先端部を締結部材(カラー)で固定することで双方の部材を締結する。
なお、固定される翼面パネルまたは部材は2つに限らない。
【0003】
ところで、航空機においては、防爆のための被雷対策を万全に期す必要がある。航空機に被雷が発生して主翼等の翼面パネルや構造部材に大きな電流が流れると、上記のファスナ本体および締結部材による締結部にその一部、場合によっては全部が流れる。その電流値が各締結部における通過許容電流の限界値を超えると、電気的アーク(あるいはサーマルスパーク)と呼ばれる放電が発生する(以下、本明細書中ではこれをアークと称する。)。これは、締結部を通過する電流により締結部を構成する主として導電部材からなる部材の締結界面の局部に急激な温度上昇が生じて溶融し近傍の大気中に放電が発生する現象で、多くの場合、溶融部分からホット・パーティクルと言われる溶融物の飛散が発生する。一般に翼の内部空間は燃料タンクを兼ねているため、この被雷時において、アークの発生を抑えるか、あるいは、アークを封止することによって、発生したアークの放電とそこから飛散するホット・パーティクルが可燃性の燃料蒸気に接触しないようにして発火を防止し、防爆対策を施す必要がある。ここで、可燃性の燃料蒸気が存在する可能性のある部位とは、翼内部および胴体部の、燃料タンク内部、一般に燃料タンクの翼端側に設置されるサージタンク(ベントスクープやバーストディスクなどが設置されるタンク)内部、燃料系統装備品内部等である。
【0004】
上述した防爆対策の一つとして、締結界面に生じうるアークを、PS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)、ナイロン樹脂等の絶縁性のキャップによって封止することが考えられる。このようなキャップとして、樹脂製であり、ファスナ本体にねじ込むタイプのものが開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−254287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
航空機の機体においては、非常に多数の箇所にファスナが設けられるため、ファスナを少しでもコストダウンできれば、全体として大きなコストダウンが望める。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、低コストでありながら防爆性能を確保できるファスナ、航空機組立品、航空機組立品の製造方法、および製造に用いられる治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ところで、航空機の機体には、同条件のアークが生じた場合に、大電流が流れ易い領域と、大電流が流れにくく、比較的低い電流が流れる領域とがある。比較的低い電流が流れる領域では、キャップ内部の外部に対する耐圧を大電流が流れる領域の耐圧より低くしても防爆性能を十分に確保しうる。
【0008】
そこで、本発明者らは、従来、樹脂製キャップの内部に充填されていたシーラント材に着目し、キャップをシーラント材料で成形することに想到した。シーラント材は樹脂材に比較して低コストであるが耐圧が樹脂材ほど高くないので、航空機の機体における比較的低い電流が流れる領域にシーラント製のキャップを好適に使用しうる。
しかしながら、検討を重ねると、シーラント製のキャップは柔軟なので、キャップが部材に突き当てられたときにキャップの縁が座屈し易い。このため、キャップを部材に密着させるのが難しいという問題に当たった。防爆性能を確保するためには、キャップを部材に密着させ、キャップと部材との間にアークを確実に封止する必要がある。
【0009】
かかる目的のもと、航空機の機体を構成する少なくとも2つの部材どうしを締結するファスナは、すべての部材に形成された孔を貫通しているファスナ本体と、ファスナ本体の部材から突出した先端部に装着される締結部材と、シーラント材料から形成された成形体からなり、ファスナ本体の先端部および締結部材を内包する開口を有する絶縁性のキャップと、キャップの開口の内側に充填されるシーラント材と、を備えている。キャップには、部材に対向する位置での外径が外周側に向けて拡径することで形成された脚部が形成されている。
【0010】
本発明によれば、部材に対向する位置での外径が外周側に向けて拡径することで、キャップにおいて部材に対向する位置が、他の部分に比較して厚肉となるよう形成されている。この脚部の形成による厚肉化によってキャップの縁の強度が高められているので、キャップの他の部分が柔軟であっても、部材に突き当てられたときに座屈しない。このことと、脚部の形成によってキャップと部材との接触面積が拡大されていることから、キャップを部材の表面に沿って容易に密着させることができる。したがって、安価なシーラント製のキャップを用いて低コスト化を図りつつ、キャップと部材との間にアークを封止して防爆性能を確保することができる。
【0011】
本発明において、脚部の少なくとも最外周部が、シーラント材によって覆われていることが好ましい。
この発明によれば、脚部の最外周部と部材との間がシールされることによって、部材へのキャップの密着力を強化することができる。
また、キャップと、脚部の少なくとも最外周部を覆うシーラント材とを熱膨張率が近似する同種のシーラント材とすれば、これらが温度変化時に剥離することを防止できるので、部材へのキャップの密着力を維持できる。
【0012】
脚部の少なくとも最外周部を覆うシーラント材は、キャップの開口の内側に充填されたシーラント材が、キャップによりファスナ本体の先端部および締結部材を覆うときにキャップの開口の外側にはみ出したものであることが好ましい。
この発明によれば、キャップ内に充填されたシーラント材の一部を接合材としてキャップが部材に固定されるため、キャップの固定のためだけに用いられる接着剤、ねじ部材等の別部材を不要にできる。また、キャップによりファスナ本体および締結部材を覆う際にキャップの開口からシーラント材をはみ出させることによってキャップの固定が終了するので。別途、キャップを部材に固定する工程を不要にできる。すなわち、接着剤やねじ締めを必要とする構成に比べて、工程数が減少し、別部材のコストが掛からないので、よりコストダウンを図れる。
【0013】
さらに、脚部が、はみ出したシーラント材によって部材に保持されていることが好ましい。すなわち、キャップの開口からはみ出したシーラント材が脚部の外周面側に若干量回り込み、はみ出したシーラント材と部材との間に脚部が保持される。これにより、キャップの部材への密着力を強化することができる。
【0014】
そして、脚部とはみ出したシーラント材とが、キャップがファスナ本体の先端部および締結部材を覆うときに一体に成形されることが好ましい。
治具等を用いることにより、はみ出したシーラント材を脚部周辺に留め、そのシーラント材によって脚部を部材に対してより確実に密着させることができる。
【0015】
上述のファスナによって、航空機の機体を構成する部材同士が締結されることにより、航空機組立品が構成される。この航空機組立品においても、上述と同様に、低コスト化を図りつつ、防爆性能を確保できる。
【0016】
本発明の航空機組立品の製造方法は、ファスナ本体の部材から突出した先端部に締結部材を装着する締結部材装着工程と、開口の内側にシーラント材が充填されたキャップによってファスナ本体の先端部および締結部材を覆い、脚部を部材に突き当てるキャップ装着工程と、を実施する。
【0017】
本発明によれば、上述のファスナについての説明と同様に、キャップを航空機の部材の表面に沿って容易に密着させることができる。したがって、安価なシーラント製のキャップを用いて低コスト化を図りつつ、防爆性能を確保することができる。
【0018】
上記の製造方法において、その周縁に拡径部が形成された凹部を有する治具を使用し、シーラント材が充填されたキャップが凹部に収容され、キャップの脚部が拡径部に収容された状態とし、治具によってキャップを部材に向けて突き当てることにより、キャップの開口からはみ出して拡径部内に溜まったシーラント材料を成形することが好ましい。
【0019】
この発明によれば、治具を用いることにより、はみ出したシーラント材を脚部の周辺に溜めて、そのシーラント材によって脚部を部材に確実に密着させることが可能となる。また、治具を用いることにより、キャップの部材への押さえ力が一定となり、シーラント材のはみ出し量も一定となるので、はみ出したシーラント材の寸法および形状を制御できる。さらに、キャップの部材への押さえ力がキャップの周方向において一定であることにより、はみ出したシーラント材の寸法および形状がキャップの全周に亘り均一となるので、キャップの部材への密着力を強化できる。
【0020】
本発明の治具は、キャップを収容する凹部を有する。この凹部の周縁には、キャップの開口内に充填されたシーラント材の開口からはみ出した一部を溜める拡径部が形成されている。
このような治具が用いられることにより、はみ出したシーラント材を脚部の周辺に溜めて、そのシーラント材によって脚部を部材に確実に密着させることが可能となる。また、キャップの部材への押さえ力が一定となり、シーラント材のはみ出し量も一定となるので、はみ出したシーラント材の寸法や形状のバラツキを防止できる。さらに、はみ出したシーラント材の寸法および形状がキャップの全周に亘り均一となるので、脚部と部材との間の密着力を大きくできる。
加えて、治具によってキャップを部材に突き当てるだけでキャップが部材に固定されるので、工程数および部材コストの削減が可能となってコストダウンできる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、安価なシーラント製キャップの部材への密着力確保により、低コストでありながら、防爆性能を十分に確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施形態に係るファスナの断面図である。
【図2】ファスナのキャップの上面図である。
【図3】図1の部分拡大図である。
【図4】シーラント材料の成形に用いられる治具の断面図である。
【図5】治具を用いたキャップ装着工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1に示すように、航空機の機体を構成する部材11,12は、多数のファスナ1によって多数の箇所で締結されている。部材11は、例えば翼面パネルであり、部材12は、例えば翼内部の構造部材である。なお、ファスナ1によって締結される部材の数には制限がなく、3つ以上の部材がファスナ1によって締結されていてもよい。
【0024】
ファスナ1は、部材11,12にそれぞれ形成された孔11A,12Aを貫通するファスナ本体15と、ファスナ本体15に装着された締結部材(カラー)17と、ファスナ本体15の端部および締結部材17を内包する開口21を有する絶縁性のキャップ20と、開口21の内側に充填された充填シーラント材30とを備えている。
【0025】
ファスナ本体15は、部材11の表面に露出した頭部15Aと、部材12から突出した先端部15Bとを有している。先端部15Bに締結部材17がねじ込まれることにより、頭部15Aと締結部材17との間に部材11,12が締結される。
先端部15Bと締結部材17とは、充填シーラント材30およびキャップ20によって覆われている。これにより、先端部15Bと締結部材17との締結界面157に生じたアークがキャップ20内に封止される。
【0026】
締結部材17の端面と部材12との間には、ワッシャー18およびスペーサー19が介装されている。これらのワッシャー18およびスペーサー19のそれぞれの径は、キャップ20の開口周縁21Aの径よりも僅かに小さく、キャップ20は、ワッシャー18あるいはスペーサー19の周縁に沿って位置決めされている。
【0027】
図1,図2に示すように、キャップ20は、シーラント材料からなる成形体であり、従来キャップに用いていたPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)、ポリイミド、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン樹脂)、ナイロン樹脂等の樹脂材に比較すると柔軟性が高い。このキャップ20は、ファスナ本体15の先端部15Bに対向する円板状の底面部22と、底面部22の外周部に連続して形成され、ファスナ本体15の軸方向にほぼ沿った側面部23とを有している。隣り合うファスナ1のキャップ20の側面部23同士が干渉しないように、底面部22から側面部23が殆ど拡がらずにほぼ垂直に立ち上がっている。
【0028】
底面部22は平坦であり、これによってキャップ20の高さが抑制されている。このため、周辺の部材にキャップ20が干渉することを防止できるとともに、底面部が膨らんだキャップに比べてキャップ20を軽量化できる。
【0029】
底面部22には、ファスナ1のサイズや種類等を示すマーキング24(図2)が表示されている。このマーキング24は、キャップ20成形時の刻印や、印刷などによって表示されており、底面部22が平坦であるためマーキング24を施し易い。このマーキング24を用いることにより、サイズや種類が異なる様々なファスナ本体15に適合するキャップ20の選定が容易となるので、キャップ20の装着間違いを防止することができる。
【0030】
側面部23において部材12に対向する開口周縁21Aの外周には、開口周縁21Aの全周にわたって径方向外側に突出するようその外径が拡径された環状の脚部25が形成されている。この脚部25は、キャップ20の他の部位に比較して厚肉に形成されている。この脚部25の厚みは、キャップ20を装着する際の開口周縁21Aの座屈を回避でき、かつ隣のファスナ1のキャップ20に干渉しないよう、その厚みが決められている。脚部25の厚みをt1、脚部25以外の側面部23や底面部22の厚みをt2とすると、t1はt2の例えば1.2〜1.4倍であることが好ましい。
【0031】
この脚部25は、キャップ20の開口周縁21A近傍の厚肉化という意味では開口周縁21Aの内周側に突出するように形成されていてもよい。しかし、キャップ20の大型化を回避して軽量化を図るためと、上述のようにキャップ20の位置決めのためにキャップ20の内壁とワッシャー18およびスペーサー19とのクリアランスを僅かとする観点から、開口周縁21Aの外周側に突出するよう形成されるのが好ましい。
【0032】
図3は、脚部25の近傍を示す拡大図である。開口21の内側に充填された充填シーラント材30の一部(充填シーラント材30A)が、キャップ20の開口21の外側にはみ出し、脚部25の最外周部25Aを含む部分を覆っている。また、充填シーラント材30Aによって脚部25が部材12に保持されている。なお、充填シーラント材30Aが部材12と脚部25との界面に介在していてもよい。
【0033】
以上のようなファスナ1によって部材11と部材12とが締結されることにより、航空機組立品100(図1)が構成される。この航空機組立品100は、例えば翼面パネルと、翼内部にある構造部材とが組み立てられたものである。
【0034】
ここで、上述したシーラント製のキャップ20を備えるファスナ1は、航空機組立品100において、被雷時に比較的低い電流が流れる領域に好適に用いることができる。シーラント製のキャップ20は、PS、ポリイミド、PEEK、ナイロン樹脂等の樹脂製キャップと比べて耐圧が低い。しかし、このようなシーラント製のキャップ20であっても、比較的低い電流により生じたアークに対しては十分な封止効果を発揮する。
【0035】
すなわち、航空機組立品100において大電流が流れ易い領域には、PS、ポリイミド、PEEK、ナイロン樹脂等の耐圧が高い樹脂製のキャップを備えた別のファスナを好適に用いることができ、比較的低い電流が流れる領域には、上述のファスナ1を好適に用いることができる。シーラント製キャップ20は樹脂製キャップに比べて安価に製造できるため、ファスナ1を航空機の部材の適した部位に用いることにより、コストを削減できる。
【0036】
次に、航空機組立品100の製造方法について説明する。図4は、キャップ20の装着に用いられる治具40を示す。治具40には、キャップ20を収容する凹部41が形成されている。凹部41の周縁には、開口径が次第に大きくなる拡径部41Aが形成されている。この拡径部41Aは、凹部41にキャップ20が収容された状態で、脚部25の外周側に所定の空間が確保できるよう、脚部25の外径よりも大きな内径で形成されている。
【0037】
ファスナ1によって部材11,12を締結するにあたり、先ず、部材11,12に形成された孔11A,12A(図1)にファスナ本体15を貫通させ、部材12から突出したファスナ本体15の先端部15Bにワッシャー18およびスペーサー19を通した後、先端部15Bに締結部材17を装着する。
【0038】
次いで、図5(A)に示すように、成形された硬化前のキャップ20を治具40の凹部41に入れ、キャップ20の開口21内に充填シーラント材30を充填する。そして、図5(B)のように、治具40によってキャップ20を部材12に突き当て、キャップ20により先端部15Bおよび締結部材17を覆うことによってキャップ20を装着する。キャップ20が柔軟なため、治具40を用いることで、キャップ20を部材12に突き当て易くなる。また、キャップ20を治具40から抜き易い。
【0039】
キャップ20が装着されるとき、図3のように開口21の外側にはみ出した充填シーラント材30Aが治具40の拡径部41Aに溜まり、拡径部41Aの形状に倣って充填シーラント材30Aが成形されることにより、脚部25が部材12に密着する。この脚部25と部材12との間の密着力により、キャップ20が部材12に固定される。そして、キャップ20と部材12との間にファスナ本体15と締結部材17との締結界面157が封止される。
【0040】
ここで、脚部25の形成による厚肉化によってキャップ20の縁の強度が高められているので、キャップ20が部材12に突き当てられたときに座屈しない。また、脚部25の部材12への対向面が幅広であるため、キャップ20と部材12とが広い面積で接触する。これらのことから、キャップ20の部材12への密着力を大きくできる。
さらに、脚部25の最外周部25A(図3)と部材12との間が充填シーラント材30Aによってシールされるので、キャップ20の部材12への密着力を強化できる。
その上、脚部25が充填シーラント材30Aによって部材12に保持されていることにより、キャップ20の部材12への密着力をより一層強化できる。
【0041】
上述の通り、脚部25によってキャップ20の部材12への密着力が強化されており、キャップ20による絶縁耐圧を大きくできるので、防爆性能を安定して得ることができる。また、キャップ20の部材12への密着力が強化されていることで、歩留まりが向上する。
【0042】
上述したファスナ本体15への締結部材17の装着、およびキャップ20の装着の2つの工程により、航空機組立品100が製造される。ここで、キャップ20の装着は、キャップ20をファスナ本体15および締結部材17に被せて充填シーラント材30Aをはみ出させることによって終了するので、接着剤などを用いてキャップ20を装着する場合と比較して工程数を削減できるとともに、別部材を必要としない点で部材コストも削減できる。
【0043】
また、治具40が用いられることにより、充填シーラント材30Aの成形寸法および形状のバラツキを防止できる。さらに、その充填シーラント材30A(成形部)がキャップ20の全周に亘り均一な寸法および形状となるので、キャップ20の部材12への密着力をより強化できる。
【0044】
そして、キャップ20の部材12への密着力を確保するには、脚部25のみが厚肉であればよいため、キャップ20の脚部25以外の部位を薄肉化できる。すなわち、安価であるが柔軟なキャップ20を用いながら、キャップ20を全体としては薄肉にできるので、部材12への密着力を損なうことなくキャップ20の軽量化を図れる。
以上の通り、本実施形態のファスナ1によれば、低コストでありながら、航空機の部材12へのキャップ20の密着力を確保できるので、防爆性能の確保と航空機の軽量化とを実現できる。
【0045】
なお、上記実施の形態は例示に過ぎず、適宜変更することが可能である。
例えば、キャップ20に脚部25が形成されておらず、キャップ20の全体が薄肉に形成されている場合でも、キャップ20の開口からはみ出した充填シーラント材30Aによってキャップ20の縁が部材に保持されていればよい。上述の治具40は、このような脚部25を持たないキャップの固定にも用いることができる。すなわち、治具40の凹部41に脚部25無しのキャップを収容し、治具40によってキャップを部材12に突き当てることにより、キャップの開口からはみ出した充填シーラント材30Aが拡径部41Aに溜まり、このシーラント材30Aがキャップの縁に一体に成形される。そのはみ出したシーラント材30Aによってキャップの縁が部材12に密着することで、キャップが部材12に固定される。
【0046】
また、治具40を用いずにキャップを装着する場合も本発明に含まれる。
さらに、キャップ20の開口からはみ出した充填シーラント材30Aが脚部25と部材12との界面の隙間にのみ設けられていてもよい。この場合にも、はみ出した充填シーラント材30Aによって脚部25が部材12に密着した状態に保持される。
要するに、キャップ20の開口21から意図的にはみ出させた充填シーラント材30Aを拭き取ることなくキャップ20の固定に利用するファスナ、航空機組立品、その製造方法、およびその製造に用いられる治具40は本発明に含まれる。
【0047】
これ以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 ファスナ
11,12 部材(航空機を構成する部材)
11A,12A 孔
15 ファスナ本体
15A 頭部
15B 先端部
17 締結部材
18 ワッシャー
19 スペーサー
20 キャップ
21 開口
21A 開口周縁
22 底面部
23 側面部
24 マーキング
25 脚部
25A 最外周部
30 充填シーラント材(シーラント材)
30A 充填シーラント材(はみ出した部分)
40 治具
41 凹部
41A 拡開部
100 航空機組立品
157 締結界面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の機体を構成する少なくとも2つの部材どうしを締結するファスナであって、
すべての前記部材に形成された孔を貫通しているファスナ本体と、
前記ファスナ本体の前記部材から突出した先端部に装着される締結部材と、
シーラント材料から形成された成形体からなり、前記ファスナ本体の前記先端部および前記締結部材を内包する開口を有する絶縁性のキャップと、
前記キャップの開口の内側に充填されるシーラント材と、を備え、
前記キャップには、前記部材に対向する位置での外径が外周側に向けて拡径することで形成された脚部が形成されていることを特徴とするファスナ。
【請求項2】
前記脚部の少なくとも最外周部が、シーラント材によって覆われている、請求項1に記載のファスナ。
【請求項3】
前記脚部の少なくとも最外周部を覆う前記シーラント材は、前記キャップの開口の内側に充填された前記シーラント材が前記キャップにより前記ファスナ本体の先端部および前記締結部材を覆うときに前記キャップの開口の外側にはみ出したものである、請求項2に記載のファスナ。
【請求項4】
前記脚部が、前記はみ出したシーラント材によって前記部材に保持されている、請求項3に記載のファスナ。
【請求項5】
前記脚部と前記はみ出したシーラント材とが、前記キャップが前記ファスナ本体の前記先端部および前記締結部材を覆うときに一体に成形される、請求項3または4に記載のファスナ。
【請求項6】
航空機の機体を構成する少なくとも2つの部材と、
前記少なくとも2つの部材を締結する請求項1から5のいずれか1項に記載のファスナと、を備えることを特徴とする航空機組立品。
【請求項7】
請求項6に記載の航空機組立品の製造方法であって、
前記ファスナ本体の前記部材から突出した先端部に前記締結部材を装着する締結部材装着工程と、
前記開口の内側に前記シーラント材が充填された前記キャップによって前記ファスナ本体の前記先端部および前記締結部材を覆い、前記脚部を前記部材に突き当てるキャップ装着工程と、を実施することを特徴とする航空機組立品の製造方法。
【請求項8】
前記キャップ装着工程にて、前記脚部を前記部材に突き当てたときに、前記キャップの開口の外側に前記シーラント材をはみ出させて前記脚部の少なくとも最外周部をシーラント材によって覆う、請求項7に記載の航空機組立品の製造方法。
【請求項9】
その周縁に拡径部が形成された凹部を有する治具を使用し、
前記シーラント材が充填された前記キャップが前記凹部に収容された状態とし、前記治具によって前記キャップを前記部材に向けて突き当てることにより、前記キャップの開口からはみ出して前記拡径部内に溜まった前記シーラント材を成形する、請求項8に記載の航空機組立品の製造方法。
【請求項10】
航空機の機体を構成する少なくとも2つの部材と、これらの部材どうしを締結するファスナとを備えた航空機組立品の製造に用いられる治具であって、
前記ファスナが、すべての前記部材に形成された孔を貫通しているファスナ本体と、前記ファスナ本体の前記部材から突出した先端部に装着される締結部材と、シーラント材料から形成された成形体からなり、前記ファスナ本体の前記先端部および前記締結部材を内包する開口を有する絶縁性のキャップと、を備えるものであり、
前記キャップを収容する凹部を有し、
前記凹部の周縁には、前記キャップの開口内に充填されたシーラント材の前記開口からはみ出した一部を溜める拡径部が形成されていることを特徴とする治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232692(P2012−232692A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103517(P2011−103517)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)
【Fターム(参考)】